以下、本発明を適用した燃料電池システムの具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図1に示す。本実施形態の燃料電池システムは、例えば車両に搭載されて車両の動力源として用いられるものであり、発電を行う燃料電池1を備える。
燃料電池1は、水素が供給されるアノード(燃料極)と空気が供給されるカソード(酸化剤極)とが電解質を挟んで重ね合わされて発電セルが構成されるとともに、複数の発電セルが多段積層されたスタック構造を有し、電解質での電極反応により化学エネルギを電気エネルギに変換するものである。この燃料電池1の各発電セルでは、アノードに供給された水素が水素イオンと電子とに分離される反応が起き、水素イオンは電解質を通り、電子は外部回路を通って電力を発生させ、カソード側にそれぞれ移動する。カソードでは、供給された空気中の酸素と電解質を通って移動した水素イオン及び電子が反応して水が生成され、外部に排出される。すなわち、燃料電池1では、以下に示す電極反応が進行し、電力が発電される。
アノード(燃料極): H2→2H++2e− (1)
カソード(酸化剤極): 2H++2e−+(1/2)O2→H2O (2)
燃料電池1の電解質としては、高エネルギ密度化、低コスト化、軽量化等を考慮して、例えば固体高分子電解質膜が用いられる。固体高分子電解質膜は、例えばフッ素樹脂系イオン交換膜等、イオン(プロトン)伝導性の高分子膜からなるものであり、飽和含水することによりイオン伝導性電解質として機能する。
以上のように、燃料電池1で発電を行うには、この燃料電池1のカソードに酸化剤ガスである空気、アノードに燃料ガスである水素をそれぞれ供給する必要があり、そのための機構が空気供給系及び水素供給系である。
ここで、空気供給系は、外気を吸入し燃料電池1のカソードに空気を圧送するためのコンプレッサ(空気供給装置)2、空気供給管3、カソード排ガスを排出するための空気排気管4、及び空気調圧弁5を備えた構成とされている。空気は、前記コンプレッサ2により加圧して空気供給管3に送り込まれ、燃料電池1のカソードに供給される。燃料電池1で消費されなかった酸素及び空気中の他の成分は、空気排気管4から大気中に排出される。また、カソードの空気圧は、圧力センサ6によって検出され、空気調圧弁5を駆動することにより制御される。
水素供給系は、例えば、水素供給源である水素タンクから取り出した高圧水素を減圧弁、水素調圧弁を介して圧力調整し、水素供給管から燃料電池1のアノードに供給する構成とされている。なお、水素供給系は、本発明に直接かかわる部分ではないので、図示及び詳細な説明を省略する。
本実施形態の燃料電池システムにおいて、燃料電池1で発生した電力(電流)は、パワーマネージャ7により取り出され、例えば車両の駆動モータなどに供給される。そして、本実施形態の燃料電池システムは、このパワーマネージャ7による燃料電池1からの電力(電流)の取り出しを制御するための制御系として、モータトルク検出手段8、コンプレッサ回転数検出手段9、目標制限トルク設定手段10、大気圧センサ11、出力制限手段12を備える。
モータトルク検出手段8は、コンプレッサ2の駆動源であるコンプレッサモータの現在のトルク値を検出あるいは推定するものである。具体的には、このモータトルク検出手段8は、例えば、モータ駆動電流などからコンプレッサモータの現在のトルク値を推定し、あるいは、トルクセンサなどを用いて、コンプレッサモータの現在のトルク値を検出する。
コンプレッサ回転数検出手段9は、コンプレッサモータの回転数(すなわち、コンプレッサ2の回転数)を検出するものである。具体的には、このコンプレッサ回転数検出手段9は、例えば、レゾルバやエンコーダなどのセンサを用いて、コンプレッサモータの回転数を検出する。
目標制限トルク設定手段10は、コンプレッサモータのトルクが当該コンプレッサモータの能力を超えないように制限するための目標制限トルクを設定するものである。具体的には、この目標制限トルク設定手段10は、例えば、図2のようなコンプレッサモータの回転数と上限トルクとの関係を表すマップを用い、コンプレッサ回転数検出手段9によって検出されたコンプレッサモータの回転数に応じて、当該回転数のときにコンプレッサモータで出力可能な上限トルクを目標制限トルクとして設定する。
なお、このとき、目標制限トルク設定手段10は、コンプレッサ回転数検出手段9によって検出されたコンプレッサモータの回転数をそのままマップの入力値として用いるのではなく、図2に示すように、一次遅れフィルタを用いてコンプレッサ回転数検出手段9によって検出されたコンプレッサモータの回転数に補正をかけた出力をマップの入力値として目標制限トルクを設定することが望ましい。
すなわち、本実施形態の燃料電池システムでは、後述するように、この目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて、出力制限手段12によって燃料電池1からの取出電流が制限されるが、燃料電池1からの取出電流が制限されると、空気流量が減少するのでコンプレッサモータの回転数が下がり、それに応じて目標制限トルクが上がるので、燃料電池1からの取出電流の制限が緩和されることになる。そして、燃料電池1からの取出電流の制限が緩和されると、コンプレッサモータの回転数が上がって、それに応じて目標制限トルクが下がり、燃料電池1からの取出電流の制限がきつくかかるようになるといった現象が繰り返されることになる。このため、目標制限トルクの演算と燃料電池1からの取出電流制限の演算とが干渉して、取出電流制限にハンチングを生じさせてしまう要因となることが懸念されるが、上述したように、コンプレッサ回転数検出手段9によって検出されたコンプレッサモータの回転数に一次遅れフィルタを用いて補正をかけた出力に応じて目標制限トルクを設定するようにすれば、コンプレッサモータの回転数の変動をなまして、目標制限トルクの演算と燃料電池1からの取出電流制限値の演算との干渉を回避することができ、取出電流制限にハンチングを生じさせるといった問題を有効に抑制することが可能となる。
大気圧センサ11は、大気圧を検出する圧力センサである。この大気圧センサ11は出力制限手段12に接続されており、当該大気圧センサ11によって検出された大気圧の情報は、出力制限手段12に入力される。
出力制限手段12は、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるものであり、入力制限トルク補正部12a、出力制限値演算部12b、制限部12cを有する。なお、ここでは、出力制限手段12が、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるものとして説明するが、電流と電圧の双方、すなわち燃料電池1からの取出電力に制限をかけるようにしてもよい。燃料電池1からの取出電力に制限をかける場合も、制御の内容は、燃料電池1からの取出電流に制限をかける場合と同様である。
入力制限トルク補正部12aは、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8によって検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差に応じて、出力制限値演算部12bでの演算に用いる目標制限トルクを補正して、第2の目標制限トルクとして算出するものである。
出力制限値演算部12bは、入力制限トルク補正部12aによって算出された第2の目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧に応じて、燃料電池1からの取出電流を制限するための電流制限値を算出するものである。
制限部12cは、燃料電池1からの目標取出電流を、出力制限値演算部12bで算出された電流制限値に制限するものである。すなわち、制限部12cは、例えば駆動モータの動作状況などに応じて燃料電池1に要求される目標取出電流が、出力制限値演算部12bで算出された電流制限値よりも小さければ、当該目標取出電流を取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力し、目標取出電流が電流制限値よりも大きければ、電流制限値を取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力する。これにより、燃料電池1からの取出電流が、電流制限値に制限されることになる。
出力制限手段12における制御の具体例を図3に示す。この図3に示す例において、入力制限トルク補正部12aは、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差に応じた入力トルク補正値を求め、この入力トルク補正値を用いて目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクを補正することで、第2の目標制限トルクを算出する。そして、この第2の目標制限トルクを出力制限値演算部12bに入力する。
出力制限値演算部12bは、例えば、燃料電池1からの取出電流値とその電流値を燃料電池1から取り出せるようにするためにコンプレッサモータに要求される必要トルクとの関係を大気圧毎に表したマップを用い、入力制限トルク補正部12aから入力された第2の目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧とに基づいて、現在の大気圧でコンプレッサモータのモータトルクを第2の目標制限トルクに制限したときに燃料電池1から取り出すことが可能な電流値を、電流制限値として算出する。
制限部12cは、燃料電池1の目標取出電流と、出力制限値演算部12bで算出された電流制限値をセレクトローして、取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力することによって、燃料電池1からの取出電流を制限する。
