第12染色体上に位置していてPLA2G1Bとして知られるホスホリパーゼA2ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列またはその近傍における多型変異が、中心脂肪蓄積と関係していることが見いだされた。さらに、このヌクレオチド配列における多型変異が、対象における2型糖尿病(非インスリン依存性糖尿病、すなわちNIDDM)と関係していることも見いだされた。したがってPLA2G1Bが、脂肪の蓄積を減らし、糖尿病を含む関連疾患を治療するための標的として同定された。それゆえこの明細書には、脂肪を減らすとともに、関連疾患を治療するための治療薬候補を同定する方法と、治療分子を投与することによって対象における脂肪を減らすとともに、関連疾患を治療するための方法が記載されている。
詳細な説明
第12染色体上でホスホリパーゼをコードしている遺伝子またはその近傍における多型変異が、対象の腹と胴体の領域における脂肪の蓄積と関係していることが見いだされた。この領域に脂肪が多く蓄積している人は、代謝疾患(例えば糖尿病や肥満)と心血管疾患(例えば高血圧)になるリスクがある。したがって脂肪の蓄積に関する遺伝的決定要因を検出する方法があると、こうした疾患(例えば高インスリン血症、高血圧、グルコース不寛容(すなわちIGTまたは糖尿病)、異脂血症、凝固能亢進、ミクロアルブミン尿)に罹りやすい傾向を早期に診断したり、予防的措置を早期に講じたりすることが可能になる。したがってPLA2G1Bと脂肪の蓄積が関係づけられたことで、脂肪の蓄積を減少させる治療に役立つ分子をスクリーニングするための新しい標的が提供された。PLA2G1Bは、脂肪の蓄積に伴う異常である例えば代謝疾患(例えば糖尿病や肥満)や心血管疾患(例えば高血圧)を治療するのに役立つ分子をスクリーニングするための標的でもある。
中心脂肪の蓄積と関連疾患
中心脂肪の蓄積が多くなることは、BMI、体重と身長のグラフ、体脂肪測定でも肥満と見なせる、と多くの人が考えている。肥満は、一般に、個体の体重に占める脂肪の割合が所定のレベルよりも高くなった状態であると考えられている。例えば国立衛生研究所(NIH、httpのアドレスwww.nih.gov/health/nutrit/pubs/statobes.htmを参照のこと)の国立糖尿病および消化器・腎臓疾患研究所(NIDDK)は、ボディマス指数(BMI)が25〜29.9kg/m2の人を体重超過であると定義し、BMIが30kg/m2以上の人を肥満であると定義している。
中心脂肪のレベル増大は、代謝疾患(例えば糖尿病や肥満)や心血管疾患(例えば心筋梗塞や高血圧)といった生命を脅かす1つ以上の疾患が共存している状態の代謝症候群とも結びついている。例えば心血管疾患による死亡率は、平均追跡期間が6.9年間のボトニア研究(1990年にフィンランドで始まった2型糖尿病の大規模調査)から、3,606人と見積もられた。女性と男性では、代謝症候群は、耐糖能が正常な対象のそれぞれ10%と15%、IFG/IGTを有する対象のそれぞれ42%と64%、2型糖尿病を抱える対象のそれぞれ78%と84%で記録されている。冠状心疾患と心筋梗塞のリスクは、この症候群を抱える対象では3倍になり、心血管疾患による死亡率は顕著に増大した(この症候群を抱える対象では12.0%であるのに対し、この症候群がない対象では2.2%;P<0.001)(Zimmet他、Nature、第414巻、782〜787ページ、2001年)。したがって脂肪が蓄積しやすい傾向、中でも中心脂肪の蓄積を明らかにすることは、ある人が脂肪を減らす予防的療法を行なうことによって脂肪の蓄積と関連した1つ以上の疾患になる確率を低下させるべきであると見なされるかどうかを知る上で役に立つ。
この明細書では、“脂肪の蓄積”という用語は、個体の体内にある脂肪量と、個体の体内のある場所に脂肪が蓄積されるプロセスを意味する。この明細書では、“中心脂肪の蓄積”という用語は、個体の胴体およびウエストのまわりの脂肪が所定のレベルまたは平均を超えている状態を意味する。中心領域は、上下方向には第2腰椎の上面から第4腰椎の下面まで、横方向には胸郭の内面まで広がる領域として定義することができる。脂肪の蓄積は、例えばある時点での量、またはある期間にわたっての量として測定することができ、後述する多数の方法を用いて定量化すること、または見積もることができる。脂肪は、皮膚の下にある脂肪細胞(すなわち皮下脂肪細胞)および/または体内のより深くにある脂肪細胞(すなわち内臓脂肪細胞)からなる。脂肪細胞は、脂肪の合成と貯蔵に特化した結合組織細胞であることがしばしばある。このような細胞は、トリグリセリドの粒子を含んでいることがしばしばある。このような細胞では、核が一般にその粒子の一方の側に移動しており、細胞質が液滴状脂肪のまわりに薄い線となって見える。この明細書では、対象に脂肪細胞が蓄積する全体的な傾向を検出する方法、ならびに皮下脂肪細胞が蓄積しやすい傾向と内臓脂肪細胞が蓄積しやすい傾向を区別する方法が提供される。
脂肪の蓄積は、多数の方法で定量化することができる(例えばWajchenberg、Endocrine Rev.、第21巻(6)、697〜738ページ、2000年を参照のこと)。例えば身体の所定の領域で皮膚をつまんだときの厚さをキャリパーで測定するという方法が、局所的脂肪のタイプの違いを区別するのに利用されている(Nordhamn他、Int. J. Obes. Relat. Metab. Disord.、第24巻(5)、652〜657ページ、2000年)。巻き尺を用いたウエストとヒップの測定は、中心脂肪の指標として一般に用いられており(Lundgren他、Int. J. Obes.、第13巻(4)、413〜423ページ、1989年;Ohlson他、Diabetes、第34巻(10)、1055〜1058ページ、1985年)、何人かの研究者は、中心脂肪を定量化するため前後方向の胴部直径を測定している。また、中心脂肪を定量化するのにコンピュータ・トモグラフィやX線に基づいた方法も利用されている。二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA)は比較的迅速かつ安価であり、身体組成(脂肪の重量/筋肉の重量/骨)を信頼性よく再現性をもって評価することができる。実施例1で中心脂肪を定量化するのに、DEXA法と、ウエストおよびヒップの測定法を用いた。磁気共鳴イメージング(MRI)とコンピュータ・トモグラフィを利用すると、内臓脂肪の蓄積と皮下脂肪の蓄積を区別することができる(例えば上記のWajchenbergを参照のこと)。
したがって脂肪の蓄積は、脂肪の量を定量化するのに用いられる任意の単位で表現することができる。脂肪の蓄積は、個体の全体または一部領域の全脂肪量(体重に対するグラム数または割合)、個体の全体または一部領域の内臓脂肪の量(体重に対するグラム数または割合、あるいは全脂肪に対する割合)、個体の全体または一部領域の皮下脂肪の量(体重に対するグラム数または割合、あるいは全脂肪に対する割合)として表わすことができる。脂肪の蓄積に関するこれらの値のそれぞれは、ある一時点で、あるいは2つ以上の時点で測定または定量化することができる。
脂肪の蓄積は、脂肪蓄積の平均値と比べて“多い脂肪蓄積”(“高率の脂肪蓄積”、“脂肪蓄積のリスクが大きい”とも呼ばれる)としても表現することができる。全人口中での脂肪蓄積の分布グラフにおいて、脂肪蓄積が多い人は、人口の上から40%または上から30%に入ると表現されることがある。また、上から25%、上から20%、上から15%、上から10%に入ると表現されることもしばしばあり、時には上から5%に入ると表現されることもある。脂肪蓄積が多い人は、ウエスト/ヒップの比が男性で1.01以上、女性で0.91以上であることで特徴づけることもできる。さらに、BMIが25〜30、または中心脂肪が約1335〜約2050gである男性または女性は、一般に体重超過であると考えられる。BMIが30を超えるか、中心脂肪が約2050gを超える人は、通常は肥満である(例えば中心脂肪のグラム数は、上記のようにDEXA法で明らかにすることができる)。また、“痩せ”または“少ない脂肪蓄積”(“低率の脂肪蓄積”、“脂肪蓄積のリスクが小さい”とも呼ばれる)も脂肪の蓄積を表わす用語であり、やはり脂肪蓄積の平均値と比べた場合の用語である。全人口中での脂肪蓄積の分布グラフにおいて、痩せた人は、人口の下から40%または下から30%に入ると表現されることがある。また、下から25%、下から20%、下から15%、下から10%に入ると表現されることもしばしばあり、時には下から5%に入ると表現されることもある。痩せた人は、ウエスト/ヒップの比が男性で1.00未満、女性で0.90未満であることで特徴づけることもできる。さらに、BMIが24以下、または中心脂肪が約1334g未満である男性または女性は、通常は痩せていると考えられる。
この明細書では、“代謝疾患”という用語は、平均と比べて代謝産物の増大または低下が関与する病気、異常、状態を意味する。代謝疾患の具体例としては、糖尿病、肥満、神経性食欲不振、悪液質、脂質疾患などが挙げられる。
この明細書では、“NIDDM”という用語は、非インスリン依存性糖尿病、すなわち2型糖尿病を意味する(この明細書全体を通じて両方の用語を同じ意味で用いる)。NIDDMは、体内で産生されるインスリンと必要なインスリンの間に相対的な差があるために肝臓でのグルコース産生が増大し、血糖値が上昇し、不適切なインスリンの分泌が起こり、末梢部でインスリン抵抗性が生じるというインスリン関連疾患を意味する。
この明細書では、“心血管疾患”という用語は、心血管系(例えば心臓、血管、血液)が関与する病気、異常、状態を意味する。心血管疾患は、動脈圧の不均衡、心臓機能の異常、血管の閉塞(例えば血栓による)によって起こる可能性がある。心血管疾患の他の具体例としては、高血圧、アテローム性硬化症、冠動脈痙攣、冠動脈疾患、不整脈、心不全(限定しないが、心肥大、左側心不全、右側心不全など);虚血性心疾患(限定しないが、狭心症、心筋梗塞、慢性虚血性心疾患、突然心臓死など);高血圧性心疾患(限定しないが、全身性(左側)高血圧性心疾患、肺性(右側)高血圧性心疾患);弁性心疾患(限定しないが、石灰化によって起こる弁の変性(先天性二尖動脈弁の石灰化、僧帽弁環状石灰化など)、僧帽弁の原始間葉様変性(僧帽弁逸脱)、リウマチ熱、リウマチ性心疾患、感染性心内膜炎、非感染性ゆうぜい形成(非細菌性血栓性心内膜炎、全身性ループスエリテマトーデスの心内膜炎(リブマン-サックス病)、カルシノイド心疾患、人工弁の合併症など));心筋疾患(限定しないが、拡張型心筋症、肥大性心筋症、拘束型心筋症、心筋炎など);心膜疾患(心内膜液滲出、心膜血症、心膜炎(例えば急性心膜炎、治癒した心膜炎)、リウマチ様心疾患;腫瘍性心疾患(限定しないが、原発性心腫瘍(例えば粘液腫、脂肪腫、乳頭状線維芽腫、横紋筋腫、肉腫)など)、心臓以外の新生物による心臓への効果など);先天性心疾患(限定しないが、右左シャント(遅発性チアノーゼ(例えば心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管炎、共通房室弁口欠損、左右シャント)、早発性チアノーゼ(例えばファロー四徴症、大動脈転位、総動脈管炎、三尖弁閉鎖症、総肺静脈結合異常症)、先天性閉塞性異常(例えば大動脈縮窄症、肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁閉鎖症、大動脈狭窄症、大動脈閉鎖症)など)、心臓移植や充血性心不全が関与する疾患などが挙げられる。
脂肪の蓄積およびそれに関連した疾患に関係する多型変異
この明細書における遺伝子分析により、脂肪の蓄積と、第12染色体上に位置していて、PLA2G1Bと表記されるホスホリパーゼA2ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列の多型変異が結びついた。この明細書における追加の遺伝子分析により、NDDMと、第12染色体上に位置していて、PLA2G1Bと表記されるホスホリパーゼA2ポリペプチドのグループ1Bをコードしているヌクレオチド配列の多型変異が結びついた。この明細書では、“多型部位”という用語は、集団から採取した核酸サンプルのかなりの数において、2つ以上の異なるヌクレオチド配列が観察される核酸内領域を意味する。多型部位としては、例えば、2個以上のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列、挿入されたヌクレオチドまたはヌクレオチド配列、欠失したヌクレオチドまたはヌクレオチド配列、マイクロサテライトが可能である。ヌクレオチドの長さが2個以上になる多型部位は、ヌクレオチドの長さが4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個以上、20個以上、30個以上、50個以上、75個以上、100個以上、500個以上、約1000個以上でもよく、そのヌクレオチド配列の全体または一部がその領域内で異なっている。多型部位は、長さがヌクレオチド1個であることがしばしばあり、それをこの明細書では“一ヌクレオチド多型”または“SNP”と呼ぶ。
ある1つの多型部位に2、3、4通りのヌクレオチド配列がある場合、それぞれのヌクレオチド配列は、“多型変異”と呼ばれる。例えば多型変異が2つ存在している場合、集団から採取したサンプルの少ない割合で見られる多型変異は、“劣性対立遺伝子”と呼ばれることがあり、より多い多型変異は“優性対立遺伝子”と呼ばれることがある。多くの生物(例えばヒト)が各染色体のコピーを備えており、2つの優性対立遺伝子または2つの劣性対立遺伝子を持つ人は、多型に関してしばしば“ホモ”と呼ばれ、優性対立遺伝子と劣性対立遺伝子を1つずつ持つ人は、多型に関して一般に“ヘテロ”と呼ばれる。1つの対立遺伝子に関してホモである人は、別の対立遺伝子に関してヘテロまたはホモである人と比べて表現型が異なっている傾向がときにある。この明細書では、“表現型”という用語は、個人間で比較することのできる性質(例えばある疾患、目で見てわかる外観の違い、代謝の差、生理学的な差、生物学的分子の機能の差などの存在または不在)を意味する。表現型の具体例は、脂肪の蓄積、肥満、糖尿病である。
研究者は、データベースの中に多型変異を発見したことを報告するが、その多型変異が多くの人で見られるかどうかは明らかにされていないことがときにある。報告されている多型変異の一部は統計的に有意な割合の人数では見られないため、そのいくつかは、シークエンシングの間違いである、および/または生物学的に重要でない。したがって、報告されている多型変異が統計的に有意であるかどうか、あるいは生物学的に重要であるかどうかは、その多型変異の存在が集団の中で検出されて、その多型変異の頻度が明らかにされるまではわからないことがしばしばある。集団内で多型変異を検出する方法をこの明細書に記載してある(特に実施例2)。多型変異は、集団の5%以上、時には10%以上、15%以上、20%以上、しばしば25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上に見られるときに統計学的に有意であり、しばしば生物学的に重要である。
多型変異は、二本鎖核酸の一方または両方の鎖で検出することができる。多型変異は、遺伝子のイントロンまたはエキソンの中に位置していてもよく、調節領域(例えばプロモータ、5'非翻訳領域(UTR)、3'UTR)の一部に存在していてもよく、DNA(例えばゲノムDNA(gDNA)、相補的DNA(cDNA)、RNA(例えばmRNA、tRNA、rRNA)、ポリペプチドの中に存在していてもよい。多型変異は、遺伝子の発現、ポリペプチドの構造、ポリペプチドの機能に検出可能な差をもたらす場合ともたらさない場合がある。
PLA2G1Bにおける多型変異を脂肪の蓄積と関連づけた遺伝子分析では、集団内の双生児から採取したサンプルの遺伝子型を同定したが、他の人たちを分析することも可能であった。この明細書では、“遺伝子型を同定する”という表現は、一人以上の人の遺伝子型を決定するプロセスを意味する。そのとき“遺伝子型”は、集団内の多型変異を表わしている。テスト群に含まれる人の胴体領域での脂肪の蓄積を定量化したところ、配列番号1で表わされるPLA2G1Bヌクレオチド配列の位置7328と9182にSNPが存在することが明らかになった。遺伝子分析を行なった人の84%が位置7328にグアニンを持ち、16%がその位置にアデニンを持っていた。位置9182には、85%の人がチミンを持ち、15%がグアニンを持っていた。位置7328のグアニンまたは位置9182のチミンは中心脂肪蓄積と関係していることが明らかになり、位置7328にアデニンが存在するか、位置9182にグアニンが存在していることは、痩せに関係していた。
PLA2G1Bにおける多型変異をNIDDMと関連づけた遺伝子分析では、NIDDMの集団内の個人から採取したサンプルとNIDDMでない集団内の個人から採取したサンプルの遺伝子型を同定した。配列番号1で表わされるPLA2G1Bヌクレオチド配列の位置7256にSNPが存在することが明らかになった。遺伝子分析を行なった対照群の女性の93%は位置7256にチミンを持っており、7%がその位置にシトシンを持っていた。それに対して遺伝子分析を行なったテスト群の女性の92%は位置7256にチミンを持っており、8%がその位置にシトシンを持っていた。遺伝子分析を行なった対照群の男性の95%は位置7256にチミンを持っており、5%がその位置にシトシンを持っていた。それに対して遺伝子分析を行なったテスト群の男性の90%は位置7256にチミンを持っており、10%がその位置にシトシンを持っていた。位置7256がシトシンであることはNIDDMと関係があり、位置7256にチミンが存在していることはNIDDMでないことと関係していることが明らかにされた。
さらに、遺伝子型変異または多型変異は、“ハプロタイプ”という用語で表現することができる。この用語は、この明細書では、集団内のあるグループのゲノムDNAに発生する2つ以上の多型変異を意味する。例えば2個のSNPが1個の遺伝子に存在していて、各SNPの位置にシトシン変異とアデニン変異が含まれる可能性がある。集団内のある人たちは、各SNPの位置がシトシンになった遺伝子を有する1つの対立遺伝子(ヘテロ)または2つの対立遺伝子(ホモ)を持っている可能性がある。遺伝子内の各SNPに対応する2個のシトシンはその人の1つまたは両方の対立遺伝子上を一緒になって移動するため、その人は、その遺伝子内のその2つのSNPに関してシトシン/シトシン・ハプロタイプを持つことを特徴とする。
遺伝子分析により、脂肪が蓄積するリスクが低いこと関係するハプロタイプも明らかになった。特に配列番号1で表わされるPLA2G1B配列の位置4050、7256、7328、9182がTTAGまたはGTAGであるハプロタイプは痩せと関係していた。この明細書では、“ハプロタイプ”は、染色体ペアの一方の染色体上にある1つの遺伝子座の所定の領域における多型変異の組み合わせを意味する。
脂肪の蓄積およびそれに関連した疾患に関係する追加の多型変異
脂肪の蓄積、肥満、NIDDMに関係する偶発的創始者多型変異の近傍にある多型変異を同定する方法も提供される。したがってこの明細書には、脂肪の蓄積またはNIDDMと関係する偶発的多型変異の近傍にあって脂肪の蓄積またはNIDDMと関係する多型変異を同定する方法であって、脂肪の蓄積またはNIDDMと関係していてPLA2G1Bヌクレオチド配列に存在する偶発的多型変異の近傍にある多型変異を同定する操作を含む方法が記載されている。PLA2G1Bヌクレオチド配列は、(a)配列番号1のポリヌクレオチド配列;(b)配列番号1のヌクレオチド配列によってコードされているアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列;(c)配列番号1のヌクレオチド配列によってコードされているアミノ酸配列と90%同一のアミノ酸配列を持つポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列、または配列番号1のポリヌクレオチド配列と90%同一のポリヌクレオチド配列;からなるグループの中から選択したポリヌクレオチド配列をしばしば含んでいる。近位多型変異と脂肪の蓄積またはNIDDMの間に関係があるかどうかは、公知の関連法(例えば後述する実施例に記載されている方法)を利用して明らかにする。一実施態様では、偶発的多型変異は配列番号1の位置7256、7328、9182に存在する。別の実施態様では、同定された近位多型変異は公開されている多型変異であり、例えば一般の人が利用できるデータベースに公開されていることがしばしばある。別の実施態様では、同定された多型変異は公開されておらず、その多型変異は、公知の方法(例えば核酸サンプル群に含まれる偶発的多型変異の周辺領域をシークエンシングするなどの操作を含む)で発見される。したがって偶発的多型変異の近傍にある複数の多型変異が、この方法を利用して脂肪の蓄積およびNIDDMと関係づけられる。
近位多型変異は、偶発的多型変異の周辺領域で同定されることがしばしばある。いくつかの実施態様では、この周辺領域は、第1の多型変異に隣接する約50kb(例えば第1の多型変異の5'側の約50kbと、第1の多型変異の3'側の約50kb)であり、この領域は、より短いフランキング領域(例えば偶発的多型変異の5'側および3'側の約55kb、約60kb、約65kb、約70kb、約75kb、約80kb、約85kb、約90kb、約95kb、約100kbのフランキング配列)で構成されていることが時々ある。別の実施態様では、この領域は、より長いフランキング領域(例えば偶発的多型変異の5'および3'の約40kb、約30kb、約25kb、約20kb、約15kb、約10kb、約7kb、約5kb、約2kbのフランキング配列)で構成されている。
いくつかの実施態様では、脂肪の蓄積またはNIDDMと関係する多型変異を繰り返して同定する。例えば第1の近位多型変異は、上記の方法を用いて脂肪の蓄積と関係づけた後、第1の近位多型変異の近傍にある別の多型変異を(例えば広く公開されているものか、発見されたものであるかを)同定し、第1の近位多型変異の近傍にある1つ以上の他の多型変異と脂肪の蓄積またはNIDDMが関係しているかどうかを明らかにする。
この明細書に記載した方法は、ある疾患、病気(例えば脂肪の蓄積、NIDDM)、異常と関係する遺伝子、領域、遺伝子座の特徴をさらに明らかにするのに用いることのできる追加の多型変異を同定または発見するのに役立つ。例えば追加の多型変異から得られる対立遺伝子型または遺伝子型のデータを用いて機能の突然変異や連鎖不平衡の領域を同定することができる。
いくつかの実施態様では、脂肪の蓄積またはNIDDMと関係する第1の多型変異を含む領域内で同定または発見された多型変異の遺伝子型を、この明細書に記載した遺伝子型決定法とサンプル選択法を利用して明らかにし、その多型変異が第1の多型変異と連鎖不平衡にあるかどうかを明らかにすることができる。第1の多型変異と連鎖不平衡にある領域のサイズも、この遺伝子型決定法を利用して評価することができる。したがってこの明細書では、ある多型変異が脂肪の蓄積またはNIDDMと関係する第1の多型変異と連鎖不平衡であるかどうかを明らかにする方法が提供され、その情報をこの明細書に記載した予後予測法で利用することができる。
単離したPLA2G1B核酸とその変異体
この明細書には、単離したPLA2G1B核酸が記載されている。その具体例としては、配列番号1のヌクレオチド配列を有する核酸、PLA2G1B核酸変異体、ならびにこれらと実質的に同一の核酸が挙げられる。この明細書では、PLA2G1B核酸のヌクレオチド配列を“PLA2G1Bヌクレオチド配列”と呼ぶことが時にある。“PLA2G1B核酸変異体”は、1つの対立遺伝子であって、別の対象または同じ対象の別の対立遺伝子と比較したときに異なる多型変異を持っている可能性がある対立遺伝子を意味する。PLA2G1B核酸変異体における多型変異は、二本鎖核酸の一方または両方の鎖に、あるいは相補的な一方の染色体(ヘテロ)または両方の染色体(ホモ)に現われる可能性がある。PLA2G1B核酸は、以下に示す多型変異を1個以上持つことができる:一本の鎖で配列番号1の位置7256にあるチミンまたはシトシン、あるいは相補的な鎖におけるアデニンまたはグアニン;一本の鎖で配列番号1の位置7328にあるアデニンまたはグアニン、あるいは相補的な鎖におけるチミンまたはシトシン;一本の鎖で配列番号1の位置9182にあるグアニンまたはチミン、あるいは相補的な鎖におけるシトシンまたはアデニン;一本の鎖で配列番号1の位置4050、7256、7328、9182にそれぞれ存在するGTGT、TTGT、TTAG、GCGT、GTAG、あるいは相補的な鎖に存在するCACA、AACA、AATC、CGCA、CATC。
この明細書では、“核酸”という用語に、DNA分子(例えば相補的DNA(cDNA)、ゲノムDNA(gDNA))、RNA分子(例えばmRNA、rRNA、siRNA、tRNA)と、例えばヌクレオチド・アナログを用いたDNAまたはRNAのアナログが含まれる。核酸分子は一本鎖が可能であり、二本鎖であることもしばしばある。“単離した核酸または精製した核酸”という表現は、天然の核酸源に存在する他の核酸から分離した状態の核酸を意味する。例えばゲノムDNAに関しては、“単離した”という用語に、天然の状態でゲノムDNAを含む染色体から分離した核酸が含まれる。“単離した”核酸は、その核酸の出所である生物のゲノムDNA中でその核酸に天然状態で隣接している配列(すなわちその核酸の5'末端および/または3'末端に位置する配列)を持たないことがしばしばある。例えばいくつかの実施態様では、単離した核酸分子は、その核酸の出所である細胞のゲノムDNA中でその核酸に隣接している5'末端および/または3'末端のヌクレオチド配列のうちの約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kb、0.1kbのいずれかよりも短い配列を含むことができる。さらに、“単離した”核酸分子(例えばcDNA分子)は、組み換え技術で作ったときには他の細胞材料または培地を実質的に含まないようにすること、そして化学的に合成したときには化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まないようにすることができる。この明細書では、“PLA2G1B”という用語は、PLA2G1Bポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を意味する。
この明細書には、核酸の断片も含まれる。その断片は、一般に、配列番号1のヌクレオチド配列と同一のヌクレオチド配列、配列番号1のヌクレオチド配列と実質的に同一のヌクレオチド配列、これらの配列と相補的なヌクレオチド配列である。核酸の断片は、配列番号1のエキソンまたはイントロンに含まれるヌクレオチド配列と同じ、実質的に同じ、相同であるのいずれかが可能であり、PLA2G1Bポリペプチドの1つのドメインまたは1つのドメインの一部をコードすることができる。断片は、この明細書に記載した1つ以上の多型変異を、脂肪の蓄積増大またはNIDDMになるリスクの増大と関係している多型変異として含むことがあろう。核酸の断片は、塩基対の長さにして50個、100個、200個またはそれ以下であることがしばしばあり、時には、塩基対の長さにして約300個、400個、500個、600個、700個、800個、900個、1000個、1100個、1200個、1300個、1400個、1500個、2000個、3000個、4000個、5000個、10000個、12000個になっている。配列番号1のヌクレオチド配列と同じまたは実質的に同じヌクレオチド配列と相補的で、ストリンジェントな条件下でそのようなヌクレオチド配列とハイブリダイズする核酸断片は、しばしば“プローブ”と呼ばれる。核酸断片は、以下に説明するように、多型部位を1個以上含んでいることがしばしばあり、多型部位に隣接する末端を有することもある。
