本発明は、平版印刷版、特に感光層が光重合性である平版印刷版の製版方法に関する。
近年、紫外、可視、赤外などの各種レーザーを用いたダイレクト製版システム(コンピュータで作製した画像情報をダイレクトに製版するためにコンピュータ・ツウ・プレート、頭文字をとりCTPシステムとも呼称される)が実用化され、一般商業印刷の分野において広く普及している。このダイレクト製版システムはシステムをデジタル化する事によってスピード、コスト、安定性などの面で従来のフィルムを用いた製版システムに比べて有利であり、今日の一般商業印刷の市場では主流となりつつある。
このダイレクト製版システムはこれらの利点から一般商業印刷市場のみならず、新聞印刷市場にも広く浸透しつつある。新聞印刷ではその印刷部数の多さと印刷速度の速さから一般商業印刷に比べて印刷条件が過酷であり、印刷版に対して高い耐刷性が要求される。このため、これまでのフィルム製版システムにおいてはポジ型感光材料よりも架橋反応により高い強度の画像を形成することの出来るネガ型の光重合性感光材料が用いられてきた。このことから新聞印刷市場へのダイレクト製版システムの導入には高い画像強度を持つ平版印刷版が必要不可欠とされていた。
これまでのネガ型PS版を用いたフィルム製版システムでは水銀ランプなどの非常に高いエネルギーを持つ光源で長時間、密着露光を行なう事により感光層の架橋反応を起こすものであり、現像処理によって得られた画像は非常に強固なものであった。ダイレクト製版システムではこれらの光源に比べて低い露光エネルギーで露光処理を行うため、同等の強度を持つ画像の形成は当初、困難とされてきたが、近年では画像強度を改良するために多様な感光材料が開発されている。特に750nm以上の赤外光領域に発光する高出力半導体レーザーの小型化、高出力化が進み、ダイレクト製版システム用の露光用光源として非常に有用であることから、赤外光レーザーを用いたダイレクト製版システムにおいて感光性材料の開発はめざましい発展を遂げ、様々な提案がなされている。
例えば特開平7−20629号公報に記載の感光性材料はレゾール樹脂、ノボラック樹脂および潜伏性ブロンステッド酸、赤外吸収剤を含む事を特徴とし、ポジ版にもネガ版にも利用出来る平版印刷版について記載されている。また、特開2000−089452号公報には架橋性を有する化合物が独自の構造であり、バインダーがヒドロキシ基またはアルコキシ基が直接結合した芳香族炭化水素環を側鎖又は主鎖に有するポリマーで、かつ熱により酸を発生する化合物と赤外線吸収剤を含むネガ型画像記録材料について記載されている。また、特開2001−272778号公報にはボレート錯塩とトリハロアルキル置換化合物および近赤外光から赤外光領域の波長範囲において吸収を有する増感色素を併せて含むことを特徴とした感光材料について記載されている。
このようなネガ型のレーザーダイレクト製版システムの現像工程は、用いられるバインダーポリマーのアルカリ可溶性を利用し、不要となる非画像部を水系アルカリ性現像液で溶解除去するものである。特に感光層はアルカリ可溶性ではあるが、疎水性が強いため水混和性の有機溶剤などを加えることで、溶解不良による残膜を抑制し印刷汚れを防止している。特にベンジルアルコールを加えることは、水との混和性や溶解性の点で有効に用いられている(特許文献1)。
一方で、上述の様なダイレクト製版に対応した平版印刷版(以下CTP印刷版と言う)の課題として、前記ネガ型PS版に比べ架橋反応の完了度が低く、画像強度としては今一歩及ばない面があった。これは極めて短時間で露光されるレーザー露光に対応できる高感度であるが故に、熱等の外的要因に対する露光前の保存性を確保する必要があることで架橋効率の最適化がなされている為である。
そこでレーザー露光後の硬化促進のために、画像露光後、現像工程に先だって加熱処理し、露光工程で残存したラジカルを再反応させ、架橋を進める方法も提案されているが、版材の全域にわたって均一に熱を供給することが困難であり、画像ムラ、特に網点ムラを生じる問題や製版に必要なエネルギーが増大すること、また装置自身の大型化という非効率かつ不経済な問題が生じていた。
一方で、硬化が不充分であると、現像工程において画像部に現像液が浸透してしまい、結果的に、感光層にダメージを与える問題があった。特に解像度の高い網点や細線の再現性において、ハイライト部とシャドウ部のバランスが難しくレンジが狭くなる。これはシャドウ部の抜けを良好とするとハイライト部では周辺が非画像部であるために、感光層面からのみでなく周囲からの浸透も起こるために画像部感光層へダメージを与え、シャドウ部やベタ部に比べ耐刷性が顕著に低下するためである。とは言え現像液の浸透性を落とすことは、非画像部の溶出不良を招くため印刷汚れし易くなり好ましくない。
これら課題に対して、非画像部の溶出を促進しつつ、画像部のインキ受理性を阻害したり、画像部の強度を弱めないような非画像部の溶出促進剤の添加が提案されている(特許文献2)。
