この発明は、内燃機関に関し、特に内燃機関の異常燃焼を予測することに関する。
いわゆるレシプロエンジンやロータリーエンジン等の内燃機関は、機関内部の燃焼室で燃料と空気との混合気を圧縮して燃焼させることにより動力を得る。内燃機関は、運転条件や燃焼室内部の状態によっては、混合気が異常燃焼を起こすことがある。例えば、被花点火式の内燃機関においては、燃焼室内に堆積した燃料や潤滑油の成分がヒートスポットとなって、点火プラグによる点火よりも早く自然燃焼を起こしてしまう、いわゆるプレイグニッションと呼ばれる異常燃焼が知られている。
内燃機関で異常燃焼が発生すると、シリンダ内の温度を上昇させて耐久性を低下させたり、運転不調を引き起こしたりする。したがって、内燃機関において、異常燃焼の発生は極力抑える必要がある。特許文献1には、液体燃料と気体燃料とを用いる内燃機関において、気体燃料を用いる運転が所定時間上継続した場合には、液体燃料を用いて運転することによって燃焼室内の堆積物を洗浄し、異常燃焼を未然に回避する技術が開示されている。そして、特定の運転領域(低負荷、低回転)において気体燃料を用いて運転した時間を累積して得られた累積運転時間に基づいて、燃焼室内の堆積物を液体燃料で運転することにより洗浄する。
しかし、特許文献1に開示されている技術は、内燃機関の潤滑油の劣化を考慮していない。その結果、気体燃料の運転時間のみでは、燃燃焼室内部に堆積する燃焼残渣の量の推定精度が不十分となり、気体燃料を用いる運転の累積運転時間が所定の時間に到達する前に異常燃焼が発生するおそれがある。このように、特許文献1に開示されている技術は、異常燃焼を予測することに対して改善の余地がある。
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる異常燃焼予測装置を提供することを目的とする。
上述の目的を達成するために、この発明に係る異常燃焼予測装置は、内燃機関が運転された時間を、前記内燃機関の潤滑に用いられる潤滑油の劣化度合いに基づいて補正することによって修正運転時間を求め、この修正運転時間を累積した累積運転時間を求める堆積時間推定部と、前記累積運転時間が予め定めた所定の累積運転時間閾値以上になった場合には、前記内燃機関に異常燃焼が発生するおそれがあると判定する異常燃焼判定部と、を含むことを特徴とする。
この異常燃焼予測装置によれば、燃焼異常の判定に用いる累積運転時間と燃焼室内部に堆積する燃焼残渣との相関がより高くなる。その結果、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。
次の本発明に係る異常燃焼予測装置は、前記異常燃焼予測装置において、さらに、前記潤滑油に起因して発生する燃焼残渣が前記燃焼室内に堆積しやすい運転条件で前記内燃機関が運転されているか否かを判定する運転条件判定部を備え、前記堆積時間推定部は、前記潤滑油に起因して発生する燃焼残渣が前記燃焼室内に堆積しやすい運転条件で前記内燃機関が運転された時間を、前記潤滑油の劣化度合いに基づいて補正することによって前記修正運転時間を求めることを特徴とする。
次の本発明に係る異常燃焼予測装置は、前記異常燃焼予測装置において、前記堆積時間推定部は、前記内燃機関に異常燃焼が発生した場合には、異常燃焼が発生する前よりも前記累積運転時間閾値の値を小さくすることを特徴とする。
次の本発明に係る異常燃焼予測装置は、前記異常燃焼予測装置において、前記堆積時間推定部は、前記潤滑油の劣化が進行するにしたがって、前記内燃機関が運転された実際の時間よりも、前記修正運転時間が大きくなるように補正することを特徴とする。
次の本発明に係る異常燃焼予測装置は、前記異常燃焼予測装置において、前記異常燃焼判定部が、前記内燃機関に異常燃焼が発生するおそれがあると判定した場合には、前記燃焼室の洗浄を促す洗浄制御部を備えることを特徴とする。
次の本発明に係る異常燃焼予測装置は、前記異常燃焼予測装置において、前記内燃機関が液化石油ガスを燃料とする場合、前記異常燃焼判定部が、前記内燃機関に異常燃焼が発生するおそれがあると判定した場合には、前記液化石油ガスの供給時期を、前記内燃機関の吸気時期と同期させる洗浄制御部を備えることを特徴とする。
次の本発明に係る異常燃焼予測装置は、前記異常燃焼予測装置において、前記内燃機関が液体燃料と気体燃料とを燃料とする場合、前記異常燃焼判定部が、前記内燃機関に異常燃焼が発生するおそれがあると判定した場合には、前記内燃機関に前記液体燃料を供給する洗浄制御部を備えることを特徴とする。
次の本発明に係る異常燃焼予測装置は、前記異常燃焼予測装置において、前記異常燃焼判定部が、前記内燃機関に異常燃焼が発生するおそれがあると判定した場合、前記内燃機関の前記燃焼室に洗浄剤を供給する洗浄制御部を備えることを特徴とする。
本発明に係る異常燃焼予測装置は、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態及び実施例(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。本発明は、燃焼室に堆積する燃焼残渣に起因した燃焼異常が発生するおそれのある内燃機関全般に対して適用できる。特に、気体燃料を用いる内燃機関や、気体燃料と液体燃料とを併用する内燃機関に対して好適に適用できる。また、本発明は、乗用車、トラック、バスその他の車両に搭載されて動力源となる内燃機関に対して好適に適用できるが、本発明の適用対象はこのような内燃機関に限定されるものではない。なお、本発明に係る異常燃焼予測には、内燃機関の異常燃焼を予測することの他、異常燃焼の発生が予測された場合には、その発生を未然に回避することも含まれる。
本発明は、CNG(Compressed Natural Gas)や水素等の気体燃料、LPG(Liquid Propane Gas:液化石油ガス)を燃料として用いる内燃機関、あるいは気体燃料とガソリンや軽油等の液体燃料とを併用する内燃機関に対して適用される。内燃機関を運転すると、燃料(液体燃料)に含まれる炭素や、潤滑油(いわゆるエンジンオイル)に含まれるCa、Mg等の鉱物成分等が燃焼残渣として内燃機関の燃焼室内部やピストンに堆積する。
内燃機関の燃焼室内部やピストンに堆積した燃焼残渣は、いわゆるプレイグニッションの原因となる。一般に、ガソリンや軽油等の液体燃料を用いる内燃機関は、燃焼室内部に発生した燃焼残渣を液体燃料が洗浄する作用があるため、燃焼室内部やピストンに燃焼残渣は体積しにくい。しかし、気体燃料を用いる内燃機関では液体燃料による洗浄作用はないため、燃焼室内部やピストンに燃焼残渣が堆積しやすくなる。そして、燃焼室内部等に堆積した燃焼残渣が原因(ヒートスポット)となって、内燃機関の運転中にプレイグニッションその他の燃焼異常を引き起こすおそれがある。
気体燃料から燃焼残渣はほとんど発生しないので、気体燃料を用いる内燃機関において燃焼室内部等に堆積する燃焼残渣は、潤滑油に起因するものである。潤滑油は使用によって次第に劣化(酸化)していく。劣化(酸化)は内燃機関の運転時間の経過とともに進行するため、燃焼残渣が燃焼室内部やピストンに堆積するのも、潤滑油の劣化度合いに応じて進行する。したがって、潤滑油に起因する燃焼残渣の堆積を予測するには、潤滑油の劣化度合いを考慮することが重要である。
本発明は、潤滑油の劣化が進行すると、燃焼室内部やピストンに対する燃焼残渣の堆積が促進する点に着目して完成されたものであり、次の点に特徴がある。すなわち、内燃機関が運転される時間を、内燃機関の潤滑に用いられる潤滑油の劣化度合いを用いて補正することによって修正運転時間を求め、さらにこの修正運転時間を累積した累積運転時間を求める。
そして、この累積運転時間が、内燃機関の燃焼室内に燃焼残渣が堆積した時間であると推定し、累積運転時間が所定の閾値以上になった場合には、内燃機関に異常燃焼が発生するおそれがあると判定する。すなわち、累積運転時間を、燃焼室内に堆積した燃焼残渣の量の指標として用いる。このように、燃料残渣の発生量に強い相関をもつ潤滑油の劣化を考慮することによって、燃焼異常の判定に用いる累積運転時間と燃焼室内部に堆積する燃焼残渣との相関がより高くなる。その結果、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。
