JP2007051086A - コラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患の予防剤および治療剤 - Google Patents

コラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患の予防剤および治療剤 Download PDF

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Abstract

【課題】
本発明は、コラーゲンまたはエラスチンの分解抑制活性と合成増強活性を合わせ持ち、コラーゲンまたはエラスチンの病的代謝異常を合理的に改善する薬剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、JNK阻害活性を有する物質を有効成分とするコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防および治療剤を提供する。詳しくは、JNKの活性化によりコラーゲンまたはエラスチン線維の分解促進と再生阻害が生じ、組織構築の崩壊が引き起こされるという新知見に基づき、JNK阻害剤により、コラーゲンまたはエラスチンの代謝バランスを合理的に是正し、組織の病的崩壊を防止すると同時に組織再構築を積極的に促すものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、コラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患の予防剤および治療剤に関する。詳しくはC−Jun N末端キナーゼ(以下JNKという)の活性を阻害し、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常により発症する疾病を予防あるいは治療する薬剤に関する。
コラーゲンおよびエラスチンは、皮膚、骨・軟骨または関節、血管に主に分布し、その他、歯、腱、消化管、肺、子宮などにも広く分布している。そのため、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常は分布する各臓器で種々の疾患を引き起こすことが知られている。特にコラーゲンは、その40%が皮膚に、20%は骨や軟骨に存在し、その他血管や内臓にも広く分布している。例えば、先天性疾患Ehlers−Danlos症候群に代表されるように、コラーゲン合成に必須の酵素の異常により、皮膚の過伸展と脆弱性、関節の過可動性と脱臼ならびに血管の脆弱性と出血などの症状を呈することがよく知られている。さらにコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常は、心臓弁膜症、動脈解離、血管瘤(動脈瘤または静脈瘤)などの心血管系、変形性関節症、脊柱変形、ヘルニアなどの骨軟骨系、腸管破裂、子宮破裂、膀胱破裂、気胸、肺気腫などの内臓系、眼球破裂、網膜剥離などの眼系または歯牙欠損、歯根膜炎などの歯系でも合併症を併発することがある。一般によく知られているものでは、ビタミンC不足によりコラーゲン合成に異常をきたす壊血病がある。壊血病では、血管がもろくなって、皮下出血、歯肉出血や内臓出血をきたすとともに、骨や皮膚がもろくなるなど全身症状を伴う。
近年の研究で、骨や軟骨の形成に足場としてコラーゲンが必要なことが判明し、コラーゲンの代謝異常による骨軟骨症状の病態が裏づけされた。実際、コラーゲンまたはコラーゲンペプチドの投与により変形性関節症や慢性関節リウマチの症状が改善したとの臨床試験結果が報告されている他、動物実験ではコラーゲンペプチド投与が骨粗鬆症を改善することが報告されている。その他、創傷治癒においてもコラーゲンは必須の因子であり、コラーゲンの分解が合成を上回ると治癒過程に支障をきたし、潰瘍を生ずる原因となる。
また、コラーゲンおよびエラスチンは皮膚の特に真皮に多く分布し、それぞれ皮膚の柔軟性と弾力性の保持に必須と考えられている。コラーゲンおよびエラスチンの代謝異常、すなわち分解が合成を上回ることで総量が減少すると、その結果としてしわやたるみ、しみと言ったいわゆる皮膚の老化が発症する。日焼けなどの紫外線照射により皮膚の老化症状が増加するが、その病態においてもコラーゲンおよびエラスチンの代謝異常を伴っていることが近年明らかになった。
さらに、コラーゲンおよびエラスチンは、血管壁の強度と弾性を保つために重要である。コラーゲンおよびエラスチンやその合成に必要な酵素の遺伝子異常が原因の先天性疾患(Ehlers−Danlos症候群など)では、血管の瘤化、破裂をきたすことが知られている。また、急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症、突然死)の発症は、冠動脈粥状硬化巣(プラーク)の破綻が原因とされているが、破綻しやすい不安定なプラークの病態には、コラーゲンおよびエラスチンの分解亢進とそれによる線維性被膜の菲薄化、脆弱化が深く関わっている。
コラーゲンまたはエラスチンの代謝バランスに異常をきたす原因は、コラーゲンまたはエラスチンの分解能が亢進し、それらの正常な合成能を上回ることにより、結果としてコラーゲンまたはエラスチンの存在量が減少するか、或いはコラーゲンまたはエラスチンの合成能力が低下し、正常な分解能に対して、それを補い得なくなり、結果としてコラーゲンまたはエラスチンの総量が減少する場合がある。更に最悪の場合には、コラーゲンまたはエラスチンの分解が亢進し、同時に合成能力の低下を生ずることにより、急速にコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患を生ずるものと考えられる。
従って、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常による疾患に対する薬剤としては、それぞれ分解能の亢進に抑制する必要がある場合と、合成能力を回復させる薬剤を必要とする場合とがあるのであるが、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患が、そのいずれの原因に基づいて発症したのかを知ることは容易ではない。そこで、そのいずれに対しても有効である薬剤、すなわちコラーゲンまたはエラスチンの分解を抑制する効果と合成能力を高める効果とを併せ持つ薬剤の開発が望まれていた。
