JP2007023332A - 溶射方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】適用場面等に応じて所望の性質を有する溶射皮膜を容易に且つ安定して形成することが可能な溶射方法を提供する。
【解決手段】本発明により、気体を供給しながら溶射材を加熱溶融し、同溶融した溶射材を被溶射物に吹き付けて、前記被溶射物表面に溶射皮膜を形成する溶射方法であって、前記供給する気体の酸素濃度を調節すること、前記溶射皮膜として、前記酸素濃度を高めて酸化物の形成を促進した酸化層と、前記酸素濃度を下げて酸化物の形成を抑制した還元層とを、それぞれ所定の厚さでしかも任意の順番で層状に形成することを特徴とする溶射方法が提供される。
【選択図】図1

Description

本発明は、気体を供給しながら溶射材を加熱溶融し、同溶融した溶射材を被溶射物に吹き付けることにより溶射皮膜を形成する溶射方法に関し、より具体的には、溶射皮膜として、酸化物の形成を促進した酸化層と、酸化物の形成を抑制した還元層とを任意の順番で層状に形成可能な溶射方法に関する。
従来より、例えば軸受の摺動部において、摺動特性や耐摩耗性等を向上させることを目的として、軸受の摺動部に溶射を行って、同摺動部表面に溶射皮膜を形成することが行われている。このような軸受の摺動部における溶射皮膜の形成に関する発明としては、例えば、特許文献1(特許第2965192号)や特許文献2(特表平1−500763号公報)などが知られている。
前記特許文献1においては、高速フレーム溶射により軸受等の被溶射物に対して溶射皮膜を形成する方法が記載されている。高速フレーム溶射とは、高圧の酸素(又は高圧の空気)と炭化水素系の燃料ガスとから形成される燃焼炎を利用したフレーム溶射法の一つであり、以下のようにして被溶射物に溶射膜を形成することができる。
即ち、高圧の酸素(又は高圧の空気)と炭化水素系の燃料ガスとを燃焼室に供給して高圧の燃焼炎を形成し、この燃焼炎を細長いバレルに導入して絞ることで高速の燃焼炎を形成する。そして、この高速の燃焼炎に溶射材を供給することにより、溶射材を加熱溶融しながら加速することができる。これにより、バレルを通じて溶融した溶射材を被溶射物に対して高速で吹き付けることができるため、被溶射物の表面に緻密な溶射皮膜を形成することが可能となる。
前記特許文献1には、銅を主成分とし、潤滑作用を有する鉛を3wt%未満で含有した第1の粉末と、同第1の粉末よりも粗粒で、且つ、銅を主成分とし、鉛を3〜40wt%で含有した第2の粉末とを溶射材として用いて、上記の高速フレーム溶射により被溶射物に対して溶射皮膜を形成する方法が記載されている。この特許文献1は、上記のような2種類の粉末を溶射材として用いて高速フレーム溶射を行うことにより、以下のような作用を奏するとしている。
即ち、粗粒の第2粉末は、高速の燃焼炎に供給しても粒子の表面のみが溶融状態となり、粒子内部は未溶融状態となる。このため、第2粉末に含有させた鉛は合金化せずに、粒子内部に鉛が適切に分布した状態で第2粉末を被溶射物に吹き付けることができる。一方、微粉の第1粉末は、高速の燃焼炎によって加熱溶融されることにより溶融状態となり、この溶融状態のままで加速されて被溶射物に衝突する。これにより、溶融状態で被溶射物に衝突した第1粉末は、内部が未溶融状態である前記第2粉末同士を互いに結合させることができるため、溶射皮膜の結合力を高めることができる。
従って、前記特許文献1に記載されている方法を用いて軸受の摺動部に溶射を行うことにより、摺動部に形成された溶融皮膜には、潤滑作用を有する鉛が適切に分布している。このため、優れた摺動特性を有し、且つ密着力も良好な溶射皮膜を得ることが可能となる。
一方、前記特許文献2には、プラズマ溶射により支持エレメント(被溶射物)上に軸受合金層を形成する発明が開示されている。プラズマ溶射とは、プラズマを溶射の熱源として利用する溶射方法である。即ち、プラズマ溶射は、先ずアルゴン等の不活性ガス中で2本の電極間で放電することによって、高温・高速のプラズマを形成する。そして、この形成した高温・高速のプラズマ中に粉末状の溶射材を供給することにより、溶射材を加熱溶融しながら加速して、溶融した溶射材を被溶射物に吹き付けることができる。これにより、被溶射物の表面に溶射皮膜を形成することができる。
特許文献2では、鉛等の各合金成分を含有する溶射材を粒子の形状でプラズマ流に導入して、溶射材の粒子をプラズマ流中で加熱溶融して合金化する。そして、この溶融して合金化した状態の溶射材を支持エレメントの表面に吹き付けることにより、支持エレメント表面に溶射皮膜として合金層を形成することができる。
この特許文献2の方法により形成された合金層は、層内に析出する鉛等の各合金成分(金属微粒子)が5ミクロンより小さいサイズで非常に均質に分布した微細な組織により構成されている。従って、このような合金層からなる溶射皮膜は、密度が高く、強度や疲れ限度に優れているという利点を有している。また、特許文献2では、上記溶射皮膜を真空プラズマ溶射(VPS)によって形成することにより、溶射皮膜に気孔や酸化膜が形成されることを抑制できるため、上記効果に加えて、非常に良好で安定な層状組織を有する合金層が得られるとしている。
特許第2965192号 特表平1−500763号公報
しかしながら、例えば前記特許文献1のように、バレルを利用した高速フレーム溶射法によって溶射皮膜を形成する場合、溶射材に銅や鉛といった低融点の金属や、粒径の非常に小さい微細な金属粒子が含まれていると次のような不具合が生じることがあった。即ち、このような溶射材をバレル内に形成した高速の燃焼炎に供給すると、溶射材が溶融し易いため、溶融した溶射材がバレル内を通過する際にバレル内面に付着して堆積する。このため、溶射を行っている際に、バレルの流路が付着物によって徐々に塞がれてしまうという不具合があった。
そこで、従来では、溶融した溶射材がバレル内に付着するのを抑制するために、燃焼室に供給する酸素の供給量を多くして、燃焼炎の温度が高くなり過ぎないように制御することが行われていた。これにより、バレル内で溶射材が過度に溶融することを抑制し、溶射材のバレル内への付着を防ぐことが可能となる。
