JP2007082422A - 低酸素条件下において遊走能を有する樹状細胞、およびその利用 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の目的は、癌組織等の酸素濃度の低い状態で分化した樹状細胞に代わり、遊走、浸潤能に優れ、免疫細胞療法に適用するのに優れた樹状細胞を提供することにある。
【解決手段】固形癌局所や虚血病態組織に見られる低酸素状態においてもMMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現が正常酸素分圧下でも低下しないか、逆に亢進し、遊走能、浸潤能に優れ、免疫細胞療法に適用するに優れる樹状細胞の作製に成功した。該細胞は、低酸素条件下においても遊走能を有する樹状細胞であり、該樹状細胞は各種免疫療法のための薬剤として有用である。
【選択図】なし
【解決手段】固形癌局所や虚血病態組織に見られる低酸素状態においてもMMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現が正常酸素分圧下でも低下しないか、逆に亢進し、遊走能、浸潤能に優れ、免疫細胞療法に適用するに優れる樹状細胞の作製に成功した。該細胞は、低酸素条件下においても遊走能を有する樹状細胞であり、該樹状細胞は各種免疫療法のための薬剤として有用である。
【選択図】なし
Description
本発明は、低酸素分圧条件下においても遊走能を有する樹状細胞、および該樹状細胞の作製方法に関する。
腫瘍抗原とはまさに腫瘍細胞であり、他の正常な体細胞とは異なることを示す指標となる分子のことで、免疫系が腫瘍抗原の存在を察知して、活性化され、最終的に、本抗原を持つ細胞のみを特異的に排除するという免疫学的に最も基本的な経路に関わるものである。
1980年代後半、MHC分子にペプチドが結合していることがX線解析で明らかにされ、1991年Boonらによりヒトメラノーマ抗原が初めて同定され、続いてRammenseeらによるクラスI, II分子に結合するペプチドのアンカーアミノ酸の決定などを契機に、CD8+TやCD4+Tリンパ球が特異的に認識するヒト腫瘍抗原が多数報告されている(非特許文献30〜37参照)。生成機構も点突然変異による新しいアグレトープ、エピトープの出現を中心に、遺伝子の活性化、過剰発現(ウイルス遺伝子の挿入、染色体転座)、脱アミンや酸化など翻訳後修飾、不完全スプライシング、糖鎖減少による細胞表面表出(mucinなど)など、多様である。ペプチドの親蛋白は細胞表面に存在する必要はなく、多くの親蛋白は、核内や細胞質に局在する。これらの癌抗原は腫瘍反応性Tリンパ球の活性化(TNF-α、IFN-γ産生など)を指標にしたcDNA発現クローニング法や、癌細胞上のMHCに結合しているペプチドを単離する方法によって同定される。
腫瘍抗原を認識する免疫系を活性化すると、癌細胞を排除/障害出来るエフェクター細胞、分子(免疫エフェクター)が活性化される。エフェクターには腫瘍抗原を標的とする抗原特異的なものと腫瘍抗原の認識を介さない非特異的、癌細胞選択的なものに分けられる。腫瘍免疫で現在もっとも期待されているエフェクターはCTL、NKTとされるが、遅延型過敏症反応に関わる活性化マクロファージ(IFN-γにより活性化される)、ならびに、そこから産生されるNOの寄与も大きい。
腫瘍抗原の認識は2つの経路で行われる。第一の経路では、死んだ癌細胞由来の腫瘍抗原や癌細胞から遊離(shedding)される腫瘍抗原が外来性抗原として、樹状細胞を主とする抗原呈示細胞(APC)に取り込まれ、リソゾームで分解されたのちエンドソームに輸送され、MHCクラスIIと複合体を形成し細胞表面に運ばれ、ヘルパーエピトープとしてCD4+Tリンパ球を活性化する。もう一つの経路の場合、細胞質内で合成された腫瘍抗原が、内在性抗原としてCD8+Tリンパ球に提示され、プロテアソームでペプチドにプロセッシングを受けたのち、小胞体でMHCクラスIと複合体を形成し細胞表面に運ばれる。この際、熱ショック蛋白質(hsp)はシャペロンとしてペプチドの輸送に関わる。癌ワクチンを考えるに際し、ペプチドとhspの複合体が思慮されるゆえんである。
腫瘍抗原がヘルパーTリンパ球を活性化することが、腫瘍免疫を効率的に誘導するには不可欠と考えられる。その結果、ヘルパーTリンパ球からIL-2、IFN-γが産生され、CTLやNK、Mφなどのエフェクター細胞が効率的に活性化される。ヘルパーTリンパ球によるCTLの活性化は、T-T細胞間相互作用である。T-T相互作用に関わるヘルパーTリンパ球はTh1と呼称され、T-B相互作用に関わるヘルパーTリンパ球はTh2と呼称される。従って、細胞性免疫の増強にはTh1の誘導が重要である。Th1/Th2バランスは、APCから産生されるサイトカインのプロファイルで規定される。IL-12、IL-15、IL-18、IFN-γを産生するAPCが、細胞性免疫を担うTh1への傾斜をもたらす。腫瘍免疫におけるTh1の重要性を考えると、IL-12、IL-15、IL-18、IFN-γなどを産生するAPCの存在は重要である。こうしたサイトカイン産生プロファイルを示すAPCは細胞内グルタチオン(GSH)量の高い還元型である。APCの細胞内レドックス状態がTh1/Th2バランスを規定し、結果として、腫瘍免疫の強度の制御に関与している。
生体固有の抵抗力を増強して癌を排除しようとする試験は、免疫系が特異的に認識する腫瘍抗原の実態が曖昧な時代から、精力的に行われている。特異免疫を増強する試験は、まず癌細胞特異的な抗体の活用から始まった。モノクローナル抗体作成のためのハイブリドーマ技術が樹立されて以来、数々の抗体を応用する試験が行われたが、癌組織選択性が甘く、正常組織も傷害するという問題が明らかになった。
抗体の試験は、液性免疫応答におけるエフェクター分子を直接投与するというものである。細胞性免疫に対応する試験は、エフェクター細胞であるCTLやNK、LAK細胞の移入という細胞移入療法になる。代わって、最初に試みられたのが、生体内でCTLやNK、LAK細胞を効率的に活性化するサイトカインを投与する試験である。いわゆる、サイトカイン療法である。前述のようにT(Th1)-T(pre-CTL)相互作用を担う代表的サイトカインとして遺伝子クローニングされたIL-2は、CTL、NK、LAK細胞を効率よく活性化することから、IL-2が最初にサイトカイン療法に用いられ、今も中心的位置を占めている。その後、IL-4、IL-12、IL-18などについても検討が行われた。サイトカインは内分泌性のホルモンと異なり、遠隔臓器には作用せず、産生部位の近傍でのみ作用するパラクリン(傍分泌)的作用を中心とする。全身投与では副作用が強く効果が弱い。半減期も短く、内因性の阻害剤も存在し、カスケード的に他の様々なサイトカインを産生誘導する。従って、局所作用性への工夫が不可欠である。この点、G-CSF、エリスロポイエチンなど、エンドクリン的に作用するサイトカインに比較し、臨床応用が難しい。
細胞移植療法としてCTLやNK、LAK細胞の移入治療も活発に実施されている。この場合にも、移入細胞の活性化を維持するサイトカインとして、IL-2が移入細胞とともに投与されている。移入する細胞としては、他に、腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)も用いられている。サイトカインの局所作用性を克服する方法として試みられているのが、サイトカイン遺伝子療法である。移入する細胞や癌細胞にサイトカイン遺伝子を組み込んだプラスミドを導入し、局所でのサイトカイン産生を効率化しようとするものである。このプラスミド自身を直接投与して癌組織にターゲティングする方法も開発されている。
腫瘍免疫がうまく動かない理由のひとつに、癌細胞には、セカンドシグナルとしてエフェクター細胞(CTLなど)の活性化に関わるco-stimulatory分子と呼ばれるB7分子が欠如している、との考えがある。癌細胞に対してB7分子の遺伝子導入の試験もなされているが成功例はない。癌細胞の修飾を臨床的に普遍化するには、課題が多い。
腫瘍抗原の同定と競い合うようにして、樹状細胞を用いる癌ワクチン療法やサイトカイン遺伝子導入樹状細胞を用いる癌免疫療法が活発に検討されている。樹状細胞はプロフェッショナル抗原呈示細胞とも言われ、抗原感作を受けていないTリンパ球も活性化することができる。樹状細胞には未成熟型と成熟型が存在し、前者の貪食能が高いのに対し後者は低い。前者は末梢組織で抗原を取り込む過程で成熟型に分化すると共に、強力なTリンパ球刺激能を獲得する。この際、遊走能を獲得することで所属リンパ節への移行が可能となり、同リンパ節でTリンパ球を活性化する。樹状細胞を用いる癌ワクチン療法とは、この性質を癌免疫療法に活用しようというものである。癌ワクチンとしての適用は、末梢単核球や単球や骨髄細胞からサイトカイン刺激下で誘導した未成熟樹状細胞を前述の腫瘍抗原ペプチドや抗原蛋白あるいは腫瘍抽出物でパルスしたり、腫瘍と融合させたものを患者に投与するというものである。
樹状細胞への遺伝子導入技術は未だ完成されておらず、癌抗原遺伝子導入法は試行錯誤の段階である。サイトカイン遺伝子導入も同様の状況にある。樹状細胞の活用は理論的には頗る興味深いものであるが、癌細胞由来のVEGF(vascular endothelial growth factor)などにより成熟が抑制される。TGF-βの作用を受けると樹状細胞は免疫抑制性になる。癌細胞と直接接触することにより、樹状細胞の遊走能も阻害される。樹状細胞の遊走に関与するのはケモカイン受容体の発現とともに、マトリックスプロテアーゼの発現が関与することが知られている。このように樹状細胞の機能は、腫瘍局所の微小環境の影響を強く受ける。
癌組織は一般に低酸素状態で、そこでは樹状細胞の産生するサイトカインのプロファイルが変化する(非特許文献38参照)。そこでは、抗原呈示能とともに所属リンパ節への遊走能も阻害されていることが多い。癌組織局所小環境のレドックス状態が樹状細胞の抗原提示能を含めた機能を修飾し、癌免疫療法の帰趨を左右する。もう一つの課題は、樹状細胞が機能的に不均一であり、Th1を誘導する樹状細胞を用いなければならないことである。Th1誘導性樹状細胞の増強にも癌組織局所微小環境のレドックス状態/酸素分圧が関与する。低酸素状態ではTh2誘導性樹状細胞がドミナントとなり、癌免疫の効果を阻害する。
担癌状態においては様々な形で局所性、全身性の免疫抑制状態が成立する。坂口らにより自己免疫疾患の発症抑制に働くとして見出されたCD4+ CD25+(IL-2Rα+)Tリンパ球が、癌免疫に対して抑制的に働き、本Tリンパ球亜集団を抗体で欠失させると免疫応答が回復し、癌が退縮することが動物実験で確認されている(非特許文献39および40参照)。担癌状態では癌細胞や局所間質細胞からTGF-βやIL-10などの免疫抑制性サイトカイン、PGE2などのアラキドン酸代謝産物が産生され、癌の免疫応答からの回避(sneaking through)に関与している。DTHやNO産生を介し癌細胞を障害するMφにはIL-2受容体γ鎖が発現するが、TGF-βはγ鎖発現をダウンレギュレーションし癌細胞障害性を抑制する。IL-10が癌局所に存在すると、CTLの癌細胞障害活性は消滅する。末期の担癌患者はTh2に傾斜していることも臨床的に判明している。もう一つ重要な回避(sneaking through)機構として、効果細胞と癌細胞の認識(cognitiveな)相互作用における効果細胞機能のネガティブ制御機構の存在がある。
