JP2006314326A - 植物のラフィノース族オリゴ糖含量を低減させる方法 - Google Patents

植物のラフィノース族オリゴ糖含量を低減させる方法 Download PDF

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Abstract

【課題】植物のラフィノース族オリゴ糖含量を低減させる方法を提供する。
【解決手段】下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNAの、植物細胞で転写されたときに内在性ラフィノース合成酵素の発現を抑制する断片に、植物細胞で発現可能な転写領域が連結されているキメラ遺伝子で植物を形質転換し、この遺伝子を植物細胞内で発現させることにより、前記植物のラフィノース族オリゴ糖含量を低減させる方法。(A)特定のアミノ酸配列を有するタンパク質。(B)特定のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、スクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する活性を有するタンパク質。
【選択図】なし

Description

本発明は、ラフィノース合成酵素、ラフィノース合成酵素もしくはラフィノース合成酵素を含む細胞抽出物を用いたラフィノースを合成する方法、ラフィノース合成酵素をコードするDNA、及びこのDNAの植物における利用に関する。ラフィノースは、ビフィズス菌増殖活性を有し食品原料として、あるいは臓器保存液などの医薬品として様々な分野で利用されている.
ラフィノースは、スクロースのグルコシル基にガラクトースがα−1,6結合したラフィノース族オリゴ糖の一つである。ラフィノース属オリゴ糖には、ラフィノースの他に、ガラクトースが2つ結合したスタキオース、3つ結合したベルバスコースなどがある。これらの糖は、豆類、ナタネ、綿実など様々な植物の種子中の貯蔵糖と、キュウリやメロンなどウリ科植物にみられる転流糖として、また耐冷性を獲得したロゼット葉、甜菜(サトウダイコン)など植物に広く存在する。
ラフィノース族オリゴ糖の生合成は、次のようであり、
UDP-ガラクトース + ミオイノシトール → ガラクチノール + UDP・・・(a)
ガラクチノール → ラフィノース + ミオイノシトール・・・(b)
ガラクチノール + ラフィノース → スタキオース + ミオイノシトール・・・(c)各々の反応は(a)ガラクチノール合成酵素(GS:EC2.4.1.123)、(b)ラフィノース合成酵素(RS:EC2.4.1.82)(c)スタキオース合成酵素(STS:EC2.4.1.67)により触媒される。
現在、ラフィノースは、甜菜から抽出され、スクロース精製過程において分離精製されている。しかし、ラフィノースはスクロースの結晶性を低下させるので、甜菜は低ラフィノースを目標に育種、改良され、甜菜中のラフィノース含量は0.03%から0.16%(Enzyme Microb. Technol., Vol.4 May, 130-135(1982))と低い。従って、このような低含量の甜菜より効率的にラフィノースを得るのは容易ではない。
先に述べたように、ラフィノースは、ダイズをはじめとするマメ科の成熟種子に含まれているほか、甜菜、あるいはキュウリなどのウリ科植物に含まれている。ダイズの成熟種子中には、ダイズオリゴ糖として、スクロース(含有量約5%)、スタキオース(同約4%)、ラフィノース(同約1%)が含まれている。これらのダイズオリゴ糖は、脱脂ダイズから除蛋白した画分に回収され、濃縮後、機能性食品などに利用されている。しかし、オリゴ糖全体の中でもラフィノースは10%であり、量的にも少ない。
一方、ラフィノースの酵素的合成法も報告されている(Trends in Glycoscience and Glycotechnology 7.34, 149-158(1995))。これは、α-ガラクトシダー ゼの縮合反応によりガラクトビオースを合成し、さらにこのガラクトビオースをガラクトシル基の供与体としてスクロースにガラクトシル転移反応により転移させて、ラフィノースを合成する方法である。しかし、この反応は、乳糖加水分解物1.9kgよりガラクトビオースが350g合成され、ガラクトビオース190gとスクロース760gよりラフィノース100gが得られる反応であり、生成するラフィノースの収率が低く、効率的な合成法には至っていない。
以上のような方法の他に、生合成系酵素遺伝子の形質転換により、ラフィノース含量の高い植物を育種する方法も考えられる。例えば、Kerrらはガラクチノール合成酵素遺
伝子をクローニングし、ナタネを形質転換した(WO93/02196)。しかし、その結果、GS活性は増加したが、ラフィノース族オリゴ糖は逆に低下し、ガラクチノール合成酵素を導入することによるラフィノース族オリゴ糖の生合成を増加させるという目的は達成されなかった。したがって、植物のラフィノース族オリゴ糖の含量を増加させるする方法は提供されていない。
一方、ラフィノ―ス族オリゴ糖を低減化することも求められている。先に述ベたように、ラフィノース族オリゴ糖は、主に、ダイズなど豆類、ナタネ、綿実など様々な植物の種子中の貯蔵糖と、キュウリやメロンなどウリ科植物にみられる転流糖として、また、耐冷性を獲得したロゼット葉、甜菜、など植物に広く存在するが、ダイズ、ナタネ、綿菜などの搾油されたミールには、これらのラフィノース族オリゴ糖が含まれている。これらミールのほとんどは、飼料として利用されているが、α−ガラクトシダーゼを持たないヒトや動物は、直接ラフィノース族オリゴ糖を消化することはできない。さらに、ラフィノース族オリゴ糖は、腸内細菌が資化しガスを発生させるなどにより、飼料の代謝エネルギー効率を低下させることが知られており、飼料中のラフィノース族オリゴ糖を除くことで、トリの飼料効率が上昇したと報告されている(Coon, Proceeding Soybean Utilization Alternatives. Univrsity of Minnesota, 203-211 (1989))。このようなことから、ラフィノース族オリゴ糖の減少したダイズ、ナタネ、綿実などの飼料作物が望まれている。
また、これらの植物の中では、油の含量を多くする育種がなされてきた。光合成産物は、油脂、蛋白質、ラフィノース族オリゴ糖を含む糖質に分配されている。ダイズでは、油脂量と糖質量に逆の相関があることが報告されている。ラフィノース族オリゴ糖の生成を抑制することにより、同じ光合成の能カのダイズにおいて油脂含量を増加させることが期待できる。
以上の観点から、Kerrらは、交配選抜育種により、ラフィノース族オリゴ糖が80%から90%低下した低ラフィノース族オリゴ糖ダイズ品種を作出したと報告している(WO93/00742)。しかしこれは、品種の作出であり、栽培適性や、耐病性などに対応した様々な品種に応用できるものではない。また、広く様々な植物に適用できるものではない。
甜菜、サトウキビなどにも含まれるラフィノースは、砂糖の結晶性を低下させることが知られている。従って、ラフィノースの生成がなければ、これら植物での砂糖の生成効率が上がることが期待できるが、ラフィノースを含まないテンサイは作出されていない。
上述したように、従来精製されたラフィノース合成酵素は、酵素活性として確認されているのみであり、酵素の同定はなされていなかった。また、その活性も低いものであり、活性の高いラフィノース合成酵素が望まれていた。また、従来のラフィノースの製造法は収率が低く、効率のよいラフィノースの製造法が望まれていた。その一方で、ラフィノ―ス族オリゴ糖が低減化された植物を育種することも望まれている。
本発明は、上記観点からなされたものであり、活性の高いラフィノース合成酵素及びこれをコードするDNAの取得、効率的なラフィノースの酵素的合成法、及びラフィノース合成酵素をコードするDNAの植物における利用法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、キュウリからラフィノース合成酵素を精製することに成功した。また、このラフィノース合成酵素をコードする遺伝子をクローニングするために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、キュウリ
のラフィノース合成酵素ペプチド断片のアミノ酸配列より推定した塩基配列をもとに一本鎖DNAを化学合成し、この一本鎖合成DNAをプライマーとして、キュウリから抽出したpoly(A)+RNAより作製したcDNAを鋳型としてPCRを行い、ラフィノース合成酵素遺伝子に特異的なDNA断片を得た。さらに、このDNA断片をプローブとしてキュウリ由来cDNAライブラリーに対しハイブリダイゼーションを行い、ラフィノース合成酵素遺伝子を単離する方法を採用し、ラフィノース合成酵素遺伝子を単離した。この単離したラフィノース合成酵素遺伝子断片を用い、植物で発現可能な制御領域を有するキメラ遺伝子を作成し、植物を形質転換した。さらに、導入したラフィノース合成酵素遺伝子により、内在性ラフィノース合成酵素の機能を制御し、ラフィノース族オリゴ糖の低減化した植物を作出するに至った。
すなわち本発明は、下記性質を有するラフィノース合成酵素を提供する。
(1)作用及び基質特異性:スクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する。
(2)至適pH:約6〜8
(3)至適温度:約35〜40℃
(4)分子量:
i)ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定される分子量:約75kDa〜95kDa
