JP2006281774A - 液吐出装置及び打滴制御方法 - Google Patents

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直毅 楠木
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哲三 門松
Tadahisa Sato
忠久 佐藤
Hideki Maeda
英樹 前田
Yuki Shimizu
由紀 志水
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Abstract

【課題】互いに重なるように形成されるドットの着弾干渉を防止して好ましいドットを得ると共に高速打滴を実現可能な液吐出装置及び打滴制御方法を提供する。
【解決手段】水性媒体に溶解した有機顔料溶液を、流路中を層流として通過させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数を変化させる工程で生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴して、記録紙搬送方向(副走査方向)に沿ってドット列を形成する際に、連続した打滴ではインクの飛翔方向を偏向させてインク滴の着弾位置を記録紙搬送方向に該ドット列のドット間ピッチの整数倍だけシフトさせる。タイミングt1ではノズル直下にインク滴を着弾させ、タイミングt2では上流側へ2ドット分シフトさせ、タイミングt3では下流側へ1ドット分シフトさせる。タイミングt4では上流側へ1ドット分シフトさせると初めて隣り合うドットが形成される。
【選択図】図10

Description

本発明は液吐出装置及び打滴制御方法に係り、特に吐出孔から顔料インクを打滴して被吐出媒体(印字媒体)上に画像や所定のパターンなどの形状を形成する液吐出装置における打滴制御技術に関する。
近年、画像やドキュメント等のデータ出力装置としてインクジェットプリンターが普及している。インクジェットプリンターは記録ヘッドに備えられたノズル等の記録素子をデータに応じて駆動させ、該ノズルから吐出されるインクによって記録紙などの被記録媒体(記録メディア)上にデータを形成することができる。
インクジェットプリンターでは、多数のノズルを有する記録ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させ、該ノズルからインク滴を吐出させることによって被記録媒体上に所望の画像が形成される。
これまでは、主に家庭やオフィスなどにおいてドキュメント類の出力装置としてインクジェットプリンターを用いてきたが、最近では、デジタルカメラなどを用いて撮影された画像の出力装置として用いられるようになってきた。また、A3やポスターサイズの被記録媒体に対応した装置もあり、広告やポスターの出力装置として用いることもできるようになった。
画像印字では画像品質に対する要求が高く、多色(フルカラー)化、多段階調、ドットの微細化、高密度化などを図ることで高品質な画像印字が実現されている。例えば、ライトインクの使用などの多色インクの使用によって多色、多段階調を実現し、ノズル密度の高密度化や液滴サイズの微小化によってドットの高密度化、ドットサイズの微小化を実現している。また、隣り合うドットが重なるようにインクを打滴する打滴制御を行うと、被記録媒体上にドットを高密度に形成させることができる。
しかし、隣り合うドットを重ねて形成させる場合、先に打滴されたインクが被記録媒体に定着する前に次のインクが着弾すると、各ドットの形状が崩れてしまったり、後から着弾したインク滴が先に着弾しているインク滴の方へ寄ってしまったりして、結果画像にすじやむらが生じることがある。更に、異なる色のインクを重ねて打滴する場合には、混色が発生し、好ましい色や階調を実現できないことがある。
一般に、このような着弾干渉を防止するために、先に着弾したインク滴がある程度浸透するまで待ってから次のインク滴を打滴する打滴制御を行う方法や、インクが着弾した被記録媒体や被記録媒体に着弾したインクを温める温調手段を備え、該温調手段を用いてインクの定着を促進させる方法及び、画像を形成するインクに紫外線硬化型インクを用い、吐出されたインクに紫外線を照射して被記録媒体上に着弾したインクの定着を促進させる方法などが用いられる。
特許文献1に記載されたインクジェット記録方法および該方法が用いられるインクジェット記録装置では、並列配置された複数の記録ヘッドを被記録媒体に対して相対移動させて記録が行われるインクジェット記録方法において、異なるインクのインクドット同士の境界に接する何れか一方の1つのインクドットとそれ以外のインクドットとの記録時期をずらせて行うように構成されている。
また、特許文献2に記載されたインクジェット記録装置では、用紙を固定するためのドラムと、該ドラムに対してその周回方向に所定間隔で配置される複数のインクジェットヘッドとを有し、ドラムを周回させながら前記インクジェットヘッドを駆動して前記用紙にカラー印刷を実行するインクジェット記録装置において、異なる色のドット同士が着弾位置において接触もしくは重ね合わされるまでの時間TがT≧10msecとなる様に構成されている。
また、特許文献3に記載された印刷方法及びこの方法に用いる印刷ヘッド装置では、帯電されたインクを用い、インクを吐出させるチャンネルが電界を発生させる電極間に設けられ、チャンネルから吐出されるインクに電界を作用させてインクの吐出方向を偏向させるように構成されている。
また、特許文献4に記載されたインクジェットノズル, インクジェット記録ヘッド、インクジェットカートリッジ及びインクジェット記録装置では、インクに気泡を発生させるヒータを各ノズルに複数備え、該ヒータを制御してインクに異なるバブルを発生させてインクの飛翔方向を偏向させるように構成されている。
一方、インクジェットプリンターのインクを種類で大別すると、染料インクと顔料インクとがあり、インクジェット用インクの色材には染料が用いられてきたが、染料インクは耐水性や耐光性の面で難点があり、それを改良するために顔料が用いられるようになってきている。しかし、顔料インクにより得られた画像は、染料インクによる画像に較べて耐光性、耐水性に優れるという特筆すべき利点を有する反面、紙表面の空隙に染み込むことが可能なナノメートルサイズに顔料を均一に微細化(すなわち単分散化)することが難しく、紙への浸透性に欠け、または彩度の高い画像が得られないという問題がある。
この対策として、特許文献5にマイクロジェットリアクター法を用いて顔料を微粒子化する方法が提案されている。この方法は、顔料を溶解した溶液と沈殿媒体液を互いに対峙するマイクロメートルサイズの異なる二つノズルへ高圧(例えば5MPa)でポンプ導入し、両液のジェット流が衝突する部分にはガス(圧縮空気等)を垂直に導入し、そのガス流(約0.5m3/h)で顔料懸濁液を排出する方法である。
特開平6−183129号公報 特開2002−120361号公報 特開2000−177115号公報 特開2000−185403号公報 特開2002−146222公報
ところで、インクジェットプリンターの画像形成において、着弾干渉の問題を解決するために先に着弾したインク滴がある程度浸透するまで待って次のインク滴を吐出させると、隣接するドットの着弾時間差を必要とするために、高速印字に限界があるという問題がある。
しかしながら、特許文献1〜4では着弾干渉の問題を解決されておらず、インクとして顔料インクを使用する場合、粒子径が大きく単分散性の悪い顔料では、着弾干渉を促進してしまう懸念がある。
即ち、特許文献1に記載されたインクジェット記録方法および該方法が用いられるインクジェット記録装置及び特許文献2に記載されたインクジェット記録装置では、異なる色間での着弾タイミングを規定して滲みや濃度の低下を防止することで高画質を実現してい
るが、同色インクの着弾干渉に対しては未解決であり、高速印字に対する課題は解決されていない。
また、特許文献3に記載された印刷方法及びこの方法に用いる印刷ヘッド装置及び特許文献4に記載されたインクジェットノズル, インクジェット記録ヘッド、インクジェットカートリッジ及びインクジェット記録装置では、吐出されるインク滴の飛翔方向を偏向させてむらなどの画像劣化を防止する方法が開示されているが、着弾干渉を防止するための制御方法及びその課題については開示されていない。
また、特許文献4に記載された顔料は、マイクロメートルスケールの小さな空間で粒子を生成させ、それを直ちに装置外に取り出すことにより顔料微粒子による装置の閉塞を防ぐように工夫されており、狭い粒径分布の微粒子を得るのに好ましいが、両液の接触時間をコントロールし難いため微妙な反応制御が難しいことから、微細粒子で単分散性に優れた顔料微粒子を安定して製造することが難しいという問題点がある。
このように、従来は、着弾干渉の防止対策や顔料粒子の微細化対策の点において未だ解決されていない課題があり、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることが難しいという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、微細粒径で単分散性に優れた顔料微粒子を含有する顔料インクを記録ヘッドから打滴でき、しかもドットが重なることによる画像乱れを防止すると共に記録時間がかからない打滴制御を行うことができるので、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を得ることができると共に高速打滴を行うことができる液吐出装置及び打滴制御方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために請求項1に係る発明は、被記録媒体に、アルカリ性または酸性の水性媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドと、前記吐出ヘッド或いは前記被吐出媒体のうち少なくとも何れか一方を前記被吐出媒体の幅方向と略直交する方向に搬送して前記吐出ヘッドと前記被吐出媒体とを相対的に一方向へ移動させる搬送手段と、前記吐出ヘッドから打滴される液滴の飛翔方向を少なくとも前記被吐出媒体の相対搬送方向に略平行な成分を含んだ方向に偏向させる飛翔方向偏向手段と、前記被吐出媒体の相対搬送中に打滴を行い、該相対搬送方向に隣り合うドット同士の少なくとも一部が重なるドット列を形成する際に、前記飛翔方向偏向手段を制御し、前記被吐出媒体の相対搬送方向のドット列のドット間ピッチPts、2種類以上の任意の整数から成るシフト量I、前記被吐出媒体の相対搬送方向の液滴着弾位置変更量yとの関係が、次式y=Pts×Iを満たす液滴着弾位置変更量yだけ液滴の着弾位置を変更させ、隣接ドットの連続着弾を回避しながら液滴を着弾させる偏向制御手段と、を備えたことを特徴としている。
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、流路(チャンネル)中で、反応成分を含む溶液を流通させ有機顔料を合成したところ、温和な条件下速やかに、また純度良く目的の有機顔料が得られることを見出した。また、有機顔料の溶液を層流が支配的である流路中で、pH変化の影響下、共沈法(再沈法)を実施することにより、フラスコ中で行うような従来法に比べて、より粒径が揃った有機顔料微粒子を得ることができることを見出した。
このように微細粒径で単分散性の良い有機顔料微粒子から成る顔料インクを記録ヘッドから打滴することで、被記録媒体に対する浸透性が良くなるだけでなく、打滴干渉も抑制
することができるので、彩度の高い高精細な画像を得ることができる。また、記録ヘッドのノズルの詰まりも従来の顔料インクに比べ大幅に減らすことができる。
特に、顔料を色材としたインクと、顔料を凝集反応させる処理液とを打滴または付着させることを特徴とする2液凝集反応系の画像形成装置においては、微細粒径で単分散性の良い有機顔料微粒子から成る顔料インクを用いることによって、顔料が瞬時に凝集して記録媒体上に沈降し、インクの溶媒同士が混合・合体しても顔料の形状は保持されるので、着弾干渉の防止により効果的である。
また、被吐出媒体の相対搬送方向に沿ってドット列を形成させる際に、吐出ヘッドから吐出される液滴の飛翔方向を少なくとも被吐出媒体の相対搬送方向に略平行な成分を含んだ方向に偏向させて、該液滴の着弾位置を被吐出媒体の相対搬送方向に所定の着弾位置変更量yだけ変更させ、液滴を分散した位置に着弾させる。したがって、連続して打滴された液滴はIドット分の距離を離して着弾されるので着弾干渉が発生せず、着弾した液滴の浸透を待たずに順次打滴を行うことができる。なお、シフト量Iには2種類以上の任意の整数が適用される。
吐出ヘッドに被吐出媒体の全幅にわたって複数の吐出孔が配列されたフルライン型の吐出ヘッドを適用すると、被吐出媒体の相対搬送方向に形成されるドット列は1つのノズルから打滴される液滴によって形成される。また、被吐出媒体相対搬送方向に隣り合う2つのドットが重なるように形成される態様には、該2つのドットが接する態様を含んでいてもよい。
フルライン型の吐出ヘッドを用いると、被吐出媒体を1回だけ走査させる、シングルパス制御により、被吐出媒体の吐出領域可能領域全域に液滴を吐出させることができる。
偏向された液滴の飛翔方向には本来の液滴の飛翔方向(吐出ヘッドが被吐出媒体に対向する面と略直交する、被吐出媒体の被吐出面に垂直方向)の成分が含まれている。また、偏向された液滴の飛翔方向のうち、被吐出媒体の相対搬送方向に略平行な成分には正方向
(例えば、被吐出媒体が固定された吐出ヘッドに対して移動する場合の被吐出媒体の進行方向)及び負方向(前記正方向と反対の方向)が含まれていてもよい。
正方向と負方向を交互に入れ換えてもよいし、数周期ごとに入れ換えてもよい。
2種類以上の任意の整数から成るシフト量Iには正の整数及び負の整数が含まれていてもよい。該シフト量Iは、飛翔方向を偏向させない本来の液滴の着弾位置から被吐出媒体
の相対搬送方向に沿ってIドット分シフトさせた位置に偏向させた液滴を着弾させること
を示している。なお、シフト量Iにはゼロが含まれていてもよい。
本来の液滴の飛翔方向(被吐出媒体の被吐出面に略垂直方向)と偏向された液滴の飛翔方向とのなす角(偏向角度)をθ、液滴着弾位置変更量をy、吐出ヘッドと被吐出媒体のクリアランスをzとすると、偏向角度θは、θ=arctan(y/z )で表される。
被吐出媒体は、吐出ヘッドからインク滴を吐出される媒体(メディア)であり、具体的には連続用紙やカット紙、シール用紙などの紙類、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、その他材質や形状を問わず、様々な媒体を含む。なお、被吐出媒体には画像形成媒体、印字媒体、受像媒体などと呼ばれるものもある。
このように、請求項1の発明によれば、微細粒径で単分散性に優れた顔料微粒子を含有する顔料インクを記録ヘッドから打滴でき、しかも着弾した液滴の浸透を待たずに順次打
滴を行うことができるようにして、着弾干渉を防止することができるので、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を高速印字にて得ることができる。
請求項2に示すように、請求項1に記載された発明は、前記シフト量Iは、連続して打滴された液滴の着弾位置の中心間距離Δyが、次式Δy≧2×Ptsを満足する少なくとも2種類の整数を含むことを特徴としている。
また、請求項3に示すように、請求項1又は2に記載された発明は、前記シフト量Iは3種類以上の整数を含むことを特徴としている。
3種類以上の整数には正及び負の整数が含まれることが好ましい。
また、請求項4に示すように、請求項1又は2に記載された発明は、前記シフト量Iは、次式I=±kを満たす2以上の1種類の自然数kを含むことを特徴としている。
即ち、シフト量Iを1種類の自然数からなる正負の整数とすることで、打滴シーケンス(偏向のシーケンスと打滴配置設定シーケンス)を簡略化することができる。
また、請求項5に示すように、請求項4に記載された発明は、前記飛翔方向制御手段は、前記吐出ヘッドの打滴周期Tf 及び被吐出媒体への液滴の浸透時間T0 が、次式Tf ×(2k−1)≧T0 を満たす前記自然数kを設定するシフト量設定手段を含むことを特徴としている。
即ち、ドット密度、被吐出媒体の相対搬送速度、被吐出媒体への液滴の浸透時間等の種々のパラメータ条件に対して、着弾干渉を防止する飛翔方向偏向パターンの設定が可能になる。具体的には、被記録媒体上で被記録媒体相対搬送方向に隣接するドットの着弾時間差を先に着弾したドットの浸透時間より大きくなるような偏向量バラメータkを設定することができる。
