JP2007188893A - 高分子電解質型燃料電池の運転方法 - Google Patents

高分子電解質型燃料電池の運転方法 Download PDF

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Osamu Sakai
修 酒井
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久朗 行天
Toshihiro Matsumoto
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Abstract

【課題】高性能で安定に運転可能な高分子電解質型燃料電池の運転方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の高分子電解質型燃料電池の運転を、冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整しながら、ガス流速と、飽和水蒸気圧と実際の蒸気圧との差とで表される関数に基づいて行う。
【選択図】図2

Description

本発明は、ポータブル電源、電気自動車用電源および家庭内コージェネレーションシステム等に使用する常温作動型の高分子電解質型燃料電池に関する。
高分子電解質型燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることで、電力と熱とを同時に発生させるものである。前記燃料電池は以下のように作製する。まず、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜の両面に、白金系の金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒反応層を形成する。次に、それぞれの触媒反応層の外面に、燃料ガスまたは酸化剤ガスに対する透過性および電子導電性を併せ持つ拡散層を形成する。触媒反応層とこの拡散層とが一体となって電極として機能する。そして、電極と電解質膜の接合体をMEA(Membrane Electrolyte Assembly)と呼ぶ。
次に、供給されるガスが燃料電池外にリークしたり、燃料ガスと酸化剤ガスが互いに混合しないように、電極の周囲には高分子電解質膜を挟んでガスケットを配置する。このガスケットを電極および高分子電解質膜とあらかじめ一体化し、一体化したものをMEAと呼ぶ場合もある。
さらにMEAの外側には、MEAを機械的に固定するとともに、隣接したMEAを互いに電気的に直列に接続するための導電性のセパレータ板を配置する。セパレータ板のMEAと接触する部分には、電極面に反応ガスを供給し、かつ生成ガスや余剰ガスを運び去るためのガス流路を形成する。ガス流路はセパレータ板と別に設けることもできるが、セパレータの表面に溝を形成してガス流路とする方式が一般的である。
通常、燃料電池を実際に使用するときは、上述の単電池を数多く重ねた積層構造が採用されている。燃料電池の運転時には電力が発生されると共に発熱が起こるが、前記積層構造において、単電池1〜2個毎に冷却板を設け、電池温度を一定に保つと同時に発生した熱エネルギーを温水などの形で利用できるようにしている。冷却板としては薄い金属板の内部を冷却水などの熱媒体が貫流する構造が一般的である。その他、単電池を構成するセパレータの背面、すなわち冷却水を流したい面に流路を形成し、セパレータ板を冷却板としても機能させる構造もある。その際、冷却水などの熱媒体をシールするためのO−リングやガスケットも必要となる。このシール方法では、O−リング等を完全につぶすなどして冷却板の上下間で充分な導電性を確保することが必要である。
また、このような積層電池では、マニホールドと呼ばれる各単電池へ燃料ガスを供給および排出するための孔が必要である。このマニホールドとしては、冷却水の供給排出孔を積層電池内部に確保した、いわゆる内部マニホールド型が一般的である。
内部マニホールド型または外部マニホールド型のいずれを用いても、冷却板を含む複数の単電池を一方向に積み重ね、得られる積層電池の両端に一対の端板を配し、さらにその2枚の端板の外側から積層電池を締結ロッドで圧縮および固定することが必要である。締め付けにおいては、単電池を面内でできるだけ均一に締め付けることが望ましい。また、機械的強度の観点から、端板や締結ロッドには通常ステンレスなどの金属材料からなるものを用いる。これらの端板や締結ロッドと積層電池とを絶縁板により電気的に絶縁し、電流が端板を通して外部に漏れ出ることのない構造とする。締結ロッドについても、セパレータ内部の貫通孔の中を通したり、端板を含む積層電池全体を金属製ベルトで締め上げる方式も提案されている。
以上に示した高分子電解質型燃料電池は、電解質膜が水分を含んだ状態で電解質として機能するため、供給する燃料ガスや酸化剤ガスを加湿して供給する必要がある。また、高分子電解質膜は、少なくとも100℃までの温度範囲では、含水率が高くなればなるほどイオン伝導度が増大し、電池の内部抵抗が低減し、高性能を発揮するという効果がある。そこで、電解質膜中の含水率を高めるために、供給されるガスを高加湿にして供給する必要がある。
しかし、電池運転温度において過度の高加湿ガスを供給すると、電池内部で結露水が発生し、水滴がスムーズなガスの供給を阻害する。また、酸化剤ガスが供給される電極(空気極)側では、発電によって水が生成するため、生成水の除去効率が低下し、電池性能を低下させるという問題が発生する。そのため、通常は電池運転温度より若干低めの露点を有する加湿ガスを調製し、電池内部に供給する。
ガスの加湿方法としては、所定の温度に保った脱イオン水中にガスを供給して通気(バブリング)して加湿するバブラー加湿方式や、電解質膜などの水分が容易に移動可能な膜の一方の面に所定の温度に保った脱イオン水を流し、他方の面にガスを流して加湿する膜加湿方式が一般的である。燃料ガスとして、メタノールやメタンなどの化石燃料を水蒸気改質したガスを用いる場合には、改質ガス中に水蒸気が含まれているため、加湿の必要がない場合もある。
加湿された燃料ガスや酸化剤ガスは、高分子電解質型燃料電池に供給され、発電に供する。このとき、積層電池中の任意の単電池の単一面内では、電流密度の分布が発生する。
すなわち、燃料ガスはガス供給入り口部で所定の加湿がなされ供給されるが、燃料ガス中の水素が発電によって消費されるため、燃料ガス上流側では水素分圧が高く水蒸気分圧が低く、燃料ガス下流側では水素分圧が低く水蒸気分圧が高くなるという現象が発生する。また、酸化剤ガスもガス供給入り口部で所定の加湿がなされ供給されるが、酸化剤ガス中の酸素が発電によって消費され、発電によって生成した水が発生するため、酸化剤ガス上流側では酸素分圧が高く水蒸気分圧が低く、酸化剤ガス下流側では酸素分圧が低く水蒸気分圧が高くなるという現象が発生する。さらに、電池を冷却するための冷却水温度は、燃料電池の入り口側では低く出口側では高くなるため、単電池の単一面内に温度分布が発生する。以上のような理由から、電池の単一面内では電流密度分布(性能分布)が発生する。