末期固形癌患者で治療成績が芳しくないのは、局所炎症の質が酸化型樹状細胞/Th2型へ進展するためであり、そのため局所細胞性反応にもかかわらず、免疫抑制や悪液質状態が起こり、癌の悪性化が惹起され、化学療法剤、免疫療法剤、いずれの効果も減弱されるためである。癌組織の中心部は低酸素状態となりMφの浸潤が著明となり、VEGF、IL-8などの血管新生因子の産生が促進され、樹状細胞の遊走能は抑制され、腫瘍血管新生が亢進することも寄与している。腫瘍免疫においては、局所浸潤樹状細胞やMφの役割が重視されねばならない。
MφからのVEGF、NO、IL8、メタロエラスターゼ、アンジオスタチン産生など多くの血管新生因子、血管新生阻害因子の選択的産生と腫瘍免疫の関連について、研究が進展することが待たれる。癌組織は低酸素状態でも増殖するために、VEGFやVEGF受容体を発現し腫瘍血管新生を介し、増殖を図るとされている。しかしながら、腫瘍血管新生阻害剤や腫瘍血管新生を阻害する抗体を用いたヒト癌の臨床は必ずしも成功していない。
Munderらは、Mφの中におけるアルギニンの2つの代謝酵素であるiNOSとアルギナーゼ活性につき、Th1サイトカインはiNOSを誘導しアルギナーゼを阻害するのに対し、Th2サイトカインはアルギナーゼ活性を増強し、iNOSを阻害するとの知見を得ており、後者の作用はIL4/IL13にIL10が加わると相乗的に増強される(非特許文献41参照)。尚、Th1サイトカインはMφからのNO産生を誘導し、Th2サイトカインによって刺激されるMφからはNOは産生されない。
固形癌は血液癌と異なり「癌組織」として実質と間質から構成される。薬物が癌細胞(実質)に及ぼす効果をこえて、血管系や局所浸潤炎症細胞、線維芽細胞などの癌間質組織に及ぼす効果について重視する必要がある。「癌組織局所微小環境」を見つめることが重要である。化学療法剤で奏効率(癌の大きさが縮小すること)が認められても、QOLを重篤に障害すれば延命にはつながらず、患者のメリットとならない。この患者のQOLは、癌間質組織における局所炎症を担うマクロファージ(Mφ)、樹状細胞(DC)、好中球、線維芽細胞、血小板、血管内皮細胞など生体由来細胞によって左右される。
樹状細胞は代表的な抗原提示細胞として知られている。樹状細胞は造血幹細胞由来の樹枝状形態をとる細胞集団であり、生体内に広く分布している。ヘルパーT細胞の活性化は、樹状細胞による抗原提示に依存しており、樹状細胞は、末梢血液中の抗原をとらえ、リンパ節に移動し、最終的にリンパ節で成熟すると考えられている。
生体内において、樹状細胞は骨髄の造血幹細胞から誘導されることが知られている。樹状細胞の前駆細胞及び未成熟樹状細胞は、血液及びリンパ球中に存在し、成熟樹状細胞は脾臓及びリンパ節に存在している。末梢組織の単核が顆粒球コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン−4(IL-4)で刺激されると、未成熟樹状細胞へ分化することが知られており、更に未成熟樹状細胞を腫瘍壊死因子(TNF)で刺激すると成熟樹状細胞へと分化することが知られている。
異物が生体内に侵入した場合、樹状細胞が異物を貧食し、抗原をT細胞に提示する機能を有しており、抗原を提示されたT細胞が抗原を貧食する。このような機能を発揮するために、樹状細胞は、生体内に異物が侵入した時に、末梢組織から所属リンパ節まで移動し、異物が侵入したことを提示している。
酸素は、ほとんどの好気性生物の生命に必須である。酸素の恒常性は、ヒトの生理機能にとって不可欠な組織化した原理を示す(非特許文献1参照)。ATPを生成するための酸化的リン酸化の必要性は、細胞組成に対する酸化的障害を犠牲にしてバランスが保たれている(非特許文献2および3参照)。
低酸素状態は腫瘍組織において重要な役割を果たす。ヒト腫瘍の悪性への進行は、独自の微小環境に応答する複数遺伝子のディファレンシャルな発現が関与する進化的プロセスである。低酸素状態は腫瘍微小環境を優勢にし、血管新生またはp53、mTOR、およびPTEN腫瘍抑制因子活性の排除のような悪性進行に至らせるプロセスを直接支持する。
ほとんどの固形腫瘍は、酸素の供給と消費の不均衡により、低酸素圧の領域を生じる。腫瘍が拡大するにつれ、癌細胞の活発な増殖により低酸素微小環境が形成され、これにより軽減されないにせよ、腫瘍増殖の制限または細胞死が起こり得る(非特許文献4参照)。固形腫瘍における酸素の欠乏は広範囲におよび、その増殖は、腫瘍の進行において協調的な役割を果たすことが示されている、血管増殖の制御因子に大きく依存する(非特許文献5および6参照)。血管新生および解糖の上昇は、固形腫瘍の2つの一般的特徴であるが、これらは低酸素微小環境を調節する(非特許文献7参照)。臨床上および実験的証拠から、腫瘍低酸素状態が、より進行性の表現型と関連することが示唆される(非特許文献8参照)。
固形腫瘍は悪性細胞および間質組織からなり、間質組織には新たな血管、その生成に関与する基質成分および細胞、フィブリン-ゲル基質、ならびに炎症性白血球が含まれる(非特許文献9および10参照)。腫瘍低酸素状態は、腫瘍細胞から、化学療法薬の細胞障害活性に必須である酸素を奪うことにより、化学療法耐性を引き起こす可能性がある。低酸素状態はまた、プロテオミクスおよびゲノミクス変化を含む複雑な機構を介して、化学療法に対する腫瘍の感受性を低下させ得る。これらの影響は、ひいては、侵襲性および転移能の増加、アポトーシスの減少、および無秩序な血管新生を引き起こす可能性があり、これにより薬剤耐性がさらに亢進する(非特許文献11参照)。低酸素状態は、プロテオミクス変化に加えてゲノムの不安定性を促進する可能性があり、これによって遺伝子の多様性が増加する(非特許文献12〜15参照)。
最近の報告から、ある種の癌において、構成的に活性化されたNF-κBが、マトリックスメタロプロテイナーゼおよび血管内皮増殖因子(VEGF)(非特許文献21および22参照)をコードする遺伝子を含む(非特許文献18〜20参照)、複数の遺伝子の発現を制御することが明らかになった。また、低酸素状態は、主にPI3K/Akt経路を介して、ゲムシタビンに対する膵癌細胞の耐性誘導にも関与している(非特許文献23参照)。
腫瘍組織における低酸素状態は、低酸素誘導因子-1(HIF-1)を含む種々の転写因子を制御する(非特許文献24参照)。低酸素誘導性遺伝子のトランス活性化を介して細胞の生存および血管新生の両方を可能にすることによる、腫瘍増殖におけるHIF-1の二重の役割を実証する証拠が増加している(非特許文献25および42参照)。HIFシステムは、不利な腫瘍微小環境に対する耐性が増加するように、血管新生、解糖、およびpH制御を含む適応応答を誘導する。このように、増大する証拠から、HIFシステムが腫瘍の生理および進行において決定的な役割を担うことが示唆される。
しかしながら、低酸素状態に対する細胞応答は、HIF-1によってのみ媒介されるのではないと考えられている(非特許文献26〜29参照)。最近の研究から、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ/Aktシグナル伝達が、HIF-1依存的および非依存的様式の両方で、血管新生および癌移行を誘導し得ることが示唆された(非特許文献26参照)。
低酸素傷害および低酸素誘導性遺伝子の発現は、脳卒中、心臓発作、癌、増殖性疾患、心障害、閉塞性循環器障害、動脈硬化、心筋梗塞、虚血性再灌流関連障害、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、神経変性障害、自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、臓器移植に関連する病態、炎症性疾患、免疫媒介性疾患、ウイルス性疾患、または骨疾患、および新生児疾患を含む種々の重篤な病態においても関連している。
低酸素誘導性遺伝子の発現は、肝臓、心臓、眼、動脈、および脳を含む多くの組織における虚血(および再灌流)と関連している。従って、ある種のストレス誘導性遺伝子の体内における発現の増強は、肝移植、バイパス手術、心停止、および脳卒中等の多くの虚血/再灌流関連病態において有益である可能性が高い。
新血管新生に関連した眼疾患にも低酸素が関与する。これらの眼疾患には、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、加齢性黄斑変性症、および鎌状赤血球網膜症が含まれる。いずれも、失明を引き起こすに十分なほど重篤なケースがある。低酸素誘導性遺伝子、血管内皮増殖因子(VEGF)のアンチセンス阻害による未熟児網膜症の治療の実現可能性が実証されている(特許文献1参照)。糖尿病の進行性微小血管合併症である糖尿病性網膜症は、失明の主な原因である。糖尿病状態では、高血糖が、網膜の血流の低下、網膜の透過性亢進、光受容体神経伝導の遅延、および網膜ニューロン細胞死をもたらす。これらの事象の併発により網膜が低酸素状態になり、最終的に糖尿病性網膜症を発症する。網膜虚血は増殖因子の放出を介して新たな血管の異常な増殖を引き起こし、またこの疾患の顕著な特徴である網膜血管透過性を上昇させる。
創傷治癒の過程にも、低酸素による遺伝子発現の誘導が関与する(特許文献2参照)。酸化型マクロファージによる線維形成サイトカイン血管新生遺伝子(fibrogenic cytokine angiogenic gene)発現は、低酸素によって誘導される創傷治癒に関与する1つの反応である(非特許文献38参照)。他の低酸素による影響には、瘢痕組織の形成が含まれる。創傷治癒過程は、アミノ酸およびグルコース等の栄養素の利用能によって厳密に制御されている。
一般に、癌患者の癌細胞中の酸素濃度は正常細胞に比較して20%程度に低下していることが知られている。このような低酸素状態で分化した樹状細胞では、細胞外マトリックスタンパク質を溶解するマトリックスメタロプロテイナーゼ−9(MMP-9)の産生が低下している。生体内においては、樹状細胞が末梢組織を移動する時や、血管やリンパ管を通り抜ける時にも、このマトリックスメタロプロテイナーゼ−9が必要であることが知られている。
従って、低酸素状態下で分化した樹状細胞は末梢組織からリンパ節に移動することができず、上述したような抗原提示能を発揮することができなくなる。このため、癌細胞内では樹状細胞の抗原提示能が発揮されないため、T細胞が癌細胞を死滅することができない。
本発明の目的は、癌組織等の酸素濃度の低い状態で分化した樹状細胞に代わり、遊走、浸潤能に優れ、免疫細胞療法に適用するのに優れた樹状細胞を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、固形癌局所や虚血病態組織に見られる低酸素状態においてもMMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現が正常酸素分圧下でも低下しないか、逆に亢進し、遊走能、浸潤能に優れ、免疫細胞療法に使用するのに適した樹状細胞の作製に成功し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、樹状細胞を例えば、レチノイン酸もしくはヒストン脱アセチル化誘導阻害剤の存在下において培養することによって、低酸素条件下においても遊走能を有する樹状細胞を作製することが可能であることを見出した。
さらに本発明者らは、上述の方法によって作製される樹状細胞(低酸素条件下においても遊走能を有する樹状細胞)について、通常の樹状細胞とは異なるいくつかの特徴を見出すことに成功した。例えば、低酸素条件下において遊走能を有する樹状細胞には、MT1-MMPの発現が亢進していることが、本発明者らによって初めて見出された。即ち、これらの特徴の有無を指標とすることにより、本発明の樹状細胞を効率的に選択・単離することが可能である。
本発明は、低酸素条件下においても遊走能を有する樹状細胞、および該樹状細胞の作製方法、並びに、該樹状細胞の用途に関し、より詳しくは、
〔1〕 5%以下の低酸素分圧条件下において、遊走能を実質的に有することを特徴とする、樹状細胞、
