JP2006326639A - マルエージング鋼の製造方法 - Google Patents

マルエージング鋼の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 鋼塊重量で800kg以上の大型鋼塊を一回の溶解で製造してもTiNを微細に制御することが可能なマルエージング鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】 重量が800kg以上のマルエージング鋼鋼塊の製造方法であって、断面が長方形で、鋼塊頂部における鋼塊の長辺長さ及び短辺長さをそれぞれWt1,Wt2とし、鋼塊底部における鋼塊の長辺長さ及び短辺長さをそれぞれWb1,Wb2とし、鋼塊高さをHとするとき、扁平比F=Wt1/Wt2が1.5を超え、短辺方向テーパーT2=(Wt2−Wb2)×100/Hが5〜25%、長辺方向テーパーT1=(Wt1−Wb1)×100/Hが0〜10%となる鋳型を用いてマルエージング鋼の溶湯を鋳造するマルエージング鋼の製造方法であり、好ましくは、Wt2が、300m〜600mmであるマルエージング鋼の製造方法である。
【選択図】 図1

Description

本発明はマルエージング鋼の製造方法に関する。
マルエージング鋼は、溶接性、加工性に優れ、高い引張強さをもつため、溶接、加工を施し、高比強度が要求される部材、例えば、自動車用無段変速用部品等の用途に使用されている。
マルエージングは、その名が示す通り、マルテンサイト組織にエージング(時効硬化処理)を施すことで2000MPa前後の非常に高い強度と優れた延性が得られる合金である。その化学組成は、Niを質量%で8〜25%含み、更にMo、Tiを適量含有させ、時効処理を行うことによって、NiMo、NiTi、FeMo等の金属間化合物を析出させて高強度を得ることのできる時効硬化型の超強力鋼である。その代表的な組成には、18%Ni−8%Co−5%Mo−0.45%Ti−0.1%Al−bal.Feが挙げられる。
しかし、マルエージング鋼は、非常に高い引張強度が得られる一方、疲労強度に関しては必ずしも高くない。この疲労強度を劣化させる最大の要因は、マルエージング鋼中に存在する非金属介在物である。
マルエージング鋼中に存在する非金属介在物を微細化するために、一旦溶解して作製した鋼塊(電極)に、真空アーク再溶解等の再溶解を施す二重溶解法を用いた方法が提案されている(例えば、本願出願人の提案による特許文献1参照)。
また、一回の溶解でマルエージング鋼中に存在する非金属介在物を小さくする方法としては、特許文献2に開示されている製造方法がある。この製造方法は浮上分離を有効に利用することができる鋳型(鋼塊)形状を調整することによって、酸化物系介在物の微細化を図れる点で優れている。
特開2003−221627号公報 特開2001−64755号公報
マルエージング鋼は上記のとおり、高価な合金元素を多量に含有する。また、マルエージング鋼が用いられる用途には大きな非金属介在物の存在が問題となる例えば自動車用無段変速用部品等もあり、最近では真空二重溶解が一般的であるが、膨大な熱エネルギーを必要とする溶解を二度行う必要があるため、特許文献1に開示される製造方法を適用すると非常に高コストとなる。
一方、特許文献2に記載の方法では、一回の溶解でマルエージング鋼を製造するため、生産コストの点で有利である。
ところで、マルエージング鋼中の非金属介在物には、大別して、酸化物系介在物とTi主体の炭窒化物系介在物(以下、TiNと呼ぶ)がある。このうち酸化物系介在物は、マルエージング鋼の溶鋼中から存在するため、特許文献2の方法で除去することが可能であるが、TiNは凝固する直前に晶出するため、晶出後に浮上させるための時間がなく、浮上による除去ができ難い。従って、TiNを微細化するためには、TiNが晶出後に粗大成長しないように、凝固時の冷却速度を速くすることが必要である。
そこで発明者等は凝固時の冷却速度を速くする方法について鋭意検討した。先ずは、特許文献2の溶解・鋳造にかかる部分と同様の方法で、種々の鋼塊サイズについて実際に鋼塊を作製し調査したところ、鋼塊サイズが大きくなるほど、TiNが粗大化し、十分に微細なTiNサイズにするためには、鋼塊サイズは、重量で800kg未満の場合に限られた。
高価な合金元素を多量に含むマルエージング鋼をより経済的に生産するには、鋼塊の大型化は避けられない。
本発明の目的は、鋼塊重量で800kg以上の大型鋼塊を製造するにあたり、必ずしも再溶解を行わなくともTiNを微細に制御することが可能なマルエージング鋼の製造方法を提供することである。
