本発明の電子回路装置組立体の一実施例を図1〜図29によって説明する。
図1は自動車用電子回路装置(コントロールユニット)1の平面図、図2および図3は、図1のI-I線およびII-II線に沿う一部断面図である。
フランジ部2dを有するベース2に、回路素子6および回路基板7からなる電子回路組立体5が搭載されている。この搭載は、回路基板7をベース2の上面に接着することで行われる。
櫛形に配列されたリード端子3aは、外部の接続対象物(図示せず)と電気的に接続する場合には、外部対象物のハーネス・コネクタに嵌合、またはハーネス端子に溶接等で接続される。
電子回路組立体5とリード端子3aとは、熱圧着、超音波等のワイヤボンディング法でアルミ細線9を介して電気的に接続されている。
電子回路組立体5をベース2上面に接着し、電子回路組立体5とリード端子3aとをアルミ細線9で接続した後、これらの部品、回路素子6、回路基板7、ベース2、リード端子3aを一括してモールド樹脂(以下、封止樹脂と称する)4中にリード端子3aの一部やフランジ部2dの一部を除いて埋設する。
封止樹脂4は、トランスファモールド成形によって製作する。トランスファモールド成形は、一般に封止樹脂としてエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用する方法で、粉末を圧縮成形したタブレット状のエポキシ樹脂を、所定の温度、圧力を印加することにより融解させ、これを型内に流動および固化させるものである。この製法は、LSI(大規模集積回路)等のチップのパッケージとして広く採用されているものである。
封止樹脂4は、低線膨張係数を有する樹脂とし、内部部品を全体的に包む。封止樹脂4は、内部部品との密着力を常に所定値に保持するためおよびはんだ付け部や半導体チップと回路基板との細線ワイヤボンディング接続部等が、熱応力によっての剥れたり断線が生じないようにするために、最適な物性値が選定される。
自動車用の電子回路装置は、使用時の熱応力繰返しに起因する剥離により、封止樹脂4とリード端子3a、ベース2とのそれぞれの密着界面からの水、油等の浸入が懸念される。その点については、リード端子3aおよびベース2と封止樹脂4との線膨張係数差を極力小さくし、それら部材間での熱応力を低減することで解決可能である。
リード端子3aは熱伝導の良い銅、または銅系の合金材が選定される。回路基板7はセラミック、ガラス・セラミック等の比較的線膨張係数の小さい材質が選定され、所定の回路パターンが形成されている。回路基板7が接着されるベース2は、線膨張係数が回路基板7および封止樹脂4に近いものを選定する。したがって、リード端子3aの線膨張係数はベース2のそれよりも大きい。
インバー、または、アンバーとも称される鉄64%−ニッケル36%の合金の両面に銅を積層した材料、いわゆるクラッド材をベース2として選定し、両金属の厚さ比率を変え、所望の合成された線膨張係数を得る。ちなみに材料単独での線膨張係数は、インバーは約1ppm/℃、銅は16.5ppm/℃である。
したがってクラッド材の線膨張係数を小さくするには、銅の厚さを薄くインバーの厚さを厚くすることになる。このため実施例では、例えば回路基板7の線膨張係数を6ppm/℃、封止樹脂4の線膨張係数(ガラス転移点Tg以下)が9ppm/℃の場合、クラッド材の線膨張係数を9.3ppm/℃としている。この線膨張係数を得るクラッド材の一例として、ベース2の厚さが0.64mmのときには、銅とインバーの厚さは各々0.156mm、0.328mmである。
回路基板7および封止樹脂4の線膨張係数に近い値のクラッド材の線膨張係数を9.3ppm/℃に選定すると、お互いの線膨張係数差が小さくなり、使用環境条件とくに温度変化の繰り返しによる熱応力が低減し、封止樹脂4のクラックや部材との密着界面剥離に対する抗力が増大する。
クラッド材は柔らかい銅と硬いインバーとを積層しているため、材料相互の硬さの差が大きく、プレスの打ち抜き加工性が悪い問題がある。一般にプレスの打ち抜き加工においては、その加工面は、だれ面、せん断面、破断面が形成されて所定の形状ができる。ところがクラッド材を打ち抜くときは、硬度差が大きく、かつ厚さの異なる薄板を重ねて同時に打ち抜く状態と等価で、だれ面、せん断面、破断面が曖昧となり、打ち抜き端面で板間の結合部が剥離しやすい。
例えば、インバーの硬さとしてはHv(ヴィッカース硬さ)200、銅はHv100程度であるが、リード端子3aは幅細部分が多数並ぶ形状で、高精度で打ち抜き加工することが困難となる。
この対策として、本実施例では単純な形状で高精度を要しないベース2の部分をクラッド材とし、高精度を要するリード端子3aを銅または銅合金材とし、両者を塑性結合する。
ベース2とリード端子部分3aを分離せず、同一の銅合金材でプレス加工するものが一般的な構造である。しかし、その線膨張係数は17ppm/℃前後で、回路基板7および封止樹脂4に比して大きく、この構造では使用時の熱応力繰り返しによる樹脂クラック、樹脂との密着界面剥離が発生しやすい。
特にベース2は広い面積であり、封止樹脂4との密着界面に働く熱応力が大きい。一方、リード端子3aは小面積であり、また片側が露出しているため、熱応力は問題とならないレベルである。
図3は本実施例の電子回路装置の要部拡大断面図である。
ベース2の上面には、回路基板7が接着剤8によって接着される。全面を接着する構造では、接着剤8と部材との界面を隙間なく接着することが困難で、接着剤8の硬化時に界面に空気層が形成されたり、微小な気泡が多数接着剤中に残ったりする。
このため、トランスファモールド工程の熱により気泡が膨張して潰れ、接着部と封止樹脂4との密着界面付近で界面剥離する問題が発生しやすい。この問題を解決する接着方法の一例は後述する。
回路基板7には、図示しない配線パターンが形成され、また、回路基板7上に回路素子6とボンディングパッド10がはんだ、または銀ペースト材(銀入りエポキシ接着剤)で接合されている。ボンディングパッド10とリード端子3aとの間は、熱圧着、超音波等のワイヤボンディング法によりアルミ材の細線9が電気的に接続されている。
回路基板7の材質は、回路素子6の大部分を占めるシリコンチップに近い線膨張係数を有し、かつ、封止樹脂4との線膨張係数差が小さいものがよい。回路規模が大きくなると小型化するには多層の回路基板が好ましく、セラミックやガラス・セラミック基板が好適である。放熱性を重視する場合には、熱伝導率の大きいセラミック基板がよい。
図4はベース2とリードフレーム3とを結合し、両者を一体化した形状を示すものである。ベース2は、回路基板7が接着される基板接着部2′、フランジ部2d、係合部2e、位置決め孔2f、多数の小孔2g、堰きとめ部2h、突起2i、基板位置決め孔2j、溝2kを有した形状である。
リードフレーム3は、リード端子3a、ボンディングパッド部3b、端子間つなぎ部3c、フレーム部3d、つなぎ部3e、係合部3f、送り孔3gからなり、これらを各々プレス加工で製作する。そして両係合部2e、3fで塑性結合し、ベース2と一体化する。結合方法については後述する。
アルミ材の細線9をワイヤボンディング接続するためのボンディングパッド部3bには、その表面が酸化されないようにニッケルメッキ、銀メッキ等が部分的に施される。フランジ部2dは相手部材に固定するために設けられ、位置決め孔2fは、組立時の治具に位置決めするために各々設けたものである。
突起2iは方向性を決めるもので、中心に対して非対称形状であり、ベース2の裏表と上下とを一定方向に規制し、製作誤差で生じるトランスファモールド型との嵌合誤差を少なくする目的で設けている。
また、回路基板7を接着し、所定の工程を経て電子回路組立体5のワイヤボンディング作業が終了した状態の組立体を、この型にセットする際、逆方向には挿入できないようにする目的も兼ねている。この突起2iは、リードフレーム3とベース2との結合体が対称形状の場合、表裏と上下とが識別できる形状、位置を任意に選定すればよい。
なお、端子間つなぎ部3c、フレーム部3d、フランジ部2d、堰きとめ部2hとで閉ループ構成になっている理由は、この部分をトランスファモールド成形型で上下から締め付けることにより、封止樹脂4でトランスファモールド成形した際、型内でエポキシ樹脂が融解して液状になったとき、この閉ループ部の外側に洩れないようにするためである。
