JP2007237192A - 金属物体のレーザピーニング処理方法と金属物体 - Google Patents

金属物体のレーザピーニング処理方法と金属物体 Download PDF

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Abstract

【課題】金属製部品等の表面に残留圧縮応力を発生させるレーザピーニング処理において,被加工材の表面における2つの主応力を可及的に高めるための方法と金属物体を提供すること。
【解決手段】被加工材の表面にパルスレーザビームを集光,照射して得るビームスポットで該表面の被加工面を走査して,該表面に残留圧縮応力を発生させるレーザピーニング処理方法において,被加工面に対して前記パルスレーザビームを,同一点で重畳照射する回数の平均値(平均重畳回数)を第1の所定回数で重畳照射しながら走査する第1回目の重畳照射処理と,前記被加工面に前記パルスレーザビームを吸収する材料層を形成する処理と,該被加工面に対して前記パルスレーザビームを,同一点で重畳照射する回数の平均値(平均重畳回数)を第2の所定回数で重畳照射する第2回目の重畳照射処理によって構成されるレーザピーニング処理を施す。
【選択図】図8

Description

本発明は,金属物体の表面にレーザピーニング処理を施すことにより金属物体に圧縮応力を発生させて,金属物体の耐応力性能を向上するのに好適な技術に関する。
ピーニング処理は金属製部品や金属製構造物(まとめて金属物体または構造用部材と呼ぶ)の表面に衝撃力を印加することで圧縮応力を発生させる技術であり,ショットピーニング,超音波ピーニング等の方法が知られている。ピーニング処理により,繰り返し荷重を受ける金属物体における疲労き裂の発生および進展の防止(疲労強度の向上)や応力腐食割れの防止といった効果が得られる。
近年開発が進められているレーザピーニングは,金属物体の表面へのパルスレーザビームの照射により発生するプラズマの膨張反力を利用して,金属物体の表面近傍に残留圧縮応力を付与する技術であり,例えば特許文献1にその方法が開示されている。
レーザピーニング処理は,レーザビームの照射スポットを高精度で制御することが可能なため,微小領域への選択的な圧縮応力付与に適している。また,加工に伴う表面形状の変化が小さく,転がり軸受の転走面といった表面形状精度を要求されるような部品への処理に適している。
レーザピーニング処理において,加工面に圧縮応力を付与するための照射方法に関しては,いくつかの方法が提案されてきた。例えば特許文献2には,パルスレーザビームの照射スポットが互いに重なり合うように処理することによって,被加工面全体に均質に圧縮応力を残留させられることが開示されている。
特許第3373638号公報 特許第3461948号公報
レーザピーニング処理を金属物体(以下では被加工材とも呼ぶ)へ適用するにあたっては,金属物体に作用する応力の最大主応力の方向(以下,最大主応力方向)に大きな圧縮応力を付与するほど疲労強度向上等の効果が大きくなる。一方向または限られた方向へ繰り返し荷重が作用する機械部品に対しては,最大主応力方向へ強力な圧縮応力を付与することが疲労強度の向上に効果的である。
一方,ドライブシャフトのように,転走面での転動体の転がり方向が複数の方向となるような軸受に対しては,複数方向へ圧縮応力を付与することが転動疲労寿命の向上に必要となる。このためには,被加工面全体に対し等方的な圧縮応力を付与する,すなわち発生する圧縮応力の2つの主応力(2つの主応力方向は被加工面内にあり互いに直交する)をほぼ等しくし,かつ,その圧縮応力をできる限り高めることが求められる。付与できる圧縮応力の上限は,ほぼ被加工材の引張強度で与えられる。しかしながら,特許文献2にて開示された,レーザビームの照射スポットを,未照射領域を作らないように重ね合わせる方法では,その限界まで圧縮応力を高めることが困難であった。
