JP2007112715A - 繰返し投与を伴うベクターの発現を継続させる方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ベクターの繰返し投与を可能とし、ベクターからの遺伝子発現を継続させ得る方法および当該方法の実行を可能とする薬剤を提供する。
【解決手段】
ベクターが宿主免疫系により排除される際、補体がその作用を増強していることを見出した。そこで、2回目以降のベクターの繰返し投与時に補体抑制剤を投与すると、補体抑制剤非投与に比して有意にベクターからの遺伝子発現を継続させ得た。このことから、2回以上の繰返し投与を必要とするベクターからの遺伝子発現を継続させる方法として、2回目以降のベクター投与時に補体抑制剤が投与することを特徴とする。また、この補体抑制剤を繰返し投与型ベクターからの発現を継続させ得る試薬、医薬品として提供する。
【解決手段】
ベクターが宿主免疫系により排除される際、補体がその作用を増強していることを見出した。そこで、2回目以降のベクターの繰返し投与時に補体抑制剤を投与すると、補体抑制剤非投与に比して有意にベクターからの遺伝子発現を継続させ得た。このことから、2回以上の繰返し投与を必要とするベクターからの遺伝子発現を継続させる方法として、2回目以降のベクター投与時に補体抑制剤が投与することを特徴とする。また、この補体抑制剤を繰返し投与型ベクターからの発現を継続させ得る試薬、医薬品として提供する。
Description
本発明は、繰返し投与を伴うベクターからの遺伝子発現を継続させる方法および薬剤、特に、補体抑制剤を利用した方法および薬剤に関する。
遺伝性疾患の根本治療法としてあるいは癌、虚血性疾患等の重症性疾患の治療法として遺伝子治療に対する期待は大きい。中でもウイルスに基づくベクターを用いる方法は遺伝子発現効率の高さから繁用されている。ウイルスベクターには、大きく二つの種類が存在する。一方は染色体内に組み込まれて転写・複製などの遺伝子発現を実行するタイプと、他方は染色体外で転写・複製などの遺伝子発現を実行するタイプとがある。
このうち、後者のタイプでは、染色体内への組み込みが生じないため染色体異常による癌化または不死化などの安全面における問題が生じない一方で、ウイルスベクターに搭載された治療用遺伝子の発現期間には限界がある。そのため、この種のベクターを用いて遺伝子発現を継続させる場合、繰返し投与が必要とされることがある。しかし、多くのウイルスベクターはベクター自体の免疫原性のために繰返し投与は困難であり、臨床応用上解決すべき問題となっている。また、ベクターの中には長期の間隔をあければ繰返し投与に適用できるものもあるが、短期間内の繰返し投与が可能となれば、そのベクターを利用した遺伝子治療の適用疾患の拡大が期待される。
そのため、宿主免疫反応の制御により短期間内での繰返し投与を可能とする一般的方法が確立されればベクターの治療効果が大幅に改善され、適用範囲も大きく広がると考えられる。
しかしながら、そのような技術はいまだ確立されておらずその開発が待ち望まれている。
そこで、本発明は、短期間内のベクターの繰返し投与を可能とし、ベクターからの遺伝子発現を継続させ得る方法および当該方法の実行を可能とする薬剤を提供することを課題とする。
上記課題に鑑み、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ベクターが宿主免疫系により排除される際、補体がその作用を増強していることを見出した。そこで、短期間内に2回以上ベクターを繰返し投与する場合、その2回目以降のベクター導入時に補体抑制剤を投与すると、補体抑制剤非投与群に比してベクターからの遺伝子発現を上昇させ得ることに成功した。すなわち、本発明はこれら知見に基づくものであり、具体的には以下の通りである。
<1> 2回以上の繰返し投与を必要とするベクターからの遺伝子発現を継続させる方法であって、2回目以降のベクター投与時に補体抑制剤が投与される、方法。
<2> 補体抑制剤を有効成分とするベクター発現継続剤。
<3> 補体抑制剤を有効成分とする遺伝子治療用薬剤。
<4> 補体抑制剤と繰返し投与型ベクターとを含む、繰返し投与ベクターシステム。
<2> 補体抑制剤を有効成分とするベクター発現継続剤。
<3> 補体抑制剤を有効成分とする遺伝子治療用薬剤。
<4> 補体抑制剤と繰返し投与型ベクターとを含む、繰返し投与ベクターシステム。
