JP2006308333A - レーダ装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】一定時間内で多くの単位走査情報を取得し、物標の空間存在分布を高精度に算出することが可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置は、走査方向ベクトルPがA1からA8に至るまでの間、n回の単位走査を行い、n個の単位走査情報を取得する。それぞれの単位走査情報には、単位走査を行った際の方位角および仰角を対応付けるので、走査方向ベクトルPの方位角と仰角の両者を変化させつつ単位走査情報を取得することができる。そのため、走査方向ベクトルPがA1からA8に至るまでの間、単位走査情報の取得を行わない区間を設ける必要はない。
【選択図】図2

Description

本発明は、物標の空間存在分布を測定するレーダ装置に関する。
降水粒子等の物標の空間存在分布を測定するレーダ装置が広く用いられている。レーダ装置は、電磁波を送信し物標で反射した電磁波を受信する。物標に到来した電磁波はその全てが物標で反射するのではなく、一部は物標より遠方側へ伝搬していく。その物標より遠方側に存在する物標で反射した電磁波は、先の物標で反射した電磁波よりも遅延して受信されるため、レーダ装置では電磁波の送受信方向に並ぶ物標で反射した電磁波が、物標のレーダ装置までの距離に従った遅延時間を以て受信されることとなる。この原理によれば、遅延して受信される電磁波の電界強度を予め定められた時間間隔で測定することにより、遅延時間から算出される距離ごとに物標の存在の有無を示した物標の存在分布を算出することができる。
このように、レーダ装置では、電磁波の1回の送受信により、電磁波の送受信方向への物標の存在分布に関する情報が得られる。以下、電磁波の1回の送受信を単位走査と、単位走査で取得される情報を単位走査情報とする。また、単位走査を行う際の電磁波の送受信方向を走査方向とする。レーダ装置は、物標の空間存在分布を測定しようとする空間について走査方向の異なる複数の単位走査情報を取得し、複数の単位走査情報に基づいて物標の空間存在分布を算出する。
図8に、レーダ装置の一般的な構成を示す。送受信部26は、アンテナ22を介して電磁波を送信し、物標で反射した電磁波をアンテナ22を介して受信する。信号処理部28は電磁波を送信した後、遅延して受信される電磁波の電界強度を予め定められた時間間隔で測定することにより当該時間間隔で単位走査情報を取得する。
レーダ装置の走査方向はアンテナ22の指向方向によって定まる。走査方向制御部32は、アンテナ22の指向方向の方位角および仰角の目標値φt,θtをアンテナ駆動部24に入力し、アンテナ駆動部24は、アンテナ22の指向方向の方位角および仰角が、走査方向制御部32によって入力された目標値φt,θtとなるようアンテナ22を駆動する。このような構成によって、走査方向制御部32による走査方向の制御が可能となる。
アンテナ22の指向方向の方位角および仰角の目標値φt,θt、すなわち走査方向の方位角および仰角の目標値φt,θtは信号処理部28にも入力されている。これによって、単位走査を行った際の走査方向に関する情報を単位走査情報に対応付けることができる。信号処理部28は、走査方向を変化させつつ複数の単位走査情報を取得することによって空間走査情報を取得し、これに基づいて直交座標における電界強度の空間分布を算出し、これを物標の空間存在分布として表示部30に表示する。
従来のレーダ装置では、走査方向の仰角を一定に保持して走査方向の方位角を360度変化させつつ単位走査を行う定仰角走査を、複数の異なる仰角について行うものが一般的であった。このような走査は一般にCAPPI走査(Plan Position Indicator)と呼ばれる。一回のCAPPI走査によってレーダ装置が取得する空間走査情報は、一回の定仰角走査によって得られる定仰角走査情報を複数の異なる仰角について取得したものの集合である。そして、空間走査情報をなすそれぞれの定仰角走査情報は、仰角を一定にしつつ複数の異なる方位角について単位走査情報を取得したものの集合である。
