JP3835137B2 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動用モータおよびスタータジェネレータなど、主として高効率モータに使用される、磁気特性および加工性に優れる無方向性電磁鋼板ならびにその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境問題がクローズアップされ、省エネルギーへの取り組みに対する要求は一段と高まってきている。これにともない、電気機器に多数使用されているモータの効率向上は極めて重要な課題となり、特に連続運転されることの多いエアコンや冷蔵庫のコンプレッサーモータに対して高効率化の要求が強い。
【0003】
自動車についてもその燃費向上が積極的に推進されており、モータを駆動力として使用する電気自動車や、モータとガソリンエンジンあるいはモータとディーゼルエンジンを駆動力として併用するハイブリッド自動車の実用化が進められている。これらに用いられるモータも、限られたエネルギーの中で最大限の走行距離を確保するために、その効率向上は極めて重要である。
【0004】
この様に、地球環境問題の解決にはモータの高効率化が不可欠であり、その設計方針、制御技術等の変化から、鉄心材料である無方向性電磁鋼板に要求される特性も、従来とは変化している。
【0005】
エアコンや冷蔵庫のモータでは、モータ効率改善のために周波数を連続的に変化させることにより回転数を制御するインバータ駆動方式が主流となってきた。また、自動車の駆動用モータに関しても、自動車の走行速度に合わせてモータの回転数を低速回転から高速回転あるいはその逆へと常に変化させる必要があり、やはりインバータ駆動方式のモータが主流となってきた。これらのモータは従来の商用周波数(50あるいは60Hz)より高周波(100〜1000Hz)でかつ非正弦波、例えばPWM(パルス幅変調波)やPAM(パルス増幅変調波)などで使用されるため、鉄心素材には非正弦波での高周波特性が求められる。
【0006】
高周波域での鉄損低減には鋼板の固有抵抗増加による渦電流損失の低減が有効であり、例えば特開平10−324957号公報に開示されている様に、多量のSiを含有した無方向性電磁鋼板が使用されている。ところがSi添加量の高い鋼板はビッカース硬度の上昇を招き、加工性が不充分であった。したがってSi添加量増加による鉄損低減は、モータ鉄心として用いるには実用面からの限界があった。
【0007】
多量のSiを含有する無方向性電磁鋼板において加工性が不充分であるとは、鉄心形状に成形する連続打ち抜き工程で金型摩耗の進行が速く、打ち抜き端面の「かえり」が大きくなりやすいことをいう。
【0008】
図1は、鋼板のビッカース硬度が打ち抜き加工性に及ぼす影響を示すグラフである。同図に示されるように、鋼板のビッカース硬度が高いと金型摩耗が著しく、1回の金型研磨当たりの、50μmを超えるような大きなかえりが生じるまでの連続打ち抜き回数が低下する。50μmを超える大きなかえりが生じると、鉄心の板厚を狂わせて占積率が低下し、素材の磁気特性がたとえ良好でもモータ性能が劣化する場合がある。
【0009】
さらに、積層した鉄心間の導通を引き起こして渦電流損を増大させ、モータ効率の低下につながる。また、金型が早く摩耗するため、金型の取り替えで連続打ち抜き作業を中止する回数が多くなり鉄心の生産効率が低下するとともに、研磨費用も増加する。
【0010】
鋼板の製造工程においても、多量のSiを含有した鋼板は脆いため、通常の工業的プロセスにおける鋼板の冷間圧延方法では割れが発生しやすいという欠点もあった。磁気特性改善には熱延板焼鈍により冷間圧延前の結晶粒径を粗大化することが有効であるが、Siを多量に含有した鋼板は結晶粒径粗大化により特に遷移温度が高くなり、磁気特性改善効果と工業生産性との両立は困難であった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術における問題点を解決するためになされたものであり、その課題は、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動用モータおよびスタータジェネレータなど、主として高効率モータの鉄心素材として必要な、優れた磁気特性と鉄心への成型工程における加工性とを兼ね備えた無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記の課題に鑑みてなされたものであり、その要旨は次のとおりである。