ここで、出力制限値演算部12bでの演算に用いられるマップは、例えば図4に示すような手法で作成される。すなわち、燃料電池1からの取出電流に応じて燃料電池1のカソードに供給する空気流量と圧力(カソード運転圧力)を定める。コンプレッサ2から燃料電池1までの空気系圧損は供給空気流量によって決まるので、空気系圧損とカソード運転圧力から、コンプレッサ2における吐出空気圧力が決まる。そして、大気圧とコンプレッサ2の吐出空気圧力からコンプレッサ入出の圧力比が決まり、コンプレッサモータの必要トルクが求まる。この必要トルクをグラフ横軸(マップ入力値)とし、燃料電池1からの取出電流をグラフ縦軸(マップ出力値)とし、これを大気圧毎に作成すれば、出力制限のマップが完成する。
このように、出力制限値演算部12bで演算に用いられるマップは、燃料電池1からの取出電流とコンプレッサモータの必要トルクに基づいて設計されており、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクからずれた場合には、ずれたトルク偏差をマップの入力に戻して補正することによって、コンプレッサモータのモータトルク値を目標制限トルクに近づかせることができる。
燃料電池1からの取出電流の制限と、その制限によるコンプレッサモータのモータトルクの応答との関係を図5に示す。なお、図5(a)は、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクを補正することなくマップ入力値として電流制限値を求める場合の例であり、図5(b)は、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクをコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて補正した上でマップ入力値として電流制限値を求める場合の例である。
図5(a)に示す例では、コンプレッサ2やコンプレッサモータの性能ばらつき、さらには経時劣化などに応じて、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクを超えることがある。したがって、この図5(a)に示す例では、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクを超えないようにするためには、目標制限トルクに応じて電流制限がきつめに掛かるように出力制限のマップを設定しなくてはならない。
これに対して、図5(b)に示す例では、設定されている目標制限トルクとコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差を、出力制限値演算部12bでの演算に用いるマップの入力トルクに上のせすることによって、燃料電池1からの取出電流がさらに制限されて、モータトルク値のオーバーシュートを軽減できる。したがって、この図5(b)に示す例では、コンプレッサやコンプレッサモータの性能ばらつきなどを考慮して、あらかじめ電流制限がきつめに掛かるように設定しなくてもよい。
以上、具体的な例を挙げて詳細に説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、モータトルク検出手段8でコンプレッサモータの現在のモータトルク値を検出あるいは推定し、目標制限トルクだけでなく現在のモータトルク値も用いて、燃料電池1からの取出電流を制限するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制することができる。したがって、この燃料電池システムにおいては、コンプレッサ2やコンプレッサモータの性能ばらつきなどを考慮して燃料電池1からの取出電流を過剰に制限する必要がなく、コンプレッサモータの上限出力を使いきり、燃料電池1のカソードに供給する空気流量を増やして動力性能を向上させることができるとともに、コンプレッサ2やコンプレッサモータ、燃料電池1などの保護を確実に図ることができる。
なお、燃料電池1からの取出電流を過剰に制限しないようにするためには、コンプレッサモータとして高出力のモータを用いることも考えられるが、高出力のモータを採用するとコンプレッサの大型化、ひいてはシステム全体の大型化を招くことになり、また、コストアップの要因となる。これに対して、本実施形態の燃料電池システムでは、高出力のモータを採用するといった部品の過剰設計をする必要もなく、安価でコンパクトなシステムを実現できる。
また、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、出力制限手段12での電流制限値の演算に用いる目標制限トルクを補正する、すなわち、目標制限トルクと現在のモータトルク値との偏差をフィードバックしながら電流制限値を算出するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、極めて高精度に行うことができる。
また、本実施形態の燃料電池システムにおいては、出力制限手段12での電流制限値の演算の際に大気圧も考慮して、高地などの大気圧が低いところでは電流制限がきつくかかるように電流制限値を算出するようにしているので、使用環境の変化にも対応しながら、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、極めて高精度に行うことができる。
また、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段10が、コンプレッサ回転数検出手段9によって検出されたコンプレッサモータの回転数に応じて、コンプレッサモータのトルクがその能力を超えないように制限するための目標制限トルクを設定するようにしているので、モータ回転数に応じて上限トルク値が定まるような一般的なコンプレッサモータのトルク制御を極めて高精度に行うことができる。また、コンプレッサモータの回転数が高い領域で上限トルク値を低く設定することで、回転数が高い領域ではコンプレッサモータのトルクが大きく制限されることになるので、コンプレッサモータの回転数が過剰な回転数とならないように制限することも可能となる。
(第2の実施形態)
次に、本発明を適用した第2の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第2の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図6に示す。本実施形態の燃料電池システムは、図6に示すように、上述した第1の実施形態における出力制限手段12とパワーマネージャ7の代わりに、空気圧力制限手段21と空気圧力制御手段22とを備えたものである。すなわち、上述した第1の実施形態の燃料電池システムでは、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるようにしているが、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(燃料電池1のカソード運転圧力)に制限をかけるようにしている。つまり、本実施形態の燃料電池システムでは、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(カソード運転圧力)に制限をかけることで、コンプレッサ2の吸入側と吐出側の空気圧縮比を下げ、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制できるようにしている。
なお、本実施形態の燃料電池システムにおけるその他の構成や制御の基本部分は、上述した第1の実施形態と共通であるので、以下、第1の実施形態との共通部分については図中同一の符号を付して重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な空気圧力制限手段21および空気圧力制御手段22とその制御内容を中心に説明する。
空気圧力制限手段21は、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力に制限をかけるものであり、入力制限トルク補正部21a、空気圧力制限値演算部21b、制限部21cを有する。
入力制限トルク補正部21aは、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8によって検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差に応じて、空気圧力制限値演算部21bでの演算に用いる目標制限トルクを補正して、第2の目標制限トルクとして算出するものである。
空気圧力制限値演算部21bは、入力制限トルク補正部21aによって算出された第2の目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧に応じて、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力を制限するための空気圧力制限値を算出するものである。
制限部21cは、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力を、空気圧力制限値演算部21bで算出された空気圧力制限値に制限するものである。すなわち、制限部21cは、燃料電池1に要求される発電量に対応した目標空気圧力が、空気圧力制限値演算部21bで算出された空気圧力制限値よりも小さければ、当該目標空気圧力を空気圧力制御指令値として空気圧力制御手段22に出力し、目標空気圧力が空気圧力制限値よりも大きければ、空気圧力制限値を空気圧力制御指令値として空気圧力制御手段22に出力する。
空気圧力制御手段22は、空気圧力制限手段21の制限部21cから出力される空気圧力制御指令値と、圧力センサ6によって検出される現在の空気圧力とに応じて、調圧弁5の開度を調整することで、燃料電池1のカソードに供給される空気の圧力を制御する。これにより、本実施形態の燃料電池システムにおいては、燃料電池1のカソードに供給される空気の圧力が、空気圧力制限手段21の空気圧力制限値演算部21bで算出された空気圧力制限値に制限されることになる。
