JP2007154162A - 熱可塑性ポリエステル樹脂組成物 - Google Patents

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勝由 江幡
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Abstract

【課題】高剛性、高衝撃強度、高耐熱性であり、流動性に優れ、かつ流動性、製造性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(B)少なくとも一方の末端にカルボン酸エステル構造及びアルキルエーテル構造のいずれかを有するポリアルキレングリコール又はその誘導体と、(C)前記熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基を有したビニル性モノマーを含む反応性化合物と、(D)無機充填材とを含有することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、高剛性、高衝撃強度、高耐熱性であり、かつ流動性、製造性に優れた、各種電気・電子部品用部材及びOA部品用部材などに好適に利用可能である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
熱可塑性ポリエステル樹脂は、剛性や衝撃強度などの機械物性が良好で、かつ比較的安価であることから、繊維、フィルム、シート、構造材料などとして多くの分野において広く用いられている。特に、電気・電子部品やOA部品などの構成部材には、高剛性、高衝撃強度に加えて、高耐熱性を有することが求められており、そのため、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂に、ガラス繊維などの無機充填材を配合し、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物とすることが広く行われている。
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械物性や耐熱性を向上させる場合、ガラス繊維などの無機充填材を大量に含有させる必要があるが、無機充填材を大量に含有させると、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の流動性が低下し、成形性に影響を与えるという問題がある。また、結晶化核剤、結晶化促進剤、可塑剤などを共に含有させることで流動性を改良することはできるが、その場合は、機械物性、特に衝撃強度が低下するという問題がある。
これらの問題を解決する目的で、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に、熱可塑性ポリエステル樹脂との反応性化合物を含有させる方法が提案されている。このような反応性化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物としては、例えば、カルボジイミド化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(特許文献1参照)、臭素化エポキシを含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(特許文献2参照)、グリシジルエーテル、カルボジイミド、ケテンイミン、アジリジン、イソシアネートから選ばれる化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(特許文献3参照)、多官能化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(特許文献4参照)などが提案されている。
しかし、これらの反応性化合物を使用した場合、反応性化合物がゲル化しやすく、混練押出時にダイス内に固化物が発生して、ストランド切れやサージングなどが起こり、製造性が低下するという問題がある。また、混練後に得られた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物についても、流動性が低下したり、剛性や衝撃強度などの機械物性、及び耐熱性が不安定になるなどの問題がある。このように、機械物性、耐熱性、流動性、及び製造性をバランスよく満たすことのできる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることはできていないのが現状である。
特開平11−49939号公報 特開平9−241488号公報 特開平10−130482号公報 特開平10−110090号公報
本発明は従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高剛性、高衝撃強度、高耐熱性であり、かつ流動性、製造性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性ポリエステル樹脂に特定のポリアルキレングリコール誘導体と特定の反応性化合物を含有させることで、前記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1>(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(B)少なくとも一方の末端にカルボン酸エステル構造及びアルキルエーテル構造のいずれかを有するポリアルキレングリコール又はその誘導体と、(C)前記熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基を有したビニル性モノマーを含む反応性化合物と、(D)無機充填材とを含有することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
<2>(B)ポリアルキレングリコール又はその誘導体において、カルボン酸エステル構造及びアルキルエーテル構造の少なくともいずれかがアルキル基を有してなり、前記アルキル基の炭素数が5〜12である前記<1>に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
<3>(C)反応性化合物が、更にスチレンを含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
