JP2007068610A - 座席用シート材と座席、および座席用シート材の製造方法 - Google Patents

座席用シート材と座席、および座席用シート材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】脱臭作用や発散促進作用などを備えた、高機能な座席用シート材を提供する。
【解決手段】少なくとも着座者3が接する基材7の表面側7aとは反対側の裏面側7bに、プラズマグラフト重合処理により親水層9を形成する。これによれば、基材7の表面側7aから浸透された汗は、親水層9に至ると座席の内部に向かって大きく広がり、親水層9の裏面側9bにおける空気との接触面積は極めて大きなものとなる。したがって、汗等は空気中に揮発しやすくなり、発散促進作用の向上を図ることができる。基材7の表面側7aで吸い取った汗等を親水層9の裏面側9bから発散させることができるので、着座者3の有無に関係なく、発散促進作用が良好に得られる点でも優れている。基材7の表面側7aから浸透した汗等は、速やかに親水層9側に移行して基材1の表面側7aには残留せず、したがって着座者3の衣服10や手に汗等が再付着することに伴うべたつき感や不快感などを一掃できる点でも優れている。
【選択図】図1

Description

本発明は、汗の発散促進機能、脱臭機能、および抗菌機能などの各種効能を備える座席用シート材、該座席用シート材により形成された座席、および座席用シート材の製造方法に関する。
人間が活動する際に発生する汗の除去、悪臭の除去、細菌に対する抗菌などの各種機能を付与することを目的として、以下の(1)〜(4)に示すような機能性繊維材料が提案されている。
(1)表面薬剤塗布又は含有:材料の片面に親水性薬剤あるいは撥水性薬剤あるいは抗菌性材料を塗布又は含有させることで、撥水性や抗菌性などの機能性を実現する。しかし、単に化学薬剤を塗布又は含有させているだけのため耐久性に乏しい。繊維材料の通気性が阻害されやすい点でも不利がある。
(2)原糸による織り編み:片面は撥水性の合成繊維を用い、他面は吸水性の天然繊維や化学繊維を用いて、両素材を一枚に編みあげる方法である(例えば、特許文献1参照)。これによれば、片面親水性が実現でき、汗の効果的に除去できる。ただし構造上、布の厚さを薄くすることが困難であり、汎用性に欠ける。繊維材料の製造コストが高く付く点でも不利がある。
(3)放射線グラフト重合:表面を放射線グラフト重合処理し、脱臭性をもつ繊維材料を得る方法である(例えば、特許文献2参照)。作成された繊維材料の性能は非常に高いものであるが、大掛かりな装置が必要であり、しかも放射線を利用するため装置の取り扱いに高度な技術を要する。
(4)プラズマグラフト重合:繊維材料の片側表面を大気圧低温非平衡プラズマをグラフト重合処理し、直ちに高分子モノマーと反応させることで、表面を撥水性又は親水性に改質し、同時に多孔質化して表面に官能基を作成する方法である(本発明者に拠る特許文献3参照)。
特開平06−041657号公報 特開平11−155939号公報 特開2002−209992号公報
特許文献3に係るプラズマグラフト重合方法によれば、放射線グラフト重合方法に比べて簡易且つ小型の装置でもって発散促進や脱臭などの各種機能を繊維材料に与えることができ、したがって高機能な繊維材料を低コストに提供できる点で優れている。また、高分子モノマーが繊維に強固に化学結合しているため、薬剤塗布タイプや織り編みタイプに比べて、各種機能が長期にわたって持続する点でも優れている。
本発明者等は、プラズマグラフト重合処理により得られた繊維材料を、鉄道車両などの座席の表面を覆うシート材として適用することを考えた。しかし、単にプラズマグラフト重合処理された繊維材料をシート材としても、親水領域の形成位置によっては汗の発散促進作用などが著しく損なわれる結果を招く不具合があり、したがって当該繊維材料を座席用シート材として適用するためには、さらなる工夫が必要であることがわかった。