【0013】
[1]質量%で、C:0.005%以下、Si:1.2〜2.5%、Mn:1.0〜3.5%、S:0.01%以下、sol.Al:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、残部がFeおよび不純物からなり、
ビッカース硬度Hvが160〜220であり、固有抵抗ρとビッカース硬度Hvとが下記の式で与えられる関係を満足する無方向性電磁鋼板。
【0014】
ρ≧ 0.25×Hv+6
ここで、
ρ:固有抵抗(Ωm×10-8)、
Hv:JIS Z 2244 に準じて測定したビッカース硬度。
【0015】
[2]質量%で、C:0.005%以下、Si:1.2〜2.5%、Mn:1.0〜3.5%、S:0.01%以下、sol.Al:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、残部がFeおよび不純物からなる鋼材を用いて前記[1]に記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
下記の(a)〜(d)の工程を有する電磁鋼板の製造方法。
【0016】
(a)鋼材を1300℃以下の温度に加熱し、熱間圧延を行った後、
(b)中間焼鈍をはさまずに冷間圧延を行い、
(c)700〜1150℃の温度範囲にて仕上げ焼鈍し、
(d)有機物質または、有機物質および無機物質の混合物により鋼板の表面を被覆する。 [3]質量%で、C:0.005%以下、Si:1.2〜2.5%、Mn:1.0〜3.5%、S:0.01%以下、sol.Al:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、残部がFeおよび不純物からなる鋼材を用いて前記[1]に記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
下記の(a)〜(d)の工程を有する電磁鋼板の製造方法。
【0017】
(a)鋼材を1300℃以下の温度に加熱し、熱間圧延を行った後、
(b)中間焼鈍をはさんで2回以上の冷間圧延を行い、
(c)700〜1150℃の温度範囲にて仕上げ焼鈍し、
(d)有機物質または、有機物質および無機物質の混合物により鋼板の表面を被覆する。
[4]前記[2]または[3]に記載の電磁鋼板の製造方法において、(a)の工程と(b)の工程との間に下記の(e)の工程を有する無方向性電磁鋼板の製造方法。
(e)650〜1100℃の温度範囲にて熱延板焼鈍を行う。
【0018】
本発明者は、下記に述べるような詳細な検討およびそれに基づく知見をもとに、本発明を完成させた。
【0019】
インバータ制御されるモータの高効率化には固有抵抗の増加が有効である。固有抵抗はできる限り高い方が良いが、合金含有量の増加による硬度の増加は避けられない。鉄心へ成形工程における打ち抜き加工性は硬度に大きく影響されるため、同一の固有抵抗であっても、より硬度の低い材料が実用上好ましい。逆に同一の硬度であれば、より固有抵抗の高い方がモータの効率向上につながる。
【0020】
Bozorth:Ferromagnetism(1951)、P40に記載されているように、鉄の固有抵抗の上昇に対するSiとAlの寄与の大きさはほぼ同程度であり、MnはSiの約1/2である。これに対して、硬度上昇に対するSiの寄与は圧倒的に大きく、Al、Mnの順に小さくなる。
【0021】
本発明者らはまず、Si、sol.Al、Mnの含有量を種々変化させた鋼の固有抵抗について詳細に検討を行った。それによれば、Mn含有量の増加による固有抵抗の上昇効果は従来の知見よりも大きく、Siの場合の約60%程度であることが判明した。そこで、本発明者らはこの点に着目し、従来の技術的認識とは逆に、Si含有量の増加を極力抑え、むしろsol.Al及びMn含有量を増加させることによって磁気特性と鉄心への打ち抜き加工性の両立が可能なことを確認した。
【0022】
特に、従来あまり着目されることのなかったMnについて詳細に検討を行い、Si、Al含有鋼と同一の固有抵抗とするために、Mn含有量をSi含有量のおよそ1.7倍としても、Mn含有鋼が最も硬度が低いとの知見を得て、Mnを積極的に含有させることとした。
【0023】