嵌合するリード端子3aの幅細部分とモールド型との間には、僅かではあるが嵌合隙間ができるため、この部分で液状のエポキシ樹脂が外部に洩れる。しかし閉ループ構成となっているため、そのループ内で硬化後に薄いバリとして残ることになる。
そしてトランスファモールド成形後、バリを除去し、リードフレーム3の端子間つなぎ部3c、フレーム部3d、つなぎ部3e、係合部3f、2e、堰きとめ部2hを切断し、複数の独立したリード端子3aを形成するとともに、ベース2のフランジ部2dを所定の形状に窓抜き加工、および折り曲げ加工することにより、コントロールユニット1が完成する。
図5はベース2とリードフレーム3とを結合した部分の詳細図、図6は図5のIII−III線に沿う断面を示すものである。
ベース2に設けた係合部2eは凹状で、リードフレーム3の凸状係合部3fに嵌合されている。凸状係合部3fの一部には平面方向に係止できるよう、傾斜部を設けた形状を図7に、傾斜部を有しない形状を図8に各々示す。そしてプレス荷重の印加により、係合部3fを厚さ方向に表裏両面から潰し、凹所13を形成して材料の塑性流動により結合する。各係合部の凹凸形状をお互い逆に設置しても同じ結合効果は得られる。
図7の場合には、凹所13が形成されていなくとも凸状係合部3fが平面方向に係止できる形状であるが、結合作業時には板厚方向からしか凹状係合部2eに挿入できない。図8の場合には、これと同一方向および平面方向どちらからでも挿入できる利点がある。
これは自動で挿入する場合、自動機設計の自由度が増す点で有利である。凹所13の形成時には、塑性流動によって凸状係合部3fが凹状係合部2eの傾斜部に沿って広がり、結合後の平面方向係止力は得られる。ただし、凹所13形成時のプレス荷重は、図7に比べて大きくする必要がある。
インバー2aの硬さはリードフレーム3より硬いので、リードフレーム3に形成した凸状係合部3fを潰しても問題ない。しかしながら、とくにリードフレーム3の材質が比較的硬い銅合金で、インバー2aの厚さが薄く、銅2b、2cが厚い場合には、凹状係合部2eをベース2に形成すると、係合部が外側に開いてしまう問題が生じる。したがって、銅とインバーのクラッド材の厚さ比率、リードフレーム3の材質硬度に応じ、凹部13をリードフレーム3か、ベース2の何れかに形成することである。
本実施例ではこれを考慮し、リードフレーム3は、クラッド材のインバー部分2aより硬度の低い材料を選定している。一例として、Hv120の銅合金である。
ベース2のクラッド材はインバー2a、銅2b、2cからなり、周知のように所定の温度と圧力を印加して積層形成し、金属材料間の拡散により強固に結合されているものである。リードフレーム3の凸状係合部3fを潰して凹所13を上下に形成することにより、材料は塑性流動を起し、平面方向の嵌合隙間が埋められ、ベース2とリードフレーム3とが一体化結合される。
凹所13を形成する方法の一例を図9に示す。
下型11、上型12は、段付き形状を有している。上下方向から荷重を印加すると、リードフレーム3の凸状係合部分3fが潰され、凹所13が形成される。所定の荷重が印加されたとき、型11,12の段付き部分がリードフレーム3の上下面、およびベース2の上下面に当接するプレス条件に設定しておく。当接しないと、銅部分2b、2cが嵌合部近傍で局部的に厚さ方向に盛り上り、厚さ方向のゆがみが生じる恐れがある。
上下型11、12でベース2とリードフレーム3を上下方向から挟んでおいて、パンチを上下方向からスライドさせ、凹所13を形成する型構造でもよい。なお、前記凹所13は円形状であるが、角形状、あるいは傾斜部に沿った台形状等、任意の形状を採り得る。
図面では材料の厚さを同一で表しているが、ベース2とリードフレーム3のいずれかを厚くしてもよい。放熱性を高める必要がある場合には、ベース2を厚くするのが効果的である。また、リード端子3aをコネクタ接続する場合には、相手側雌端子の適合厚さに合わせることができる。
図10はリードフレーム3の形状、図11はベース2の形状をそれぞれ示しており、各々プレスの打ち抜き加工で製作する。リードフレーム3は、リード端子3a、ボンディングパッド部3b、端子間つなぎ部3c、フレーム部3d、つなぎ部3e、係合部3f、送り孔3gを有している。
点線で結んだ部分は、連続してプレス加工するための空き部分である。ボンディングパッド部3bには、酸化防止のためニッケルメッキ、銀メッキ等が必要であるが、プレス加工前の材料状態で帯状に部分的に施しておいてもよいし、プレス加工後に部分メッキしてもよい。
ベース2は、基板接着部2′、フランジ2d、係合部2e、位置決め孔2f、多数の小孔2g、堰きとめ部2h、突起2i、基板位置決め孔2j、溝2kを有している。リードフレーム3と同様に、連続してプレス加工するための空き部分を設ける形状にしてもよい。
このように、ベースとリード端子とを異種材料で製作した後、両者を塑性結合で一体化したため、回路基板や封止樹脂の物性値、放熱性の要求レベルや相手側コネクタ端子に応じて、ベースとリード端子の材料を最適な線膨張係数、熱伝導率および厚さで選定できることになる。したがって同一の銅合金材でベースとリードフレームを構成する従来のものでは実現し得なかった、大きな効果である。
塑性結合の他、溶接、厚さ方向にベースとリード端子とを重ねて鋲で加締める構造も考えられるが、前者では溶接時の熱によって変形したり、後者では厚さ方向寸法が厚くなる問題がある。
図12はベース2の他の形状を示し、回路基板7の面積よりやや狭い範囲と、回路基板7の外形より外側に多数の小孔2gを設置している。
図13はベース2のさらに別の形状を示し、回路基板7の面積よりやや狭い範囲に大きい窓2mを、回路基板7の外形より外側に多数の小孔2gを各々設置している。
図14は図2に相当する図1を縦方向に断面した拡大図で、ベース2の形状を図11に示すような場合で小孔2gに封止樹脂4が充填された状況を示すもの、図15は同じく図12の形状の断面拡大図、図16は同じく図13の形状の断面拡大図である。
図14では、回路基板7の外形より外側にのみ小孔2gを設けた場合であり、図15は回路基板7の外形内、および外側に小孔2gを設けた場合を示す。
図16は、高発熱素子6′をはんだ、または銀ペースト材でベース2に接合し、その位置を避けるよう回路基板7に窓を設けた構造である。
クラッド材は前述したように、銅と鉄ニッケル合金で構成されているため、銅のみ、または銅合金より熱伝導率が小さい欠点がある。銅のみの場合の熱伝導率396W/(m・K)に対し、本実施例のクラッド材で、線膨張係数が9.3ppm/℃の場合、熱伝導率は平面方向で225W/(m・K)、厚さ方向で25W/(m・K)である。
高発熱素子6′を回路基板7に搭載した場合には、所定の温度上昇値以下を確保できないことがあるが、これを解決するためには、図16のような構造が効果的である。高発熱素子6′の熱をベース2に直接逃し、フランジ部2dを介して相手部材へ放熱するものである。
高発熱素子6′を回路基板7に搭載するか否かは、素子の発熱密度(発熱量/素子体積)により選定する。なお前記窓を設置せず、回路基板7を小さくして高発熱素子6′をベース2に接合してもよい。
使用時の温度変化と部材間の線膨張係数差に起因する熱応力繰返しにより、封止樹脂4・回路基板7間、封止樹脂4・リード端子3a間、封止樹脂4・ベース2間それぞれの密着界面に剥離が生じると、その部分からの水、油等の浸入が懸念される。
エポキシ樹脂は周知のように部材との接着力を有しているが、部材の線膨張係数差が適切でないと熱応力繰り返しによって、前記剥離が発生しやすい。小孔2gの作用効果について、以下述べる。
剥離は回路基板7の外側、もしくはベース2の外側の形状急変部分から発生しやすい。すなわち回路基板7の四隅部分や、図1、図2、図14−16に示すベース2のa部分が起点となって進展する。
本実施例の構造ではベース2に多数の小孔2gを設け、その部分に封止樹脂4が充填されるようにしている。この小孔2gの存在により、ベース2の剛性を下げるとともに、局部的な剥離が生じようとした場合には、隣の小孔部分の樹脂が防波堤のような作用をし、剥離発生および進展を抑止する効果がある。
図11では、回路基板7の外側に24個の小孔2gを設け、その付近の剥離応力を低減するようにした。図12では、回路基板7の全面積およびこれより広い領域に小孔2gを161個設けている。したがってこの形状では、回路基板7の面積相当領域を含むベース2が低い剛性で構成されることとなる。