ii)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Native PAGE)により測定される分子量:約90kDa〜100kDa
iii)還元条件下におけるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により測定される分子量:約90kDa〜100kDa
(5)阻害:
ヨードアセトアミド、N−エチルマレイミド、ミオイノシトールにより阻害される。
本発明は、上記ラフィノース合成酵素の具体的な態様として、アミノ酸配列中に、配列表配列番号1〜3に示す各アミノ酸配列を含むラフィノース合成酵素を提供する。
また、本発明は、下記(A)又は(B)に示すタンパク質であるラフィノース合成酵素を提供する。
(A)配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、スクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する活性を有するタンパク質。
本発明はまた、スクロース及びガラクチノールに上記ラフィノース合成酵素を作用させてラフィノースを生成させることを特徴とするラフィノースの製造方法を提供する。
本発明はさらに、上記ラフィノース合成酵素をコードするDNA、及び、
下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNAを提供する。
(A)配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、スクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する活性を有するタンパク質。
本発明は、上記DNAの具体的態様として、下記(a)又は(b)に示すDNAを提供する。
(a)配列表の配列番号4に記載の塩基配列のうち、少なくとも塩基番号56〜2407からなる塩基配列を含むDNA。
(b)配列表の配列番号4に記載の塩基配列のうち、少なくとも塩基番号56〜2407からなる塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
さらに本発明は、ラフィノース合成酵素遺伝子又はその一部と、植物細胞で発現可能な転写制御領域とを含むキメラ遺伝子、及び、このキメラ遺伝子で形質転換された植物を提供する。
また本発明は、前記キメラ遺伝子で植物を形質転換し、この遺伝子を植物細胞内で発現させることにより、前記植物のラフィノース族オリゴ糖含量を変化させる方法を提供する。
以下、上記(1)〜(5)に記載の性質を有するラフィノース合成酵素、又は、上記(A)及び(B)のタンパク質であるラフィノース合成酵素を、単に「ラフィノース合成酵素」ということがある。また、ラフィノース合成酵素をコードするDNA、又はラフィノース合成酵素をコードし、さらに非翻訳領域を含むDNAを、「ラフィノース合成酵素遺伝子」ということがある。
本発明により、精製されたラフィノース合成酵素、ラフィノース合成酵素遺伝子、ラフィノース合成酵素遺伝子と植物で発現可能な制御領域を有するキメラ遺伝子、及びこのキメラ遺伝子が導入された植物が提供される。
本発明のラフィノース合成酵素を用いることにより、スクロース及びガラクチノールから効率よくラフィノースを合成することができる。また、本発明のラフィノース合成酵素遺伝子又はキメラ遺伝子を利用することにより、植物のラフィノース族オリゴ糖含量を変化させることができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明のラフィノース合成酵素
本発明のラフィノース合成酵素は、下記性質を有する。
(1)作用及び基質特異性:スクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する。
(2)至適pH:約6〜8
(3)至適温度:約35〜40℃
(4)分子量:
i)ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定される分子量:約75kDa〜95kDa
ii)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Native PAGE)により測定される分子量:約90kDa〜100kDa
iii)還元条件下におけるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により測定される分子量:約90kDa〜100kDa
(5)阻害:
ヨードアセトアミド、N−エチルマレイミド、ミオイノシトールにより阻害される。
上記の性質を有するラフィノース合成酵素は、キュウリ本葉より単離、精製されたものであり、発明者により初めて同定された。このキュウリ由来のラフィノース合成酵素は、後記実施例に示すように、その酵素タンパク質のアミノ酸配列中に、配列表配列番号1〜
3に示す各アミノ酸配列を含んでいる。また、その全アミノ酸配列を、配列表配列番号5に示す。
ラフィノース合成酵素は、ウリ科植物、例えばメロン(Cucumis melo)、キュウリ(Cucumis sativas)などの植物から得られる。特に、これらの植物の葉、特に葉脈系、及び種子等の組織がラフィノース合成酵素の含有量が多い。
次に、本発明のラフィノース合成酵素の製造法の例として、キュウリからラフィノース合成酵素を単離・精製する方法を説明する。
播種後6〜10週間のキュウリ本葉より、葉脈系を集め、液体窒素下で乳鉢等を用いて磨砕し、緩衝液を加えて蛋白質を抽出する。その際、ラフィノース合成酵素の分解、失活等を防ぐための物質、例えばPMSF(フェニルメタンスルフォニルフルオリド)等のプロテアーゼ阻害剤や、ポリクラールAT(セルバ(Serva)社製)等を加えてもよい。この抽出液から濾過及び遠心分離により不 溶物を除去し、粗抽出液を得る。
上記のようにして得られる粗抽出液を、通常のタンパク質の精製法、例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル濾過、塩析等を組み合わせて分画することによって、ラフィノース合成酵素を精製することができる。
陰イオン交換クロマトグラフィーは、例えば、HiTrapQ(ファルマシア社製)等の強塩基性陰イオン交換体や、DEAE−TOYOPEARL(東ソー社製)等の弱塩基性陰イオン交換体を充填したカラムを用いることによって行うことができる。ラフィノース合成酵素を含む抽出液をこれらのカラムに通液させて酵素をカラムに吸着させ、カラムを洗浄した後に、高塩濃度の緩衝液を用いて酵素を溶出させる。その際、段階的に塩濃度を高めてもよく、濃度勾配をかけてもよい。例えば、HiTrapQカラムを用いた場合には、カラムに吸着したラフィノース合成酵素活性は、0.3M程度のNaClで溶出される。また、DEAE−TOYOPEARLでは溶出液として0.05M〜0.35MのNaCl濃度勾配が、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーでは溶出液として0.01M〜0.3Mのリン酸濃度勾配が好ましい。
上記の操作の順は特に問わず、また、各操作は2回又はそれ以上繰り返してもよい。また、それぞれのカラムに試料液を通液する前に、透析等によって試料液を適当な緩衝液に交換しておくことが望ましい。さらに、それぞれの段階で試料液を濃縮してもよい。
精製の各段階においては、分画されたフラクション中に含まれるラフィノース合成酵素活性を測定し、活性の高いフラクションを集めて次の段階に供試することが好ましい。ラフィノース合成酵素活性を測定する方法としては、例えば、Lehle,H らにより報告されている放射性同位体を用いる方法(Eur.J.Biochem.,38,103-110(1973))が挙げられる。また、この変法として、反応温度と基質濃度を 変更してもよい。例えば、最終濃度として、10mM 14C-スクロース、20mM ガラクチノール、25mM HEPES(2-(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル)エタンスルホン酸)-NaOH,pH7.0、5mM DTT(ジチオスレイトール)を含む反応液に、10μlの酵素液を加えて50μlとする。これを、32℃、1時間インキュベートして反応を行い、200μlのエタノールを加え、95℃で30秒間加熱して、反応を停止する。この反応液の遠心上清をワットマン3MM濾紙にスポットし、n−プロパノール:酢酸エチル:水=4:1:2にて展開した。14Cのラフィノースへの取り込みを調べ、これをラフィノース合成酵素活性(nmol/時間)とする。
本発明者は、上記の方法に代わる方法として、ラフィノース合成反応により生成するラフィノースをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により定量することによって、ラフィノース合成酵素活性を測定する方法を開発した。この方法によれば、Lehle,Hらの方法に比べて簡便かつ迅速に測定することができ、特に 精製操作における活性フラクションの検出には好適である。以下に本方法を説明する。
ラフィノース合成反応は、最終濃度が下記の組成になるように調製した反応液に10〜50μlのラフィノース合成酵素液を添加して100μlとし、32℃で60分間、反応を行う。
〔反応液組成(最終濃度)〕
2.5 mM スクロース
5 mM ガラクチノール
5 mM DTT
20 mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)
