JP2007039407A - 糖尿病性腎症治療・予防剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】 人体に対する安全性が高い糖尿病性腎症治療・予防剤を提供する。
【解決手段】 イカの硬組織の物理的処理物、又は化学的処理物を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病性腎症治療・予防剤。イカの硬組織の例として、貝殻と腱が挙げられる。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤には、血糖値を下げる作用はほとんどなく、専ら腎症に対してのみ効果を発揮するので、血糖値を下げる必要がない場合に特に有用である。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤は、機能性食品や医薬として使用することができる。
【選択図】 図5
【解決手段】 イカの硬組織の物理的処理物、又は化学的処理物を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病性腎症治療・予防剤。イカの硬組織の例として、貝殻と腱が挙げられる。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤には、血糖値を下げる作用はほとんどなく、専ら腎症に対してのみ効果を発揮するので、血糖値を下げる必要がない場合に特に有用である。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤は、機能性食品や医薬として使用することができる。
【選択図】 図5
Description
本発明は糖尿病性腎症治療・予防剤に関し、さらに詳細には、イカの硬組織の物理的処理物、又は化学的処理物を有効成分として含有する糖尿病性腎症治療・予防剤に関する。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤は、機能性食品又は医薬として使用することができる。
近年、食生活の欧米化が進み、それに起因すると考えられる糖尿病、肥満、動脈硬化等の生活習慣病が増加している。これらの発症増加は遺伝的なものではなく、主に環境因子によるものである。例えば、高脂肪食や高カロリー食の摂取による脂質代謝異常が、血中脂質上昇、インスリン抵抗性の発症、脂肪細胞肥大化、インスリン分泌不全等の原因となっている。その結果、糖尿病、肥満、動脈硬化等が高確率で発症し、病態の進展へとつながっている。
糖尿病は、インスリンの作用不足による高血糖が引き起こす複合疾患である。特に、インスリン非依存型糖尿病(インスリン抵抗性糖尿病、2型糖尿病)は、環境因子が引き金になって発病するとされ、過食や肥満が大きな原因の一つである。例えば、肥満のために膵臓のインスリン分泌量が激増した結果、逆に膵臓が疲労してインスリン分泌量が減少し、結局インスリンの作用不足となり高血糖となる。あるいは、脂肪の増加によってインスリン受容体が減少し、その結果、インスリンの作用不足となり高血糖となる。逆に、インスリンの作用不足から生まれる余剰のグルコースが脂肪となって蓄えられ、さらに肥満が進むこととなる。このように、肥満と糖尿病はその発症メカニズムにおいて密接に関係している。
糖尿病は、他の疾患との合併症を引き起こすことが多い。糖尿病合併症の例としては、動脈硬化、神経障害、網膜症、腎症が挙げられる。この中で、腎症(糖尿病性腎症)は、高血糖状態が続くことによって糸球体の毛細血管が損傷を受け、腎臓のろ過機能が侵されることによって発症する。糖尿病性腎症が発症すると、ろ過機能の不調によってタンパク質が尿中に排出されるネフローゼ症候群や、血中に老廃物がたまる尿毒症が引き起こされ、最終的には腎不全となり、永続的な人工透析が必要となることがある。このように、糖尿病性腎症は、人間のQuality of Life(QOL)に重大な影響を及ぼすおそれがある疾患である。
また、糖尿病の進行、及びその合併症の発症に、酸化ストレスが深く関与していることが多くの研究により明らかにされている(非特許文献1)。例えば、糖尿病モデルマウスに抗酸化剤の1つであるアスタキサンチンを投与すると、尿中の8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OHdG)量が減少し、同時に腎糸球体領域におけるメザンギウム細胞の増殖が抑制された旨が報告されている(非特許文献2)。なお、8−OHdGは酸化ストレスにより尿中に多く排出される物質である。また、メザンギウム細胞は腎症を起こしている腎臓の糸球体領域において異常な増殖がみられ、腎機能に障害を与えるものである。