剛性が低いことは、封止樹脂4との線膨張係数差による熱応力を吸収しやすく、かつ多数個分散して小孔2gが設けられているため、部材との密着界面での剥離防止効果が非常に大きくなる利点がある。小孔2gの大きさ、形状、個数は任意の値を採り得るが、例えば、下記の点を考慮して最適値を選定する。
(1)板厚以下の孔径は、プレスの打抜き加工性が悪い。
(2)孔数が多いと、プレス型の価格が高くなる。
(3)孔全体の面積が広いほど、放熱性が低下するとともにベースの剛性が低くなり、接着作業時の扱いで変形しやすく、また平面精度が悪くなる。
(4)孔形状は、型の製作性、保守等を考慮し、角形より円形が好適である。
図13で示したベース2の形状では、大きい窓2mを設けているため、ベース2の中央部は非常に低剛性となり、熱応力の低減効果がある。ただし、ベース2の面積が減少するため、熱伝導性が低下し放熱性が悪化するので、規定の温度上昇値以下が得られる場合に採用する。
窓2mの面積は極力広い方が、熱応力低減効果は大きいが、この放熱性悪化と接着面積との兼ね合いで、ある範囲の面積を選定するのがよい。この形状では、回路基板7の面積の40%と80%で、熱応力による封止樹脂4と部材(回路基板、ベース)との界面剥離は、下記条件の熱衝撃試験で発生しなかった。
熱衝撃試験条件
サンプル数:窓面積40%、80%各5個
温度:−40℃〜130℃(空気中)各1時間
サイクル数:1500サイクル
仕様:形状…図1、図2,図18
回路基板7の線膨張係数…6ppm/℃
封止樹脂4の線膨張係数…9ppm/℃(ガラス転移温度120℃以下)
ベース2の線膨張係数…9.3ppm/℃
接着剤8の線膨張係数…60ppm/℃(ガラス転移温度140℃以下)
回路基板7の弾性率…270GPa
封止樹脂4の弾性率…3GPa(ガラス転移温度120℃以下)
ベース2の弾性率…120GPa
接着剤8の弾性率…0.3GPa(ガラス転移温度140℃以下)
一般に熱衝撃試験条件で、1000サイクルを満足できれば、この種の電子回路装置をエンジンに装着した使用環境の場合、自動車の走行距離15万〜20万km相当とされており、窓2mの面積は好適である。
図18は温度変化による熱応力を最小とするための最適な寸法設定の説明図で、封止樹脂4の全体厚さT1を上下方向の厚さT2、T3に二分したとき、回路基板7の厚さ中心線がこの二分線に一致するようにしたものである。この効果について以下説明する。
使用時の温度変化による熱応力は、各部材の線膨張係数差に応じて発生する。回路基板7の線膨張係数が6ppm/℃、封止樹脂4の線膨張係数が9ppm/℃、ベース2の線膨張係数が9.3ppm/℃の実施例において、前記寸法に設定すると、封止樹脂4とベース2の各々の線膨張係数がほぼ等しいため、低温時には封止樹脂4の収縮によって封止樹脂4の上側表面が凹、下側表面も凹となるような反りが生じる。
この反り量は上下樹脂とも等しい値であり、回路基板7の厚さ中心が前記位置に設定されていると、回路基板7自身には反りの発生はない。すなわち回路基板7の上下面には、封止樹脂4の収縮応力のみ作用し、反りをお互いにキャンセルするためである。
例えば、封止樹脂4全体の厚さ中心より回路基板7の厚さ中心が下側にずれ、図19で示す寸法設定のときにはT2がT3より大きく、低温時には全体が上側凹、下側凸方向の反りが発生する。
厚さ方向に二分すると、回路基板7の上面が封止樹脂4厚さのほぼ中心位置である。上側樹脂の線膨張係数をαAとし、回路基板7とベース2と下側樹脂の合成線膨張係数をαBとすると、αBよりαAが大きいため、低温時には封止樹脂4の収縮により全体が上側凹方向、下側凸方向の反りが生じる。
回路基板7やベース2も僅かではあるが反りが発生する。高温時にはこの反りがなくなるが、再び低温時には同様の反りが発生する。これらの温度変化したがって反り変化が繰り返されると、回路基板7の上面コーナ部分と封止樹脂4との間に局部的な剥離応力が働き、これを起点として剥離が進展する。
図18の寸法設定では、温度変化があっても回路基板7やベース2の反りが発生しないので、封止樹脂4との間の剥離応力は生じにくい。回路基板7と封止樹脂4との間には、両者の線膨張係数差によって平面方向のせん断応力が作用するが、回路基板7とベース2の反りがなく、この応力による剥離力が小さいためである。
全面を接着する構造では、接着剤と部材との界面を隙間なく接着することが難しく、接着剤の硬化時に界面に空気層が形成されたり、微小な気泡が多数接着剤中に残ったりしやすい。このため、トランスファモールド工程の熱により気泡が膨張して潰れ、接着部と封止樹脂4との密着界面付近で界面剥離する問題が発生しやすかった。
しかしながら、接着作業工程において、数十μm厚さの印刷マスクを使用し、接着剤8の印刷を行った後、その印刷面中央部に×印状、円形状等の接着剤滴下を加えれば、電子回路組立体5を載せた際、回路基板7の中央部分から外側に向って接着剤中の気泡が排出されやすく、前記問題を軽減できる。
接着作業においては接着治具を使用するが、ベース2に設けた位置決め孔2f、基板位置決め孔2j、溝2kに接着用治具のピンが挿入され、回路基板7は正確に位置決めされる。
前述の接着方法の他、接着剤8を例えば数十μm厚さのエポキシ系シート状接着剤とし、回路基板7の上面から荷重を加え、所定の温度と時間を印加する方法により、前記の問題点を解決する方法もある。
この方法では先ず、ベース2とリードフレーム3とを結合した組立体を受け治具に載置する。シート状接着剤をベース2の上面に置き、その上に回路基板7を載せる。そして押圧治具で回路基板7の上面に荷重を印加する。この状態で所定の温度と時間をかけ、シート状接着剤を融解、硬化して接着工程が終了する。
回路基板7の材質は、セラミック、ガラス・セラミックであり、ヤング率が高くて硬いため、荷重を印加した際に割れやすい。シート状接着剤はこの点を考慮して、低い荷重で融解、硬化できる低弾性率を有したものを選定する。
また、回路基板7に形成されている導体パターンに傷がついたり、保護用のガラス膜が割れたりしないよう、凹凸吸収材として、例えばポリエステル樹脂フィルムを回路基板7の表面に載せておくとか、押圧治具の表面に、弾力性のある高耐熱性の樹脂をコーティングしておく等の配慮が必要である。
また、ベース2の反りが大きいと、前記接着工程で荷重を印加した際に、反りが矯正されたまま接着硬化し、荷重を除去した状態では矯正による反りを元に戻す応力が接着部分に作用することになる。
したがって、その応力で接着界面が剥れる問題が発生する。接着終了後の室温状態で剥れが生じていなくとも、とくに電子回路素子6をはんだ接合する工程では、200数十℃のはんだリフロー炉を通すため、接着強度の低下も加わって剥れが発生しやすい。
これを防止するには、ポリエステル樹脂フィルムを接着治具上に載置し、ベース2の下面に当たるようにしておく。これにより前記反りの矯正量を減らすものである。しかしながらあまり反りが大きいと、その防止効果がなくなるので、所定値以下の反りとなるようにベース2の製作精度管理を行う必要がある。
ここでシート状接着剤の選定例について説明する。
エポキシ系の接着剤を主体とした厚さが50〜200μmのもので、回路基板7より若干狭い面積寸法とする。一般にこの種のシート状接着剤は、数十μm厚のポリエステル樹脂フィルムでシート状接着剤の両面を挟む構造である。このフィルムの片面を剥し、その面をベース2に載せ、反対面のフィルムを介して上面からローラで押圧するか、プレス機で押圧して仮接着する。
この際、完全硬化条件として、例えば150℃で1時間のものであれば、50℃の雰囲気で数秒押圧して仮接着し、反対面のフィルムを剥して回路基板7を載せ、一次接着として150℃で3分間加熱、加圧した後、加圧なし150℃で1時間の本硬化を行う。また、仮接着せず一次接着工程に移ってもよい。
回路基板7の外側に複数の小孔2gを設ける図11の形状例では、前述の印刷接着剤を使用する接着方式でよいが、回路基板7の全面積を含む広い領域に小孔2gを設ける図12の形状例では、この接着方式を採用することが難しい。理由は、多数の小孔2gを逃げた部分の形状で、接着剤の印刷ができるようなマスクを製作することが困難なためである。
図12の形状の場合には、シート状接着剤を使用する接着方式の採用で対応できる。シート状接着剤では、多数の小孔をプレス加工で形成することが可能であるからである。なお、この接着方式は図11図の形状にも採用できる。