上記のようにして反応を行った後、反応液の4倍容のエタノールを加え、95℃で30秒間加熱して反応を停止する。これを遠心し、遠心上清を減圧乾固した後、蒸留水に溶解し、HPLCにて反応生成物中のラフィノースを定量し、ラフィノース酵素活性とする。HPLCは、例えば、糖分析システムDX500(CarboPac PA1カラム、パルスドアンペロメトリー検出器(ダイオネクス社製))を用いて行うことができる。
反応時間を変化させたときの生成ラフィノース量を上記の方法により測定した結果を図1に示す。図から明らかなように、本方法により、ラフィノース合成酵素活性を直線性よく、かつ簡便に測定することができる。
精製されたラフィノース合成酵素の精製度の確認や分子量の測定は、ゲル電気泳動、ゲルろ過クロマトグラフィー等によって行うことができる。また、酵素学的性質は、反応温度あるいは反応pHを変化させて酵素活性を測定し、あるいは種々の酵素阻害剤や金属イオン等を反応液に添加し、残存酵素活性を測定することによって、検討すればよい。さらに、ラフィノース合成酵素を種々のpH条件下又は温度条件下に一定時間さらした後に酵素活性を測定することにより、安定pH範囲及び安定温度範囲を調べることができる。
前記したラフィノース合成酵素の性質は、このようにして決定されたものであるが、測定条件によって異なる結果が得られる場合があることに留意すべきである。例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量の測定は、用いるゲルろ過剤や緩衝液の種類、あるいは分子量マーカーによって、影響される。また、酵素活性は、同じpHであっても緩衝液の種類又は塩濃度によって異なることが多い。したがって、ラフィノース合成酵素の同定に際しては、個々の性質のみではなく、総合的な検討を行うことが好ましい。
本発明のラフィノース合成酵素は、上記のようにキュウリから単離・精製することによって得られるが、異種タンパク質の醗酵生産に通常用いられている方法によって、後述するラフィノース合成酵素をコードするDNAを適当な宿主に導入し、発現させることによっても製造することができる。
ラフィノース合成酵素遺伝子を発現させるための宿主としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)をはじめとする種々の真核細胞が考えられるが、植物細胞、特にタバコ、キュウリ、シロイヌナズナ(アラビドプシス)等の植物由来の細胞が望ましい。
形質転換に用いる組み換えプラスミドは、発現させようとする細胞の種類に応じた発現ベクターに、ラフィノース合成酵素をコードするDNAを挿入することで調製可能である。植物の発現ベクターは、植物で働くプロモーターDNA配列、またはそれらを複数個組み合わせたものと、植物で働くターミネーターDNA配列を持ち、その両側に外来遺伝子を挿入できる配列を有するものであればよい。
このようなプロモーターには、植物体全体で発現するCaMV 35SRNAプロモーター、CaMV 19SRNAプロモーター、ノパリン合成酵素プロモーター等、緑色組織で発現するRubisCO小サブユニットプロモーター等、種子などの部位特異的に発現するナピン(napin)、ファセオリン(phaseolin)等の遺伝子のプロモーター等が挙げられる。さらに、上記のようなターミネーターとしてはノパリン合成酵素ターミネーター、RubisCO小サブユニット3’側部位等が挙げられる。
植物用の発現ベクターとしてpBI121、p35S−GFP(CLONTECH社製)等が市販されているのでこれを用いてもよい。ウイルスRNAを発現するベクターを用い、そのコードしている外皮蛋白質などの遺伝子をラフィノース合成酵素遺伝子に置換してもよい。
形質転換には通常用いられている方法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、PEG法等を、供試する宿主細胞に応じて用いればよい。ラフィノース合成酵素活性の検出には、ラフィノース合成酵素精製を行った方法を用いることができる。その際、試料を陰イオン交換カラムに通すなどして、あらかじめα‐ガラクトシダーゼを除いておくことが望ましい。
キュウリ由来のラフィノース合成酵素をコードする遺伝子とは、発現した時にラフィノース合成酵素活性を有するものであればすべて含まれるが、好ましくは、配列表の配列番号5記載のアミノ酸配列をコードするDNAを有する遺伝子、又は配列表の配列番号4記載の塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。尚、配列表の配列番号5記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子とは、コドンの縮重を考慮すると種々の塩基配列が包含される。即ち、このような種々の塩基配列の中から、遺伝子発現系の諸要素、たとえば宿主細胞の種類等による優先コドン、転写されたRNAにより形成される高次構造の回避などを考慮して選択すればよい。選択された塩基配列は、自然界からクローニングされたDNAであっても、人為的に化学合成されたDNAであってもよい。
<2>本発明のラフィノース合成酵素をコードするDNA
ラフィノース合成酵素をコードするDNAは、キュウリなどの植物体から単離したpoly(A)+RNAからcDNAライブラリーを調製し、このcDNAライブラリーをハイブリダイゼーションによってスクリーニングすることによって、取得することができる。ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、ラフィノース合成酵素タンパク質の部分アミノ酸配列に基づいて合成されたオリゴヌクレオチドをプライマーとするPCR(polymerase chain reaction)によって増幅することによって、取得することができる。
以下に、キュウリ由来のpoly(A)+RNAから本発明のDNAを取得する方法を具体的に説明する。
poly(A)+RNAの抽出部位としては、ラフィノース合成酵素遺伝子が発現していればキュウリ植物体のどこを用いても良く、様々な生長段階の葉、茎、蕾、果実、種子等より得ることができるが、望ましくは果実をつけた後の展開葉、特に葉脈部分を材料とするのがよい。
キュウリ組織から全RNAを抽出するには、効率よく損傷の少ないRNAが得られるならば方法は制限されず、例えば、フェノール/SDS法、グアニジンイソチオシアネート/塩化セシウム法等、公知のいずれの方法によっても可能である。こうして得た全RNAからオリゴ(dT)担体を用いてpoly(A)+RNAを分離できる。また、全RNAを抽出せずにpoly(A)+RNAを得ることのできるキット(MPG Direct mRNA Purification Kit、CPG,INC.社等)を使用しても良い。
cDNAライブラリーのスクリーニングに使用するプローブのDNA断片は、PCRを行うことで得ることができる。既にわかっているペプチド断片のアミノ酸配列、例えば配列表配列番号1〜3に示すアミノ酸配列より推定される塩基配列を有する一本鎖DNAを化学合成し、これをプライマーに用いてPCRを行う。プライマーには、得られているペプチド断片のアミノ酸配列のどの部分を用いてもよいが、コドンの縮重が少なく、複雑な高次構造を形成しないと思われる配列を選ぶのが望ましい。また、RACE(Rapid
Amplification of cDNA End:PCR PROTOCOLS A Guide to Methods and Applications、ACADEMIC
press INC.p28〜38)を行っても良い。
このようなPCRの鋳型には、cDNAライブラリー、一本鎖cDNAを用いることが望ましい。PCR反応に逆転写酵素活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼを用いる場合には、poly(A)+RNA、場合によっては全RNAを用いても良い。
cDNAライブラリーを作製するためには、まずpoly(A)+RNAを鋳型にし、オリゴ(dT)プライマー、ランダムプライマー等を用い、逆転写酵素によって一本鎖cDNAを合成し、次にグブラ−ホフマン(Gubler and Hoffman)法、オカヤマ−バーグ(0kayama−Berg)法(Molecular Cloning 2nd edition、Cold Spring Harbor press、1989)等により二本鎖cDNAを合成する。ラフィノース合成酵素遺伝子の発現量が少ない場合には、PCRを利用したcDNAライブラリー作製キット(Capfinder PCR cDNA Library Construction Kit(CLONTECH社)等)を用いて、PCRによってcDNAを増幅してもよい。このようにして合成したcDNAは、平滑末端化、リンカーの付加、PCRによる制限酵素サイトの付加等を行うことにより、ファージベクター、プラスミド等のクローニングベクターにクローニングできる。
ハイブリダイゼンション用のプローブには、上記のPCRで得られたDNA断片のうち、ラフィノース合成酵素cDNAに特徴的な部分を選ぶ。また、5’末端側に近いDNA断片を選ぶのが望ましい。このように選んだ増幅DNA断片を、PCR反応液から精製する。この際、増幅したDNA断片をプラスミドを用いてサブクローニングし、プラスミドを大量調製してから制限酵素で切断し、電気泳動後にゲルを切り出して精製しても、また、プラスミドを鋳型にPCRを行って、目的部分だけを増幅して用いてもよい。さらには、最初に増幅したDNA断片の量が十分に多い場合には、増幅したDNA断片をサブクローニングせずに電気泳動し、目的DNA断片のバンドを含むゲル断片を切り出し、そのゲル断片から精製してもよい。
cDNAライブラリーから目的クローンを得るためのスクリーニングにはハイブリダイゼーションを行う。上記の方法で得られたDNA断片はラベルしてハイブリダイゼーションのプローブとすることができる。ラベルにはラジオアイソトープ、ビオチン等、種々のものを用いることができるが、ランダムプライミング法でラベルすることが望ましい。また、スクリーニングにはハイブリダイゼーションではなくPCRを用いてもよい。さらに