ところで、網点の形成方法としてFM(Frequency Modulation:周波数変調)スクリーニング方法が再現性の向上、モアレの解消、インキ消費量の削減というメリットから急速に普及しており、このFMスクリーニング方法では最小画素がより小さくなるために再現性がより強く影響されることとなる。このため、解像度の高いFMスクリーニング方法による画像再現性を良好に得るためには溶出促進剤を添加しても不十分な場合があった。
加えて、現像処理の短時間化、即ち高速処理及び/または装置の小型化は生産性の向上を図る上で市場の強い要望として存在している。これに対して現像液の溶解成分の高濃度化などで溶解性を高めることで短時間処理は可能となるが、現像廃液としての処分が煩雑で難しくなり、地球環境保護の観点から好ましくない。
また一方では、保存性を高める目的で、最表層にポリビニルアルコール樹脂を主体とする膜を設け、空気中の酸素を遮断するCTP印刷版の現像方法として、ポリビニルアルコール樹脂を主体とする膜を除去液にて除去してからアルカリ性現像液を付与し現像を行う方法が開示されている(特許文献3)。これはポリビニルアルコール樹脂がアルカリ性現像液中に流入することでの不都合、例えばスラッジの蓄積、粘度上昇による溶出性の低下などが指摘されているため、先に親水性であるポリビニルアルコール樹脂を主体とする膜を効率よく除去することが目的であり、感光層自身の溶解、さらには解像度の向上については言及はもちろん示唆も一切されていない。
特公昭56−39464号公報
特開2002−278085号公報
特開2001−166488号公報
従って本発明の課題は、高感度なCTP印刷版においても、現像安定性、即ち画像部の印刷性能を阻害せず非画像部の溶出性を改良し、網点部画像再現性が高く、低濃度成分量ながら短時間処理の可能な平版印刷版の製版方法を提供する事である。
本発明の上記目的は以下に記載の平版印刷版の製版方法によって達成できることを見いだした。
1.画像部をレーザー露光により架橋させ、アルカリ性現像液を用いて未露光部を溶解除去する平版印刷版の製版方法であって、露光後、アルコール類および/または界面活性剤を含有する浸透液を版面に付与した後に該アルカリ性現像液を付与することを特徴とする平版印刷版の製版方法。
2.前記アルコールが、アルカノールアミン類であることを特徴とする前記1記載の平版印刷版の製版方法。
3.前記界面活性剤が、芳香族アニオン系界面活性剤であることを特徴とする前記1記載の平版印刷版の製版方法。
4.前記平版印刷版の感光層が重合性ポリマーとして側鎖に重合性二重結合を有するモノマーとカルボキシル基含有モノマーの共重合体を有しかつ、光重合開始剤として有機ホウ素塩を有する事を特徴とする前記1または2記載の平版印刷版の製版方法。
本発明により、高感度なCTP印刷版を用いても網点部画像再現性が高く、また高解像度のFMスクリーニングでも良好な網点レンジによる印刷再現を得ることが出来る秀逸な効果が得られる。
本発明者が鋭意検討した結果、上記課題に対して、アルコール類および/または界面活性剤の水溶液を先に版面に付与した後にアルカリ性現像液を付与することが極めて有用である事が明らかになった。これは、通常アルカリ性現像液中にはアルカリ成分の他に、溶出補助成分として有機溶剤や界面活性剤を含有させて、感光層を一部溶解および/または膨潤し浸透することで、現像液中のアルカリ成分の浸透を助け溶解除去性を高めているが、同時に作用させると版面中の画像部の周辺状況より溶解性に差異が生じる。即ち網点ハイライト部では感光層上面からのみならず画像周囲(横方向)からの浸透も発生する一方で網点シャドウ部ではほぼ上面のみの浸透となるためである。
本発明では、アルコール類および/または界面活性剤の水溶液である浸透液を先に感光層に付与し、予め感光層の非画像部に浸透させておくことで、版面上の画像部の周囲状況の如何に関わらず同等に浸透がなされており、続いて供給されるアルカリ性現像液中に含まれるアルカリ成分でほぼ同じ時間内に溶解除去が完結する。
本発明における現像液の版面への付与方法を詳しく説明する。通常このような平版印刷版の現像処理は自動現像機を用いて処理が行われる。自動現像機は、一般に現像処理部と後処理部とからなり、印刷版を搬送しつつ各処理液槽及びスプレー手段から成り、露光済みの印刷版を水平もしくは各処理槽に浸漬しつつ搬送しながら、各処理槽からポンプで組み上げた各処理液をスプレー手段により版面に吹き付けて現像処理及び後処理するものである。また、現像処理量や稼働時間等に応じて各処理槽に補充液を補充しながら処理することが出来る。
本発明の現像方法の一例を図1に示す。現像処理槽2の上流側に浸透液処理槽1を設け、アルコール類および/または界面活性剤を水溶液に調製し(浸透液と呼ぶ)浸透液槽1に投入する。ポンプ11を介してシャワー手段12に送られ、搬送絞りロール対13、14、15、16により搬送される印刷版100の版面に付与される。その後、現像処理槽2に搬送されつつ現像液中に浸漬され、溶出促進手段21により版面の非画像部が溶解除去される。その後搬送絞りロール対22、23を介して水洗槽3へ送られ所定の処理が施される。