ここで、修正運転時間は、潤滑油に起因して発生する燃焼残渣が堆積しやすい運転条件(負荷領域や機関回転数領域)で内燃機関が運転された時間を、潤滑油の劣化度合いで補正することによって求める。このように、潤滑油に起因して発生する燃焼残渣が堆積しやすい運転条件を用いて異常燃焼を予測することで、異常燃焼の予測精度をより向上させることができる。次に、本発明の実施例を説明する。
実施例1は、次の点に特徴がある。すなわち、気体燃料を用いて運転される内燃機関において、潤滑油に起因して発生する燃焼残渣が堆積しやすい負荷領域及び機関回転数領域で内燃機関が運転された時間(運転時間)T1に、潤滑油の劣化度合いを考慮した潤滑油劣化係数Bを乗じて得られる修正運転時間(T1×B)を算出する。そして、修正運転時間を累積した累積運転時間T=Σ(T1×B)が予め定めた閾値(累積運転時間閾値)T
_lを超えた場合に、燃焼室に堆積した燃焼残渣によってプレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれがあると判定する。
図1は、実施例1に係る内燃機関の構成を示す説明図である。図1では、シリンダを直列に配列した内燃機関を、クランク軸と平行な方向から見た場合の断面を示している。この実施形態において、内燃機関のシリンダ配列は直列に限定されるものではなく、V型、水平対向その他の配列であってもよい。また、シリンダの数は限定されるものではない。
この内燃機関1は、ピストン2がシリンダ1S内を往復する、いわゆるレシプロ式の内燃機関であり、燃料にはCNCや水素ガスのような気体燃料Gが用いられる。この内燃機関1は、いわゆるポート噴射によって燃料が供給される。すなわち、吸気通路を構成する第2空気通路6ibの内部に気体燃料Gを噴射する気体燃料噴射弁10が気体燃料Gを供給する。なお、内燃機関1は、シリンダ1S内の燃焼室1Bへ気体燃料Gを直接噴射する、いわゆる直噴の内燃機関であってもよい。また、ポート噴射と直噴とを組み合わせてもよい。
ピストン2は、シリンダ1S内を往復運動する。ピストン2はコネクティングロッド3によってクランク軸4と連結されており、ピストン2の往復運動は、クランク軸4によって回転運動に変換される。なお、クランク軸4は、シリンダ1Sと連結するクランクケース1Cに格納される。クランク軸4の近傍にはクランク角度センサ41が取り付けられており、点火時期の制御や機関回転数NEの取得に用いられる。
クランクケース1Cの底部にはオイルパン1Pが備えられている。ピストン2とシリンダ1Sとの間やクランク軸4とコネクティングロッド3との連結部等の摺動部は、潤滑油Lによって潤滑される。内燃機関1の各摺動部分を潤滑した潤滑油Lは、一旦オイルパン1Pに集められた後、オイルポンプによって内燃機関1の各摺動部へ送られる。オイルパン1Pには潤滑油Lの劣化度合いを測定するための潤滑油劣化検出手段として潤滑油劣化検出センサ40が設けられている。
潤滑油Lは、内燃機関1の運転によって劣化(酸化)するが、この潤滑油劣化検出センサ40によって、潤滑油Lの劣化度合いを測定することができる。この実施例において、潤滑油劣化検出センサ40は、潤滑油LのpHを測定することによって潤滑油Lの劣化度合いを測定するものであるが、潤滑油Lの劣化度合いを測定する手法、及び潤滑油劣化検出センサ40の種類は問わない。
内燃機関1には、燃焼室1Bに空気Aが供給される。この空気Aは、燃料と混合して燃焼用の混合気を形成し、燃焼室1B内で燃焼してピストン2を駆動する。燃焼室1Bに空気Aを供給するため、空気通路6ia、6ibが内燃機関1のシリンダヘッド1Hに設けられる吸気口5iに接続される。ここで、便宜上、空気通路6iaを第1の空気通路といい、空気通路6ibを第2の空気通路という(以下同様)。
第1の空気通路6iaの入口には、燃焼室1Bに導入する空気Aから塵や埃を取り除くためのエアークリーナー9が設けられる。エアークリーナー9を通過した空気Aは、第1の空気通路6iaに取り付けられるエアフローメータ42によって流量が計測される。エアフローメータ42によって計測された空気Aの流量は、機関ECU50に取り込まれ、内燃機関1の制御に用いられる。
また、第1の空気通路6iaには、燃焼室1Bに導入する空気Aの量を調整するスロットル弁60が設けられる。スロットル弁60の開度を調整することによって、燃焼室1Bへ導入する空気Aの量を制御する。この実施例においては、機関ECU(Electronic Control Unit)50が、スロットル用アクチュエータ61を駆動することによってスロットル弁60の開度を制御する方式、すなわち、いわゆるアクセルバイワイヤ方式を用いる。スロットル弁60にはスロットル開度センサ43が取り付けられており、機関ECU50は、スロットル開度センサ43が検出したスロットル弁60の開度情報を、スロットル用アクチュエータ61の制御や、内燃機関1の運転制御に用いる。
スロットル弁60と燃焼室1Bとは、第2の空気通路6ibによって接続される。第2の空気通路6ibには、内燃機関1へ気体燃料Gを供給するための気体燃料噴射弁10が取り付けられている。気体燃料噴射弁10の動作は機関ECU50によって開弁時期及び開弁時間が制御される。気体燃料噴射弁10から噴射された気体燃料Gは、第1の空気通路6ia及び第2の空気通路6ibを流れる空気Aと混合気を形成する。この混合気は、吸気口5iから内燃機関1の燃焼室1B内へ流入する。
内燃機関1のシリンダヘッド1Hには、点火プラグ7が取り付けられている。このように、内燃機関1は火花点火式の内燃機関である。点火プラグ7は、機関ECU50からの指令によって放電し、燃焼室1B内へ導入されてピストン2によって圧縮された混合気に点火する。これによって混合気は燃焼して高温、高圧の燃焼ガスとなり、ピストン2を駆動する。内燃機関1の運転中には、内燃機関1は熱を発生する。この熱は、冷却水によって冷却される。内燃機関1を冷却する冷却水の温度(冷却水温度)は、冷却水温度計47によって測定される。
この実施例では、燃焼室1B内の燃焼状態を検出するため、内燃機関1は、燃焼状態検出手段を備える。この実施例では、点火プラグ7を利用して燃焼室1B内の燃焼イオン電流を検出し、検出した燃焼イオン電流に基づいて燃焼室1B内の燃焼状態を検出する。このため、点火プラグ7には、点火プラグ7の電極間に流れる燃焼イオン電流を検出する燃焼イオン電流検出回路46が接続されている。そして、点火プラグ7と燃焼イオン電流検出回路46とで、燃焼状態検出手段が構成される。なお、燃焼状態検出手段として、例えば燃焼圧力センサを用いて燃焼室1B内の燃焼圧力を測定し、これに基づいて燃焼状態を検出してもよい。
内燃機関1のシリンダヘッド1Hには、ピストン2を駆動した後の燃焼ガス(排ガス)Exを、燃焼室1Bの外へ排出するための排気口5eが設けられている。排気口5eには排気通路6eが取り付けられており、排気口5eから排出された排ガスExを浄化触媒8に導く。浄化触媒8に導入された排ガスExは、ここで浄化される。
第2空気通路6ibに設けられる気体燃料噴射弁10には、デリバリパイプ10Dが取り付けられており、デリバリパイプ10Dを通して気体燃料Gが供給される。なお、デリバリパイプ10Dには、複数の燃焼室1Bにそれぞれ気体燃料Gを供給する複数の気体燃料噴射弁10が取り付けられている。また、デリバリパイプ10Dには、燃料供給通路12を介して気体燃料ボンベ11から気体燃料Gが供給される。
気体燃料ボンベ11には、圧縮された気体燃料(この実施形態では天然ガス)Gが充填されており、この気体燃料Gは、燃料供給通路12に取り付けられるレギュレータ13で一定の圧力に調整されてデリバリパイプ10Dへ供給される。また、燃料供給通路12には、燃料圧力センサ44及び燃料温度計45が取り付けられており、気体燃料ボンベ11内に充填されている気体燃料Gの残量検知等に用いられる。