そこで、本発明は、コラーゲンまたはエラスチンの分解抑制活性と合成増強活性を合わせ持ち、コラーゲンまたはエラスチンの病的代謝異常を改善する薬剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、培養実験系においてJNK依存性遺伝子群を網羅的に検索した結果、コラーゲンまたはエラスチンをはじめとする細胞外基質分解に関わる遺伝子群がJNK依存的に発現亢進すること、ならびにコラーゲンまたはエラスチンの合成に必須の酵素群(プロリン水酸化酵素(P4H)、リジン水酸化酵素(PLOD)およびリジン酸化酵素(LOX))がJNK依存的に発現低下することを見出した。さらに本発明者らは、JNKの活性化によりコラーゲンまたはエラスチンの分解促進と再生阻害が同時に生ずるというこの病態機序に基づき、JNK阻害剤がコラーゲンまたはエラスチン代謝に及ぼす効果を培養実験系において検討した。その結果本発明者らは、JNK阻害活性を有する物質が、コラーゲンまたはエラスチンの分解抑制活性と合成増強活性を合わせ持ち、総合的に病的代謝バランスを是正することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)JNK阻害活性を有する物質を有効成分とするコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防および/または治療剤。
(2)コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患が、皮膚疾患、骨、軟骨もしくは関節疾患、心血管疾患または肺もしくは消化管の内臓疾患の少なくとも一種である(1)に記載の予防および/または治療剤。
(3)コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患が皮膚老化である(1)に記載の予防および/または治療剤。
ここで、皮膚の老化、すなわち皮膚のしわやたるみ、或いはシミなど老化により生ずる現象もコラーゲンやエラスチンの減少による症状であり、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の一種に包含されるものとする。
(4)JNK阻害活性を有する物質が、コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質である(1)または(3)に記載の予防および/または治療剤。
(5)コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質が、リジン酸化酵素を活性化させる物質である(4)に記載の予防および/または治療剤。
(6)コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質が、プロリン水酸化酵素を活性化させる物質である(4)に記載の予防および/または治療剤。
(7)コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質が、リジン水酸化酵素を活性化させる物質である(4)に記載の予防および/または治療剤。
(8)JNK阻害活性を有する物質が、JNK阻害活性を有する化合物またはその薬学上許容される塩である(1)〜(7)のいずれかに記載の予防および/または治療剤。
(9)JNK阻害活性を有する化合物が、ピラゾロアントロンまたはその誘導体である(8)に記載の予防および/または治療剤。
(10)JNK阻害活性を有する物質が、JNK阻害活性を有するペプチドまたは核酸である(1)〜(7)のいずれかに記載の予防および/または治療剤。
(11)JNK阻害活性を有する物質が、ペプチドであってc−Jun N−末端キナーゼ(JNK)ペプチドインヒビター1 D体(D−JNKI1)である(10)に記載の予防および/または治療剤。
(12)注射剤の形態である(1)〜(11)のいずれかに記載の予防および/または治療剤。
(13)経口剤の形態である(1)〜(11)のいずれかに記載の予防および/または治療剤。
(14)外用薬の形態である(1)〜(11)のいずれかに記載の予防および/または治療剤。
本発明は、基本的にはJNK阻害活性を有する物質よりなるコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防および/または治療剤を提供することにある。JNK阻害剤は、コラーゲンまたはエラスチンの分解抑制活性と合成増強活性を合わせ持ち、疾患の直接的な病因であるコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常を総合的に是正しうる。すなわちJNK阻害剤により、コラーゲン線維またはエラスチン線維の病的崩壊を防止し、組織再構築を積極的に促し、ついには疾患を合理的かつ有効に予防および/または治療することができる。
JNKは、c−Junのアミノ末端をリン酸化する酵素で、MAPキナーゼの一種であり、インターロイキン1(IL−1)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)等のサイトカインや紫外線照射、熱ショック、高浸透圧等の物理化学的なストレス刺激で活性化される酵素の一種である。JNKはまた、c−Junを構成遺伝子とする転写因子AP−1をリン酸化し、炎症に関与する遺伝子Cox−2等の発現をも誘導することが知られ、またアポトーシスに関与するとも考えられていた。しかしながら、JNKの細胞外基質代謝バランスにおける役割とコラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患の病態における役割については不明であった。
本発明者らは、JNKが活性化すると、複数の細胞外基質分解酵素、特にマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)群、リポカリン2、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)あるいはIL−1等の発現が亢進され、その結果、主たる細胞外基質分解酵素MMP−9の活性が著しく亢進し、MMP抑制因子(TIMP−3)が減少することを培養実験系の検討から発見した。さらに本発明者らは、細胞または組織培養実験系において、JNK阻害活性を有する物質がコラーゲンまたはエラスチンを分解する蛋白分解酵素群MMPの活性を統合的に阻害するだけでなく、同時にコラーゲンまたはエラスチンの合成増強活性を有することを証明した。すなわちJNK阻害剤はコラーゲンまたはエラスチンの代謝改善効果を細胞レベルまたは組織レベルで発揮するものであり、コラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患に対する合理的な予防薬ならびに治療薬と考えられる。