従来、ある種のベクターでは搭載遺伝子を継続して発現させるためにはベクターの繰返し投与が必要とされながら、ベクターの免疫原性のためその繰返し投与が困難であり、仮に繰返し投与を行ったとしても、宿主免疫系により排除されてしまうという問題があったが、本発明によれば、補体抑制剤より宿主免疫系によるベクター排除機能を抑制され、繰返し投与が必要な多くのベクターにおいて、その繰り返し投与を行うことを可能とすることができる。ベクターの繰返し投与が可能となることにより、遺伝子治療効果の改善が期待されるとともに、こうした有用なベクターを用いた遺伝子治療の適用疾患が拡大される。
以下、本発明について、実施の形態を用いてより詳細に説明する。
本発明は第一に、補体抑制剤を用いて繰返し投与型ベクターからの遺伝子発現を継続させる方法を提供する。
ここで繰返し投与型ベクターとは、搭載遺伝子を高度に発現させるためなどの理由から宿主免疫系による排除作用が働く短期間内に繰返して投与される可能性があるベクターや短期間に繰返し投与が可能になれば更に適用疾患が広がるなどの有用性が増すと期待されるベクターを意味し、こうしたベクターは宿主への導入後、細胞質などの染色体外に存在するベクターが多く、例を挙げれば、センダイウイルスベクターおよびニューキャッスル病ウイルス(NDV )ベクターなどのパラミクソウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどのポックスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、インフルエンザウイルスベクターなどのオルソミクソウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、アデノアソシエイテッドウイルス(AAV )ベクター、アデノウイルスベクターなどがある。
上記繰返し投与型ベクターのうちパラミクソウイルスベクターは、本発明の繰返し投与型ベクターとして好適な例である。この種に属するセンダイウイルスベクターは長期に間隔をあければ繰返し投与が可能であるが、短期間内の繰返し投与が可能となれば遺伝子治療の適用疾患の拡大が期待されるベクターの一つである。このパラミクソウイルスベクターは、例えばパラミクソウイルスのゲノムRNAとウイルス蛋白質からなる複合体、すなわちリボヌクレオプロテイン(RNP)であってもよい。RNPは、例えば所望のトランスフェクション試薬と組み合わせて細胞に導入することができる。このようなRNPは、具体的にはパラミクソウイルスのゲノムRNA、N蛋白質、P蛋白質、およびL蛋白質を含む複合体である。RNPは細胞内に導入されると、ウイルス蛋白質の働きによりゲノムRNAからウイルス蛋白質をコードするシストロンが転写されると共に、ゲノム自身が複製され娘RNPが形成される。
パラミクソウイルスベクターは野生型パラミクソウイルスが持つ遺伝子のいずれかを欠損したものであってよい。例えば、M、F、またはHN遺伝子、あるいはそれらの組み合わせが含まれていないパラミクソウイルスベクターも、本発明のパラミクソウイルスベクターとして好適に用いることができる。このようなウイルスベクターの再構成は、例えば、欠損している遺伝子産物を外来的に供給することにより行うことができる。このようにして製造されたウイルスベクターは、野生型ウイルスと同様に宿主細胞に接着して細胞融合を起こすが、細胞に導入されたベクターゲノムはウイルス遺伝子に欠損を有するため、最初と同じような感染力を持つ娘ウイルス粒子は形成されない。このため、一回限りの遺伝子導入力を持つ安全なウイルスベクターとして有用である。ゲノムから欠損させる遺伝子としては、例えばF遺伝子および/またはHN遺伝子が挙げられる。例えば、F遺伝子が欠損した組み換えパラミクソウイルスベクターゲノムを発現するプラスミドを、F蛋白質の発現ベクターならびにNP、P、およびL蛋白質の発現ベクターと共に宿主細胞にトランスフェクションすることにより、ウイルスベクターの再構成を行うことができる(国際公開番号 WO00/70055 および WO00/70070; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。また、例えば、F遺伝子が染色体に組み込まれた宿主細胞を用いてウイルスを製造することもできる。これらの蛋白質群を外から供給する場合、そのアミノ酸配列はウイルス由来の配列そのままでなくとも、核酸の導入における活性が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、変異を導入したり、あるいは他のウイルスの相同遺伝子で代用してもよい。
