JP2006312594A - 学習・記憶障害予防用組成物 - Google Patents

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芳久 伊藤
Yasuko Sakata
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Abstract

【課題】記憶障害または学習障害の諸症状の予防に有効かつ安全な経口用薬剤・組成物を提供する。
【解決手段】肉じゅ蓉、山薬、山茱萸、淫羊かく、菟絲子、ムイラプアマ、地黄、柴胡、黄精、黄耆、海狗腎、反鼻および冬虫夏草を含有することを特徴とする学習障害または記憶障害の予防用組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、ある種の生薬成分を含有し、ストレスおよび環境要因、並びに、心的および身体的要因等の様々な原因で発現する学習・記憶障害に対する予防用組成物に関する。本発明は、医薬品、医薬部外品および食品等の分野で利用されうる。
学習とは、経験や観察(訓練)の結果起こる比較的永続性のある進歩的な行動変化である(非特許文献1参照)。また、記憶とは、過去の体験や嗜好などを貯蔵しておき、必要に応じ意識にのぼらせること。そのためには、新しく経験したものを印象づけ、覚えること(記銘)、記銘された事項を貯蔵する作業(保持)、保持された事項をよび出し、意識にのぼらせる作業(想起)、想起された事項が記銘されていたものと同一かどうか確認する作業(再認)の四つの過程がすべて正常に働いている必要がある(非特許文献2参照)。
学習はごく短時間の記憶の集積という意見もあり、学習と記憶とを厳密に区別することはできず、学習・記憶として一括して表現したり、あるいは時間経過を考え習得および再生といった用語を用いる場合があり(非特許文献1参照)、区別は難しいのが現状である。
学習・記憶過程の記銘、保持、想起および再認の1つでも障害を受ければ、学習・記憶障害が発生する(非特許文献1参照)。その症状には記銘減弱、失見当識、作話、健忘症候群が含まれる。慢性アルコール中毒、種々の伝染性疾患、頭部外傷、脳腫瘍、老年痴呆などに随伴してみられる。主病巣は、海馬・乳頭体・視床・帯状回からなる記憶回路の障害をきたすものと考えられている(非特許文献2参照)。
学習・記憶障害を代表とする疾患の一つとして痴呆があり、脳血管の障害に基づく脳血管性痴呆と大脳皮質の神経細胞の脱落もしくは消失を伴う痴呆がある。脳血管性痴呆の場合、最近の高度に進歩した外科的療法により早期に発見し治療を施すことや、脳梗塞の治療に準じ、ある程度の感情や意欲の障害の回復は可能であるが、持続的な認知障害には効果がなく、学習・記憶障害の改善は難しいとされている。一方、大脳皮質の神経細胞欠損型痴呆の学習・記憶障害の治療は、患者の脳においてマイネルト基底核における神経細胞の脱落と共に、アセチルコリン生合成酵素活性がマイネルト基底核、海馬、大脳皮質、扁桃核で著明に低下していることが報告され、脳内アセチルコリン神経系が障害され、痴呆の程度とよく相関することが明らかとなっている。このような背景からアセチルコリンを分解する酵素を可逆的に阻害することにより脳内アセチルコリン量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活化する薬剤が開発され医療現場で使用されている(非特許文献3参照)。しかしながら、失神、徐脈、心ブロック、心筋梗塞、心不全等の重大な副作用が発現するなどの課題があり、より安全性の高い薬剤の開発が望まれている。
学習・記憶障害の代表疾患の1つである神経細胞欠損型痴呆の多くを占める神経病理学的特徴は、老人斑の沈着や神経原線維変化の形成に関係があると考えられる進行性の神経細胞死と脳のエネルギー代謝の低下であり、神経変性と呼応して脳内では顕著な神経化学的変化が認められる。中でもアセチルコリン系の機能低下は著しく、知的機能低下である学習・記憶障害と脳内アセチルコリン系の機能低下には強い相関が認められる。このことから脳内のアセチルコリン系の神経伝達を抑制することにより、大脳皮質の神経細胞欠損型痴呆の動物モデルを作成するという考え方がある。アセチルコリン受容体の拮抗薬の1つであるスコポラミンを投与したマウス等のげっ歯動物やアカゲザル等の霊長類においてよく研究されており、受動的回避反応の参照記憶課題において明確な障害を誘発し、ヒトにおける記憶障害モデルとして有用であると考えられる(非特許文献4参照)。