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、プラズマグラフト重合処理により形成された親水層に由来する脱臭作用や発散促進作用などが良好に発揮される、高機能な座席用シート材を提供することにある。本発明の目的は、先の脱臭機能や発散促進機能に加えて、殺菌機能を兼ね備えた座席用シート材を提供することにある。本発明の目的は、当該座席用シート材を用いた座席を提供することにある。本発明の他の目的は、座席用シート材の製造方法において、縫製済み、あるいは無縫製の立体状の基材に対しても、簡単確実にプラズマグラフト重合処理を施すことができるようにして、座席用シート材の製造コストの低減化を図ることにある。
本発明は、図1に示すごとく、座席2の表面を被覆する表皮材を構成する座席用シート材1であって、少なくとも着座者3が接する基材7の表面側7aとは反対側の裏面側7bに、プラズマグラフト重合処理により親水層9が形成されていることを特徴とする。すなわち本発明においては、基材7である布材の裏面側7bにのみ親水層9が形成されていて、表面側7aには親水層9が現出しないようにしてある点が着目される。
本発明に係る座席用シート材1は、新幹線に代表される鉄道車両の座席に限られず、乗用車の座席やオフィス用の椅子などにも適用できる。本発明に係る座席用シート材が、図1に示すようなリクライニングタイプの座席に限られず、長椅子タイプの座席に適用できることは言うまでもない。なお、ここで言う「座席用シート材」とは、図5に示すような、鉄道車両において、着座者3の後頭部と座席2との接触部分に着脱自在に装着される座席カバー35をも含む概念である。
本発明においては、基材7である布材に対して大気圧低温非平衡プラズマを使ったプラズマグラフト重合処理を施すことが好ましい。大気圧低温非平衡プラズマとは、圧力が大気圧で、ガスの温度自体は室温に近く、電子の温度(平均運動エネルギー)が極端に高い(通常10,000K以上)プラズマを指す。低温であることから省エネルギーで発生でき、布繊維の表面を燃焼反応等により痛めることなく、活性基(ラジカル)を励起させることができるので、親水性モノマー(機能性モノマー)と布繊維との間に、強固な結合である重合化学反応を実現できる。
図2に、ラジカルグラフト重合反応の一例として、ポリエステルのプラズマ反応並びにアクリル酸モノマーとのグラフト重合反応を示す。図2に示すように、ポリエステルの表面にプラズマを照射するとラジカルが発生する。次いでポリエステルの表面に対してアクリル酸などの親水性モノマーを噴き付けると、表面にラジカルが発生したポリエステルはアクリル酸とグラフト重合反応し、グラフト重合体が形成され、その結果、ポリエステルの表面上に耐久性のあるアクリル酸の親水層が形成される。本発明においては、図1に示すごとく、基材7の裏面側7bにプラズマグラフト重合処理を施して、当該裏面側7bに親水層9を形成する。かかる親水層9は、外気に接する裏面側9bが活性炭のように多孔質化されているため、化学吸着が可能で、優れた悪臭吸収作用(脱臭作用)を発揮する。
本発明において脱臭機能の対象となる臭い成分としては、人体から発せられるアンモニア、アセトアルデヒドなどのたばこの臭い成分、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの乗り物内部や建物内部のアレルギーの原因となる成分、又は一般にシックハウス症候群と呼ばれているものの原因となる成分などを挙げることができる。
加えて、本発明のように少なくとも基材7の裏面側7bに親水層9を形成してあると、汗の発散促進作用の格段の向上を図ることができる。すなわち、図3(A)に示すように、親水層9を有しない基材7のみの形態では、着座者の衣服10から基材7の表面側7aに浸透された汗などの水分は、殆ど移動せず表面近くに留まるため、空気との接触面積は浸透領域と略一致したものとなり、発散促進作用の向上は望めない。これに対して、本発明に係る図3(B)に示す形態では、基材7の表面側7aから浸透された汗は、親水層9に至ると座席の内部に向かって大きく広がり、親水層9の裏面側9bにおける空気との接触面積は極めて大きなものとなるため、汗等は空気中に揮発しやすくなる。したがって、先の図3(A)の形態に比べて発散促進作用の格段の向上を図ることができるのである。なお、図3において符号30は、汗の浸透領域を示している。