これらベクターの宿主への投与方法は、特に限定はなく、ベクターの種類に応じて適した方法で投与される。投与経路は適宜選択することができるが、例えば経皮、鼻腔内、経気管支、筋内、腹腔内、静脈内、関節内、脊髄腔内、または皮下等に行われ得るがそれらに限定されない。また局所あるいは全身に投与し得る。投与されるベクター量は一般的には約105 CIU/mlから約1011 CIU/ml、好ましくは約107 CIU/mlから約109 CIU/ml、より好ましくは約1×108 CIU/mlから約5×108 CIU/mlの範囲内の量を薬学上容認可能な担体中で投与される。ヒトにおいては1回当たりの投与量は 2×105 CIU〜 2×1010 CIUが好ましく、投与回数は、1回または臨床上容認可能な副作用の範囲で複数回可能であり、1日の投与回数についても同様である。
本発明は、上述したような繰返し投与型ベクターを介して宿主内に導入された遺伝子を継続的に発現させるために、補体抑制剤を用いる。補体抑制剤は、次のような古典経路、代替経路あるいは両経路を抑制するものがある(Makrides SC, Pharmacol Reviews 1998 50(1):59-87, Sahu A et al. Immunopharmacology 2000 49:133-148)。
古典経路を抑制する補体抑制剤
・ タンパク質因子:C1-INH(C1抑制、Davis AE, Annu Rev Immunol. 1988; 6: 595-628)
・ ペプチド型抑制剤:2J (C1抑制、Roos A, et al. J Immunol. 2001 167(12):7052-9)、H17(C2受容体抑制、Inal JM, et al. J Immunol 2003 170(8):4310-7)
代替経路を抑制する補体抑制剤
・ 低分子合成剤:BCX-1470(Factor DおよびC1s抑制、Szalai AJ et al. J Immunol. 2000 164(1): 463-8)
両経路に共通する補体抑制剤
・ 抗C5抗体製剤 pexelizumab(Alexion Pharmaceuticals Inc)などの補体系成分に対する抗体製剤
・ 可溶化タンパク質因子:TP10, TP20などの可溶化C1q受容体(C1q抑制、Marsh HC and Ryan US, 1997, Xenotransplantation: The Transplantation of Organs and Tissues Between Species (Cooper DKC, Kemp E, Platt JL and White DJG, eds) 2nd ed, pp 437-455, Springer, Berlin)、可溶化CD59(MAC複合体形成抑制、Suzuki H, et al. 1996 FEBS Lett 399:272-276)、可溶化DAF(C3/C5Convertase阻害、Moran P et al. 1992 J Immunol 149:1736-1743)および可溶化MCP(C3/C5Convertase阻害、Christiansen D et al. 1996 Eur J Immunol 26:578-585)
・ ペプチド型抑制剤:C089(C5受容体アンタゴニスト、Konteatis ZD et al. 1994 J Immunol 153:4200-4205)、Compstatin(C3抑制、Sahu A, et al. J Immunol 1996 157(2):884-91)
・ 低分子合成剤:nafamostat mesilate(Fujii S, Hitomi Y, Biochim Biophys Acta 1981 661(2):342-5)、K76およびK76誘導体(K76COOHなど)(C5抑制、Miyazaki W et al. 1980 Microbiol Immunol 24:1091-1108、Sindelar RD et al. 1996 U.S. Patent Number 5,506,247)、PR226(C5受容体アンタゴニスト、Baranyi L. et al. 1996 Nat Med 1:894-901)、Complestatin(Momota K et al. 1991 Biochem Biophys Res Commun 179:243-250)、CGS32359(C5受容体アンタゴニスト、Pellas TC et al. 1998 J Immunol 160:5616-5621)、A8(C5受容体アンタゴニスト、de Vries B et al. 2003 J Immunol 170: 3883-3889)、AcF-[OPdChaWR] (C5受容体アンタゴニスト、Strachan AJ et al. 2000 J Immunol 164: 6560-6565)、W54011(C5受容体アンタゴニスト、Sumichika H et al. 2002 J Bio Chem 277: 49403-49407)