内燃機関1を制御する機関ECU50には、この実施例に係る異常燃焼予測装置30が組み込まれている。また、機関ECU50には、内燃機関1が搭載される車両の計器パネル70に設けられる警告灯71、及びリセットボタン72が接続されている。警告灯71は、燃焼残渣の堆積が増加して異常燃焼を引き起こすおそれが高くなった場合に点灯して、内燃機関1の燃焼室1B内の洗浄を促す。リセットボタン72は、前記洗浄をした後に押すことによって、燃焼残渣の堆積を判定するために用いたデータをリセットする。次にこの実施例に係る異常燃焼予測装置30を説明する。
図2は、実施例1に係る異常燃焼予測装置の構成を示す概念図である。図2に示すように、異常燃焼予測装置30は、ECU50に組み込まれている。ECU50は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)50pと、記憶部50mと、入力ポート55と、出力ポート56と、入力インターフェース57と、出力インターフェース58とから構成される。
なお、ECU50とは別個に、この実施形態に係る異常燃焼予測装置30を用意し、これをECU50に接続してもよい。そして、この実施例に係る異常燃焼予測を実現するにあたっては、ECU50が備えている内燃機関1に対する制御機能を、前記異常燃焼予測装置30が利用できるように構成してもよい。
異常燃焼予測装置30は、運転条件判定部31と、堆積時間推定部32と、異常燃焼判定部33と、洗浄制御部34とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る異常燃焼予測制御を実行する部分となる。この実施形態において、異常燃焼予測装置30は、ECU50を構成するCPU50pの一部として構成される。CPU50pと、記憶部50mとは、バス541〜543、入力ポート55及び出力ポート56を介して接続される。
これにより、異常燃焼予測装置30を構成する運転条件判定部31と堆積時間推定部32と異常燃焼判定部33と洗浄制御部34とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、異常燃焼予測装置30は、ECU50が有する内燃機関1の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、異常燃焼予測装置30は、この実施例に係る異常燃焼予測制御を、ECU50が予め備えている内燃機関1の運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
入力ポート55には、入力インターフェース57が接続されている。入力インターフェース57には、潤滑油劣化検出センサ40、クランク角度センサ41、エアフローメータ42、燃焼イオン電流検出回路46、冷却水温度計47その他の、異常燃焼予測制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェース57内のA/Dコンバータ57aやディジタル入力バッファ57dにより、CPU50pが利用できる信号に変換されて入力ポート55へ送られる。これにより、CPU50pは、内燃機関1の運転制御や、この実施例に係る異常燃焼予測制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート56には、出力インターフェース58が接続されている。出力インターフェース58には、気体燃料噴射弁10、警告灯71、リセットボタン72その他の、異常燃焼予測における制御対象が接続されている。なお、図2では、LPG燃料噴射弁10a、液体燃料噴射弁20、LPG燃料供給ポンプ15、液体燃料供給ポンプ18、洗浄剤供給ポンプ22も制御対象として出力インターフェース58に接続されている。これらの制御対象については実施例2以降で説明する。出力インターフェース58は、制御回路581、582等を備えており、CPU50pで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。
記憶部50mには、この実施形態に係る異常燃焼予測制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいはこの実施形態に係る異常燃焼予測制御に用いる、制御データマップ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、CPU50pへ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせることによって、この実施形態に係る異常燃焼予測制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この異常燃焼予測装置30は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、運転条件判定部31、堆積時間推定部32、異常燃焼判定部33及び洗浄制御部34との機能を実現するものであってもよい。次に、この実施形態に係る異常燃焼予測を説明する。次の説明では、適宜図1、図2を参照されたい。
図3は、実施例1に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。図4は、燃焼残渣が体積しやすい運転条件を示す説明図である。図5は、実施例1に係る異常燃焼予測制御で用いる潤滑油劣化係数を記述した潤滑油劣化係数マップの一例を示す説明図である。この実施例に係る異常燃焼予測制御を実行するにあたって、異常燃焼予測装置30の運転条件判定部31は、ECU50の記憶部50mに格納されている累積運転時間Tを取得する(ステップS101)。この累積運転時間Tは、異常燃焼予測制御開始時点において記憶部50mに格納されている値である。
累積運転時間Tは、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転された時間を、潤滑油の劣化度合いに基づいて補正した修正運転時間を求め、この修正運転時間を累積した値であり、通常、異常燃焼予測制御の開始時が異なれば異なる値となる。累積運転時間Tは、潤滑油に由来する燃焼残渣が燃焼室1B内に堆積した量を推定するための指標となる。このため、累積運転時間Tが所定の閾値(累積運転時間閾値)以上になった場合には、燃焼室1B内に堆積した潤滑油に由来する燃焼残渣が増加することにより、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれがあると判断することができる。なお、内燃機関1に異常燃焼が発生すると判定された場合、内燃機関1は洗浄剤の投入等によって洗浄されるが、内燃機関が洗浄された場合、累積運転時間Tは0にリセットされる。
累積運転時間Tを取得したら、運転条件判定部31は、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されているか否かを判定する(ステップS102)。燃焼残渣が堆積しやすい運転条件は、例えば、負荷(あるいは負荷率)と機関回転数とに基づいて決定することができる。この実施例では、負荷率KLと機関回転数NEとに基づいて、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件を決定する。ここで負荷率KLとは、内燃機関1の吸入空気量が、当該内燃機関1の排気量と等しいときの負荷率を100%としたときにおける、相対的な負荷の大きさをいう。
図4は、内燃機関1の負荷率KLと機関回転数NEとの関係で燃焼残渣が堆積しやすい運転条件の領域(Dで示す領域)を表している。KLpは燃焼残渣が堆積しやすい負荷率KLの上限値であり、NEpは燃焼残渣が堆積しやすい機関回転数NEの上限である。また、NEpは、アイドリング時の機関回転数である。燃焼残渣が堆積しやすい運転条件は、例えば、WOT領域(Wide Open Throttle:高負荷領域であり、負荷率でおよそ75%以上)ではなく、かつ、機関回転数NEが中速程度までの領域である。より具体的には、負荷率KLは60%程度までの領域であり、機関回転数NEは、許容回転数の2/3程度までの領域である。