<4>(C)反応性化合物において、熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基がエポキシ基である前記<1>から<3>のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
<5>(C)反応性化合物の重量平均分子量が6,000〜15,000であり、かつ、エポキシ価が0.8〜3.0meq/gである前記<1>から<4>のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
<6>(B)ポリアルキレングリコール又はその誘導体の含有量が0.5〜10質量%である前記<1>から<5>のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
<7>(C)反応性化合物の含有量が0.5〜10質量%である前記<1>から<6>のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
<8>(D)無機充填材の含有量が1〜40質量%である前記<1>から<7>のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
本発明によると、高剛性、高衝撃強度、高耐熱性であり、かつ流動性、製造性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。
(熱可塑性ポリエステル樹脂組成物)
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(B)ポリアルキレングリコール又はその誘導体と、(C)反応性化合物と、(D)無機充填材とを含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
−(A)熱可塑性ポリエステル樹脂−
前記熱可塑性ポリエステル樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とし、アルキレングリコールを主たるグリコール成分とする熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましい。
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸などが挙げられる。前記芳香族ジカルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
一方、前記アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどが挙げられる。前記アルキレングリコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂の極限粘度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.5が好ましく、0.5〜1.2がより好ましい。前記極限粘度が、0.4未満であると、剛性、衝撃強度などの機械強度が低下することがあり、1.5を超えると、流動性が低下し、成形性が損なわれることがある。一方、前記極限粘度が、前記より好ましい範囲内であると、機械強度及び流動性のいずれもが、よりバランス良く優れる点で、有利である。
なお、前記極限粘度は、ISO1628により、オストワルド粘度計を使用し、o−クロロフェノールを溶媒として35℃で測定した場合の値であり、単位は100mL/gである。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂の市販品としては、例えば、ダイヤナイトMA−521−R25、MA−521−D25、PA−200−D25(いずれも三菱レーヨン株式会社製)、などが好ましく挙げられる。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における、前記熱可塑性ポリエステル樹脂の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60〜90質量%が好ましく、70〜80質量%がより好ましい。前記含有量が、60質量%未満であると、流動性が小さく成形性に劣ることがあり、90質量%を超えると、剛性、衝撃強度などの機械強度が低下することがある。一方、前記含有量が、前記より好ましい範囲内であると、流動性及び機械強度のいずれもが、よりバランス良く優れる点で、有利である。
−(B)ポリアルキレングリコール又はその誘導体−
前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の流動性、及び耐熱性を向上させる目的で使用される。
前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体としては、少なくとも一方の末端にカルボン酸エステル構造及びアルキルエーテル構造のいずれかを有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(1)
Figure 2007154162
(式中、R及びRは、それぞれ水素、アルキル基、又はアシル基であり、Rは炭素数2〜4のアルキレン基であり、nは任意の正数である、但し、ここで、R及びRの両方が水素である場合を除く)で表される、ポリアルキレングリコールカルボン酸エステル、ポリアルキレングリコールアルキルエーテルなどが挙げられる。
前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体における、ポリアルキレングリコール成分の重合度(前記一般式(1)中のn)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性の点から、5〜25が好ましい。前記重合度が、5未満であると、成形後にブリードアウトが発生しやすくなり、25を超えると、前記熱可塑性ポリエステル樹脂中への分散性が低下し、流動性及び耐熱性向上効果が低下することがある。
一方、前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体の末端となる、前記カルボン酸エステル構造及びアルキルエーテル構造の少なくともいずれかは、好ましくはアルキル基を有してなり、前記アルキル基の炭素数は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性の点から、5〜12が好ましい。前記炭素数が、5未満であると、成形後にブリードアウトが発生しやすくなり、12を超えると、熱可塑性ポリエステル樹脂中への分散性が低下し、流動性及び耐熱性向上効果が低下することがある。