また他の例としては、浸透液を現像液浸漬の前に必要量を塗布し、そのまま現像液に浸漬し現像処理を行うことも出来る。この場合には、現像液中に浸透液が現像処理毎に加算されるので、用いる現像液や現像補充液には浸透液中に含まれる成分を含有させないあるいは減量することや現像液槽にオーバーフロー口を設け液交換を促進し現像液中の膜面浸透性化合物の濃度が過剰とならないような措置をとることが出来る。浸透液の付与量としては、用いる平版印刷版の組成や感光層膜厚、及び現像処理時間、現像処理温度により決定されるが、平米あたり1〜1000ml、好ましくは10〜100mlの範囲で使用できる。
本発明の浸透液について説明する。アルコール類及び/または界面活性剤を主体とした水溶液である。複数のアルコール類や複数の界面活性剤を適宜混合して用いることも出来、その含有量としては合計して0.001質量%〜50質量%の濃度範囲で使用できるが、後に処理される現像液に含有されている有機溶剤および/または界面活性剤と同程度の¥濃度であることが好ましく、0.1質量%〜5質量%の範囲が好適である。一方、用いる平版印刷版の組成や感光層膜厚などを勘案して、浸透液濃度を簡単な実験を行うことにより決定し、調整することによって浸透性の調整を行い、現像処理の短時間化を図ることもできる。また温度も同じく温調しておくことが好ましいが、用いる平版印刷版の組成や感光層膜厚などを勘案して、浸透液温度を調整することによって浸透性の調整を行い、現像処理の短時間化を図ることもできる。また浸透液には、防腐剤、着色剤、粘性調整剤等の添加剤を適宜添加することが出来る。
本発明の浸透液に用いられるアルコール類とは、疎水性である感光層膜面に対してある一定以上の浸透性を持つ液体状の水溶性有機化合物であり、具体的にはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、1−ペンタノール等の脂肪族アルコール類、ベンジルアルコール等の芳香族アルコール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、N、N−ジエチルエタノールアミン、N−(アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルイソプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−(t−ブチル)エタノールアミン、等のアルカノールアミン類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(1−プロポキシ)エタノール、2−(1−ブトキシ)エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のグリコールエーテル類等の化合物等が挙げられる。中でも好ましいアルコール類としては、疎水性表面への浸透性が強くまた印刷性に対する影響が良好なアルカノールアミン類である。これらの浸透液の含有量は0.01〜50質量%であり、特に好ましくは0.1〜5質量%である。
また本発明の浸透液に用いられる界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の好ましい例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、しょ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体付加物、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどの非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルジアリルエーテルスルホン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類などのアニオン界面活性剤、アルキルアミン塩類、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体などのカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミダゾリン類、などの両性界面活性剤が挙げられる。以上挙げた界面活性剤の中でポリオキシエチレンとあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンなどのポリオキシアルキレンに読み替えることもでき、それらの界面活性剤もまた含有される。また分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系の界面活性剤も好適に使用できる。例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルなどのアニオン型、パーフルオロアルキルベタインなどの両性型、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などのカチオン型及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有ウレタンなどの非イオン型が挙げられる。