また、上述のような理由で発生した、電池の単一面内での燃料ガス中の水素および水蒸気分圧の不均一や、酸化剤ガス中の酸素および水蒸気分圧の不均一、さらに温度分布などが、極端に大きくなり最適な状態から逸脱すると、極端な乾燥(オーバードライ)状態や、極端な濡れ(オーバーフラッディング)状態を招来し、電流密度分布の発生程度では収まらず、場合によっては電池として機能しなくなる。
さらに、上述のような理由で発生した、電池の単一面内での燃料ガス中の水素および水蒸気分圧の不均一や、酸化剤ガス中の酸素および水蒸気分圧の不均一、さらに温度分布などによって、電池の単一面内でオーバードライとオーバーフラッディングが共存する現象も発生しうる。
積層電池の積層数を増大させた場合、積層した多数の単電池の一部に上述のような問題が発生すると、その性能が低下した一部の単電池のために、積層電池全体の運転に支障を来す。すなわち、積層した単電池の一部がオーバーフラッディングに陥った場合、そのオーバーフラッディングに陥った電池では、ガス供給のための圧力損失が増大してしまう。
ガス供給のマニホールドは、積層電池内のすべての単電池が共有するため、オーバーフラッディングに陥った単電池があると、他の単電池にもガスが流れにくくなり、結果として積層電池全体にオーバーフラッディングを招来することになりかねない。
逆に、積層電池の一部の単電池がオーバードライに陥った場合、オーバードライに陥った単電池においては、ガス供給のための圧力損失が減少する。したがって、オーバードライに陥った積層電池にはガスが流れやすくなり、結果として益々オーバードライを招来する。
上述のような問題は、燃料ガスを供給する燃料極側においても、酸化剤ガスを供給する空気極側においても、ガス入り口側に比べてガス出口側のガス中の水蒸気分圧が高くなることに起因する場合が多い。そこで、特表平9−511356に示されているように、酸化剤ガスの流れ方向と冷却水の流れ方向を同方向とし、冷却水の温度分布により酸化剤ガスの下流部の温度を上流部に比べて高くすることで、空気極下流部のオーバーフラッディングを抑制し、電池の単一面内の電流密度分布を低減させる試みもなされてきた。
しかし、積層電池にガスを供給する場合、ガス入り口部では必ず圧力損失が存在するため、積層電池内部では、供給ガスの圧力分布も存在し、必ず入り口側が高圧になる。空気極側では、水が生成するため、水蒸気の分圧は出口側ほど高くなるが、圧力分布の影響で、電池運転条件によっては、相対湿度は必ずしも出口側が高くなるとは限らない。そのため、入り口側ほど相対湿度が高くなる運転条件で電池を発電させ、酸化剤ガスの流れ方向と冷却水の流れ方向を同方向とし、冷却水の温度分布により酸化剤ガスの下流部の温度を上流部に比べて高くすると、ガス入り口側でのオーバーフラッディングが加速され逆効果となる。
上記問題点を解消すべく、本発明は、高分子電解質膜を挟む一対の電極と、導電性セパレータと、前記電極に燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給排出する手段と、前記燃料ガスおよび/または前記酸化剤ガスの加湿手段と、前記電極と平行な面方向に冷却水を流通する手段とを具備する高分子電解質型燃料電池の運転方法であって、
前記燃料ガスのガス流速、前記酸化剤ガスのガス流速、前記燃料ガス中の飽和水蒸気圧、前記燃料ガス中の水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の水蒸気圧、前記電極の温度、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を計測し、前記冷却水の流通方向、前記冷却水の温度、前記冷却水の流量、前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量、前記燃料ガス中の湿分、前記酸化剤ガス中の湿分、前記電極の温度、前記電極の温度分布、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を調節することにより、
式(1):Y=Vm×(ΔP)n(1)(式中、Vは燃料ガスまたは酸化剤ガスの流速(m/sec)、ΔPは燃料ガスまたは酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧と水蒸気圧との差(kgf/m2)であり、mおよびnはそれぞれ独立に1または2の数値)で表される特性関数によって算出される特性値Yを、
前記式(1)においてm=1、n=1の場合には、2×103〜7×104に維持し、
前記式(1)においてm=2、n=1の場合には、1.5×104〜4.7×105に維持し、
前記式(1)においてm=1、n=2の場合には、0.8×106〜1.4×108に維持し、
前記電極において燃料ガスまたは酸化剤ガスが導入される部分を電極出発点、前記電極において前記燃料ガスまたは前記酸化剤ガスが排出される部分を電極出口点とし、
前記電極出発点の温度を前記電極出口点の温度より低くし、かつ、前記電極出発点から電極出口点までの間における電極の温度を、前記電極出発点から電極出口点までの距離に対して、直線的よりも上に凸となる曲線的に増大させる、高分子電解質型燃料電池の運転方法を提供する。
また、高分子電解質膜を挟む一対の電極と、導電性セパレータと、前記電極に燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給排出する手段と、前記燃料ガスおよび/または前記酸化剤ガスの加湿手段と、前記電極と平行な面方向に冷却水を流通する手段とを具備する高分子電解質型燃料電池の運転方法であって、
前記燃料ガスのガス流速、前記酸化剤ガスのガス流速、前記燃料ガス中の飽和水蒸気圧、前記燃料ガス中の水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の水蒸気圧、前記電極の温度、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を計測し、前記冷却水の流通方向、前記冷却水の温度、前記冷却水の流量、前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量、前記燃料ガス中の湿分、前記酸化剤ガス中の湿分、前記電極の温度、前記電極の温度分布、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を調節することにより、
式(1):Y=Vm×(ΔP)n(1)(式中、Vは燃料ガスまたは酸化剤ガスの流速(m/sec)、ΔPは燃料ガスまたは酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧と水蒸気圧との差(kgf/m2)であり、mおよびnはそれぞれ独立に1または2の数値)で表される特性関数によって算出される特性値Yを、
前記式(1)においてm=1、n=1の場合には、2×103〜7×104に維持し、