また、図3(B)の形態によれば、基材7の表面側7aで吸い取った汗等を親水層9の裏面側9bから発散させることができるため、着座者3の有無に関係なく、発散促進作用が良好に得られる点でも優れている。加えて、基材7に浸透した汗は速やかに親水層9側に移行し、基材7の表面側7aには残留し難く、したがって着座者3の衣服10や手に汗等が再付着することに伴うべたつき感や不快感などを一掃できる。
図3(C)に示すごとく、基材7の裏面側7bだけでなく表面側7aにも親水層9を形成することができ、本発明は当該形態をも含む概念である。このように基材7の表裏面7a・7bの両面に親水層9を形成してあると、図3(B)の形態に比べて親水層9の形成領域を実質的に倍増することができるため、脱臭作用・機能に優れた座席用シート材1を得ることができる。表面側7aの親水層9に吸い取られた汗等の一部は、基材7を介して裏面側7bの親水層9にも至るため、かかる裏面側7bの親水層9からの発散促進作用も期待できる。
図3(D)に示すように、基材7の表面側7aのみに親水層9を形成することも考えられる。しかし、当該形態では、浸透された汗等の殆どが親水層9に留まるため、座席の表面がべとつき易く、着座者に不快感を与えるおそれがある。
本発明において、親水層9には貴金属(銀など)又は酸化チタンなどを含有させることが好ましい。これによれば、貴金属や酸化チタンに由来する抗菌作用や殺菌作用などを座席用シート材1に与えることができる。具体的には、親水層9を構成するモノマーに貴金属及び/又は酸化チタンを溶解させ、ミスト状に連続噴霧させるか、プラズマグラフト重合処理後、繊維材料を貴金属溶液及び/又は酸化チタン溶液中に一定時間浸すことにより、親水層9に貴金属等を含有させることができる。
本発明に係る座席用シート材1の基材7となる布材としては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系、ポリアクリル系の合成繊維、炭素繊維、木綿、麻、絹、ウール等の各種の繊維又はそれらの混紡繊維を原料とする織布又は不織布などを例示できる。親水層9を構成するモノマー(重合性単量体)としては、アクリル酸が好ましいが、その他にもラジカル重合可能な各種の単量体(炭素−炭素二重結合を有し、連鎖重合により重合反応が進行する単量体)を用いることができる。具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、N−ビニル−2−ピロリドン、アクリル酸−2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸−2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等を挙げることができる。
本発明に係る座席用シート材1は、特に座席2の着座者3の背中を支持する背もたれ部5、及び/又は着座者3の臀部を支持する座部6などに好適に適用できる。これは、特に汗をかきやすい夏場等において、着座者3の上着やズボンなどの衣服10から滲み出た汗は座席2の背もたれ部5や座部6などに移行して付着しやすく、したがって当該部位5・6に本発明に係る座席用シート材1を適用して発散促進作用や脱臭作用等を与えておけば、不快臭の発生などを効果的に阻止できることに拠る。
また本発明は、図1に示すごとく、少なくとも着座者3が接する基材7の表面側7aとは反対側の裏面側7bに、プラズマグラフト重合によって形成された親水層9を備える座席用シート材1の製造方法を対象とする。当該製造方法は、図4に示すごとく、基材7に対してプラズマを照射するプラズマ工程と、プラズマ照射後の基材7に対して親水性モノマー20を噴き付けるグラフト重合工程とを含む。そして、基材7は、その表面側7aが反応防止フィルム21の一側面に臨むような姿勢状態で、該フィルム21に装着されており、反応防止フィルム21を巻取ローラ22で巻き取ることにより、プラズマ照射位置からモノマー20の噴き付け位置に基材7を搬送させることができるようにしてあることを特徴とする。ここで言う「装着」とは、例えばクリップを使って、フィルム21に基材7を挟み止める形態を挙げることができ、要はフィルム21に対して基材7が遊動不能に取り付けられていればよい。
