JP2007031406A - 高度好熱菌由来の改変型一本鎖dna結合タンパク質、及び該タンパク質を用いた核酸の等温増幅方法 - Google Patents

高度好熱菌由来の改変型一本鎖dna結合タンパク質、及び該タンパク質を用いた核酸の等温増幅方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 増幅精度を向上するべく、等温増幅反応における核酸増幅において非特異的増幅を制御できる技術を確立する。
【解決手段】 鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するアミノ酸配列を有する高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質であって、1個以上のアミノ酸の欠失、置換、付加及び挿入の少なくとも1つからなる改変が生じている改変部位をアミノ酸配列中に有する高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質、及びその利用方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質、及びその利用方法に関する。詳細には、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅系において鋳型核酸の増幅効率を向上できる高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質、及びその利用方法に関する。
従来、種々の核酸の指数関数的増幅方法が開発されているが、特に核酸を効率的に増幅する方法としては、概して反応温度を変動させる熱サイクルを用いるもの、及び反応が等温であるものに分類される。
熱サイクルを用いる方法は、ポリメラーゼ連鎖反応、即ちPCR(例えば、非特許文献1参照)が知られている。PCRにおいては、標的となる鋳型核酸の相対する鎖に相補的な塩基配列を有する2つのプライマーを、鋳型核酸と混合する。そして、鋳型核酸の変性、プライマーの鋳型核酸へのアニーリング、及びDNAポリメラーゼによるプライマーの伸張(DNA複製)を1ラウンドとした通常20〜30回のサイクルにより、鋳型核酸にアニールした2つのプライマーの間に位置する鋳型核酸の相補鎖の合成が行われる。この方法では合成鎖を新たな鋳型核酸とできるため、同一のプライマーセットを用いた別ラウンドの複製により、鋳型核酸の指数関数的な増幅が可能となる。そして、各サイクルで鋳型核酸を変性するのに必要な高温に耐えるために、熱安定性のDNAポリメラーゼを使用することが必要である。さらに、PCRによるDNA増幅は増幅反応が連続的に進行しないので、核酸サンプルである鋳型核酸を一連の複数のサイクルに供して行わなければならない。
一方、鋳型核酸の増幅反応を等温で行う方法として、鎖置換増幅(SDA)(例えば、非特許文献2参照)やローリングサークル増幅(RCA)(例えば、非特許文献3、4及び5参照)等が知られている。SDA法は、鋳型核酸に制限酵素でニックを入れ、このニックをもつDNA断片を順番に置換していくDNAポリメラーゼ(鎖置換ポリメラーゼ)の作用を用いてDNAを増幅する。一方、RCA法は鋳型核酸にアニールしたプライマーを基点として合成された伸長鎖の先端で、鎖置換ポリメラーゼがその前の鎖を置換してハイブリッド形成を行う。そのため、これら方法では標的DNA配列の増幅は等温で連続的に行われるため熱サイクルが不要となる。
このような鎖置換により、等温条件下で連続的に鋳型核酸の直線的または指数関数的な増幅が可能となる。従って、例えばRCA法では、熱サイクルを用いる方法と比べて、鋳型核酸の増幅過程をより単純にしたため増幅産物の産生量を効率よく増加できる、有効に増幅することができる鋳型核酸の長さが制限されない、熱サイクルを行う設備が不要となる等の利点を有する。
ここで、鋳型核酸の増幅反応において、一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand DNA binding protein:以下、「SSBタンパク質」と略する場合がある。)が鋳型核酸の増幅反応効率等に関与していることが知られている。
SSBタンパク質は、一本鎖DNA(ssDNA)に対する配列非特異的に親和性が高い。通常、DNA複製、組換え、及び生物ゲノムの修復にはSSBタンパク質が必要である。SSBタンパク質はその同族DNAポリメラーゼを特異的に刺激し、DNA合成の忠実度を高め、螺旋の不安定化によりDNAポリメラーゼの前進性を改善すると共にDNAポリメラーゼ結合を促進し、複製開始点を組織化及び安定化する。つまり、SSBタンパク質は複製補助タンパク質として作用することが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
SSBタンパク質は、バクテリオファージから真核生物まで、広く様々な起源から多数のSSBタンパク質の例が分離されている。例えば、特許文献1には、ビール酵母(Saccharomyces cerevisiae)由来の複製タンパク質A−1(rpa−1)、ミトコンドリアタンパク質由来の複製タンパク質(rim−1)、T7由来の遺伝子2.5タンパク質(gp2.5)、バクテリオファージPhi29のタンパク質p5(p5)、T4の遺伝子32タンパク質(gp32)及び大腸菌のSSBタンパク質が開示されている。また、高度好熱菌からもSSBタンパク質が分離されていることが知られている(例えば、非特許文献6及び7参照)。
そして、特許文献1には、鋳型核酸の増幅効率を改善するためにSSBタンパク質を等温増幅反応系に添加することが記載されている。さらに、特許文献2において、鋳型核酸の鎖置換複製に有用な鎖置換因子として大腸菌由来のSSBタンパク質が利用されている。つまり、当該鎖置換因子存在下で、鎖置換複製を実行できる鎖置換ポリメラーゼ(バクテリオファージ由来Phi29 DNAポリメラーゼ等)により鋳型核酸のRCA増幅を行っていることが開示されている。
これら鎖置換ポリメラーゼを用いる鋳型核酸の増幅方法は、鋳型核酸を変性する当該鎖置換ポリメラーゼの鎖置換能力に依存している。そして、この鎖置換は、複製補助タンパク質や鎖置換因子により促進することができるため、複製補助タンパク質や鎖置換因子の存在により、鋳型核酸に特異的なDNA断片を効率よく増幅できると考えられていた。
特開平10−234389号公報(段落0007、0014等参照) 特表2002−525078号公報(段落0059〜0062等参照) Saiki et al.,Science 230:1350-1354,1985 Walker et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:392−396,1992 Amersham Biosciences社、"製品カタログ:GenomiPhi DNA Amplification Kit"、[online]、[平成17年4月28日検索]、インターネット、<URL:http://www.jp.amershambiosciences.com/catalog/web_catalog.asp?frame5_Value=912&goods_name=GenomiPhi+DNA+Amplification+Kit> Dean他、Genome Res. 11(6)、第1095頁〜第1099頁、2001年6月 Lizardi他、Nature Genetics 19(3)、第225頁〜第232頁,1998年7月 Dabrowski他、Microbiology 148(Pt10)、第3307頁〜第3315頁、2002年10月 Perales他、Nucleic Acids Research、31(22)、第6473頁〜第6480頁、2003年11月
しかしながら、鎖置換ポリメラーゼを使用した等温増幅反応系においては、鋳型核酸に特異的なDNA断片が効率よく増幅されるだけでなく、鋳型核酸に非特異的なDNA断片も増幅され易いという問題点があった。大腸菌や酵母等由来のSSBタンパク質を添加して等温増幅反応を行う特許文献1及び2に開示の方法においても、非特異的なDNA断片の増幅を抑制できない問題点があった。
この理由の一つとして、等温増幅における温度が通常30〜60℃程度であるためプライマーダイマーが形成され易くなり、このプライマーダイマー形成の結果、鋳型核酸に非特異的なDNA断片が増幅され易くなるということが考えられる。つまり、鋳型核酸の不在下であってもプライマーダイマーが形成され、非特異的な核酸が増幅される。鋳型核酸に非特異的なDNA断片は、増幅精度が低下する要因となり、後の実験に支障を来たすバックグラウンドノイズとなる。そして、増幅にランダムな配列を有するプライマーを使用することから、非特異的増幅を制御することは困難であるとされてきた。