一方、例えば、軸受の摺動部に形成する溶射皮膜としては、摺動特性に優れていること、密着力が高くて剥離し難いこと、また耐摩耗性に優れていること等が求められていた。しかしながら、例えば上記のように溶射材がバレル内に付着することを防ぐためにガス中の酸素濃度を高くして高速フレーム溶射を行った場合、溶射皮膜を構成する粒子間に酸化物が形成され、また溶射皮膜中には気孔が形成され易くなることが知られている。溶射皮膜内にこのような酸化物や気孔が形成されてしまうと、皮膜の緻密化が妨げられたり、また溶射材の酸化による変質が生じて溶射皮膜の耐摩耗性や耐食性等に悪影響を及ぼすことがあるといった問題があった。
即ち、前記特許文献1のように、低融点の金属を含む溶射材を用いて、バレルを利用した高速フレーム溶射を行う場合、摺動特性に優れた溶射皮膜が形成可能であるものの、溶射皮膜内に酸化物や気孔が形成されてしまうため、耐摩耗性等の特性を十分に得ることが難しかった。また実際に、特許文献1においては、溶射皮膜内に形成される酸化物や気孔に対して何の対策も施されていない。
一方、特許文献2のように真空プラズマ溶射(VPS)により溶射皮膜を形成する場合、前記のように、溶射皮膜に酸化膜や気孔が形成されるのを抑制することができる。また、真空プラズマ溶射は、前記特許文献1のように、溶融した溶射材の付着によって流路が塞がれるといった不具合が生じることもない。しかしながら、このような真空プラズマ溶射を行うためには、高価な設備が必要とされ、コストアップに繋がるという欠点があった。また、酸化物の形成が抑制された溶射皮膜は、膜自体の硬度が低下するという不具合もあった。
更に、例えば軸受の摺動部に形成した溶射皮膜においては、摺動部における摩擦係数の低下を図るために潤滑剤等を用いることがある。このとき、溶射皮膜に気孔や間隙が形成されている場合の方が、溶射皮膜表面における潤滑剤の保持を助長して、優れた効果が得られることがある。しかし、上記のような真空プラズマ溶射により形成された溶射皮膜は、気孔が非常に少ないために、却って溶射皮膜における潤滑剤の保持効果を低下させてしまうという弊害が生じることがあった。
即ち、現在において、溶射は様々な技術分野に利用されており、適用場面や使用条件に応じて異なる性質を有する溶射皮膜を形成することが求められている。しかし、特許文献1及び2に記載されているような従来の溶射技術では、それぞれ上記のような様々な制約を受けてしまうために、性質の異なる溶射皮膜を適用場面等に応じて適切に形成することができなかった。
本発明は、かかる従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、適用場面等に応じて所望の性質を有する溶射皮膜を容易に且つ安定して形成することが可能な溶射方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明により提供される溶射方法は、基本的な構成として、気体を供給しながら溶射材を加熱溶融し、同溶融した溶射材を被溶射物に吹き付けて、前記被溶射物表面に溶射皮膜を形成する溶射方法であって、前記供給する気体の酸素濃度を調節すること、及び前記溶射皮膜として、前記酸素濃度を高めて酸化物の形成を促進した酸化層と、前記酸素濃度を下げて酸化物の形成を抑制した還元層とを、それぞれ所定の厚さでしかも任意の順番で層状に形成することを最も主要な特徴とするものである。
また、本発明の溶射方法は、前記気体として、高圧の酸素又は空気と燃料ガスとを燃焼室内に供給して同燃焼室内で高圧の燃焼炎を形成し、前記燃焼室内の燃焼炎を噴射する噴射口の周りに形成したガス噴射部から高圧ガスを噴射してエアトンネルを形成し、前記燃焼室内で形成した前記燃焼炎を、前記噴射口から前記エアトンネル内に噴射し、前記エアトンネル内に噴射した燃焼炎に粉末状の前記溶射材を供給して溶射材を加熱溶融する溶射方法であることが好ましく、前記燃焼室内に供給する前記高圧の酸素又は空気の供給量と前記燃料ガスの供給量とを制御して前記燃焼炎に含まれる酸素濃度を調節することができる。
更に、本発明の溶射方法は、前記溶射材として2本の線状電極を用い、前記各線状電極の先端間にアークを発生させて溶射材を加熱溶融し、前記溶融した溶射材に前記気体としての高圧ガスを供給する溶射方法であっても良く、前記高圧ガスに含まれる酸素濃度を調節することができる。
更にまた、本発明の溶射方法は、前記溶射材として線状材、棒状材又は粉末材を用い、前記溶射材を供給する供給部の先端に、前記気体として酸素又は空気と燃料ガスとを供給して燃焼炎を形成し、前記形成した燃焼炎に前記溶射材を前記供給部から供給して溶射材を加熱溶融する溶射方法であっても良く、前記酸素又は空気の供給量と前記燃料ガスの供給量とを制御して前記燃焼炎に含まれる酸素濃度を調節することができる。
また、本発明は、前記構成に加えて、前記溶射材に、アルミニウム及び/又はシリコンを含有させることが好ましい。
更に、本発明の溶射方法は、前記溶射皮膜として、前記被溶射物の表面に第1層目となる前記酸化層と、同第1層目の酸化層の表面に第2層目となる還元層とを形成することができる。
本発明の溶射方法は、溶射材を加熱溶融する際に、供給する気体の酸素濃度を調節することを特徴としている。これによって、酸化物の形成を促進した酸化層と、酸化物の形成を抑制した還元層とをそれぞれ所定の厚さでしかも任意の順番で層状に配した溶射皮膜を形成することができる。なお、本発明において、酸化層とは、酸化作用を有する皮膜のことではなく、溶射皮膜の形成時に、酸化物の形成を助長させる気体を用いて形成した溶射皮膜を意味している。また、還元層とは、還元作用を有する溶射皮膜のことではなく、溶射皮膜の形成時に、酸化物の形成を阻害させる気体を用いて形成した溶射皮膜を意味している。