受動的回避学習試験は、明暗の2室に分けた実験箱の明室側にマウスやラットを置くと、動物は暗いところが好きなので比較的に速やかに暗室に入っていく。ところが、床グリッドを介して電気ショックを与えると、動物はあわてて明室側に逃げ戻り、その後は暗室に入りにくくなる(獲得試行)。一定時間経過後に同一実験箱の明室側に動物を置いたとき(再生試行)、前の被爆体験と強い嫌悪感を記憶し、暗室に入らない実験で、Step―Through型受動的回避実験と呼ばれ、明室に置かれた動物が暗室に移動するまでの時間を反応潜時および随伴する情動による行動症状変化を記録し、反応潜時の長短や行動変化から記憶の強弱を推定する試験法である(非特許文献1参照)。
田所作太郎監修・編集「行動薬理学の実践−薬物による行動変化−」星和書店、1991年 後藤稠ら編集「最新医学大事典第2版」医歯薬出版株式会社、1996年 多賀須幸男、尾形悦郎ら編集「今日の治療指針」医学書院、p221、1996年 小野寺憲治編集「神経行動薬理研究の最前線」、1997年
本発明は、学習障害・記憶障害の予防に有効かつ安全な経口用組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、スコポラミン誘発学習・記憶障害モデルマウスを用いて鋭意検討した結果、記憶障害および学習障害の程度を反映する指標である反応潜時や随伴症状スコア等が有意に延長される生薬成分を特定し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の一つの態様は、肉じゅ蓉、海狗腎、鹿茸、淫羊かく、冬虫夏草、蛇床子、菟絲子、人参、山薬、反鼻、山茱萸、茯苓、五味子、甘草、地黄およびムイラプアマを含有することを特徴とする学習障害または記憶障害の予防用組成物である。
本発明の他の態様は、さらにアミノエチルスルホン酸、ビタミンB2、ビタミンB6および無水カフェインを含有することを特徴とする前記学習障害または記憶障害の予防用組成物である。
本発明により、記憶障害または学習障害の諸症状を予防するのに有効かつ安全な経口用組成物を提供することが可能となった。
本発明の学習障害または記憶障害の改善に用いられる生薬成分は、肉じゅ蓉、海狗腎、鹿茸、淫羊かく、冬虫夏草、蛇床子、菟絲子、人参、山薬、反鼻、山茱萸、茯苓、五味子、甘草、地黄およびムイラプアマであり、これら生薬成分は、乾燥し切断、粉末としたものをそのまま用いてもよいが、水、エタノール、水およびエタノールの混合液、有機溶媒等に浸出させ、その液を濃縮して製したエキス、例えば、乾燥エキス、流エキスなどを用いることもできる。
肉じゅ蓉とは、ハマボウフウ科のCistanche salsa(ホンオニク)およびCistanche類である。
海狗腎とは、アザラシ科の雄の陰茎や睾丸の生殖器である。
鹿茸とは、シカ科の Cervus elaphus(マンショウアカジカ)、Cervus nippon(マンショウジカ)およびCervus類の雄の角を乾燥したものである。
淫羊かくとは、メギ科のEpimedium sagittatum(ホザキノイカリソウ)およびEpimedium類である。
冬虫夏草とは、バッカクキン科のCordyceps sinensis(フユムシナツクサタケ)およびPodonectrioides類、Torbiella類などの類縁菌に産生する子実体およびその寄生主である昆虫の虫体である。
蛇床子とは、セリ科のCnidium monnieriおよびCnidium類である。
菟絲子とは、ヒルガオ科のCuscuta chineisis(マメダオジ)、Cuscutajaponica(ネナシカズラ)、Cuscuta epillinumおよびCuscuta類である。