糖尿病の治療には、カロリー制限を主体とする食餌療法と、カロリー消費を目的とする運動療法が主に用いられている。さらに、症状に応じて、ビグアナイド薬、スルホニル尿素薬、グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン誘導体等による経口血糖降下剤による薬物療法が行なわれる。これらの薬物は、主に化学合成品である。
一方、化学合成品ではなく天然素材を原料とした食品や医薬は、一般に、副作用が小さく人体に対する安全性が高いと考えられている。例えば、特許文献1には、乳酸菌の培養物を有効成分とした糖尿病合併症予防・改善・治療剤が開示されており、その適応症の1つに、糖尿病性腎症が例示されている。
天然素材を食品や医薬に使用するためには、安価でかつ安定的に供給されるものであることが望まれる。このうち、イカは豊富な海洋資源の1つであり、食品や医薬に使用するための天然素材として十分な資格を有している。イカの体内には、その体の中軸を支える硬組織がある。そして、イカの硬組織には大きく分けて2種類あることが知られている。1つは貝殻(甲、骨、舟ともいう)であり、主にコウイカ目に属するイカが持っているものである。イカの貝殻は、炭酸カルシウムを主成分としている。イカの貝殻は、中国では古くから喘息の薬と用いられているものであり、その安全性は確認されている。一方、もう1つの硬組織は腱(軟甲、ペン、筋、中骨ともいう)であり、主にツツイカ目に属するイカが持っているものである。イカの腱は、キチン質を主成分としている点で、貝殻とは性質を異にしている。
イカの貝殻は健康食品の原料としても利用されている。例えば、特許文献2には、イカの貝殻粉末からなる健康食品(易吸収性ミネラル含有健康食品)が開示されている。この健康食品は、貝殻の主成分である炭酸カルシウムの吸収性を高めたものである。また、イカの腱から調製したβキトサンを主成分とした健康食品が、すでに販売されている。
特開平7−51047号公報
特開2004−49212号公報
ジャネット・シュルツ・ジョハンセン(Jeanette Schultz Johansen)ら,カルディオバスキュラー・ダイアベトロジー(Cardiovascular Diabetology),第4巻,2004年,p5−15
内藤ら,バイオファクターズ(BioFactors),第20巻,2004年,p49−59
生活習慣病は、日常生活に気をつけることで予防することが可能と考えられる。特に、糖尿病のように重篤な合併症を引き起こすおそれがある生活習慣病は、発症してからでは遅く、特に予防をすることが大事である。そのためには、日常的に摂取することで糖尿病を予防することができる物質が求められる。さらに、化学合成品には副作用を示すものも多いため、日常的に摂取するためには、天然素材からなる食品や医薬が好ましいと考えられる。例えば、上記のイカの硬組織を利用した食品や医薬で糖尿病、特に糖尿病性腎症の予防や治療に効果があるものがあれば、きわめて有用である。しかし、イカの硬組織の糖尿病性腎症に対する効果は定かでなく、イカの硬組織を使用した糖尿病性腎症に対する治療・予防に有効な機能性食品や医薬は知られていない。
本発明の目的は、イカの硬組織を使用した、人体に対する安全性が高い糖尿病性腎症治療・予防剤を提供することにある。
本発明者らは、イカの硬組織である貝殻と腱の新たな効能を見出すべく、これらの硬組織の物理的処理物、及び化学的処理物を調製し、該処理物を糖尿病モデル動物に摂取させる動物実験を行なった。その結果、該処理物が糖尿病性腎症に効果があることを見出した。さらに、該処理物には血糖値を低下させる作用はほとんどなく、専ら腎症に対してのみ効果を発揮することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
請求項1に記載の発明は、イカの硬組織の物理的処理物を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病性腎症治療・予防剤である。
本発明は糖尿病性腎症治療・予防剤にかかり、イカの硬組織の物理的処理物を有効成分として含有する。イカの硬組織は人に対する安全性が確かめられており、日常的に摂取しても問題が少ない。したがって、本発明によれば、日常的な摂取が可能な安全性の高い糖尿病性腎症治療・予防剤が提供される。さらに、本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤には、血糖値を下げる作用はほとんどなく、専ら腎症に対してのみ効果を発揮するので、血糖値を下げる必要がない場合に特に有用である。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤は、例えば、機能性食品や医薬として使用することができる。
