近年、パーソナルコンピュータの発展に伴い、記録装置の技術も飛躍的に進化して来ている。記録装置は画像情報に基づいて用紙上に画像を記録していくよう構成されている。記録装置が採用する記録方式として多様な方式が存在しており、その中で、最近、注目されている記録方式が、インクジェット方式である。インクジェット方式はインクジェットヘッド(以下、印字ヘッドとも称する)から用紙にインクを吐出させて記録を行う方法である。インクジェット方式の長所は、インクジェットヘッドに配列されるノズルの高密度化により、高精細な画像を高速で記録することができる、という点である。また、インクジェット方式は、ランニングコスト、静粛性等、様々な点で他の記録方式よりも優れている点がある。
また、インクジェット方式において、インクを吐出させるためのエネルギー源として熱エネルギーを発生する電気熱変換素子(ヒーター)を用いるバブルジェット(登録商標)方式が知られている。このバブルジェット(登録商標)方式は、熱エネルギーによりインク中に気泡を発生させ、気泡が発生するときの圧力により、微小なノズルから微小なインク滴を吐出させる吐出方式である。
一般に、インクジェットヘッドは、インク滴を形成するための駆動系と、この駆動系に対してインクを供給する供給系とから構成されている。吐出用のエネルギー発生素子として電気熱変換素子を用いるインクジェットヘッドは、インクに圧力を加えるための加圧室を有しており、この加圧室内にヒータが設けられている。このヒーターにプリント信号となる電気パルスを与えることによりインクに熱エネルギーを与え、この時のインクの急激な相変化、つまり気化により生じる気泡圧力により、インク滴が吐出される。
図1は、インクジェットヘッドの外形図を示す。1はブラックインクを吐出するためのブラックノズル列である。2は、シアンインクを吐出するノズル列、3はイエローインクを吐出するノズル列、4はマゼンタインク用のノズル列である。
図2は、図1に示すインクジェットヘッドのノズル列の構成を示す概略図である。図2(a)はブラックノズル列の構成を示し、図2(b)はカラーインク用のノズル列の構成を示している。なお、各カラーインクに対応したノズル列は共通の構成のため、図2(b)では、カラー1色についてのみ示している。
図2(b)に示すように、カラーインク用のノズル列は、吐出量が比較的多く、大ドットを形成するための大液滴ノズルの列と、吐出量が比較的少なく、小ドットを形成するための小液滴ノズルの列とが、平行に配置されている。なお、大液滴ノズルと小液滴ノズルは共に内部の共通液室に連通しているため、図示するように、大液滴用ノズル列と小液滴用ノズル列とが対向する配置関係となっている。
図3は、図1のインクジェットヘッドに適用可能な、他のノズル配置を示す図である。この図3は、図3(b)に示すカラーインク用のノズル列が、図2(b)のノズル列とは異なる配置となっている。図3(b)では、大液滴用のノズルと小液滴用のノズルとが一列の中で交互に配置された構成を示している。すなわち、大液適用のノズルと小液滴用のノズルとが千鳥配列のノズル構成となっている。
前述の図2に示すノズル配列では、印字に用いるノズルとして、ブラックノズルが320個設けられている。また、カラーインク用の印字に用いるノズルとして、大液滴用ノズルが192、小液滴用ノズルが192、各色毎に設けられている。図2(b)において、図の左側が大液適用ノズルの列、右側が小液適用ノズルの列である。また、図2(a)に示すブラックノズルは、千鳥状に配置されており、左右のノズル列それぞれが160個のノズルで構成されている。
図2(a)に示すように、ブラック(Bk)のノズルは、y方向に所定のピッチpyで多数のノズルを配列したノズル列を、x方向に所定画素数分の距離pxだけずらして、x方向に2列設けられている。なお、この2列のブラックのノズル列に配置されるノズルは、それぞれに配列されるノズルがy方向に(py/2)だけシフトするような位置関係となっている。このようなノズルの配置構成により、2つのブラックノズル列の吐出タイミングを調整することで、y方向の記録解像度を、1列のノズルの配置密度の2倍にすることが可能となる。なお、図2(b)に示すブラック用のノズル列は、2つのノズル列それぞれ160のノズルで構成されており、図の左側が偶数列のEVENノズル列、右側が奇数側のODD列として表している。なお、図2(a)に示すノズル配置と、図3(a)に示すノズル配置は同様である。
また、図2(b)に示すカラーインク用のノズル列は、大液滴用ノズルと小液滴用ノズルが、それぞれy方向に所定のピッチpyで192のノズルで構成されている。大液滴用のノズル列と、小液滴用のノズル列とは、x方向にpx分離れている。また、大液滴用のノズル列と、小液滴用のノズル列は、各々のノズルが対向する位置関係で配置されている。
また、図3(b)に示すカラーインク用ノズル列は、1列の中に大液滴用ノズルと小液滴用ノズルがそれぞれ96ずつ配置されている。従って、2列の合計で、大液滴用ノズル、小液滴用ノズルそれぞれ192ずつ設けられている。なお、図3におけるブラック用ノズル列の構成は、前述のように図2(a)のノズル配置構成と同様である。
図3(b)に示すように、カラーインク用のノズルは、1色に対して2列設けられており、片側のノズル列は大液滴用ノズルと小液滴用ノズルが、y方向に所定のピッチpyの間隔で交互に配置されている。また、もう一方のノズル列には、同様の間隔で大液滴用ノズルと小液滴用ノズルが交互に配置されている。2列のx方向の間隔は、所定画素数分の距離pxである。また、2列は、対向する位置関係のノズル同士が吐出量が異なるようにノズルを配置している。つまり、一方の列の大液滴用ノズルに対向する位置関係にあるもう一方の列のノズルは、小液滴用ノズルとなっている。また、2列の中の、同一の吐出量のノズルは、y方向に(py/2)だけシフトするように配置されている。この構成により、2列のノズルの吐出タイミングを調整することで、各列のノズルの配置密度に対して2倍の解像度でプリントを行うことが可能となる。