また本発明の浸透液にさらに好適に用いられる界面活性剤としては、特に芳香族アニオン系界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は特に芳香環を有するバインダーポリマーに対して浸透性が強く有効に作用する。具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩類が挙げられる。こられの界面活性剤は、単独もしくは二種以上または上述の芳香族アニオン系界面活性剤以外の組み合わせでも適宜使用することが出来、現像液中に0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%の範囲で添加される。
次に本発明に係わる現像液について説明する。成分構成としては、感光層中のバインダーポリマーを主に溶解するアルカリ水溶液を主体として、現像性の促進のために膜面浸透性化合物や、現像カスの分散、印刷版画像部の親インキ性を高める目的として種々の界面活性剤や有機溶剤、及び必要に応じて消泡剤や金属封鎖剤、抗菌・防カビ剤、着色剤等の添加剤から構成されている。
アルカリ水溶液としては、従来より知られているアルカリ水溶液が使用できる。例えば、ケイ酸ナトリウム、同カリウム、第3リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、第2 リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、炭酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、ほう酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、水酸化ナトリウム、同アンモニウム、同カリウムおよび同リチウムなどの無機アルカリ塩が挙げられる。また、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−プチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジンなどの有機アルカリ剤が挙げられる。これらのアルカリ水溶液は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらのアルカリ水溶液の中で、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸塩水溶液が特に好ましい。その理由としては、ケイ酸塩の成分である酸化珪素SiO2とアルカリ金属酸化物M2Oとの比率と濃度によって現像性の調節が可能となるためであり、例えば、特開昭54−62004号公報、特公昭57−7427号公報に記載されているようなアルカリ金属ケイ酸塩が好適に挙げられる。
膜面浸透性化合物としては、具体的にはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、N、N−ジエチルエタノールアミン、N−(アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルイソプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−(t−ブチル)エタノールアミン、等のアルカノールアミン類、オキソラン、オキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(1−プロポキシ)エタノール、2−(1−ブトキシ)エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等のグリコールエーテル類、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸1−プロピル、酢酸1−ブチル等の脂肪酸エステル類、アセトン、プロパノン、ブタノン等のケトン類、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、及びジメチルスルホキシド、特開2002−278085号公報記載の炭素数2〜10のアルキル基とポリアルキレンオキシ基を有する化合物等が挙げられる。中でも好ましい浸透性化合物としては、印刷性に対する影響からアルカノールアミン類である。これらの浸透性化合物の現像液中の含有量は0.01〜50質量%であり、特に好ましくは0.1〜5質量%である。
