JP2007028923A - 転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法 - Google Patents

転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2007028923A
JP2007028923A JP2005212960A JP2005212960A JP2007028923A JP 2007028923 A JP2007028923 A JP 2007028923A JP 2005212960 A JP2005212960 A JP 2005212960A JP 2005212960 A JP2005212960 A JP 2005212960A JP 2007028923 A JP2007028923 A JP 2007028923A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
gene
rna
dna
primer
stranded
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2005212960A
Other languages
English (en)
Inventor
Shinichi Hashimoto
真一 橋本
Tsunaharu Matsushima
綱治 松島
Akio Ametani
章夫 飴谷
Yukie Samejima
由紀恵 鮫島
Kayo Shimizu
加代 志水
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
KAKEN GENEQS KK
Post Genome Institute Co Ltd
University of Tokyo NUC
Original Assignee
KAKEN GENEQS KK
Post Genome Institute Co Ltd
University of Tokyo NUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by KAKEN GENEQS KK, Post Genome Institute Co Ltd, University of Tokyo NUC filed Critical KAKEN GENEQS KK
Priority to JP2005212960A priority Critical patent/JP2007028923A/ja
Priority to PCT/JP2006/314459 priority patent/WO2007011016A1/ja
Publication of JP2007028923A publication Critical patent/JP2007028923A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12QMEASURING OR TESTING PROCESSES INVOLVING ENZYMES, NUCLEIC ACIDS OR MICROORGANISMS; COMPOSITIONS OR TEST PAPERS THEREFOR; PROCESSES OF PREPARING SUCH COMPOSITIONS; CONDITION-RESPONSIVE CONTROL IN MICROBIOLOGICAL OR ENZYMOLOGICAL PROCESSES
    • C12Q1/00Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions
    • C12Q1/68Measuring or testing processes involving enzymes, nucleic acids or microorganisms; Compositions therefor; Processes of preparing such compositions involving nucleic acids
    • C12Q1/6809Methods for determination or identification of nucleic acids involving differential detection

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Analytical Chemistry (AREA)
  • Zoology (AREA)
  • Wood Science & Technology (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Immunology (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • Bioinformatics & Cheminformatics (AREA)
  • General Engineering & Computer Science (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Management, Administration, Business Operations System, And Electronic Commerce (AREA)

Abstract

【課題】真核細胞から抽出したmRNA5'末端の塩基配列群の種類と量比を反映する1本鎖遺伝子タグ群の製造方法の提供。また転写開始部位を含むDNAまたはRNAを固定化した固相に、該1本鎖遺伝子タグ群をハイブリダイズする工程を含む、真核細胞における遺伝子の発現量を測定する方法の提供。さらに、得られた遺伝子発現情報を統合し、遺伝子発現プロファイルを作製する方法の提供。
【解決手段】5'SAGE法において開示される方法に2本鎖DNAを1本鎖にするための手法を組み合わせることにより、mRNAの5'末端の塩基配列の種類と量比を反映する1本鎖遺伝子タグ群を作製し、これを試料としてDNAチップへのハイブリダイゼーションを行った結果、1本鎖遺伝子タグ群が発現開始部位を標的とした遺伝子の発現確認に有効であることを見出した。本1本鎖遺伝子タグ群の利用により、様々な転写開始部位を標的とした遺伝子の網羅的発現解析を行うことが可能となる。
【選択図】なし