また、請求項6に示すように、請求項1乃至5のうち何れか1項に記載された発明は、前記被吐出媒体の相対搬送方向に沿って形成されるドット列のうち、前記被吐出媒体の相対搬送方向に隣り合うドットを共有する2つのドットの直径D1 及び直径D2 、前記被吐出媒体相対搬送方向のドット間ピッチPtsが、次式D1 +D2 ≦2×Ptsを満たすようにドットの直径D1 、ドットの直径D2 或いは前記被吐出媒体相対搬送方向のドット間ピッチPtsのうち少なくとも1つを設定する打滴制御手段を備えたことを特徴としている。
即ち、連続して打滴される2つのドットにおけるドット径の合計が被記録媒体相対搬送方向のドット間ピッチPt の2倍以下であれば、1つおきに隣接するドットの重なる部分がないので連続して打滴することができる。このように打滴制御を行うことで隣り合うドット間ではドットサイズ(ドットの直径)の自由度が得られ、階調性を向上させることができる。
また、請求項7に示すように、請求項1乃至6のうち何れか1項に記載された発明は、前記吐出ヘッドは、前記被吐出媒体の全幅にわたって複数の吐出孔が配列されたフルライン型の吐出ヘッドを含むことを特徴としている。
フルライン型の吐出ヘッドは、被吐出媒体の全幅に対応する長さに満たない短尺の吐出孔列を有する短尺ヘッドを千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、被記録媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
また、請求項8に示すように、請求項7に記載された発明は、前記吐出ヘッドは、前記吐出孔が2次元配置されたマトリクスヘッドを含み、前記被吐出媒体の相対搬送方向に略直交する方向に隣り合うドットを形成する液滴を吐出させる吐出孔を前記被吐出媒体の相対搬送方向に所定の距離だけシフトさせて配置することを特徴としている。
即ち、高密度打滴に適した2次元配列されたノズルの配列パターンを有効に活用することができる。
2次元配列された吐出孔には被吐出媒体の相対搬送方向とある角度をなす方向に並べられた複数の吐出孔列を含んでいる。
また、請求項9に示すように請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されたことを特徴としている。
即ち、有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されることにより、ナノサイズレベルの微細粒径で単分散性に優れた有機顔料微粒子を得ることができるので、彩度が更に良くなり且つ被記録媒体への浸透性も向上するだけでなく、打滴干渉の一層の抑制が可能となる。
また、請求項10に示すように請求項1乃至9のうち何れか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子はモード径が1μm以下であることを特徴としている。
モード径が1μm以下であると、有機顔料微粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間にバラツキがないことを意味するので、有機顔料微粒子の物性が一定となり、顔料インクで彩度の高い高精細な画像を更に得ることができる。
また、請求項11に示すように請求項1乃至10のうち何れか1項に記載の発明において、前記有機顔料微粒子は前記有機顔料の溶液がアルカリ性であり、一般式(I)で表されるキナクリドン系顔料であることを特徴としている。
請求項11は顔料インクに使用される顔料のうちでもキナクリドン系顔料が好ましく、キナクリドン系顔料で微細粒子を形成するようにしたものである。
請求項12に示すように、請求項1乃至11のうち何れか1項に記載の発明において、前記記録ヘッドより打滴される液滴はアルカリ性であり、前記記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていることを特徴とする。
請求項12のように、記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていれば、キナクリドン系顔料のように、アルカリ性の有機顔料溶液をそのまま使用することができ、便利である。
また、前記目的を達成するために請求項13に記載された発明は、被記録媒体に、アルカリ性または酸性の水性媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドと、前記吐出ヘッド或いは前記被吐出媒体のうち少なくとも何れか一方を前記被吐出媒体の幅方向と略直交する方向に搬送して前記吐出ヘッドと前記被吐出媒体とを相対的に一方向へ移動させる搬送手段と、前記吐出ヘッドから打滴される液滴の飛翔方向を偏向させる飛翔方向偏向手段と、を備えた液吐出装置の打滴制御方法であって、前記被吐出媒体の相対搬送方向にドット列を形成する際に、前記液滴飛翔方向偏向手段を用いて前記吐出ヘッドが有する吐出孔から打滴される液滴の飛翔方向を少なくとも前記被吐出媒体の相対搬送方向に略平行な成分を含んだ方向に偏向させて、前記被吐出媒体の相対搬送方向のドット列のドット間ピッチPts、2種類以上の任意の整数から成るシフト量I、前記被吐出媒体の相対搬送方向の液滴着弾位置変更量yとの関係が、次式y=Pts×Iを満たす液滴着弾位置変更量yだけ液滴の着弾位置を変更させ、隣接ドットの連続着弾を回避しながら液滴を着弾させることを特徴としている。
即ち、被吐出媒体と吐出ヘッドとの相対関係を変えずに、高速打滴を行いながら着弾干渉が発生しない好ましい打滴が行われる。一方、被吐出媒体の相対搬送速度や液滴の吐出周期が変わると、これらに合わせて液滴着弾位置変更量の条件が変更される。
本発明によれば、微細粒径で単分散性に優れた顔料微粒子を含有する顔料インクを記録ヘッドから打滴でき、しかも連続した吐出でも隣り合うようにドットが形成されないように、着弾干渉を防止することができるので、顔料インクで彩度の高い高精彩な画像を高速印字にて得ることができると共に高速打滴を行うことができる。
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
本発明の特徴を成す顔料インクとインクジェット記録装置とのうち、先ずインクジェット記録装置について説明する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、インクの色ごとに設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印字済みの記録紙16(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示,図7中符号88として記載)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に記録紙16の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される記録紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを記録紙搬送方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造例は後述するが(図3乃至図5)、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙16の送り方向(以下、記録紙搬送方向という。)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色ごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは不図示の管路を介して各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各印字ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に
形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
次に、印字ヘッドの構造について説明する。インク色ごとに設けられている各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを示すものとする。
本例では、インクジェット記録装置10によってインク滴を打滴される被吐出媒体に紙類を例示したが、被吐出媒体には紙類以外にも、金属板、樹脂板、木、布、皮など、インクを定着させることができ、印字ヘッド50に対して相対的に搬送可能であると共に、印字ヘッド50とのクリアランスを確保できる様々なメディアを適用することができる。
図3(a) は印字ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b) はその一部の拡大図である。また、図3(c) は印字ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4はインク室ユニットの立体的構成を示す断面図であり、図4(a) は図3(a) 、(b) 中の4a −4a 線に沿う断面図、図4(b) は図3(b) 中の4b −4b 線に沿う断面図である。
記録紙面上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、印字ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例の印字ヘッド50は、図3(a) 〜(c) 及び図4に示したように、インク滴が吐出されるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を主走査方向に対して所定の角度を有するライン上に並ぶノズル列を含むようにマトリックス状に配置させた構造を有し、これにより見かけ上のノズルピッチの高密度化を達成している。
即ち、本実施形態における印字ヘッド50は、図3(a) 、(b) に示すように、インクを吐出する複数のノズル51が記録紙搬送方向と略直交する方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルラインヘッドである。
また、各ノズルには記録紙搬送方向に略平行な方向にノズル51から吐出されるインク滴の飛翔方向を偏向させる飛翔方向偏向手段1を備えている。飛翔方向偏向手段1はノズル51を挟んで対向するように記録紙搬送方向に略平行な方向に沿って並べた1対の電極2、3を含んでいる。
更に、図3(c) に示すように、短尺の2次元に配列されたヘッド50'を千鳥状に配列
して繋ぎ合わせて、印字媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。
圧力室52の天面を構成している加圧板56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形してノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
図4(a) 、(b) に示した電極2及び電極3の間に電界E(破線で図示)を発生させると、該電界がノズル51から吐出されるインク滴に作用して、該インク滴の飛翔方向が本来の飛翔方向から角度θだけずれた方向に偏向される。図4(b) に示すように、電界Eの方向は電極2から電極3に向かう方向(即ち、記録紙搬送方向と略平行な方向)である。
ノズル51から吐出されるインク滴に電界Eを作用させると、インク滴の本来の飛翔方向から記録紙搬送方向へ角度θだけ飛翔方向が偏向され、飛翔方向が偏向されたインク滴の着弾位置は、本来の着弾位置sから記録紙搬送方向に略平行な方向にyだけずれた位置s'に着弾位置が偏向される。
即ち、印字ヘッド50のノズル形成面から記録紙16までの距離Z、本来のインクの飛翔方向と偏向されたインクの飛翔方向とのなす角(飛翔偏向角度)θ、着弾位置変更量yの関係は、次式〔数1〕で表される。
〔数1〕
y=z×tan θ
かかる構造を有する多数のインク室ユニット53を図5に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に配列させた構造になっている。主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなる。
すなわち、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。以下、説明の便宜上、ヘッドの長手方向(主走査方向)に沿って各ノズル51が一定の間隔(ピッチP)で直線状に配列されているものとして説明する。
なお、用紙の全幅に対応したノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等の駆動制御が行われ、記録紙16の幅方向(記録紙搬送方向と直交する方向)に1ライン又は1個の帯状を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図5に示すようなマトリクスに配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。即ち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)記録紙16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録紙16の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン又は1個の帯状の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ58の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
図6はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。
インク供給タンク60はインクを供給するための基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。なお、図6のインク供給タンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図6に示したように、インク供給タンク60と印字ヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
なお、図6には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面の清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。
これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップ64で覆う。
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インクが吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してインク粘度が高くなってしまう。このような状態になると、アクチュエータ58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなってしまう。
このような状態になる前に(アクチュエータ58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)アクチュエータ58を動作させ、その劣化インク(粘度が上昇したノズル近傍のインク)を排出すべくキャップ64(インク受け)に向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
また、印字ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、アクチュエータ58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合には印字ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始
時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構(ワイパー)により印字ヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。なお、該ブレード機構によりインク吐出面の汚れを清掃した際に、該ブレードによってノズル51内に異物が混入することを防止するために予備吐出が行われる。
