JP2007222003A - 放線菌H+−pyrophosphatase合成遺伝子の作成と大腸菌での発現システム - Google Patents
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Abstract
【課題】野生型放線菌H+-PPase遺伝子をプラスミド状にて、大腸菌に導入すると、その形質転換株の生育は非常に悪く、またプラスミドも安定して存在することができなかった。さらに、しばしば相同組み換えが起こり、その結果としてH+-PPaseの機能も失われた。
【解決手段】野生型放線菌H+-PPase遺伝子の配列について、アミノ酸配列が変わらないことを条件として、大腸菌にとってのレアコドンを他のコドンに置き換える。このように改変した改良型放線菌H+-PPase遺伝子は大腸菌内においてプラスミド上で安定して存在することができ、また、その形質転換株の生育は通常と変わらない。そしてこの大腸菌内において発現される放線菌H+-PPaseの活性は維持されている。
【選択図】図5
【解決手段】野生型放線菌H+-PPase遺伝子の配列について、アミノ酸配列が変わらないことを条件として、大腸菌にとってのレアコドンを他のコドンに置き換える。このように改変した改良型放線菌H+-PPase遺伝子は大腸菌内においてプラスミド上で安定して存在することができ、また、その形質転換株の生育は通常と変わらない。そしてこの大腸菌内において発現される放線菌H+-PPaseの活性は維持されている。
【選択図】図5
Description
本発明は放線菌H+-pyrophosphataseに関するものである。
H+-ピロホスファターゼ(H+-pyrophosphatase以下H+-PPase)は、ピロリン酸(以下PPi)の高エネルギーリン酸結合を加水分解する過程で放出されるエネルギーを、膜を介したH+の能動輸送に転換するエネルギー変換酵素である。もともと光合成細菌(Rhodospilium rubrum)においてその酵素機能が検出されたH+-PPaseであるが、近年のゲノムプロジェクト進行等に伴い、生物界において予想以上に広い範囲で分布することが明らかになってきている。すなわちH+-PPaseは、高等植物や緑藻等を含めた植物界全体、そして光合成細菌や古細菌などのある種の細菌類の細胞膜、Trypanosoma cruziやマラリア原虫などの寄生原生生物が持つ細胞内酸性顆粒の膜などに存在していることが分かってきた。これらのうち比較的良く研究されているのは植物に見られるH+-PPaseであり、未解明の部分も多く残されているものの植物にとって必須の酵素と推測され、その重要性にはもはや疑問の余地はない。より具体的には以下のとおりである。すなわち植物の液胞膜内に内在するH+-PPaseは、加水分解により細胞質PPi除去を行い生体内の高分子合成反応を促進する。また、上記加水分解により得られたエネルギーを利用して細胞質のH+を液胞内に輸送し、細胞質pHの維持と液胞酸性化および液胞膜のエネルギー化に寄与している。液胞膜の内外にpH勾配を形成することで生じるエネルギーは、液胞膜上に存在するその他の二次輸送体の駆動力として必要である。
本特許は放線菌のH+-PPaseに関わるものである。植物のH+-PPaseが植物において非常に重要な役割を担っていると上述したように、放線菌H+-PPaseの役割もまた非常に大きいと予想される。しかし放線菌H+-PPaseは植物のH+-PPaseと異なり、生理機能・生化学的機能などそのほとんどの点において未解明である。その一方で、放線菌は抗生物質を初めとして生理活性物質を生産する主要な菌であることから産業的に非常に重要な菌であるのだが、生理活性物質を生産する理由や、生産するまでの複雑な代謝経路の意義等、未だ解明されていない点が多い。このような背景から、放線菌においてそのH+-PPaseについて研究・解析を進めることは、放線菌に関する新たな知見を得ることにつながり産業応用の面においても非常に重要な意味をなすものと考えられる。
最近の放線菌H+-PPaseに関わる研究例としては、非特許文献1がある。非特許文献1では、液胞膜H+-PPaseにおいて高度に保存されている6つのヒスチジン残基の重要性について解析が行われている。その手法は、緑豆の液胞膜H+-PPase中のヒスチジン残基を他のアミノ酸残基に置き換え、それら変異型液胞膜H+-PPaseについて解析を行っている。結果、上記6つのヒスチジン残基は、液胞膜H+-PPaseの酵素活性および構造形成において重要な役割をになっていることが示された。
Hsiao YY, Van RC, Hung SH, Lin HH, Pan RL., " Roles of histidine residues in plant vacuolar H(+)-pyrophosphatase," Biochim Biophys Acta. 2004 Feb 15;1608(2-3):190-9.
本特許は放線菌のH+-PPaseに関わるものである。植物のH+-PPaseが植物において非常に重要な役割を担っていると上述したように、放線菌H+-PPaseの役割もまた非常に大きいと予想される。しかし放線菌H+-PPaseは植物のH+-PPaseと異なり、生理機能・生化学的機能などそのほとんどの点において未解明である。その一方で、放線菌は抗生物質を初めとして生理活性物質を生産する主要な菌であることから産業的に非常に重要な菌であるのだが、生理活性物質を生産する理由や、生産するまでの複雑な代謝経路の意義等、未だ解明されていない点が多い。このような背景から、放線菌においてそのH+-PPaseについて研究・解析を進めることは、放線菌に関する新たな知見を得ることにつながり産業応用の面においても非常に重要な意味をなすものと考えられる。
最近の放線菌H+-PPaseに関わる研究例としては、非特許文献1がある。非特許文献1では、液胞膜H+-PPaseにおいて高度に保存されている6つのヒスチジン残基の重要性について解析が行われている。その手法は、緑豆の液胞膜H+-PPase中のヒスチジン残基を他のアミノ酸残基に置き換え、それら変異型液胞膜H+-PPaseについて解析を行っている。結果、上記6つのヒスチジン残基は、液胞膜H+-PPaseの酵素活性および構造形成において重要な役割をになっていることが示された。
Hsiao YY, Van RC, Hung SH, Lin HH, Pan RL., " Roles of histidine residues in plant vacuolar H(+)-pyrophosphatase," Biochim Biophys Acta. 2004 Feb 15;1608(2-3):190-9.