請求項2に記載の発明は、前記硬組織は、貝殻であることを特徴とする請求項1に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
貝殻はイカの硬組織の1つであり、炭酸カルシウムを主成分とし、主にコウイカ目に属するイカから採取される。貝殻は、通常はイカの商品化に際して取り外され、そのまま廃棄されている。そして、本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤では、イカの硬組織として貝殻を使用する。かかる構成により、より安価でかつ安全性が高い糖尿病性腎症治療・予防剤を提供することができる。
請求項3に記載の発明は、物理的処理として、前記貝殻を乾燥後、粉砕することを特徴とする請求項2に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤においては、貝殻を乾燥後、粉砕する。かかる構成により、人体への吸収が容易となり、高いバイオアベイラビリティを実現することができる。
請求項4に記載の発明は、物理的処理物の平均粒径が20マイクロメートル以下であることを特徴とする請求項3に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
かかる構成により、人体への吸収がさらに容易となり、より高いバイオアベイラビリティを実現することができる
請求項5に記載の発明は、イカの硬組織の化学的処理物を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病性腎症治療・予防剤である。
本発明は糖尿病性腎症治療・予防剤にかかり、イカの硬組織の化学的処理物を有効成分として含有する。上述のように、イカの硬組織は人に対する安全性が確かめられており、日常的に摂取しても問題が少ない。したがって、本発明によれば、日常的な摂取が可能な安全性の高い糖尿病性腎症治療・予防剤が提供される。さらに、本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤には、血糖値を下げる作用はほとんどなく、専ら腎症に対してのみ効果を発揮するので、血糖値を下げる必要がない場合に特に有用である。なお、本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤も、例えば、機能性食品や医薬として使用することができる。
請求項6に記載の発明は、前記硬組織は、腱であることを特徴とする請求項5に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
腱はイカの硬組織の1つであり、βキチンを主成分とし、主にツツイカ目に属するイカから採取される。腱も、貝殻と同様に、通常はイカの商品化に際して取り外され、そのまま廃棄されている。または、取り外さずに商品化され、消費者がイカを食べる際に取り除いている。そして、本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤では、イカの硬組織として腱を使用する。かかる構成により、より安価でかつ安全性が高い糖尿病性腎症治療・予防剤を提供することができる。
請求項7に記載の発明は、化学的処理として、前記腱を脱タンパク質処理することを特徴とする請求項6に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤においては、イカの腱を脱タンパク質処理する。かかる構成により、不純タンパク質が除去され、人体への吸収が容易となり、高いバイオアベイラビリティを実現することができる。脱タンパク質処理の例としては、アルカリ処理、界面活性剤処理、酵素処理等が挙げられる。
請求項8に記載の発明は、脱タンパク質処理として、前記腱をアルカリ処理することを特徴とする請求項7に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
かかる構成により、効率的に脱タンパク質処理をすることできる。
請求項9に記載の発明は、アルカリ処理として、前記腱を水酸化ナトリウム水溶液に懸濁し、得られた不溶性画分を乾燥させることを特徴とする請求項8に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