核酸断片の一例はオリゴヌクレオチドである。この明細書では、“オリゴヌクレオチド”という用語は、共有結合した約8〜約50個のヌクレオチドを含む核酸を意味する。含まれるヌクレオチドは約8個〜約35個であることがしばしばあり、約10個〜約25個であることがそれ以上に多い。オリゴヌクレオチドに含まれる骨格とヌクレオチドは、天然の核酸の場合と同じであるか、天然の核酸のアナログまたは誘導体が可能である。ただし後者の場合は、そのようなアナログまたは誘導体を持つオリゴヌクレオチドが、標的とする多型を含む核酸に特異的にハイブリダイズする能力を保持していることが条件である。この明細書に記載したオリゴヌクレオチドは、この明細書に記載したように、例えばハイブリダイゼーション用のプローブとして、あるいは診断アッセイの要素として用いることができる。
オリゴヌクレオチドは、一般に、標準的な方法と装置を用いて合成される(例えばABI(登録商標)3900ハイ・スループットDNA合成装置やEXPEDITE(登録商標)8909核酸合成装置(どちらもアプライド・バイオシステムズ社(フォスター・シティ、カリフォルニア州)から入手できる))。アナログと誘導体の具体例は、アメリカ合衆国特許第4,469,863号、第5,536,821号、第5,541,306号、第5,637,683号、第5,637,684号、第5,700,922号、第5,717,083号、第5,719,262号、第5,739,308号、第5,773,601号、第5,886,165号、第5,929,226号、第5,977,296号、第6,140,482号、WO 00/56746、WO 01/14398、ならびに関連した出版物に記載されている。このようなアナログや誘導体を含むオリゴヌクレオチドの合成法は、例えば上記の特許文献や、アメリカ合衆国特許第5,614,622号、第5,739,314号、第5,955,599号、第5,962,674号、第6,117,992号、WO 00/75372、ならびに関連した出版物に開示されている。
オリゴヌクレオチドは第2の部分に連結させることもできる。この第2の部分としては、追加のヌクレオチド配列(例えば、尾部配列(例えばポリアデノシン尾部)、アダプタ配列(例えばファージM13普遍的尾部配列)など)が可能である。あるいは第2の部分として、非ヌクレオチド部分である、例えば固体支持体への結合を容易にする部分や、オリゴヌクレオチドの検出を容易にする標識も可能である。そのような標識として放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、常磁性標識などが挙げられる。第2の部分は、多型を含む核酸とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドの任意の部分に付着させることができる。
核酸配列の利用
配列番号1に示した核酸コード配列は、診断を目的としてポリペプチドの発現を検出したり制御したりするのに用いることができる。この明細書には、オリゴヌクレオチド配列も含まれる。具体的には、アンチセンスRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、DNA分子、ポリペプチドの翻訳を抑制するリボザイムなどである。アンチセンス技術とRNA干渉技術は公知であり、この明細書に説明してある。
リボザイムは、RNAを特異的に開裂させる触媒となることができる酵素RNA分子である。リボザイムの作用メカニズムには、リボザイム分子を相補的標的RNAに対して配列特異的にハイブリダイズさせた後、エンドヌクレアーゼによる分解で開裂させるプロセスが含まれる。リボザイムとしては、配列番号1のヌクレオチド配列に対応するRNA配列または配列番号1のヌクレオチド配列と相補的なRNA配列のエンドヌクレアーゼによる開裂の特異的かつ効率的な触媒となる、遺伝子工学によるハンマーヘッド・モチーフ・リボザイム分子が可能である。まず最初に、GUA、GUU、GUCという配列を含むリボザイム開裂部位を探すため、標的分子を走査することにより、潜在的なあらゆるRNA標的内の特異的リボザイム開裂部位を同定する。同定が終わると、開裂部位を含む標的遺伝子領域に対応していて15〜20個のリボヌクレオチドからなる短いRNA配列が、予測された構造的特徴(例えばオリゴヌクレオチド配列を不適切なものにすることのできる二次構造)を持っているかどうかを評価することができる。候補となる標的が適切であるかどうかは、リボヌクレアーゼ保護アッセイを利用して相補的なオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションが可能であるかどうかを調べることによって評価することもできる。
アンチセンスRNA分子、アンチセンスDNA分子、siRNA、リボザイムは、RNA分子の合成に関して知られている任意の方法を利用して調製することができる。そのような方法として、オリゴデオキシリボヌクレオチドを化学的に合成するための従来技術でよく知られた方法(例えば固相ホスホラミダイト化学合成法)がある。RNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードしているDNA配列を試験管内または生体内で転写することによって生成させることもできる。このようなDNA配列は、適切なRNAポリメラーゼ・プロモータ(例えばT7やSP6などのポリメラーゼ・プロモータ)が組み込まれたいろいろなベクターに組み込むことができる。どのプロモータを使用するかに応じ、アンチセンスRNAを構成的または誘導的に合成するアンチセンスcDNA構造体を細胞系に安定に導入することもできる。
ポリペプチドをコードしているDNAも、PLA2G1Bの異常な発現に起因する疾患(例えば脂肪の蓄積やNIDDM)の診断において多くの用途がある。例えば発現または機能の異常を診断するため、核酸配列を生検または剖検のハイブリダイゼーション・アッセイ(例えばサザン・ブロット分析、ノーザン・ブロット分析、インサイチュ・ハイブリダイゼーション・アッセイ)で使用することができる。
さらに、胚発生の間に起こるポリペプチドの発現も、ポリペプチドをコードしている核酸を用いて明らかにすることができる。後述するように、機能が損なわれたポリペプチドの産生は、さまざまな疾患状態(例えば脂肪の蓄積やNIDDM)の原因となる。ポリペプチドをプローブとして用いたインサイチュ・ハイブリダイゼーションを利用し、肥満またはNIDDMに関連した問題を予測することができる。さらに、後述するように、この明細書に記載したようにして組み換え技術で製造したヒトの活性なポリペプチドを投与することで、機能が損なわれたポリペプチドに関係する疾患状態を治療することができる。あるいは遺伝子治療を利用して、機能的ポリペプチドの欠陥を改善すること、機能不全のポリペプチドを置換すること、機能不全のポリペプチドに対処することもできる。
発現ベクター、宿主細胞、遺伝子改変細胞
この明細書では、PLA2G1B核酸を含む核酸ベクター(しばしば発現ベクター)が提供される。この明細書では、“ベクター”という用語は、核酸分子であって、その核酸分子と結合している別の核酸分子を運ぶことのできる核酸分子を意味し、具体的にはプラスミド、コスミド、ウイルス・ベクターなどが挙げられる。ベクターは、自律的に複製を行なうこと、あるいは宿主のDNAと一体化することができる。ウイルス・ベクターとしては、例えば複製に欠陥のあるレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどがある。
ベクターは、宿主細胞の中で核酸を発現するのに適した形態のPLA2G1B核酸を含むことができる。組み換え発現ベクターは、一般に、発現させる核酸配列と機能上関連した1つ以上の調節配列を含んでいる。“調節配列”という用語には、プロモータ、エンハンサー、これら以外の発現調節エレメント(例えばポリアデニル化シグナル)などが含まれる。調節配列には、ヌクレオチド配列の構成的発現を調節する配列と、組織特異的調節配列および/または誘導的配列が含まれる。発現ベクターの設計は、形質転換する宿主細胞の選択、ポリペプチドの望ましい発現レベルなどの因子によって異なる可能性がある。発現ベクターを宿主細胞に導入し、PLA2G1B核酸によってコードされたPLA2G1Bポリペプチド(融合ポリペプチドも含む)を産生させることができる。
組み換え発現ベクターは、原核細胞または真核細胞の中でPLA2G1Bポリペプチドが発現するように設計することができる。PLA2G1Bポリペプチドは、例えば大腸菌、昆虫細胞(例えばバキュロウイルス発現ベクター)、酵母細胞、哺乳動物の細胞で発現させることができる。適切な宿主細胞については、Goeddel、『遺伝子発現技術:酵素学における方法』、アカデミック・プレス社、サンディエゴ、カリフォルニア州、第185巻、1990年にさらに詳しく記載されている。別の方法として、例えばT7プロモータ調節配列とT7ポリメラーゼを用いて組み換え発現ベクターを試験管内で転写、翻訳することもできる。
原核生物におけるポリペプチドの発現は、融合ポリペプチドまたは非融合ポリペプチドの発現を制御する構成的プロモータまたは誘導的プロモータを含むベクターを用いて大腸菌の中で行なわせることが最も多い。融合ベクターは、この融合ベクターの中にコードされているポリペプチド(通常は組み換えポリペプチドのアミノ末端)に多数のアミノ酸を付加する。このような融合ベクターは、一般に3つの目的で使用される。すなわち、1)組み換えポリペプチドの発現を増大させるため;2)組み換えポリペプチドの溶解度を増大させるため;3)アフィニティ精製においてリガンドとして作用させることにより組み換えポリペプチドの精製を促進するためである。タンパク質分解による開裂部位を融合部分と組み換えポリペプチドの結合部に導入することにより、融合ポリペプチドを精製した後に組み換えポリペプチドを融合部分から分離できるようにすることがしばしば行なわれる。そのための酵素とそのコグネイト認識配列としては、Xa因子、トロンビン、エンテロキナーゼなどがある。代表的な融合発現ベクターとしては、pGEX(ファルマシア・バイオテック社;Smith, D.B.とJohnson, K.S.、Gene、第67巻、31〜40ページ、1988年)、pMAL(ニュー・イングランド・バイオラブズ社、ビヴァリー、マサチューセッツ州)、pRIT5(ファルマシア社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)などがある。これらの融合発現ベクターは、それぞれ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合ポリペプチド、ポリペプチドAを標的となる組み換えポリペプチドと融合させる。
精製した融合ポリペプチドをスクリーニング・アッセイで用いてPLA2G1Bポリペプチドに対して特異的な抗体を生成させることができる。治療に関する実施態様では、レトロウイルス発現ベクターで発現する融合ポリペプチドを骨髄細胞に感染させた後、その骨髄細胞を、放射線を照射したレシピエントに移植する。十分な時間(例えば6週間)が経過した後、レシピエントの病状を調べる。
組み換えポリペプチドをタンパク質分解によって開裂させる機能が損なわれた宿主細菌の中でポリペプチドを発現させることで組み換えポリペプチドの発現を最大にすることがしばしばある(Gottesman, S.、『遺伝子発現技術:酵素学における方法』、アカデミック・プレス社、サンディエゴ、カリフォルニア州、第185巻、119〜128ページ、1990年)。別の方法は、それぞれのアミノ酸に関する個々のコドンが大腸菌において好んで利用されているコドンになるよう、発現ベクターに挿入する核酸のヌクレオチド配列を変化させるという方法である(Wada他、Nucleic Acid Res.、第20巻、2111〜2118ページ、1992年)。ヌクレオチド配列のこのような変更は、標準的なDNA合成技術で実現することができる。
発現ベクターを哺乳動物の細胞で使用する場合には、発現ベクターの制御機能をウイルスの調節エレメントによって与えることがしばしばある。例えば一般に使用されているプロモータは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、サル・ウイルス40に由来する。哺乳動物の組み換え発現ベクターは、特定のタイプの細胞において核酸の発現を指示できることがしばしばある(例えば組織特異的調節エレメントを用いて核酸を発現させる)。適切な組織特異的プロモータの具体例としては、アルブミン・プロモータ(肝臓特異的;Pinkert他、Genes Dev.、第1巻、268〜277ページ、1987年)、リンパ球特異的プロモータ(CalameとEaton、Adv. Innunol.、第43巻、235〜275ページ、1988年)、T細胞受容体のプロモータ(WinotoとBaltimore、EMBO J.、第8巻、729〜733ページ、1989年)、免疫グロブリンのプロモータ(Banerji他、Cell、第33巻、729〜740ページ、1983年;QueenとBaltimore、Cell、第33巻、741〜748ページ、1983年)、ニューロン特異的プロモータ(例えば神経フィラメント・プロモータ;ByrneとRuddle、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第86巻、5473〜5477ページ、1989年)、膵臓特異的プロモータ(Edlund他、Science、第230巻、912〜916ページ、1985年)、乳腺特異的プロモータ(例えばミルクのホエイ・プロモータ;アメリカ合衆国特許第4,873,316号とヨーロッパ特許出願公開第264,166号)などが挙げられる。発生調節プロモータが時に利用される。それは、例えばネズミのhoxプロモータ(KesselとGruss、Science、第249巻、374〜379ページ、1990年)と、α-フェトポリペプチド・プロモータ(CampesとTilghman、Genes Dev.、第3巻、537〜546ページ、1989年)である。
PLA2G1B核酸をアンチセンスの方向にクローニングして発現ベクターに組み込むこともできる。アンチセンスの方向にクローニングされたPLA2G1B核酸と機能上関係した調節配列(例えばウイルス・プロモータおよび/またはエンハンサー)を選択してアンチセンスRNAの構成的、組織特異的、細胞のタイプ特異的な発現をさまざまなタイプの細胞内で実現することができる。アンチセンス発現ベクターは、組み換えプラスミド、ファージミド、弱めたウイルスのいずれかの形態が可能である。アンチセンス遺伝子を用いた遺伝子の発現調節に関しては、Weintraub, H.他、「遺伝子を分析する分子ツールとしてのアンチセンスRNA」、Reviews - Trends in Genetics、第1巻(1)、1986年を参照のこと。
この明細書では、組み換え発現ベクター内のPLA2G1B核酸を含む宿主細胞、または相同的組み換えにより宿主細胞のゲノムの特定部位に組み込むことのできるPLA2G1B核酸配列の断片を含む宿主細胞も提供される。“宿主細胞”および“組み換え宿主細胞”という用語は、この明細書では同じ意味で用いる。これらの用語は、対象とする特定の細胞だけでなく、そのような細胞の子孫または潜在的子孫も意味する。後に続く世代では突然変異や環境の影響によって修飾が起こる可能性があるため、そのような子孫は実際には親細胞と同じではない可能性があるが、それでもこの明細書で使用する用語の範囲に含まれる。宿主細胞としては、あらゆる原核細胞と真核細胞が可能である。例えばPLA2G1Bポリペプチドは、細菌細胞(例えば大腸菌)、昆虫細胞、酵母細胞、哺乳動物の細胞(例えばチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)の中で発現させることができる。適切な他の細胞は、当業者には公知である。
ベクターは、従来の形質転換技術またはトランスフェクション技術を利用して宿主細胞に導入することができる。この明細書では、“形質転換”、“トランスフェクション”という用語は、外来核酸(例えばDNA)を宿主細胞に導入するための従来技術で知られているさまざまな方法を意味する。具体的には、リン酸カルシウム共同沈降法または塩化カルシウム共同沈降法、DEAE-デキストランを媒介としたトランスフェクション、リポフェクション、電気穿孔などの方法がある。
この明細書で提供される宿主細胞を用いてPLA2G1Bポリペプチドを産生(すなわち発現)させることができる。したがって、本発明の宿主細胞を用いてPLA2G1Bポリペプチドを産生させる方法がさらに提供される。一実施態様によると、この方法は、PLA2G1Bポリペプチドをコードしている組み換え発現ベクターを導入した宿主細胞を適切な培地の中で培養してPLA2G1Bポリペプチドが産生されるようにする操作を含んでいる。別の実施態様によると、この方法は、PLA2G1Bポリペプチドを培地または宿主細胞から単離する操作をさらに含んでいる。
PLA2G1B導入遺伝子を含む細胞または精製した細胞調製物、あるいはPLA2G1Bポリペプチドを正しく発現しない細胞または精製した細胞調製物も提供される。細胞調製物は、ヒト細胞または非ヒト細胞(例えばマウスまたはラットの細胞、ウサギ細胞、ブタ細胞)で構成することができる。好ましい実施態様では、細胞にPLA2G1B導入遺伝子(例えば非ヒト細胞の中で発現するヒト遺伝子など、PLA2G1Bのヘテロな形態)が含まれている。PLA2G1B導入遺伝子は正しく発現しない可能性がある(例えば過剰発現または過少発現)。別の好ましい実施態様では、細胞に、内在性PLA2G1ポリペプチドを正しく発現しない遺伝子が含まれている(例えば遺伝子の発現が破壊されている。ノックアウトとしても知られる)。このような細胞は、突然変異したPLA2G1対立遺伝子または正しく発現しないPLA2G1対立遺伝子と関係した疾患を研究するためのモデルとして、あるいは薬剤スクリーニング用として役に立つ可能性がある。PLA2G1核酸を用いて形質転換したヒト細胞(例えば造血幹細胞)も提供される。
内在性PLA2G1核酸が、内在性PLA2G1遺伝子の発現を通常は制御していない調節配列の制御下にある細胞または精製した細胞調製物(例えばヒト細胞)も提供される。細胞(例えば細胞系または微生物)内における内在性遺伝子の発現特性は、異種DNA調節エレメントをその細胞のゲノムに挿入し、その挿入された調節エレメントを内在性PLA2G1遺伝子と機能上関連させることにより、変化させることができる。例えば内在性PLA2G1遺伝子(例えば通常は発現しない“転写が沈黙した”遺伝子、または非常に低いレベルでしか発現しない遺伝子)は、その細胞内で正常に発現する遺伝子産物の発現を促進させることのできる調節エレメントを挿入することによって活性化することができる。標的相同的組み換えなどの方法を利用して異種DNAを挿入することができる。この方法は、例えばChappel、アメリカ合衆国特許第5,272,071号;1991年5月16日に公開されたWO 91/06667に記載されている。
トランスジェニック動物
(例えば別の生物から単離したPLA2G1B核酸から発現させた)異種PLA2G1Bポリペプチドを発現する非ヒト・トランスジェニック動物を作ることができる。このような動物は、PLA2G1Bポリペプチドの機能および/または活性の研究や、PLA2G1B核酸とPLA2G1Bポリペプチドの活性を変化させる物質の同定および/または評価に役に立つ。この明細書では、“トランスジェニック動物”とは、1個以上の細胞にPLA2G1B導入遺伝子が含まれているヒトでない動物のことであり、例えば哺乳動物(具体的にはヒトでない霊長類、例えばチンパンジー、ヒヒ、マカク);有蹄動物(例えばウマ、ウシ、ヤギ);ネズミ類(例えばラット、マウス、イスラエル・スナネズミ)、鳥類(例えばニワトリ、シチメンチョウ)、両生類(カエル、サンショウウオ、イモリ)、昆虫(例えばショウジョウバエ)などが挙げられる。導入遺伝子は、外来性DNAであるか、あるいはトランスジェニック動物の細胞のゲノムと一体化したり、そのゲノムで起こったりすることがしばしばある再構成(例えば内在性染色体DNAの欠失)によるものである。ある導入遺伝子は、トランスジェニック動物の1種類以上の細胞または組織の中で、コードされた遺伝子産物を発現させる指示を出すことができ、別の導入遺伝子は、発現を減少させることができる(例えばノックアウト)。したがってトランスジェニック動物は、成長する前に、内在性PLA2G1B遺伝子が、内在性遺伝子と、その動物の細胞(例えばその動物の胚細胞)に導入された外来性DNA分子の間の相同的組み換えによって変えられた動物である。
イントロン配列とポリアデニル化シグナルが導入遺伝子に含まれるようにしてその導入遺伝子の発現効率を増大させることもできる。1つ以上の組織特異的調節配列をPLA2G1B導入遺伝子と機能上関連させ、PLA2G1Bポリペプチドが特定の細胞で発現するように指示することができる。創始者となるトランスジェニック動物は、そのゲノムにおけるPLA2G1B導入遺伝子の発現の存在および/またはその動物の組織または細胞におけるPLA2G1B mRNAの発現に基づいて同定することができる。次に、創始者となるトランスジェニック動物は、その導入遺伝子を持つ別の動物を育てることができる。さらに、PLA2G1Bポリペプチドをコードしている導入遺伝子を有するトランスジェニック動物を育て、別の導入遺伝子を持つトランスジェニック動物にすることができる。
PLA2G1Bポリペプチドは、例えばそのポリペプチドをコードしている核酸を動物のゲノムに導入することによってトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物の中で発現させることができる。好ましい実施態様では、核酸は組織特異的プロモータ(例えばミルクまたは卵に特異的なプロモータ)の制御下に置き、動物が生み出すミルクまたは卵から回収する。トランスジェニック動物からの細胞集団もこの明細書に含まれる。
PLA2G1Bポリペプチド
この明細書には、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む単離されたPLA2G1Bポリペプチド、単離されたPLA2G1Bポリペプチド変異体、これらと実質的に同一のポリペプチドも含まれる。PLA2G1Bポリペプチドは、PLA2G1B核酸によってコードされているポリペプチドであり、1個の核酸が1種類以上のポリペプチドをコードすることができる。“単離した”または“精製した”ポリペプチドまたはタンパク質は、そのタンパク質の出所である細胞供給源または組織供給源からの細胞材料その他の汚染性タンパク質を実質的に含んでおらず、化学的に合成した場合には、化学的前駆体その他の化学物質を含んでいない。一実施態様では、“実質的に含まない”という表現は、PLA2G1BポリペプチドまたはPLA2G1Bポリペプチド変異体の調製物で、非PLA2G1Bポリペプチド(この明細書では“汚染性タンパク質”とも呼ぶ)または化学的前駆体または非PLA2G1B化学物質を(乾燥重量で)約30%、20%、10%、より好ましくは5%未満しか含まないものを意味する。PLA2G1Bポリペプチドまたはその生物学的に活性な部分が組み換えによって製造される場合には、培地を実質的に含まず、特に培地がポリペプチド調製物の体積の約20%未満、時には約10%未満、しばしば約5%未満であることも好ましい。単離または精製したPLA2G1Bポリペプチド調製物は、乾燥重量が時に0.01ミリグラム以上または0.1ミリグラム以上になり、しばしば1.0ミリグラム以上または10ミリグラム以上になる。
PLA2G1Bポリペプチドの断片もこの明細書に含まれる。このポリペプチドの断片としては、PLA2G1Bポリペプチドの1つのドメインまたは1つのドメインの一部が可能である。PLA2G1Bのドメインとしては、配列番号2のアミノ酸位置24〜146にあるホスホリパーゼA2ドメインなどが挙げられる。このポリペプチドの断片は、生物学的活性が増大している、あるいは低下している、あるいは予想できない可能性がある。このポリペプチドの断片は、アミノ酸の長さが50個以下、あるいは100個以下、あるいは148個以下であることがしばしばある。
実質的に同一のポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列から出発していろいろな方法で作ることができる。例えば配列番号2のアミノ酸配列の1つ以上の位置で保存されているアミノ酸を修飾することができる。“保存されているアミノ酸の置換”は、そのアミノ酸が、構造および/または化学的機能の似た別のアミノ酸で置換されていることを意味する。構造と機能が似たアミノ酸残基ファミリーはよく知られている。そのようなファミリーとしては、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を持つアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、帯電していない極性側鎖を持つアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を持つアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β側鎖を持つアミノ酸(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖を持つアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などが挙げられる。不可欠なアミノ酸と不可欠でないアミノ酸を置換することもできる。“不可欠でない”アミノ酸は、変化させてもPLA2G1Bポリペプチドの生物学的機能が失われたり、実質的に変化したりすることがないアミノ酸である。それに対して“不可欠な”アミノ酸を変化させると、PLA2G1Bポリペプチドの生物学的機能が失われたり、実質的に変化したりする。ホスホリパーゼA2ポリペプチドで保存されているアミノ酸(例えばP2X1、P2X2、P2X3、PLA2G1B、P2X5、P2X6、P2X7)は、一般に不可欠なアミノ酸である。
PLA2G1BポリペプチドとPLA2G1Bポリペプチド変異体は、キメラ・ポリペプチドまたは融合ポリペプチドとして存在することもできる。この明細書では、PLA2G1B“キメラ・ポリペプチド”または“融合ポリペプチド”に、非PLA2G1Bポリペプチドに結合したPLA2G1Bポリペプチドが含まれる。“非PLA2G1Bポリペプチド”は、PLA2G1Bポリペプチドと実質的に一致していないポリペプチドに対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。それは、例えば、同じ生物または異なる生物に由来し、PLA2G1Bポリペプチドとは異なるポリペプチドである。融合ポリペプチドに含まれるPLA2G1Bポリペプチドとしては、PLA2G1Bポリペプチドの全体またはほぼ全体、あるいはその断片に対応するものが可能である。非PLA2G1Bポリペプチドは、PLA2G1BポリペプチドのN末端またはC末端に融合させることができる。