次に、ノズルの概略構造を図5、図6を参照して説明する。図5は、インクジェットヘッドのノズルの概略構造であり、配置されたノズルと内部の液室構造を平面的に示している。また、図6は、図5中のXで示す線における断面構造を示している。
図5に示すように、インクを吐出する複数の本ノズル5と、これら本ノズル5が開口する複数のインク室6と、これらインク室6にインクを供給するための細長い共通インク室7とが形成されている。
上述したインクジェットヘッドにおいては、装置の小型化のために本ノズル5をできるだけ小さな間隔で配置している。インクジェットヘッド(印字ヘッド)は液体を取り扱うものであり、液体中の揮発成分の蒸発により液体の粘度が増加した場合には、吐出の性能が低下したり、目詰まりを起こすことが考えられる。そのため、液体の増粘に対して、インクジェットヘッド内の液体をインクジェットヘッド外へ排出するためのキャップを用いた吸引回復機構をインクジェットプリンタに適用することが一般に知られている。また、吐出用の駆動素子を駆動して、記録とは無関係にインクを吐出させる予備吐出(プリント信号とは関係なく行われるため、「空吐出」とも称される)を行わせることも知られている。さらには、ノズルが形成された面を清掃するクリーニング機構を有するインクジェットプリンタも知られている。
このようなインクジェットプリンタにおいて、上記のようにインクジェットヘッドの吐出状態を良好に保つため、作動シーケンスとして「クリーニング」、「ヘッドリフレッシング」、「ワイピング」がある。前記2つのシーケンスでは、ノズル列をキャップで覆った状態でキャップ内に負圧を発生させ、ノズルを通して共通インク室7のインクを吸引することによりインクを排出する。この動作により、増粘したインクを取り除いたり、目詰まりが発生したノズルについては、固着したインクを取り除くことができる。この吸引による動作の後に前述の予備吐出を行う。また、ワイピングはノズル面に付着した増粘インクの排除を行うものである。
前述の予備吐出は、吸引によるインクの排出を行った後に限らず、プリントを実行している間においても実行することがある。このプリント中の予備吐出としては、時間を計測して、ある一定時間間隔で実行する「時間予備吐」がある。また、ノズルの使用頻度に従って、使用頻度が低いノズルがある場合に予備吐出を実行することも知られている。このようなプリント中の予備吐出は、印字に使用していないノズル内のインクが時間変化により増粘して、次回の吐出時に吐出不良とならないよう、行われる。
複数のカラーインクを吐出可能なカラーインクジェットプリンタで用いられるインクジェットは、多色のインクによるプリントを行うため、複数個、例えばイエロー色、マゼンタ色、シアン色、黒色の4色のインクに対応して4個設けられている。なお、インクジェットヘッドを色毎に別体として、各ヘッドに1色に対応したノズル列を設けた構成に限らず、複数の色に対応させた複数ノズル列を1つのインクジェットヘッドに一体に設けた構成も知られている。
複数のカラーのインクジェットノズル列を一体または別体に設けた場合の何れにおいても、異なる色または異なる特性の液体が複数のインクジェットヘッドの間で混ざり合う場合がある。このような不具合を解決するものとして、種々の手段が知られている。
例えば、特許文献1には、隣接するインクジェットヘッドの間にダミーノズルを設けることで、隣接するインクジェットヘッド間の混色を防止するようにした技術が開示されている。特許文献1には、隣接するインクジェットヘッドからのインクをダミーノズル内に導き、このダミーノズルから混色したインクを吐出することにより、混色インクの除去を可能とした構成が開示されている。
また、特許文献2には、図6に示すように、プリントに用いる本ノズル5の配列方向に沿ってダミーノズル8を設けた構成が開示されている。このダミーノズル8のダミーインク室9は、プリントに用いる本ノズル5のノズル列の共通インク室7と連通しており、インクジェットヘッドの回復処理の際にダミーノズル8からも共通インク室7に滞留しているインクを予備吐出させることができる。この結果、共通液室の両端部に介在する気泡がこの液体と共にダミーノズルから排出されるため、混色を直ちに排出することができる。特許文献2に開示される構成では、インクが供給される細長い共通インク室7の長手方向端部とダミーノズルとの間で液体の流動を促進させることができる。共通液室の長手方向端部ではインクが滞留しやすいため、特許文献2の構成によれば、共通液室の長手方向端部に介在する増粘化したインクをダミーノズル8から円滑かつ確実に印字ヘッドの外側に排出させることができる。
また、上述の予備吐出の際のヘッド駆動方法として、印字用の本ノズルと、ダミーノズルを順次に駆動する方法と、印字用の本ノズルとダミーノズルを交互(トグル)に駆動する方法がある。
特開平08−295033号公報
特開2001−129997号公報
ところで、インクジェットヘッドのノズル列をキャップする部材として、複数の色のノズル列を一括してキャップする構成を採用したものがある。一括してキャップする構成としては、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの全色のノズル列を一括してキャップする構成や、ブラックとカラーとでキャップ部材を分け、ブラック以外のカラー用の全ノズル列を一括してキャップする構成が知られている。