図3(C)のように、基材7の表裏面7a・7bに親水層9を形成する場合には、片面にプラズマグラフト重合処理を施したうえで、基材7を裏返して、再度プラズマグラフト重合処理を施せばよい。つまり、図4に示すようなプラズマグラフト重合処理を二度繰り返せばよい。
このように、反応防止フィルム21に基材7を装着したうえで、該フィルム21を動かすことで各処理位置に基材7を搬送させるようにしてあると、平面形状の基材7に限られず、立体状に成形された無縫製の基材7や縫製済みの基材7に対するプラズマグラフト重合処理が可能となる。これによれば、座席用シート1の略最終工程でプラズマグラフト重合処理を施すことが可能となるため、従来製法からの製造作業の変更を最小限に抑えて、低コストに高機能な座席用シート材1を提供できる。フィルム21に装着することができるものであれば基材7の形状に関係なくプラズマグラフト重合処理を施すことができるため、専用の処理装置が不要で、この点でも座席用シート材1の製造コストの低減化に貢献できる。既存の座席用シート材1に対して、プラズマグラフト重合処理を施すことも可能である点でも有利である。特に、縫製による継ぎ目をなくし立体設計にした無縫製繊維材料は、縫製による継ぎ目の硬さがなく、座席2によく適合し、しかも高いファッション性を持ち軽量であるなどの優れた特質を有するが、これにプラズマグラフト重合処理を施すことにより、発散促進作用や脱臭作用などの更なる付加価値を与えることができる。
(第1実施形態)
図1に、本発明に係る座席用シート材を鉄道車両用の座席に適用した第1実施形態を示す。図1において、座席用シート材1は、座席2の表面を被覆する表皮材を構成するものであり、着座者3の背中を支持する背もたれ部5と、着座者3の臀部を支持する座部6などからなる。座席2の内部には、リクライニング機構などが組み付けられており、当該機構を覆うように、本実施形態に係る座席用シート材1が装着されている。
座席用シート材1は、シート布を基材7として、該基材7の着座者3が接する表面側7aとは反対側の裏面側7bに親水層9を備えるものである。かかる親水層9は、基材7の裏面側からプラズマグラフト重合処理を施すことによって形成される。このようにプラズマグラフト重合処理により親水層9を設けてあると、当該シート材1に優れた脱臭作用や汗の発散促進作用などを付与できる。浸透された汗は速やかに親水層9側に移行して基材1の表面側7aには残留せず、したがって着座者3の衣服10や手に汗等が再付着することに伴うべたつき感や不快感を一掃できる。親水層9に貴金属(銀など)や酸化チタンなどを含有させてあると、抗菌作用や殺菌作用なども付与できる。
図4に、基材7に対するプラズマグラフト処理を担う装置の概念図を示す。この装置は、前述の特許文献3の図1に示す装置を改造したものであり、基材7に対してプラズマを放射するプラズマ放射機構11、親水性モノマーを吹きつけて重合させるグラフト処理機構12、基材7を搬送する搬送機構13などを備える。
プラズマ放射機構11は、平行平板誘導体バリア式ノズル状の電極15、該電極15に電力を与えるラジオ周波数電源16、電極15に希ガス(アルゴンとヘリウムの混合ガス)を供給する供給装置(不図示)、混合ガスの流量を調整する調整器17などからなり、電源16から電極15に高周波電圧(周波数13.56MHz)を印加して放電空間にプラズマを発生させ、これを基材7に向けて均一に照射する。電極15は冷却水により一定温度に冷却される。グラフト処理機構12は、ノズル19から親水性モノマー20(アクリル酸液)を窒素ガスにより押し出して、基材7に対してミスト状に連続噴霧する。
搬送機構13は、原反状に巻かれた反応防止フィルム21(以下、単にフィルムと記す)、フィルム21を巻き取る巻取ローラ22などで構成される。符号23は、フィルムの原反ロールを示す。基材7をフィルム21に装着したうえで、該フィルム21を巻取ローラ22で巻き取ることにより、プラズマ照射位置からモノマーの噴き付け位置に向かって基材7を移動させることができる。フィルム21は、幅50cmの程度のプラスチックフィルムである。