かかる構成により、より効率的に脱タンパク質処理を行なうことなうことができる。さらに、水酸化ナトリウムは人体に対して安全であるので、その残留に気を使う必要がない。
請求項10に記載の発明は、機能性食品又は医薬として使用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の糖尿病性腎症治療・予防剤である。
本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤は、上記したイカの硬組織の物理的処理物又は化学的処理物を有効成分として含有する糖尿病性腎症治療・予防剤を、機能性食品又は医薬として用いるものである。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤によれば、機能性食品として日常的に食することにより糖尿病性腎症を予防することができる。さらに、機能性食品として糖尿病性腎症の発症後においても、腎症の改善に有効である。さらに、医薬として、より安全性の高い糖尿病性腎症の治療・予防用医薬が提供される。
本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤によれば、日常的な摂取が可能な安全性の高い糖尿病性腎症治療・予防剤が提供される。特に、機能性食品又は医薬として有用である。
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤の第1の様相では、イカの硬組織の物理的処理物を有効成分とする。一般に、イカはコウイカ目とツツイカ目に大きく分類される。本様相の糖尿病性腎症治療・予防剤では、いずれの目に属するイカでも使用することができる。コウイカ目に属するものの例としては、コウイカ、カミナリイカ、ヨーロッパコウイカ、コブシメ等のコウイカ科に属するものが挙げられる。また、ツツイカ目に属するものの例としては、アオリイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、ジンドウイカ等のジンドウイカ科(ヤリイカ科);カナダイレックス、アルゼンチンイレックス(アルゼンチンマツイカ)等のアカイカ科・イレックス亜科;スルメイカ、ニュージーランドスルメイカ等のアカイカ科・スルメイカ亜科;アカイカ、アメリカオオアカイカ等のアカイカ科・アカイカ亜科;ホタルイカ等のホタルイカモドキ科;ソデイカ等のソデイカ科;ドスイカ等のテカギイカ科、に属するものが挙げられる。
イカの硬組織としては、貝殻(甲、骨、舟ともいう)、腱(軟甲、ペン、筋、中骨ともいう)、顎板(カラストンビ、嘴ともいう)、歯舌などが挙げられるが、本様相の糖尿病性腎症治療・予防剤では、いずれの硬組織も使用可能である。
物理的処理としては、人体への吸収を容易にするような物理的処理が好ましく、粉砕化、乾燥、加熱、加圧等の物理的処理が挙げられる。これらの物理的処理は、1つだけ行ってもよいし、複数を組み合わせて行ってもよい。
好ましい実施形態では、硬組織として貝殻を用いる。なお、貝殻はコウイカ目に属するイカから主に採取される。イカの貝殻の主成分は炭酸カルシウムであり、さらに、その他の成分としてコラーゲン、キチン、キトサン、亜鉛、鉄、銅、カリウム、リン、マグネシウム等が含まれている。イカの貝殻の成分についての詳細は、特開2004−49212号公報に記載されている。
好ましい実施形態では、物理的処理として、貝殻を乾燥後、粉砕する。乾燥の方法としては、加熱によるものでもよいし、真空・吸引等の非加熱によるものでもよく、これらの組み合わせでもよい。粉砕の方法としては、簡単には乳鉢ですりつぶす方法が採用可能である。工業的には、各種の粉砕機を使用することができ、散剤、顆粒剤、細粒剤等の固形製剤を製造する際に用いられている公知の方法を、そのまま適用することができる。
さらに好ましい実施形態では、乾燥・粉砕した貝殻の平均粒径が20マイクロメートル以下である。本実施形態によれば、体内への吸収がよく、高いバイオアベイラビリティを実現することができる。平均粒径が20マイクロメートル以下にまで粉砕するために用いる粉砕機の具体例としては、ボールミル、攪拌ミル、振動ミル、遠心ミル、ディスクミル、ピンミル等の他、粉砕しようとする固体粒子同士の衝突および摩擦を行わせるジェットミル等が挙げられる。後者の例として、特開平11−30224号公報に記載の同軸2翼方式、特開2001−321684号公報又は特開2002−79183号公報に記載の2軸2翼方式の各破砕機が挙げられる。