Description

本発明は、転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法に関する。また、転写開始部位を含むDNAまたはRNAを固定化した固相に、該1本鎖遺伝子タグ群をハイブリダイズする工程を含む、真核細胞における遺伝子の発現量を測定する方法に関する。さらに、得られた遺伝子発現情報を統合し、遺伝子発現プロファイルを作製する方法に関する。
様々な細胞の遺伝子発現状態の比較によって、細胞を特徴付けることができる。つまり、細胞の状態を遺伝子の発現パターンで表現した細胞のカタログを得ることができる。このカタログを利用して、遺伝子の発現状態から細胞を特定することができる。逆に、細胞間で遺伝子の発現パターンを比較すると、各細胞に特徴的な遺伝子を拾い出すこともできる。たとえば、正常な細胞と、人為的な処理を加えた細胞の間で遺伝子の発現状態を比較すると、人為的な処理の結果として発現レベルが変化した遺伝子が見出される。この遺伝子は、人為的な処理の結果として発現レベルが変化した遺伝子である。同様に患者の細胞と健常者の細胞の間で遺伝子の発現状態を比較することによって、疾患に関連する遺伝子を見出すこともできる。
このようにして、遺伝子の発現状態の比較によって、ある状態にある細胞で発現している遺伝子を網羅的に解析し、その種類や発現レベルを細胞間で比較することを、遺伝子の発現解析(expression analysis)と呼んでいる。遺伝子の発現解析のためには、さまざまな方法が用いられている。
発現解析のための方法の1つの例として、5’ SAGE法(非特許文献1、特許文献1) が挙げられる。5’ SAGE法は転写開始部位の遺伝子の発現状態をシーケンス情報として網羅的に解析する技術として有効な方法である。シーケンス情報として網羅的に解析する技術として、このほかSAGE法(非特許文献2)、MPSS法(非特許文献3)などを例示することができる。
発現解析のための方法の2つめの例として、DNAアレイ法が挙げられる。DNAアレイ法は基板上に高密度に配置された数万におよぶ遺伝子プローブに対してある特定の細胞から抽出したmRNAをハイブリダイズさせることにより、ハイブリダイズのシグナル強度から遺伝子の発現状態を網羅的に判定する方法である(非特許文献4)。一般にDNAアレイを構成するプローブは、既知の塩基配列情報に基づいてデザインされている。比較的少量の細胞から抽出されたmRNAを用いてDNAアレイにハイブリダイズさせることにより、多数の細胞間における遺伝子の発現状態の差を定性的または半定量的に簡便に解析することが可能である。
発現解析のための方法の3つめの例として、RT-PCR法(非特許文献5−7)が挙げられる。RT-PCR法は、細胞から抽出した比較的少量のmRNAから、逆転写とPCRの工程を経て得られるDNAを電気泳動法などにより検出する方法である。RT-PCR法は、発現解析の研究において汎用されており、マイクロアレイよりも定量性があるが、多数の試料を同時に処理するための手法としては難点がある。
このように、発現解析に用いられる手法は、網羅性・定量性・シーケンス情報などを勘案しながら、適宜選択されている。
このうち、網羅性においてもっとも優位に立つのがDNAアレイ法である。DNAアレイに用いられる遺伝子プローブは、一般的にシーケンスおよびゲノム配列上の位置が特定されている。したがって、細胞から抽出したmRNAと遺伝子プローブとのハイブリダイズの条件を適当に設定することにより、どの遺伝子が発現しているかを網羅的に検定することができるはずである。しかしながら、DNAアレイ法におけるシグナルには予測できない結果が相当量出現することが報告されるようになっており(非特許文献8−9)、この予測できないシグナルをいかに少なくするかということが、DNAアレイ法を有効に活用するためには必須である。
DNAアレイ法を構成する工程として、次の4つが挙げられる。
1 DNAをスポットする装置を用いて行なう、DNAアレイを作製する工程
2 細胞を処理してmRNAを抽出する工程
3 mRNAとDNAアレイをハイブリダイズする工程
4 ハイブリダイズしたかどうかを確認する工程
これらの工程に関しては、いずれも装置や試薬の改良により、定量性・精製度・安定性・検出感度などが飛躍的に改良されてきている。したがって、予測できないシグナルの原因となっていることは考えにくい。
一方、DNAアレイ法を構成する化合物・情報として、次の4つが挙げられる。
1)アレイに搭載するDNAの配列情報(通常12塩基以上)(非特許文献10)
2)アレイに結合可能なDNA
3)細胞から抽出したmRNA
4)ハイブリダイズを実施する試薬および検出する試薬
これらのうち1)、2)、4)は、特定された化合物や情報であるが、3)のmRNAは分子種や分子サイズが不特定である。言い換えれば、ハイブリダイズの情報を得るために不必要な領域が多数存在していることになる。
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
PCT/JP2004/008174 Hashimoto et al., Nature Biotechnol. 22, 1146-1149 (2004) Velculescu et al., Sceince, 270, 484-487 (1995) Brenner et al., Nature Biotechnol., 18, 630-634 (2000) Gerhold et al., Nature Genetics, 32, supplement, 547-552 (2002) Kawasaki, E. S. and Wang, A. M. PCR Technology(Erlich, H. A. ed), Stockton Press 89-97 (1989) Lynas et al., J Pathol. 157, 285-289 (1989). Erratum in: J Pathol. 159, 358 (1989). Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 8998-9002 (1988) van Ruissen et al., BMC Genomics 6, 91 (2005) Pollock, Chem Phys Lipids 121, 241-256 (2002) Belosludtsev et al., Biotechnique 37, 654-658, 660 (2004)
本発明者らは、mRNAがハイブリダイズの情報を得るために不必要な領域を多数有する場合がある点に着目し、この点が予測できないシグナルの原因の一つとなっているかどうかについて理論的な検証を行なった。
〔理論的検証例〕 いま仮に遺伝子Aと遺伝子Bが存在し、転写終結点はA、Bともに同一の位置であるものとする。転写開始点は、A:転写終結点の550 base 上流、B:転写終結点の500 base 上流であるものとする。すなわち、A遺伝子のmRNAのほうがB遺伝子のmRNAよりも50 baseだけ長い。B遺伝子は、癌細胞に特異的に発現し、A遺伝子は正常細胞・癌細胞のいずれにも発現することが5’SAGE法により解明されていると仮定する。
以上の条件下で、Aの転写開始領域20 baseのタグとBの転写開始領域20 baseのタグを同一のDNAアレイに搭載してハイブリダイズさせれば、癌細胞由来のmRNA、正常細胞由来のmRNAともに、DNAアレイ上のA、Bにシグナルが検出されるであろう。つまり、A遺伝子とB遺伝子の発現の違いを区別することができない。
また、癌細胞由来のmRNA、正常細胞由来のmRNAのそれぞれに対して、上記2つのタグに対応するフォワードプライマーと、oligo dTプライマーを用いてRT-PCRを実施した場合にも、癌細胞および正常細胞の双方において500 baseと550 baseの2種のDNA産物が得られ、癌細胞と正常細胞における各遺伝子の発現の違いを区別することができない。
(理論的検証例おわり)
以上の検証例から、細胞から抽出される全長のmRNAを試料とすることが、DNAアレイ法またはRT-PCR法における予測できないシグナルの出現の原因の一つになっているものと考えられる。
本発明者らは、鋭意検討の結果、細胞から抽出されるmRNA試料の必要最小限の部分だけを切り出して抽出することにより、DNAアレイ法における予測できないシグナルの出現を回避することが可能になるものと考えた。例えば、5’SAGE法において開示されている方法の一部を用いることにより、mRNAの5’末端の塩基配列の種類と量比を反映するDNAタグを生成することができるものと考えた。
ここで、ハイブリダイズに必要なサンプルは、mRNAと同様に1本鎖であることが必要である。また、熱力学的な観点からして、ハイブリダイゼーションの条件は、DNAの分子量が小さくなることにより難しくなる。
5’SAGE法において開示されている方法を用いて、全て20 baseの長さの1本鎖タグ群を製造し、同様に20baseの長さのDNAを固定させたDNAアレイに添加した場合、相同性を有する相補的なDNA同士がハイブリダイズして、そのシグナルが検出できるものと考えられる。本検出方法が十分に実用的なレベルで確立されれば、上記課題を解決(遺伝子の発現解析において、予測できないシグナルの出現を除去)できる可能性がある。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、真核細胞から抽出したmRNA5'末端の塩基配列群の種類と量比を反映する1本鎖遺伝子タグ群の製造方法の提供を課題とする。また、転写開始部位を含むDNAまたはRNAを固定化した固相に、該1本鎖遺伝子タグ群をハイブリダイズする工程を含む、真核細胞における遺伝子の発現量を測定する方法の提供を課題とする。さらに、得られた遺伝子発現情報を統合し、遺伝子発現プロファイルを作製する方法の提供を課題とする。
上述のDNAアレイ法を用いた場合の予測できないシグナルを回避するためには、完全長mRNA 5'末端の塩基配列群の種類と量比を反映する1本鎖遺伝子タグ群を試料として用いることが有効であるものと考えられる。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、5’SAGE法において開示されている方法に、2本鎖DNAを1本鎖にするための手法および化学的修飾法を組み合わせることにより、mRNAの5’末端の塩基配列の種類と量比を反映する1本鎖遺伝子タグ群を作製した。そして、これを試料としてDNAチップへのハイブリダイゼーションを行ったところ、1本鎖遺伝子タグ群が、発現開始部位を標的とした遺伝子の発現確認に有効であることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の1本鎖遺伝子タグ群の製造方法、ならびにこの方法によって取得されたタグ群の用途に関する。
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔15〕を提供するものである。
〔1〕 次の工程を含む、1本鎖遺伝子タグ群の製造方法。
(1) 真核細胞から抽出したRNAのCAP部位にIIS型制限酵素の認識配列を含むRNAリンカーを連結する工程、
(2) (1)のRNAを鋳型としてcDNAを合成する工程、
(3) (2)のcDNAにRNAリンカーに含まれる認識配列を認識するIIS型制限酵素を作用させ、2本鎖遺伝子タグ群を生成する工程、
(4) (3)の2本鎖遺伝子タグ群から所望のストランドの1本鎖核酸からなる遺伝子タグ群を生成する工程
〔2〕 次の工程によってcDNAを合成する〔1〕に記載の方法。
i) RNAの任意の領域にアニールするプライマーによってcDNAの第1鎖を合成する工程、および
ii) 第1鎖のRNAリンカーを鋳型として合成された領域にアニールするプライマーによって、cDNAの第2鎖を合成して2本鎖cDNAとする工程
〔3〕 第1鎖のRNAリンカーを鋳型として合成された領域にアニールするプライマーが、固相に結合することができる標識を有するか、または固相に固定化されており、前記固相の回収によって1本鎖遺伝子を回収する工程を含む〔2〕に記載の方法。
〔4〕 IIS型制限酵素を作用させる前、または後に固相を回収する〔3〕に記載の方法。
〔5〕 1本鎖遺伝子の回収に用いた標識、または固相に、化学的修飾をさらに行う工程を含む、〔3〕または〔4〕に記載の方法。
〔6〕 化学的修飾が、蛍光修飾である〔5〕に記載の方法。
〔7〕 RNAリンカーがII型制限酵素の認識配列を含む〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 次の要素を含む、真核細胞の1本鎖遺伝子タグ群の製造用試薬キット。
(a) IIS型制限酵素の認識配列を含むオリゴヌクレオチドからなるRNAリンカー
(b) RNAリンカーをRNAのCAP部位に連結するための試薬
(c) RNAリンカーを鋳型として合成されたcDNAにアニールするオリゴヌクレオチドからなるcDNA第2鎖合成用のプライマー
(d) cDNA第1鎖合成用プライマー
〔9〕 cDNA第1鎖合成用プライマーが、以下のi)-iii)からなる群から選択されるいずれかのプライマーである〔8〕に記載のキット。
i) ランダムプライマー
ii) オリゴdTプライマー
iii) 特定のmRNAに相補的な塩基配列を含むプライマー
〔10〕 次の工程を含む、真核細胞における遺伝子の発現量を測定する方法。
(1) 〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法によって1本鎖遺伝子タグ群を製造する工程
(2) 転写開始部位を含むDNAまたはRNAを固相に固定化する工程
(3) 固相に固定化されたDNAまたはRNAに、前記1本鎖遺伝子タグ群をハイブリダイズさせる工程
(4) 固相に固定化されたDNAまたはRNAにハイブリダイズした1本鎖遺伝子タグを定量する工程
〔11〕 転写開始部位を含むDNAまたはRNAが、ハイブリダイズさせる1本鎖遺伝子タグ群と同等の長さの塩基からなるポリヌクレオチドである〔10〕に記載の方法。
〔12〕 転写開始部位を含むDNAまたはRNAが、12〜26baseの塩基からなるポリヌクレオチドである〔10〕に記載の方法。
〔13〕 〔10〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法により得られた複数の遺伝子発現情報を統合し、遺伝子発現プロファイルを作製する方法。
〔14〕 〔13〕に記載の方法によって作製された遺伝子発現プロファイル情報を蓄積した、遺伝子発現プロファイルのデータベース。
〔15〕 〔13〕に記載の方法によって、異なる種類の細胞の遺伝子発現プロファイルを取得し、遺伝子発現プロファイルを比較して細胞間で発現頻度の異なる遺伝子タグを選択する工程を含む、遺伝子発現プロファイルの解析方法。
本発明は、真核細胞から抽出したmRNA5'末端の塩基配列群の種類と量比を反映する1本鎖遺伝子タグ群の製造方法を提供した。さらに、この遺伝子タグ群をDNAチップに対するハイブリダイゼーションの試料として用いることにより、所望の遺伝子の発現を確認することに成功した。
本発明は、標的細胞において発現する遺伝子の転写開始部位および発現量を、簡易、正確、かつ網羅的に調べられるという利点があり、産業上様々な分野で使用することが可能である。
例えば医療分野においては、転写開始部位が細胞の状態を反映していることから、同じ組織部位の細胞における、正常状態と疾患状態の転写開始部位の違いを調べ、それに基づいて遺伝子クローニングを行なうことが可能である。さらには、疾患細胞特異的に発現する遺伝子、あるいは疾患特異的な選択的スプライシングのフォームの遺伝子を明らかにすることもできる。したがって、疾患診断用のPCRプライマーやDNAプローブの開発も可能である。
また、同様な比較から疾患特異的な転写開始部位に注目し、発現が確認された遺伝子がコードするタンパク質の機能を明らかにすれば、疾患のメカニズムを明らかすることができる。疾患を引き起こす遺伝子の発現、またはタンパク質の活性を抑えることができれば、疾患の症状緩和、緩解、治癒を引き起こすことが可能となる。すなわち、このような遺伝子の転写調節、転写に関わる細胞内情報伝達、情報伝達を引き起こす因子の機能阻害などを誘導できる物質、または該遺伝子がコードするタンパク質の活性を阻害する物質は、薬剤候補物質となる。