上記補体抑制剤はベクターに対する中和活性を増強する補体を抑制し得る限り、本発明の補体抑制剤として使用し得る。
古典経路を抑制する補体抑制剤
・ タンパク質因子:C1-INH(C1抑制、Davis AE, Annu Rev Immunol. 1988; 6: 595-628)
・ ペプチド型抑制剤:2J (C1抑制、Roos A, et al. J Immunol. 2001 167(12):7052-9)、H17(C2受容体抑制、Inal JM, et al. J Immunol 2003 170(8):4310-7)
代替経路を抑制する補体抑制剤
・ 低分子合成剤:BCX-1470(Factor DおよびC1s抑制、Szalai AJ et al. J Immunol. 2000 164(1): 463-8)
両経路に共通する補体抑制剤
・ 抗C5抗体製剤 pexelizumab(Alexion Pharmaceuticals Inc)などの補体系成分に対する抗体製剤
・ 可溶化タンパク質因子:TP10, TP20などの可溶化C1q受容体(C1q抑制、Marsh HC and Ryan US, 1997, Xenotransplantation: The Transplantation of Organs and Tissues Between Species (Cooper DKC, Kemp E, Platt JL and White DJG, eds) 2nd ed, pp 437-455, Springer, Berlin)、可溶化CD59(MAC複合体形成抑制、Suzuki H, et al. 1996 FEBS Lett 399:272-276)、可溶化DAF(C3/C5Convertase阻害、Moran P et al. 1992 J Immunol 149:1736-1743)および可溶化MCP(C3/C5Convertase阻害、Christiansen D et al. 1996 Eur J Immunol 26:578-585)
・ ペプチド型抑制剤:C089(C5受容体アンタゴニスト、Konteatis ZD et al. 1994 J Immunol 153:4200-4205)、Compstatin(C3抑制、Sahu A, et al. J Immunol 1996 157(2):884-91)
・ 低分子合成剤:nafamostat mesilate(Fujii S, Hitomi Y, Biochim Biophys Acta 1981 661(2):342-5)、K76およびK76誘導体(K76COOHなど)(C5抑制、Miyazaki W et al. 1980 Microbiol Immunol 24:1091-1108、Sindelar RD et al. 1996 U.S. Patent Number 5,506,247)、PR226(C5受容体アンタゴニスト、Baranyi L. et al. 1996 Nat Med 1:894-901)、Complestatin(Momota K et al. 1991 Biochem Biophys Res Commun 179:243-250)、CGS32359(C5受容体アンタゴニスト、Pellas TC et al. 1998 J Immunol 160:5616-5621)、A8(C5受容体アンタゴニスト、de Vries B et al. 2003 J Immunol 170: 3883-3889)、AcF-[OPdChaWR] (C5受容体アンタゴニスト、Strachan AJ et al. 2000 J Immunol 164: 6560-6565)、W54011(C5受容体アンタゴニスト、Sumichika H et al. 2002 J Bio Chem 277: 49403-49407)