かかる理由により、鋳型核酸の等温増幅方法はPCRのように熱サイクルを不要とする等から汎用性の高い技術として期待されているが、上述した非特異的増幅による増幅精度の問題からその用途が限定されているのが現状であった。
従って、本発明は、増幅精度を向上するべく、等温増幅反応における鋳型核酸の増幅において非特異的増幅を制御できる技術を確立することを目的とする。
本発明者が鋭意検討を行った結果、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質が有するアミノ酸配列において、ある特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位をアミノ酸配列中に有する高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を構築した。かかる高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅系に添加したところ、鋳型核酸に特異的な増幅産物が得られ、非特異的増幅が生じない、精度の高い増幅産物が得られることを見出した。これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
上記目的を達成するため本発明は、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するアミノ酸配列を有する高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質であって、1個以上のアミノ酸の欠失、置換、付加及び挿入の少なくとも1つからなる改変が生じている改変部位をアミノ酸配列中に有する高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を提供し、好ましくは、前記高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質が、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、又は、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質である。
そして、好ましくは、前記改変が、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質の鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化が生じる改変であり、また、前記改変が、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のDNA結合能に変化が生じる改変である。
また、好ましくは、前記改変が、少なくとも3個以上連続するプロリンを有するように高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のアミノ酸配列が改変されている。
具体的には、前記改変が、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質を示す配列番号1のアミノ酸配列のうち、255番目のフェニールアラニンが他のアミノ酸に置換されているものが好ましく、また、前記改変が、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質を示す配列番号4のアミノ酸配列のうち、256番目のフェニールアラニンが他のアミノ酸に置換されているものが好ましい。特には、前記他のアミノ酸がプロリンである。
また、上記目的を達成するため本発明は、鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅方法であって、本発明の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を添加して増幅反応を行う核酸の増幅方法を提供し、好ましくは、前記鎖置換ポリメラーゼが、Phi29 DNAポリメラーゼである。
本発明の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを用いたDNAの等温増幅系に添加することにより、改変部位を有しない高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質及び他の組換え関連タンパク質では奏することができない、特異的なDNA断片の効率的な増幅が可能となる。つまり、非特異的増幅を抑制でき、バックグラウンドノイズの影響を受けないDNA断片の増幅が可能となり、増幅効率の向上に寄与し得る。
したがって、本発明の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を利用した増幅方法は、一般的な分子生物学の方法に幅広く利用可能である。例えば、遺伝子型分析のために、環境中より採収した微量の微生物から抽出した少量の試料から大量のDNAを調製する有用な方法として、或いは、DNAシークエンシングのためのDNAの調製方法として、有用である。さらに、動物或いは植物細胞から抽出した少量の試料からDNAチップ固定用DNAを調製する等、種々の用途に適用できる汎用性の高いDNAの調製方法として利用価値が高い。
更に、本発明の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質は、DNAライブラリーからの標的cDNAクローンのクローニング系に適用することができる。これにより、特異的かつ効率的な標的cDNAクローンのDNAライブラリーからの濃縮又は単離が達成される。特異的かつ効率的なcDNAクローニングは、遺伝子発現、発生、分化等の解析、並びに有用物質の産生の分野において大いに貢献し得る。
また、本発明の高度好熱菌改変型SSBは、RNAからDNAの逆転写反応系に適用することができ、これにより、所望の標的RNAの特異的、かつ、効率的なcDNAへの転換が達成される。RNAからcDNAへの変換は遺伝子工学上不可欠な手法であることから、遺伝子発現検出とその定量、RNAの構造解析、cDNAクローニング等、その利用価値は高い。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質には、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現する、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質における、すべての改変型が含まれる。つまり、本発明の改変型一本鎖DNA結合タンパク質は、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質と比較して鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系において鋳型核酸に対する特異性が向上している。そして、高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質は、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有する。ここで、改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入および付加の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。そして、「1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。
このような改変は、人為的に導入することもできるし、また、自然界において非意図的に生じることもある。本発明における高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質には、これら双方の改変型が含まれる。
以下、本発明の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を「高度好熱菌改変型SSBタンパク質」と略する場合がある。また、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質を「高度好熱菌SSBタンパク質」と略する場合がある。そして、ここで、単に「高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質」、「高度好熱菌SSBタンパク質」と称する場合は、アミノ酸配列中に上述したような改変部位を有するものを含むものではない。