図7はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(印字データ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介して印字ヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御(打滴制御)が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して一つのプロセッサで構成する態様も可能である。
また、プリント制御部80は、電極駆動部4を介して各ノズルに備えられた電極2及び電極3の駆動を制御する。即ち、印字データに基づいて各ノズルから吐出されるインク滴の飛翔方向を偏向させるときには電極駆動部4に指令信号を与えて、電極2及び電極3間に電界を発生させる。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yのアクチュエータを駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
プログラム格納部(不図示)には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。前記プログラム格納部はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。
なお、前記プログラム格納部は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいて印字ヘッド50に対する各種補正を行う。
なお、図1に示した例では、印字検出部24が印字面側に設けられており、ラインセンサの近傍に配置された冷陰極管などの光源(不図示)によって印字面を照明し、その反射光をラインセンサで読み取る構成になっているが、本発明の実施に際しては他の構成でもよい。
なお、言うまでもなく各部材には、アルカリ性のインクに対して耐液性のある材料を用いる。インク供給タンク60、や印字ヘッド50などに最適な樹脂材料としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂などがあげられる。また、圧力室52
などの接液部には、接液面をテフロン(登録商標)加工することや、金属材料としてSUS304、SUS316、SUS316Lを用いることが好ましい。インク供給系のゴムチューブに最適なゴム材料としては、ビニルメチルシリコーンゴム、フッ素化シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴムなどが挙げられる。
〔打滴制御〕
次に、本インクジェット記録装置10の打滴制御について詳説する。
本インクジェット記録装置10では、同一吐出孔(ノズル51)から連続的に打滴されるインクによって隣り合うドットが重なるように形成される場合にも、着弾干渉によるドット形状異常の発生を防止する打滴制御が実行される。
先ず、印字ヘッド50から打滴されたインク滴によって記録紙16上に形成されるドットについて説明する。
図8は、印字ヘッド50から打滴されたインク滴によって形成されたドット100、102、104、106を示している。ドット100は主走査方向に隣り合うドット102と一部が重なるように形成され、副走査方向に隣り合うドット104と一部が重なるように形成されている。また、斜め方向に隣り合うドット106とは重ならないように形成されており、ドット100とドット106とは重なりあう部分はない。
言い換えると、主走査方向のドットピッチをPtm、副走査方向のドットピッチをPts(但し、Ptm=Pts=Pt )、形成されるドットの直径(以下、ドット径と記載)をDとすると、図8に示したドット100、102、104、106は、次式〔数2〕に示す関係を有している。
〔数2〕
D=Pt ×2 1/2
また、図9に示す例では、ドット100、は斜め方向に隣り合うドット106とも一部が重なるように形成されており、ドット100、102、104、106は、次式〔数3〕に示す関係を有している。
〔数3〕
D=Pt ×2
本インクジェット記録装置10では、副走査方向のドット列 (同一ノズルから打滴されるインク滴によって形成されるドット列)を形成する際に、副走査方向に連続して行われる打滴では、先の打滴或いは後の打滴のうち少なくとも何れか一方の打滴におけるインク滴の飛翔方向を副走査方向に沿って偏向させ、ドットの着弾位置を副走査方向に所定の量だけシフトさせる打滴制御が行われる。また、該シフト量は副走査方向のドットピッチPtsの整数倍となるように決められる。副走査方向の着弾位置変更量y(本来の着弾位置からの変位量)は、任意の整数Iを用いて、次式〔数4〕で表される。
〔数4〕
y=I×Pt
なお、副走査方向の着弾位置変更量yには長さの単位(mm、μm 等)が適用される。
即ち、同一ノズルを用いて連続的に実行される打滴では、隣り合うドットを形成するインク滴は連続して打滴されず、また、副走査方向に連続する打滴では、インク滴の飛翔方向を副走査方向に沿って偏向させて、ノズル直下である本来の着弾位置から副走査方向へIドット分シフトさせるように打滴制御が行われる。
言い換えると整数Iは副走査方向へ何ドット分シフトさせるかを表す副走査方向のシフト量を表している。
図10は、インクジェット記録装置10によって形成された副走査方向のドット列を時系列順に並べた図である。図10において、縦の系列は副走査方向を示し、横の系列は左から右へ打滴タイミング(時間)を時間 (時刻)経過順に示している。
また、実線で示したドットは既に形成されているドットであり、破線で示したドットは次の打滴タイミング以降に形成されるドット(当該タイミングでは形成されていないドット)である。また、2点破線で示したドットは、当該タイミングで打滴が行われ形成されたドットである。
ドット内に示した数字は打滴順序を示し、該数字の添え字は、符号がシフト方向、数字
が副走査方向のシフト量Iを表している。シフト方向の+は記録紙搬送方向(副走査方向)の上流側にインク滴の飛翔方向を偏向させることを示し、−は記録紙搬送方向の下流側にインク滴の飛翔方向を偏向させることを示している。副走査方向のシフト量Iを示す数字はドット数で表されている。
例えば、タイミングt1 で打滴されるドット110には1+0と表示されている。これはタイミングt1 で打滴され、シフト量がゼロの(即ち、シフトさせない)ドットを示している。同様に、タイミングt2 で打滴されるドット112には2+2と表示されており、これはタイミングt2 で打滴され、シフト方向が記録紙搬送方向の上流側方向に2ドット分シフトした位置に飛翔方向が偏向されて打滴が行われる。
ここで、インク滴の飛翔方向は、「記録紙搬送方向の上流側」を単に「正方向」、「下流側」を単に「負方向」と記載することがある。
図10によれば、タイミングt1 では飛翔方向が偏向されないドット110を形成する打滴が行われる。次の吐出タイミングt2 では正方向に2ドット分シフトさせた位置にドット112が形成される。更に、タイミングt3 では負方向に1ドット分シフトさせた位置にドット114が形成され、タイミングt4 では正方向に1ドット分シフトさせた位置にドット116が形成され、タイミングt5 では負方向に2ドット分シフトさせたドット位置にドット118が形成される。タイミングt6 ではタイミングt1 と同様にシフト量がゼロのドット120が形成される。
図10に示した例では、副走査方向のシフト量Iとして0、±1、±2の5種類の整数を適用したが、副走査方向のシフト量Iは3種類以上の整数が含まれていればよい。なお、副走査方向のシフト量Iに2種類の整数を適用する場合には、連続して打滴される液滴によって形成されるドット間の距離が2ドット分以上(即ち、I≧2)となるように打滴制御が行われる。
このようにインク滴の打滴を制御すると、タイミングt3 で初めて隣り合うドットを形成するインク滴が打滴される。即ち、タイミングt1 の吐出周期の2周期後のタイミングt3 で、タイミングt1 で打滴されたインクによって形成されるドット110に隣り合うドット114を形成するインクが打滴されるので、2周期の間にドット110のインク滴の浸透または定着が進み、ドット114を形成するインク滴が打滴されても着弾干渉が起こらない。
同様に、タイミングt4 ではタイミングt2 で打滴されたインク滴によって形成されるドット112に隣り合うドット116を形成するインク滴が打滴されるが、2周期の間にドット112を形成するインク滴の浸透または定着が進み、タイミングt4 での副走査方向に隣り合うドット116を形成させるインク滴の打滴を行っても着弾干渉は発生しない。
このように、印字ヘッド50と記録紙16との相対関係を変えずに、一定の打滴周期及び一定の搬送速度を保ちながらシングルパス印字を行っても、着弾干渉が起こらず、所定の印字速度を確保できる。なお、打滴周期(吐出周期)、記録紙16の搬送速度などの打滴制御が変わると、これに合わせて液滴の飛翔方向の偏向条件も変更される。
図11には、飛翔偏向制御パターンを示している。図11では、たて軸には副走査方向のシフト量I、横軸には副走査方向搬送量(単位、μm )を示してある。インクジェット記録装置10は、図11に示した飛翔偏向制御パターンでは、副走査方向に1μm ごとに、各打滴タイミングにおいて所定のシフト量を持って打滴が行われることを示している。このような飛翔偏向制御パターンを繰り返しながら記録紙16上に所望の画像を形成させる。ここでは、便宜上Ptm=Pts=Pt =1μm で説明しているが、解像度1200dpi の場合、Pt ≒10μm となる。
ここで、副走査方向にインク滴の飛翔方向を偏向させる方法には特許文献3 (特開平2000−177115)に記載された、インクを帯電させ(帯電インクを用いてもよい)インク滴の飛翔空間に電界を作用させて、インク滴の飛翔方向を偏向させる方法を用いてもよいし、特許文献4(特開平2000−185403)に記載されたバブル発生ヒータを1ノズルに対して副走査方向に複数備え、これらのヒータを選択的にオンオフさせてインクの飛翔方向を偏向させる方法を用いてもよい。もちろん、インクの飛翔方向を偏向させる方法に上記以外の方法を適用してもよい。
次に、図12を用いて説明した打滴制御の変形例を説明する。
図12には、図10に示した打滴制御の変形例を示している。図12中、図10と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図12では、整数Iには−2及び2が適用されている。即ち、1種類の整数をkとするときに副走査方向のシフト量Iと整数kとの関係は、次式〔数5〕で表される。
〔数5〕
I=±k
但し、kは2以上の正の整数(即ち、2以上の自然数)である。
図12に示す変形例では、タイミングt1 で打滴されるドット110'は正方向に2ドット分シフトさせた位置にドットが形成され、タイミングt2 では負方向に2ドット分シフトさせた位置にドット112'が形成される。更に、タイミングt3 では正方向の2ドット分、タイミングt4 では負方向に2ドット分シフトさせた位置にドット114'及び116'が形成される。タイミングt5 以降も交互に正方向に2ドット分、負方向に2ドット分シフトさせた位置にドット118'、120'、122'、124'、126'、128'を形成するように、インク滴の飛翔方向が制御される。
図12に示した変形例では、タイミングt4 で初めて副走査方向に隣り合うドットを形成する打滴が行われる。即ち、タイミングt1 で打滴されたインク滴によって形成されるドット110'と隣り合うドット116'を形成するインクが打滴されるのはタイミングt4 であり、ドット110'を形成するインク滴は3周期の間に浸透または定着が進行するので、タイミングt4 でドット116'を形成するインク滴を打滴しても着弾干渉が発生しない。
図12に示した例では隣り合うドットを形成するインク滴の打滴は3周期分の時間が経過後に行われるので、図10に示した例に比べて1周期分余裕があり、打滴時間間隔を短くすることができる。
図13には、図12に示したドット形成の飛翔偏向制御パターンを示す。図13に示した飛翔偏向制御パターンを繰り返しながら記録紙16上に所望の画像を形成させる。
なお、図10及び図12はドット内の数字及び添え字を記載するために隣り合うドットが重なるように表されていないが、実際に形成されるドットは図8及び図9に示すように隣同士が重なっている。
図14には、ドット径が異なるドットを副走査方向に連続して形成させる例を示している。ドット200のドット径はD1、ドット202のドット径はD2、ドット204のドット径はD3であり、このようなドットを形成させるために、ドット200を形成する打滴に連続してドット204を形成させる打滴が行われる場合、ドット200とドット204が重ならない条件は、次式〔数6〕に示すとおりである。
〔数6〕
D1 +D3 <2×Pts
前記〔数5〕を満足するようにドット径D1 、D3 及び副走査方向のドットピッチPtsを設定すればよい。
即ち、1つおきのドットが重ならない条件を確保すれば、ドット200とドット204を連続して打滴しても、両ドットの重なる部分がないので、図10の場合ではドット112とドット114を連続して打滴することが可能である。
本例では、副走査方向について着弾干渉を防止する打滴制御について説明したが、図8及び図9に示すように、主走査方向に隣り合うドットも重なり合うように形成されるので、主走査方向に隣り合うドットを形成させるインク滴が同時に記録紙16上へ着弾しないように打滴制御することが好ましい。
図5に示すように、マトリクス状に配列されたノズル列を有する印字ヘッド50では、主走査方向に隣り合うドットを形成するノズルには、例えば、ノズル51-11 と51-12 がある。
ノズル51-11 と51-12 とは、副走査方向に距離d ×sin θだけ離れて配置されており、ノズル51-11 から吐出されるインク滴と51-12 から吐出されるインク滴とは吐出タイミングがずれているので、着弾時間に差が生じることになる。
即ち、主走査方向に隣り合うドットを形成させるインク滴を同時に着弾させないためには、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴を吐出させるノズルを副走査方向に所定の距離だけシフトさせて配置し、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴の着弾時間に差を設ける。
着弾時間の差は、記録紙16の搬送速度、インク滴の飛翔速度、ノズル間の距離(シフト量)、記録紙16の種類とインクの種類から決まるインクの浸透時間または定着時間から求められる。即ち、インクの浸透時間に合わせて記録紙16の搬送速度を制御して主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴の好ましい着弾時間の差を実現する。記録紙16の種類やインクの種類ごとに浸透時間と記録紙16の搬送速度やインク滴の飛翔速度関係をデータテーブル化してメモリ手段(例えば、図7の画像メモリ74やシステムコントローラなどのMPUに内蔵されたメモリ等)に記録しておいてもよい。
図15は、図8に示した主走査方向及び副走査方向に隣り合うドット同士は重なり合い、斜め方向に隣り合うドットは重ならないドットを形成 (配置)する条件で記録紙16に形成されるドットを示し、図16は、図9に示した主走査方向、副走査方向及び斜め方向に隣り合うドット同士が重なり合うドットを形成 (配置)する条件で記録紙16に形成されたドットを示している。
図15及び図16中、図10及び図12と同一又は類似する部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図15では、たて方向の系列は副走査方向を表し、横方向の系列は主走査方向を表している。また副走査方向は図15中上側が上流側、下側が下流側を示している。
図15に示したドット列は、副走査方向には図10に示した打滴制御が適用される。一方、主走査方向に隣り合うドットを形成するノズルは副走査方向に副走査方向のドットピッチPtsだけずれて配置されており、主走査方向に隣り合うドットは副走査方向の打滴サイクル分だけ遅れて打滴が行われる。なお、ドット300、302、304は図15では主走査方向に隣り合っていないが、実際に、これらのドットは主走査方向に隣り合うように形成される。
図15ではドット内に示した数字が同一であるドットは主走査方向に隣り合うドットである。
図16では、主走査方向に隣り合うドットを形成させるノズルは副走査方向に副走査方向のドットピッチの2倍(2×Pts)だけずれて配置されている。
本実施形態では、インク滴の着弾位置を正方向と負方向に交互にシフトさせる態様を例示したが、正方向と負方向を数周期ごとに入れ換える態様を適用してもよい。
〔印字速度〕