本様相の糖尿病性腎症治療・予防剤は、イカの硬組織の物理的処理物をそのまま用いてもよいし、適当な溶媒に溶解又は分散させて用いてもよい。さらに、他の成分との混合物して用いてもよい。他の成分との混合物して用いるときのイカの硬組織の物理的処理物の含量としては、特に制限はないが、例えば、0.01〜10重量%とすることができる。また、本様相の糖尿病性腎症治療・予防剤の摂取量としては、イカの硬組織の物理的処理物の摂取量が、体重1kg、1日当たり0.01〜6000mg、好ましくは、5000〜6000mgとなるように摂取することが好ましい。
本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤の第2の様相では、イカの硬組織の化学的処理物を有効成分とする。本様相においても、第1の様相と同様にいずれの分類に属するイカでも使用することができる。また、本様相において使用するイカの硬組織としては、第1の様相と同様にいずれの硬組織も使用可能である。
化学処理としては、例えば、薬品類を接触させる処理が挙げられる。例えば、イカの硬組織に酸やアルカリを接触させ、硬組織から不純物を溶解及び除去するような処理である。
好ましい実施形態では、硬組織として腱が用いられる。イカの腱はβキチンを主成分とする。
好ましい実施形態では、化学的処理として、腱を脱タンパク質処理する。脱タンパク質処理の具体例としては、アルカリ処理、界面活性剤処理、酵素処理等が挙げられる。これらの処理に使用する試薬類は、食品や医薬の分野での使用実績があるものを用いることが好ましい。例えば、アルカリの例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を使用することができる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれもが使用可能である。酵素の例としては、各種のタンパク質分解酵素を使用することができる。
さらに好ましい実施形態では、腱をアルカリ処理する。用いるアルカリとしては、上記の水酸化ナトリウム等を使用することができる。
さらに好ましい実施形態では、腱を水酸化ナトリウム水溶液に懸濁し、得られた不溶性画分を乾燥させる。使用する水酸化ナトリウム水溶液の濃度としては、タンパク質を可溶化できる濃度であればよく、例えば、3〜7M(Mはmol/L)程度、好ましくは5M程度の濃度である。水酸化ナトリウム水溶液に懸濁する処理は、1回でもよいし、複数回でもよい。また、80℃以上の熱を加えながら水酸化ナトリウム水溶液に懸濁してもよい。
本様相の糖尿病性腎症治療・予防剤は、イカの硬組織の化学的処理物をそのまま用いてもよいし、適当な溶媒に溶解又は分散させて用いてもよい。さらに、他の成分との混合物して用いてもよい。他の成分との混合物して用いるときのイカの硬組織の物理的処理物の含量としては、特に制限はないが、例えば、0.01〜10重量%とすることができる。また、本様相の糖尿病性腎症治療・予防剤の摂取量としては、イカの硬組織の化学的処理物の摂取量が、体重1kg、1日当たり0.01〜6000mg、好ましくは、5000〜6000mgとなるように摂取することが好ましい。
好ましい実施形態では、本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤を機能性食品として使用する。該機能性食品の形態としては、固形状、半固形状、液状のいずれの形態であってもよい。固形状の機能性食品の例としては、パン、固形菓子、麺類等が挙げられる。半固形状の機能性食品の例としては、ゼリー、ジャム等が挙げられる。液体状の機能性食品の例としては、ジュース、スープ等が挙げられる。さらに、カプセル剤と同様の形態としたサプリメントのような形態としてもよい。本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤を機能性食品として使用すれば、日常的に摂取することが容易となるので、糖尿病性腎症の予防のために特に好ましい。
好ましい別の実施形態では、本発明の糖尿病性腎症治療・予防剤を医薬として使用する。医薬として用いる場合の投与経路は、経口が好ましい。経口的に投与する場合の剤型としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤等を挙げることができる。製剤化の方法は公知の方法を用いることができ、イカの硬組織の物理的処理物又は化学的処理物に、適宜の添加物、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を添加することにより行われる。