上記補体抑制剤はベクターに対する中和活性を増強する補体を抑制し得る限り、本発明の補体抑制剤として使用し得る。
繰返し投与型ベクターからの遺伝子発現を継続させるための補体抑制剤の使用法は、2回目以降のベクター投与時に宿主に補体抑制剤を投与する形態が挙げられる。ここでベクター投与時とは、ベクター溶液に混合して宿主に投与すること、または、ベクター溶液とは別にベクター投与とは前後して投与することのいずれでもよい。また、補体抑制剤の投与方法は、ベクターの投与方法、投与部位とは必ずしも同じである必要はなく、一例を挙げれば、ベクターが静脈投与に対して補体抑制剤は経口投与などのように、別の投与経路あるいは形態などでも、ベクターからの遺伝子発現を継続できる投与方法であれば、本発明に包含される。
また、補体抑制剤は一種の使用に限定されず、複数種を混合して用いてもよく、また、ベクター投与毎にその種類を変更して用いてもよい。また、補体抑制剤の投与量は一定であってもよく、またベクター投与毎に変更してもよい。
上記補体抑制剤を用いることにより、2回目以降に導入されたベクターからの遺伝子発現の低下が抑制され、遺伝子の発現が継続される。本書において発現の継続とは、2回目以降に導入されたベクターからの遺伝子発現を可能あるいは促進させることを意味する。また、この発現継続の結果としての2回目以降の発現レベルは、1回目のベクター導入後の発現レベルと比較して、同程度であっても、それ以上であってもよく、また、それ以下であっても従来の補体抑制剤を投与しない場合に比べて有意に高い発現を維持できる場合のいずれをも含めることができる。
上記の通り、本発明によれば、補体抑制剤を用いることにより、繰返し投与型ベクターにおける2回目以降のベクター導入後の遺伝子発現を可能とし、これによって、補体抑制剤を用いない場合に比して有意に高い遺伝子発現を維持することが可能となる。そのため、ベクターに搭載された遺伝子機能を宿主に継続して付与することが可能となる。よって、本発明により、遺伝子治療などの医療分野に活用した場合には遺伝子治療の治療効果の改善をもたらし、また、トランスジェニック動物の創生などの研究分野に活用した場合には、より安定した表現形を提供する。
本発明の別の態様としては、補体抑制剤を有効成分とするベクター発現継続剤に関する。上述した通り、補体抑制剤は繰返し投与型ベクターを繰返し投与する際に用いることにより、ベクターに搭載された遺伝子発現を継続させることができる。そのため、この補体抑制剤は、ベクター発現継続剤として利用することができる。ここで、ベクター発現継続剤とは、繰返し投与されるベクターにおいて見られる2回目以降の発現低下を抑制し、発現を継続させるための試薬を意味する。本ベクター発現継続剤は、上記ベクターからの遺伝子発現を継続させ得る補体抑制剤を含有する。
補体抑制剤が、ベクターからの遺伝子の発現を継続させ得るか否かは、実施例に示した方法を用いて評価することができる。すなわち、マウスなどの実験動物に1回目のベクターを導入後、2回目のベクターを導入する際に候補となる補体抑制剤を投与する。2回目以降のベクター導入後に搭載されている遺伝子の発現をレポーター遺伝子の発現を基に評価する。そして、薬剤を投与していない宿主内での搭載遺伝子の発現レベルと、補体抑制剤を投与した宿主内での搭載遺伝子の発現レベルとを比較して、補体抑制剤投与群のほうが、発現レベルが高い場合に、その補体抑制剤はベクター発現継続剤として利用することができると評価される。
この補体抑制剤をベクター発現継続剤として使用する場合、一種類の補体抑制剤から構成しても、複数種の補体抑制剤を混合して構成してもよい。また、補体抑制剤以外に他の成分を含有させることもできる。例えば、抗炎症剤(コルチゾール、デキサメタゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロンなど)や免疫抑制剤(シクロフォスファミド、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、ミゾリビン、シクロスポリン、タクロリムス、OKT-3、Baslliximab、Zenapax、Remicadeなど)を混合してもよい。さらに、必要に応じて、保存剤などを添加しもよく、生理食塩水や緩衝剤で希釈してもよい。
上記本発明のベクター発現継続剤は、トランスジェニック動物を作製する際の試薬として利用するができる。ベクター発現継続剤をトランスジェニック動物作製に利用した場合、ベクターを介して導入された外来遺伝子の発現を継続させることができることから、安定した表現形を付与することができる。