このような複数のノズル列を一括してキャップする構成においては、前述のような「クリーニング」や「ヘッドリフレッシング」時に実行する吸引回復の際に、複数の色のインクが同時に吸引されるために、キャップ内ではインクが混ざり合う。このため、キャップ内の混色インクが印字ヘッドのノズル面に付着してしまう。通常、インクジェットヘッドからインクが漏れないように、インクジェットヘッド内部、もしくはインクジェットヘッドにインクを供給するインクタンク内部は負圧を保つように構成されている。そのため、吸引動作を停止した後に、インクジェットヘッドもしくはインクタンク内の負圧により、キャップ内で混色したインクがインクジェットヘッド内に吸引されてしまう恐れがある。この状態で印字を行うと、本来意図した色と異なる色のインクが吐出されてしまうため、印字画質を著しく劣化させることになる。このような不具合を防止するために吸引回復後に印字ヘッド内に吸引された混色インクを予備吐出を行う。共通インク室7は細長い構造となっているため長手方向端部でインクの滞留し易い。そこで、まず印字に用いる本ノズル5から予備吐出を行い、次に一定時間経過後ダミーノズル8の予備吐出を行う。これにより、長手方向端部に介在する増粘化したインクを印字ヘッドから排出することができる。また、印字中に行われる時間予備吐に関しても印字に用いる本ノズル5の予備吐出とダミーノズル8の予備吐出を行う。
前述の本ノズル5とダミーノズル8による予備吐の様子を模式的に示した様子を図7に示す。図7(a)は本ノズル5に対して実行する予備吐出、また、図7(b)はダミーノズル8に対して実行する予備吐出の様子を示している。図のように本ノズル5から吐出が行われる場合、インク室7から本ノズル出口方向の排出は良好であるが、インク室7の両端部ではインクが滞留し易い。この箇所を淀み部10とする。淀み部10はインクの滞留により、インク室7の中央部に比べて粘度が増加しやすい。そのため、本ノズル5による予備吐出を実行した後にダミーノズル8による予備吐出を行うことで、図7(b)に示すように、前述の淀み部10に滞留しているインクを排出することができる。
しかしながら、これらの予備吐出に関して、吐出を行う回数はプリントに用いる本ノズル5とダミーノズル8とで同一数行うことが一般的である。その場合、プリントに用いる本ノズル5の予備吐出を実行するために、同じ発吐出数(吐出発数)のダミーノズル8による予備吐出が必要となる。この予備吐出の制御では、本ノズルの予備吐出を実行した後に、順次ダミーノズルによる予備吐出を実行することから、予備吐出の動作の全てが完了するために、本ノズルのみの予備吐出に比べて2倍の時間が必要となる。その結果、プリント動作とは関係の無い予備吐出動作に多くの時間が必要となり、装置全体のスループットが低下してしまう。
これらの課題に対応するため、プリント用の本ノズルと、プリント用以外に設けられるダミーノズルを交互に予備吐出させる交互予備吐(以下、トグル予備吐とも称する)が提案されている。
次に図13に示す予備吐出の対応表を参照して、予備吐出の動作の種類について一例を示し、説明する。
図13に示すように、予備吐出の動作の種類は複数存在し、それぞれ、実行するタイミングや吐出発数、吐出時のヘッド駆動周波数が異なっている。前述のように予備吐出にかかる時間を短縮するためには、本ノズルとダミーノズルで交互に吐出させるトグル予備吐が好適である。しかし、ヘッド駆動方式としてブロック分散駆動を用いる場合には、15KHzの周期の間に16ブロックの本ノズルを各々駆動し、その後15KHzで16ブロックのダミーノズルを各々駆動する事となる。その場合、トグル予備吐では本ノズルの吐出間隔(15KHzの周期)内にダミーノズルの全ブロックの予備吐出を完了する必要がある。つまり、各々のブロック間の時間は30KHz相当となる。図14は、15KHzの周波数で全ノズルを駆動する際の、タイミングチャートである。図では、15KHzで駆動する際の1周期を示している。図に示すように、本ノズルは15KHzの駆動の周期の前半に集中しており、0〜15の各ブロックは、30KHzで駆動するときに相当するブロック間隔時間で駆動されることになる。
図15は、本ノズルとダミーノズルを順次予備吐出する場合の、1カラムあたりの大液滴用ノズル、若しくは小液滴用ノズルのどちらかの一方の駆動タイミングを示す。
Column TRG42は内部信号であり、H_LATCH37、H_CLK38、H_D39、H_ENB40は印字ヘッドの駆動信号である。図に示すように1カラムは16ブロックから構成されており、全ブロックは時分割により駆動される。駆動データH_D39はH_CLK38によって印字ヘッド内のシフトレジスタに転送され、H_LACTH37の立下りによりラッチされる。ラッチされた駆動データは次のブロックでH_ENB40のヒートパルスにより吐出され、かつ、次の駆動のデータ転送を行う。Column TRG42の時間間隔は、その予備吐出の動作における駆動周波数により決まる。本例では、駆動周波数は、15KHz、もしくは10KHzである。
図16は、転送クロックH_CLK38とヘッド駆動データHDATA39の関係を示す。このヘッド駆動データHDATAは、前述の図15のH_D39に相当する。ヘッド駆動データHDATA39は、転送時間を短縮するため、H_CLK38の両エッジでデータが取得できる構成となっている。なお、H_CLK38の周波数は6〜12MHz程度を用いる。HDATA39のデータ構成は、ビット(bit)0〜11がノズルデータであり、Bkの場合はビット2〜11の10ビット、カラーの場合はビット0〜11の12ビットである。ビット12〜14の4ビットはブロック選択データであり、この4ビットのデータからヘッド内で駆動ブロックの選択が行われる。ビット16はヒーターの切り替え、ビット17はダミーノズルの選択である。このビット17がオンの場合はダミーノズルデータと認識される。
上述のように、予備吐出には、吐出発数、駆動周波数、本ノズルとダミーノズルの駆動方法など、複数種類が存在する。予備吐出にかかる時間を短縮するために、本ノズルとダミーノズルのトグル予備吐を全種類の予備吐に適用した場合、図13の名称「予備吐8」のように吐出発数が大きい予備吐出を実行する際に、問題が発生することがわかった。すなわち、インクジェットヘッドのインク共通液室内にてインク振動を引き起こし、図17に示すように、インクメニスカスが振動することによりインク不吐出や吐出不良の不具合が発生する事が判明した。