融合ポリペプチドは、リガンドに対する親和性が大きな部分を含むことができる。例えば融合ポリペプチドとして、GST配列のC末端にPLA2G1B配列が融合したGST-PLA2G1B融合ポリペプチド、あるいはヒスチジン残基からなるリングのN末端またはC末端にPLA2G1B配列が融合したポリヒスチジン-PLA2G1B融合ポリペプチドが可能である。このような融合ポリペプチドは、組み換えPLA2G1Bの精製を容易にする。融合部分(例えばGSTポリペプチド)をすでにコードしている発現ベクターが市販されているため、PLA2G1B核酸をクローニングして発現ベクターに組み込むことにより、融合部分をインフレームでPLA2G1Bポリペプチドに結合させることが可能である。さらに、融合ポリペプチドとしては、異種シグナル配列をN末端に有するPLA2G1Bポリペプチドが可能である。ある種の宿主細胞(例えば哺乳動物の宿主細胞)では、PLA2G1Bポリペプチドの発現、分泌、細胞内部化、細胞内局在化を、異種シグナル配列を用いることによって促進することができる。融合ポリペプチドとして、血清ポリペプチド(例えばIgGの定常領域またはヒト血清アルブミン)の全体または一部を挙げることもできる。
PLA2G1Bポリペプチドを医薬組成物に組み込んで対象の体内に投与することができる。PLA2G1Bポリペプチドを投与することによってPLA2G1B基質の生物学的活性に影響を与えることができるため、細胞内でPLA2G1Bの生物学的活性を効果的に増大させることができる。PLA2G1B融合ポリペプチドは、例えば(i)PLA2G1Bポリペプチドをコードしている遺伝子の異常な修飾または突然変異;(ii)PLA2G1B遺伝子の間違った調節;(iii)PLA2G1Bポリペプチドの異常な翻訳後修飾によって起こる疾患の治療に役立つ可能性がある。またPLA2G1Bポリペプチドを免疫原として利用して対象の体内で抗PLA2G1B抗体を産生させ、PLA2G1Bのリガンドまたは結合パートナーを精製し、スクリーニング・アッセイにおいて、PLA2G1Bの基質とPLA2G1Bの間の相互作用を抑制または促進する分子を同定することもできる。
さらに、本発明のポリペプチドは、公知の技術を利用して化学的に合成することができる(例えばCreighton、『タンパク質』、ニューヨーク、ニューヨーク州、W.H.フリーマン・アンド・カンパニー社、1983年;Hunkapiller他、Nature、第310巻(5973号)、105〜111ページ、1984年7月12〜18日号を参照のこと)。例えば本発明の比較的短い断片は、ペプチド合成装置を用いて合成することができる。さらに、望むのであれば、従来にないアミノ酸または化学合成したアミノ酸アナログを、断片配列に対して置換または付加の形で導入することができる。従来にないアミノ酸としては、通常のアミノ酸のD異性体、2,4-ジアミノブチル酸、a-アミノイソブチル酸、4-アミノブチル酸、Abu、2-アミノブチル酸、g-Abu、e-Abu、6-アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソブチル酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、ホモシトルリン、シスチン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、b-アラニン、フルオロアミノ酸、設計したアミノ酸(例えばb-メチルアミノ酸、Ca-メチルアミノ酸、Na-メチルアミノ酸)、あらゆるアミノ酸アナログなどが挙げられる。さらに、アミノ酸は、D(右旋性)でもL(左旋性)でもよい。
本発明には、例えばグリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護/阻止基による誘導体化、タンパク質分解による開裂、抗体分子その他の細胞リガンドへの結合などによって翻訳中または翻訳後にいろいろと修飾されたポリペプチド断片が含まれる。多数ある化学的修飾のどれも、公知の方法を利用して実現することができる。例えば、臭化シアノゲン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH4による特異的化学的開裂;アセチル化、ホルミル化、酸化、還元;ツニカマイシンの存在下での代謝性合成;などの方法がある。
本発明に含まれる追加の翻訳後修飾としては、例えば、N結合炭化水素鎖またはO結合炭化水素鎖のN末端またはC末端のプロセシング、アミノ酸骨格に対する化学物質の付着、N結合炭化水素鎖またはO結合炭化水素鎖の化学的修飾、原核生物宿主細胞が発現した結果としての。N末端メチオニン残基の付加または削除などが挙げられる。ポリペプチドの断片を検出可能な標識(例えば酵素標識、蛍光標識、同位体標識、アフィニティ標識)を用いて修飾し、ポリペプチドの検出と単離ができるようにすることもできる。
本発明のポリペプチドを化学的に修飾することで、ポリペプチドの溶解度、安定性、循環時間が改善されたり、免疫原性が低下したりといった付加的な利点がもたらされる誘導体も本発明により提供される。アメリカ合衆国特許第4,179,337号を参照のこと。誘導体化のための化学物質の部分は、水溶性ポリマーである例えばポリエチレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコール・コポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコールなどの中から選択することができる。本発明のポリペプチドは、分子内のランダムな位置または所定の位置を修飾することができ、付加される化学物質の部分は、1個、2個、3個またはそれ以上が可能である。
ポリマーの分子量は任意でよく、ポリマーは分岐していてもしていなくてもよい。ポリエチレングリコールの場合には、取り扱いと製造が容易になるようにするため、好ましい分子量は約1kDa〜約100kDaである(“約”は、ポリエチレングリコール調製物において、いくつかの分子が表記した分子量よりも大きかったり小さかったりすることを意味する)。目的とする治療プロファイル(例えば望む持続放出期間、何らかの生物学的活性がある場合の効果、取り扱いの容易さ、抗原性の程度または欠如、ポリエチレングリコールが治療用タンパク質またはそのアナログに対して及ぼす公知の他の効果)が何であるかに応じ、別のサイズを用いることもできる。
ポリエチレングリコール分子(または他の化学物質)は、ポリペプチドの機能または抗原ドメインに対する効果を考慮してそのポリペプチドに付着させる必要がある。当業者であれば、多数の付着法を利用することができる。それは例えばヨーロッパ特許第0,401,384号に記載されており、その内容が参考としてこの明細書に組み込まれているものとする。塩化トレシルを用いたGM-CSFのPegylationを報告しているMalik他、Exp. Hematol.、第20巻(8)、1028〜1035ページ、1992年9月も参照のこと。例えばポリエチレングリコールは、反応性の基(例えば遊離したアミノ基またはカルボキシル基)を通じてアミノ酸残基と共有結合させることができる。反応性の基は、活性化されたポリエチレングリコール分子が結合することのできる基である。遊離アミノ基を有するアミノ酸残基としては、リシン残基やN末端のアミノ酸残基があり;遊離カルボキシル基を有するアミノ酸残基としては、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、C末端のアミノ酸残基がある。スルフヒドリル基も、ポリエチレングリコール分子を付着させるための反応性の基として用いることができる。治療を目的とする場合に好ましいのは、アミノ基(例えばN末端またはリシン基)への付着である。
N末端が化学的に修飾されたタンパク質が特に望ましい可能性がある。本発明による組成物を説明するのにポリエチレングリコールを用いる場合には、多彩なポリエチレングリコール分子の中から(分子量、分岐などによって)、反応混合物中のポリエチレングリコール分子とタンパク質(ポリペプチド)の割合、行なわせるポリエチレングリコール化反応のタイプ、N末端がポリエチレングリコール化されたタンパク質だけを得るための方法を選択することができる。N末端がポリエチレングリコール化された調製物を得る(すなわち、必要な場合にはこの部分をモノポリエチレングリコール化された部分から分離する)方法は、N末端がポリエチレングリコール化された材料を、ポリエチレングリコール化されたタンパク質分子集団から精製するという方法にするとよい。選択的にN末端が化学的に修飾されたタンパク質は、還元性アルキル化によって得ることができる。この還元性アルキル化では、いろいろなタイプの第一級アミノ基の異なる反応性(リシン対N末端)を利用して、個々のタンパク質を誘導体化することができる。適切な反応条件のもとでカルボニル基を含むポリマーを用いることにより、タンパク質の実質的な選択的誘導体化がN末端において実現される。
実質的に同一のPLA2G1B核酸とPLA2G1Bポリペプチド
配列番号1のヌクレオチド配列と実質的に同一のPLA2G1Bヌクレオチド配列、ならびに配列番号2のポリペプチド配列と実質的に同一のPLA2G1Bポリペプチド配列が、それぞれこの明細書に含まれている。この明細書では、“実質的に同一の”という用語は、2つ以上の核酸またはポリペプチドが、1つ以上の同じヌクレオチド配列またはポリペプチド配列をそれぞれ共有していることを意味する。この明細書には、図1のPLA2G1Bヌクレオチド配列(配列番号1)または図2のPLA2G1Bのポリペプチド配列(配列番号2)と55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%(それぞれ変異が1%、2%、3%、4%以内であることがしばしばある)同一のヌクレオチド配列またはポリペプチド配列が含まれる。いくつかの実施態様では、配列番号1のヌクレオチド配列と実質的に同一のヌクレオチド配列は、配列番号1のヌクレオチド配列と90%以上同一か、あるいは配列番号2のポリペプチド配列と90%以上同一のポリペプチドをコードしている。2つの核酸が実質的に同一かどうかを調べるための1つのテスト方法は、その核酸相互間またはそのポリペプチド相互間でのヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の同一性を調べるというものである。
配列の同一性は、以下のようにして計算することがしばしばある。最適の比較ができるように配列をアラインメントする(例えば、最適なアラインメントを行なうために第1と第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することや、比較の目的で相同でない配列を捨てることができる)。比較のためにアラインメントする参照配列の長さは、時にその参照配列の30%以上、40%以上、50%以上であり、60%以上になることもしばしばあり、それ以上に70%、80%、90%、100%になることのほうが多い。次に、対応するヌクレオチドまたはポリペプチドの位置にあるヌクレオチドまたはアミノ酸を2つの配列で比較する。第1の配列の1つの位置が、第2の配列の対応する位置と同じヌクレオチドまたはアミノ酸で占められている場合には、そのヌクレオチドまたはアミノ酸は、その位置で同一と見なされる。2つの配列間での同一性(%)は、2つの配列の最適なアラインメントを得るために導入したギャップの数と、それぞれのギャップの長さを考慮したときに両方の配列が共有する一致した位置の数の関数である。
配列の比較と、2つの配列の同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて実現することができる。2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列の同一性は、E. MeyersとW. Miller、CABIOS、第4巻、11〜17ページ、1989年のアルゴリズムを用いて明らかにすることができる。このアルゴリズムはALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれており、そこではPAM120重み付き残基表が用いられ、ギャップ長のペナルティは12、ギャップのペナルティは4にされている。2つのアミノ酸配列の同一性は、NeedlemanとWunsch(J. Mol. Biol.、第48巻、444〜453ページ、1970年)のアルゴリズムを用いて明らかにすることもできる。このアルゴリズムはGCGソフトウエア・パッケージ(httpアドレスwww.gcg.comで入手できる)のGAPプログラムに組み込まれており、そこではBlossum62マトリックスまたはPAM250マトリックスが用いられ、ギャップの重みは16、14、12、10、8、6、4のいずれか、長さの重みは1、2、3、4、5、6のいずれかにされている。2つのヌクレオチド配列間の同一性は、GCGソフトウエア・パッケージ(httpアドレスwww.gcg.comで入手できる)のGAPプログラムを用いることによって明らかにすることができる。そこではNWSgapdna.CMPマトリックスが用いられ、ギャップの重みは40、50、60、70、80のいずれか、長さの重みは1、2、3、4、5、6のいずれかにされる。しばしば用いられる一群のパラメータは、Blossum62スコアリング・マトリックスにおいてギャップの空きのペナルティを12、ギャップ延長のペナルティを4、フレームシフト・ギャップのペナルティを5にするというものである。
2つの核酸が実質的に同じであるかどうかを調べる別の方法は、1つの核酸と相同なポリヌクレオチドがストリンジェントな条件下で他方の核酸とハイブリダイズするかどうかを評価するというものである。この明細書では、“ストリンジェントな条件”という表現は、ハイブリダイゼーションと洗浄の条件を意味する。ストリンジェントな条件は当業者には公知であり、『分子生物学における最新プロトコル』、ジョン・ワイリー&サンズ社、ニューヨーク、6.3.1〜6.3.6、1989年に見いだすことができる。水性法と非水性法がこの参考文献に記載されており、いずれの方法も利用することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の一例は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)の中で約45℃にてハイブリダイズさせた後、50℃にて0.2×SSC、0.1%SDSで1回以上洗浄するというものである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の一例は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)の中で約45℃にてハイブリダイズさせた後、55℃にて0.2×SSC、0.1%SDSで1回以上洗浄するというものである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件のさらに別の一例は、約45℃にて6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)の中でハイブリダイズさせた後、60℃にて0.2×SSC、0.1%SDSで1回以上洗浄するというものである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件のさらに別の一例は、約45℃にて6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)の中でハイブリダイズさせた後、65℃にて0.2×SSC、0.1%SDSで1回以上洗浄するというものであることがしばしばある。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、0.5Mのリン酸ナトリウム、7%SDSの中で65℃にてハイブリダイズさせた後、65℃にて0.2×SSC、1%SDSで1回以上洗浄するという条件であることのほうが多い。
配列番号1と実質的に同一のヌクレオチド配列の一例は、ヌクレオチド配列は異なるが、それでも配列番号2のポリペプチド配列をコードしているヌクレオチド配列である。別の例は、配列番号2のポリペプチド配列と70%以上、時に75%、80%、85%以上、しばしば90%、95%以上一致したポリペプチド配列を含むポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列である。
PLA2G1Bヌクレオチド配列とPLA2G1Bポリペプチド配列を“クエリー配列”として用いて公共データベースを検索し、例えば同じファミリーの他の要素または関連する配列を同定することができる。このような検索は、Altschulら(J. Mol. Biol.、第215巻、403〜410ページ、1990年)のNBLASTプログラムとXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて実施することができる。NBLASTプログラムをスコア=100、単語の長さ=12にして用いてBLASTヌクレオチド検索を実施することで、PLA2G1B核酸分子と相同なヌクレオチド配列が得られる。XBLASTプログラムをスコア=50、単語の長さ=3にして用いてBLASTポリペプチド検索を実施することで、PLA2G1Bポリペプチドと相同なアミノ酸配列が得られる。比較を目的としてギャップ付きのアラインメントを得るためには、Altschul他、Nucleic Acids Res.、第25巻(17)、3389〜3402ページ、1997年に記載されているように、ギャップ付きBLASTを用いることができる。BLASTプログラムとギャップ付きBLASTプログラムを用いるときには、それぞれのプログラム(例えばXBLASTとNBLAST)のデフォルト・パラメータを使用できる(httpアドレス、www.ncbi.nlm.nih.govを参照のこと)。
配列番号1のヌクレオチド配列と実質的に同一の核酸は、配列のアラインメントを行なったとき、この明細書に記載したのと同等な位置(例えば配列番号1の位置7328)にある多型部位を含んでいる可能性がある。例えばこの明細書に記載したアラインメントの手続きを利用すると、配列番号1の配列と実質的に同一の配列に含まれるSNPを、配列番号1の中でSNPの位置にあるヌクレオチドと同一の(すなわちアラインメントされる)ヌクレオチドの位置に同定することができる。また、多型変異が挿入または欠失である場合には、参照配列にヌクレオチド配列が挿入されたり参照配列からヌクレオチド配列が欠失したりすることにより、そのヌクレオチド配列内の他の多型部位の相対的な位置が変化する可能性がある。
実質的に同じPLA2G1Bヌクレオチド配列ならびにPLA2G1Bポリペプチド配列としては、天然に存在するもの(例えば対立遺伝子変異体(同じ遺伝子座)、スプライス変異体、ホモログ(異なる遺伝子座)、オルトログ(異なる生物))が挙げられるが、天然には存在しないものでもよい。天然には存在しない変異体は、突然変異誘発技術(その技術は、ポリヌクレオチド、細胞、生物に適用される)によって作り出すことができる。変異体は、ヌクレオチドの置換、欠失、転位、挿入を含むことができる。変異体は、コード領域と非コード領域のいずれか、あるいは両方に起こる可能性がある。変異により、(コードされた産物と比較したとき)保存されたアミノ酸と保存されていないアミノ酸の両方で置換が起こる可能性がある。オルトログ、ホモログ、対立遺伝子変異体、スプライス変異体は、公知の方法で同定することができる。これら変異体は、通常は、配列番号2に示したアミノ酸配列と50%、約55%以上、しばしば約70〜75%以上、より頻繁には約80〜85%以上、一般には約90〜95%以上同一のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を含んでいる。このような核酸分子は、ストリンジェントな条件下で配列番号1に示したヌクレオチド配列またはその断片とハイブリダイズできるため、容易に同定することが可能である。PLA2G1Bヌクレオチド配列のオルトログ、ホモログ、対立遺伝子変異体に対応する核酸分子は、その配列を、PLA2G1Bヌクレオチド配列またはその変異体と同じ染色体または遺伝子座にマッピングすることによって同定することもできる。
また、実質的に同じPLA2G1Bヌクレオチド配列は、特定の発現系においてPLA2G1Bポリペプチドまたはポリペプチド変異体の発現を増大させるために天然の配列と比べて変化させたコドンを含むことができる。例えば核酸としては、1個以上のコドンが変化した核酸が可能である。細菌(例えば大腸菌)、酵母(例えばサッカロミセス・セレビジエ)、ヒト(例えば293細胞)、昆虫、囓歯類(例えばハムスター)の細胞での発現を最適化するため、コドンの10%以上、または20%以上を変えてあることもしばしばある。
脂肪の蓄積による疾患の予後予測法と診断法
脂肪の蓄積とそれに関係する疾患(例えば肥満やNIDDM)、ならびに痩せに関して予後予測と診断を行なう方法が、この明細書に提供されている。この方法は、対象から採取したサンプル中のPLA2G1Bヌクレオチド配列またはそれと実質的に同一の配列に1個以上の多型変異が存在しているかどうかを検出する操作を含んでいる。この明細書に記載した多型変異の存在は、痩せ、または脂肪の蓄積、または脂肪の蓄積に関係する1つ以上の疾患(例えば肥満やNIDDM)への傾向があることを示している。脂肪が蓄積しやすい傾向を明らかにするとは、ある個人が脂肪を蓄積させるリスクが大きいかどうか、あるいはそのリスクが中程度であるかどうかを明らかにすることを意味する。痩せの傾向を明らかにするとは、脂肪を蓄積させるリスクが小さいことを意味する。NIDDMの傾向を明らかにするとは、ある個人にNIDDMのリスクがあるかどうかを明らかにすることを意味する。
そこで、対象に脂肪を蓄積させやすい傾向と脂肪の蓄積に関係する疾患(例えば肥満やNIDDM)があるかどうかを検出する方法が、この明細書に記載されている。この方法は、対象から採取した核酸サンプルに含まれていて、(a)配列番号1のヌクレオチド配列;(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列;(c)配列番号2のアミノ酸配列と90%同一のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列、または配列番号1のヌクレオチド配列と約90%以上同一のヌクレオチド配列;(d)ヌクレオチド配列(a)、(b)、(c)いずれかの断片で、多型部位を含むもの;からなるグループの中から選択したポリヌクレオチド配列を含むPLA2G1Bヌクレオチド配列の多型部位に、脂肪の蓄積に関係する多型変異が存在しているかどうかを検出する操作を含んでおり、多型変異の存在が、その対象が脂肪を蓄積させる傾向を持つことを示している。いくつかの実施態様では、位置7328と9182の多型変異を検出することにより、脂肪を蓄積させる傾向があることを明らかにし、位置7256の多型変異を検出することにより、NIDDMになる傾向を明らかにし、これらの位置と連鎖不平衡にある位置の多型変異を検出することにより、脂肪を蓄積させる傾向とNIDDMになる傾向を明らかにする。
予後予測テストからの結果を他のテストの結果と組み合わせると、脂肪の蓄積に関係する疾患(例えばNIDDM)を診断することができる。例えば予後予測テストの結果を集め、明らかになった脂肪を蓄積させる傾向またはNIDDMになる傾向に基づいて、患者のサンプルを順序づけることができる。分析の結果を利用すると、脂肪の蓄積に関係した疾患(例えばNIDDM)を診断することができる。脂肪蓄積の診断法は、集団を、脂肪の蓄積に関係した疾患または症状の進行状況が異なる小集団に分類するという、予後予測法を生み出すために利用された研究から開発することもできる。
脂肪の蓄積とそれに関係する疾患(例えば肥満やNIDDM)、ならびに痩せへの傾向は、確率(例えばオッズ比、%、リスク因子)で表現されることがある。傾向は、この明細書に記載した1つ以上の多型変異の存在または不在に基づいており、傾向の一部はテストする個人の表現型にも基づいている可能性がある。患者のデータに基づいて傾向を計算する方法はよく知られている(例えばAgresti、『カテゴリー式データ分析』、第2版、2002年、ワイリー社を参照のこと)。対立遺伝子表現型と遺伝子表現型の分析をこの明細書に示した集団とは別の集団で実施し、予後予測法の予測能力を増大させることができる。こうした追加の分析は、この明細書に具体的に示した手続きを考慮して実行するが、同じ多型変異に基づいていても、追加の多型変異に基づいていてもよい。
核酸サンプルは、一般に、対象から採取した生物学的サンプルから単離される。例えば核酸は、血液、唾液、痰、尿、細胞廃棄物、生検組織から単離することができる。核酸サンプルは、標準的な方法(例えば実施例2に記載した方法)を利用して生物学的サンプルから単離することができる。この明細書では、“対象”という用語は、主にヒトを指すが、それ以外の哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、有蹄類(例えばウシ、ヒツジ、ウマ))のことも意味する。対象には、鳥類(例えばニワトリやシチメンチョウ)、爬虫類、魚類(例えばサケ)も含まれる。というのも、この明細書に記載した実施態様は、これらの生物のうちの任意のものから単離した核酸サンプルに適用できるからである。核酸サンプルを対象から単離した後、それを、多型変異の存在を明らかにする方法でそのまま用いること、あるいはサンプルを単離してある期間にわたって保管(例えば冷凍)した後に分析することができる。
多型変異の存在または不在は、核酸サンプル中の互いに相補的な染色体の一方または両方を用いて調べる。各染色体のコピーを有する対象から採取した核酸サンプル中の互いに相補的な両方の染色体に多型変異が存在しているかどうかを明らかにすることは、多型に関する個人の接合性(すなわちその人が多型に関してホモであるかヘテロであるか)を明らかにするのに役立つ。オリゴヌクレオチドに基づいた任意の診断法を利用して、サンプルに多型が存在しているかどうかを明らかにすることができる。利用できるのは、例えば、プライマー伸長法、リガーゼ配列決定法(例えばアメリカ合衆国特許第5,679,524号、第5,952,174号、WO 01/27326)、ミスマッチ配列決定法(例えばアメリカ合衆国特許第5,851,770号、第5,958,692号、第6,110,684号、第6,183,958号)、マイクロアレイ配列決定法、制限断片長多型(RFLP)、一本鎖コンホメーション多型検出(SSCP)(例えばアメリカ合衆国特許第5,891,625号、第6,013,499号)、PCRをベースとしたアッセイ(例えばTAQMAN(登録商標)PCRシステム(アプライド・バイオシステムズ社)、ヌクレオチド・シークエンシング法である。