前記式(1)においてm=2、n=1の場合には、1.5×104〜4.7×105に維持し、
前記式(1)においてm=1、n=2の場合には、0.8×106〜1.4×108に維持し、
前記電極において燃料ガスまたは酸化剤ガスが導入される部分を電極出発点、前記電極において前記燃料ガスまたは前記酸化剤ガスが排出される部分を電極出口点とし、
前記電極出発点の温度を前記電極出口点の温度より高くし、かつ、前記電極出発点から電極出口点までの間における電極の温度を、前記電極出発点から電極出口点までの距離に対して、直線的よりも上に凸となる曲線的に減少させる、高分子電解質型燃料電池の運転方法を提供する。
前記式(1)においてm=1、n=1とし、前記高分子電解質型燃料電池の電流密度が0.3Aの場合には2×103〜3×104、前記電流密度が0.7Aの場合には2×103〜7×104に前記特性値Yを維持するのが好ましい。
前記式(1)においてm=2、n=1とし、前記高分子電解質型燃料電池の電流密度が0.3Aの場合には1.5×104〜1.5×105、前記電流密度が0.7Aの場合には1.4×105〜4.7×105に前記特性値Yを維持するのが好ましい。
前記式(1)においてm=1、n=2とし、前記高分子電解質型燃料電池の電流密度が0.3Aの場合には0.8×106〜1.4×108、前記電流密度が0.7Aの場合には7×106〜1.2×108に前記特性値Yを維持するのが好ましい。
本発明の実施の形態は、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差とで表される関数によって、最適な運転状態となるように燃料電池を調整して運転することを特徴とする。
また、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が2,000〜70,000kg・f/sec・mとなるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布を低減させることができる。
また、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、高分子電解質型燃料電池のガス出口近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が2,000〜70,000kg・f/sec・mとなるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
また、ガス排出口が、ガス排出口の後段に設けられた熱交換器(全熱交換器などを含む)の不可避の圧力損失を除いて実質的に常圧に解放された高分子電解質型燃料電池において、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、高分子電解質型燃料電池のガス出口近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が2,000〜70,000kg・f/sec・mとなるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
また、ガス排出口が、ガス排出口の後段に設けられた熱交換器などの不可避の圧力損失を除いて実質的に常圧に解放された高分子電解質型燃料電池において、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、高分子電解質型燃料電池のガス入り口近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が、ガス出口近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値より大きくなるよう調整し、かつ高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整によって高分子電解質型燃料電池の面内温度の分布を、ガス入り口近傍よりガス出口近傍の方が高くなるよう設定して、ガス出口近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が2,000〜70,000kg・f/sec・mとなるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
また、高分子電解質型燃料電池へのガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、高分子電解質型燃料電池のガス入り近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が、ガス出口近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値より大きくなるよう調整し、かつ高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整によって高分子電解質型燃料電池の面内温度の分布が直線的な分布より上に凸となるよう設定して、ガス出口近傍の、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が2,000〜70,000kg・f/sec・mとなるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
さらに好ましくは、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、酸化剤ガス供給量と、酸化剤ガスに供給する加湿量と、電流密度とを調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
さらに好ましくは、高分子電解質型燃料電池に供給するガスの入り口圧力損失を0.5kg・f/cm以下にすることによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
さらに好ましくは、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、電流密度が0.5A/cmより小さい場合には、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値を2,000〜30,000kg・f/sec・mとなるように調整して運転し、電流密度が0.5A/cmより大きい場合には、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が8,000〜40,000kg・f/sec・mとなるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
さらに好ましくは、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、ガス流通面全体にわたっての、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値の分布が、10,000kg・f/sec・m以下となるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
