図12(A)は、従来の小型モータを、コミテータ部で切断した断面図を示している。また、(B)は、そのコミテータ部に摺動接触する一対のカーボンブラシの一方を取り出して示す拡大図である。図示したように、小型モータは、回転子シャフト上に樹脂製のコミテータ芯を介してコミテータを取り付けると共に、この回転するコミテータに摺動接触するカーボンブラシがブラシアームを介して、ケース蓋に取り付けられている。ケース蓋は、モータケースの開口部に嵌着される。図示したコミテータは、3個のコミテータ片からなり、各コミテータ片の間にはそれぞれ溝を有している。
従来、このような3個のコミテータ片からなるコミテータを有する有ブラシ有鉄心モータのカーボンブラシの幅(周方向長さ)は、コミテータ片の1個の周長に対し40〜60%とする設計が一般的になされている。例えば、自動車用ミラー鏡面駆動に用いるモータも、このような一般的モータが用いられている。
図13は、5個のコミテータ片によりコミテータを構成した例を示している。このように3個を超えるコミテータ片を有するモータにおいても、コミテータ片の1個の周長に対し、カーボンブラシの幅を30%以上とする設計が採用されている。
また、カーボンブラシの幅を、小さくすることにより(コミテータ片の1個の周長に対してではなく、コミテータ周方向長さに対して8%〜14%)、モータの使用時間の経過に関係なく、モータ起動時のスパーク発生を抑制することが知られている(特許文献1参照)。
一方、モータ電流の波形に基づきモータの回転(位置)を検出して、モータの回転制御を行う技術が知られている。図14は、モータ電流の検出で位置制御する一般例を説明するためのパルス検出部回路図及び波形図である。モータ(巻線)は、インダクタンスLと抵抗Rからなるものとして図示している。図中、インダクタンスL1,L2,キャパシタンスC1,C2,抵抗R1,R2によって、パルス検出回路を構成している。モータを直流電源(例えば、15V)に接続したときに流れるモータ電流の波形を、図中に示している。カーボンブラシが、コミテータ片間の溝の上を通過するとき、電流の瞬断が生じる。図示したパルス検出部は、モータ電流波形から、図中に示すパルス出力を作成する回路である。この出力パルスをカウントすることにより、モータ回転位置或いは回転数を検出し、かつ、モータの回転制御を行うことが可能となる。
しかし、このようなモータ電流を用いてモータ回転位置或いは回転数を検出する方式は、モータの使用時間の経過につれてカーボンブラシが摩耗し、モータ電流波形の変化によりパルスをカウントできなくなるという問題がある。
特開昭63−249447号公報
本発明を具体化するモータは、例えば自動車用ドアミラー鏡面駆動用に用いられる。人が直接ミラー鏡面を動作することなく自動で動かす際に、モータ電流波形を検出してモータの回転動作と鏡面角度を決めている。
図1は、このようなモータの全体構成を例示する図である。(A)は、小型モータの全体を上半分断面図で示し、また、(B)は、ケース蓋を取り出して、モータ内方向から見た図を示している。金属材料により有底中空筒状に形成されたケースの内周面に、マグネットが取り付けられている。このケースの開口部は、ケース蓋が嵌着されてそれによって閉じられている。ケース蓋の中央部には、回転シャフトのための軸受が収容される。回転シャフトの他端は、有底中空筒状のケースの底部中央に設けられた軸受によって支持されている。
この回転シャフトには、積層コアと、該積層コア上に巻いた巻線と、コミテータとが備えられて、小型モータの回転子を構成している。そして、このコミテータに接触する一対のカーボンブラシはブラシアームに接続される。カーボンブラシを導電性金属板で構成したブラシアームにより保持することにより、金属板のバネ性によりカーボンブラシをコミテータに押しつけて摺動するように構成している。このブラシアームに接続された一対の入力端子が、電気的接続のためにケース蓋を貫通して外部に突出している。