放線菌のH+-PPaseの解析を進めるには、解析に十分な量のH+-PPaseを調製する必要がある。しかし放線菌の増殖速度は極めて遅いためそのような調製は困難である。そこで我々は、放線菌H+-PPase遺伝子を導入した大腸菌発現系を構築し、放線菌H+-PPaseを効率よく生産するシステムの開発を行うことを試みた。そのためまず、放線菌天然株のゲノム上に見られる放線菌H+-PPase遺伝子の塩基配列(配列表1(図1)参照)からなるDNAをそのまま
用いて上記大腸菌発現系の構築を試みたが、以下のような問題点により我々が望むような大腸菌発現系の構築を行うことはできなかった。
すなわち、第一に野生型の放線菌H+-PPase遺伝子をそのまま用いた上記の形質転換株の生育は非常に悪かった。これは野生型の放線菌H+-PPase遺伝子内には大腸菌にとってあまり用いられないコドン、いわゆるレアコドンが多数含まれているためと考えられる。レアコドンについて表1(出典: HYPERLINK "http://www.kazusa.or.jp/codon/" http://www.kazusa.or.jp/codon/)を用いて説明する。この表は大腸菌遺伝子の全ての情報をもとに作成されたコドン使用頻度表である。大腸菌内にはこの使用頻度に応じた量のtRNAがあると推定されており、一般的に10‰(表は千分率)未満のものはレアコドンと考えられている。したがって例えば、このようなレアコドンを多数含む外来遺伝子を大腸菌内に導入すると、それらレアコドンに対応するtRNAはもともとの量が少ないにもかかわらず、さらにこの外来遺伝子の翻訳に奪われてしまい、本来の大腸菌構成タンパク質の翻訳において必要なtRNAが減少してしまう。そしてこのようなtRNAの減少は、上記大腸菌構成タンパク質の翻訳速度の低下を引き起こし、その結果大腸菌の生育が抑制される。野生型の放線菌H+-PPase遺伝子を大腸菌に導入した場合も同様の現象が起こっている可能性が非常に高い。
用いて上記大腸菌発現系の構築を試みたが、以下のような問題点により我々が望むような大腸菌発現系の構築を行うことはできなかった。
すなわち、第一に野生型の放線菌H+-PPase遺伝子をそのまま用いた上記の形質転換株の生育は非常に悪かった。これは野生型の放線菌H+-PPase遺伝子内には大腸菌にとってあまり用いられないコドン、いわゆるレアコドンが多数含まれているためと考えられる。レアコドンについて表1(出典: HYPERLINK "http://www.kazusa.or.jp/codon/" http://www.kazusa.or.jp/codon/)を用いて説明する。この表は大腸菌遺伝子の全ての情報をもとに作成されたコドン使用頻度表である。大腸菌内にはこの使用頻度に応じた量のtRNAがあると推定されており、一般的に10‰(表は千分率)未満のものはレアコドンと考えられている。したがって例えば、このようなレアコドンを多数含む外来遺伝子を大腸菌内に導入すると、それらレアコドンに対応するtRNAはもともとの量が少ないにもかかわらず、さらにこの外来遺伝子の翻訳に奪われてしまい、本来の大腸菌構成タンパク質の翻訳において必要なtRNAが減少してしまう。そしてこのようなtRNAの減少は、上記大腸菌構成タンパク質の翻訳速度の低下を引き起こし、その結果大腸菌の生育が抑制される。野生型の放線菌H+-PPase遺伝子を大腸菌に導入した場合も同様の現象が起こっている可能性が非常に高い。
第二に、野生型の放線菌H+-PPase遺伝子そのままのものをプラスミド内に導入し、大腸菌への形質転換を行うと、このプラスミドは得られた形質転換株内において非常に不安定であった。
第三に、野生型の放線菌H+-PPase遺伝子をそのまま用いた上述の形質転換株内では、しば
しば相同組み換えが起こり、その結果としてH+-PPaseの機能も失われた。
このような結果を受け我々は、得られるアミノ酸配列は野生型の放線菌H+-PPaseと全く変わらないが、上記課題を克服し得る改良型放線菌H+-PPase遺伝子の開発およびそれを用いた放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系の構築を行ったので本特許において報告する。
また、それと同時に上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子内におけるGC含量を減らす試みも行った。つまり、GC含量が多いこと、あるいはGGGG、CCCC等の連続配列自体は、目的タンパク質の遺伝子発現・翻訳に支障はないのだが、より高機能な酵素を作出するための遺伝子改変、導入遺伝子の塩基配列の確認などにおいて、PCR等が困難になる、正確な塩基配列決定が困難になるなどの支障が出る。したがって上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子内におけるGC含量を少なくし、かつGGGGGあるいはCCCCCCなどの同一塩基の連続がないように試みたので本特許において報告する。
また、上記発現系を用いた放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜の調製方法および放線菌H+-PPaseの部分精製方法についても報告する。
第三に、野生型の放線菌H+-PPase遺伝子をそのまま用いた上述の形質転換株内では、しば
しば相同組み換えが起こり、その結果としてH+-PPaseの機能も失われた。
このような結果を受け我々は、得られるアミノ酸配列は野生型の放線菌H+-PPaseと全く変わらないが、上記課題を克服し得る改良型放線菌H+-PPase遺伝子の開発およびそれを用いた放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系の構築を行ったので本特許において報告する。
また、それと同時に上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子内におけるGC含量を減らす試みも行った。つまり、GC含量が多いこと、あるいはGGGG、CCCC等の連続配列自体は、目的タンパク質の遺伝子発現・翻訳に支障はないのだが、より高機能な酵素を作出するための遺伝子改変、導入遺伝子の塩基配列の確認などにおいて、PCR等が困難になる、正確な塩基配列決定が困難になるなどの支障が出る。したがって上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子内におけるGC含量を少なくし、かつGGGGGあるいはCCCCCCなどの同一塩基の連続がないように試みたので本特許において報告する。
また、上記発現系を用いた放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜の調製方法および放線菌H+-PPaseの部分精製方法についても報告する。
上記課題を解決するため本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCUAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CUU、CUC、CUG、UUA、UUGのいずれかのコドンに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAUAコドンのうち少なくとも一つ以上について、AUU、AUC、AUGのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCCCコドンのうち少なくとも一つ以上について、CCU、CCA、CCGのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCGAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCGGコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAGAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAGGコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