本発明は、JNKの活性阻害により、前記のとおりリポカリン2、iNOS、IL‐1あるいはMMP‐9など組織を構成するコラーゲンまたはエラスチンの崩壊を助長する因子の働きを統合的に阻害し、且つプロコラーゲン(コラーゲン前駆体)の発現およびコラーゲンまたはエラスチンの合成に必須な酵素群(リジン水酸化酵素、プロリン水酸化酵素およびリジン酸化酵素)の発現の是正により細胞外基質合成能を回復させ、組織の構築を再生治癒するものである。
したがって本発明においては、JNKの活性を阻害することが直接的に組織中のコラーゲンまたはエラスチン代謝バランスを改善し、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防のみならず治療に有効であり、注射投与、経口投与または外用等により、生体内で有効にJNKの活性を阻害する物質を用いるかぎり、薬物的なJNK阻害手段は特に制限されない。
本発明でいうJNKは、JNK1、JNK2およびJNK3を含み、これらJNK1、JNK2およびJNK3の3種類の遺伝子には、それぞれコードされたいくつかのアイソフォームが存在することが知られている。本発明におけるJNK阻害とは、これらアイソフォームに特異的な阻害と非特異的な阻害の両方を含むものである。
コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患は、その代表的なEhlers−Danlos症候群でみられるように皮膚の過伸展と脆弱性、関節の過可動性と脱臼ならびに血管の脆弱性と出血など、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常によって引き起こされた組織の脆弱化あるいは組織構築の崩壊に伴う諸症状を特徴とする疾患群である。より具体的には、心臓弁膜症、動脈解離、血管瘤、急性冠症候群などの心血管系疾患、変形性関節症、脊柱変形、ヘルニアなどの骨軟骨系疾患、腸管破裂、子宮破裂、膀胱破裂、気胸、肺気腫などの内臓系疾患、眼球破裂、網膜剥離などの眼系疾患、歯牙欠損、歯根膜炎などの歯系疾患、ビタミンC不足によりコラーゲン合成に異常をきたす壊血病、ならびに皮膚の老化などが挙げられる。
JNK阻害剤は、コラーゲンまたはエラスチンの病的代謝を細胞レベルおよび組織レベルで改善し正常化する効果を持つので、これらのコラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患に対して合理的な予防剤または治療剤であると考えられる。
本発明は、コラーゲンまたはエラスチンの分解抑制活性と合成増強活性を合わせ持つ、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防剤および治療剤を提供するものであるが、同時に本発明からはコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防剤および治療剤に相応しい化合物を選択または同定(スクリーニング)する時の有用な評価指標が提供される。第一の指標は、JNK活性の阻害能である。より具体的には、JNK1、JNK2またはJNK3による基質c−Junリン酸化の抑制効果を検出する無細胞キナーゼアッセイ等でテストされうる。第二の指標は、コラーゲンまたはエラスチンの分解抑制能である。より具体的には、培養細胞系でコラーゲンまたはエラスチンの代表的分解酵素であるMMP活性の抑制効果を免疫アッセイ法やザイモグラフィー法等でテストされうる。第三の指標は、コラーゲンまたはエラスチンの合成促進能である。より具体的には、培養細胞系でコラーゲンまたはエラスチンの必須合成酵素であるプロリン水酸化酵素(P4H),リジン水酸化酵素(PLOD)およびリジン酸化酵素(LOX)の増強または回復効果を、特異的基質を用いたアッセイにより活性レベルで検出する方法またはPCRにより発現レベルで検出する方法等でテストされうる。これらの指標により段階的に化合物が選択され、その結果、コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防剤および治療剤として最も相応しいものが同定されることを期待できる。
本発明において、JNK阻害活性(JNK阻害剤と称する場合もある)を有する物質としては、既知のJNK阻害活性を有する化合物(それらは種々の文献、例えばNat Rev Drug Discov 2:554−565(2003),Curr Drug Targets CNS Neurol Disord 1:31−49(2002),Trends Pharmacol Sci 23:40−45(2002),Circulation 109:1196−1205(2004),Curr Opin Pharmacol 3:420−425(2003),Biochim Biophys Acta 1697:89−101(2004),Drug Discov Today 9:932−939(2004)などに示されている。)またはその薬学上許容される塩、或いは既知のJNK活性を阻害するペプチドまたは核酸が例示される。
上記のJNK阻害活性を有する化合物の具体例としては、次の一般式(1)〜(13)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも一の化合物が示される。
一般式(1)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、RとRは、それぞれ同一または異なり、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ニトロ基、三フッ化メチル基、スルホニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールアルキルオキシ基、アリールアルキル基、シクロアルキルアルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシアルコキシ基、アミノアルコキシ基、モノまたはジアルキルアミノアルコキシ基、または次の(a)、(b)、(c)、または(d)の式で示されるグループのいずれかである。
Figure 2007051086