そして、改変型の基礎となる、高度好熱菌SSBタンパク質としては、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)等に由来する高度好熱菌SSBタンパク質が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではない。なお、高度好熱菌SSBタンパク質は、自然界より分離された高度好熱菌に保持されているSSBタンパク質のアミノ酸配列、及びSSBタンパク質をコードする塩基配列が、意図的もしくは非意図的に改変が生じている改変部位を有していないことを意味する。
本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質は公知の方法によって取得することができる。例えば、改変の基礎となる高度好熱菌SSBタンパク質をコードする遺伝子に対して改変を施し、得られた改変遺伝子を用いて宿主細胞を形質転換し、かかる形質転換体の培養物から高度好熱菌SSBタンパク質を採取することによって取得することができる。
かかる高度好熱菌SSBタンパク質の遺伝子は、公知の遺伝子クローニング技術を用いて取得することができる。また、GenBank等の公知のデータベースより検索することによって取得することができる遺伝子情報に基づいて、常法のホスホルアミダイト(phosphoramidite)法等のDNA合成法により合成することによっても取得するができる。ここで、本発明の改変型の基礎として好適な高度好熱菌SSBタンパク質の配列情報として、サーマス・サーモフィラス由来のSSBのアミノ酸配列を配列番号1に、該SSBタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号2に示す(GenBank:AJ564626)。また、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に、該SSBタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号5に示す(GenBank:AF276705)。
高度好熱菌SSBタンパク質をコードする遺伝子に改変を施す方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の改変タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。例えば、大腸菌由来のSSBタンパク質に対する変異導入に関する公知文献(例えば、Chase JW他、The Journal Biological Chemistry、259(2)、第805頁〜第814頁、1984年1月25日)を参照することができる。また、市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site−directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製))を利用してもよい。また、一旦、目的とする高度好熱菌改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列が定まれば、それをコードする適当な塩基配列を決定することができ、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して本発明の高度好熱菌由来の改変型SSBタンパク質をコードするDNAを合成することができる。
得られた改変遺伝子を用いて宿主細胞を形質転換するためには、公知の大腸菌等の宿主・発現ベクターシステムを利用することができる。例えば、該高度好熱菌改変型SSBタンパク質を安定に増幅できるDNAベクターに連結させ、高度好熱菌改変型SSBタンパク質を効率的に発現できる大腸菌に導入する。そして、炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地に接種し、常法に従って培養して該高度好熱菌改変型SSBタンパク質を発現させる。
このようにして得られた形質転換体の培養物からのSSBタンパク質の採取、精製は、常法に従って行なえばよい。例えば、宿主の大腸菌を破砕して熱処理を行うことにより、当該SSBタンパク質以外の大腸菌由来タンパク質は熱変性して熱凝集するため、遠心分離等により分離除去できる。これにより熱変性しない当該SSBタンパク質を可溶画分として大腸菌由来タンパク質と分離し、親和性クロマトグラフィー等を用いて精製できる。
このとき、当該SSBタンパク質は高度好熱菌由来であるため室温で構造が安定しており、さらに有機溶剤に対しても高い安定性を有している。そのため、上記精製工程は室温で行うことが可能である。
なお、発現ベクターは、プロモーター配列、高度好熱菌SSBタンパク質をコードする遺伝子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素サイトを有するマルチクローニングサイト等の配列を含み、かつ、上記宿主細胞で発現できるものであれば、何れの発現ベクターを用いることができる。好適なプロモーターとしては、例えば、T7lacプロモーターを利用するのが好ましい。
さらに、この発現ベクターには他の公知の塩基配列が含まれていてもよい。他の公知の塩基配列としては特に限定されない。例えば、発現産物の安定性を付与する安定性リーダー配列、発現産物の分泌を付与するシグナル配列が挙げられる。また、ネオマイシン耐性遺伝子・カナマイシン耐性遺伝子・クロラムフェニコール耐性遺伝子・アンピシリン耐性遺伝子・ハイグロマイシン耐性遺伝子等の形質転換された宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。
このような発現ベクターは、市販の大腸菌用発現ベクター(例えばpETタンパク質発現システム:ノバジェン社製)を用いることが可能であり、さらに、適宜所望の配列を組み込んだ発現ベクターを作製して使用することが可能である。
また、宿主細胞としては、大腸菌に限定されず、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、Saccharomyces cerevisiae等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS−7細胞等の動物細胞等を好適に利用することが可能である。
そして、精製されたSSBタンパク質が所望の改変が生じている改変部位を有する高度好熱菌改変型SSBタンパク質であるか否かの確認は、公知のアミノ酸分析法によって行うことができる。例えば、エドマン分解法に基づく自動アミノ酸決定法が利用できる。また、精製されたSSBタンパク質を、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応に供して改変部位を有しない高度好熱菌SSBタンパク質と比較して、鋳型核酸に対する特異性が向上しているか否かを確認することによって行うことができる。確認方法としては、例えば、本発明の実施例に示す方法によって行うことができる。
ここで、上記の「鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能」とは、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応において、鋳型核酸に関連のない非特異的増幅がほとんど認められず、かつ、鋳型核酸を高い収率で増幅できることを意味する。そして、好ましくは、鋳型核酸の増幅効率を5〜10倍向上させ得る機能を意味する。例えば、配列番号3若しくは6に表すアミノ酸配列を有するタンパク質が有する、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における、鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能と実質的に同等であることをいう。
本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質としては、そのアミノ酸配列中に、前記高度好熱菌SSBタンパク質の鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化を生じさせる改変を有しているものを好適に利用することができる。さらには、高度好熱菌SSBタンパク質のDNA結合能に変化を生じさせる改変を有しているものをも好適に利用することができる。