本発明者等は、溶射皮膜について様々な実験を重ねた結果、以下の事項を新たに見出した。即ち、気体を供給しながら溶射材を加熱溶融して溶射皮膜を形成する際に、供給する気体の酸素濃度を高めて溶射皮膜を形成することにより、酸化物の形成が促進された酸化層が得られること、一方、気体の酸素濃度を下げることにより、酸化物の形成が抑制された還元層が得られることが明らかとなった。
更に、これらの酸化層及び還元層の性質を調べたところ、酸化層は硬く、強度に優れているものの、還元層に比べて耐摩耗性に劣ることが確認された。一方、還元層は、比較的軟質であるが、酸化層よりも耐摩耗性に優れていることが確認された。即ち、溶射材を加熱溶融する際に供給する気体の酸素濃度を変化させることにより、異なる性質を有する溶射皮膜を容易に形成できることが明らかとなった。
従って、本発明は、上記知見に基づいて、溶射材を加熱溶融する際に供給する気体の酸素濃度を変化させることにより、異なる性質を有する溶射皮膜が形成できるという特性を利用して完成したものである。即ち、本発明の溶射方法は、溶溶射材を加熱溶融する際に供給する気体の酸素濃度を調節することにより、溶射皮膜を構成する酸化層及び還元層の厚さ、酸化層と還元層を形成する順番、層状に形成する酸化層と還元層の数等を適宜変更することができる。これにより、溶射皮膜の適用場面や使用条件等に応じて、所望の特性を有する溶射皮膜を容易に且つ安定して形成することが可能となる。
特に、本発明は、燃焼室内で形成した高圧の燃焼炎を、高圧ガスで形成したエアトンネル内に噴射し、この噴射した燃焼炎に粉末状の溶射材を供給する溶射方法に適用することができる。このような溶射方法は、高圧ガスで形成したエアトンネルを利用するため、前記で説明したようなバレルを使用せずに溶射を行うことができる。従って、溶融した溶射材がバレル内面に付着するという問題を考慮する必要がなくなり、燃焼室に供給する気体の酸素濃度を任意に調節することが可能となる。
即ち、燃焼炎をエアトンネル内に噴射して溶射を行う場合には、燃焼室内に供給する高圧の酸素又は空気の供給量と燃料ガスの供給量とを制御して、燃焼炎を形成する気体の酸素濃度を任意に調節することができる。これにより、酸化層と還元層とを任意の順番で層状に配した所望の特性を有する溶射皮膜を安定して形成することができる。
また、本発明は、アークを発生させて溶射材を加熱溶融するアーク溶射方法にも適用することができる。このような溶射方法を用いて溶射皮膜を形成する際に、溶融した溶射材に供給する高圧ガスに含まれる酸素濃度を調節する。これにより、前記と同様に、所望の特性を有する溶射皮膜を安定して形成することができる。
更に、本発明は、線状、棒状又は粉末状の溶射材を燃焼炎に供給して加熱溶融する溶射方法にも適用することができる。このような溶射方法を用いて溶射皮膜を形成する際に、燃焼炎の形成に用いられる酸素又は空気の供給量と燃料ガスの供給量とを制御することにより、燃焼炎に含まれる酸素濃度を調節することができる。これにより、前記と同様に、所望の特性を有する溶射皮膜を安定して形成することができる。
また、本発明の溶射方法では、溶射材にアルミニウム及び/又はシリコンを含有させることにより、形成した溶射皮膜のうちの酸化層中に硬質のアルミナ(Al23)及び/又はシリカ(SiO2)を含ませることができる。これにより、形成した酸化層の硬度を更に高めることができる。
そして、本発明の溶射方法は、例えば軸受の摺動部に対して溶射皮膜を形成する場合等において、溶射皮膜として、被溶射物の表面に第1層目となる酸化層と、この酸化層の表面に第2層目となる還元層とを形成することができる。このように、硬度及び強度に優れている酸化層を第1層目として形成し、耐摩耗性に優れている還元層を第2層目として形成することにより、軸受の摺動部に形成する溶射皮膜に対して所望される性質、即ち密着力及び耐磨耗性を兼ね備えた溶射皮膜を容易に形成することが可能となる。
以下、本発明における好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明では、軸受の摺動部に溶射皮膜を形成する場合を例に挙げて説明する。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な部材に対して溶射皮膜を形成する際に適用することができる。特に、本発明によれば、それぞれの適用場面や使用条件等において所望されている性質を適切に備えた溶射皮膜を形成することが可能となる。
先ず、本発明の第1の実施形態に係る溶射方法について説明する。ここで、図1は、第1の実施形態に係る溶射方法を実施するときに用いる溶射装置の一例を部分的に示す模式断面図である。なお、本発明の溶射方法を実施する際に用いる溶射装置は特に限定されるものではなく、溶射皮膜の形成中に供給する気体の酸素濃度を任意に調節することができれば、多様な変更が可能である。
本第1実施形態で用いる溶射装置1は、エアトンネル内に噴射した高速の燃焼炎に粉末状の溶射材を供給し、この供給した溶射材を加熱溶融しながら加速して被溶射物に吹き付けることにより、被溶射物表面に溶射皮膜を形成する溶射装置である。
この溶射装置1は、図1に示すように、燃焼炎を形成する燃焼室2と、燃焼室2で形成した燃焼炎を絞る絞り部3と、エアトンネル8を形成するために高圧ガスを供給するガス供給部4と、この高圧ガスを噴射してエアトンネル8を形成するガス噴射部5と、絞り部3で絞った燃焼炎をエアトンネル8内に噴射する噴射ノズル6と、噴射ノズル6から噴射した燃焼炎18に粉末状の溶射材を供給する溶射材供給部7とを備えている。
また、この溶射装置1には、冷却水を供給する水供給部13と、燃焼室2、絞り部3、及び噴射ノズル6の周りに冷却水を流通させる円弧状の流路14と、冷却水を排出する水排出部15とが配設されている。更に、燃焼室2には、高圧の酸素(又は高圧の空気)を供給する酸素供給パイプ9と燃料ガスを供給するガス供給パイプ10とが連結されている。これら酸素供給パイプ9とガス供給パイプ10には、それぞれバルブ11,12が設けられており、高圧酸素の流量と燃料ガスの流量とをそれぞれ高精度に調節できるように構成されている。
