JP2007209075A - 高速モータ用ロータおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鋼板を打ち抜き加工することにより形成され、かつ、磁石を内部に具備し、前記磁石を挿入する磁石挿入孔が前記ロータの円周方向に複数形成されている。前記磁石挿入孔と外周部との間、もしくは隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジ部のうち、
ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部において、前記ブリッジ部での磁石挿入孔側端面の表面粗さはRmaxで20μm以下であり、打ち抜き加工前の素材鋼板硬度は230以下であり、前記端面の鋼板硬度は270以上であり、前記端面から100μmまでの深さ領域における直径1μm以上のボイド数は100個/mm2以下である。このような高速モータ用ロータは、例えば、ブリッジ部のみにファインブランキング加工を行うことで製造することができる。
【選択図】 図3
Description
IPMモータでは、高速回転した場合、ロータに埋め込まれている磁石が大きな遠心力を受けることになり、この遠心力により磁石がロータの径方向に飛び出そうとする力が加わる。さらに、車の加減速にともないモータの回転数が大きく変動するため、応力も常に変動することとなる。このため、ロータには磁気特性以外に疲労特性に優れていることも要望されている。
打ち抜き加工における疲労特性を向上させるためには、結晶粒の細粒化が有効である。しかし、細粒化はロータ全体の鉄損を増大させるため電磁鋼板における疲労特性の改善手法としては望ましくない。
このような現状を受けて、ロータ全体の磁気特性を劣化させることなく疲労特性を改善する手法が、現在、望まれている。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、疲労特性に優れた高速モータ用ロータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
[1]鋼板を打ち抜き加工することにより形成されたモータ用ロータであって、かつ、磁石を内部に具備し、前記磁石を挿入する磁石挿入孔が前記ロータの円周方向に複数形成されたモータ用ロータにおいて、前記磁石挿入孔と外周部との間、もしくは隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジ部のうち、ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部において、前記ブリッジ部での磁石挿入孔側端面の表面粗さはRmaxで20μm以下であり、打ち抜き加工前の素材鋼板硬度は230HV以下であり、前記端面の鋼板硬度は270HV以上であり、前記端面から100μmまでの深さ領域における直径1μm以上のボイド数は100個/mm2以下であることを特徴とする高速モータ用ロータ。
[2]前記[1]において、以下の式で示される硬度上昇量が100HV以上であることを特徴とする高速モータ用ロータ。
硬度上昇量=打ち抜き加工後の前記端面の鋼板硬度−打ち抜き加工前の素材鋼板硬度
[3]前記[2]において、前記硬度上昇量はファインブランキング加工により得られることを特徴とする高速モータ用ロータ。
[4]磁石を具備し、前記磁石を挿入する磁石挿入孔が前記ロータの円周方向に複数形成されたモータ用ロータを製造するにあたり、前記磁石挿入孔と外周部との間、もしくは隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジ部のうち、ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部のみにファインブランキング加工を行うことを特徴とする高速モータ用ロータの製造方法。
[5]磁石を具備し、前記磁石を挿入する磁石挿入孔が前記ロータの円周方向に複数形成されたモータ用ロータを製造するにあたり、ロータに加工後、前記磁石挿入孔と外周部との間、もしくは隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジ部のうち、ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部端面に垂直方向に塑性変形を加えることを特徴とする高速モータ用ロータの製造方法。