(上記Rはアルキレン基、RとRは末端が連結したアルキレンまたはヘテロ原子を含むアルキレン、或いは、それぞれ同一または異なり、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アリールオキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アルコキシアミノ基、またはアルコキシ(モノまたはジーアルキルアミノ)基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、モノまたはジーアルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールアルキルアミノ基、シクロアルキルアミノ基、またはシクロアルキルアルキルアミノ基を表す。)]
一般式(2)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、Rは非置換または置換化アリール基またはヘテロアリール基であり、RおよびRはそれぞれ同一または異なり、水素原子または、低級アルキル基であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基および低級アルコキシ基であり、RおよびRはそれぞれ同一または異なり、水素原子または、アルキル基、非置換または置換化アリール基である。]
一般式(3)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、R、Rは水素原子、低級アルキル基および低級アルコキシ基、Xは、O、S、またはNHであり、Gは、非置換または置換化ピリミジニル基である。]
一般式(4)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、ArおよびArは、互いに独立して、非置換または置換化アリール基またはヘテロアリール基であり、Rは水素原子または低級アルキル基であり、nは、0から5の整数であり、X1はOまたはSであり、Yは、少なくとも一のヘテロ原子を含む非置換もしくは置換化4〜8員ヘテロ環、非置換または置換化アリール基またはヘテロアリール基である。]
一般式(5)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、R、Rは互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基および低級アルコキシ基である。]
一般式(6)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、X−Y−Zは以下の式のいずれかから選択される;
Figure 2007051086
、R、およびRは、互いに独立して、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、非置換または置換化アリール基、アリールアルキル基であり、Gは非置換または置換化アリール基、ヘテロアリール基であり、Q−NHは下記の式である;
Figure 2007051086
(上記式中、AはNであり、UはO、S、またはNHである)]
式(7)
Figure 2007051086
一般式(8)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、R、RおよびRは独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、非置換または置換化アリール基またはヘテロアリール基であり、XはNまたはCHである。]
一般式(9)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、Rは、非置換または置換化アリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、ヘテロアリールオキシ基、または置換されたヘテロアリールオキシで置換された低級アルキルであり、RおよびRは、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、非置換または置換化アリール基またはヘテロアリール基であり、Xは、NまたはCHであり、zで示した点線の結合は随意である。]
一般式(10)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、R、R、RおよびRは独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、非置換または置換化アリール基またはヘテロアリール基であり、L−X−YはNH−CO−Rであり、Rは、非置換または置換化アリールアルキル基またはヘテロアリールアルキル基である。]
一般式(11)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、非置換または置換化アリール基またはヘテロアリール基であり、Rは、Xと一緒になって、完全に飽和した5〜7員環を形成しており、前記環中の各飽和炭素は、=Oまたは=Sで任意に、且つそれぞれ別個にさらに置換されている。Yは、CHまたはNであり、nは1である。]
一般式(12)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、R、R、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、非置換または置換化アリール基、シクロアルカン基またはヘテロアリール基であり、Xは1から3個の炭素を有する結合またはアルキル架橋であるか、HETCyと一緒になって、完全に飽和した5〜7員環を形成しており、Yは−NHであり、HETCyは、少なくとも1個のN原子を含有している4〜6員のヘテロアリール基である]
一般式(13)
Figure 2007051086
[但し、上記式中、Rはアルキレンチオアルキル基またはアルキレンアルキルエーテル基、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基またはアルコキシアルキル基である。]
上記に例示される一般式で示される化合物の内、特に有効なJNK阻害剤となる具体的化合物の例を、それぞれ対応する番号を付して、次の式(1)〜(13)で示す。
Figure 2007051086
Figure 2007051086
Figure 2007051086
Figure 2007051086
Figure 2007051086
Figure 2007051086
Figure 2007051086
