以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド及び液体吐出装置について説明する。
<第1の実施形態>
(液体吐出ヘッドの構成)
図1は、本実施形態で使用可能な液体吐出ヘッド1の斜視図である。本実施形態の液体吐出ヘッド1は、液体吐出モジュール100がx方向に複数配列(複数個が配列)されて構成される。個々の液体吐出モジュール100は、複数の吐出素子が配列された素子基板10と、個々の吐出素子に電力と吐出信号とを供給するためのフレキシブル配線基板40と、を有している。フレキシブル配線基板40のそれぞれは、電力供給端子と吐出信号入力端子とが配された電気配線基板90に共通して接続されている。液体吐出モジュール100は、液体吐出ヘッド1に対し簡易的に着脱することができる。よって、液体吐出ヘッド1には、これを分解することなく、任意の液体吐出モジュール100を外部から容易に取りつけたり取り外したりすることができる。
このように、液体吐出モジュール100を長手方向に複数配列させて構成される液体吐出ヘッド1であれば、何れかの吐出素子に吐出不良が生じた場合であっても、吐出不良が生じた液体吐出モジュールのみを交換すればよい。よって、液体吐出ヘッド1の製造工程における歩留まりを向上させるとともに、ヘッド交換時のコストを抑えることができる。
(液体吐出装置の構成)
図2は、本実施形態に使用可能な液体吐出装置2の制御構成を示すブロック図である。CPU500は、ROM501に記憶されているプログラムに従いRAM502をワークエリアとして使用しながら、液体吐出装置2の全体を制御する。CPU500は、例えば、外部に接続されたホスト装置600より受信した吐出データに、ROM501に記憶されているプログラムおよびパラメータに従って所定のデータ処理を施し、液体吐出ヘッド1が吐出可能な吐出信号を生成する。そして、この吐出信号に従って液体吐出ヘッド1を駆動しながら、搬送モータ503を駆動して液体の付与対象媒体を所定の方向に搬送することにより、液体吐出ヘッド1から吐出された液体を付与対象媒体に付着させる。
液体循環ユニット504は、液体吐出ヘッド1に対し液体を循環させながら供給し、液体吐出ヘッド1における液体の流量調整を行うためのユニットである。液体循環ユニット504は、液体を貯留するサブタンク、サブタンクと液体吐出ヘッド1との間で液体を循環させる流路や、複数のポンプ、弁機構などを備えている。そして、CPU500の指示の下、液体吐出ヘッド1において液体が所定の流量で流れるように、上記複数のポンプや弁機構を制御する。
(素子基板の構成)
図3は、個々の液体吐出モジュール100に備えられた素子基板10の断面斜視図である。素子基板10は、シリコン(Si)の基板15上にオリフィスプレート(吐出口形成部材)14が積層されて構成されている。オリフィスプレート14には、液体を吐出する吐出口11がx方向に沿って複数個並んでいる。図3では、x方向に配列された吐出口11は、同種類の液体(例えば共通のサブタンクや供給口から供給される液体)を吐出する。ここではオリフィスプレート14が液流路13も形成した例を示しているが、液流路13は別の部材(流路壁部材)で形成し、その上に吐出口11が形成されたオリフィスプレート14が設けられた構成であってもよい。
基板15上の、個々の吐出口11に対応する位置には、圧力発生素子12(図3では不図示、図4に図示)が配されている。吐出口11と圧力発生素子12とは、対向する位置に設けられている。吐出信号に応じて電圧が印加されると、圧力発生素子12は、液体を流動方向(y方向)と交差するz方向へ加圧し、圧力発生素子12と対向する吐出口11から、液体が液滴として吐出される。圧力発生素子12への電力や駆動信号は、基板15上に配された端子17を介して、フレキシブル配線基板40より供給される。
オリフィスプレート14には、y方向に延在し、吐出口11の夫々に個別に接続する複数の液流路13が形成されている。また、x方向に配列する複数の液流路13は、第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28及び第2の共通回収流路29と、共通して接続されている。第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28及び第2の共通回収流路29における液体の流れは、図2で説明した液体循環ユニット504によって制御されている。具体的には、第1の共通供給流路23から液流路13に流入した第1の液体が第1の共通回収流路24に向かい、第2の共通供給流路28から液流路13に流入した第2の液体が第2の共通回収流路29に向かうように、ポンプが駆動制御されている。
図3では、このようなx方向に配列する吐出口11および液流路13と、これらに共通してインクを供給したり回収したりする第1、第2の共通供給流路23、28及び第1、第2の共通回収流路24、29の組が、y方向に2列配置された例を示している。
(液流路及び圧力室の構成)
図4(a)~(d)は、素子基板10に形成された1つの液流路13及び圧力室18の構成を詳しく説明するための図である。図4(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図4(b)は図4(a)のIVb-IVb線に沿う断面図である。また、図4(c)は図3で示した素子基板における1つの液流路13近傍の拡大図である。更に、図4(d)は、図4(b)における吐出口近傍の拡大図である。
液流路13の底部に相当する基板15には、第2の流入口21、第1の流入口20、第1の流出口25、第2の流出口26が、y方向においてこの順に形成されている。そして、吐出口11と圧力発生素子12とを含む圧力室18は、液流路13中で第1の流入口20と第1の流出口25のほぼ中央に配されている。第2の流入口21は第2の共通供給流路28に、第1の流入口20は第1の共通供給流路23に、第1の流出口25は第1の共通回収流路24に、第2の流出口26は第2の共通回収流路29に、それぞれ接続している(図3参照)。