空気圧力制限手段21における制御の具体例を図7に示す。この図7に示す例において、入力制限トルク補正部21aは、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差に応じた入力トルク補正値を求め、この入力トルク補正値を用いて目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクを補正することで、第2の目標制限トルクを算出する。そして、この第2の目標制限トルクを空気圧力制限値演算部21bに入力する。
空気圧力制限値演算部21bは、例えば、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(燃料電池1のカソード運転圧力)とその空気圧力を実現するためにコンプレッサモータに要求される必要トルクとの関係を大気圧毎に表したマップを用い、入力制限トルク補正部21aから入力された第2の目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧とに基づいて、現在の大気圧でコンプレッサモータのモータトルクを第2の目標制限トルクに制限したときに実現可能な上限圧力を、空気圧力制限値として算出する。
制限部21cは、燃料電池1に要求される発電量に対応した目標空気圧力と、空気圧力制限値演算部21bで算出された空気圧力制限値をセレクトローして、空気圧力制御指令値として空気圧力制御手段22に出力することによって、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(カソード運転圧力)を制限する。
ここで、空気圧力制限値演算部21bでの演算に用いられるマップは、燃料電池1のカソード運転圧力とコンプレッサモータの必要トルクに基づいて設計されており、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクからずれた場合には、ずれたトルク偏差をマップの入力に戻して補正することによって、コンプレッサモータのモータトルク値を目標制限トルクに近づかせることができる。
以上、具体的な例を挙げて詳細に説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、モータトルク検出手段8でコンプレッサモータの現在のモータトルク値を検出あるいは推定し、目標制限トルクだけでなく現在のモータトルク値も用いて、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力を制限するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制することができる。したがって、この燃料電池システムにおいては、上述した第1の実施形態の燃料電池システムと同様に、コンプレッサ2やコンプレッサモータの性能ばらつきなどを考慮して燃料電池1からの取出電流を過剰に制限する必要がなく、コンプレッサモータの上限出力を使いきり、燃料電池1のカソードに供給する空気流量を増やして動力性能を向上させることができるとともに、コンプレッサ2やコンプレッサモータ、燃料電池1などの保護を確実に図ることができる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、上述した第1の実施形態の燃料電池システムと同様に、高出力のモータを採用するといった部品の過剰設計をする必要もなく、安価でコンパクトなシステムを実現できる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、燃料電池1からの取出電流(電力)を制限する代わりに、燃料電池1のカソードに供給する空気圧力を制限するようにして、コンプレッサ2の吸入側と吐出側の空気圧縮比を下げ、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制できるようにしているので、燃料電池1からの取出電流(電力)を制限することに起因する動力性能低下をさらに効果的に回避しながら、コンプレッサ2やコンプレッサモータ、燃料電池1などの保護を確実に図ることができる。
また、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、空気圧力制限手段21での空気圧力制限値の演算に用いる目標制限トルクを補正する、すなわち、目標制限トルクと現在のモータトルク値との偏差をフィードバックしながら空気圧力制限値を算出するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、極めて高精度に行うことができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明を適用した第3の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第3の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図8に示す。本実施形態の燃料電池システムは、図8に示すように、上述した第1の実施形態における出力制限手段12の代わりに、出力制限手段31を備えたものである。すなわち、上述した第1の実施形態の燃料電池システムでは、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、出力制限手段12での電流制限値の演算に用いる目標制限トルクを補正するようにしているが、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、出力制限手段31で目標制限トルクに基づいて算出された電流制限値を補正するようにしている。
なお、本実施形態の燃料電池システムにおけるその他の構成や制御の基本部分は、上述した第1の実施形態と共通であるので、以下、第1の実施形態との共通部分については図中同一の符号を付して重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な出力制限手段31の構成およびその制御内容を中心に説明する。
出力制限手段31は、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるものであり、出力制限値演算部31a、出力制限値補正部31b、制限部31cを有する。なお、ここでは、出力制限手段31が、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるものとして説明するが、電流と電圧の双方、すなわち燃料電池1からの取出電力に制限をかけるようにしてもよい。燃料電池1からの取出電力に制限をかける場合も、制御の内容は、燃料電池1からの取出電流に制限をかける場合と同様である。
出力制限値演算部31aは、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧に応じて、燃料電池1からの取出電流を制限するための電流制限値を算出するものである。
出力制限値補正部31bは、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8によって検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差、および当該偏差の積分値に応じて、出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を補正するものである。
制限部31cは、燃料電池1からの目標取出電流を、出力制限値演算部31aで算出されて出力制限値補正部31bで補正された電流制限値に制限するものである。すなわち、制限部31cは、例えば駆動モータの動作状況などに応じて燃料電池1に要求される目標取出電流が、出力制限値演算部31aで算出されて出力制限値補正部31bで補正された電流制限値よりも小さければ、当該目標取出電流を取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力し、目標取出電流が電流制限値よりも大きければ、電流制限値を取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力する。これにより、燃料電池1からの取出電流が、電流制限値に制限されることになる。
出力制限手段31における制御の具体例を図9に示す。この図9に示す例において、出力制限値演算部31aは、例えば、燃料電池1からの取出電流値とその電流値を燃料電池1から取り出せるようにするためにコンプレッサモータに要求される必要トルクとの関係を大気圧毎に表したマップを用い、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧とに基づいて、現在の大気圧でコンプレッサモータのモータトルクを目標制限トルクに制限したときに燃料電池1から取り出すことが可能な電流値を、電流制限値として算出する。
出力制限値補正部31bは、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差、および当該偏差の積分値に応じた電流制限補正値を求め、この電流制限補正値を用いて、出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を補正する。
制限部31cは、燃料電池1の目標取出電流と、出力制限値演算部31aで算出されて出力制限値補正部31bで補正された電流制限値をセレクトローして、取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力することによって、燃料電池1からの取出電流を制限する。
以上のように、本実施形態の燃料電池システムにおける出力制限手段31では、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクからずれた場合に、ずれたトルク偏差がフィードバックされて電流制限値が調整されるので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制することができる。