かかる処理装置では、まず、基材7をその表面側7aがフィルム21の一側面に臨み、裏面側7bが電極15やノズル19に臨むような姿勢状態で装着する。次いで、巻取ローラ22を回転駆動させて、フィルム21を走行速度1mm/min 〜100mm/min の範囲で巻取って、プラズマ放射処理、次いでグラフト重合処理を行う。以上の処理により、耐久性のある親水層9が基材7の裏面側7bに形成される(図1参照)。プラズマ放射処理およびグラフト重合処理は、大気圧の処理室25内の無酸素雰囲気で連続的に行われ、実験後にガスは排気口26より排気される。最後に、処理室25から取り出したシート材1を電気洗濯機内で20分間洗浄して、未反応のアクリル酸を除去し、次いでこれを乾燥させることにより、本発明に係る座席用シート材1を得ることができる。
(第2実施形態)
図5に、本発明に係る座席用シート材1を、鉄道車両の着座者3の後頭部と座席2との接触部分に着脱自在に装着される座席カバー35に適用した実施形態を示す。座席カバー35は、シート布を基材7として、該基材7の表裏面7a・7bの両面に、プラズマグラフト重合処理による新水層9を形成してなる。このように、プラズマグラフト重合処理により親水層9を設けてあると、脱臭作用・機能に優れた座席用シート材1を得ることができる。親水層9に貴金属(銀など)や酸化チタンなどを含有させてあると、抗菌作用や殺菌作用なども付与できる。以上のような構成からなるカバーは、図4に示すような装置を使ったプラズマグラフト重合処理を二度繰り返すことで得ることができる。
2種類の座席用シート材を構成する基材を入手し、各基材の裏面側にプラズマグラフト重合処理を施して、2種の試験用シート材を製造した。具体的には、(a)JR新幹線の座席用シート布、(b)阪急電車の座席用シート布を入手し、各シート布の片面に、図4に示す装置でプラズマグラフト重合処理を施して親水層を形成した。これらシート布の材質はポリエステル、寸法は200mm×150mmであった。
プラズマグラフト重合処理条件は以下のごとくとした。なお、圧力はゲージ圧を示す。 (a)JRシート,噴霧アクリル酸250mL、布送り速度:11mm/min 、初期パージ:3回、プラズマ電力:1.66kW、チャンバー温度:38℃、モノマー注入圧力:−120〜−150Torr(ゲージ圧)、モノマー反応時間:1時間、終了後3回パージ。
(b)阪急シート,噴霧アクリル酸100mL、布送り速度:11mm/min 、初期パージ:4回、プラズマ電力:1.50kW、チャンバー温度40℃、モノマー注入圧力:−130Torr、終了後4回パージ
(発散性能試験)
以上のようにして得られた(a)JRシートと(b)阪急シートに対して、基材の表面側から水滴を垂らして、その浸透状態を目視にて観察した。同様に未処理のシート布に対して水滴を垂らして、その浸透状態を目視にて観察した。その結果、未処理のシート布よりもプラズマグラフト重合処理がなされた(a)・(b)のシートの方が、速やかに水滴が浸透すること、および浸透した水分は親水層内で広く拡散していることなどが観察できた。
当該観察結果より、プラズマクラフト重合処理がなされた(a)・(b)のシートの方が、未処理のシートよりも優れた発散促進機能を具備していることが確認できた。また、(a)・(b)のシートでは、滴下直後に表面を指でなぞっても、水分が指に付着することはなく、べたつき感や不快感を一掃できることが確認できた。
(脱臭性能比較試験)
これら(a)JRシートと(b)阪急シートとを脱臭性能比較試験に供した。より詳しくは、これらシートのアンモニアの吸収性を測定して、その脱臭性能を確認した。同様に、プラズマグラフト重合処理が施されていない未処理のシート布を用意し、当該シート布のアンモニアの吸収性を測定した。具体的には、かかる試験は、室内温度20℃、相対湿度26%に保たれた試験室内で行った。試験手順は以下の通りとした。
W315×D185×H245(mm) の容器(容積約14L、側面ガラス製、上下面アクリル製)を3個用意し、アンモニア水(28%のものを8倍希釈)の入った容器を置き、1分後に取り出す。その後エアポンプで空気希釈を行い、アンモニア濃度約60ppm になったところでそれぞれのシート布を入れ、アンモニア除去率又は残存率の時間変化をガス検知管(ガステック社製3La又は3L、最大目盛り100ppm 又は30ppm )により測定する。
