JP2007056289A - 焼入れ用工具鋼素材 - Google Patents

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Abstract

【課題】 焼入れ焼戻しにより、より確実に均一微細な結晶粒を得ることができる金属組織を有する焼入れ用工具鋼素材を提供する。
【解決手段】 質量%でC:0.1〜0.8%を含有する焼入れ用工具鋼素材であって、該工具鋼素材の金属組織を10000倍で観察した時、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が300個以上形成されている炭化物が密な領域Aと、該領域Aに対して、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が100個以上少ない炭化物が疎な領域Bとが混在する金属組織でなる焼入れ用工具鋼素材であり、好ましくは、残留オーステナイトが実質的にない焼入れ用工具鋼素材である。
【選択図】 図3

Description

本発明は、焼入れ焼戻しにより、均一微細な結晶粒を得ることができる金属組織を有する焼入れ用工具鋼素材に関するものである。
焼入れ焼戻しにより均一微細な結晶粒を得る手法として、焼入れ用工具鋼素材の製造過程で変態を繰り返すことが挙げられる。この方法は熱間加工後にマルテンサイト、ベイナイト変態域まで冷却し、その後Ac3点以上で完全にオーステナイト変態させ、焼きなましを行った後、焼入れ焼戻しするといった熱処理方法がその例である。
また、焼入れ用工具鋼素材の焼きなまし状態での金属組織は、炭化物を均一に分散させた金属組織であるほうが好ましいとされる。
しかし、原因不明の結晶粒異常成長が報告されており、その原因としては(1)逆マルテンサイト変態説(非特許文献1)、(2)結晶方位規制説(非特許文献2)、(3)残留オーステナイト合体説(非特許文献3)などが知られている。
逆マルテンサイト変態説:松田ら;鉄と鋼 60,2(1974)p.226. 結晶方位規制説:渡辺ら;鉄と鋼 61,1(1975)p.96. 残留オーステナイト合体説:S.T.Kimmins and D.J.Gooch;Metal science 17,(1983)p.519.
従来の結晶粒微細化方法では、焼きなまし状態での金属組織が均一な組織であっても、焼入れ焼戻し後に均一微細な結晶粒を得ることができない現象が起こりえた。これは、焼入れ処理の保持温度、加熱速度、冷却速度等の条件が不適当であった時に起こり易く、これらの解決手法として、保持温度の見直し、急速加熱、急速冷却による対策が行われてきた。
しかし、昨今の製品の大型化に伴いこれらの対策では物理的に対策不可能な事例も生じてきた。例えば、加熱速度が遅いと結晶粒が粗大に成長するため、加熱速度をできるだけ速くする対策がとられているが、製品の熱伝達係数は一定であり、製品が大型になるほど加熱速度は遅くなり、また、冷却速度も遅くなる傾向にあった。また、原因不明の結晶粒の異常成長が報告されており、完全に均一微細な結晶粒を得ることができないという課題があった。
本発明の目的は、焼入れ焼戻しにより、より確実に均一微細な結晶粒を得ることができる金属組織を有する焼入れ用工具鋼素材を提供することである。
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、質量%でC:0.1〜0.8%を含有する焼入れ用工具鋼素材であって、該工具鋼素材の金属組織を10000倍で観察した時、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が300個以上形成されている炭化物が密な領域Aと、該領域Aに対して、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が100個以上少ない炭化物が疎な領域Bとが混在する金属組織でなる焼入れ用工具鋼素材である。
好ましくは、上述の工具鋼素材は、残留オーステナイトが実質的にない焼入れ用工具鋼素材である。
本発明において更に好ましい工具鋼の化学組成は、質量%で0.1〜0.8%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:1.0〜15.0%、Mo:10.0%以下を含有し、更にNi:4.0%以下、V:4.0%以下、W:10.0%以下、Co:10.0%以下、の何れか1種以上を含有して残部は実質的にFeでなる焼入れ用工具鋼素材でなる焼入れ用の工具鋼素材である。