本実施形態の燃料電池システムでの燃料電池1からの取出電流の制限と、その制限によるコンプレッサモータのモータトルクの応答との関係を図10に示す。この図10に示すように、本実施形態の燃料電池システムでは、目標制限トルクとコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差をフィードバックして電流制限値を調整することで、コンプレッサモータのモータトルク値を目標制限トルクに近づけることができ、さらに、目標制限トルクとコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差を積分してフィードバックしているので、定常的には偏差をゼロに近づけることができる。
以上、具体的な例を挙げて詳細に説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、モータトルク検出手段8でコンプレッサモータの現在のモータトルク値を検出あるいは推定し、目標制限トルクだけでなく現在のモータトルク値も用いて、燃料電池1からの取出電流を制限するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制することができる。したがって、この燃料電池システムにおいては、上述した第1の実施形態の燃料電池システムと同様に、コンプレッサ2やコンプレッサモータの性能ばらつきなどを考慮して燃料電池1からの取出電流を過剰に制限する必要がなく、コンプレッサモータの上限出力を使いきり、燃料電池1のカソードに供給する空気流量を増やして動力性能を向上させることができるとともに、コンプレッサ2やコンプレッサモータ、燃料電池1などの保護を確実に図ることができる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、上述した第1の実施形態の燃料電池システムと同様に、高出力のモータを採用するといった部品の過剰設計をする必要もなく、安価でコンパクトなシステムを実現できる。
また、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、出力制限手段31で目標制限トルクに基づいて算出された電流制限値を補正する、すなわち、目標制限トルクと現在のモータトルク値との偏差をフィードバックしながら電流制限値を算出するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、極めて高精度に行うことができる。
(第4の実施形態)
次に、本発明を適用した第4の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第4の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図11に示す。本実施形態の燃料電池システムは、図11に示すように、上述した第2の実施形態における空気圧力制限手段21の代わりに、空気圧力制限手段41を備えたものである。すなわち、上述した第2の実施形態の燃料電池システムでは、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、空気圧力制限手段21での空気圧力制限値の演算に用いる目標制限トルクを補正するようにしているが、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、空気圧力制限手段41で目標制限トルクに基づいて算出された空気圧力制限値を補正するようにしている。
なお、本実施形態の燃料電池システムにおけるその他の構成や制御の基本部分は、上述した第2の実施形態と共通であるので、以下、第2の実施形態との共通部分については図中同一の符号を付して重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な空気圧力制限手段41の構成およびその制御内容を中心に説明する。
空気圧力制限手段41は、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(燃料電池1のカソード運転圧力)に制限をかけるものであり、空気圧力制限値演算部41a、空気圧力制限値補正部41b、制限部41cを有する。
空気圧力制限値演算部41aは、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧に応じて、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力を制限するための空気圧力制限値を算出するものである。
空気圧力制限値補正部41bは、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8によって検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差、および当該偏差の積分値に応じて、空気圧力制限値演算部41aで算出された空気圧力制限値を補正するものである。
制限部41cは、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力を、空気圧力制限値演算部41aで算出されて空気圧力制限値補正部41bで補正された空気圧力制限値に制限するものである。すなわち、制限部41cは、燃料電池1に要求される発電量に対応した目標空気圧力が、空気圧力制限値演算部41aで算出されて空気圧力制限値補正部41bで補正された空気圧力制限値よりも小さければ、当該目標空気圧力を空気圧力制御指令値として空気圧力制御手段22に出力し、目標空気圧力が空気圧力制限値よりも大きければ、空気圧力制限値を空気圧力制御指令値として空気圧力制御手段22に出力する。
空気圧力制御手段22は、空気圧力制限手段41の制限部41cから出力される空気圧力制御指令値と、圧力センサ6によって検出される現在の空気圧力とに応じて、調圧弁5の開度を調整することで、燃料電池1のカソードに供給される空気の圧力を制御する。これにより、本実施形態の燃料電池システムにおいては、燃料電池1のカソードに供給される空気の圧力が、空気圧力制限手段41の空気圧力制限値演算部41aで算出されて空気圧力制限値補正部41bで補正された空気圧力制限値に制限されることになる。
空気圧力制限手段41における制御の具体例を図12に示す。この図12に示す例において、空気圧力制限値演算部41aは、例えば、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(燃料電池1のカソード運転圧力)とその空気圧力を実現するためにコンプレッサモータに要求される必要トルクとの関係を大気圧毎に表したマップを用い、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧とに基づいて、現在の大気圧でコンプレッサモータのモータトルクを目標制限トルクに制限したときに実現可能な上限圧力を、空気圧力制限値として算出する。
空気圧力制限値補正部41bは、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差、および当該偏差の積分値に応じた空気圧力制限補正値を求め、この空気圧力制限補正値を用いて、空気圧力制限値演算部41aで算出された空気圧力制限値を補正する。
制限部41cは、燃料電池1に要求される発電量に対応した目標空気圧力と、空気圧力制限値演算部41aで算出されて空気圧力制限値補正部41bで補正された空気圧力制限値をセレクトローして、空気圧力制御指令値として空気圧力制御手段22に出力することによって、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(カソード運転圧力)を制限する。
以上のように、本実施形態の燃料電池システムにおける空気圧力制限手段41では、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクからずれた場合に、ずれたトルク偏差がフィードバックされて空気圧力制限値が調整されるので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制することができる。
以上、具体的な例を挙げて詳細に説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、モータトルク検出手段8でコンプレッサモータの現在のモータトルク値を検出あるいは推定し、目標制限トルクだけでなく現在のモータトルク値も用いて、燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力を制限するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制することができる。したがって、この燃料電池システムにおいては、上述した第2の実施形態の燃料電池システムと同様に、コンプレッサ2やコンプレッサモータの性能ばらつきなどを考慮して燃料電池1からの取出電流を過剰に制限する必要がなく、コンプレッサモータの上限出力を使いきり、燃料電池1のカソードに供給する空気流量を増やして動力性能を向上させることができるとともに、コンプレッサ2やコンプレッサモータ、燃料電池1などの保護を確実に図ることができる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、上述した第2の実施形態の燃料電池システムと同様に、高出力のモータを採用するといった部品の過剰設計をする必要もなく、安価でコンパクトなシステムを実現できる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、燃料電池1からの取出電流(電力)を制限する代わりに、燃料電池1のカソードに供給する空気圧力を制限するようにして、コンプレッサ2の吸入側と吐出側の空気圧縮比を下げ、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制できるようにしているので、燃料電池1からの取出電流(電力)を制限することに起因する動力性能低下をさらに効果的に回避しながら、コンプレッサ2やコンプレッサモータ、燃料電池1などの保護を確実に図ることができる。