WOT領域ではなく、かつ機関回転数が中速程度までの領域では、燃焼室1B内の温度が高負荷かつ高回転の領域ほど高くはないため、潤滑油に由来する燃焼残渣が燃焼室1B内に堆積しやすい。また、WOT領域ではなく、かつ機関回転数が中速程度までの領域では、排気流動も高負荷かつ高回転の領域ほど高くはないため、潤滑油に由来する燃焼残渣が排気によって燃焼室1B外に排出されにくく、その結果、燃焼残渣が燃焼室1Bに堆積しやすくなる。さらに、WOT領域ではなく、かつ機関回転数が中速程度までの領域では燃焼室1B内の圧力変化が大きいため、オイル上がりやオイル下がりによって燃焼室1B内に流入する潤滑油の量が増加する結果、燃焼残渣が燃焼室1Bに堆積しやすくなる。
燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されていない場合(ステップS102:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1の運転状態の監視を継続する。燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されている場合(ステップS102:Yes)、異常燃焼予測装置30の堆積時間推定部32は、内燃機関1の運転時間T1を計測する(ステップS103)。ここで、運転時間T1は、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されていると判定された時点から、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されていないと判定された時点までの時間である。
次に、堆積時間推定部32は、潤滑油の劣化度合いを測定し(ステップS104)、測定した劣化度合いに基づいて潤滑油劣化係数Bを設定する(ステップS105)。潤滑油劣化係数Bは、実験や解析等に基づいて定めた経験値であり、潤滑油の劣化度合いに応じて設定されている。潤滑油の劣化度合いは、潤滑油のpH値から判定し、これは潤滑油劣化検出センサ40によって測定する。潤滑油劣化係数Bは、図5に示す潤滑油劣化係数マップ80を用いて設定する。潤滑油劣化係数マップ80のKは潤滑油のpHであり、未使用の潤滑油の値を初期値K1とする。
ここで、初期値K1は一定としてもよいが、内燃機関1の潤滑油を、未使用の潤滑油と入れ替えたときにおける値を初期値K1としてもよい。すなわち、内燃機関1の潤滑油を未使用の潤滑油に全交換したときの潤滑油のpHを測定して、その値を初期値K1に置き換えてもよい。この場合、潤滑油を全交換する毎に初期値K1が再設定されることになる。このようにすれば、異なる種類(鉱物油、化学合成油の違いや粘土の違い)の潤滑油に入れ替えたときや異なる銘柄の潤滑油に入れ替えたときにも、適切な初期値K1を設定することができる。その結果、燃焼残渣の堆積量をより精度よく推定することができる。
この潤滑油劣化係数マップ80は、潤滑油のpHの初期値K1において、潤滑油劣化係数BはB0(=1)に設定される。そして、この潤滑油劣化係数マップ80では、内燃機関1の使用によって潤滑油の劣化(酸化)が進行するにしたがって、すなわち、潤滑油のpH(K)が小さくなるにしたがって、潤滑油劣化係数Bは大きくなるように設定される。すなわちB0(=1)<B1<B2<B3<B4<B5<B6である。この実施例では、潤滑油のpHの値そのもので潤滑油の劣化の度合いを推定するのではなく、潤滑油のpHの初期値K1からの変化によって潤滑油の劣化の度合いを推定する。なお、潤滑油のpHの値そのものを用いて潤滑油の劣化の度合いを推定してもよい。
潤滑油劣化係数Bを設定したら(ステップS105)、堆積時間推定部32は、累積運転時間T(=Σ(T1×B))を計算する(ステップS106)。この実施例では、累積運転時間Tは、式(1)で決定する。
T=T1×B+T・・・(1)
ここで、右辺のTは、ステップS106で新たに累積運転時間Tを計算するまでの累積運転時間である。またTの初期値は0である。
堆積時間推定部32が求めた累積運転時間Tは、内燃機関1の燃焼室1B内に燃焼残渣が堆積したと推定される時間である。式(1)からわかるように、累積運転時間Tは、ステップS103で求めた運転時間T1に、潤滑油の劣化度合いに基づいて求めた潤滑油劣化係数Bを乗じて求めた修正運転時間(T1×B)を累積して求められる。潤滑油劣化係数Bは、潤滑油の劣化が進行すると大きくなるように設定されている。したがって、潤滑油の劣化が進行するにしたがって運転時間T1よりも修正運転時間(T1×B)は大きくなるので、潤滑油の劣化が進行するにしたがって累積運転時間Tの増加割合は大きくなる。これによって、潤滑油の劣化度合いが燃焼異常の判定に用いる累積運転時間Tに反映されるので、累積運転時間Tと燃焼室内部に堆積する燃焼残渣との相関がより高くなる。その結果、潤滑油に由来する燃料残渣の堆積による異常燃焼の予測精度が向上する。
堆積時間推定部32が累積運転時間Tを求めたら(ステップS106)、異常燃焼判定部33は、ステップS106で求めた累積運転時間Tと、予め定めた累積運転時間閾値T_lとを比較する(ステップS107)。累積運転時間閾値T_lは、燃料残渣の堆積により、プレイグニッションのような異常燃焼のおそれが発生する時間である。累積運転時間閾値T_lは、実験や解析等によって予め求めておく。
T<T_lである場合(ステップS107:No)、堆積時間推定部32は、ステップS106で求めた累積運転時間Tを記憶部50mに格納する。その後、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1の運転状態の監視を継続する。T≧T_lである場合(ステップS107:Yes)、異常燃焼判定部33は、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれがあると判定する(ステップS108)。
この場合、例えば、異常燃焼予測装置30の洗浄制御部34は、警告灯71によって異常燃焼が発生するおそれが高いことを運転者に対して警告する。警告を受けた運転者は、例えば燃料供給通路12を介して洗浄剤を内燃機関1の燃焼室1Bに投入して、燃焼室1Bに堆積した燃焼残渣を洗浄する。そして、燃焼室1Bを洗浄したら、運転者はリセットボタン72を押して、累積運転時間Tを0にリセットする。
以上、実施例1では、内燃機関が運転される時間を、内燃機関の潤滑に用いられる潤滑油の劣化度合いを用いて補正することによって修正運転時間を求め、さらにこの修正運転時間を累積した累積運転時間を求める。そして、この累積運転時間が、内燃機関の燃焼室内に燃焼残渣が堆積した時間であると推定し、累積運転時間が所定の閾値以上になった場合には、内燃機関に異常燃焼が発生するおそれがあると判定する。
これによって、燃料残渣の発生量に強い相関をもつ潤滑油の劣化を考慮することができるので、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。なお、この実施例で開示した構成は、以下の実施例に対しても適用することができる。また、この実施例で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施例と同様の作用、効果を奏する。
実施例2は、実施例1とほぼ同様の構成であるが、燃料にLPGを用い、燃料残渣の堆積により、プレイグニッションのような異常燃焼のおそれが高くなった場合には、吸気同期のタイミングで燃料を内燃機関に供給して、燃焼室に堆積した燃焼残渣を洗浄する点が異なる。他の構成は実施例1と同様である。
図6は、実施例2に係る内燃機関の構成を示す説明図である。図7は、実施例2に係る内燃機関にLPG燃料を供給するLPG燃料噴射弁の配置を示す平面図である。実施例2に係る内燃機関1aは、第2空気通路6ibにLPG燃料噴射弁10aを備えている。そして、LPG燃料噴射弁10aから第2空気通路6ib内へLPG燃料を噴射する。