本発明者は、鋼塊サイズが重量で800kg以上の大型鋼塊を製造するにあたり、必ずしも再溶解を行わなくともTiNを微細に制御することが可能なマルエージング鋼の製造方法について鋭意検討した。上述のように、TiNを微細化するためには、TiNが晶出後に粗大成長しないように、凝固時の冷却速度を速くすることが必要であり、鋼塊の冷却速度を速め、大型鋼塊であってもTiN微細化が図れる方法を検討したところ、特別な鋳型(鋼塊)形状とすることで800kg以上の鋼塊においてもTiNの微細化がはかれることを見いだし本発明に到達した。
すなわち本発明は、重量が800kg以上のマルエージング鋼鋼塊の製造方法であって、断面が長方形で、鋼塊頂部における鋼塊の長辺長さ及び短辺長さをそれぞれWt1,Wt2とし、鋼塊底部における鋼塊の長辺長さ及び短辺長さをそれぞれWb1,Wb2とし、鋼塊高さをHとするとき、扁平比F=Wt1/Wt2が1.5を超え、短辺方向テーパーT2=(Wt2−Wb2)×100/Hが5〜25%、長辺方向テーパーT1=(Wt1−Wb1)×100/Hが0〜10%となる鋳型を用いてマルエージング鋼の溶湯を鋳造するマルエージング鋼の製造方法である。
好ましくは、Wt2が、300m〜600mmであるマルエージング鋼の製造方法である。
本発明のマルエージング鋼の製造方法を用いると鋼塊サイズが重量で800kg以上の大型鋼塊を一回の溶解で製造してもTiNを微細に制御することが可能であり、高価なマルエージング鋼を経済的に生産することができる。
上述したように、本発明の重要な特徴は、一回の溶解でTiNを微細に制御することが可能となる鋳型(鋼塊)形状として、従来の製造方法では達成できなかった800kg以上の大型鋼塊中のTiNを微細化したことにある。
本発明のマルエージング鋼の製造方法において、鋼塊の鋳型形状を規定した理由は以下のとおりである。
先ず、大型鋼塊であってもTiNの微細化がはかれるのに必要なだけの冷却速度を確保できるような鋳型形状とするには、鋳型の表面積を広くすることができるができる、断面が長方形とした上で、下記の(1)〜(3)の関係を全て満足させる必要がある。
(1)扁平比F=Wt1/Wt2が1.5を超え、
(2)短辺方向テーパーT2=(Wt2−Wb2)×100/Hが5〜25%、
(3)長辺方向テーパーT1=(Wt1−Wb1)×100/Hが0〜10%
Wt1は鋳型の上側の長辺長さであり、Wt2は鋳型の上側の短辺長さである。
Wb1は鋳型の下側の長辺長さであり、Wb2は鋳型の下側の短辺長さである。
Hは鋳型の高さである。
この鋳型を用いて得られた鋼塊は例えば図1に示す形状となる。
上記の(1)〜(3)の関係を全て満足させなければ、800kg以上の大型鋼塊中のTiNの微細化は困難となる。
扁平比F=Wt1/Wt2が1.5以下であれば溶鋼が凝固する時の冷却速度が遅くなり、TiNサイズが10μmを超える大きさとなり易く、鋼塊重量が800kg以上の場合は特に顕著となる。そのため、800kg以上の大型鋼塊であってもTiNを10μm以下に微細化するには扁平比F=Wt1/Wt2は1.5を超える範囲が必要となる。
なお、扁平比Fの上限であるが、扁平比を大きくする方法として、Wt1を長くする方法と、Wt2を短くする方法、これらを組合せる方法がある。
このうち、Wt2を短くする方法は、鋼塊とした後の熱間加工工程や熱処理工程にて酸化皮膜形成や表面研作による滅失分を考慮し、更に引け巣等の鋳造欠陥が生じさせないようにするにはWt2を過度に短くするのは好ましくなく、Wt2の下限を300mmとするのが良い。また、Wt2が長くなり過ぎると、扁平化によるTiN粗大化抑制効果が得られにくくなることから、Wt2の上限を600mmとするのが良い。
本発明においては、Wt2を前述の範囲内として、扁平比を1.5以上とするようにWt1の長さを長くするのが良く、扁平比が大きくなればTiNの微細化効果も向上する。但し、扁平比が3を超えて過度にWt1を長くしても、一層のTiNの微細化効果は望めず、鋼塊中心部に成分偏析領域がWt1の長さ方向に発生し易くなることから、Wt1の長さを600〜1000mmとして、扁平比の上限を3とすると良い。
次に、短辺方向テーパーT2=(Wt2−Wb2)×100/Hが5〜25%、長辺方向テーパーT1=(Wt1−Wb1)×100/Hが0〜10%とした理由について説明する。
短辺方向テーパーT2が5%より小さいと引け巣等の鋳造欠陥が生じるだけでなく、酸化物系介在物を浮上分離により除去し難くなるため、酸化物系介在物を微細にするためには、5%以上にする必要がある。一方、T2が25%を超えると、テーパーが大きくなり過ぎ、鋼塊の頂部の吊り切れ現象の発生があり、また鋳造後に熱間で行う塑性加工の初期では頂部側のみが加工され、底部側の加工に入る時点で底部側の温度低下が大きくなり、割れの発生原因となるため、T2の上限を25%、好ましくは20%、更に好ましくは15%とする。