以上の構成のもと、第1の共通供給流路23より第1の流入口20を介して液流路13に供給された第1の液体31は、y方向(矢印で示す方向)に流動した後、圧力室18を通り、第1の流出口25を介して第1の共通回収流路24に回収される。また、第2の共通供給流路28より第2の流入口21を介して液流路13に供給された第2の液体32は、y方向(矢印で示す方向)に流動した後、圧力室18を通り、第2の流出口26を介して第2の共通回収流路29に回収される。即ち、液流路13のうち、第1の流入口20と第1の流出口25との間では、第1の液体と第2の液体との両方が共にy方向に流動する
。
圧力室18の中では、圧力発生素子12は第1の液体31と接触し、吐出口11の近傍では大気に曝された第2の液体32がメニスカスを形成している。圧力室18の中では、圧力発生素子12と、第1の液体31と、第2の液体32と、吐出口11とが、この順で並ぶように、第1の液体31と第2の液体32とが流れている。即ち、圧力発生素子12がある側が下方、吐出口11がある側が上方とすると、第1の液体31上方に第2の液体32が流れている。そして、第1の液体31は、下方の圧力発生素子12によって加圧され、少なくとも第2の液体32が下方から上方に向けて吐出される。尚、この上下の方向が、圧力室18及び液流路13の高さ方向である。
本実施形態では、第1の液体31と第2の液体32とが、図4(d)に示すように、圧力室の中で互いに接触しながら液流路に沿って流れるように、第1の液体31と第2の液体の物性に応じて、それらの流量を調整する。このような2つの液体の流れとしては、図4(d)に示すような2つの液体が同じ方向に流動する平行流だけでなく、第1の液体の流動方向に対して第2の液体が反対向きに流動する対向流、第1の液体の流れと第2の液体の流れが交差する液体の流れがある。以下、この中で平行流を例にとって説明する。
平行流の場合、第1の液体31と第2の液体32の界面が乱れないこと、すなわち第1の液体31と第2の液体32が流動する圧力室18内の流れが層流状態であること、が好ましい。特に、所定の吐出量を維持するなど、吐出性能を制御しようとする場合には、界面が安定している状態で圧力発生素子を駆動することが好ましい。但し、本発明はこれに限定されるものではない。圧力室18内の流れが乱流状態となって2つの液体の界面が多少乱れたとしても、少なくとも圧力発生素子12の側を主として第1の液体が流動し、吐出口11の側を主として第2の液体が流動している状態であれば、圧力発生素子12を駆動してもよい。以下では、圧力室内の流れが平行流であって、かつ、層流状態となっている例を中心に説明する。
(層流となっている平行流の形成条件)
まず、管内において液体が層流となる条件について説明する。一般に、流れを評価する指標として、粘性力と界面張力の比を表すレイノルズ数Reが知られている。
ここで、液体の密度をρ、流速をu、代表長さをd、粘度をηとすると、レイノルズ数Reは(式1)で表すことができる。
Re=ρud/η (式1)
ここで、レイノルズ数Reが小さいほど、層流が形成されやすいことが知られている。具体的には、例えばレイノルズ数Reが2200程度より小さいと円管内の流れは層流となり、レイノルズ数Reが2200程度より大きいと円管内の流れは乱流となることが知られている。
流れが層流になるということは、流線が流れの進行方向に対して互いに平行となり交わらないことになる。従って、接触する2つの液体がそれぞれ層流であれば、2つの液体の界面が安定している平行流を形成することができる。ここで、一般的なインクジェット記録ヘッドについて考えると、液流路(圧力室)における吐出口近傍の流路高さ(圧力室の高さ)H[μm]は10~100μm程度である。よって、インクジェット記録ヘッドの液流路に水(密度ρ=1.0×103kg/m3、粘度η=1.0cP)を流速100mm/sで流した場合、レイノルズ数はRe=ρud/η≒0.1~1.0<<2200となり、層流が形成されるとみなすことができる。
尚、図4に示すように、液流路13や圧力室18の断面が矩形であったとしても、液流路13や圧力室18は円管と同等に、即ち液流路13や圧力室18の有効形を円管の直径としてみなすことができる。
(層流状態の平行流の理論的な形成条件)
次に、図4(d)を参照しながら、液流路13及び圧力室18の中で2種類の液体の界面が安定している平行流を形成する条件について説明する。まず、基板15からオリフィスプレート14の吐出口面までの距離をH[μm]とする。そして、吐出口面から第1の液体31と第2の液体32との液液界面までの距離(第2の液体の相厚)をh2[μm]、液液界面から基板15までの距離(第1の液体の相厚)をh1[μm]とする。即ち、H=h1+h2となる。
ここで、液流路13及び圧力室18内の境界条件として、液流路13及び圧力室18の壁面における液体の速度はゼロとする。また、第1の液体31と第2の液体32との液液界面の速度とせん弾応力は、連続性を有するものと仮定する。この仮定において、第1の液体31と第2の液体32とが2層の平行な定常流を形成しているとすると、平行流区間では(式2)に示す4次方程式が成立する。
尚、(式2)において、η1は第1の液体31の粘度、η2は第2の液体32の粘度、Q1は第1の液体31の流量、Q2は第2の液体32の流量をそれぞれ示す。すなわち、上記の4次方程式(式2)の成立範囲において、第1の液体と第2の液体は、それぞれの流量と粘度に応じた位置関係となるように流動し、界面が安定した平行流が形成される。本実施形態では、この第1の液体と第2の液体の平行流を、液流路13内、少なくとも圧力室18内で形成することが好ましい。このような平行流が形成された場合、第1の液体と第2の液体は、その液液界面において分子拡散による混合が起こるのみであり、実質的に交じり合うことなくy方向に平行に流れる。なお、本実施形態は、圧力室18内の一部の領域における液体の流れが層流状態となっていなくてもよい。少なくとも圧力発生素子上の領域を流れる液体の流れが層流状態となっていることが好ましい。