本発明によれば、従来の結晶粒微細化には炭化物を均一に分散させるという知見とは全く異なる考え方で焼入れ用工具鋼素材の金属組織を制御することで、より確実に均一微細な結晶粒を得ることができる。
上述したように、本発明の最大の特徴は、焼入れ焼戻しにより均一微細な結晶粒を得ることができる焼入れ用工具鋼素材の金属組織にある。以下に本発明を詳しく説明する。
先ず、本発明では質量%でC:0.1〜0.8%を含有する焼入れ用工具鋼素材を本発明の対象とする。C含有量を0.1〜0.8%とした理由は、C量が0.1%未満では、C量が少なすぎて、特に結晶粒内においてCが不足し炭化物が析出しなく、0.8%以上ではCが過剰になり、炭化物が密な領域と炭化物が疎な領域との差がなくなり、焼入れ焼戻しにより均一微細な結晶粒を得るための金属組織を得ることができなくなるためである。好ましくはC:0.2〜0.6%であり、更に好ましくは0.25〜0.55%である。
次に金属組織について説明する。金属組織において、本発明の焼入れ用工具鋼素材と、従来好ましいと言われていた焼入れ用工具鋼素材とは大きく異なる。
従来好ましいとされている金属組織に調整した焼入れ用工具鋼素材として350mm(t)×350mm(w)×1500mm(l)の大型化鋼材から金属組織観察用試験片を切出し、観察した。従来方法により得られた焼入れ用工具鋼素材(焼入れ前の焼きなまし状態)の金属組織を図4に示す。
観察は焼入れ用工具鋼素材から切出した試験片を4%ナイタール腐食後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍で観察したものであり、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物が100〜150個形成された炭化物が均一に分散させた金属組織である。なお、従来材の化学組成はC:0.39%、Si:0.96%、Mn:0.43%、Cr:5.11%、Mo:1.21%、Ni:0.23%、V:0.81%含有して残部はFeであり、金属組織調整方法は後述する実施例にて示すことにする。
続いて、本発明で規定する金属組織について説明する。化学組成は上記の従来材と同じである。
本発明の金属組織は、10000倍で観察した時、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が300個以上形成されている炭化物が密な領域Aを有し、この領域Aに対して、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が100個以上少ない炭化物が疎な領域Bが混在する金属組織を呈する。
すなわち、本発明で規定する金属組織は、従来材の金属組織に見られる炭化物個数より多くの炭化物が形成され、且つ炭化物が密集する、炭化物が密な領域を有するため、炭化物が微細・不均一分散と言う、特殊な金属組織を呈する。
なお、金属組織は、10000倍で観察した時、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が300個以上形成されている炭化物が密な領域を領域Aとし、領域Aと比較し炭化物が疎な領域(100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が領域Aに対し、100個以上少ない)を領域Bとして記す。
本発明の焼入れ用工具鋼素材として350mm(t)×350mm(w)×1500mm(l)の大型化鋼材から金属組織観察用試験片を切出し、観察した。
観察は焼入れ用工具鋼素材から切出した試験片を4%ナイタール腐食後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍で観察したものであり、領域Aを図1に、領域Bを図2に示す。
上述した領域Aと領域Bの観察は、観察面をランダムに選んだ10視野以上の視野にて炭化物の分布状況を測定するものとするが、領域Aは旧オーステナイト粒界かその近傍に見られ、領域Bは旧オーステナイト粒の粒内に相当する個所に見られることが多い。
そのため、ランダムに観察する視野には、旧オーステナイト粒界かその近傍の個所と、旧オーステナイト粒内の2つの視野は必須で観察する。
本発明において上述の炭化物が密な領域Aと炭化物が疎な領域Bとが混在する金属組織とすることが重要であり、この混合組織とすることで、焼き入れ焼戻し後に均一微細な結晶粒を得ることができる。
この結晶粒微細化機構は、領域Aは0.1〜0.5μmと微細な炭化物が数多く存在し、領域Bは領域Aに対し炭化物の個数が100個以上少ないため、焼き入れ加熱すると固溶した炭素濃度は領域Aが領域Bより高くなり、領域Aの変態点が領域Bの変態点より低くなり、領域Aから優先的にオーステナイトへ変態する。