次に、印字速度と本発明に係る打滴制御との関係について説明する。
図16には、はがきサイズの記録紙16を1分間に35枚印字する場合に形成されるドット列を示している。
図16に示した例では、記録紙16の搬送速度は1.67mm/secであり、ドット密度を600dpi とするとドットピッチPt は42.2μm になり、打滴周期は25.3msecになる。
使用する媒体(記録紙16)の浸透時間が上述した一般的なインクの浸透時間20msecを適用できれば、本発明に係る打滴制御を適用しなくても、この搬送速度1.67mm/secでも着弾干渉せずに印字が可能である。
しかし、生産能力を上げるために搬送速度を略10mm/sec(上述した例の略6倍)に高めようとすると、打滴周期は略4.2msecとなるので、本発明に係る打滴制御を適用しないとインクの浸透が間に合わず、着弾干渉が発生しドット形状が崩れてしまい所望の画像を形成することができない。
そこで、本発明に係る打滴制御を適用して、図19に示すように、ノズル直下に形成されるドットから4個隣のドット位置に飛翔偏向をシフトさせて記録紙搬送方向の上流側及び下流側交互に飛翔偏向させると、隣り合うドットを形成するインク滴の着弾時間差は7周期分の略25.3msecになり、浸透時間20msecより大きくなるので、着弾干渉を防止できる。
図19は、副走査方向のシフト量(偏向シフト量)Iに±4を適用して形成されたドットを示している。図19では図10及び図12と同様に、横の系列は時間を示し、たての系列は副走査方向(上流側が下方向、下流側が上方向)を示している。また、ドット内に記載されている数字は打滴タイミングを表している。
図19によれば、タイミングt9 ではタイミングt2 で打滴されたインクによって形成されたドット400と副走査方向に隣り合うドット402を形成するインク滴の打滴が行われる。したがって、7周期分の着弾時間の差(略25.3msec)があり、これは一般的なインクの浸透時間20msecより大きいので、ドット400を形成するインク滴が浸透してからドット402が打滴されることになる。
更に、タイミングt11以降の打滴では、ドット400及びドット402以外にも隣り合うドットを形成するインク滴の着弾が行われるが、何れの場合にも7周期分以上の着弾時間差を有しているので、着弾干渉が発生せず、所望の画像をえることができる。
一般に、隣り合うドットが着弾するまでの時間Tは、副走査方向のシフト量I(±k)と打滴周期Tf を用いて、次式〔数7〕で表される。
〔数7〕
T=Tf ×(2k−1)
この時間T が浸透時間To より大きくなる(即ち、T≧To )となるように〔数7〕に示したkを設定すればよい。
言い換えると、前記〔数7〕を満足するような副走査方向のシフト量Iを設定すればよい。これは、次式〔数8〕に示される。
〔数8〕
k≧{(To /Tf )+1}/2
これは、次式〔数9〕をIについて変形させた式である。
〔数9〕
Tf ×(2k−1)≧To
〔飛翔偏向量〕
次に、飛翔偏向量(飛翔角度)について説明する。
図3及び図4に示すように、本インクジェット記録装置10にはインクの飛翔方向を偏向させる飛翔方向偏向手段を備えている。
図4(b) に示すように、印字ヘッド50のノズル形成面と記録紙16との距離z(クリアランス)は略2mmである。副走査方向のシフト量y、印字ヘッド50と記録紙16とのクリアランスzからインク滴の飛翔偏向角度θは、次式〔数10〕で求められる。
〔数10〕
θ=arctan(y/z)
但し、〔数10〕は〔数1〕をθについて変形させた式である。
即ち、ドット密度が600dpi とすると、ドットピッチは42.2μm になり、図19に示した副走査方向のシフト量が4ドット分の場合、副走査方向のシフト量yは0.08となり、飛翔偏向角度θは4.82°(deg) となる。
また、副走査方向のシフト量を11ドット分とすると、飛翔偏向角度θは13.1°になる。
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10は、少なくとも副走査方向に隣り合うドットが重なるように形成される副走査方向に沿ったドット列を形成する際に、連続した打滴では先の打滴によるインク滴或いは後の打滴によるインク滴のうち少なくとも何れか一方のインク滴の飛翔方向を副走査方向に沿って偏向させるので、連続した打滴では隣り合うドットが形成されず、着弾干渉が発生しない。
副走査方向にインク滴の飛翔方向を偏向させる際の偏向量は、副走査方向のドットピッチの整数倍(I倍)に設定される。なお、該偏向方向には正方向及び負方向が含まれていてもよい。更に、打滴制御シーケンスを簡略化させるために該偏向量を副走査方向のドットピッチの±k倍(kは2以上の自然数、即ち、I=±k)としてもよい。
隣り合うドットが着弾する時間は副走査方向のシフト量Iと副走査方向の打滴周期TfからTf ×(2k−1)で表される。インクの浸透時間をTo とすると、Tf ×(2k−1)≧To を満たすIを設定するように構成されるので、ドット密度、記録紙16の搬送速度、インクの浸透時間などの種々のパラメータ条件に対して着弾干渉を防止しうる飛翔方向偏向パターンの設定が可能になる。
また、ノズルが2次元状に配列されたマトリクスヘッドを用いて副走査方向だけでなく主走査方向にも重なるドットを形成させる場合には、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴を吐出させるノズルを副走査方向に所定の距離だけシフトさせて配置させるように構成すると、主走査方向に隣り合うドットを形成するインク滴の着弾時間に差を設けることができ、高密度打滴に適した2次元配列ノズルの配列パターンを有効に活用することができる。
本実施形態では、記録紙の記録幅に対応した長さのノズル列を備えたフルライン型の印字ヘッドを例示したが、本発明の適用範囲は上述したフルライン型の印字ヘッドに限定されず、記録紙の記録幅よりも短い長さのノズル列を有し、記録紙の幅方向の往復運動するシャトル式印字ヘッドにも適用可能である。中でも1回のシャトル走査で印字ヘッドが走査した領域の画像を完全に形成終了する1パスシャトル式(シングルパスシャトル式)では特に有効である。
一方、記録紙の間欠送り量を印字ヘッドの副走査方向の印字長さより小さくして、同じ画像領域を複数回の走査で印字する方式でも本発明の効果を得ることができる。
図20を用いて、シングルパスシャトル式を用いて記録紙16上に印字を行う方法について説明する。
図20には、シャトル式印字ヘッドを用いて印字される記録紙16の印字領域を示している。図20に示すように、該印字ヘッドのシャトル走査幅(主走査方向の走査幅)は主走査方向の印字可能幅より大きく設定されている。
1回目のシャトル走査では印字領域501の印字が行われる。印字領域501の副走査方向の長さは印字ヘッドの印字有効長さと略同一である。
2回目のシャトル走査では印字領域502の印字が行われ、続いて印字領域503の印字が行われる。このようにして主走査方向に印字ヘッドを1回走査させると、該印字ヘッドと記録紙16とを副走査方向へ相対的に移動させて、順次印字が行われる。
i-1 番目のシャトル走査で印字領域504の印字が行われ、i 番目のシャトル走査で印字領域505の印字が行われると記録紙16の全面に印字が行われ、記録紙16には所望の画像が形成される。
なお、1回の主走査への移動では、一方方向に印字ヘッドを移動させて当該印字領域の
主走査方向への印字を行ってもよいし、印字ヘッドを往復移動させて当該印字領域の主走査方向への印字を行ってもよい。
即ち、印字領域501の印字を行う際には印字ヘッドを主走査方向の一方の方向(例えば、図20の左から右方向)に移動させ、印字領域502の印字を行う際には主走査方向のもう一方の方向(例えば、図20の右から左の方向)に移動させるように制御してもよい。
シャトル式印字ヘッドでは、該ヘッドと記録紙16とを主走査方向に相対移動させる主走査方向移動手段が備えられている。該主走査方向移動手段は固定された記録紙16に対して印字ヘッドを移動させてもよいし、固定された印字ヘッドに対して記録紙16を移動させてもよい。また、印字ヘッド及び記録紙16の両方を移動させてもよい。
また、隣り合う印字領域(例えば、印字領域501と印字領域502)の境界では、印字領域が重ならないように制御される。
本実施形態では液滴の吐出ヘッドとしてインクジェット記録装置に用いられるインクジェットヘッドを例示したが、本発明は、ウエハやガラス基板、エポキシなどの基板類等の被吐出媒体上に液類(水、薬液、レジスト、処理液)を吐出させて画像、回路配線、加工パターンなどの立体形状を形成させる液吐出装置に用いられる吐出ヘッドに適用可能である。
次に、顔料インクについて説明する。
〔有機顔料微粒子及びそれを含有する分散液の製造〕
本発明に用いられる有機顔料を製造する装置は、層流を形成しうる流路を有するものであり、好ましくは等価直径10mm以下の流路(チャンネル)を有する装置であり、より好ましくは等価直径1mm以下の流路を有する装置である。まず、等価直径について以下に説明する。
等価直径(equivalent diameter)は相当(直)径、とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2 /4a=a、一辺aの正三角形管では、
Figure 2006281774
流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
管の中に水を流し、その中心軸状に細い管を挿入し着色した液を注入すると、水の流速が遅い間は、着色液は一本の線となって流れ、水は管壁に平行にまっすぐに流れる。しかし、流速を上げ、ある一定の流速に達すると急に水流の中に乱れが生じ、着色液は水流と混じって全体が着色した流れになる。前者の流れを層流(laminar flow)、後者を乱流(turbulent flow)という。
流れが層流になるか乱流になるかは流れの様子を示す無次元数であるレイノルズ数(Reynolds number)が、ある臨界値以下であるかによって決まる。レイノルズ数が小さいほど層流を形成しやすい。管内の流れのレイノルズ数Reは次式で表される。
Re=D<υx>ρ/μ
Dは管の等価直径、<υx>は断面平均速度、ρは流体の密度、μは流体の粘度を表す。
この式からわかるように等価直径が小さいほどレイノルズ数は小さくなるので、μmサイズの等価直径の場合は安定な層流を形成しやすくなる。また、密度や粘度の液物性もレイノルズ数に影響し、密度が小さく、粘度が大きいほどレイノルズ数は小さくなるので層流を形成しやすいことがわかる。
臨界値を示すレイノルズ数を臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)と呼ぶ
臨界レイノルズ数は必ずしも一定とはいえないが、凡そ次の値が基準となる。
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000≧Re≧2300 過渡状態
流路の等価直径が小さくなるにつれ、単位体積あたりの表面積(比表面積)は大きくなるが、流路がマイクロスケールになると比表面積は格段に大きくなり、流路の器壁を通じた熱伝達効率は非常に高くなる。流路を流れる流体中の熱伝達時間(t)は、t=deq2 /α(α:液の熱拡散率)で表されるので、等価直径が小さくなるほど熱伝達時間は短くなる。すなわち、等価直径が1/10になれば熱伝達時間は1/100になることになり、等価直径がマイクロスケールである場合、熱伝達速度は極めて速い。
すなわち、等価直径がマイクロスケールであるマイクロサイズ空間ではレイノルズ数が小さいので安定な層流支配のもとでフロー反応を行うことができる。そして層流間の界面表面積が非常に大きいので、層流を保ったまま、界面間の分子拡散により高速で精密な成分分子の混合が可能となる。また、大きな表面積を有する流路壁の利用により精密温度制御、フロー反応の流速コントロールによる反応時間の精密制御なども可能となる。従って、本発明の層流を形成する流路のうち、高度に反応制御可能な場である等価直径を有するマイクロスケールの流路を、マイクロ反応場と定義する。
前記レイノルズ数の説明で示したように、層流の形成は等価直径の大きさだけでなく粘度および密度という液物性を含めた流動条件にも大きく影響される。よって、本発明では流路を層流にできれば、流路の等価直径は限定されないが、容易に層流が形成できるサイズが好ましい。好ましくは10mm以下であり、より好ましくはマイクロ反応場を形成する1mm以下である。更に好ましくは10μm〜1mmであり、特に好ましくは20〜300μmである。
本発明の特に好ましいマイクロスケールのサイズの流路(チャンネル)を有する反応装置の代表的なものは一般に「マイクロリアクター」と総称され、最近大きな発展を遂げている(例えば、W. Ehrfeld, V. Hessel, H. Loewe, " Microreactor ", 1Ed(2000) WILEY−VCH 参照)。
前記一般のマイクロリアクターには、その断面を円形に換算した場合の等価直径が数μm〜数百μm程度の複数本のマイクロ流路、及びこれらのマイクロ流路と繋がる混合空間が設けられており、このようなマイクロリアクターでは、複数本のマイクロ流路を通して複数の溶液をそれぞれ混合空間へ導入することで、複数の溶液を混合し、又は混合と共に化学反応を生じさせる。
次に、マイクロリアクターによる反応がタンク等を用いたバッチ方式と異なる主な点を説明する。液相の化学反応、二相系の液相の化学反応は、一般に反応液の界面において分子同士が出会うことによって反応が起こるので、微小空間(マイクロ流路)内で反応を行うと相対的に界面の面積が大きくなり、反応効率は著しく増大する。また分子の拡散そのものも拡散時間は距離の二乗に比例する。このことは、スケールを小さくするに従って、反応液を能動的に混合しなくても、分子の拡散によって混合が進み、反応が起こり易くなることを意味している。また、微小空間においては、レイノルズ数(流れを特徴づける無次元の数)が小さいために層流支配の流れとなり、溶液同士が層流状態となっている界面でそれぞれの溶液内に存在する分子の交換が起こり、移動した分子により析出や反応が引き起こされる。
このような特徴を有するマイクロリアクターを用いれば、反応の場として大容積のタンク等を用いた従来のバッチ方式と比較し、溶液同士の反応時間及び温度の精密な制御が可能になる。またバッチ方式の場合には、特に、反応速度が速い溶液間では混合初期の反応接触面で反応が進行し、さらに溶液間の反応により生成された一次生成物が容器内で引き続き反応を受けてしまう場合があるから、生成物が不均一になったり、混合容器内で生成物の結晶が必要以上に成長して粗大化してしまうおそれがある。これに対して、本発明に用いられるマイクロリアクターによれば、溶液が混合容器内に殆ど滞留することなく連続的に流通するので、溶液間の反応により生成された一次生成物が混合容器内に滞留する間に引き続き反応を受けてしまうことを抑止でき、従来では取り出すことが困難であった純粋な一次生成物を取り出すことも可能になり、また混合容器内での結晶の凝集や粗大化も生じ難くなる。
また、実験的な製造設備により製造された少量の化学物質を大規模の製造設備により多量に製造(スケールアップ)する際には、従来、実験的な製造設備に対し、バッチ方式による大規模の製造設備での再現性を得るために多大の労力及び時間を要していたが、必要となる製造量に応じてマイクロリアクーを用いた製造ラインを並列化(ナンバリングアップ)することにより、このような再現性を得るための労力及び時間を大幅に減少できる可能性がある。
本発明に用いられる層流の流路の作製方法を以下に説明する。流路が1mm以上のサイズの場合は従来の機械加工技術を用いることで比較的容易に作成可能であるが、サイズが1mm以下のマイクロサイズ、特に500μm以下になると格段に作製が難しくなる。マ
イクロサイズの流路(マイクロ流路)は固体基板上に微細加工技術を用いて作成される場合が多い。基板材料としては腐食しにくい安定な材料であれば何でも良い。例えば、金属(例えば、ステンレス、ハステロイ(Ni−Fe系合金)、ニッケル、アルミニウム、銀、金、白金、タンタルまたはチタン)、ガラス、プラスチック、シリコーン、テフロン(登録商標)またはセラミックスなどである。
マイクロ流路を作製するための微細加工技術として代表的なものを挙げれば、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、およびダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法などがある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、および機械的マイクロ切削加工法である。また、近年では、エンジニアリングプラスチックへの微細射出成型技術の適用が検討されている。