つまり、本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質が、鎖置換DNAポリメラーゼとの相互作用に何らかの影響を与える可能性がある。ここで、「鎖置換ポリメラーゼとの相互作用」とは、高度好熱菌SSBタンパク質−鎖置換ポリメラーゼ、高度好熱菌SSBタンパク質−DNA、若しくは高度好熱菌SSBタンパク質−鎖置換ポリメラーゼ−DNAとの相互作用を意味する。ここで、DNAとは一本鎖DNAであり、プライマー若しくは鋳型核酸の一本鎖部分のいずれか一方、若しくは、その両方を意味する。そして、「前記高度好熱菌SSBタンパク質の鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化が生じる」とは、高度好熱菌SSBタンパク質が元来有していた鎖置換ポリメラーゼに対する作用に変化が生じることを意味する。ここで、大腸菌、Sulfolobus sulfataricus等由来のSSBタンパク質が、一本鎖DNAのみならず、プライマーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼII等のポリメラーゼにも結合することが報告されている(例えば、Richard DJ et al., Nucleic Acids Res. 2004 Feb 10;32(3):1065−74、Sun W, et al., J Bacteriol. 1996 Dec;178(23):6701−5、Fradkin GE et al., Mol Biol (Mosk). 1988 Jan−Feb;22(1):111−6等を参照のこと。)。これにより、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅系にSSBタンパク質を添加した場合、SSBタンパク質は鎖置換反応を補助する一方で、ポリメラーゼ活性の低下による増幅効率の低下という望ましくない作用を奏することが推定される。そして、かかる推定は、下記で説明する実施例における大腸菌由来SSB、高度好熱菌SSB等の存在下では増幅効率の低下を招いたとの結果に合致する。そこで、本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質として、SSBタンパク質が元来有するポリラーゼに対する結合能を有する領域におけるアミノ酸配列が崩壊したものが好ましく例示される。そして、上記した「前記高度好熱菌SSBタンパク質の鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化」には、高度好熱菌SSBタンパク質が元来有している鎖置換ポリメラーゼに対する結合能が低下、若しくは消失するような変化が含まれることが推定される。
具体的には、本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質としては、少なくとも3個以上連続するプロリンを有するように前記高度好熱菌SSBタンパク質のアミノ酸配列が改変されたものが例示される。つまり、本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質は、そのアミノ酸配列中に、配列Pro−Pro−Proを有するものが好適に例示され、更に、かかる配列の前後に1若しくは数個のプロリン残基を有するものであってもよい。
本発明においては、特に、例えば、サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質を表す配列番号1の255番目のフェニールアラニン、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質を表す配列番号4の256番目のフェニールアラニンが他のアミノ酸に置換されていることが好ましい。そのようなアミノ酸としては、プロリンが特に、好適に例示される。サーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質を表す配列番号1の255番目のフェニールアラニンをプロリンに置換した本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号3に示す。また、サーマス・アクアティカス由来のSSBタンパク質を表す配列番号4の256番目のフェニールアラニンをプロリンに置換した本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。
本発明は更に、本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質を用いた、等温増幅可能な鎖置換ポリメラーゼを用いた鋳型核酸の等温増幅方法を提供する。本発明の増幅方法は、本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質を添加して増幅反応を行うものである。
ここで、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅方法は、高熱による熱変性を必要としない等温条件下で、鎖置換ポリメラーゼの鎖置換活性により核酸を指数対数的に増幅する方法である。このような鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅方法としては、ローリングサークル増幅(以下、「RCA」と略する場合がある)法が好適に例示される。RCA法の原理は以下の通りである。RCA法による鋳型核酸の等温増幅方法は、例えば、等温条件下において、鋳型核酸である環状DNAにアニールした複数のランダムプライマーを基点にして、鎖置換ポリメラーゼが環状DNAの相補鎖を伸長する。そして、合成鎖の伸長に伴い、他のランダムプライマーの複製基点に達しても、当該鎖置換ポリメラーゼの鎖置換活性により他の合成鎖を剥がしながら鎖の伸長を継続する(ブランチング)。このとき、剥がされた合成鎖にはランダムプライマーがアニールできる部位が露出する。つまり、環状DNAだけでなく、この剥がされた合成鎖をも鋳型核酸として新たなDNA合成鎖を形成できるため、指数関数的な増幅となる。
このときに用いられるランダムプライマーは、ランダムヘキサマー等が好適に利用できる。その他のプライマーの例としては、鋳型核酸の標的部位に設定温度で特異的にアニールするプライマーを適用できる。このプライマーは、当該プライマー単独、或いは、上記ランダムプライマーと混合した状態で使用することが可能である。
プライマーの設計は、標的となる核酸配列に基づいて所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等により設計されるが、ランダムプライマーの場合、ランダムな配列を有するように設計される。 このように設計されたプライマーは化学的に合成することが可能である。例えば、公知のホスホルアミダイト法を用いて固相合成により化学合成することができ、市販されている自動核酸合成装置により所望の塩基配列からなるプライマーを自動的に合成することも可能である。合成後のプライマーは、必要に応じてHPLC等の公知の方法により精製される。
ここで、等温増幅における「等温」とは、PCR法のようにDNA変性、アニール、鎖伸長の各工程で反応温度を変化させるのに対して、一定温度で制御して増幅反応を行うことを指す。増幅反応を行う一定温度は、好ましくは60℃未満、より好ましくは45℃未満、さらに好ましくは37℃未満である。この温度は、適用する鎖置換ポリメラーゼにより適宜決定する。例えば、後述するバクテリオファージ由来Phi29 DNAポリメラーゼを用いた場合、増幅反応を行う好適な温度範囲は25〜42℃であり、好ましくは30〜37℃、更に好ましくは30〜34℃である。当該一定温度になるように設定したインキュベーター等の恒温チャンバーにおいて、サンプルを、4〜24時間、好ましくは6〜24時間、更に好ましくは15〜24時間程度インキュベートし、鋳型核酸の増幅反応を行う。