本発明は、このような小型モータに組み込まれるカーボンブラシの構成に特徴を有している。カーボンブラシは、モータの使用時間の経過につれて摩耗し、モータ電流波形の変化によりパルスをカウントできなくなる。図2は、コミテータに摺動接触する一対のブラシの内の一方を示している。樹脂製のコミテータ芯の表面上に備えられる複数のコミテータ片から成るコミテータが、回転シャフト上に取り付けられる。カーボンブラシのコミテータ当接面は、コミテータ周方向に所定の直線長さ(以下、「ブラシ幅」という)及びシャフト軸方向に所定の長さ(軸方向ブラシ長)を有する矩形平面形状を有している。図2は、摩耗した状態のカーボンブラシを例示しており、この場合、円周形状のコミテータに対して、カーボンブラシは、その当接面の全体で接触することになる。
図3(A)は、使用開始当初のカーボンブラシが、コミテータに当接している状態を示している。カーボンブラシのコミテータ当接面は、コミテータ周方向に所定の長さ(ブラシ幅)及びシャフト軸方向に所定の長さ(軸方向ブラシ長)を有する矩形平面形状を有している。それ故、円周形状のコミテータと、平面形状のカーボンブラシ当接面とは、ブラシ断面で見れば、周方向中央の1点(接触点)で接触する(但し、ブラシを全体的に見れば、ブラシは所定の軸方向ブラシ長を有しているので、1点では無く、1線で接触することになる)。
このとき流れる電流について、図4を参照して説明する。モータ巻線には、一定値の電源電圧と、図中に示す逆起電力との差電圧が印加される。即ち、図中で黒く塗りつぶした部分に相当する値の電圧が印加される。図中の区間1〜3は、それぞれ、ブラシが1つのコミテータ片に接触し始めてから、そこを離れるまでを表している。
図4に示すように、ブラシ使用開始当初の電流は、ブラシが1つのコミテータ片に接触し始めるとき、逆起電力が低いために、実質的に大きな電圧がモータ巻線に印加される。しかし、モータ巻線はインダクタンスを有しているために、電流は、所定の時定数で立ち上がることになる。立ち上がった後の電流は、電源電圧と逆起電力との差電圧に比例して流れることになる。そして、上述したように、ブラシ使用開始当初は、コミテータ片に対して点接触するので、この接触点が、コミテータ片間の溝に到達すると、この区間1での電流はオフとなり、そして、区間2において、次のコミテータ片2に対して接触をし始める。この区間1での電流オフに続く区間2での電流オン時の電流段差が、パルス検出部で検出されて、パルス出力を発生してモータ制御が行われることは前述した通りである。
これに対して、ブラシの使用時間の経過につれて、ブラシが摩耗する時、図3(B)に示すように、ブラシは、その当接面が、当初の平面形状から円周形状に変形する。その結果、ブラシは、その周方向のブラシ幅全体で、コミテータに当接することになる。これは、ブラシの周方向の中央が、未だ、コミテータ片1に接触しているときに、既に、ブラシの周方向先端部が、コミテータ片2に接触することを意味する(図3(B))。また、図3(C)に示すように、ブラシの周方向の中央が、既に、コミテータ片2に接触しているときに、未だ、ブラシの周方向後端部が、コミテータ片1に接触した状態にあることを意味する。
このブラシ摩耗後の電流は、図4の最下段に示すようになる。即ち、ブラシの周方向の中央を基準として定めている区間1の電流終了期間が事実上延長される一方、区間2の電流開始期間が、早められることになり、電流のまたがりが生じる。これによって、コミテータ片間の溝において、電流はなだらかに接続されることになるので、前述したパルス検出回路で検出することは不可能となる。