例えば、水と油のような不混和性溶媒を第1の液体と第2の液体として用いる場合であっても、(式2)が満足されれば、互いに不混和であることとは関係なく安定した平行流が形成される。また、水と油の場合であっても、前述したように、圧力室内の流れが多少乱流状態であって界面が乱れたとしても、少なくとも圧力発生素子上を主に第1の液体が流動し、吐出口内を主に第2の液体が流動していることが好ましい。
図5(a)は、(式2)に基づいて、粘度比ηr=η2/η1と第1の液体の相厚比hr=h1/(h1+h2)との関係を、流量比Qr=Q2/Q1を複数段階に異ならせた場合について示した図である。尚、第1の液体は水に限定されないが、「第1の液体の相厚比」を以下「水相厚比」と称する。横軸は粘度比ηr=η2/η1、縦軸は水相厚比hr=h1/(h1+h2)をそれぞれ示している。流量比Qrが大きくなるほど、水相厚比hrは小さくなっている。また、いずれの流量比Qrについても、粘度比ηrが大きくなるほど水相厚比hrは小さくなっている。即ち、液流路13(圧力室)における水相厚比hr(第1の液体と第2の液体との界面位置)は、第1の液体と第2の液体との粘度比ηr及び流量比Qrを制御することによって所定の値に調整することができる。その上で、図5(a)によれば、粘度比ηrと流量比Qrとを比較した場合、流量比Qrの方が粘度比ηrよりも水相厚比hrに大きく影響することがわかる。
尚、水相厚比hr=h1/(h1+h2)については、0<hr<1(条件1)が満たされていれば、液流路(圧力室)の中において第1の液体と第2の液体との平行流は形成されていることになる。但し、後述するように、本実施形態では第1の液体を主に発泡媒体として機能させ、第2の液体を主に吐出媒体として機能させるようにし、吐出液滴に含まれる第1の液体と第2の液体とを所望の割合に安定させるようにしている。このような状況を考慮すると、水相厚比hrは、0.8以下(条件2)であることが好ましく、0.5以下(条件3)であることが更に好ましい。
ここで、図5(a)に示す状態A、状態B、状態Cは、それぞれ以下の状態を示す。
状態A)粘度比ηr=1及び流量比Qr=1の場合で水相厚比hr=0.50
状態B)粘度比ηr=10及び流量比Qr=1の場合で水相厚比hr=0.39
状態C)粘度比ηr=10及び流量比Qr=10の場合で水相厚比hr=0.12
図5(b)は、液流路13(圧力室)の高さ方向(z方向)における流速分布を上記状態A、B、Cのそれぞれについて示した図である。横軸は状態Aの流速最大値を1(基準)として規格化した規格化値Uxを示している。縦軸は、液流路13(圧力室)の高さHを1(基準)とした場合の底面からの高さを示している。夫々の状態を示す曲線においては、第1の液体と第2の液体との界面位置をマーカーで示している。状態Aの界面位置が状態Bや状態Cの界面位置よりも高いなど、界面位置が状態によって変化することがわかる。これは、異なる粘度を有する2種類の液体がそれぞれ層流となって(全体としても層流で)管内を平行に流れる場合、これら2つの液体の界面は、これら液体の粘度差に起因する圧力差と界面張力とに起因するラプラス圧が釣り合う位置に形成されるためである。
(吐出時の液液界面の流れ)
第1の液体と第2の液体とがそれぞれ流れることにより、それらの粘度比ηrと流量比Qrとに応じた位置(水相厚比hrに対応)に液面(液液界面)が形成される。その界面の位置を維持したまま、吐出口11から液体を吐出することができれば、安定した吐出動作を実現することができる。このような安定した吐出動作を実現するための構成として、以下の2つが挙げられる。
構成1:第1の液体と第2の液体とが流れている状態で液体を吐出する構成
構成2:第1の液体と第2の液体とが静止している状態で液体を吐出する構成
構成1により、所定の界面位置を維持しつつ液体を安定的に吐出することが可能である。その理由は、一般的な液滴の吐出速度(数m/sから十数m/s)は、第1の液体と第2の液体との流速(数mm/s~数m/s)よりも大きく、吐出動作中に第1の液体と第2の液体とを流し続けても液体の吐出に与える影響は小さいからである。
また、構成2によっても、所定の界面位置を維持しつつ液体を安定的に吐出することが可能である。その理由は、界面における液体の拡散の影響によって、第1および第2の液体は直ちに混合されるわけではなく、それらの液体の非混合状態が極短時間では維持されるからである。水中の低分子の典型的な拡散係数D=10-9m2/sにおいて、一般的なインクジェットの駆動周波数の数十μsの場合、0.2~0.3μmしか拡散しない。したがって、液体の吐出の直前に、それらの液体の流れを止めて静止させた状態において界面が維持されているため、その界面の位置を維持したまま液体を吐出することが可能である。
ただし、界面における液体の拡散による第1および第2の液体の混合の影響を小さく抑えることできること、および液体の流動と停止とのための高度な制御が不必要であることから、構成1の形態の方が好ましい。
(液体の吐出モード)
界面の位置(水相厚比hrに対応)を変化させることによって、吐出口から吐出される液滴(吐出液滴)に含まれる第1の液体の割合を変化させることができる。液体の吐出モードは、吐出液滴の種類に応じて2つに大きく分けることができる。
モード1:第2の液体のみを吐出するモード
モード2:第2の液体に第1の液体を含めて吐出するモード
モード1は、例えば、圧力発生素子12として電気熱変換体(ヒータ)を用いるサーマル式の液体吐出ヘッド、つまり液体の性質に大きく依存する発泡現象を利用する液体吐出ヘッドを用いる場合に有効となる。このような液体吐出ヘッドにおいては、ヒータの表面に生じる液体のコゲによって液体の発泡が不安定化するおそれがあり、また非水系インクなどの液体を吐出させることが困難である。しかし、モード1を利用して、第1の液体として、ヒータの表面にコゲが生じ難く発泡に適した発泡液を用い、第2の液体として種々の機能をもつ機能液を用いることにより、ヒータの表面のコゲを抑制しつつ、非水系インクなどの液体を吐出させることができる。