そして、鎖置換ポリメラーゼとしては、バクテリオファージ由来Phi29 DNAポリメラーゼ(米国特許第5,198,543号及び米国特許第5,001、050号、Blanco et al.)が好適に例示される。しかしながら、これに限定されるものではない。例えば、Bst大断片のDNAポリメラーゼ(Exo(-)Bst(Aliotta等、Genet. Anal.(オランダ国)12:185〜195(1996年))及びExo(-)BcaDNAポリメラーゼ(Walker及びLinn, Clinical Chemistry42:1604〜1608(1996年))、ファージM2DNAポリメラーゼ(Matsumoto et al., Gene 84:247 (1989))、ファージφPRD1 DNAポリメラーゼ(Jung et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:8287 (1987))、VENT(登録商標)DNAポリメラーゼ(Kong et al., J. Biol. Chem. 268:1965−1975 (1993))、DNAポリメラーゼIのクレノー断片(Jacobsen et al., Eur. J.Biochem. 45:623−627 (1974))、T5 DNA ポリメラーゼ(Chatterjee et al., Gene 97:13−19 (1991))、シーケナーゼ(登録商標)(米国バイオケミカルズ社製)、PRD1 DNAポリメラーゼ(Zhu and Ito, Biochem. Biophys. Acta. 1219:267−276 (1994))及びT4 DNAポリメラーゼホロ酵素(Kaboord and Benkovic, Curr. Biol. 5:149−157 (1995))等が挙げられる。
また、鋳型核酸としては、環状DNAが好適に例示されるがこれに限られるものではなく、直鎖状DNAを用いてもよい。RCA法の場合、増幅効率の点から環状DNAが好ましい。鋳型核酸は一本鎖及び二本鎖が適用可能である。また、天然のDNAとしてプラスミドDNA・真核及び原核生物のゲノムDNA、及び、人工的に作成したDNA分子として、細菌人工染色体(BAC)DNA・ファージミド・コスミド等の種々のDNA分子が鋳型核酸となりうる。さらに、オリゴヌクレオチド等の合成DNAも鋳型核酸とすることができる。
以上のように構成することにより、鋳型核酸に特異的なDNA断片の効率的な増幅が可能となる。つまり、鋳型核酸に関連のない非特異的増幅を抑制でき、バックグラウンドノイズの影響を受けないDNA断片の増幅が可能となる。
更に、本発明の高度好熱菌改変型SSBは、DNAライブラリーからの標的cDNAクローンの濃縮又は単離に適用することができる。詳細には、濃縮又は単離を所望する標的cDNAの一部の配列をプライマーとして使用し、DNAライブラリーを鋳型として増幅反応を行う際に、本発明の高度好熱菌改変型SSBを適用できる。ここで、増幅反応に際しては、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系の他、通常のPCR反応系等を利用することが可能である。これにより、標的cDNAと関連のない非特異的な増幅を抑制でき、標的cDNAのみを特異的に増幅可能となる。したがって、本発明の高度好熱菌改変型SSBの、DNAライブラリーからの標的DNAクローンのクローニング系への適用により、所望の標的cDNAクローンを特異的、かつ、効率的に濃縮、単離することが可能となる。
ここで、DNAライブラリーとしては、濃縮若しくは単離を所望する標的のDNA領域を含む、又は、含み得ることが期待されるDNAライブラリーが使用される。そして、DNAライブラリーは、遺伝子ライブラリー、cDNAライブラリーのいずれでもよいが、特にはcDNAライブラリーが好ましい。なお、本明細書において、遺伝子ライブラリーとは、特定の単一生物種の全ゲノムDNAを無作為にベクターに組み込んだクローン化されたDNAの集合体を意味する概念として使用した。一方、cDNAライブラリーとは、特定の組織、細胞、生物由来のmRNAを逆転写反応によってcDNA化し、ベクターに組み込んで作成したcDNA断片の集合体を意味する概念として使用した。
プライマーは、通常、標的核酸の特定配列に対して相補的になるように設計されるものである。特には、増幅すべき標的配列のその両端に相補的な塩基配列を有するものであることが好ましく、本発明においては濃縮又は単離を所望する標的cDNAの一部の配列が好適に利用できる。なお、プライマーの設計は公知であり、標的となるcDNAの塩基配列に基づいて設計され、例えば、プライマー設計支援ソフト等を利用することができる。このように設計されたプライマーは化学的に合成することが可能である。例えば、公知のホスホルアミダイト法を用いて固相合成により化学合成することができ、市販の自動核酸合成装置により所望の塩基配列からなるプライマーを自動的に合成することも可能である。合成後のプライマーは、必要に応じてHPLC等の公知の方法により精製される。
また、本発明の高度好熱菌改変型SSBは、RNAからDNAの逆転写反応に適用することができる。詳細には、逆転写酵素の存在下、ランダムへキサマープライマー、オリゴdTプライマー、標的遺伝子特異的プライマーを用いて、逆転写反応によりRNAからのcDNAの合成反応を行う際に本発明の高度好熱菌改変型SSBを適用することができる。更には、合成されたcDNAを鋳型として増幅反応を行う際にも適用することができる。ここで、増幅反応に際しては、置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系の他、通常のPCR反応系等を利用することが可能である。これにより、標的RNAに関連のない非特異的なcDNAの合成を抑制でき、所望の標的RNAに対するcDNAの特異的な合成が可能となる。したがって、本発明の高度好熱菌改変型SSBの逆転写反応系への適用により、所望の標的RNAに対するcDNAを特異的、かつ、効率的に合成することが可能となる。
ここで、RNAとしては、全RNAの他、mRNA、tRNA、rRNA等、特に制限はない。所望の遺伝子が発現若しくは発現していることが期待される細胞、組織から、公知の方法を用いて調製される。例えば、グアニジン/セシウムTFA法、塩化リチウム/尿素法、AGPC法等を利用できる。また、プライマーとして、適用される反応条件において鋳型RNAにアニールするものであれば特に制限はなく、上記したようにランダムへキサマープライマー、オリゴdTプライマー、標的遺伝子特異的プライマーを使用できる。ここで、標的遺伝子特異的プライマーとは、特定の鋳型RNAに相補的な塩基配列を有するものであり、好適には、通常のPCR反応系で使用されるプライマーの3´側が利用される。
〔実施例1〕
高度好熱菌改変型SSBタンパク質の等温増幅反応系に与える影響−1
高度好熱菌改変型SSBタンパク質が鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系に与える影響を、高度好熱菌SSBタンパク質における場合とで比較検討し、本発明の高度好熱菌改変型SSBタンパク質が、鋳型核酸に対する特異性を向上できることを確認する実験を行った。
(方法)
高度好熱菌SSBタンパク質、高度好熱菌改変型SSBタンパク質の存在下で、鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応を行い、鋳型核酸の増幅に与える影響を比較した。反応液(10μl)としては、鋳型核酸を1ng、高度好熱菌SSBタンパク質若しくは高度好熱菌改変型SSBタンパク質を夫々3.0μgずつ添加したサンプルを10本ずつ調製した。
ここでは、鋳型核酸として、pUC19DNA(TmpliPhi DNA Amplification kitに添付のポジティブコントロール用(GE Healthcare Amersham Biosciences社製)を使用した。
また、高度好熱菌SSBタンパク質として、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するサーマス・サーモフィラス由来の高度好熱菌SSBタンパク質を使用した。以下、かかる改変のないサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質を「Tth.SSBタンパク質」と略する場合がある。
そして、高度好熱菌改変型SSBタンパク質としては、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有する改変型を使用した。これは、ここで比較の対象とした配列番号1で示されるサーマス・サーモフィラス由来のSSBタンパク質における255番目のフェニールアラニンがプロリンに置換されている。以下、かかる改変型を「Tth.SSBタンパク質 F255P」と略する場合がある。