オリゴヌクレオチド伸長法は、一般に、多型を含む核酸サンプルからの1つの領域を増幅するため、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法または他の核酸増幅法で用いる一対のオリゴヌクレオチド・プライマーを提供する操作を含んでいる。1つのオリゴヌクレオチド・プライマーは、多型の3'領域と相補的であり、他方のオリゴヌクレオチド・プライマーは、多型の5'領域と相補的である。PCR用の一対のプライマーは、例えばアメリカ合衆国特許第4,683,195号、第4,683,202号、第4,965,188号、第5,656,493号、第5,998,143号、第6,140,054号、WO 01/27327、WO 01/27329に開示されている方法で使用できる。PCR用の一対のプライマーは、PCRを実施する市販のあらゆる機械(例えばアプライド・バイオシステムズ社から入手できるすべてのGENEAMP(登録商標)システム)で使用することもできる。当業者であれば、難しい実験を行なうことなく、容易に入手できる知識を利用し、配列番号1のヌクレオチド配列に基づいてオリゴヌクレオチド・プライマーを設計することもできよう。
多型に隣接した増幅断片にハイブリダイズする伸長オリゴヌクレオチドも提供される。この明細書では、“隣接した”という表現は、伸長オリゴヌクレオチドの3'末端を意味する。それは、多型の5'末端からの1個のヌクレオチドであることがしばしばある。それは、伸長オリゴヌクレオチドが核酸とハイブリダイズする場合には、核酸中の多型部位の5'末端からの2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個のヌクレオチドであることもある。次に、伸長オリゴヌクレオチドをオリゴヌクレオチド1個以上伸長させ、その伸長オリゴヌクレオチドに付加されたヌクレオチドの数および/またはタイプから、多型が存在しているかどうかを明らかにする。オリゴヌクレオチド伸長法は、例えば、アメリカ合衆国特許第4,656,127号、第4,851,331号、第5,679,524号、第5,834,189号、第5,876,934号、第5,908,755号、第5,912,118号、第5,976,802号、第5,981,186号、第6,004,744号、第6,013,431号、第6,017,702号、第6,046,005号、第6,087,095号、第6,210,891号、WO 01/20039に開示されている。質量分析を利用したオリゴヌクレオチド伸長法は、例えば、アメリカ合衆国特許第5,547,835号、第5,605,798号、第5,691,141号、第5,849,542号、第5,869,242号、第5,928,906号、第6,043,031号、第6,194,144号に記載されている。しばしば利用される1つの方法が、この明細書の実施例2に記載されている。
マイクロアレイを利用して多型が核酸サンプル中に存在しているかどうかを調べることができる。マイクロアレイは、この明細書に記載した任意のオリゴヌクレオチドを含むことができる。診断の用途に適したオリゴヌクレオチド・マイクロアレイを製造して利用する方法は、アメリカ合衆国特許第5,492,806号、第5,525,464号、第5,589,330号、第5,695,940号、第5,849,483号、第6,018,041号、第6,045,996号、第6,136,541号、第6,142,681号、第6,156,501号、第6,197,506号、第6,223,127号、第6,225,625号、第6,229,911号、第6,239,273号、WO 00/52625、WO 01/25485、WO 01/29259に開示されている。マイクロアレイは一般に固体支持体を備えており、オリゴヌクレオチドは、共有結合によって、あるいは共有結合でない相互作用によってこの固体支持体に結合させることができる。オリゴヌクレオチドは、直接に、あるいはスペーサー分子を介してこの固体支持体に結合させることもできる。マイクロアレイは、配列番号1の多型部位(例えば位置7256、および/または7328、および/または9182)と相補的な1つ以上のオリゴヌクレオチドを含むことができる。
キットを用いて多型が核酸サンプル中に存在しているかどうかを調べることもできる。キットは、配列番号1またはそれと実質的に同じ配列の断片で多型部位が含まれているものを増幅するのに役立つ一対以上のオリゴヌクレオチド・プライマーを含んでいる。キットは、重合剤(例えばアメリカ合衆国特許第4,889,818号または第6,077,664号に開示されているような熱安定性核酸ポリメラーゼ)を含んでいることもある。キットは、核酸サンプル中にあって多型部位に隣接しているPLA2G1B核酸とハイブリダイズする伸長オリゴヌクレオチドを含んでいることもしばしばある。キットに伸長オリゴヌクレオチドが含まれている場合には、鎖伸長ヌクレオチド(例えばdATP、dTTP、dGTP、dCTP、dITPや、dATP、dTTP、dGTP、dCTP、dITPのアナログ(ただしこのようなアナログが含まれるのは、そのアナログが熱安定性核酸ポリメラーゼの基質になっていて、伸長オリゴヌクレオチドから伸長した核酸鎖に組み込めるという条件が満たされる場合に限る))もそのキットに含まれていることがしばしばある。鎖伸長ヌクレオチドに加え、1個以上の鎖終結ヌクレオチド(例えばddATP、ddTTP、ddGTP、ddCTPなど)も含まれることがある。一実施態様では、キットは、オリゴヌクレオチド・プライマーを一対以上と、重合剤と、鎖伸長ヌクレオチドと、少なくとも1つの伸長オリゴヌクレオチドと、1つ以上の鎖終結ヌクレオチドを含んでいる。キットは、必要に応じ、緩衝液、バイアル、マイクロタイタープレート、使用説明書も含んでいる。
1個の多型変異または2個以上の多型変異の組み合わせがサンプルのPLA2G1B核酸に存在していることが明らかになった場合、それは、脂肪の蓄積、痩せ、NIDDMへの傾向を示していることがしばしばある。例えばPLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7328にアデニンが存在していることは、痩せ、または脂肪が蓄積するリスクが小さいことと関係している。特に、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7328にグアニンが存在しているホモの対象は、脂肪が蓄積するリスクがより大きく、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7328にグアニンとアデニンが存在しているヘテロの対象は、脂肪の蓄積が増大するリスクが中程度であり、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7328にアデニンが存在しているホモの対象は、脂肪が蓄積するリスクがより小さい。同様に、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置7328にシトシンが存在しているホモの対象は、脂肪の蓄積が増大するリスクがより大きく、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置7328にシトシンとチミンが存在しているヘテロの対象は、脂肪の蓄積が増大するリスクが中程度であり、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置7328にチミンが存在しているホモの対象は、脂肪が蓄積するリスクがより小さい。
PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置9182にチミンが存在していることは、脂肪が蓄積するリスクが大きいことと関係しており、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置9182にグアニンが存在していることは、痩せ、または脂肪が蓄積するリスクが小さいことと関係している。特に、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置9182にチミンが存在しているホモの対象は、脂肪が蓄積するリスクがより大きく、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置9182にチミンとグアニンが存在しているヘテロの対象は、脂肪の蓄積が増大するリスクが中程度であり、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置9182にグアニンが存在しているホモの対象は、脂肪が蓄積するリスクが小さい。同様に、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置9182にアデニンが存在しているホモの対象は、脂肪が蓄積するリスクがより大きく、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置9182にアデニンとシトシンが存在しているヘテロの対象は、脂肪の蓄積が増大するリスクが中程度であり、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置9182にグアニンが存在しているホモの対象は、脂肪が蓄積するリスクがより小さい。
また、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖(配列番号1)中の位置4050、7256、7328、9182それぞれにTTAGとGTAGというハプロタイプが存在していることは、痩せ、または脂肪が蓄積するリスクが小さいことと関係している。同様に、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置4050、7256、7328、9182それぞれにAATCとCATCというハプロタイプが存在していることは、痩せと関係している。
PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7256にシトシンが存在していることは、NIDDMのリスクが大きいことと関係しており、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7256にチミンが存在していることは、NIDDMのリスクが小さいことと関係している。特に、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7256にシトシンが存在しているホモの対象は、NIDDMのリスクがより大きく、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7256にシトシンとチミンが存在しているヘテロの対象は、NIDDMのリスクが中程度であり、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖中の配列番号1の位置7256にチミンが存在しているホモの対象は、NIDDMのリスクが小さい。同様に、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置7256にグアニンが存在しているホモの対象は、NIDDMのリスクがより大きく、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置7256にグアニンとアデニンが存在しているホモの対象は、NIDDMのリスクが中程度であり、PLA2G1Bヌクレオチド配列のセンス鎖と相補的な鎖の位置7256にアデニンが存在しているホモの対象は、NIDDMのリスクがより小さい。
予後予測結果および診断結果を応用した薬理ゲノミクスの方法
薬理ゲノミクスは、対象の遺伝子型に応じて治療法をオーダーメイドする操作を含む分野である。というのも、個々の治療法は対象の遺伝子型に応じて異なる効果を及ぼす可能性があるからである。医師は、この明細書に記載した予後予測テストの結果に基づき、関連情報と予防法または治療法の利益を受けると思われる対象にその関連情報と予防法または治療法を適用し、利益を受けない(例えばその治療法が治療効果を持たない、および/または対象が好ましくない副作用を受ける)と思われる対象にはその関連情報と予防法または治療法を適用することを避けることができる。
例えば治療薬候補が優性対立遺伝子と大きな相互作用をし、劣性対立遺伝子と比較的弱い相互作用をする(例えば相互作用の大きさの差が大きい)場合には、そのような治療薬は、その劣性対立遺伝子に関してホモである遺伝子型の対象には投与せず、その劣性対立遺伝子に関してヘテロである遺伝子型の対象には場合によっては投与しないことになろう。別の例として、治療薬候補を優性対立遺伝子に関してホモである対象に投与したときには大きな毒性を示さないが、劣性対立遺伝子に関してヘテロまたはホモである対象に投与したときには相対的に毒性を示す場合には、その治療薬候補は、その劣性対立遺伝子に関してヘテロまたはホモである遺伝子型の対象には一般に投与されない。
この明細書に記載した予後予測法は、脂肪の蓄積に関係する疾患(例えば肥満やNIDDM)の予防、緩和、治療を行なうための薬理ゲノミクス的方法に適用することができる。例えばある人の核酸サンプルに対してこの明細書に記載した予後予測テストを行なうことができる。肥満またはNIDDMの大きなリスクと関係している1つ以上の多型変異が対象に見つかった場合、肥満またはNIDDMを予防または治療するための情報および/または肥満またはNIDDMを治療するための1種類以上の方法をその対象に処方することができる。例えば配列番号1の位置7256がシトシンである患者には、NIDDMになる確率が最少になるように設計した予防法を処方することがしばしばある。
いくつかの実施態様では、肥満またはNIDDMになるリスクをこの明細書に記載した予後予測法で評価した結果に基づき、治療法を、大きな利益を受けるであろう人に対して特に処方および/または適用する。したがって、ある対象が肥満またはNIDDMになる傾向を明らかにした後、その傾向を持つことが明らかにされた人に対して治療法または予防法を処方する方法が提供される。したがっていくつかの実施態様は、対象の脂肪の蓄積、肥満、NIDDMのいずれかを減らす方法であって、対象から採取した核酸サンプル中にあって(a)配列番号1のポリヌクレオチド配列;(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列;(c)配列番号2のアミノ酸配列と90%同一のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列;(d)ポリヌクレオチド配列(a)、(b)、(c)いずれかの断片;からなるグループの中から選択したポリヌクレオチド配列を含むPLA2G1Bヌクレオチド配列中に脂肪の蓄積、肥満、NIDDMのいずれかに関係する多型変異が存在しているか不在であるかを検出し;PLA2G1Bヌクレオチド配列中に脂肪の減少に関係する多型変異が存在していることが検出された場合には、そのサンプルの出所である対象に治療法を処方または適用する操作を含む方法に関する。この方法では、傾向を他のテスト結果と組み合わせて利用し、脂肪の蓄積に関係する疾患(例えば肥満、代謝疾患(例えばNIDDM)、心血管疾患(例えば心筋梗塞))の診断を行なう。
治療法は、あるときは脂肪の蓄積に関係する疾患の予防(すなわちこの方法を処方または適用して脂肪の蓄積に関係する疾患が起こったり進行したりする確率を低下させる)であり、あるときは治療であり、あるときは遅延、緩和、停止である。脂肪の蓄積に関係する疾患を緩和または予防するための公知のあらゆる予防法または治療法が処方および/または適用される。例えばこの治療法は、脂肪の蓄積を減らす薬であること、あるいはそのような薬を投与する操作を含むことがある。薬としては、例えば、食欲抑制剤(例えばフェンテルミン、アジペックス、ボントリル、ジドレックス、イオナミン、メリディア、フェンジメトラジン、テニュエート、シブトラミン)、リパーゼ阻害剤(例えばオルリスタット)、ホスホリパーゼ阻害剤、PLA2G1B核酸、PLA2G1Bポリペプチド、PLA2G1B核酸またはPLA2G1Bポリペプチドと相互作用する後述の分子などが挙げられる。別の実施態様では、治療は、運動療法、食事指導、食事療法(例えば低脂肪ダイエットおよび/またはあらかじめ決められた間隔でする食事)である、あるいはそのような方法を含んでいる。食事療法には、必要に応じて食事指導、心理学的カウンセリング、心理療法を組み合わせ、時には心理療法または精神予防法(例えば抗鬱療法または抗不安療法)も組み合わせる。糖尿病を管理するための別の実施態様では、対象は、血糖値のレベルを定期的にモニターする方法、食事指導、血糖値のレベルを管理するための食事療法、血糖値を変化させるための薬物療法が処方されることがある。血糖値を変化させるための薬物療法の具体例は、インスリンの定期的な投与(例えば注射、ポンプ、吸入スプレー、鼻腔スプレー、インスリン・パッチ、インスリン錠剤)と、低血糖剤(例えばグリブリド、レパグリニド)、デンプン・ブロッカー(例えばアカルボース)、肝臓グルコース調節剤(例えばメトフォルミン)、インスリン増感剤(例えばロシグリタゾンまたはピオグリタゾン)の投与である。各治療法または治療法の組み合わせの処方および/または適用は、対象の年齢と、生理学的、医学的、心理学的な状態に依存することがしばしばある。
一実施態様では、この明細書に記載した薬理ゲノミクス法を、年齢がほぼ40歳以上でまだ更年期に入っていない女性、更年期に入った女性、更年期後の女性に適用することができる。脂肪が蓄積するリスクが大きいことが明らかになった女性は、ホルモン補充療法(HRT)を処方される。多くのHRT法が存在しており、その中には、エストロゲン(例えばプルマリン(登録商標))、プロゲステロン(例えばプロベラ(登録商標))、アンドロゲン(例えばテストステロン)、エストロゲンとプロゲステロンの組み合わせ、エストロゲンとアンドロゲン(例えばエストラテスト(登録商標))の組み合わせ、成長ホルモン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、DHEAの硫酸エステル、DHEAとDHEA硫酸エステルの組み合わせを定期的に投与する方法がある。例えば選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)(例えばラロキシフェン、タモキシフェン)を処方することもできる。脂肪が蓄積するリスクが大きいと診断された女性は、エストロゲンとプロゲステロンを組み合わせる代わりに、エストロゲン補充療法(ERT)またはSERM療法を処方されることもある。というのも、ERTと脂肪の蓄積の少なさの間には関係があり、脂肪の蓄積の多さとプロゲステロン補充療法の間には関係があるからである。
別の実施態様では、薬理ゲノミクス法を、避妊薬を使用している女性、または避妊薬の使用を考えている女性に適用することができる。というのも、避妊薬は女性の脂肪の蓄積を増大させることがわかっているからである。この実施態様は、思春期前の女性、思春期の女性、思春期後の女性、更年期前の女性に適用されることがしばしばある。多くの経口避妊薬、中でもエストロゲンの含有量が多いものは、女性の脂肪の蓄積を増大させることがわかっている。この明細書に記載した方法で脂肪蓄積のリスクが大きいことがわかった女性は、経口避妊薬を服用し始めないよう、あるいは経口避妊薬を止めるようアドバイスされることがしばしばある。あるいは脂肪蓄積のリスクが大きいことがわかった女性は、市販されている経口避妊薬よりもエストロゲンの含有量が少ない経口避妊薬を用いるようアドバイスされることもある(例えばアレッセ(登録商標)、レブライト(登録商標)、ロエストリン-Fe(登録商標)、ミルセット(登録商標)が、エストロゲンの含有量が少ない避妊薬の具体例である)。
肥満またはNIDDMの治療法は進化し改善され続けているため、脂肪の蓄積に関係した疾患を治療する際のゴールは、臨床的徴候(例えば耐糖能障害)が初めて現われる前に介入することである。したがって肥満またはNIDDMに対する感受性に関係する遺伝子マーカーは、肥満またはNIDDMの初期診断、予防、治療に有効であることがわかる。
肥満またはNIDDMの予防または治療に関する情報は、その情報を必要としている対象(例えば肥満またはNIDDMが進行するリスクのある対象、または肥満またはNIDDMの初期段階にある対象)をもっぱらターゲットにするとよいため、この明細書では、対象の肥満またはNIDDMが進行するリスクを予防または低下させる方法であって、(a)対象から採取した核酸サンプルに含まれるヌクレオチド配列の多型部位に肥満またはNIDDMに関係する多型変異が存在しているか不在であるかを検出し;(b)この多型変異の存在が肥満またはNIDDMになる傾向を示していることに基づいて肥満またはNIDDMの傾向を持つ対象を明らかにし;(c)このような傾向が明らかにされた場合に、その対象に対し、肥満またはNIDDMを予防または減らす方法または製品、あるいは肥満またはNIDDMの発生を遅延させる方法または製品に関する情報を提供する操作を含む方法が提供される。全人口のうちで遺伝的にある疾患または症状になりやすい集団が存在していることに基づき、その集団に対して情報提供または広告を行なう方法であって、(a)対象から採取した核酸サンプルに含まれるヌクレオチド配列の多型部位に肥満またはNIDDMに関係する多型変異が存在しているか不在であるかを検出し;(b)肥満またはNIDDMと関係する多型変異を持つ対象の集団を明らかにし;(c)その集団に対してだけ、肥満またはNIDDMの発生の予防または遅延に役立てるために取得、消費、適用することのできる特定の製品に関する情報を提供する操作を含む方法も提供される。
薬理ゲノミクス法を利用し、肥満またはNIDDMの治療法または薬に対する反応を分析したり予測したりすることもできる。例えば薬理ゲノミクス分析により、特定の薬を用いた肥満またはNIDDMの治療にある人がプラスの反応を示すらしいことがわかったのであれば、その薬をその人に投与するとよい。逆に、分析により、特定の薬を用いた治療に対してある人がマイナスの反応を示す場合には、別の治療法を処方するとよい。マイナスの反応は、効果的な応答の欠如または有害な副作用の存在と定義することができる。治療法に対する反応は、背景となる研究として、対象を以下に示すいずれかの遺伝子型の集団に分類する研究を行なうことによって予測できる。その集団とは、遺伝子型によってある治療法に対して好ましい反応をする集団、ある治療法に対して有意な反応をしない集団、ある治療法に対して好ましくない反応をする(例えば1つ以上の副作用を示す)集団である。これらの集団は例として示したのであり、他の集団や小集団を分析することもできる。分析の結果に基づいて対象の遺伝子型が明らかにされると、ある治療法に対して好ましい反応をするか、それともある治療法に対して有意な反応をしないか、それともある治療法に対して好ましくない反応をするかが予測される。
この明細書に記載した予後予測テストは、医薬臨床試験にも適用することができる。肥満またはNIDDMを治療するための薬剤に対する反応を示す1つ以上の多型変異、または肥満またはNIDDMを治療するための薬剤に対する副作用を示す1つ以上の多型変異は、この明細書に記載した方法を利用して同定することができる。その後、その薬剤に対して好ましい反応をすることが最も確実な人を明らかにするとともに、副作用を示すと考えられる人を除外することで、そのような薬剤の臨床試験への潜在的な参加者をスクリーニングすることができる。このようにすると、プラスの反応を示さないと思われる人を含めることによる測定の有効性の低下なしに、しかも起こって欲しくない安全性の問題というリスクを冒すことなしに、薬剤に対してプラスの反応をする個人における薬物療法の有効性を測定することができる。
したがって別の実施態様は、ある人を治療法または薬剤の臨床試験に含めるかどうかを選択する方法であって、(a)ある個人から核酸サンプルを取得し;(b)治療法または薬剤に対するプラスの反応と関係する多型変異が何であるか、あるいは治療または薬剤に対するマイナスの反応と関係する少なくとも1つの多型変異が何であるかを核酸サンプル中で明らかにし;(c)核酸サンプルが、治療法または薬剤に対するプラスの反応と関係する多型変異を含んでいる場合、あるいは核酸サンプルが、治療法または薬剤に対するマイナスの反応と関係する多型変異を欠いている場合には、その個人を臨床試験に含める操作を含む方法である。さらに、ある人を治療法または薬剤の臨床試験に含めるかどうかを選択する本発明の方法には、この明細書に記載した以外のいかなる制約もない方法、あるいは以下に示す方法が、単独で、あるいは任意に組み合わせた形で含まれる。多型変異は、(i)配列番号1のポリヌクレオチド配列;(ii)配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のポリヌクレオチド配列;(iii)配列番号1のヌクレオチド配列によってコードされているアミノ酸配列と同じまたは90%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列;(iv)ポリヌクレオチド配列(i)、(ii)、(iii)いずれかの断片で多型部位を含むもの;からなるグループの中から個別に、あるいは組み合わせて選択した配列の中に存在することができる。上記のステップ(c)は、核酸サンプルが、治療法または薬剤に対するプラスの反応と関係する多型変異を含んでいる場合、あるいは核酸サンプルが、治療法または薬剤に対するマイナスの反応と関係する多型変異を欠いている場合に、必要に応じて薬剤または治療法を個人に適用するステップを含んでいる。
この明細書では、診断/予後予測テストの供給者と消費される製品の供給者を結び付ける方法であって、(a)診断/予後予測テストの供給者が、対象から採取した核酸サンプル中のヌクレオチド配列の多型部位に、肥満またはNIDDMと関係する多型変異が存在しているかどうかを検出し;(b)その診断/予後予測テストの供給者が、その多型が肥満またはNIDDMと関係している対象からなる小集団を同定し;(c)その診断/予後予測テストの供給者が、その小集団に、肥満またはNIDDMの発生の予防または遅延を助けるために取得できて消費または適用することが可能な特定の製品についての情報を提供し;(d)その診断/予後予測テストの供給者が上記ステップ(c)で対象に情報を提供するごとに、消費される製品の供給者がその診断/予後予測テストの供給者に対して料金を支払う操作を含む方法も提供される。
脂肪の蓄積を減少させる治療薬候補を同定する方法と、関連疾患を治療する方法
NIDDMを治療するための現在の方法は、効果と寛容性が限られている一方で、メカニズムがわかっている大きな副作用(例えば体重増加や低血糖症)がある。肥満やインスリン抵抗性などの隠れた欠点に十分に対処できる治療法は数少ない。そのため新しい方法が熱望されている(Moller D.、Nature、第414巻、821〜827ページ、2001年)。現在ある治療法の大多数は、明確な分子標的なしに、あるいは疾患の原因に関する確固とした理解さえなしに開発された。同じことが肥満の治療にも当てはまり、効果の持続期間が限られており、多くの副作用がある。したがって、肥満および/または糖尿病の進行に関係する生化学的経路を標的とする治療薬候補を同定する方法が必要とされている。