図9に従来のレーダ装置が取得する単位走査情報38、定仰角走査情報36、および空間走査情報34の構成を示す。単位走査情報38は、仰角が一定であるという条件の下、測定位置に存在する物標で反射した電磁波の電界強度と方位角とを対応付けたものである。測定位置はレーダ装置からの距離を以て表される。測定された電界強度が大きいことは、その位置における物標が電磁波を透過し難いことを意味する。したがって、所定間隔の測定位置に存在する物標で反射した電磁波の電界強度は、走査方向への物標の存在分布を表しているといえる。
図9は、レーダ装置が一つの仰角に対して方位角を0度から360度までの間でp分割して単位走査を行って取得した情報を示している。単位走査情報38は分割された方位角φ1から方位角φpまでのそれぞれの条件において任意に定められた測定位置、すなわちレーダ装置からの距離がRsである位置について電界強度Esqの測定結果を配列する。また、レーダ装置は、仰角を0度から90度までの間でm分割して定仰角走査を行っており、任意のm個の仰角に対して定仰角走査情報36は分割された方位角φ1から方位角φmまでのそれぞれについて取得された単位走査情報38を配列する。そして、空間走査情報34は、仰角θ1から仰角θmまでのそれぞれについて取得された定仰角走査情報36を配列する。ここで、pおよびmは任意の自然数、qは1からpまでの自然数、sは方位角φ1から方位角φpまでのそれぞれの条件において定められた測定位置に付された自然数である。図9の自然数kはk番目の測定位置であることを示す。また、方位角φ1から方位角φpまでのそれぞれの条件においては最大測定距離が定められる。最大測定距離はレーダ装置が送信する電磁波の電界強度および受信に費やす時間によって定まる。送信する電界強度が強い程そして受信に費やす時間が長い程、遠方からの反射波を測定することができるため、最大測定距離は大きくなる。なお、図9の空間走査情報34では、時系列での情報の管理は一つの定仰角走査情報36を一単位として行っている。すなわち、一つの定仰角走査情報36には一つの時刻情報が付されており、一つの定仰角走査情報36は同時刻に取得されたものとして扱われる。
図10(a)にレーダ装置が空間走査情報34を取得するための走査方向ベクトルPが描く軌跡を示す。ここで走査方向ベクトルPとは、その長さがレーダ装置の最大測定距離を示し、その方向がレーダ装置の走査方向を示すベクトルをいう。図10(b)はレーダ装置が存在する点Rを原点とする直交座標において、走査方向ベクトルPの方位角φおよび仰角θを定義する図である。方位角φは図10(b)のy方向を0度とし、xy平面での時計回りを正とする。また、仰角θは、xy平面と平行な方向を0度とし、xy平面からz軸方向へ向かう回転方向を正とする。
走査方向ベクトルPは、図10(a)の点F1から仰角θ1が一定であるという条件の下で方位角φを変化させつつ定仰角軌跡G1を描き、再度、点F1に到来したところで方位角φの変化を停止する。この段階で、レーダ装置は仰角θ1に対する定仰角走査情報36の取得を終了する。
次に、レーダ装置はアンテナ22を駆動することによって走査方向ベクトルPを点F1から点F2に移動する。走査方向ベクトルPが点F1から点F2に移動する間は単位走査情報38の取得は行われない。そして、走査方向ベクトルPが点F2に移動すると、走査方向ベクトルPは仰角θ2が一定であるという条件の下で方位角φを変化させつつ定仰角軌跡G2を描き、再度、点F2に到来したところで方位角φの変化を停止する。以降、同様にしてレーダ装置は、走査方向ベクトルPが、点F3、定仰角軌跡G3、点F3、点F4、定仰角軌跡G4、点F4、点F5の順に軌跡を描くようアンテナ22を駆動する。このように、走査方向ベクトルPは、一つの定仰角軌跡Gを描き終えた後、描き終えた定仰角軌跡Gから次の定仰角軌跡Gを描くために仰角θを変化させ、続けて次の定仰角軌跡Gを描くという軌跡をとる。レーダ装置は、走査方向ベクトルPが最も仰角θの大きい定仰角軌跡G5を描き終えたところでアンテナ22の駆動を終了する。
なお、ここでは説明を簡単にするため、仰角θを5段階に分割する場合、すなわちm=5の場合について考えたが、任意の自然数mについても複数の定仰角軌跡を描く動作は同様である。