次に、上記の溶射装置1を用いて、被溶射物16である軸受の摺動部表面に溶射皮膜17を形成する方法について説明する。なお、この第1実施形態の説明では、軸受の摺動部表面に、先ず第1層目として酸化層を所定の厚さで形成した後、この酸化層上に還元層を所定の厚さで形成することにより、酸化層と還元層とを層状に有する溶射皮膜を形成する場合について説明する。
しかし、本発明はこれに限定されず、被溶射物の使用条件等に応じて、例えば還元層と酸化層の形成順番を逆にして、被溶射物の表面に還元層を形成した後に酸化層を形成することもできる。さらに、被溶射物の表面に対して、還元層と酸化層を交互に3層又はそれ以上の層状の状態で溶射皮膜を形成することも可能である。
先ず、バルブ11,12を調節して、酸素供給パイプ9とガス供給パイプ10とからそれぞれ高圧酸素と燃料ガスとを所定の流量で燃焼室2に供給する。なお、本第1の実施形態では、酸素供給パイプ9から高圧の酸素を供給する代わりに、高圧の空気を供給することも可能である。また、ガス供給パイプ10から供給する燃料ガスとしては、例えばアセチレン、プロパン、プロピレン等の炭化水素系燃料ガスを用いることができる。本第1実施形態においては、発熱量が比較的大きなアセチレンを燃料ガスとして用いた。
各供給パイプ9,10から燃焼室2に供給された高圧酸素及び燃料ガスは、燃焼室2内で混合されて、不図示のスパークプラグで点火されることにより、燃焼室2内で高圧の連続燃焼炎を形成することができる。このとき、水供給部13から冷却水が供給されて、この冷却水が流路14内を流通することにより、溶射装置1の温度制御を行うことができる。
また、燃焼室2に高圧酸素と燃料ガスとが供給されると同時に、ガス供給部4からガス噴射部5に向けて高圧ガス(高圧の空気)を供給する。そして、噴射ノズル6の噴射口6aの周りに形成したガス噴射部5からこの高圧ガスを噴射する。これにより、ガス噴射部5から前方に向けてエアトンネル8を形成することができる。そして、燃焼室2で形成された高圧の燃焼炎は、絞り部3及び噴射ノズル6を介して、噴射ノズル6の噴射口6aからエアトンネル8内に向けて高速に噴射させることができる。
このとき、エアトンネル8を形成するために用いる高圧ガスの圧力は特に限定されるものではないが、例えばガス供給部4で供給する高圧ガスの供給ガス圧が、4kg/cm2以上10kg/cm2以下となるように制御することが好ましい。これにより、前記エアトンネル8を安定して形成することができる。なお、本第1実施形態では、ガス供給部4において、圧力が4.5kg/cm2となるようにガス圧を制御して高圧ガスの供給を行った。
本第1実施形態においては、被溶射物16の表面に、先ず第1層目として酸化層を形成するために、燃焼室2内で酸素濃度が高い燃焼炎(酸化炎)を形成する。即ち、酸素供給パイプ9に設けたバルブ11及び燃料ガス供給パイプ10に設けたバルブ12を調節して、高圧酸素の供給量と燃料ガスの供給量とをそれぞれ所定の値に制御することにより、燃焼室2内で酸素濃度を高めた酸化炎を形成することができる。
このとき、酸化炎を形成するために燃焼室2に供給する高圧酸素の供給量及び燃料ガスの供給量は、溶射装置の構成や溶射材の材質等によって異なる。そのため、使用する溶射装置1に関して予め実験等を行っておき、例えば燃焼室2で混合される混合ガスの酸素濃度と、溶射を行って形成した溶射皮膜における酸化物の分布状態との関係等を調べておく。そして、その予め調べた関係に基づいて、酸化炎及び還元炎が形成可能な酸素濃度を決定しておくことが好ましい。これにより、燃焼室2内で混合される混合ガスの酸素濃度が所定の値となるように、高圧酸素及び燃料ガスの各供給量をそれぞれ調節することによって、燃焼室2内で酸化炎又は還元炎の形成を容易に行うことができる。
例えば、本第1実施形態において酸化炎を形成する場合は、酸素供給パイプ9を流れる酸素の流量(Fo)が「1500scfh以上2200scfh以下」で、ガス供給パイプ10を流れる燃料ガスの流量(Fg)が「4.0gph以上8.0gph以下」で、且つ、酸素の流量(Fo)と燃料ガスの流量(Fg)との関係が「Fo(scfh)>275×Fg(gph)」となるようにバルブ11,12でそれぞれの供給量を制御する。これにより、燃焼室2内で高圧の酸化炎を形成することができる。
そして、このように燃焼室2内で連続的に形成した高圧の酸化炎を、絞り部3及び噴射ノズル6を介して、噴射ノズル6の噴射口6aからエアトンネル8内へ高速に噴射させる。このように噴射口6aから高速の燃焼炎18(酸化炎)を噴射させた後、溶射材供給部7から粉末状の溶射材を酸化炎15の略中心部に供給する。このとき、粉末状の溶射材は、溶射材供給部7内を送給ガス(例えば、窒素ガス)により搬送されて、酸化炎15内に吐出される。
なお、本発明において、溶射材は、従来から一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、軸受の摺動部に溶射皮膜を形成する場合であれば、銅を主成分とし、鉛を含有した溶射材を使用することができる。具体的な溶射材の一例としては、Cu:77〜81質量%、Pb:9〜11質量%、Zn:1質量%以下、Fe:0.3質量%以下、Ni:1質量%以下、Sn:9〜11質量%、残部:1質量%以下の組成を有する溶射材を用いることができる。
また、粉末状の溶射材のサイズや形状については、溶射材を燃焼炎に供給して被溶射物に吹き付ける際に、溶射材が溶融状態となりさえすれば特に限定されるものではない。例えば、本第1実施形態のように、噴射口6aから噴射させた高速の燃焼炎18によって溶射材の加熱溶融を行う場合は、溶射材の材質にも依るが、例えば平均粒径が32μm以下となる粉末状の溶射材を用いることができる。
このような溶射材を溶射材供給部7から酸化炎15の略中心部に供給することにより、溶射材の粒子を酸化炎15で加熱溶融しながら高速に加速することができる。そして、加速された溶融状態の溶射材を、溶射装置1の先端部から150〜300mm程度離間して配置された被溶射物6の表面に対して吹き付けることにより、被溶射物6の表面に第1層目となる酸化層を形成することができる。