さらに好ましくは、高分子電解質型燃料電池の性能が経時的に劣化した場合には、冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が20,000kg・f/sec・m以上となるように調整して運転することによって、電池の単一面内の電流密度分布の不均一性を低減させることができる。
さらに好ましくは、高分子電解質型燃料電池のガス入り口側とガス出口側の内、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が大きい側を冷却水入り口側と同一方向とし、ガス入り口側とガス出口側の内、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差の積の絶対値が小さい側を冷却水出口側と同一方向とすることによって、電池の単一面内の電流密度分布を低減させることができる。
以下、本発明に好適の実施例を、図面を参照しながら説明する。
《実施例1》
高分子電解質型燃料電池の単一面内での電流密度分布(性能分布)を確認するため、図1に示すように5分割したセパレータを用いて、電池の単一面内でセルを5分割し、それぞれの部位の性能を個別に測定できる単電池20個からなる積層電池を作製した。
MEAの作製は以下のように行った。粒径が数ミクロン以下のカーボン粉末を塩化白金酸水溶液に浸漬し、還元処理によりカーボン粉末の表面に白金触媒を担持させた。このときのカーボンと担持した白金の重量比は1:1とした。ついで、この白金担持カーボン粉末を高分子電解質のアルコール溶液中に分散させ、スラリー化した。
一方、電極となる厚さ250μmのカーボンペーパーを、フッ素樹脂の水性ディスパージョン(ダイキン工業(株)製のネオフロンND1)に含浸した後、乾燥および400℃で30分間の加熱処理をし、カーボンペーパーに撥水性を付与した。つぎに撥水処理を施した前記カーボンペーパーの片面にカーボン粉末を含む前記スラリーを均一に塗布して触媒層を形成し、これを電極とした。
以上の方法で作製した2枚のカーボンペーパー電極を、触媒層を形成した面を内側に向け、高分子電解質膜を挟んで重ね合わせた後、乾燥した。
以上のカーボンペーパー電極の寸法は、長さ3.6cm、幅を9cmとし、充分に大きい長さおよび幅を有する高分子電解質膜の中央に、一定の間隔を置いて5枚のカーボンペーパー電極を配置し、単一面内で5分割した電極を作製した。供給する燃料ガスがリークしたり、互いに混合しないように、電極の周囲に高分子電解質膜を挟んで、約250μmの厚みのシリコーンゴムのシートを配し、120℃で5分間ホットプレスし、MEA(電極電解質膜接合体)を得た。
セパレータは、厚さが4mmで、その表面には切削加工により幅2mm、深さ1mmのガス流路1を刻んで形成した。そして、図1に示すように、セパレータの周辺部にはガスのマニホルド孔2と冷却水のマニホルド孔3を配した。このような単電池を2セル積層した後、冷却水が流れる冷却流路を形成したセパレータからなる冷却部を積層し、このパターンを繰り返して積層した。冷却部のシール用O−リングは用いなかった。
このような単電池を20個積層し、両端部には金属製の集電板と電気絶縁材料の絶縁板を配し、さらに端板と端板の間を締結ロッドで固定して燃料電池モジュールを得た。このときの締結圧はセパレータの面積当たり10kgf/cmとした。
[評価]
上述のようにして得たモジュールに、燃料ガスとして純水素を75℃に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、酸化剤ガスとして空気を所定温度に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、冷却水を通じて、発電試験を行った。このとき、燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水ともに同一方向に導入し、ガス出口は常圧に開放した。
まず、電池運転温度を75℃に設定し、温度分布を極力抑えるため、75℃に設定した20L/minと比較的大量の冷却水を流し、Uf(燃料ガス中の水素の消費率)=80%、Uo(酸化剤ガス中の酸素の消費率)=20%に設定して電池面内の性能分布を調べた。
図2には、前記モジュールを0.3A/cmと0.7A/cmの定電流密度で運転した場合の、前記モジュールを5つの部分に分割した部分モジュールにおける20個の単電池の平均電圧特性の酸化剤ガスバブラー温度依存性を示した。5分割したモジュールの最もガス入り口側に近い部分モジュールをNo.1aとし、順次No.1b、No.1c、No.1dとして、最もガス出口側に近い部分をNo.1eとした。
図2より、0.3A/cmの電流密度では、酸化剤ガスバブラー温度が比較的低い温度では、ガス入り口に近い部位ほど特性が高いことがわかる。しかし、バブラー温度を高くすると、ガス入り口に最も近い部分モジュールNo.1aから順に性能が急激に低下した。このとき、部分モジュールNo.1aは、内部抵抗の測定からオーバーフラッディング状態にあることがわかった。また、酸化剤ガスバブラー温度が70℃の場合のガス入り口部の圧損が、0.2kg・f/cmであった。このときの、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と(m=1)、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積(n=1)(V・ΔP)との関係を表1に示した。
ここで、実際の蒸気圧>飽和蒸気圧の場合、ΔPが負となるため、V・ΔPも負になる。しかし、実際の蒸気圧が飽和蒸気圧より極端に大きくなることは考えにくいため、V・ΔPの絶対値を評価することで十分である。そこで、以下においては、絶対値を示した。
Figure 2007188893
V・ΔP(=Y)が、約2,000程度より小さい場合には、オーバーフラッディング状態、V・ΔPが約30,000より大きい場合にはオーバードライ状態であり、最適な運転状態におけるV・ΔPは2,000〜30,000程度であった。
次に、0.7A/cmの電流密度では、酸化剤ガスバブラー温度が比較的低い温度では、ガス入り口に近い部位ほど特性が高かった。しかしながら、バブラー温度を高くすると、ガス入り口に最も近い部分モジュールNo.1aの性能が急激に低下した。このとき、部分モジュールNo.1aは、内部抵抗の測定からオーバーフラッディング状態にあることが分かった。また、酸化剤ガスバブラー温度が70℃の場合のガス入り口部の圧損が、0.4kg・f/cmであった。このときの、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表2に示した。
Figure 2007188893