モード2は、サーマル式の液体吐出ヘッドにおいてのみならず、圧力発生素子12として圧電素子を用いる液体吐出ヘッドにおいて、高濃度固形分のインクなどの液体を吐出するために有効となる。より具体的には、色材である顔料の含有量が多い高濃度顔料インクを記録媒体上に吐出する場合に有効となる。一般に、顔料インクにおける顔料を高濃度化することにより、その高濃度顔料インクによって普通紙などの記録媒体に記録した画像の発色を向上させることができる。さらに、高濃度顔料インクに樹脂EM(エマルジョン)を添加することにより、樹脂EMの膜化により記録画像の擦過性などを向上させることができる。しかし、顔料および樹脂EMなどの固形分は、それらの増加により粒子間距離が近接化して凝集しやすくなり、分散しにくくなる。したがって、顔料および樹脂EMのそれぞれを高濃度でインク中に含有させることは難しくなる。特に、顔料は樹脂EMよりも分散させにくい。そのため、従来においては、顔料または樹脂EMのいずれか一方の量を少なくすることによりそれらを分散させてきた。具体的には、インク中に含まれる顔料および樹脂EMをインクに対して例えばそれぞれを4wt%および15wt%または8wt%および4wt%とすることにより、それらを分散させてきた。
しかしながら、上述したモード2を利用することにより、第1の液体として高濃度樹脂EMインクを用い、第2の液体として高濃度顔料インクを用いることができる。このため、顔料インクと樹脂EMインクをそれぞれ高濃度で吐出させることができる。その結果、高濃度顔料インクと高濃度樹脂EMインクを記録媒体に付与することにより1つのインクでは実現しにくい画像、つまり発色がよく擦過性なども優れた高品位の画像を記録することが可能となる。具体的には、モード2を用いることにより、例えば、顔料インクの濃度として8~12wt%、樹脂EMの濃度として15~20wt%、というような高濃度の顔料インクと樹脂EMを、それぞれ記録媒体に付与することができる。
(流入側の合流部の構成)
図6(a)~(d)は、素子基板10に形成された1つの液流路13及び圧力室18の図であり、圧力室18において第1の液体および第2の液体がx方向に並ぶような液液界面が形成されている比較例を示す図である。図6(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図6(b)~(d)は、図6(a)のVIb-VIb、VIc-VIcおよびVId-VIdのそれぞれの断面線に沿う断面図である。
液体が圧力室18の中を流れる方向(図6(a)の矢印の方向)及び圧力発生素子12から吐出口11に向かう方向(高さ方向)に直交する方向(以下、幅方向と称する)における、第1の流入口20の長さをLとする。また、液流路13の幅方向の長さをWとする。図6(a)に示すとおり第1の流入口20の長さLは液流路13の長さWより短く、L<Wの関係となっている(図6(a)参照)。この構成の場合、図6(c)のように、第1の液体31は第1の流入口20から液流路13の幅方向の中央の領域に流入し、第2の液体32は液流路13の液体が流れる方向に対して左右にある液流路13を形成する壁面141に沿って流れる。
図7(a)は図6(c)と同じ断面図に第1の液体31の速度分布をベクトルで示した図である。第1の流入口20において、第1の液体31の速度分布v1は、液体の速さが第1の流入口20の壁面でゼロであり第1の流入口20の中央部では最大となる分布をもつ。第1の流入口20を出たz方向における第1の液体31の速度分布はv1からvt1に変わる。
図7(b)は、図6(a)における第1の流入口20付近の拡大図であり、液流路13内の第1の液体31の速度分布および第2の液体32の速度分布をベクトルで示した図である。第1の流入口20を出た第1の液体31の速度分布vt1は、液流路13において速度分布ut1へ変化し、速度分布がut1へ変化した第1の液体31は液流路13を流れる。このように第1の流入口20から液流路13に接続する屈曲部では第1の液体31の速度分布が変化する。
一方、液流路13における第1の流入口20よりも液体が流れる方向の上流側において、第2の液体32の速度分布はu2の状態にある。速度分布u2の第2の液体32が、速度分布u1の第1の液体31と合流する。液流路13内の第1の液体31は、液流路13の壁面141と第1の流入口20との間は流れにくいため、第2の液体32が壁面141と第1の流入口20との間を流れる。このため、第2の液体32は、第1の液体31を挟むように流れることから、液流路13においては、水平方向(幅方向)に第1の液体31と第2の液体32とが並ぶような液液界面が形成されやすくなる。
第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の水平方向(幅方向)に並ぶように液液界面が形成された状態を維持して、第2の液体32および第1の液体31は圧力室18まで流れる。即ち、第1の液体31と第2の液体32とは液流路13の高さ方向に積層された平行流とならない。
図6(c)のような液液界面が形成された場合、図6(d)に示すように圧力室18において圧力発生素子12の上では、圧力発生素子12から吐出口11まで概ね第1の液体31が占めるように流れる。このため、吐出される液体は概ね第1の液体31となり、記録形成に必要な第2の液体32を主として吐出させることが難しくなる。
図8は、本実施形態における素子基板10に形成された1つの液流路および圧力室18を説明するための図である。図8(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図8(b)は、図8(a)のVIIIb-VIIIb断面線に沿う断面図である。図8(c)は本実施形態の素子基板における1つの液流路13近傍の拡大図である。更に図8(d)および(e)は、図8(a)のVIIId-VIIIdおよびVIIIe-VIIIeのそれぞれの断面線に沿う断面図である。図6と同様に第1の流入口20の幅方向の寸法Lは液流路13の幅方向の長さWより短い構成(L<W)となっている。