杜仲とは、杜仲科の Eucommia ulamoides(トチュウ)およびEucommia類である。
人参とは、ウコギ科の Panax ginseng(オタネニンジン)およびPanax類の細根を除いた根またはこれを軽く湯通ししたものである。
山薬とは、ヤマノイモ科のDiscorea batatas(ナガイモ)およびDioscorea類である。
反鼻とは、トカゲ目のクサリヘビ科のAgkistrodon halys(マムシ)、Agkistodon類、Trimeresurus flavoviridis(ハブ)およびTrimeresurus類である。
山茱萸とは、ミズキ科のCornus officinalis(サンシュユ又はハナコガネバナ)およびCornus類の果実である。
茯苓とは、サルノコシカケ科のPoria cocos(マツホド)およびPoria類である。
五味子とは、マツブサ科のSchisandra chinensis(チョウセンゴミシ)およびSchisandra類である。
甘草とは、マメ科のGlycyrrhiza uralensis glabraおよびGlycyrrhiza類のである。
地黄とは、ゴマノハグサ科のRehmannia glutinosa(アカヤジオウ)およびRehamania類である。
ムイラプアマとは、ボロボロノキ科のPtychopetlum類およびLiriosma類である。
学習障害または記憶障害の改善に用いられる生薬成分の投与量は、服用者の性別、年齢、体重、症状、投与(服用)方法、投与回数、投与期間等により適宜増減できるが、好ましくは、原生薬換算量として成人で1日当たり、肉じゅ蓉で50mg〜50g、山薬で30mg〜30g、山茱萸で50mg〜50g、淫羊かくで100mg〜100g、菟絲子で30mg〜30g、ムイラプアマで30mg〜30g、地黄で30mg〜30g、海狗腎で10mg〜10g、反鼻で25mg〜25g、冬虫夏草で30mg〜30g、杜仲で30mg〜30g、蛇床子で30mg〜30g、鹿茸で30mg〜30g、茯苓で30mg〜30g、人参で60mg〜60g、五味子で30mg〜30g、甘草で10mg〜10gを組み合わせて使用する場合には、全生薬の原生薬換算量にて1日当たり0.01〜100gであり、好ましくは0.05〜50gであり、さらに好ましくは0.1〜20gである。
また、前記生薬成分にさらにアミノエチルスルホン酸、ビタミンB2、ビタミンB6、無水カフェインを配合すると学習障害または記憶障害予防作用が増強された経口用組成物が得られる。
本発明の薬剤・組成物は、経口的に投与するものであり、有効成分をそのまま、または必要に応じて他の成分(賦形剤、pH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、消法剤、粘稠剤、溶解補助剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤、香料など)と混合して、定法により、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、トローチ剤、ゼリー剤、ドライシロップ剤、チュアブル錠、液剤などの経口製剤として投与することができる。
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明を説明する。
なお、特に記載がない限り以下の実施例および比較例で用いた生薬はエキスであり、配合量は原生薬量を示す。
実施例1
ムイラプアマ 300mg
海狗腎 100mg
山茱萸 500mg
杜仲 300mg
菟絲子 300mg
蛇床子 300mg
肉じゅ蓉 500mg
山薬 300mg
鹿茸 300mg
地黄 300mg
茯苓 300mg
淫羊かく 1000mg
反鼻 250mg
人参 600mg
五味子 300mg
甘草 100mg
冬虫夏草 300mg
アミノエチルスルホン酸 500mg
ビタミンB2 5mg
ビタミンB6 5mg
無水カフェイン 50mg