V・ΔPが、約2,000程度より小さい場合には、オーバーフラッディング状態、V・ΔPが約70,000の場合にはややオーバードライ状態であり、最適な運転状態におけるV・ΔPは2,000〜70,000程度であった。また、上記条件下では、電池の単一面内での性能分布を小さく抑えることが可能であった。また、V・ΔPが2,000〜70、000の範囲外の条件では、積層した電池構成単位の内、極端に性能の低下が観測される部分が発生した。
《実施例2》
実施例1と同様にして燃料電池モジュールを作製し、燃料ガスとして純水素を75℃に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、酸化剤ガスとして空気を所定温度に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、冷却水を通じて、発電試験を行った。
このとき、燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水ともに同一方向に導入し、ガス出口は常圧に開放した。75℃に設定した冷却水量を2L/min流し、Uf(燃料ガス中の水素の消費率)=80%、Uo(酸化剤ガス中の酸素の消費率)=20%に設定して電池面内の性能分布を調べた。
図3には、前記モジュールを0.3A/cmと0.7A/cmの定電流密度で運転した場合の、前記モジュールを5つに分割した部分モジュール中の20個の単電池の平均電圧特性の酸化剤ガスバブラー温度依存性を示した。5分割したモジュールの最もガス入り口側に部分モジュールをNo.2aとし、順次No.2b、No.2c、No.2dとして、最もガス出口側に近い部分モジュールをNo.2eとした。
このとき、冷却水流量を比較的少なくしたため、No.2aからNo.2eの部分モジュールの間で温度分布が発生した。電流密度が0.3A/cmの場合の部分モジュールの単電池の平均温度は、No.2aが74.9℃、No.2bが75.6℃、No.2cが76.5℃、No.2dが77.5℃、No.2eが78.0℃と、ガスの流れに対して上流部ほど温度が低く、下流部ほど温度が高い分布となった。また、0.7A/cmの場合の部分モジュールの単電池の平均温度は、No.2aが75.2℃、No.2bが77.1℃、No.2cが79.5℃、No.2dが81.9℃、No.2eが83.1℃と、同様にガスの流れに対して上流部ほど温度が低く、下流部ほど温度が高い分布となった。
図3より、0.3A/cmの電流密度の場合にも、0.7A/cmの電流密度の場合においても、ガス入口部に近い部分モジュールNo.2aおよびNo.2bにおいては、温度が他の部分モジュールに比して相対的に低いため、激しいオーバーフラッディング現象による性能低下が観測された。逆に、ガス出口部付近の部分モジュールNo.2dおよびNo.2eにおいては、温度が相対的に高いため、激しいオーバードライ現象による性能低下が観測された。
一般に、空気極側では、生成水の発生が起こるため、ガス出口に近い側ほど水蒸気分圧は増大する。そこで、特表平9−511356に示されているように、酸化剤ガスの流れ方向と冷却水の流れ方向を同方向とし、冷却水の温度分布により酸化剤ガスの下流部の温度を上流部に比べて高くすることで、空気極下流部のオーバーフラッディングを抑制し、電池の単一面内の電流密度分布を低減させる試みもなされてきた。しかし、本実施例においては、Uo=20%と、比較的低いUoによる運転であったため、酸化剤ガスバブラー温度が70℃の場合のガス入り口部の圧損が、0.4kg・f/cmと比較的高く、生成水の発生によるガス出口部の水蒸気分圧の増大の効果より、ガス入口部の圧力損失によるガス入口部での相対湿度の上昇の方が大きく作用していた。そのため、本来ガス入口側の方がオーバーフラッディング状態にあり、むしろガス出口側の方がオーバードライ状態にあった。さらにこれに対し、温度分布によってガス出口側の温度を相対的に上昇させる結果となったため、ガス出口側のオーバーフドライを増幅させ、ガス入口側のオーバーフラッディングを増幅させる逆効果となった。
0.3A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表3に示す(式(1)においてm=1、n=1)。
Figure 2007188893
0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表4に示す。
Figure 2007188893
また、V・ΔPが2,000〜70、000の範囲外では、電池の単一面内でオーバーフラッディングとオーバードライが共存する部位が発生し、積層した20個の電池構成単位の内、極端に性能の低下が観測され、積層電池を安定的に運転することが困難であった。
《実施例3》
実施例1と同様にして作製した燃料電池モジュールに、燃料ガスとして純水素を75℃に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、酸化剤ガスとして空気を所定温度に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、冷却水を通じて、発電試験を行った。
このとき、燃料ガス、酸化剤ガス、は同一方向に導入し、ガス出口は常圧に開放した。冷却水は、ガス流れ方向と反対方向になるように導入した。75℃に設定した冷却水量を2L/min流し、Uf(燃料ガス中の水素の消費率)=80%、Uo(酸化剤ガス中の酸素の消費率)=20%に設定して電池面内の性能分布を調べた。
図4には、前記モジュールを0.7A/cm2の定電流密度で運転した場合の、前記モジュールを5つに分割した部分モジュール中の20個の単電池の平均電圧特性の酸化剤ガスバブラー温度依存性を示した。5分割した部分モジュールの最もガス入り口側に近い部分モジュールをNo.3aとし、順次No.3b、No.3c、No.3dとして、最もガス出口側に近い部分モジュールをNo.3eとした。
このとき、冷却水流量を比較的少なくしたため、No.3aからNo.3eのセルの間で温度分布が発生した。電流密度が0.3A/cmの場合の部分モジュール中の20個の電池構成単位の平均温度は、No.3aが78.2℃、No.3bが77.6℃、No.3cが76.7℃、No.3dが75.9℃、No.3eが75.0℃と、ガスの流れに対して上流部ほど温度が高く、下流部ほど温度が低い分布となった。また、0.7A/cmの場合の部分モジュール中の20個の電池構成単位の平均温度は、No.3aが83.2℃、No.3bが82.1℃、No.3cが79.8℃、No.3dが76.9℃、No.3eが75.1℃と、同様にガスの流れに対して上流部ほど温度が高く、下流部ほど温度が低い分布となった。また、このときの温度分布はNo.3aからNo.3eまでが直線的な温度分布ではなく、直線的より上に凸な温度分布であった。
図4より、0.3A/cmの場合にも、0.7A/cmの電流密度の場合においても、ガス入り口に近い部位ほど特性が高かった。しかしながら、バブラー温度依存性は、どの部分モジュールにおいても同様の傾向を示し、全ての部分モジュールにおいて非常に安定した特性を示した。