まず、本発明における高速モータ用ロータとは、繰り返し遠心力が付与されるロータであり、素材として鋼板を用い、その鋼板を所定の形状に打ち抜き加工することにより得られる。そして、内部には、高効率化の観点から、例えば、複数の永久磁石が内部に埋め込まれている。その際、図1(a)に示すようなロータの場合、隣り合う磁石挿入孔との間に形成されるブリッジ部(A部)において、磁石に生じる遠心力に起因する応力が大きくなる。また、図1(b)に示すようなロータの場合、磁石挿入孔と外周部の間に形成されるブリッジ部(B部)において、磁石に生じる遠心力に起因する応力が大きくなる。このような部分では、繰り返し付与される遠心力により、局所的な繰り返し応力を受け、疲労破壊へと至りやすくなる。
本発明においては、上記モータ用ロータでの、ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部において、1)ブリッジ部の磁石挿入孔側端面の表面粗さはRmaxで20μm以下であり、2)打ち抜き加工前の素材鋼板硬度は230HV以下であり、3)前記端面の鋼板硬度は270HV以上であり、4)前記端面から100μmまでの深さ領域における直径1μm以上のボイドが100個/mm2以下とすることを特徴とする。これは本発明において最も重要な要件であり、このようにブリッジ部の端面粗さ、硬度、さらにはボイド数を制御することにより、磁気特性が劣化することなく疲労特性に優れた高速モータ用ロータが得られることになる。なお、本発明において、磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部について、前記図1(a)のようにブリッジ部端面が遠心力により生ずる応力方向と略並行な場合は、ブリッジ端面全体について、前記1)〜4)を満たすものとし、前記図1(b)のようにブリッジ端面が遠心力により生ずる応力方向と並行ではない場合、応力が最も高くなるブリッジ部の端面位置から、最大応力の0.7倍となる部分の端面位置までについて、前記1)〜4)を満たすものとする。
1)ブリッジ部の磁石挿入孔側端面の表面粗さはRmaxで20μm以下
平均して粗さを制御しても1カ所でもクラックが存在すればそこが起点となり疲労特性は劣化する。この点を考慮すると、平均的な粗さではなく絶対的な粗さを規定し、クラックのイニシエーションを防止することが疲労特性向上には有効と考えられる。そこで、ブリッジ部端面粗さの指標としてRmaxを選択し、ブリッジ部端面粗さと疲労強度との関係について調査した。
まず、図1(a)に示すようなロータをクリアランス5%の金型にて打ち抜き作製した。コア素材としては、Siを2.5mass%含有する板厚0.35mmの電磁鋼板を用いた。図1(a)に示すロータにおいて、遠心力に起因する応力は、隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジのうち、磁石挿入孔を分割した形状になるブリッジ部(図1中A部、板幅1.5mm)で最も大きくなる。そこで、Aの部分より図2に示す形状の疲労試験片を切り出し、打ち抜きままと、端面の表面粗さを変えての疲労試験を行った。なお、疲労試験片の端面での表面粗さは、種々の粗さのペーパー研磨を行うことで変化させた。さらに、表面粗さは図2に示すように板厚中央部および打ち抜きのパンチ側とダイス側の3箇所で板厚と直角方向に3mm測定した。パンチ側とダイス側の粗さ測定位置は、それぞれ板厚の中央から0.07mm(板厚の20%)の部分を測定した。これは、板厚の中央部から±20%の部分には打ち抜きにより引っ張り応力が強く残留しており、この部分の性状が疲労特性に影響を及ぼすと考えられるからである。また、Rmaxはそれぞれの箇所にて求め、その平均値を端面粗さとした。疲労試験は引張り-引張り、応力比0.1、周波数20Hzにて行い、107回の繰り返しにおいても破断が生じない応力振幅を疲労限とした。得られた結果を図3に示す。
端面での表面粗さ低減により疲労限が向上した理由は、ロータ端面の応力集中が低下したためと考えられる。以上よりロータブリッジ部の端面での表面粗さはRmaxで20μm以下とする。
端面での表面粗さを低減する手法としては、特に限定しないが、例えば、ファインブランキング法があげられる。ファインブランキング法はモータの打ち抜きには通常適用されていなかった。これはファインブランキングにより、鋼板端面近傍に大きな歪みが導入されるため、コア材の透磁率が著しく劣化し、それに伴い鉄損が増加するためである。これに対し、本発明においては、ロータのブリッジ部では、磁石間の磁束の渡りを防止する観点から、むしろ透磁率は低いほうが好ましく、この点からファインブランキング法はロータのブリッジ部に対しては好ましく、端面での表面粗さを低減する手法として好適に用いることができる。