なお、図17では、大液滴用ノズルと小液滴用ノズルの交互駆動を例とするものである。しかしながら、メニスカスの振動は、同じ吐出量の複数のノズル群を交互に駆動した場合にも発生し、交互駆動を繰り返すことによりメニスカスの振動の周期と駆動を繰り返す周期の影響により、吐出が不安定となる場合があった。吐出に影響を与えるメニスカスの振動は、大液適用のノズル列と小液滴用のノズル列を交互に駆動した場合や、プリントに用いる本ノズルのノズル群と本ノズルの数よりも少ないダミーノズルのノズル群とを交互に駆動した場合に顕著に確認された。前者については、大液滴用ノズル列に配列されるノズル群と、小液滴用ノズル列に配列されるノズル群は、それぞれの全ノズルからインクを吐出させたときにインクジェットヘッドから吐出されるインクの量は異なったものとなる。また後者についても、ノズル数の違いから、本ノズルのノズル群と、ダミーノズルのノズル群は、それぞれの全ノズルからインクを吐出させたときにインクジェットヘッドから吐出されるインクの量は異なることになる。
本発明は、異なるノズル群を交互駆動して予備吐出を行った場合に、発生する不吐出、吐出不良等の不具合の発生を低減することを目的とするものである。
また、本発明は、特に、それぞれに構成される全ノズルからインクの吐出を行わせたときにインクジェットヘッドから吐出されるインク量が互いに異なる複数のノズル群を交互に駆動する場合、交互に駆動を繰り返して吐出する回数が多くなったときに生じる吐出不良や不吐出の発生の問題を解決するものである。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、それぞれ複数のノズルから構成される第1のノズル群と第2のノズル群とを備えるインクジェットヘッドを用い、記録媒体にインクを吐出してプリントを行うインクジェット記録装置において、記録媒体に対するプリントとは別に、インクジェットヘッドからインクを吐出させる予備吐出手段と、前記予備吐出手段によるインクの吐出において、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の駆動順序に関する方式を変更可能な制御手段と、を有することを特徴とする。
また、本発明は、それぞれ複数のノズルから構成される第1のノズル群と第2のノズル群とを備えるインクジェットヘッドを用い、記録媒体にインクを吐出してプリントを行うインクジェット記録装置の制御方法において、記録媒体に対するプリントとは別に、インクジェットヘッドからインクを吐出させる予備吐出工程と、前記予備吐出工程においてインクの吐出を行う際の、前記第1のノズル群と前記第2のノズル群の駆動順序に関する方式を変更する変更ステップと、からなることを特徴とする。
本発明は、特に、第1のノズル群と第2のノズル群の予備吐出を交互に繰り返して行う方式と、順次に行う方式とを、予備吐の種類により切り替えることを特徴とする。
図14に示す駆動方法を実施し、印字中の予備吐、例えば図13に示す「予備吐1」や「予備吐2」は印刷時間に直結しかつ発数も少ないため、本ノズルとダミーノズルの交互(トグル)予備吐を実施する。これにより本ノズルとダミーノズルの吐出を交互に行うために、予備吐の吐出周波数を従来の周波数の2倍にすることが可能となる。つまり予備吐の吐出周波数を2倍に設定しても、本ノズル、およびにダミーノズルの個々の予備吐は1カラム毎に行われ、それぞれのノズルに対しての吐出周波数は1/2となり、従来の吐出周波数と一致する。従って、全体の予備吐時間を従来の半分の時間に短縮することが可能となる。
この予備吐時の本ノズルとダミーノズルの切り替えは印字ヘッドコントロールブロックのハードウエアによって自動的にトグル切り替えが行われる。また、予備吐開始ノズルおよびに終了ノズルの選択を行うこことが可能である。
本ノズルとダミーノズルのトグル予備吐は、印字ヘッドの細長い共通インク室の長手方向端部の淀み部に滞留し、増粘化したインクを、共通インク室から円滑かつ確実に印字ヘッドのノズルから排出させることができる。従来の本ノズル、ダミーノズルの順次駆動による予備吐と同等の効果を得ることができる。
また、図13に示す「予備吐8」、クリーニング時などの予備吐に関しては、印刷時間に影響を及ぼす可能性も低く、かつ予備吐発数も大きいためインク共通液室の振動を引き起こし易いため、図15に示す駆動方法により本ノズルとダミーノズルの順次予備吐を実施し、共通液室の振動を抑制する。
この予備吐時の本ノズルとダミーノズルの順次予備吐か本ノズルとダミーノズルの交互(トグル)予備吐かの切り替えは印字ヘッドコントロールブロックのハードウエアによって予備吐の種類により予め決められた方法での予備吐方法に自動的に切り替えが行われる。
以上説明したような本発明の構成により、印字速度に影響せず、かつインク吐出ノズルの不吐出を引き起こさないヘッド駆動方法で、印字ヘッドの共通インク室の淀み部から滞留したインクを円滑、かつ確実に印字ヘッドのノズルから排出させることができる。また、インク吐出ノズル近傍の増粘インクをも確実に印字ヘッドのノズルから排出させることができる。
本発明によれば、第1のノズル群の予備吐出と第2のノズル群の予備吐出とを交互に繰り返す方式と順次行う方式とを変更可能とすることで、予備吐出の動作に合わせて両方式を適宜採用することができる。特に、交互に繰り返して予備吐出を行う方式を実行した場合に、吐出に不具合を生じる可能性がある予備吐出の動作については、他の方式による予備吐出を行うようにすることで、予備吐出の動作によって生じ得る吐出の不具合の発生を抑えることが可能となる。
また、本発明による予備吐出の駆動方式の切り替えによれば、本ノズルとダミーノズルの吐出を1カラム毎に交互に行う方法においては、予備吐の吐出周波数を従来の周波数の2倍にすることが可能となる。つまり予備吐の吐出周波数を2倍に設定しても、本ノズル、およびにダミーノズルの個々の予備吐は1カラム毎に行われ、それぞれのノズルに対しての吐出周波数は1/2となり、従来の吐出周波数と一致する。従って、全体の予備吐時間を従来の半分の時間に短縮することが可能となる。
