JP2007185117A - セルラーゼ基質としてのセルロースの改質への対向衝突処理の利用 - Google Patents

セルラーゼ基質としてのセルロースの改質への対向衝突処理の利用 Download PDF

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Abstract

【課題】新規なセルロース繊維の分解方法を提供する。
【解決手段】セルロース繊維を対向衝突処理し、得られた処理物にセルラーゼを作用させる。対向衝突処理の際、セルロース繊維を水に分散させて得た分散液を、一対のノズルから70〜250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて粉砕する。従って、セルロース水溶液の酵素反応特性を高めることができる。対向衝突処理工程は、乳酸生産、メタン生産又はエタノール生産を目的とした、セルロース繊維を多く含有する有機性廃棄物の発酵に適用することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、対向衝突処理の利用に関する。より具体的には、対向衝突処理をセルラーゼ基質としてのセルロースの改質のために用いることに関する。本発明は、セルロースを多く含むバイオマス資源からの乳酸発酵、メタン発酵及びエタノール発酵に適用可能である。特に家畜糞尿を利用したメタン発酵の発酵残滓(消化液)への適用が期待できる。
従来技術
セルロースは地球上に最も多く存在するバイオマス資源であり、循環型社会の構築にその利用用途の拡大が求められている。そのための障害として、水をはじめとする他の汎用溶媒に対してセルロースが不溶性を示し、加工性に乏しいことが挙げられる。本発明者らは、微結晶セルロースに水中で対向衝突処理を施し、その重合度を含めて化学構造を変化させることなく水溶液化することに成功した(特許文献1)。
一方、家畜排泄物や食品廃棄物等からメタンガスを得るシステムは、廃棄物の低減・再資源化という面からだけではなく、発生したメタンガスをエネルギーとして利用可能であることからも大変注目を集めている。しかしながら、従来のメタンガス発酵システムにおいては、メタンガスを精製した後の発酵残滓の処理が問題となる。現在、発酵残滓処理に関しては、適切な処理を行って土壌に還元する方式と浄化処理を行い放流する方式とがあり、また原料及び/又は発酵残滓に適切な処理を施すことにより、メタン発酵システムにおける利用効率を高め、発酵残滓の発生量自体を抑える試みが検討されてきている。
特許文献2は、有機性廃棄物のメタン発酵処理に係り、特に、セルロース性繊維分を多く含む畜産廃棄物(乳牛糞尿)、食品廃棄物(コーヒーかす、茶かす、紅茶かす等)等の有機性廃棄物のメタン発酵処理方法と装置に関するものである。ここでは、セルロース性繊維を多く含有する有機性廃棄物をメタン発酵処理する方法において、該有機性廃棄物又は該有機性廃棄物をメタン発酵処理して得られた処理液に、該処理液中の固形物を希釈する希釈水を混合して固液分離及び/又は脱水し、得られた固形物を粉砕工程で粉砕した後、該粉砕された固形物をメタン発酵工程に投入することを特徴とするメタン発酵処理方法が提案されている。そして、このような方法によれば、セルロース繊維系有機性廃棄物のメタン発酵処理を行った際、エネルギー回収量を増加させると同時に、廃棄物発生量を低減させることが可能であるとしている。
特許文献3は、有機性廃棄物としてのセルロース含有廃棄物を処理するのに効果的な有機性廃棄物の処理方法に関するものである。ここでは、有機性廃棄物を処理する方法において、前記廃棄物を機械的に微細破砕する廃棄物破砕工程と、破砕された廃棄物を可溶化する可溶化処理工程と、可溶化された可溶化液を嫌気性消化処理してメタンガスを回収する嫌気性消化工程と消化処理された消化液を固液分離する固液分離工程を設けたことを特徴とする有機性廃棄物の処理方法であって、前記有機性廃棄物がセルロース含有廃棄物であり、前記可溶化処理工程が、少なくともセルロース分解酵素を含む酵素により可溶化する酵素反応工程であることを特徴とする、有機性廃棄物の処理方法が提案されている。そして、このような方法によれば、有機性廃棄物からメタンガスを効率的に回収でき、特に、生物分解しにくいセルロースを含有する有機性廃棄物の処理に際し、有機性廃棄物を嫌気性微生物による分解がしやすい性状とし、嫌気性微生物によるメタン発酵を効率的に行うことができるとしている。