レーダ装置は、走査方向制御部32の制御によって走査方向を図10(a)に示す走査方向ベクトルPのように変化させる。それと共に信号処理部28は複数の単位走査情報38を取得し、図9に示すような空間走査情報34を取得する。そして、取得した空間走査情報34を構成するそれぞれの定仰角走査情報36に対して座標変換を施し、直交座標における電界強度の空間分布を算出する。各単位走査情報38における電界強度は物標の電磁波の透過し難さ、すなわち物標の反射係数で定まるため、算出された電界強度の空間存在分布は物標の空間存在分布を表し、これを表示部30に表示することで観測者は物標の空間存在分布を把握することができる。
なお、次の特許文献1には、気象レーダ装置が出力する観測データのデータ形式と、当該観測データを計算処理して気象状況に係る将来予測を実施する気象レーダシステムの構成が開示されている。また、特許文献2には、気象条件に応じて異なる走査モードを選択する気象レーダの制御方法が開示されている。
特開2002−98760号公報 特許第3473385号公報
従来のレーダ装置では、低仰角から高仰角に亘る複数の仰角について定仰角走査情報36を取得し、取得した複数の定仰角走査情報36から構成される空間走査情報34に基づいて物標の空間存在分布を算出している。低仰角から高仰角に亘る複数の定仰角走査情報36は、物標の空間存在分布が著しく変化しない時間内に取得する必要がある。その理由は、最も低い仰角に対する定仰角走査情報36を取得し始めてから、最も高い仰角に対する定仰角走査情報36を取得し終えるまでの時間が長く、その時間の間に物標の空間存在分布が著しく変化してしまうと、複数の定仰角走査情報36のそれぞれが寄与する情報に時間的な不整合が生じ、算出される物標の空間存在分布に大きな誤差が生じてしまうからである。
また、空間存在分布は、物標の存在の有無を空間に配置された測定点を以て表すものであるため、空間存在分布を算出しようとする体積内において測定点が密に配置されている程、空間存在分布を表示する際の分解能が高くなる。したがって、一つの空間走査情報34に含まれる単位走査情報38の数が多い程、物標の空間存在分布を緻密に算出することができ、空間存在分布をより正確に算出することができるといえる。
したがって、物標の空間存在分布を正確に算出するためには、物標の空間存在分布が著しく変化しない一定時間内に、より多くの数の単位走査情報36を含む空間走査情報34を取得する必要があるといえる。
しかしながら、従来のレーダ装置では、一つの定仰角走査情報36を取得してから次の定仰角走査情報36を取得する際に、単位走査情報38の取得を停止した上で仰角θを変化させる。これは、情報を取得する一つの単位が定仰角走査情報36であり、仰角θを変化させている間は情報取得を行うことができないからである。
そのため、物標の空間存在分布が著しく変化しない一定時間内に空間走査情報34を取得しなければならないという条件の下、仰角θを変化させつつ取得することのできる単位走査情報36の数が少なくなり、物標の空間存在分布を算出する際の精度が低下するという問題があった。
本発明はこのような課題に対してなされたものであり、一定時間内により多くの単位走査情報を取得し、物標の空間存在分布を高精度に算出することが可能なレーダ装置を提供する。
本発明は、電磁波の送受信方向への物標の存在分布を測定する単位走査を複数回行うことによって物標の空間存在分布を測定するレーダ装置であって、単位走査で取得する単位走査情報は、電磁波の送受信方向の方位角に関する情報と電磁波の送受信方向の仰角に関する情報のいずれをも含み、第1の単位走査の次に行う第2の単位走査での電磁波の送受信方向は、第1の単位走査での電磁波の送受信方向に対して方位角と仰角のいずれをも変化させることを特徴とする。
また、本発明に係るレーダ装置においては、単位走査情報は、レーダ装置が当該単位走査情報を取得した時刻に関する情報を含む構成とすることが好適である。
本発明によれば、レーダ装置の電磁波の送受信方向を任意の方向に変化させつつ単位走査を行うことができる。そのため、走査方向を変化させる際に単位走査情報の取得を行わない区間をなくし、一定時間内に取得される物標の空間存在分布の測定に寄与させる情報を増加させることができる。