、ハイブリダイゼーションとPCRを組み合わせてもよい。
上記のようにして得られたキュウリ由来のラフィノース合成酵素をコードするDNAの塩基配列、及びこの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列表配列番号4に例示する。また、このアミノ酸配列のみを配列番号5に示す。後記実施例3で得られたラフィノース合成酵素をコードするDNAを含むDNA断片を含むプラスミドpMossloxCRSを保持するエシェリヒア・コリJM109の形質転換体AJ13263は、平成8年11月19日より、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)にブダペスト条約に基づき国際寄託されており、受託番号FERM BP−5748が付与されている。
本発明のDNAは、コードされるラフィノース合成酵素の活性、すなわちスクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むラフィノース合成酵素タンパク質をコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なる。それは、イソロイシンとバリンのように、アミノ酸によっては、類縁性の高いアミノ酸が存在し、そのようなアミノ酸の違いが、蛋白質の立体構造に大きな影響を与えないことに由来する。従って、キュウリ由来ラフイノース合成酵素を構成する784アミノ酸残基全体に対し、35から40%以上の相同性を有し、ラフイノース合成酵素活性を有するものであってもよい。さらに、好ましくは、510番日のアミノ酸から610番日のアミノ酸の間において、65%の相同性を有することである。さらに好ましくは、「数個」が、2から40個、好ましくは、2から20個、さらに、2から10個である。
遺伝子全長において、約50%以上の相同性があり、かつ、その中で約300塩基にわたる65%以上の相同性がある遺伝子を含む。そのような遺伝子は、GenBankなどのデータベースを用いて、キュウリ由来ラフイノース合成酵素遺伝子に対し相同性を有する遺伝子を検索することによって、塩基配列情報を得ることができる。ホモロジー解析プログラムはLipman−Person法を採用したGENETIX−MAC(遺伝子情報処理ソフトウエア、ソフトウエア開発社)などを用いてもよく、また、インターネット上に公開されているものを使用してもよい。このような方法により得られた塩基配列は遺伝子全長を含む場合と、遺伝子全長を含まない場合がある。遺伝子全長を含まない場合は、目的植物組織より抽出したRNAを鋳型に、キュウリ由来ラフイノース合成酵素遺伝子と相同性の高い部位に対応するプライマーを用い、5’RACE法、3’RACE法にて、容易に全長遺伝子を取得することができる。得られた全長遺伝子は、Soluble Protein Expression System(lNVITROGEN社)や、Tight Control Expression System (INVITROGEN社)や、QIAexpress System(QIAGEN社)などのキットが提供する適当な発現ベクターに組み込み、遺伝子を発現させ、記載の方法でラフィノース合成酵素活性を測定し、活性を有するクローンを選抜すればよい。
このようなラフィノース合成酵素と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加されるように塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている突然変異処理によっても取得され得る。突然変異処理としては、ラフィノース合成酵素をコードするDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及びラフィノース合成酵素をコードするDNAを保持するエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常人工突然変異に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
また、上記のような塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等には、キュウリの個体
差、品種間差、遺伝子の多コピー化、各器官、組織の違いに基づく場合などの天然に生じる変異も含まれる。
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物のラフィノース合成酵素活性を調べることにより、ラフィノース合成酵素と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。また、変異を有するラフィノース合成酵素をコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば配列表の配列番号4に記載の塩基配列のうち、塩基番号56〜2407からなる塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ラフィノース合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、ラフィノース合成酵素タンパク質と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。このような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれるが、それらについては、市販の活性発現ペクターにつなぎラフィノ―ス合成酵素活性を記述の方法で測定することによって容易に取り除くことができる。
尚、本発明のDNAを、ラフィノース合成酵素のアンチセンスRNAを発現させるために用いる場合には、このDNAは活性のあるラフィノース合成酵素をコードしている必要はない。また、センスRNAによっても、相同性のある内在性遺伝子の機能を抑制することができる。このような場合も、DNAが活性あるラフイノース合成酵素遺伝子をコードしている必要はなく、また、全長を含まなくてもよく、好ましくは、60%の相同性を有するN末端側翻訳領域が500塩基対程度あれぱよい。
本発明者らが目的とする、キュウリ由来のラフィノース合成酵素のcDNAのクローニングに成功した方法は上述の通りであるが、それ以外に下記の方法が挙げられる。
(1)キュウリ由来のラフィノース合成酵素を単離精製し、決定されるアミノ酸配列、または配列番号5に示すアミノ酸配列を基に全塩基配列を化学合成する。
(2)キュウリ植物体から染色体DNAを調製し、プラスミドベクター等を用いて染色体DNAライブラリーを作製し、このライブラリーからラフィノース合成酵素遺伝子を、ハイブリダイゼーンション又はPCRによって取得する。尚、染色体由来のラフィノース合成酵素遺伝子は、コード領域にイントロンが含まれることが予想されるが、このようなイントロンによって分断されたDNAであっても、ラフィノース合成酵素をコードする限り本発明のDNAに含まれる。
(3)poly(A)+RNAを分子量等によって分画し、ホイートジャーム又はウサギ網状赤血球を用いたインビトロ翻訳系に供し、ラフィノース合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするmRNAが存在する画分を決定し、それより目的のcDNA断片を作製、取得する。
(4)抗キュウリラフィノース合成酵素抗体を作製し、蛋白質発現ベクターにcDNAライブラリーを乗せ、適当な宿主に感染させてcDNAがコードする蛋白質を発現させ、先程の抗体を用いて目的のcDNAをスクリーニングしても良い。
(5)ペプチド断片のアミノ酸配列から適当なプライマーを合成し、RACE法によって、末端を含む配列を増幅し、これをクローニングしてもよい。
<3>本発明のラフィノースの製造法
本発明のラフィノースの製造法においては、スクロース及びガラクチノールに上記ラフィノース合成酵素を作用させてラフィノースを生成させる。ラフィノース合成酵素は、スクロースとガラクチノールに作用させると、ガラクチノールを構成するガラクトース残基がスクロースに転移し、ラフィノースが生成する。その際、ガラクチノールを構成するミオイノシトールが生成する。
ラフィノースの製造に使用するラフィノース合成酵素は、植物体から抽出した酵素であっても、本発明のDNAを用いた遺伝子組換え法によって製造した酵素であってもよい。
スクロース及びガラクチノールにラフィノース合成酵素を作用させるには、ラフィノース合成酵素又はラフィノース合成酵素生産能を有する細胞をアルギン酸ゲルやポリアクリルアミドゲル等の担体に固定化した固定化酵素又は固定化細胞をカラムに充填し、このカラムにスクロース及びガラクチノールを含む溶液を通液してもよい。担体及びラフィノース合成酵素又は細胞を担体に固定化する方法は、通常のバイオリアクターに用いられる材料及び方法を採用することができる。
ラフィノース合成反応は、例えば、スクロース及びガラクチノールを含む水溶液又は緩衝液等の溶液に、ラフィノース合成酵素を添加することによって行われる。前記溶液のpHは、約6〜8の範囲内、特にpH7前後に調整されることが好ましい。また、反応温度は約28〜42℃、好ましくは35〜40℃の範囲 内、特に38℃前後であることが好ましい。尚、本発明のラフィノース合成酵素は、約pH5〜8の範囲、特にpH6付近で安定である。また、本酵素は少なくとも約40℃以下の温度範囲で安定である。