図7に示すように、この内燃機関1aは、複数のシリンダ1S内の燃焼室にそれぞれ接続される複数の空気通路(第2空気通路6ib)に、それぞれLPG燃料噴射弁10aが設けられる。このように、内燃機関1aは、いわゆるMPI(Multi Point Injection)方式によってLPG燃料が供給される。それぞれのLPG燃料噴射弁10aにはデリバリパイプ10Daが取り付けられており、デリバリパイプ10Daを通してLPG燃料が供給される。
LPG燃料は、LPG燃料供給通路16Sの途中に設けられるLPG燃料供給ポンプ15によってLPG燃料タンク14から送り出され、デリバリパイプ10Daに供給される。デリバリパイプ10Daの余剰のLPGは、LPG燃料リターン通路16RからLPG燃料タンク14へ戻される。なお、LPG燃料供給ポンプ15の動作は、機関ECU50によって制御される。次に、実施例2に係る異常燃焼予測制御の手順を説明する。なお、実施例2に係る異常燃焼予測制御は、実施例1に係る異常燃焼予測装置30(図2参照)を用いて実行することができる。次の説明では、適宜図2、図6を参照されたい。
図8は、実施例2に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。実施例2では、LPG燃料噴射弁10aから噴射したLPG燃料と空気との混合やエミッション等を考慮して、通常は吸気非同期噴射としている。ここで、吸気非同期噴射とは、吸気口5iが閉じているとき(例えば排気行程)に燃料噴射弁からLPG燃料を噴射することである。実施例2に係る異常燃焼予測制御のステップS201〜ステップS207までは、実施例1に係る異常燃焼予測制御のステップS101からステップS107と同様なので(図8、図3参照)、説明を省略する。
ステップS207において、異常燃焼判定部33が累積運転時間Tと累積運転時間閾値T_lとを比較した結果、T<T_lである場合には(ステップS207:No)、堆積時間推定部32は、ステップS206で求めた累積運転時間Tを記憶部50mに格納する。その後、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1aの運転状態の監視を継続する。
T≧T_lである場合(ステップS207:Yes)、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれが高くなると推定することができる。この場合、異常燃焼を未然に回避するため、燃焼室1B内に堆積した燃料残渣を洗浄する。当該洗浄にあたって、運転条件判定部31は、吸気同期噴射へ切り替え可能か否かを判定する(ステップS208)。ここで、吸気同期噴射とは、内燃機関1の吸気口5iが開いているときにLPG燃料噴射弁10aからLPG燃料を噴射することである。例えば、吸気非同期で燃料噴射中のLPG燃料噴射弁10aは、その時点では吸気同期噴射は不可能であると判定する。このようなLPG燃料噴射弁10aは、次のLPG燃料の噴射から吸気同期噴射とする。
吸気同期噴射へ切り替えできない場合(ステップS208:No)、吸気同期噴射が可能となるタイミングになるまで待機する。吸気同期噴射へ切り替え可能である場合(ステップS208:Yes)、洗浄制御部34は、LPG燃料の噴射を吸気同期噴射へ切り替える(ステップS209)。そして、洗浄制御部34は、所定の洗浄時間T_Cが経過するまで、吸気同期噴射でLPG燃料噴射弁10aからLPG燃料を噴射する(ステップS210:No)。
吸気同期噴射によってLPG燃料を噴射すれば、ある程度の量のLPGは液体の状態で燃焼室1B内に到達するので、燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣を洗浄することができる。なお、一般的に、ガソリン等の液体燃料を用いた場合、吸気同期噴射は燃料と空気との混合やエミッションといった観点で、吸気非同期噴射と比較して不利になる。しかし、LPGは気化しやすいので、前記不利な点は緩和される。
洗浄時間T_Cは、燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣の洗浄が完了するまでの時間に設定する。洗浄時間T_Cは、実験や解析等によって予め定めておく。所定の洗浄時間T_Cが経過したら(ステップS210:Yes)、洗浄制御部34は、吸気同期噴射を解除して(ステップS211)、通常の噴射、すなわち吸気非同期噴射とする。その後、堆積時間推定部32は累積運転時間Tを0にリセットして(ステップS212)、その値を記憶部50mに格納する。
なお、ステップS212において累積運転時間Tをリセットする際には、吸気同期噴射によって燃焼室1Bの洗浄をした回数に応じて、累積運転時間Tを変更してもよい。例えば、燃焼室1Bの洗浄をした回数が増加するにしたがって、累積運転時間Tも増加させる。より具体的には、燃焼室1Bの洗浄をした回数が1回目のときには累積運転時間TをT1(≠0)とし、燃焼室1Bの洗浄をした回数が2回目のときには累積運転時間TをT2(>T1)とする。
LPG燃料を吸気同期で供給して燃焼室1B内を洗浄しても、燃焼残渣を完全に取り除くことはできない。このため、上述したように、燃焼室1Bの洗浄回数に応じて累積運転時間Tの初期値を変更すれば、洗浄によって除去しきれずに燃焼室1B内に堆積する燃焼残渣の影響を、累積運転時間Tに反映させることになる。その結果、プレイグニッションのような異常燃焼の予測精度をより向上させることができる。
以上、実施例2でも、実施例1と同様の構成を備えるので、実施例1と同様に、異常燃焼の予測においては、燃料残渣の発生量に強い相関をもつ潤滑油の劣化を考慮して、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。また、LPG燃料を洗浄に利用することにより、洗浄剤を用いなくとも燃焼残渣を洗浄し、除去することができるので、装置構成を簡略化できる。なお、この実施例で開示した構成は、以下の実施例に対しても適用することができる。また、この実施例で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施例と同様の作用、効果を奏する。
実施例3は、実施例1とほぼ同様の構成であるが、燃料に気体燃料とガソリンのような液体燃料とを用い、燃料残渣の堆積により、プレイグニッションのような異常燃焼のおそれが高くなった場合には、液体燃料で内燃機関を運転して、燃焼室に堆積した燃焼残渣を洗浄する点が異なる。他の構成は実施例1と同様である。
図9は、実施例3に係る内燃機関の構成を示す説明図である。実施例3に係る内燃機関1bは、第2空気通路6ibに気体燃料噴射弁10と、液体燃料噴射弁20とを備えている。実施例3において、液体燃料Lにはガソリンを用いる。実施例3において、液体燃料噴射弁20は、気体燃料噴射弁10よりも内燃機関1bの吸気口5i側に設けられる。
この実施例に係る内燃機関1bは、液体燃料Lで運転することによって燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣を除去する。このため、液体燃料噴射弁20の吐出口と吸気口5iとの距離を短くして、液体燃料Lの気化する量が少ない状態で燃焼室1Bに液体燃料Lを送り込む。これによって、燃焼残渣の洗浄効果を向上させる。なお、気体燃料噴射弁10を液体燃料噴射弁20よりも吸気口5i側に配置する構成を除外するものではない。
液体燃料噴射弁20には、デリバリパイプ20Dが取り付けられており、デリバリパイプ20Dを通して液体燃料Lが供給される。なお、デリバリパイプ20Dには、複数の燃焼室1Bにそれぞれ気体燃料Gを供給する複数の気体燃料噴射弁10が取り付けられている。液体燃料Lは、液体燃料供給通路19の途中に設けられる液体燃料供給ポンプ18によって液体燃料タンク17から送り出され、デリバリパイプ20Dに供給される。ここで、液体燃料供給ポンプ18の動作は、機関ECU50によって制御される。次に、実施例3に係る異常燃焼予測制御の手順を説明する。なお、実施例3に係る異常燃焼予測制御は、実施例1に係る異常燃焼予測装置30(図2参照)を用いて実行することができる。次の説明では、適宜図2、図9を参照されたい。
