以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド及び液体吐出装置について説明する。
<第1の実施形態>
(液体吐出ヘッドの構成)
図1は、本実施形態で使用可能な液体吐出ヘッド1の斜視図である。本実施形態の液体吐出ヘッド1は、液体吐出モジュール100がx方向に複数配列(複数個が配列)されて構成される。個々の液体吐出モジュール100は、複数の吐出素子が配列された素子基板10と、個々の吐出素子に電力と吐出信号とを供給するためのフレキシブル配線基板40と、を有している。フレキシブル配線基板40のそれぞれは、電力供給端子と吐出信号入力端子とが配された電気配線基板90に共通して接続されている。液体吐出モジュール100は、液体吐出ヘッド1に対し簡易的に着脱することができる。よって、液体吐出ヘッド1には、これを分解することなく、任意の液体吐出モジュール100を外部から容易に取りつけたり取り外したりすることができる。
このように、液体吐出モジュール100を長手方向に複数配列させて構成される液体吐出ヘッド1であれば、何れかの吐出素子に吐出不良が生じた場合であっても、吐出不良が生じた液体吐出モジュールのみを交換すればよい。よって、液体吐出ヘッド1の製造工程における歩留まりを向上させるとともに、ヘッド交換時のコストを抑えることができる。
(液体吐出装置の構成)
図2は、本実施形態に使用可能な液体吐出装置2の制御構成を示すブロック図である。CPU500は、ROM501に記憶されているプログラムに従いRAM502をワークエリアとして使用しながら、液体吐出装置2の全体を制御する。CPU500は、例えば、外部に接続されたホスト装置600より受信した吐出データに、ROM501に記憶されているプログラムおよびパラメータに従って所定のデータ処理を施し、液体吐出ヘッド1が吐出可能な吐出信号を生成する。そして、この吐出信号に従って液体吐出ヘッド1を駆動しながら、搬送モータ503を駆動して液体の付与対象媒体を所定の方向に搬送することにより、液体吐出ヘッド1から吐出された液体を付与対象媒体に付着させる。
液体循環ユニット504は、液体吐出ヘッド1に対し液体を循環させながら供給し、液体吐出ヘッド1における液体の流量調整を行うためのユニットである。液体循環ユニット504は、液体を貯留するサブタンク、サブタンクと液体吐出ヘッド1との間で液体を循環させる流路や、複数のポンプ、弁機構などを備えている。そして、CPU500の指示の下、液体吐出ヘッド1において液体が所定の流量で流れるように、上記複数のポンプや弁機構を制御する。
(素子基板の構成)
図3は、個々の液体吐出モジュール100に備えられた素子基板10の断面斜視図である。素子基板10は、シリコン(Si)の基板15上にオリフィスプレート(吐出口形成部材)14が積層されて構成されている。オリフィスプレート14には、液体を吐出する吐出口11がx方向に沿って複数個並んでいる。図3では、x方向に配列された吐出口11は、同種類の液体(例えば共通のサブタンクや供給口から供給される液体)を吐出する。ここではオリフィスプレート14が液流路13も形成した例を示しているが、液流路13は別の部材(流路壁部材)で形成し、その上に吐出口11が形成されたオリフィスプレート14が設けられた構成であってもよい。
基板15上の、個々の吐出口11に対応する位置には、圧力発生素子12(図3では不図示、図4に図示)が配されている。吐出口11と圧力発生素子12とは、対向する位置に設けられている。吐出信号に応じて電圧が印加されると、圧力発生素子12は、液体を流動方向(y方向)と交差するz方向へ加圧し、圧力発生素子12と対向する吐出口11から、液体が液滴として吐出される。圧力発生素子12への電力や駆動信号は、基板15上に配された端子17を介して、フレキシブル配線基板40より供給される。
オリフィスプレート14には、y方向に延在し、吐出口11の夫々に個別に接続する複数の液流路13が形成されている。また、x方向に配列する複数の液流路13は、第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28及び第2の共通回収流路29と、共通して接続されている。第1の共通供給流路23、第1の共通回収流路24、第2の共通供給流路28及び第2の共通回収流路29における液体の流れは、図2で説明した液体循環ユニット504によって制御されている。具体的には、第1の共通供給流路23から液流路13に流入した第1の液体が第1の共通回収流路24に向かい、第2の共通供給流路28から液流路13に流入した第2の液体が第2の共通回収流路29に向かうように、ポンプが駆動制御されている。
図3では、このようなx方向に配列する吐出口11および液流路13と、これらに共通してインクを供給したり回収したりする第1、第2の共通供給流路23、28及び第1、第2の共通回収流路24、29の組が、y方向に2列配置された例を示している。
(液流路及び圧力室の構成)