図20〜図23は、接着方法および接着剤の平面形状を示す図面である。
図20は液状接着剤を印刷するためのマスク形状を示す平面図である。これは図16に示した高発熱素子6′をプレート2に接合する場合の例で、図21はプレート2に接着剤8を印刷した状態を示すものである。
マスク20は、数十μm厚さのステンレス鋼鈑、銅合金板等の金属材料で製作し、島20aとマスク20とを繋ぐブリッジ20c、接着剤8を印刷するための窓20b(斜線部)を有する形状である。島20aは、高発熱素子6′の搭載部分で、接着剤8の外側は回路基板7の外形より僅かに狭い領域の寸法としている。
ブリッジ20cの部分には接着剤8が印刷されないが、その幅は数百μm程度であり、接着剤8の粘度が低いため、ある程度の時間が経過すれば、両脇の部分から流動するので問題ない。
図22、図23は接着剤8に接着シートを使用した場合の形状を示す。図21に相当する場合には図22の形状で製作し、多数の小孔2gを回路基板7の下側に設置した場合には、図23の形状で製作する。
回路基板7の下側に小孔2gを設置しない場合には、シート状接着剤、液状接着剤のいずれを使用してもよいが、設置する場合にはマスクで印刷することは困難である。すなわち小孔2gに相当する部分には小島を多数設け、これらをブリッジで繋ぐマスク形状となるため、接着剤の印刷される領域が狭く、また小孔2gの側壁に接着剤が流れないようにすることが難しいためである。
したがってこの場合には、シート状接着剤が好適である。シート状接着剤は既述したように、数十μm厚のポリエステル樹脂フィルムでシート状接着剤の両面を挟む構造のため、プレス加工により多数の小孔を明けることは容易である。
接着剤8はエポキシ系接着剤として説明したが、シリコーン系接着剤でもよい。エポキシ封止樹脂4とシリコーン系接着剤とは接着性が悪いとされており、回路基板7の接着時に発生するベーパが部材に残存すると、封止樹脂4と各部材との間の接着力低下が懸念される。
しかしながら、接着硬化時に槽の排気を十分に行い、ベーパが残存しないよう配慮することで回避可能である。シリコーン系接着剤は、エポキシ系接着剤より弾性率が小さい物性値を有し、回路基板7とベース2との線膨張係数差による熱応力を吸収できる利点がある。
図24は、回路基板7の所定配線パターンにペーストはんだを印刷した後、回路素子6、ボンディングパッド10等の部品を搭載し、リフロー炉ではんだを溶融させ、室温で固化させて電気的接合を行った電子回路組立体5を、ベース2とリードフレーム3との結合体に接着した完成状態を示す。
図25はワイヤボンディング作業の治具と図24のIV− IV線に沿う断面を示す断面図である。はんだ接合工程が終了し、ベース2とリードフレーム3との結合体に電子回路組立体5が接着された状態の組立体を、ワイヤボンディング治具16の下治具16aに載せる。
次いで上治具16bによりベース2とリードフレーム3を押さえ、図示しないクランプ治具を用いて両者が上下方向と平面方向に動かないように固定する。ワイヤボンデング作業は熱圧着、超音波等、任意の方式を採用し、アルミ材の細線9により回路基板7のボンディングパッド10とリード端子3aとの間を電気的に接続する。
図26は図24のP部分(結合部)詳細を示す平面図、図27は図12のベース2に設置した小孔2gと、その具体的寸法を示す平面図、図28は高発熱素子6′をベース2に接合する場合の小孔2gの設置状況と、その具体的寸法を示す平面図である。図29は図27、28における小孔2gの具体的寸法を示す平面図である。
なお、ベース2に多数の小孔2gを設置した形状例で説明したが、使用環境温度範囲が比較的狭く、熱応力が小さい場合には小孔2gをなくしてもよい。このときには、接着剤8の印刷マスク、またはシート状接着剤の製作が容易となる。
図30〜図51は、本発明の電子回路装置の他の実施例を示す図である。図30は自動車用電子回路装置(コントロールユニット)1の平面図、図31および図32はそれぞれV−V線、VI−VI線に沿う断面図で、その見る方向を変えた一部断面側面図である。
フランジ部2dを有するベース2に、回路素子6および回路基板7からなる電子回路組立体5が搭載されている。この搭載は、回路基板7をベース2上に接着することで行われる。
リード端子3aは、外部の接続対象物(図示せず)とを電気的に接続するのに使用し、リード端子3aが外部対象物のハーネス・コネクタに嵌合、またはハーネス端子に溶接等で接続される。
電子回路組立体5とリード端子3aとは、熱圧着、超音波等のワイヤボンディング法でアルミ細線9を介して電気的に接続されている。電子回路組立体5をベース2上に接着し、電子回路組立体5とリード端子3aとをアルミ細線9で接続した後、回路素子6、回路基板7、ベース2、リード端子3aなどの部品を一括してモールド樹脂(以下、封止樹脂と称する)4中にリード端子3aの一部やフランジ2dの一部を除いて埋設する。
封止樹脂4は、トランスファモールド成形によって製作する。トランスファモールド成形は、一般に封止樹脂としてエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用する方法で、粉末を圧縮成形したタブレット状のエポキシ樹脂を、所定の温度、圧力を印加することにより融解させ、これを型内に流動および固化させるものである。この製法は、LSI(大規模集積回路)等のチップのパッケージとして広く採用されているものである。
封止樹脂4は、低線膨張係数を有する樹脂であり、内部部品を全体的に包む。封止樹脂4は、内部部品との密着力を常に所定値に保持するためと、はんだ付け部や半導体チップと回路基板との細線ワイヤボンディング接続部等に、熱応力によっての剥れおよび断線が生じないようにするために、最適な物性値が選定される。
自動車用の電子回路装置は、使用時の熱応力繰返しにより、封止樹脂4とリード端子3a、ベース2とのそれぞれの密着界面からの水、油等の浸入が懸念される。
その点については、リード端子3aおよびベース2と封止樹脂4との線膨張係数差を極力小さくし、それら部材間での熱応力を低減したり、リード端子3aおよびベース2に特殊な表面処理、例えば、アルミキレート処理を施し、樹脂と部材との境界部分で共有結合させる手法により解決可能である。
リード端子3aは、熱伝導の良い銅、または銅系の合金材が選定される。回路基板7はセラミック、ガラス・セラミック等の比較的線膨張係数の小さい材質が選定され、所定の回路パターンが形成されている。回路基板7が接着されるベース2は、線膨張係数が回路基板7および封止樹脂4に近いものを選定する。
例えば、インバー(鉄64%−ニッケル36%の合金)の両面に銅を積層した材料、いわゆるクラッド材を選定したもので、両金属の厚さ比率を変え、所望の合成された線膨張係数を得る。ちなみに材料単独での線膨張係数は、インバーは約1ppm/℃、銅は16.5ppm/℃である。
線膨張係数を小さくする場合には、銅の厚さを薄くインバーの厚さを厚くすることになる。このためこの実施例では、例えば、回路基板7の線膨張係数を7ppm/℃、封止樹脂4の線膨張係数を8ppm/℃とすると、クラッド材の線膨張係数を6.7ppm/℃としている。
この線膨張係数を得るクラッド材の一例として、ベース2の厚さが0.64mmの場合には、銅とインバーの厚さは各々0.128mm、0.384mmである。
回路基板7および封止樹脂4の線膨張係数に近い値のクラッド材の線膨張係数を6.7ppm/℃に選定すると、お互いの線膨張係数差が小さくなり、使用環境条件とくに温度変化の繰り返しによる熱応力が低減し、封止樹脂4のクラックや部材との密着界面剥離に対する抗力が増大する。
クラッド材は柔らかい銅と硬いインバーとを積層しているため、材料相互の硬さの差が大きく、プレスの打ち抜き加工性が悪い問題がある。一般にプレスの打ち抜き加工においては、その加工面は、だれ面、せん断面、破断面が形成されて所定の形状ができる。
しかし、クラッド材を打ち抜くときは、硬度差が大きく、かつ厚さの異なる薄板を重ねて同時に打ち抜く状態と等価で、前記だれ面、せん断面、破断面が曖昧となり、抜き端面で板間の結合部が剥離しやすい問題が生じる。
例えばインバーの硬さとしてはHv(ヴィッカース硬さ)200、銅はHv100程度であるが、前記リード端子3aは幅細部分が多数並ぶ形状であり、高精度で打ち抜き加工することが困難となる。
この対策として、本実施例では単純な形状で高精度を要しないベース2の部分をクラッド材とし、高精度を要するリード端子3aを銅または銅合金材とし、両者を塑性結合するものである。