第1の流入口20よりも、液流路13に液体が流れる方向(y方向)の上流側の基板15の表面(液体と接する面)には合流壁41が設けられている。合流壁41は、基板15の表面から突出するように設けられている。合流壁41は、第1の流入口20よりも液体が流れる方向の下流側の基板15の表面よりも、高い位置にある部分を有する壁である。「高い位置にある部分を有する」とは、合流壁41全てが、第1の流入口20よりも液体が流れる方向の下流側の基板15の表面より高い必要はないことを意味する。即ち、合流壁41は、第1の流入口20から液流路13に接続する屈曲部における第1の液体31からみて、y方向における上流側(図8(b)では左側)に位置する壁である。合流壁41があることにより、第1の液体31と第2の液体32との合流部において、第2の液体32は、第1の液体31より高い(+Z方向)位置で流動するように導かれることになる。
図9(a)は図8(d)と同じ断面図に第1の液体31の速度分布をベクトルで示した図である。第1の流入口20における第1の液体31の速度分布v1は、液体の速さが第1の流入口20の壁面でゼロ、中央部で最大となる速度分布である。速度分布v1の流れをもつ第1の液体31が第1の流入口20から出ると、第1の液体31の速度分布はvt1に変化する。合流壁41の影響により第2の液体32は第1の液体31より高い位置で流動するように導かれる。このため、本実施形態では合流壁41よりも低い位置において、第1の液体31の液流路13における速度分布vt1は、液流路13の壁面141方向へ広がる流れをもつ分布となる。
図9(b)は、図8(a)における第1の流入口20付近の拡大図であり、本実施形態における液流路13内の第1の液体31の速度分布および第2の液体32の速度分布をベクトルで示した図である。本実施形態の第1の流入口20から液流路13に接続する屈曲部では、合流壁41が液流路13内に存在していることによって、液流路13全体に広がろうとする速度分布ut3の流れをもつ第1の液体31が流れる。また、合流壁41が液流路13内に設けられていることにより、上流から流れる第2の液体32は合流壁41上を流れる。このため、速度分布u2の流れをもつ第2の液体32は、合流壁41から-z方向における液流路13の壁面141と第1の流入口20との間には流れ難くなる。したがって、上述した屈曲部において液流路13全体に広がろうとする第1の液体31は、第1の流入口20の下流側の端部において液流路13全体に広がって流動する速度分布u3をもつ流れとなる。
このため、本実施形態では、第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の高さ方向に並ぶような液液界面を安定的に形成することができる。よって本実施形態の圧力室18では、第1の液体31が圧力発生素子12側に流れ第2の液体32が吐出口11側に流れる。その結果、第1の液体31に発泡媒体を使用し、第2の液体32に記録形成に必要な機能を持つ記録媒体を用いるような場合、記録形成に必要な第2の液体32を主として吐出口から吐出させることができる。
特に、合流壁41の高さ方向の長さ(図8(b)における距離Z)は長いほど、第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の高さ方向に並ぶような液液界面を実現する上では有効である。一方、第2の液体32が流れる合流壁41上の液流路の高さ方向の長さA2は、合流壁41のない部分の液流路の高さ方向の長さA1に比べて小さくなる。よって、合流壁41の高さ方向の長さZが長くなると、合流壁41上を流れる第2の液体32の圧損が増加することになり、第2の液体32の供給が困難になる。特に、第2の液体32に記録形成に必要な機能を持つ記録媒体を使用し、第2の液体32を安定的に吐出できるように第1の液体31として発泡媒体である水を使用する場合、第2の液体32は、第1の液体31に比べて高粘度になる。したがって、第2の液体の合流壁の高さは液流路の高さの1/2以下が好ましい。
また、図8(a)に示すように、本実施形態では合流壁41の幅方向の長さは液流路13の幅方向の長さWと同等であるがこれに限定されるものではない。合流壁41の幅方向の長さは液流路13の幅方向の長さWより短い形態でもよい。ただし、第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の高さ方向に並ぶような液液界面を形成するためには、合流壁41の幅方向の長さは、液流路13の幅方向の長さWと同等にすることが好ましい。ここで同等とは、液流路13の幅方向の長さWを1としたときに、合流壁41の幅方向の長さが0.9~1.0の範囲内にあることをいう。
尚、合流壁41は、基板15の一部(例えばシリコン基板のシリコンまたは、シリコン基板上の膜)で形成してもよいし、基板15とは別の部材(例えば樹脂層または金属層)で形成してもよい。
図10は、合流壁41の他の例を説明するための図である。図10(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図10(b)は、図10(a)のXb-Xb断面線に沿う断面図である。図10(c)は本実施形態の素子基板における1つの液流路13近傍の拡大図である。合流壁41は、液流路13に液体が流れる方向における上流側の第1の流入口20の開口端上から、液流路13に液体が流れる方向における下流側の第2の流入口21の開口端上の間の基板15上に、連続して延在するような構成でもよい。
図11は、基板15における合流壁41の位置を説明するための図である。図11(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図11(b)は、図11(a)のXIb-XIb断面線に沿う断面図である。
液流路13において液体が流れる方向(y方向)における合流壁41の下流側の端部と、液流路13において液体が流れる方向における上流側の第1の流入口20の開口端と、の距離をクリアランスLeとする。合流壁41のクリアランスLeは以下の関係であることが好ましい。
Le≦(0.550Re+0.379exp(-0.148Re)+0.260)×De (式3)
Re:レイノルズ数