疾患誘発遺伝子のmRNAを特異的に破壊する、あるいはそのような遺伝子の転写を特異的に阻害できるように作られる、いわゆる核酸医薬は、転写開始部位の情報、ならびに遺伝子全長の構造解明が重要である。また薬剤がある細胞に引き起こす遺伝子転写の変化を調べると、薬理作用の全般が明らかにでき、また副作用、毒性なども同時に解明できる。実験室において副作用や毒性を明らかにできればその有用性は高い。つまり、培養細胞での検定が可能になれば動物実験の軽減になり、また臨床試験の前に副作用や毒性が推定できれば、臨床試験における事故の防止になる。以上のことより、本発明の方法は、診断法の開発、薬剤開発の出発点、臨床試験の直前において、転写開始部位を標的にして目的遺伝子の発現を網羅的に明らかにする技術として利用可能である。
また農業・食糧分野への応用も見逃せない。家畜、水産物、作物などの疾患の診断、治療薬開発については上記に述べた医療分野への応用と同様である。畜産分野では、品種、産地の特定が大きな課題になっている。品種、産地などがたとえば家畜動物の毛の色に現れている場合、毛の色に関与する遺伝子の発現を調べればよい。しかしこのような遺伝子セットをすべて明らかにすることは簡単ではない。そこで網羅的に遺伝子の転写開始部位、および転写開始部位を標的した遺伝子の発現量を明らかにする技術があれば、毛の色を特定する遺伝子セット、つまり品種や産地を特定する遺伝子セットを特定できる。現在のところ、遺伝子発現の解析にDNAチップを使うことが多いにもかかわらず、家畜、水産動物、作物などの生物種の解析のためのDNAチップは作られておらず、当業者がそれぞれチップ上のプローブを自らデザインする必要がある。本発明では、DNAチップでの転写開始部位の解析にふさわしい試料調製法を提供し、同時に「遺伝子タグの製造方法」で得られたデータに基づいてDNAチップのプローブをデザインする方法も提供する。
また食糧分野では、近年、特定の保健作用をもつ食品の開発が盛んである。食品成分の生理作用の解明に、作用対象細胞における転写開始部位の変化の誘導を調べることは重要である。
CAP構造は、真核細胞あるいは真核細胞に感染するウイルスのmRNAの5’末端に存在する構造である。具体的には、7-メチルグアノシンが5’-3リン酸架橋を介してmRNAの5’末端のヌクレオチドに結合してCAP構造を構成している。
本発明は、ハイブリダイズによって転写開始部位を解析できるように、mRNAの5'末端領域のみを取得する方法を提供した。細胞内にはキャップ構造をもつRNAがある。このキャップ構造をもつRNAの中には、タンパク質に翻訳される鋳型となる成熟型mRNAが含まれる。またタンパク質をコードしないRNA(non-coding RNA、非翻訳RNA)も含まれる。他方、細胞からRNAを得る場合には、一部のRNAが分解されている可能性がある。また、細胞内にはタンパク質に翻訳される鋳型とはならず、キャップ構造をもたないRNAも混在している。このような解析対象にならないRNAを含む試料について、転写開始部位を含み、タンパク質に翻訳される鋳型となる成熟型mRNAを含む解析をするには、たとえばオリゴキャッピング法が有効である。オリゴキャッピング法は公知の方法である(Maruyama and Sugano. 1994. Gene, 138: 171-4)。この方法では、2つの酵素を用いた処理の後に、キャップ構造をもっていたmRNAのみにRNAリンカーをつなげるのが特徴的である。RNAリンカーを結合させた後に、このリンカーをもっているものだけを精製し、他のRNA成分を除く。すなわち、逆にいえば、ハイブリダイズによる解析に供されるDNAは、原理的にはキャップ構造をもつmRNAに由来するもののみである。このmRNAのみを取り出して処理し、ハイブリダイズのためのプローブであるオリゴ核酸に結合できるようにしたのが本発明である。
これまでのチップの場合、ハイブリダイズにより解析される試料は、細胞から得たmRNA画分にある遺伝子の全長であった。またハイブリダイズのために用意されているプローブは、データベースに基づき、異なるmRNAが同じプローブに結合しないようにデザインされた数十塩基(たとえば50塩基)の長さのものである。このような試料とプローブを用いると、ある遺伝子の発現の有無、また発現量の大小を判定できる。しかしこれらでは真の転写開始部位を有するmRNAの個々の発現量を正確に明らかにすることはできない。これに対し本発明では、試料DNAの1本鎖部分は20塩基程度の長さであり、mRNAの転写開始部位を含む5'末端に相当する。本発明によって初めてハイブリダイズにより転写開始部位の解析が可能になる。
チップ上の区画などにあるプローブには、転写開始部位と相補的な配列をもつDNAとする。たとえばその長さは20塩基である。この配列は、発明者らの別の発明である「遺伝子タグの取得法」(PCT/JP2004/008174)で示した方法によって得られた配列情報から得るのが好ましい。これによって転写開始部位付近の解析がより確実になる。
これまでに数多くの生物種のゲノムの塩基配列が明らかにされ、本発明が適用される真核生物のゲノム配列も多数明らかにされている。「遺伝子タグの取得方法」によって得られた転写開始部位のデータを、ゲノム配列に当てはめると、遺伝子全体の構造が明らかになる。したがって本発明は、ゲノム構造の明らかな生物種に対しての適用が最も有効である。「遺伝子タグの取得方法」によって得られた塩基配列データには、ゲノム配列に当てはめられないものが数多く(たとえば実際の実験例では25%、ただし同じ配列のタグが繰り返し出現した場合も1つのタグと数え、2塩基以上配列がゲノム配列と異なるものを当てはめられないとしたとき)含まれるのが現状である。ただし多数がゲノムに当てはめられない理由は、必ずしも明確ではない。原理上、本発明ならびに「遺伝子タグの取得方法」による解析は、ゲノム配列が明らかではない生物種への適用も必ずしも不可能ではない。mRNAにキャップ構造をもつのは真核生物だけではなくウィルスも含まれ、ウィルスのゲノム配列も多数明らかにされており、ウィルスも本発明の対象になる。
本発明において、キャップ構造とは、mRNAの5'末端において7-メチルグアノシルリボ核酸が、5'-5'-3リン酸架橋を介して結合したものをいう。mRNAはCAP構造によって5'-3'エクソヌクレアーゼ活性による分解から保護されている。細胞内では、役割を終えたmRNAのCAP構造は、デキャッピング酵素(decapping enzyme)によって除去される。その結果、CAP構造を失ったmRNAは、5'-3'エクソヌクレアーゼによって分解される(LaGradeur et al., EMBO J,17:1487-1496, 1998)。CAP構造は、RNAポリメラーゼIIによる転写反応の初期の段階でRNAの5'末端に付加されていると考えられている。
本発明の方法は、このRNAのCAP構造にRNAリンカーを連結する工程を含む。本発明において、RNAは、真核細胞に由来するあらゆるRNAを用いることができる。より具体的には、polyA(+) RNAやtotal RNAを用いることができる。具体的には、動物、植物、酵母、あるいは粘菌などの、mRNAにCAP構造を有するあらゆる生物種に由来する細胞を利用することができる。
更に、ウィルスやウィロイドあるいはマイコプラズマのような細胞内寄生体が感染した真核生物が作るRNA、導入された遺伝情報から転写されたRNAも本発明の対象になる。たとえば、本来CAP構造を持たないとされている原核細胞の遺伝子であっても、転写可能な形で真核細胞に導入することによって、CAP構造を与えることができる。こうして転写されたRNAも、本発明における真核細胞に由来するRNAに含まれる。また、ベクターとして人為的に真核細胞に導入された遺伝情報から転写されるRNAもキャップ構造をもち、解析可能である。
これらのRNAを有する真核細胞からRNAを抽出する。RNAの抽出方法は公知であり、たとえばGPTC法に基づいたRNeasy(Qiagen)などの市販キットを用いると簡便に高純度のRNAが得られる。RNAの抽出にあたり、細胞の破壊が必要な場合には、当業者に公知の方法によって破壊することができる。
本発明において、RNAリンカーはキャップ構造をもつRNAに連結される。キャップ構造にオリゴRNAやオリゴDNAを結合する方法は任意である。上述のようなオリゴキャッピング法は、RNAリンカーの結合に好ましい。オリゴキャッピング法は、遺伝子の全長をクローニングするためにmRNAの5'末端を保護できる方法として開発された(Maruyama and Sugano. 1994. Gene, 138: 171-4))。オリゴキャッピング法によるクローニングでは、5'末端のキャップ構造をもっていたmRNAへ結合させたリンカーの配列をもつプライマーと、成熟型全長mRNAの3'末端にあるポリA構造に結合するオリゴdTとを用いて増幅すると、全長遺伝子がクローニングできる。
オリゴキャッピング法では、まずRNA画分をバクテリアアルカリ性フォスファターゼ(BAP)で処理し、キャップ構造をもたないRNAの5'末端にあるリン酸基を加水分解し水酸基にする。なんらかの理由で切断され新たにできたRNA断片の5'末端、あるいはミトコンドリア由来のRNAなどがこの酵素の基質になりうる。次にタバコ酸ピロホスファターゼ(TAP)処理すると、キャップ構造中のトリリン酸結合が加水分解して、メチル化グアノシルリボ核酸が遊離し、5'末端はリン酸基になる。すなわちこの2つの酵素処理によって、不完全なRNAは5'末端が水酸基になり、キャップ構造をもっていたRNAだけが5'末端はリン酸基になる。これにたとえばT4リガーゼを用いると、RNAリンカーはリン酸基のあるRNAに結合する。T4 RNAリガーゼによるライゲーションは5'末端のリン酸基を要求する。しかし5'末端が水酸基のRNAには反応しない。こうして成熟型で5'末端が完全なmRNA由来のRNAのみに、リンカーを結合できる。
本発明において、CAP構造に連結するRNAリンカーは、少なくともIIS型制限酵素の認識配列を含むオリゴヌクレオチドからなる。RNAリンカーとして用いるオリゴヌクレオチドは、DNAであってもRNAであっても良い。好ましいRNAリンカーはRNAである。RNAリンカーを構成する塩基配列は、IIS型制限酵素の認識配列を含む任意の塩基配列であってよい。
IIS型制限酵素は、特異的な認識部位から一定の長さだけ離れた任意の配列を切断する。本発明は、mRNAの5'末端をタグとして取得することを目的としている。したがって本発明で用いる転写開始部位を含むDNAを作製するためには、mRNAの5'末端の近く、つまりRNAリンカーの3'末端にIIS型酵素の認識配列を配置するのが望ましい。mRNAの転写開始部位の下流の部位において切断が起こるように、認識配列を配置する。IIS型制限酵素は様々な種類が知られている。認識配列と切断位置の間の距離は、酵素によってほぼ一定である。たとえば、Bsm FIあるいはFokIは認識配列から9〜10塩基の位置でDNAを切断し、粘着末端(sticky end)を残す。その他にも同様の作用を有するIIS型の制限酵素として、次のような酵素が知られている(Szybalski, Gene 40:169, 1985)。
BbvI, BbvII, BinI, FokI, HgaI, HphI
MboII, MnlI, SfaNI, TaqII, TthlllII
更に、Mme Iと呼ばれるIIS型制限酵素は、認識配列(5'-TCCRAC-3')から20塩基離れた位置を切断する(Tucholski et al, Gene Vol.157, pp.87-92, 1995)。MmeIをタギング酵素として利用し、20塩基長のタグを得ることができる発現解析方法も公知である(US Patent 6498013)。MmeIを利用するSAGEは、特にlong SAGEとも呼ばれる。IIS型制限酵素は、用いる酵素によって認識配列が異なるので、その酵素に応じてRNAリンカーにその制限酵素の認識配列を配置することが望ましい。たとえばIIS型酵素としてMmeIを用いる場合、認識配列は5'-TCCRAC-3'(ただしRはGまたはA)なので、RNAリンカーの3'末端にUCCRAC(RはGまたはA)を配置するのが望ましい。
更に、RNAリンカーを構成する塩基配列は、タグの増幅のためのプライマーがアニールするための領域として利用することもできる。プライマーがアニールするための領域としては、10塩基以上の長さ、通常10から40程度、特に15から30塩基の長さが好ましい。プライマーが構成する塩基は、プライマーの融解温度(Tm)が60から80℃、特に65から75℃になるようにデザインすることができる。プライマーどうしがダイマーを作るもの、プライマーが結合する部分が高次構造をもつものは望ましくない。またGCがあまり多く含まれないものが好ましい。以上の条件を満たせば、プライマーがアニールする部分の塩基配列は任意である。更に、各種の制限酵素の認識配列を構成する領域と、プライマーをアニールさせるための領域は、RNAリンカーの中で重複させることもできる。またRNAリンカーの3'末端にGを置く場合がある。
オリゴキャッピング法以外の方法としては、固相化キャップ結合タンパク質を用いて精製してからRNAリンカーを結合する方法(Edery, L. et al., Mol. Cell Biol. 15: 3363-3371, 1995)、キャップ構造のジオール基にビオチンを結合させ、cDNAにしてからオリゴDNAを結合させるキャップトラッパー法(Carnici, P., Genomics 37: 327-336, 1996)などがあり、任意に用いることができる。
固相化キャップ結合タンパク質を用いる場合は、固相に結合したキャップ構造をもつmRNAに対しTAP処理すると、5'末端にリン酸基をもつmRNAが遊離するので、このmRNAにRNAリンカーを結合させる。このRNAに逆転写反応を行なう。
キャップトラッパー法の場合は、キャップ構造にビオチンを結合させておき、固相化アビジンでビオチンの結合したmRNAを回収し、逆転写反応を行なう。このcDNAにオリゴDNAのアダプターリンカーを結合させる。
なおRNAを取り扱う反応においては全ての工程を、RNaseを排除された環境で行うことが望ましい。
オリゴキャッピング法によりRNAリンカーを連結する場合は、この次に逆転写反応によってcDNAを合成する。
逆転写反応は、公知の方法を用いることができる。一般にcDNAの合成は、第1鎖の合成と、第2鎖の合成の二つのステップで構成される。第1鎖の合成は、RNAを鋳型として利用する逆転写反応である。これに対して第2鎖は、先に合成された第1鎖DNAを鋳型とする相補鎖合成反応によって合成される。それぞれ、反応を開始するプライマーによって特徴付けられるいくつかの反応が知られている。
本発明において、cDNAの第1鎖は、RNAの任意の領域にアニールするプライマーによって合成することができる。RNAを鋳型として、オリゴDNAのプライマーを加えて逆転写酵素を作用させると、オリゴDNAの3'末端方向への伸張反応によってRNAと相補的な配列をもつcDNAが合成される。具体的にはMMLV(Molony mouse leukemia virus)由来の逆転写酵素(Reversetranscriptase;RT)やその変異体などを利用し、プライマーの伸長反応によって第1鎖を合成する方法が公知である。逆転写酵素の変異体としては、逆転写酵素が有するRNaseH活性を失わせた変異体 (Superscript II, Invitrogen)などが市販されている。またTth DNAポリメラーゼのように、DNA合成酵素でありながら、RNAを鋳型とする相補鎖合成反応を触媒する酵素も知られている。このような酵素を利用すれば、第1鎖(RNA template)の第2鎖(DNA template)を単一の酵素で合成することもできる。
プライマーとしては、いわゆるオリゴdTを用いることができ、オリゴdTも市販されている(Invitrogenなど)。オリゴdTは、mRNAの3'末端にあるポリA部分に結合するので、これを用いて逆転写反応を行なえば、遺伝子全長のcDNAが得られる。得られたcDNAはRNAリンカーに相補的な部分も3'末端に含む。