この明細書には、脂肪の蓄積を減らす、および/またはNIDDMの進行を遅らせる治療薬候補を同定する方法が記載されている。この方法は、システム中でテスト分子を、PLA2G1B核酸、核酸変異体、ポリペプチド、ポリペプチド変異体のいずれかと接触させる操作を含んでいる。核酸は、配列番号1で表わされるPLA2G1Bヌクレオチド配列であることがしばしばあり、時には、配列番号1のヌクレオチド配列と実質的に同一のヌクレオチド配列またはその断片である。PLA2G1Bポリペプチドは、これら核酸のうちの任意のものによってコードされているポリペプチドである。この方法は、テスト分子とPLA2G1B核酸またはPLA2G1Bポリペプチドの間の相互作用が存在しているかどうかを調べる操作も含んでいる。そしてテスト分子とPLA2G1B核酸またはPLA2G1Bポリペプチドの間の相互作用が存在している場合には、そのテスト分子が、脂肪減少またはNIDDMのための治療薬候補となる。
この明細書では、“テスト分子”および“治療薬候補”という用語は、PLA2G1B核酸の転写と翻訳を調節し、PLA2G1Bポリペプチドの発現と活性を変化させる調節剤を意味する。この明細書では、“調節剤”という用語は、PLA2G1B DNAの複製および/またはDNAのプロセシング(例えばメチル化)、PLA2G1B RNAの転写および/またはRNAのプロセシング(例えばイントロン配列の除去および/または核からの転位)、PLA2G1Bポリペプチドの産生(例えばmRNAからのポリペプチドの翻訳、および/または翻訳後修飾(例えばプロポリペプチドのグリコシル化、リン酸化、タンパク質分解))、PLA2G1Bの機能(例えばコンホメーションの変化、ヌクレオチドまたはヌクレオチド・アナログの結合、イオンの結合および/または転位、結合パートナー同士の相互作用、膜電位に対する効果、脂肪の蓄積に対する効果、代謝疾患に対する効果、心血管疾患に対する効果)のアゴニストまたはアンタゴニストとなる分子を意味する。テスト分子および治療薬候補としては、化合物、アンチセンス核酸、リボザイム、PLA2G1Bポリペプチドまたはその断片、免疫治療薬(例えば抗体)などが挙げられる。
化合物
化合物をテスト分子として利用し、脂肪の蓄積を減らす治療薬候補またはNIDDMを治療する治療薬候補を同定することができる。化合物は、従来技術で知られているコンビナトリアル・ライブラリ法における多数のアプローチのうちの任意のものを利用して得ることができる。そのようなアプローチとしては、生物学的ライブラリ;ペプトイド・ライブラリ(ペプチドの機能を持つ分子のライブラリであるが、その分子は、酵素による分解に対する抵抗力があり、それでも生物学的活性は維持している新規な非ペプチド骨格を有する(例えばZuckermann, R.N.他、J. Med. Chem.、第37巻、2678〜2685ページ、1994年));空間的に近づくことのできる固相または溶液相の並列ライブラリ;コンピュータ解析を必要とする合成ライブラリ法;“1ビーズ1化合物”ライブラリ法;アフィニティ・クロマトグラフィによる選択を利用した合成ライブラリ法などが挙げられる。生物学的ライブラリとペプトイド・ライブラリによるアプローチを適用できるのは、一般にペプチド・ライブラリに限定される。それに対して他のアプローチは、ペプチド・ライブラリ、非ペプチド・オリゴマー・ライブラリ、小分子化合物ライブラリに適用することができる(Lam、Anticancer Drug Des.、第12巻、145ページ、1997年)。分子ライブラリを合成する方法の具体例は、例えば、DeWitt他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第90巻、6909ページ、1993年;Erb他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第91巻、11422ページ、1994年;Zuckermann他、J. Med. Chem.、第37巻、2678ページ、1994年;Cho他、Science、第261巻、1303ページ、1993年;Carrell他、Angew. Chem. Int. Ed. Engl.、第33巻、2059ページ、1994年;Carell他、Angew. Chem. Int. Ed. Engl.、第33巻、2061ページ、1994年;Gallop他、J. Med. Chem.、第37巻、1233ページ、1994年に記載されている。
化合物ライブラリを提示できるのは、溶液中(例えばHoughten、Biotechniques、第13巻、412〜421ページ、1992年)、ビーズ上(Lam、Nature、第354巻、82〜84ページ、1991年)、チップ(Fodor、Nature、第364巻、555〜556ページ、1993年)、細菌または胞子(Ladner、アメリカ合衆国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cull他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第89巻、1865〜1869ページ、1992年)、ファージ上(ScottとSmith、Science、第249巻、386〜390ページ、1990年;Devlin、Science、第249巻、404〜406ページ、1990年;Cwirla他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第87巻、6378〜6382ページ、1990年;Felici、J. Mol. Biol.、第222巻、301〜310ページ、1991年;Ladner、上記文献)である。
化合物は、PLA2G1Bポリペプチドの発現または活性を変化させることができる。化合物は小分子にすることができる。小分子としては、ペプチド、ペプチドミメティック(例えばペプトイド)、アミノ酸、アミノ酸アナログ、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド・アナログ、ヌクレオチド、ヌクレオチド・アナログ、1モル当たりの分子量が約10,000グラム未満の有機化合物と無機化合物(すなわちヘテロ有機化合物や有機金属化合物も含む)、1モル当たりの分子量が約5,000グラム未満の有機化合物と無機化合物、1モル当たりの分子量が約1,000グラム未満の有機化合物と無機化合物、1モル当たりの分子量が約500グラム未満の有機化合物と無機化合物、塩、エステルのほか、これら化合物の薬理学的に許容可能な形態などが挙げられる。
PLA2の機能を変化させる化合物は公知である。例えばアメリカ合衆国特許第5,504,073号、第5,578,639号、第5,968,963号は、腸PLA2阻害剤に関するものであり;アメリカ合衆国特許第5,622,828号は分泌性PLA2ポリペプチド阻害剤に関するものであり;アメリカ合衆国特許第4,978,609号は膵臓PLA2阻害剤に関するものであり;アメリカ合衆国特許第5,567,597号、第5,308,766号、第5,352,673号、第5,427,919号は一般的なPLA2阻害剤に関するものである。これら以外のPLA2阻害剤は、アメリカ合衆国特許公開第20020065246A1号;アメリカ合衆国特許第6,350,892号、第6,310,217号、第6,180,596号、第6,177,257号、第6,147,100号、第6,110,933号、第5,994,398号、第5,972,972号、第5,968,818号、第5,866,318号、第5,817,826号、第5,688,821号、第5,679,801号、第5,656,602号、第5,597,943号、第5,563,164号、第5,523,297号、第5,508,302号、第5,453,443号、第5,451,600号、第5,446,189号、第5,427,919号、第5,420,289号、第5,391,817号、第5,350,579号、第5,290,817号、第5,281,626号、第5,229,403号、第5,208,244号、第5,208,223号、第5,202,350号、第5,145,844号、第5,141,959号、第5,124,334号、第5,120,647号、第5,112,864号、第5,075,339号、第5,070,207号、第5,066,671号、第4,959,357号、第4,845,292号、第4,239,780号、WO 02/08189、WO 00/71118、WO 00/27824、WO 99/44604、WO 99/41278、WO 99/29726、WO 98/33797、WO 98/25893、WO 98/24437、WO 98/08818、WO 97/17448に記載されている。血清中の生物学的利用能があまり大きくないことがわかっている化合物は、スクリーニング・アッセイでテストすることがしばしばある。
アンチセンス核酸分子、リボザイム、修飾されたPLA2G1B核酸分子
この明細書には、脂肪の蓄積を減らしたり、関連する疾患(例えば糖尿病)を治療したりするための治療薬候補を同定する方法においてテスト分子として使用されるアンチセンス核酸分子、リボザイム、修飾されたPLA2G1B核酸分子も記載されている。“アンチセンス”核酸分子は、ポリペプチドをコードしている“センス”核酸と相補的なヌクレオチド配列(例えば二本鎖cDNA分子のコード鎖またはmRNA配列と相補的なヌクレオチド配列)を意味する。アンチセンス核酸は、PLA2G1Bコード鎖全体と相補的になっていること、あるいはその一部(例えば配列番号1に対応するヒトPLA2G1Bのコード領域)とだけ相補的になっていることが可能である。別の実施態様では、アンチセンス核酸分子は、PLA2G1Bをコードしているヌクレオチド配列のコード鎖の“非コード領域”(例えば5'と3'非翻訳領域)に対するアンチセンスである。
アンチセンス核酸は、PLA2G1B mRNAの全コード領域と相補的になるように設計することができる。アンチセンス核酸は、PLA2G1B mRNAのコード領域または非コード領域の一部だけに対してアンチセンスになったオリゴヌクレオチドであることがしばしばある。例えばアンチセンス・オリゴヌクレオチドは、PLA2G1B mRNAの翻訳開始部位を取り囲む領域(例えば興味の対象である標的遺伝子のヌクレオチドを中心にして-10〜+10の領域)と相補的にすることができる。アンチセンス・オリゴヌクレオチドは、例えば、ヌクレオチドの長さを約7個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、55個、60個、65個、70個、75個、80個、あるいはそれ以上にすることができる。アンチセンス核酸(後述するリボザイムもその中に含まれる)は、PLA2G1B核酸またはPLA2G1B核酸変異体を標的とするように設計することができる。変異体のうちで、劣性対立遺伝子と優性対立遺伝子を標的にすることができる。そして脂肪が蓄積するリスクがより大きいことと関係する対立遺伝子(例えば位置7328にグアニンおよび/または位置9182にチミンを有する対立遺伝子)を設計し、テストし、対象に投与することがしばしばある。
アンチセンス核酸は、標準的な手続きによる化学的合成と酵素による連結反応を利用して構成することができる。例えばアンチセンス核酸(例えばアンチセンス・オリゴヌクレオチド)は、天然のヌクレオチドを用いて化学的に合成することができる。あるいは分子の生物学的安定性を増大させるため、あるいはアンチセンス核酸とセンス核酸の間に形成される二本鎖の物理的安定性を増大させるため、さまざまに修飾したヌクレオチドを用いることができる。例えばホスホロチオエート誘導体とアクリジン置換ヌクレオチドが使用できる。アンチセンス核酸は、核酸をアンチセンスの方向(すなわち挿入された核酸から転写したRNAが、興味の対象である標的核酸に対してアンチセンスの方向になる。これについては後述する)にサブクローニングして組み込んだ発現ベクターを用いて生物学的に製造することもできる。
アンチセンス核酸は、一般に、(例えば組織のある部位に直接注射することによって)対象に投与するか、その場で生成される。その結果、アンチセンス核酸は、PLA2G1Bポリペプチドをコードしている細胞mRNAおよび/またはゲノムDNAとハイブリダイズまたは結合し、(例えば転写および/または翻訳を抑制することによって)そのポリペプチドの発現を抑制する。あるいは選択した細胞が標的となるようにアンチセンス核酸分子を修飾した後、全身投与することもできる。全身投与を行なうためには、アンチセンス核酸分子を修飾し、選択した細胞の表面で発現する受容体または抗原と特異的に結合するようにするとよい。そのためには、例えばアンチセンス核酸分子を、細胞表面の受容体または抗原と結合するペプチドまたは抗体と連結させる。アンチセンス核酸分子は、この明細書に記載したベクターを用いて細胞に供給することもできる。アンチセンス核酸分子が細胞内で十分な濃度になるようにするには、ベクター構造体に強力なプロモータ(例えばpol IIプロモータまたはpol IIIプロモータ)を組み込む。
アンチセンス核酸分子は、α-アノマー核酸分子のことがある。α-アノマー核酸分子は、相補的RNAと特異的な二本鎖ハイブリッドを形成する。この二本鎖では、通常のβユニットとは異なり、鎖が互いに平行に走っている(Gaultier他、Nucleic Acids Res.、第15巻、6625〜6641ページ、1987年)。アンチセンス核酸分子は、2'-o-メチルリボヌクレオチド(Inoue他、Nucleic Acids Res.、第15巻、6131〜6148ページ、1987年)またはキメラRNA-DNAアナログ(Inoue他、FEBS Lett.、第215巻、327〜330ページ、1987年)も含むことができる。
別の実施態様では、アンチセンス核酸はリボザイムである。PLA2G1Bをコードしている核酸に対する特異性を持つリボザイムは、この明細書に記載したPLA2G1B DNA配列のヌクレオチド配列(例えば配列番号1)と相補的な1つ以上の配列と、mRNAの開裂にとって重要な既知の触媒配列を有する配列を含むことができる(アメリカ合衆国特許第5,093,246号またはHaselhoffとGerlach、Nature、第334巻、585〜591ページ、1988年を参照のこと)。例えば、テトラヒメナL-19 IVS RNAの誘導体として、活性部位のヌクレオチド配列が、PLA2G1BをコードしているmRNAの中で開裂するヌクレオチド配列と相補的になったものが用いられることがある。例えばCech他、アメリカ合衆国特許第4,987,071号;Cech他、アメリカ合衆国特許第5,116,742号を参照のこと。また、PLA2G1B mRNAを用いて、RNA分子のプールの中から、特異的なリボヌクレアーゼ活性を有する触媒RNAを選択することもできる。例えばBartelとSzostak、Science、第261巻、1411〜1418ページ、1993年を参照のこと。
PLA2G1B遺伝子の発現は、標的細胞内でPLA2G1B遺伝子の転写を妨げる三重螺旋構造を形成するPLA2G1Bの調節領域(例えばPLA2G1Bのプロモータおよび/またはエンハンサー)と相補的なヌクレオチド配列を標的にすることによって抑制可能である。Helene、Anticancer Drug Des.、第6巻(6)、569〜584ページ、1991年;Helene他、Ann. N.Y. Acad. Sci.、第660巻、27〜36ページ、1992年;Maher、Bioassays、第14巻(12)、807〜815ページ、1992年を参照のこと。三重螺旋形成のための標的にすることができる潜在的な配列は、いわゆる“スイッチバック”核酸分子を作ることによって増やすことが可能である。スイッチバック分子は、5'-3'、3'-5'というように交互に合成する。その結果、スイッチバック分子は二本鎖のまず一方の鎖と塩基対を形成し、次いで他方の鎖と塩基対を形成するため、二本鎖の一方の鎖上に存在するプリンまたはピリミジンがかなり伸長する必要がなくなる。
アンチセンス核酸分子、リボザイム、修飾されたPLA2G1B核酸分子は、塩基部分、糖部分、リン酸骨格部分のいずれかを変化させ、その分子の安定性、ハイブリダイゼーション、溶解度を改善することができる。例えば核酸分子のデオキシリボースリン酸骨格を修飾してペプチド核酸を生成させることができる(Hyrup他、Bioorganic & Medicinal Chemistry、第4巻(1)、5〜23ページ、1996年を参照のこと)。この明細書では、“ペプチド核酸”または“PNA”という用語は、デオキシリボースリン酸骨格が擬ペプチド骨格で置換され、4つの天然核酸だけが保持されている核酸ミミック(例えばDNAミミック)を意味する。PNAの中性の骨格は、イオン強度が小さい条件下でDNAおよびRNAと特異的にハイブリダイズすることができる。PNAオリゴマーの合成は、標準的な固相ペプチド合成プロトコルを利用して実行することができる。このプロトコルは、例えばHyrup他、上記文献、1996年と、Perry-O'Keefe他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻、14670〜14675ページ、1996年に記載されている。
PLA2G1B核酸のPNAは治療や診断に応用することができる。例えばPNAは、遺伝子の発現を配列特異的に調節するためのアンチセンス剤または抗遺伝子剤として使用することができる。その際、例えば転写または翻訳の停止が誘導されたり、複製が抑制されたりする。PLA2G1B核酸分子のPNAは、(例えばPNA指向性PCRクランピングによって)遺伝子中の一塩基突然変異を分析するのに使用したり;他の酵素(例えばS1ヌクレアーゼ(Hyrup他、上記文献、1996年)と組み合わせて使用する場合の“人工制限酵素”として使用したり;DNAのシークエンシングまたはハイブリダイゼーションを行なうためのプローブまたはプライマーとして使用したりすることもできる(Hyrup他、上記文献、1996年;Perry-O'Keefe他、上記文献)。
別の実施態様によると、オリゴヌクレオチドは、付着した他の基を含むことができる。そのような基としては、例えば、(例えば生きた宿主細胞の受容体を標的とする)ペプチド、細胞膜の通過を容易にする化学薬品(例えばLetsinger他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第86巻、6553〜6556ページ、1989年;Lemaitre他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第84巻、648〜652ページ、1987年;PCT公開WO 88/09810を参照のこと)または血液-脳関門の通過を容易にする化学薬品(例えばPCT公開WO 89/10134を参照のこと)が挙げられる。さらに、オリゴヌクレオチドは、ハイブリダイゼーションをトリガーとした開裂剤(例えばKrol他、Bio-Techniques、第6巻、958〜976ページ、1988年を参照のこと)または挿入剤(例えばZon、Pharm. Res.、第5巻、539〜549ページ、1988年を参照のこと)を用いて修飾することができる。そのためには、オリゴヌクレオチドを他の分子(例えばペプチド、ハイブリダイゼーションをトリガーとした架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーションをトリガーとした開裂剤)と共役させるとよい。
この明細書には、本発明によるPLA2G1B核酸と相補的な1つ以上の領域を有する分子ビーコン・オリゴヌクレオチドからなるプライマー分子とプローブ分子も含まれている。相補的な領域が2つの場合、一方は発蛍光団を持ち、他方はクエンチャーを持つため、分子ビーコンは、サンプル中に存在する本発明のPLA2G1B核酸を定量するのに役立つ。分子ビーコン核酸は、例えばLizardi他、アメリカ合衆国特許第5,854,033号;Nazarenko他、アメリカ合衆国特許第5,866,336号;Livak他、アメリカ合衆国特許第5,876,930号に記載されている。
抗PLA2G1B抗体
一実施態様では、抗体をテスト分子としてスクリーニングし、対象の脂肪の蓄積を減少させるための治療薬、またはNIDDMを治療するための治療薬として使用する。この明細書では、“抗体”という用語は、免疫グロブリン分子、またはその分子中で免疫学的に活性な部分(すなわち抗原結合部分)を意味する。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の具体例として、抗体をペプシンなどの酵素で処理することによって生成させることのできるF(ab)フラグメントやF(ab')2フラグメントが挙げられる。抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組み換え抗体(例えばキメラ抗体、ヒト化抗体)、完全ヒト抗体、非ヒト抗体(例えばマウス抗体)、一本鎖抗体が可能である。抗体は、エフェクター機能を持つことができ、補体を固定することができ、時には毒素またはイメージング剤と結合する。
完全長PLA2G1Bポリペプチド、またはPLA2G1Bの抗原ペプチド断片は、免疫原として使用すること、あるいは他の免疫原(例えば細胞、膜調製物など)を用いて作った抗PLA2G1B抗体を同定するのに使用することができる。PLA2G1Bの抗原ペプチドは、配列番号2に示したアミノ酸配列のうちの少なくとも8個のアミノ酸残基を含んでいなくてはならない。抗原ペプチドは、アミノ酸を10個以上、15個以上、しばしば20個以上、一般には30個以上含んでいる。PLA2G1Bポリペプチドの親水性断片と疎水性断片を免疫原として使用することができる。
抗原ペプチドに含まれるエピトープは、ポリペプチドの表面上に位置するPLA2G1Bの領域(例えば親水性領域)と、抗原性が大きい領域である。例えばヒトPLA2G1Bポリペプチド配列のエミニ表面確率分析を行なうと、PLA2G1Bポリペプチドの表面に局在している確率が特に大きいため、抗体産生の標的にするのに役立つ表面残基を構成することになる領域がわかる。抗体は、この明細書に記載したPLA2G1Bポリペプチドの任意のドメインまたは領域のエピトープと結合することができる。
キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体は、対象に繰り返して投与する用途でも役に立つ。このようなキメラ・モノクローナル抗体とヒト化モノクローナル抗体は、公知の組み換えDNA技術によって製造できる。利用される方法の具体例は、Robinson他、国際出願PCT/US86/02269;Akira他、ヨーロッパ特許出願第184,187号;Taniguchi, M.、ヨーロッパ特許出願第171,496号;Morrison他、ヨーロッパ特許出願第173,494号;Neuberger他、PCT国際出願WO 86/01533;Cabilly他、アメリカ合衆国特許第4,816,567号;Cabilly他、ヨーロッパ特許出願第125,023号;Batter他、Science、第240巻、1041〜1043ページ、1988年;Liu他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第84巻、3439〜3443ページ、1987年;Liu他、J. Immunol.、第139巻、3521〜3526ページ、1987年;Sun他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第84巻、214〜218ページ、1987年;Nishimura他、Cancer Res.、第47巻、999〜1005ページ、1987年;Wood他、Nature、第314巻、446〜449ページ、1985年;Shaw他、J. Natl. Cancer Inst.、第80巻、1553〜1559ページ、1988年;Morrison, S.L.、Science、第229巻、1202〜1207ページ、1985年;Oi他、BioTechniques、第4巻、214ページ、1986年;Winter、アメリカ合衆国特許第5,225,539号;Jones他、Nature、第321巻、522〜525ページ、1986年;Verhoeyan他、Science、第239巻、1534ページ、1988年;Beidler他、J. Immunol.、第141巻、4053〜4060ページ、1988年に記載されている。
完全ヒト抗体は、ヒト患者を治療するのに特に望ましい。そのような抗体は、内在性免疫グロブリンのH鎖遺伝子とL鎖遺伝子は発現できないが、ヒトのH鎖遺伝子とL鎖遺伝子は発現できるトランスジェニック・マウスを用いて製造することができる。例えば、LonberugとHuszar、Int. Rev. Immunol.、第13巻、65〜93ページ、1995年と;アメリカ合衆国特許第5,625,126号、第5,633,425号、第5,569,825号、第5,661,016号、第5,545,806号を参照のこと。さらに、アブジェニックス社(フレモント、カリフォルニア州)、メダレックス社(プリンストン、ニュージャージー州)といった企業が、上記の技術と同様の技術を利用して選択された抗原に対するヒト抗体を提供することができる。選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、“ガイドされた選択”と呼ばれる技術を利用して生成させることもできる。この方法では、選択された非ヒト・モノクローナル抗体(例えばネズミの抗体)をガイドとして利用し、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体を選択する。この技術は、例えばJespers他、Bio/Technology、第12巻、899〜903ページ、1994年に記載されている。
抗PLA2G1B抗体としては、一本鎖抗体が可能である。一本鎖抗体(scFV)は、遺伝子工学で作ることができる(例えばColcher, D.他、Ann. N.Y. Acad. Sci.、第880巻、263〜280ページ、1999年;Reiter, Y.、Clin. Cancer Res.、第2巻、245〜252ページ、1996年を参照のこと)。一本鎖抗体を二量体または多量体にし、同じ標的PLA2G1Bポリペプチドのさまざまなエピトープに対して特異的な多価抗体を生成させることができる。
抗体を選択または修飾し、Fc受容体に結合する能力を低下させること、またはその能力をなくすこともできる。例えば抗体としては、Fc受容体への結合を支援しないアイソタイプまたはサブタイプの断片または他の突然変異体が可能である(例えばFc受容体結合領域が突然変異していたり欠失していたりする)。