領域Aより先に変態したオーステナイトは粒成長するが、次いで領域Bもオーステナイトへ変態し、領域Aより先に変態したオーステナイトの成長を抑制する効果があるためである。また、微細な炭化物が多数析出しているため、焼き入れ加熱により生成するオーステナイトの核生成サイトが増加し、お互いの結晶粒が粒成長を抑制しあうことで焼き入れ焼戻し後に均一微細な結晶粒を得ることができると考えている。
そのため、領域Aと領域Bとの間には、炭化物微細化機構が得られるに必要な炭素濃度と、部分的な炭素濃度の差が必要になる。しかも、固溶し易い大きさの炭化物個数が特定個数以上の差をもって存在しなければ上記の結晶粒微細化効果は得られない。
そのため、焼入れ加熱時に基地に固溶し易すく、且つ結晶粒微細化が得られるに必要な、優先的な変態が実現できる大きさとして、0.1〜0.5μmの大きさの炭化物サイズとその個数が300個以上と規定した。この本発明で規定する炭化物個数が少なくても、或いは/更に炭化物のサイズが0.1〜0.5μmの大きさ以外となっても、炭化物微細化機構が得られるに必要な炭素濃度は不十分となるか、部分的な炭素濃度の差が不十分となり結晶粒微細化効果が得られない。
また、結晶粒微細化に必要な炭素濃度差を得るために炭化物が疎な領域Bは領域Aよりも100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物が100個以上少ないと規定した理由は、炭化物個数の差が領域Aと領域Bとで100個未満であると炭素の濃度差が少なく、結晶粒微細化効果が得られないためである。
ところで、炭化物微細化機構が得られるに必要な炭素濃度と、部分的な炭素濃度の差をより確実に実現するには、領域A、領域B共に、固溶し易い大きさの炭化物が主体となっているのが良く、10000倍で観察した時に確認できる炭化物総個数の80%以上(好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上)が0.1〜0.5μmの大きさであるのが良い。
また、領域Aの0.1〜0.5μmの大きさの炭化物個数といっても、観察する視野によって個数のバラツキが生じるため、領域Bを特定するための領域Aの炭化物個数は、少なくとも10000倍を3視野観察・測定した平均値を領域Aの炭化物個数の基準とすると良い。
なお、領域Bの炭化物個数の下限としては200個未満となると結晶粒微細化効果が得にくくなることから領域Bの100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数の下限は200個とするのが良い。
また、領域Aとしては、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物が300個以上の範囲で多く含まれるほど、焼入れ加熱時のオーステナイト生成の核となり、より焼入れ焼戻しによる結晶粒微細化が望める。領域Aの炭化物個数の上限は例えば含有するC量や、炭化物形成元素量によって変化するため、上限を設定するのは難しいが、経験的には、実質的に100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物が600個程度形成されるのが限界である。
本発明の金属組織の更に好ましい形態について説明する。
本発明の金属組織は、残留オーステナイトが実質的にないことが望ましい。残留オーステナイトが過度に残留すると焼きなまし状態で時効割れの原因となったり、焼き入れ加熱時に残留オーステナイトを起点に粗大なオーステナイトが生成される恐れがある。そのため、本発明では残留オーステナイトが実質的にないことが望ましいと規定した。
なお、残留オーステナイトが実質的にないというのは、エックス線回折にて定量的に測定し、残留オーステナイトは0を含む1%以内であれば残留オーステナイトが実質的にないとする。
次に本発明の熱処理方法に適用する工具鋼の好ましい組成について説明する。なお、含有量は質量%で表している。
Si:2.0%以下
Siは工具鋼において溶解時の脱酸剤として添加される。しかし、多量に添加すると靱性が低下する。そのため、本発明では2.0%以下とした。好ましくは0.15〜1.20%である。
Mn:2.0%以下
Mnは工具鋼において溶解時の脱酸および脱硫剤として添加される。しかし、多量に添加すると靱性が低下する。そのため、本発明では2.0%以下とした。好ましくは0.30〜1.00%である。
Cr:1.0〜15.0%