賦形剤の例としては、結晶セルロース、粉末セルロース、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、沈降炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、乳酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、合成ケイ酸アルミニウム、乳糖、白糖、ブドウ糖、果糖、D−マンニトール、トレハロース等を挙げることができる。また、崩壊剤の例としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、アルギン酸、部分アルファ化デンプン、ベントナイト等を挙げることができる。また、崩壊剤の例としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、アルギン酸、部分アルファ化デンプン、ベントナイト等を挙げることができる。また、結合剤の例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポビドン、マクロゴール、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ゼラチン、デキストリン、ペクチン、ポリアクリル酸ナトリウム、プルラン等を挙げることができる。さらに、滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、硬化油等を挙げることができる。これらの添加物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
特開2004−49212号公報に記載の方法と同様にして、コウイカ貝殻粉末(イカの貝殻の物理的処理物)を調製した。すなわち、コウイカから貝殻を採取し、水洗後、煮沸殺菌したものを乾燥した。この乾燥した貝殻を、粉砕機により粒径20μm以下の微紛粉末とし、コウイカ貝殻粉末を調製した。得られたコウイカ貝殻粉末は白色であり、特有の臭いを有していた。
特願2005−174218号明細書に記載の方法と同様にして、イカの腱の脱タンパク質処理物(イカの腱の化学的処理物)を調製した。すなわち、ペルー産アカイカの腱を乾燥後、全ての粒径が40μm以下であり且つそのうちの80%以上の粒径が5〜15μmとなるように粉砕し、粉砕試料を調製した。この粉砕試料2gを50mLの2M水酸化ナトリウム水溶液に均一に分散させ、800Wの出力の電子レンジで45秒間加熱を行なった。沸騰状態となった懸濁液を50mL容の遠沈管に移し、2000rpmで15分間、遠心分離を行なった後、上清を除去した。残さに40mLのイオン交換水を加え、攪拌後、同じ条件で遠心分離を行い、上清を除去した。同じ操作を3回繰り返した後、残さに50mLの2M水酸化ナトリウム水溶液を加え、均一に分散させた後、オイルバス上で90℃で15分間保持した。冷却後、2000rpmで15分間、遠心分離を行ない、上清を除去した。上記と同じ手順でイオン交換水で残さを洗浄し、乾燥させ、イカの腱の脱タンパク質処理物を調製した。得られたイカ腱の脱タンパク質処理物は白色の粉末であった。
本実施例では、実施例1で調製したコウイカ貝殻粉末(試験試料1)と、実施例2で調製したイカの腱の脱タンパク処理物(試験試料2)の糖尿病性腎症に対する効果を、糖尿病モデルマウスを用いた動物実験によって確認した。
6週齢のBKS.Cg-m+/+Leprdb/db/Jマウス(清水実験材料社)を5匹ずつ3群に分け、以下の条件で飼育を開始した。第1群のマウスには、動物用飼料CRF−1(オリエンタルバイオサイエンス社)のみを飼料として与えた(コントロール)。第2群のマウスには、CRF−1に試験試料1を5%(w/w)となるように添加した飼料を与えた。第3群のマウスには、CRF−1に試験試料2を5%(w/w)となるように添加した飼料を与えた。なお各飼料とも、20kGyのγ線を照射して滅菌してから使用した。自由摂取により各群のマウスを18週齢まで飼育し、4週毎に体重測定、採尿、及び採血を行なった。さらに、18週齢時に各群のマウスから腎臓を摘出した。