抗体(またはその断片)は、治療部分(細胞毒素、治療薬、放射活性のある金属イオン)と共役させることができる。細胞毒素または細胞毒性剤は、細胞にとって害のある任意の薬剤を含んでいる。その具体例としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルチシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、マイトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、ピューロマイシン、ならびにこれらのアナログおよびホモログが挙げられる。治療薬としては、抗代謝薬(例えばメトトレキセート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン)、アルキル化剤(例えばメクロレタミン、チオエパクロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロトスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、シス-ジクロロジアミン白金(II)(DDP)シスプラチン)、アントラシクリン(例えばダウノルビシン(以前の名称はダウノマイシン)、ドキソルビシン)、抗生物質(例えばダクチノマイシン(以前の名称はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミスラマイシン、アントラマイシン(AMC))、抗有糸分裂剤(例えばビンクリスチン、ビンブラスチン)などが挙げられる。
抗体共役体を利用して所定の生物学的応答を変化させることができる。例えば薬剤部分としては、望む生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドが可能である。そのようなタンパク質としては、例えば毒素(例えばアブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、ジフテリア毒素);ポリペプチド(例えば腫瘍壊死因子、α-インターフェロン、β-インターフェロン、神経成長因子、血小板由来増殖因子、組織プラスミノーゲンアクチベータ);生物学的応答調節剤(例えばリンホカイン、インターロイキン-1(“IL-1”)、インターロイキン-2(“IL-2”)、インターロイキン-6(“IL-6”)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(“GM-CSF”)、顆粒球コロニー刺激因子(“G-CSF”)、または他の増殖因子)などが挙げられる。抗体を第2の抗体と共役させて抗体ヘテロ共役体を形成することもできる。これについては、例えばSegalによるアメリカ合衆国特許第4,676,980号に記載されている。
抗PLA2G1B抗体(例えばモノクローナル抗体)を利用し、標準的な方法(例えばアフィニティ・クロマトグラフィまたは免疫沈降)でPLA2G1Bポリペプチドを単離することができる。さらに、抗PLA2G1B抗体を用いて(例えば細胞ライセートまたは細胞の上清の中で)PLA2G1Bポリペプチドを検出し、そのポリペプチドの含有量と発現パターンを評価することができる。臨床試験の一部として(例えば所定の治療法の効果を調べるために)組織内のポリペプチドのレベルをモニターすることで、抗PLA2G1B抗体を診断に利用できる。検出は、抗体を検出可能な物質(例えば抗体標識)と結合させると容易になる。検出可能な物質の具体例としては、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光材料、ルミネッセンス材料、生物ルミネッセンス材料、放射性材料などが挙げられる。適切な酵素の具体例としては、セイヨウワサビのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼなどが挙げられ;適切な補欠分子族複合体の具体例としては、ストレプトアビジン/ビオチン、アビジン/ビオチンなどが挙げられ;適切な蛍光材料の具体例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、フィコエリトリンなどが挙げられ;ルミネッセンス材料の一例はルミノールであり;生物ルミネッセンス材料の具体例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリンなどが挙げられ;適切な放射性材料の具体例としては、125I、131I、35S、3Hなどが挙げられる。また、抗PLA2G1B抗体は、脂肪の蓄積を減少させること、または関連疾患(例えば糖尿病)を治療することができるかどうかのテスト分子として使用することや、脂肪の蓄積を減少させるため、または関連疾患(例えば糖尿病)を治療するために対象に投与する治療薬として用いることができる。タイプIのPLA2分子に対するモノクローナル抗体が報告されている(アメリカ合衆国特許第5,767,249号)。
抗体は、精製したPLA2G1B抗原またはその断片(例えばこの明細書に記載した断片、膜関連抗原、組織(例えば粗組織調製物)、全細胞(生きた細胞が好ましい)、溶解した細胞、細胞分画)を用いた免疫感作によって作ることができる。
この明細書には、生のPLA2G1Bポリペプチドだけと結合する抗体、あるいは変性しているかそれ以外のことで生でなくなったPLA2G1Bポリペプチドだけと結合する抗体、あるいはその両方と結合する抗体に加え、直線状エピトープまたはコンホメーション・エピトープを有する抗体が含まれている。コンホメーション・エピトープは、生のPLA2G1Bポリペプチドとは結合するが変性していないPLA2G1Bポリペプチドとは結合しない抗体を選択することによって同定できる場合がある。
スクリーニング・アッセイ
この明細書には、脂肪を減らすための治療薬候補および/またはNIDDMを治療するための治療薬候補を同定する方法であって、(a)(i)配列番号1のヌクレオチド配列;(ii)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列;(iii)配列番号2のアミノ酸配列と90%同一のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列;(iv)ヌクレオチド配列(i)、(ii)、(iii)いずれかの断片;からなるグループの中から選択したPLA2G1Bヌクレオチド配列を有する核酸を含むシステムにテスト分子を導入するか、あるいはヌクレオチド配列(i)、(ii)、(iii)、(iv)いずれかによってコードされているタンパク質を含むシステムにテスト分子を導入し;(b)テスト分子と上記核酸またはタンパク質の間の相互作用の存在または不在を明らかにすることにより、テスト分子と上記核酸またはタンパク質の間の相互作用が存在している場合に、そのテスト分子が脂肪を減らすための治療薬候補であると同定する方法が記載されている。
この明細書では、“システム”という用語は、無細胞の試験管内環境と、細胞をベースとした環境(例えば細胞群、組織、器官、生物)を意味する。システムは、テスト分子とさまざまな方法で接触させる。例えば溶液に分子を添加し、その分子を、動物の体内における拡散、細胞注入、任意の投与経路によって互いに相互作用させる。この明細書では、“相互作用”という用語は、テスト分子がPLA2G1B核酸、ポリペプチド、その変異体(合わせて“PLA2G1B分子”と呼ぶ)に及ぼす効果を意味する。この効果は、時にはテスト分子と核酸またはポリペプチドの間の結合であり、細胞、組織、生物における観察可能な変化であることがしばしばある。
テスト分子とPLA2G1B核酸またはポリペプチドの間の相互作用が存在しているかどうかを検出する標準的な方法が多数存在している。PLA2の機能を調べるため、例えば、滴定測定、酸測定、放射線測定、NMR、単層、ポーラログラフィ、分光光度測定、蛍光、ESRといったアッセイ法が、Reynolds他、Methods in Enzymology、第197巻、3〜23ページ、1991年;Yu他、Methods in Enzymology、第197巻、65〜75ページ、1991年;Reynolds他、Analytical Biochemistry、第204巻、190〜197ページ、1992年;Reynolds他、Anal. Biochem.、第217巻、25〜32ページ、1994年;Yang他、Anal. Biochem.、第269巻、278〜288ページ、1999年;アメリカ合衆国特許第5,464,754号;WO 00/34791に記載されている。
相互作用は、テスト分子および/またはPLA2G1B分子を標識することによって調べられる。この場合の標識は、共有結合または非共有結合によりテスト分子またはPLA2G1B分子に付着させる。標識を放射性分子(例えば125I、131I、35S、3H)にすることがある。放射性分子は、放射線の放出を直接カウントすること、あるいはシンチレーションをカウントすることによって検出できる。また、酵素標識(例えばセイヨウワサビのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ)を使用することもできる。この場合、酵素標識は、適切な基質が生成物に変換されるのを調べることによって検出できる。相互作用の存在または不在は、標識なしでも調べることができる。例えばマイクロフィジオメータ(例えばサイトセンサー)は、細胞がその周囲の環境を酸性化する速度を光による電位差センサー(LAPS)を用いて測定するための分析器具である。テスト分子とPLA2G1Bの間の相互作用の指標として、この酸性化速度の変化を利用することができる(McConnell, H.M.他、Science、第257巻、1906〜1912ページ、1992年)。
細胞をベースとしたシステムでは、細胞に、PLA2G1B核酸、またはポリペプチド、またはこれらの変異体が一般に含まれる。細胞は、哺乳動物に由来することがしばしばあるが、出所は任意でよい。全細胞、細胞ホモジェネート、細胞分画(例えば細胞膜分画)に対して分析を行なうことができる。テスト分子とPLA2G1Bポリペプチドまたはその変異体の間の相互作用をモニターする場合には、ポリペプチドまたはその変異体を可溶性形態および/または膜結合形態にして用いるとよい。膜結合形態になったポリペプチドを用いる場合には、可溶化剤を使用することが望ましい。そのような可溶化剤の具体例としては、非イオン界面活性剤(例えばn-オクチルグルコシド、n-ドデシルグルコシド、n-ドデシルマルトシド、オクタノイル-N-メチルグルカミド、デカノイル-N-メチルグルカミド、トリトン(登録商標)X-100、トリトン(登録商標)X-114、テシット(登録商標)、イソトリデシポリ(エチレングリコールエーテル)n、3-[(3-クロルアミドプロピル)ジメチルアンミニオ]-1-プロパンスルホン酸塩(CHAPS)3-[(3-クロルアミドプロピル)ジメチルアンミニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩(CHAPSO)、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸塩)が挙げられる。
2つの分子間の相互作用も蛍光エネルギーの移動(FET)をモニターすることによって検出可能である(例えばLakowicz他、アメリカ合衆国特許第5,631,169号;Stavrianopoulos他、アメリカ合衆国特許第4,868,103号を参照のこと)。第1の“ドナー”分子上の発蛍光団標識は、放出される蛍光エネルギーが第2の“アクセプター”分子上の蛍光標識によって吸収された後、今度はこの第2の分子が吸収したエネルギーによって蛍光を出せるように選択する。あるいは“ドナー”ポリペプチド分子が単純にトリプトファン残基の自然の蛍光エネルギーを用いる方法にすることもできる。それぞれの標識には異なる波長の光を放出するものを選択し、“アクセプター”分子標識を“ドナー”と区別できるようにする。標識間のエネルギー移動効率は分子間の距離に関係するため、分子間の空間的関係を評価するとよい。結合が分子間で起こる場合には、アッセイ中の“アクセプター”分子標識からの蛍光放出が最大になっている必要がある。FET結合イベントは、従来技術でよく知られている標準的な蛍光検出手段で(例えば蛍光測定器を用いて)容易に測定することができる。
別の実施態様では、テスト分子とPLA2G1Bポリペプチドの相互作用が存在しているかどうかは、リアルタイムの生体分子相互作用分析(BIA)法を利用して調べることができる(例えばSjolanderとUrbaniczk、Anal. Chem.、第63巻、2338〜2345ページ、1991年;Szabo他、Curr. Opin. Struct. Biol.、第5巻、699〜705ページ、1995年を参照のこと)。“表面プラズモン共鳴”または“BIA”では、相互作用する分子(例えばBIAコア)に標識することなく、生体特異的な相互作用がリアルタイムで検出される。結合表面において質量が変化すると、その表面近傍で光の屈折率が変化し(表面プラズモン共鳴(SPR)という光学的現象)、その結果として検出可能な信号が得られる。その信号を、生体分子間のリアルタイム反応の指標として用いることができる。
別の実施態様では、PLA2G1B分子またはテスト分子を固相に固定する。固相に固定されたPLA2G1B分子/テスト分子複合体は、反応が終了したときに検出することができる。標的PLA2G1B分子は固体表面に固定させることがしばしばあり、固定されていないテスト分子は、この明細書に記載した検出可能な標識で直接または間接に標識することができる。
PLA2G1B分子、抗PLA2G1B抗体、テスト分子を固定化することにより、PLA2G1B分子とテスト分子が複合体になった形態から複合体になっていない形態を容易に分離できるようにすること、またアッセイを自動化することが望ましい。テスト分子をPLA2G1B分子に結合させる操作は、これら反応分子を入れるための適切な任意の容器の中で実施することができる。そのような容器の具体例としては、マイクロタイタープレート、試験管、マイクロ遠心分離管などが挙げられる。一実施態様では、PLA2G1B分子がマトリックスに結合できるようにするドメインを付加する融合ポリペプチドを提供することができる。例えばグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/PLA2G1B融合ポリペプチドまたはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/標的融合ポリペプチドをグルタチオン・セファロース・ビーズ(シグマ・ケミカル社、セントルイス、ミズーリ州)またはグルタチオンで誘導体化したマイクロタイタープレートの表面に吸着させた後、テスト化合物と混合するか、あるいはテスト化合物に加え、吸着されていない標的ポリペプチドまたはPLA2G1Bポリペプチドのいずれか一方と混合し、この混合物を、複合体が形成される条件(例えば塩とpHに関して生理学的な条件)下でインキュベートするとよい。インキュベーションの後、ビーズまたはマイクロタイタープレートのウエルを洗浄して結合しなかった成分をすべて洗い流し、ビーズの場合には、マトリックスに固定化された複合体が何であるかを例えば上記のようにして直接または間接に調べる。別の方法として、複合体をマトリックスから解離させ、PLA2G1Bの結合レベルまたは活性を、標準的な方法を利用して調べることもできる。
PLA2G1B分子をマトリックスに固定化する別の方法としては、ビオチンとストレプトアビジンを用いる方法がある。例えばビオチニル化したPLA2G1Bポリペプチドまたは標的分子は、従来技術で知られている方法(例えばビオチニル化キット、ピアース・ケミカルズ社、ロックフォード、イリノイ州)を利用してビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から調製し、ストレプトアビジンでコーティングした96ウエルのプレート(ピアース・ケミカルズ社)のウエルの中に固定化することができる。
アッセイを行なうため、固定化されていない成分を、固定された成分を含むコーティングされた表面に添加する。反応が終了した後、形成されたすべての複合体が固体表面に固定化されて残るような条件にして、反応しなかった成分を(例えば洗浄により)除去する。固体表面に固定された複合体は、多数の方法で検出することができる。以前に固定化されなかった成分にあらかじめ標識してある場合には、表面に固定化された標識が検出されるというのは、複合体が形成されたことを示している。以前に固定化されなかった成分にあらかじめ標識していない場合には、表面に固定された複合体を間接的な標識(例えば固定化された成分に対して特異的な標識された抗体(今度はこの抗体を、例えば標識した抗Ig抗体で直接または間接に標識することができる))を用いて検出することができる。
一実施態様では、このアッセイを、PLA2G1Bポリペプチドまたはテスト分子と反応するがPLA2G1Bポリペプチドとテスト分子の結合は妨げない抗体を用いて実施する。このような抗体をプレートのウエルで誘導体化し、結合しなかった標的またはPLA2G1Bポリペプチドを、抗体と共役させることによってウエルにトラップすることができる。このような複合体を検出する方法としては、GSTで固定化された複合体に関してすでに説明した方法に加え、PLA2G1Bポリペプチドまたは標的分子と反応する抗体を用いた複合体の免疫検出法や、PLA2G1Bポリペプチドまたはテスト分子に関係する酵素活性を検出する酵素結合アッセイが挙げられる。
別の方法として、無細胞アッセイを液相中で実施することもできる。このようなアッセイでは、多数ある標準的な方法のうちの任意の方法を利用し、反応生成物を反応しなかった成分から分離する。そのような方法としては、例えば分画遠心分離(例えばRivas, G.とMinton, A.P.、Trends Biochem. Sci.、第18巻(8)、284〜287ページ、1993年8月を参照のこと);クロマトグラフィ(ゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ);電気泳動(例えばAusbel, F.他編、『分子生物学における最新プロトコル』、J.ワイリー社、ニューヨーク、1999年を参照のこと);免疫沈降(例えばAusbel, F.他編、『分子生物学における最新プロトコル』、J.ワイリー社、ニューヨーク、1999年を参照のこと)などがある。樹脂とクロマトグラフィを用いるこのような方法は当業者には公知である(例えばHeegaard, N.H.、J. Mol. Recognit. Winter、第11巻(1〜6)、141〜148ページ、1998年;Hage, D.S.とTweed, S.A.、J. Chromatogr. B Biomed. Sci. Appl. 10月10日号、第699巻(1〜2)、499〜525ページ、1997年を参照のこと)。さらに、溶液から複合体をそれ以上精製することなく結合を検出するには、蛍光エネルギー移動法を利用することもできる。
別の実施態様では、PLA2G1Bの発現のモジュレータを同定する。例えば細胞混合物または無細胞混合物を候補化合物と接触させ、PLA2G1B mRNAまたはポリペプチドの発現を、候補化合物の不在下でのPLA2G1B mRNAまたはポリペプチドの発現レベルと比較する。候補化合物が存在しているときのほうが不在のときよりもPLA2G1B mRNAまたはポリペプチドの発現が大きい場合には、その候補化合物は、PLA2G1B mRNAまたはポリペプチドの発現の促進剤であることがわかる。逆に、候補化合物が存在しているときのほうが不在のときよりもPLA2G1B mRNAまたはポリペプチドの発現が少ない(統計的に有意に少ない)場合には、その候補化合物は、PLA2G1B mRNAまたはポリペプチドの発現の抑制剤であることがわかる。PLA2G1B mRNAまたはポリペプチドの発現レベルは、PLA2G1B mRNAまたはポリペプチドを検出するためのこの明細書に記載した方法で明らかにすることができる。
PLA2G1B結合パートナー
別の実施態様では、PLA2G1B分子と相互作用する結合パートナーを検出する。PLA2G1B分子は、生体内で細胞内または細胞外の1個以上の高分子(例えばポリペプチド)と相互作用することができる。PLA2G1B分子と相互作用するこれらの分子のことを、この明細書では“結合パートナー”と呼ぶ。このような相互作用を妨げる分子は、標的遺伝子産物の活性を調節する上で役に立つ可能性がある。そのような分子としては、抗体、ペプチド、小分子などが挙げられる。この実施態様で用いる好ましい標的遺伝子/産物は、この明細書で同定したPLA2G1B遺伝子である。本発明の別の実施態様により、テスト化合物が、PLA2G1B標的分子の下流エフェクターの活性を調節することによってPLA2G1Bポリペプチドの活性を調節する能力を調べる方法が提供される。例えば、すでに説明したようにして、エフェクター分子が適切な標的に及ぼす活性を調べること、あるいは適切な標的へのエフェクターの結合を調べることができる。
標的遺伝子産物とその細胞内または細胞外の結合パートナー(例えば基質)の相互作用を阻止する化合物を同定するため、標的遺伝子産物と結合パートナーを含む反応混合物を、これら2つの産物が複合体を形成するのに十分な条件と時間のもとで調製する。阻害剤をテストするため、この反応混合物をテスト化合物の存在下と不在下で供給する。テスト化合物は、最初から反応混合物に含まれていてもよく、標的遺伝子とその細胞内または細胞外の結合パートナーを添加した後に添加してもよい。対照となる反応混合物は、テスト化合物またはプラセボなしでインキュベートする。次に、標的遺伝子産物と細胞内または細胞外の結合パートナーの間で形成される複合体をすべて検出する。対照反応物の中では複合体が形成されるが、テスト化合物を含む反応混合物の中では複合体が形成されないということは、その化合物が、標的遺伝子産物と結合パートナーの相互作用を妨げることを示している。さらに、テスト化合物と正常な標的遺伝子産物を含む反応混合物の中での複合体の形成を、テスト化合物と突然変異した標的遺伝子産物を含む反応混合物の中での複合体の形成と比較することもできる。この比較は、突然変異体の相互作用は妨げるが正常な標的遺伝子産物の相互作用は妨げない化合物を同定するのが望ましい場合に重要である可能性がある。
これらのアッセイは、不均一な形態または均一な形態で実施することができる。不均一アッセイは、標的遺伝子産物または結合パートナーを固相に固定させ、反応が終了したときに固相に固定された複合体を検出する操作を含んでいる。均一アッセイでは、全反応を液相で行なう。いずれの方法でも、反応物質を添加する順番を変えることでテストする化合物に関するさまざまな情報を得ることができる。例えば標的遺伝子産物と結合パートナーの相互作用を(例えば競合によって)妨げるテスト化合物は、テスト化合物の存在下で反応を行なわせることによって同定できる。すでに形成されている複合体を破壊する化合物(例えば結合定数がより大きくて、1つの成分を複合体から移動させる化合物)は、複合体が形成された後にテスト化合物を反応混合物に添加することによって調べることができる。さまざまな形態を以下に簡単に説明する。
不均一アッセイ系では、標的遺伝子産物か、あるいは相互作用する細胞内または細胞外の結合パートナーを固体表面(例えばマイクロタイタープレート)に係留し、係留されていない化学種を直接または間接に標識する。係留された化学種は、非共有結合または共有結合によって固定化することができる。係留されることになる化学種に対して特異的な固定化された抗体を利用し、その化学種を固体表面に係留することもできる。
アッセイを行なうため、固定化した化学種のパートナーを、テスト化合物でコーティングした表面またはコーティングしていない表面に曝露する。反応が終了した後、反応しなかった成分を(例えば洗浄によって)除去すると、形成されたあらゆる複合体が固体表面に固定化されて残ることになる。固定化しなかった化学種にあらかじめ標識してある場合に表面に固定化した標識が検出されるということは、複合体が形成されたことを意味する。固定化しなかった化学種にあらかじめ標識してない場合には、間接的な標識を用い、表面に固定された複合体を検出することができる。そのためには、例えば、最初に固定化していない化学種に対して特異的な標識を付けた抗体を用いる(今度はこの抗体を、例えば標識した抗Ig抗体で直接または間接に標識することができる)。反応成分を添加する順番に応じ、複合体の形成を抑制するテスト化合物、またはすでに形成されている複合体を破壊するテスト化合物を検出することができる。
反応をテスト化合物の存在下と不在下にて液相中で実施し、反応生成物を反応しなかった成分から分離し、複合体を検出することもできる。そのためには、例えば、溶液中に形成される複合体を固定するための、結合成分の一方に対して特異的な固定化した抗体と、固定された複合体を検出するための、他方のパートナーに対して特異的な標識を付けた抗体とを用いる。ここでも、反応物質を液相に添加する順番に応じ、複合体の形成を抑制するテスト化合物、またはすでに形成されている複合体を破壊するテスト化合物を同定することができる。
本発明の別の実施態様では、均一アッセイを利用することができる。例えばすでに形成されている複合体を、標的遺伝子産物と、相互作用する細胞内または細胞外の結合パートナー生成物とから調製するとき、標的遺伝子産物またはその結合パートナーを標識するが、この標識から発生する信号は、複合体が形成されることによって抑制される(例えばイムノアッセイを行なうのにこの方法を利用しているアメリカ合衆国特許第4,109,496号を参照のこと)。すでに形成されている複合体からの化学種の1つと競合してその化学種を移動させるテスト化合物を添加すると、背景よりも大きな信号が発生する。このようにして、標的遺伝子産物と結合パートナーの相互作用を妨げるテスト化合物を同定することができる。
PLA2G1B分子の結合パートナーは、PLA2G1B(“PLA2G1B-結合ポリペプチド”すなわち“PLA2G1B-bp”)と結合または相互作用してPLA2G1Bの活性に関与する他のポリペプチドを同定するための2ハイブリッド・アッセイまたは3ハイブリッド・アッセイで同定することもできる(例えばアメリカ合衆国特許第5,283,317号;Zervos他、Cell、第72巻、223〜232ページ、1993年;Madura他、J. Biol. Chem.、第268巻、12046〜12054ページ、1993年;Bartel他、Biotechniques、第14巻、920〜924ページ、1993年;Iwabuchi他、Oncogene、第8巻、1693〜1696ページ、1993年;Brent、WO 94/10300を参照のこと)。このようなPLA2G1B-bpは、例えばPLA2G1Bを媒介としたシグナル伝達経路の下流要素として、PLA2G1BポリペプチドまたはPLA2G1B標的による信号の促進剤または阻害剤になる可能性がある。