本発明は,金属物体の表面に圧縮応力を発生させるレーザピーニング処理方法において,被加工面に対し等方的な圧縮応力を付与し,かつ,その圧縮応力を可及的に大きくするための方法と金属物体を提供することを目的とする。
本発明者らは,上記課題を解決するために,レーザピーニング処理における被加工材表面のパルスレーザビームの照射ビームスポットの重畳照射方法を鋭意検討した結果,被加工材の表面における2つの主応力を可及的に高めることのできる本発明に至った。すなわち,本発明は,以下に示すものである。
本発明のレーザピーニング処理方法は,被加工材の表面にパルスレーザビームを集光,照射して得るビームスポットで該表面の被加工面を走査して,該表面被加工面に残留圧縮応力を発生させるレーザピーニング処理方法において,被加工面に対して前記パルスレーザビームを,同一点で重畳照射する回数の平均値(平均重畳回数)を第1の所定回数で重畳照射しながら走査する第1回目の重畳照射処理と,前記被加工面に前記パルスレーザビームを吸収する材料層を形成する処理と,前記被加工面に対して前記パルスレーザビームを,同一点で重畳照射する回数の平均値(平均重畳回数)を第2の所定回数で重畳照射しながら走査する第2回目の重畳照射処理とを行い,第2回目の重畳照射処理を施すときに前記材料層によって前記被加工面の溶融を防止することにより,前記被加工面に第1回目の重畳照射処理によって付与した残留圧縮応力を,さらに第2回目の重畳照射処理で等方的に強化して,前記被加工面に等方的に大きな残留圧縮応力を生成させることを特徴とする。
また,前記のレーザピーニング処理方法において,前記第1回目の重畳照射処理の前に,さらに前記被加工面に前記パルスレーザビームを吸収する材料層を形成する処理を行なうことを特徴とする。
そして,前記のレーザピーニング処理方法において,前記第1の所定回数及び第2の所定回数は,被加工材の強度,パルスレーザビームの照射条件,および所望の圧縮応力値に基づいてそれぞれ決定することを特徴とする。
さらに,前記パルスレーザビームの重畳照射は,前記被加工面の一方向に直線的に前記ビームスポットを走査する処理を,該方向と直交する方向に位置をずらしながら複数回行なう。
本発明の金属物体は,前記のいずれかのレーザピーニング処理方法で製造したものである。
本発明の方法では,金属物体に対するレーザピーニング処理において,レーザビームの照射スポットの重畳照射処理を2回に分けて行ない,それぞれの処理の平均重畳回数を適切に選ぶことによって,表面における2つの主応力を可及的に高めることができる。したがって,寿命が長い金属物体を安定して製造することが可能である。
本発明の本旨とするところをより詳らかとするため,以下,添付の図面に基づき詳細な説明を行なう。
まず,レーザピーニング処理に必要な条件を説明する。図1,図3に,平面状の金属物体(被加工材)に対してレーザピーニング処理を施すための装置の一例を示す。図1は装置を上から見た平面図であり,図3は装置を横から見た立面図である。被加工材7は水槽5中に浸漬されている。レーザ光発振装置1から出射されたパルスレーザビーム2を集光レンズ3で集光し,水槽に取り付けられた窓4を通して被加工材7の表面に照射する。パルスレーザビームの被加工材表面上でのピークパワー密度は1〜100TW/m程度が望ましい。このピークパワー密度を得るために,レーザ装置は,パルス時間幅が10ps〜100ns程度で間欠的に発振するパルスレーザを用いる。このようなレーザ装置としては波長が水中での透過性が高い波長域にあるレーザ,例えばNd:YAGレーザが挙げられる。が、そして,上記ピークパワー密度の条件を満たすレーザ装置であれば良い。この高いピークパワー密度をもつパルスレーザビームの照射により,照射スポットからプラズマが発生するが,被加工材表面に接している水の慣性によってプラズマの膨張が抑えられるため,プラズマの圧力が高まり,その反力によってレーザビーム照射スポットの表面近傍に塑性変形を与えることが可能となる。