〔2〕 5%以下の低酸素分圧条件下において、ケモカインレセプターが実質的に発現することを特徴とする、〔1〕に記載の樹状細胞、
〔3〕 5%以下の低酸素分圧条件下において、MMP9、プロMMP9、MT1-MMP、CCR1またはCCR6が実質的に発現することを特徴とする、〔1〕に記載の樹状細胞、
〔4〕 クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物を作用させた細胞であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔5〕 クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物がヒストン脱アセチル化誘導阻害剤である、〔4〕に記載の樹状細胞、
〔6〕 クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物が、トリコスタチンまたは酪酸誘導体である、〔4〕に記載の樹状細胞、
〔7〕 RXR/RARに作用する化合物を作用させた細胞であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔8〕 RXR/RARに作用する化合物がレチノイド誘導体である、〔7〕に記載の樹状細胞、
〔9〕 レチノイド誘導体が、全トランスレチノール、13−シスレチノール、全トランスレチノイン酸及び13−シスレチノイン酸からなる群より選択される、〔8〕に記載の樹状細胞、
〔10〕 樹状細胞が骨髄由来細胞もしくは末梢単球由来である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔11〕 樹状細胞が、未成熟型および/または成熟型の細胞を含有してなる〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔12〕 樹状細胞が、ミエロイド型、およびプラスマサイトイド型からなる群より選択される1もしくは複数の亜型を含有してなる〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔13〕 樹状細胞がヒトの樹状細胞である、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔14〕 〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の樹状細胞を有効成分として含有する、免疫療法剤、
〔15〕 〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の樹状細胞を有効成分として含有する、医薬組成物、
〔16〕 以下の(a)および/または(b)に記載の化合物を、樹状細胞に作用させる工程を含む、5%以下の低酸素分圧条件下において遊走能を実質的に有する樹状細胞の製造方法、
(a)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物
(b)RXR/RARに作用する化合物
〔17〕 以下の工程(a)および(b)を含む、5%以下の低酸素分圧条件下において遊走能を実質的に有する樹状細胞の製造方法、
(a)単核細胞を分化誘導剤の存在下および炭酸ガス雰囲気下で培養し、該単核細胞を樹状細胞へ分化誘導する工程
(b)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物、またはRXR/RARに作用する化合物を樹状細胞へ作用させる工程、を提供するものである。
〔1〕 5%以下の低酸素分圧条件下において、遊走能を実質的に有することを特徴とする、樹状細胞、
〔2〕 5%以下の低酸素分圧条件下において、ケモカインレセプターが実質的に発現することを特徴とする、〔1〕に記載の樹状細胞、
〔3〕 5%以下の低酸素分圧条件下において、MMP9、プロMMP9、MT1-MMP、CCR1またはCCR6が実質的に発現することを特徴とする、〔1〕に記載の樹状細胞、
〔4〕 クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物を作用させた細胞であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔5〕 クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物がヒストン脱アセチル化誘導阻害剤である、〔4〕に記載の樹状細胞、
〔6〕 クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物が、トリコスタチンまたは酪酸誘導体である、〔4〕に記載の樹状細胞、
〔7〕 RXR/RARに作用する化合物を作用させた細胞であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔8〕 RXR/RARに作用する化合物がレチノイド誘導体である、〔7〕に記載の樹状細胞、
〔9〕 レチノイド誘導体が、全トランスレチノール、13−シスレチノール、全トランスレチノイン酸及び13−シスレチノイン酸からなる群より選択される、〔8〕に記載の樹状細胞、
〔10〕 樹状細胞が骨髄由来細胞もしくは末梢単球由来である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔11〕 樹状細胞が、未成熟型および/または成熟型の細胞を含有してなる〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔12〕 樹状細胞が、ミエロイド型、およびプラスマサイトイド型からなる群より選択される1もしくは複数の亜型を含有してなる〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔13〕 樹状細胞がヒトの樹状細胞である、〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の樹状細胞、
〔14〕 〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の樹状細胞を有効成分として含有する、免疫療法剤、
〔15〕 〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の樹状細胞を有効成分として含有する、医薬組成物、
〔16〕 以下の(a)および/または(b)に記載の化合物を、樹状細胞に作用させる工程を含む、5%以下の低酸素分圧条件下において遊走能を実質的に有する樹状細胞の製造方法、
(a)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物
(b)RXR/RARに作用する化合物
〔17〕 以下の工程(a)および(b)を含む、5%以下の低酸素分圧条件下において遊走能を実質的に有する樹状細胞の製造方法、
(a)単核細胞を分化誘導剤の存在下および炭酸ガス雰囲気下で培養し、該単核細胞を樹状細胞へ分化誘導する工程
(b)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物、またはRXR/RARに作用する化合物を樹状細胞へ作用させる工程、を提供するものである。
樹状細胞を、レチノイン酸もしくはヒストン脱アセチル化誘導阻害剤の存在下において培養することによって、低酸素条件下においても遊走能を有する樹状細胞を作製することが可能であることが見出された。この低酸素分圧条件下においても遊走能を有する樹状細胞は、免疫賦活化作用を発揮し、哺乳動物の免疫を賦活化するために利用することが可能である。また、本発明の樹状細胞、および該細胞を含む組成物もしくは免疫療法剤は、動物の感染症、癌の予防もしくは治療に用いることができる。
本発明は、局所リンパ節への、特に固形がん局所より局所リンパ節への遊走能を有する樹状細胞を提供するものである。
また、本発明は5%以下の低酸素分圧条件下においても正常酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上の遊走能を有する樹状細胞を提供するものであり、その遊走能がケモカインに対して発揮されるところの樹状細胞を提供する。
また、本発明は5%以下の低酸素分圧条件下においても正常酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上の遊走能を有する樹状細胞を提供するものであり、その遊走能がケモカインに対して発揮されるところの樹状細胞を提供する。
本発明は、5%以下の低酸素分圧条件下において、遊走能を実質的に有することを特徴とする樹状細胞(本明細書においては、単に「本発明の樹状細胞」と記載する場合あり)に関する。
上記「遊走能」とは、局所リンパ節への遊走能、より詳しくは固形がん局所より局所リンパ節への遊走能を指す。また、「遊走能を実質的に有する」とは、正常酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上の遊走能を有することを言う。ここで正常酸素分圧条件下とは、通常、21%(152mmHg)を言う。また、酸素分圧は、例えば、エッペンドルフ法によって測定することができる。
本明細書において低酸素状態とは、通常、酸素濃度が5%以下であり、好ましくは酸素濃度が3%以下であり、より好ましくは酸素濃度が1%以下である。また、正常酸素状態とは、通常、酸素濃度が15%〜25%であり、好ましくは酸素濃度が21%である。
また、本発明は、細胞内もしくは細胞表面でのMMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現が5%以下の低酸素分圧条件下においても正常酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上である樹状細胞を提供するものである。
即ち、本発明の好ましい態様においては、5%以下の低酸素分圧条件下において、MMP9、プロMMP9、またはMT1-MMP、CCR1またはCCR6が実質的に発現することを特徴とする樹状細胞である。なお「実質的に発現する」とは、通常、細胞内に遺伝子の転写産物もしくは翻訳産物が生成される状態を指し、好ましくは、正常分圧条件下と同等もしくはそれ以上に所望の遺伝子が発現する状態を言う。
本発明の樹状細胞の由来する生物種は、樹状細胞を有する生物であれば特に制限されないが、通常は哺乳動物である。例えば、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、牛、馬、羊、山羊、または家兎等を挙げることができるが、最も好ましくはヒトである。
本明細書において記載される各種遺伝子もしくはタンパク質は、特にことわりがない限り、ヒトの遺伝子もしくはタンパク質を指す。例えば、上述の各種遺伝子のMMP9、プロMMP9、またはMT1-MMP、CCR1またはCCR6は、ヒトの遺伝子である。本発明における樹状細胞がヒト以外の生物における樹状細胞である場合、例えば、上記の「MMP9が実質的に発現する」とは、該生物における樹状細胞において、該生物が有するMMP9遺伝子に相当するホモログ(オルソログ)遺伝子が実質的に発現することを意味する。
当業者であれば、所望の生物について、上述の各種遺伝子(例えば、MMP9、プロMMP9、またはMT1-MMP、CCR1またはCCR6等)に相当するヒト以外の生物におけるホモログ遺伝子の名称・塩基配列に関する情報等について適宜取得することが可能である。