図4(a)~(d)は、素子基板10に形成された1つの液流路13及び圧力室18の構成を詳しく説明するための図である。図4(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図4(b)は図4(a)のIVb-IVb線に沿う断面図である。また、図4(c)は図3で示した素子基板における1つの液流路13近傍の拡大図である。さらに、図4(d)は、図4(b)における吐出口近傍の拡大図である。
液流路13の底部に相当する基板15には、第2の流入口21、第1の流入口20、第1の流出口25、第2の流出口26が、y方向においてこの順に形成されている。そして、吐出口11と圧力発生素子12とを含む圧力室18は、液流路13中で第1の流入口20と第1の流出口25のほぼ中央に配されている。第2の流入口21は第2の共通供給流路28に、第1の流入口20は第1の共通供給流路23に、第1の流出口25は第1の共通回収流路24に、第2の流出口26は第2の共通回収流路29に、それぞれ接続している(図3参照)。
以上の構成のもと、第1の共通供給流路23より第1の流入口20を介して液流路13に供給された第1の液体31は、y方向(矢印で示す方向)に流動した後、圧力室18を通り、第1の流出口25を介して第1の共通回収流路24に回収される。また、第2の共通供給流路28より第2の流入口21を介して液流路13に供給された第2の液体32は、y方向(矢印で示す方向)に流動した後、圧力室18を通り、第2の流出口26を介して第2の共通回収流路29に回収される。即ち、液流路13のうち、第1の流入口20と第1の流出口25との間では、第1の液体と第2の液体との両方が共にy方向に流動する。圧力室18の中では、圧力発生素子12は第1の液体31と接触し、吐出口11の近傍では大気に曝された第2の液体32がメニスカスを形成している。圧力室18の中では、圧力発生素子12と、第1の液体31と、第2の液体32と、吐出口11とが、この順で並ぶように、第1の液体31と第2の液体32とが流れている。即ち、圧力発生素子12がある側が下方、吐出口11がある側が上方とすると、第1の液体31上方に第2の液体32が流れている。そして、第1の液体31は、下方の圧力発生素子12によって加圧され、少なくとも第2の液体32が下方から上方に向けて吐出される。尚、この上下の方向が、圧力室18及び液流路13の高さ方向である。
本実施形態では、第1の液体31と第2の液体32とが、図4(d)に示すように、圧力室の中で互いに接触しながら液流路に沿って流れるように、第1の液体31と第2の液体の物性に応じて、それらの流量を調整する。このような2つの液体の流れとしては、図4(d)に示すような2つの液体が同じ方向に流動する平行流だけでなく、第1の液体の流動方向に対して第2の液体が反対向きに流動する対向流、第1の液体の流れと第2の液体の流れが交差する液体の流れがある。以下、この中で平行流を例にとって説明する。
平行流の場合、第1の液体31と第2の液体32の界面が乱れないこと、すなわち第1の液体31と第2の液体32が流動する圧力室18内の流れが層流状態であること、が好ましい。特に、所定の吐出量を維持するなど、吐出性能を制御しようとする場合には、界面が安定している状態で圧力発生素子を駆動することが好ましい。但し、本発明はこれに限定されるものではない。圧力室18内の流れが乱流状態となって2つの液体の界面が多少乱れたとしても、少なくとも圧力発生素子12の側を主として第1の液体が流動し、吐出口11の側を主として第2の液体が流動している状態であれば、圧力発生素子12を駆動してもよい。以下では、圧力室内の流れが平行流であって、かつ、層流状態となっている例を中心に説明する。
(層流となっている平行流の形成条件)
まず、管内において液体が層流となる条件について説明する。一般に、流れを評価する指標として、粘性力と界面張力の比を表すレイノルズ数Reが知られている。
ここで、液体の密度をρ、流速をu、代表長さをd、粘度をηとすると、レイノルズ数Reは(式1)で表すことができる。
Re=ρud/η (式1)
ここで、レイノルズ数Reが小さいほど、層流が形成されやすいことが知られている。具体的には、例えばレイノルズ数Reが2200程度より小さいと円管内の流れは層流となり、レイノルズ数Reが2200程度より大きいと円管内の流れは乱流となることが知られている。
流れが層流になるということは、流線が流れの進行方向に対して互いに平行となり交わらないことになる。従って、接触する2つの液体がそれぞれ層流であれば、2つの液体の界面が安定している平行流を形成することができる。ここで、一般的なインクジェット記録ヘッドについて考えると、液流路(圧力室)における吐出口近傍の流路高さ(圧力室の高さ)H[μm]は10~100μm程度である。よって、インクジェット記録ヘッドの液流路に水(密度ρ=1.0×103kg/m3、粘度η=1.0cP)を流速100mm/sで流した場合、レイノルズ数はRe=ρud/η≒0.1~1.0<<2200となり、層流が形成されるとみなすことができる。