なお、前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体の重量平均分子量は、300〜3,000であることが好ましく、350〜2,500であることがより好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、ポリスチレンを基準物質として、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し示差屈折(RI)検出器を用いて測定することができる。また、前記一般式(1)中の(RO)及びRの炭素数及び構造については、1H−NMRにより分析し決定することができる。ポリアルキレングリコール成分の重合度(前記一般式(1)中のn)は、重量平均分子量から前記一般式(1)中の(RO)及びRの分子量を引き、ポリアルキレングリコールの単位分子量(前記一般式(1)中の−(RO)−単位)で除することにより算出することができる。
前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体の市販品としては、例えば、リオノンDEH−40、レオファットLA90−92(共にライオン株式会社製)などが好ましく挙げられる。
前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における、前記ポリアルキレングリコール又はその誘導体の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましい。前記含有量が、0.5質量%未満であると、流動性及び耐熱性向上効果が小さく、10質量%を超えると、剛性、衝撃強度などの機械強度が低下することがある。一方、前記含有量が、前記より好ましい範囲内であると、流動性、耐熱性、及び機械強度のいずれもが、よりバランス良く優れる点で、有利である。
−(C)反応性化合物−
前記反応性化合物は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の剛性、及び衝撃強度を向上させる目的で使用される。
前記反応性化合物としては、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基を有したビニル性モノマーを含むものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、更にスチレンを含むものが、前記熱可塑性ポリエステル樹脂との相溶性や、混練時の熱安定性の点で好ましい。また、ガラス転移点が向上し、固体状になるため、混練時のハンドリング性の点でも好ましい。
なお、前記「熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基」としては、熱可塑性ポリエステル樹脂の末端に結合している水酸基、カルボキシル基と反応性をもつ官能基が好適に挙げられ、このような官能基としては、例えば、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、イソシアネート基などが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、前記熱可塑性ポリエステル樹脂の末端の官能基との反応性が高い点で、好ましい。
また、前記「熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基を有したビニル性モノマー」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸モノマー、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有不飽和モノマー、イソプロペニルオキサゾリン等のオキサゾリン基含有不飽和モノマーなどが挙げられる。
なお、前記「熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基を有したビニル性モノマー」は、前記反応性化合物の主鎖に含まれていてもよく、また側鎖に含まれていてもよい。
前記反応性化合物の、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)より求めたポリスチレン換算による重量平均分子量は、2,000〜30,000が好ましく、4,000〜20,000がより好ましく、6,000〜15,000が更に好ましく、8,000〜13,000がより更に好ましい。前記分子量が、2,000未満であると、反応性化合物がゲル化しやすく、30,000を超えると、前記熱可塑性ポリエステル樹脂中への分散性が低下し、剛性、衝撃強度などの機械強度の向上効果が少ない。一方、前記分子量が、前記より更に好ましい範囲内であると、反応性化合物がゲル化することなく、かつ、機械強度をより向上させることができる点で、有利である。
また、前記反応性化合物の、ASTM D−1652−73によるエポキシ価は、0.8〜3.0meq/gが好ましく、1.2〜2.6meq/gがより好ましく、1.6〜2.2meq/gが更に好ましい。前記エポキシ価が、0.8meq/g未満であると、前記熱可塑性ポリエステル樹脂の末端の官能基との反応性が低下し、鋼性、衝撃強度などの機械強度の向上効果が少ないことがあり、3.0meq/gを超えると、反応性化合物がゲル化しやすくなる。一方、前記エポキシ価が、前記更に好ましい範囲内であると、混練条件に関わらず、より安定した機械強度向上効果が得られるという点で、有利である。
前記反応性化合物の製造方法としては、特に制限はなく、公知の製造方法を適宜選択することができ、例えば、特開昭59−6207号公報、及び特開昭60−215007号公報に記載の方法により製造することができる。
前記反応性化合物の市販品としては、例えば、エポキシ基含有モノマーを含む反応性化合物として、ARUFON UG−4030、UG−4040、UG−4070(いずれも東亞合成株式会社製)、カルボキシル基含有モノマーを含む反応性化合物として、ARUFON UFX−5010(東亞合成株式会社製)、オキサゾリン基含有モノマーを含む反応性化合物として、RPS−1005(日本触媒株式会社製)などが挙げられる。