また、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段9で設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されたコンプレッサモータの現在のモータトルク値との偏差に応じて、空気圧力制限手段41で目標制限トルクに基づいて算出された空気圧力制限値を補正する、すなわち、目標制限トルクと現在のモータトルク値との偏差をフィードバックしながら空気圧力制限値を算出するようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、極めて高精度に行うことができる。
(第5の実施形態)
次に、本発明を適用した第5の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第5の実施形態の燃料電池システムは、上述した第3の実施形態の燃料電池システムの構成(図8参照)を前提とし、出力制限手段31の出力制限値補正部31bが電流制限値を補正する際の演算方法に特徴を有するものである。すなわち、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値補正部31bが電流制限値を補正する際に、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差と、当該偏差の積分値であって下限値のリミッタが設定された積分値とに応じて電流制限補正値を求め、この電流制限補正値を用いて、出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を補正するようにしている。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクよりも所定値αだけ低い値に設定された第1の閾値以上となったときに、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を実施し、この補正演算を実施した後、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクよりも所定値β(β>α)だけ低い値に設定された第2の閾値(第2の閾値<第1の閾値)未満となったときに、補正演算を終了するようにしている。さらにまた、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を終了した後、次の補正演算を開始するまでの間は、前回の補正演算のときの積分値(目標制限トルクとモータトルク値との偏差の積分値)を保持するようにしている。
本実施形態の燃料電池システムにおける出力制限手段31での制御の具体例を図13に示す。この図13に示す例において、出力制限値演算部31aおよび制限部31cでの処理内容は、上述した第3の実施形態の燃料電池システム(図9参照)と同様である。出力制限値補正部31bは、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差と、当該偏差の積分値であって下限値のリミッタが設定された積分値とに応じて、PI制御により電流制限補正値を求め、この電流制限補正値を用いて、出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を補正する。
ここで、図13に示す例における出力制限値補正部31bでの積分項と比例項の演算方法について説明する。
(1)起動時に積分項の初期値にゼロあるいは前回停止時の最終演算値を設定しておく。
(2)モータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクより所定値βだけ低い値である第2の閾値未満になっているときには、積分ゲインをIゲインからゼロゲインに切り替えることによって、積分演算値を保持する。また、このとき、比例ゲインもPゲインからゼロゲインに切り替える。
これにより、モータトルク値が目標制限トルクから離れて低い状態(出力制限がかからないような状態)で積分の演算を停止でき、積分項の発散を防止できる。また、積分値は出力制限がかかっているときに、目標制限トルクと現在のモータトルク値との偏差をゼロに近づけるような最適値に演算されているので、燃料電池1からの取出電流に制限がかからないような状態では積分演算値を保持することによって、次回の電流制限をかけるときにも、積分値の演算が最適値から開始されるようになり、さらにモータトルク値のオーバーシュートを防止して、モータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、さらに高精度に行えるようになる。
積分ゲインのゼロゲインからIゲインへの切り替えと、比例ゲインのゼロゲインからPゲインへの切り替えについては、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクより所定値α(α<β)だけ低い値である第1の閾値(第1の閾値>第2の閾値)以上になったときとし、補正演算の復帰と解除にヒステリシスを設定する。
(3)積分値の演算には、下限値をゼロとするリミッタを設定する。
燃料電池1からの取出電流に制限がかかってないときに、モータトルク値が目標制限トルクと第1の閾値(積分演算開始の閾値)間におさまった状態が長く続くと、目標制限トルクと現在のモータトルク値との偏差が積算され続けて積分値が発散していく可能性がある。そこで、積分値の演算には下限値リミッタを設定する。これにより、積分値の発散を防止し、燃料電池1からの取出電流の制限を正常に実施することができる。
本実施形態の燃料電池システムでの燃料電池1からの取出電流の制限と、その制限によるコンプレッサモータのモータトルクの応答との関係を図14に示す。この図14に示すように、本実施形態の燃料電池システムでは、始めに取出電流の制限がかかったときにはコンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクを少しオーバーシュートすることもあるが、次回あるいは何回か電流制限がかかったときには、上述した(2)の理由により、モータトルク値のオーバーシュートを防止することができる。
以上、具体的な例を挙げて詳細に説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値補正部31bが上述した手法で電流制限値を補正することによって、第3の実施形態の燃料電池システムの効果に加えて、以下のような効果が得られる。
すなわち、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値補正部31bが、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差と、当該偏差の積分値とに応じて、出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を補正するようにしているので、定常偏差の影響を排除して、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、さらに高精度に行うことができる。また、積分値の演算に下限値リミッタを設定することによって、積分値の発散を防止して、燃料電池1からの取出電流の制限を正常に実施することができる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクよりも所定値αだけ低い値に設定された第1の閾値以上となったときに、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を実施するようにしているので、電流制限値の発散を防止して、燃料電池1からの取出電流の制限を正常に実施することができる。すなわち、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクからかけ離れて低い状態(出力制限がかからないような状態)で、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算(トルク偏差のフィードバック補正演算)を実施すると、トルク偏差が積分項に蓄積されて電流制限値が発散し、適切に電流制限がかからなくなる可能性があるが、本実施形態の燃料電池システムでは、このような場合にはトルク偏差のフィードバック補正演算が行われないので、電流制限値の発散を防止することができる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を実施した後、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクよりも所定値β(β>α)だけ低い値に設定された第2の閾値(第2の閾値<第1の閾値)未満となったときに、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を終了するようにしているので、トルク偏差のフィードバック補正演算の実施と終了にヒステリシスが設けられ、フィードバック補正演算の実施/終了のチャタリングを防止することができる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、トルク偏差のフィードバック補正演算を終了した後、次の補正演算を開始するまでの間は、前回の補正演算のときの積分値を保持するようにしているので、次回の電流制限をかけるときにも、積分値の演算を最適値から開始させることができ、モータトルク値のオーバーシュートを防止して、モータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、さらに高精度に行うことが可能となる。
なお、以上は、第3の実施形態の燃料電池システムの構成を前提として、本実施形態に特徴的な出力制限値補正部31bでの補正演算について説明したが、この補正演算は、上述した第1の実施形態の燃料電池システムや第2の実施形態の燃料電池システム、第4の実施形態の燃料電池システムのいずれの構成を前提とした場合にも有効に適用できるものである。勿論、第2の実施形態の燃料電池システムや第4の実施形態の燃料電池システムの構成を前提として本実施形態に特徴的な補正演算を適用した場合には、この補正演算によって、空気圧力制限値が補正されることになる。