一般に、空気極側では、生成水の発生が起こるため、ガス出口に近い側ほど水蒸気分圧は増大する。しかし、本実施例においては、Uo=20%と、比較的低いUoによる運転であったため、酸化剤ガスバブラー温度が70℃の場合のガス入り口部の圧損が、0.4kg・f/cmと比較的高く、生成水の発生によるガス出口部の水蒸気分圧の増大の効果より、ガス入口部の圧力損失によるガス入口部での相対湿度の上昇の方が大きく作用していた。そのため、本来ガス入口側の方がオーバーフラッディング状態にあり、むしろガス出口側の方がオーバードライ状態にあった。さらにこれに対し、温度分布によってガス入口側の温度を相対的に上昇させる結果となったため、ガス入口側のオーバーフラッディングを抑制し、ガス出口側のオーバードライも抑制し、安定な電池特性を得る効果が得られた。
0.3A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表5に示す。
Figure 2007188893
0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表6に示す。
Figure 2007188893
以上のことから、0.3A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、2,000〜30,000kg・f/s・mであり、0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、8,000〜40,000kg・f/s・mであった。また、上記条件下では、電池の単一面内での性能分布を小さく抑えることが可能であった。
《実施例4》
実施例1と同様にして作製した燃料電池モジュールに、燃料ガスとして純水素を75℃に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、酸化剤ガスとして空気を所定温度に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、冷却水を通じて、発電試験を行った。
このとき、燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水ともに同一方向に導入し、ガス出口は常圧に開放した。まず、電池運転温度を75℃に設定し、温度分布を極力抑えるため、75℃に設定した20L/minの比較的大量の冷却水を流し、Uf(燃料ガス中の水素の消費率)=80%、Uo(酸化剤ガス中の酸素の消費率)=40%に設定して電池面内の性能分布を調べた。
図5には、前記モジュールを0.7A/cmの定電流密度で運転した場合の、前記モジュールを5つに分割した部分モジュール中の20個の単電池の平均電圧特性の酸化剤ガスバブラー温度依存性を示した。5分割した部分モジュールの最もガス入り口側に近い部分モジュールをNo.4aとし、順次No.4b、No.4c、No.4dとして、最もガス出口側に近い部分モジュールをNo.4eとした。
図5より、0.7A/cmの電流密度では、ガス入り口に近い部位ほど特性が高かった。しかしながら、バブラー温度を高くすると、ガス出口に最も近い部分モジュールNo.4eから順に性能が急激に低下した。このとき、No.4eは、内部抵抗の測定からオーバーフラッディング状態にあることが分かった。また、酸化剤ガスバブラー温度が60℃の場合のガス入り口部の圧損が、0.2kg・f/cmであった。このときの、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表7に示す。
Figure 2007188893
V・ΔPが、約7,000程度より小さい場合には、オーバーフラッディング状態、V・ΔPが約32,000の場合にはややオーバードライ状態であり、最適な運転状態におけるV・ΔPは8,000〜40,000程度であった。また、上記条件下では、電池の単一面内での性能分布を小さく抑えることが可能であった。また、V・ΔPのガス入口部とガス出口部の差が12,000以上あり、安定に運転できなかった。さらに、V・ΔPが、8,000〜40、000の範囲外では、部分モジュール中、積層した20個の電池構成単位の内、極端に性能の低下が観測される電池構成単位が発生した。
《実施例5》
実施例1と同様にして作製した燃料電池モジュールに、燃料ガスとして純水素を75℃に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、酸化剤ガスとして空気を所定温度に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、冷却水を通じて、発電試験を行った。
このとき、燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水ともに同一方向に導入し、ガス出口は常圧に開放した。75℃に設定した冷却水を2L/min流し、Uf(燃料ガス中の水素の消費率)=80%、Uo(酸化剤ガス中の酸素の消費率)=40%に設定して電池面内の性能分布を調べた。
図6には、前記モジュールを0.7A/cmの定電流密度で運転した場合の、前記モジュールを5つに分割した部分モジュール中の20個の単電池の平均電圧特性の酸化剤ガスバブラー温度依存性を示した。5分割した電池の最もガス入り口側に部分モジュールをNo.5aとし、順次No.5b、No.5c、No.5dとして、最もガス出口側に近い部分モジュールをNo.5eとした。このとき、冷却水流量を比較的少なくしたため、No.5a〜No.5eの部分モジュールの間で温度分布が発生した。電流密度が0.7A/cmの場合の部分モジュール中の20個の電池構成単位の平均セル温度は、No.5aが75.1℃、No.5bが77.0℃、No.5cが79.7℃、No.5dが81.8℃、No.5eが83.0℃と、ガスの流れに対して上流部ほど温度が低く、下流部ほど温度が高い分布となった。また、このときの温度分布はNo.5a〜No.5eまでが直線的な温度分布ではなく、直線的より上に凸な温度分布であった。
図6より、0.7A/cmの電流密度の場合、ガス入り口に近い部位ほど特性が高かった。しかし、バブラー温度依存性は、どの部分モジュールにおいても同様の傾向を示し、全ての部分モジュールにおいて非常に安定した特性を示した。
一般に、空気極側では、生成水の発生が起こるため、ガス出口に近い側ほど水蒸気分圧は増大する。一方、ガス入口部の圧力損失により、ガス出口部に比べてガス入口部が高圧となるため、ガス入口部の相対湿度が上昇する。しかし、本実施例においては、酸化剤ガスバブラー温度が70℃の場合のガス入り口部の圧損が、0.2kg・f/cmと比較的低く、ガス入口部の圧力損失によるガス入口部での相対湿度の上昇より、生成水の発生によるガス出口部の水蒸気分圧の増大の効果の方が大きく作用していた。そのため、本来ガス出口側の方がオーバーフラッディング状態にあり、ガス入口側の方がオーバードライ状態にあった。さらにこれに対し、温度分布によってガス出口側の温度を相対的に上昇させる結果となったため、ガス出口側のオーバーフラッディングを抑制し、ガス入口側のオーバードライも抑制し、安定な電池特性を得る効果となった。