また、本ノズルとダミーノズルの予備吐出を順次1カラム毎に順次に行う方法においては、予備吐出による共通液室の振動が抑制され、インクメニスカス振動、ノズルフェイス濡れによるインク不吐出を防止可能となり、信頼性の高いインクジェット記録装置が提供可能となる。
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
(基本構成)
図8は、本発明を適用可能なインクジェットプリンタの概略構成を示す斜視図である。図8中の11はプリンタ装置である。プリンタ装置の機能部品は大きく分類すると、キャリッジ12、タイミングベルト13、搬送ローラ14、排紙ローラ15、クリーニングユニット16、キャリッジモータ17、プラテン18から構成される。キャリッジモータ17のシャフトに取り付けられたプーリと、それと対称位置にあるプーリに張架されたタイミングベルト13の一部がキャリッジは接続されており、キャリッジモータ17の駆動力を伝達する。また、排紙ローラ15はプラテン18上の用紙に適度なテンションを加えるために、搬送ローラ4に比べて若干、早めに回転するように設定されている。
また、図9は、キャリッジ12の裏面を示す図である。キャリッジはシャフト軸19に支持されて、左右に移動することができる。また、キャリッジ12の裏面にはスケーラー20を読み取るエンコーダー21が設置されている。エンコーダー21はプリンタ装置に延在して設けられたスケーラー20をキャリッジユニット12の移動と共に読み取る。そしてプリンタ装置10はキャリッジ12の変位量を逐次観測し、その情報に基づいてキャリッジモータ17のフィードバック制御を行う。また、印字ヘッドを駆動するタイミング情報もエンコーダー21の位置情報を基に生成する。
(制御構成)
図10はプリンタ装置の電気回路の全体構成を示した図である。記録装置の主要部品はCPU22,RAM23,ROM24,ASIC25から構成される。本図では、それぞれの素子が単部品として図示されているが、全ての素子を1つもLSIパッケージに集積している場合も含まれる。ROM24はOS、プログラム領域にプリンタのファームウエア、およびにモータの駆動テーブル等を格納している。ASIC25はモータ駆動制御の他に画像処理、インターフェイス26を介してホストコンピュータとの通信、印字ヘッド27のインク吐出制御等を行う。また、RAM23は前記のようにホストコンピュータからの受信データを一時的に保存(Receive Buffer)、ASIC25で画像処理を行う際のテンポラリメモリ(Work Area)、また、印字用データの保存(Scroll Print Buffer)等に用いられる。また、モータの駆動データテーブルはワークエリアに展開される。モータドライバは主にキャリッジ駆動用28、およびに用紙搬送用29の2つのドライバから構成される。17,30はそれぞれ、キャリッジモータ、用紙搬送モータである。図のモータドライバとモータの組み合わせは、ひとつの例であり、プリンタ装置によって、このモータの数とモータドライバの数はいくつになっても良い。また、31は電源であり、商用電源から半導体デバイス駆動用のロジック電源、モータ駆動電源、およびにヘッド駆動電源を生成する部位である。また、前記、電源31に用いられるDC−DCコンバーターやモータドライバ28,29はワンチップのICに統合されていても良い
印字ヘッドの駆動は、図3のy方向に一列に設けられた複数のノズルを、いくつかのノズル群に分け、それぞれのノズル群毎に異なるタイミングで駆動させる方法が一般的に利用されており、その方法の詳細は、特開2000−071433号公報に詳細に記載されている。このようにノズルを時分割駆動することによって、インクの供給速度と安定性を向上させ、かつ、吐出に必要な消費電力を削減することが可能である。
次に前記印字ヘッドの駆動を行う印字ヘッドコントロールブロックについて、図18を参照して説明する。印字ヘッドコントロールブロックは図10に示すASIC25を構成するひとつのブロックである。図18は、印字ヘッドコントロールブロックのブロック図である。図から明らかなように印字ヘッドコントロールブロックは3つのブロックから構成されており、ノズルデータ生成ブロック(NZL_DG)32、ノズルデータ保持ブロック(NZL_BUFF)33、印字ヘッドコントロールブロック(HEAD_TOP)34から構成される。この印字ヘッドコントロールブロックを駆動させるための基準タイミングは、図示されていないエンコーダー信号から印字タイミングの生成を行うブロックから出力されるWindow51、Column TRG52、Latch TRG53である。Window51はラスター方向にキャリッジが移動し印字指定箇所に達するとフラグが立ち(Window Open)、また、印字終了でフラグが下がる(Window Close)。Window51はBKおよびにカラー3色の大ノズル、小ノズルに対して設けられているため8本である。Column TRG52はカラム間隔で出力されるトリガー信号であり、このカラムトリガーの間隔がラスター方向の印字解像度となる。Latch TRG53はカラムの間隔をブロック数で均等に分割したタイミングで発生する。本実施例の説明のように16ブロックから構成される場合、1カラム時間内に16発のLatch TRGが発生する。また、YOBITO Window54は予備吐時に色設定を行うWindowであり、ブラック、カラーのEVEN,ODDノズル列で計8本からなる。このYOBITO Window54はキャリッジの移動に伴うエンコーダー信号とは同期しておらず、予備吐時に設定されたノズル列のWindowがオープンし、予備吐を行うためのフラグ信号である。