採取した尿について、尿量、アルブミン濃度、及び8−ヒドロキシ−デオキシグアノシン(8−OHdG)濃度を測定した。得られたアルブミン濃度値から尿中に排出された1日当たりのアルブミン量を算出し、アルブミンクリアランスの評価をした。同様に、得られた8−OHdG濃度値から尿中に排出された1日当たりの8−OHdG量を算出し、8−OHdGクリアランスの評価をした。また、採取した血液について、随時血糖値を測定した。なお、アルブミン濃度は、Alubwell M(excell Inc.)によって測定し、8−OHdG濃度は、New−8−OHdG Check(日本老化制御研究所)によって測定し、随時血糖値は、グルテストエースR(三和化学研究所)によって測定した。さらに、摘出した腎臓の組織切片を作製し、PAS染色を行なって、腎糸球体領域におけるメザンギウム細胞の比率を算出した。
6、8、10、14、18の各週齢において、マウスの体重を各群間で比較した結果を表すグラフを図1に示す。図1において、縦軸はマウスの体重(g)であり、各週齢の棒は左から順に、第1群、第2群、第3群を表す。また、各棒は体重の平均値であり、さらに標準偏差棒も示した。その結果、各群とも体重が徐々に増加し、かつ、各群間でも体重に大きな差は見られなかった。すなわち、各マウスに異常はみられず、本動物実験の成立性が裏付けられた。
6、10、14、18の各週齢において、1日当たりの尿量(以下、単に「尿量」と称する。)を各群間で比較した結果を表すグラフを図2に示す。図2において、縦軸は尿量(mL)であり、各週齢の棒は左から順に、第1群、第2群、第3群を表す。また、各棒は尿量の平均値であり、さらに標準偏差棒も示した。すなわち、コントロールの第1群では、6週齢(試験開始時)と比較して尿量が飼育日数と共に上昇し、腎症の症状を示していた。一方、試験試料1(コウイカ貝殻粉末)を摂取させた第2群と、試験試料2(イカの腱の脱タンパク処理物)を摂取させた第3群ではいずれも尿量の上昇が抑えられており、腎症の症状が予防又は改善されていた。各群間の比較においても、試験開始後の10週齢以降で、第1群は第2群・第3群と比較して尿量が多かった。以上より、実施例1で調製したコウイカ貝殻粉末と、実施例2で調製したイカの腱の脱タンパク処理物は、いずれも糖尿病性腎症の治療又は予防に効果があることが分かった。
6、10、14、18の各週齢において、尿中に排出された1日当たりのアルブミン量(以下、単に「尿中アルブミン量」と称する。)を各群間で比較した結果を表すグラフを図3に示す。図3において、縦軸は尿中アルブミン量(μg)であり、各週齢の棒は左から順に、第1群、第2群、第3群を表す。また、各棒は尿中アルブミン量の平均値であり、さらに標準偏差棒も示した。すなわち、コントロールの第1群では、6週齢(試験開始時)と比較して尿中アルブミン量が飼育日数と共に上昇していた。これは、アルブミンクリアランスの異常を示しており、腎症の症状であった。一方、試験試料1(コウイカ貝殻粉末)を摂取させた第2群と、試験試料2(イカの腱の脱タンパク処理物)を摂取させた第3群ではいずれも尿中アルブミン量の上昇が抑えられており、アルブミンのクリアランスに異常は見られず、腎症が予防又は改善されていた。各群間の比較においても、試験開始後の10週齢以降で、第1群は第2群・第3群と比較して高値を示していた。以上より、実施例1で調製したコウイカ貝殻粉末と、実施例2で調製したイカの腱の脱タンパク処理物は、いずれも糖尿病性腎症の治療又は予防に効果があることが分かった。
6、10、14、18の各週齢において、尿中に排出された1日当たりの8−OHdG量(以下、単に「尿中8−OHdG量」と称する。)を各群間で比較した結果を表すグラフを図4に示す。図4において、縦軸は尿中8−OHdG量(ng)であり、各週齢の棒は左から順に、第1群、第2群、第3群を表す。また、各棒は尿中8−OHdG量の平均値であり、さらに標準偏差棒も示した。すなわち、コントロールの第1群では、6週齢(試験開始時)と比較して尿中8−OHdG量が飼育日数と共に上昇していた。一方、試験試料1(コウイカ貝殻粉末)を摂取させた第2群と、試験試料2(イカの腱の脱タンパク処理物)を摂取させた第3群ではいずれも尿中8−OHdG量の上昇が抑えられていた。各群間の比較においても、試験開始後の10週齢以降で、第1群は第2群・第3群と比較して高値を示していた。尿中8−OHdG量の上昇は腎症の症状と関係しており(上記非特許文献2),この結果は、第1群では腎症の症状を示したが、第2群・第3群では腎症が予防又は改善されることを示していた。以上より、実施例1で調製したコウイカ貝殻粉末と、実施例2で調製したイカの腱の脱タンパク処理物は、いずれも糖尿病性腎症の治療又は予防に効果があることが分かった。