また、本発明における樹状細胞は、細胞内もしくは細胞表面でのTIMP-1の発現が5%以下の低酸素分圧条件下においても正常酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以下であり、TIMP-2、TIMP-3の発現は両条件下で変化のないものであっても良い。
本発明は、直接的にもしくは間接的にクロマチン凝縮阻害をする化合物を作用させMMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現を増強されていることを特徴とする樹状細胞を提供する。即ち、樹状細胞をクロマチン凝縮阻害活性を有する薬剤の存在下にて培養することにより、本発明の樹状細胞(低酸素分圧条件下において遊走能を有する樹状細胞)を調製することが可能である。
即ち本発明の好ましい態様として、クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物を作用させた細胞であることを特徴とする樹状細胞を提供する。
脱アセチル化阻害によって、クロマチン凝集が阻害されることにより、転写因子がDNAと結合できるものと考えられる。
また本発明は、直接的にもしくは間接的にクロマチン凝縮阻害活性をする化合物(クロマチン凝集阻害剤)を含有してなる樹状細胞を提供する。
本発明におけるクロマチン凝縮阻害剤としては、好ましくは、ヒストン脱アセチル化誘導阻害剤を挙げることができる。
本発明におけるクロマチン凝縮阻害剤としては、好ましくは、ヒストン脱アセチル化誘導阻害剤を挙げることができる。
該ヒストン脱アセチル化誘導阻害剤としては、例えば、MS-275 (N-(2-Aminophenyl)-4-[N-(pyridine-3-ylmethoxycarbonyl)aminomethyl]benzamide)、FK228 ([(E)-(1S,4S,10S,21R)-7-[(Z)-ethylidene]-4,21-diisopropyl-2-oxa-12,13-dithia-5,8,20,23-tetraazabicyclo[8,7,6]-tricos-16-ene-3,6,9,22-pentanone])、SAHA (suberoylanilide hydroxamic acid)、CBHA (m-carboxycinnamic bis-hydroxamic acid)等を例示することができる。
また、本発明の樹状細胞を得るために用いられる化合物として、トリコスタチンや酪酸誘導体を挙げることができる。これらは、直接的にもしくは間接的にDNAの脱アセチルを阻害することで、クロマチンの凝縮を阻害する化合物であり、その結果、転写制御因子のDNAへのアクセス能(Accesibility)が亢進し、樹状細胞におけるMMP9、プロMMP9、MT1-MMP、CCR1もしくはCCR6など遺伝子発現を増強し、本発明の樹状細胞が作製される。
本発明の樹状細胞を得るために用いられる化合物は、同様に樹状細胞におけるMMP9、プロMMP9、MT1-MMP、CCR1もしくはCCR6などの遺伝子発現増強作用をもつものであれば、本明細書に具体的に記載したもの以外の化合物であってもよい。
本発明にはトリコスタチンもしくは酪酸誘導体で処理することでクロマチン凝縮阻害が惹起されていることを特徴とする樹状細胞、および、レチノイド誘導体で処理されていることを特徴とする樹状細胞を提供する。レチノイド誘導体が、全トランスレチノール、13−シスレチノール、全トランスレチノイン酸及び13−シスレチノイン酸からなる群より選択される樹状細胞もまた本発明の好ましい態様である。
また本発明は、直接的にもしくは間接的に細胞内のRXR/RARに作用する化合物を作用させ、MMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現が増強されていることを特徴とする樹状細胞を提供する。即ち、樹状細胞をRXR/RARに作用する化合物の存在下にて培養することにより、本発明の樹状細胞(低酸素分圧条件下において遊走能を有する樹状細胞)を調製することが可能である。
また、本発明の好ましい態様としては、直接的にもしくは間接的に細胞内のRXR/RARに作用する化合物を含有してなる樹状細胞を提供する。
本発明においてRXR/RARに作用する化合物としては、好ましくは、レチノイド誘導体を挙げることができる。該レチノイド誘導体は、直接的にもしくは間接的に細胞内のRXR/RARに作用し、その結果、樹状細胞におけるMMP9、プロMMP9、MT1-MMP、CCR1もしくはCCR6など遺伝子発現が増強され、本発明を構成する5%以下の低酸素分圧条件下においても正常酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上の遊走能を有する樹状細胞が作製される。
本発明におけるレチノイド誘導体としては、例えば、レチノイン酸、レチナール、レチノールおよび脂肪酸レチニルエステル、ならびにデヒドロレチノール、デヒドロレチノール、脂肪酸デヒドロレチニルエステル等が挙げられる。上記レチノイン酸としては、以下のレチノイン酸の異性体、すなわち全トランスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸、11-シスレチノイン酸、9-シスレチノイン酸、3,4-デヒドロ−レチノイン酸等が挙げられる。また、レチノールとしては、以下のレチノールの異性体、すなわち全トランスレチノール、13-シスレチノール、11-シスレチノール、9-シスレチノール、3,4-デヒドロ−レチノール等が挙げられる。広く市販されているため、全トランスレチノール、13-シスレチノール、全トランスレチノイン酸及び13-シスレチノイン酸が好適である。
また、樹状細胞内のRXR/RARに作用し、樹状細胞におけるMMP9、プロMMP9、MT1-MMP、CCR1もしくはCCR6などの遺伝子発現増強作用をもつものであれば、本明細書において具体的に示した化合物以外の物質であっても、本発明の樹状細胞の製造に用いることができる。
また、本発明の樹状細胞は、好ましくは、ヒト骨髄由来細胞、ヒト臍帯血由来もしくは末梢単球由来の細胞である。さらに、これらの組織・器官由来の各種細胞の混合物であってもよい。
また本発明の樹状細胞の好ましい態様としては、未成熟型および/または成熟型の細胞を含有してなる樹状細胞である。未成熟型あるいは成熟型であるかについては、例えば、細胞表面のCD80、CD83、CD86、HLA-DR発現の程度によって、適宜分類することが可能である。一例を示せば、CD83陽性であれば、成熟型であるものと判定される。
また本発明の樹状細胞の別の態様としては、ミエロイド型およびプラスマサイトイド型からなる群より選択される1もしくは複数の亜型を含有してなる樹状細胞を提供する。
ヒト樹状細胞は、通常、ミエロイド型樹状細胞(ランゲルハンス細胞、皮膚および間質樹状細胞、単球由来樹状細胞)と、プラスマサイトイド型樹状細胞に分けられる。ミエロイド型樹状細胞はCD11C+であり、プラスマサイトイド型樹状細胞はCD11C-である。
即ち、本発明の樹状細胞は、ヒト骨髄由来細胞、ヒト臍帯血由来もしくは末梢単球由来のものや、その混合されたものからなる細胞であってもよい。あるいは、細胞表面のCD80、CD83、CD86、HLA-DR発現の程度で分類される未成熟型、成熟型の何れかもしくは両者を含有してなる細胞であってもよい。さらには、ミエロイド型、プラスマサイトイド型の何れかもしくは双方の亜型を含有してなる細胞であってもよい。
さらに本発明は、本発明の樹状細胞(低酸素分圧条件下において遊走能を有する樹状細胞)を有効成分として含有する、免疫療法剤を提供する。
上記免疫療法剤には、例えば、免疫賦活剤、免疫調整剤、癌免疫増強剤、細菌・ウイルス感染防御増強剤が含まれる。
また本発明の樹状細胞のみを成分とする薬剤であっても免疫療法剤として有効であるが、他の免疫賦活剤、免疫調整剤、癌免疫増強剤、細菌、ウイルス感染防御増強剤、癌ワクチン、細菌ワクチン、またはウイルスワクチン等と併用することによって、さらに有効な治療効果を発揮させることが可能である。即ち本発明は、本発明の樹状細胞と、他の免疫賦活剤、免疫調整剤、癌免疫増強剤、細菌、ウイルス感染防御増強剤、癌ワクチン、細菌ワクチン、またはウイルスワクチンとを有効成分として含有する組成物を提供する。
本発明の免疫療法剤が有効な疾患としては、例えば、固形癌、動脈硬化、心筋梗塞をはじめとする心障害、閉塞性循環器障害、虚血性循環器障害、リウマチ性関節炎をはじめとする全身性ならびに臓器特異的自己免疫疾患、免疫学的異常の関連する疾患、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性症、臓器移植に関連する免疫異常、細菌、ウイルス感染症、創傷治癒異常等を挙げることができる。
また、本発明において低酸素条件下において遊走能を有する樹状細胞は、通常の樹状細胞を、クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物、またはRXR/RARに作用する化合物と作用させることによって作製することができる。本発明の樹状細胞を製造する方法もまた、本発明に含まれる。
上記樹状細胞は、樹状細胞の前駆細胞である単核細胞を培養することによって得ることができる。樹状細胞の前駆細胞である単核細胞の原料としては、例えば末梢血、骨髄液、臍帯血等が使用可能である。本発明の樹状細胞は、成熟樹状細胞であっても未成熟樹状細胞であってもよい。例えば、単核細胞をGM-CSF、IL-4及びTNF-αで刺激して培養することにより、成熟細胞へと分化誘導することができる。
本発明に用いられる樹状細胞は、上記単核細胞を、分化誘導剤の存在下で培養することにより得ることができる。樹状細胞の原料として、例えば末梢血の単核細胞を用いる。樹状細胞の前駆細胞である単核細胞を、採血等により採取し、採取した血液より分離精製することができる。単核細胞を赤血球から分離する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法が用いられる。
例えば、末梢血単核細胞をフィコール−パック(Ficoll-Paqul)密度勾配又は溶出を利用する方法が一般的に用いられる。また、その他に血液細胞を、成人の赤血球を選択的に溶解する溶液、例えばアンモニウムクロライド−カリウム、アンモニウムオキサレート等に懸濁し、分離することができる。
樹状細胞の分化誘導の培養には、RPMI-1640培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イスコフ培地(IMDM)等、適当な市販されている培地を用いることができる。培地中には血清を加えてもよく、例えば、5-20%程度の牛血清、牛胎児血清、もしくはヒト血清などが使用しうる。無血清で培養してもよいが、必要に応じ牛アルブミン(BSA)、ヒトアルブミン(HSA)などを添加してもよい。また、培地には、必要に応じ適当な抗生物質、抗体、ピルビン酸(0.1〜5mM程度)、グルタミン(0.5〜5mM程度)、2−メルカプトエタノール(10〜100μM程度)を含んでいてもよい。これらの培地に分化誘導剤を添加し、約37℃、約5%炭酸ガス雰囲気下で5日〜21日程度培養する。培養日数は7日〜14日程度が好ましい。培養温度(34〜38℃)、ガスの混合比(炭酸ガス2〜10%、さらには窒素ガス、もしくは酸素ガスを適宜混合しうる。)は、適切な条件を設定することができる。
樹状細胞の前駆細胞を含む細胞群から樹状細胞へ分化誘導するには、適切な誘導剤を使用する必要がある。誘導剤としては、サイトカイン類を用いることができる。サイトカインとして、適当なものを使用すれば良いが、例えばGM-CSF、IL-4、ステムセルファクター(SCF)、インターロイキン-13(IL-13)、TNF-α、Flt3-Ligand等が使用可能である。上記サイトカインの濃度は、培地中、好ましくは1〜1000ng/ml 程度である。