各サンプルにつき、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、及び4.5時間の増幅を行った。等温増幅反応は、RCA法に基づいて行い、鎖置換ポリメラーゼとしてPhi29 DNAポリメラーゼを、ランダムプライマーとしてランダムヘキサマーをそれぞれ使用した。詳細には、TmpliPhi DNA Amplification kit(GE Healthcare Amersham Biosciences社製)を用いて製造業者の指示に従って増幅反応を行った。
増幅後、各増幅反応液を2μlずつ分取して、1.2%アガロースゲル電気泳動に供した。電気泳動後のゲルをエチジウムブロミドで染色し、核酸のバンドを可視化した。
また、SSBタンパク質を含む他の何らの組換え関連タンパク質をも添加せず、上記と同様に実験を行ったサンプルをコントロールとした。
(結果)
結果を図1に示す。
図1中、レーン1〜10は、コントロールである。夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、及び4.5時間増幅反応を行った結果を示す。
図1中、レーン11〜20は、Tth.SSBタンパク質の存在下で増幅反応を行ったサンプルである。夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、及び4.5時間増幅反応を行った結果を示す。
図1中、レーン21〜30は、Tth.SSBタンパク質 F255Pの存在下で増幅反応を行ったサンプルである。夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、及び4.5時間増幅反応を行った結果を示す。
Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加して増幅を行なった場合に、鋳型核酸であるpUC19DNAに特異的なDNA断片が増幅できることが確認された(図1、レーン21〜30)。一方、Tth.SSBタンパク質を添加して増幅を行なった場合に確認された増幅産物は、鋳型核酸に関連しないバックグラウンドノイズである可能性が高いと思われた(図1、レーン11〜21)。以上の結果を更に確証すべく、更に実施例2において検討を行った。
〔実施例2〕
高度好熱菌改変型SSBタンパク質の等温増幅反応系に与える影響−2
高度好熱菌改変型SSBタンパク質が等温増幅反応系における非特異的増幅に与える影響について、高度好熱菌SSBタンパク質における場合とで比較検討する実験を行った。
(方法)
高度好熱菌SSBタンパク質(Tth.SSBタンパク質)、高度好熱菌改変型SSBタンパク質(Tth.SSBタンパク質 F255P)の存在下で、等温増幅反応を行い、これらが非特異的増幅に与える影響を比較した。鋳型としてpUC19DNAを添加しなかったことを除いては実施例1と同様に実験を行った。
(結果)
結果を図2に示す。
図2中、レーン1〜10は、Tth.SSBタンパク質の存在下で等温増幅反応を行ったサンプルである。夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、及び4.5時間増幅反応を行った結果を示す。
図2中、レーン11〜20は、Tth.SSBタンパク質 F255Pの存在下で等温増幅反応を行ったサンプルである。夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、及び4.5時間増幅反応を行った結果を示す。
Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加して増幅を行なった場合には、増幅産物は確認されなかった(図2、レーン11〜20)。一方、Tth.SSBタンパク質を添加して増幅を行なった場合には、鋳型核酸を添加しなかったにもかかわらず、増幅産物が確認された(図2、レーン1〜11)。ここで確認された増幅産物は、鋳型核酸とは関係のない増幅産物であり、例えばプライマーダイマーの形成が原因とされるバックグラウンドノイズであると考えられる。したがって、Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加することによって非特異的な増幅は抑制することができるが、Tth.SSBタンパク質では非特異的な増幅を抑制できないことが確認された。
実施例1の結果とを併せて鑑みると、Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加した場合には、鋳型核酸の存在下でのみ増幅産物が得られた(図1、レーン21〜30、及び図2、レーン11〜20の比較)ことから、Tth.SSBタンパク質 F255Pが鋳型核酸の特異的増幅に貢献していることが導かれる。また、Tth.SSBタンパク質に関して、実施例1において鋳型核酸の存在下で得られた増幅パターン(図1、レーン11〜20)と、鋳型核酸の不在下での本実施例2において得られた増幅パターン(図2、レーン1〜10)とは、ほぼ同一であった。つまり、実施例1で得られた増幅産物についても、鋳型核酸とは関連のない非特異的な増幅の結果生じたものが多く含まれることが確認された。
以上の結果より、高度好熱菌改変型SSBタンパク質を添加した場合には、鋳型核酸に関連のない非特異的な増幅を抑制し、かつ、鋳型核酸の特異的な増幅を効率的に行うことができ、増幅効率の向上に寄与し得ることが判明した。しかしながら、改変のない高度好熱菌SSBタンパク質を添加した場合には、非特異的な増幅を抑制できず、鋳型核酸の特異的な増幅を行うには適しないことが判明した。
〔実施例3〕
高度好熱菌改変型SSBタンパク質の等温増幅反応系に与える影響−3
次に、実施例1及び2の増幅反応液を1.5μlずつ分取して、ナイロンメンブランフィルターにスポットし、フィルター上に固定化した。固定化後、32Pで標識したpUC19鋳型核酸をプローブとしてハイブリダイゼーションを行った後、スポットを可視化し、増幅産物量を確認した。結果を図3に示す。
増幅産物量の比較においても、Tth.SSBタンパク質 F255Pの方は、鋳型核酸の不在下では増幅産物はほとんど得られず、鋳型核酸の存在下でのみ増幅産物が得られることが確証された。しかしながら、Tth.SSBタンパク質の方は、鋳型核酸の存在下及び不在下の双方において、ほぼ同量の増幅産物が得られた。つまり、Tth.SSBタンパク質を添加して増幅反応を行った場合得られる増幅産物は、鋳型核酸に関連のない非特異的な増幅産物であると考えられる。したがって、鋳型核酸存在下で確認されている増幅産物の、ほとんどはバックグラウンドノイズある蓋然性が高いことが判明した。
以上の結果より、改変のない高度好熱菌SSBタンパク質は、鋳型核酸の特異的な増幅を抑制していることが考えられる。したがって、高度好熱菌改変型SSBタンパク質の添加下で確認されている鋳型核酸の増幅効率の向上は、高度好熱菌改変型SSBタンパク質特有の効果であることが判明した。
〔実施例4〕
SSBタンパク質貯蔵緩衝液が等温増幅反応系に与える影響
SSBタンパク質を貯蔵するのに用いられるSSBタンパク質貯蔵緩衝液が、等温増幅反応系に影響を与えるか否かを検討する実験を行った。
(方法)
実施例1〜3より、高度好熱菌改変型SSBタンパク質を等温増幅系に添加した場合に効率的な特異的増幅産物の産生を導けることが確認された。本実施例においては、かかる効果がSSBタンパク質を貯蔵するために使われるSSBタンパク質貯蔵緩衝液の含有成分に起因するものではないか否かを検討した。反応液(10μl)としては、SSBタンパク質貯蔵緩衝液0.5μlを添加したサンプルと、SSBタンパク質貯蔵緩衝液と高度好熱菌改変型SSBタンパク質を0.3μg(0.5μl)を添加したサンプルを、夫々14本ずつ調製した。
SSBタンパク質貯蔵緩衝液は、1.5M KCl、50mM Tris−HCl(pH7.5)、1.0mM EDTA、0.5mM DTT、50%グリセロールに調製したものを使用した。また、鋳型核酸及び高度好熱菌改変型SSB(Tth.SSBタンパク質 F255P)は、実施例1〜2で使用したものと同じものを使用し、実施例1、2と同様にして増幅反応を行った。なお、増幅反応は、各サンプルにつき、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.5、及び7.0時間行った。
また、SSBタンパク質を含む他の何らの組換え関連タンパク質をも添加せず、上記と同様に実験を行ったサンプルをコントロールとした。
(結果)
結果を図4に示す。
図4中、レーン1〜14はコントロールであり、夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5及び7.0時間増幅反応を行った結果を示す。