本発明のラフィノース合成酵素は、ヨードアセトアミド、N−エチルマレイミド、MnCl2、ZnCl2、NiCl2によって酵素活性が阻害されるので、こ れらの物質が反応液に含まれないことが望ましい。
反応液に加えるガラクチノール及びスクロースの濃度は、ガラクチノール 5 mM以上、スクロース 1.5mM以上が好適である。また、反応液に加えるラ フィノース合成酵素の添加量は、基質量に応じて添加すればよい。
反応液に含まれる未反応のスクロース、ガラクチノール及び酵素反応により生じるミオイノシトールからラフィノースを分離する方法としては、例えばゲル濾過クロマトグラフィーが挙げられる。
<4>本発明のキメラ遺伝子及び形質転換植物
本発明のキメラ遺伝子は、ラフィノース合成酵素遺伝子又はその一部と、植物細胞で発現可能な転写制御領域とを含む。ラフィノース合成酵素遺伝子としては、前記<2>に記載した本発明のラフィノース合成酵素をコードするDNAが挙げられる。さらに、本発明のキメラ遺伝子をアンチセンス遺伝子として利用する場合には、ラフィノース合成酵素をコードするDNAの他に、ラフィノース合成酵素遺伝子の非翻訳領域又はその一部であっても、使用できる場合がある。非翻訳領域としては、例えば配列表配列番号4において塩基番号1〜55(5’非翻訳領域)、あるいは2408〜2517に示す配列(3’非翻訳領域)が挙げられる。
本発明のキメラ遺伝子において、転写制御領域が、ラフィノース合成酵素をコードするDNAに、このDNAコード鎖に相同なmRNA(センスRNA)を発現するように連結されている場合は、このキメラ遺伝子が導入された植物細胞はラフィノース合成酵素を発現し、ラフィノース族オリゴ糖含量が増加する。一方、前記転写制御領域が、前記DNAのコード鎖に相補的な配列を有するRNA(アンチセンスRNA)を発現するように前記DNAに連結されている場合、および、ラフィノース合成酵素遺伝子の一部の断片、好ましくは、上流コード領域の約200塩基対以上に対するセンスRNAを発現するように連結されている場合、これらのキメラ遺伝子が導入された植物細胞は、内在性ラフィノース合成酵素の発現が抑制され、ラフィノース族オリゴ糖が低減化する。
上記のように、本発明のキメラ遺伝子で植物を形質転換し、この遺伝子を植物細胞内で発現させることにより、前記植物のラフィノース族オリゴ糖含量を変化させることができる。
本発明を適用する植物としては、油糧植物であるダイズ、ナタネ、ワタ、砂糖を生産するテンサイ、サトウキビ、モデル植物としてシロイヌナズナ等が挙げられる。
また、植物細胞で発現可能な転写制御領域としては、前述したような、植物全体で発現するCaMV 35SRNAプロモーター、CaMV 19SRNAプロモーター、ノパリン合成酵素プロモーター等、緑色組織で発現するRubisCO小サブユニットプロモーター等、種子などの部位特異的に発現するナピン(napin)、ファセオリン(phaseolin)等の遺伝子のプロモーター領域等が挙げられる。また、キメラ遺伝子の3’末端には、ノパリン合成酵素ターミネーター、RubisCO小サブユニット3’側部位等のターミネーターが連結されてもよい。
キメラ遺伝子で植物を形質転換には通常用いられている方法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、PEG法等を、供試する宿主細胞に応じて用いればよい。
植物にキメラ遺伝子を導入する形質転換法としては、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、エレクトロポレーション法、PEG法等が挙げられる。
アグロバクテリウム法として具体的には、バイナリーベクターを用いる方法がある。すなわち、Tiプラスミド由来のT−DNA、大腸菌などの微生物で機能可能な複製起点、及びベクターを保持する植物細胞または微生物細胞を選択するためのマーカー遺伝子を含むベクターを植物に感染させ、この植物から採取した種子を生育させ、マーカー遺伝子の発現を指標としてベクターが導入された植物を選択する。得られた植物について、ラフィノース合成酵素活性を測定するか、あるいはラフィノース族オリゴ糖の含量が変化したものを選択することによって、目的とする形質転換植物を取得することができる。
以下に、ダイズにキメラ遺伝子を導入する方法について説明する。ダイズ形質転換には、パーティクルガン法(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 145 (1989)、TIBTECH, 8, 145
(1990)、Bio/Technology, 6, 923 (1988)、Plant Physiol., 87, 671 (1988)、Develop.
Genetics, 11, 289 (1990)、Plant cell Tissue & Organ Culture, 33, 227 (1993))、アグロバクテリウム法(Plant Physiol., 91, 1212 (1989)、 WO94/02620、 Plant Mol. Biol., 9, 135 (1987)、Bio/Technology, 6, 915 (1988))、エレクトロポレーション法(Plant Physiol., 99, 81 (1992)、Plant Physiol., 84, 856 (1989)、Plant Cell Reports, 10, 97 (1991))のいずれの方法も用いることができる。
パーティクルガン法においては、エンビオジェニック(embyogenc)組織、あるいは、
開やく後30日から40日の未熟種子の胚軸を用いればよい。約1gのエンビオジェニック組織をペトリ皿に広げ、日的のキメラ遺伝子をコーテイングした金粒子、タングステン粒子などを打ち込めばよい。組織は、1時間から2時問後液体培地に移し、培養する。2週間後、形質転換体選抜のための抗生物質入りの培地に移し、培養する。6週間後に、緑色の耐性不定胚が得られるので、これをさらに新しい培地に移して培養し、植物体を再生させる。あるいは、胚軸を用いた場合には、胚軸を無菌的に摘出し、パーティクルガンで処理した後、高濃度のサイトカイニンを含むMS培地(Murashige and Skoog, Physiologia Plantrum, 15, 473-497 (1962))にて培養をする。暗黒下で、2週間培養した後、サイトカイニンの含量を低下させたMS培地にて12時間から16時間、光照射下で室温で培養する。このとき、選抜マーカーとして用いた抗生物質を培地に添加しておくことが望ましい。移植組織より多芽体が形成したら、ホルモン無添加の培地に移すことで、発根させる。この幼植物体を温室に移し、栽培する。
アグロバクテリウムを用いる方法では、植物組織としてコチルドナリーノッド(Cotyldonary nod)を用いることが望ましい。アグロパクテリウムは、市販のLBA4404、C58、Z707などを用いることができるが、望ましくは、Z707がよい。ベクターは、pMON530(Monsanto Co.)に目的遺伝子を挿入したプラスミドなどを用いることができる。ダイレクト・フリーズ・ソー(Direct freeze thaw)方法(An et al., Plant Mol. Biol. Mannual A3:1-19, 1988)などによって、アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)Z707(Hepburn et al., J, Gen. Microbiol, 131, 2961 (1985))にプラスミドを導入する。このキメラ遺伝子で形質転換したアグロバクテリウムは、一晩培養し、5000rpm、5分間遠心し、B5懸濁培地に懸濁する。ダイズ種子は滅菌し1/10濃度のB5培地にて3日間培養し、発芽させる。子葉を切り出し、アグロバクテリウムの懸濁液で、2時間供培養する。この子葉をB5培地(ガンボルグ(Gamborg)B5塩(Exp. Cell. Res., 50, 151 (1968)、ガンボルグB5ビタミン、3%スクロース。5μMベンジルアミノプリン、10μM IBA、100μM アセトシリンゴン含有)に移し、25℃、23時間光照射(60μEm-2S-1)の条件下で3日問培養する。次に、アグロバクテリウムを除去するためにB5培地(5μM ベンジルアミノプリン、100mg/L カルベニシリン、100mg/L バンコマイシン、500mg/L セファタキシム(cefotaxime))にて4日間25℃で毎日培地を交換しながら培養する。その後、B5培地(200mg/Lカナマイシン)にて培養する。1から2カ月でマルチシュートが形成される。これを、B5培地(0.58mg/L ジベレリン、50mg/L カナマイシン)で培養し、シュートを伸長させる。次に、B5培地(10μM IBA)に移し、発根させる。発根した幼植物体は、馴化し、温室にて栽培することによって形質転換体を得ることができる。
ラフィノース合成酵素遺伝子を導入した形質転換体植物の確認は、形質転換体より、DNAを抽出し、ラフィノース合成酵素遺伝子をプローブに用いてサザンハイプリダイゼーションを行えば容易に確認できる。
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
はじめに、以下の実施例において、各精製工程における活性画分の確認及び酵素の特性検討に用いたラフィノース合成酵素活性の測定法を説明する。
<ラフィノース合成酵素活性測定法>
ラフィノース合成酵素の活性は、ラフィノース合成反応により生成したラフィノースをHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により定量することによって行った。HPLCは、糖分析システムDX500(CarboPac PA1カラム、パルスドアンペロメトリー検出器(ダイオネクス社製))を用いて行った。