これらの化合物のうち、一般式(1)で示される化合物は特に効果が優れており、特に予防または治療剤として注射剤の形態とすることが望ましい。前記式(2)で示されるアニリノピリミジン誘導体は注射剤としても使用可能であるが、特に経口剤として有効に使用できるため、本発明において治療用は勿論、予防剤として優れた有用性が期待できる。前記式(3)および式(4)で示される化合物は、特に経口剤として有効である。
式(1)で表されるピラゾロアントロン骨格を有するアントラピラゾール−6−オンは、製品名SP600125として市販されており、ATPに対する競合的な阻害作用により、IL‐1で刺激された細胞で、AP‐1の転写活性の抑制、ヒト末梢血単核細胞で、Cox‐2、IL‐2、IFN‐γ、TNF‐αの炎症性遺伝子の発現を阻害する目的やLPSで誘導されるTNF‐αの発現を抑制し、アポトーシス抑制のために使用されている。
本発明で使用される化合物は、その薬学上許容される塩であってもよく、塩基性化合物の場合は例えばカルボン酸、スルホン酸等の有機酸、硫酸、塩酸、鉱酸等との塩が、酸性化合物の場合は例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機塩基等との塩が挙げられる。カルボン酸、スルホン酸等の有機酸としては、例えば酢酸、アジピン酸、安息香酸、クエン酸、フマール酸、アスパラギン酸、乳酸、リンゴ酸、パルミチン酸、サリチル酸、酒石酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸が、鉱酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属、有機塩基等としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。
本発明で使用される化合物は光学活性体、またはラセミ体、ジアステレオマー、またはジアステレオマーの混合物、個々のエナンチオマーからエナンチオマーの混合物までを全て包含するものである。また、置換基の結合位置等は特に限定しない限り、結合可能な位置異性体すべてを含む。更に、水和物等の溶媒和物、溶媒和物の互変異性体等のように様々な多形も本発明で使用される化合物に含まれる。
本発明における上記一般式で表される一連の化合物群は、それぞれ公開公報、国際公表公報等において開示された製造法によって製造されるが、それらの方法に限定されるものではない。
本発明においてJNK阻害活性を有する物質として上記一般式で表される一連の化合物が用いられる場合は、単独または溶解剤、増量剤、賦形剤または担体と混合して注射剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、貼付剤、軟膏剤、スプレー剤、溶液剤、徐放剤等の製剤とし、賦形剤または担体等の添加剤としては薬学的に許容されるものが選ばれ、その種類および組成は投与経路や投与方法によって決まる。例えば注射剤の場合、一般に食塩、グルコース、マンニトール等の糖類が望ましい。経口剤の場合、でんぷん、乳糖、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム等が望ましい。
投与経路は、経口もしくは注射により、または外用剤等により非経口により全身に投与する方法の他、軟膏剤、溶液剤、貼付剤やスプレー剤等により病変部または病変部近傍局所に直接投与する方法、カテーテル等により病変部または病変部近傍に遠隔的に投与する方法等が選ばれる。予防剤としては、特に経口あるいは外用が好ましい。治療剤としては、その重症度によって、経口剤のみならず注射剤または局所投与等も望ましい。また、皮膚、骨・軟骨または関節におけるコラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患に対する治療剤としては、経口剤または注射剤のみならず貼付剤、軟膏剤、スプレー剤等の外用剤も望ましい。
本発明の予防剤および治療剤中における本化合物の含量は製剤により種々異なるが通常0.001〜100重量%、好ましくは0.01〜98重量%である。例えば注射剤の場合には、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%の有効成分を含むようにすることがよい。経口剤の場合には、添加剤とともに錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤、ドライシロップ剤等の形態で用いられる。カプセル剤、錠剤、顆粒、散剤は一般に0.1〜100重量%、好ましくは1〜98重量%の有効成分を含む。投与量は、患者の年令、体重、症状等により決定されるが、治療量は一般に、非経口投与で0.001〜10mg/kg/日、経口投与で0.01〜100mg/kg/日である。溶液で用いる場合は、1〜1000nMの濃度で用いる。
本発明において、JNK阻害剤を有効成分とするコラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患の予防剤または治療剤を注射剤とする場合には、人体に無害な溶液として用いればよいが、好ましい一態様は、ポリエチレングリコール(分子量300〜500程度)30%、プロピレングリコール20%、15%クレモフォルイーエル、5%エタノール、30%生理食塩水のエマルジョン化溶液として用いることができる。
また、本発明は、JNK阻害剤として、JNK活性を阻害するペプチドまたは核酸等を用いることができる。
治療剤としては、以下が挙げられる:例えば、(i)JNKインヒビターペプチドならびにその誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログの任意の1つ以上;(ii)JNKインヒビターペプチドならびにその誘導体、フラグメント、アナログおよびホモログをコードする核酸;(iii)JNKに対して指向される抗体のすべてまたは抗原認識部位を含むフラグメントまたはこれらをコードする核酸、(iv)JNKをコードする配列に対するアンチセンス核酸または干渉RNAおよびこれらをコードする核酸、ならびに(v)モジュレーター(すなわち、インヒビター、アゴニストおよびアンタゴニスト)。