冷間圧延時の破断は、鋼板の硬度のみならず靱性に起因している。硬度が同一の場合、磁気特性の改善のために冷間圧延前の粒径を粗大化させると冷間圧延母材の靱性は劣化する。本発明者らは、先の知見に基づき、鋼板の靱性について調査した結果、Siを低減し、sol.Al、Mnを積極的に含有させることにより、同一硬度であっても、母材の冷間圧延性を確保し、高温の熱延板焼鈍による磁気特性改善および工業生産性を両立できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における各構成要件について詳細に説明する。なお、本発明において、%は質量%を表す。
(A)化学組成
C:製品中に残存すると鉄損に悪影響を及ぼすので、C含有量は少ないほど好ましい。特に、C含有量が過剰の場合は、鉄心として使用中に鋼中の固溶炭素が炭化物として析出し、鉄損の悪化を生じるので、その含有量は0.005%以下とする。
【0025】
Si:含有量が増加すると鋼板の固有抵抗が上昇し、渦電流損が低下して鉄損が低減する。しかし、強度を著しく上昇させる元素であり、多量の含有は製品の打ち抜き加工性および冷間圧延母材の靱性を著しく劣化させる。そこでSi含有量は2.5%以下とする。望ましくは2.2%以下である。打ち抜き性の観点からは、Si含有量が低くても問題は無いが、材料強度確保の観点から下限は1.2%とする。この範囲内で、要求される鉄損レベルと所望の硬度に応じてSi含有量を決定する。
【0026】
sol.Al:Siとほぼ同程度の固有抵抗上昇の効果があり、渦電流損の低下により鉄損を低減する。しかも、Siと比べると含有量当たりの鋼板の強度上昇が小さいため、打ち抜き加工性と磁気特性の両立を図る上で極めて重要な元素である。Si添加量の低減による鉄損増加を補うために1.0%以上添加する必要がある。望ましくは1.2%以上である。硬度増加に対する寄与が小さいため、固有抵抗上昇による渦電流損失低減の観点からは添加量は多ければ多いほど良い。
【0027】
しかしながら、sol.Alは磁歪を増加させる元素であり、磁歪の増加はヒステリシス損失の増加につながる。この効果は3.0%を超えると特に顕著になることから、sol.Al含有量の上限は3.0%とする。好ましくは2.5%以下である。この範囲で要求される鉄損レベルと所望の硬度に応じてsol.Al量を決定する。
【0028】
Mn:固有抵抗上昇への寄与はSiのおよそ60%であるが、同一の固有抵抗とするためにSi、sol.Alのおよそ1.7倍の含有量としても鋼板の硬度上昇および靱性劣化は極くわずかである。打ち抜き加工性および冷間圧延母材の靱性と磁気特性を両立させるために極めて重要な元素である。含有量が1.0%に満たない場合は、鉄損低減の効果が不充分である。したがって、含有量の下限は1.0%とする。望ましくは1.5%である。
【0029】
3.5%以上含有させると合金コストの上昇を招くため、含有量の上限は3.5%とする。好ましくは3.0%である。
【0030】
S:析出物や介在物を形成して磁気特性を劣化させる元素であり、含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
【0031】
P:鋼板の強度を上昇させる作用があり、使用目的に応じて材料強度を確保するために積極的に添加されても良く、また、不純物として含有されていても良い。しかし、含有量が0.1%を超えると冷間圧延時に破断を引き起こすため、この値を上限とする。
【0032】
N:含有量が多いと窒化物を形成して鉄損を増加させるため、0.005%以下とするが、できるだけ少ない方がよい。
【0033】
その他の成分、例えばTi、Nb、V等は極力少ない方が鉄損が改善される。また、Sb、Sn、B、Cu、Ni等を磁気特性向上のために含有させても良い。
(B)硬度
鋼板の機械的性質の中でも、硬度の管理は高効率モータに用いられる電磁鋼板においては極めて重要である。図1に示すように、硬度がビッカース硬度Hvで220を超えると打ち抜き金型の摩耗が顕著になり、かえり高さが50μmに達するまでの打ち抜き回数が100万回以下となる。そのため、金型を研磨する必要が生じ、鉄心の生産性が大幅に低下する。
【0034】