CUAコドン、AUAコドン、CCCコドン、CGAコドン、CGGコドン、AGAコドン、AGGコドンは大腸菌にとってのレアコドンといえる。したがって、上記のように野生型放線菌H+-PPase遺伝子の改変を行うと、この改良型放線菌H+-PPase遺伝子内においては、野生型放線菌H+-PPase遺伝子に比べ、大腸菌におけるレアコドンが少なくなる。そのため、この改良型放線菌H+-PPase遺伝子をプラスミド状で大腸菌に導入しても、この形質転換株の生育は良好であり、またこのプラスミドも安定して存在することができるため、形質転換株内において野生型放線菌H+-PPaseが発現される。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAUAコドンのうち少なくとも一つ以上について、AUU、AUC、AUGのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCCCコドンのうち少なくとも一つ以上について、CCU、CCA、CCGのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCGAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCGGコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAGAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
また本発明は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAGGコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPaseである。
CUAコドン、AUAコドン、CCCコドン、CGAコドン、CGGコドン、AGAコドン、AGGコドンは大腸菌にとってのレアコドンといえる。したがって、上記のように野生型放線菌H+-PPase遺伝子の改変を行うと、この改良型放線菌H+-PPase遺伝子内においては、野生型放線菌H+-PPase遺伝子に比べ、大腸菌におけるレアコドンが少なくなる。そのため、この改良型放線菌H+-PPase遺伝子をプラスミド状で大腸菌に導入しても、この形質転換株の生育は良好であり、またこのプラスミドも安定して存在することができるため、形質転換株内において野生型放線菌H+-PPaseが発現される。
本発明の改良型放線菌H+-PPase遺伝子は野生型の放線菌H+-PPaseと全く同じアミノ酸配列をコードしているにも関わらず、分子生物学的手法を用いるのに適しており、また非常に良好な大腸菌発現系の構築を可能にするという優れた特性を有している。
また、本発明における上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子を用いた放線菌H+-PPaseの大腸菌
発現系は、大腸菌膜内において野生型の放線菌H+-PPaseの発現を可能にする。
また、本発明における上記発現系からの大腸菌膜の調製方法は、酵素活性を保持した状態の放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜の調製を可能にする。
また、本発明における上記放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜からの放線菌H+-PPaseの可溶化・部分精製方法は、酵素活性を保持した状態の放線菌H+-PPaseの部分精製を可能にする。
また、本発明における上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子を用いた放線菌H+-PPaseの大腸菌
発現系は、大腸菌膜内において野生型の放線菌H+-PPaseの発現を可能にする。
また、本発明における上記発現系からの大腸菌膜の調製方法は、酵素活性を保持した状態の放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜の調製を可能にする。
また、本発明における上記放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜からの放線菌H+-PPaseの可溶化・部分精製方法は、酵素活性を保持した状態の放線菌H+-PPaseの部分精製を可能にする。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
本実施の形態1では、我々が開発した放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜試料および可溶化済み放線菌H+-PPaseおよび部分精製済み放線菌H+-PPaseの調製方法についての全体的な流れについて図2を用いて説明する。
まず、我々が開発した改良型放線菌H+-PPase遺伝子(詳細は実施の形態2)を持つプラスミドを作成する(詳細は実施の形態3)。次に、このプラスミドを宿主大腸菌に形質転換した形質転換株を作成し、これを液体培養する(詳細は実施の形態4)。ここで得られる液体培養液中には、大量に放線菌H+-PPaseが発現された形質転換株が存在する。本特許では、ここまでの一連の過程を「放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系」と定義づける。次に、上記培養液から上記形質転換株の菌体を回収し、これより放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜試料を調製する(詳細は実施の形態5)。さらにこの大腸菌膜試料を可溶化処理することで可溶化済み放線菌H+-PPaseを得ることができ(詳細は実施の形態6)、またこの可溶化済み放線菌H+-PPaseから部分精製済み放線菌H+-PPaseを得る(詳細は実施の形態7)。
以上、各過程の詳細については実施の形態2から7に記す。
(実施の形態2)
本発明の改良型放線菌H+-PPase遺伝子配列は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子の配列について、アミノ酸配列が変わらないことを条件として、大腸菌にとってのレアコドンを他のコドンに置き換えた配列である。このように改変した改良型放線菌H+-PPase遺伝子は大腸菌内においてプラスミド上で安定して存在することができ、また、その形質転換株の生育は通常と変わらない。そしてこの大腸菌内において発現される放線菌H+-PPaseの活性は維持されている。
本実施の形態2では、我々が開発した改良型放線菌H+-PPase遺伝子について図3(配列表2)を用いて説明する。配列表2(図3)には我々が開発した改良型放線菌H+-PPase遺伝子の全塩基配列が記されている。最初の三塩基のATGが開始コドンであり、最後の三塩基のTAAが終止コドンである。この改良型放線菌H+-PPase遺伝子は野生型のものと同じく全2385塩基からなり、またその塩基配列より得られるアミノ酸配列についても野生型のそれと全く同じである。しかしその具体的な塩基配列は野生型放線菌H+-PPase遺伝子とは大きく異なる。具体的にはまず、野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られる大腸菌のレアコドンが、アミノ酸が変換しないように以下のとおりに置換されている。すなわちCUAが、CUU、CUC、CUG、UUA、UUGのいずれかに置換されている。またAUAが、AUU、AUC、AUGのいずれかに置換されている。またCCCが、CCU、CCA、CCGのいずれかに置換されている。またCGAが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。CGGが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。またAGAが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。またAGGが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。このような置換がなされた改良型放線菌H+-PPase遺伝子を用いて構築したプラスミド(詳細は実施の形態3参照)は大腸菌発現系においても安定して存在し得、その形質転換株の生育もまた良好に行われる。また、上記の置換がすべて行われている改良型放線菌H+-PPase遺伝子がもっとも効率的な大腸菌発現系を構築できるが、仮に上記置換の一部だけがなされた改良型放線菌H+-PPase遺伝子についても野生型放線菌H+-PPase遺伝子よりはるかに効率的な大腸菌発現系を構築できる。つまり上記CUA置換、AUA置換、CCC置換、CGA置換、CGG置換、AGA置換、AGG置換のうち、例えばAUA置換しただけの場合においても、野生型放線菌H+-PPase遺伝子より効率的な大腸菌発現系を構築できる。またさらに言えば、上記のようにAUA置換のみを施す場合において、野生型放線菌H+-PPase遺伝子内の全て