本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置は、一つの単位走査情報に単位走査を行う際の方位角のみならず仰角をも対応付けることにより、走査方向を任意の方向に変化させつつ単位走査情報を取得するものである。その構成は、図8に示すものと同一であり、走査方向制御部32およびアンテナ駆動部24の動作、ならびに信号処理部28における信号処理を変更することによりレーダ装置を実現することができる。
図1に本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置が取得する空間走査情報10の構成を示す。空間走査情報10はn個の単位走査情報12から構成される。図1の方位角φiおよび仰角θiはi番目に行われる単位走査における走査方向を示す。単位走査情報12は、測定位置に存在する物標で反射した電磁波の電界強度と走査方向とを対応付けたものであり、走査方向のそれぞれの条件について定められた測定位置について電界強度Ejiの測定結果を配列する。測定位置はレーダ装置からの距離Rjを以て表される。また、単位走査情報12にはレーダ装置によって取得された時刻に関する情報が付されている。ここで、nは任意の自然数、iは1からnまでの自然数、jは走査方向のそれぞれの条件において定められた測定位置に付された自然数である。また、図1に記載されている自然数kはk番目の測定位置であることを示す。
本実施形態における単位走査情報12は、従来のレーダ装置における単位走査情報38とは異なり、仰角が一定であるという条件の下で取得する必要はなく、任意の仰角について取得することができる。そのため、走査方向ベクトルPが描く軌跡を任意に決定することができる。なお、測定位置に存在する物標で反射した電磁波の電界強度が、走査方向への物標の存在分布を表している点については従来のレーダ装置における単位走査情報38と同様である。
図2に本実施形態に係るレーダ装置が空間走査情報10を取得するための走査方向ベクトルPが描く軌跡を示す。走査方向ベクトルPの方位角φおよび仰角θの定義は図10(b)に示される通りである。走査方向ベクトルPは図2の点A1から仰角一定の条件の下で方位角φを変化させつつ定仰角軌跡B1を描く。そして、定仰角軌跡B1の終点A2に至ると共に方位角φのみならず仰角θをも変化させつつ上昇軌跡C1を描く。走査方向ベクトルPが定仰角軌跡B2の始点である点A3に至った後は、仰角θを一定に保持しながら定仰角軌跡B2を描く。そして、定仰角軌跡B2の終点A4に至ると共に方位角φのみならず仰角θをも変化させつつ上昇軌跡C2を描く。以降、同様にして走査方向ベクトルPは、点A5、定仰角軌跡B3、点A6、上昇軌跡C3、点A7、定仰角軌跡B4、点A8、上昇軌跡C4、点A9の順に軌跡を描く。
このように、レーダ装置は、走査方向ベクトルPが一つの定仰角軌跡Bを描き終えた後、上昇軌跡Cを描き、続けて次の定仰角軌跡Bを描くようアンテナ22を駆動する。そして、最も仰角の大きい定仰角軌跡B5を描き終えたところでアンテナ22の駆動を終了する。このとき、定仰角軌跡Bを描く間に単位走査情報12を取得すると共に、上昇軌跡Cを描く間にも単位走査情報12を取得する。レーダ装置は、アンテナ22を駆動して走査方向ベクトルPを点A1から点A8に至らしめるまでの間、n回の単位走査を行い、n個の単位走査情報12を取得する。
次に、レーダ装置は、取得した空間走査情報10を構成するそれぞれの単位走査情報12に対して座標変換を施し、直交座標における電界強度の空間分布を算出する。具体的には、信号処理部28が図1に示す単位走査情報12において極座標で表された座標値(Rj,φi,θi)を直交座標で表された座標値(Xji,Yji,Zji)に変換する。座標変換前においては、極座標で表された座標値(Rj,φi,θi)に対しては、電界強度Ejiが対応付けられていることから、座標変換後の座標値(Xij,Yij,Zij)には、電界強度Ejiを対応付ける。信号処理部28は、[(Rj,φi,θi),Eji]のように表される情報系列を[(Xji,Yji,Zji),Eji]のように表される情報系列へと変換する処理をすべてのiおよびjに対して行うことで、直交座標における電界強度の空間分布を算出する。