De:相当直径(4Af/Wp)
Af:流路断面積
Wp:濡れ縁長さ
式3は、液流路13のような管路に液体が流入した場合、その液体の流れが完全に発達するまでの助走距離を基準にして求められた式である。一般的なインクジェット記録ヘッドについて考えると、流路断面積Af=224μm2、濡れ縁長さWp=60μmであり、相当直径Deは14.9μm程度である。よって、レイノルズ数Re=0.1~1.0の場合、式3の右辺の値は十数μm程度になる。このため、第1の流入口のクリアランスLeはLe=0またはLe≒0、つまり液流路13に液体が流れる方向における上流側の第1の流入口20の開口端上に、液流路13に液体が流れる方向における下流側の合流壁41の端部が位置する構成が好ましい。
クリアランスLeが式3を満たさない場合、クリアランスLeの領域に流入する第2の液体32の流れが、クリアランスLeの領域において液流路13の壁面141の方向へ広がる。このため第2の液体32の流れによって、液流路13の壁面141の方向へ広がる第1の液体31の流れは阻害される。このためクリアランスLeが式3を満たさない場合、圧力室18において図6で示したように第1の液体31と第2の液体32とがx方向に並ぶような液液界面が形成されやすくなる。
図8および図10で説明した液流路13に液体が流れる方向における下流側の合流壁41の端部は、液流路13に液体の流れる方向における上流側の第1の流入口20の開口端上にある。このため図8および図10で説明した合流壁41のクリアランスLeは、Le=0の合流壁41である。
図12は、合流壁を設ける別の例として、掘り込み部を設ける例を説明するための図である。図12(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図12(b)は、図12(a)のXIIb-XIIb断面線に沿う断面図である。
図12に示す基板15の表面には、第1の流入口20よりも液体が流れる方向の下流側に掘り込み部42を設けている。掘り込み部42は、基板15の表面151よりも、図12(b)の距離Zだけ低い位置になるように形成されている。第1の流入口20よりも液流路13に液体が流れる方向の上流側には、表面151に掘り込み部を設けていない。これにより、液流路13において、第1の流入口20よりも液流路13に液体が流れる方向の上流側の基板15の表面には、第1の流入口20よりも液体が流れる方向の下流側の基板15の表面よりも高い位置にある部分ができる。即ち、第1の流入口20の周部において、-y方向の上流側の部分は、+y方向の下流側の部分よりも相対的に距離Zだけ高くなっている。従って、掘り込み部42によって、第1の流入口20よりも液流路13に液体が流れる方向の上流側の基板15は合流壁と同様に機能することになる。この場合においても、合流壁は、屈曲部における第1の液体31からみて、y方向における上流側(図12(b)では左側)に位置する壁である。このため、このような構成によっても、第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の高さ方向に並ぶような液液界面を安定的に形成させることができる。
尚、例えば基板15の酸化膜のエッチング処理や、基板15をドライエッチングすることによって掘り込み部42を形成することが可能である。掘り込み部42は、図10および図11で説明した合流壁41と共に用いてもよい。
以上説明したように本実施形態によれば、第1の液体31と第2の液体32とが圧力室18において高さ方向(鉛直方向)に並んで流れるような液液界面を形成させることができる。このため圧力発生素子12と接するのは第1の液体31であり、吐出口側には第2の液体32があることから、圧力発生素子12によって第1の液体31を発泡させることにより、第2の液体32を吐出させることができる。
尚、圧力室18の中を流れる第1の液体や第2の液体は、圧力室18の外部との間で循環してもよい。循環を行わない場合には、液流路13及び圧力室18の中で平行流を形成した第1の液体及び第2の液体のうち、吐出されなかった液体が多く発生してしまう。この為、第1の液体や第2の液体を外部との間で循環させると、吐出されなかった液体を再び平行流を形成する際に使用することができる。
(第1の液体と第2の液体の具体例)
以上説明した本実施形態の構成では、第1の液体は膜沸騰を生じさせるための発泡媒体
、第2の液体は大気中に吐出するための吐出媒体、というように、主にそれぞれに求められる機能が明確になる。本実施形態の構成によれば、第1の液体および第2の液体に含有させる成分の自由度を従来よりも高めることができる。以下、このような構成における発泡媒体(第1の液体)と吐出媒体(第2の液体)について、具体例を挙げて詳しく説明する。
例えば本実施形態の発泡媒体(第1の液体)としては、電気熱変換体が発熱した際に媒体中に膜沸騰が生じ、生成された気泡が急激に増大すること、即ち熱エネルギを効率的に発泡エネルギに変換可能な高い臨界圧力を有することが求められる。このような媒体としては、特に水が好適である。水は、分子量が18と小さいにも関わらず高い沸点(100℃)と高い表面張力(100℃で58.85dyne/cm)を有し、約22MPaと大きな臨界圧力を有する。即ち、膜沸騰時における発泡圧力も非常に大きい。一般に、膜沸騰を利用してインクを吐出する方式のインクジェット記録装置においても、染料や顔料のような色材を水に含有させたインクを好適に用いている。
但し、発泡媒体は水に限定されるものではない。臨界圧力が2MPa以上であれば(好ましくは5MPa以上であれば)、発泡媒体としての機能を果すことはできる。水以外の発泡媒体の例としては、例えばメチルアルコールやエチルアルコールが挙げられ、水にこれら液体を混合させたものを発泡媒体として用いることもできる。また、上述のように染料や顔料などの色材や、その他の添加剤などを水に含有させたものも用いることができる。