培養に用いられるサイトカインは、マウスなどの異種動物由来の因子も使用可能であるが、ヒト由来の因子を用いることが好ましい。
本発明の樹状細胞は、ヒト体内に接種して用いられるものであるため、細胞増殖性をなくしておくとより安全である。単核細胞は、分化誘導することにより増殖能が低下することが知られているが、より安全に利用するために加熱処理、放射線処理又はマイトマイシンCで処理しておくことが好ましい。
例えば、X線照射をする場合、X線照射器の管球の下に樹状細胞を含む容器を置き、総放射線量1000〜3300Rad程度で照射することが好ましい。マイトマイシンCで処理する場合、例えば、樹状細胞を1〜3×107細胞/mlの密度で懸濁して細胞浮遊液を得、この細胞浮遊液1ml当たりマイトマイシンCを25〜50μgの比で添加して、37℃の温度で30〜60分程度保温する。また、加熱処理方法は、例えば樹状細胞を1×107細胞/ml程度に懸濁して細胞浮遊液を得、この細胞浮遊液を50〜65℃の温度で20分程度加熱処理を行う。
本発明の樹状細胞の製造方法は、例えば、以下の工程(a)および(b)を含む方法である。
(a)単核細胞を分化誘導剤の存在下および炭酸ガス雰囲気下で培養し、該単核細胞を樹状細胞へ分化誘導する工程
(b)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物、またはRXR/RARに作用する化合物を樹状細胞へ作用させる工程
(a)単核細胞を分化誘導剤の存在下および炭酸ガス雰囲気下で培養し、該単核細胞を樹状細胞へ分化誘導する工程
(b)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物、またはRXR/RARに作用する化合物を樹状細胞へ作用させる工程
本発明の遊走/浸潤能を活性化された樹状細胞を得る方法によれば、樹状細胞の浸潤に必要なタンパク質であるMMP-9の産生が促進され、樹状細胞の浸潤能が活性化され、樹状細胞のリンパ節への移動が活性化されることにより、免疫賦活作用を発揮する。従って、本発明の樹状細胞の浸潤能を活性化する方法は、上記哺乳動物に対して用いることができ、各種白血病、悪性リンパ腫、膵癌、肝癌、肺癌、胃癌、大腸癌、骨肉腫、悪性黒色腫、悪性繊毛上皮、筋肉腫、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、食道癌、頸頭部腫瘍、脳腫瘍等の各種の癌、及び各種ウイルス、細菌等による感染症等の治療及び予防に対して用いることができる。すなわち、本発明によれば、本発明の樹状細胞浸潤能活性化組成物を投与又は使用することを特徴とする、動物の感染症、癌の予防・治療方法が提供される。
本発明の樹状細胞の浸潤能を活性化する方法としては、例えば、以下の方法を例示することができるが、必ずしもこの方法に制限されない。
健常者由来の末梢単核細胞(PBMC)をフィコール−パック密度交配遠心分離により分離する。末梢単核細胞を、完全RPMI-1640培地中に、2×106細胞/mlになるように分散させ、37℃で1時間インキュベートすることにより付着性細胞を得る。非付着性細胞は、RPMI-1640培地で5回洗浄して除去する。付着性細胞を、1000U/mlのGM-CSF及び1000U/mlのIL-4、10%FBS、25mM HEPES、2mM L-グルタミン酸、50μM 2-ME、1%非必須アミノ酸及び2mMピルビン酸ナトリウムを含むRPMI培地中で、低酸素状態及び正常酸素状態で、毎日、培地を半分交換しながら37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で6日間培養する。培養開始後3日目より全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度になるように添加し、その後3日間培養するか、全トランスレチノイン酸を培地に5μM濃度になるように添加して1日培養し、次いで全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度に添加して2日培養する。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分ける。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いる。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いる。最後の1日の培養液中にも全トランスレチノイン酸を1μM濃度にて添加する。
本発明の樹状細胞は、浸潤に必要なタンパク質であるMMP-9、プロMMP9、MT-1MMPの発現が促進していることによって、該細胞の浸潤能が活性化されていることを特徴とする。
また、樹状細胞の遊走を惹起するケモカインであるRantes、MCP-3に対するマトリゲル内での浸潤(遊走が)低酸素条件下でも回復する。低酸素条件下ではRantes、MCP-3に対するマトリゲル内での浸潤(遊走)は著明に低下する。
細胞の浸潤/遊走に不可欠な細胞内もしくは細胞表面でのMMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現が5%以下の低酸素分圧条件下においては正常酸素分圧条件下に比較し著明に低下していることが判明したが、本発明を構成する5%以下の低酸素分圧条件下においても正常酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上の遊走能を有する樹状細胞では、MMP9、プロMMP9、MT1-MMPの発現が5%以下の低酸素分圧条件下においても、21%酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上であることが判明した。
一方、細胞の浸潤/遊走を阻害する細胞内もしくは細胞表面でのMT-MMPの発現は、5%以下の低酸素分圧条件下においては正常酸素分圧条件下と比較し著明に増強されていることが判明したが、本発明の樹状細胞では、MT-1MMP9の発現が5%以下の低酸素分圧条件下において、21%酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以下であることが判明した。TIMP-2、TIMP-3の発現は両条件下で変化のないことが判明した。
一方、細胞の浸潤/遊走を阻害する細胞内もしくは細胞表面でのMT-MMPの発現は、5%以下の低酸素分圧条件下においては正常酸素分圧条件下と比較し著明に増強されていることが判明したが、本発明の樹状細胞では、MT-1MMP9の発現が5%以下の低酸素分圧条件下において、21%酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以下であることが判明した。TIMP-2、TIMP-3の発現は両条件下で変化のないことが判明した。
成熟樹状細胞の浸潤/遊走に不可欠な細胞表面でのケモカイン受容体CCR1ならびにCCR6の発現は5%以下の低酸素分圧条件下においては、正常酸素分圧条件下に比較し著明に低下していることが判明したが、本発明の樹状細胞では、ケモカイン受容体CCR1ならびにCCR6の発現が5%以下の低酸素分圧条件下において、21%酸素分圧条件下と同等もしくはそれ以上であることも判明した。
本発明の樹状細胞は、上述の各種遺伝子の発現の有無を指標とすることにより、通常の樹状細胞(低酸素分圧条件下において遊走能を実質的に有さない樹状細胞)との混合物から、適宜選択することが可能である。好ましくは、上記MT1-MMPの発現の有無を調べることによって、本発明の樹状細胞を効率的に選択あるいは濃縮することができる。一例を示せば、本発明の樹状細胞を含む細胞混合物を、MT1-MMPに対する抗体にて処理後、2次抗体付きビーズにて処理した後、磁石を用いることにより本発明の細胞を濃縮することが可能である。
従って、本発明の樹状細胞の製造方法によって取得される製造産物の中に、本発明の樹状細胞以外の細胞が含まれる場合であっても、例えば、MT1-MMPの発現を指標とすることにより、効率的に本発明の樹状細胞を選択もしくは濃縮することが可能である。
低酸素条件下でも浸潤能が活性化された本発明の樹状細胞は、哺乳動物(例えば、マウス、ネコ、イヌ、牛、馬、羊、山羊、家兎、ヒト等)に対して用いられる。とりわけヒトに用いることが望ましい。各種白血病、悪性リンパ腫、膵癌、肝癌、肺癌、胃癌、大腸癌、骨肉腫、悪性黒色腫、悪性繊毛上皮、筋肉腫、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、食道癌、頸頭部腫瘍、脳腫瘍等の各種の癌、及び各種ウイルス、細菌等による感染症等の治療及び予防に対して用いることができる。
本発明の樹状細胞には、さらに、免疫賦活剤、免疫調整剤、癌免疫増強剤、細菌、ウイルス感染防御増強剤などを含有させてもよい。
樹状細胞の投与量は、患者の年齢、体重、性別、癌の種類及び癌の進行度、症状等によって異なり、一概には決定できないが、例えば投与は週に一度、患者一人あたり、樹状細胞が1×107細胞となるような量を、10週間にわたって投与する方法が挙げられる。
本発明の樹状細胞をヒトに適用するにあたっては、他の免疫賦活剤、免疫調整剤、癌免疫増強剤、細菌、ウイルス感染防御増強剤、癌ワクチン、細菌ワクチン、ウイルスワクチンと併用しても良い。さらには、腫瘍抗原や腫瘍由来DNA、RNAなどで処理(パルス)することでより効果的な癌ワクチン療法を提供することができる。
本発明の上記薬剤は、公知の製剤学的製造法によって、製剤化することもできる。例えば、薬剤として一般的に用いられる適当な担体、または媒体、例えば滅菌水や生理食塩水、植物油(例、ゴマ油、オリーブ油等)、着色剤、乳化剤(例、コレステロール)、懸濁剤(例、アラビアゴム)、界面活性剤(例、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系界面活性剤)、溶解補助剤(例、リン酸ナトリウム)、安定剤(例、糖、糖アルコール、アルブミン)、または保存剤(例、パラベン)、等と適宜組み合わせて、生体に効果的に投与するのに適した注射剤、経鼻吸収剤、経皮吸収剤、経口剤等の医薬用製剤、好ましくは注射剤に調製することができる。例えば、注射剤の製剤としては、凍結乾燥品や、注射用水剤等で提供できる。
また体内への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、または経口的に当業者に公知の方法により行うことができるが、好ましくは動脈内、静脈内投与である。
以下に、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕樹状細胞の調製
健常者由来の末梢単核細胞(PBMC)をフィコール−パック密度交配遠心分離により分離した。末梢単核細胞を、完全RPMI-1640培地中に、2×106細胞/mlになるように分散させ、37℃で1時間インキュベートすることにより付着性細胞を得た。非付着性細胞は、RPMI-1640培地で5回洗浄して除去した。付着性細胞を、1000 U/mlのGM-CSF及び1000 U/mlのIL-4、10%FBS、25mM HEPES、2mM L-グルタミン酸、50μM 2-ME、1%非必須アミノ酸及び2mMピルビン酸ナトリウムを含むRPMI培地中で、低酸素状態(1%酸素濃度、以下本明細書において、低酸素状態とは、1%酸素濃度状態をいう)及び正常酸素状態(21%酸素濃度、以下本明細書において、正常酸素状態とは、21%酸素濃度状態をいう)で、毎日、培地を半分交換しながら37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で6日間培養した。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。