本発明のさらなる別の形態は、補体抑制剤を有効成分とする遺伝子治療用薬剤である。上述した通り、補体抑制剤は繰返し投与型ベクターを繰返し投与する際に用いることにより、ベクターに搭載された遺伝子発現を継続させることができるため、こうした繰返し投与型のベクターを利用した遺伝子治療とともに併用される医薬品として利用することができる。すなわち、本発明の補体抑制剤を有効成分とする遺伝子治療用薬剤は、そのものが遺伝子治療の効果を発揮するものではなく、患者に付与したい機能を備えた遺伝子を搭載させた繰返し投与型ベクターを繰返し投与する際に、本発明の薬剤を併用することにより、ベクターに搭載させた遺伝子の発現を継続させる効果を有する。
補体抑制剤を上記遺伝子治療用の補助的な薬剤として調製するには、必要に応じて薬理学的に許容される所望の担体または媒体と組み合わせて医薬品とすることができる。また、この担体または媒体は、補体抑制剤によるベクター上の搭載遺伝子の発現を継続させ得る活性を有意に阻害しない材料の範囲であれば、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、殺生物剤、保存剤、その他の添加剤を添加することができる。
上記遺伝子治療用薬剤は、繰返し投与型ベクターを用いた遺伝子治療の補助薬として、ヒト、ヒト以外の動物の治療に利用することができる。本発明の薬剤を用いることにより、繰返し投与型ベクターからの遺伝子発現を継続させ、治療効果を改善することができる。本薬剤は、繰返し投与型ベクターを2回目以降に投与する際に用いることが主要な用法となるが、1回目のベクター投与時に使用してもよい。例えば、繰返し投与型ベクターによる遺伝子治療を行う以前に、該ベクターと同種または異種であるが交差し得る中和活性を惹起し得るウイルスに自然感染している場合には、1回目のベクター投与時であってもベクターからの遺伝子発現が抑制される場合がある。そのため、患者の血清中に治療に用いるベクターと交差する中和活性が検出された場合には、一回目のベクター導入時に本遺伝子治療用薬剤を使用し、搭載遺伝子の発現を可能としてもよい。
また、本発明は、補体抑制剤と繰返し投与型ベクターとを含む、繰返し投与ベクターシステムとして提供することもできる。このようにシステムとして、繰返し投与型ベクターに、このベクターからの発現を継続させるための補体抑制剤をパッケージ化することにより、トランスジェニック動物作製などの研究分野、遺伝子治療などの医療分野において本発明を一層利用し易くすることができる。
以下、参考例を交えて、本発明の実施例を示すが、本発明はここに示す実施例に限定されるものではない。
[参考例1]
SeVベクター2回目投与時の搭載遺伝子発現量低下
SeVベクターの初回投与で誘導された特異的抗体存在下で、SeVベクターの2回目投与を行なった場合のベクター搭載遺伝子の発現量を検討した。本検討を行うに当たって、F遺伝子欠失型SeVベクターにレポーター遺伝子としてfirefly luciferase遺伝子を搭載した。このSeVベクター(5x106 CIU/マウス)をBalb/cAマウスに第一回目として経鼻投与し、その8日後に第二回目として同ベクター1x108 CIUを大腿筋肉中に投与した。2回目投与後2日目に筋肉を採取、ホモジネートし、そのホモジネート中のLuciferase活性をLuciferase Assay System (Promega社) を用いて測定した。
SeVベクター2回目投与時の搭載遺伝子発現量低下
SeVベクターの初回投与で誘導された特異的抗体存在下で、SeVベクターの2回目投与を行なった場合のベクター搭載遺伝子の発現量を検討した。本検討を行うに当たって、F遺伝子欠失型SeVベクターにレポーター遺伝子としてfirefly luciferase遺伝子を搭載した。このSeVベクター(5x106 CIU/マウス)をBalb/cAマウスに第一回目として経鼻投与し、その8日後に第二回目として同ベクター1x108 CIUを大腿筋肉中に投与した。2回目投与後2日目に筋肉を採取、ホモジネートし、そのホモジネート中のLuciferase活性をLuciferase Assay System (Promega社) を用いて測定した。
その結果、図1に示すように、初回と比較して2回目投与時のルシフェラーゼ活性は、ほぼバックグランドレベルに低下した。このことから、複数回の投与により宿主がSeVベクターの中和活性を獲得したことを示す。
[参考例2]