次に、端面硬度と疲労強度との関係を調査した。ファインブランキング加工を行った材料の端面をサンドペーパーで研磨し、端面の硬度上昇部を取り除く量を変えることにより、硬度上昇量を変化させた材料を作製し、図3と同様の方法により疲労試験を行った。この際、硬度量(HV0.2)を調整したのち、端面を再度粗さの違うサンドペーパーで研磨することにより端面粗さRmaxが10μmと30μmの材料を作製した。
図4に端面硬度と疲労限との関係を示す。なお、ここで、硬度は板厚中央部の端面での硬度を測定した。図4より端面粗さRmaxが10μmの材料では端面硬度が270HV以上となった場合に疲労限は向上することがわかる。一方、端面の粗さRmaxが30μmの材料では、端面硬度が上昇しても疲労限の向上は比較的小さかった。これは、端面粗さが大きい場合には、疲労き裂の発生が容易であり、硬度が上昇したとしても疲労き裂のイニシエーションを抑制することができないためと考えられる。
よって、以上より、ブリッジ部端面の鋼板硬度は270HV以上とする。
ここで、打ち抜き加工前の素材鋼板の硬度が270HV以上となった場合にも疲労強度は向上すると考えられる。しかし、その場合には金型損耗が激しくなるため、打ち抜き加工前の素材鋼板の硬度は金型損耗が少ない230HV以下とする。
次に疲労特性に及ぼす材料の影響を調査するため、Si:3.0mass%を含有する鋼(tr.Al)を10チャージ溶製し、板厚0.35mmの材料を作製し、図1(a)に示すロータのブリッジ部(A部)のみにファインブランキングを適用したコアを作製した。次いで、遠心力に起因する応力が最も大きくなるブリッジ部:Aの部分より図2に示す疲労試験片を切り出し、疲労試験を行った。なお、疲労特性の測定方法、粗さ測定方法、硬度測定方法等は図3および図4と同様の方法で行った。試験片の端面粗さはRmax=14μm、端面硬度はHV=290であった。
その結果、粗さ、端面硬度が本発明の範囲内であるにもかかわらず疲労限が低下しているものが認められた。疲労限が低下しているこれらの組織を調査したところ、端面より20μm程度の深さの位置にボイドが発生しており、このボイドより疲労き裂が進展していることが明らかとなった。このようなボイドは酸化物、析出物等の界面から発生しているものと考えられる。
このようなボイドは通常の打ち抜き材においても発生しているものと考えられるが、通常の打ち抜きでは端面での表面粗さが大きいため、疲労き裂はボイドの部分よりも表面から発生することとなり、従来ではこのようなボイドの影響は問題となっていなかった。これに対し、本発明では端面での表面粗さを小さく制御するため、端面からの亀裂発生が抑制される。代わりに、内部のボイドからの疲労き裂が発生することとなる。ゆえに、疲労特性向上のためには、端面からの亀裂発生を抑制するのと併せて、内部のボイドからの疲労き裂発生を抑制する、すなわち、疲労き裂発生の原因となるボイドを低減することが重要となる。
そこで、疲労特性に及ぼすボイドの影響を調査するため、ボイド数と疲労限の関係を試験した。試験を行うにあたっては、Si:3.0mass%を含有する鋼(tr.Al)を用い、溶製時の真空脱ガスの時間を変えることにより酸化物量を変化させた板厚0.35mmの材料を作製し、得られた材料からファインブランキングにて疲労試験サンプルを作製した。ここで、ボイド数は断面研磨した試料を端面から100μmまでの深さ領域についてSEMにて400倍で20視野観察し、円相当直径が1μm以上のサイズのボイド数をカウントすることにより求めた。なお、端面から100μm(板幅の1/15)超えの領域では塑性変形が小さいためボイドは生成しておらず、ここでは端面から100μmまでの深さ領域での観察とした。また、直径1μm以上のボイドに着目した理由は、直径1μm未満のボイドの場合には、疲労き裂発生の起点とならないためである。図5に得られた結果を示す。
図5よりボイド数が100個/mm2を超えると疲労限が低下することがわかる。
以上よりブリッジ部端面から100μmまでの深さ領域における直径1μm以上のボイド数は100個/mm2以下とする。
図1(a)に示すロータをSiを2.5mass%含有する板厚0.35mmの電磁鋼板を素材として、ワイヤーカットおよびファインブランキングにて作製した。次いで、ロータにおいて遠心力に起因する応力が最も大きくなるAの部分より図2に示す疲労試験片を切り出し、疲労試験を図3と同様の方法にて行った。得られた結果を表1に示す。
なお、通常の打ち抜きにおいてもこのような打ち抜き近傍での硬度上昇は認められるが、その上昇量はファインブランキングに比べ小さく、また、端面粗さが大きくなるため、疲労強度の上昇にはあまり寄与しない。