(第6の実施形態)
次に、本発明を適用した第6の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第6の実施形態の燃料電池システムは、上述した第5の実施形態の燃料電池システムの変形例である。すなわち、本実施形態の燃料電池システムでは、基本的には出力制限手段31の出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を用いて燃料電池1からの取出電流を制限するが、出力制限値演算部31aの設計が実際とずれて、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクを超えた場合に、出力制限値補正部31bでの補正演算を実施するようにしている。具体的には、本実施形態の燃料電池システムでは、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクよりも所定値γだけ高い値に設定された第3の閾値以上となったときに、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を実施し、この補正演算を実施した後、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクよりも所定値δ(δ<γ)だけ高い値に設定された第4の閾値(第4の閾値<第3の閾値)未満となったときに、補正演算を終了するようにしている。
本実施形態の燃料電池システムにおける出力制限手段31での制御の具体例を図15に示す。この図15に示す例において、出力制限値演算部31aおよび制限部31cでの処理内容は、上述した第3の実施形態の燃料電池システム(図9参照)と同様である。また、出力制限値補正部31bでの補正演算は、上述した第5の実施形態と同様であり、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差と、当該偏差の積分値であって下限値のリミッタが設定された積分値とに応じて、PI制御により電流制限補正値を求め、この電流制限補正値を用いて、出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を補正する。
ただし、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値補正部31bでの補正演算を、出力制限値演算部31aの設計が実際とずれて、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクを超えた場合に実施するようにしている。すなわち、本実施形態の燃料電池システムにおいて、出力制限手段31の出力制限値補正部31bは、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクよりも所定値δだけ高い値である第4の閾値未満になっているときには、積分ゲインをIゲインからゼロゲインに切り替える。また、このとき、比例ゲインもPゲインからゼロゲインに切り替える。
積分ゲインのゼロゲインからIゲインへの切り替えと、比例ゲインのゼロゲインからPゲインへの切り替えについては、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値が、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクより所定値γ(γ>δ)だけ高い値である第3の閾値(第3の閾値>第4の閾値)以上になったときとし、補正演算の復帰と解除にヒステリシスを設定する。
以上のように、本実施形態の燃料電池システムでは、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクよりも所定値γだけ高い値に設定された第3の閾値以上となったときに、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を実施するようにしているので、出力制限値演算部31aの設計が実際とずれて乖離が生じたときに、トルク偏差のフィードバック補正演算によってコンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制することができる。
また、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を実施した後、コンプレッサモータのモータトルク値が目標制限トルクよりも所定値δ(δ<γ)だけ高い値に設定された第4の閾値(第4の閾値<第3の閾値)未満となったときに、出力制限手段31の出力制限値補正部31bによる補正演算を終了するようにしているので、トルク偏差のフィードバック補正演算の実施と終了にヒステリシスが設けられ、フィードバック補正演算の実施/終了のチャタリングを防止することができる。
なお、以上は、第3の実施形態の燃料電池システムの構成を前提として、本実施形態に特徴的な出力制限値補正部31bでの補正演算について説明したが、この補正演算は、第5の実施形態で説明した補正演算と同様に、上述した第1の実施形態の燃料電池システムや第2の実施形態の燃料電池システム、第4の実施形態の燃料電池システムのいずれの構成を前提とした場合にも有効に適用できるものである。勿論、第2の実施形態の燃料電池システムや第4の実施形態の燃料電池システムの構成を前提として本実施形態に特徴的な補正演算を適用した場合には、この補正演算によって、空気圧力制限値が補正されることになる。
(第7の実施形態)
次に、本発明を適用した第7の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第7の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図16に示す。本実施形態の燃料電池システムは、図16に示すように、上述した第3の実施形態における出力制限手段31の代わりに、出力制限手段71を備えたものである。すなわち、上述した第3の実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段31の出力制限値演算部31aで算出されて出力制限値補正部31bで補正された電流制限値で、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるようにしているが、本実施形態の燃料電池システムにおいては、出力制限手段71の出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を、燃料電池1のカソードに供給される空気の圧力、流量、温度に応じてさらに補正して、最終的に得られた電流制限値で、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるようにしている。
なお、本実施形態の燃料電池システムにおけるその他の構成や制御の基本部分は、上述した第3の実施形態と共通であるので、以下、第3の実施形態との共通部分については図中同一の符号を付して重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な出力制限手段71の構成およびその制御内容を中心に説明する。
本実施形態の燃料電池システムにおいて、出力制限手段71は、出力制限値演算部71a、出力制限値補正部71b、空気圧力対応補正部71c、空気流量対応補正部71d、空気温度対応補正部71e、制限部71fを有する。なお、ここでは、出力制限手段71が、燃料電池1からの取出電流に制限をかけるものとして説明するが、電流と電圧の双方、すなわち燃料電池1からの取出電力に制限をかけるようにしてもよい。燃料電池1からの取出電力に制限をかける場合も、制御の内容は、燃料電池1からの取出電流に制限をかける場合と同様である。
出力制限値演算部71aは、第3の実施形態の燃料電池システムにおける出力制限値演算部31aと同様、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧に応じて、燃料電池1からの取出電流を制限するための電流制限値を算出するものである。
出力制限値補正部71bは、第3の実施形態の燃料電池システムにおける出力制限値補正部31bと同様、目標制限トルク設定手段10によって設定された目標制限トルクと、モータトルク検出手段8によって検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差、および当該偏差の積分値に応じて、出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正するものである。
空気圧力対応補正部71cは、燃料電池1に要求される発電量に対応して決定された燃料電池入口目標空気圧力に応じて、出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正するものである。なお、この空気圧力対応補正部71cは、圧力センサ6によって検出された燃料電池1のカソード運転圧力(燃料電池1のカソードに供給されている空気の圧力)に応じて、出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正するようにしてもよい。
空気流量対応補正部71dは、燃料電池1に要求される発電量に対応して決定された燃料電池供給目標空気流量に応じて、出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正するものである。なお、この空気流量対応補正部71dは、燃料電池1のカソード入口側に設けられた図示しない流量センサによって検出された空気流量に応じて、出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正するようにしてもよい。