のAUAを置換するのではなくその一部だけを置換した場合においても効果は得られる。
また本実施形態2の改良型放線菌H+-PPase遺伝子においては、アミノ酸配列が変わらないことを前提にして、GC含量が少なく、かつGGGGGあるいはCCCCCCなどの同一塩基の連続がないようにしている。つまりG塩基は5個以上連続しないのがよい。C塩基の場合は、6個以上連続しないのがよく、より望ましくは5個以上連続しないのがよい。そのため本実施形態2の改良型放線菌H+-PPase遺伝子のGC含量は54%となっており、このことはPCRなどの分子生物学的手法を用いるという面において非常に有利である。
またさらに本実施形態2の改良型放線菌H+-PPase遺伝子においては、やはりアミノ酸配列が変わらないことを前提にして、野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られる制限酵素サイトが制限酵素サイトとならないように改変されている。このような改変もまたPCRなどの分子生物学的手法を用いるという面において非常に有利である。
上記CUA、AUA、CCC、CGA、CGG、AGA、AGGのコドン置換することによって得られる改良型放線菌H+-PPase遺伝子は、非常に良好な大腸菌発現系の構築を可能にするという優れた特性を有している。また一方、上記GC含量や同一塩基の連続配列や、制限酵素サイトについての改変は、PCRなどの分子生物学的手法を用いるという面において効果を発揮する。したがって、目的に応じてこれらの遺伝子改変を組み合わせてもよいし、あるいは独立して使うことも可能である。
またこのような改良型放線菌H+-PPase遺伝子を合成することは以下のような方法によって可能である。すなわち、例えば前後が少しずつ重複するように設計された約80塩基程度のオリゴDNA(約30種類程度)を合成し、PCRを繰り返しながらこれらを少しずつつなげることで目的の改良型放線菌H+-PPase遺伝子を合成できる。
(実施の形態3)
本実施の形態3では、我々が構築した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系に用いられるプラスミドの特徴について図4を用いて説明する。図4に示すように、本プラスミド上には少なくとも実施の形態2において示した改良型放線菌H+-PPase遺伝子、およびその上流にこの改良型放線菌H+-PPase遺伝子の転写開始のためのプロモーター領域、その下流にこの改良型放線菌H+-PPase遺伝子の転写終了のためのターミネーター領域、および複製起点、および薬剤耐性遺伝子が存在する必要がある。
ここでプロモーター領域に関しては特にその種類について限定はされず、本プラスミドによる形質転換株内において上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子が良好に発現されるものであればよい。すなわち上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子の発現が良好に行われるのであれば、例えば放線菌H+-PPase本来のプロモーターでもよいし、あるいは他の生物種やウィルス由来のもの、あるいはそれらを人工的に改変したものでもよい。しかしそれらの中においてT7プロモーターは特に強力に転写を促進することが知られており、本プラスミドにおいてもT7プロモーターを用いることがより好ましい。また薬剤耐性遺伝子についても特にその種類に限定はなく、例えば従来知られているアンピシリン耐性遺伝子やカナマイシン耐性遺伝子やテトラサイクリン遺伝子やクロラムフェニコール耐性遺伝子などの中から、用いる宿主大腸菌の性質等に応じて好ましいものを選択すればよい。また複製起点においても、例えば従来知られているpUC oriやColE1 oriなどの中より、用いる宿主大腸菌内において本プラスミドの複製が良好に行われるものを選択すればよく、特にその種類に限定されることはない。
ところで本プラスミド上においては必要に応じて転写制御領域を導入してもよい。例えばプロモーター領域直後においてlacオペレーター配列を挿入すれば、lacリプレッサーおよびIPTGによる上記改良型H+-PPase遺伝子の転写抑制および促進の制御が可能となりより好ましい。またさらに必要に応じて、上記改良型H+-PPaseのN末端、あるいはC末端、あるいはその内部において、ある種の機能を有するタグが付与されるようなタグ配列を本プラスミドに導入してもよい。例えば、T7・Tag配列を導入すればT7・Tag抗体を介した上記改良型H+-PPaseのウエスタンブロットによる発現解析や精製が可能となるし、あるいはHis・Tag配列を導入すればHis・Tagを介した上記改良型H+-PPaseの簡易な精製が可能となり、より好ましい。事実,T7・TagあるいはHis・Tagを付加した場合であってもH+-PPase活性を
減ずることはない。これら以外にもS・TagやTrx・Tag、Dsb・Tag等、さまざまな種類のタグ配列が存在するが、それらについても必要に応じて本プラスミド上において導入することが可能である。さらにここに示した転写制御領域やタグ配列以外の塩基配列においても、宿主大腸菌内における本プラスミドの複製や、本プラスミドからの上記改良型H+-PPase遺伝子の発現を大きく阻害するものでなければ、本プラスミドに導入しても構わない。
(実施の形態4)
本実施の形態4では、我々が構築した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系に用いる形質転換株および上記発現系について図5を用いて説明する。
まず本実施の形態4の形質転換株は、図5に示すように、実施の形態3で示した特徴を持つプラスミドを大腸菌株に導入したものであり、このとき用いられる宿主大腸菌は、上記プラスミドを正常に保持でき、かつ上記プラスミド上に存在する改良型H+-PPase遺伝子の発現を大きく阻害するものでなければその種類は限定されない。またこの際例えば、いわゆるpET System( HYPERLINK "http://www.emdbiosciences.com/docs/NDIS/C183-001.PDF" http://www.emdbiosciences.com/docs/NDIS/C183-001.PDF)を構築可能な宿主細胞とプラスミド構成の組み合わせにするとより好ましい。このような方法を用いると、後述するように通常の培養状態では形質転換株内の放線菌H+-PPaseの発現は抑制されているが、所望のタイミングで培養液中にIPTGを添加することで放線菌H+-PPase大量発現の誘導が可能になるからである。
次に、この形質転換株を用いた上記発現系について説明する。すなわちまず、上記形質転換株を液体培養する。ここで用いられる培養液は上記形質転換株を良好に生育させるものであれば特にその種類に限定されないが、その中においてもSB培地(1.2% Tryptone peptone, 2.4% yeast extract, 0.5% glycerol, 0.38% KH2PO4, 1.25% K2HPO4)やLB培地がより好ましい。また必要に応じて適当な薬剤を用いてもよい。またこの際、上述のようにpET Systemを用いる場合は、培養中における培養液のOD660値が0.5-0.9、より好ましくは0.6-0.8のときに適量のIPTGを加え、その後しばらく培養を続ければよい。
以上のようにして得られた培養液中の形質転換株内においては、放線菌H+-PPaseが大量に発現されている。
(実施の形態5)
本実施の形態5では、我々が構築した放線菌H+-PPaseを含む膜試料調製方法について図6を用いて説明する。
図6を用いてより詳細に説明する。すなわち、まず実施の形態4から得られる培養液から遠心によって菌体を回収する。次にこの回収済み菌体を抽出バッファー(図6参照)により再懸濁後、lysozyme とDNaseIを加えて氷中にしばらく保存する。その後、この懸濁液中の細胞を破砕する。このときの破砕方法は特に限定されないが、効率等の観点から超音波処理による破砕が好ましい。このような破砕処理後、破砕されなかった細胞を遠心処理によって除き、その後、超遠心によって膜画分を回収する。そしてこの膜画分を保存用バッファー(図6参照)に懸濁し膜試料とする。
上記の方法から得られた膜試料は、酵素活性を保った放線菌H+-PPaseを有する大腸菌膜試料である。
(実施の形態6)