Crは工具鋼において焼入れ性を向上させ、引張り強さや靱性を改善するという目的で添加される。しかし、多量に添加すると逆に靱性が低下する。そのため本発明では1.0〜15.0%とした。好ましくは1.0〜13.0%、更に好ましくは1.0〜6.0%である。
Mo:10.0%以下
Moは工具鋼において焼入れ性を向上させる。また、焼戻しにより微細な炭化物を形成し、高温引張り強さを増大させるという目的で添加される。しかし、多量に添加すると逆に靱性が低下する。そのため本発明では10.00%以下とした。好ましくは0.20〜5.00%であり、更に好ましくは0.20〜2.5%である。
Ni:4.00%以下
Niは工具鋼において焼入れ性を向上させ、靱性を改善するという目的で添加される。しかし、多量に添加すると変態点を下げ、高温強度が低下する。そのため本発明では4.00%以下とした。好ましくは2.0%以下である。
V:4.00%以下
Vは工具鋼において結晶粒を細かくし靱性を向上させる。また、焼戻しにより高硬度の炭窒化物を形成し、引張強度を増大させるという目的で添加される。しかし、多量に添加すると逆に靱性が低下する。そのため本発明では4.00%以下とした。好ましくは0.10〜1.10%である。
W:10.00%以下
Wは工具鋼において焼入れ性を向上させる。また、焼戻しにより微細な炭化物を形成し、高温引張り強さを増大させるという目的で添加される。しかし、多量に添加すると逆に靱性が低下する。そのため本発明では4.00%以下とした。好ましくは0.10〜1.10%である。
Co:10.00%以下
Coは工具鋼において赤熱硬性を増し、高温引張強度を増大させるという目的で添加される。本発明では10.00%以下とした。
残部は実質的にFe
本発明ではこれら規定する元素以外は実質的にFeとしているが、不可避的に含有する不純物も当然含まれる。また、例えばNb、Tiは、結晶粒を微細化するのに有効な元素であるため、靱性が劣化させない程度の0.20%以下の範囲で含有させても良い。また、Alは炭素の拡散を早くする元素であり、パーライト変態で炭化物の析出を促進させる効果があるため、0.20%以下の範囲で含有させても良い。
以下に本発明の金属組織を有する焼入れ用工具鋼素材の製造方法を図5に示すヒートパターンを用いて説明する。
炭化物が析出するに必要な0.1〜0.8%のC含有量を有し、好ましくは上述した好適な範囲内の化学組成を有する工具鋼の素材を1050〜1250℃に加熱して熱間加工を行う。(図5には図示なし)。加熱温度は工具鋼素材の塑性加工性を考慮し、完全にオーステナイト組織とするため1050℃以上とした。また、1250℃以上では工具鋼素材が部分的溶融する可能性があるため1050〜1250℃の範囲とした。好ましくは1070〜1170℃の範囲内である。また、加熱・保持の時間は長時間保持するにつれ、オーステナイト結晶粒が粗大に成長することを考慮して適宜決定すればよく、3〜10時間程度であれば十分である。
なお、工具鋼素材の熱間加工では自由鍛造、型打鍛造といった熱間鍛造を適用するとよく、熱間加工のその他の条件としては、熱間加工終了温度は工具鋼素材の表面温度が950〜1050℃の範囲であれば良く、鍛造比は熱間加工においてより歪を蓄積させるため5より大きいことが好ましい。
そして、上記の熱間加工終了後、工具鋼素材の表面温度が500〜700℃となるまで空冷以上の冷却速度で冷却を行う(図5中の(1))。
熱間加工終了後の工具鋼素材温度は結晶粒界に炭化物が析出可能な温度にある。熱間加工終了後に過剰に結晶粒界に炭化物が析出した場合、焼入れ焼戻しを行うと、炭化物が結晶粒界に残存し、靱性を阻害するという問題がある。そのため、結晶粒界に炭化物が析出し難い700℃以下の温度域まで冷却を急ぐ必要がある。
この時の冷却は、粒界炭化物のノーズにかからない程度の速さで冷却することとし、工具鋼素材の断面寸法がおおよそ300mm(t)×300mm(w)よりも小さいものは空冷とし、それ以上に大きいものは、ファンにてカゼを当てて強制冷却すると良く、おおよそ25℃/minの速さであれば良い。
そして、上記の冷却により結晶粒界に炭化物が析出し難い700℃以下の温度域まで冷却を行うが、過度に低い温度まで冷却するとオーステナイトがベイナイトに変態する可能性があり、ベイナイト変態してしまうとその後の等温保持にて炭化物の析出を制御できないという問題がある。これを抑制するために、空冷以上での冷却の下限は500℃とした。
次に、工具鋼素材の表面温度が500〜700℃となるまで空冷以上の冷却速度で冷却の後、加熱炉に工具鋼の素材を入材し、400〜700℃の温度に加熱・保持を行う(図5中の(2))。