図10は、実施例3に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。図11は、液体燃料Lによる燃料残渣を洗浄する効果が大きい領域を示す説明図である。実施例3に係る異常燃焼予測制御を実行するにあたり、運転条件判定部31は、ECU50の記憶部50mに格納されている、異常燃焼予測制御開始時点における累積運転時間Tを取得する(ステップS301)。次に、運転条件判定部31は、内燃機関1bが気体燃料Gで運転されているか否かを判定する(ステップS302)。
内燃機関1bが気体燃料Gで運転されている場合(ステップS302:Yes)、運転条件判定部31は、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されているか否かを判定する(ステップS303)。ステップS303〜ステップS308までは、実施例1に係る異常燃焼予測制御のステップS102からステップS107と同様なので(図10、図3参照)、説明を省略する。
ステップS308において、異常燃焼判定部33が累積運転時間Tと累積運転時間閾値T_lとを比較した結果、T<T_lである場合には(ステップS308:No)、堆積時間推定部32は、ステップS307で求めた累積運転時間Tを記憶部50mに格納する。その後、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1bの運転状態の監視を継続する。
T≧T_lである場合(ステップS308:Yes)、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれが高くなると推定することができる。このときには、異常燃焼を未然に回避するため、燃焼室1B内に堆積した燃料残渣を洗浄する。運転条件判定部31は、液体燃料Lに切り替えて内燃機関1bを運転できるか否かを判定する(ステップS309)。
液体燃料Lに切り替えて内燃機関1bを運転できない場合(ステップS309:No)、STARTに戻り、液体燃料Lに切り替えて内燃機関1bを運転できるようになるまで待機する。液体燃料Lに切り替えて内燃機関1bを運転できる場合(ステップS309:Yes)、洗浄制御部34は、内燃機関1bに供給する燃料を液体燃料Lに切り替える(ステップS310)。すなわち、洗浄制御部34は、気体燃料噴射弁10からの気体燃料Gの噴射を停止するとともに、液体燃料噴射弁20から液体燃料Lを噴射する。これによって、液体燃料Lの洗浄効果を利用して、燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣を洗浄する。
液体燃料噴射弁20から液体燃料Lの噴射を開始したら、洗浄制御部34は、第1の液体燃料運転時間T_L1を計測する(ステップS311)。ここで、第1の液体燃料運転時間T_L1は、気体燃料Gでの運転から液体燃料Lでの運転に切り替えてから、液体燃料Lで内燃機関1bを運転した時間である。次に、堆積時間推定部32は、第1の液体燃料運転時間T_L1に予め定めた所定の第1の換算係数B_L1を乗じた値(T_L1×B_L1)を求める。そして、堆積時間推定部32は、ステップS308で求めた累積運転時間Tから(T_L1×B_L1)を減算した値を、新たな累積運転時間T(=T−T_L1×B_L1)とする(ステップS312)。
液体燃料Lは、燃焼残渣の洗浄効果があるため、液体燃料Lで内燃機関1bを運転すれば、気体燃料Gで内燃機関1bを運転することによって燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣を洗浄して除去することができる。ここで、累積運転時間Tは、潤滑油に由来する燃焼残渣が燃焼室1B内に堆積した量を推定するための指標であるので、燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣が除去されて減少することは、累積運転時間Tが減少することに相当する。
液体燃料Lで内燃機関1bを運転すると燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣は除去されるので、除去された燃焼残渣に相当する分、累積運転時間Tは減少する。この実施例では、液体燃料Lで内燃機関1bを運転することによって燃焼室1Bから除去された燃焼残渣の量に相当する分を、第1の液体燃料運転時間T_L1と所定の第1の換算係数B_L1との積(T_L1×B_L1)で表す。そして、気体燃料Gでの運転から液体燃料Lでの運転に切り替えた時点における累積運転時間Tから(T_L1×B_L1)を減算して得られた新たな累積運転時間Tによって、液体燃料Lでの運転に切り替えてからの燃焼室1B内に堆積している燃焼残渣の量を推定できる。
ステップS312で求めた新たな累積運転時間Tが0になれば、液体燃料Lで内燃機関1bを運転することによって燃焼室1B内に堆積する燃焼残渣がすべて除去されたと推定できる。洗浄制御部34は、ステップS312で求めた新たな累積運転時間Tが0になるまで液体燃料Lでの運転を継続する(ステップS313:No)。
ステップS312で求めた新たな累積運転時間Tが0になったら(ステップS313:Yes)、洗浄制御部34は、内燃機関1bの運転を液体燃料Lでの運転から気体燃料Gでの運転に切り替える(ステップS314)。そして、堆積時間推定部32は、累積運転時間Tを0に設定して記憶部50mに格納する。なお、累積運転時間Tの最小値は0なので、累積運転時間Tは0よりも小さくはならない(以下同様)。
内燃機関1bが気体燃料Gで運転されていない場合(ステップS302:No)、すなわち、内燃機関1bが液体燃料Lで運転されている場合、運転条件判定部31は、液体燃料Lで燃焼室1B内に堆積した燃料残渣を洗浄して除去する効果が大きい運転条件で内燃機関1bが運転されているか否かを判定する(ステップS315)。
液体燃料Lによる燃料残渣の洗浄効果が大きい運転条件は、例えば、図11のFで示す高負荷の領域(負荷率がKLh以上KLm以下の領域)である。ここで、高負荷の領域とは、例えば、いわゆるWOTの領域であり、負荷率でおよそ75%以上の領域である。高負荷の領域では、液体燃料Lの供給量も多くなるので、液体燃料Lの未揮発分が存在する機会が多くなる。このため、液体燃料Lによる燃料残渣の洗浄効果は大きくなる。ここで、WOTの領域か否かは、エアフローメータ42で測定した吸入空気量に基づいて求められる内燃機関1bの負荷から判断することができる。
また、内燃機関1bの冷却水温度や潤滑油の温度が低い運転条件(内燃機関1bの暖機中)も、液体燃料Lによる燃料残渣の洗浄効果が大きくなる。このような運転条件では、冷却水温度や潤滑油の温度が所定の温度に到達したときと比較して、液体燃料Lの供給量が多くなるとともに液体燃料Lの温度も低くなる。その結果、液体燃料Lの未揮発分が多く存在するので、燃料残渣の洗浄効果が大きくなる。ここで、内燃機関1bの冷却水温度は冷却水温度計47によって測定することができる。
液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件である場合(ステップS315:Yes)、洗浄制御部34は、第2の液体燃料運転時間T_L2を計測する(ステップS316)。ここで、第2の液体燃料運転時間T_L2は、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件で内燃機関1bを運転した時間である。次に、堆積時間推定部32は、第2の液体燃料運転時間T_L2に予め定めた所定の第2の換算係数B_L2を乗じた値(T_L2×B_L2)を求める。そして、ステップS308で求めた累積運転時間Tから(T_L2×B_L2)を減算した値を、新たな累積運転時間T(=T−T_L2×B_L2)とする(ステップS317)。新たな累積運転時間T(=T−T_L2×B_L2)とする理由については、上述した通りである。