また界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の好ましい例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、しょ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、エチレンジアミンのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体付加物、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどの非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物などのアニオン界面活性剤、アルキルアミン塩類、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体などのカチオン性界面活性剤、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミダゾリン類、などの両性界面活性剤が挙げられる。以上挙げた界面活性剤の中でポリオキシエチレンとあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンなどのポリオキシアルキレンに読み替えることもでき、それらの界面活性剤もまた含有される。更に好ましい界面活性剤は、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系の界面活性剤である。係るフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステルなどのアニオン型、パーフルオロアルキルベタインなどの両性型、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などのカチオン型及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性及び親油性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基含有ウレタンなどの非イオン型が挙げられる。こられの界面活性剤は、単独もしくは二種以上を組み合わせて使用することが出来、現像液中に0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜5質量%の範囲で添加される。
本発明においては、自動現像装置を用いて現像されるが、現像液にアルカリ強度の高い水溶液(補充液)を現像液に加えることも可能である。それによって、長時間現像タンク中の現像液を交換する事なく、多量のPS版を好適に処理することができる。
本発明に用いられる現像液には、好ましくは種々現像安定化剤が用いられる。それらの好ましい例として、特開平6−282079号公報記載の糖アルコールのポリエチレングリコール付加物、テトラブチルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩及びジフェニルヨードニウムクロライドなどのヨードニウム塩が好ましい例として挙げられる。更には、特開昭50−51324号公報記載のアニオン界面活性剤又は両性界面活性剤、また特開昭55−95946号公報記載の水溶性カチオン性ポリマー、特開昭56−142528号公報に記載されている水溶性の両性高分子電解質がある。更に、特開昭59−84241号公報のアルキレングリコールが付加された有機ホウ素化合物、特開昭61−215554号公報記載の質量平均分子量300以上のポリエチレングリコール、特開昭63−175858号公報のカチオン性基を有する含フッ素界面活性剤、特開平2−39157号公報の酸又はアルコールニ4モル以上のエチレンオキシドを付加して得られる水溶性エチレンオキシド付加物と、水溶性ポリアルキレン化合物などが挙げられる。
本発明に用いられる現像液は使用時よりも水の含有量を少なくした濃縮液としておき、使用時に水で希釈するようにしておくことが運搬上有利である。この場合の濃縮度は各成分が分離や析出を起こさない程度が適当であり、含有物にもよるが、通常、濃縮液:水=1:0〜1:10程度に濃縮する事ができる。又、容器としてはアルカリ性であることから、炭酸ガスを透過しない、しかも安全上輸送中に破損することのない材料を用いることが好ましく、通常ハードボトル、キュービテナー等の樹脂製容器が好ましく用いられる。
次に本発明に使用される平版印刷版について説明する。本発明に使用される平版印刷版は、従来公知の画像部をレーザー露光により架橋させる、いわゆるネガ型のCTP印刷版を用いることができ、特に高感度なものや新聞印刷用に用いられる高耐刷力を必要とするもので十分に効果を発揮する。またCTP印刷版の表面が水不溶性であるものでは、水を主体とするアルカリ性現像液の浸透性が水溶性の表面を有するCTP印刷版に比べ遅いため、特に高解像度の網点画像部での溶解性差異、即ち網点再現性の差異が生じ易く有効に用いることが出来る。これらの印刷版の例としては特開平7−20629号公報に記載のレゾール樹脂、ノボラック樹脂および潜伏性ブロンステッド酸、赤外吸収剤を含む事を特徴とする平版印刷版や、特開2000−089452号公報に記載の架橋性を有する化合物が独自の構造であり、バインダーがヒドロキシ基またはアルコキシ基が直接結合した芳香族炭化水素環を側鎖又は主鎖に有するポリマーで、かつ熱により酸を発生する化合物と赤外線吸収剤を含む平版印刷版、また、特開2001−272778号公報に記載のボレート錯塩とトリハロアルキル置換化合物および近赤外光から赤外光領域の波長範囲において吸収を有する増感色素を併せて含むことを特徴とした平版印刷版等が挙げられる。中でも、平版印刷版の感光層が重合性ポリマーとして側鎖に重合性二重結合を有するモノマーとカルボキシル基含有モノマーの共重合体を有しかつ、光重合開始剤として有機ホウ素塩を有する平版印刷版であればさらに高感度であるために有効に適用できる。また比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸などを主成分とした酸素遮断性の保護層を有するCTP印刷版も適用することが出来る。