また、摩耗した金型で打ち抜かれた鋼板はかえりが大きくなりやすく、積層した鉄心間の導通を引き起こし渦電流損を増大させ、モータの効率低下につながる。1回の研磨当たりの打ち抜き回数が100万回以上、すなわち、ビッカース硬度Hvが220以下なる条件は鉄心製造コストの観点から重要であり、本発明でもビッカース硬度の上限は220とする。
【0035】
打ち抜き性の観点からは硬度は低い程好ましいが、過度に低くなると、高速回転するロータに用いた場合には、材料強度を確保することができない。特に、永久磁石をロータ内部に埋め込んだ形式のいわゆるIPMモータに用いる場合には材料強度は極めて重要となり、硬度が160未満になると材料強度不足となる。したがって、硬度はHvで160〜220の範囲とする。望ましくは、硬度は160〜210の範囲が良い。
【0036】
なお、ビッカース硬度はJIS Z 2244に準じて試験力:9.807〜49.03N(試験荷重:1〜5kgf)の範囲で選定し、鋼板の表面にて測定すればよい。
(C)固有抵抗とビッカース硬度の関係
固有抵抗とは、鋼板自体の固有抵抗をいい、鋼板そのものの磁気特性向上のみならず、鉄心に使用した場合のモータ効率の向上にとって極めて重要である。非正弦波でかつ商用周波数以上で連続運転されることの多い、エアコン等のコンプレッサーモータでは特に重要であり、固有抵抗が小さいと商用周波数での磁気特性が良好であっても実際のモータ効率に反映されない。
【0037】
図2は固有抵抗とビッカース硬度のバランスが磁気特性と打ち抜き加工性との関係に及ぼす影響を示すグラフである。同図は、C:0.002%、P:0.02%、S:0.003%を基本成分とし、さらにSi、sol.Al、Mn含有量を種々変化させて製造した鋼板に、公知の表面被覆を0.4μmの厚さで施した0.35mmの厚さの無方向性電磁鋼板につき、調査した結果である。
【0038】
結晶粒径は、測定の結果、鋼の成分組成によらずほぼ120μmであった。これらの無方向性電磁鋼板の打ち抜き加工性を連続打ち抜き試験によって評価した。打ち抜き試験は超硬金型を用い、コア形状:縦17mm×横17mm、ストローク数:350回/分、クリアランス:5%で行い、打ち抜き油を使用して実施した。ここで、打ち抜き加工性は、打ち抜いたブランクのかえり高さが50μmを超えるまでの打ち抜き回数で評価した。
【0039】
また磁気特性は、750℃で2時間保持する歪取焼鈍後にJIS C 2550に規定された25cmエプスタイン試験枠を用い、従来の正弦波ではなく非正弦波のうちPWM(パルス幅変調)によりキャリア周波数3kHz、励磁周波数200Hz、磁束密度1.5Tのときの鉄損を測定した。
【0040】
図3は、打ち抜き加工性と磁気特性の関係を示すグラフである。
これら二つの特性を回帰分析し、下記式(1)を得た。
【0041】
W 15/200=4×10-6×N+9.3・・・(1)
ここで、
W 15/200:励磁周波数200Hz、磁束密度1.5Tのときの鉄損(W/kg)、 N:かえりが50μmを超えるまでの打ち抜き回数(回)。
【0042】
鉄損が同レベルであれば、打ち抜き回数の多い方が良好であり、打ち抜き回数が同レベルであれば鉄損の低い方が良好である。
【0043】
そこで、下記式(2)の関係を打ち抜き加工性と非正弦波での磁気特性が両立している指標とした。
【0044】
W 15/200≦4×10-6×N+9.3・・・(2)
4極の同期モータを6000rpmで高速回転する場合に200Hzの駆動周波数が必要となる。したがって、ここでは、モータの高速回転時に必要な磁気特性により評価するため、W 15/200を用いている。
【0045】
本発明者らは、C、Si、Mn、S、sol.Al、PおよびN含有量が本発明の範囲内であって、且つ、固有抵抗ρ(Ωm×10-8)とビッカース硬度Hvとが下記式(3)の関係を満足する場合に、前式(2)の指標を満たす特性が得られるとの知見を得た。
ρ≧0.25×Hv+6 ・・・・・(3)
板厚、表面被覆厚さ、打ち抜き条件によって打ち抜き回数Nは変化するため、式(1)、式(2)の係数および切片は変化する。本発明者らは式(3)の関係を満たしていれば、板厚、表面被覆厚さ、打ち抜き条件が変化しても、磁気特性と打ち抜き加工性が両立することを確認し、これを指標とした。
【0046】
鉄損低減の観点からは、さらに固有抵抗を上昇することが望ましく、ρ≧0.25×Hv+8である。より好ましくは、ρ≧0.25×Hv+10である。高周波特性が望まれる場合には、ρ≧0.25×Hv+12とするのがさらに好ましい。この範囲の中から、所望の鉄損レベルと材料強度に応じて硬度と固有抵抗を選択する。