次に、洗浄制御部34は、ステップS317で求めた新たな累積運転時間Tが0になるまで液体燃料Lでの運転を継続する(ステップS320:No)。ステップS317で求めた新たな累積運転時間Tが0になったら(ステップS320:Yes)、堆積時間推定部32は、累積運転時間Tを0に設定して記憶部50mに格納する。その後STARTに戻り、運転条件判定部31は、内燃機関1bの監視を継続する。
液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件でない場合(ステップS315:No)、洗浄制御部34は、第3の液体燃料運転時間T_L3を計測する(ステップS318)。ここで、第3の液体燃料運転時間T_L3は、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件以外の運転条件で内燃機関1bを運転した時間である。次に、堆積時間推定部32は、第3の液体燃料運転時間T_L3に予め定めた所定の第3の換算係数B_L3を乗じた値(T_L3×B_L3)を求める。そして、ステップS308で求めた累積運転時間Tから(T_L3×B_L3)を減算した値を、新たな累積運転時間T(=T−T_L3×B_L3)とする(ステップS319)。新たな累積運転時間T(=T−T_L3×B_L3)とする理由については、上述した通りである。
次に、洗浄制御部34は、ステップS319で求めた新たな累積運転時間Tが0になるまで液体燃料Lでの運転を継続する(ステップS320:No)。ステップS319で求めた新たな累積運転時間Tが0になったら(ステップS320:Yes)、堆積時間推定部32は、累積運転時間Tを0に設定して記憶部50mに格納する。その後STARTに戻り、運転条件判定部31は、内燃機関1bの監視を継続する。
液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件と、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件以外の運転条件とでは、内燃機関1bの運転時間が同じであれば、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件の方が、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件以外の運転条件よりも多くの燃料残渣を除去できる。したがって、この実施例では、液体燃料Lの洗浄効果の大小に応じて、液体燃料Lでの運転により燃焼室1Bから除去された燃焼残渣の見積もりを変更する。これによって、新たな累積運転時間Tを求める際における、累積運転時間Tの減少割合を変更する。
液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件における燃料残渣の除去時間の指標は(T_L2×B_L2)であり、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件以外の運転条件における燃料残渣の除去時間の指標は(T_L3×B_L3)である。ここで、第2の換算係数B_L2、第3の換算係数B_L3は、異なる運転条件下で内燃機関1bを液体燃料Lで運転した場合において、燃焼室1B内部に堆積した燃焼残渣を除去できる時間を示す尺度となる。
T_L2=T_L3であれば、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件における燃料残渣の除去量の方が、液体燃料Lの洗浄効果が大きい運転条件以外の運転条件における燃料残渣の除去量よりも大きくなる。したがって、第2の換算係数B_L2は、第3の換算係数B_L3よりも大きくしてある。これによって、より正確に、燃焼室1Bに堆積した燃料残渣の除去するために要する時間を推定することができるので、より確実に燃料残渣を燃焼室1Bから除去することができる。
以上、実施例3では、実施例1と同様の構成を備えるので、実施例1と同様に、異常燃焼の予測においては、燃料残渣の発生量に強い相関をもつ潤滑油の劣化を考慮して、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。また、液体燃料と気体燃料とを併用するとともに、液体燃料を洗浄に利用する。そして、燃燃焼室内部に堆積する燃焼残渣がなくなると予測されるまで液体燃料による洗浄を継続するので、異常燃焼が発生するおそれを極めて低減できる。また、液体燃料を洗浄に利用することによって、洗浄剤を用いなくとも燃焼残渣を洗浄し、除去することができるので、装置構成を簡略化できる。なお、この実施例で開示した構成は、以下の実施例に対しても適用することができる。また、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施例と同様の作用、効果を奏する。
実施例4は、実施例1とほぼ同様の構成であるが、燃焼残渣の洗浄剤を燃焼室に対して供給する手段を備え、燃料残渣の堆積により、プレイグニッションのような異常燃焼のおそれが高くなった場合には、洗浄剤を燃焼室1Bに投入して燃焼室に堆積した燃焼残渣を洗浄する点が異なる。他の構成は実施例1と同様である。
図12は、実施例4に係る内燃機関の構成を示す説明図である。実施例4に係る内燃機関1cは、気体燃料噴射弁10に気体燃料Gを供給するデリバリパイプ10D内に、燃焼残渣を洗浄するための洗浄剤Dが供給される。これによって、洗浄剤Dは気体燃料Gとともに内燃機関1cの燃焼室1B内に到達して、燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣を洗浄する。
洗浄剤Dは、洗浄剤タンク21内に貯蔵されており、洗浄剤Dは、洗浄剤供給ポンプ22から送り出された後、洗浄剤供給通路23を通ってデリバリパイプ10Dへ送られる。ここで、洗浄剤供給ポンプ22の動作は、機関ECU50によって制御される。次に、実施例4に係る異常燃焼予測制御の手順を説明する。なお、実施例4に係る異常燃焼予測制御は、実施例1に係る異常燃焼予測装置30(図2参照)を用いて実行することができる。次の説明では、適宜図2、図12を参照されたい。
図13は、実施例3に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。実施例4に係る異常燃焼予測制御のステップS401〜ステップS407までは、実施例1に係る異常燃焼予測制御のステップS101からステップS107と同様なので(図8、図3参照)、説明を省略する。
ステップS407において、異常燃焼判定部33が累積運転時間Tと累積運転時間閾値T_lとを比較した結果、T<T_lである場合には(ステップS407:No)、堆積時間推定部32は、ステップS406で求めた累積運転時間Tを記憶部50mに格納する。その後、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1cの運転状態の監視を継続する。
T≧T_lである場合(ステップS407:Yes)、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれが高くなると推定できる。この場合、異常燃焼を未然に回避するため、燃焼室1B内に堆積した燃料残渣を洗浄する。洗浄制御部34は、例えば、計器パネル70の表示装置73(図12参照)を用いて、内燃機関1cが搭載される車両を停止させるとともに、内燃機関1cをアイドリング状態としたまま放置することを運転者に要求する(ステップS408)。洗浄剤Dを内燃機関1cに供給すると、燃焼が不安点になるからである。
車両停止させ、かつアイドリング状態としたまま内燃機関1cが放置されたら、洗浄制御部34は、洗浄剤供給ポンプ22を駆動して、デリバリパイプ10Dへ洗浄剤Dを供給する(ステップS409)。これによって、洗浄剤Dは気体燃料噴射弁10から内燃機関1cの燃焼室1Bへ導入され、燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣を洗浄し、除去する。