上記JNK活性を阻害するペプチドまたは核酸の具体例として、例えば、c−Jun N−terminal Kinase Peptide Inhibitor 1,L−stereoisomer(L−JNKI 1, ALEXIS社,Nat.Med.9:1180−1186(2003))、c−Jun N−terminal Kinase Peptide Inhibitor 1,D−stereoisomer(D−JNKI 1,ALEXIS社,Nat.Med.9:1180−1186(2003))JNKアンチセンスオリゴヌクレオチド(J.Biol.Chem.272:33422−33429(1997))、JNK干渉RNA(J.Biol.Chem.279:40112−40121(2004))、ドミナントネガティブJNK(J.Biol.Chem.274:32580−32587(1999))およびJNKinteracting protein−1(JIP−1,Science.277:693−696(1997))等を挙げることができる。
本発明のJNKインヒビター、ペプチド、融合ペプチドおよび核酸は、薬学的組成物中で処方され得る。これらの組成物は、上記の物質のひとつに加えて、薬学的に受容可能な賦型剤、キャリア、緩衝剤、安定化剤または当業者に周知の他の材料を含み得る。そのような材料は、非毒性であるべきであり、そして活性成分の効力に干渉すべきではない。キャリアまたは他の材料の正確な性質は、投与経路に依存し得る(例えば、経口、静脈内、皮膚または皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内経路等)。
経口投与のための薬学的組成物は、錠剤、カプセル、散剤または液体形態であり得る。錠剤は、固形キャリア(例えば、ゼラチンまたはアジュバント)を含み得る。液状薬学的組成物は、概して、液体キャリア(例えば、水、動物油、植物油または合成油)を含む。生理食塩水溶液、デキストロースまたは他の糖溶液もしくはグリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール)もまた含まれ得る。
静脈内、皮膚または皮下の注射、または罹患部位への注射のために、活性成分は、非経口的に受容可能な水溶液またはエマルジョン液の形態であり、これは、発熱物質を含まず、そして適切なpH、等張性および安定性を有する。関連分野の当業者は、例えば、等張性ビヒクル(例えば、生理食塩注射液、リンゲル注射液、乳酸リンゲル注射液)を用いて適切な溶液を調製し得る。保存剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤および/または他の添加物もまた、必要に応じて含まれ得る。
本発明においてはJNK阻害活性を有する物質を有効成分とする薬剤を用いることにより、コラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患の予防または治療が可能になる。該薬剤はJNK阻害活性を有する物質を、製薬的に許容可能な担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせてなる組成物、またはより多くの他の作用剤をさらに含む組成物の形態であってよく、その使用の態様は特に問題とはならず、該薬剤は注射や内服など体内に取り込む手段は特に制限されない。
以下に、前記式(1)で表されるピラゾロアントロン骨格を有するアントラピラゾール−6−オン化合物(SP600125(トクリス社製:ピラゾールアントロン))等についての実施例を示す。
培養細胞におけるJNK阻害ペプチドの効果
[方法]JNK阻害ペプチドの効果を検証するため、主なコラーゲンまたはエラスチン分解酵素の一つであるMMP‐9を指標とした培養細胞系実験を行った。細胞は、種々のコラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患で主にMMP‐9を発現するマクロファージ細胞(THP‐1)を用いた。即ち、培養THP‐1細胞にあらかじめ異なる濃度(0、1、2、5μM)のJNK阻害ペプチドD‐JNKI1(ALEXIS社)を投与した。コントロールペプチドとしてD‐TAT(ALEXIS社)を用いた。ペプチド投与後24時間目に炎症性サイトカインであるTNF‐α(50ng/ml)で刺激し、さらに48時間後に培養液を回収して、培養液中に分泌されたMMP‐9量をゼラチンザイモグラフィー法で定量解析した。
[結果]培養THP‐1細胞は、TNF刺激によって顕著なMMP‐9分泌を示した。D‐JNKI1は、TNFによるMMP‐9分泌を濃度依存性に抑制した。同濃度のコントロールペプチドD‐TATでは、MMP‐9の抑制効果は認められなかった。この結果から、JNK阻害ペプチドD‐JNKI1がコラーゲンまたはエラスチンの分解抑制効果を持つことが示された。(図1参照)
コラーゲン合成能に対するJNK阻害ペプチドの効果
[方法]ラット大動脈より分離した平滑筋細胞初代培養系を用いて、実験を行った。Kidwellらの方法(Methods in Enzymology.147:407−414(1987))に準じ、3H標識プロリンが取込まれる新規合成蛋白の内、コラーゲン分解酵素によって特異的に分解を受ける分画を定量解析した。無血清培地に3H標識プロリン(3μCi/ml)を添加し、培養を開始した。培養開始直後にJNK阻害ペプチド(D‐JNKI1、0,1,2,5mM、ALEXIS社)を投与した。ペプチド投与後72時間目に培養上清中の蛋白を回収した。さらに、コラーゲン分解酵素で可溶化した分画のみ回収し、コラーゲン新規合成のために取込まれた3H標識プロリンをシンチレーションカウンターで計測した。
[結果]JNK阻害ペプチドD‐JNKI1は、培養平滑筋細胞におけるコラーゲン合成能を濃度依存性に促進した(5mMで0mMの1.6±0.1倍、p<0.01)。(図2参照)
プロリン水酸化酵素に対するJNK阻害薬の効果
[方法]ラット大動脈より分離した平滑筋細胞初代培養系を用いて、実験を行った。無血清培地にJNK阻害薬SP600125(トクリス社:ピラゾールアントロン、50mM)添加し、SP添加後1時間目に、TNF‐α(R&D Systems社、10ng/ml)で刺激した。TNF‐α刺激後24時間目に、細胞を回収し、ノーザンブロット法を用いてプロリン水酸化酵素の発現をmRNAレベルで定量解析した。プロリン水酸化酵素(P4H)は、コラーゲン合成に必須な重要な酵素の一つであり、その低下はコラーゲン合成能の低下を意味する。
[結果]培養平滑筋細胞におけるプロリン水酸化酵素の発現は、TNF‐αによる炎症性サイトカイン刺激によって減少するが、JNK阻害薬SP600125は、このプロリン水酸化酵素発現低下を阻止し、コラーゲン合成能を回復した(p<0.05)。(図3参照)
リジン酸化酵素に対するJNK阻害ペプチドの効果