本実施の形態6では、我々が構築した可溶化済み放線菌H+-PPaseの調製方法について図7を用いて説明する。
以下の操作はすべて4℃もしくは氷中で行う。まず実施の形態5で得られる膜試料と界面活性剤3-[(3-cholamidopropyl)dimethylammonio] propanesulfonic acid(以下 CHAPSとする)をそれぞれ終濃度が2mg/mlおよび2%となるように混合し、30分間ゆるやかに攪拌した後、超音波処理を行う。次に、この超音波処理済み試料について超遠心を行い、可溶化タンパク質を含む上清を回収し、これをH+-PPase可溶化画分とする。
(実施の形態7)
本実施の形態7では、我々が構築した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系からの放線菌H+-PPaseの部分精製方法について図8を用いて説明する。
以下の操作はすべて4℃もしくは氷中で行う。まず実施の形態6で得られるH+-PPase可溶化画分についてショ糖密度勾配遠心法による処理を行い、複数のフラクションに分け回収する。そして、上記各フラクション試料について、タンパク質定量、PPi加水分解活性測定、イムノブロットを行い、 PPi加水分解活性ピーク付近の試料を回収・混合し、部分精製放線菌H+-PPaseフラクションとする。
以上の方法により、実施の形態5で得られる膜試料の場合よりも高い酵素活性を保った放線菌H+-PPaseの部分精製試料を得ることができる。
(実施の形態1)
本実施の形態1では、我々が開発した放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜試料および可溶化済み放線菌H+-PPaseおよび部分精製済み放線菌H+-PPaseの調製方法についての全体的な流れについて図2を用いて説明する。
まず、我々が開発した改良型放線菌H+-PPase遺伝子(詳細は実施の形態2)を持つプラスミドを作成する(詳細は実施の形態3)。次に、このプラスミドを宿主大腸菌に形質転換した形質転換株を作成し、これを液体培養する(詳細は実施の形態4)。ここで得られる液体培養液中には、大量に放線菌H+-PPaseが発現された形質転換株が存在する。本特許では、ここまでの一連の過程を「放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系」と定義づける。次に、上記培養液から上記形質転換株の菌体を回収し、これより放線菌H+-PPaseを含む大腸菌膜試料を調製する(詳細は実施の形態5)。さらにこの大腸菌膜試料を可溶化処理することで可溶化済み放線菌H+-PPaseを得ることができ(詳細は実施の形態6)、またこの可溶化済み放線菌H+-PPaseから部分精製済み放線菌H+-PPaseを得る(詳細は実施の形態7)。
以上、各過程の詳細については実施の形態2から7に記す。
(実施の形態2)
本発明の改良型放線菌H+-PPase遺伝子配列は、野生型放線菌H+-PPase遺伝子の配列について、アミノ酸配列が変わらないことを条件として、大腸菌にとってのレアコドンを他のコドンに置き換えた配列である。このように改変した改良型放線菌H+-PPase遺伝子は大腸菌内においてプラスミド上で安定して存在することができ、また、その形質転換株の生育は通常と変わらない。そしてこの大腸菌内において発現される放線菌H+-PPaseの活性は維持されている。
本実施の形態2では、我々が開発した改良型放線菌H+-PPase遺伝子について図3(配列表2)を用いて説明する。配列表2(図3)には我々が開発した改良型放線菌H+-PPase遺伝子の全塩基配列が記されている。最初の三塩基のATGが開始コドンであり、最後の三塩基のTAAが終止コドンである。この改良型放線菌H+-PPase遺伝子は野生型のものと同じく全2385塩基からなり、またその塩基配列より得られるアミノ酸配列についても野生型のそれと全く同じである。しかしその具体的な塩基配列は野生型放線菌H+-PPase遺伝子とは大きく異なる。具体的にはまず、野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られる大腸菌のレアコドンが、アミノ酸が変換しないように以下のとおりに置換されている。すなわちCUAが、CUU、CUC、CUG、UUA、UUGのいずれかに置換されている。またAUAが、AUU、AUC、AUGのいずれかに置換されている。またCCCが、CCU、CCA、CCGのいずれかに置換されている。またCGAが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。CGGが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。またAGAが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。またAGGが、CGU、CGCのいずれかに置換されている。このような置換がなされた改良型放線菌H+-PPase遺伝子を用いて構築したプラスミド(詳細は実施の形態3参照)は大腸菌発現系においても安定して存在し得、その形質転換株の生育もまた良好に行われる。また、上記の置換がすべて行われている改良型放線菌H+-PPase遺伝子がもっとも効率的な大腸菌発現系を構築できるが、仮に上記置換の一部だけがなされた改良型放線菌H+-PPase遺伝子についても野生型放線菌H+-PPase遺伝子よりはるかに効率的な大腸菌発現系を構築できる。つまり上記CUA置換、AUA置換、CCC置換、CGA置換、CGG置換、AGA置換、AGG置換のうち、例えばAUA置換しただけの場合においても、野生型放線菌H+-PPase遺伝子より効率的な大腸菌発現系を構築できる。またさらに言えば、上記のようにAUA置換のみを施す場合において、野生型放線菌H+-PPase遺伝子内の全て
のAUAを置換するのではなくその一部だけを置換した場合においても効果は得られる。
また本実施形態2の改良型放線菌H+-PPase遺伝子においては、アミノ酸配列が変わらないことを前提にして、GC含量が少なく、かつGGGGGあるいはCCCCCCなどの同一塩基の連続がないようにしている。つまりG塩基は5個以上連続しないのがよい。C塩基の場合は、6個以上連続しないのがよく、より望ましくは5個以上連続しないのがよい。そのため本実施形態2の改良型放線菌H+-PPase遺伝子のGC含量は54%となっており、このことはPCRなどの分子生物学的手法を用いるという面において非常に有利である。
またさらに本実施形態2の改良型放線菌H+-PPase遺伝子においては、やはりアミノ酸配列が変わらないことを前提にして、野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られる制限酵素サイトが制限酵素サイトとならないように改変されている。このような改変もまたPCRなどの分子生物学的手法を用いるという面において非常に有利である。
上記CUA、AUA、CCC、CGA、CGG、AGA、AGGのコドン置換することによって得られる改良型放線菌H+-PPase遺伝子は、非常に良好な大腸菌発現系の構築を可能にするという優れた特性を有している。また一方、上記GC含量や同一塩基の連続配列や、制限酵素サイトについての改変は、PCRなどの分子生物学的手法を用いるという面において効果を発揮する。したがって、目的に応じてこれらの遺伝子改変を組み合わせてもよいし、あるいは独立して使うことも可能である。
またこのような改良型放線菌H+-PPase遺伝子を合成することは以下のような方法によって可能である。すなわち、例えば前後が少しずつ重複するように設計された約80塩基程度のオリゴDNA(約30種類程度)を合成し、PCRを繰り返しながらこれらを少しずつつなげることで目的の改良型放線菌H+-PPase遺伝子を合成できる。
(実施の形態3)
本実施の形態3では、我々が構築した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系に用いられるプラスミドの特徴について図4を用いて説明する。図4に示すように、本プラスミド上には少なくとも実施の形態2において示した改良型放線菌H+-PPase遺伝子、およびその上流にこの改良型放線菌H+-PPase遺伝子の転写開始のためのプロモーター領域、その下流にこの改良型放線菌H+-PPase遺伝子の転写終了のためのターミネーター領域、および複製起点、および薬剤耐性遺伝子が存在する必要がある。