図6にJRシートの試験結果、図7に阪急電車シートの試験結果を示す。同図において、横軸は経過時間、縦軸は容器内のアンモニア残存率(%)を示しており、処理済みと未処理のシート布のアンモニア残存率を棒グラフで表した。
図6および図7からわかるように、プラズマグラフト重合処理を施したシート布のほうが、未処理のシート布よりもアンモニア残存率が低く、したがってプラズマグラフト重合処理を施すことでアンモニアの吸収性、すなわち脱臭作用が向上することが確認できた。
次に、以下の(a)〜(c)の3種の試験布を用意し、これらに対して脱臭性能比較試験を行った。(a)紙消臭布(市販品)(b)光触媒消臭布(市販品)、(c)ポリエステル製のシート布の両面にプラズマグラフト重合処理を施したもの。
(c)のシート布に対するプラズマグラフト重合条件は、以下の如くとした。
噴霧アクリル酸:250mL、布送り速度:11mm/min 、初期パージ:三回、プラズマ電力:750W、チャンバー温度:38℃、モノマー注入圧力:−120〜−150Torr (ゲージ圧)、モノマー反応時間1時間、終了後3回パージ。
各試験布に対する試験条件は以下の如くとした。W315×D185×H245(mm)の容器(容積約14L、側面ガラス製、上下面アクリル製)を3個用意し、アンモニア水(28%のものを8倍希釈)の入った容器を置き、1分後に取り出す。その後エアポンプで空気希釈を行い、濃度45〜50ppm になったところでそれぞれ布(片面をビニールシートで覆っている)を入れ、アンモニア除去率の時間変化をガス検知管(ガステック社製3La又は3L、最大目盛り100ppm 又は30ppm )により測定した。試験は室内蛍光灯の照明下で行い、比較のため、布を入れない場合の濃度減衰も測定した。
図8に脱臭性能比較試験の試験結果を示す。横軸は経過時間、縦軸はアンモニアの吸収量である。同図からわかるように、プラズマグラフト重合処理が施された(c)の試験布は、紙消臭布(a)と同様の優れた脱臭性能を発揮するものであった。また、当該(c)の試験布は、光触媒消臭布(b)よりも格段に優れた脱臭性能を発揮するものであった。以上の脱臭性能比較試験結果、および座席用シート材の特質(洗濯可能性や耐久性など)などを考慮すると、プラズマグラフト重合処理を施してなる本発明形態が、座席用シート材として最適であることが確認できた。
(発明の効果)
図1および図3(b)に示すように、少なくとも基材7の裏面側7bにプラズマグラフト重合処理によって親水層9を形成してあると、親水層9の表面が多孔性であることに由来する脱臭作用に加えて、優れた汗等の発散促進作用を座席用シート材に与えることができる。すなわち、基材7の表面側7aから浸透された汗は、親水層9に至ると座席の内部に向かって大きく広がり、親水層9の裏面側9bにおける空気との接触面積は極めて大きなものとなる。これにて、汗等は空気中に揮発しやすくなり、発散促進作用の向上を図ることができる。
とくに、基材7の裏面側7bのみにプラズマグラフト重合処理によって親水層9を形成してあると、基材7の表面側7aで吸い取った汗等を親水層9の裏面側9bから発散させることができるので、着座者3の有無に関係なく、発散促進作用が良好に発揮される点でも優れている。基材7の表面側7aから浸透した汗等は、速やかに親水層9側に移行して基材1の表面側7aには残留せず、したがって着座者3の衣服10や手に汗等が再付着することに伴うべたつき感や不快感などを一掃できる点でも優れている。
親水層9に貴金属(銀など)や酸化チタンなどを含有させることにより、座席用シート材に抗菌作用や殺菌作用なども付与できる。プラズマグラフト重合処理により形成された親水層9は基材7に強固に化学結合しているため、数十回の洗濯によっても損なわれることがなく、したがって脱臭作用や発散促進作用などの各種効能が長期にわたって良好に持続する点でも優れている。