このとき、被溶射物16の表面に形成する酸化層の厚さについては、特に限定されないが、例えば10〜200μm程度の厚さとなるように酸化層を形成することができる。このように形成された酸化層は、酸化層を構成する粒子間に酸化物が多く形成されており、前述のように硬度及び強度に優れている。従って、剥離が生じ難く、密着力に優れた高硬度の皮膜となる。
なお、上記のように酸化層を形成する際に、ガス供給部4から、例えば高圧ガスとして高圧の酸素等のような酸素濃度の非常に高い高圧ガスを供給することにより、高い酸素濃度を有するエアトンネル8を形成することができる。これにより、酸化物の形成がより一層促進された酸化層を被溶射物16の表面に形成することが可能となる。
上記のようにして被溶射物16の表面に所定の厚さで第1層目の酸化層を形成した後、この酸化層の上に、第2層目として酸化物の形成を抑制した還元層を形成する。即ち、酸素供給パイプ9に設けたバルブ11と、燃料ガス供給パイプ10に設けたバルブ12とを、予め実験を行って調べた結果に基づいてそれぞれ調節して、燃焼室2内に供給される高圧酸素及び燃料ガスの混合ガスにおける酸素濃度を下げる。これにより、燃焼室2内で酸素濃度が低下した還元炎を形成することができる。
例えば、本第1実施形態において還元炎を形成する場合は、酸素供給パイプ9を流れる酸素の流量(Fo)が「1500scfh以上1900scfh以下」で、ガス供給パイプ10を流れる燃料ガスの流量(Fg)が「5.5gph以上8.0gph以下」で、且つ、酸素の流量(Fo)と燃料ガスの流量(Fg)との関係が「Fo(scfh)<275×Fg(gph)」となるようにバルブ11,12でそれぞれの供給量を制御する。これにより、燃焼室2内で高圧の還元炎を形成することができる。
そして、このように燃焼室2内で連続的に形成した高圧の還元炎を、噴射ノズル6の噴射口6aからエアトンネル8内に高速に噴射させる。このとき、溶射材供給部7からは、粉末状の溶射材が供給され続けているので、噴射口6aから噴射させる燃焼炎が酸化炎から還元炎に変化することによって、被溶射物16の表面に形成した酸化層の上に、第2層目となる還元層を形成することができる。
また、この還元層を形成する際に、ガス供給部4から、例えば高圧の窒素ガス等のような酸素濃度が非常に低い高圧ガスを供給することにより、低い酸素濃度を有するエアトンネル8を形成することができる。これにより、酸化物の形成がより一層抑制された還元層を形成することが可能となる。
なお、例えば、溶射装置が溶射可能な溶射範囲が軸受の摺動部表面に形成する溶射皮膜よりも大きい場合(即ち、溶射装置を移動させずに溶射を行うことが可能な場合)、酸化層から還元層への変化を連続した変化とすることができる。従って、酸化層と還元層との境界が明確に区分けされた2層状態にはならないため、酸化層と還元層との間での連結構造がより強固なものとなる。
このように形成された還元層は、前記酸化層に比べて硬度及び強度が低いものの、本発明者等が行った実験の結果によれば、優れた耐磨耗性を有する皮膜となる。なお、この第2層目として形成する還元層の厚さについても特に限定されないが、例えば10〜200μm程度の厚さで還元層を形成することができる。
更に、本第1実施形態、及び下記で説明する第2,3実施形態においては、溶射皮膜を形成する際に、溶射材にアルミニウム及び/又はシリコンを含有させることができる。このように溶射材にアルミニウムやシリコンを含有させることにより、酸化層の形成時に酸化層内にアルミナやシリカといった硬質の酸化物を含ませることができる。これにより、溶射皮膜の硬度を一層高めることができ、また例えば溶射皮膜における耐摩耗性の更なる向上等にも寄与させることが可能となる。この場合、溶射材に含有させるアルミニウムやシリコンの含有量は、例えば合計で1質量%以下となるようにすることが好ましい。
なお、本発明では、例えば前記溶射材を供給する溶射材供給部7の他に、アルミニウム及び/又はシリコンを供給するための専用の第2溶射材供給部を溶射装置1に設けておくことができる。これにより、酸化層を形成するときのみに、アルミニウム及び/又はシリコンを溶射材とは別途に燃焼炎18の略中心部に供給することが可能となる。このため、還元層は所望の合金組成で安定して形成し、酸化層にのみアルミナやシリカを含有させて溶射皮膜の形成を行うことが可能となる。
以上により、被溶射物16の表面に、第1層目となる酸化層と第2層目となる還元層とを有する溶射皮膜17を安定して形成することができる。このように形成された溶射皮膜16は、第1層目の酸化層が強度及び硬度に優れており、また外部に露出する第2層目の還元層が耐摩耗性に優れている。従って、この溶射皮膜16は、優れた密着力と優れた耐摩耗性とを兼ね備えているため、軸受の摺動部に形成する溶射皮膜として非常に有効に用いることができる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る溶射方法について説明する。ここで、図2は、第2の実施形態に係る溶射方法を実施するときに用いるアーク溶射装置の一例を部分的に示す模式断面図である。
図2に示した溶射装置21は、アーク溶射法により被溶射物表面に溶射皮膜を形成することができるアーク溶射装置である。このアーク溶射装置21は、溶射材からなる2本の線状電極22をそれぞれ送給する電極送給部23と、線状電極に対して電源部(不図示)からの電力を供給する給電チップ24と、2本の線状電極が交差する部分に高圧ガスを噴射するガス供給部25とを備えている。
また、ガス供給部25の上流側には、高圧の酸素(又は高圧の空気)を供給する酸素供給パイプ(不図示)と、窒素等の高圧の不活性ガスを供給する不活性ガス供給パイプ(不図示)とが連結されている。さらに、これら酸素供給パイプと不活性ガス供給パイプとには、それぞれバルブが設けられており、酸素及び不活性ガスの流量をそれぞれ高精度に調節できるように構成されている。なお、線状電極22を構成する溶射材としては、前記第1実施形態と同様の成分を有する溶射材を用いることができる。また、この溶射材に、更にアルミニウム及び/又はシリコンを含有させることもできる。