ここでプロモーター領域に関しては特にその種類について限定はされず、本プラスミドによる形質転換株内において上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子が良好に発現されるものであればよい。すなわち上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子の発現が良好に行われるのであれば、例えば放線菌H+-PPase本来のプロモーターでもよいし、あるいは他の生物種やウィルス由来のもの、あるいはそれらを人工的に改変したものでもよい。しかしそれらの中においてT7プロモーターは特に強力に転写を促進することが知られており、本プラスミドにおいてもT7プロモーターを用いることがより好ましい。また薬剤耐性遺伝子についても特にその種類に限定はなく、例えば従来知られているアンピシリン耐性遺伝子やカナマイシン耐性遺伝子やテトラサイクリン遺伝子やクロラムフェニコール耐性遺伝子などの中から、用いる宿主大腸菌の性質等に応じて好ましいものを選択すればよい。また複製起点においても、例えば従来知られているpUC oriやColE1 oriなどの中より、用いる宿主大腸菌内において本プラスミドの複製が良好に行われるものを選択すればよく、特にその種類に限定されることはない。
ところで本プラスミド上においては必要に応じて転写制御領域を導入してもよい。例えばプロモーター領域直後においてlacオペレーター配列を挿入すれば、lacリプレッサーおよびIPTGによる上記改良型H+-PPase遺伝子の転写抑制および促進の制御が可能となりより好ましい。またさらに必要に応じて、上記改良型H+-PPaseのN末端、あるいはC末端、あるいはその内部において、ある種の機能を有するタグが付与されるようなタグ配列を本プラスミドに導入してもよい。例えば、T7・Tag配列を導入すればT7・Tag抗体を介した上記改良型H+-PPaseのウエスタンブロットによる発現解析や精製が可能となるし、あるいはHis・Tag配列を導入すればHis・Tagを介した上記改良型H+-PPaseの簡易な精製が可能となり、より好ましい。事実,T7・TagあるいはHis・Tagを付加した場合であってもH+-PPase活性を
減ずることはない。これら以外にもS・TagやTrx・Tag、Dsb・Tag等、さまざまな種類のタグ配列が存在するが、それらについても必要に応じて本プラスミド上において導入することが可能である。さらにここに示した転写制御領域やタグ配列以外の塩基配列においても、宿主大腸菌内における本プラスミドの複製や、本プラスミドからの上記改良型H+-PPase遺伝子の発現を大きく阻害するものでなければ、本プラスミドに導入しても構わない。
(実施の形態4)
本実施の形態4では、我々が構築した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系に用いる形質転換株および上記発現系について図5を用いて説明する。
まず本実施の形態4の形質転換株は、図5に示すように、実施の形態3で示した特徴を持つプラスミドを大腸菌株に導入したものであり、このとき用いられる宿主大腸菌は、上記プラスミドを正常に保持でき、かつ上記プラスミド上に存在する改良型H+-PPase遺伝子の発現を大きく阻害するものでなければその種類は限定されない。またこの際例えば、いわゆるpET System( HYPERLINK "http://www.emdbiosciences.com/docs/NDIS/C183-001.PDF" http://www.emdbiosciences.com/docs/NDIS/C183-001.PDF)を構築可能な宿主細胞とプラスミド構成の組み合わせにするとより好ましい。このような方法を用いると、後述するように通常の培養状態では形質転換株内の放線菌H+-PPaseの発現は抑制されているが、所望のタイミングで培養液中にIPTGを添加することで放線菌H+-PPase大量発現の誘導が可能になるからである。
次に、この形質転換株を用いた上記発現系について説明する。すなわちまず、上記形質転換株を液体培養する。ここで用いられる培養液は上記形質転換株を良好に生育させるものであれば特にその種類に限定されないが、その中においてもSB培地(1.2% Tryptone peptone, 2.4% yeast extract, 0.5% glycerol, 0.38% KH2PO4, 1.25% K2HPO4)やLB培地がより好ましい。また必要に応じて適当な薬剤を用いてもよい。またこの際、上述のようにpET Systemを用いる場合は、培養中における培養液のOD660値が0.5-0.9、より好ましくは0.6-0.8のときに適量のIPTGを加え、その後しばらく培養を続ければよい。
以上のようにして得られた培養液中の形質転換株内においては、放線菌H+-PPaseが大量に発現されている。
(実施の形態5)
本実施の形態5では、我々が構築した放線菌H+-PPaseを含む膜試料調製方法について図6を用いて説明する。
図6を用いてより詳細に説明する。すなわち、まず実施の形態4から得られる培養液から遠心によって菌体を回収する。次にこの回収済み菌体を抽出バッファー(図6参照)により再懸濁後、lysozyme とDNaseIを加えて氷中にしばらく保存する。その後、この懸濁液中の細胞を破砕する。このときの破砕方法は特に限定されないが、効率等の観点から超音波処理による破砕が好ましい。このような破砕処理後、破砕されなかった細胞を遠心処理によって除き、その後、超遠心によって膜画分を回収する。そしてこの膜画分を保存用バッファー(図6参照)に懸濁し膜試料とする。
上記の方法から得られた膜試料は、酵素活性を保った放線菌H+-PPaseを有する大腸菌膜試料である。
(実施の形態6)
本実施の形態6では、我々が構築した可溶化済み放線菌H+-PPaseの調製方法について図7を用いて説明する。
以下の操作はすべて4℃もしくは氷中で行う。まず実施の形態5で得られる膜試料と界面活性剤3-[(3-cholamidopropyl)dimethylammonio] propanesulfonic acid(以下 CHAPSとする)をそれぞれ終濃度が2mg/mlおよび2%となるように混合し、30分間ゆるやかに攪拌した後、超音波処理を行う。次に、この超音波処理済み試料について超遠心を行い、可溶化タンパク質を含む上清を回収し、これをH+-PPase可溶化画分とする。
(実施の形態7)
本実施の形態7では、我々が構築した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系からの放線菌H+-PPaseの部分精製方法について図8を用いて説明する。
以下の操作はすべて4℃もしくは氷中で行う。まず実施の形態6で得られるH+-PPase可溶化画分についてショ糖密度勾配遠心法による処理を行い、複数のフラクションに分け回収する。そして、上記各フラクション試料について、タンパク質定量、PPi加水分解活性測定、イムノブロットを行い、 PPi加水分解活性ピーク付近の試料を回収・混合し、部分精製放線菌H+-PPaseフラクションとする。
以上の方法により、実施の形態5で得られる膜試料の場合よりも高い酵素活性を保った放線菌H+-PPaseの部分精製試料を得ることができる。
(実施例1)
本実施例1では、我々が開発した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系から得られる大腸菌膜試料について、その膜調製結果および酵素活性解析結果について報告する。
まず我々は、図9に示す配列からなる二本鎖DNA(図9にはプラス鎖のみを示す)をpET23b(+)(Novagen社製)のNde I-Xho I部位に組み込み、図10に模式的に示すようなプラスミドを構築した(矢印の向きはプラス鎖の向きが一致している)。次に、このプラスミドをBL21(DE3)pLysS株(Novagen社製)に形質転換した後、この形質転換株より図11に示すフローチャートに従って膜試料を調製した。この膜試料についてイムノブロット法を用いて放線菌H+-PPaseの発現を解析した結果を図12に示す。放線菌H+-PPaseは794個のアミノ酸からなる約80kDaの分子であることから、図12より上記膜試料中において放線菌H+-PPaseが発現されていることが確認された。
次に我々は、上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseのPPi加水分解活性について解析を行った。解析方法は図13に示すフローチャートに従った。その結果、約200nmol Pi/min/mg proteinの活性値を示すことが分かった。すなわち、この結果より上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseがPPi加水分解活性を有することが確認された。