18週齢時の腎糸球体領域におけるメザンギウム細胞の比率を各群間で比較した結果を表すグラフを図5に示す。図5において、縦軸はメザンギウム細胞の比率(%)である。また、各棒はメザンギウム細胞の比率の平均値であり、さらに標準偏差棒も示した。なお、メザンギウム細胞の増殖は腎炎(糸球体腎炎)の発症を意味する。すなわち、コントロールの第1群ではメザンギウム細胞の比率が高く、腎症の症状を示していた。一方、試験試料1(コウイカ貝殻粉末)を摂取させた第2群と、試験試料2(イカの腱の脱タンパク処理物)を摂取させた第3群ではいずれもメザンギウム細胞の比率が低く、腎症が予防又は改善されていた。以上より、実施例1で調製したコウイカ貝殻粉末と、実施例2で調製したイカの腱の脱タンパク処理物は、いずれも糖尿病性腎症の治療又は予防に効果があることが分かった。
6、10、14の各週齢において、随時血糖値を各群間で比較した結果を表すグラフを図6に示す。図6において、縦軸は血中グルコース濃度(mg/dL)であり、各週齢の棒は左から順に、第1群、第2群、第3群を表す。また、各棒は血中グルコース濃度の平均値であり、さらに標準偏差棒も示した。すなわち、コントロールの第1群では、6週齢(試験開始時)と比較して血中グルコース濃度が飼育日数と共に上昇し、高血糖の症状を示していた。一方、試験試料1(コウイカ貝殻粉末)を摂取させた第2群と、試験試料2(イカの腱の脱タンパク処理物)を摂取させた第3群では、コントロールの第1群と比較してわずかに血中グルコース濃度の上昇が鈍かったが、正常値には程遠く、ほとんど高血糖状態は改善していなかった。各群間の比較においても、試験開始後の10週齢以降で、第1群は第2群・第3群と比較しても、有意な差は見られなかった。以上より、実施例1で調製したコウイカ貝殻粉末と、実施例2で調製したイカの腱の脱タンパク処理物は、いずれも血糖値を低下させる作用はほとんどないことが分かった。
Claims (10)
- イカの硬組織の物理的処理物を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病性腎症治療・予防剤。
- 前記硬組織は、貝殻であることを特徴とする請求項1に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
- 物理的処理として、前記貝殻を乾燥後、粉砕することを特徴とする請求項2に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
- 物理的処理物の平均粒径が20マイクロメートル以下であることを特徴とする請求項3に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
- イカの硬組織の化学的処理物を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病性腎症治療・予防剤。
- 前記硬組織は、腱であることを特徴とする請求項5に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
- 化学的処理として、前記腱を脱タンパク質処理することを特徴とする請求項6に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
- 脱タンパク質処理として、前記腱をアルカリ処理することを特徴とする請求項7に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
- アルカリ処理として、前記腱を水酸化ナトリウム水溶液に懸濁し、得られた不溶性画分を乾燥させることを特徴とする請求項8に記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
- 機能性食品又は医薬として使用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の糖尿病性腎症治療・予防剤。
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JP2014167477A (ja) * | 2014-04-07 | 2014-09-11 | Biomarker Science:Kk | 物質の評価方法及び評価用キット、物質のスクリーニング方法、並びに、糖尿病性腎症の発症の有無又は将来の発症リスクの検出方法及び検出用キット |
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2005
- 2005-08-05 JP JP2005227686A patent/JP2007039407A/ja active Pending
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