特許文献4は、メタン発酵処理システムにおける有機系残滓の前処理方法に関するものである。ここでは、原料の有機系残滓を破砕した後、加熱部に投入し、加熱部において攪拌しながらスチームを供給して有機系残滓の温度を高温側の加熱殺菌温度まで上昇させ、次いで温度が上昇した有機系残滓と、家畜ふん尿を混合殺菌部に投入し、混合して低温側の加熱殺菌温度に調整して所定時間維持し、次いで熱交換部において、家畜ふん尿との間接熱交換により、温度を発酵に適する温度に調整した後、メタン発酵槽に投入し、熱交換部における間接熱交換により予熱された家畜ふん尿を上記混合殺菌部に投入することを特徴とするメタン発酵処理システムにおける有機系残滓の前処理方法が提案されている。この方法においては発酵残滓は液肥として利用することが企図されているが、破砕した有機系残滓をスチームで加熱殺菌温度まで加熱するため、液肥としては好ましくない細菌や雑草の種子を、確実に、効率的に除去することができるほか、この発明により、高い温度により細胞壁を破壊するため、その後のメタン発酵の効率を上げることができるとしている。
先行技術文献
特開2005−270891(特願2004−090799) 特開2002−248448号公報(特許第367901号) 特開2004−50143号公報 特開2004−195308号公報
本発明者らは、対向衝突処理を施したセルロースのいくつかの性質について、検討してきた。そして、対向衝突処理を施したセルロース水溶液にセルラーゼを作用させたところ、酵素反応速度が非常に大きくなることを発見し、本発明を完成した。
本発明は、セルロース繊維をセルラーゼで分解する方法において、セルロース繊維を対向衝突処理し、得られた処理物にセルラーゼを作用させることを特徴とする、セルロース繊維の酵素分解方法を提供する。
本明細書で「セルロース繊維」というときは、特別な場合を除き、セルロースのうち、特に難消化性の形態のものを指す。
本明細書において、セルロース繊維の処理に関し、「対向衝突(処理)」というときは、特別な場合を除き、セルロース繊維の分散液を一対のノズルから70〜250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させてセルロース繊維を粉砕する、湿式粉砕方法をいう。この方法の詳細は、特開2005−270891(特許文献1)に開示されている。
対向衝突処理の際、セルロース繊維は、水に分散される。セルロース繊維は、必要に応じ、予め粉砕してもよい。粉砕の必要性及びその程度は、試料が通過する装置のノズル径に拠るが、対向衝突処理の際に使用されるノズルは、通常、圧が100MPaでも使用することができるので、数百マイクロメートルまで粉砕されていれば充分であろう。
分散濃度は、分散スラリーとして配管を通過するのに適当な濃度であることが好ましく、1〜10質量%が好ましい。
対向衝突処理においては、分散液を一対のノズルから70〜250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて粉砕するが、上記一対のノズルから噴射される分散液の高圧噴射流の角度を、噴射流同士が各々のノズル出口より先方の一点で適正な角度において衝合衝突するように調製するか、又は高圧流体の噴射回数を調整して粉砕回数を調整することにより、セルロース繊維の平均粒子長を1/4以下又は10μmにまで粉砕することができる一方で、セルロースの重合度の低下を制御することもできる。対向衝突処理に用いる装置には、高圧をもってバルブの隙間から分散液を噴射させる高圧式ホモジナイザーの方式を用いることができる。
衝合角度θとしては、95〜178°、例えば、100〜170°とすることができる。95°より小さい場合、例えば90°で衝合するようにすると、構造的に衝合分散液はチャンバーの壁部分に直接衝突してしまう部分が生じやすくなり、1回の衝突でセルロースの重合度の低下が10%を超えることが多くなる。一方、178°より大きい場合、例えば衝合が180°、すなわち正面対向して衝突させる場合には、その衝突のエネルギーが大きく、1回の衝突での重合度の低下が激しくなることがある。