また、ある領域に特異的な配列に相補的な配列をもつオリゴDNAを、プライマーとして用いることもできる。この場合、逆転写反応によってある特別の配列をもつ遺伝子の伸張反応が進み、転写開始部位、オリゴRNA部分を含むcDNAが合成される。したがって特別な配列をもつ遺伝子の転写開始部位のみを解析することになる。これは、既知遺伝子の転写開始部位の決定に応用できる。更に、本発明に基づいて、各転写産物の発現レベルを比較することもできる。また、同一のアミノ酸配列をコードしながら、転写開始部位の異なる複数の転写産物を与える遺伝子を明らかにすることができる。ある遺伝子を対象に、さまざまなmRNAソースについて、本発明の遺伝子タグを取得すれば、当該遺伝子のあらゆる転写産物の転写開始部位の情報を容易に集めることができる。もしも複数種類の遺伝子タグが得られれば、当該遺伝子には、転写開始部位の異なる複数の転写産物が存在している可能性がある。
以上の2種類のプライマー、つまりオリゴdT、特異的プライマーを逆転写反応に用いる場合、それぞれはアダプタープライマーにすることもできる。すなわち、それぞれのプライマーの5'側上流部分に、RNAリンカーのアダプター部分に用いた配列とは別の配列で、オリゴDNAと結合可能な任意の配列をつなげることができる。
また、本発明においては、RNAの全長は必ずしも必要ではない。本発明においては、タグはRNAの5'末端を含むわずかの領域から取得される。したがってRNAの5'末端を含む領域がcDNAとして合成できれば、本発明に必要なcDNAを得ることができる。したがって、オリゴdTの代わりに、公知のランダムプライマーとし、このランダムプライマーの5'末端上流にアダプターをつなげたものを用いることも可能である。アダプターランダムプライマーは、多数の配列の混合品なので、RNAのいろいろな部分に結合し、結合したところから3'側に向かって伸張反応が進む。すなわちこの向きに反応が進むと、必ずRNAの5'末端の相補配列を3'末端に含むことになる。RNAの5'末端の相補配列を含むか否かは、RNAリンカー配列を含むか否かによって判断することができる。本発明ではこのようにして得られたcDNAでも転写開始部位の解析に用いることができる。ランダムプライマーを用いることで、得られたRNAの中に3'末端が不完全でポリA領域を含まない断片であっても、逆転写反応を行なえる利点がある。また非コードRNA(non-coding RNA)も解析対象になる利点もある。
以上のように逆転写反応を行なってから、逆転写反応の鋳型として使ったRNAをアルカリ分解してもよい。
得られたcDNAには、共通して3'末端にRNAリンカーの配列に相補的な部分を含む。したがって、RNAリンカーを鋳型として合成された領域にアニールするプライマーによってcDNAの相補鎖(第2鎖)を合成し、2本鎖cDNAを合成することができる。2本鎖cDNAの合成方法は公知である。ここで用いるオリゴDNAには、IIS型制限酵素の認識配列が含まれていてもよい。IIS型酵素の認識配列を除いた部分の配列で十分なように、RNAリンカーの配列を設計するのが通常である。相補鎖、つまり第2鎖の合成には、プライマーであるオリゴDNAの他に、DNAポリメラーゼを酵素として用いる。DNAポリメラーゼには、たとえばT4 DNAポリメラーゼが挙げられる。
また固相化や蛍光色素の結合が可能な修飾を導入しておく方が望ましい。つまり、修飾を受けた1本鎖オリゴDNAをプライマーとして用いて、第2鎖の合成を行えばよい。あるいは、修飾を受けた1本鎖オリゴDNAではDNAポリメラーゼによって2本鎖が適切に得られない場合、修飾をもつ2本鎖のプライマーを用いることができる。2本鎖のプライマーは、修飾をしたオリゴDNAと修飾をしていないオリゴDNAの2つがアニールしたものである。ただし修飾を受けた側の鎖は、修飾を受けた5'末端と、RNAリンカーと共通の配列を持つ3’側の領域の2つの領域をもつオリゴDNAとする。この修飾オリゴDNAの5'側半分は、この部分と相補的な配列をもつもう一つのオリゴDNAとアニールさせ、RNAリンカーと共通の配列を持つ修飾オリゴDNAの残りの3'側半分は1本鎖のままにしておく。つまり修飾していないオリゴDNAは、修飾したオリゴDNAの5'側半分の領域の相補配列をもつ。ここで5'側半分と3'側半分は必ずしも同じ長さにする必要はない。2本鎖プライマーの1本鎖部分はcDNAにアニールする。このような2本鎖プライマーを用いることによって、cDNAの第2鎖を効率よく修飾することができる(Shiraki et al., 2003. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 100: 15776-81)。第2鎖を合成してから、cDNAの第1鎖と、ここで用いたプライマーの間をつなげるために、公知のDNAリガーゼを用いる。修飾には、ビオチン化、DIG結合など公知の方法を用いることができる。
あるいはcDNAを2本鎖にするために、公知のTaqポリメラーゼも利用可能である。この場合、2種類のプライマーを用いればよい。1つは、RNAリンカーの配列(またはRNAリンカーのうち制限酵素認識部位を除いた配列)をもつオリゴDNAを用いる。固相への結合と蛍光色素の結合が可能なDNAを得るためにはこのオリゴDNAの5'末端を修飾しておく。もう1つのオリゴDNAは逆転写反応のときに用いたプライマーによって異なる。アダプターをもつオリゴDNAを用いた場合はアダプター部分に相補的な配列をもつオリゴDNAを用いることができる。あるいはオリゴdTの場合は、この反応にもオリゴdT、特異配列の場合はこの反応にも特異配列をもつものをもう1つのプライマーを用いることができる。以上2つのプライマーを用いてTaqポリメラーゼにより反応を行なえば、2本鎖DNAが得られる。Taqポリメラーゼは、増幅反応を行なうが、ここでは特に過度に増幅する必要は無い。過度に増幅せずに、異なる遺伝子も同じ程度増幅させておくのがよい。
本発明は、cDNAをIIS型制限酵素により2本鎖遺伝子タグ群にする工程を含む。上記の方法により合成された2本鎖cDNAをIIS型制限酵素で処理し、制限酵素認識部位からmRNAに相当する部分の向きに一定の長さだけ離れた任意の配列を切断する。切断により生成される断片の長さは用いるIIS型制限酵素により異なるが、制限酵素認識部位から好ましくは12〜26塩基、より好ましくは20塩基である。これによってRNAリンカーに相当する共通の配列と各遺伝子の5'末端から一定の長さの配列がつながった断片(2本鎖遺伝子タグ)が得られる。例えば、本発明の実施例における、遺伝子の5’末端から20塩基程度の配列(配列番号2のRNAリンカーの場合は19塩基)を持つ断片を挙げることができる。またこの断片が固相に結合可能な修飾をもっている場合は、この断片を固相に保持させて、固相から回収することによって2本鎖遺伝子タグが精製可能である。
回収した2本鎖DNAタグは、変性により1本鎖にすることができる。変性は公知の方法により行うことができるが、これはたとえば、加熱(95℃、3分)、急冷(氷上)を行なえばよい。固相に結合可能な修飾をもっている場合には、これをただちに再び固相に結合させ、変性で遊離したmRNAの相補配列に相当する鎖(第1鎖)は除去することができる。この後に、RNAリンカーの配列に相補的な配列をもつオリゴDNAを過剰に加え、RNAリンカーに相当する部分にハイブリダイズさせることにより、mRNAの5'末端に相当する部分だけを1本鎖のまま残すことができる。固相を洗浄後、固相から結合していたDNAを回収する。以上の方法により、本発明の1本鎖遺伝子タグ群を得ることができる。
固相に結合可能な修飾をもつ場合には、このDNAの固相への結合に用いていた修飾部分に対し、化学的修飾を行い、チップ上での解析に用いることができる。
上記の化学的修飾としては、放射性同位体、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識および酵素標識等の当業者に公知の手法を挙げることができる。
本発明の化学的修飾の際に用いられる修飾物質としては、以下のものを挙げることが出来る。好ましい標識酵素としては、例えばペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ-5-ステロイドイソメラーゼ、α-グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、西洋わさびパーオキシダーゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼ等が挙げられる。好ましい蛍光物質としては、例えばフルオレセインイソチアネート、フィコビリプロテイン、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、およびオルトフタルアルデヒド等が挙げられる。好ましい発光物質としてはイソルミノール、ルシゲニン、ルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びその修飾エステル、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、およびエクオリン等が挙げられる。そして好ましい放射性物質としては、125I、127I、131I、14 C、3H、32P、あるいは35S等が挙げられる。
前記修飾物質を本発明の1本鎖遺伝子タグに結合する手法は公知である。具体的には、直接標識と間接標識が利用できる。直接標識としては、架橋剤によって1本鎖遺伝子タグと標識とを化学的に共有結合する方法が一般的である。架橋剤としては、N, N'-オルトフェニレンジマレイミド、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン酸・N-スクシンイミドエステル、6-マレイミドヘキサン酸・N-スクシンイミドエステル、4,4'-ジチオピリジン、その他公知の架橋剤を利用することができる。これらの架橋剤と1本鎖遺伝子タグとの反応は、それぞれの架橋剤の性質に応じて既知の方法に従って行えばよい。この他、1本鎖遺伝子タグにビオチン、ジニトロフェニル、ピリドキサール又はフルオレサミンのような低分子ハプテンを結合させておき、これを認識する結合成分によって間接的に標識する方法を採用することもできる。ビオチンに対してはアビジンやストレプトアビジンが認識リガンドとして利用される。一方、ジニトロフェニル、ピリドキサール又はフルオレサミンについては、これらのハプテンを認識する抗体が標識される。抗体を標識する場合、西洋わさびペルオキシダーゼを標識化酵素として用いることができる。本酵素は多くの基質と反応することができ、過ヨウ素酸法によって容易に抗体に結合させることができるので有利である。また、抗体としては場合によっては、そのフラグメント、例えばFab'、Fab、F(ab')2を用いる。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体にかかわらず同様の処理により酵素標識体を得ることができる。上記架橋剤を用いて得られる酵素標識体はアフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法にて精製すれば更に感度の高い免疫測定系が可能となる。精製した酵素標識化抗体は、防腐剤としてチメロサール(Thimerosal)等を、そして安定剤としてグリセリン等を加えて保存する。標識抗体は、凍結乾燥して冷暗所に保存することにより、より長期にわたって保存することができる。
本発明のより好ましい修飾物質としては、ビオチン、アビジンビーズ、アビジンCy3等を用いた化学的修飾を挙げることが出来る。
本発明のmRNAの5’末端の塩基配列の種類と量比を反映する1本鎖DNAタグ群は、DNAアレイ法の試料として用いることができる。
DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。DNAアレイによって、多くのプローブに対する反応を同時に観察することが可能である。
DNAアレイの作製方法としては、スライドグラスのようなチップの上の小区画にオリゴDNAを結合させておき、このオリゴDNAとのハイブリダイゼーションによって、プローブに結合するDNAを検出する方法がいくつか知られている。たとえばStanford法と呼ばれる方法では、合成したオリゴDNAをいろいろな方法でガラスチップ上に固定する。あるいは、Affimetrix法と呼ばれるチップ上でオリゴDNAを合成してプローブとする方法でも有効である。またチップとしては、スライドグラスのような非透過性(non- porous)のチップだけではなく、糸上のもの(Biostrand)や、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することもできる。
ハイブリダイゼーションを行なうためのプローブは試料に含まれると予想されるDNAの相補的配列を持つものであれば特に限定されない。
プローブによって検出できる遺伝子が決まるため、ここで用いるプローブの設計はとても重要である。RefSEQやUnigeneなどのNational Center for Biotechnology Information(NCBI)にあるデータベース、あるいはEuropean Bioinformatics Institute、Ensemble、GoldenPathなどのデータベースを用いれば、転写開始部位のプローブDNAの塩基配列を求めることが可能である。
また、mRNAの5’末端の解析に特異的なプローブをあらかじめ作製することもできる。これまで、技術的な問題から転写開始部位の決定はそれほど容易ではなかったため、公知のデータベースにある遺伝子データが転写開始点を含むとは限らず、データベースの参照だけでは十分な転写開始部位の配列が得られない可能性がある。実際に、本発明者らが先に特許申請を行なった「遺伝子タグの取得方法」(PCT/JP2004/008174)によると、RefSEQやUnigeneなどのデータベースにはない転写開始部位が数多く明らかになった(Hashimoto et al., 2004. Nat. Biotechnol. 22: 1146-9)。またmRNA保護法であるオリゴキャップ法を用いて遺伝子の全長クローニングを行なった場合も、数多くの転写開始部位が明らかになっている(Database of Human Transcriptional Start Sites; DBTSS)。そこで、本発明の実施例では、「遺伝子タグの取得方法」によって得られた転写開始部位のデータを利用した。このデータは、http://5sage.gi.k.u-tokyo.ac.jp/に収録されているもの、および発明者が独自に得たものに基づく。このデータを利用することによって合理的なプローブ設計が可能になると考えられる。
本発明は上記のDNAアレイに、上記方法により調製1本鎖遺伝子タグ群をハイブリダイズさせる工程を含む。本発明においてハイブリダイゼーションの条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件として「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」及び「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer (Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を3回行い、最後に1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分間の洗浄を2回行うことができる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分間以上プレハイブリダイゼーションを行った後、標識プローブを添加して37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分間の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分間の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度をより高く設定することにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、プローブの塩基配列構成、反応時間等のその他の条件を加味し、条件を設定することができる。