抗SeV血清中のSeV中和活性の補体による増強
上記SeV中和活性が補体により増強されるか否かを検討した。本検討にあたって、抗SeV血清、非免疫血清、補体を準備した。抗SeV血清の調製のために、Balb/cAマウス(60頭)にSeVベクター(2x107 CIU/マウス)を腹腔内投与後、14日目と21日目に同量のベクターを追加投与した。初回投与から30日目に全頭について全血採取し、これをプールして抗SeV血清とした。また、対照として用いた非免疫血清は非投与マウス30頭分の血清をプールして用いた。補体はモルモット補体(CedarLane社 CL5000-1)を用い、実験系において最終濃度1%で使用した。
抗SeV血清中のSeV中和活性の補体による増強
上記SeV中和活性が補体により増強されるか否かを検討した。本検討にあたって、抗SeV血清、非免疫血清、補体を準備した。抗SeV血清の調製のために、Balb/cAマウス(60頭)にSeVベクター(2x107 CIU/マウス)を腹腔内投与後、14日目と21日目に同量のベクターを追加投与した。初回投与から30日目に全頭について全血採取し、これをプールして抗SeV血清とした。また、対照として用いた非免疫血清は非投与マウス30頭分の血清をプールして用いた。補体はモルモット補体(CedarLane社 CL5000-1)を用い、実験系において最終濃度1%で使用した。
中和活性の測定は既知の方法(中和試験、pp261-274、改訂二版 ウイルス実験学 総論 国立予防衛生研究所学友会編 1973 丸善)を改変して行なった。まず抗SeV血清あるいは非免疫血清の希釈系列を作製し、一定量のGFP遺伝子搭載F遺伝子欠失型SeVベクターと混合後37℃で1時間保温した。この血清とベクターとの混合液を96 well中のLLC-MK2細胞(約2x105 cells/well)に添加し、細胞をSeVに感染させた。CO2インキュベーター中でさらに37℃で1時間保温した後、ベクターー抗血清混合液を除去、細胞を一度洗浄した後培養液(DMEM)を加えて3日間培養した。培養後、感染細胞を測定するために、細胞内でのGFP発現量をMicroplate用Fluorometerで測定した(図2)。
図2において、横軸に血清希釈率を、縦軸に中和活性を示す。また中和活性は、ベクター非添加wellの蛍光量を0%、ベクター添加−抗血清非添加wellの蛍光量を100%として相対的に示した。グラフでは曲線が右側へシフトするほど中和活性が強いことになる。
図2Aに示す通り、補体存在下では非存在下の場合に比べて約100倍の中和活性が観察された。このことはSeVに対する中和活性に補体が関与することを強く示唆する。
[実施例1]
In vitroにおけるnafamostat mesilateの補体抑制作用
上述の通り、補体存在下で中和活性が上昇したことから、補体抑制剤がSeVに対する中和活性に与える影響を調べた。Compstatin(Sahu A, et al. J Immunol 1996 157(2):884-91)、H17(Inal JM, et al. J Immunol 2003 170(8):4310-7)等多くの補体抑制剤がこれまでに開発されているが(Makrides SC, Pharmacol Reviews 1998 50(1):59-87, Sahu A et al. Immunopharmacology 2000 49:133-148)、その中でまず既に臨床で使用されているnafamostat mesilate(Fujii S, Hitomi Y, Biochim Biophys Acta 1981 661(2):342-5)を本実施例で用いた。
In vitroにおけるnafamostat mesilateの補体抑制作用
上述の通り、補体存在下で中和活性が上昇したことから、補体抑制剤がSeVに対する中和活性に与える影響を調べた。Compstatin(Sahu A, et al. J Immunol 1996 157(2):884-91)、H17(Inal JM, et al. J Immunol 2003 170(8):4310-7)等多くの補体抑制剤がこれまでに開発されているが(Makrides SC, Pharmacol Reviews 1998 50(1):59-87, Sahu A et al. Immunopharmacology 2000 49:133-148)、その中でまず既に臨床で使用されているnafamostat mesilate(Fujii S, Hitomi Y, Biochim Biophys Acta 1981 661(2):342-5)を本実施例で用いた。