ベース部分2とリード端子部分3aを、同一の銅合金材で一体にプレス加工するのが、一般的なリードフレームの構造である。しかし、その線膨張係数は17ppm/℃前後で、回路基板7および封止樹脂4に比して大きい。
そのために、使用時の熱応力繰り返しによる樹脂クラック、樹脂との密着界面剥離が発生しやすい。とくにベース部分2は広い面積で、封止樹脂4との密着界面に働く熱応力が大きい。リード端子3aは小面積であり、問題とならないレベルである。
図32は電子回路装置の要部断面図であり、ベース部分2の上面には、回路基板7が接着剤8で接着される。全面を接着する構造では、接着剤と部材との界面を隙間なく接着することが困難で、接着剤の硬化時に界面に空気層が形成されたり、微小な気泡が多数接着剤中に残ったりする。
このため、トランスファモールド工程の熱により気泡が膨張して潰れ、接着部と封止樹脂4との密着界面付近で界面剥離する問題が発生しやすい。この問題を解決する接着方法の一例は後述する。
回路基板7には、図示されない配線パターンが形成され、また、基板上に回路素子6とボンディングパッド10がはんだ接続されている。ボンディングパッド10とリード端子3aには、熱圧着、超音波等のワイヤボンディング法によりアルミ材の細線9が各々電気的に接続されている。
回路基板7の材質は、回路素子6の大部分を占めるシリコンチップに近い線膨張係数を有したもので、かつ封止樹脂4との線膨張係数差が小さいものがよい。回路規模が大きくなると小型化するには多層の回路基板が好ましく、セラミックやガラス・セラミック基板が好適である。放熱性を重視する場合には、熱伝導率の大きいセラミック基板がよい。
図33はベース2とリードフレーム3とを結合し、一体化した形状を示すものである。ベース2は、基板接着部2′、フランジ部2d、係合部2e、位置決め孔部2f、突起部2nを有した形状である。
リードフレーム3は、リード端子3a、ボンディングパッド部3b、つなぎ部3c、フレーム部3d、係合部3f、応力吸収部3s、切り欠き3pからなり、これらを各々プレス加工で製作する。そして両係合部2e、3fで塑性結合し、一体化する。結合方法、応力吸収部3sの効果、別の形状例については後述する。
アルミ材の細線9をワイヤボンディング接続するためのボンディングパッド部3bには、その表面が酸化されないようにニッケルメッキ、銀メッキ等が部分的に施される。フランジ部2dは相手部材に固定するためであり、4個の孔2fは組立時の治具に位置決めするために設けたものである。
切り欠き3pは方向性を決めるもので、製作誤差で生じるトランスファモールド型との嵌合誤差を少なくする目的で設けている。また、回路基板7を接着し、所定の工程を経て電子回路組立体5のワイヤボンディング作業が終了した状態の組立体を、この型にセットする際、逆方向にならないようにする目的も兼ねている。この切り欠き3pは、リードフレーム3が対称形状の場合、表裏が識別できる任意の形状、位置を選定すればよい。
なお、つなぎ部3cとフレーム部3dとフランジ部2dとで閉ループ構成になっている理由は、この部分をトランスファモールド成形型で上下から締め付けることにより、封止樹脂4でトランスファモールド成形した際、型内でエポキシ樹脂が融解して液状になったとき、この閉ループ部の外側に洩れないようにするためである。
嵌合するリード端子3aの幅細部分とモールド型との間には、嵌合隙間ができるため、この部分で液状のエポキシ樹脂が外部に洩れるが、閉ループ構成となっていることにより、そのループ内で硬化後に薄いバリとして残る。
そしてこの成形後、バリを除去し、リードフレーム3のつなぎ部3c、フレーム部3dを切断し、複数の独立したリード端子3aを形成するとともに、ベース2のフランジ部2dを所定の形状に窓抜き加工、および折り曲げ加工することにより、コントロールユニット1が完成する。
図34はベース2とリードフレーム3とを結合した部分の1例の詳細図、図35は図34のVII− VII線断面を示すものである。
ベース2に設けた係合部2eは凹状で、リードフレーム3の凸状係合部3fと嵌合している。これら凹状、凸状の一部には平面方向に係止できるよう、各々傾斜部を設けている。
そしてプレス荷重の印加により、係合部3fを厚さ方向に潰し、凹所13を形成して材料の塑性流動により結合する。各係合部の凹凸形状をお互い逆に設置しても同じ結合効果は得られる。
インバー2aの硬さはリードフレーム3より硬いので、リードフレーム3に形成した凸部を潰しても問題ない。しかしながら、とくにリードフレーム3の材質が比較的硬い銅合金で、インバー2aの厚さが薄く、銅2b、2cが厚い場合には、凹部をベース2に形成すると、係合部が外側に開いてしまう問題が生じる。
したがって、銅とインバーのクラッド材の厚さ比率、リードフレーム3の材質硬度に応じ、凹部13をリードフレーム3か、ベース2の何れかに形成することが必要である。
この実施例ではこれを考慮し、リードフレーム3は、クラッド材のインバー部分2aより硬度の低い材料を選定している。一例として、Hv(ヴィッカース硬さ)150の銅合金である。
ベース2のクラッド材はインバー2a、銅2b、2cからなり、周知のように所定の温度と圧力を印加して積層形成したもので、金属材料間の拡散で強固に結合されている。
リードフレーム3の凸部を潰して凹所13を上下に形成することにより、材料は塑性流動を起し、平面方向の嵌合隙間が埋められ、ベース2とリードフレーム3とが結合される。
凹所13を形成する方法の一例を図41に示す。下型11、上型12は、段付き形状を有している。上下方向から荷重を印加すると、リードフレーム3の凸状係合部分3fが潰され、凹所13が形成される。
所定の荷重が印加されたとき、型11,12の段付き部分がリードフレーム3の上下面、およびベース2の上下面に当接するプレス条件に設定しておく。当接しないと、銅部分2b、2cが嵌合部近傍で局部的に厚さ方向に盛り上り、厚さ方向のゆがみが生じる恐れがある。なお、この凹所13は角形状であるが、円形状、あるいは傾斜部に沿った台形状等、任意の形状を採り得る。
図面では材料の厚さを同一で表しているが、ベース2とリードフレーム3のいずれかを厚くしてもよい。放熱性を高める必要がある場合には、ベース2を厚くするのが効果的である。また、リード端子3aをコネクタ接続する場合には、相手側雌端子の適合厚さに合わせることができる。
図37はパッケージする前のリードフレーム3の形状、図38はパッケージする前のベース2の形状を示す平面図であり、各々プレスの打ち抜き加工で製作する。
リードフレーム3は、リード端子3a、ボンディングパッド部3b、つなぎ部3c、フレーム部3d、応力吸収部3s、切り欠き3p、係合部3fを有している。点線で結んだ部分は、連続してプレス加工するための空き部分である。
ボンディングパッド部3bには、酸化防止のためニッケルメッキ、銀メッキ等が必要であるが、プレス加工前の材料状態で、帯状に部分的に施しておいてもよいし、プレス加工後に部分メッキしてもよい。
ベース2は、電子回路組立体5が搭載、固定される基板接着部2′、リードフレーム3との係合部2e、フランジ2d、位置決め孔2f、突起部2nを有している。リードフレーム3と同様に、連続してプレス加工するための空き部分を設ける形状にしてもよい。
このように、ベース2とリード端子3aとを異種材料で製作した後、両者を塑性結合で一体化したため、回路基板7や封止樹脂4の物性値、放熱性の要求レベルや相手側コネクタ端子に応じて、ベース2とリード端子3aの材料を最適な線膨張係数、熱伝導率および厚さで選定できることになる。これは同一の銅合金材でリードフレームを構成する従来のものでは達し得なかった、大きな効果である。
次に前述の応力吸収部3sの作用について説明する。
ベース2とリードフレーム3とを結合したベースリードフレーム組立体は、後述のはんだリフロー炉を通す際、200数十℃の高温に数分間曝される。リードフレーム3は銅または銅合金で、その線膨張係数は約17ppm/℃、ベース2の線膨張係数は6.7ppm/℃であり、両者の線膨張係数差と温度差に応じた熱応力が結合部に作用する。
室温で結合した状態では、ベース2とリードフレーム3とが同一平面に形成されているが、リードフレーム3の線膨張係数がベース2より大きいので、リードフレーム3が外側に伸びようとする。