本発明は、DNAアレイ法において、プローブにハイブリダイズした1本鎖遺伝子タグを定量する工程を含む。試料として用いる1本鎖遺伝子タグ群は上記の方法により蛍光修飾することができる。蛍光修飾により、1本鎖遺伝子タグ群がプローブとハイブリダイゼーションすると、チップ上のそのプローブのある位置が蛍光を発し、何も結合しなかったプローブのある位置は蛍光を発しない。また、あるプローブにハイブリダイゼーションするDNAの量に応じて蛍光強度が変化する。この蛍光を検出することによって、あるプローブにハイブリダイズする1本鎖遺伝子タグを定量し、プローブと相補配列をもつ遺伝子の発現量を明らかにできる。あるいはハイブリダイゼーションの検出を蛍光によらずに行うこともできる。いずれにしても試料DNAの相補配列部分はmRNAの5'末端由来なので、プローブと相補的な配列の転写開始部位をもつ遺伝子の発現を検出できる。
本発明においては、公知の方法を用いて、2種類の試料を比較することができる。DNAチップのような蛍光によりハイブリダイゼーションを検出する場合は以下のようにできる。上述のように蛍光物質を修飾させるときに、2種類の試料で異なる蛍光物質を用いておく。たとえば、上記のようにCy3を1つの試料に、他の試料にはCy5を用いることができる。この2種類の試料をあらかじめ混合してから、チップ上に乗せ、チップ上での蛍光観察において、Cy3由来の蛍光であるか、Cy5由来の蛍光であるかを調べれば、どちらの試料由来のDNAであるのかが判明する。これによってどちらの試料において、どの遺伝子の発現量が多かったのかが明らかになる。この方法の利点は、すでによく知られているように、2つの試料の比較を1つのチップ上の解析で行なえる点である。
2種類の細胞由来のmRNAに対して、両方とも同じ配列のRNAリンカー(1または2)を用いてもよいし、あるいは2種類の細胞でアダプター部分は異なるRNAリンカーを用いてもよい。
2種類の試料の遺伝子発現を比較することは、以下のような場合に有用である。出発材料である細胞が2種類あり、その2つの遺伝子発現を比較したい場合がある。たとえば、ある癌細胞を用意し、片方は通常の培地で培養し、残りの片方はこの培地に抗癌剤を加えて培養する。こうして2種類の培養における遺伝子発現を比較すれば、抗癌剤が遺伝子発現に与える影響を明らかにすることができる。抗癌剤を加えた方にのみ発現があった遺伝子は、直接または間接的に抗癌剤が発現を誘導したと考えられる。抗癌剤を加えた方に発現がなく、加えない方にはあった遺伝子は、抗癌剤が発現を抑えたとみなされる。あるいは、両方に発現があるが、抗癌剤を加えた方に多い、あるいは少ない場合もあり、これらも抗癌剤が遺伝子発現をアップレギュレート、またはダウンレギュレートとしたといえる。このような比較は抗癌剤の影響を見るのに有用である。あるいは肝臓と腎臓のように異なる組織由来の細胞を比較すれば、組織特異的な遺伝子発現を調べられる。同じ組織でも、正常組織と疾患組織を比較すれば、疾患特異的遺伝子を発現でき、疾患の診断に役立つ。または、和牛と、和牛と外来牛をかけ合わせてできたF1の牛とで遺伝子発現を比較し、それぞれに特徴的な遺伝子を見つければ、和牛を他の牛から区別することができるようになる。
上記のように本発明の1本鎖遺伝子タグ群は、DNAアレイ法の試料として用いることができる。本発明のmRNAの5’末端の塩基配列の種類と量比を反映する1本鎖DNAタグ群を、DNAアレイ法の試料として用いることで、転写開始部位および、転写開始部位を標的とした遺伝子の発現量を簡易にかつ正確に調べることが可能になる。本発明の方法により全長mRNAを遺伝子発現解析に使用していた際に生じていた予測できないシグナルの発生を、解消することが可能となるものと考えられる。
本発明の1本鎖DNAタグ群、更に1本鎖DNAタグ群の作製に必要な各種の試薬類は、予め組み合わせてキットとして供給することができる。すなわち本発明は、以下の要素を含む、遺伝子タグの製造用試薬キットに関する。
要素としては次のようにできる。プライマーの組み合わせによりいくつかの種類ができる。また、1つの細胞を解析するのか、2種類の細胞を比較するのかにより蛍光物質を1つにするか、2つにするのか異なるキットができる。
(1) IIS型制限酵素の認識部位をもつRNAリンカーを含むRNAライゲーションの要素、
(2) プライマーを含むcDNA第1鎖合成の要素、
(3) RNAリンカーの一部に相補的な配列をもち、固相に結合可能な標識をもつオリゴDNAと(2)のオリゴDNAに相補的な配列をもつオリゴDNAを含む、cDNAセカンドストランド合成の要素、
(4) mRNAの5'末端領域断片を得る要素、
(5)転写開始部位をDNAまたはRNAプローブにしたチップ上で、蛍光観察するための要素
これらの要素については上述のとおりである。またこれらには、反応に必要な溶液類を追加することもできる。たとえばそれぞれの要素には、次のようなもので構成することができる。
(1) IIS型制限酵素の認識部位をもつRNAリンカーを含むRNAライゲーションの要素、
バクテリアアルカリ性フォスファターゼ
タバコ酸性ピロフォスファターゼ
T4 RNAリガーゼ
RNAリンカー
(2) プライマーを含むcDNA第1鎖合成の要素、
cDNA第1鎖合成用プライマー
逆転写酵素
なおcDNA第1鎖合成用プライマーには次のようなもののいずれかでよい。
i) オリゴdTプライマー
ii) 特定のmRNAに相補的な塩基配列を含むプライマー
iii) アダプター配列をもつオリゴdTプライマー
iv) アダプター配列をもち、特定のmRNAに相補的は配列を含むプライマー
v) アダプター配列をもつランダムプライマー
(3) RNAリンカーの一部に相補的な配列をもち、固相に結合可能な標識をもつオリゴDNAと(2)のオリゴDNAに相補的な配列をもつオリゴDNAを含む、cDNA第2鎖合成の要素、
cDNA第2鎖合成用プライマー
DNAポリメラーゼ
なおcDNA第2鎖合成用プライマーは、たとえば1つは、
a) RNAリンカーのアダプター部分の配列をもち、5'末端をビオチン化したオリゴDNA
とし、これに次の3つのうちのいずれか1つを組み合わせるとよい。
b) オリゴdTプライマー
c) 特定のmRNAに相補的な塩基配列を含むプライマー
d) アダプター配列
ただしこのいずれかの選択は上記(2)のcDNA第1鎖合成に用いたプライマーにより決定される。i)の場合はb)、ii)の場合はc)、iii)、iv)、v)の場合はd)である。
(4) mRNAの5'末端領域断片を得る要素、
IIS型制限酵素
アビジン化磁気ビーズ
RNAリンカーのアダプター部分に相補的な配列をもつオリゴDNA
(5)転写開始部位をDNAまたはRNAプローブにしたチップ上で、蛍光観察するための要素
蛍光標識アビジン
プローブを配置させたチップ
なお、蛍光標識アビジンは、1つの細胞において発現を解析する際には、たとえばCy3標識アビジンなどの一種類の蛍光物質のみを利用する。また、2つの細胞において発現を比較する際にはたとえばCy3標識アビジンおよびCy5標識アビジンなど二種類の蛍光色素を加え、またRNAリンカーはアダプター部分のみ新たな配列をもちIIS型酵素認識部位は同じ配列のものを加えることが好ましい。そのため、(3) (a)のオリゴDNAもこの新たに加えたRNAリンカーのアダプター部分の配列をもち、5'末端をビオチン化したものを加え、(4)のRNAリンカーのアダプター部分に相補的は配列をもつオリゴDNAも新たな配列ものを加える。
本発明によって、転写産物であるmRNAの5'末端の遺伝子発現情報(発現量)を得ることができる。5'末端の発現情報は、遺伝子解析において、特に重要な意味を有する。たとえば、本発明によって得ることができる5'末端の遺伝子発現情報を、以下のような用途に利用することができる。
本発明は、遺伝子の発現プロファイルの取得に利用することができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、真核細胞における遺伝子の発現プロファイルの取得方法に関する。
(1) 本発明に基づいて1本鎖遺伝子タグ群を製造する工程
(2) (1)の1本鎖遺伝子タグ群の発現量を測定する工程
(3) 測定された遺伝子発現情報を統合して遺伝子発現プロファイルを作成する工程
本発明において発現プロファイルとは、発現情報を伴った遺伝子情報のリストを指す。発現情報とは、発現のレベルを示す量的なパラメーターである。遺伝子情報とは、通常、遺伝子を特定するための情報を言う。具体的には、遺伝子の塩基配列、遺伝子の名称、遺伝子のID番号などが遺伝子情報を構成する。リストを構成する遺伝子の数は、任意である。またその対象も、限定されない。解析の目的に応じて、必要な遺伝子の情報を集積して発現プロファイルが構成される。
本発明によれば、CAP構造を有するRNAから、その5'末端の遺伝子発現情報を取得することができる。またその遺伝子発現情報を照合することによって、塩基配列情報とその出現頻度とが対応付けられる。こうして発現プロファイルを得ることができる。
RNAとして全てのRNAを対象とすれば、全遺伝子を対象とする発現プロファイルを得ることができる。本発明においては、特定の遺伝子、あるいは構造的な共通性を有する一群の遺伝子を対象に、遺伝子タグを生成することもできる。このようなケースでは、特定の遺伝子、あるいは一群の遺伝子の発現プロファイルが生成される。
CAP構造を有するmRNAとは、細胞中で発現しているmRNAの全てであると仮定すると、本発明によって得ることができる発現プロファイルは、細胞内の遺伝子の発現状況をより正確に反映していると言うことができる。本発明において、mRNAの5'末端の遺伝子発現情報を測定するとき、解析対象となる遺伝子発現情報と対照となる遺伝子の発現情報の相対的な発現量を蓄積するのが好ましい。対照となる遺伝子に対する比として比較すれば、より客観的な評価を期待できる。
本発明の1本鎖遺伝子タグ群を試料として用いたDNAアレイにおける蛍光検出の結果から、どの遺伝子が転写開始されたのかを表示する機能、2つの細胞の遺伝子発現プロフィールを比較する機能をもつソフトウェアを加えてもよい。
どの遺伝子が転写開始されたのかに基づき、どのプロモーターが働き、どの応答エレメントや転写因子が関わったのかを表示する機能をもつソフトウェアを加えてもよい。
この解析においてはチップで得られた蛍光強度の結果を、どの転写産物が細胞内にあったのかに解釈し直してわかりやすく表示するコンピュータソフトウェアが必要である。このソフトウェアは上記のようにキットに入れることもできる。通常1つのチップ上には数万箇所の区画を作って、それぞれに別のプローブを配置させることができる。蛍光が観察されたかどうか、蛍光強度が強かったかどうかの結果から、それぞれどの転写開始部位から始まる産物ができていたのか、どの転写産物が多かったのかの結果に解釈しなおすことが最初に必要である。蛍光強度を観察した場所が数万箇所あるので、これを行なうためのコンピュータソフトウェアを作るのが適切である。
本発明によって得られた発現プロファイルは、データベースとすることができる。データベースとは、発現プロファイルを構成する情報を機械可読式のデータとして蓄積した電子データを言う。本発明のデータベースは、mRNAの5'末端の遺伝子発現情報を含む。更に本発明のデータベースは、各塩基配列情報のID番号、発現情報が得られたRNAの由来を合わせて記録することができる。更に、既知の遺伝子の発現情報との関係、ゲノム上へのマッピングの結果などの情報を付加することもできる。
タグの発現量情報の比較対象としては、予め集積されたデータベースの情報を利用することもできる。たとえば、標準的な組織や細胞株について、予め本発明の方法に基づいて遺伝子タグの情報を集積しておく。この情報を、コンピューターネットワーク上で共有することができる。あるいは、前記試薬キットに添付して商業的に流通させることもできる。こうして入手された遺伝子タグ情報と、自身が実験して取得した遺伝子タグ情報を比較することもできる。
本発明の1本鎖遺伝子タグ群を試料として用いたDNAアレイにおいては、チップの各区画にどの遺伝子の転写開始部位のプローブがあるのかを示すデータベースを作っておくとよい。チップは1種類ではなく、ヒトを始めとする真核生物ごとのチップがありうる。また、1つの生物種のプローブが1個のチップ上に乗るとは限らない。1つの生物種についても、多様な遺伝子を網羅したチップを作る場合もあれば、あるタイプの産物に特化する場合もある。たとえば、サイトカイン、レセプター、癌抑制遺伝子、CD番号のある分子(つまりCD抗原)などに特化したチップも作ることができる。これらそれぞれのチップについて、次のようなデータからなるファイルを作製できる。次にそれぞれの区画について、チップを区別する名称、チップ上での区画位置、区画にあるプローブの遺伝子名、遺伝子データバンク内での名称、そのプローブ配列が遺伝子上あるいはゲノム上のどの位置にあるのかを示す位置情報、プローブの塩基配列などを、1つのデータとして作ることができる。このデータをすべての区画について作り、1つの表にいれたファイルをチップごとに作っておけばよい。まずソフトウェアは、蛍光強度の観察が行なわれたときに、用いたチップのこの表データファイルを取り込む。
次に、検出された蛍光強度とその区画位置の情報を入力し、取り込んである表データにおける同じ区画位置に対して、蛍光強度を表中に書き込めばよい。ソフトウェアには、各区画データに対する並び替え、検索などの機能をもたせておくとよい。蛍光強度順に並べ替えた表示、遺伝子ごとに並べた表示が可能になるであろう。ある転写産物の発現量を基準として、他の転写産物の発現量を表示できるように、ある転写産物の蛍光強度を1として、他の転写産物の蛍光強度をその比で表せるようにしておくとよい。
2つの細胞における遺伝子発現を比較する目的の場合、それぞれの細胞ごとに異なる色の蛍光で遺伝子が標識される。蛍光強度が観察されたときに、表中に書き込まれるのは、蛍光の色とその強さの2つにするとよい。表示するときに色ごとに分けて示せば、どちらの細胞において、どの遺伝子の発現が多かったのかが表される。以上が基本的な機能であり、他の機能を足すこともできる。
本発明の発現プロファイルのデータベースは、電子媒体に保存することができる。電子媒体としては、各種のディスク装置、テープ媒体、あるいはフラッシュメモリーなどを示すことができる。これらの電子媒体は、ネットワーク上で共有することができる。たとえば、インターネット上で本発明のデータベースを共有することができる。更に、前記タグの発現量解析のためのソフトウェアに、インターネットを介して、本発明のデータベースの情報を参照するための機能を追加することもできる。あるいは逆に、本発明に基づいて生成された新たな発現プロファイル情報を、インターネットを介して、データベースに追加することもできる。
本発明の発現プロファイルを利用して、発現プロファイル解析を実施することができる。すなわち本発明は、本発明に基づいて異なる種類の細胞の遺伝子発現プロファイルを取得し、遺伝子発現プロファイルを比較して細胞間で発現頻度の異なる遺伝子タグを選択する工程を含む、遺伝子発現プロファイルの解析方法に関する。異なる細胞間で発現レベルの異なる遺伝子を取得する解析方法は、発現プロファイル解析と呼ばれている。このような解析によって、たとえば、疾患などに関連する遺伝子が数多く取得されてきた。本発明の発現プロファイルも、このような発現プロファイル解析に利用することができる。
本発明の発現プロファイル解析において、解析の対象とする異なる細胞とは、その由来が異なるあらゆる細胞を言う。同じ組織に由来する細胞であっても、疾患の有無、人種、年齢、性別などのなんらかの条件の相違がある場合には、由来が異なる細胞である。解析の目的の応じて、考慮すべき条件が相違すれば、由来が異なる細胞である。一方、解析の目的に対して無視しうる条件の相違しか見出せない場合には、同一の細胞と見なされる。たとえば、異なる臓器、異なる組織、あるいは由来や培養条件などが異なる細胞の間で発現プロファイルを比較することによって、臓器、組織、あるいは細胞間において、発現レベルの高い(または低い)遺伝子を選択することができる。本発明を応用することができる、解析対象の組み合わせを以下に例示する。
異なる組織
成人の組織と胎児の組織
患者の組織と健常者の組織
男性の組織と女性の組織
人種の異なるヒトの組織
生育環境の異なる同じ生物種の組織
異なる細胞
同じ細胞で培養条件の異なる細胞
同じ培養条件で培養時間の異なる細胞