最後に我々は、上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseのH+ポンプ活性について解析を行った。解析方法は図14に示すフローチャートに従った。その結果、明らかな蛍光消光が確認された。これより、上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseがH+ポンプ活性を有することが確認された。
以上の結果より、我々が開発した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系から得られる大腸菌膜内には放線菌H+-PPaseが発現されており、かつこのH+-PPaseはPPi加水分解活性およびH+ポンプ活性のいずれをも保持していることが確認された。
(実施例2)
本実施例2では、実施例1で得られた膜試料より放線菌H+-PPaseの可溶化および部分精製を行った後、そのPPi加水分解活性について解析した。すなわちまず我々は、実施例1で得られた膜試料について、図15に示すフローチャートに従って放線菌H+-PPaseの可溶化および部分精製を行った。そしてこれより得られた部分精製放線菌H+-PPaseフラクションについて実施例1同様にイムノブロット法による解析を行った結果、約80kDaの位置にバンドが検出され、このフラクション中に放線菌H+-PPaseが含まれていることが確認された。
次に我々は、得られた部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中に含まれる放線菌H+-PPaseのPPi加水分解活性について解析を行った。解析方法は実施例1同様である。その結果、約300nmol Pi/min/mg proteinの活性値を示すことが分かった。これより、上記部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中に含まれる放線菌H+-PPaseがPPi加水分解活性を有することが確認された。
以上の結果より、我々が開発した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系およびそれを用いた放線菌H+-PPaseの部分精製方法から得られる部分精製放線菌H+-PPaseは、PPi加水分解活性を保持していることが確認された。
(実施例3)
本実施例3では、実施例1で得られた膜試料および実施例2で得られた部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中の放線菌H+-PPaseの酵素活性におけるpH依存性について解析を行った。すなわち、図13の方法に準じてpH 5.5-11.0の範囲において活性測定を行った。その結
果を図16に示す。図16では、Bricine-NaOH(pH 8)の際の活性を100%として表している。この結果より、膜試料中の放線菌H+-PPaseについてはpH 8付近に活性ピークが存在するのに対し、部分精製放線菌H+-PPaseフラクションについてはpH 8-10の広い範囲において高い活性が認められることが分かった。すなわち、実施例1および2の結果と本実施例3の結果を踏まえると、部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中の放線菌H+-PPaseの酵素活性は膜試料中のものより大きく、かつ安定していると考えられる。このような結果の要因としては、部分精製放線菌H+-PPaseフラクション調製の際に用いた界面活性剤CHAPSによるところが大きいと考えられる。すなわちCHAPSは、Trion系の界面活性剤と異なり、大きなステロイド骨格を持つことが大きな特徴である。ステロイドは脂質の代表的なものであるため、CHAPSにより可溶化することは同時に脂質を含む環境を作り出していることになると言える。また、CHAPSのステロイド骨格に結合した側鎖は直鎖ではなく分岐しており、さらにいくつかの官能基が付加しているため、疎水的な性質を持っている放線菌H+-PPase分子の基質結合部位につながる重要なαへリックスを含めた
膜貫通ドメイン間に入り込んで阻害的作用を及ぼすようなことはないと考えられる。以上のことから、CHAPSによって可溶化された放線菌H+-PPaseはステロイドの性質により分子構造が安定化され、活性を発揮しやすい状態で保たれていると推測される。
本実施例1では、我々が開発した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系から得られる大腸菌膜試料について、その膜調製結果および酵素活性解析結果について報告する。
まず我々は、図9に示す配列からなる二本鎖DNA(図9にはプラス鎖のみを示す)をpET23b(+)(Novagen社製)のNde I-Xho I部位に組み込み、図10に模式的に示すようなプラスミドを構築した(矢印の向きはプラス鎖の向きが一致している)。次に、このプラスミドをBL21(DE3)pLysS株(Novagen社製)に形質転換した後、この形質転換株より図11に示すフローチャートに従って膜試料を調製した。この膜試料についてイムノブロット法を用いて放線菌H+-PPaseの発現を解析した結果を図12に示す。放線菌H+-PPaseは794個のアミノ酸からなる約80kDaの分子であることから、図12より上記膜試料中において放線菌H+-PPaseが発現されていることが確認された。
次に我々は、上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseのPPi加水分解活性について解析を行った。解析方法は図13に示すフローチャートに従った。その結果、約200nmol Pi/min/mg proteinの活性値を示すことが分かった。すなわち、この結果より上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseがPPi加水分解活性を有することが確認された。
最後に我々は、上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseのH+ポンプ活性について解析を行った。解析方法は図14に示すフローチャートに従った。その結果、明らかな蛍光消光が確認された。これより、上記膜試料中に含まれる放線菌H+-PPaseがH+ポンプ活性を有することが確認された。
以上の結果より、我々が開発した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系から得られる大腸菌膜内には放線菌H+-PPaseが発現されており、かつこのH+-PPaseはPPi加水分解活性およびH+ポンプ活性のいずれをも保持していることが確認された。
(実施例2)
本実施例2では、実施例1で得られた膜試料より放線菌H+-PPaseの可溶化および部分精製を行った後、そのPPi加水分解活性について解析した。すなわちまず我々は、実施例1で得られた膜試料について、図15に示すフローチャートに従って放線菌H+-PPaseの可溶化および部分精製を行った。そしてこれより得られた部分精製放線菌H+-PPaseフラクションについて実施例1同様にイムノブロット法による解析を行った結果、約80kDaの位置にバンドが検出され、このフラクション中に放線菌H+-PPaseが含まれていることが確認された。
次に我々は、得られた部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中に含まれる放線菌H+-PPaseのPPi加水分解活性について解析を行った。解析方法は実施例1同様である。その結果、約300nmol Pi/min/mg proteinの活性値を示すことが分かった。これより、上記部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中に含まれる放線菌H+-PPaseがPPi加水分解活性を有することが確認された。
以上の結果より、我々が開発した放線菌H+-PPaseの大腸菌発現系およびそれを用いた放線菌H+-PPaseの部分精製方法から得られる部分精製放線菌H+-PPaseは、PPi加水分解活性を保持していることが確認された。
(実施例3)
本実施例3では、実施例1で得られた膜試料および実施例2で得られた部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中の放線菌H+-PPaseの酵素活性におけるpH依存性について解析を行った。すなわち、図13の方法に準じてpH 5.5-11.0の範囲において活性測定を行った。その結