マイクロ流路を作成する際、よく接合技術が用いられる。通常の接合技術は大きく固相接合と液相接合に分けられ、一般的に用いられている接合方法は、固相接合として圧接や拡散接合、液相接合として溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等が代表的な接合方法である。さらに、組立に際しては高温加熱による材料の変質や大変形による流路等の微小構造体の破壊を伴わない寸法精度を保った高度に精密な接合方法が望ましいが、そのような技術としてはシリコン直接接合、陽極接合、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF水溶液を用いた接合、Au−Si共晶接合、ボイドフリー接着などがある。
本発明のマイクロ流路は、固体基板上に微細加工技術を用いて作成されたものに限らず、例えば、入手可能な数μm〜数百μmの内径を有する各種ヒューズドシリカキャピラリーチューブでも良い。高速液体クロマトグラフ用、ガスクロマトグラフ用部品として市販されている数μm〜数百μmの内径を有する各種シリコンチューブ、フッ素樹脂製管、ステンレス管、PEEK管(ポリエーテルエーテルケトン管)も同様に利用可能である。
これまでにマイクロリアクターに関しては、反応の効率向上などを目指したデバイスに関する報告がなされている。例えば、特開2003−210960、特開2003−210963、特開2003−210959はマイクロミキサーに関するものであり、本発明はこれらのマイクロデバイスを利用することもできる。
本発明で用いるマイクロ流路は目的に応じて表面処理してもよい。特に水溶液を操作する場合、ガラスやシリコンへの試料の吸着が問題になることがあるので表面処理は重要である。複雑な製作プロセスを要する可動部品を組み込むことなく、マイクロサイズの流路内における流体制御を実現することが望ましい。例えば、流路内に表面処理により親水性と疎水性の領域を作製し、その境界に働く表面張力差を利用して流体を操作することが可能である。ガラスやシリコンの表面処理する方法として多用されるのはシランカップリング剤を用いた疎水または親水表面処理である。
流路中へ試薬やサンプルなどを導入して混合するためには、流体制御機能が必要である。特に、マイクロ流路内における流体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質を持つため、マイクロスケールに適した制御方式を考えなければならない。流体制御方式は形態分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式があり、駆動力分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式がある。
これらの方式を以下に詳しく説明する。流体を扱う形態として、最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロ流路内は全て流体で満たされ、外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動するのが一般的である。この方法は、デッドボリュームが大きいことなどが難点であるが比較的簡単なセットアップで制御システムを実現できることが大きな利点である。
連続流動方式とは異なる方式として、液滴(液体プラグ)方式がある。この方式では、リアクター内部やリアクターに至る流路内で、空気で仕切られた液滴を動かすものであり、個々の液滴は空気圧によって駆動される。その際、液滴と流路壁あるいは液滴同士の間の空気を必要に応じて外部に逃がすようなベント構造、および分岐した流路内の圧力を他の部分と独立に保つためのバルブ構造などを、リアクターシステム内部に用意する必要がある。また、圧力差を制御して液滴の操作を行うために、外部に圧力源や切り替えバルブからなる圧力制御システムを構築する必要がある。このように液滴方式では、装置構成やリアクターの構造がやや複雑になるが、複数の液滴を個別に操作して、いくつかの反応を順次行うなどの多段階の操作が可能で、システム構成の自由度は大きくなる。
流体制御を行うための駆動方式として、流路(チャンネル)両端に高電圧をかけて電気浸透流を発生させ、これによって流体移動させる電気的駆動方法と、外部に圧力源を用いて流体に圧力をかけて移動させる圧力駆動方法が一般に広く用いられている。両者の違いは、たとえば流体の挙動として、流路断面内で流速プロファイルが電気的駆動方式の場合にはフラットな分布となるのに対して、圧力駆動方式では双曲線状に、流路中心部が速くて、壁面部が遅い分布となることが知られており、サンプルプラグなどの形状を保ったまま移動させるといった目的には、電気的駆動方式の方が適している。電気的駆動方式を行う場合には、流路内が流体で満たされている必要があるため、連続流動方式の形態をとらざるを得ないが、電気的な制御によって流体の操作を行うことができるため、例えば連続的に2種類の溶液の混合比率を変化させることによって、時間的な濃度勾配をつくるといった比較的複雑な処理も実現されている。圧力駆動方式の場合には、流体の電気的な性質にかかわらず制御可能であること、発熱や電気分解などの副次的な効果を考慮しなくてよいことなどから、基質に対する影響がほとんどなく、その適用範囲は広い。その反面、外部に圧力源を用意しなければならないこと、圧力系のデッドボリュームの大小に応じて、操作の応答特性が変化することなど、複雑な処理を自動化する必要がある。
本発明における流体制御方法として用いられる方法はその目的によって適宜選ばれるが、好ましくは連続流動方式の圧力駆動方式である。
本発明の流路内の温度制御は、流路を持つ装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行ってもよい。温度のセンシングは、金属抵抗線を使用する場合はヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行うのが好ましく、ポリシリコンを使用する場合は熱電対を用いて検出を行うのが好ましい。また、ペルチェ素子を流路に接触させることによって外部から加熱、冷却を行ってもよい。どの方法を用いるかは用途や流路本体の材料などに合わせて選択される。
本発明において顔料の製造又は顔料分散液の調製は、流路の中を流れながら、すなわち連続フロー法で行われる。そのため反応時間は流路中に滞留する時間で制御される。滞留する時間は等価直径が一定である場合、流路の長さと反応液の導入速度で決まる。流路の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm以上10m以下であり、更に好ましくは5mm以上10m以下で、特に好ましくは10mm以上5m以下である。
本発明に用いられる流路の数量は、適宜反応装置にそなえられるものであり、勿論、1つでも構わないが、必要に応じて流路を何本も並列化し(ナンバリングアップ)、その処理量を増大させることが出来る。
本発明に用いられる反応装置の代表例を図21(a)〜24に示した。尚、本発明がこれらに限定されないことは言うまでも無い。
図21(a)はY字型流路を有する反応装置(1010)の説明図であり、図21(b)はそのI−I線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は使用される微細加工技術により異なるが、台形または矩形に近い形である。流路幅・深さ(特にC,H)がマイクロサイズにて作られている場合、導入口1011及び導入口1012からポンプなどにより注入された溶液は導入流路1013aまたは導入流路1013bを経由して流体合流点1013dにて接触し、安定な層流を形成して反応流路1013cを流れる。そして層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質の混合または反応が行われる。拡散の極めて遅い溶質は、層流間での拡散混合が起きず、排出口1014に達した後に初めて混合する場合もある。注入される2つの溶液がフラスコ中で容易に混合するような場合には、流路長Fを長く取れば排出口では液の流れは均一な流れになりうるが、流路長Fが短い時には排出口まで層流が保たれる。注入される2つの溶液がフラスコ中で混合せず層分離する場合は、当然ながら2つの溶液は層流として流れて排出口1014に到達する。
図22(a)は片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置(1020)の説明図であり、図22(b)は同装置のIIa−IIa線の断面図であり、図22(c)は同装置のIIb−IIb線の断面図である。流路の長さ方向に直交する断面の形は円かそれに近い形である。円筒管の流路直径(D,E)がマイクロサイズの場合、導入口1021及び導入口1022からポンプなどにより注入された溶液は導入流路1023aと導入流路1023bを通じて流体合流点1023dにて接触し、安定な円筒層流を形成して反応流路1023cを流れる。そして円筒層流として流れる間に層流間の界面における分子拡散により互いの層流に含まれる溶質の混合または反応が行われるのは上記図21(a)の装置と同じである。円筒管型流路をもつ本装置は、上記図21(a)の装置に比べて2液の接触界面を大きく取れること、更に接触界面が装置壁面に接触する部分がないため、固体(結晶)が反応により生成する場合など壁面との接触部分からの結晶成長などがなく、流路を閉塞する可能性が低いのが特徴である。
図23(a)および図24は、2液の流れが層流のまま出口まで到達する場合、それらを分離できるように図21(a)および図22(a)の装置に改良を加えたものであり図21(b)は図21(a)におけるIII−III線の断面図である。これらの装置を用いると反応と分離が同時にできる。また、最終的に2液が混合してしまって反応が進みすぎたり、結晶が粗大化したりすることを避けることができる。一方の液中に選択的に生成物や結晶が存在する場合には、生成物や結晶を2液が混合してしまう場合に比べて高濃度の状態で得ることができる。また、これらの装置を幾つか連結することにより、抽出操作が効率的に行われるなどのメリットがある。
(1)マイクロリアクターによる有機顔料微粒子分散液の製造
本発明において、アルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解した有機顔料の溶液を、前記流路中を層流として流通させ、その過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させて有機顔料微粒子およびそれを含有する分散液を製造するが、それについて以下詳しく説明する。
本発明に用いられる有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、マゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料であることができる。詳しくは、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンまたはイソビオラントロン系顔料またはそれらの混合物などのマゼンタ顔料、イエロー顔料、またはシアン顔料である。
好ましい顔料は、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料であり、特に好ましくはキナクリドン、ジスアゾ縮合、またはフタロシアニン系顔料である。
本発明において、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体または有機顔料と無機顔料の組み合わせも使用することができる。
有機顔料は、アルカリ性または酸性の水性媒体に均一に溶解されなければならないが、酸性で溶解するかアルカリ性で溶解するかは対象とする顔料がどちらの条件で均一に溶解し易いかで選択される。一般に分子内にアルカリ性で解離可能な基を有する顔料の場合はアルカリ性が、アルカリ性で解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するときは酸性が用いられる。例えば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合系顔料はアルカリ性で、フタロシアニン系顔料は酸性で溶解される。
アルカリ性で溶解させる場合に用いられる塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化バリウムなどの無機塩基、またはトリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基であるが、好ましくは無機塩基である。
使用される塩基の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、無機塩基の場合、好ましくは顔料に対して1.0〜30モル当量であり、より好ましくは2.0〜25モル当量であり、さらに好ましくは3〜20モル当量である。有機塩基の場合は好ましくは顔料に対して1.0〜100モル当量であり、より好ましくは5.0〜100モル当量であり、さらに好ましくは20〜100モル当量である。
酸性で溶解させる場合に用いられる酸は、硫酸、塩酸、もしくは燐酸などの無機酸、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸であるが好ましくは無機酸である。特に好ましくは硫酸である。
使用される酸の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、好ましくは顔料に対して3〜500モル当量であり、より好ましくは10〜500モル当量であり、さらに好ましくは30〜200モル当量である。
次に水性媒体について説明する。本発明における水性媒体とは水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合、層流の形成に必要な場合に行われるものであり、必ずしも必要ではないが、多くの場合は水溶性有機溶媒が添加される。添加される有機溶媒は例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、もしくはトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール系溶媒、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、もしくはトリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級モノアルキルエーテル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、もしくはトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)等のポリエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、尿素、もしくはテトラメチル尿素等のアミド系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、もしくは3−スルホレン等の含イオウ系溶媒、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能系溶媒、酢酸、マレイン酸、ドコサヘキサエン酸、トリクロロ酢酸、もしくはトリフルオロ酢酸等のカルボン酸系溶媒、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロスルホン酸等のスルホン酸系溶媒が挙げられる。これらの溶媒を2種以上混合して用いてもよい。
好ましい有機溶媒は、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒またはスルホン酸系溶媒であるが、更に好ましくはアルカリ性の場合は含イオウ系溶媒であり、酸性の場合はスルホン酸系溶媒である。特に好ましくは、アルカリ性の場合はジメチルスルホキシド(DMSO)、酸性の場合はメタンスルホン酸である。
水と有機溶媒の混合比は均一溶解できれば良い比率であり、特に限定は無い。好ましくはアルカリ性の場合には水/有機溶媒=0.05〜10(質量比)である。酸性の場合で無機酸を用いる場合は、有機溶媒を使わず、例えば硫酸単独で用いるのが好ましい。有機酸を用いるときは有機酸自身が有機溶媒であり、粘性と溶解性を調整するために複数の酸を混合したり、水を添加する。好ましくは水/有機溶剤(有機酸)=0.005〜0.1(質量比)である。