一方、例えば本実施形態の吐出媒体(第2の液体)については、発泡媒体のように膜沸騰を生じさせるための物性は要求されない。また、電気熱変換体(ヒータ)上にコゲが付着すると、ヒータ表面の平滑性が損なわれたり熱伝導率が低下したりして発泡効率の低下が懸念されるが、吐出媒体はヒータに直に接触しないので、含有する成分が焦げるおそれもない。即ち、本実施形態の吐出媒体においては、従来のサーマルヘッドのインクに比べ、膜沸騰を生じさせたりコゲを回避したりするための物性条件が緩和され、含有成分の自由度が増す。このため結果として吐出後の用途に適した成分をより積極的に含有させることが可能となる。
例えば、ヒータ上で焦げ易いことを理由に従来は使用されていなかった顔料を、本実施形態では吐出媒体に積極的に含有させることができる。また、臨界圧力が非常に小さな水性インク以外の液体も、本実施形態では吐出媒体として使用することができる。更に、紫外線硬化型インク、導電性インク、EB(電子線)硬化型インク、磁性インク、ソリッド型インクなど、従来のサーマルヘッドでは対応困難であった特別な機能を有する様々なインクを、吐出媒体として用いることが可能となる。また、吐出媒体として血液や培養液中の細胞などを用いれば、本実施形態の液体吐出ヘッドを画像形成以外の様々な用途に利用することもできる。バイオチップ作製や電子回路印刷などの用途にも有効である。尚、第2の液体については制限がないので、第1の液体で挙げたような液体と同じ液体を用いることもできる。例えば2つの液体がいずれも水を多く含有したインクであっても、例えば使用の形態といった状況に応じて、一方のインクを第1の液体、他方のインクを第2の液体として用いることができる。
<第2の実施形態>
本実施形態は、圧力室18において第1の液体31と第2の液体32とが高さ方向(鉛直方向)に積層して流れる液体吐出ヘッド1の別の形態を説明する。本実施形態については、第1の実施形態からの差分を中心に説明する。特に明記しない部分については第1の実施形態と同じ構成である。
(水相厚と合流壁の関係)
図13は、本実施形態における素子基板10に形成された1つの液流路および圧力室18を説明するための図である。図13(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図13(b)は、図13(a)のXIIIb-XIIIb断面線に沿う断面図である。また、図13(c)は素子基板における1つの液流路13近傍の拡大図である。
本実施形態では、図13(b)に示すように、第1の流入口20よりも第2の液体32が流れる方向の上流側において、基板15が液体と接する表面151に、合流壁41が設けられている。合流壁41は図8で示したようなクリアランスLe=0の合流壁である。
本実施形態の特徴部分は、合流壁41に、液体が流れる方向の下流に向かって突出する突出部43が設けられていることである。合流壁41と突出部43とは一体として形成されており、突出部43は第1の流入口20に対向するように形成されている。合流壁41に突出部43が設けられていることにより、第1の流入口20と突出部43との間の流路において第2の液体32が流入することを抑制することができる。このため、第1の流入口20と突出部43との間の流路においては第1の液体31が主に流動することになり、突出部43の下流側の流路においても、第1の液体31と第2の液体32を高さ方向に並ぶように流動させることができる。なお、図13のように合流壁41の幅方向の長さは液流路の幅方向の長さWと同じ長さであることが好ましい。
(水相厚と突出部の突出量との関係)
図14(a)、(b)、および(c)は、図13(b)の合流壁41付近の拡大図であり、合流壁41の突出部43の突出量を説明するための図である。突出部43の下流側(+y方向)の端部と、第1の流入口20の下流側(+y方向)の開口端と、の距離をクリアランスC3とする。また突出部43の下流側の端部が第1の流入口20の下流側の端部よりも上流にある状態のクリアランスはマイナス(C3<0)と定義する。
図14(a)は、突出部43のクリアランスC3がマイナス(C3<0)の状態の例を示す図である。この例では、突出部43は第1の流入口20の全体を覆わない。図14(b)は、合流壁41のクリアランスC3がゼロ(C3=0)の状態の例を示す図である。この例では、突出部43は第1の流入口20の全て覆っている。また、図14(c)は、突出部43のクリアランスC3がプラス(C3>0)の状態の例を示す図である。この例では、突出部43は第1の流入口20を全て覆い、突出部43の先端は第1の流入口20の下流側の流路まで達している。
圧力室18において第1の液体31と第2の液体32とが鉛直方向に積層して流れるような液液界面を形成する観点では、第1の流入口20をすべて被覆する構成であるクリアランスC3は0以上(C3≧0)の状態が好ましい。図14(a)に示すように突出部43のクリアランスC3がマイナス(C3<0)の場合、クリアランスが0以上(C3≧0)の場合に比べて、吐出される液体に第1の液体31が含まれやすくなる。しかし第2の液体32を安定的に吐出することは可能である。従って、吐出口11から吐出する液体に含まれる第1の液体31を低減させたいとき、クリアランスC3は0以上(C3≧0)とするように突出部43を形成する。また、吐出口11から吐出する液体に第1の液体31を含ませる必要がある場合にはクリアランスC3をマイナス(C3<0)とするよう突出部43を形成する。
図14(c)、(d)および(e)は、突出部43の有する高さ方向における位置である合流壁高bが異なる場合を説明するための図である。図14(c)は、合流壁高bが、第1の液体31の相の厚さh1と略等しくなるような例を示す図である。図14(d)は、第1の液体31の相の厚さh1に比べて合流壁高bが小さい例を示す図である。図9(e)は、第1の液体31の相の厚さh1に比べて合流壁高bが大きい例を示す図である。
粘度比および流量比が一定の場合、水相厚比hrは一定である。このため、第1の液体31の相の厚みh1は、液流路13の高さ方向の長さが同じである限り一定の厚さを維持する。このため、図14(c)、(d)、(e)のいずれの突出部43の構成であっても、圧力室18における第1の液体31の相の厚みh1は同じになる。