【0047】
なお、固有抵抗は公知の方法、例えば四端子法によって測定すればよい。ここで、固有抵抗とは製品段階での鋼板自体の固有抵抗をいい、表面被覆を施す前あるいは表面被覆を除去して測定すればよい。熱延板焼鈍後、表面被覆前、表面被覆除去後の固有抵抗を調査したが値に変化はなかったため、熱延板焼鈍後の固有抵抗値を製品の固有抵抗値として使用してもよい。
【0048】
以上、固有抵抗と硬度の関係について詳細に説明した。鉄損は結晶粒径及び板厚にも影響されるが、結晶粒径、板厚が同等の条件で比較した場合、式(3)の条件を満たしていれば、打ち抜き加工性と磁気特性の両立が可能である。したがって、本発明では結晶粒径、板厚は特に規定しないが、望ましい結晶粒径の範囲は60〜200μmであり、望ましい板厚の範囲は0.1〜0.6mmである。これらの範囲内で、使用される周波数域に応じて結晶粒径、板厚を選択すればよい。
【0049】
このように、組成、硬度、固有抵抗をそれぞれ最適化した本発明の無方向性電磁鋼板をインバータ制御されるエアコン、冷蔵庫のコンプレッサーモータ、自動車の駆動用モータ、スタータジェネレータ等の自動車電装部品のモータの鉄心に使用すると、次の効果がある。
【0050】
これらのモータは大量生産が前提のモータであり、連続打ち抜き工程での金型寿命が永く、積層形状が良好なため、作業性が極めてよい。また、駆動周波数が0〜10kHz程度の範囲で変動するインバータ制御において、幅広い周波数領域で鉄損が低く、従来にもまして高いモータ効率の向上がはかられる。さらに、同程度の固有抵抗で比較した場合、従来の無方向性電磁鋼板に比較して靱性が確保されているため、冷間圧延時に破断しないという工業生産上の利点も有する。(D)圧延、焼鈍等の工程
次に、本発明にかかる電磁鋼板製造における圧延、焼鈍等の工程について説明する。
(スラブ加熱、熱間圧延)
上記鋼組成のスラブは1300℃以下の温度で加熱し通常の熱間圧延を行う。スラブ加熱温度が1300℃を超えると、鋼中のMnSが溶解し、磁気特性の劣化を招く。そこで本発明では加熱温度を1300℃以下に限定する。同様の観点から、1250℃以下であればより望ましい。
【0051】
一方、スラブ加熱温度が1000℃未満となると圧延性が低下するため、スラブ加熱温度は1000℃以上であることが望ましく、1050℃以上であればさらに望ましい。
【0052】
熱間圧延のその他の条件は、公知の条件に従えばよく、特に限定されない。
【0053】
(熱延板焼鈍、冷間圧延)
熱間圧延後、必要に応じて磁気特性改善のために熱延板焼鈍を行う。これは、冷間圧延前の結晶粒径を粗大化することによって、磁気的に好ましい集合組織を発達させるためである。650℃未満では磁気特性改善の効果が得られず、1100℃を超えるとその効果は飽和する。したがって、磁気特性改善効果を得るための熱延板焼鈍温度は650〜1100℃とする。
【0054】
冷間圧延は1回又は中間焼鈍をはさむ2回以上で行い、所望の板厚を有する鋼板とする。
【0055】
ここで、1回の冷間圧延とは、中間焼鈍をはさまずに所望の板厚まで冷間圧延することをいう。また、2回以上の冷間圧延とは、中間焼鈍をはさんで複数回の冷間圧延を行うことをいう。
【0056】
本発明で規定する範囲の鋼組成であれば、冷間圧延母材の靱性が確保されていることから、1回の冷間圧延で所望の板厚まで仕上げるのが製造コストの面からは望ましいが、目的に応じて選択すればよい。
【0057】
(仕上焼鈍)
仕上焼鈍は連続焼鈍による方法が好ましい。この焼鈍によって、硬度を160〜220とする。仕上焼鈍温度が700℃未満では、再結晶組織が十分に得られず磁気特性は不良となり、また、硬さの上昇をも招く。1150℃を超えると結晶粒が著しく粗大化し、モータ鉄心への打ち抜き加工の際に、割れを生じる場合がある。また磁気特性の面からも、結晶粒粗大化は商用周波数以上での鉄損の増加につながり、好ましくない。
【0058】
したがって、焼鈍温度は、700〜1150℃とする。焼鈍温度の望ましい範囲は800〜1150℃である。上記以外の焼鈍条件は、公知の条件に従えばよい。
【0059】
仕上焼鈍後、打ち抜き加工性を重視する用途には、鋼板表面に樹脂のみあるいは、樹脂と無機質バインダーとの混合物からなる表面被覆を施す。このような仕上焼鈍後の表面被覆については、公知の方法を採用すればよい。