この結果,被加工材の表面に圧縮応力を付与することができる。なお,処理は必ずしも水中で行なう必要は無く,水の噴流を加工面に吹き付ける,被加工材の表面に水膜を形成する,およびアクリル板などのレーザ光を透過させる媒質を用いる等の方法を用いても,プラズマの膨張が抑えられてその圧力を高める効果が得られるため,被加工材への圧縮応力の導入が可能である。また,図1に示すようなレーザビームが水中を透過する距離が比較的長い装置では,レーザビームの波長は水中透過性が良い可視波長等が好ましいが,被加工材の表面に1mm程度以下の水膜を形成して処理を行なう場合は,1μm帯の近赤外波長を持つレーザビームを用いることもできる。ビームスポットの形状は円形や楕円形であることが多いが,矩形等の形状であっても良い。以下では,円形のビームスポットを例として説明する。
次に,図1と図3に示す装置において,被加工材の表面に順次パルスレーザビームを重畳照射するのに必要となるビームスポットの移動方法について説明する。被加工材7は,走査装置13の支持部8,9,11によって水槽5中に浸漬・保持されている。支持部9は,支持部11に取り付けられたガイド10に沿って図3中に矢印で示す高さ方向Bに動くことができる。また支持部11は,ガイド12に沿って図1中に矢印で示す横方向Aに動くことができる。これらの支持部の動きにより,被加工材7の表面に照射されるパルスレーザビーム2のスポットをA・B両方向に二次元的に走査することができる。
またパルスレーザビーム2の重畳照射を行なう前に,図2および図4に示すように被加工材の表面にパルスレーザビームを吸収する材料層6を形成する処理を行なってもよい。この吸収材としてはプラスチックテープやブラックペイント等を用いることができる。吸収材料層を形成しない場合は,パルスレーザビーム2およびレーザビームの照射に伴って発生するプラズマからの熱入力が大きくなってによって,照射スポット部の表層近傍が溶融し,該スポット部表層近傍の圧縮応力が減少するという問題がある。吸収材料層の形成は工程の増加になるものの,表層の溶融を防ぐ効果が得られるため,より少ないスポット数にて圧縮応力を付与できるという利点がある。
以下,図5に点線で示すPQRSの矩形領域をレーザピーニング処理する場合を例に取り説明する。1回の重畳照射処理は,P点から始まりR点で終わるものであり,被加工材の表面の線分PSの方向に直線的にビームスポットを走査して(以下,この走査方向をX方向とする),かつ該方向への走査を,該方向と直交する方向(以下,Y方向)に位置をずらしながら複数回行なう。同じ走査領域(Li:i=1,2,・・・)内の隣接するビームスポットは互いに重なりあうように,ビームスポットを走査する。また,隣接する走査領域のビームスポットも互いに重なりあうように,処理を行なう。この走査領域の形成は図5において「L1→L2→L3→…」のように連続的に行なう。本願においては,被加工材の処理すべき部分全部に対して,ビームスポットを重畳させて走査(重畳照射)する一連の処理を「1回の重畳照射処理」とする。ここで,ビームスポットの照射順序は必ずしも図5に示したような一筆書き順序である必要はなく,例えば図に示した「M5→N5」→「N6→M6」の一筆書き順序ではなく,「M5→N5」→「M6→N6」の処理順序で走査してもよい。また本願においては,ビームスポットの面積をS0としてN回のパルスレーザビームの照射によって面積S1の領域を重畳照射したとき,同一点に対するパルスレーザビームの照射回数の平均値を,S0×N/S1で定義し,照射領域における平均重畳回数と呼ぶ。本発明のレーザピーニング処理方法では,図5に示すようなパルスレーザビームの走査による重畳照射処理を2回行なう。