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、効果はもとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下に本実施における自動製版機について図1を用いて説明する。図1は本発明の一例を示す自動製版機の現像部の概略断面図である。図1において露光処理された平版印刷版100は、感光層面を上側にして自動現像機に挿入され、浸透液処理槽1にて、下記に示す浸透液がポンプ11を介してシャワー手段12に送られ版面に付与される。その後搬送絞りロール対15、16により余剰の浸透液が絞液される。その後に、現像処理槽2に搬送されつつ現像液中に浸漬され、溶出促進手段(本例では平版印刷版の搬送とは別駆動の回転モルトンロールを用いた)21により版面の非画像部が溶解除去される。その後搬送絞りロール対22、23を介して水洗槽3へ送られ所定の処理が施される。
その後、図示しないガム処理部に搬送される。ガム処理部ではガム液の塗布を行い、平版印刷版表面の保護膜の形成がなされ、最後に乾燥処理部で乾燥が施されるようになっている。
平版印刷版は特開2002−278085号公報の実施例1記載の方法で作製した平版印刷版について、830nm半導体レーザーを搭載した外面ドラム方式プレートセッター(大日本スクリーン製造株式会社製PT−R4000)を使用して、ドラム回転速度1000rpmでレーザー照射エネルギーを50mJ/cm2に固定し露光処理を行い、引き続いて上記の自動製版機にて現像処理を行った。
浸透液、現像液は以下のものを使用した。
<浸透液1>
N−メチルエタノールアミンが2質量%となるように水で希釈して調製した。
<浸透液2>
トリエタノールアミンが2質量%となるように水で希釈して調製した。
<浸透液3>
N−エチルエタノールアミンが1質量%、芳香族アニオン界面活性剤(花王社製ペレックスNB−L)が3質量%となるように水で希釈して調製した。
<浸透液4>
ベンジルアルコールを0.5質量%となるよう水で希釈して調製した。
<浸透液5>
芳香族アニオン界面活性剤(花王社製ペレックスNB−L)が5質量%となるように水で希釈して調製した。
<現像液>
N−エチルエタノールアミンが1質量%、水酸化カリウムが0.5質量%、芳香族アニオン界面活性剤(花王社製ペレックスNB−L)が3質量%、金属封鎖剤(ナガセケムテックス社製クレワットDA)0.1%となるように水で希釈して調製した。
上記自動製版機における現像処理で、上記現像液及び浸透液1〜5をそれぞれ使用する方法以外に、浸透液槽には何も入れず無処理のものとを製版した。それぞれの製版で平版印刷版の搬送速度を変化させて、製版物の非画像部を100倍ルーペで子細に観察し、感光層の溶解除去が完全に行われたことを確認したところ、いずれも浸透液を用いた場合には用いなかった場合に比べて、浸透液1、2では1.5倍、浸透液3では2倍、浸透液4は1.75倍、浸透液5では1.25倍での高速処理が可能、即ち短時間処理が可能であった。次いで、これらをオフセット印刷機(小森コーポレーション社製 スプリント226)、インキ(T&K TOKA社製 スーパーTEKPLUSマゼンタL)及び給湿液(日研化学研究所社製 アストロマーク3)を使用して5万枚の印刷を行い、印刷物の網点線密度175線の網点部1%〜9%及び90〜99%の面積率を1%刻みに測定したところ、いずれも浸透液を用いた場合には印刷開始直後の印刷物から良好な再現性が得られ、かつ5万枚印刷後の印刷物での網点部の面積率減少も実用上問題ない範囲であった。また印刷開始時から非画像部汚れの脱離性や画像部インキ乗りが良好となる印刷物が得られるまでの枚数で比較すると、浸透液1〜3では10枚以内であったが、浸透液4、5を用いたものでは20枚程度要した。一方、浸透液を用いていない場合には印刷開始直後の印刷物では良好な再現性であるが、5万枚印刷後の印刷物では、特に1〜2%部分の網点面積率の減少が大きく、ほとんど再現されていなかった。
本発明の活用例として、商業印刷あるいは新聞印刷分野向けCTP印刷版用の製版方法として用いることができる。
本発明の一例を示すプロセッサの断面概略図である。
符号の説明
100 平版印刷版
1 浸透液処理槽
2 現像処理槽
3 水洗槽
11 ポンプ
12 シャワー手段
13、14、15、16 搬送絞りロール
21 溶出促進手段
22、23、31、32 搬送絞りロール
24、25、26、27、29、30 液中搬送ロール
28 ガイド板
40、41 搬送絞りロール