これらの中でも特に、エポキシ基を含有するモノマーを共重合成分として有するARUFON UG−4030が好ましい。
前記反応性化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における、前記反応性化合物の含有量は、0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。前記含有量が、0.5質量%未満であると、剛性、衝撃強度などの機械強度の向上効果が小さく、10質量%を超えると、機械強度は向上するが、流動性が低下し、成形性が損なわれることがある。一方、前記含有量が、前記より好ましい範囲内であると、機械強度及び流動性のいずれもが、よりバランスよく優れる点で、有利である。
−(D)無機充填材−
前記無機充填材は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性、剛性、及び衝撃強度を向上させる目的で使用される。
前記無機充填材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、雲母、タルク、マイカ、クレー、カオリン、雲母、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。これらの中でも、ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状充填材が好ましい。
前記ガラス繊維としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、原糸を切断したチョップドストランドなどが挙げられる。前記ガラス繊維としては、収束剤でガラス繊維密度が10k〜20kに収束された、繊維長3〜6mmのものが、ハンドリング性向上の点で好ましい。また、前記ガラス繊維の繊維径は、5〜15μmが好ましく、7〜12μmがより好ましい。
前記炭素繊維としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維の原糸を切断したチョップドストランドなどが挙げられる。前記炭素繊維としては、収束剤でガラス繊維密度が10k〜20kに収束された、繊維長3〜6mmのものが、ハンドリング性向上の点で好ましい。また、前記炭素繊維の繊維径は、5〜15μmが好ましく、7〜12μmがより好ましい。
前記無機充填材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における、前記無機充填材の含有量は、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。前記含有量が、1質量%未満であると、剛性、衝撃強度などの機械強度、耐熱性の向上効果が小さく、40質量%を超えると、流動性が低下し、成形性が低下することがある。一方、前記含有量が、前記より好ましい範囲内であると、機械強度、耐熱性及び流動性のいずれもが、バランスよく優れる点で、有利である。
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の添加剤、例えば、導電剤、可塑剤、熱安定剤、加工助剤、各種難燃剤、滑剤、着色剤、流動性改良剤、帯電防止剤、相溶化剤、耐候剤、結晶核剤、レーザーマーキング剤などが挙げられる。なお、前記レーザーマーキング剤としては、特に制限はなく、印字色など目的に応じて適宜選択することができる。
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における、前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
−製造方法−
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の製造方法、例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの予備混合機に、前記各成分を同時に添加して均一に混合する方法、定量・定容フィーダーを用いて、混練機に特定成分を個別に供給する方法などが挙げられる。
また、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造に使用する装置としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、二軸押出機、単軸押出機、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。これらの中でも、上流側供給口と1ヶ所以上の下流側供給口を備えた二軸押出機は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(B)ポリアルキレングリコール又はその誘導体と、(C)反応性化合物とを、(D)無機充填材の供給前に混練することができる点で、好ましい。
−用途−
前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、高剛性、高衝撃強度、高耐熱性であり、かつ流動性、製造性に優れていることから、例えば、射出成形や押出成形などの既存の成形機を用いて成形することにより、例えば、電気・電子部品用部材、OA部品用部材などに好適に用いることができる。前記電気・電子部品用部材、OA部品用部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、耐熱性や強度が重要視されるマガジン、トレイなどの電気・電子部品包装用成形品、プリンター、スキャナー、FAXの部材やカートリッジなどのOA部品用成形品などが挙げられる。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
まず、本実施例における、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法を以下に示す。
製造装置としては、ナカタニ機械社製NR−II57mm二軸押出機を用いた。前記押出機の上流側供給口より、あらかじめプレブレンドした(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ポリアルキレングリコール誘導体、(C)反応性化合物、及びその他の成分の混合物を定量フィーダーにて供給した。前記混合物が完全に溶融したところで、前記押出機の下流側供給口より、(D)無機充填材を定量フィーダーにて供給して、混練した(シリンダ及びダイ温度は290〜270℃)。混練後、ダイスから排出されたストランド状のコンパウンドを冷却し、ペレタイザーを用いて円柱状のペレットとした。