しかし結合部で規制されているため、その部分には応力が働くことになり、これが過大な場合には、ベース2が捩られるような力が作用する。回路基板7とベース2との線膨張係数差は小さいため、その熱応力による反り発生は少ないが、捩れによる力が加わると、接着部分で剥れが生じやすくなる。
この熱応力を吸収するのが応力吸収部3sである。応力吸収部3s他のフレーム部分より幅細に形成し、リードフレーム3に捩れを生じさせ、その伸びによるベース2の変形(捩れ)を防止するものである。リードフレーム3に捩れが発生しても、室温では元に戻るため実害はないが、ベース2の捩れは防止する必要がある。
応力吸収部分3sの形状を示している図37の点線で囲んだP部分は、図39、図40のように種々の形状をとり得る。図39は、幅細部分Sa、溝Sbを設けた形状である。
図40は、傾斜した幅細部分Scを設けた形状である。リードフレーム3の材質、板厚、大きさ等を考慮し、適した形状を選定する。図示形状に限定するものではなく、任意の形状を決定し得る。
図41は、結合部を示す他の具体例の詳細図で、図34に対応するものである。リードフレーム3の係合部3fを凹状、ベース2の係合部2eを凸状とし、この凸部分を潰して凹み部13を形成し、両者を塑性結合する。
リードフレーム3の材質が比較的硬い銅合金で、インバー2aの厚さが薄く、銅2b、2cが厚い場合に、この構造が好適で、銅2b、2cに凹み部13を形成する。
図42は回路基板7を接着する治具の一例を示す平面図、図43はそのVIII− VIII線に沿う断面図である。
全面を接着する構造では、接着剤と部材との界面を隙間なく接着することが難しく、接着剤の硬化時に界面に空気層が形成されたり、微小な気泡が多数接着剤中に残ったりしやすい。このため、トランスファモールド工程の熱により気泡が膨張して潰れ、接着部と封止樹脂4との密着界面付近で界面剥離する問題が発生しやすかった。
しかしながら、接着作業工程で、接着剤8を例えば数十μm厚さのエポキシ接着剤シートとし、回路基板7の上面から押圧荷重を加え、所定の温度と時間を印加する方法により、前記の問題点は解決できる。
まず接着治具20の上面に、ベース2とリードフレーム3とを結合した組立体を載置する。接着シート8′をベース2に置き、その上に回路基板7を載せる。そして治具21で回路基板7の上面に荷重を印加する。この状態で所定の温度と時間をかけ、接着シート8′を融解、硬化して接着工程が終了する。
回路基板7の材質は、ガラスセラミック、セラミックのため、ヤング率が高く荷重を印加した際、割れやすいので、接着シート8′はこの点を考慮して、低い荷重で融解、硬化できる物性値を有したものを選定する。
また、回路基板7に形成されている導体パターンに傷がついたり、保護用のガラス膜が割れたりしないよう、凹凸吸収材として、例えばポリエステル樹脂フィルムを回路基板7の表面に載せておくとか、治具21の表面に、弾力性のある高耐熱性の樹脂をコーティングしておく等の配慮が必要である。
また、ベース2の反りが大きいと、前記接着工程で荷重を印加した際に、反りが矯正されたまま接着硬化し、荷重を除去した状態では矯正による反りを元に戻す応力が接着部分に作用することになる。
したがって、その応力で接着界面が剥れる問題が発生する。接着終了後の室温状態で剥れが生じていなくとも、とくに後述の電子回路素子6等をはんだ接合する工程では、200数十℃のはんだリフロー炉を通すため、接着強度の低下も加わって剥れが発生しやすい。
これを防止するには、ポリエステル樹脂フィルムを接着治具20上に載置し、ベース2の下面に当たるようにしておく。これにより前記反りの矯正量を減らすものである。しかしながらあまり反りが大きいと、その防止効果がなくなるので、所定値以下の反りとなるように製作時の管理を行う必要がある。
ここで接着シート8′の選定例について説明する。
エポキシ系の接着剤を主体とし、厚さが50〜200μmのもので、回路基板7より若干狭い面積寸法とする。一般にこの種の接着シート材料は、数十μm厚のポリエステル樹脂フィルムでシート状接着剤の両面を挟む構造である。
このフィルムの片面を剥し、この面をベース2に載せ、反対面のフィルムを介して上面からローラで押圧するか、プレス機で押圧して仮接着する。この際、完全硬化条件として、例えば150℃で1時間のものであれば、50℃の雰囲気で数秒押圧して仮接着した後、一次接着として150℃で3分間加熱、加圧し、150℃で1時間の本硬化を行う。また、仮接着せず一次接着工程に移ってもよい。
液状の接着剤では既に述べたように、硬化時に界面に空気層が形成されたり、微小な気泡が多数接着剤中に残ったりするが、圧力を印加しながら高温度でシート状の接着剤を硬化させると、この問題は解決できる。
図44はベース2に設けた突起部2nを含む接着部の詳細断面図である。
本実施例の構造では、回路基板7を多層のセラミックまたはガラス・セラミック基板としており、裏面(下面)にも回路パターン、印刷抵抗体が形成されている。
周知のように印刷後の抵抗値は数十%の誤差が生じるので、この抵抗値を所定の精度内に収めるためにトリミング作業を施す。この作業を行うには、各抵抗体に対して独立した導体パターンを形成しておき、これらのパターン間の抵抗値を測定しながら、レーザ光の熱を利用してトリミングする。
トリミング作業が終了した後、トリミング用のパターンを露出してその他の部分に保護膜を形成する。この保護膜としてはエポキシ樹脂が使用されている。前記トリミング用のパターンを露出している理由は、完成後の状態で抵抗値を測定できるようにし、メーカでの品質管理や、納入先の受け入れ検査でのロット管理等に利用するためである。
また、保護膜を低融点ガラスとした場合には、抵抗印刷を行なって焼成した後、トリミング用のパターンを除いた裏面の所定領域に、連続して保護膜を施すことが行われる。そして前記トリミング作業は、低融点ガラスと抵抗とをレーザ光の熱で同時に融かしながら、同様にトリミング用のパターンを利用して行われる。
トリミング用のパターンが露出しているため、ベース2に接着する際には、露出面がベース2に接触しないようにするとともに、所定の絶縁距離を確保する必要がある。図44において、トリミング用パターン7aは、回路基板7の裏面に形成されている。突起部2nはベース2のクラッド材の銅部分2bに形成され、絶縁距離を確保するために設けられている。
図45は突起部2nの詳細を示す図で、2uは、くぼみ部分、2vは、突起部2nに対向してベース2の反対面に形成されたくぼみ部分、H2はベース2の上面から突起部2nまでの高さ寸法である。これらを形成する方法について、図46、47で説明する。
下型40にベース2を載置し、上型41で矢印方向にプレスする。上型41には凹部が、下型には凸部がそれぞれ設けられている。このため、プレス荷重によって下側銅部分2cに凹み部分所2vが形成されると同時に、上側銅部分2bが塑性流動し、突起部2nが形成される。
突起部2nの高さH2は、接着シート8′に回路基板7が載置され、一次接着工程で加熱、加圧されたとき、トリミング用パターン7aがベース2に接触せず所定の絶縁距離を確保できる寸法、例えば50μm前後を選定する。また、この突起部2gの直径は1mm前後である。
図33に示したように、突起部2nは4箇所設置されており、回路基板7の端部付近に位置している。この端部付近は、回路基板7の裏面パターンが形成されていない部分である。保護膜の厚さは部位によってばらつきが大きく、これを含めた部分に突起部2nが位置すると、所定距離のばらつきも大きくなる欠点がある。
接着工程を終了した後、回路基板7の所定配線パターンにペーストはんだを印刷し、回路素子6、ボンディングパッド10等の部品を搭載し、リフロー炉ではんだを溶融、室温で固化させて電気的接合を行う。図48に、その完成状態を示す。
図49はワイヤボンディング作業の治具を示す平面図、図50はそのIX− IX線に沿う断面図である。
はんだ接合工程が終了した組立体を、ボンディング治具16の下治具16aに載せる。次いで上治具16bによりベース2とリードフレーム3を押さえ、図示しないクランプ治具を用いて両者が上下方向と平面方向に動かないように固定する。
ワイヤボンデング作業は熱圧着、超音波等、任意の方式を採用し、アルミ材の細線9により回路基板7のボンディングパッド10とリード端子3aとの間を電気的に接続する。