続いて、上記のアーク溶射装置21を用いて、被溶射物26の表面に溶射皮膜27として第1層目となる酸化膜と第2層目となる還元膜とを形成する方法について説明する。
先ず、給電チップ24から各線状電極22に電力を給電して、各線状電極22の先端部間にアークを発生させる。この発生させたアークの熱を利用して線状電極22、すなわち溶射材を先端部で加熱溶融する。
そして、この溶射材(電極22)の先端部が溶融する速度に合わせて電極送給部23で各線状電極22を送給しながら、ガス供給部25から酸素濃度の高い高圧ガスを供給する。この酸素濃度の高い高圧ガスは、酸素供給パイプ及び不活性ガス供給パイプのそれぞれ配設したバルブを、例えば予め実験を行って調べた結果に基づいて調節し、酸素及び不活性ガスをそれぞれ所定の流量で流すことによって供給することができる。これにより、電極22の先端部で溶融した溶射材を、酸素濃度の高い高圧ガスで吹き飛ばして微細な溶滴とし、例えば150〜300mm程度離間して配置された被溶射物26の表面に吹き付けることができる。従って、被溶射物26の表面に、第1層目として酸化物の形成を促進した酸化層を形成することができる。
なお、このとき、ガス供給部25から溶融した溶射材に噴射する高圧ガスの圧力は特に限定されるものではないが、例えばガス供給部25において供給する高圧ガスの供給ガス圧が4kg/cm2以上10kg/cm2以下となるように制御することが好ましい。これにより、被溶射物26の表面に溶射皮膜を安定して形成することができる。なお、本第2実施形態では、ガス供給部25において、圧力が5.0kg/cm2となるようにガス圧を制御して高圧ガスの供給を行った。
また、本第2実施形態においては、上記で電極22の先端部で溶融した溶射材に対して高圧ガスを供給する際に、例えば不活性ガス供給パイプに設けたバルブを閉じて、高圧の酸素のみを高圧ガスとして供給することもできる。これにより、被溶射物26の表面には、酸化物が顕著に形成された酸化層を第1層目として形成することが可能となる。
被溶射物26の表面に所定の厚さで酸化層を形成した後、例えば酸素供給パイプに配設したバルブを閉じて酸素の供給を止めるとともに、不活性ガス供給パイプに設けたバルブを開いて、ガス供給部25から線状電極22の先端部に向けて酸素濃度がゼロに近いガスを高圧で供給する。これによって、第1層目の酸化層上に、第2層目として酸化物の形成を抑制した還元層を所定の厚さで形成することができる。
以上のようにして溶射を行うことにより、被溶射物26の表面に、前記第1実施形態と実質的に同様の溶射皮膜、即ち、第1層目となる酸化層と第2層目となる還元層とで構成された溶射皮膜27を安定して形成することができる。従って、本第2実施形態で形成した溶射皮膜27も、優れた密着力と優れた耐摩耗性とを兼ね備えているため、軸受の摺動部に形成する溶射皮膜として非常に有効に用いることができる。
次に、本発明の第3の実施形態に係る溶射方法について説明する。ここで、図3は、第3の実施形態に係る溶射方法を実施するときに用いる溶射装置の一例を部分的に示す模式断面図である。
図3に示した溶射装置31は、線状の溶射材を供給する供給部の先端に燃焼炎を形成し、この燃焼炎に溶射材を連続的に供給して溶射材の加熱溶融を行う溶射装置である。
この溶射装置31は、中心部に溶射材を供給する溶射材供給部32が配設されている。また、この溶射材供給部32の外側には、二重構造のノズル33と、ノズル33に外嵌したエアキャップ34と、エアキャップ34を支持するエアキャップボディ35とが溶射材供給部32の周りに配設されている。二重構造のノズル33は、内側のインサート部36と外側のシェル部37とから構成されている。
そして、溶射材供給部32に供給される線状の溶射材40とインサート部36との間の第1ガス流路には、溶射材40を送給するための高圧ガス(例えば、高圧の空気等)が供給される。また、ノズル33のインサート部36とシェル部37との間の第2ガス流路からは酸素(又は空気)と燃料ガスの混合ガスが、またシェル部37とエアキャップ34との間の第3ガス流路からは高圧ガス(高圧の空気等)がそれぞれ供給されるように構成されている。
なお、前記第2ガス流路の上流側には、酸素を供給する酸素供給パイプ(不図示)と、燃料ガスを供給する燃料ガス供給パイプ(不図示)とが連結されている。さらに、これら酸素供給パイプと燃料ガス供給パイプとには、それぞれバルブが設けられており、酸素及び燃料ガスの流量をそれぞれ高精度に調節できるように構成されている。また、前記第1及び第3ガス流路の上流側にも、それぞれバルブ(不図示)が備えられており、バルブを調節することにより各ガス流路に流れる気体の流量を制御できるように構成されている。なお、図3においては、第1〜第3ガス流路のそれぞれから噴射したガスの流れを破線によって示している。
続いて、上記溶射装置31を用いて、溶射材供給部32から線状の溶射材40を供給し、被溶射物38の表面に、溶射皮膜39として第1層目となる還元膜、第2層目となる酸化膜、及び第3層目となる還元膜を順番に形成する方法について説明する。なお、本第3実施形態では、溶射材供給部32において、線状の溶射材の代わりに、粉末の溶射材を窒素などの不活性ガスで搬送して供給することも可能である。また、棒状の溶射材をローラー等で搬送して供給することも可能である。
先ず、第2ガス流路から溶射材供給部32の先端に向けて、酸素(又は空気)と燃料ガスとの混合ガスを供給して燃焼炎を形成する。このとき、燃焼炎に含まれる酸素濃度が低くなるように、第2ガス流路の上流側に設けた酸素供給パイプのバルブと燃料ガス供給パイプのバルブとをそれぞれ調節して、混合ガス中に含まれる酸素濃度が低くなるように酸素及び燃料ガスの各供給量を所定の値に制御する。