ここでまず比較例として,上記重畳照射処理を1回行なう効果を実験で調べた結果について説明する。実験では,図5に示す重畳照射処理を1回行なうことで表面に付与される残留応力を,平均重畳回数を変えながら調べた。同一走査領域Li内の隣接するビームスポットの間隔と,隣接する走査領域(例えば図5中のL1とL2)の中心線間の距離が等しくなるように処理した。被加工材である試験片は440MPa級炭素鋼を用いて作成した。レーザピーニング処理には図1〜図4に示した装置を用い,水槽中に浸漬した試験片にレーザビームを照射した。図2,図4はレーザビームを吸収する吸収材料層を設けて処理する場合,図1,図3は試験片の表面にレーザビームを吸収する材料層を形成せずに処理する場合にそれぞれ対応する。レーザビームは水中透過性の良いNd:YAGレーザの第二高調波(波長532 nm)を用いた。パルスレーザビームの時間幅は10nsであった。レーザビームは焦点距離100mmの凸レンズで集光した。試験片上でのスポットの形は円形であり,その照射痕のスポット直径は0.4mmであった。ここでスポット直径は,ビーム全体のパワーの86%が入る直径とする(以下でも同様)。ピークパワー密度は50TW/m2とした。処理後の試験片の残留応力はX線残留応力測定装置を用いて測定した。導入すべき残留応力の基準値は,X及び・Y両方向とも鋼材の表面において,鋼材の一軸引張強度(440MPa)の70%(-308MPa)に設定した。なお,本願では残留応力が引張りであるときに「+」の符号を,圧縮であるときに「−」の符号をつける。この基準値は従来法であるショットピーニング処理で付与できる応力よりも高い。しかし,レーザピーニング処理はショットピーニング処理より高コストとなるため,より大きな応力を付与できることが望まれる。したがって上記基準設定とした。なお,ピーニング処理を金属物体に適用するにあたり,残留応力の基準値は予定される使用条件で求められる疲労強度から決めれば良い。
図6はレーザビームを吸収する吸収材料層として厚み200μmのプラスチックテープ(基材材質:塩化ビニール,粘着剤:ゴム系)を設けて処理した場合の残留応力の平均重畳回数依存性を示す。平均重畳回数を増加させるほど圧縮応力が大きくなることが判る。平均重畳回数を2回以上として処理すれば,Y方向については圧縮応力が基準値を超える。しかしながら,平均重畳回数の増加に伴い応力が等方的でなくなり,X方向の応力を基準値まで高めることはできない。なおこの実験では,プラスチックテープの耐久性の問題から,平均重畳回数は6回未満として処理を行なった。
図7は吸収材料層を形成せずに処理した場合の残留応力の平均重畳回数依存性を示す。上記の段落[0014]で述べたように,この方法ではレーザビームおよびプラズマからの熱入力によって,照射スポット部の表層近傍が溶融し,該スポット部の表層近傍の圧縮応力が減少し易いという問題があるが,図7において,平均重畳回数を6回以上として処理すれば,Y方向については圧縮応力が基準値を超える。しかしながら吸収材料層を設ける場合と同様に,平均重畳回数の増加に伴い応力が等方的でなくなり,X方向の応力を基準値まで高めることはできない。
以上説明してきたように,比較例である1回の重畳照射処理では圧縮応力を基準値まで高めるべく平均重畳回数を増加させても,Y方向の圧縮応力は強化されるが,X方向の応力を十分に高めることができない。
一方,本発明の方法では,以上で説明した一連処理である重畳照射処理を2回行なう。1回目,2回目それぞれの処理における,パルスレーザビームの平均重畳回数は以下で説明するように,被加工材の強度,パルスレーザビームの照射条件,および所望の圧縮応力値に基づいて決定する。
まず本願発明者は,圧縮応力をX及びY両方向の圧縮応力を基準値以上に高めるためには,1回目の重畳照射処理である程度強く圧縮応力を付与したあとで,被加工材表面にレーザビームを吸収する材料層を形成してから2回目の重畳照射処理を適当な平均重畳回数で行なことによって,って残留する圧縮応力を等方的に強くできることを見出したする。しかし,2回目の重畳照射処理を平均重畳回数が大きすぎる条件で処理すると,2回目の重畳照射処理の効果が大きくなり過ぎて等方性が小さくなることも判明した。したがって、2回目の処理では、平均重畳回数が一定値以下となることが求められる。