2ハイブリッド系は、たいていの転写因子が、分離可能なDNA結合領域と活性化領域からなるためにモジュールとしての性質を持っていることに基づいている。要するに、アッセイでは、2つの異なる構造体を利用する。一方の構造体では、PLA2G1Bポリペプチドをコードしている遺伝子が、既知の転写因子(例えばGAL-4)のDNA結合ドメインをコードしている遺伝子と融合している。他方の構造体では、DNA配列のライブラリからのDNA配列であって同定されていないポリペプチド(“プレイ”または“サンプル”)をコードしているDNA配列が、既知の転写因子の活性化ドメインをコードしている遺伝子と融合している。(PLA2G1Bポリペプチドは、活性化ドメインと融合させることもできる。)“ベイト”ポリペプチドと“プレイ”ポリペプチドが生体内で相互作用してPLA2G1Bに依存した複合体を形成できるのであれば、転写因子のDNA結合ドメインと活性化ドメインは近接した状態にある。このように近接していることにより、転写因子に応答する転写調節部位と機能上関連したレポーター遺伝子(例えばLacZ)の転写が可能になる。レポーター遺伝子の発現は検出することができる。機能的転写因子を含む細胞コロニーを単離し、PLA2G1Bポリペプチドと相互作用するポリペプチドをコードしているクローニングされた遺伝子を得るのに用いることができる。
治療薬候補の同定
脂肪の蓄積を減らしたり関連疾患(例えば糖尿病)を治療したりするための治療薬候補は、PLA2G1B核酸またはPLA2G1Bポリペプチドと相互作用するテスト分子群の中から同定する。テスト分子は、通常は、例えばDNAの複製および/またはプロセシング、RNAの転写および/またはプロセシング、ポリペプチドの産生および/またはプロセシング、PLA2G1B分子の機能のうちの少なくとも1つを変化させる(例えばアゴニストまたはアンタゴニストとなる)程度に従ってランク付けした後、ランキングのトップに来るモジュレータを選択する。この明細書に記載した薬理ゲノミクス情報を利用してモジュレータのランクを決めることもできる。治療薬候補は、一般に製剤化して対象に投与する。
治療薬を用いた治療
製剤または医薬組成物は、一般に、薬理学的に許容可能な基剤に加え、化合物、アンチセンス核酸、PLA2G1Bの発現を抑制できるsiRNA分子のほか、必要に応じ、そのあらゆる転写産物、リボザイム、抗体、PLA2G1Bポリペプチドと相互作用する結合パートナー、PLA2G1B核酸またはその断片を含んでいる。製剤化する分子としては、上記のスクリーニング法で同定した分子が可能である。製剤は、PLA2G1Bポリペプチドまたはその断片と、薬理学的に許容可能な基剤とを含むことができる。この明細書では、“薬理学的に許容可能な基剤”という表現には、投与する医薬組成物に適合した溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などが含まれる。追加の活性化合物もこの組成物に組み込むことができる。
すでに説明したように、分泌されたPLA2G1Bポリペプチドは消化に影響を及ぼすことができる。トリグリセリドは、動物において蓄積される脂肪の主要な供給源であり、一般にはエマルジョンとして胃から小腸に入る。胆嚢からの胆汁酸がそのようなエマルジョンと混合するとミセルが形成される。そのときトリグリセリドがミセルの中心に封入され、ミセルの外面は、リン脂質、コレステロール、胆汁塩などの極性部分で構成される。胆汁酸も同様の構造を形成し、例えばエマルジョン化した液滴状脂質、多層の小胞、単層の小胞、混合したミセルになることができる。このような構造の中心に位置するトリグリセリドは、双極性外側層によって膵臓のリパーゼやコリパーゼの加水分解作用から保護される。PLA2ポリペプチドが分泌されて消化系(例えば小腸、大腸、胃)に入ると、リン脂質が加水分解されて遊離脂肪酸とリゾリン脂質になる。リン脂質の加水分解によってミセルならびにそれと同様の構造が分解され、トリグリセリドが消化系に入る。するとリパーゼを媒介とした加水分解により、そのトリグリセリドが、脂肪を形成する遊離脂肪酸になる。また、加水分解されたリン脂質から放出されたリゾリン脂質は穏やかな洗浄特性を持つため、トリグリセリドを封入しているリン脂質によって形成されたミセルよりも小さなミセルになる。より小さなミセルは、リパーゼによる分解に対する感受性がより大きいため、封入されたトリグリセリドが加水分解されて脂肪を形成する脂肪酸になる。
したがって分泌されるPLA2分子(例えばPLA2G1B)を抑制すると、脂肪の蓄積を直接的、間接的に減らすことができる。特に、分泌されるPLA2分子の阻害剤は、(1)リン脂質の加水分解を直接的に減らすことができ、その結果としてミセルの破壊が減るため、リパーゼを媒介とした加水分解によって遊離脂肪酸にするのに利用できる遊離トリグリセリドの濃度が低下し、(2)リゾリン脂質によって形成されたより小さなミセルの量を間接的に減らすことができ、その結果としてリパーゼを媒介としてトリグリセリドから放出される遊離脂肪酸の濃度が低下する。
分泌されるPLA2分子(例えばPLA2G1B)の阻害剤は、その標的と消化管(特に小腸、大腸、胃)の中で相互作用することがしばしばある。したがって分泌されたPLA2分子を消化管の中で抑制するには血清中での生物学的利用能は必要ない。“生物学的利用能”は、静脈内投与の場合を生物学的利用能が100%であるとして比較したときの、所定の投与経路に従ってある時間が経過したときの化合物の血清濃度を意味する。ある物質の血清生物学的利用能を明らかにするための分析方法がいくつか存在している(例えばHPLC、LC/MS、ラジオイムノアッセイ)。そのうちの任意の方法を利用して血清生物学的利用能を明らかにすることができる。分泌されたホスホリパーゼ(例えばPLA2G1B)を標的にする場合には、血清生物学的利用能が検出できないモジュレータがしばしば利用される。というのも、血清生物学的利用能は望ましくない副作用を起こす可能性があるからである。しばしば利用されるのは、(投与したモジュレータの全量と比べて)血清生物学的利用能が2%以下、5%以下、10%以下、15%以下、20%以下、25%以下のモジュレータである。消化管以外の領域でホスホリパーゼを標的にするときには、血清生物学的利用能が30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上のモジュレータも使用することができる。例えば脂肪酸はPPAR-γの発現を促進し、そのことによって脂肪細胞の分化を引き起こすことが知られているため、ホスホリパーゼ(例えばPLA2G1B)が消化管の外部で抑制されると脂肪細胞の分化が減る可能性がある。
リパーゼ阻害剤(例えばオルリスタット)は、トリグリセリドから放出される遊離脂肪酸を減らすため、対象の体内における脂肪の蓄積を減らすことができる。リパーゼ阻害剤の投与に応答して脂肪の蓄積が減った対象は、特異的PLA2阻害剤が脂肪の蓄積を減らすかどうかを調べるための望ましい候補である。したがってリパーゼ阻害剤に対する応答を、特異的PLA2阻害剤が脂肪の蓄積に及ぼす効果を評価する研究において対象をスクリーニングするためのパラメータとして用いることができる。
オルリスタットの1つの副作用は、脂肪便である。これはおそらく、便中のトリグリセリド含有量が増大したためであろう。腸内の大量の親油性物質(例えばトリグリセリド)は、糞の基質を破壊し、固くて形がはっきりした便の形成を妨げることができる。そのことは、液体石油ラクタムや油(例えばオリーブ油)が便を柔らかくする効果を持つことによって証明される(Curry、下剤;『医師の処方がいらない薬』、75〜97ページ;アメリカ医薬協会、ワシントンD.C.、1986年)。糞の基質がこのように破壊されると、通常よりは柔らかい便ができ、場合によっては下痢が見られることもある。対象にホスホリパーゼ阻害剤を投与する場合、あるいはホスホリパーゼ阻害剤をリパーゼ阻害剤と組み合わせて投与する場合には、リパーゼ阻害剤だけを投与する場合と比較して便の組成を変化させることができる(例えばトリグリセリドの含有量が低下する)ため、便が固くなる。したがってホスホリパーゼ阻害剤をリパーゼ阻害剤と組み合わせて投与することにより、あるいはリパーゼ阻害剤なしでホスホリパーゼ阻害剤を投与することにより、リパーゼ阻害剤の好ましくない副作用を避けることができる。このような治療戦略によってやはり避けることができる他の副作用としては、油性の斑点、放屁、排便の増加、便失禁、ビタミンAとビタミンDの不足などが挙げられる。ホスホリパーゼ阻害剤を投与された対象からの便サンプルは、ホスホリパーゼ阻害剤を投与した後の任意の時間(例えば1、2、3、4、5、10、15、20、24、48時間またはそれ以上)で特徴づけることができる。
したがってこの明細書には、対象の脂肪の蓄積を減らす方法であって、対象の消化管におけるPLA2G1Bポリペプチドの機能を抑制する分子をその対象に投与する操作を含む方法が記載されている。この明細書には、対象の脂肪の蓄積を減らす方法であって、PLA2G1Bポリペプチドを抑制する分子を対象に投与する操作を含んでおり、その分子を投与した後に対象が激しい下痢を経験することがないか、その分子が、リパーゼ阻害剤が引き起こすよりも軽度の脂肪便を対象に誘導するため、PLA2G1Bポリペプチドの抑制により、対象に蓄積される脂肪が減る方法も記載されている。対象の消化管には、例えば小腸、大腸、胃、膵臓、胆嚢が含まれる。上記分子は化合物であることが多く、その化合物は、対象の血清中での生物学的利用能がそれほど大きくないことがしばしばある。この明細書では、“PLA2G1Bポリペプチドの機能”または“PLA2G1Bポリペプチドの活性”という表現は、例えば、触媒によるリン脂質の加水分解、および/または結合パートナーに対するPLA2G1Bポリペプチドの結合を意味する。化合物は、例えばホスホリパーゼの活性部位においてリン脂質と競合することによって、および/またはプロPLA2G1Bがトリプシンを触媒として開裂して活性形態のPLA2G1Bになることによって、および/またはPLA2G1Bポリペプチドが結合パートナーと相互作用する確率を小さくすることによって、PLA2G1Bの機能を抑制することができる。抑制分子は、後述する方法のうちの任意の方法で投与することができるが、対象に経口投与することが多い。分子は、食前、食中、食後に投与することができる。分子は、液体または固体の投与形態となるように製剤化するとよい。対象には、PLA2G1B機能の阻害剤を投与または自己投与すること、あるいはPLA2G1B機能の阻害剤にリパーゼ阻害剤(例えばオルリスタット)、またはコリパーゼ阻害剤、またはこれらの組み合わせを組み合わせて投与または自己投与することができる。
分子が便の固さに及ぼす効果は、分子を投与した後に対象が激しい下痢を経験するかどうかを調べることで評価でき、リパーゼ阻害剤(例えばオルリスタット)を投与された対象の便の固さと比較するとよい。リパーゼ阻害剤を投与された対象からの便よりも便を固くする分子を複数の対象に対してさらにテストすることがある。分子を投与された対象の一部は激しい下痢を経験しない可能性があり、分子を投与された後に激しい下痢を経験する対象は、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下であろう。ある対象が激しい下痢を経験しているかどうかを調べるため、便サンプルを特徴づけるのに、例えば粘性(例えばピーク力単位、McRorie他、Regul. Toxicol. Pharmacol.、第31巻、59〜67ページ、2000年);空腸の絨毛の高さ、便の重量、便中の脂肪含有量、胆汁酸の含有量(VuoristoとMiettinen、Scand. J. Gastroenterol.、第22巻、289〜294ページ、1987年);トリグリセリド、脂肪酸、リン脂質の含有量を用いるとよい。粘性に関しては、固い便サンプルはピーク力単位(PF)が1300以上になることがあり;柔らかい便サンプルは、600PF以下、500PF以下、400PF以下、300PF以下、200PF以下になることがあり;PLA2G1B阻害剤を対象に投与した後の便サンプルは、600PF以上、700PF以上、800PF以上、900PF以上、1000PF以上、1100PF以上、1200PF以上になることがある。便の脂肪は、Van de Kamer他、J. Biol. Chem.、第177巻、347〜355ページ、1949年に記載されているようにして特徴づけることができ、その範囲は、便100gにつき0.5〜25g(例えば0.5g以上、2g以上、5g以上、10g以上、15g以上、20g以上)になる可能性がある。便の胆汁酸含有量は、Vuoristo他、Gastroenterology、第78巻、1518〜1525ページ、1980年に記載されているようにして特徴づけることができ、その範囲は、PLA2G1B阻害剤を対象に投与した後に0.01〜20mM(例えば0.1mM以上、1mM以上、5mM以上、10mM以上、15mM以上)になる可能性がある。便に含まれる水分は、VuoristoとMiettinenの上記文献に記載されているようにして特徴づけることができ、その範囲は、1日に50〜200g(例えば50g以上、100g以上、150g以上)になる可能性がある。さらに、便の脂肪は、よく知られた方法で定量化すると1日につき2〜7g、すなわち0〜19重量%になり、定性的にはスダン染色テストで評価できる。中性脂肪の通常の範囲は、60滴/HPF以下であり、全脂肪(すなわち中性脂肪、石鹸、脂肪酸)の通常の範囲は、100滴/HPF以下である。
医薬組成物は、予定する投与経路に適合するように製剤化する。投与経路の具体例としては、非経口(例えば静脈内、皮膚内、皮下、口内(例えば吸入)、経皮(局所)、経粘膜、直腸などが挙げられる。非経口、皮膚内、皮下の用途で用いられる溶液または懸濁液は、減菌希釈液(例えば注射用の水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、他の合成溶媒);抗菌剤(例えばベンジルアルコール、メチルパラベン);酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、亜硫酸水素塩);キレート剤(例えばエチレンジアミン四酢酸);緩衝溶液(例えば酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩)、張性を調節するための物質(例えば塩化ナトリウム、デキストロース)を含むことができる。pHは、酸または塩基(例えば塩酸、水酸化ナトリウム)を用いて調節することができる。非経口用調製物は、アンプル、使い捨て注射器、ガラスまたはプラスチックでできた複数用量バイアルの中に封入することができる。
経口組成物は、一般に、不活性な希釈剤または食べられる基剤を含んでいる。治療を目的として経口投与するためには、活性化合物を賦形剤と組み合わせ、錠剤、トローチ、カプセル(例えばゼラチン・カプセル)の形態で使用する。経口用組成物は、うがい薬として使用するための流体基剤を用いて調製することもできる。薬理学的に適合性のある結合剤および/またはアジュバント材料が組成物の一部として含まれていてもよい。錠剤、ピル、カプセル、トローチなどは、以下に示す任意の成分、または性質の似た化合物を含むことができる:結合剤(例えば微結晶セルロース、トラガカントゴム、ゼラチン);賦形剤(例えばデンプン、ラクトース);分解剤(例えばアルギン酸、プリモゲル、コーンスターチ);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステロート);流動促進剤(例えばコロイド状二酸化ケイ素);甘味剤(例えばショ糖、サッカリン);香味剤(例えばペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ・フレーバー)。
注射の用途に適した医薬組成物としては、減菌水溶液(水に溶ける場合)または減菌分散液や、注射可能な減菌溶液または分散液を必要に応じて調製するための減菌粉末などが挙げられる。静脈内投与のための適切な基剤としては、生理食塩水、静菌水、クレモフォアEL(登録商標)(BASF社、パーシパニー、ニュージャージー州)、リン酸緩衝溶液(PBS)などが挙げられる。いずれの場合にも、組成物は減菌状態でなくてはならず、容易に注射器に充填できる程度の流動性を持っていなくてはならない。組成物は、製造条件下と保管条件下で安定でなくてはならず、微生物(例えば細菌や真菌)の汚染作用から保護されていなくてはならない。基剤としては、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)や、これらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒体が可能である。適切な流動性を維持するには、例えばコーティング(例えばレクチン)を利用したり、必要な粒径を維持したり(分散液の場合)、界面活性剤を利用したりするとよい。微生物の作用を防ぐには、さまざまな抗菌剤や抗真菌剤(例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)を用いるとよい。多くの場合、等張剤(例えば糖、ポリアルコール(例えばマンニトール)、ソルビトール、塩化ナトリウム)が組成物に含まれていることが好ましかろう。吸収を遅延させる物質(例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチン)を組成物に含めることにより、注射可能な組成物の吸収時間を長くすることができる。
注射可能な減菌溶液は、必要量の活性化合物と、上記成分のうちの1つまたは組み合わせたものを適切な溶媒の中に入れた後、濾過減菌することによって調製できる。一般に、分散液は、活性成分を、塩基性分散媒体と上記成分の中から選択した必要な他の成分とを含む減菌ビヒクルに組み込むことによって調製する。注射可能な減菌溶液のための減菌粉末の場合には、真空乾燥と凍結乾燥が好ましい調製方法である。この方法により、活性成分と、以前に濾過減菌した溶液からの望ましい追加成分からなる粉末ができる。
吸入によって投与するためには、化合物を、適切な推進剤(例えば二酸化炭素などのガスや、噴霧剤)を含む加圧容器またはディスペンサーからエーロゾル・スプレーの形態で供給する。
経粘膜手段または経皮手段によって全身投与することもできる。経粘膜投与または経皮投与するためには、障壁を透過させるのに適した浸透剤を製剤中で使用する。そのような浸透剤は一般に従来技術で知られており、例えば経粘膜投与の場合には、洗浄剤、胆汁塩、フシジン酸誘導体などである。経粘膜投与は、鼻腔スプレーまたは坐薬によって実現することができる。経皮投与するには、一般に従来技術で知られているように、活性成分を軟膏、ゲル、クリームの形態にする。分子は、坐薬(例えばココアバターやそれ以外のグリセリドといった従来からある坐薬ベースを用いる)または持続浣腸の形態に調製して直腸から供給することもできる。
一実施態様では、活性分子は、体内から化合物が急速に排泄されるのを防ぐ基剤(例えばインプラントやマイクロカプセル式送達システムなどの制御放出製剤)を用いて調製する。生体分解性、生体適合性のあるポリマーとして、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ酢酸を使用することができる。このような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。材料は、アルザ社やノヴァ・ファーマシューティカルズ社から市販されているものを入手できる。リポソーム懸濁液(モノクローナル抗体がウイルス抗原に取り付いた感染細胞を標的とするリポソームを含む)も、薬理学的に許容可能な基剤として用いることができる。リポソーム懸濁液は、当業者に公知の方法に従って調製することができる。その方法は、例えばアメリカ合衆国特許第4,522,811号に記載されている。
容易に投与できるようにするため、また用量が均一になるようにするため、経口組成物または非経口組成物は単位用量の形態にすることが望ましい。この明細書では、単位用量の形態とは、治療する対象の1回分の用量として適した、物理的に分離した単位を意味する。それぞれの単位には、望む治療効果が生じるように計算した所定量の活性化合物と、必要な薬理学的基剤が含まれている。
このような化合物の毒性と治療効果は、培養細胞または実験動物で標準的な薬理学的手続きを行なうことによって調べられる。例えばLD50(全体の50%が死亡する用量)やED50(全体の50%に治療効果がある用量)を測定する。毒性効果と治療効果の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表わされる。治療指数が大きな分子が好ましい。毒性副作用を示す分子も使用できるとはいえ、非感染細胞に対する潜在的なダメージを最少にし、その結果として副作用を減らすため、そのような分子を感染部位に向ける送達システムを注意深く設計する必要がある。
細胞培養アッセイと動物の研究で得られたデータを利用し、ヒトで使用するための用量の範囲を決めることができる。このような分子の用量は、毒性がわずかであるか存在しないようなED50が含まれる循環濃度の範囲にすることが好ましい。用量は、利用する製剤の形態や投与経路に応じてこの範囲で変えることができる。本発明の方法で利用するどの分子でも、治療に有効な用量は、まず最初に細胞培養アッセイで決めることができる。用量は、細胞培養物で決めたIC50(すなわち半数で症状を抑制するテスト化合物の濃度)を含む循環血漿濃度がモデル動物で実現されるように決めることができる。このような情報を利用し、ヒトで有効な用量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば高性能液体クロマトグラフィで測定することができる。
この明細書では、治療に有効な量(すなわち有効用量)のタンパク質またはポリペプチドは、体重1kgにつき約0.001〜30mgである。この値は、体重1kgにつき約0.01〜25mgのことがあり、約0.1〜20mgであることが多く、約1〜10mg、2〜9mg、3〜8mg、4〜7mg、5〜6mgのことのほうが多い。タンパク質またはポリペプチドは、一週間に1回、約1〜10週間にわたって、時には2〜8週間にわたって、しばしば約3〜7週間にわたって、それよりも多くの場合に約4、5、6週間にわたって投与するとよい。当業者であれば、いくつかの因子(例えば、対象の疾患または症状の程度、以前の治療、一般的な健康状態、年齢、存在している他の疾患)が、対象を効果的に治療するのに必要な用量とタイミングに影響を与える可能性のあることが理解できよう。さらに、治療に有効な量のタンパク質、ポリペプチド、抗体を用いた対象の治療には、1回だけの治療と複数回の治療が含まれるが、後者が好ましい。
ポリペプチド製剤に関しては、この明細書において、対象の脂肪の蓄積を減らす、あるいはNIDDMを治療する方法であって、(a)配列番号1のポリヌクレオチド配列;(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列;(c)配列番号1のヌクレオチド配列と90%以上同一のポリヌクレオチド配列、または配列番号2のアミノ酸配列と90%以上同一のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列;(d)上記ポリヌクレオチド配列いずれかの断片;からなるグループの中から選択したポリヌクレオチド配列を含むPLA2G1Bヌクレオチド配列によってコードされているPLA2G1Bタンパク質を、そのPLA2G1Bタンパク質を必要としている対象の1個以上の細胞と接触させる操作を含んでおり、対象の1個以上の細胞にPLA2G1Bタンパク質を接触させるこの操作により、脂肪の蓄積が減少する、および/または肥満が緩和する、および/またはNIDDMが緩和する方法が記載されている。PLA2G1Bタンパク質は、脂肪の蓄積、および/または肥満、および/またはNIDDMのリスクがあると予想される対象、あるいは肥満またはNIDDMであると診断された対象に対し、生体内投与する(例えば対象に注射する)、生体外投与する(例えば対象からの細胞をペトリ皿の中でこのタンパク質と接触させた後、接触させた細胞を対象に戻す)、試験管内投与する(例えば対象からの細胞をペトリ皿の中でこのタンパク質と接触させ、そのタンパク質がその細胞に及ぼす効果を観察する)ことがしばしばある。対象は、ヒトであることが多い。
抗体に関しては、用量として、体重1kgにつき0.1mg(一般に10〜20mg)にすることが多い。抗体を脳内で作用させる場合には、体重1kgにつき50〜100mgという用量が適切であることが多い。一般に、部分的ヒト抗体と完全ヒト抗体は、ヒトの体内における半減期が他の抗体よりも長い。したがって用量をより少なくし、投与回数をより少なくすることがしばしば可能である。脂質化などの修飾を利用して抗体を安定化させ、取り込みと組織(例えば脳)への浸透を増大させることができる。抗体を脂質化する方法は、Cruikshank他、J. Acquired Immune Deficiency Syndromes and Human Retrovirlogy、第14巻、193ページ、1997年に記載されている。
抗体共役体を利用して所定の生物学的応答を変化させることができる。例えば薬剤部分としては、望む生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドが可能である。そのようなタンパク質としては、例えば毒素(例えばアブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、ジフテリア毒素);ポリペプチド(例えば腫瘍壊死因子、α-インターフェロン、β-インターフェロン、神経成長因子、血小板由来増殖因子、組織プラスミノーゲン・アクチベータ);生物学的応答調節剤(例えばリンホカイン、インターロイキン-1(“IL-1”)、インターロイキン-2(“IL-2”)、インターロイキン-6(“IL-6”)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(“GM-CSF”)、顆粒球コロニー刺激因子(“G-CSF”)、あるいは他の増殖因子)などが挙げられる。抗体を第2の抗体と共役させて抗体ヘテロ共役体を形成することもできる。これについては、Segalによるアメリカ合衆国特許第4,676,980号に記載されている。
化合物に関しては、具体的な用量は、対象またはサンプルの体重1kgにつき化合物がmg〜μgのオーダーにする。例えば、体重1kgにつき約1μg〜約500mg、約100μg〜約5mg、約1μg〜約50μgにする。小分子の適切な用量は、変化させる発現または活性に対してその小分子が及ぼす効果に依存することが理解されよう。1種類以上の小分子を動物(例えばヒト)に投与して本発明のポリペプチドまたは核酸の発現または活性を調節する場合には、内科医、獣医、研究者は、例えばまず最初は比較的低用量を処方し、その後用量を大きくして最終的に適切な応答が得られるようにするとよい。さらに、対象が特定の動物である場合の具体的な用量レベルは、さまざまな因子(例えば使用する具体的な化合物の活性、対象の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時刻、投与経路、排泄速度、他の薬剤との組み合わせ、調節する発現または活性の程度)に依存することが理解されよう。