図4中、レーン15〜28はSSBタンパク質貯蔵緩衝液の存在下で等温増幅反応を行ったサンプルである。夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、及び7.0時間増幅反応を行った結果を示す。
図4中、レーン29〜42はTth.SSBタンパク質 F255P及びSSBタンパク質貯蔵緩衝液の存在下で等温増幅反応を行ったサンプルである。夫々、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、及び7.0時間増幅反応を行った結果を示す。
次に、実施例3の増幅反応液のうち、増幅時間0、1.0、2.0、3.0、4.0、及び5.0の反応液を1.5μlずつ分取して、ナイロンメンブランフィルターにスポットし、フィルター上に固定化した。固定化後、32Pで標識したpUC19鋳型核酸をプローブとしてハイブリダイゼーションを行った後、スポットを可視化し、増幅産物量を確認した。結果を図5に示す。
貯蔵緩衝液を添加した場合の増幅産物量は、コントロールと大きな相違は認められなかった(図4のレーン1〜14とレーン15〜28の比較、及び図5)。Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加した場合の増幅産物量は、特に、増幅時間3時間以上で、コントロール及び貯蔵緩衝液のみの場合と比較して、有意に増幅産物量が増加していることが確認された(図4のレーン29〜42と他のレーンとの比較、及び図5)。
以上の結果より、実施例1〜3に確認された高度好熱菌改変型SSBタンパク質添加による特異的増幅産物の産生において、SSBタンパク質貯蔵溶液の影響を受けたものではなく、高度好熱菌改変型SSBタンパク質による作用であることが判明した。
〔実施例5〕
種々の組換え関連タンパク質が等温増幅反応系に与える影響−1
上述の実施例1〜3において、高度好熱菌改変型SSBタンパク質が等温増幅反応において鎖置換ポリメラーゼの鋳型核酸に対する特異性を向上させることが確認された。以下の実施例5〜7においては、他の種々の組換え関連タンパク質が、等温増幅反応系に影響を与えるか否かを比較検討する実験を行った。
(方法)
等温増幅反応系に、鎖置換因子或いは複製補助タンパク質として知られる種々の組換え関連タンパク質を何れか1種類添加することによって標的DNA由来のDNA断片の増幅状況とバックグラウンドノイズの発生状況を確認した。ここで、実験に供した組換え関連タンパク質は以下の通りであった。
・サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)HB8由来のRecOタンパク質(以下、「Tth.RecOタンパク質」と略する場合がある)
・大腸菌(.coli)由来のRecAタンパク質(以下、「.coli RecOタンパク質」と略する場合がある)
・ サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)HB8由来のRecAタンパク質(以下、「Tth.RecAタンパク質」と略する場合がある)
.coli由来のSSBタンパク質(以下、「.coli SSBタンパク質」と略する場合がある)
・ サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)HB8由来の改変型SSBタンパク質(かかる改変型は、実施例1〜4で使用したTth.SSBタンパク質 F255Pである。)
・T4 gene32タンパク質
反応液(10μl)を、鋳型核酸を1ngと、上記組換えタンパク質を夫々3.0μgずつ1種類添加したサンプルを各組換えタンパク質につき1本ずつ調製した。更に、鋳型核酸を添加しないことを除いては同様に調製したサンプルを各組換えタンパク質につき1本ずつ調製した。ここでは、鋳型核酸及び等温増幅反応は実施例1〜3と同様に行った。増幅反応を24時間行った後、65℃で10分間熱変性することにより増幅反応を停止した。増幅反応後の反応液を5μLずつ分取し、1%アガロース電気泳動に供した。電気泳動は定法に従って4.5V/cmで45分行った。電気泳動後、エチジウムブロミド染色を行って増幅産物を可視化した。
また、コントロールとして、何れの組換え関連タンパク質をも添加せず、上記と同様に実験を行った。
(結果)
結果を図6に示す。
図6中、レーン1〜7は鋳型核酸の存在下で増幅反応を行った結果を示す。レーン1は、コントロールである。
レーン2は、Tth.RecOタンパク質を、
レーン3は、.coli RecAタンパク質を、
レーン4は、Tth.RecAタンパク質を
レーン5は、.coli SSBタンパク質を、
レーン6は、Tth.SSBタンパク質 F255Pを、
レーン7は、T4 gene32タンパク質を添加した場合の結果を示す。
図6中、レーン8〜14は鋳型核酸の不存在下で増幅反応を行った結果を示す。
レーン8は、コントロールである。
レーン9は、Tth.RecOタンパク質を、
レーン10は、.coli RecAタンパク質を、
レーン11は、Tth.RecAタンパク質を
レーン12は、.coli SSBタンパク質を、
レーン13は、Tth.SSBタンパク質 F255Pを、
レーン14は、T4 gene32タンパク質を添加した場合の結果を示す。
Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加して増幅反応を行った場合(図6、レーン6)、目的とするpUC19DNAに特異的なDNA断片が増幅できることが確認された。そして、鋳型核酸の不在下では増幅産物が確認されなかった(図6、レーン13)ことから、Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加により鋳型核酸の特異的な増幅が行われていることが確認された。
その一方で、コントロールは、pUC19DNA由来の増幅産物も確認されたが(図6、レーン1)、鋳型核酸を添加しないで増幅反応を行った場合においても増幅産物が認められた(図6、レーン8)。これは、例えばプライマーダイマーの形成が原因とされる鋳型核酸に関連しない非特異的増幅が生じたものであり、.coli RecAタンパク質、Tth.RecAタンパク質、.coli SSBタンパク質を添加した場合にも同様の非特異的増幅が確認された(図6、レーン10〜12)。そして、これらの.coli RecAタンパク質、Tth.RecAタンパク質、.coli SSBタンパク質で確認された鋳型不在下での増幅パターンは、これらのタンパク質の存在下で鋳型核酸を添加して増幅した場合に得られた増幅パターンと相似していた。このことから、鋳型核酸添加下で得られた増幅産物も鋳型核酸に関連する増幅産物ではなく、非特異的増幅の結果得られた増幅産物であると考えられる。一方で、鋳型核酸の増幅は抑制されていることが考えられる。また、Tth.RecOタンパク質及びT4 gene32タンパク質を添加した場合には、鋳型核酸の存在下ならびに不在下に関わらず、増幅産物を得ることが出来ず、増幅が阻害された(図6、レーン2とレーン9、及びレーン7とレーン14)。
以上の結果より、高度好熱菌改変型SSBタンパク質を添加した場合には、鋳型核酸に関連のない非特異的な増幅を抑制できることが確認された。かかる知見より、高度好熱菌改変型SSBタンパク質を等温増幅系に添加することにより、鋳型核酸の特異的な増幅を効率的かつ高精度に行うことができることが判明した。また、本発明の高度好熱菌由来改変型のSSBタンパク質以外の組換え関連タンパク質を添加して増幅反応を行った場合には、非特異的な増幅を抑制できないばかりか、鋳型核酸の増幅阻害が起きていると考えられるが、高度好熱菌改変型SSBタンパク質を添加して増幅反応を行った場合には、このような増幅阻害を抑制できるものと考えられる。また、T4 gene32タンパク質、Tth.RecOタンパク質を添加した場合には、非特異的な増幅を抑制することができる一方で、鋳型核酸の増幅をも阻害することが確認された。つまり、T4 gene32タンパク質、Tth.RecOタンパク質の使用は、反応系に対して添加量等を適切に制御する必要があり、手順が煩雑となるという欠点を有することが判明した。
〔実施例6〕
種々の組換え関連タンパク質が等温増幅反応系に与える影響−2
実施例5に続き、種々の組換え関連タンパク質が、等温増幅反応系に影響を与えるか影響を比較検討する実験を行った。
(方法)
実施例5と同様にして、増幅時間を18時間として種々の組換え関連タンパク質が、等温増幅反応系に影響を検討した。
(結果)
結果を図7に示す
図7、レーン1〜7は鋳型核酸の存在下で増幅反応を行った結果を示す。
レーン1は、コントロールである。
レーン2は、Tth.RecOタンパク質を、