本発明では、均一に溶解した溶液を流路に投入することが好ましい。懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広い顔料微粒子になる。場合によっては容易に流路を閉塞してしまう。「均一に溶解」の意味は可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、本発明では1μm以下のミクロフィルターを通して得られる溶液、または1μmのフィルターを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液と定義する。
次に水素イオン指数(pH)について説明する。水素イオン指数(pH)は、水素イオン濃度(モル濃度)の逆数の常用対数であり、水素指数と呼ばれることもある。水素イオン濃度とは、溶液中の水素イオンH+の濃度であり、1Lの溶液中に存在する水素イオンのモル数を意味する。水素イオン濃度は非常に広い範囲で変化するので通常は水素イオン指数(pH)を用いて表す。例えば、純粋な水は1気圧、25℃では10-7モルの水素イオンを含むから、そのpHは7で中性である。pH<7の水溶液は酸性、pH>7の水溶液はアルカリ性である。pHの値を測定する方法としては、電位差測定法および比色測定法がある。
本発明では、流路中を流通する過程で水素イオン指数(pH)を変化させ、顔料微粒子を製造するが、その方法は有機顔料の均一溶液の導入口とは異なる導入口を有する流路、例えば図21(a)、又は図22(a)に示されるような少なくとも2つの導入口を有する流路を用いて行われる。詳しくは、図21(a)の導入口1011、または図22(a)の導入口1021に有機顔料の均一溶液を導入し、図21(a)の導入口1012、または図22(a)の導入口1022に中性、酸性またはアルカリ性の水、またはそれらに分散剤を溶解した水溶液を導入し、両液を流路1013c又は1023c中で接触させることにより有機顔料を含む溶液の水素イオン濃度、すなわち水素イオン指数(pH)を中性(pH7)の方向に変化させる。流路の等価直径がマイクロスケールの場合は、レイノルズ数が小さいため安定な層流(図22(a)では円筒層流)を形成し、両液の層間の安定界面を介して水やイオンが拡散移動して徐々に有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化する。顔料は低いアルカリ性または低い酸性では水性媒体に溶解しにくくなるため、有機顔料を含む溶液の水素イオン指数(pH)が中性方向に変化するに従い、徐々に微粒子として析出する。
水素イオン指数(pH)の変化は、アルカリ性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH16.0から5.0の範囲内での変化であり、好ましくはpH16.0から10.0の範囲内での変化である。酸性水性媒体に溶解した顔料から顔料微粒子を製造する場合は、おおむね変化はpH1.5から9.0の範囲内での変化であり、好ましくはpH1.5から4.0の範囲内での変化である。変化の幅は有機顔料溶液の水素イオン指数(pH)の値によるが、有機顔料の析出をうながすのに十分な幅で良い。
マイクロスケールの流路中で生成した顔料微粒子は、拡散せず一方の層流に含まれたまま出口へと流れるので、図23(a)または図24に示されるように設計された出口を持つ流路装置を用いると、有機顔料微粒子を含む層流を分離することが出来る。この方法を用いると、濃厚な顔料分散液を得ることができると同時に、均一溶液を調製するために用いた水溶性有機溶媒、アルカリ性や酸性水、および過剰な分散剤を除去できるので有利である。また、最終的に2液が混合してしまうことにより、結晶が粗大化したり、顔料の結晶が変質することを避けることができる。
顔料微粒子を製造する場合の流路内における反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが望ましいが、好ましくは、−20〜90℃、より好ましくは0〜50℃である。特に好ましくは5〜15℃である。
顔料微粒子を製造する場合の流路内を流れる流体の速度(流速)は、有利には0.1mL〜300L/hr、好ましくは0.2mL〜30L/hr、更に好ましくは0.5mL〜15L/hr、特に好ましくは1.0mL〜6L/hrである。
本発明において、流路を流れる基質(有機顔料やその反応成分)の濃度範囲は、通常0.5〜20質量%であり、好ましくは1.0〜10質量%である。
本発明の有機顔料微粒子を製造する方法では、有機顔料を含む溶液の中、または/および水素イオン指数(pH)を変化させるための水溶液(水性媒体)の中に分散剤を添加することができる。分散剤は(1)析出した顔料表面に素早く吸着して、微細な顔料粒子を形成し、かつ(2)これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。本発明では、このような分散剤として、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料性の、低分子または高分子分散剤を使用することができる。これらの分散剤は、単独あるいは併用して使用することができる。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。N−アシル−N−アルキルタウリン塩としては、特開平3−273067号明細書に記載されているものが好ましい。これらアニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
顔料性分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤と定義する。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。なかでも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これら高分子は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
好ましい態様として、アニオン性分散剤を水性媒体に含有させ、かつノニオン性分散剤および/または高分子分散剤を、有機顔料を溶解した溶液に含有させる態様を挙げることができる。
分散剤の配合量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、さらに好ましくは10〜250質量部の範囲である。0.1質量部未満であると有機顔料微粒子の分散安定性の向上が見られない場合がある。
このように製造された有機顔料微粒子を含む分散液は、そのまま顔料インクとして使用することもできるが、種々の添加剤を添加することができる。添加剤として、例えば乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等が挙げられる。pH調整剤、浸透剤、乾燥防止剤、防腐剤、防カビ剤等を添加して使用するようにしてもよい。
(2)製造された有機顔料微粒子の粒子サイズ等の計測
微粒子の計測法において、数値化して集団の平均の大きさを表現する方法があるが、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、および各種の平均径(長さ平均、面積平均、重量平均など)がある。本発明の方法で製造される有機顔料微粒子の粒径サイズは流路を閉塞しない範囲で任意であるが、モード径で1μm以下が好ましい。好ましくは3nm〜800nmであり、特に好ましくは5nm〜500nmである。
微粒子の粒子サイズが揃っていること、すなわち単分散微粒子系は、含まれる粒子の大きさが揃っているだけではなく、粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間の変動がないことを示すので粒子の性能を決める重要な要素である。特に粒子サイズがナノメートルの超微粒子においてはその粒子の特性を支配する因子として重視される。本発明の方法は粒子の大きさをコントロールできるだけでなく、そのサイズを揃える点でも優れた方法である。サイズが揃っていることを表す指標として算術標準偏差値が用いられるが、本発明により製造される顔料微粒子の算術標準偏差値は、好ましくは130nm以下であり、特に好ましくは80nm以下である。算術標準偏差値は、粒度分布を正規分布とみなして標準偏差を求める方法で、積算分布の84%粒子径から、16%粒子径を減じた値を2で除した値である。
(3)有機顔料微粒子の一例であるキナクリドン顔料微粒子の製造方法
本発明の有機顔料の製造方法は、前述の顔料に広く適用可能であるが、具体的に無置換または置換キナクリドン顔料の製造方法を例に説明する。本発明においては、前記一般式(I)で表される無置換または置換キナクリドン顔料を層流を形成する流路を有する装置中で製造するが、一般式(I)の置換基について説明する。
XおよびYは、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基またはCOORa基(ここでRaは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である)を表すが、フッ素原子、塩素原子およびカルボキシル基以外の基を詳しく述べれば、メチル、エチル、プロピルもしくはイソプロピルのアルキル基、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシもしくはイソプロポキシのアルコキシ基、またはメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、もしくはオクチルオキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基を表す。
好ましくは、XおよびYは塩素原子、またはアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
mおよびnは、独立して、0、1または2を表すが、好ましくは1である。
合成される好ましいキナクリドン系顔料の具体例としては、無置換キナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン等の無置換または置換キナクリドン、およびそれらの固溶体を含み、C.I.ナンバーで表すと、ピグメントバイオレット19、ピグメントレッド122、ピグメントレッド207、ピグメントオレンジ48、ピグメントオレンジ49、ピグメントレッド209、ピグメントレッド206、ピグメントバイオレット42等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
無置換または置換キナクリドン顔料の製造は、通常の合成方法に従い、好ましくは等価直径10mm以下の流路を有する前述の装置に適用して行うことができる。
本発明において利用できる溶媒は、それぞれ前述の、有機溶媒、分散剤、界面活性剤、または水、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。また、必要に応じて、例えば
インク組成物に添加される水溶性有機溶媒、その他の成分をさらに添加してもよい。これら溶媒成分は、例えば、特開2002−194263、特開2003−26972の各公報に記載のあるような顔料分散剤の構成要素を適用することができる。
反応流体は互いに混じり合う流体同士でもよく、混じり合わない流体同士でも構わない。混じり合う流体同士とは、同じもしくは比較的性質の近い有機溶媒を用いた溶液同士、あるいはメタノールなどの極性の高い有機溶媒を用いた溶液と水などであり、混じり合わない流体同士とは、ヘキサンなどの低極性の溶媒を用いた溶液とメタノールなどの高極性の溶媒を用いた溶液があげられる。
空気または酸素などの気体を酸化剤として用いる場合、それらは反応流体に溶解させるか、あるいは流路内に気体として導入する方法を取ることができる。好ましくは気体として導入する方法が取られる。
反応温度は、溶媒が凝固、あるいは気化しない範囲内であることが望ましいが、好ましくは、−20℃〜250℃、より好ましくは20℃〜150℃、更に好ましくは40℃〜120℃、最も好ましくは60℃〜100℃である。
流速は有利には0.1mL〜300L/hr、好ましくは0.2mL〜30L/hr、更に好ましくは0.5mL〜15L/hr、特に好ましくは1.0mL〜6L/hrである。
本発明においてマイクロリアクターに適用できるキナクリドン顔料の合成方法は種々あり、任意の方法を適用できるが、本発明のキナクリドン顔料の製造方法として、好ましい反応として二つの反応スキームを以下に示す。キナクリドン顔料は、好ましくは等価直径10mm以下、より好ましくは1mm以下の流路を有する装置中で製造することができる。
6,13−ジヒドロキナクリドンの酸化反応により合成する方法(スキーム1)としては、空気、または酸素によるもの(参考反応例として特開平11−209641号、特開2001−115052の各公報に記載の方法)、過酸化水素を用いるもの(参考反応例として特開2000−226530公報に記載の方法)が環境負荷の点から好ましい。
Figure 2006281774
式中、X、Y、mおよびnは前記と同義の基を表す。
ジアリールアミノテレフタル酸またはそのエステルの閉環反応(スキーム2)においては適切な縮合剤を用いて実施される(参考反応例として特開2001−335577、特開2000−103980の各公報に記載の方法)。
Figure 2006281774
式中、 X、Y、mおよびnは前記と同義の基を表す。置換基Rbは、水素原子または炭素数1〜10の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、もしくはアリール基である。例えば、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等を挙げることができる。アルケニル基としては、ビニル、アリルを、アルケニル基としてはエチニル基を、アリール基としてはフェニル基が挙げられる。これら置換基はさらに置換基を有していてもよい。好ましくはアリール基であり、特に好ましくはフェニル基である。
キナクリドン顔料において利用できる溶媒は、有機溶媒、分散剤、界面活性剤、または水、およびこれらを組み合わせたものが挙げられる。具体的には、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジグライムなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルイミダゾリドンなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄系溶媒などが挙げられる。原料及び生成物の溶解性の観点から、アミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどが好ましい。また、必要に応じて、例えばインク組成物に添加される水溶性有機溶媒、その他の成分をさらに添加してもよい。これら溶媒成分は、例えば、特開2002−194263、同2003−26972の各公報に記載のあるような顔料分散剤の構成要素を適用することができる。また、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の添加剤をさらに加え、所望のインクを得ることができる。
反応流体は互いに混じり合う流体同士でもよく、混じり合わない流体同士でも構わない。混じり合う流体同士とは、同じもしくは比較的性質の近い有機溶媒を用いた溶液同士、あるいはメタノールなどの極性の高い有機溶媒を用いた溶液と水などであり、混じり合わない流体同士とは、ヘキサンなどの低極性の溶媒を用いた溶液とメタノールなどの高極性の溶媒を用いた溶液があげられる。
反応により得られたキナクリドン顔料微粒子を分散液から取り出したい場合には、濾過または遠心分離により反応液から分離され、例えばN,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒でよく洗浄して高純度で得られる。従って、取り出したキナクリドン顔料微粒子を好みのインクに調製してもよい。
尚、ジスアゾ縮合顔料についても同様に製造できるが、ここでは省略する。
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
実施例に示すpHは、東亜電波工業(株)のガラス電極式水素イオン濃度計HM−40V(測定範囲pH0〜14)で測定した。粒径分布は日機装(株)のマイクロトラックUPA150で測定した。TEM測定には、日本電子(株)の透過型電子顕微鏡JEM−2000FXを用いた。
(実施例1)