〔実施例1〕樹状細胞の調製
健常者由来の末梢単核細胞(PBMC)をフィコール−パック密度交配遠心分離により分離した。末梢単核細胞を、完全RPMI-1640培地中に、2×106細胞/mlになるように分散させ、37℃で1時間インキュベートすることにより付着性細胞を得た。非付着性細胞は、RPMI-1640培地で5回洗浄して除去した。付着性細胞を、1000 U/mlのGM-CSF及び1000 U/mlのIL-4、10%FBS、25mM HEPES、2mM L-グルタミン酸、50μM 2-ME、1%非必須アミノ酸及び2mMピルビン酸ナトリウムを含むRPMI培地中で、低酸素状態(1%酸素濃度、以下本明細書において、低酸素状態とは、1%酸素濃度状態をいう)及び正常酸素状態(21%酸素濃度、以下本明細書において、正常酸素状態とは、21%酸素濃度状態をいう)で、毎日、培地を半分交換しながら37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で6日間培養した。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。
〔実施例2〕表面抗原解析
実施例1で得られた樹状細胞の表面抗原の検出をフローサイトメーターを用いて行った。抗原の検出は未成熟細胞及び成熟細胞について行った。測定する細胞(5×105個)を、CD83、CD80、CD14、HLA-ABC、HLA-DRに対する、FITC結合マウスモノクローナル抗体、及びヒトCD1a及びCD86に対するマウスモノクローナル抗体と4℃で30分インキュベートした。用いたモノクローナル抗体はImmunotech社から購入した。次いで、細胞を生理食塩加リン酸緩衝液(PBS、pH7.0)で2回洗浄して過剰のモノクローナル抗体を除去した。次いで、フルオレセイン結合抗マウスIgG+IgM(H+L)山羊抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)と45分間インキュベートし、フローサイトメーターを用いて解析を行った。
実施例1で得られた樹状細胞の表面抗原の検出をフローサイトメーターを用いて行った。抗原の検出は未成熟細胞及び成熟細胞について行った。測定する細胞(5×105個)を、CD83、CD80、CD14、HLA-ABC、HLA-DRに対する、FITC結合マウスモノクローナル抗体、及びヒトCD1a及びCD86に対するマウスモノクローナル抗体と4℃で30分インキュベートした。用いたモノクローナル抗体はImmunotech社から購入した。次いで、細胞を生理食塩加リン酸緩衝液(PBS、pH7.0)で2回洗浄して過剰のモノクローナル抗体を除去した。次いで、フルオレセイン結合抗マウスIgG+IgM(H+L)山羊抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)と45分間インキュベートし、フローサイトメーターを用いて解析を行った。
結果を図1に示す。図1はフローサイトメーターによる表面抗原解析の結果を示す図であり、図1においてimDCsは未成熟樹状細胞を示し、mDCsは成熟樹状細胞を示す。
図1に示すように、単球細胞のマーカーであるCD14は未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現されていなかった。樹状細胞マーカーであるCD83は、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現していた。共刺激性分子、CD80及びCD86は、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現していた。HLA-DR、HLA-ABC及びCD1aは、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現していた。これらの結果は、IL-4及びGM-CSFの存在下で正常酸素状態及び低酸素状態で分化した細胞は未成熟樹状細胞(imDCs)であると判断され、正常酸素状態及び低酸素状態で分化したLPSで処理された細胞は成熟樹状細胞(mDCs)であると判断される。
図1に示すように、単球細胞のマーカーであるCD14は未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現されていなかった。樹状細胞マーカーであるCD83は、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現していた。共刺激性分子、CD80及びCD86は、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現していた。HLA-DR、HLA-ABC及びCD1aは、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞に発現していた。これらの結果は、IL-4及びGM-CSFの存在下で正常酸素状態及び低酸素状態で分化した細胞は未成熟樹状細胞(imDCs)であると判断され、正常酸素状態及び低酸素状態で分化したLPSで処理された細胞は成熟樹状細胞(mDCs)であると判断される。
〔実施例3〕未成熟樹状細胞および成熟樹状細胞におけるMMP-9のmRNA発現
実施例1で得られた未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を、低酸素状態及び正常酸素状態で分化し、それぞれの細胞中のMMP-9のmRNAの発現をリアルタイムPCR法により調べた。なお、低酸素状態及び正常酸素状態での分化は、それぞれ1%酸素濃度、21%酸素濃度において、培養チャンバーを用いて7日間行った。リアルタイムPCRは以下のように行った。細胞は、3名のドナー由来の未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を用いた。培養して得られた細胞(1×106細胞)からトリゾル試薬(TRIZOL reagent、LIFE TECHNOLOGIES社)を用いて全RNAを分離した。75mM KCl、50mM Tris-HCl(pH8.3)、3mM MgCl2、10mMジチオスレイトール、0.5mMの各dNTP、2μM ランダムプライマー、及び1000 UのTaqMan Reverse転写試薬を含む50μlの反応混合物中で各RNA試料(2μg)をcDNAに変換した。各cDNA(10ng)をSYBR-Green PCR assay kitを用いて3組増幅し、ABI PRISM 7900HT sequence Detection Systemで配列を決定した。PCR反応は、50℃で2分、95℃で15分インキュベートし、次いで95℃での15サイクルの変性、60℃での30サイクルのアニーリング、及び72℃での1分間の伸長を行った。プライマーとして配列番号:1及び配列番号:2に示すものを用いた。
MMP-9:CCTTTTGAGGGCGACCTCCAAG(配列番号:1) およびCTGGATGACGATGTCTGCGT(配列番号:2)
実施例1で得られた未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を、低酸素状態及び正常酸素状態で分化し、それぞれの細胞中のMMP-9のmRNAの発現をリアルタイムPCR法により調べた。なお、低酸素状態及び正常酸素状態での分化は、それぞれ1%酸素濃度、21%酸素濃度において、培養チャンバーを用いて7日間行った。リアルタイムPCRは以下のように行った。細胞は、3名のドナー由来の未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を用いた。培養して得られた細胞(1×106細胞)からトリゾル試薬(TRIZOL reagent、LIFE TECHNOLOGIES社)を用いて全RNAを分離した。75mM KCl、50mM Tris-HCl(pH8.3)、3mM MgCl2、10mMジチオスレイトール、0.5mMの各dNTP、2μM ランダムプライマー、及び1000 UのTaqMan Reverse転写試薬を含む50μlの反応混合物中で各RNA試料(2μg)をcDNAに変換した。各cDNA(10ng)をSYBR-Green PCR assay kitを用いて3組増幅し、ABI PRISM 7900HT sequence Detection Systemで配列を決定した。PCR反応は、50℃で2分、95℃で15分インキュベートし、次いで95℃での15サイクルの変性、60℃での30サイクルのアニーリング、及び72℃での1分間の伸長を行った。プライマーとして配列番号:1及び配列番号:2に示すものを用いた。
MMP-9:CCTTTTGAGGGCGACCTCCAAG(配列番号:1) およびCTGGATGACGATGTCTGCGT(配列番号:2)
結果を図2に示す。図2は、リアルタイムPCRの結果を示す図である。図2において、imDCsは未成熟樹状細胞を示し、mDCsは成熟樹状細胞を示し、Nは正常酸素状態、Hは低酸素状態を示す。図2に示すように、正常酸素状態下で分化した未成熟樹状細胞及び成熟細胞は、低酸素状態で分化したものよりも2〜5倍高いレベルでMMP-9のmRNAを発現した。
〔実施例4〕ウェスタンブロット解析
実施例1で得られた未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を、5×105細胞/mlになるように、血清を含まないRPMI1640培地で希釈し、37℃の温度で低酸素状態及び正常酸素状態で24時間培養を行った。培地を遠心分離して上清を集め、−70℃に保存した。MMP-9タンパク質の生産量を定量するため、同量のタンパク質濃度の樹状細胞の培養上清を7.5w/vのポリアクリルアミドゲル上にロードし、SDS-PAGEを行った。ヒト繊維肉腫細胞株HT1080の培地を、ポジティブコントロールとして用いた(β-アクチンを生産する)。SDS-PAGEの後、タンパク質をニトロセルロース膜(Bio-Red、Hercules、CA)上にセミドライ法によりブロッティングした。通常のブロッキング及び洗浄を行った後、その膜を濃度1μg/mlのヒトMMP-9に対する一次抗体を用いて、室温で1時間インキュベートした。用いた一次抗体は、ヒトMMP-9に対して生じるマウスポリクローナルIgGであり、二次抗体は1:2000の希釈率でホースラディッシュ・ペルオキシダーゼにより標識されたウサギanti-mouse IgG(H&L)である。細胞内のMMP-9プロテインを検出するために、15μgのタンパク質を含むそれぞれの細胞溶解物をロードし、ウェスタンブロット解析を行った。膜はペルオキシダーゼで標識されたヤギanti-mouse IgGを用いてインキュベートし、ECL検出キット(Amersham、東京、日本)を用いて現像した。