各単位走査情報12における電界強度は、物標の反射係数で定まるため、算出された電界強度の空間分布は物標の空間存在分布を表すこととなる。したがって、これを表示部30に表示することで観測者は物標の空間存在分布を把握することができる。
従来のレーダ装置では、異なる2つの仰角θに対して単位走査情報12を取得するためには、2つの仰角θそれぞれにおいてアンテナ22を360度回転させて定仰角走査情報36を取得する必要があった。一方、本実施形態に係るレーダ装置では、走査方向ベクトルPが定仰角軌跡Bを描く間のみならず上昇軌跡Cを描く間においても単位走査情報12を取得するので、従来のレーダ装置に比して、一定時間内に取得される異なる仰角方向に対する単位走査情報12の数を増加させることができる。そのため、空間存在分布における仰角方向の分解能を高めることができ、空間存在分布を表示部30に表示する際の分解能を高めることができる。
本実施形態に係るレーダ装置では、走査方向を任意の方向に変化させつつ単位走査情報を取得することができるため、走査方向ベクトルPが図3に示すような螺旋状の軌跡を描くレーダ装置を構成することができる。走査方向ベクトルPの方位角φおよび仰角θの定義は図10(b)に示される通りである。時間iΔtの経過に対し、方位角φをφ=φ0+iΔφに従って変化させ、仰角θをθ=θ0+iΔθに従って変化させることで、走査方向ベクトルPは、始点D1から終点D2に至るまでの螺旋状の軌跡を描く。ここに、φ0は始点D1での方位角を、θ0は始点D1での仰角を表す。
図4に走査方向ベクトルPが図3のような軌跡を描く場合に取得される空間走査情報14の構成を示す。空間走査情報14はn個の単位走査情報16から構成される。単位走査情報16は時間Δtごとに取得され、単位走査を行うごとにΔφだけ増加した方位角φ、および単位走査を行うごとにΔθだけ増加した仰角θが対応付けられる。
走査方向ベクトルが図3に示す軌跡を描く場合、方位角φおよび仰角θの単位走査ごとの変化を簡単な規則性によって定義することができるため、図2に示す軌跡を描く場合に比して走査方向の制御が容易になる。方位角φの増加量Δφおよび仰角θの増加量Δθを小さくすれば、より多くの単位体積当たりの単位走査情報16を取得することができるため、情報量の不足に基づく誤差を低減することができる。しかしながら、これらをあまりに小さくすると空間走査情報14を取得するために長時間を要し、時間的不整合に基づく誤差が大きくなる。一方、方位角φの増加量Δφおよび仰角θの増加量Δθを大きくすれば、時間的不整合に基づく誤差を低減することができるが、取得することができる単位体積当たりの単位走査情報16が減少するため、情報量の不足に基づく誤差が増大する。したがって、方位角φの増加量Δφおよび仰角θの増加量Δθは、これらの値の増減による利益と不利益を鑑みて決定することが好ましい。
本実施形態に係るレーダ装置では、走査方向ベクトルPが図5に示すような軌跡を描く部分走査を行うことができる。図5は、方位角φがφAからφBの間にある部分空間S1と、方位角φがφCからφDの間にある部分空間S2とに分けて空間走査情報を取得する場合の軌跡を示す。走査方向ベクトルPは方位角φをφAからφBの範囲で変化させると共に、仰角θを0度から90度まで増加させ、点H1から点H2に至るまでの軌跡を描く。レーダ装置はそれと共に複数の単位走査を行い、部分空間S1について複数の単位走査情報12を取得する。その後、走査方向ベクトルPは方位角φをφCからφDの範囲で変化させると共に、仰角θを90度から0度まで減少させ、点H2から点H3に至るまでの軌跡を描く。レーダ装置はそれと共に複数の単位走査を行い、部分空間S2について複数の単位走査情報12を取得する。このようにして、部分空間S1および部分空間S2の両者に対する空間走査情報10を取得する。
レーダ装置は、取得した空間走査情報10に基づいて、物標の空間存在分布を算出する。この際、空間走査情報10に含まれる単位走査情報12のうち物標の空間存在分布の算出に寄与させる一部を選択することにより、単位走査を行った空間のうちの一部について物標の空間存在分布を算出することができる。例えば、空間走査情報10に含まれる単位走査情報12のうち、前半に取得されたものを選択すれば、部分空間S1についてのみ物標の空間存在分布が算出され、後半に取得されたものを選択すれば、部分空間S1についてのみ物標の空間存在分布が算出される。