本発明に係る座席用シート材の製造方法によれば、反応防止フィルム21に基材7を装着したうえで、該フィルム21を動かすことで各処理位置に基材7を搬送させるようにしたので、平面形状の基材7に限られず、立体状に成形された無縫製の基材7や縫製済みの基材7に対するプラズマグラフト重合処理が可能となる。これによれば、座席用シート1の略最終工程でプラズマグラフト重合処理を施すことが可能となるので、従来製法からの製造作業の変更を最小限に抑えて、低コストに高機能な座席用シート材1を提供できる。フィルム21に装着することができるものであれば基材17の形状に関係なくプラズマグラフト重合処理を施すことができるため、専用の処理装置が不要となり、この点でも座席用シート材1の製造コストの低減化に貢献できる。既存の座席用シート材1に対して、プラズマグラフト重合処理を施して、付加価値を与えることも可能である。特に、縫製による継ぎ目をなくし立体設計にした無縫製繊維材料は、縫製による継ぎ目の硬さがなく、座席2によく適合し、しかも高いファッション性を持ち軽量であるなどの優れた特質を有するが、これにプラズマグラフト重合処理を施すことにより、発散性、脱臭性などの更なる付加価値を与えることができる。
本発明の第1実施形態に係る座席用シート材の構成図である。 本発明におけるプラズマ反応並びにグラフト重合反応の一例を示す概念図である。 着座者の衣服から座席用シート材に浸透した汗の様子を模式的に示す図であり、(A)は未処理のシート材、(B)は基材7の裏面側7bにプラズマグラフト重合処理を施したシート材、(C)は基材7の両面にプラズマグラフト重合処理を施したシート材、(D)は基材7の表面側7aにプラズマグラフト重合処理を施したシート材を示している。 プラズマグラフト重合処理装置の一例を示す概念図である。 本発明の第2実施形態に係る座席用シート材の構成図である。 JRシートに対する脱臭性能比較試験の試験結果を示す図である。 阪急電車シートに対する脱臭性能比較試験の試験結果を示す図である。 脱臭性能比較試験の試験結果を示す図である。
符号の説明
1 座席用シート材
2 座席
3 着座者
5 背もたれ部
6 座部
7 基材
7a 基材の表面側
7b 基材の裏面側
9 親水層
10 衣服
11 プラズマグラフト放射機構
12 グラフト処理機構
13 搬送機構
21 反応防止フィルム
22 巻取ローラ

Claims (5)

  1. 座席(2)の表面を被覆する表皮材を構成する座席用シート材であって、
    少なくとも着座者(3)が接する基材(7)の表面側(7a)とは反対側の裏面側(7b)に、プラズマグラフト重合処理により親水層(9)が形成されていることを特徴とする座席用シート材。
  2. 親水層(9)が貴金属又は酸化チタンを含有するものである請求項1記載の座席用シート材。
  3. 座席用シート材(1)は、ポリエステル繊維製の織布又は不織布を基材(7)とするものであり、
    親水層(9)が、アクリル酸を重合性単量体とするグラフト重合によって形成されたものである請求項1又は2記載の座席用シート材。
  4. 着座者(3)の背中を支持する背もたれ部(5)、及び/又は着座者(3)の臀部を支持する座部(6)に、請求項1ないし3のいずれかに記載の座席用シート材(1)を用いたことを特徴とする座席。
  5. 少なくとも着座者(3)が接する基材(7)の表面側(7a)とは反対側の裏面側(7b)に、プラズマグラフト重合によって形成された親水層(9)を備える座席用シート材の製造方法であって、
    基材(7)に対してプラズマを照射するプラズマ工程と、プラズマ照射後の基材7に対して親水性モノマー(20)を噴き付けるグラフト重合工程とを含み、
    基材(7)は、その表面側(7a)が反応防止フィルム(21)の一側面に臨むような姿勢状態で、該フィルム(21)に装着されており、
    反応防止フィルム(21)を巻取ローラ(22)で巻き取ることにより、プラズマ照射位置から親水性モノマー(20)の噴き付け位置に基材(7)を搬送させることができるようにしてあることを特徴とする座席用シート材の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN111772398A (zh) * 2020-07-03 2020-10-16 刘宝军 一种有效降温和除异味的升降座椅

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