次に、得られた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の評価方法を以下に示す。
(耐熱性)
得られた各ペレットを140℃にて3時間熱風乾燥した後、シリンダ温度280℃、金型温度80℃に設定された射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FD120S5ASE)にてダンベル試験片を作製した。得られた試験片を使用し、ISO75−2Afに準拠して、荷重たわみ温度(HDT)を測定した。また、ASTM E831に準拠して、線膨張係数を測定した(試験機種:TMA/SS6000(セイコー電子工業)、測定範囲60℃〜138℃、昇温速度5℃/分、試験片形状 横5mm×縦10mm×厚み3.2mmで縦方向の線膨張係数を測定)。
なお、本実施例においては、前記荷重たわみ温度が130℃以上であり、かつ、前記線膨張係数が1.0(10−5×℃−1)以上であることを、高耐熱性の指標とした。
(剛性)
得られた各ペレットを140℃にて3時間熱風乾燥した後、シリンダ温度280℃、金型温度80℃に設定された前記射出成形機にてダンベル試験片を作製した。得られた試験片を使用し、ISO527−2/1A/5に準拠して引張強さを測定した。
なお、本実施例においては、前記引張強さが90MPa以上であることを、高剛性の指標とした。
(衝撃強度)
得られた各ペレットを140℃にて3時間熱風乾燥した後、シリンダ温度280℃、金型温度80℃に設定された前記射出成形機にてダンベル試験片を作製した。得られた試験片を使用し、ISO179/1eAに準拠してシャルピー衝撃強度を測定した。
なお、本実施例においては、前記シャルピー衝撃強度が4.0kJ/m以上であることを、高衝撃強度の指標とした。
(流動性)
得られた各ペレットを140℃にて3時間熱風乾燥した後、ISO11443に準拠して溶融粘度を測定した(試験機種:安田精機社製140SAS2002、温度280℃、剪断速度1000sec−1、ダイ寸法 直径1mm×長さ10mm)。
なお、本実施例においては、前記溶融粘度が180Pa・s以下であることを、流動性に優れていることの指標とした。
(製造性)
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造性の指標として、前記二軸押出機から連続して押出されるストランド(糸状の樹脂組成物)が切れる回数を計測した(1時間あたり)。反応性化合物がゲル化し、押出機ダイス内部に堆積すると、ストランド切れが発生する。
なお、本実施例においては、ストランド切れが発生しない(ストランド切れ回数が0回である)ことを、製造性に優れていることの指標とした。
(実施例1)
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、(A−1)極限粘度=0.78(100mL/g)のポリエチレンテレフタレート樹脂(商品名:MA521−D25(三菱レイヨン株式会社製))を78.0質量%、(B)ポリアルキレングリコール誘導体として、(B−1)ポリエチレングリコールの両末端をエステル化したポリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキソエート(商品名:リオノンDEH−40(ライオン株式会社製))を3.0質量%、(C)反応性化合物として、(C−1)重量平均分子量が11,000、エポキシ価が1.8meq/gであるスチレン−メチルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体(商品名:アルフォンUG−4030(東亞合成株式会社製))を2.0質量%、(D)無機充填材として、(D−1)繊維径10μm、繊維長3mmチョップドストランドのガラス繊維(商品名:RES03−TP78(日本板硝子株式会社製))を15.0質量%、さらに着色剤として、ASTM D2414(DBPアブソープトメーター使用)によるDBP吸油量157mL/100gのカーボンブラック(商品名:旭F−200(旭カーボン株式会社製))1.5質量%と、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(商品名:AO−60(旭電化工業株式会社製))0.5質量%を用いて、前記製造方法により、実施例1の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得た。
各評価結果を、表1に示す。
(実施例2〜10)
表1に示す組成で、実施例1と同様にして、実施例2〜10の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得た。
なお、(B)ポリアルキレングリコール誘導体として、(B−2)ポリエチレングリコールの片側末端をエステル化し、もう一方の末端をエーテル化したメトキシポリエチレングリコールラウレート(レオファットLA90−92(ライオン株式会社製))を用いた。また、(C)反応性化合物として、(C−2)重量平均分子量が9,700、エポキシ価が1.4meq/gであるスチレン−メチルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体(アルフォンUG−4070)、(C−3)スチレンを含有しない、重量平均分子量2,900、エポキシ価が1.4meq/gであるメチルメタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体(アルフォンXG−4010)、(C−4)熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基がカルボキシル基であり、重量平均分子量が15,000であるスチレン−アクリル酸−テトラデシルアクリレート共重合体(アルフォンUFX−5010)(全て東亞合成株式会社製)を用いた。
各評価結果を、表1に示す。
Figure 2007154162
表1から、実施例1〜10の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、製造性に優れ、しかも、流動性に優れており、かつ、高剛性、高衝撃強度、高耐熱性であることが示された。
(比較例1〜7)