空気温度対応補正部71eは、燃料電池1のカソード入口側に設けられた温度センサ72によって検出された空気温度に応じて、出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正するものである。
制限部71fは、燃料電池1からの目標取出電流を、出力制限値演算部71aで算出されて出力制限値補正部71b、空気圧力対応補正部71c、空気流量対応補正部71d、空気温度対応補正部71eで補正された電流制限値に制限するものである。すなわち、制限部71fは、例えば駆動モータの動作状況などに応じて燃料電池1に要求される目標取出電流が、出力制限値演算部71aで算出されて出力制限値補正部71b、空気圧力対応補正部71c、空気流量対応補正部71d、空気温度対応補正部71eで補正された電流制限値よりも小さければ、当該目標取出電流を取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力し、目標取出電流が電流制限値よりも大きければ、電流制限値を取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力する。これにより、燃料電池1からの取出電流が、電流制限値に制限されることになる。
出力制限手段71における制御の具体例を図17に示す。この図17に示す例において、出力制限値演算部71aは、例えば、燃料電池1からの取出電流値とその電流値を燃料電池1から取り出せるようにするためにコンプレッサモータに要求される必要トルクとの関係を大気圧毎に表したマップを用い、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクと、大気圧センサ11によって検出された大気圧とに基づいて、現在の大気圧でコンプレッサモータのモータトルクを目標制限トルクに制限したときに燃料電池1から取り出すことが可能な電流値を、電流制限値として算出する。
出力制限値補正部71bは、目標制限トルク設定手段10で設定された目標制限トルクとモータトルク検出手段8で検出あるいは推定された現在のモータトルク値との偏差と、当該偏差の積分値であって下限値のリミッタが設定された積分値とに応じて、PI制御により電流制限補正値を求め、この電流制限補正値を用いて、出力制限値演算部31aで算出された電流制限値を補正する。なお、この図17に示す例での出力制限値補正部71bによる補正演算は、上述した第6の実施形態と同様である。
空気圧力対応補正部71cは、燃料電池入口目標空気圧力と基準空気圧力との偏差に応じて、電流制限値の補正係数を演算する。ここで、基準空気圧力とは、出力制限値演算部71aのマップを作成したときに想定した燃料電池1の目標空気圧力のことである。燃料電池入口目標空気圧力は、燃料電池1の運転温度などに応じて変わることもあるので、燃料電池入口目標空気圧力と基準空気圧力とに乖離が生じた場合には、前記マップを用いて出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正することによって、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制できるようにしている。
空気流量対応補正部71dは、燃料電池供給目標空気流量と基準空気流量との偏差に応じて、電流制限値の補正係数を演算する。ここで、基準空気流量とは、出力制限値演算部71aのマップを作成したときに想定した燃料電池1への供給空気流量のことである。燃料電池供給目標空気流量についても、前述の燃料電池入口目標空気圧力と同様に、燃料電池1の運転温度などに応じて変わることもあるので、燃料電池供給目標空気流量と基準空気流量とに乖離が生じた場合には、前記マップを用いて出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正することによって、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制できるようにしている。
空気温度対応補正部71eは、燃料電池1のカソードに供給する空気の温度(温度センサ72の検出値)と基準空気温度との偏差に応じて、電流制限値の補正係数を演算する。ここで、基準空気温度とは、出力制限値演算部71aのマップを作成したときに想定した燃料電池1への供給空気の温度のことである。燃料電池1が必要とする質量空気流量とコンプレッサ2が供給する体積空気流量の関係は、空気温度に応じて変化する。そして、体積空気流量が変化すると、空気系の圧損が変わってコンプレッサ2の圧縮比とモータトルク値も変動する。したがって、燃料電池1のカソードに供給する空気の温度が基準空気温度から乖離を生じたときには、前記マップを用いて出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を補正することによって、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に精度良く抑制できるようにしている。
制限部71fは、燃料電池1の目標取出電流と、出力制限値演算部71aで算出されて出力制限値補正部71b、空気圧力対応補正部71c、空気流量対応補正部71d、空気温度対応補正部71eで補正された電流制限値をセレクトローして、取出電流指令値としてパワーマネージャ7に出力することによって、燃料電池1からの取出電流を制限する。
以上、具体的な例を挙げて詳細に説明したように、本実施形態の燃料電池システムでは、出力制限手段71の出力制限値演算部71aで算出された電流制限値を、出力制限値補正部71bでの補正演算だけでなく、空気圧力対応補正部71c、空気流量対応補正部71d、空気温度対応補正部71eで各々算出した補正係数も用いて補正し、最終的に得られた電流制限値で燃料電池1からの取出電流に制限をかけるようにしているので、コンプレッサモータのモータトルク値を許容トルク以下に抑制する制御を、さらに高精度に行うことができる。
なお、以上は、第3の実施形態の燃料電池システムの構成を若干変更して、燃料電池1のカソードに供給される空気の圧力、流量、温度に応じて電流制限値を補正する例について説明したが、このような補正方法は、上述した第1の実施形態の燃料電池システムや第2の実施形態の燃料電池システム、第4の実施形態の燃料電池システムのいずれにも有効に適用できるものである。勿論、第2の実施形態の燃料電池システムや第4の実施形態の燃料電池システムに適用した場合には、燃料電池1のカソードに供給される空気の圧力、流量、温度に応じてによって、空気圧力制限値が補正されることになる。
(第8の実施形態)
次に、本発明を適用した第8の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第8の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図18に示す。本実施形態の燃料電池システムは、図18に示すように、上述した第3の実施形態における目標制限トルク設定手段10の代わりに、目標制限トルク設定手段81を備えたものである。すなわち、上述した第3の実施形態の燃料電池システムでは、目標制限トルク設定手段10が、コンプレッサモータの回転数に応じた1種類の目標制限トルクを設定しているが、本実施形態の燃料電池システムにおいては、目標制限トルク設定手段81が、目標制限トルクとして時間定格制限トルクと連続定格制限トルクとの2種類の目標制限トルクを設定している。そして、目標制限トルク設定手段81は、通常は、時間定格制限トルクを目標制限トルクとして出力制限手段31に出力するが、コンプレッサモータのモータトルク値が連続定格制限トルクを超えている状態が所定時間継続したときには、目標制限トルクを時間定格制限トルクから連続定格制限トルクに切り替えて、連続定格制限トルクを目標トルクとして出力制限手段31に出力するようにしている。
なお、本実施形態の燃料電池システムにおけるその他の構成や制御の基本部分は、上述した第3の実施形態と共通であるので、以下、第3の実施形態との共通部分については図中同一の符号を付して重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な目標制限トルク設定手段81の構成およびその制御内容を中心に説明する。
本実施形態の燃料電池システムにおいて、目標制限トルク設定手段81は、例えば図19に示すように、第1マップと第2マップの2種類のマップを用いて目標制限トルクを設定する。第1マップは時間定格制限トルクを求めるためのマップであり、上述した第3の実施形態の燃料電池システムにおける目標制限トルク設定手段10で用いるマップ(図2参照)と同様のマップである。すなわち、第1マップは、コンプレッサモータの回転数と当該回転数のときにコンプレッサモータで出力可能な上限トルクとの関係を表している。一方、第2マップは連続定格制限トルクを求めるためのマップであり、コンプレッサモータの回転数と上限トルクとの関係を表している点は第1マップと同様である。ただし、第2マップでは、コンプレッサモータが所定時間連続して高負荷の状態にあることを想定した場合の上限トルクを規定しており、コンプレッサの回転数が同じであっても第1マップよりも低いトルク値が上限トルクとされている。
目標制限トルク設定手段81は、以上のような第1マップと第2マップとを用い、コンプレッサ回転数検出手段9によって検出されたコンプレッサモータの回転数に応じて、第1マップで求められる上限トルクを時間定格制限トルクとして設定するとともに、第2マップで求められる上限トルクを連続定格制限トルクとして設定する。そして、目標制限トルク設定手段81は、モータトルク検出手段8で検出あるいは推定されるコンプレッサモータのモータトルク値をモニタリングして、当該コンプレッサモータのモータトルク値を連続定格制限トルクと比較し、当該コンプレッサモータのモータトルク値が連続定格制限トルク以下であったり、当該コンプレッサモータのモータトルク値が連続定格制限トルクを超えていてもその超えている時間が所定時間を超えない間は、時間定格制限トルクを目標制限トルクとして選択して出力制限手段31に出力する。一方、目標制限トルク設定手段81は、コンプレッサモータのモータトルク値が連続定格制限トルクを超えている状態が所定時間継続したときには、目標制限トルクを時間定格制限トルクから連続定格制限トルクに切り替えて、連続定格制限トルクを目標制限トルクとして選択して出力制限手段31に出力する。