中和活性測定は補体抑制剤を添加する点を除き上記参考例2に示した方法と同様に実施した。nafamostat mesilate(注射用コアヒビター10、清水製薬)は、上記参考例2における抗血清添加前のベクター溶液に最終濃度0.1mg/mlまたは0.01mg/mlとなるように添加した。
図3Aに示すように、nafamostat mesilateを添加することにより補体存在下で見られた中和活性増強が図3Bに示す補体非添加時のレベルまで完全に抑制された。
[実施例2]
補体抑制2Jの投与によるSeVベクター2回目投与時の搭載遺伝子発現量上昇
次にマウスを用いてin vivoにおける補体抑制剤の効果を調べた。本実施例では補体抑制剤として、古典経路のC1を抑制するペプチド型補体抑制剤2J(Roos A, et al. J Immunol. 2001 167(12):7052-9)を用いた。なお、本実施例で用いた2JペプチドはRoos Aらの文献掲載のアミノ酸配列をもとに合成して用いた。
補体抑制2Jの投与によるSeVベクター2回目投与時の搭載遺伝子発現量上昇
次にマウスを用いてin vivoにおける補体抑制剤の効果を調べた。本実施例では補体抑制剤として、古典経路のC1を抑制するペプチド型補体抑制剤2J(Roos A, et al. J Immunol. 2001 167(12):7052-9)を用いた。なお、本実施例で用いた2JペプチドはRoos Aらの文献掲載のアミノ酸配列をもとに合成して用いた。
2回投与群(n=3)ではまず1回目にGFP遺伝子搭載F遺伝子欠失型SeVベクターをBalb/cAマウス1頭あたり5x106 CIU経鼻投与した。1回目のベクター投与から14日目に1頭あたり250μg (100μl のDPBS(-)に溶解)の2Jペプチドを尾静注し、その後15分以内に2回目としてLuciferase遺伝子搭載F遺伝子欠失型SeVベクター(5x106 CIU/マウス)を2Jペプチド(1.25μg)と混合し耳介投与した。2回目投与後2日目に耳介を切断採取、ホモジネート中のLuciferase 活性をLuciferase Assay System (Promega社) を用いて測定した。なお、対照実験として、1回投与群(n=4)を準備した。一回投与群は初回のGFP搭載SeV/dFベクター投与を行なわないこと以外は2回投与群と同じ操作で作製した。また、二回投与群および一回投与群のそれぞれに、2Jに代えてDPBS(-)を投与した対照実験も並行させた。
一回目投与群では、2JあるいはDPBS投与のいずれも高いLuciferase 活性が示されたが、2回目投与群において、DPBS投与では1回目投与時の約100分の1に低下していたが、2J投与により10分の1程度に発現量の低下が抑制された。即ち、2Jの同時投与により発現量を約10倍上昇させることが可能になった。
[実施例3]
SeVベクター2回目投与時の抗SeV抗体価
上記実施例2において、14日目の2回目投与直前に採取した血漿中の抗SeV抗体価をELISA法(プレザイム生研HVJ、デンカ生研社)によって測定した。なお、1回投与群においては、1回目ベクター導入前の抗体価の測定となる。
SeVベクター2回目投与時の抗SeV抗体価
上記実施例2において、14日目の2回目投与直前に採取した血漿中の抗SeV抗体価をELISA法(プレザイム生研HVJ、デンカ生研社)によって測定した。なお、1回投与群においては、1回目ベクター導入前の抗体価の測定となる。
図5に示すように1回投与群では抗体が生成されていないが、2回投与群では2J投与予定群と非投与予定群との間に抗体価の差はなかった。抗SeV抗体存在下にSeVベクターは補体による溶解、不活化作用を受けると予想されるが、2Jの同時投与はこの作用を抑制したものと考えられ、SeVベクター2回目投与における補体系抑制の有効性が示された。
Claims (4)
- 2回以上の繰返し投与を必要とするベクターからの遺伝子発現を継続させる方法であって、2回目以降のベクター投与時に補体抑制剤が投与される、方法。
- 補体抑制剤を有効成分とするベクター発現継続剤。
- 補体抑制剤を有効成分とする遺伝子治療用薬剤。
- 補体抑制剤と繰返し投与型ベクターとを含む、繰返し投与ベクターシステム。
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