400〜700℃に限定した理由は700℃より高いと先に述べた通り結晶粒界に炭化物が析出し、400℃より低いとベイナイトに変態する可能性があるためである。なお、加熱・保持の時間は長時間保持すると、その時点でベイナイトに変態する可能性があると言ったことを考慮して適宜決定すればよく、0.5〜5時間程度であれば十分である。この処理により、被熱処理材の中心部までパーライトノーズ以下の温度に均熱化をする。
次に、前記400〜700℃の温度に加熱・保持した工具鋼素材の素材温度を高める加熱を行なって(図5中の(3))工具鋼素材温度をパーライトノーズからマイナス100℃の温度域に高め、該パーライトノーズからマイナス100℃の温度域にて加熱・保持を行い(図5中の(4))、冷却(図5中の(5))して工具鋼中間素材とする。
パーライトノーズからマイナス100℃の温度域としたのは、この範囲内では図5に示すような旧オーステナイト粒界近傍は炭化物が密に、旧オーステナイト粒内部は炭化物が疎に析出した金属組織が得られるためであり、焼鈍後に行う焼入れ焼戻しによって結晶粒微細化を達成するに必要な金属組織に調整するためである。
パーライトノーズより高温側では炭化物がほぼ均一に分散したパーライト組織となり、パーライトノーズからマイナス100℃より低い温度では、パーライト変態が終了するまでの時間が長くなり、旧オーステナイト粒界近傍は炭化物が密に、旧オーステナイト粒内部は炭化物が疎に析出した金属組織を得がたいという問題があり、焼鈍後に行う焼入れ焼戻しによって結晶粒径の微細化がはかれない。そのため、本発明ではパーライトノーズからマイナス100℃の温度域とした。
なお、加熱・保持の時間はパーライト変態開始後、パーライト変態終了まで保持するといったことを考慮して適宜決定すればよく、10〜50時間程度であれば十分である。
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
まず表1に示す組成の工具鋼を溶解し、10Tonの鋼塊を得た。この鋼塊を3分割し、1分割材を本発明とする工具鋼素材、1分割材を従来例の工具鋼素材とした。
この工具鋼素材を1100℃に加熱し、8時間保持を行った。そして、熱間鍛造(熱間プレス)にて熱間加工を行った。この時の加工率は18%(鍛造比5.5)とし、350mm(t)×350mm(w)×1500mm(l)に仕上げた。熱間加工終了温度は表面温度が950℃であった。
そして、工具鋼素材の表面温度が550℃となるまでファンにてカゼを吹き当てることによる強制冷却を行い(図5中の(1))、熱間加工時に固溶していた炭素がその冷却過程において結晶粒界にネット状の炭化物として析出するということを防止するために、900℃付近もカゼを吹き当てる強制冷却とした。なお、表面温度は放射温度計を用いて測定した。
その後450℃の加熱炉に工具鋼素材を入材し、450℃の温度で3時間保持を行い(図5中の(2))、次いで前記450℃の温度に加熱・保持した素材の素材温度をパーライトノーズからマイナス100℃の温度域内の725℃の温度に素材温度を高める加熱を行い(図5中の(3))、20時間保持を行った後(図5中の(4))、炉冷し(図5中の(5))て焼入れ用工具鋼素材とした。なお、表1に示す工具鋼のパーライトノーズの温度は775℃であった。
また、従来例として、マルテンサイト、ベイナイト変態域まで冷却し、その後Ac3点以上で完全にオーステナイト変態させ、焼きなましを行った従来材の焼入れ用工具鋼素材とした。なお、熱間鍛造条件は本発明の焼入れ用の工具鋼素材製造条件と同一とした。
この本発明の工具鋼及び比較例の焼入れ用工具鋼素材から金属組織観察用の試験片を切り出して、金属組織観察を行った。4%ナイタール腐食後、査電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍で金属組織を10視野観察し、その画像を三谷商事株式会社製画像解析ソフト「WinROOF(R)」にて解析することで100μm中に存在する炭化物個数及び炭化物サイズを確認した。
本発明にて得られた金属組織を図3に示す。図3(a)は100倍の電子顕微鏡写真であり、図3(b)は図3(a)中に白枠で囲った部分の拡大写真(×400)である。図3で白く見える個所は領域Aであり、黒色の個所が領域Bである。領域Aは旧オーステナイト粒界とその近傍に見られるのが分かる。なお、炭化物が密な領域Aを図1に、炭化物が疎な領域Bを図2に示す。図1及び図2は10000倍の電子顕微鏡写真である。