特定の処理を与えた細胞と与えない細胞
より具体的には、癌組織と、正常な組織の間で発現プロファイルを比較することによって、癌に特徴的な遺伝子タグの発現情報を取得することができる。あるいは、特に悪性度の高い癌と、低い癌との比較によって、悪性度に関連する遺伝子タグを特定することができる。
以上のソフトウェアでは、チップで得られたデータに対して最初に行なう解析であり、この解析を行なうことにより、データが有意性を持つ。またこのチップで得られたデータを用いると、さらに意義深い解析が行なえる。背景技術の項において、発現量が細胞のおかれた状況によって変化する遺伝子をみつけることの重要性を述べた。そのような遺伝子の発現は、ゲノム上で転写開始部位から上流にあるプロモーター配列において転写調節を受けている。これまでに明らかになったプロモーター配列は必ずしも十分とはいえない。たとえばヒトでは数百のプロモーター配列が示されているに過ぎない。しかし転写量の変化した遺伝子はどのようなプロモーターの調節を受けていたのかを示すことができれば重要な情報になる。そこでまずソフトウェアでは、チップ上のそれぞれのプローブ配列に対しゲノム上で上流にあるプロモーター配列を対応させ、プローブにハイブリダイズして蛍光が検出された場合そのプロモーターが働いたものとして表示させる機能を持たせることができる。このプロモーター配列の情報は、上述のソフトウェアで用いた表ファイルの中のデータの拡張としてもよい。
また、ゲノム配列上プロモーター配列とは離れた位置に応答エレメントが見つかることがある。この応答エレメントにはいろいろな種類があるが、たとえばここに転写因子が結合し、転写因子にさらにいくつかの因子が結合するとプロモーター配列に結合して、さらにその複合体にRNAポリメラーゼが結合してプロモーター配列の下流から転写が開始される。したがってそれぞれのプローブに対して関連する応答エレメントや転写因子を拡張データとして表ファイルにいれておき、蛍光が観察された場合どの応答エレメントや転写因子が活性化されたのかを表示することができる。また、それぞれの転写因子について、細胞内情報伝達経路や、レセプター、レセプターに結合するリガンドなども、それぞれのチップ上のプローブに対して拡張データとして表ファイルに入れておくことができる。
以上のように、ある転写産物が検出されたら、それに対応するプロモーター、応答配列、転写因子、細胞内情報伝達経路、受容体、リガンドを表示させることができる。このような表示は、2つの細胞を比較したときにより有効である。あるいは、1つの受容体や細胞内情報伝達経路の活性化に対し、転写される遺伝子のセットが明らかであれば、それを拡張データとして含ませることができる。この場合、本発明による方法によりある細胞について転写された遺伝子セットを明らかにし、この結果と拡張データにある遺伝子セットと対応させて、細胞内でどんな経路が活性化されどんな状況におかれているのか推定することができる。
現状では、このような関連データは必ずしも十分には得られていない。多種の細胞試料を本発明の方法によって解析し、それぞれの細胞試料のチップデータを検証して総合することによって、このような関連データを充実させていくことができる。
以下に実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
本実施例では、発明者らの別の発明である「遺伝子タグの取得方法」(PCT/JP2004/008174)に基づいて行なった解析結果から、「遺伝子タグの取得方法」と本発明の方法とが合理的に比較できるような転写開始部位配列を選び、その配列をもつプローブを合成し、チップ上に配置させた。本発明で示した方法にしたがって細胞から試料を調製し、チップ上で反応を行ない、蛍光検出を行なった。その蛍光の結果から、本発明の方法と「遺伝子タグの取得方法」の比較を行なった。
〔実施例1〕1本鎖遺伝子タグ試料の作製
以下の方法により、1本鎖遺伝子タグ試料を作製した。
培養細胞HT-29(Fogh, J., and G. Trempe, 1975, Human Tumor Cells in Vitro, J. Fogh, editor, Plenum Publishing Corp., New York, 115-141)を、10%ウシ胎児血清を含むMcCoy’s 5A培地(McCoy, T.A., Maxwell, M. and Kruse, P.F. (1959) Proc. Soc. Exper. Biol. Med., 100:115)を用いて培養した。Maruyama and Suganoの方法(Gene. 1994 138:171-174.)を改変してオリゴキャップ法を行なった。RNA-Bee(Tel Test, Friendswood, TX, USA)を用いて107個の細胞を可溶化し、手順書にしたがって全RNAを得た。これをRNAeasyキット(Qiagen、Hilden、Germany)でさらに精製した。次に200 UのRNase阻害剤存在下で、5 Uのバクテリアアルカリ性フォスファターゼで37℃、60分間処理した。フェノールクロロフォルム抽出、エタノール沈澱によってRNA以外の成分を除いてから、続いてRNase阻害剤存在下で20 Uのタバコ酸性ピロフォスファターゼで37℃、60分間処理した。再び抽出、沈澱処理後、次のいずれかの配列のRNAリンカーを、250 UのT4 RNAリガーゼを用いて20℃、3時間ライゲーションした。
5'-GGA UUU GCU GGU GCA GUA CAA CGA AUU CCG AC-3'(配列番号:17)
5'-CUG CUC GAA UGC AAG CUU UCU GAA UUC CGA C-3'(配列番号:18)
その後で10 UのDNAase Iで37℃、10分間処理した。
ポリAをもつRNAを、mRNA Isolation Kit for Total RNA(Miltenyi Biotech、Bergisch Gladbach、Germany)を用いて精製した。
オリゴdTアダプタープライマーとSuperScript IIを用いて逆転写反応を行なった。400 Uの酵素で、42℃、一晩インキュベートした。オリゴdTアダプタープライマーの配列は次の通りである。
5'-GCG GCT GAA GAC GGC CTA TGT GGC CTT TTT TTT TTT TTT TTT-3'(配列番号:19)
次にアルカリ処理で残存するmRNAを分解した。
得られた1本鎖cDNAに対し、ビオチン化リンカープライマーと、3'プライマーを用い、10 UのTaqポリメラーゼで合成反応を行なった。反応は、94℃で1分間、58℃で1分間、72℃で10分間の3つのステップを13回繰り返すことによって行なった。プライマーの配列は以下の通りである。
ビオチン化リンカープライマー
ビオチン-5'-GGA TTT GCT GGT GCA GTA CAA-3'(配列番号:20)
3'プライマー
5'-GCG GCT GAA GAC GGC CTA TGT-3'(配列番号:21)
反応後の溶液から、フェノール/クロロフォルム抽出と、エタノール沈澱によりDNAを回収し、1%アガロースゲルを用いた電気泳動を行ない、500 bp以上の長さの画分を得た。ゲルからの回収は、QIAEX II Gel Extractionキット(Qiagen)を用いた。
IIS型制限酵素であるMmeI(New England Biolabs、Beverly、MA、USA)を8 U用いて、2本鎖のcDNAを切断した。96℃において5分間加熱後氷上で急冷し、転写開始部位を含むビオチン化された断片を、アビジン化磁気ビーズ(Dynabeads M-280 streptavidin、Dynal、Oslo、Norway)に結合させた。
アビジン化磁気ビーズに結合したDNAを、過剰のビオチンを加えてビーズから遊離させた。フェノール/クロロフォルム抽出、エタノール沈殿によってDNAを回収した。
〔実施例2〕DNAチップの作製
1本鎖遺伝子タグ試料とハイブリダイズさせるDNAチップを、以下の方法により作製した。発明者らがすでに申請してある「遺伝子タグの取得方法」(PCT/JP2004/008174)にしたがってHT-29細胞より得たタグ配列情報に基づいて、DNAチップ上に配置させるオリゴDNAの選定を行った。このタグ配列をゲノムやESTのデータベースと照らし合わせ、転写開始位置が1箇所に同定できた遺伝子を、チップ上に配置させるオリゴDNAとして選択した。また、「遺伝子タグの取得方法」によって同定されたタグの中から、同定されたタグの数が多いもの(発現量が多いもの)と少ないもの(発現量が少ないもの)を任意に選択した。
選択されたタグ配列の3’末端に、同定されたゲノム配列と同じになるように1塩基加え、20塩基とした。以上の20塩基のタグ配列と相補配列を持ち、さらに3’末端のC-6位にアミノ基を導入したオリゴDNAを数種類合成し、それぞれのオリゴDNAを50 μMの濃度でチップの区画に結合させた。チップ上に配置させたオリゴDNAの配列は、以下の表1に示した。
Figure 2007028923
表1 用いたチップ上のオリゴDNAの塩基配列
* 配列番号1、2、7〜14、16は、「遺伝子タグの取得方法」にしたがって得られたタグ配列に1塩基を3'末端に加え、20塩基にしたものである。加えた塩基は、遺伝子をゲノムデータやESTデータに同定後、そのデータと照らし合わせて決定した。また、配列番号3〜6、15は、HT-29細胞を、5-aza-2’-deoxycitidineと共に培養したときに出現した遺伝子タグである。
〔実施例3〕1本鎖遺伝子タグ試料を用いたmRNAの5'末端領域の発現解析
実施例1および2で作製した1本鎖遺伝子タグ試料およびDNAチップにより、mRNAの5'末端領域を標的とした発現解析を行った。以下に4つのハイブリダイズ条件を記載する。条件1から4においては、配列番号の1から16(表1)に記載のオリゴDNAを配置させたDNAチップを使用した。
<条件1>
回収したDNAをSpeed Vacで20分間乾燥した。15 μlの0.5% SDS、5 X SSC溶液中に溶解した。この溶液は、10% SDSと20 X SSCを水で希釈して得た。20 X SSCは、3 M NaCl、0.3 Mクエン酸三ナトリウム2水和物、pH 7.0をオートクレーブ滅菌したものである。DNA溶液を99℃で3分間加熱してから室温で15分間放置後、42℃で16時間チップの上でインキュベートした。
2 X SSCでチップを1回洗浄後、空気のスプレーでチップ上の水滴を除去した。
チップ上にCy5標識ストレプトアビジン(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)を2 X SSCで1000倍希釈したものをのせ、室温で20分間インキュベートした。
2 X SSCで1回洗浄後、空気のスプレーで水滴を除去した。
<条件2>
沈殿したDNAに、Cy5標識ストレプトアビジン(Amersham Biosciences)をLoTEで1000倍希釈したものを200 μl加えて溶解した。室温で20分間インキュベートした。LoTEは、300 μlの1 M Tris-HCl, pH 7.5と40 μlの500 mM EDTA, pH 8.0を混合し水で100 mlにしたものである。次にエタノール沈殿を行い、沈殿をSpeed Vacで乾燥した。
沈殿したDNAを15 μlの0.5% SDS、5 X SSC溶液中に溶解した。DNA溶液を99℃で3分間加熱してから室温で15分間放置後、42℃で16時間チップの上でインキュベートした。
2 X SSCでチップを1回洗浄後、空気のスプレーでチップ上の水滴を除去した。
<条件3>
回収したDNAをSpeed Vacで5分間乾燥した。15 μlの0.5% SDS、5 X SSC溶液中に溶解した。DNA溶液を99℃で3分間加熱してから室温で15分間放置後、42℃で16時間チップの上でインキュベートした。
0.2% SDSを含む2 X SSC溶液の中にチップを浸してカバーグラスをはずした。次に0.2 %SDSを含む2 X SSC溶液の中にチップを12分間放置した。さらに2 X SSCの中に12分間放置した。その後チップを取り出し、空気のスプレーでチップ上の水滴を除去した。
チップ上にCy5標識ストレプトアビジン(Amersham Biosciences)を2 X SSCで1000倍希釈したもの25 μlを加え、カバーグラスをのせて室温で30分間インキュベートした。
2 X SSCで1回洗浄後、空気のスプレーで水滴を除去した。
<条件4>
この条件においてのみ、実施例1における2本鎖DNAの合成においてPCRを2回行った。PCRを一度行った液を水で100倍希釈し、プライマー、酵素、緩衝液などを加えて、再び反応を行った。反応は実施例1に記載のステップを21回繰り返して行った。この試料について条件3と同様に処理した。
以上4つの条件で、1本鎖遺伝子タグ試料およびDNAチップのハイブリダイズを行った。Scan Array 4000を用いて蛍光測定を行い、DNAチップ上にハイブリダイズした1本鎖遺伝子タグ試料の量を定量した。
以下に蛍光測定の結果を示す。
条件1では配列番号7に対してのみ蛍光が観察された。
条件2ではいずれのオリゴDNAに対しても蛍光が観察されなかった。
条件3では配列番号7に対してのみ蛍光が観察された。
条件4における結果を表2に示す。表2に記載の遺伝子の内、特定のものに蛍光が観察された。蛍光の強さを三段階に分けると、強い蛍光の観察されたもの:配列番号7、中程度の蛍光が観察されたもの:配列番号13、弱い蛍光の観察されたもの:配列番号2、5、8、10、と分類することが出来る。
Figure 2007028923
表2 条件4の結果
* 蛍光強度は、それぞれの配列番号の蛍光強度から、オリゴDNAをスポットしていないところの蛍光強度を差し引いた値である。
** この列に示したものは、「遺伝子タグの取得方法」にしたがって得られたタグ配列の数である。タグ配列の数は、転写産物の量に対応していると考えられる。ここで解析したタグの総数は35,922である。それぞれの数は、プローブ配列として示された塩基配列の相補配列から3'末端1塩基を除いた配列、すなわち同定されたタグ配列の数である。
条件1は、蛍光染色をチップ上のオリゴDNAとのハイブリダイゼーションの後に行った一方、条件2では蛍光染色はハイブリダイゼーションの前に行った。この2つの結果を比較すると、条件2では蛍光がまったく観察されなかったことから、蛍光染色はハイブリダイゼーションの後に行う必要があることが判明した。
条件3では、ハイブリダイゼーションの後の洗浄回数を増やした。条件1に比べて蛍光強度の大きさに変化は見られなかったにもかかわらず、オリゴDNAのスポットのない部分の蛍光強度(バックグラウンド)を低く抑えることができた。
条件4では、条件1と条件3において蛍光が観察されたのが配列番号7だけであり、蛍光強度が低かったことから、試料中のDNA量を増やす目的で、PCRを2回続けて行ってサイクルの回数を増やした。条件1から3ではPCR後の試料の全量の1/5を使用した一方、この条件4では1回目のPCRの後に全量の1/5をとって2回目のPCRを行い、2回目のPCRの後は全量を次のステップに用いた。実験方法は条件3と同様である。その結果、配列番号2、5、7、8、10、13に蛍光が観察された。
配列番号7は、HT-29細胞においてタグの数が534であり、転写量が特に多かった産物の転写開始点から始まる配列である。条件3においても強い蛍光が観察され、タグの数の多さと蛍光の強さがよく対応した。配列番号13は、配列番号7と同じ遺伝子由来であり、配列番号13は配列番号7の5塩基下流にあり、重複部分をもつ。転写開始点が配列番号13の5’末端から始まるものはタグ数が7しかなく、配列番号13の5’末端を転写開始点とする転写産物は多くはない。しかし配列番号13に対して強い蛍光が観察された。これは、配列番号7の5’末端から始まる転写産物が配列番号13にもチップ上で結合し、この産物の量が多いため強い蛍光が観察されたと考えれば合理的である。
以上の結果により、本発明の方法により試料およびオリゴDNAの調製を行い、ハイブリダイズさせることにより、遺伝子の発現を合理的に解析できることが判明した。試料およびオリゴDNAは供に転写開始部位に由来するものであることから、本発明の方法によって転写開始部位を標的とした、遺伝子の発現解析が可能となることが明らかとなった。