1回目の平均重畳回数に上限は特にないが,平均重畳回数を大きくしすぎることはコストの観点から望ましくない。1回目の処理ではX及び・Y方向の応力の平均値を,応力の基準値(2回目処理後)と同程度に大きくしておけば十分である。
さらに,1回目,2回目それぞれの重畳照射処理において,被加工面に未照射領域を作らないように重畳照射することが必要となる。このために必要な平均重畳回数の下限値は,ビームスポットの形状に依存する。例えばスポット形状が矩形の場合は,下限値は1.0であるが,スポット形状が円形の場合は,1.57となる。
基準値以上の応力を付与するために必要な平均重畳回数は,パルスレーザビーム1発あたりの圧縮応力付与能力が大きいほど小さくなる。この圧縮応力付与能力は,パルスレーザビームのピークパワー密度,ビームスポット直径,ビームスポット形状,及び吸収材料層の種類など,パルスレーザビームの照射条件に依存する。パルスレーザビームのピークパワー密度が増加するほど基準値以上の応力を付与するために必要な平均重畳回数は減少する。また,パルスレーザビームト1発あたりで付与される圧縮応力は,吸収材料層の材質,厚み,熱的な物性値(比熱や融点),吸収材料層と被加工材の界面での衝撃波伝達特性等に依存する。さらに,被加工材の一軸引張強度が大きくなるほど基準値以上の応力を付与するために必要な平均重畳回数は大きくする必要がある。
2回目の処理では,以下の理由からレーザビームを吸収する材料層を形成して行なう必要がある。2回目に吸収材料層を形成しないで行なうと,レーザビームおよびプラズマからの熱入力が大きいとき照射スポット部の表層近傍が溶融・再凝固する。これに伴い,表面の応力については1回目に付与した圧縮応力が一旦リセット緩和又は低減される。すなわち,2回目の処理後の表面の応力は1回目の処理方法に依存せず,1回処理の場合と同様の平均重畳回数依存性を示す(図7参照)。この結果,2回目の処理後も,X及び・Y方向の圧縮応力を基準値まで高めることはできない。なお,被加工材の厚み方向に入った部分については表面の溶融・再凝固の影響を受けないため圧縮応力はリセットされず,1回目の圧縮応力付与の効果も残る。しかしながら,疲労強度を向上させるためには表面近傍の圧縮応力を高めることが必要である。したがって,2回目の処理は吸収材料層を形成して行なうことが好ましい。
一方,1回目の処理では吸収材料層を形成しても形成しなくても良い。ただし上記の段落[0018]で述べたように,1回目の処理で吸収材料層を形成しない場合は表層近傍の圧縮応力が減少し易いという問題があるため,上記条件(a)を満たすために必要な2回の平均重畳回数の合計値は,吸収材料層を形成する場合と比較して大きくなる。また,1回目,2回目の処理ともに吸収材料層を形成する場合,1回目の処理のレーザビーム照射により吸収材料層が損傷又は劣化した場合は2回目の処理の重畳照射前に吸収材料層を設置しなおす。
1回目,2回目の重畳照射を種々の条件で処理した際の,表面の残留応力を表1に示す。なお実験は上記の段落[0016]で述べたのと同じ装置を用いた。2回目の処理は1回目の処理が最後まで終了した後に開始させた。レーザビームを吸収する材料層としては厚み200μmのプラスチックテープ(基材材質:塩化ビニール,粘着剤:ゴム系)を用いた。プラスチックテープの耐久性の問題から,吸収材料層を用いる処理においては,各回の平均重畳回数を6回未満として処理を行なった。1回目,2回目の処理ともに吸収材料層を形成する場合は,2回目の処理の重畳照射前に吸収材料層を設置し直した。導入すべき残留応力の基準値はX,Y両方向とも鋼材の一軸引張強度(440MPa)の70%(-308MPa)に設定した。2回の処理後にX,Y両方向とも基準値に到達した条件については表1の評価欄に○を,到達しなかった条件については×を付けている。
Figure 2007237192