エタノール 1.5mL
上記の各成分を適量の精製水で溶解した後、pHを調整し、残りの精製水を加えて容量調整し、必要に応じて濾過、滅菌処理し液剤を得た。
比較例1
実施例1からアミノエチルスルホン酸、ビタミンB2、ビタミンB6および無水カフェインを除き、生薬成分からなる処方にて実施例1と同様に液剤を得た。
比較例2
アミノエチルスルホン酸、ビタミンB2、ビタミンB6、無水カフェインおよびエタノールからなる処方にて実施例1と同様に液剤を得た。
試験例1
被験動物としてddY系の雄マウス(5週齢)を用いた。マウスは実験に供するまで、1週間予備飼育し、餌および水を自由に摂取させ、室温23土1℃、湿度50土10%、12時間の明暗サイクルの一定環境下で飼育した。マウスの体重を測定し、バラツキが無いように分け、1時間の馴化の後に、被験物質である「実施例1」、「比較例1」、「比較例2」で調製した液剤を各々マウスの体重10g当たり0.1mLを単回経口投与した。経口投与1時間後に、マウスの腹腔内にスコポラミンをマウス体重1kg当たり0.4mg投与し、学習・記憶障害モデルマウスを作成した。コントロールとして生理食塩水を同様量腹腔内に投与した。腹腔内投与30分後に、Step−Through型受動的回避学習障害装置の明室にマウスを入れ、マウスが明室から暗室へ移動した瞬間に明室と暗室とをつなぐ穴をドアにて塞ぎ、暗室の床から電気ショック(50V、0.6mA)を5秒間与え、そこに10秒間留めた(獲得試行)。獲得試行終了後、マウスを飼育ケージに戻し、24時間および48時間後に改めて、Step−Through型受動的回避学習障害装置の明室にマウスを入れ、マウスが明室から暗室へ移動するまでの時間(反応潜時)および随伴する症状である便の個数、震え・立毛・立ちすくみ・毛づくろいの有無を測定した。測定時間は5分間とし観察した。マウスが暗室での電気ショックによる嫌悪刺激を覚えていれば、24または48時間後に改めてStep−Through型受動的回避学習障害装置の明室にマウスを入れると、暗室への移動時間が長くなり、覚えていないと短い時間で暗室へと移動する。随伴症状は、覚えていると各症状の出現頻度が増加し、覚えていないと出現頻度が減少する。これらを指標として学習・記憶障害に対する効果を検討した。
反応潜時の結果を図1に示す。スコポラミンを投与すると反応潜時が有意に短縮し、学習・記憶は障害された。実施例1は水および比較例2と比較し24時間および48時間後の反応潜時を延長させた。比較例1と比較しても延長する傾向が認められた。
便の個数の結果を図2に示す。スコポラミンを投与すると便の個数が有意に減少したが、実施例1は、水、比較例2と比較し、24時間および48時間後の便の個数を増加させる傾向を示した。
震え・立毛・立ちすくみ・毛づくろいの結果を図3に示す。スコポラミンを投与すると症状スコアが有意に減少した。24時間後では実施例1は水および比較例2と比較し症状スコアを増加させた。比較例1と比較しても増加傾向を示した。48時間後では、実施例1は水および比較例2と比較し症状スコアを増加させる傾向を示した。
試験例1の試験結果から明らかなように、被験物質は、学習・記憶障害を予防することが示唆された。
本発明により、安全で長期間の継続投与が可能な学習障害または記憶障害の予防用の医薬品、医薬部外品および食品の提供が期待される。
反応潜時を示すグラフである。 便の個数を示すグラフである。 震え・立毛・立ちすくみ・毛づくろいを示すグラフである。

Claims (2)

  1. 肉じゅ蓉、海狗腎、鹿茸、淫羊かく、冬虫夏草、蛇床子、菟絲子、人参、山薬、反鼻、山茱萸、茯苓、五味子、甘草、地黄およびムイラプアマを含有することを特徴とする学習障害または記憶障害の予防用組成物。
  2. さらにアミノエチルスルホン酸、ビタミンB2、ビタミンB6および無水カフェインを含有することを特徴とする請求項1記載の学習障害または記憶障害の予防用組成物。
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