例えば、酸素の流量(Fo)と燃料ガスの流量(Fg)との関係が「Fo(scfh)<275×Fg(gph)」となるように、各バルブで酸素及び燃料ガスの各供給量を制御する。これにより、溶射材供給部32の先端で、酸素濃度の低い還元炎を形成することができる。
次に、この形成した還元炎に対して、溶射材供給部32から線状の溶射材40を供給する。なお、第3の実施形態で供給する溶射材についても、前記第1の実施形態と同様の成分を有する溶射材を用いることができ、更にアルミニウム及び/又はシリコンを含有させることもできる。このような溶射材を溶射材供給部32から所定の供給量で連続的に供給することにより、還元炎によって溶射材40を加熱溶融することができる。
そして、還元炎により溶融した溶射材に第3ガス流路から高圧ガスを供給することにより、溶融した溶射材を吹き飛ばして微細な溶滴とし、例えば150〜300mm程度離間して配置された被溶射物38の表面に吹き付けることができる。これにより、被溶射物38の表面に、酸化物の形成を抑制した還元層を第1層目として形成することができる。このように形成した還元層は、酸化物の形成だけではなく、気孔の形成も抑制された皮膜とすることができる。
なお、この第1層目の還元層を形成する際に、第1及び第3流路から、高圧ガスとして高圧の窒素ガス等のような酸素濃度の非常に低い高圧ガスを供給することができる。これにより、酸化物の形成が更に抑制された還元層を形成することが可能となる。
上記のようにして被溶射物38表面に所定の厚さで還元層を形成した後、第2ガス流路の上流側に設けた各バルブを調節して、第2ガス流路に供給する混合ガスの酸素濃度が高くなるように、酸素及び燃料ガスの各供給量を所定の値に制御する。
例えば、酸素の流量(Fo)と燃料ガスの流量(Fg)との関係が「Fo(scfh)>275×Fg(gph)」となるように、各バルブで酸素及び燃料ガスの各供給量を制御する。これにより、前記で形成した還元炎を、酸素濃度の高い酸化炎に変化させることができる。このような酸化炎に溶射材供給部32から溶射材40が供給されることにより、第1層目の還元層上に、酸化物の形成を促進した酸化層を第2層目として形成することができる。
なお、このような酸化層を形成する際には、第1及び第3流路から、高圧ガスとして高圧の酸素等のような酸素濃度の非常に高い高圧ガスを供給することができる。これにより、酸化物の形成を更に促進した酸化層を形成することが可能となる。
更に、第2層目の酸化層を所定の厚さで形成した後、第2ガス流路に供給する混合ガスの酸素濃度が第1層目の還元層を形成したときの濃度と同程度になるように、第2ガス流路の上流側に設けた各バルブを調節して、酸素及び燃料ガスの供給量をそれぞれ制御する。これにより、燃焼炎として還元炎が形成される。従って、この還元炎に溶射材40が供給されることにより、第2層目の酸化層上に第3層目の還元層を所定の厚さで形成することができる。
以上のようにして溶射を行うことにより、被溶射物38の表面に、還元層、酸化層、還元層の3つの層で順番に構成された溶射皮膜39を安定して形成することができる。従って、第3実施形態で形成した溶射皮膜39は、第1層目として酸化物や気孔の形成が抑制された還元層を形成したことにより、被溶射物38(母材)の腐蝕を防止するといった効果を期待することができる。更に、第2層目として酸化層を、第3層目として還元層をそれぞれ形成したことにより、優れた密着力と優れた耐摩耗性とを兼ね備えた溶射皮膜を構成することができる。
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。
本実施例では、図1に示した溶射装置1を用いて、被溶射物となる基材の表面に、溶射皮膜として、第1層目に還元層を、第2層目に酸化層を、第3層目に還元層をそれぞれ30μmの厚さで層状に形成する場合について説明する。この溶射装置1は、例えば被溶射物16と約200mm離間して溶射を行った場合に、直径が約80mmの範囲に溶射皮膜を形成することができる。
また、本実施例では、溶射材として、Cu:77質量%、Pb:10質量%、Zn:1質量%以下、Fe:0.3質量%以下、Ni:1質量%以下、Sn:10質量%、残部(Alを含む):1質量%以下の組成を有し、平均粒径が約13μmである粉末状の溶射材を用いた。
先ず、酸素供給パイプ9のバルブ11を調節して、酸素供給パイプ9から1700scfhの流量で酸素を燃焼室2に供給した。また同時に、燃料ガス供給パイプ10のバルブ12を調節して、燃料ガス供給パイプ10から7.0gphの流量でアセチレンを燃焼室2に供給した。供給された酸素及びアセチレンは燃焼室2内で混合され、この混合ガスに不図示のスパークプラグで点火することにより、燃焼室2内で高圧の還元炎を形成した。このとき、ガス供給部4からガス噴射部5に向けて、4.5kg/cm2の供給ガス圧で高圧の窒素ガスを供給して、ガス噴射部5から前方に向けてエアトンネル8を形成した。
そして、燃焼室2で形成した高圧の還元炎を、噴射ノズル6の噴射口6aからエアトンネル8内に向けて高速に噴射させ、この噴射させた高速の還元炎18の略中心部に溶射材供給部7から粉末状の溶射材を供給した。これにより、溶射装置1の先端部から約200mm程度離間して配置された基材表面に第1層目となる還元層を形成した。
そして、第1層目となる還元層の形成が開始されたら、溶射装置1を基材に対して直線的に300m/sの速度で移動させた。更に、溶射装置1を所定距離移動させた後、その移動方向に対して垂直方向に5mmの幅で溶射装置1を動かし、前記移動方向とは全く反対の方向に直線的に300m/sの速度で移動させた。このような溶射装置1の移動を所定の溶射範囲で繰り返し行うことによって、基材表面に第1層目となる還元層を約30μmの厚さで形成した。
第1層目の還元層の形成が完了した後、酸素供給パイプ9に設けたバルブ11及び燃料ガス供給パイプ10に設けたバルブ12を調節して、酸素供給パイプ9から2100scfhの流速で酸素を供給し、また、燃料ガス供給パイプ10から6.0gphの流量でアセチレンを供給した。更に、ガス供給部4から供給する気体を、高圧の窒素ガスから高圧の酸素に切り換えた。なお、高圧の酸素の供給ガス圧は4.5kg/cm2に制御した。