表1の結果を見ると,1回の処理ではX,Y両方向とも残留応力の基準値に到達した条件はない。Y方向応力が基準値に達している条件はあるが,そのような条件においてもX方向は基準値に達していない。しかし,2回目の処理を行なうことで,平均重畳回数を適切にすれば条件によってはX,Y両方向とも基準値に到達することが判る。図8は表1の結果を図示したものである。横軸,縦軸をそれぞれ1回目処理,2回目処理の平均重畳回数とし,1回目,2回目それぞれの処理の吸収材料層の有無を図中の凡例に示す記号(○,△,◇,□)の形で区別している。X,Y両方向とも残留応力の基準値に到達したものについては塗りつぶし記号で,到達しなかったものについては白抜きの記号で表示している。
基準値に到達するためには,2回目の処理において吸収材料層を用いる必要があることが判る(図8中で△点と○点)。表1の条件9,19,20(図8中では◇又は□)は,2回目の処理において吸収材料層を形成せずに処理した比較例であるが,いずれも残留応力の基準値に達していない。これは上記の段落[0023]で説明したように,2回目の処理で表面が溶融・再凝固するのに伴い,1回目に表面に付与した圧縮応力が一旦リセットされ,2回処理する効果がなくなってしまうためである。
また,X,Y両方向とも基準値に到達するためには,1回目,2回目のそれぞれの平均重畳回数を所定の範囲に設定する必要があることが図8より判る。図8を見ると,本実施例の鋼材の強度,パルスレーザビームの照射条件,および圧縮応力の基準値に対しては,1回目,2回目の平均重畳回数を,下記範囲に設定すればよいことが判る。上記の段落[0022]で説明したように,鋼材の強度,パルスレーザビームの照射条件,および圧縮応力の基準値が変化した場合,これら平均重畳回数の限定範囲も変化する。
(1)1回目処理で吸収材料層を設置する場合(図8中●印)
(1a)
1回目と2回目の平均重畳回数の合計を4回以上
(1b)
2回目の平均重畳回数を4回未満
(1c)
1回目,2回目それぞれの平均重畳回数を1.6回以上
(2)1回目処理で吸収材料層を設置しない場合(図8中▲印)
(2a)
1回目と2回目の平均重畳回数の合計を7回以上
(2b)
2回目の平均重畳回数を4回未満
(2c)
2回目の平均重畳回数を1.6回以上
2回目の処理と異なり,1回目の処理においては吸収材料層を設置する必要はないが,吸収材料層を形成しない場合は2回の平均重畳回数の合計値の下限は,吸収材料層を形成する場合と比較して大きくなる。これは,吸収材料層を形成しない場合は表層近傍の圧縮応力が減少し易いためである。
以下では本実施例において,2回目の処理において吸収材料層を用いたものの,上記平均重畳回数の条件が満たされなかったために基準値に到達しなかった条件について説明する。
条件1,11は,それぞれ上記条件(2a),(1a)を満たしていないために圧縮応力が不足し,基準値に到達しなかった。
また,条件2,6,15は,上記条件(1b)もしくは(2b)を満たしていないため基準値に到達していない。2回目の処理の平均重畳回数が4回以上と大きすぎるために,Y方向の圧縮応力が選択的に強化され,その影響でX方向の応力値が十分に高くできないからである。
例えば条件2では,1回目処理の平均重畳回数(2.8回)が小さいため,同処理で付与される応力(X・Y平均値)が鋼材の一軸引張強度の10%未満と小さくなっている。したがって2回目の処理で大きな圧縮応力を付与する必要が生じるが,2回目の平均重畳回数を大きくする(5.1回)と,圧縮応力が等方的でなくなり,X方向を基準値に到達させることができない。一方,条件3は1回目の処理で付与される応力(X・Y平均値)が鋼材の一軸引張強度の27%となっており,2回目の処理で平均重畳回数を3.5回とすることで基準値に到達している。以上の結果より,1回目の処理で付与する圧縮応力値の目安はX・Y方向の平均値で被加工材の一軸引張強度の20%以上であるといえる。