ノズルデータ生成ブロック(NZL_DG)32はDMA(Direct Memory Access)転送ブロック35、印字データマスク・ラッチブロック36、データ並び替えブロック37から構成されている。DMA転送ブロック35はRAM23上に展開されている印字データをDMA転送によって取り込む。全ノズルを印字に使用する場合の取り込むデータは図3に示した印字ノズル列の例では、ブラックのEVENもくしはODD列では16(bit)×10(DMA回数)=1 60(bit)、カラー一色あたりの大ノズル列もしくは小ノズル列では16(bit)×12(DMA回数)=192(bit)である。このようにDMA回数は使用するノズル数によって決まる。印字データマスク・ラッチブロック36では、DMA転送により取得したデータをラッチを行い、かつ図示されていないレジスタ情報にづいて使用しないノズルに対してマスクをかける機能を有する。ノズルマスクは1ノズル単位で設定が可能である。データ並び替えブロック37は、印字ノズルのブロックに基づいてデータの並び替えを行う。
本ノズルデータ生成ブロック(NZL_DG)32の起動のための主な信号はWindow51とColumn TRG52の組み合わせによって行われる。つまり、Window51でデータが印字指定箇所に達し、Column TRG52を受信すると印字データの取得を開始する。そして、Window51がクローズすると印字データの取得停止する。
ノズルデータ保持ブロック(NZL_BUFF)33は各ブロックの構成を有したノズルデータを保持するためのバッファである。このように印字ヘッドの各ブロックを構成するノズル配列とデータの配列が一致しているのは、データの管理を容易にし、かつそれにより印字ヘッドに印字駆動データの生成を容易にするためである。バッファはファーストバッファ38、セカンドバッファ39の2段構成になっている。それぞれバッファは全ての色の1カラム分のデータ、つまり1カラム全ブロックデータを保持する構成をとっている。またバッファは、ブラックではEVEN,ODDの160bit×2、カラーにおいては3色に対してそれぞれ大ノズル列、小ノズル列の192bit×6の構成を有する。また、バッファ内のデータはブラックは10(bit)×16(ブロック)=160(bit)、カラーは12(bit)×16(ブロック)=192(bit)である。本バッファは1カラム中の各ブロックデータを印字ヘッドに転送しながら、次の1カラムをデータを準備するために2段構成となっており、ファーストバッファ38は書き込み側、セカンドバッファ39は読み出し側である。セレクターブロック40は印字ヘッドコントロールブロック(HEAD_TOP)34のブロックセレクタブロック41からの選択信号に基づいて、逐次ブロックを選択してブロック毎のノズルデータを出力する。
印字ヘッドコントロールブロック(HEAD_TOP)34は、ブロックセレクタブロック41、シフトレジスタブロック42、データ転送タイミング生成ブロック43、温度推定用ドットカウンタブロック44、k値用ドットカウンタブロック45、パルス生成ブロック46、また印字ヘッドの駆動信号H_LACTH47,H_CLK48,H_D49,H_ENB50から構成される。本ブロックの起動は主にWindow51、Latch TRG53信号によって行われる。また、印字ヘッドに対して予備吐を実施する場合はYOBITO Window54によってノズル列の選択がおこなわれる。印字指定箇所にWindow51が到達、しオープン、もしくは予備吐シーケンスの起動がかけられYOBITO Window54がオープンしたときのみLatch TRG53,COLUMN TRG52は有効になる。
ブロックセレクタブロック41は、印字ヘッドの時分割駆動をトリガ信号Latch TRG53により、ブロック順序に従いノズルデータ保持ブロック(NZL_BUFF)33のセレクターブロック40にブロック選択信号を出力するのと同時に、シフトレジタブロック42に対してもブロック選択信号を出力する。シフトレジスタブロック42はノズルデータ保持ブロック(NZL_BUFF)33から出力されるノズルデータとブロック選択信号をシフトレジスタによりシリアルデータに変換し、印字ヘッド駆動データH_D49に出力する。H_D49はブラックおよびにカラー3色に対してそれぞれEVEN,ODDがあるため8本から構成される。データ転送タイミング生成ブロック43はLatch TRG53を基準信号として、印字ヘッドに対して、印字ヘッド駆動データH_D49を転送するための転送クロックをH_CLK48、およびに印字ヘッド内のシフトレジスタ内のデータをラッチさせるためのラッチ信号H_LATCH47を生成する。かつ、シフトレジスタブロック42に対してデータシフトのタイミングを出力する。温度推定用ドットカウンタブロック44、およびにk値用ドットカウンタブロック45は、パルス生成ブロック46で生成されるヒートイネーブル信号HE_ENB50の駆動パルス幅をノズルの吐出頻度に応じて補正を行うための演算ブロックである。温度推定用ドットカウンタブロック44は数10msの間隔で補正テーブルを変更するために用いられる。k値用ドットカウンタブロック45はLatch TRG53を基準信号として、ブロック単位で前のブロックでのノズルの吐出頻度による昇温状態から、次のブロックでの最適なヒートパルス幅を補正する(以後、k値制御とする)。ヒートイネーブル信号HE_ENB50はブラック1本、カラー2本から構成されている。ここでカラーが2本から構成されているのは、吐出に必要なエネルギーをヒートのタイミングをずらすことによって分散させるためである。
図15は、前述のように、本ノズルとダミーノズルを順次で予備吐する場合の1カラムあたりの大ノズル若しくは小ノズルのどちらかの一方の駆動タイミングを示す。図の詳細な説明については省略する。なお、本実施例におけるColumn TRG42の時間間隔は、15KHz、もしくは10KHzである。また、図16は、前述したように、転送クロックH_CLK38と印字ヘッド駆動データH_D39の関係を示すものであり、この図16に関する説明についても前述の通りであり、詳細な説明は省略する。