また、衝突回数としては、1〜200回、例えば、5〜120回とすることができる。粉砕回数が多いと、セルロースの重合度の低下が10%を超えることがある。
衝合角度及び/又は衝突回数は、セルロースによる分解効率等を加味して、適宜設計することができる。衝合角度及び/又は衝突回数の調整により、衝突処理後のセルロースの平均粒子長が、処理前の1/4以下、1/5〜1/100、1/6〜1/50、1/7〜1/20とすることができる。。同様に、平均粒子長は、10μm以下、0.01〜9μm、0.1〜8μm、0.1〜5μmとすることができる。セルロース繊維は、平均粒子長に対して直角方向に粒子幅が存在することになる。この幅を平均粒子幅というが、これも、衝合角度及び/又は衝突回数の調整により、10μm以下、0.01〜9μm、0.1〜8μmとすることができる。
なお、本明細書でいうセルロースの重合度は、特別な場合を除き、例えば、Polymer Handbook,4th Edition(John Wiley & Sons;4th edition(February 22,1999))に記載されている重合度と粘度の換算式、又は丸善出版,松下裕秀著,基礎化学コース高分子化学,II物性に記載されている光散乱測定方法、GPC-MALLS法、浸透圧法、超遠心法等で測定することができる。また、本明細書でいうセルロースの平均粒子長及び平均粒子幅は、光散乱装置、レーザー顕微鏡、又は電子顕微鏡等によって計測することができる。平均粒子長は、上記の顕微鏡等で計測される長さのうち、長いほうのものを10〜200点、好ましくは30〜80点測定し、その平均値をとったものである。
対向衝突処理は、回数を重ねるに従い、処理物の温度が上昇するので、一度衝突処理された後の処理物は、必要に応じ、例えば、4〜20℃、又は5〜15℃に冷却してもよい。
また、本発明において、処理物から特にセルーロース繊維が細かくなった部分だけを取り出す方法として、処理物を遠心分離して、上澄みを分取することにより、平均粒子長1μm未満のセルロース微粒子を得ることができる。
本明細書で「セルラーゼ」というときは、特別な場合を除き、セルロースを基質とする加水分解酵素をいい、分解様式や相同性による分類を問わない。本発明において、対向衝突処理物にセルラーゼを作用させる場合のセルラーゼは、形態は特に限定されず、酵素単体でもよく、又はセルラーゼ複合体(セルロソーム)として、若しくはセルラーゼ又はセルロソームを生産する微生物として用いてもよい。
通常、セルラーゼは素酵素の混合体であり、結晶を分解させるものもあれば、分子の中間から解裂させる(エンド型)や末端から解裂させる(エクソ型)などが含まれる。その中で、結晶を分解するセルラーゼ・CBHIという酵素は、バインディングドメイン(CBD:吸着サイト)とキャタリティックドメイン(触媒サイト)がリンカーと呼ばれる接続部位でつながれている。この酵素が作用する場合、まずは、CBDが吸着してから加水分解をするため、その吸着が律速段階となる。
セルロースは、通常繊維形態で存在し、その強固な水素結合のため、水に不溶である。したがって、酵素分解は固-液体の不均一反応になる。しかしながら、i)対向衝突処理されたナノサイズの試料は、もはや繊維状態というよりは、分子状態に近いため、この律速段階の吸着を経ずに触媒領域に、基質(分子)が直接進入して反応する可能性がある。ii) prosessive型のセルラーゼ(エンド型セルラーゼ。セロビオヒドラーゼ。セルロース鎖が入る活性中心がトンネル状であり、生じたセロビオースがトンネルの反対側から出て行くことができるため、酵素がセルロース鎖から離れる必要がない。)は、分子末端から連続的にセルロースを加水分解するタイプである。セルロースが繊維形態(結晶)をとると、分子末端から順に解裂させることは難しい。しかし、もしセルロースが分子状態に近い状態で水中に存在していたすると(これまでにこういう状態はつくれなかった)、このタイプの酵素の活性があがることが予想される。また、プロセッシブ型酵素のみならず、通常は活性の低い非prosessive型の酵素(エクソ型酵素。エクソグルカナーゼ。活性中心が穴状である。)にとっても、触媒ドメインにとって、基質濃度を高める効果があると考えられる。