さらに条件4,10,18は,上記条件(1c)もしくは(2c)を満たしていないために基準値に到達しなかった。これらの条件では,1回目もしくは2回目の処理の平均重畳回数が1.57回未満となっており,円形のビームスポットで重畳照射した本実験条件では,被加工面に未照射領域を作らないように重畳照射することができていない。この平均重畳回数の不足が基準値に達しなかった主因である。
本発明は,金属物体のレーザピーニング処理に利用できる。
本発明のレーザピーニング方法の実施の形態におけるレーザビーム照射装置の概略構成を示す平面図である。 被加工材の表面にレーザビームを吸収する材料層を設けて処理する際のレーザビーム照射装置を示す概略平面図である。 本発明のレーザピーニング方法の実施の形態におけるレーザビーム照射装置の概略を示す立面図である。 被加工材の表面にレーザビームを吸収する材料層を設けて処理する際のレーザビーム照射装置を示す概略立面図である。 本発明のレーザピーニング方法におけるビームスポットの走査を説明する図である。 一回の重畳照射処理を施したサンプルの残留応力を示すグラフである(その1)。 一回の重畳照射処理を施したサンプルの残留応力を示すグラフである(その2)。 1回目,2回目の重畳照射処理におけるそれぞれの平均重畳回数を変えながらレーザピーニング処理したときの,残留応力に関する結果を示すグラフである。
符号の説明
1…レーザ光発振装置
2…パルスレーザビーム
3…集光レンズ
4…光学窓
5…水槽
6…レーザビームを吸収する材料層
7…被加工材
8,9,11…支持部
10,12…ガイド
13…走査装置

Claims (5)

  1. 被加工材の表面にパルスレーザビームを集光,照射して得るビームスポットで該表面の被加工面を走査して,被加工面該表面に残留圧縮応力を発生させるレーザピーニング処理方法において,
    被加工面に対して前記パルスレーザビームを,同一点で重畳照射する回数の平均値(平均重畳回数)を第1の所定回数で重畳照射しながら走査する第1回目の重畳照射処理と,
    前記被加工面に前記パルスレーザビームを吸収する材料層を形成する処理と,
    前記被加工面に対して前記パルスレーザビームを,同一点で重畳照射する回数の平均値(平均重畳回数)を第2の所定回数で重畳照射しながら走査する第2回目の重畳照射処理とを行い,
    第2回目の重畳照射処理を施すときに前記材料層によって前記被加工面の溶融を防止することにより,前記被加工面に第1回目の重畳照射処理によって付与した残留圧縮応力を,さらに第2回目の重畳照射処理で等方的に強化して,前記被加工面に等方的に大きな残留圧縮応力を生成させることを特徴とするレーザピーニング処理方法。
  2. 請求項1に記載のレーザピーニング処理方法において,
    前記第1回目の重畳照射処理の前に,さらに前記被加工面に前記パルスレーザビームを吸収する材料層を形成する処理を行なうレーザピーニング処理方法。
  3. 前記第1の所定回数及び第2の所定回数は,被加工材の強度,パルスレーザビームの照射条件,および所望の圧縮応力値に基づいてそれぞれ決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザピーニング処理方法。
  4. 前記パルスレーザビームの重畳照射処理は,前記被加工面の一方向に直線的に前記ビームスポットを走査する処理を,該方向と直交する方向に位置をずらしながら複数回行なうものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のレーザピーニング処理方法。
  5. 請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のレーザピーニング処理方法でレーザピーニング処理を行ったことを特徴とする金属物体。
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