PLA2G1B核酸分子をベクターに挿入し、脂肪の蓄積を減らしたりNIDDMを治療したりするための遺伝子治療で用いることができる。この明細書には、対象の脂肪の蓄積を減らす、および/または肥満を緩和する、および/またはNIDDMを緩和する方法であって、(a)配列番号1のポリヌクレオチド配列;(b)配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列;(c)配列番号2のアミノ酸配列と90%同一のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列、または配列番号1のヌクレオチド配列と90%同一のポリヌクレオチド配列;(d)上記ポリヌクレオチド配列いずれかの断片;からなるグループの中から選択したポリヌクレオチド配列を含むPLA2G1B核酸を、そのPLA2G1B核酸を必要としている対象の1個以上の細胞と接触させる操作を含んでおり、対象の1個以上の細胞にPLA2G1B核酸を接触させるこの操作により、脂肪の蓄積が減少する、および/または肥満が緩和する、および/またはNIDDMが緩和する方法が記載されている。PLA2G1B核酸は、脂肪が蓄積するリスクを有することが予想される対象、あるいは肥満またはNIDDMであると診断された対象に対し、生体内投与、生体外投与、試験管内投与することがしばしばある。対象は、ヒトであることが多い。
遺伝子治療用のベクターは、例えば静脈内注射、局所的投与(アメリカ合衆国特許第5,328,470号を参照のこと)、定位注射(例えばChen他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第91巻、3054〜3057ページ、1994年を参照のこと)によって対象に供給することができる。遺伝子治療用ベクターの医薬調製物は、許容可能な希釈剤に入れた遺伝子治療用ベクターを含むこと、あるいは遺伝子送達ビヒクルを埋め込んだ徐放性マトリックスを含むことができる。完全な遺伝子送達ベクター(例えばレトロウイルス・ベクター)を組み換え細胞から製造できる場合には、医薬調製物は、その遺伝子送達系を生み出す1個以上の細胞を含むことができる。遺伝子送達ベクターの具体例がこの明細書に記載されている。
医薬組成物は、容器、パック、ディスペンサーに入れ、投与の説明書をつけることができる。
活性成分を含む医薬組成物は、脂肪の蓄積を減らすため、またはNIDDMを治療するための治療法と予防法を実施するため、この明細書に記載した任意の経路で投与することができる。予防法と治療法の両方に関し、この明細書に記載した薬理ゲノミクス分析から得られた知見に基づいてそのような方法を個別に調整または変化させることができる。この明細書では、“治療”という用語は、疾患、症状、疾患の傾向を有する患者に、そのような疾患、症状、疾患の傾向の治癒、回復、軽減、緩和、変化、修復、改善、向上、操作を目的として治療薬を適用または投与すること、あるいはそのような患者から単離した組織または細胞系に治療薬を適用または投与することと定義する。治療薬としては、小分子、ペプチド、抗体、リボザイム、アンチセンス・オリゴヌクレオチドなどが挙げられる。
予防薬の投与は、PLA2G1Bの異常に特徴的な症状が現われる前に行ない、疾患または症状が予防される、あるいはその進行が遅れるようにするとよい。PLA2G1Bの異常がどのようなタイプであるかに応じ、例えばPLA2G1B分子、PLA2G1Bアゴニスト剤、PLA2G1Bアンタゴニスト剤のいずれかを用いて対象を治療することができる。適切な薬剤は、この明細書に記載したスクリーニング・アッセイに基づいて決定することができる。
すでに説明したように、PLA2G1Bの異常をうまく治療するには、標的遺伝子産物の発現または活性を抑制するのに役立つ方法を利用するとよい。例えば負の調節活性を示す化合物(例えば上記のアッセイを利用して同定した薬剤またはsiRNA分子)を本発明に従って用いて脂肪の蓄積または糖尿病を予防および/または改善することができる。そのような分子としては、ペプチド、リンペプチド、有機小分子、無機小分子、抗体(例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、抗特発性抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fab発現ライブラリの断片、F(ab')2発現ライブラリの断片、Fab発現ライブラリの断片、scFv分子とそのエピトープ結合断片)などが挙げられる。
さらに、標的遺伝子の発現を抑制するアンチセンス分子やリボザイム分子を本発明に従って用いて標的遺伝子の発現レベルを低下させることにより、標的遺伝子の活性レベルを効果的に低下させることができる。さらに、三重螺旋分子を用いて標的遺伝子の活性レベルを低下させることもできる。アンチセンス分子、リボザイム分子、三重螺旋分子についてはすでに説明した。
アンチセンス分子、リボザイム分子、三重螺旋分子を用いると突然変異遺伝子の発現が抑制されることを利用して、正常な標的遺伝子の対立遺伝子によって産生されるmRNAの転写(三重螺旋)および/または翻訳(アンチセンス、リボザイム)を減少させ、あるいは抑制し、存在する正常な標的遺伝子産物の濃度が、正常な表現型に必要な濃度よりも少なくすることも可能である。このような場合、正常な標的遺伝子の活性を示す標的遺伝子のポリペプチドをコードまたは発現する核酸分子を遺伝子治療法によって細胞内に導入することができる。標的遺伝子が細胞外ポリペプチドをコードしている場合には、正常な標的遺伝子のポリペプチドを同時に細胞または組織に投与し、細胞または組織の標的遺伝子に必要とされる活性レベルが維持されるようにすることが好ましい。
PLA2G1B遺伝子の発現は、二本鎖RNA(dsRNA)を導入してRNA干渉(すなわちRNAiと呼ばれる強力かつ特異的な遺伝子サイレンシングという現象)を誘導することによって抑制できることがある。例えばFire他、アメリカ合衆国特許第6,506,559号;Tuschl他、PCT国際公開番号WO 01/75164;Kay他、PCT国際公開番号WO 03/010180A1;Bosher J.M., Labouesse、Nat. Cell Biol.、第2巻(2)、E31〜36ページ、2000年2月を参照のこと。この方法は、急性期の応答(すなわち、しばしば細胞死に至る宿主の防御メカニズム)を開始させることなく哺乳動物の細胞内の遺伝子を“スイッチ・オフ”にする二本鎖RNAのサイズを(低分子干渉RNA、すなわちsiRNAを作るために)20〜24塩基対に減らすことによって改善されてきた。例えばCaplen他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第98巻(17)、9742〜9747ページ、2001年8月14日と、Elbashir S.M.他、Methods、第26巻(2)、199〜213ページ、2002年2月を参照のこと。
哺乳動物の細胞内においてmRNAのレベルで特定の発現を抑制する際に、RNA干渉(RNAi)による転写後遺伝子サイレンシングがヒト細胞で効果的であるという証拠が増えてきている。ヒト患者において腫瘍細胞の増殖と移動を抑制するのに効果的な方法であること、転移したがんの成長を抑制するのに効果的な方法であることを示す追加の証拠も存在している。例えばアメリカ合衆国特許出願第US2001000993183号;Caplen, N.J.他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA;Abderrahmani, A.他、Mol. Cell. Biol.、第21巻(21)、7256〜7267ページ、2001年11月を参照のこと。
“siRNA”または“RNAi”は、二本鎖を形成する核酸であって、siRNAが遺伝子または標的遺伝子と同じ細胞内に供給される場合や、遺伝子または標的遺伝子と同じ細胞内で発現した場合に、その遺伝子または標的遺伝子の発現を低下させる、あるいは抑制する能力を有するものを意味する。したがって“siRNA”は、互いに相補的な鎖によって形成される短い二本鎖RNAを意味する。ハイブリダイズして二本鎖分子を形成するsiRNAの相補的な部分は、標的分子配列と実質的に一致、あるいは完全に同一のことがしばしばある。一実施態様では、siRNAは、標的遺伝子と実質的に一致、あるいは完全に一致し、二本鎖siRNAを形成する核酸(例えば配列番号1のヌクレオチド配列)を意味する。
siRNA分子を設計するときには、開始コドンの下流50〜100ntから始まる所定のDNA配列の中から標的とする領域を選択することがしばしばある。例えばElbashir他、Methods、第26巻、199〜213ページ、2002年を参照のこと。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体がsiRNAまたはRISCエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性があると仮定し、最初は5'UTRまたは3'UTRと、開始コドン近傍の領域を避けた。配列モチーフAA(N19)TT(Nは1個のヌクレオチド)に合致する長さが23ヌクレオチドの標的領域が時に選択され、G/C含有量が約30%〜70%(多くの場合に50%)の領域がしばしば選択される。適切な配列が見つからない場合には、モチーフNA(N21)を用いて検索をさらに行なうことがしばしばある。センスsiRNAの配列は、(N19)TTまたはN21(ヌクレオチドが23個のモチーフの位置3〜23)にそれぞれ対応することがある。後者の場合、センスsiRNAの3'末端はしばしばTTに変換される。この配列変換の理由は、センスとアンチセンスの3'突起部の配列組成に関して対称な二本鎖を生成させるためである。アンチセンスsiRNAは、ヌクレオチドが23個のモチーフの位置1〜21に対する相補体として合成される。ヌクレオチドが23個のモチーフの位置1はアンチセンスsiRNAによって配列特異的であるとは認識されないため、アンチセンスsiRNAの3'末端のヌクレオチド残基は自由に選択することができる。しかしアンチセンスsiRNAの最後から2番目のヌクレオチド(ヌクレオチドが23個のモチーフの位置2と相補的である)は標的とする配列と相補的であることがしばしばある。化学合成を簡単にするため、TTがしばしば用いられる。標的モチーフNAR(N17)YNN(Rはプリン(A、G)であり、Yはピリミジン(C、U)である)に対応するsiRNAがしばしば選択される。21個のヌクレオチドからなるセンスsiRNAとアンチセンスsiRNAのどちらもプリン・ヌクレオチドから始まることがしばしばあり、標的部位を変化させることなくpol III発現ベクターから発現させることもできる。pol IIIプロモータからのRNAの発現は、最初に転写されるヌクレオチドがプリンである場合に有効であることがしばしばある。
siRNAの配列は、完全長標的遺伝子またはその部分配列に対応させることができる。siRNAは、しばしば長さがヌクレオチド約15〜約50個である(例えば二本鎖siRNAの各相補配列は長さがヌクレオチド15〜50個であり、二本鎖siRNAは長さが約15〜50塩基対であり、時にヌクレオチド約20〜30個または約20〜25個、例えば20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個である)。siRNAは、しばしば長さがヌクレオチド約21個になっている。siRNAの使用法は従来技術でよく知られており、特異的siRNA分子を多くの企業(例えばダーマコン・リサーチ社)から購入することができる。
PLA2G1Bの発現を特徴とする疾患の治療または予防に核酸分子を用いる別の方法は、PLA2G1Bポリペプチドに対して特異的なアプタマー分子を利用する方法である。アプタマーは、ポリペプチド・リガンドに特異的に結合できる三次構造を持った核酸分子である(例えばObsorne他、Curr. Opin. Chem. Biol.、第1巻(1)、5〜9ページ、1997年;Patel, D.J.、Curr. Opin. Chem. Biol.、第1巻(1)、32〜46ページ、1997年6月を参照のこと)。多くの場合、核酸分子は治療用ポリペプチド分子よりも標的細胞に簡単に導入することができるため、アプタマーは、いろいろな効果を持つ可能性のある薬剤や他の分子を導入することなくPLA2G1Bポリペプチドの活性を特異的に低下させることのできる方法を提供する。
標的遺伝子産物に対して特異的であると同時に標的遺伝子産物の活性を低下させる抗体を生成させることができる。したがってそのような抗体は、PLA2G1B疾患の治療に負の調節技術が適している場合に投与するとよい。抗体の説明に関しては、上記の「抗体」のセクションを参照のこと。
対象である動物またはヒトにPLA2G1Bポリペプチドまたはエピトープを注射して抗体の産生を促進することがその対象にとって害をもたらす場合には、抗特発性抗体を用いてPLA2G1Bに対する免疫応答をさせることができる(例えばHerlyn, D.、Ann. Med.、第31巻(1)、66〜78ページ、1999年;Bhattacharya-Chatterjee, M.とFoon, K.A.、Cancer Treat. Res.、第94巻、51〜68ページ、1998年を参照のこと)。抗特発性抗体を哺乳動物またはヒトに導入する場合には、PLA2G1Bポリペプチドに対して特異的な抗特発性抗体の産生が促進されるはずである。PLA2G1Bの発現を特徴とする疾患に関するワクチンもこのようにして作ることができる。
標的抗原が細胞内にあり、抗体全体を利用する場合には、抗体を内部化することが好ましかろう。標的抗原と結合する抗体またはFab領域のフラグメントを細胞内に送り込むには、リポフェクチンまたはリポソームを用いることができる。抗体のフラグメントを用いる場合、標的抗原と結合する最小の抑制フラグメントが好ましい。例えば抗体のFv領域に対応するアミノ酸配列を有するペプチドを用いることができる。あるいは細胞内標的抗原と結合する一本鎖中性抗体も投与することができる。このような一本鎖抗体を投与し、標的細胞集団の中で一本鎖抗体をコードしているヌクレオチド配列を発現させることができる(例えばMarasco他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第90巻、7889〜7893ページ、1993年を参照のこと)。
標的遺伝子の発現、合成、活性を抑制するPLA2G1B分子や化合物を、PLA2G1B疾患の予防、治療、改善に有効な量だけ患者に投与することができる。治療に有効な量とは、疾患の症状を改善するのに十分な量を意味する。
このような化合物の毒性と治療効果は、培養細胞または実験動物で標準的な薬理学的手続きを行なうことによって調べられる。例えばLD50(全体の50%が死亡する用量)やED50(全体の50%に治療効果がある用量)を測定する。毒性効果と治療効果の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表わされる。治療指数が大きな化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物も使用できるとはいえ、非感染細胞に対する潜在的なダメージを最少にし、その結果として副作用を減らすため、そのような化合物を感染部位に向ける送達システムを注意深く設計する必要がある。
細胞培養アッセイと動物の研究で得られたデータを利用し、ヒトで使用するための用量の範囲を決めることができる。このような化合物の用量は、毒性がわずかであるか存在しないようなED50が含まれる循環濃度の範囲にすることが好ましい。用量は、利用する製剤の形態や投与経路に応じてこの範囲で変えることができる。本発明の方法で利用するどの化合物でも、治療に有効な用量は、まず最初に細胞培養アッセイで決めることができる。用量は、細胞培養物で決めたIC50(すなわち半数で症状を抑制するテスト化合物の濃度)を含む循環血漿濃度がモデル動物で実現されるように決めることができる。このような情報を利用し、ヒトで有効な用量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば高性能液体クロマトグラフィで測定することができる。
個人にとって有効な用量の決定に関する別の具体例は、テスト対象の血清に存在する“遊離”化合物と“結合した”化合物のレベルを直接調べる能力である。このようなアッセイでは、分子インプリンティング技術によって作り出した抗体ミミックおよび/または“バイオセンサー”を利用することができる。PLA2G1Bの活性を変化させることのできる化合物を鋳型または“インプリンティング分子”として使用して重合可能なモノマーを空間的に組織した後、触媒を用いて重合させる。次に、インプリントされた分子を除去すると化合物の“ネガ画像”が繰り返されたポリマー・マトリックスが残るため、生物学的なアッセイ条件下で分子を選択的に再結合させることができる。この方法に関する詳しい概説は、Ansell, R.J.他、Current Opinion in Biotechnology、第7巻、89〜94ページ、1996年と、Shea, K.J.、Trends in Polymer Science、第2巻、166〜173ページ、1994年に見ることができる。このような“インプリントされた”アフィニティ・マトリックスはリガンド結合アッセイで使用することができ、そのアッセイでは、固定化されたモノクローナル抗体成分が、適切にインプリントされたマトリックスで置換される。このようなマトリックスをこのように使用する一例を、Vlatakis, G.他、Nature、第361巻、645〜647ページ、1993年に見ることができる。同位体標識を利用することにより、PLA2G1Bの発現または活性を変化させる化合物の“遊離”濃度を容易にモニターすることができる。その濃度を用いるとIC50を計算することができる。このような“インプリントされた”アフィニティ・マトリックスは、標的化合物が局所的かつ選択的に結合したときにフォトン放出特性が測定可能な程度に変化する蛍光基を含むように設計することもできる。この変化は、適切な光ファイバー装置を用いてリアルタイムで容易に調べることができる。するとテストする対象における用量をその人のIC50に基づいて素早く最適化することが可能になる。このような“バイオセンサー”の基本的な一例が、Kriz, D.他、Analytical Chemistry、第67巻、2142〜2144ページ、1995年に記載されている。
この明細書には、治療を目的としてPLA2G1Bの発現または活性を調節する方法が記載されている。したがって一実施態様では、本発明による調節方法は、細胞をPLA2G1Bと接触させる操作、あるいはその細胞に関係するPLA2G1Bポリペプチドの1つ以上の活性を変化させる薬剤と接触させる操作を含んでいる。PLA2G1Bポリペプチドの活性を変化させる薬剤としては、この明細書に記載した薬剤が可能である。例えば、核酸またはポリペプチド、PLA2G1Bポリペプチドの天然の標的分子(例えばPLA2G1Bの基質または受容体)、PLA2G1Bに対する抗体、PLA2G1Bのアゴニスト、PLA2G1Bのアンタゴニスト、PLA2G1Bのアゴニストのペプチドミメティック、PLA2G1Bのアンタゴニストのペプチドミメティック、これら以外の小分子などが挙げられる。
一実施態様では、薬剤がPLA2G1Bの1つ以上の活性を増大させる。そのような促進剤の具体例として、活性PLA2G1Bポリペプチド、PLA2G1Bをコードしている核酸分子などが挙げられる。別の実施態様では、薬剤がPLA2G1Bの1つ以上の活性を抑制する。そのような抑制剤の具体例として、アンチセンスPLA2G1B核酸分子、抗PLA2G1B抗体、PLA2G1B阻害剤などが挙げられる。これらの調節方法は、試験管内で(例えば薬剤を用いて細胞を培養することによって)実施すること、あるいは生体内で(例えば薬剤を対象に投与することによって)実施することができる。このように、本発明により、PLA2G1BポリペプチドまたはPLA2G1B核酸分子の異常な発現または活性、あるいは望ましくない発現または活性を特徴とする疾患または異常を抱えた個人を治療する方法が提供される。一実施態様では、この方法は、PLA2G1Bの発現または活性を変化させる(例えば上方調節または下方調節させる)1つの薬剤(例えばこの明細書に記載したスクリーニング・アッセイによって同定された薬剤)または薬剤の組み合わせを投与する操作を含んでいる。別の実施態様では、この方法は、PLA2G1Bの低下した、あるいは異常な、あるいは望ましくない発現または活性を補償するための治療法として、PLA2G1BポリペプチドまたはPLA2G1B核酸分子を投与する操作を含んでいる。
PLA2G1Bが異常に下方調節されている場合、および/またはPLA2G1Bの活性増大が好ましい効果を持つと思われる場合には、PLA2G1Bの活性を増大させることが望ましい。例えばPLA2G1Bが下方調節されている場合、および/またはPLA2G1Bの活性増大が好ましい効果を持つと思われる場合には、PLA2G1Bの活性を増大させることが望ましい。同様に、PLA2G1Bの活性抑制は、PLA2G1Bが異常に上方調節されている場合、および/またはPLA2G1Bの活性低下が好ましい効果を有すると思われる場合に望ましい。
この明細書には、望ましい生物学的応答を個人に誘起または誘導するための方法であって、本発明のポリペプチド、またはその断片、またはこの明細書に記載した治療用製剤を含む組成物を個人に提供または投与するステップを含んでおり、生物学的応答の選択を、
(a)グルコースの循環(血液、血清、血漿のいずれか)レベル(濃度)の調節(この調節は、下方への調節であることが好ましい);
(b)細胞または組織(特に筋肉、脂肪、肝臓、脳)のインスリンに対する感受性の増大;
(c)耐糖能障害からインスリン抵抗性への進行の阻止;
(d)骨格筋細胞におけるグルコース取り込みの増大;
(e)脂肪細胞におけるグルコース取り込みの増大;
(f)神経細胞におけるグルコース取り込みの増大;
(g)赤血球細胞におけるグルコース取り込みの増大;
(h)脳におけるグルコース取り込みの増大;
(i)食事、特に炭水化物の多い食事をした後の血漿グルコース増大の有意な低下
からなるグループの中から行なう方法が記載されている。さらに別の好ましい実施態様では、薬理学的または生理学的に許容可能な組成物をインスリン増感剤として用いるとよい。
さらに別の好ましい実施態様では、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)を患っている一部の人に関してインスリン感受性を改善する方法において、薬理学的または生理学的に許容可能な組成物をインスリン療法と組み合わせて使用することができる。
さらに別の好ましい実施態様では、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)を患っている一部の人に関してインスリン感受性を改善する方法において、薬理学的または生理学的に許容可能な組成物をインスリン療法なしで使用することができる。
さらに別の好ましい実施態様では、この明細書に記載した薬理学的または生理学的に許容可能な組成物を、妊娠糖尿病の人を治療する方法で使用する。妊娠糖尿病とは、妊娠中(通常は、妊娠を3期に分けたときの第2期または第3期)に進行する糖尿病を意味する。
さらに別の好ましい実施態様では、この明細書に記載した薬理学的または生理学的に許容可能な組成物を、空腹時グルコース障害(IFG)の人を治療する方法で使用することができる。空腹時グルコース障害(IFG)とは、空腹時のグルコース・レベルが高いが、明らかな糖尿病であるとは診断されない状態(すなわち血漿グルコースのレベルが126mg/dl未満かつ110mg/dl以上)を意味する。
さらに別の好ましい実施態様では、この明細書に記載した薬理学的または生理学的に許容可能な組成物を、ある人の耐糖能障害(IGT)を治療または予防する方法で使用することができる。IGTを軽減または予防する治療薬と方法、すなわちインスリン抵抗性を正常化するための治療薬と方法を提供することにより、NIDDMへと進行するのを遅延させる、あるいは予防することができる。さらに、インスリン抵抗性を軽減または予防するための治療薬と方法を提供することにより、インスリン抵抗性症候群の出現を軽減および/または予防する方法が本発明により提供される。
さらに別の好ましい実施態様では、この明細書に記載した薬理学的または生理学的に許容可能な組成物を、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の患者を治療するための方法で使用することができる。PCOSは、更年期前の女性で最も一般的な疾患の1つであり、その年齢層の女性の5〜10%に見られる。インスリン増感剤(例えばトログリタゾン)は、PCOSに有効であることがわかっているほか、特に、ヒトのインスリン抵抗性などにおいて、インスリン作用、インスリン分泌、卵巣ステロイド生成、フィブリン溶解の欠陥を改善することがわかっている(Ehrman他、J. Clin. Invest.、第100巻、1230ページ、1997年)。したがって本発明により、インスリン抵抗性を小さくして血中グルコースを正常化することで、PCOSを治療および/または予防する方法が提供される。
さらに別の好ましい実施態様では、この明細書に記載した薬理学的または生理学的に許容可能な組成物を、インスリン抵抗性を有する対象を治療するための方法で使用することができる。
さらに別の好ましい実施態様では、インスリン抵抗性を有する対象を、インスリン抵抗性を小さくする、あるいは治癒させるための本発明による方法に従って治療する。インスリン抵抗性は感染症やがんと関係していることもしばしばあるため、インスリン抵抗性を本発明の方法により予防または軽減すると、感染症やがんが予防または改善される可能性がある。
さらに別の好ましい実施態様では、本発明の方法を利用し、対象(例えばインスリン抵抗性が進行するリスクが大きいことがわかっている対象)におけるインスリン抵抗性の進行を予防する。
したがって、上記のテスト、または従来技術で知られている他のテストを利用して対象がインスリン抵抗性を有することを明らかにすることにより、本発明の方法に従って治療した場合にどの患者のインスリン抵抗性を軽減または治癒させることが可能であるかがわかる。本発明の方法を利用して対象(例えばインスリン抵抗性が進行するリスクが大きいことがわかっている対象)におけるインスリン抵抗性の進行を予防することもできる。
以下に示す実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明がその実施例に限定されることはない。
〔実施例〕
以下に示す研究では、脂肪の蓄積に関係する特別なパラメータに従って対象群を選択する。テスト群に含まれる個人から採取した核酸サンプルに対して遺伝子分析を行なった。すると中心肥満と、第12染色体上のPLA2G1B遺伝子に含まれるいくつかの多型領域の間に関係のあることがわかった。中心肥満と関係していることが明らかにされた多型変異が糖尿病の進行とも関係しているかどうかを明らかにするため、その多型変異をNIDDMである対象についてさらにスクリーニングした。PLA2G1BポリペプチドとPLA2G1Bポリペプチド変異体を試験管内と生体内で産生させる方法を説明する。PLA2G1B核酸またはPLA2G1Bポリペプチドとその変異体を利用してテスト分子をスクリーニングし、その中からPLA2G1B分子と相互作用する分子を探す。PLA2G1B分子およびPLA2G1B変異体と相互作用することが明らかになったテスト分子を生体内でさらにスクリーニングし、そのテスト分子が脂肪の蓄積を減らしたりNIDDMを治療したりできるかどうかを調べる。