対向衝突処理の特徴は、セルロースの化学結合を破壊するのではなく、分子間の相互作用を除去することである。そのため、例えば処理後の分子の変質により酵素の基質になりえなくなるということはない。
対向衝突処理により、セルロースの水溶液が得られる。通常の微粉砕処理では、強烈に行ったとしても、懸濁液までの調製に至るだけで、透明なセルロース水溶液は得られない。
対向処理物にセルラーゼを作用させる際の条件は、特に限定されず、用いるセルラーゼを用いる通常の反応条件を適用することができる。本発明においては、対向衝突処理により、後述するように酵素基質としてのセルロースが改質されるから、用いるセルラーゼにとって至適な条件のみならず、通常は適さない条件においても、所望の分解効率を達成することができる。
本発明のセルラーゼを作用させる段階においては、セルラーゼ以外の酵素が存在してもよい。後述するようなセルロース繊維を多く含む有機物を分解する場合は特に、β-1,3-1,4-グルカナーゼ、キシランを分解するキシラナーゼ、マンナンを分解するマンナナーゼ、ガラクトース側鎖を切断するα-ガラクトシダーゼ、ペクチンを切断するペクトリアーゼ、キシランとリグニンとの結合を切断するフェルラ酸エステラーゼ、クマル酸エステラーゼ、キシランの修飾基を分解するアセチルキシランエステラーゼ等、植物細胞壁を分解する酵素が存在すると、好適な場合がある。
好ましい実施態様
対向衝突処理は、セルロースを多く含む有機物の微細化、部分的水溶化、水溶化に効果がある。したがって、本発明は、セルロース繊維を多く含有する有機物を発酵する方法において、セルロース繊維を多く含有する有機物を対向衝突処理する工程を含むことを特徴とする、前記方法を提供する。本発明の適用により、セルラーゼによるセルロースの加水分解が促進され、効率的に発酵することが可能である。本発明は、種々の発酵産業に適用可能であるが、特に、乳酸生産、メタン生産又はエタノール生産において有用である。本発明は、特にバイオマス発電・熱利用を目的とした、セルロースを多く含むバイオマスの前処理のために利用できる。本発明は、例えば、畜糞又は食品廃棄物等を発酵させてメタンガスを得る際、植物由来のバイオマス(例えば木質バイオマス)を糖化・発酵させてエタノールを得る際に有用である。
本発明に用いられる「セルロース繊維を多く含有する有機物」及び「セルロース繊維を多く含有する有機性廃棄物」には、バイオマスおよび未利用の炭素源(セルロース)が含まれる。バイオマスとは、炭素源を含む原料であり、動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用できるものをいい、例えば、厨芥(都市廃棄物)、家畜糞尿(畜産系)、間伐材、建築廃材(林産系)、稲わら(農産系)、魚腸骨、海草、くらげ等の水産未利用資源(水産系)、廃食用油(産業廃棄物系)等を含む。
本発明はさらに、セルロース繊維を多く含有する有機性廃棄物をメタン発酵する方法において、該有機性廃棄物、又は該有機性廃棄物をメタン発酵処理して得られた発酵残滓を対向衝突処理し、得られた処理物をメタン発酵工程に投入することを特徴とする、メタン発酵方法を提供する。
メタンガスを得ようとする場合、「セルロース繊維を多く含有する有機性廃棄物」の例としては、動物の排泄物、生ごみ、食品工場からでる廃棄物(例えば、さとうきびの絞り粕(バガス)、モルトフィード、焼酎や酒などの絞り粕、大豆粕、茶殻)生肉工場から出る内臓や肉片がある。好ましい例は、家畜排泄物(糞尿)である。
家畜排泄物を原料としてメタン発酵する場合、発酵残滓(「消化液」ということもある。)には、未消化のセルロース繊維が多く含まれ、発酵残滓の処理が大きな問題となることがある。本発明は、家畜排泄物由来の発酵残滓を対向衝突処理して、再度メタン発酵工程に投入する工程を含む方法は、本発明の好ましい実施態様の一つである。以下では、メタン発酵または発酵残滓を利用するメタン発酵等、特定の発酵を例に本発明を説明することがあるが、特別な場合を除き、その説明は、他の物質生産を目的とする発酵(例えば、乳酸発酵、エタノール発酵)に本発明を適用する場合にも当てはまる。