果を図16に示す。図16では、Bricine-NaOH(pH 8)の際の活性を100%として表している。この結果より、膜試料中の放線菌H+-PPaseについてはpH 8付近に活性ピークが存在するのに対し、部分精製放線菌H+-PPaseフラクションについてはpH 8-10の広い範囲において高い活性が認められることが分かった。すなわち、実施例1および2の結果と本実施例3の結果を踏まえると、部分精製放線菌H+-PPaseフラクション中の放線菌H+-PPaseの酵素活性は膜試料中のものより大きく、かつ安定していると考えられる。このような結果の要因としては、部分精製放線菌H+-PPaseフラクション調製の際に用いた界面活性剤CHAPSによるところが大きいと考えられる。すなわちCHAPSは、Trion系の界面活性剤と異なり、大きなステロイド骨格を持つことが大きな特徴である。ステロイドは脂質の代表的なものであるため、CHAPSにより可溶化することは同時に脂質を含む環境を作り出していることになると言える。また、CHAPSのステロイド骨格に結合した側鎖は直鎖ではなく分岐しており、さらにいくつかの官能基が付加しているため、疎水的な性質を持っている放線菌H+-PPase分子の基質結合部位につながる重要なαへリックスを含めた
膜貫通ドメイン間に入り込んで阻害的作用を及ぼすようなことはないと考えられる。以上のことから、CHAPSによって可溶化された放線菌H+-PPaseはステロイドの性質により分子構造が安定化され、活性を発揮しやすい状態で保たれていると推測される。
本特許において開示された発明を用いれば、放線菌のH+-PPaseを、活性を保ったままの状態で大量に得ることができる。さらに、放線菌H+-PPaseのアミノ酸を改変して高機能型酵素に改良する目的で遺伝子の塩基配列を変えることも可能である。このことは現在ほとんどの点において未解明である放線菌H+-PPaseの研究・解析を飛躍的に進めることを可能にする。その一方で、放線菌は抗生物質を初めとして生理活性物質を生産する菌が多いことから産業的に非常に重要な菌であるのだが、生理活性物質を生産する理由や、生産するまでの複雑な代謝経路の意義等、未だ解明されていない点が多い。このような背景から、放線菌においてそのH+-PPaseについて研究・解析を進めることは産業応用の面において非常に重要な意味をなすものであり、本特許において開示された発明はそれらに対して大きく貢献するものである。
またH+-PPaseは、PPiを加水分解するとともに膜内外間におけるH+輸送を行う。このような性質はPPi検出に応用できる。つまり、H+-PPaseに作用させるPPi量と、それにともなう膜内あるいは膜外のpH変化の関係を予め把握しておけば、未知濃度のPPi試料中のPPiの定量的検出が可能である。PPiは細胞内における酵素反応に深く関与していることが知られており、例えば、タンパク質の合成過程において、アミノ酸がアミノアシルアデニル酸を経由してアミノアシルtRNAを形成する反応においてPPiが生成される。従ってPPiを検出する技術は細胞状態等を解析する上で非常に重要な技術である。それ故、放線菌のH+-PPaseを、活性を保ったままの状態で大量に得ることができる本特許内容は非常に重要な技術である。
またH+-PPaseは、PPiを加水分解するとともに膜内外間におけるH+輸送を行う。このような性質はPPi検出に応用できる。つまり、H+-PPaseに作用させるPPi量と、それにともなう膜内あるいは膜外のpH変化の関係を予め把握しておけば、未知濃度のPPi試料中のPPiの定量的検出が可能である。PPiは細胞内における酵素反応に深く関与していることが知られており、例えば、タンパク質の合成過程において、アミノ酸がアミノアシルアデニル酸を経由してアミノアシルtRNAを形成する反応においてPPiが生成される。従ってPPiを検出する技術は細胞状態等を解析する上で非常に重要な技術である。それ故、放線菌のH+-PPaseを、活性を保ったままの状態で大量に得ることができる本特許内容は非常に重要な技術である。
Claims (23)
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCUAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CUU、CUC、CUG、UUA、UUGのいずれかのコドンに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAUAコドンのうち少なくとも一つ以上について、AUU、AUC、AUGのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCCCコドンのうち少なくとも一つ以上について、CCU、CCA、CCGのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCGAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるCGGコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAGAコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、上記野生型放線菌H+-PPase遺伝子内に見られるAGGコドンのうち少なくとも一つ以上について、CGU、CGCのいずれかに置換したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、コードするアミノ酸配列は変わらないようにGC含量を減らしたことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、コードするアミノ酸配列は変わらないことを第一前提として、G塩基あるいはC塩基が5つ以上連続しないように遺伝子改変を施したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 野生型放線菌H+-PPase遺伝子において、コードするアミノ酸配列は変わらないことを第一前提として、少なくとも一つ以上の制限酵素サイトについて、制限酵素サイトではないように遺伝子改変を施したことを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 配列表2(図3)に示した配列からなることを特徴とする改良型放線菌H+-PPase。
- 請求項1〜7および11のいずれかに記載の改良型放線菌H+-PPase遺伝子と、上記改良型放線菌H+-PPase遺伝子の転写開始のためのプロモーター領域と、改良型放線菌H+-PPase遺伝子の転写終了のためのターミネ−ター領域と、複製起点と、薬剤耐性遺伝子を持つことを特徴とするプラスミド
- 前記プロモーター領域がT7プロモーターであり、かつ前記ターミネ−ターがT7ターミネ−ターであることを特徴とする請求項12に記載のプラスミド。
- 請求項12および13のいずれかに記載のプラスミドが導入されていることを特徴とする大腸菌形質転換株。
- 請求項14に記載の大腸菌形質転換株において、pET Systemが構築されていることを特徴とする請求項14に記載の大腸菌形質転換株。
- 請求項14および15のいずれかに記載の大腸菌形質転換株を培養して得られることを特徴とする培養液。
- 放線菌H+-PPaseが内在している大腸菌膜。
- 請求項16に記載の培養液中の上記大腸菌形質転換株から放線菌H+-PPaseが内在している大腸菌膜を調製することを特徴とする放線菌H+-PPase内在大腸菌膜調製方法。
- 可溶化された放線菌H+-PPase。
- 請求項17に記載の放線菌H+-PPaseが内在している大腸菌膜から可溶化された放線菌H+-PPaseを調製することを特徴とする可溶化済み放線菌H+-PPase調製方法。
- 3-[(3-cholamidopropyl)dimethylammonio] propanesulfonic acidを用いて調製することを特徴とする請求項20に記載の可溶化済み放線菌H+-PPase調製方法
- 部分精製された放線菌H+-PPase
- 請求項19に記載の可溶化された放線菌H+-PPaseから部分精製することを特徴とする部分精製放線菌H+-PPase調製方法
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