ラフィノース合成反応は、最終濃度が下記の組成になるように調製した反応液に10〜50μlのラフィノース合成酵素液を添加して100μlとし、32℃で60分間、反応を行った。
〔反応液組成(最終濃度)〕
2.5 mM スクロース
5 mM ガラクチノール
5 mM DTT
20 mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)
上記のようにして反応を行った後、反応液の4倍容のエタノールを加え、95℃で30秒間加熱して反応を停止した。これを遠心し、遠心上清を減圧乾固した後、蒸留水に溶解し、糖分析システムにて反応生成物中のラフィノースを定量し、ラフィノース酵素活性とした。
実施例1 キュウリからのラフィノース合成酵素の精製
<1>キュウリからのラフィノース合成酵素の抽出
播種後6〜10週間のキュウリ(品種「SUYOU」)本葉より、葉脈系を集め、液体窒素にて凍結し、−80℃にて保存した。凍結した葉脈系約200gを液体窒素下で乳鉢にて磨砕し、緩衝液1(40mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、5mM DTT、1mM PMSF(フェニルメタンスルフォニルフルオリ ド)、1%ポリクラールAT;セルバ社製)を加え、蛋白質を抽出した。抽出液は、ガーゼやミラクロス(カルバイオケム−ノボバイオケム(Calbiochem-Novobiochem)社)などのフィルターにて濾過し、濾液を4℃、約30,000×gで60分間遠心した。得られた遠心上清を粗抽出液とした。
<2>陰イオン交換クロマトグラフィー(1)
上記で得られた粗抽出液約560mlを、緩衝液2(20mM トリス塩酸緩 衝液(pH7.0)、5mM DTT)にて平衡化した強塩基性陰イオン交換クロ マトグラフィーカラム(HiTrapQ;ファルマシア社製、1.6cm×2.5cm)を5本連結したカラムに供し、ラフィノース合成酵素活性をカラムに吸着させた。続いてカラムの5倍容の緩衝液3(20mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、0.2M NaCl、5mM DTT)にてカラムを洗浄して非吸着蛋 白質を洗い流した後、50mlの緩衝液4(20mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、0.3M NaCl、5mM DTT)にてラフィノース合成酵素活性を カラムから容出させた。
<3>陰イオン交換クロマトグラフィー(2)
上記の溶出液約75mlを透析チューブ(Pormembranes MWC O:10,000;スペクトラ(Spectra)社製)に入れ、10Lの緩衝液5(20mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、0.05M NaCl、5mM DTT)に対して、4℃で一晩透析した。透析した試料を緩衝液5で平衡化した弱塩基性陰イオン交換クロマトグラフィーカラム(DEAE−TOYOPEARL;東ソー社製、2.2×20cm)に供し、ラフィノース合成酵素活性をカラムに吸着させた。続いてカラムの5倍容の緩衝液5にてカラムを洗浄して非吸着蛋白質を洗い流した後、20カラム容に対し0.05M〜0.35MのNaCl濃度勾配を直線的にかけて酵素活性を溶出し分画した。
<4>ゲル濾過クロマトグラフィー
上記で得られた溶出液約160mlを、濃縮器(セントリプレップ10;Amicon社製)を用いて6.5mlに濃縮した。この濃縮液3mlずつをゲルろ過クロマトグラフィーカラム(Superdex 200pg;ファルマシア社 製、2.6cm×60cm
)に供した。カラムの平衡化と溶出は、緩衝液6(20mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、0.1M NaCl、5mM DTT、 0.02% Tween 20)を用いて行った。分画した各画分のうち、ラフィノース合成酵素活性を有する画分を集めた。
<5>ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー
ゲル濾過で分画したラフィノース合成酵素活性画分約25mlを、セントリプレップ10にて濃縮し、さらに、緩衝液7(0.01M リン酸ナトリウム緩衝 液(pH7.0)、5mM DTT、0.02% Tween 20)を用いて緩衝 液交換を行った。得られた濃縮液約1.2mlを、あらかじめ同緩衝液にて平衡化したハイドロキシアパタイトカラム(Bio−Scale CHT−1;バイ オラッド社製、0.7×5.2)に供し、ラフィノース合成酵素活性を吸着させた。カラムを、カラム体積の5倍量(10ml)の同緩衝液にて洗浄した後、20カラム容に対し、0.01M〜0.3Mのリン酸濃度勾配を直線的にかけて酵素活性を溶出し分画した。
<6>ハイドロキシアパタイトリクロマトグラフィー
上記のようにして得られたハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによる活性画分を同様にしてリクロマトし、精製ラフィノース合成酵素画分(約2ml)とした。
本活性画分の蛋白質量は約200μgであった。また、全活性は5700nmol/時間であり、蛋白質当たりの比活性は約28μmol/時間/mgであった。この活性画分は、後述するように電気泳動上で分子量約90kDa〜100kDaの単一バンドを示すタンパク質のみを含んでいた。得られた精製酵素標品の比活性は、粗抽出液の約2000倍であり、HiTrapQによる強塩基性陰イオン交換クロマトグラフィー後の酵素量に対する回収率は12%であった。精製の結果を表1にまとめた。
Figure 2006314326
実施例2 ラフィノース合成酵素の特性の検討
実施例1で得られた精製ラフィノース合成酵素の特性を検討した。
<1>分子量測定
(1)ゲルろ過クロマトグラフィー
精製ラフィノース合成酵素を10μlとり、この試料および分子量マーカー(ゲル濾過用分子量マーカーキット:ファルマシア社製)をゲルろ過クロマトグラフィーカラム(Superdex 200pg;ファルマシア社製)に供した。 カラムの平衡化と溶出は、緩衝液6(20mM トリス塩酸緩衝液(pH7.0) 、0.1M NaCl、5mM DTT、0.02% Tween 20)を用いて行った。その結果、ラフィノース合成酵素の分子量は、約75kDa〜95kDaと推定された。
(2)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Native PAGE)
精製ラフィノース合成酵素を10μlとり、同量のサンプル緩衝液(0.0625M トリス−塩酸(pH6.8)、15%グリセロール、0.001%BPB)を加え、電気泳動サンプルとした。このサンプル10μlを10%ポリアクリルアミドゲル(第一化学薬品製、マルチゲル10)に供し、0.025M トリス−0.192M グリシン緩衝液(pH8.4)で40mA、約60分泳動した。泳動後、シルベストステイン銀染色キット(ナカライテスク社製)にて染色した。その結果、分子量は約90kDa〜100kDaと推定された。
(3)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
精製ラフィノース合成酵素を10μlとり、同量のサンプル緩衝液(0.0625M トリス−塩酸(pH6.8)、2% SDS、10%グリセロール、5%メルカプトエタノール、0.001%BPB)を加え沸騰浴中で1分間加熱し、電気泳動サンプルとした。このサンプル10μlを10〜20%グラジエントポリアクリルアミドゲル(第一化学薬品製)に供し、0.1%SDSを含む0.025M トリス−0.192M グリシン緩衝液(pH8.4)で40mA、約70分泳動した。泳動後、シルベストステイン銀染色キット(ナカライテスク社製)にて染色した。結果を図2に示す。その結果、分子量は約90kDa〜100kDaと推定された。
<2>反応至適温度
前記のラフィノース合成酵素活性測定法にしたがって、種々の温度条件下(28℃、32℃、36℃、40℃、44℃、48℃、52℃)でラフィノース合成酵素活性を測定した。各反応液に加えた酵素液は、2μlとした。32℃での酵素活性を100としたときの各温度での相対活性を図3に示す。その結果、ラフィノース合成酵素は、約25〜42℃にわたる範囲で活性を示し、反応至適温 度は、35〜40℃付近であった。
<3>至適反応pH
前記のラフィノース合成酵素活性測定法にしたがって、種々のpH条件下(pH4〜11)でラフィノース合成酵素活性を測定した。各反応には、50mM クエン酸緩衝液(pH4〜6)、50mM リン酸カリウム緩衝液(pH5.5 〜7.5)、50mM ビス−トリス緩衝液(pH6〜7)、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH7〜8.5)、50mM グリシン−NaOH緩衝液(pH9 〜11)を用いた。また、各反応液に加えた酵素液は、2μlとした。結果を図4に示す。
その結果、ラフィノース合成酵素はpH5〜10の範囲で活性を示し、反応至適pHは、用いた緩衝液の種類によっても異なるが、6〜8付近であった。
<4>阻害剤及び金属イオンの検討
精製ラフィノース合成酵素の反応液に、各種の酵素阻害剤又は金属イオンを終濃度で1mMとなるように添加し、ラフィノース合成酵素活性を前記と同様にして測定した。阻害剤又は金属イオンを添加しない場合の酵素活性に対する残存活性を表2に示す。ヨードアセトアミドは酵素活性を顕著に阻害し、N−エチルマレイミドも阻害効果を示した。また、CaCl2、CuCl2、MgCl2は阻害 効果がほとんど認められなかったが、MnCl2、ZnCl2、NiCl2は阻害 効果を示した。