図51は結合部の詳細と応力吸収部分とを示す平面図である。この実施例によれば、熱応力によるモールド樹脂と回路基板、ベース、リードフレームとの界面剥離や樹脂クラックのない、安価な自動車用電子回路装置を実現できる。
本発明の電子回路装置の他の実施例を図52〜図65によって説明する。
図52は自動車用電子回路装置(コントロールユニット)1の平面図、図53および図54は図52のX−X線およびXI−XI線に沿ってその見る方向を変えた一部断面側面図である。
フランジ部2dを有するリードフレームユニット23に、回路素子6および回路基板7からなる電子回路組立体5が搭載されている。リードフレームユニット23は、電子回路組立体5が取り付けられるベース2と、リード端子3aを支持するリードフレーム3からなっている。この搭載は、回路基板7をリードフレームユニット23上に接着することで行われる。回路基板7は、ベース2の中央部を部分的に盛り上げた領域に、その部分のみを接着する構造である。この構造については後述する。
リード端子3aは、外部の接続対象物(図示せず)とを電気的に接続する場合には、リード端子3aが外部対象物のハーネス・コネクタに嵌合、またはハーネス端子に溶接等で接続される。
電子回路組立体5とリード端子3aとは、熱圧着、超音波等のワイヤボンディング法でアルミ細線9を介して電気的に接続されている。
電子回路組立体5をリードフレームユニット23上に接着し、電子回路組立体5とリード端子3aとをアルミ細線9で接続した後、これらの部品(回路素子6、回路基板7、リードフレームユニット23、リード端子3a)を一括してモールド樹脂(以下、封止樹脂と称する)4中にリード端子3aの一部やフランジ2dの一部を除いて埋設する。
封止樹脂4は、トランスファモールド成形によって製作する。トランスファモールド成形は、一般に封止樹脂としてエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を使用する方法で、粉末を圧縮成形したタブレット状のエポキシ樹脂を、所定の温度、圧力を印加することによって融解させ、これを型内に流動および固化させるものである。この製法は、LSI(大規模集積回路)等のチップのパッケージとして広く採用されている。
封止樹脂4は、所定の線膨張係数を有する樹脂であり、内部部品を全体的に包む。封止樹脂4は、内部部品との密着力を常に所定値に保持するため、また、はんだ付け部や半導体チップと回路基板7との細線ワイヤボンディング接続部等に、熱応力によっての剥れおよび断線が生じないようにするため、最適な物性値が選定される。
自動車用の電子回路装置は、使用時の熱応力繰返しにより、封止樹脂4とリード端子3a、リードフレームユニット23とのそれぞれの密着界面からの水、油等の浸入が懸念される。その点については、リード端子3aおよびリードフレームユニット23と封止樹脂4との線膨張係数差を極力小さくし、それら部材間での熱応力を低減したり、リード端子3aおよびリードフレームユニット23に特殊な表面処理(例えばアルミキレート処理)を施し、樹脂と部材との境界部分で共有結合させる手法により解決可能である。
リードフレームユニット23およびリード端子3aは熱伝導の良い銅、または銅系の合金材が選定される。回路基板7はセラミック、ガラス・セラミック等の比較的線膨張係数の小さい材質が選定され、所定の回路パターンが形成されている。
リードフレームユニット23を構成するベース2,リードフレーム3、リード端子部分3aを、同一の銅合金材で一体にプレス加工するのが一般的な構造であるが、その線膨張係数は17ppm/℃前後で、回路基板7および封止樹脂4に比して大きく、使用時の熱応力繰り返しによる樹脂クラック、樹脂との密着界面剥離が発生しやすい。
特に、リードフレームユニット23は広い面積で、封止樹脂4との密着界面に働く熱応力が大きい。リード端子部分2aは小面積であり、本願の実施例構造では問題とならないレベルである。
図54は電子回路装置の要部断面図であり、リードフレームユニット23の上面には、回路基板7が接着剤8で接着される。回路基板7は、リードフレームユニット23の中央部を部分的に盛り上げた領域に、その部分のみを接着する構造である。一般には基板をリードフレームユニット23に接着する場合、全面接着する構造であるが、この実施例では部分的に接着する。
全面を接着する構造では、接着剤と部材との界面を隙間なく接着することが難しく、接着剤の硬化時に界面に空気層が形成されたり、微小な気泡が多数接着剤中に残ったりする。このため、トランスファモールド工程の熱により気泡が膨張して潰れ、接着部と封止樹脂4との密着界面付近で剥離が発生しやすい。
この構造ではリードフレームユニット23に多数の小孔2gを設け、その部分に封止樹脂4が充填されるようにしている。この小孔2gの存在により、回路基板7の面積相当部分のリードフレームユニット23が低い剛性で構成されることとなる。
剛性が低いことは、封止樹脂4との線膨張係数差による熱応力を吸収しやすく、かつ多数個分散して小孔2gが設けられているため、部材との密着界面での剥離防止効果が非常に大きくなる利点がある。
さらに、小孔部分2gに封止樹脂4が充填されると、局部的な剥離が生じた場合には、隣の小孔部分の樹脂が防波堤のような作用をし、剥離進展が抑止される。なお、小孔2gの一部は、後述する回路基板7の接着工程と、アルミ材細線8のワイヤボンディング工程での治具が挿入される孔を兼ねている。
回路基板7には、図示されない配線パターンが形成され、また、基板上に回路素子6とボンディングパッド10がはんだ接続されている。ボンディングパッド10とリード端子3aには、熱圧着、超音波等のワイヤボンディング法によりアルミ材の細線8が各々接続されている。
回路基板7の材質は、回路素子6の大部分を占めるシリコンチップに近い線膨張係数を有したもので、かつ封止樹脂4との線膨張係数差が小さいものがよい。回路規模が大きくなると小型化するには多層の回路基板が好ましく、セラミックやガラス・セラミック基板が好適である。放熱性を重視する場合には、熱伝導率の大きいセラミック基板がよい。
図55はリードフレームユニット23の形状を示す平面図である。リードフレームユニット23は、基板接着部2′、リード端子3a、ボンディングパッド部3b、つなぎ部3c、フランジ部2d、フレーム部3d、切り欠き3p、位置決め孔部2f、多数の小孔2gを有している。小孔2gは、ほぼ回路基板7の面積相当に分散して設け、前記した界面剥離防止効果を達している。
アルミ材の細線9をワイヤボンディング接続するためのボンディングパッド部3bには、その表面が酸化されないようにニッケルメッキ、銀メッキ等が部分的に施される。フランジ部2dは相手部材に固定するため、位置決め孔2gは組立時の治具を位置決めするために設けたものである。
切り欠き2fは方向性を決めるもので、製作誤差で生じるトランスファモールド型との嵌合誤差を少なくする目的で設けている。また、回路基板7を接着し、ワイヤボンディング作業が終了した状態の組立体を、この型にセットする際、上下が逆方向にならないようにする目的も兼ねている。この切り欠き3pは、リードフレームユニット23が対称形状の場合、表裏が識別できる任意の形状、位置を選定すればよい。
なお、つなぎ部3cとフレーム部3dとフランジ部2dとで閉ループ構成になっている理由は、この部分をトランスファモールド成形型で上下から締め付けることにより、封止樹脂4をトランスファモールド成形した際、型内でエポキシ樹脂が融解して液状になったとき、この閉ループ部の外側に洩れないようにするためである。
嵌合するリード端子3aの細幅部分とモールド型との間には、嵌合隙間ができるため、この部分で液状のエポキシ樹脂が外部に洩れるが、閉ループ構成となっていることにより、そのループ内で硬化後に薄いバリとして残る。
そして、この成形後、リードフレームユニット23のつなぎ部2c、フレーム部2dを切断し、複数の独立したリード端子3aを形成するとともに、フランジ部2dを所定の形状に窓抜き加工、および折り曲げ加工することにより、コントロールユニット1が完成する。
図56はリードフレームユニット23に設けた基板接着部2wの詳細を示す平面図で、図57はそのXII− XII線に沿う断面図である。
蝶形の窓2p、細幅小窓2q、傾斜部2r、水平方向に伸びる接着領域2sが形成されている。傾斜部2rは、蝶形の窓2pと細幅小窓2qとの間を狭く形成しているため、剛性が低く一種の板ばねのように作用する。これは接着剤8で回路基板7が接着され、封止樹脂4でモールドされた後の使用状態において、お互いの部材の線膨張係数差に起因する熱応力による接着剥れを防止する効果を目的としたものである。