2,9−ジメチルキナクリドン1.5gをジメチルスルホキシド13.5g、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液 2.68mL、分散剤ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30) 0.75gに室温で溶解した(IA液)。IA液のpHは測定限界(pH14)を超えており、測定不能であった。分散剤N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.75gと蒸留水90mLを混合した(IIA液)。IIA液のpHは7.70であった。これらを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。次に、図21(a)の反応装置を用いて下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIA液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクタの出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。IA液を1mL/h、IIA液を6mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約5.0)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集し、本発明の試料1とした。試料1のpHは13.06であった。また、モード径120nmで算術標準偏差58nmであった。
(比較例1)
次にビーカー中のIIA液6mL中に、撹拌子を用いて撹拌しながら室温でIA液を添加すると2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られた。これを比較試料1とした。試料1と比較試料1で得られた分散液の粒径と粒径分布を動的光散乱粒径測定装置を用いて比較したところ、試料1の分散液の粒径は比較試料1のモード径144nm、算術標準偏差77nmより小さく分布幅が小さいことがわかった。
(実施例2)
2,9−ジメチルキナクリドン0.15gをジメチルスルホキシド13.35mL、0
.8mol/L水酸化カリウム水溶液1.65mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(
株)製、K30)0.75gに室温で溶解した(IB液)。IB液のpHは測定限界を超
えており、測定不能であった。このIB液と実施例1で調製したIIA液を0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除き、それぞれ透明な溶液を得た。次に、以下に説明する反応装置を用いて下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIB液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。コネクタの出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。IB液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約21.9)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集し本発明の試料2とした。試料2のpHは10.49であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径51nm、算術標準偏差28nmであり分布幅が非常に小さいことがわかった。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、丸みを帯びた粒子形状を有していた。
(比較例2)
次に、ビーカー中のIIA液3.0mL中に、撹拌子を用いて撹拌しながら室温でIB液0.5mLを添加すると2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られた。これを比較試料2とした。比較試料2のpHは11.81であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径93nm、算術標準偏差57nmであり、粒径、分布幅のいずれも大きかった。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、針状であった。
(比較例3)
更に、実施例2の反応装置に使用したテフロン(登録商標)チューブ、およびテフロン(登録商標)製Y字コネクターの等価直径をすべて20mmとして、IB液を26.49L/h、IIA液を122.4L/hの送液速度にて送り出すことで分散液を得た。流路内の流れ(レイノルズ数;約2639.6)は不安定であった。これを比較試料3とした。比較試料3のpHは12.56であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径277nm、算術標準偏差140nmであり粒径は大きく、分布幅が非常に広いことが分かった。
本発明の試料2と比較試料2の比較は、流路中で顔料を調製すると粒子モード径と分布幅が小さくなり、かつ粒径が揃っていることを示した。また、本発明の試料2と比較試料3の比較は、流路の等価直径が10mm以下、特にマイクロスケールになると粒子モード径が小さくなり、かつ分布幅がかなり小さくなることを示した。
(実施例3)
2,9−ジメチルキナクリドン0.01gをジメチルスルホキシド10.0mL、0.8N水酸化カリウム水溶液0.11mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.05gに室温で溶解した(IC液)。IC液のpHは測定限界を超えており、測定不能であった。これを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除き、透明な溶液を得た。流路幅A;100μm、流路幅B;100μm、流路幅C;100μm、流路長F;12cm、流路深さH;40μmを有するガラスで作製した図21(a)記載のY字型流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1011、および導入口1012に接続し、その先にそれぞれIC液と蒸留水のみを入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1014にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。IC液を20μL/min、蒸留水を20μL/minの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約8.5)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれをチューブの先端より捕集した。この分散液のpHは13.93であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径は50nmであった。
(実施例4)
流路直径D;200μm、流路直径E;620μm、流路長G;10cmを有する図21(a)記載の円筒流路を有する反応装置を用い、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1021、および導入口1022に接続し、その先にそれぞれ実施例1と2にて調製したIB液とIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。IB液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出すと流路内は層流(レイノルズ数;約17.7)となり、2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が得られたのでこれを排出口1024より捕集した。この分散液のpHは10.44であった。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径94nm、算術標準偏差77nmであり分布幅が非常に小さいことがわかった。
(参考例1)
2,9−ジメチルキナクリドン0.01gをジメチルスルホキシド10mL、0.8mol/L水酸化カリウム水溶液0.04mL、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.05gに室温で混合した(ID液)。ID液のpHは12.74であった。このID液は懸濁していたが、0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことなく、そのまま使用した。流路幅A;100μm、流路幅B;100μm、流路幅C;100μm、流路長F;12cm、流路深さH;40μmを有する図21(a)記載のガラス製Y字型流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1011、および導入口1012に接続し、その先にそれぞれID液と実施例1で調製したIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1014にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。ID液を20μL/min、IIA液を20μL/minの送液速度にて送り出したところ、これら二液が合流した時点で流路が閉塞してしまった。このことから、 Y字型流路を有する反応装置を用いる本発明の方法においては、均一に溶けた溶液を用いることが重要であることがわかる。
(参考例2)
流路直径D;200μm、流路直径E;620μm、流路長G;10cmを有する図22(a)記載の円筒流路を有する反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1021、および導入口1022に接続し、その先にそれぞれ参考例1にて調製したID液と実施例1で調製したIIA液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。ID液を1.0mL/h、IIA液を30.0mL/hの送液速度にて送り出したところ、これら二液が合流した部分で流路が徐々に閉塞してしまった。このことから、円筒流路を有する反応装置を用いる本発明の方法においても均一に溶けた溶液を用いることが重要であることがわかる。
(実施例5)
流路幅I;100μm、流路幅J;100μm、流路幅K;100μm、流路幅L;100μm、流路幅M;100μm、流路長Q;2cm、流路深さS;40μmを有する図23(a)記載のY字型流路を有する排出口で分離可能な反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1031、および導入口1032に接続し、その先に実施例3にて調製したIB液と実施例1で調製したIIA液をそれぞれ入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1034、排出口1035にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。IB液を10μL/min、IIA液を60μL/minの送液速度にて送り出すと流路(1033)内で2,9−ジメチルキナクリドンの分散液層が層流(レイノルズ数;約14.9)として得られ、流体分流点1033eにて分散液層は排出口1034へ、その他の液層は排出口1035へ分離する事ができた。これにより、濃度の高い分散液を得ることが可能になった。排出口1034から得たサンプルのpHは12.46、排出口1035から得られたサンプルのpHは11.74であった。
(実施例6)
流路直径N;100μm、流路直径P;300μm、流路直径O;100μm、流路長R;5cmを有する図24記載の円筒流路を有する排出口で分離可能な反応装置において、テフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて導入口1041、および導入口1042に接続し、その先に実施例3にて調製したIC液と実施例1で調製したIIA液をそれぞれ入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。排出口1044、排出口1045にもコネクタを用いてテフロン(登録商標)チューブを接続した。ID液を10μL/min、IIA液を30μL/minの送液速度にて送り出すと流路(反応流路1043c)内で2,9−ジメチルキナクリドンの分散液が円筒層流(レイノルズ数;約2.83)として得られ、流体分流点1043eにて分散液を含む円筒層流は排出口1045へ、その他の液は排出口1044へ分離する事ができた。これにより、円筒管マイクロリアクターを用いても濃度の高い分散液を得ることが可能であった。
(比較例4)
請求項9に係る発明の比較例
実施例2のIB液から、ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)、及びN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩を除いたIE液および蒸留水をそれぞれ1.0mL/h及び6.0mL/hで送液し、実施例2で使用した反応装置において、テフロン(登録商標)製Y字コネクター、テフロン(登録商標)チューブなどの装置は変えないで実験を行った。得られた分散液を動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径2.80μm、算術標準偏差0.89μmであり粒径・算術標準偏差とも非常に大きくなった。本結果は、本発明において分散剤はナノサイズの微粒子を得るのに重要であることを示す。
(実施例7)
ピグメントイエロー93、1.0gをジメチルスルホキシド10.0g、5mol/L水酸化ナトリウム水溶液1.3mL、分散剤ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)0.5gに室温で溶解した(IF液)。一方、分散剤N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.5gと蒸留水60mLを混合した(IIB液)。これらを0.45μmのミクロフィルター(富士写真フイルム(株)製)を通すことでごみ等の不純物を除いた。次に、以下に説明する反応装置を用い下記の手順で反応を行った。等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)製Y字コネクターの二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクタを用いて接続し、その先にそれぞれIF液とIIB液を入れたシリンジを繋ぎ、ポンプにセットした。出口には長さ1m、等価直径500μmを有するテフロン(登録商標)チューブをコネクタを用いて接続した。IF液を1mL/h、IIB液を6mL/hの送液速度にて送り出し、流路内でピグメントイエロー93の分散液層が層流(レイノルズ数;約4.9)として得られた。これをチューブの先端より捕集した。これを本発明の試料3とした。このときのモード径は133nmで算術標準偏差は69nmであった。
(比較例5)
次にIIB液6mL中に撹拌子を用いて撹拌しながら、室温でIF液を添加するとピグメントイエロー93の分散液が得られた。これを比較試料4とした。試料3と比較試料4の顔料粒径を動的光散乱粒径測定装置を用いて比較したところ、比較試料4のモード径は189nmで算術標準偏差は98nmであり、試料3の分散液の粒径は、比較試料4のそれより小さく分布幅が小さいことがわかった。
(実施例8)
実施例4において、IB液中の2,9−ジメチルキナクリドンを等モル量のピグメントイエロー93に変えて、その他条件は変えずに顔料分散液を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の粒径が平均12nmの丸みを帯びた粒子形状を有していた。
(実施例9)
実施例4において、IB液中の2,9−ジメチルキナクリドンを等モル量のピグメントレッド254に変えて、その他の条件は変えずに顔料分散液を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の粒径が平均9nmのやはり丸みを帯びた粒子形状を有していた。
(実施例10)