第2の液体32に記録形成に必要な機能を持つ記録媒体を使用し、第2の液体32を安定的に吐出できるように第1の液体31として発泡媒体である水を使用する場合、第2の液体32は、第1の液体31に比べて高粘度になる。この場合、第2の液体32の供給性を高めることが好ましい。合流壁高bが大きくなると合流壁41上にある上段流路132の高さ方向の長さは小さくなる。この場合、上段流路132を流れる第2の液体32の流量が制限されることになる。このため、第2の液体32に記録形成に必要な機能を持つ記録媒体を使用し、第1の液体31として発泡媒体である水を使用する場合、合流壁高bは小さい構成が好ましい。
以上説明したように本実施形態によっても、第1の液体31と第2の液体32とが圧力室18において高さ方向(鉛直方向)に並んで流れるような液液界面を形成させることができる。このため圧力発生素子12と接するのは第1の液体31であり、吐出口側には第2の液体32があることから、圧力発生素子12によって第1の液体31を発泡させることにより、第2の液体32を吐出させることができる。
<第3の実施形態>
本実施形態においても、図1~図3に示した液体吐出ヘッド1および液体吐出装置を使用する。
図15は、本実施形態における液流路13の構成を示す図である。前述の実施形態で説明した液流路13と異なる点は、液流路13に第1の液体31と第2の液体32に加えて第3の液体33を流していることである。第2の液体を圧力室内に流動させることにより、前述したような、臨界圧力の大きい発泡媒体を第1の液体とし、第2の液体および第3の液体には異なる色のインクや高濃度樹脂EM等を採用することができる。
図15(a)は、吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図15(b)は、図15(a)のXVb-XVb断面線に沿う断面図である。本実施形態の液流路13においては、前述した実施形態における第1の液体31と第2の液体32の層流状態の平行流に加えて、第3の液体33によっても層流状態の平行流を形成するように、それらの液体が流動可能である。液流路13の内面(底面)に相当する基板15には、第2の流入口21、第3の流入口22、第1の流入口20、第1の流出口25、第3の流出口27、第2の流出口26が、y方向においてこの順に形成されている。吐出口11と圧力発生素子12とを含む圧力室18は、液流路13の中で第1の流入口20と第1の流出口25との間のほぼ中央に配されている。
第1の液体31および第2の液体32は、前述した実施形態と同様に、第1の流入口20および第2の流入口21から液流路13に流入され、y方向に流動した後、圧力室18を通って第1の流出口25および第2の流出口26から流出される。第3の流入口22を通して流入される第3の液体33は、液流路13に導入されてから、液流路13内をy方向に流動した後、圧力室18を通って第3の流出口27から導出されて回収される。したがって、液流路13内において、第1の流入口20と第1の流出口25との間には、第1の液体31と第2の液体32と第3の液体33が共にy方向に流動する。その際、圧力室18の中で、第1の液体31は、圧力発生素子12が位置する圧力室18の内面に接し、第2の液体32は、吐出口11にメニスカスを形成し、第3の液体は、第1の液体31と第2の液体32との間を流動する。
本実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様に、第1の流入口20よりも液体が流れる方向の上流側の基板に合流壁411が設けられている。さらに、本実施形態では、第3の流入口22よりも液体が流れる方向の上流側の基板に合流壁412が設けられている。これらの合流壁411,412は、前述した第1の実施形態の合流壁41と同様に機能する。図15(c)は図15(b)の圧力室近傍の拡大図である。合流壁411,412を設けることにより、圧力室18において第1の液体31と第2の液体32と第3の液体33とが鉛直方向に積層して流れるようにすることができる。他にも、前述した第2の実施形態と同様の合流壁41を設けてもよい。また、液流路13内に4種類以上の液体を積層しているように流す場合も同様である。
<その他の実施形態>
前述の実施形態では、第1の流入口20の幅方向の長さLは液流路13の幅方向の長さWより短い(L<W)構造であるものとして説明した。しかし、第1の流入口20の幅方向の長さLが液流路13の幅方向の長さWと同等(L=W)、または第1の流入口20の幅方向の長さLが液流路13の幅方向の長さWより長い(L>W)形態もある。このような形態であっても、合流壁41を設けることにより、圧力室18において第1の液体31と第2の液体32とが高さ方向に積層して流れるような液液界面を形成させる上で有効である。
図16は、上述した第1の流入口20の幅方向の長さLが、液流路13の幅方向の長さWより長い構造(L>W)の形態を示す図である。図16(a)は、吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図16(b)は、図16(a)のXVIb-XVIb断面線に沿う断面図である。なお、図16は、L>Wである構造に第2の実施形態における合流壁41及び突出部が設けられている形態を示す図であるが、第1の実施形態のような合流壁41のみが液流路に設けられている形態であってもよい。
本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置は、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録装置に限定されない。本発明の液体吐出ヘッド、液体吐出装置、および液体吐出方法は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには、各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。特に第2の液体として様々なものが用いられるので、バイオチップ作製および電子回路印刷などの用途としても用いることもできる。