単位走査情報12の選択は、信号処理部28に接続された入力手段(図示せず)を介して読み込まれる選択条件に関する情報に従って行われる。先述のように単位走査情報12には、単位走査を行った際の方位角φiおよび仰角θi、および取得された時刻に関する情報が対応付けられている。選択条件は、単位走査情報12に対応付けられている方位角φiおよび仰角θiの範囲、取得された時刻の範囲に基づいて設定することができる。例えば、部分空間S1についてのみ物標の空間分布を算出する場合には、走査方向の方位角φiがφAからφBの範囲にあり、かつ、走査方向の仰角θiが0度から90度の範囲にあるという選択条件となる。また、走査方向ベクトルPが点H1、点H2、点H3にあるときの時刻が既知であれば、これらの時刻を以て選択条件を設定してもよい。
このように部分的に物標の空間存在分布を算出することで、時間的不整合に基づく見かけ上の誤差を低減することができる。ここで、時間的不整合に基づく見かけ上の誤差とは、全ての単位走査情報12を同時に取得することができないことに基づく誤差をいう。例えば、走査方向ベクトルPが図5の点H1付近に存在するときに取得された単位走査情報12と、点H3付近に存在するときに取得された単位走査情報では、取得された時刻が異なり、それぞれに含まれる情報は同時に取得されたものではないため、取得された時間差内で生じた物標の空間存在分布の変化に基づく誤差が算出された空間存在分布に生じる。
部分走査を行う部分空間Sの範囲を狭くすればする程、空間存在分布の算出に寄与させる単位走査情報12の数は少なくなり、空間存在分布の算出対象となる部分空間Sの範囲は狭くなるが、算出される空間存在分布の時間的不整合に基づく見かけ上の誤差は低減される。したがって、選択条件は、部分空間Sの範囲と時間的不整合に基づく見かけ上の誤差とを鑑みて決定することが好ましい。
本実施形態に係るレーダ装置では、RHI走査(Range Height Indicator)を行うことも可能である。ここでRHI走査とは、方位角を一定にして仰角を180度変化させつつ単位走査を行う定方位角走査を複数の異なる方位角について行う走査方式をいい、等方位角断面内における物標の存在分布を算出するのに好適な走査方式である。
上述の第1の実施形態に係るレーダ装置では、単位走査情報12として、測定位置に存在する物標で反射した電磁波の電界強度を取得する。そして、取得されたn個の単位走査情報12によって構成される空間走査情報10に基づいて物標の空間存在分布を算出する。レーダ装置を気象観測等に適用する場合、物標としての降水粒子の空間存在分布を測定するのみならず、その移動速度分布を測定することができることが好ましい。本発明の第2の実施形態は、このような問題に鑑み、物標の空間存在分布に加えて移動速度分布をも測定することができるレーダ装置に本発明を適用したものである。その構成を図6に示す。図8と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。
図7に本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置が取得する空間走査情報18の構成を示す。本実施形態に係るレーダ装置は、送信した電磁波の周波数と物標で反射した電磁波の周波数との差、すなわちドップラシフト周波数をドップラ信号処理部40において算出することによって物標の移動速度を測定する。算出された物標の移動速度に関する情報は信号処理部42に入力される。移動速度を測定するために送信する電磁波は、物標の存在分布を測定するためのものを利用することができる。したがって、単位走査によって電磁波の送受信方向への物標の存在分布を測定すると共に、その移動速度分布をも測定することができる。そこで、本実施形態では、測定位置に存在する物標から反射した電磁波の電界強度に関する情報を有する単位走査情報20に、ドップラ信号処理部40で算出された物標の移動速度に関する情報を含ませることとする。ここで、単位走査によって測定される移動速度は走査方向への移動速度であることに注意する必要がある。