Claims (15)

  1. 次の工程を含む、1本鎖遺伝子タグ群の製造方法。
    (1) 真核細胞から抽出したRNAのCAP部位にIIS型制限酵素の認識配列を含むRNAリンカーを連結する工程、
    (2) (1)のRNAを鋳型としてcDNAを合成する工程、
    (3) (2)のcDNAにRNAリンカーに含まれる認識配列を認識するIIS型制限酵素を作用させ、2本鎖遺伝子タグ群を生成する工程、
    (4) (3)の2本鎖遺伝子タグ群から所望のストランドの1本鎖核酸からなる遺伝子タグ群を生成する工程
  2. 次の工程によってcDNAを合成する請求項1に記載の方法。
    i) RNAの任意の領域にアニールするプライマーによってcDNAの第1鎖を合成する工程、および
    ii) 第1鎖のRNAリンカーを鋳型として合成された領域にアニールするプライマーによって、cDNAの第2鎖を合成して2本鎖cDNAとする工程
  3. 第1鎖のRNAリンカーを鋳型として合成された領域にアニールするプライマーが、固相に結合することができる標識を有するか、または固相に固定化されており、前記固相の回収によって1本鎖遺伝子を回収する工程を含む請求項2に記載の方法。
  4. IIS型制限酵素を作用させる前、または後に固相を回収する請求項3に記載の方法。
  5. 1本鎖遺伝子の回収に用いた標識、または固相に、化学的修飾をさらに行う工程を含む、請求項3または4に記載の方法。
  6. 化学的修飾が、蛍光修飾である請求項5に記載の方法。
  7. RNAリンカーがII型制限酵素の認識配列を含む請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 次の要素を含む、真核細胞の1本鎖遺伝子タグ群の製造用試薬キット。
    (a) IIS型制限酵素の認識配列を含むオリゴヌクレオチドからなるRNAリンカー
    (b) RNAリンカーをRNAのCAP部位に連結するための試薬
    (c) RNAリンカーを鋳型として合成されたcDNAにアニールするオリゴヌクレオチドからなるcDNA第2鎖合成用のプライマー
    (d) cDNA第1鎖合成用プライマー
  9. cDNA第1鎖合成用プライマーが、以下のi)-iii)からなる群から選択されるいずれかのプライマーである請求項8に記載のキット。
    i) ランダムプライマー
    ii) オリゴdTプライマー
    iii) 特定のmRNAに相補的な塩基配列を含むプライマー
  10. 次の工程を含む、真核細胞における遺伝子の発現量を測定する方法。
    (1) 請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって1本鎖遺伝子タグ群を製造する工程
    (2) 転写開始部位を含むDNAまたはRNAを固相に固定化する工程
    (3) 固相に固定化されたDNAまたはRNAに、前記1本鎖遺伝子タグ群をハイブリダイズさせる工程
    (4) 固相に固定化されたDNAまたはRNAにハイブリダイズした1本鎖遺伝子タグを定量する工程
  11. 転写開始部位を含むDNAまたはRNAが、ハイブリダイズさせる1本鎖遺伝子タグ群と同等の長さの塩基からなるポリヌクレオチドである請求項10に記載の方法。
  12. 転写開始部位を含むDNAまたはRNAが、12〜26baseの塩基からなるポリヌクレオチドである請求項10に記載の方法。
  13. 請求項10〜12のいずれかに記載の方法により得られた複数の遺伝子発現情報を統合し、遺伝子発現プロファイルを作製する方法。
  14. 請求項13に記載の方法によって作製された遺伝子発現プロファイル情報を蓄積した、遺伝子発現プロファイルのデータベース。
  15. 請求項13に記載の方法によって、異なる種類の細胞の遺伝子発現プロファイルを取得し、遺伝子発現プロファイルを比較して細胞間で発現頻度の異なる遺伝子タグを選択する工程を含む、遺伝子発現プロファイルの解析方法。
JP2005212960A 2005-07-22 2005-07-22 転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法 Pending JP2007028923A (ja)