実施例1で得られた未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を、5×105細胞/mlになるように、血清を含まないRPMI1640培地で希釈し、37℃の温度で低酸素状態及び正常酸素状態で24時間培養を行った。培地を遠心分離して上清を集め、−70℃に保存した。MMP-9タンパク質の生産量を定量するため、同量のタンパク質濃度の樹状細胞の培養上清を7.5w/vのポリアクリルアミドゲル上にロードし、SDS-PAGEを行った。ヒト繊維肉腫細胞株HT1080の培地を、ポジティブコントロールとして用いた(β-アクチンを生産する)。SDS-PAGEの後、タンパク質をニトロセルロース膜(Bio-Red、Hercules、CA)上にセミドライ法によりブロッティングした。通常のブロッキング及び洗浄を行った後、その膜を濃度1μg/mlのヒトMMP-9に対する一次抗体を用いて、室温で1時間インキュベートした。用いた一次抗体は、ヒトMMP-9に対して生じるマウスポリクローナルIgGであり、二次抗体は1:2000の希釈率でホースラディッシュ・ペルオキシダーゼにより標識されたウサギanti-mouse IgG(H&L)である。細胞内のMMP-9プロテインを検出するために、15μgのタンパク質を含むそれぞれの細胞溶解物をロードし、ウェスタンブロット解析を行った。膜はペルオキシダーゼで標識されたヤギanti-mouse IgGを用いてインキュベートし、ECL検出キット(Amersham、東京、日本)を用いて現像した。
結果を図3に示す。図3は、ウェスタンブロット解析の結果であり、正常酸素状態下で分化した未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞は、低酸素状態下で分化したものよりも、高いレベルでMMP-9タンパク質を産生していた。分泌されたMMP-9も同様に検討した。また、図4に示すように、正常酸素状態下で分化した未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞は、低酸素状態下で分化したものよりも高いレベルでMMP-9タンパク質を分泌した。MMP-9の活性形態(Active MMP-9)は、正常酸素状態で分化した樹状細胞にのみ検出された。次いで、正常酸素状態及び低酸素状態で分化した未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞から分泌されたMMP-9のタンパク質の分解活性を調べた。
〔実施例5〕MMP-9タンパク質の分解活性
実施例4で培養した、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞について、ゼラチンザイモグラフィー法を実施した。その方法を以下に説明する。
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びゼラチンを含有するポリアクリルアミドゲル中での電気泳動法によって検定した。簡単に説明すると、同じタンパク質含有物を含む細胞培養の上澄から分離した培養上清を3倍のバッファーと混合して、1mg/mlのゼラチンを含有する10% w/v ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動を行った。電気泳動後、ゲルを100mlの再生バッファー(2.5% Triton X-100 脱イオン水溶液)中で攪拌しながらインキュベートした。次に、そのゲルを100mlのdevelopmentバッファー(0.15MのNaCl、50mMのTris-HCl、10mMのCaCl2、0.05%のNaN3)中で、37℃で一晩インキュベートした。ゲルは、0.5%Coomassie Blue R-250 40%メタノール/10%酢酸溶液で、室温で1時間染色した。続いて4時間、時々脱色液(40%メタノール/10%酢酸 脱イオン水溶液)を換えながら脱色を行った。蛋白質分解活性のバンドは、紺青色のバックグラウンドに対してクリアバンドとして明らかに見られた。ポジティブコントロールとして、ヒト繊維肉腫細胞株HT1080の培地を用いた。
実施例4で培養した、未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞について、ゼラチンザイモグラフィー法を実施した。その方法を以下に説明する。
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びゼラチンを含有するポリアクリルアミドゲル中での電気泳動法によって検定した。簡単に説明すると、同じタンパク質含有物を含む細胞培養の上澄から分離した培養上清を3倍のバッファーと混合して、1mg/mlのゼラチンを含有する10% w/v ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動を行った。電気泳動後、ゲルを100mlの再生バッファー(2.5% Triton X-100 脱イオン水溶液)中で攪拌しながらインキュベートした。次に、そのゲルを100mlのdevelopmentバッファー(0.15MのNaCl、50mMのTris-HCl、10mMのCaCl2、0.05%のNaN3)中で、37℃で一晩インキュベートした。ゲルは、0.5%Coomassie Blue R-250 40%メタノール/10%酢酸溶液で、室温で1時間染色した。続いて4時間、時々脱色液(40%メタノール/10%酢酸 脱イオン水溶液)を換えながら脱色を行った。蛋白質分解活性のバンドは、紺青色のバックグラウンドに対してクリアバンドとして明らかに見られた。ポジティブコントロールとして、ヒト繊維肉腫細胞株HT1080の培地を用いた。
結果、図5に示すように、ゼラチンザイモグラフィーは、低酸素状態下で分化した樹状細胞よりも正常酸素状態で分化した樹状細胞の方がより高いレベルでpro-MMP-9を分泌したことを示している。MMP-9タンパク質の活性形態は、正常酸素状態で分化した樹状細胞にのみ分泌された。これらの結果は、低酸素状態で分化した樹状細胞が正常酸素状態で分化した樹状細胞よりもタンパク質分解活性が低いことを示している。
〔実施例6〕樹状細胞におけるTIMP-1、TIMP-2およびTIMP-3の発現
実施例1で得られた未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を、低酸素状態及び正常酸素状態で分化させ、それぞれの細胞中のMMP-9の特異的阻害剤である、TIMP-1、TIMP-2及びTIMP-3の発現をリアルタイムPCR法により調べた。方法は実施例3と同様に行った。TIMP-1のプライマーとしては配列番号:3及び配列番号:4に示すものを、TIMP-2のプライマーとしては配列番号:5及び配列番号:6に示すものを、TIMP-3のプライマーとしては配列番号:7及び配列番号:8に示すものを用いた。
実施例1で得られた未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を、低酸素状態及び正常酸素状態で分化させ、それぞれの細胞中のMMP-9の特異的阻害剤である、TIMP-1、TIMP-2及びTIMP-3の発現をリアルタイムPCR法により調べた。方法は実施例3と同様に行った。TIMP-1のプライマーとしては配列番号:3及び配列番号:4に示すものを、TIMP-2のプライマーとしては配列番号:5及び配列番号:6に示すものを、TIMP-3のプライマーとしては配列番号:7及び配列番号:8に示すものを用いた。
プライマーは以下のものを用いた。
TIMP1: ACAGACGGCCTTCTGCAATTC(配列番号:3)および GGTGTAGACGAACCGGATGTCA(配列番号:4);
TIMP2: GTTCAAAGGGCCTGAGAAGGA(配列番号:5)およびCCAGGGCACGATGAAGTCA(配列番号:6);
TIMP3: GCCTTCTGCAACTCCGACAT(配列番号:7)および TCTCGGAAGCTTCCGTATGG(配列番号:8)。
TIMP1: ACAGACGGCCTTCTGCAATTC(配列番号:3)および GGTGTAGACGAACCGGATGTCA(配列番号:4);
TIMP2: GTTCAAAGGGCCTGAGAAGGA(配列番号:5)およびCCAGGGCACGATGAAGTCA(配列番号:6);
TIMP3: GCCTTCTGCAACTCCGACAT(配列番号:7)および TCTCGGAAGCTTCCGTATGG(配列番号:8)。
結果を図6に示す。図6は、リアルタイムPCRの結果を示す図である。図6に示すように、TIMP-1は低酸素状態で分化した樹状細胞において、正常酸素状態で分化した樹状細胞よりも高いレベルで発現した。TIMP-2及びTIMP-3は、正常酸素状態及び低酸素状態の両方で培養された樹状細胞において同レベルで発現した。TIMP-1は、MMP-9の特異的阻害剤であるから、この結果は、低酸素状態で分化した樹状細胞が正常酸素状態で分化した樹状細胞よりも低いタンパク質分解活性を有することを示す。
〔実施例7〕樹状細胞の浸潤能活性
Transwell Chamber法を用いて上室と下室を区切るメンブレン上にマトリゲルを固相化し、洗浄後、上室に樹状細胞を入れ、下室には未成熟樹状細胞の場合にはリコンビナントヒトRANTESを100ng/ml入れ、成熟樹状細胞の場合にはリコンビナントヒトMCP-3を100ng/ml入れ、下室に移動してきた細胞数を計測し、樹状細胞の浸潤能の活性を測定した。
Transwell Chamber法を用いて上室と下室を区切るメンブレン上にマトリゲルを固相化し、洗浄後、上室に樹状細胞を入れ、下室には未成熟樹状細胞の場合にはリコンビナントヒトRANTESを100ng/ml入れ、成熟樹状細胞の場合にはリコンビナントヒトMCP-3を100ng/ml入れ、下室に移動してきた細胞数を計測し、樹状細胞の浸潤能の活性を測定した。
結果を図7に示す。図7は未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞の浸潤能の活性を測定した結果を示すグラフである。図7に示すように、未成熟樹状細胞及び成熟細胞は、いずれも正常酸素状態で分化した方が、低酸素状態で分化したものよりも高い浸潤能の活性を有していた。
〔実施例8〕TIMP-1タンパク質添加による樹状細胞の浸潤能活性の変化
TIMP-1タンパク質による浸潤能活性の低下を調べるため、実施例7で行った系にTIMP-1タンパク質を10ng/ml加えて同様に試験を行った。
TIMP-1タンパク質による浸潤能活性の低下を調べるため、実施例7で行った系にTIMP-1タンパク質を10ng/ml加えて同様に試験を行った。
結果を図8に示す。図8は、TIMP-1タンパク質による樹状細胞の浸潤能活性の変化を調べた結果を示すグラフである。図8において、+(プラス)はTIMP-1タンパク質を加えた場合の結果であり、−(マイナス)はTIMP-1タンパク質を加えない場合の結果である。図8に示すように、正常酸素状態で分化した未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞の浸潤能活性は、TIMP-1タンパク質によって低下することがわかる。これに対し、低酸素状態で分化した未成熟樹状細胞及び成熟樹状細胞の浸潤能活性はTIMP-1タンパク質によって変化しなかった。
〔実施例9〕ケモカインレセプターmRNAの発現
樹状細胞の遊走能を規定するもう一つの因子としてのケモカイン/ケモカインレセプターの関与について検討するために、ケモカインレセプターmRNA発現を検討した。
樹状細胞の遊走能を規定するもう一つの因子としてのケモカイン/ケモカインレセプターの関与について検討するために、ケモカインレセプターmRNA発現を検討した。
結果を図9に示す。図9は、未熟樹状細胞および成熟樹上細胞のケモカインレセプターとされるCCR1、CCR6とCCR7の発現をみたものである。未熟樹状細胞に発現するCCR1とCCR6は低酸素下で分化した樹状細胞の発現が低下していたが、成熟樹状細胞のケモカインレセプターであるCCR7は低酸素下で分化した樹状細胞においても低下していなかった。
〔実施例10〕トリコスタチンAの添加によるMMP-9のmRNA濃度の変化