【0060】
【実施例】
本発明の実施例について説明する。
表1に示されるような各種の条件にて鋼板を試作し、試験を行った。
【0061】
【表1】
【0062】
試験番号1、2、5〜14および16〜26については、その後、熱延板の焼鈍(以下「熱延板焼鈍」という。)を行った。ここで、熱延板焼鈍は、水素雰囲気中にて10時間の箱焼鈍とした。
【0063】
さらに、試験番号1、2、5〜14および試験番号16〜26については、1回の冷間圧延により、0.35mmの厚さに仕上げた。
【0064】
また、試験番号27および28については、熱延板焼鈍を行わず、且つ、1回の冷間圧延により仕上げた。
【0065】
試験番号29および30については、熱延板焼鈍を行わず、且つ、中間焼鈍をはさむ2回の冷間圧延により仕上げた。
【0066】
連続焼鈍による仕上焼鈍後、アクリル樹脂エマルジョン、クロム酸マグネシウムおよびホウ酸の混合物からなる膜厚0.4μmの表面被覆を施した。
【0067】
磁気特性については、750℃で2時間保持する歪取焼鈍後に、JIS C 2550に規定された25cmエプスタイン試験枠を用い、非正弦波のうちPWM(パルス幅変調)により、キャリア周波数が3kHz、励磁周波数が50Hzおよび200Hz、磁束密度が1.5Tのときのそれぞれの鉄損を測定した。
【0068】
表面硬さはJIS Z 2244に準じて試験力:9.807N(試験荷重:1kgf)で測定した。固有抵抗は表面被覆を除去した後、四端子法によって測定した。冷間圧延時に破断した鋼種については、熱延板焼鈍後の鋼から試験片を採取して固有抵抗を測定した。打ち抜き加工性については、連続打ち抜き試験を実施し、打ち抜き後のブランクのかえり高さが50μmを超えるまでの打ち抜き回数で評価した。なお、打ち抜き試験条件は前述のとおりである。
【0069】
これらの試験結果を表2に示した。
【0070】
【表2】
【0071】
試験番号19は、硬度と固有抵抗のバランスの点では本発明で規定する範囲内に入っているが、sol.Al含有量が高く、本発明の範囲外であることから、磁気特性が劣っている。試験番号20はSiおよびMn含有量が本発明で規定する範囲外であり、試験番号22はP含有量が本発明の範囲外であることから、冷間圧延母材の靱性を確保できず、冷間圧延時に破断した。
【0072】
試験番号21は、Si含有量が本発明で規定する範囲の下限を下まわっているため、硬度が低く、高速回転時に必要な材料強度を確保できていない。試験番号23および24は、SおよびN含有量が本発明で規定する範囲よりも高いため、硬度と固有抵抗のバランスは本発明で規定する範囲内に入っているものの、磁気特性が劣っている。
【0073】
試験番号25は、Mnおよびsol.Al含有量が本発明で規定する範囲の下限値未満であるため、硬度は適正範囲に入ってるものの、硬度と固有抵抗のバランスが悪く、磁気特性は劣っている。試験番号26は、C含有量が本発明で規定する範囲の上限を超えているため、硬度と固有抵抗のバランスは本発明で規定する範囲内に入っているものの、磁気特性は劣っている。さらに、鉄心としての使用中における磁気特性の劣化の問題をも有していた。
【0074】
一方、本発明で規定する化学組成の範囲内であれば冷延母材の靱性が確保されているため、冷間圧延時に破断することなく鋼板の固有抵抗を上昇させることができる。
同程度の固有抵抗を有する試験番号7および9(ともに本発明例)と試験番号18(本発明の範囲外)を比較すると、磁気特性は同程度であるが、試験番号7および9は硬度と固有抵抗のバランスが良好なため、打ち抜き加工性が極めて良好である。また、同程度の硬度を有する試験番号1および8(ともに本発明例)と試験番号25(本発明の範囲外)を比較すると、打ち抜き加工性は同程度であるが、試験番号1および8は硬度と固有抵抗のバランスが良好なため、特に200Hzにおける鉄損が良好である。
【0075】
このように試験番号1、2、5〜14および16は、化学組成が本発明の範囲内にあり、硬度と固有抵抗のバランスも良好なため、従来のSi含有量の高い場合(本発明の範囲外である試験番号18)と比較して、鉄心への打ち抜き加工性を維持したまま磁気特性が向上している。言いかえれば、磁気特性を維持したまま打ち抜き加工性が改善されている。
【0076】