レーン3は、Tth.RecAタンパク質を、
レーン4は、.coli RecAタンパク質を、
レーン5は、Tth.SSBタンパク質 F255Pを、
レーン6は、.coli SSBタンパク質を、
レーン7は、T4 gene32タンパク質を添加した場合の結果を示す。
図7、レーン8〜14は、鋳型核酸の不存在下で増幅反応を行った結果を示す。
レーン8は、コントロールである。
レーン9は、Tth.RecOタンパク質を、
レーン10は、Tth.RecAタンパク質を、
レーン11は、.coli RecAタンパク質を、
レーン12は、Tth.SSBタンパク質 F255Pを、
レーン13は、.coli SSBタンパク質を、
レーン14は、T4 gene32タンパク質を添加した場合の結果を示す。
実施例5と同様に、Tth.SSBタンパク質 F255Pを添加して増幅反応を行った場合において、鋳型核酸であるpUC19DNAに特異的なDNA断片が増幅することが判明した(図7、レーン5とレーン12の比較)。
一方、鋳型核酸の存在下、Tth.RecAタンパク質、.coli RecAタンパク質、及び.coli SSBタンパク質を添加した場合(図7、レーン3、4及び6)においては、鋳型核酸を添加しないで増幅反応を行って得られた増幅産物と同じサイズの増幅産物が認められた(図7、レーン10、11及び13)。鋳型核酸不在下で増幅される増幅産物は、プライマーダイマー等が原因とされるバックグラウンドノイズと考えられ、鋳型核酸に特異的なDNA断片ではない。したがって、これらのタンパク質の添加は、非特異的増幅の抑制効果を発揮し得るものではないと判明した。
以上の結果を、実施例5の結果と併せて鑑みると、反応時間が変化しても同様の結果が得られたことから、反応時間の変化により高度好熱菌改変型SSBタンパク質の作用に変化は認められないことが判明した。
〔実施例7〕
種々の組換え関連タンパク質が等温増幅反応系に与える影響(制限酵素処理)−3
実施例6で使用した等温増幅後の反応液から5μLずつ分取して、制限酵素処理を行った。制限酵素処理は、10ユニットの制限酵素EcoRIを使用し、37℃で2時間反応させた。
制限酵素処理後、1%アガロース電気泳動に供した。電気泳動は、実施例5〜6と同様の方法によって行った。
結果を図8に示した。
図8中、レーン1〜14は、図6のレーン1〜14に対応する。
コントロール、Tth.RecAタンパク質、.coli RecAタンパク質、Tth.SSBタンパク質 F255P、.coli SSBタンパク質の存在下であっては、鋳型核酸であるpUC19DNAに特異的なDNA断片が含まれていることが確認された(図8、レーン1、3〜6)。
しかしながら、Tth.RecAタンパク質に関しては、鋳型核酸を添加しないで増幅反応を行った場合にも、増幅産物のバンドが確認された(図8、レーン10)。これにより、増幅反応によって得られた増幅産物中に、鋳型核酸に非特異的なDNA断片が含まれることを意味する。さらに、鋳型核酸を添加した場合においても、電気泳動ゲル上には、制限酵素EcoRIで切断されないDNA分子の存在が確認された。これは、鋳型核酸に対して非特異的な増幅が行われた結果生じたDNA断片であると考えられた。
尚、.coli RecAタンパク質、.coli SSBタンパク質においても同様に非特異的な増幅産物が検出された(図8、レーン4と11の比較、レーン6と13の比較)。
以上の結果より、高度好熱菌改変型SSBタンパク質を添加したサンプルのみが鋳型核酸であるpUC19DNAに非特異的なDNA断片の増幅を抑制できることが判明した。一方、他の組換えタンパク質の存在下では、そのような効果を得ることができないことが判明した。
高度好熱菌SSBタンパク質、高度好熱菌改変型SSBタンパク質の等温増幅反応系に与える影響を、鋳型核酸の存在下で比較検討した実施例1の結果を示す電気泳動パターン 高度好熱菌SSBタンパク質、高度好熱菌改変型SSBタンパク質の等温増幅反応系に与える影響を、鋳型核酸の不在下で比較検討した実施例2の結果を示す電気泳動パターン 高度好熱菌SSBタンパク質、高度好熱菌改変型SSBタンパク質の等温増幅反応系に与える影響をハイブリダイゼーションにより検討した実施例3の結果を示す部ロット SSBタンパク質貯蔵緩衝液が等温増幅反応系に与える影響を検討した実施例4の結果を示す電気泳動パターン SSBタンパク質貯蔵緩衝液が等温増幅反応系に与える影響をハイブリダイゼーションにより検討した実施例4の結果を示すブロット 鎖置換因子として知られる種々のタンパク質を何れか1種類添加することによって等温増幅反応を24時間行い、目的のDNA断片の増幅状況とバックグラウンドノイズの発生状況を確認した実施例5の結果を示す電気泳動パターン 鎖置換因子として知られる種々のタンパク質を何れか1種類添加することによって等温増幅反応を18時間行い、目的のDNA断片の増幅状況とバックグラウンドノイズの発生状況を確認した実施例6の結果を示す電気泳動パターン 実施例6で使用したサンプルを制限酵素処理し、電気泳動を行った実施例7の結果を示す電気泳動パターン

Claims (10)

  1. 鎖置換ポリメラーゼを用いた等温増幅反応系における鋳型核酸の増幅効率の向上に寄与し得る機能を発現するアミノ酸配列を有する高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質であって、1個以上のアミノ酸の欠失、置換、付加及び挿入の少なくとも1つからなる改変が生じている改変部位をアミノ酸配列中に有する高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  2. 前記高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質が、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、又は、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質である請求項1に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  3. 前記改変が、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質の鎖置換ポリメラーゼとの相互作用に変化が生じる改変である請求項1又は2に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  4. 前記改変が、高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のDNA結合能に変化が生じる改変である請求項1〜3のいずれか一項に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  5. 前記改変が、少なくとも3個以上連続するプロリンを有するように高度好熱菌由来の一本鎖DNA結合タンパク質のアミノ酸配列が改変されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  6. 前記改変が、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質を示す配列番号1のアミノ酸配列のうち、255番目のフェニールアラニンが他のアミノ酸に置換されている請求項2〜5のいずれか一項に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  7. 前記改変が、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来の一本鎖DNA結合タンパク質を示す配列番号4のアミノ酸配列のうち、256番目のフェニールアラニンが他のアミノ酸に置換されている請求項2〜5のいずれか一項に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  8. 前記他のアミノ酸がプロリンである請求項6又は7に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質。
  9. 鎖置換ポリメラーゼを用いた核酸の等温増幅方法であって、
    請求項1〜8のいずれか一項に記載の高度好熱菌由来の改変型一本鎖DNA結合タンパク質を添加して増幅反応を行う核酸の増幅方法。
  10. 前記鎖置換ポリメラーゼが、Phi29 DNAポリメラーゼである請求項9に記載の核酸の増幅方法。
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