次に、図1(a)に示すロータを、ロータ全体をファインブランキング法にて作製したモータ(ア)と、ブリッジ部(A部)のみにファインブランキング法を適用したモータ(イ)を作製した。素材としては、Si:2.5mass%含有する板厚0.35mmの電磁鋼板を用いた。遠心力に起因する応力が最も大きくなる図1中Aの部分より図2に示す疲労試験片を各々切り出し、疲労試験を行うとともに、400Hzにおける負荷時のモータ効率も測定した。なお、疲労試験は図3と同様の方法により行い、3相8極、インバータ周波数400Hz、キャリア周波数20kHzのモデルモータを作製し、そのモータ効率を測定した。得られた結果を表2に示す。
硬度上昇量=打ち抜き加工後の前記ブリッジ部端面の鋼板硬度−打ち抜き加工前の素材鋼板硬度
また、ロータブリッジ部端面の粗さを低減し硬度を上昇させるには、端面の垂直方向に塑性変形を加えることも効果的である。
上記を確認するため、図1(a)に示すロータをクリアランス5%の金型にて打ち抜き、打ち抜き後、ブリッジ部の打ち抜き端面に垂直に塑性変形が加わるようにプレス加工を施した。ロータにおいて遠心力に起因する応力が最も大きくなる図1(a)中Aの部分より図2に示す疲労試験片を切り出し、打ち抜きままと、プレス加工を施した材料を用いて疲労試験を行った。疲労試験は引張り-引張り、応力比0.1、周波数20Hzにて行い、107回の繰り返しにおいても破断が生じない応力振幅を疲労限とした。得られた結果を表3に示す。
素材硬度は、打ち抜き前の材料断面を研磨し、200gの圧子を押し込むことによりビッカース硬度を求めた(HV0.2)。
端面硬度は、打ち抜き後の端面を凹凸が無くなるまで研磨した後、200gの圧子を押し込むことによりビッカース硬度を求めた(HV0.2)。
ロータのA部より疲労試験片を切り出し、引張り-引張り、応力比0.1、周波数20Hzにて疲労試験を行った。107回で疲労破壊が生じないの応力振幅を疲労限とした。
表面粗さは板厚中央部および中央から板厚の20%の部分を板厚と直角方向に測定し、そのRmaxの平均値とした。
打ち抜き回数は各種手法で打ち抜いた際に、バリが50μm以下となる回数とした。
得られた結果を成分と併せて表4に示す。
Claims (5)
- 鋼板を打ち抜き加工することにより形成されたモータ用ロータであって、かつ、磁石を内部に具備し、前記磁石を挿入する磁石挿入孔が前記ロータの円周方向に複数形成されたモータ用ロータにおいて、
前記磁石挿入孔と外周部との間、もしくは隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジ部のうち、
ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部において、
前記ブリッジ部での磁石挿入孔側端面の表面粗さはRmaxで20μm以下であり、
打ち抜き加工前の素材鋼板硬度は230HV以下であり、
前記端面の鋼板硬度は270HV以上であり、
前記端面から100μmまでの深さ領域における直径1μm以上のボイド数は100個/mm2以下である
ことを特徴とする高速モータ用ロータ。 - 以下の式で示される硬度上昇量が100HV以上であることを特徴とする請求項1に記載の高速モータ用ロータ。
硬度上昇量=打ち抜き加工後の前記端面の鋼板硬度−打ち抜き加工前の素材鋼板硬度 - 前記硬度上昇量はファインブランキング加工により得られることを特徴とする請求項2に記載の高速モータ用ロータ。
- 磁石を具備し、前記磁石を挿入する磁石挿入孔が前記ロータの円周方向に複数形成されたモータ用ロータを製造するにあたり、前記磁石挿入孔と外周部との間、もしくは隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジ部のうち、
ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部のみにファインブランキング加工を行うことを特徴とする高速モータ用ロータの製造方法。 - 磁石を具備し、前記磁石を挿入する磁石挿入孔が前記ロータの円周方向に複数形成されたモータ用ロータを製造するにあたり、ロータに加工後、前記磁石挿入孔と外周部との間、もしくは隣り合う磁石挿入孔間に形成されたブリッジ部のうち、
ロータ回転時に磁石に生ずる遠心力に起因した応力が最大となるブリッジ部端面に垂直方向に塑性変形を加えることを特徴とする高速モータ用ロータの製造方法。
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