0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表8に示す。
Figure 2007188893
以上のことから、0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(v)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、10,000〜38,000kg・f/s・mであった。また、上記条件下では、電池の単一面内での性能分布を小さく抑えることが可能であった。
《実施例6》
実施例1と同様にして作製した燃料電池モジュールに、燃料ガスとして純水素を75℃に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、酸化剤ガスとして空気を所定温度に保った脱イオン水バブラーを通じて供給し、冷却水を通じて、発電試験を行った。
このとき、燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水ともに同一方向に導入し、ガス出口を絞って、ガス出口部の圧力がゲージ圧で2.0kg・f/cmとなるよう調整した。75℃に設定した冷却水を2L/min流し、Uf(燃料ガス中の水素の消費率)=80%、Uo(酸化剤ガス中の酸素の消費率)=50%に設定して電池面内の性能分布を調べた。
図7には、前記モジュールを0.7A/cmの定電流密度で運転した場合の、前記モジュールを5つに分割した部分モジュールにおける20個の電池構成単位の平均電圧特性の酸化剤ガスバブラー温度依存性を示した。5分割したモジュールの最もガス入り口側に近い部分モジュールをNo.6aとし、順次No.6b、No.6c、No.6dとして、最もガス出口側に近い部分モジュールをNo.6eとした。
このとき、冷却水流量を比較的少なくしたため、No.6a〜No.6eの部分モジュールの間で温度分布が発生した。電流密度が0.7A/cmの場合の部分モジュール中の20個の電池構成単位の平均セル温度は、No.6aが75.0℃、No.6bが76.0℃、No.6cが77.8℃、No.6dが80.8℃、No.6eが82.0℃と、ガスの流れに対して上流部ほど温度が低く、下流部ほど温度が高い分布となった。また、このときの温度分布はNo.6a〜No.6e5までが直線的な温度分布ではなく、直線的より上に凸な温度分布であった。
図7より、0.7A/cmの電流密度の場合、ガス入り口に近い部分モジュールほど特性が高かったことがわかる。しかし、バブラー温度依存性は、どの部分モジュールにおいても同様の傾向を示し、全ての部分モジュールにおいて非常に安定した特性を示した。
一般に、空気極側では、生成水の発生が起こるため、ガス出口に近い側ほど水蒸気分圧は増大する。一方、ガス入口部の圧力損失により、ガス出口部に比べてガス入口部が高圧となるため、ガス入口部の相対湿度が上昇する。しかし、本実施例においては、酸化剤ガスバブラー温度が70℃の場合のガス入り口部の圧損が、0.1kg・f/cmと比較的低く、ガス入口部の圧力損失によるガス入口部での相対湿度の上昇より、生成水の発生によるガス出口部の水蒸気分圧の増大の効果の方が大きく作用していた。そのため、本来ガス出口側の方がオーバーフラッディング状態にあり、ガス入口側の方がオーバードライ状態にあった。さらにこれに対し、温度分布によってガス出口側の温度を相対的に上昇させる結果となったため、ガス出口側のオーバーフラッディングを抑制し、ガス入口側のオーバードライも抑制し、安定な電池特性を得る効果となった。
0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)との関係を表9に示す。
Figure 2007188893
以上のことから、0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の積の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、8,000〜30,000kg・f/s・mであった。また、上記条件下では、電池の単一面内での性能分布を小さく抑えることが可能であった。
《実施例7》
実施例5と全く同一の試験を行い、0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の関数の絶対値(V・ΔP、およびV・ΔP)を求めた。これらの数値の関係を表10に示す。
Figure 2007188893
表10に示す結果から、0.7A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の関数の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、約140,000〜470,000kg・f/sであった。また、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の関数の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、約7×106〜1.2×108(kg・f)/m・sであった。さらに、上記条件下では、電池の単一面内での性能分布(不均一性)を小さく抑えることが可能であった。
《実施例8》
実施例5と全く同一の試験を行い、0.3A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(v)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の関数の絶対値(v・ΔP、およびv・ΔP)を求めた。これらの数値の関係を表11に示す。
Figure 2007188893
表11に示す結果から、0.3A/cmの電流密度の場合の、ガス入口近傍とガス出口近傍のバブラー温度と、ガス流速(v)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の関数の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、約15,000〜150,000kg・f/sであった。また、ガス流速(V)と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差(ΔP)の関数の絶対値(V・ΔP)の最適な範囲は、約0.8×106〜1.4×108(kg・f)/m・sであった。さらに、上記条件下では、電池の単一面内での性能分布(不均一性)を小さく抑えることが可能であった。
本発明によると、高分子電解質型燃料電池の冷却水流通方向と冷却水入り口温度と冷却水流量の調整による面内温度分布と、ガス供給量と、供給加湿量と、電流密度とを調整することによって、ガス流速と、飽和蒸気圧と実際の蒸気圧との差とで表される関数によって、最適な運転状態が表されるよう調整して運転することによって、高分子電解質型燃料電池を高性能で安定に運転可能であることが判明した。