ピグメントブルー15(東京化成工業製)1.2gを95%硫酸10mLに室温で溶解しIG液を調製した。ポリビニルピロリドン(和光純薬(株)製、K30)6.0g、N−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩6.0gと蒸留水240mLを混合しIIC液を調製した。これらを0.45μmのミクロフィルターを通すことでごみ等の不純物を除き、それぞれ透明な溶液を得た。実施例4で用いたIB液をIG液に、IIA液をIIC液に変えた以外は実施例4と同じ条件で分散液を調製した。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一次粒子の平均粒径が15nmの丸みを帯びた粒子形状を有していた。
(実施例11)
酸化反応による2,9−ジメチルキナクリドンの合成
2,9−ジメチル−6,13−ジヒドロキナクリドン、2.0gに5mol/L水酸化ナトリウム水溶液 10.0mL、ポリエチレングリコール400を18g加えて室温下撹拌した。得られた深緑色の溶液を溶液Aとした。溶液Aをシリンジポンプを用いて、3.0mL/hで送液した。また、溶液Bとして30質量%過酸化水素水をシリンジポンプを用いて、0.5mL/hの速度で送液した。これらAおよびB液はIMM社製マイクロミキサー(流路幅45μm、深さ200μm)に接続され、内部のマイクロ空間にて混合され、出口より鮮やかなマゼンタ色の分散液の生成を確認した。分析したところ、純度96%以上の2,9−ジメチルキナクリドンが生成していた。
(比較例6)
2,9−ジメチル−6,13−ジヒドロキナクリドン 2.0gに5N水酸化ナトリウム水溶液 10.0mL、ポリエチレングリコール400を18g加えて室温下撹拌した。得られた深緑色の溶液に、30質量%過酸化水素を2.0mLを滴下し、60℃にて1時間撹拌し、室温まで冷却した。分析したところ、転化率は80%であり、顔料純度94%以上の2,9−ジメチルキナクリドンが生成していた。
(実施例12)
脱水縮合による2,9−ジメチルキナクリドンの合成2,5−ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸 2.0g、p−トルエンスルホン酸0.1g、エチレングリコール15mL、ジメチルホルムアミド20mLを混合した溶液を調製した。フュースドシリカガラスキャピラリー(等価直径0.20mm、長さ4.0m)をリアクターとして用意し、その内、2.5mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度1.1mL/h(滞留時間5分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より鮮やかなマゼンタ色を呈した顔料が得られた。
(比較例7)
2,5−ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸 2.0g、p−トルエンスルホン酸0.1g、エチレングリコール15mL、ジメチルホルムアミド20mLを混合した溶液を調製した。50mLフラスコにてオイルバスを150℃に加熱し、30分間撹拌した。生成した顔料は、分析したところ原料が僅かに残存していた。
(実施例13)
アミド化反応によるC.I.ピグメントイエロー93の製造
Figure 2006281774
フェニルエステル誘導体(A)0.3gと3−クロロ−2−メチルアニリン0.1gをジメチルホルムアミド20mLに溶解した。マイクロリアクターとしてフューズド・シリカ・ガラス・キャピラリー(等価直径0.53mm、長さ1.5m)を用意し、その内、1.0mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度2.2mL/h(滞留時間6分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より出てきた顔料は鮮やかなイエローを呈しており、分析したところ、純度は95%以上であった。
(比較例8)
フェニルエステル誘導体(A)0.3gと3−クロロ−2−メチルアニリン0.1gをジメチルホルムアミド20mLに溶解した。50mLフラスコにてオイルバスを150℃に加熱し、1時間撹拌した。生成した顔料は、分析したところ、転化率は65%であり、顔料純度は93%以下で、ややくすんだイエロー色であった。
(実施例14)
アミド化反応によるC.I.ピグメントレッド214の製造
Figure 2006281774
フェニルエステル誘導体(B)1.0gと2,5−ジクロロ−1,4−フェニレンジアミン0.2gをジメチルスルホキシド50mLに溶解した。マイクロリアクターとしてヒューズド・シリカ・ガラス・キャピラリー(等価直径0.53mm、長さ1.5m)を用意し、その内、1.0mがオイルバス中を通過するよう固定した。オイルバスを150℃に加熱し、この溶液をシリンジポンプにて、速度3.3mL/h(滞留時間4分)にてリアクター内に送液した。キャピラリー出口より出てきた顔料は鮮やかな赤色を呈しており、分析したところ、純度は96%以上であった。
フタロシアニン顔料(ピグメントブルー16)の微粒子合成
(実施例15)
フタロシアニンジナトリウム塩(東京化成品)2.5g(0.45ml)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して50mlに調製した深緑色溶液を0.5μmのテフロン(PTFE)製ミクロフィルター(アドバンテック社製)で濾過し、IG液とした。次にポリビニルピロリドン(PVP。和光純薬(株)製K−90。平均分子量360,000)0.5gをDMSOに溶解して50mlに調製した無色透明溶液を0.5μmのテフロン(PTFE)製ミクロフィルター(アドバンテック社製)で濾過し、IH液とした。更にN−オレオイル−N−メチルタウリンナトリウム塩0.5g(1.17mmol)を蒸留水に溶解して50mlに調製した無色透明溶液を水系溶媒用の0.45μmのセルロースエステル製ミクロフィルター(ザルトリウス社製)で濾過し、IID液とした。
流路直径D;100μm、流路直径E;400μm、流路長G;20cmを有する図22(a)記載の円筒流路を有する反応装置において、流路長Gの部分を5℃に冷却できるように冷媒を循環できるジャケットを装着した。そしてテフロンチューブ2本をコネクタにより導入口1021、および導入口1022に接続した。導入口1021に上記IG液とIH液を1:2(体積比)に混合した液を入れたシリンジを繋ぎ、シリンジポンプにセットした。導入口1022にIID液を入れたシリンジを繋ぎ、シリンジポンプにセットした。導入口1021から1.0mL/h、導入口1022からを10.0mL/hの送液速度にて送り出すと5℃に冷却した流路内は層流(レイノルズ数;約9.8)となり、フタロシアニンの分散液が得られたのでこれを排出口1024より捕集した。これを動的光散乱粒径測定装置を用いて測定したところ、モード径17.4nm、算術標準偏差8.6nmであり、粒径が小さく分布幅が非常に小さい分散液を得ることができた。
本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の基本構成図 図1に示したインクジェット記録装置の印字周辺の要部平面図 印字ヘッドの構造例を示す平面透視図 図3に示した印字ヘッドの立体構造を示す断面図 図3(a) に示した印字ヘッドのノズル配列を示す拡大図 本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク供給部の構成を示した概要図 本実施形態に係るインクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図 本実施形態に係るインクジェット記録装置によって形成されるドットを説明する図 図8に示したドットの他の態様を説明する図 本実施形態に係るインクジェット記録装置の打滴制御を説明する図 図10に示した打滴制御における飛翔方向偏向制御のパターンを示す図 図10に示した打滴制御の他の態様を示す図 図12に示した打滴制御における飛翔方向偏向制御のパターンを示す図 本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の打滴制御におけるドットピッチとドット径の関係を説明する図 本実施形態に係るインクジェット記録装置の主走査方向の打滴制御を説明する図 図15に示した主走査方向の打滴制御の他の態様を説明する図 本実施形態に係るインクジェット記録装置の打滴制御と印字速度との関係を示す図 図17に示した印字速度と異なる印字速度と打滴制御との関係を示す図 本実施形態に係るインクジェット記録装置の打滴制御を適用して形成されたドットを示す図 シャトル式ヘッドのシングルパス印字を説明する図 片側にY字型流路を有する反応装置の説明図 図21(a)のI−I線の断面図 片側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置の説明図 図22(a)のIIa−IIa線の断面図 図22(a)のIIb−IIb線の断面図 両側にY字型流路を有する反応装置の説明図 図23(a)のIII−III線の断面図 両側に挿通した流路を設けた円筒管型流路を有する反応装置の説明図
符号の説明
10…インクジェット記録装置、16…記録紙、22…吸着ベルト搬送部、50…印字ヘッド、72…システムコントローラ、80…プリント制御部、100,102,104,106,110,112,114,116,118,120,200,202,204,300,302,304,400,402…ドット、1010,1020,1030,1040…反応装置本体、1011,1012,1021,1022,1031,1032,1041,1042…導入口、1013,1033…流路、1013a,1013b,1023a,1023b,1033a,1033b,1043a,1043b…導入流路、1013c,1023c,1033c,1043c…反応流路、1013d,1023d,1033d,1043d…流体合流点、1033e,1043e…流体分流点、1033f,1033g,1043f,1043g…排出流路、1014,1024,1034,1035,1044,1045…排出口

Claims (13)

  1. 被記録媒体に、アルカリ性または酸性の水性媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドと、
    前記吐出ヘッド或いは前記被吐出媒体のうち少なくとも何れか一方を前記被吐出媒体の幅方向と略直交する方向に搬送して前記吐出ヘッドと前記被吐出媒体とを相対的に一方向へ移動させる搬送手段と、
    前記吐出ヘッドから打滴される液滴の飛翔方向を少なくとも前記被吐出媒体の相対搬送方向に略平行な成分を含んだ方向に偏向させる飛翔方向偏向手段と、
    前記被吐出媒体の相対搬送中に打滴を行い、該相対搬送方向に隣り合うドット同士の少なくとも一部が重なるドット列を形成する際に、前記飛翔方向偏向手段を制御し、
    前記被吐出媒体の相対搬送方向のドット列のドット間ピッチPts、2種類以上の任意の整数から成るシフト量I、前記被吐出媒体の相対搬送方向の液滴着弾位置変更量yとの関係が、次式
    y=Pts×I
    を満たす液滴着弾位置変更量yだけ液滴の着弾位置を変更させ、隣接ドットの連続着弾を回避しながら液滴を着弾させる偏向制御手段と、
    を備えたことを特徴とする液吐出装置。
  2. 前記シフト量Iは、連続して打滴された液滴の着弾位置の中心間距離Δyが、次式
    Δy≧2×Pts
    を満足する少なくとも2種類の整数を含むことを特徴とする請求項1記載の液吐出装置。
  3. 前記シフト量Iは3種類以上の整数を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の液吐出装置。
  4. 前記シフト量Iは、次式
    I=±k
    を満たす2以上の1種類の自然数kを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の液吐出装置。
  5. 前記飛翔方向制御手段は、前記吐出ヘッドの打滴周期Tf及び被吐出媒体への液滴の浸透時間T0が、次式
    Tf×(2k−1)≧T0
    を満たす前記自然数kを設定するシフト量設定手段を含むことを特徴とする請求項4記載の液吐出装置。
  6. 前記被吐出媒体の相対搬送方向に沿って形成されるドット列のうち、前記被吐出媒体の相対搬送方向に隣り合うドットを共有する2つのドットの直径D1 及び直径D2 、前記被吐出媒体相対搬送方向のドット間ピッチPtsが、次式
    D1 +D2 ≦2×Pts
    を満たすようにドットの直径D1 、ドットの直径D2 或いは前記被吐出媒体相対搬送方向のドット間ピッチPtsのうち少なくとも1つを設定する打滴制御手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の液吐出装置。
  7. 前記吐出ヘッドは、前記被吐出媒体の全幅にわたって複数の吐出孔が配列されたフルライン型の吐出ヘッドを含むことを特徴とする請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の液吐出装置。
  8. 前記吐出ヘッドは、前記吐出孔が2次元配置されたマトリクスヘッドを含み、
    前記被吐出媒体の相対搬送方向に略直交する方向に隣り合うドットを形成する液滴を吐出させる吐出孔を前記被吐出媒体の相対搬送方向に所定の距離だけシフトさせて配置することを特徴とする請求項7に記載の液吐出装置。
  9. 前記有機顔料微粒子は少なくとも一つの分散剤を含有する有機顔料の溶液で生成されたことを特徴とする請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の液吐出装置。
  10. 前記有機顔料微粒子はモード径が1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至9のうち何れか1項に記載の液吐出装置。
  11. 前記有機顔料微粒子は前記有機顔料の溶液がアルカリ性であり、一般式(I)で表されるキナクリドン系顔料であることを特徴とする請求項1乃至10のうち何れか1項に記載の液吐出装置。
    Figure 2006281774

    (式中、XおよびYは、独立してフッ素原子、塩素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基及びCOORa基(ここでRaは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である)を表し、mおよびnは、独立して0、1または2を表す。)
  12. 前記記録ヘッドより打滴される液滴はアルカリ性であり、前記記録ヘッドのうちの少なくとも前記液滴の液が接触する部分の材質が耐アルカリ性の材質で形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の液吐出装置。
  13. 被記録媒体に、アルカリ性または酸性の水性媒体に溶解した有機顔料の溶液を、流路中を層流として流通させ、その層流過程で溶液の水素イオン指数(pH)を変化させる工程によって生成された有機顔料微粒子を含む液滴を打滴する記録ヘッドと、
    前記吐出ヘッド或いは前記被吐出媒体のうち少なくとも何れか一方を前記被吐出媒体の幅方向と略直交する方向に搬送して前記吐出ヘッドと前記被吐出媒体とを相対的に一方向へ移動させる搬送手段と、前記吐出ヘッドから打滴される液滴の飛翔方向を偏向させる飛翔方向偏向手段と、を備えた液吐出装置の打滴制御方法であって、
    前記被吐出媒体の相対搬送方向にドット列を形成する際に、前記液滴飛翔方向偏向手段を用いて前記吐出ヘッドが有する吐出孔から打滴される液滴の飛翔方向を少なくとも前記被吐出媒体の相対搬送方向に略平行な成分を含んだ方向に偏向させて、前記被吐出媒体の相対搬送方向のドット列のドット間ピッチPts、2種類以上の任意の整数から成るシフト量I、前記被吐出媒体の相対搬送方向の液滴着弾位置変更量yとの関係が、次式
    y=Pts×I
    を満たす液滴着弾位置変更量yだけ液滴の着弾位置を変更させ、隣接ドットの連続着弾を回避しながら液滴を着弾させることを特徴とする打滴制御方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2014019094A (ja) * 2012-07-20 2014-02-03 Riso Kagaku Corp インクジェットプリンタ用ノズルプレートおよびその製造方法

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