Priority Applications (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2005212960A JP2007028923A (ja) 2005-07-22 2005-07-22 転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法
PCT/JP2006/314459 WO2007011016A1 (ja) 2005-07-22 2006-07-21 転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2005212960A JP2007028923A (ja) 2005-07-22 2005-07-22 転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2007028923A true JP2007028923A (ja) 2007-02-08

Family

ID=37668887

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2005212960A Pending JP2007028923A (ja) 2005-07-22 2005-07-22 転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JP2007028923A (ja)
WO (1) WO2007011016A1 (ja)

Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2005054465A1 (ja) * 2003-12-01 2005-06-16 Post Genome Institute Co., Ltd. 遺伝子タグの取得方法

Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2005054465A1 (ja) * 2003-12-01 2005-06-16 Post Genome Institute Co., Ltd. 遺伝子タグの取得方法

Also Published As

Publication number Publication date
WO2007011016A1 (ja) 2007-01-25

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6989853B2 (ja) 混合物中の核酸を配列決定する方法およびそれに関する組成物
JP5916166B2 (ja) 組織試料中の核酸の局在化された検出、又は空間的検出のための方法及び生成物
RU2565550C2 (ru) Прямой захват, амплификация и секвенирование днк-мишени с использованием иммобилизированных праймеров
KR102310441B1 (ko) Rna-염색질 상호작용 분석용 조성물 및 이의 용도
US20230175047A1 (en) Array and method for detecting spatial information of nucleic acids
JP2015516814A (ja) 標的化されたdnaの濃縮および配列決定
JP2023547394A (ja) オリゴハイブリダイゼーションおよびpcrベースの増幅による核酸検出方法
JP2004507206A (ja) 診断上重要な組織特異的遺伝子
US20230227809A1 (en) Multiplex Chromatin Interaction Analysis with Single-Cell Chia-Drop
WO2005079357A2 (en) Nucleic acid representations utilizing type iib restriction endonuclease cleavage products
Jurecic et al. Long-distance DD-PCR and cDNA microarrays
JP3853161B2 (ja) 微量mRNA及びcDNAの増幅方法
CA2267642A1 (en) Methods for detecting mutation in base sequence
JPWO2002074951A1 (ja) 発現遺伝子同定用cDNAタグの作成方法、及び遺伝子発現解析方法
JP2007028923A (ja) 転写開始部位を含む1本鎖遺伝子タグ群の製造方法
JP2004187606A (ja) 核酸アイソフォームの同定、分析および/またはクローニング方法
JP4403069B2 (ja) クローニングおよび分析のためのmRNAの5’末端の使用方法
TW200404891A (en) Method for preparation of expressed gene identification cDNA tags and method for analysis of gene expression
JP6417603B2 (ja) Rnaの末端領域に対応する核酸の塩基配列を解読する方法およびdnaエレメントの分析方法
JPWO2006033484A1 (ja) 核酸マイクロアレイ及び核酸プローブの設計方法並びに遺伝子検出方法
Sharma et al. Use of serial analysis of gene expression (sage) for transcript profiling in plants
EP1527201B1 (en) Analysis of biological samples
Dunican et al. Gene expression profiling of cells and tissues
JP2004526443A (ja) Rnaの解析方法
JP2005117943A (ja) 遺伝子発現の解析方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20080715

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20101216

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20111013