ブラシ幅が、溝幅(周方向の直線長さ)よりも短いとき、図3を参照して説明したような「またがり」は生じないが、ブラシ幅をあまりに狭くして、19%以下にすると、ブラシの機械的強度が不足してブラシが折損するという問題とか、モータ回転中にブラシが溝内に入り込んでブラシの振動が大きくなり、機械ノイズが高くなるという問題が生じることになる。ブラシ幅が、わずかでも溝幅を超えるとき、ブラシの周方向先端部と後端部がそれぞれ異なるコミテータ片に接触する「またがり」は発生する。しかし、また、前述したように、ブラシの周方向先端部が、回転方向に先行する次のコミテータ片に接触しても、接触当初は、モータ巻線のインダクタンスのために、大きな電流は流れない。それ故、ブラシ先端部を通して流れる電流が大きな値になる前に、ブラシ後端部がコミテータ片を離れると、このときにはパルス検出回路で十分検出可能なモータ電流値の段差が生じることになる。即ち、この電流段差は、カーボンブラシの周方向後端部が回転する第1のコミテータ片を離れるとき遮断されるモータ電流と、カーボンブラシの周方向先端部が回転方向に先行する第2のコミテータ片に既に接触して流れているモータ電流との間の差電流に相当する。本発明は、ブラシ幅を狭くすることにより、十分な電流段差を発生させ、これによって、モータ回転検出のためのパルスを誤り無く発生することが可能となる。
図5は、同一コミテータを有する5個のモータについて、カーボンブラシ幅を変えた場合のパルスエラー発生までの耐久時間(実働耐久時間)を測定した表である。図6は、図5に示す表を、グラフ表示したものである。耐久テストは、電圧:13.5Vの定格電圧、負荷:5gcm、寿命試験条件:(正回転+逆回転)×10秒、OFFなしの条件で、異なるカーボンブラシ幅のそれぞれモータ5個について、55時間行った。カーボンブラシ幅を0.6〜0.8mm(コミテータ片周長に対する比率で表すと、21〜28%)にした場合、55時間経過後も、パルスエラーが全く発生しなかった。図7は、この状態を示すオシロスコープ波形図である。耐久試験後も、初期の状態と同じく、電流波形の段差は小さくなっておらず、それ故、パルスエラーを生じることなく、パルスが発生しているのが分かる。
これに対して、カーボンブラシ幅を1.1mm以上(コミテータ片周長に対する比率で表すと、38%以上)にした場合、13時間経過後に、パルスエラーが発生した。図8は、この状態を示すオシロスコープ波形図である。耐久試験後に、電流波形の段差が小さくなっている箇所があり、そして、その部分で、パルスエラーを生じているのが分かる。
前述した従来技術は、『コミテータ片周長に対するカーボンブラシ幅』の比率が30%を超えているが、このようなカーボンブラシを採用すると、耐久テストの時間が7時間になるとパルスエラーが発生するモータが出現し始める。
カーミラーの鏡面駆動等に用いるモータには、カーボンブラシが適している。一般的には、小型モータには、金属製の板状ブラシを用いることができるが、しかし、鏡面駆動用途に用いると、自動車に求められる厳しい環境耐久条件において電気的に接触が不安定になりやすい問題が生じ、接点を安定化するのに貴金属材料を用いるとコストが高くなってしまう欠点がある。
本発明のようにカーボンブラシを用いる場合も、その幅のコミテータ片周長に対する比率が30%を超えると、長時間使用後の位相ズレが大きすぎて、パルスを安定に検出することが不可能となる。また、19%以下になると、カーボンブラシの強度が弱くなったり、コミテータ片間の溝に落ち込みやすいのでブラシ振動が大きくなり機械ノイズを上昇させてしまう。
本発明は、前述したように、カーボンブラシの幅をコミテータ片周長に対して所定比率に設定するものであるが、このカーボンブラシの幅は、コミテータに摺動接触する先端部のみを所定比率に設定すれば、十分である。図9は、先端幅を狭くして、コミテータに摺動接触させるカーボンブラシを例示している。この構成にすると、カーボンブラシのブラシアームに保持される部分を太くすることができ、カーボンブラシの保持力を高く保つ事ができる。
図10及び図11は、先端幅を狭くした別の例を示している。回転方向に対して、ブラシの前後の一方を切除することにより、先端幅を狭くしている。図10は、直線的に斜めにカットした例を、また、図11は、先端部と根本部(ブラシアーム取付側)では段差を生じるように切除した例を示している。いずれの場合も、コミテータの位相中性ライン(コミテータ円周の径方向ライン)に対して、ブラシ中線ではなく、ブラシ先端幅の中央を一致させることにより、良好な摺動接触が可能となる。