図16において、ビット16はヒーターの切り替えであり、カラーインク用の本ノズル5に対して、図11、図18の大ヒーター(Aヒーター)、およびに小ヒーター(Bヒーター)のセレクトを行う。本実施例では、大ヒーターの駆動により約5pl(ピコリットル)のインクをノズルから吐出し、小ヒーターの駆動により約2plのインクをノズルから吐出する。また、ビット17は前述のようにダミーノズルの選択に用いるビットであり、ダミーノズル8の使用選択ビットDHEである。このDHEビットとブロック選択信号の組み合わせにより、吐出を行うダミーノズルの選択が行われる。
インクジェットヘッドに対して予備吐出を行わせる場合は、図18におけるノズルデータ保持ブロック(NZL_BUFF)33のファーストバッファ38に、予備吐出させたいノズルに対してデータを設定し、セカンドバッファ39にラッチを行う。次にYOBITO Window54の設定レジスタに対して予備吐を行うノズル列の設定を行う。COLUMN TRG52,LATCH TRG54は、エンコーダー信号のタイミングを使用せず任意のタイミングで生成し、印字ヘッドコントロールブロック(HEAD_TOP)34へ入力する。上記方法により予備吐動作を実現している。
(トグル予備吐による不具合の具体的説明)
しかしながら、先述したように吐出発数が多い予備吐出を実行する場合、本ノズルとダミーノズルを交互に吐出させるトグル予備吐は、インク不吐出などの不具合が発生する可能性がある。
図17を参照して、予備吐出時のノズル内でのインクメニスカスの挙動について説明する。
図17(a)は、インク吐出が始まる前の状態を示す、大インクノズル5及び小インクノズル5_2のメニスカスは、ヘッドのノズルフェイス面と同位置にある。
図17(b)は、インク吐出がなされた直後の状態を示す図であり、インク滴9の吐出により失われたインクの体積により、大ノズルのインク流路6内でメニスカス10は図の位置にある。この時、小液滴用のノズルでは吐出が行われていないため、メニスカスはほぼヘッドのノズルフェイス面と同位置にある。
図17(c)は、図17(b)の次の状態を示す図である。大ノズルのインクメニスカス10は毛管力により徐々にノズルフェイス面へ向かいインク液室内6にて移動を開始している。その時、小ノズルインクのメニスカス面11はフェイス面とほぼ同位置か、若干インク液室6側へ引き込まれている。これは、大ノズルのメニスカス10が復帰する際に大ノズルに対して液室7からインクが供給されると同時に、小ノズルの液室6から大ノズルの液室6へもインクが供給されるためである。
図17(d)は、図17(c)に続く状態を示している。図17(d)では、大ノズルのインクメニスカスはノズルフェイス面を超えオーバーシュートしている。この時、小ノズルのインクメニスカス11は、インク液室6側へ引き込まれている。
図17(e)は、図17(d)に続く状態を示している。この図17(e)では、大ノズルのメニスカス10はインクノズルフェイス面からのオーバーシュート後に大液滴用のノズル5内に戻り、少しへこんだ状態となっている。この時、小ノズルのメニスカスはインクノズルフェイス面からオーバーシュートしている。この図17ではは大ノズルと小ノズルを例としてあげているが、本ノズルとダミーノズルにおいてもインクメニスカスの挙動は同様に発生する。つまり、本ノズルの吐出後、本ノズルのメニスカスの挙動に対応して、ダミーノズルのメニスカスが移動する。
図14に示すように、本実施例では、1カラムとして600dpi分の時間が割り当てられている。しかしながら、本ノズルとダミーノズルを交互駆動(トグル駆動)した場合には、本ノズルの駆動は前半部分に集中し、ダミーノズルの駆動は前半部分に集中する。つまり、本ノズルとダミーノズルそれぞれの駆動期間では、600dpiに相当する駆動期間の半分となる。このことは、画像を1200dpiで記録するときの周期と同様となる。
本実施例において、同一の吐出量の本ノズルは、一色あたり192ノズルあり、ダミーノズルは16ノズルである。そのため、駆動期間内の前半部分と後半部分とを比較した場合に、前半部分に多くの量のインクが吐出されることになる。従って、ヘッド内のインクの流量からすると、駆動周期の前半部分で多大な量のインク流量が生じ、後半部分の流量は、前半部分の約8%%にまで減少する。上記のインクメニスカスの状況はインク吐出のたびに繰り返され、そのインク振動は徐々に大きくなってゆく、結果的にインク振動はノズル部のメニスカス振動として表れ、オーバーシュートしたインクがインク吐出ノズルを塞いだ状態となり、その時に該当ノズルがインク吐出した場合に不吐を引き起こす。
これに対し、図15に示すような、本ノズルとダミーノズルを順次駆動する方式においては、600dpiに相当する駆動期間中に、16ブロックの駆動が均等に行われる。従って、図14に示す駆動方法に比べ、1カラム内の各ブロックの時間間隔は2倍となり安定した吐出を得られる。
また、図2に示すカラーのノズル配列は、トグル駆動予備吐の影響を受け易い配列となっている。同一吐出量のノズルはpyの間隔で方列に配置されており、各ブロックを分散駆動した場合においても、上述のように各ブロックの時間間隔は、順次駆動に比べ1/2となる。さらに、図2のノズル配列の構成は、図3のカラーノズルの同一吐出量のインクノズルに比べ隣接距離も半分となり、インクのメニスカスがオーバーシュートする影響を受け易い。
次に、本発明の特徴的な部分を詳細に説明する。