レーダ装置は、空間走査情報18を構成するそれぞれの単位走査情報20に対して座標変換を施し、直交座標における電界強度の空間存在分布を算出する処理、すなわち、信号処理部42において[(Rj,φi,θi),Eji]のように表される情報系列を[(Xji,Yji,Zji),Eji]のように表される情報系列へと変換する。この処理は第1の実施形態に係るレーダ装置において行われる処理と同様である。本実施形態では、このような処理に加えて、単位走査情報20のそれぞれにおける移動速度の、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向への射影を算出する。
具体的には、測定された移動速度Vjiに対して、これを直交座標へ射影したベクトルUji=(Vjicosθisinφi,Vjicosθicosφi,Vjisinθi)を信号処理部42が算出する。これによって、例えば、直交座標における点(Xji,Yji,Zji)に存在する物標のxy平面に平行な成分は、(Vjicosθisinφi,Vjicosθicosφi)と算出される。
算出された電界強度の空間分布が物標の空間存在分布を表すことは上述のとおりである。本発明に係るレーダ装置は、直交座標における電界強度の空間分布に、直交座標へ射影したベクトルVjiの様子を重ねて表示部30に表示する、これによって、観測者は物標の空間存在分布のみならず移動速度をも把握することができる。
本実施形態においては、各々の単位走査情報20に方位角および仰角の値が対応付けられているので、走査方向を任意の方向に移動させつつ単位走査を繰り返すことができる。また、単位走査においては物標のドップラシフト周波数を測定し、これを単位走査情報20に含ませている。これによって当該空間走査情報18に基づいて物標の空間存在分布を高精度に算出することが可能となることに加え、物標の移動速度分布を高精度に算出することが可能となる。
本発明に係るレーダ装置は、降水粒子等、空間に連続的に存在する物標を観測する目的に好適であるため、気象レーダ装置として適用することが好適である。
第1の実施形態に係るレーダ装置が取得する空間走査情報の構成を示す図である。 第1の実施形態に係るレーダ装置の走査方向ベクトルが描く軌跡を示す図である。 第1の実施形態に係るレーダ装置の走査方向ベクトルが螺旋状の軌跡を描く様子を示す図である。 走査方向ベクトルが螺旋状の軌跡を描く場合の空間走査情報を示す図である。 部分走査を行う場合の走査方向ベクトルが描く軌跡の例を示す図である。 第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。 第2の実施形態に係るレーダ装置が取得する空間走査情報の構成を示す図である。 一般的なレーダ装置の構成を示す図である。 従来のレーダ装置が取得する空間走査情報の構成を示す図である。 従来のレーダ装置の走査方向ベクトルが描く軌跡を示す図である。
符号の説明
10,14,18,34 空間走査情報、12,16,20,38 単位走査情報、22 アンテナ、24 アンテナ駆動部、26 送受信部、28,42 信号処理部、30 表示部、32 走査方向制御部、36 定仰角走査情報、40 ドップラ信号処理部。

Claims (2)

  1. 電磁波の送受信方向への物標の存在分布を測定する単位走査を複数回行うことによって物標の空間存在分布を測定するレーダ装置であって、
    単位走査で取得する単位走査情報は、電磁波の送受信方向の方位角に関する情報と電磁波の送受信方向の仰角に関する情報のいずれをも含み、
    第1の単位走査の次に行う第2の単位走査での電磁波の送受信方向は、第1の単位走査での電磁波の送受信方向に対して方位角と仰角のいずれをも変化させることを特徴とするレーダ装置。
  2. 請求項1に記載のレーダ装置であって、
    単位走査情報は、レーダ装置が当該単位走査情報を取得した時刻に関する情報を含むことを特徴とするレーダ装置。
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