化学組成が本発明の範囲内にあり、しかも硬度と固有抵抗のバランスが好ましい場合(試験番号1、2、5、8〜13および16)においては、特にその効果が大きい。試験番号1、2、5、10〜13および16では、試験番号18よりも固有抵抗が増加しているにもかかわらず、硬度は低減しており、磁気特性および打ち抜き加工性ともに大きく改善されていることが明らかである。
【0077】
試験番号27〜30は、熱延板焼鈍を行っていないため、熱延板焼鈍を行った場合(試験番号1および2)と比較して磁気特性は若干劣るものの、硬度と固有抵抗のバランスが良好であり、打ち抜き加工性は良好である。
【0078】
【発明の効果】
本発明の無方向性電磁鋼板は、エアコンや冷蔵庫等のインバータ制御によるコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車等のインバータ制御される自動車の駆動用モータおよびスタータジェネレータ等の自動車電装部品用モータの鉄心素材として、打ち抜き加工性に優れるとともに、鉄損が低く、モータ効率の向上に大きく寄与することができる。
【0079】
また、本発明の製造方法によれば、上記の無方向性電磁鋼板を高い工業生産性のもとに製造することができ、本発明は製品および製造方法の両面から、産業の発展に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼板のビッカース硬度が打ち抜き加工性に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】固有抵抗とビッカース硬度のバランスが磁気特性と打ち抜き加工性の関係に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】打ち抜き加工性と磁気特性の関係を示すグラフである。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.005%以下、Si:1.2〜2.5%、Mn:1.0〜3.5%、S:0.01%以下、sol.Al:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、残部がFeおよび不純物からなり、
ビッカース硬度Hvが160〜220であり、固有抵抗ρとビッカース硬度Hvとが下記の式で与えられる関係を満足する無方向性電磁鋼板。
ρ≧0.25×Hv+6
ここで、
ρ:固有抵抗(Ωm×10-8)、
Hv:JIS Z 2244に準じて測定したビッカース硬度。 - 質量%で、C:0.005%以下、Si:1.2〜2.5%、Mn:1.0〜3.5%、S:0.01%以下、sol.Al:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、残部がFeおよび不純物からなる鋼材を用いて請求項1に記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
下記の(1)〜(4)の工程を有する電磁鋼板の製造方法。
(1)鋼材を1300℃以下の温度に加熱し、熱間圧延を行った後、
(2)中間焼鈍をはさまずに冷間圧延を行い、
(3)700〜1150℃の温度範囲にて仕上げ焼鈍し、
(4)有機物質または、有機物質および無機物質の混合物により鋼板の表面を被覆する。 - 質量%で、C:0.005%以下、Si:1.2〜2.5%、Mn:1.0〜3.5%、S:0.01%以下、sol.Al:1.0〜3.0%、P:0.1%以下、N:0.005%以下、残部がFeおよび不純物からなる鋼材を用いて請求項1に記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
下記の(1)〜(4)の工程を有する電磁鋼板の製造方法。
(1)鋼材を1300℃以下の温度に加熱し、熱間圧延を行った後、
(2)中間焼鈍をはさんで2回以上の冷間圧延を行い、
(3)700〜1150℃の温度範囲にて仕上げ焼鈍し、
(4)有機物質または、有機物質および無機物質の混合物により鋼板の表面を被覆する。 - 請求項2または3に記載の電磁鋼板の製造方法において、(1)の工程と(2)の工程との間に下記の(5)の工程を有する無方向性電磁鋼板の製造方法。
(5)650〜1100℃の温度範囲にて熱延板焼鈍を行う。
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