従来材も焼入れ用工具鋼素材から切出した試験片を4%ナイタール腐食後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍で観察した。従来材の金属組織を図4に示す。
そして、本発明の焼入れ用工具鋼素材及び従来材の焼入れ用工具鋼素材からエックス線回折用試験片を採取し、広角エックス線回折装置を用い、測定条件はターゲットCo、電圧40KV、電流200mAにて残留オーステナイトの有無を確認し、本発明材及び従来材の残留オーステナイトは確認できなかった(残留オーステナイト量は0%だった)。
また、本発明の焼入れ用工具鋼素材及び従来材の焼入れ用工具鋼素材の走査電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍で観察した時、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物の個数の結果については表2及び表3に示す。
先ず、画像解析の結果から、本発明の焼入れ用工具鋼素材の金属組織は、炭化物の析出形態としては、ある一定方向に連なって析出するのではなく、それぞれの炭化物が方位性を持たず分散し、針状比が1〜2と言った、特徴的な金属組織となっていた。
また、金属組織を10000倍で観察した時、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が300個以上形成されている炭化物が密な領域Aを有し、該金属組織中には100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が領域Aに対し、100個以上少ない炭化物が疎な領域Bが混在する金属組織であることを確認した。
従来材においては、焼入れ用工具鋼素材から切出した試験片を4%ナイタール腐食後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて10000倍で観察したものであり、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物がおよそ100〜150個形成された炭化物が均一に分散する金属組織であった。
次に、本発明の工具鋼、比較例の工具鋼をAc3点以上の温度の1030℃に加熱して焼入れし、その後、600℃にて焼戻しを1回行った。なお、加熱保持時間は焼入れ時が2時間、焼戻し時は7時間とした。
本発明の工具鋼及び比較例の工具鋼から金属組織観察用の試験片を切り出し、平均結晶粒度を測定した結果を表4に示す。
以上説明したように本願発明の金属組織を有する焼入れ用工具鋼素材を用い、焼入れ焼戻しを行うことで、均一微細な結晶粒を得ることができ、且つ平均結晶粒度番号で8番より細粒となり、靱性が大幅に向上する効果がある。
本願発明の金属組織を有する焼入れ用工具鋼素材を用いれば、焼入れ焼戻しにより均一微細な結晶粒を得ることから工具鋼の靱性が要求される用途に利用可能である。
本発明の金属組織(領域A)の10000倍の電子顕微鏡写真である。 本発明の金属組織(領域B)の10000倍の電子顕微鏡写真である。 本発明の金属組織(領域A、B)の電子顕微鏡写真である。 従来技術にて得られた金属組織の10000倍の電子顕微鏡写真である。 本発明工具鋼素材の製造方法のヒートパターンを示す模式図である。

Claims (3)

  1. 質量%でC:0.1〜0.8%を含有する焼入れ用工具鋼素材であって、該工具鋼素材の金属組織を10000倍で観察した時、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が300個以上形成されている炭化物が密な領域Aと、該領域Aに対して、100μm中に円相当径0.1〜0.5μmの炭化物個数が100個以上少ない炭化物が疎な領域Bとが混在する金属組織でなることを特徴とする焼入れ用工具鋼素材。
  2. 請求項1に記載の焼入れ用工具鋼素材は、残留オーステナイトが実質的にないことを特徴とする焼入れ用工具鋼素材。
  3. 請求項1または2に記載の焼入れ用工具鋼素材は、化学組成が質量%でC:0.1〜0.8%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:1.0〜15.0%、Mo:10.0%以下を含有し、更にNi:4.0%以下、V:4.0%以下、W:10.0%以下、Co:10.0%以下、の何れか1種以上を含有して残部は実質的にFeでなる焼入れ用工具鋼素材でなることを特徴とする焼入れ用工具鋼素材。
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