長辺方向テーパーT1が0未満の場合、鋳造後の凝固収縮により表面に欠陥が生じ易くなり、鋳造後に行う熱間加工性での割れの発生原因になるためT1は0以上が必要である。一方、T1が10%を超えるとスラブの幅調整に工数を要するため、10%以下にする必要がある。好ましい範囲は、5%以下である。
上述した鋳型を用いて鋼塊を製造すれば、鋼塊サイズが重量で800kg以上の大型鋼塊を一回の溶解で製造してもTiNを微細に制御することが可能であり、高価なマルエージング鋼を経済的に生産することができる。
なお、鋳型へのマルエージング鋼溶鋼の注ぎ方は、上から直接注いでも、耐火物製の注入管を通して下から注いでも良いが、鋼塊肌を良好にするためには下から注ぐのが良い。また、上から注ぐ場合は鋼塊肌が悪くなり易いが、耐火物製の注入管との接触がなく、耐火物の剥離による耐火物の混入が生じないという利点がある。
これらの注湯工程は、注湯中の窒素や酸素の上昇を防止することで非金属介在物品位を安定化できる真空中もしくはアルゴン等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
溶解原料を真空誘導溶解炉で溶解した後に、Al,Ti添加を含む成分調整を行い、鋳型A〜Fに鋳造し、鋼塊A〜Fを得た。
なお、鋳造は、マルエージング鋼溶鋼を耐火物製の注入管を通して、下からから注ぎ、400kg〜4800kg鋼塊までの重量で6種類の鋼塊を製造した。ここで、鋳造時の雰囲気は、注入管内、鋳型内を含め全てアルゴン雰囲気とした。
鋳型A〜Fの形状を表1に、鋳型A〜Fで製造した鋼塊A〜Fの化学組成を表2に示す。なお、それぞれの鋳型では、引け巣の防止を目的に、鋼塊頂部の更に上側に鋼塊重量の約10%に相当する押し湯部を設けた。
Figure 2006326639
Figure 2006326639
鋳型A〜Fで製造した鋼塊A〜Fにおいて、押し湯部を切断後に鋼塊重量を測定し、鋼塊頂部から、TiNサイズ測定用試料を採取した。
TiNサイズ用試料としては、鋼塊頂部の対角線を4等分する3箇所から、直径5mmのドリルにより、各5gの切削粉を採取し、計15gの切削粉を得た。そして、切削粉を混酸(水:塩酸:硝酸=2:1:1)にて溶解した後、直径5μm以上の粒子がろ過可能なフィルターにて抽出し、フィルターを乾燥させた。その後、フィルター全面を走査型電子顕微鏡にて観察し、TiNについて面積を測定した。そして、面積が最も大きなTiNと同一面積をもつ真円の直径を、TiNサイズとして評価した。
こうして得られた鋳型A〜Fで製造した鋼塊A〜Fの鋼塊重量とTiNサイズを図2にプロットする。
図2の結果から、鋳型A〜Fで製造した鋼塊A〜Fは、化学成分としては同様であるが、本発明方法を用いた鋳型A〜Cで製造した鋼塊A〜Cの場合は、同様の鋼塊サイズで、従来の方法より格段にTiNサイズを微細にすることが可能である。
また、TiNサイズ評価用の試料で酸化物系介在物についても観察したが、円相当径で10μm以上の酸化物系介在物は観察されなかった。
マルエージング鋼のように、Tiを含む鋼においては、微細なTiNを維持したまま重量で800kg以上に鋼塊サイズを大きくすることができ、本発明の方法は有効である。
そして本発明によると、マルエージング鋼を再溶解を行わなくとも大型鋼塊を製造することが可能であることから、効率的かつ経済的に高品質なマルエージング鋼を提供することが可能である。
本発明の鋳型を用いて製造される鋼塊の一例を示す模式図である。 鋼塊重量とTiNサイズを示す図である。

Claims (2)

  1. 重量が800kg以上のマルエージング鋼鋼塊の製造方法であって、断面が長方形で、鋼塊頂部における鋼塊の長辺長さ及び短辺長さをそれぞれWt1,Wt2とし、鋼塊底部における鋼塊の長辺長さ及び短辺長さをそれぞれWb1,Wb2とし、鋼塊高さをHとするとき、扁平比F=Wt1/Wt2が1.5を超え、短辺方向テーパーT2=(Wt2−Wb2)×100/Hが5〜25%、長辺方向テーパーT1=(Wt1−Wb1)×100/Hが0〜10%となる鋳型を用いてマルエージング鋼の溶湯を鋳造することを特徴とするマルエージング鋼の製造方法。
  2. Wt2が、300m〜600mmであることを特徴とする請求項1に記載のマルエージング鋼の製造方法。
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