洗浄制御部34は、所定の洗浄時間T_Cが経過するまで、洗浄剤Dを内燃機関1cに供給する(ステップS410:No)。洗浄時間T_Cは、燃焼室1B内に堆積した燃焼残渣の洗浄が完了するまでの時間に設定する。なお、洗浄時間T_Cは、実験や解析等によって予め定めておく。
所定の洗浄時間T_Cが経過したら(ステップS410:Yes)、洗浄制御部34は、洗浄剤Dの供給を停止し、堆積時間推定部32は累積運転時間Tを0にリセットして(ステップS411)、その値を記憶部50mに格納する。その後、洗浄制御部34は、例えば、計器パネル70の表示装置73(図12参照)を通して、通常に運転可能であることを運転者に通知する(ステップS412)。
以上、実施例4では、実施例1と同様の構成を備えるので、実施例1と同様に、異常燃焼の予測においては、燃料残渣の発生量に強い相関をもつ潤滑油の劣化を考慮して、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。また、洗浄剤を用いて、燃燃焼室内部に堆積する燃焼残渣がなくなると予測されるまで洗浄を継続するので、異常燃焼が発生するおそれを極めて低減できる。なお、この実施例で開示した構成は、以下の実施例に対しても適用することができる。また、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施例と同様の作用、効果を奏する。
実施例5は、潤滑油の劣化度合いを考慮してプレイグニッションのような異常燃焼の発生を予測し、かつ、プレイグニッションのような異常燃焼を監視し、異常燃焼が発生した場合には、予め定めた累積運転時間閾値を、異常燃焼が発生する前よりも小さくする点に特徴がある。実施例5は、上記実施例1〜実施例4のすべてに対して適用できるが、実施例1に対して実施例5を適用した例を説明する。なお、実施例5に係る異常燃焼予測制御は、実施例1に係る異常燃焼予測装置30(図2参照)によって実現できる。次の説明では、適宜図1、図2を参照されたい。
図14は、実施例4に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。実施例4に係る異常燃焼予測制御を実行するにあたり、運転条件判定部31は、ECU50の記憶部50mに格納されている、異常燃焼予測制御開始時点における累積運転時間Tを取得する(ステップS501)。次に、運転条件判定部31は、内燃機関1(図1参照)にプレイグニッションのような異常燃焼が発生しているか否かを判定する(ステップS502)。
この実施例においては、燃焼室1B内の燃焼イオン電流を、点火プラグ7及び燃焼イオン電流検出回路46を用いて検出し、検出した燃焼イオン電流の時間変化に基づいて異常燃焼判定部33が異常燃焼の有無を判定する。異常燃焼が発生した場合(ステップS502:Yes)、内燃機関制御部53hは、異常燃焼を回避する処理を実行する(ステップS510)。異常燃焼を回避する処理には、例えば、点火時期を遅角させる、燃料噴射量を低減する等の手法がある。
異常燃焼を回避する処理を実行したら、堆積時間推定部32は、異常燃焼が発生するおそれを判定する際に用いる予め定めた累積運転時間閾値T_lを変更する。具体的には、現在のT_lに所定の修正係数S(S<1)を乗じた値を新たな累積運転時間閾値T_lとし(ステップS511)、堆積時間推定部32は、新たな累積運転時間閾値T_lを記憶部50mに格納する。そして、以後の異常燃焼予測制御では、ステップS511で設定した新たな累積運転時間閾値T_lを用いる。
これによって、新たな累積運転時間閾値T_lは、異常燃焼が発生する前の累積運転時間閾値T_lよりも小さくなる。その結果、異常燃焼が発生する前と比較して、より早い時期に異常燃焼が発生するおそれが高くなると判定されるので、プレイグニッションのような異常燃焼の再発を抑制できる。
異常燃焼が発生しない場合(ステップS502:No)、運転条件判定部31は、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されているか否かを判定する(ステップS503)。ステップS503〜ステップS509は、実施例1に係る異常燃焼予測制御のステップS102〜ステップS108と同様である。なお、ステップS508において、すでに異常燃焼が発生している場合は、ステップS511で設定した、新たな累積運転時間閾値T_lを用いる。また、異常燃焼が発生していない場合には、予め設定され、記憶部50mに格納されている累積運転時間閾値T_lの初期値を用いる。
以上、実施例5では、実施例1と同様の構成を備えるので、実施例1と同様に、異常燃焼の予測においては、燃料残渣の発生量に強い相関をもつ潤滑油の劣化を考慮して、内燃機関の異常燃焼の予測精度を向上させることができる。また、異常燃焼が発生した場合には、異常燃焼が発生するおそれを判定するために用いる所定の閾値をより小さく設定する。これによって、異常燃焼が発生した後では、より早い時期に異常燃焼のおそれがあると判定できるので、異常燃焼の発生をより確実に回避できる。なお、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施例と同様の作用、効果を奏する。
以上のように、本発明に係る異常燃焼予測装置は、プレイグニッションのような異常燃焼の予測に有用であり、特に、異常燃焼の予測精度を向上させることに適している。
実施例1に係る内燃機関の構成を示す説明図である。
実施例1に係る異常燃焼予測装置の構成を示す概念図である。
実施例1に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。
燃焼残渣が体積しやすい運転条件を示す説明図である。
実施例1に係る異常燃焼予測制御で用いる潤滑油劣化係数を記述した潤滑油劣化係数マップの一例を示す説明図である。
実施例2に係る内燃機関の構成を示す説明図である。
実施例2に係る内燃機関にLPG燃料を供給するLPG燃料噴射弁の配置を示す平面図である。
実施例2に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。
実施例3に係る内燃機関の構成を示す説明図である。
実施例3に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。
液体燃料による燃料残渣を洗浄する効果が大きい領域を示す説明図である。
実施例4に係る内燃機関の構成を示す説明図である。
実施例3に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。
実施例4に係る異常燃焼予測制御の手順を示すフローチャートである。
符号の説明
1、1a、1b、1c 内燃機関
1H シリンダヘッド
1C クランクケース
1P オイルパン
1S シリンダ
1B 燃焼室
2 ピストン
3 コネクティングロッド
4 クランク軸
5i 吸気口
5e 排気口
6ia 第1空気通路
6ib 第2空気通路
6e 排気通路
7 点火プラグ
10 気体燃料噴射弁
10a LPG燃料噴射弁
10D、10Da デリバリパイプ
11 気体燃料ボンベ
12 燃料供給通路
14 LPG燃料タンク
15 LPG燃料供給ポンプ
16R LPG燃料リターン通路
16S LPG燃料供給通路
17 液体燃料タンク
18 液体燃料供給ポンプ
19 液体燃料供給通路
20 液体燃料噴射弁
20D デリバリパイプ
21 洗浄剤タンク
22 洗浄剤供給ポンプ
23 洗浄剤供給通路
30 異常燃焼予測装置
31 運転条件判定部
32 堆積時間推定部
33 異常燃焼判定部
34 洗浄制御部
40 潤滑油劣化検出センサ
41 クランク角度センサ
42 エアフローメータ
43 スロットル開度センサ
44 燃料圧力センサ
47 冷却水温度計
50 機関ECU
70 計器パネル
71 警告灯
72 リセットボタン
73 表示装置
80 潤滑油劣化係数マップ