これにより、噴射ノズル6の噴射口6aから噴射している高速の還元炎を酸化炎に変化させて、第1層目の還元層上に、第2層目となる酸化層の形成を開始した。そして、溶射装置1を、第1層目の還元層を形成したときと同じように移動させることにより、第2層目の酸化層を約30μmの厚さで形成した。
第2層目の酸化層を形成した後、酸素供給パイプ9に設けたバルブ11及び燃料ガス供給パイプ10に設けたバルブ12を調節した。更に、ガス供給部4から供給する気体を、高圧の窒素ガスに切り換えた。これにより、第1層目の還元層と同様の条件で溶射を行うことができ、第2層目の酸化層上に第3層目となる還元層を約30μmの厚さで形成した。
上記のようにして3層状態の溶射皮膜を形成した後、溶射皮膜の断面を観察するために基材及び溶射皮膜を縦方向に切断し、その切断面を光学顕微鏡により観察した。また、この切断面について、溶射皮膜に形成されている酸化物の分布を分析した。図4に、溶射皮膜の断面を光学顕微鏡観察した写真の写しを示す。また、図5に、溶射皮膜に形成されている酸化物の分布をSEM観察した結果を示す。なお、図5において、明るい部分は酸化物が多く形成されている領域であり、暗い部分は酸化物が少ない領域を示している。
図4に示したように、被溶射物(基材)16上に、3つ層41、42、43が形成されていることが確認できる。また、被溶射物16と層41との間に空隙44が僅かに形成されていることも確認できる。
一方、図5に示した結果からは、被溶射物16上に、酸化物の形成が少ない第1層目の還元層41と、酸化物が多く形成されている第2層目の酸化層42と、第3層目の還元層43とが順番に形成されていることが確認できる。
本発明は、軸受等の様々な被溶射物に対して、適用場面や使用条件に応じて所望の性質を有する溶射皮膜を形成する場合に有効に適用することができる。
本発明の第1の実施形態に係る溶射方法を実施するときに用いる溶射装置の一例を部分的に示す模式断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る溶射方法を実施するときに用いる溶射装置の一例を部分的に示す模式断面図である。 本発明の第3の実施形態に係る溶射方法を実施するときに用いる溶射装置の一例を部分的に示す模式断面図である。 実施例で形成した溶射皮膜の断面をSEM観察した写真の写しである。 実施例で形成した溶射皮膜における酸化物の分布を分析した結果を示す図である。
符号の説明
1 溶射装置
2 燃焼室
3 絞り部
4 ガス供給部
5 ガス噴射部
6 噴射ノズル
6a 噴射口
7 溶射材供給部
8 エアトンネル
9 酸素供給パイプ
10 燃料ガス供給パイプ
11 バルブ
12 バルブ
13 水供給部
14 流路
15 水排出部
16 被溶射物
17 溶射皮膜
18 燃焼炎
21 アーク溶射装置
22 線状電極
23 電極送給部
24 給電チップ
25 ガス供給部
26 被溶射物
27 溶射皮膜
31 溶射装置
32 溶射材供給部
33 ノズル
34 エアキャップ
35 エアキャップボディ
36 インサート部
37 シェル部
38 被溶射物
39 溶射皮膜
40 溶射材
41 第1層目の還元層
42 第2層目の酸化層
43 第3層目の還元層
44 空隙

Claims (6)

  1. 気体を供給しながら溶射材を加熱溶融し、同溶融した溶射材を被溶射物に吹き付けて、前記被溶射物表面に溶射皮膜を形成する溶射方法であって、
    前記供給する気体の酸素濃度を調節すること、及び
    前記溶射皮膜として、前記酸素濃度を高めて酸化物の形成を促進した酸化層と、前記酸素濃度を下げて酸化物の形成を抑制した還元層とを、それぞれ所定の厚さでしかも任意の順番で層状に形成すること、
    を特徴とする溶射方法。
  2. 前記溶射方法が、
    前記気体として、高圧の酸素又は空気と燃料ガスとを燃焼室内に供給して同燃焼室内で高圧の燃焼炎を形成し、前記燃焼室内の燃焼炎を噴射する噴射口の周りに形成したガス噴射部から高圧ガスを噴射してエアトンネルを形成し、前記燃焼室内で形成した前記燃焼炎を、前記噴射口から前記エアトンネル内に噴射し、前記エアトンネル内に噴射した燃焼炎に粉末状の前記溶射材を供給して溶射材を加熱溶融する溶射方法であって、
    前記燃焼室内に供給する前記高圧の酸素又は空気の供給量と前記燃料ガスの供給量とを制御して前記燃焼炎に含まれる酸素濃度を調節する
    ことを特徴とする請求項1記載の溶射方法。
  3. 前記溶射方法が、
    前記溶射材として2本の線状電極を用い、前記各線状電極の先端間にアークを発生させて溶射材を加熱溶融し、前記溶融した溶射材に前記気体としての高圧ガスを供給する溶射方法であって、
    前記高圧ガスに含まれる酸素濃度を調節する
    ことを特徴とする請求項1記載の溶射方法。
  4. 前記溶射方法が、
    前記溶射材として線状材、棒状材又は粉末材を用い、前記溶射材を供給する供給部の先端に、前記気体として酸素又は空気と燃料ガスとを供給して燃焼炎を形成し、前記形成した燃焼炎に前記溶射材を前記供給部から供給して溶射材を加熱溶融する溶射方法であって、
    前記酸素又は空気の供給量と前記燃料ガスの供給量とを制御して前記燃焼炎に含まれる酸素濃度を調節する
    ことを特徴とする請求項1記載の溶射方法。
  5. 前記溶射材に、アルミニウム及び/又はシリコンを含有させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶射方法。
  6. 前記溶射皮膜として、前記被溶射物の表面に第1層目となる前記酸化層と、同第1層目の酸化層の表面に第2層目となる還元層とを形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の溶射方法。
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