樹状細胞の培養開始後3日目よりヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンAを培地に12.5μM濃度になるように添加し、3日間培養して、樹状細胞の分化を行った。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。最後の1日の培養液中にもトリコスタチンAを培地に12.5μM濃度にて添加した。分化誘導後、細胞中のMMP-9のmRNA濃度を測定した。結果を図10に示す。図10に示すように、MMP-9のmRNA濃度は、培地中にトリコスタチンAを添加することにより上昇した。
樹状細胞の培養開始後3日目よりヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチンAを培地に12.5μM濃度になるように添加し、3日間培養して、樹状細胞の分化を行った。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。最後の1日の培養液中にもトリコスタチンAを培地に12.5μM濃度にて添加した。分化誘導後、細胞中のMMP-9のmRNA濃度を測定した。結果を図10に示す。図10に示すように、MMP-9のmRNA濃度は、培地中にトリコスタチンAを添加することにより上昇した。
〔実施例11〕全トランスレチノイン酸の添加によるMMP-9のmRNA濃度の変化
樹状細胞の培養開始後3日目より全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度になるように添加し、その後3日間培養するか、全トランスレチノイン酸を培地に5μM濃度になるように添加して1日培養し、次いで全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度に添加して2日培養した。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。最後の1日の培養液中にも全トランスレチノイン酸を1μM濃度にて添加した。分化誘導後、細胞中のMMP-9のmRNA濃度を測定した。結果を図11に示す。図11に示すように、MMP-9のmRNA濃度は、培地中に全トランスレチノイン酸を添加することにより上昇した。
樹状細胞の培養開始後3日目より全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度になるように添加し、その後3日間培養するか、全トランスレチノイン酸を培地に5μM濃度になるように添加して1日培養し、次いで全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度に添加して2日培養した。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。最後の1日の培養液中にも全トランスレチノイン酸を1μM濃度にて添加した。分化誘導後、細胞中のMMP-9のmRNA濃度を測定した。結果を図11に示す。図11に示すように、MMP-9のmRNA濃度は、培地中に全トランスレチノイン酸を添加することにより上昇した。
〔実施例12〕全トランスレチノイン酸の添加による樹状細胞の浸潤能活性の変化
樹状細胞の培養開始後3日目より全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度になるように添加し、その後3日間培養するか、全トランスレチノイン酸を培地に5μM濃度になるように添加して1日培養し、次いで全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度に添加して2日培養した。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。最後の1日の培養液中にも全トランスレチノイン酸を1μM濃度にて添加した。次いで、実施例7と同様に操作を行い、樹状細胞の浸潤能の活性を測定した。
樹状細胞の培養開始後3日目より全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度になるように添加し、その後3日間培養するか、全トランスレチノイン酸を培地に5μM濃度になるように添加して1日培養し、次いで全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度に添加して2日培養した。6日目に、細胞を集め、2つのグループに分けた。1つ目のグループはIL-4及びGM-CSFを含む培地で1日培養し、未成熟樹状細胞として用いた。2つ目のグループはLPS(1μg/ml)で1日処理し、成熟樹状細胞として用いた。最後の1日の培養液中にも全トランスレチノイン酸を1μM濃度にて添加した。次いで、実施例7と同様に操作を行い、樹状細胞の浸潤能の活性を測定した。
結果を図12に示す。図12は、低酸素下で分化した樹状細胞の浸潤能活性を測定した結果である。図12に示すように、樹状細胞の浸潤能は培地中に全トランスレチノイン酸を添加することにより向上した。
以上詳述した通り、レチノイドである全トランスレチノイン酸は、樹状細胞が浸潤能を発揮するために必要なMMP-9の産生を増大し、それにより樹状細胞の浸潤能を活性化することが見出された。この効果は、低酸素状態においても発揮され、酸素濃度が低下している癌細胞においても発揮される。従って、本発明の樹状細胞浸潤能活性化組成物は免疫賦活化作用を発揮し、哺乳動物の免疫を賦活化するためにも用いられる。また、本発明の樹状細胞浸潤能活性化組成物及び免疫賦活剤は、動物の感染症、癌の予防・治療に用いることができる。
〔実施例13〕MT1-MMP(MMP-14)遺伝子mRNAの発現
6日間GM-CSFとIL-4にて培養した細胞およびさらにLPSと培養した細胞からRNAを抽出してreal-time PCRにてMT1-MMP(MMP-14)発現を検討した。
6日間GM-CSFとIL-4にて培養した細胞およびさらにLPSと培養した細胞からRNAを抽出してreal-time PCRにてMT1-MMP(MMP-14)発現を検討した。
結果を図13に示す。図13は、リアルタイムPCRの結果を示す図である。図13において、im-hmDCsは未成熟樹状細胞を示し、m-hmDCsは成熟樹状細胞を示し、Nは正常酸素状態、Hは低酸素状態を示す。図13に示すように、正常酸素状態下で分化した未成熟樹状細胞及び成熟細胞は、低酸素状態で分化したものよりも高いレベルでMT1-MMP(MMP-14)のmRNAを発現した。
〔実施例14〕全トランスレチノイン酸(RA)の添加によるMT1-MMP(MMP-14)のmRNA濃度の変化
樹状細胞の培養開始後3日目より全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度になるように添加した。培養3日目よりATRAを加えて上述の実施例と同様に培養した細胞からRNAを抽出してMT1=MMP発現を検討した。
樹状細胞の培養開始後3日目より全トランスレチノイン酸を培地に1μM濃度になるように添加した。培養3日目よりATRAを加えて上述の実施例と同様に培養した細胞からRNAを抽出してMT1=MMP発現を検討した。
結果を図14に示す。図14に示すように、MT1-MMP(MMP-14)のmRNA濃度は、培地中に全トランスレチノイン酸を添加することにより上昇した。
Claims (17)
- 5%以下の低酸素分圧条件下において、遊走能を実質的に有することを特徴とする、樹状細胞。
- 5%以下の低酸素分圧条件下において、ケモカインレセプターが実質的に発現することを特徴とする、請求項1に記載の樹状細胞。
- 5%以下の低酸素分圧条件下において、MMP9、プロMMP9、MT1-MMP、CCR1またはCCR6が実質的に発現することを特徴とする、請求項1に記載の樹状細胞。
- クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物を作用させた細胞であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の樹状細胞。
- クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物がヒストン脱アセチル化誘導阻害剤である、請求項4に記載の樹状細胞。
- クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物が、トリコスタチンまたは酪酸誘導体である、請求項4に記載の樹状細胞。
- RXR/RARに作用する化合物を作用させた細胞であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の樹状細胞。
- RXR/RARに作用する化合物がレチノイド誘導体である、請求項7に記載の樹状細胞。
- レチノイド誘導体が、全トランスレチノール、13−シスレチノール、全トランスレチノイン酸及び13−シスレチノイン酸からなる群より選択される、請求項8に記載の樹状細胞。
- 樹状細胞が骨髄由来細胞もしくは末梢単球由来である、請求項1〜9のいずれかに記載の樹状細胞。
- 樹状細胞が、未成熟型および/または成熟型の細胞を含有してなる請求項1〜10のいずれかに記載の樹状細胞。
- 樹状細胞が、ミエロイド型、およびプラスマサイトイド型からなる群より選択される1もしくは複数の亜型を含有してなる請求項1〜11のいずれかに記載の樹状細胞。
- 樹状細胞がヒトの樹状細胞である、請求項1〜12のいずれかに記載の樹状細胞。
- 請求項1〜13のいずれかに記載の樹状細胞を有効成分として含有する、免疫療法剤。
- 請求項1〜13のいずれかに記載の樹状細胞を有効成分として含有する、医薬組成物。
- 以下の(a)および/または(b)に記載の化合物を、樹状細胞に作用させる工程を含む、5%以下の低酸素分圧条件下において遊走能を実質的に有する樹状細胞の製造方法。
(a)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物
(b)RXR/RARに作用する化合物 - 以下の工程(a)および(b)を含む、5%以下の低酸素分圧条件下において遊走能を実質的に有する樹状細胞の製造方法。
(a)単核細胞を分化誘導剤の存在下および炭酸ガス雰囲気下で培養し、該単核細胞を樹状細胞へ分化誘導する工程
(b)クロマチン凝縮阻害活性を有する化合物、またはRXR/RARに作用する化合物を樹状細胞へ作用させる工程
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
EP2305277A1 (en) * | 2009-09-18 | 2011-04-06 | Forskarpatent I Syd AB | Use of tolerogenic dendritic cells in treatment and prevention of atherosclerosis |
JP2019519482A (ja) * | 2016-05-23 | 2019-07-11 | 長弘生物科技股▲ふん▼有限公司 | 自己免疫系の活性化におけるz−ブチリデンフタリドの使用 |
-
2005
- 2005-09-20 JP JP2005272279A patent/JP2007082422A/ja active Pending
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US10688128B2 (en) | 2016-05-23 | 2020-06-23 | Everfront Biotech Inc. | Use of Z-butylidenephthalide in activating autoimmune system |
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