セルロース繊維を多く含有する有機物及び/又は有機性廃棄物をメタン発酵処理して得られた発酵残滓について対向衝突処理を行う際の、対向衝突処理の際の条件(圧力、処理回数等)は、当業者であれば適宜設定できる。例えば、後述する実施例では、200MPaで120サイクル実施しているが、このような目的で実施する場合には、通常、セルロースを完全に水溶化する必要はなく、200Mpaであれば5〜10回処理すれば充分な効果が得られる。5回程度処理すれば、試料はナノサイズの大きさになっていると考えられる。この処理には、通常、数分要するに過ぎない。
対向衝突処理は、発酵温度、処理方式、発酵槽の撹拌方式、固形物濃度により制限されることなく、種々のメタン発酵に適用することができる。例えば、低温発酵法(約18〜22℃)、中温発酵法(約32〜37℃)、高温発酵法(約50〜55℃)、連続処理法、バッチ処理法、完全混合型(機械撹拌、液循環による撹拌、ガス吹き込みによる撹拌)、押出し流れ型、湿式(固形物濃度約10%以下)、乾式(固形物濃度約25〜40%)、中間式(固形物濃度が湿式と乾式との中間の方式)、単槽メタン発酵法、嫌気性ろ床法、嫌気性流動床法、USAB法、分離リサイクル法(膜分離式、ろ過式)に適用することができる。
本発明の対向衝突処理を適用したメタン発酵方法においては、メタン発酵工程及び対向衝突処理工程以外に、夾雑物分離工程、発酵対象物又は対向衝突処理対象物の粉砕工程、含水率調整工程、可溶化工程、対向衝突処理対象物の粉砕工程、衛生処理工程、及びこれらの組み合わせを含んでもよい。組み合わせには、複数の処理を同時に行うこと、例えば対向処理衝突処理のための装置に冷却のための装置を組み込むことが含まれる。
図1に、発酵残滓を対向衝突処理する場合の工程の例を示す。この例においては、発酵残滓は、粗粉砕され、対向衝突処理工程に投入される。ここでは、循環型対向衝突処理装置を用い、循環回数を制御することにより適切なサイズになるまでの対向衝突処理を行うことができる。得られた対向衝突処理済み発酵残滓は、発酵原料と共にメタン発酵工程のために投入され、適切な温度に設定されたメタン発酵のためのリアクター内で、セルラーゼとメタン菌とにより、メタン発酵が進むこととなる。
また、図2に、発酵残滓と発酵原料とを合わせて対向衝突処理する場合の工程の例を示す。この例においては、発酵残滓は発酵原料と混合された後、粗粉砕され、対向衝突処理工程に投入される。ここでも上述したのと同様に、循環型対向衝突処理装置を用い、循環回数を制御することにより、適切なサイズになるまでの対向衝突処理を行うことができる。そして、得られた対向衝突処理物は、発酵原料と共にメタン発酵工程のために投入され、適切な温度に設定されたメタン発酵のためのリアクター内で、セルラーゼとメタン菌とにより、メタン発酵が進むこととなる。
メタン発酵において対向衝突処理を適用することにより、系中にメタン発酵を阻害するセルロース繊維が多く存在する場合であっても、充分にメタン発酵処理を行うことができる。対向衝突処理の適用は、従来の湿式粉砕処理又はセルラーゼ処理する場合に比較して、低エネルギーで、短時間でメタン発酵システムを運転することが可能である。
本発明をエタノール発酵に適用する場合、対向衝突処理により、有機物の糖化が促進される。糖化には、同様の目的に用いられる酵素(例えば、セルラーゼオノズカR10(ヤクルト薬品工業株式会社)、メイセラーゼ(明治製菓株式会社))及び/又は微生物(例えば、トリコデルマ属菌(例えば、トリコデルマ・ビリデ、トリコデルマ・リーセ)、バチルス属菌、白色腐朽菌)を適用することができる。糖化により生じた糖がさらにエタノール発酵原料となる。
以下の実施例に、対向衝突処理による天然セルロース水溶化した場合のセルラーゼのセルロース繊維加水分解促進に関する実験結果を示した。この結果から、メタンガス発酵の前処理としての有機物のセルラーゼ処理における対向衝突処理の有用性以外に、当業者であれば、有機物の糖化における対向衝突処理の有用性も理解することができる。この糖化により生じるグルコース等は、それを資化可能な微生物によるエタノール発酵に利用される。したがって、対向衝突処理は、有機物からの効率的なエタノール発酵においても、前処理として有用である。乳酸発酵においても同様である。
1. 実験:
1.1 セルロース水溶液の化学構造の検討:
セルロース微結晶繊維としてアビセル(登録商標)を用い、衝突処理機として改良したアルティマイザーシステム ラボ機((株)スギノマシン)を使用した。高結晶性のセルロース10gを純水800mlに懸濁させた後、アルティマイザーシステムに供し、衝突回数を変えて、それぞれ処理した後に、処理液を遠心分離して、上澄みと沈殿物を得た。両成分の化学構造は赤外分光により、また、重合度は粘度重合度測定により検討した。
1.2 酵素分解挙動の解析:
反応酵素はTrichoderma viride由来のセルラーゼ(和光社製)を用いた。セルロース水溶液は、200MPa、120cycleで対向衝突を行った処理液を2.0×104Gにて遠心分離を行い、その上澄みを用いた。このセルロース水溶液は、塩析を生じたため緩衝液を加えず、この水溶液だけの系で酵素分解を行い、Somogyi-Nelson法により酵素分解によって得られるグルコースの還元性末端を定量した(M.Somogyi:J.Biol.Chem.,195,19-23(1952)、及びN.Nelson:J.Biol.Chem.,153,375-380(1944)参照)。その比較対象として、同濃度に調製した水-微結晶性セルロース(アビセル(登録商標))混合液を用いた不均一系での反応を同様の手順で行った。
上記以外に、対向衝突処理液自体(セルロースナノ繊維とセルロース水溶液の混合物)、対向衝突処理したバクテリアセルロース(BC)(酢酸菌による生産物(ナタデココ))、ネマティックオーダーセルロース(NOC)(Kondo, T., Togawa, E. and Brown Jr., R. M., Nematic Ordered Cellulose : A Concept of Glucan Chain Association, Biomacromolecules, 2, 1324 -1330(2001))を用いた。NOCは、非結晶性で分子配向を示すセルロースのフィルムであり、独特の表面吸着性を有するため、酵素がその表面に吸着させられたときにどのような挙動を示すかを調べる試料として用いた。
2. 結果・考察:
対向衝突処理によって得られた透明水溶液は、赤外分光法と重合度測定の結果、未処理物に比べて化学構造の変化はみられず、また重合度の変化もみられなかった。このことは対向衝突処理によるセルロースの水溶液化は化学構造に変化を与えず、相互作用のみを解裂させたことを示す。
酵素反応においては、大変興味深いことにセルロース水溶液の酵素分解速度は、同濃度の微結晶セルロース(アビセル)の約20倍程度早い分解速度を示した(図3)。対向衝突処理液の酵素分解の場合は最適pH下ではなく、処理液そのままであり、一方、微結晶セルロースの分解は最適pH下であるので、速度の差はさらに大きいと考えられた。NOCの分解速度は、微結晶セルロースと同程度であった。
セルロース水溶液の酵素反応特性が高いことは、i)対向衝突処理によるセルロース
の水溶液化により、基質が酵素の触媒領域に直接反応して活性が増大した可能性と、あるいは、ii)不均一系では不活性な非prosessive型のセルラーゼの活性が増加した可能
性とが考えられる。
図1は、発酵残滓を対向衝突処理する場合の工程の例を示したものである。 図2は、発酵残滓と発酵原料とを合わせて対向衝突処理する場合の工程の例を示したものである。 図3は、反応速度の経時変化を表したグラフである。対向衝突処理によって得られたセルロース溶液の酵素分解速度は、同濃度の水−微結晶セルロース混合溶液に比較して、非常に大きいことが分かった。

Claims (5)

  1. セルロース繊維をセルラーゼで分解する方法において、セルロース繊維を対向衝突処理し、得られた処理物にセルラーゼを作用させることを特徴とする、セルロース繊維の分解方法。
  2. セルロース繊維を多く含有する有機物を発酵する方法において、セルロース繊維を多く含有する有機物を対向衝突処理する工程を含むことを特徴とする、前記方法。
  3. 乳酸、メタン又はエタノールを生産するための、請求項2に記載の方法。
  4. セルロース繊維を多く含有する有機性廃棄物をメタン発酵する方法において、該有機性廃棄物、又は該有機性廃棄物をメタン発酵処理して得られた発酵残滓を対向衝突処理し、得られた処理物をメタン発酵工程に投入することを特徴とする、メタン発酵方法。
  5. 有機性廃棄物が家畜排泄物である、請求項4記載の方法。
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