図11は印字ヘッドのノズル面の構造図を示している。図中の55はAヒーターを有したダミーノズル、56はBヒーターを有したダミーノズル、57はAヒーターを有した本ノズル、58はBヒーターを有した本ノズルである。また、6、7、9は、前述のようにそれぞれ、本ノズルのインク室、ダミーノズルのインク室、共通インク室である。ここで、ダミーノズル55、56と本ノズル57のピッチの関係は本図では同じ間隔としたが、ダミーノズル55、56の間隔をより広いピッチにしても良い。また、ダミーノズル55、56用のノズルの開口部分とヒーターを、本ノズル57とは異なるものとし、本ノズル57よりも吐出量を多くした構成としても良い。これらダミーノズルの構成は印字ヘッドの特性に合わせて適切なノズル数、間隔、吐出量を得られるように設計される。
予備吐出のシーケンスはその用途に応じてさまざまなモードがある。代表的な予備吐モードの例を示した表を図13に示す。これら各モードにおいて予備吐は基本的にダミーノズルを含めた全ノズルに対して行うため、実際は表の予備吐発数の2倍の回数を行う。
図13に示す予備吐8はクリーニング動作による吸引回復後に行われるシーケンスである。また、図13の予備吐4は、キャップオープン後に行われるシーケンスである。これらの予備吐出は、吸引による回復を行った際に発生する混色を回避するため、もしくはノズル内に入り込んだ混色インクを排出するために行われる。
また、図13において、予備吐1〜予備吐3、予備吐7は、印字中に行われる予備吐出シーケンスである。これらの予備吐出は、ノズル内のインクの増粘を防ぎ、ノズルを使用可能な状態に保つために行われる。
図19は、トグル予備吐時の印字ヘッド駆動方法の特徴的なタイミングを表したものである。図中、Toggle ENA信号は本ノズルとダミーノズルの予備吐をトグル(交互)で行うかを示すイネーブル信号であり、後述するレジスタによって設定する。このToggle ENA信号がイネーブルになっている場合、図中のToggle Flag信号はCOLUMN TRG毎に反転を繰り返す。印字ヘッドのノズル選択はこのToggle Flag信号を基準に行う。Toggle Flag信号が“Hi”の場合は本ノズルを駆動するためのデータを生成し、”Lo”の場合はダミーノズルを駆動するためのデータを生成する。このような本ノズルとダミーノズルを交互に吐出を行う予備吐を、本発明ではトグル予備吐と以後呼ぶ。
本印字ヘッド駆動方法によれば、予備吐の吐出周波数を従来の方法の2倍にすることができる。図19の例では、COLUMN TRGの間隔を20kHzにすることができる。予備吐の吐出周波数を2倍に設定しても、本ノズル、およびにダミーノズルの個々の予備吐は1カラム毎に行われ、それぞれのノズルに対しての吐出周波数は1/2となり、従来の吐出周波数と一致する。従って、全体の予備吐時間を従来の半分の時間に短縮することが可能となる。
図20は予備吐出のシーケンスを示すフローチャートである。このフローチャートは、ブラックのノズル列の予備吐出、もしくはカラーインク用のノズル列の予備吐出のいずれかの場合に対応する。
ステップ66で予備吐開始シーケンスが実行されると、ステップ67でトグル予備吐の有無が判断される。トグル予備吐の設定が行われている場合はステップ68に進み、COLUMN TRGの出現を待つ。COLUMN TRGを取得した場合はステップ69に進みToggle Flagが”1”または”0“の検出を行う。Toggle Flagが”1“の場合はステップ70で本ノズルの吐出を行い、”0“の場合はステップ71でダミーノズルの吐出を行う。ステップ72は予備吐の発数をカウントする部位であり、1カラムの吐出が終了毎に+1カウントをインクリメントさせる。ステップ73で現在の吐出発数と全予備吐発数(M)の比較を行う。規定の発数の予備吐が終了した場合はステップ76に進み、予備吐シーケンスは終了する。また、規定の発数に到達していない場合はステップ68に戻り次のCOLUMN TRGの出現を待つ。
また、ステップ67でトグル予備吐の選択がされず、ステップ74に進んだ場合は本ノズルもしくはダミーノズルによる個々モードで予備吐を行う。ここでもCOLUMN TRGの出現を待った後、ステップ75で予備吐の対象ノズルが本ノズルであるかダミーノズルであるかの判定を行う。本ノズルの吐出である場合はステップ70に進み、ダミーノズルの吐出ある場合はステップ71に進み、予備吐を実行する。また、トグル予備吐と同様にステップ72でカウンタをインクリメントし、ステップ73で全予備吐発数(M)の比較を行う。
以上説明したような本ノズルとダミーノズルの交互(トグル)による予備吐駆動方法では、印字ヘッドの共通インク室の淀み部から滞留したインクを円滑、かつ確実に印字ヘッドのノズルから排出させることができる。さらに予備吐吐出周波数を従来の2倍にすることが可能となり、半分の時間で全予備吐を終了することができる。
上記の本ノズル、ダミーノズルのトグル予備吐と順次予備吐を予備吐出の用途、発数により切り替えることにより、図2、図11に示すような、ノズル配列を具備するインクジェットヘッドの高信頼性性な使用が可能となる。なお、この図2、図11に示すノズル配列構成は、ノズル列間のレジ調整などが比較的簡易に実施可能で、且つ、印字データにODD、EVENといった複雑な構成を必要としない、という利点がある。また、本発明によれば、図3、図12に示す大小ノズルの千鳥配列(同一吐出量の隣接するインクノズルが離れた構成)のインクノズルを具備するインクジェット記録ヘッドをより高信頼性で使用可能となる。
以上説明してきたように本発明による予備吐の切り替え制御では、本ノズルとダミーノズルの吐出を1カラム毎に交互に行う方法においては、予備吐の吐出周波数を従来の周波数の2倍にすることが可能となる。つまり予備吐の吐出周波数を2倍に設定しても、本ノズル、およびにダミーノズルの個々の予備吐は1カラム毎に行われ、それぞれのノズルに対しての吐出周波数は1/2となり、従来の吐出周波数と一致する。従って、全体の予備吐時間を従来の半分の時間に短縮することが可能となる。
また、本ノズルとダミーノズルの予備吐出を順次1カラム毎に順次に行う方法においては、予備吐出による共通液室の振動が抑制され、インクメニスカス振動、ノズルフェイス濡れによるインク不吐出を防止可能となり、信頼性の高いインクジェット記録装置が提供可能となる。