図58は回路基板7を接着する治具の一例を示す平面図、図59はそのXIII−XIII線断面図である。
リードフレームユニット23を接着治具15の上に位置させ、これを離すと位置決め孔2fにピン15aが貫通する。次いでリードフレームユニット23に多数設けられた小孔2gの一部に、ピン15bが貫通し、そして接着治具15の上面に、リードフレームユニット23の下面が接する。
ここで、ピン15aは2本設置しているが、位置決め孔2fの4箇所全部に貫通するよう、4本設置してもよい。
その後接着剤7をリードフレームユニット23の接着領域2sに塗布する。そして回路基板7を載せると、ピン15bの頭部に接して止まる。このピン15bは、回路基板7の四隅部分に位置するよう、実施例では4本設置している。接着剤8を塗布する作業は、接着治具15に搭載する前に実施しておいてもよい。
回路基板7の上面の一部に荷重を印加し、同時に平面方向に往復微動を行うことにより、接着剤8を回路基板7および接着領域2sとなじませるのが効果的である。なお、回路基板7の平面方向位置決めは図示していないが、小孔2gに貫通する任意形状のピンを設けることにより容易に構成できる。
接着治具15には、ピン15a、15bを多数設置し、同時に多数の回路基板7を接着できるように準備する。所定の温度と時間を加えることにより、接着剤7の硬化が完了する。
図60はワイヤボンディング作業の治具を示す平面図、図61はそのXIV− XIV線に沿う断面図である。
接着硬化工程が終了した組立体を、ボンディング治具16の下治具16aに載せる。まずリードフレームユニット23の位置決め孔2fにピン16cが貫通すると、リードフレームユニット23の下面が下治具16aの上面に当接する。次いで上治具16bでリードフレームユニット23とリード端子部3aを押さえ、図示しないクランプ治具を用いて両者が上下方向と平面方向に動かないように固定する。
その後、回路基板7の下面にピン16dの頭部が接するように、ピン16dを押し上げる。ロック機構を組み合わせることにより、その位置でピン16dを静止きせることは容易である。(図示せず)ピン16dは、回路基板7の四隅4箇所と、ボンディングパッド9付近の下面2箇所、合計6本設置している。
ワイヤボンディング作業では、細線9が貫通したボンディング用のキャピラリにより、数百グラムの荷重で回路基板7が押圧されるが、ピン16dで支持しているため押圧荷重で回路基板7が変形するのを防止できる。
ワイヤボンデング作業は熱圧着、超音波等、任意の方式を採用し、アルミ材の細線9で回路基板7のボンディングパッド10とリード端子3aとの間を電気的に接続する。
前記した接着作業、ワイヤボンディング作業において、治具を簡単にするために、例えば回路基板7の四隅部分が支持できるよう、リードフレームユニット23の上面に小さな突起を設けることが考えられる。
しかしながら後述するように、熱応力の繰り返しで突起付近の封止樹脂4とリードフレームユニット23との界面での剥離が大きく進展することが判明した。したがって支持部は設けずに、前述したような治具を使用することが、剥離防止の点から必要である。図62はリードフレームユニット23の小孔2gの詳細図である。
図63は、リードフレームユニット23の小孔2gの設置部分を、これとは異なる形状の孔として熱衝撃試験を実施し、界面剥離発生の進展度合を本願構造と比較した結果のグラフである。剥離部位は、図54に示されている。また、それぞれのリードフレーム形状を図64に、基板四隅支持部の寸法を図65に示す。
サンプルの仕様は表1に示す。
剥離の確認は超音波探査撮像装置を用いる方法で行った。この方法は測定対象物を水中に浸漬しておき、超音波探査子で測定したい部位に焦点を合わせて超音波を当て、部材の物性値とその反射波が帰ってくる時間とから所定の信号処理を行い、剥離有無を判定するものである。
剥離があるときと、ないときとで反射波が帰ってくる時間に差が生じ、対象物の投影面全面を走査することにより、剥離のない部分とある部分とをカラー表示で区別するものである。
剥離面積率は、基板の面積に対する剥離面積の%比率で、サンプル各3個の平均値を表示した。
剥離部位は、全て図54に示すように回路基板7の下側封止樹脂4とリードフレームユニット23の上面との界面であった。
本実施例の構造によるサンプルAのものは、剥離進展が非常に少ない結果であった。その他の仕様は、初期には剥離がないものの、サイクル数が増加するにしたがって剥離が生じ、徐々にこれが拡大進展した。とくにサンプルDでは、短いサイクル数で100%の剥離となった。
サンプルDはスリットを多数設置しているため、剛性はサンプルCより低いにもかかわらず、急激に剥離進展する理由は、界面応力の最大となる中央部分にスリットがあり、この舌片状部分で剥離が生じると、熱応力の繰り返しによりこれを起点に進展するものと考えられる。
サンプルBでは、1000サイクル時点で剥離面積が20%程度で、本願の小孔の5%より悪いものの、実用的には許容できるレベルである。このことから、小孔を多数設置することにより、剥離防止効果のあることが分る。
サンプルCでは、200サイクル以上から急激に剥離が進展し、約500サイクルで100%の剥離となった。大きい孔が2個で、サンプルAより剛性が高いため、短サイクルではある程度密着が維持されるものの、剥離が発生するとこれを起点として進展するものと考えられる。
サンプルEでは、基板四隅支持部20の付近に剥離が集中したが、50サイクル以上での進展度合は緩やかな変化であった。このサンプルは小孔を多数設けているにもかかわらず、基板支持部20の存在により剥離が進展するものである。この理由について以下説明する。
基板支持部20はリードフレームユニット23の一部をプレスの絞り加工で形成したが、その周囲の平面部分と合わせ、局部的に剛性の高い領域ができるため、封止樹脂4との界面に働く熱応力変化を吸収できず、剥離が発生するものと考えられる。サイクル数が増えても剥離進展度合が少ない理由は、剥離に伴って応力が開放されるためと、多数の小孔の存在によるリードフレームユニット23の低剛性の影響である。
前記小孔2gの径は小さく、かつ多いほど熱応力分散は期待できるが、トランスファモールド成形時の封止樹脂4が流動する際、小孔2gに存在している空気を押しのけ、樹脂充填に切り替わるときに空気の排出がスムーズに行われない問題がある。
この排出が不完全の場合には、空気薄膜がリードフレームユニット23の付近に形成されると、初期的な剥離として現われる。また、隣りあった孔との距離が、リードフレームユニット23の厚さより短いと、プレスの加工性が悪いため、孔径と個数には限度がある。
実験結果では、孔径1.5mm、個数314のときは、5個成形して全数初期剥離は生じなかった。また、孔径1mm、個数473のときは、5個中2個初期剥離が生じた。この結果から孔径は1.5mm以上、個数は314以下、さらにサンプルBの結果と合わせると、孔径5mm以下、個数は26以上が最適条件と考えられる。
本実験結果は、回路基板7の大きさが35mmm×46mmのときであり、これを基板面積10cm2当りの個数で換算すると、下記で表される。
基板面積=35×46=1610mm2=16.1cm2
基板面積10cm2当りの孔個数=(26〜314)/16.1
=1.6〜195個となる。
したがって、封止樹脂4の大きさ、回路基板7の大きさが変わる場合には、リードフレームユニット23に設置する小孔2gの大きさと個数は、前記換算値を適用して決定すれば、界面剥離の発生しないエポキシ樹脂封止パッケージを構成できる。
1…電子回路装置、2…ベース、2‘…基板接着部、2d…フランジ部、2e…ベースの係合部、2f…位置決め孔、2g…小孔、2h…堰きとめ部、2i…突起部、2j…基板位置決め孔、2k…溝、2m…窓、2n…突起部、2p…窓、2…q細幅小窓、2r…傾斜部、2s…水平方向に伸びる接着領域、2w…接着部、3…リードフレーム、3a…リード端子、3b…ボンディングパッド部、3c…端子間つなぎ部、3d…フレーム部、3e…つなぎ部、3f…リードフレームの係合部、3g…送り孔、3s…応力吸収部、4…封止樹脂、5…電子回路組立体、6…回路素子、7…回路基板、7a…トリミング用パターン、8…接着剤、8′…接着シート、9…アルミ細線、23…リードフレームユニット。