以上のように、本実施形態の燃料電池システムでは、目標制限トルク設定手段81が、目標制限トルクとして時間定格制限トルクと連続定格制限トルクとの2種類の目標制限トルクを設定して、通常時は時間定格制限トルクを目標制限トルクとして出力制限手段31に出力し、コンプレッサモータのモータトルク値が連続定格制限トルクを超えている状態が所定時間継続したときには、目標制限トルクを時間定格制限トルクから連続定格制限トルクに切り替えて、連続定格制限トルクを目標トルクとして出力制限手段31に出力するようにしているので、コンプレッサモータが長時間に亘って高負荷の状態となっているときの性能低下も考慮しながら、コンプレッサモータのモータトルク値が許容トルクを超えないように制御することができ、コンプレッサモータの保護をより確実に図ることが可能となる。
なお、以上は、第3の実施形態の燃料電池システムの構成を前提として、本実施形態に特徴的な目標制限トルク設定手段81で目標制限トルクを設定する手法について説明したが、この目標制限トルクの設定手法は、上述した第1の実施形態の燃料電池システムや第2の実施形態の燃料電池システム、第4の実施形態の燃料電池システムのいずれの構成を前提とした場合にも有効に適用できるものである。
(第9の実施形態)
次に、本発明を適用した第9の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第9の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図20に示す。本実施形態の燃料電池システムは、図20に示すように、上述した第1の実施形態におけるコンプレッサ回転数検出手段9の代わりにコンプレッサ目標回転数演算手段91を備え、上述した第1の実施形態における目標制限トルク設定手段9の代わりに目標制限トルク設定手段92を備えたものである。すなわち、上述した第1の実施形態の燃料電池システムでは、コンプレッサ回転数検出手段9でコンプレッサモータの回転数を検出し、目標制限トルク設定手段10が、このコンプレッサ回転数検出手段9で検出したコンプレッサモータの回転数に応じて、コンプレッサモータの目標制限トルクを設定するようにしているが、本実施形態の燃料電池システムにおいては、コンプレッサ目標回転数演算手段91でコンプレッサモータの目標回転数を演算し、目標制限トルク設定手段92が、このコンプレッサ目標回転数演算手段91で演算したコンプレッサモータの目標回転数に応じて、コンプレッサモータの目標制限トルクを設定するようにしている。
なお、本実施形態の燃料電池システムにおけるその他の構成や制御の基本部分は、上述した第1の実施形態と共通であるので、以下、第1の実施形態との共通部分については図中同一の符号を付して重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
本実施形態の燃料電池システムにおいて、コンプレッサ目標回転数演算手段91は、例えば、駆動モータの動作状況などに応じて燃料電池1に要求される目標取出電流に基づいて、この目標取出電流を燃料電池1から取り出すために必要な必要空気流量を求め、この求めた必要空気流量を実現するためにコンプレッサモータに対して要求する目標回転数(すなわち、コンプレッサ2の目標回転数)を算出する。
また、目標制限トルク設定手段92は、例えば図21に示すように、コンプレッサモータの回転数と上限トルクとの関係を表すマップを用いて、コンプレッサ目標回転数演算手段91で算出されたコンプレッサモータの目標回転数に応じて、コンプレッサモータのトルクが当該コンプレッサモータの能力を超えないように制限するための目標制限トルクを設定する。なお、このとき、目標制限トルク設定手段92は、上述した第1の実施形態における目標制限トルク設定手段10と同様に、コンプレッサ目標回転数演算手段91によって算出されたコンプレッサモータの目標回転数をそのままマップの入力値として用いるのではなく、図21に示すように、一次遅れフィルタを用いてコンプレッサ目標回転数演算手段91によって算出されたコンプレッサモータの目標回転数に補正をかけた出力をマップの入力値として目標制限トルクを設定することが望ましい。このように、コンプレッサ目標回転数演算手段91によって算出されたコンプレッサモータの目標回転数に一次遅れフィルタを用いて補正をかけた出力に応じて目標制限トルクを設定するようにすれば、上述した第1の実施形態と同様に、コンプレッサモータの回転数の変動をなまして、目標制限トルクの演算と燃料電池1からの取出電流制限値の演算との干渉を回避することができ、取出電流制限にハンチングを生じさせるといった問題を有効に抑制することが可能となる。
以上のように、本実施形態の燃料電池システムでは、コンプレッサ目標回転数演算手段91でコンプレッサモータの目標回転数を演算し、目標制限トルク設定手段92が、コンプレッサ目標回転数演算手段91で演算したコンプレッサモータの目標回転数に応じてコンプレッサモータの目標制限トルクを設定するようにしているので、上述した第1の実施形態の燃料電池システムの効果に加えて、以下のような効果が得られる。すなわち、コンプレッサモータの回転数を検出して、その検出値に応じてコンプレッサモータの目標制限トルクを設定した場合、コンプレッサモータの回転数制御精度によっては実際の回転数が目標値から変動することがあり、それに起因して目標制限トルクの設定値が変動し、燃料電池1からの取出電流制限値が振動的になる可能性があるが、本実施形態の燃料電池システムでは、変動の少ない目標回転数に応じてコンプレッサモータの目標制限トルクを設定するようにしているので、目標制限トルクの設定値を安定化させて、燃料電池1からの取出電流制限値の振動を有効に抑制することができる。
(第10の実施形態)
次に、本発明を適用した第10の実施形態の燃料電池システムについて説明する。
第10の実施形態の燃料電池システムの要部構成を図22に示す。本実施形態の燃料電池システムは、上述した第2の実施形態におけるコンプレッサ回転数検出手段9の代わりにコンプレッサ目標回転数演算手段101を備え、上述した第2の実施形態における目標制限トルク設定手段9の代わりに目標制限トルク設定手段102を備えたものである。すなわち、本実施形態の燃料電池システムは、上述した第2の実施形態の燃料電池システムのように、目標制限トルクとコンプレッサモータの現在のトルク値とに応じて燃料電池1のカソードに供給する空気の圧力(燃料電池1のカソード運転圧力)に制限をかける構成において、上述した第9の実施形態の燃料電池システムのように、コンプレッサモータの目標回転数に応じてコンプレッサモータの目標制限トルクを設定するようにしている。
なお、本実施形態の燃料電池システムにおけるその他の構成や制御の基本部分は、上述した第2の実施形態と共通であるので、以下、第1の実施形態との共通部分については図中同一の符号を付して重複した説明を省略し、本実施形態に特徴的な部分についてのみ説明する。
本実施形態の燃料電池システムにおいて、コンプレッサ目標回転数演算手段101は、上述した第9の実施形態におけるコンプレッサ目標回転数演算手段91と同様に、例えば、駆動モータの動作状況などに応じて燃料電池1に要求される目標取出電流に基づいて、この目標取出電流を燃料電池1から取り出すために必要な必要空気流量を求め、この求めた必要空気流量を実現するためにコンプレッサモータに対して要求する目標回転数(すなわち、コンプレッサ2の目標回転数)を算出する。
また、目標制限トルク設定手段102は、上述した第9の実施形態における目標制限トルク設定手段92と同様に、例えば図21に示したようなコンプレッサモータの回転数と上限トルクとの関係を表すマップを用いて、コンプレッサ目標回転数演算手段101で算出されたコンプレッサモータの目標回転数に応じて、コンプレッサモータのトルクが当該コンプレッサモータの能力を超えないように制限するための目標制限トルクを設定する。なお、このとき、目標制限トルク設定手段102は、上述した第9の実施形態における目標制限トルク設定手段92と同様に、コンプレッサ目標回転数演算手段101によって算出されたコンプレッサモータの目標回転数をそのままマップの入力値として用いるのではなく、図22に示したように、一次遅れフィルタを用いてコンプレッサ目標回転数演算手段101によって算出されたコンプレッサモータの目標回転数に補正をかけた出力をマップの入力値として目標制限トルクを設定することが望ましい。このように、コンプレッサ目標回転数演算手段101によって算出されたコンプレッサモータの目標回転数に一次遅れフィルタを用いて補正をかけた出力に応じて目標制限トルクを設定するようにすれば、上述した第9の実施形態と同様に、コンプレッサモータの回転数の変動をなまして、目標制限トルクの演算と燃料電池1からの取出電流制限値の演算との干渉を回避することができ、取出電流制限にハンチングを生じさせるといった問題を有効に抑制することが可能となる。
以上のように、本実施形態の燃料電池システムでは、コンプレッサ目標回転数演算手段101でコンプレッサモータの目標回転数を演算し、目標制限トルク設定手段102が、コンプレッサ目標回転数演算手段101で演算したコンプレッサモータの目標回転数に応じてコンプレッサモータの目標制限トルクを設定するようにしているので、上述した第2の実施形態の燃料電池システムの効果に加えて、目標制限トルクの設定値を安定化させて、燃料電池1からの取出電流制限値の振動を有効に抑制できるといった効果が得られる。
以上、本発明を適用した第1乃至第10の実施形態の燃料電池システムについて詳細に説明したが、以上の各実施形態は、本発明の一適用例を例示したものであり、本発明の技術的範囲は、以上の実施形態の説明で開示した内容に限定されるものではなく、これらの開示から容易に導き得る様々な代替技術も含まれることは勿論である。