Figure 2006314326
<5>ミオイノシトールによる阻害
ラフィノース合成反応の反応生成物であるミオイノシトールによる阻害を調べた。各種濃度のミオイノシトールを反応液に添加し、ラフィノース合成酵素活性を測定した。結果を図5に示す。添加したミオイノシトールの濃度とともに酵素活性は阻害された。
<6>安定pH
50mM ビストリス塩酸緩衝液(pH5〜8、0.5mM DTTを含む)、又は20mM トリス−塩酸緩衝液(pH7〜8、0.5mM DTTを含む)中で、前記陰イオン交換クロマトグラフィー(2)で得られたラフィノース合成酵素画分を4時間、4℃にてインキュベートした後、ラフィノース合成酵素活性を測定した。インキュベートに用いた緩衝液のpHに対する酵素活性を図6に示す。いずれのインキュベート条件においてもラフィノース合成活性が認められ、特にpH5〜7.5の範囲で安定であった。
<7>安定温度
20mM トリス−塩酸緩衝液(pH7、5mM DTTを含む)にて、前記陰イオン交換クロマトグラフィー(2)で得られたラフィノース合成酵素画分を28℃、32℃、37℃又は40℃で60分インキュベートした後、ラフィノース合成酵素活性を測定した。その結果、本酵素は、28℃〜40℃の範囲で前記インキュベート処理を行わなかった対照区と比較して80%〜100%の活性を有し、安定であった。
<8>アミノ酸配列の解析
精製ラフィノース合成酵素のシステイン残基を還元ピリジルエチル化し、脱塩した。これをリジルエンドペプチダーゼ(Achromobacter protease 1、和光純薬工業社製)にて37℃、12時間消化し、ペプチド断片化した。得られたペプチド混合液を逆相HPLC(カラム:ウォーターズ μBondasphere(φ2.1×150 mm、C18、300Å)、ウォーターズ社製(ミリポア社))に供し、各ペプチド断片を分離取得した。溶媒には0.1%TFA(トリフルオロ酢酸)を用い、アセトニトリルの濃度勾配により溶出を行った。取得したペプチド断片のうち、3つの断片について、アミノ酸配列をプロテインシークエンーサーにより決定した。決定された各ペプチドのアミノ酸配列を配列表配列番号1〜3に示す。以下、これらのペプチドを、それぞれ順にペプチド1、2、及び3という。
実施例3 ラフィノース合成酵素をコードするDNAの取得
<1>PCR法によるラフィノース合成酵素cDNAの部分断片の単離
キュウリの主葉脈22gを液体窒素中で乳鉢を用いて磨砕した。この磨砕物を、80℃に余熱した抽出バッファー(100mM塩化リチウム、100mMトリス−塩酸(pH8
.0)、10mM EDTA、1%SDS)と等量のフェノールを混合したものに加え、撹拌後、フェノールと等量のクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1)を加え、再び撹拌を行い、この混合液を4℃で9250×g、15分間遠心処理し、上清を採取した。この上清に対して繰り返しフェノール処理、クロロホルム:イソアミルアルコール処理を行い、遠心上清を得た。この上清に等量の4M塩化リチウムを加え、−70℃で1時間静置した。
室温にて解凍後、4℃で9250×g、30分間遠心処理し沈殿を得た。この沈殿を2M塩化リチウム、80%エタノールにより1回ずつ洗浄し、乾燥後2mlのジエチルピロカーボネート処理水に溶解し、精製全RNAとした。得られた全RNAは2.38mgであった。
この全RNA全量を、オリゴ(dT)セルロースカラムを用いたpoly(A)+RNA精製キット(STRATAGENE CLONING SYSTEMS社製)に供し、poly(A)+RNA分子を精製し、42.5μgのpoly(A)+RNAを得た。
上記のようにして得られたpoly(A)+RNAから逆転写酵素Super ScriptII(GIBCO BRL社製)を用いて一本鎖cDNAを合成した。このcDNA混合物からラフィノース合成酵素cDNAを単離するために、PCR法による増幅を行った。PCRに用いるプライマーは、実施例2で決定したキュウリ由来のラフィノース合成酵素のペプチド断片のアミノ酸配列から、図7に示す一本鎖オリゴヌクレオチド(配列番号6〜22)を合成した。各プライマーの配列において、RはA又はGを、YはC又はTを、MはA又はCを、KはG又はTを、DはG、A又はTを、HはA、T又はCを、BはG、T又はCを、NはG、A、T若しくはC、又はイノシン(塩基はヒポキサンチン)を、それぞれ表す。
プライマーとして、5’側プライマーにA(A1(配列番号6)、A2(配列番号7)、A3(配列番号8)、A4(配列番号9))、3’側プライマーにD’(D’1(配列番号21)、D’2(配列番号22))の組み合わせと、5’側プライマーにC2(配列番号14))、及び3’プライマーにB’1(配列番号18)、あるいはB’2(配列番号19)を用いたときに、約540塩基対のDNAが増幅された。この断片をTAクローニングキット(INVITROGEN BV社製)を用いてプラスミドpCRIIにクローニングし、塩基配列を解析したところ、両末端のプライマー配列の内側にペプチド1、2のアミノ酸配列をコードしている塩基配列が存在し、前記増幅断片はラフィノース合成酵素遺伝子に由来するDNA断片であることがわかった。
さらに、クローニングした上記PCR増幅DNA断片のラフィノース合成酵素遺伝子上での位置を特定するために、RACEキット(3’Ampifinder RACE Kit(CLONTECH社製))を用いて、3’RACEを行った。
前記cDNA混合物を鋳型に、5’側プライマーにC(C1(配列番号13)、C2(配列番号14))、3’側プライマーにはオリゴ(dT)とアンカー配列を有するプライマーを用いてPCRを行い、さらにこうして得られた増幅断片を鋳型に、Cより内側に位置するD(D1(配列番号15)、D2(配列番号16))を5’側プライマーに、3’側プライマーにはオリゴ(dT)−アンカープライマーを用いてPCRを行った。その結果、C1(配列番号13)、C2(配列番号14)とオリゴ(dT)−アンカープライマーで増幅したDNAを鋳型に、D2(配列番号16)とオリゴ(dT)−アンカープライマーでPCRを行ったときのみ、約2400塩基対のDNA断片が増幅した。また、5’側プライマーにC(C1(配列番号13)、C2(配列番号14))、3’側プライマーにはオリゴ(dT)−アンカープライマーを用いてPCRを行い、さらにこうして得られた増幅断片
を鋳型に、5’側プライマーにE(配列番号17)、3’側プライマーにはオリゴ(dT)−アンカープライマーを用いてPCRを行った。その結果、いずれの場合も、約300塩基対のDNA断片を増幅した。
同様に、前記cDNA混合物を鋳型に、5’側プライマーにA(A1(配列番号6)、A2(配列番号7)、A3(配列番号8)あるいはA4(配列番号9))、3’側プライマーにはオリゴ(dT)とアンカー配列を有するプライマーを用いてPCRを行い、さらにこうして得られた増幅断片を鋳型に、Aより内側に位置するB(B1(配列番号10)、B2(配列番号11)あるいはB3(配列番号12))、3’側に同じオリゴ(dT)−アンカープライマーを用いてPCRを行った。その結果、Aのいずれのプライマーを用いたときも、B2プライマーを用いたときに約2000塩基対のDNA断片を得た。そこで、A2、B2プライマーを用いて増幅したDNA断片をクローニングした。塩基配列を解析したところ、5’側にプライマー作成に用いたペプチド断片1のアミノ酸配列をコードする塩基配列が存在した。また、3’側にはpoly(A)配列と、その上流にペプチド断片3に対応する塩基配列が存在した。
先のPCRの結果と合わせると、ラフィノース合成酵素ペプチド断片は、そのN末端側から2、1、3の順に並んでおり、先にPCRによって得られた約540塩基対のDNA断片は、ラフィノース合成酵素遺伝子上の5’末端に近い部分であることがわかった。ラフィノース合成遺伝子全長を含むcDNAクローンをスクリーニングするためには、プローブとするDNAが5’末端側に近い部分を検出できることが望ましいため、このDNA断片をプローブとしてcDNAライブラリーのスクリーニングに使用した。
<2>ラフィノース合成酵素cDNAのコード領域全長のクローニング
まず、以下のようにしてcDNAライブラリーを作製した。<1>で得られたpoly(A)+RNA 3.8μgからTime Saver cDNA合成キット(Pharmacia Biotech社製)を用いて、2本鎖cDNAを合成した。得られたcDNAを、λファージベクターλMOSSlox(Amersham社製)のEcoRI制限酵素切断部位に組み込んだ後、GigapackII Goldパッケージングキット(STRATAGENE CLONING SYSTEMS社製)を用いて、ファージ蛋白質中に取り込ませ、キュウリのcDNAライブラリーを調製した。なお、本ライブラリーのタイターは1.46×107pfu/μgベクターであった。
上記のキュウリのcDNAライブラリーから1.4×105pfuに相当するファージを宿主細胞エシェリヒア・コリ ER1647に感染させた後、直径90mmの寒天プレート14枚に、プレートあたり1.0×104pfuとなるように蒔いた。これを37℃で約6.5時間培養した後、プレート上に形成されたファージプラークをナイロンメンブレン(Amersham社製Hybond−N+)に転写した。
次に、上記ナイロンメンブレンを、アルカリで処理して転写されたDNAを変性させ、中和した後に洗浄した。その後、このナイロンメンブレンを80℃で2時間処理することでDNAをメンブレン上に固定した。