本発明の実施例に係る高分子電解質型燃料電池のセパレータの構造を示す上面図である。 本発明の実施例1に係る高分子電解質型燃料電池の特性図である。 本発明の実施例2に係る高分子電解質型燃料電池の特性図である。 本発明の実施例3に係る高分子電解質型燃料電池の特性図である。 本発明の実施例4に係る高分子電解質型燃料電池の特性図である。 本発明の実施例5に係る高分子電解質型燃料電池の特性図である。 本発明の実施例6に係る高分子電解質型燃料電池の特性図である。

Claims (6)

  1. 高分子電解質膜を挟む一対の電極と、導電性セパレータと、前記電極に燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給排出する手段と、前記燃料ガスおよび/または前記酸化剤ガスの加湿手段と、前記電極と平行な面方向に冷却水を流通する手段とを具備する高分子電解質型燃料電池の運転方法であって、
    前記燃料ガスのガス流速、前記酸化剤ガスのガス流速、前記燃料ガス中の飽和水蒸気圧、前記燃料ガス中の水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の水蒸気圧、前記電極の温度、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を計測し、前記冷却水の流通方向、前記冷却水の温度、前記冷却水の流量、前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量、前記燃料ガス中の湿分、前記酸化剤ガス中の湿分、前記電極の温度、前記電極の温度分布、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を調節することにより、
    式(1):Y=Vm×(ΔP)n(1)(式中、Vは燃料ガスまたは酸化剤ガスの流速(m/sec)、ΔPは燃料ガスまたは酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧と水蒸気圧との差(kgf/m2)であり、mおよびnはそれぞれ独立に1または2の数値)で表される特性関数によって算出される特性値Yを、
    前記式(1)においてm=1、n=1の場合には、2×103〜7×104に維持し、
    前記式(1)においてm=2、n=1の場合には、1.5×104〜4.7×105に維持し、
    前記式(1)においてm=1、n=2の場合には、0.8×106〜1.4×108に維持し、
    前記電極において燃料ガスまたは酸化剤ガスが導入される部分を電極出発点、前記電極において前記燃料ガスまたは前記酸化剤ガスが排出される部分を電極出口点とし、
    前記電極出発点の温度を前記電極出口点の温度より低くし、かつ、前記電極出発点から電極出口点までの間における電極の温度を、前記電極出発点から電極出口点までの距離に対して、直線的よりも上に凸となる曲線的に増大させる、
    高分子電解質型燃料電池の運転方法。
  2. 高分子電解質膜を挟む一対の電極と、導電性セパレータと、前記電極に燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給排出する手段と、前記燃料ガスおよび/または前記酸化剤ガスの加湿手段と、前記電極と平行な面方向に冷却水を流通する手段とを具備する高分子電解質型燃料電池の運転方法であって、
    前記燃料ガスのガス流速、前記酸化剤ガスのガス流速、前記燃料ガス中の飽和水蒸気圧、前記燃料ガス中の水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧、前記酸化剤ガス中の水蒸気圧、前記電極の温度、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を計測し、前記冷却水の流通方向、前記冷却水の温度、前記冷却水の流量、前記燃料ガスの供給量、前記酸化剤ガスの供給量、前記燃料ガス中の湿分、前記酸化剤ガス中の湿分、前記電極の温度、前記電極の温度分布、および出力電流値よりなる群から選択される少なくとも1種の物理量を調節することにより、
    式(1):Y=Vm×(ΔP)n(1)(式中、Vは燃料ガスまたは酸化剤ガスの流速(m/sec)、ΔPは燃料ガスまたは酸化剤ガス中の飽和水蒸気圧と水蒸気圧との差(kgf/m2)であり、mおよびnはそれぞれ独立に1または2の数値)で表される特性関数によって算出される特性値Yを、
    前記式(1)においてm=1、n=1の場合には、2×103〜7×104に維持し、
    前記式(1)においてm=2、n=1の場合には、1.5×104〜4.7×105に維持し、
    前記式(1)においてm=1、n=2の場合には、0.8×106〜1.4×108に維持し、
    前記電極において燃料ガスまたは酸化剤ガスが導入される部分を電極出発点、前記電極において前記燃料ガスまたは前記酸化剤ガスが排出される部分を電極出口点とし、
    前記電極出発点の温度を前記電極出口点の温度より高くし、かつ、前記電極出発点から電極出口点までの間における電極の温度を、前記電極出発点から電極出口点までの距離に対して、直線的よりも上に凸となる曲線的に減少させる、
    高分子電解質型燃料電池の運転方法。
  3. 高分子電解質型燃料電池における燃料ガスおよび酸化剤ガスの排出口を、前記排出口の後段に設けられた熱交換器の不可避の圧力損失を除き、実質的に常圧に解放することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質型燃料電池の運転方法。
  4. 前記式(1)においてm=1、n=1とし、前記高分子電解質型燃料電池の電流密度が0.3Aの場合には2×103〜3×104、前記電流密度が0.7Aの場合には2×103〜7×104に前記特性値Yを維持することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質型燃料電池の運転方法。
  5. 前記式(1)においてm=2、n=1とし、前記高分子電解質型燃料電池の電流密度が0.3Aの場合には1.5×104〜1.5×105、前記電流密度が0.7Aの場合には1.4×105〜4.7×105に前記特性値Yを維持することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質型燃料電池の運転方法。
  6. 前記式(1)においてm=1、n=2とし、前記高分子電解質型燃料電池の電流密度が0.3Aの場合には0.8×106〜1.4×108、前記電流密度が0.7Aの場合には7×106〜1.2×108に前記特性値Yを維持することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質型燃料電池の運転方法。
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