表2に示す組成で、実施例1と同様にして、比較例1〜7の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得た。
なお、(B)アルキレングリコール誘導体の比較例として、(B’−1)末端をエステル化もエーテル化もしていないポリエチレングリコール(商品名:PEG#400(ライオン株式会社製))を用いた。また、(C)反応性化合物の比較例として、(C’−1)ポリエステルとの反応性官能基を有しない、重量平均分子量8,000のスチレン−メチルメタクリレート共重合体(商品名:アルフォンUP−1100(東亞合成株式会社製))、(C’−2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828(油化シェルエポキシ株式会社製))、(C’−3)芳香族ポリカルボジイミド(商品名:スタバクソールP(バイエル社製))を用いた。
各評価結果を、表2に示す。
Figure 2007154162
表2から、実施例1〜10と比較して、以下のことが示された。
比較例1では、(B)ポリアルキレングリコール誘導体を配合していないので、流動性が低く、耐熱性も低い。比較例2では、カルボン酸エステル末端及びアルキルエーテル末端のいずれも有さない、本発明の範囲外の(B)ポリアルキレングリコールを配合しているので、流動性が低く、耐熱性も低い。比較例3では、(C)反応性化合物を配合していないので剛性、衝撃強度が低下する。比較例4では、熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基を有さない、本発明の範囲外の(C)反応性化合物を配合しているので、剛性、衝撃強度が低下する。比較例5、6では、本発明の範囲外の(C)反応性化合物を配合しているため、混練時にダイス内部に固化物が堆積し、ストランド切れが発生しやすくなり、製造性が著しく低下する。比較例7では、(D)無機充填材を配合していないので、耐熱性、剛性、衝撃強度が低下する。
(実施例11〜17)
実施例1で得られたペレットにレーザーマーキング剤(E)を加え、二軸押出機にて再混練し、表3に示す各組成のペレット(実施例11〜17)を調製した(表3中、各レーザーマーキング剤の添加量は、実施例1の組成物全体に対する質量%として表示した)。
レーザーマーキング剤としては、(E−1)黒酸化鉄(Fe)で粒子径が15μm未満の雲母をコーティングしたコーティング雲母:LazerflairLF835(LF835;メルク社製)、(E−2)電子顕微鏡による算術平均粒子径が13μm、JIS K6217による窒素吸着比表面積が370m/g、JIS K6217によるDBP吸油量が60cm/100g、950℃で7分間加熱したときの揮発分が1.8%、pHが6.5である顔料用カーボンブラック:♯2600B(三菱化学社製)、(E−3)レーザー回折法による平均粒子径が60μm、灰分が0.3%、揮発分が0.7%である膨張黒鉛:BSP60AS(中越黒鉛社製)、(E−4)BET法による比表面積が6.3m/g、X線回折法によるルチル化率が99.9%である二酸化チタン:CR−EL(石原産業社製)を用いた。
各ペレットのレーザーマーキング性を、以下のようにして評価した。
(レーザーマーキング性)
得られた各ペレットを140℃にて3時間熱風乾燥した後、シリンダ温度280℃、金型温度80℃に設定された前記射出成形機にてプレート試験片(縦10cm×横10cm×厚さ3.2mm)を作製した。得られた試験片の表面にYAGレーザーを用い、マーキングを行った。マーキング条件は以下の通り。評価結果を、表3に示す。
[マーキング条件]
YAGレーザー :ミヤチテクノス社製 ML−7110B
レーザーダイオード電流値:18.0A
マーキングスピード :1000mm/s
Qスイッチ周波数 :30.0kHz
Figure 2007154162
結果、実施例11〜17の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、いずれの組成においても鮮明な印字を行うことができ、レーザーマーキング性は良好であった。また、実施例1の組成物は着色剤としてカーボンブラックを含有するため、特にレーザーマーキング剤を添加しなくとも鮮明な印字を行うことができ、レーザーマーキング性は良好であった。
この結果から、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、レーザーマーキングを施すのにも適した組成物であることが確認できた。
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、高剛性、高衝撃強度、高耐熱性であり、流動性に優れ、かつ製造性に優れているので、例えば、パソコンやプリンターなどの電気・電子機器の構成部品であるギヤ、インクカートリッジ、紙送りガイドなどの電気・電子部品用部材、プリンター、スキャナー、FAXの部材や、カートリッジなどのOA部品用部材に好適に利用可能である。

Claims (4)

  1. (A)熱可塑性ポリエステル樹脂と、(B)少なくとも一方の末端にカルボン酸エステル構造及びアルキルエーテル構造のいずれかを有するポリアルキレングリコール又はその誘導体と、(C)前記熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基を有したビニル性モノマーを含む反応性化合物と、(D)無機充填材とを含有することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  2. (B)ポリアルキレングリコール又はその誘導体において、カルボン酸エステル構造及びアルキルエーテル構造の少なくともいずれかがアルキル基を有してなり、前記アルキル基の炭素数が5〜12である請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  3. (C)反応性化合物が、更にスチレンを含む請求項1から2のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  4. (C)反応性化合物において、熱可塑性ポリエステル樹脂と反応性をもつ官能基がエポキシ基である請求項1から3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
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