得られたナイロンメンブレンに対し、<1>で得た約540塩基対のDNA断片をプローブに用い、陽性クローンのスクリーニングを行った。上記の約540塩基対のDNA断片を、制限酵素EcoRIで消化後に電気泳動し、約540塩基対のインサートのみを切り出して精製したものを、DNAラベル・検出システム(Gene Images ラベリング・検出システム(Amersham社製))を用いてフルオレセインラベルし、プローブとした。前記のナイロンメンブレンを60℃で30分間、プレハイブリダイゼーションを行い、次いでラベルしたプローブを加えて60℃で16時間のハイブリダイゼーショ
ンを行った。ラベルされたDNAを検出するための抗体(アルカリフォスファターゼ標識抗フルオレセイン抗体)は、50000倍に希釈して用いた。このスクリーニングにおいて陽性クローンの候補株を得た。得られた候補株について上記と同様にしてスクリーニングをさらに2回繰返し、純化した陽性クローンを取得した。
上記の陽性クローンをエシェリヒア・コリBM25.8に感染させ、カルベニシリンを含む選択培地上で培養することで、cDNAを含むプラスミドベクターλMOSSlox−CRSを切り出した。このプラスミドの挿入cDNAの長さは約2.5kbであった。さらにこのプラスミドで腸菌JM109を形質転換し、形質転換体からプラスミドDNAを調製し、これを塩基配列を解析するための試料とした。
挿入cDNAの塩基配列の解析にはTaq DyeDeoxy Terminator Cycle Sequencing Kit(Perkin−Elmer社製)を用いる従来公知の方法で行った。
その結果、配列表の配列番号4に示す2352塩基対よりなる塩基配列が明らかとなった。この配列中には、本発明者らが用いたDNAプローブの塩基配列と一致する部分が存在した。また、塩基配列から翻訳されるアミノ酸配列を配列番号4及び配列番号5に示した。このアミノ酸配列中には、本発明者らが得たキュウリ由来のラフィノースシンターゼのペプチド1(配列番号5中、アミノ酸番号215〜244)、2(配列番号5中、アミノ酸番号61〜79)及び3(配列番号5中、アミノ酸番号756〜769)と一致する部分が存在し、ラフィノース合成酵素をコードすることが確認された。
上記のようにして得られたラフィノース合成酵素をコードするDNAを含むプラスミドpMossloxCRSを保持するエシェリヒア・コリJM109の形質転換体AJ13263は、平成8年11月19日より、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)にブダペスト条約に基づき国際寄託されており、受託番号FERM BP−5748が付与されている。
実施例4 ラフィノース合成酵素をコードするDNAを含むキメラ遺伝子及び形質転換植物
<1>キメラ遺伝子を含むプラスミドの構築
アグロバクテリウムとしてLBA4404、バイナリーベクターとしてpBI121(CLONTECH社)を用いて、シロイヌナズナにラフィノース合成酵素のDNA断片を導入した。pBI121は、pBIN19由来のプラスミドであり、ノパリン合成酵素遺伝子プロモーター、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ構造遺伝子(NPTII)、ノパリン合成酵素遺伝子ターミネーター(Nos−ter)、CaMV 35Sプロモーター、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、及びNos−terが接続し、これらの両側に植物への移行が可能な配列を有する。CaMV 35Sプロモーターの下流にはSmaI部位があり、この部位に挿入されたインサートは該プロモーターの制御下で発現する。
バイナリーベクターpBI121に、実施例3で得られたラフィノース合成酵素遺伝子断片を挿入した。ラフィノース合成酵素遺伝子をDraI消化し、配列表配列番号4において30番目から1342番目までの塩基を含むDNA断片をアガロースゲル電気泳動により調製した。この断片をpBI121のSmaIサイトにライゲーションした。このライゲーション反応液を用いてエシェリヒア・コリHB101を形質転換し、形質転換株から組換えプラスミドを調製した。得られた組換えプラスミドのうち、CaMV 35Sプロモーターにラフィノース合成酵素DNA断片が逆向きに接続したもの(アンチセンス)、正の向きに接続したもの(センス)ものを2種選択し、それぞれ、pBIRS1及びp
BIRS9と命名した。
上記のようにして得られたプラスミドを、トリペアレンタルメイティングによりアグロバクテリウムLBA4404に導入した。
シロイヌナズナの形質転換は以下のように行った。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の種子は、吸水処理後、1%Tween20を含む80%エタノールにて5分間、同じく1%Tween20を含む10%次亜塩素酸ナトリウムで10分間処理し、滅菌水で5回洗浄して殺菌した。これを、1%低融点アガロースに懸濁し、MS培地(MS基本培地(Murashige and Skoog, Physiologia Plantrum, 15, 473-497 (1962))、B5ビタミン、10g/L スクロース 0.5g/L MES、pH5.8)にまいた。これを、22℃、16時間光照射、8時間暗期の培養室にて1週間培養し、双葉が展開したものをロックウールに定植した。同条件で培養を続け、約3週間後、植物が抽台し、茎の高さが数cmになったところで摘心をした。摘心後1週間し、伸長した側枝の最初の花が開花した状態まで生育させた。
ラフィノース合成酵素遺伝子を含む組換えプラスミドを導入したアグロバクテリウムの前培養を2mlのLB培地で行った。これを、50mg/Lカナマイシン、25mg/Lストレプトマイシン含有のLB培地に接種し28℃で、約1日培養した。室温で集菌し、浸潤用懸濁培地(1/2MS塩、1/2ガンボルグ(Gamborg)B5ビタミン、5%スクロース、0.5g/L MES、pH5.7(KOH)、使用直前にベンジルアミノプリンを最終濃度0.044μM、またシルウェット(SilwetL77)を1L当たり200μl(最終濃度0.02%)加える)に菌液のOD600が0.8になるように懸濁した。
浸潤を行う植物より開花結実している花を取り除いた。ロックウールを逆さにして、前記アグロバクテリウム懸濁液に結実していない花を漬け、デシケータに入れて、40mmHGで15分間減圧した。2から4週間で、種子を集めた。収穫した種子は、デシケータで保存した。
つぎに、選抜培地にて、形質転換体を選抜した。先に述ベたように種子を殺菌し、選抜培地(MS塩、ガンボルグB5ビタミン、1%スクロース、0.5g/L MES、pH5.8、0.8%寒天;オートクレーブ後、選択用抗生物質、カルベニシリン(最終濃度100mg/L、カナマイシン(最終濃度50mg/L)を加える)にて22℃で培養し、耐性植物を選抜した。耐性植物は新しい培地に移し、本葉が展開するまで育てた。ここの植物から種子を収穫した。同様の選抜を繰り返し、T3種子を獲得した。T3種子について、先に述ベた方法によりラフィノース含量を定量した。結果を表3に示す。
Figure 2006314326
ラフィノース合成反応によって生じるラフィノース生成量と反応時間との関係を示す図。 ラフィノース合成酵素のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を示す写真。Mは分子量マーカーを、Sはラフィノース合成酵素を含む試料を示す。数字は分子量(kDa)を表す。 ラフィノース合成酵素活性に対する反応温度の影響を示す図。 ラフィノース合成酵素活性に対する反応pHの影響を示す図。 ラフィノース合成酵素活性に対するミオイノシトールの影響を示す図。 ラフィノース合成酵素の安定pH範囲を示す図。 合成プライマーとペプチドのアミノ酸配列との関係を示す図。RはA又はGを、YはC又はTを、MはA又はCを、KはG又はTを、DはG、A又はTを、HはA、T又はCを、BはG、T又はCを、NはG、A、T若しくはCを、Iはイノシンを表す。

Claims (3)

  1. 下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNAの、植物細胞で転写されたときに内在性ラフィノース合成酵素の発現を抑制する断片に、植物細胞で発現可能な転写領域が連結されているキメラ遺伝子で植物を形質転換し、この遺伝子を植物細胞内で発現させることにより、前記植物のラフィノース族オリゴ糖含量を低減させる方法。
    (A)配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
    (B)配列番号5に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、スクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する活性を有するタンパク質。
  2. DNAが下記(a)又は(b)に示すものである請求項1記載の方法。(a)配列番号4に記載の塩基配列のうち、少なくとも塩基番号56〜2407からなる塩基配列を含むDNA。
    (b)配列番号4に記載の塩基配列のうち、少なくとも塩基番号56〜2407からなる塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクロースとガラクチノールからラフィノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
  3. 前記転写制御領域が、前記DNAのコード鎖に相補的な配列を有するアンチセンスRNAを発現するように前記DNAに連結されている請求項1又は2記載の方法。
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