[方法]ラット大動脈より分離した血管平滑筋細胞初代培養系を用いて、実験を行った。実験開始時に血清欠乏状態とし、血清欠乏ストレスにより培養細胞のJNKを活性化した。実験開始直後にJNK阻害ペプチド(D‐JNKI1、5mM、ALEXIS社)を投与し、対照ペプチドとして、D‐TAT(5mM、ALEXIS社)を用いた。ペプチド投与後6日目に細胞を回収し、real time PCR法を用いてリジン酸化酵素の発現をmRNAレベルで定量解析した。リジン酸化酵素(LOX)は、コラーゲン線維あるいはエラスチン線維の成熟に必須な酵素であり、その低下はコラーゲンまたはエラスチンの合成能低下を意味する。
[結果]培養平滑筋細胞におけるリジン酸化酵素の発現は、血清欠乏ストレス刺激によって減少するが、JNK阻害ペプチドD‐JNKI1は、このリジン酸化酵素発現低下を阻止し、コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復した(p<0.01)。(図4参照)
JNK2遺伝子欠損細胞における細胞外基質合成能の解析
[方法]JNK2遺伝子欠損マウス(JNK2−/−)の大動脈より分離した平滑筋細胞初代培養系を用いて、実験を行った。対照としては、同じ遺伝的背景を持つ野生型マウスから分離した細胞を用いた。それぞれの細胞を無刺激の状態で回収し、real time PCR法を用いてリジン酸化酵素(LOX)の発現をmRNAレベルで定量解析した。または、リジン酸化酵素の酵素活性を測定した。リジン酸化酵素は、コラーゲン線維あるいはエラスチン線維の成熟に必須な酵素であり、その低下はこれらコラーゲンまたはエラスチンの合成能低下を意味する。さらに、細胞外基質合成を統合的に促進するとされるサイトカインTGF−βを、ELISA法を用いて、蛋白発現レベルで定量解析した。
[結果]リジン酸化酵素の発現とその酵素活性は、JNK2欠損細胞において有意に増加していた(p<0.01)。さらにTGF−βもまたJNK2欠損細胞において有意に増加していた(p<0.01)。すなわち、JNK2特異的阻害によりコラーゲンまたはエラスチンの合成能が促進した。(図5参照)
コラーゲン合成系に対する抑制型JNK変異体の効果
[方法]ラット大動脈より分離した血管平滑筋細胞初代培養系を用いて、実験を行った。JNKを活性化するために、過酸化水素(H,200mM)による酸化ストレス刺激を用いた。また、JNKを特異的に抑制するために抑制型(ドミナントネガティブ)JNK変異体を発現する組換えアデノウイルス(Ad−JNK(APF))を作製し、対照としてはGFPを発現する組換えアデノウイルス(Ad−GFP)を使用した。まず培養細胞をHで刺激し、24時間後に細胞を回収した(H群)。H刺激なしを比較対照とした(コントロール群)。次に、あらかじめAd−JNK(APF)またはAd−GFPを感染させた培養細胞をHで刺激し、24時間後の細胞を回収した(それぞれH+APF群、H+GFP群)。H刺激で発現が変化する遺伝子群ならびに抑制型JNK変異体の効果で発現が変化する遺伝子群を、オリゴDNAマイクロアレイ(Affymetrix社RG−U34)によって網羅的に解析した。
[結果]網羅的解析結果の中から、コラーゲン線維合成に必須な酵素であるプロリン水酸化酵素(P4H)、リジン水酸化酵素(PLOD)とリジン酸化酵素(LOX)が、H刺激によるJNK活性化で発現が低下し、かつJNK変異体によるJNK抑制効果によってその発現が増加するものとして同定された。すなわち、プロリン水酸化酵素発現レベルは、H刺激により0.62倍(H群のコントロール群に対する比)に低下したが、Ad−JNK(APF)によるJNK抑制により1.32倍(H+APF群のH+GFP群に対する比)に増加した。またリジン水酸化酵素発現レベルは、H刺激により0.76倍(H群のコントロール群に対する比)に低下したが、Ad−JNK(APF)により1.41倍(H+APF群のH+GFP群に対する比)に増加した。さらに、リジン酸化酵素発現レベルは、H刺激により0.87倍(H群のコントロール群に対する比)に低下したが、Ad−JNK(APF)により1.23倍(H+APF群のH+GFP群に対する比)に増加した。これらの結果から、抑制型JNK変異体が、コラーゲン線維合成に必須なプロリン水酸化酵素、リジン水酸化酵素ならびにリジン酸化酵素の発現を増強することが明らかになった。特に、リジン酸化酵素はエラスチン線維合成にも必須である。すなわち、抑制型JNK変異体は、コラーゲンならびにエラスチン線維の合成系を増強することが示された。
塩化カルシウム処置マウス動脈瘤モデルにおけるJNK阻害薬による動脈瘤治療・退縮実験
[方法]Longoらの方法(J.Clin.Invest.110:625−632(2002))に準じて塩化カルシウム刺激誘発性のマウス腹部大動脈瘤モデルを作製した。即ち、7週齢のC57BL/6雄マウスを開腹し、腎動脈下腹部大動脈を0.5M塩化カルシウムで15分間浸透処理した後に閉腹した。シャム手術(Na群)は、生理食塩水で処置した。処置後6週目まで飼育した後、Na群(8匹)とカルシウム処置マウスの一部(Ca群、9匹)は、直ちに犠牲死させて腹部大動脈の最大径を計測した。他のカルシウム処置マウスは無作為に2群に分け、カルシウム処置後6週目からJNK阻害薬SP600125(トクリス社:ピラゾールアントロン、SP群、9匹)または溶解液のみ(対照群、9匹)を連日皮下注射した。SP600125は、Bennettらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:13681−13686(2001))に準じて、溶解液(30%ポリエチレングリコール‐400、20%ポリプロピレングリコール、15%クレモフォルイーエル、5%エタノール、30%生理食塩水)で最終濃度4.2mg/mlに用事調整し、60mg/kg/日の投与量を一日二回連日皮下注射した。SP群と対照群はカルシウム処置後12週目(注射開始後6週目)に犠牲死させ、腹部大動脈の最大径を計測した。さらに大動脈を摘出し、組織学的に解析した。
[結果]処置後6周目の大動脈径は、Na群;0.69±0.04mm、Ca群;1.29±0.06mmであり、カルシウム処理により有意な径拡大を呈した動脈瘤が形成された。Ca群の大動脈壁では、中膜の菲薄化、弾性線維の破壊、炎症細胞浸潤といったヒトの腹部動脈瘤に特徴的な所見が組織学的に観察された。投薬後6週間経過したカルシウム処置後12週目の対照群とSP群の大動脈最大径は、それぞれ1.18±0.06mm、0.85±0.06mmであった。SP群では、対照群と比べて有意に大動脈径が小さかった(t検定によりp<0.01)。さらに、SP群の径は、カルシウム処置後6週目で注射開始直前のCa群よりも有意に小さかった(t検定によりp<0.01)。すなわち、SP600125は、一旦瘤が形成された後の投与開始で、明らかな瘤径の縮小効果を示した。さらに、対照群の組織所見はカルシウム処置後6週目(Ca群)と同等であったが、SP群では対照群やCa群に比べ明らかに炎症細胞浸潤に乏しく、弾性線維等の組織構築が再生されていた。これらのことから、カルシウム処置動脈瘤モデルにおけるJNK阻害薬SP600125の瘤退縮効果が証明された。(図6参照)
アポEノックアウトマウス動脈瘤モデルにおけるJNK阻害薬による動脈瘤治療・退縮実験
[方法]Daughertyらの方法(J.Clin.Invest.105:1605−1612(2000))に準じてアポEノックアウトマウスにアンジオテンシンIIを持続投与して腹部大動脈瘤モデルを作製した。即ち、24週齢のアポEノックアウト雄マウスにミニ浸透圧ポンプ(Alzet社)を植え込み、アンジオテンシンII(1μg/min/kg)を4週間持続注入した。アポEノックアウトマウスは高脂血症、高血圧と動脈硬化を伴っており、アンジオテンシンII注入によりヒトの動脈瘤に類似の動脈硬化性大動脈瘤を発症する。4週間のアンジオテンシンII注入終了後に超音波診断装置を用いて腹部大動脈瘤の径を計測し、この計測値から均等に2群に分けた。群分け後直ちに、JNK阻害薬SP600125(SP群)または溶解液のみ(対照群)の連日皮下注射を開始した。SP600125および溶解液の投与方法は上記実施例7と同様とした。注射開始後8週間目に、超音波診断装置を用いて腹部大動脈瘤の瘤径を再計測した。
[結果]アンジオテンシンII注入終了後、注射開始前に計測した大動脈瘤径は、対照群(8匹);1.23±0.06mm、SP群;1.23±0.05mmであり、2群に均等な瘤が存在していた。JNK阻害薬SP600125を連日投与したSP群では、8週間の注射後の瘤径が1.00±0.05mmとなり、注射開始前に比べて有意に縮小していた(t検定によりp<0.05)。注射前後での縮小率は、SP群で18.4±4.4%であったが、対照群では−1.5±6.3%であり、2群間に有意差が確認された(t検定によりp<0.05)。以上の結果から、ヒトの動脈瘤に類似のアポEノックアウトマウス動脈瘤モデルにおいてもJNK阻害薬SP600125の瘤治療・退縮効果が証明された。これは、コラーゲンおよびエラスチンの分解促進と再生阻害が同時に生ずるという動脈瘤の病態がJNK阻害剤により改善された結果と考えられる。すなわち、JNK阻害剤によってコラーゲンまたはエラスチンの崩壊を防止するとともに組織再構築能を積極的に回復させることが、生体内おいても可能であることが証明された。(図7参照)
本発明により、コラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患の予防および治療が可能になる。本発明の薬剤は、コラーゲンまたはエラスチン代謝異常疾患のための予防用薬剤、または治療用薬剤として内服または注射等の全身的投薬または外用等の局所投与に用いる薬剤として利用できる。
培養細胞においてJNK阻害ペプチドによるコラーゲンまたはエラスチンの分解酵素MMP−9の抑制効果を示すグラフである。 培養細胞においてJNK阻害ペプチドによるコラーゲン合成能の促進効果を示すグラフである。 培養細胞においてJNK阻害薬によるプロリン水酸化酵素の発現増強効果を示すグラフである。 培養細胞においてJNK阻害ペプチドによるリジン酸化酵素の発現増強効果を示すグラフである。 培養細胞においてJNK2特異的阻害によるコラーゲンまたはエラスチンの合成促進効果を示すグラフである。 塩化カルシウム処置マウス動脈瘤モデルにおいてJNK阻害薬による動脈瘤治療・退縮実験の結果を示すグラフである。 アポEノックアウトマウス動脈瘤モデルにおいてJNK阻害薬による動脈瘤治療・退縮実験の結果を示すグラフである。

Claims (14)

  1. JNK阻害活性を有する物質を有効成分とするコラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患の予防剤または治療剤。
  2. コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患が、皮膚疾患または骨、軟骨もしくは関節疾患、心血管疾患または肺もしくは消化管の内臓疾患の少なくとも一種である請求項1に記載の予防剤または治療剤。
  3. コラーゲンまたはエラスチンの代謝異常疾患が皮膚老化である請求項1に記載の予防剤または治療剤。
  4. JNK阻害活性を有する物質が、コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の予防剤または治療剤。
  5. コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質が、リジン酸化酵素を活性化させる物質である請求項4に記載の予防剤または治療剤。
  6. コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質が、プロリン水酸化酵素を活性化させる物質である請求項4に記載の予防剤または治療剤。
  7. コラーゲンまたはエラスチンの合成能を回復させる物質が、リジン水酸化酵素を活性化させる物質である請求項4に記載の予防剤または治療剤。
  8. JNK阻害活性を有する物質が、JNK阻害活性を有する化合物またはその薬学上許容される塩である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の予防剤または治療剤。
  9. JNK阻害活性を有する化合物が、ピラゾロアントロンまたはその誘導体である請求項8に記載の予防剤または治療剤。
  10. JNK阻害活性を有する物質が、JNK阻害活性を有するペプチドまたは核酸である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の予防剤または治療剤。
  11. JNK阻害活性を有する物質が、ペプチドであってJNKペプチドインヒビター1D体(D−JNKI1)である請求項10に記載の予防剤または治療剤。
  12. 注射剤の形態である請求項1乃至11のいずれか1項に記載の予防剤または治療剤。
  13. 経口剤の形態である請求項1乃至11のいずれか1項に記載の予防剤または治療剤。
  14. 外用薬の形態である請求項1乃至11のいずれか1項に記載の予防剤または治療剤。
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