尚、図4に示すように、液流路13や圧力室18の断面が矩形であったとしても、液流路13や圧力室18は円管と同等に、即ち液流路13や圧力室18の有効形を円管の直径としてみなすことができる。
(層流状態の平行流の理論的な形成条件)
次に、図4(d)を参照しながら、液流路13及び圧力室18の中で2種類の液体の界面が安定している平行流を形成する条件について説明する。まず、基板15からオリフィスプレート14の吐出口面までの距離をH[μm]とする。そして、吐出口面から第1の液体31と第2の液体32との液液界面までの距離(第2の液体の相厚)をh2[μm]、液液界面から基板15までの距離(第1の液体の相厚)をh1[μm]とする。即ち、H=h1+h2となる。
ここで、液流路13及び圧力室18内の境界条件として、液流路13及び圧力室18の壁面における液体の速度はゼロとする。また、第1の液体31と第2の液体32との液液界面の速度とせん弾応力は、連続性を有するものと仮定する。この仮定において、第1の液体31と第2の液体32とが2層の平行な定常流を形成しているとすると、平行流区間では(式2)に示す4次方程式が成立する。
尚、(式2)において、η1は第1の液体31の粘度、η2は第2の液体32の粘度、Q1は第1の液体31の流量、Q2は第2の液体32の流量をそれぞれ示す。すなわち、上記の4次方程式(式2)の成立範囲において、第1の液体と第2の液体は、それぞれの流量と粘度に応じた位置関係となるように流動し、界面が安定した平行流が形成される。本実施形態では、この第1の液体と第2の液体の平行流を、液流路13内、少なくとも圧力室18内で形成することが好ましい。このような平行流が形成された場合、第1の液体と第2の液体は、その液液界面において分子拡散による混合が起こるのみであり、実質的に交じり合うことなくy方向に平行に流れる。なお、本実施形態は、圧力室18内の一部の領域における液体の流れが層流状態となっていなくてもよい。少なくとも圧力発生素子上の領域を流れる液体の流れが層流状態となっていることが好ましい。
例えば、水と油のような不混和性溶媒を第1の液体と第2の液体として用いる場合であっても、(式2)が満足されれば、互いに不混和であることとは関係なく安定した平行流が形成される。また、水と油の場合であっても、前述したように、圧力室内の流れが多少乱流状態であって界面が乱れたとしても、少なくとも圧力発生素子上を主に第1の液体が流動し、吐出口内を主に第2の液体が流動していることが好ましい。
図5(a)は、(式2)に基づいて、粘度比ηr=η2/η1と第1の液体の相厚比hr=h1/(h1+h2)との関係を、流量比Qr=Q2/Q1を複数段階に異ならせた場合について示した図である。尚、第1の液体は水に限定されないが、「第1の液体の相厚比」を以下「水相厚比」と称する。横軸は粘度比ηr=η2/η1、縦軸は水相厚比hr=h1/(h1+h2)をそれぞれ示している。流量比Qrが大きくなるほど、水相厚比hrは小さくなっている。また、いずれの流量比Qrについても、粘度比ηrが大きくなるほど水相厚比hrは小さくなっている。即ち、液流路13(圧力室)における水相厚比hr(第1の液体と第2の液体との界面位置)は、第1の液体と第2の液体との粘度比ηr及び流量比Qrを制御することによって所定の値に調整することができる。その上で、図5(a)によれば、粘度比ηrと流量比Qrとを比較した場合、流量比Qrの方が粘度比ηrよりも水相厚比hrに大きく影響することがわかる。
尚、水相厚比hr=h1/(h1+h2)については、0<hr<1(条件1)が満たされていれば、液流路(圧力室)の中において第1の液体と第2の液体との平行流は形成されていることになる。但し、後述するように、本実施形態では第1の液体を主に発泡媒体として機能させ、第2の液体を主に吐出媒体として機能させるようにし、吐出液滴に含まれる第1の液体と第2の液体とを所望の割合に安定させるようにしている。このような状況を考慮すると、水相厚比hrは、0.8以下(条件2)であることが好ましく、0.5以下(条件3)であることがさらに好ましい。
ここで、図5(a)に示す状態A、状態B、状態Cは、それぞれ以下の状態を示す。
状態A)粘度比ηr=1及び流量比Qr=1の場合で水相厚比hr=0.50
状態B)粘度比ηr=10及び流量比Qr=1の場合で水相厚比hr=0.39
状態C)粘度比ηr=10及び流量比Qr=10の場合で水相厚比hr=0.12
図5(b)は、液流路13(圧力室)の高さ方向(z方向)における流速分布を上記状態A、B、Cのそれぞれについて示した図である。横軸は状態Aの流速最大値を1(基準)として規格化した規格化値Uxを示している。縦軸は、液流路13(圧力室)の高さHを1(基準)とした場合の底面からの高さを示している。夫々の状態を示す曲線においては、第1の液体と第2の液体との界面位置をマーカーで示している。状態Aの界面位置が状態Bや状態Cの界面位置よりも高いなど、界面位置が状態によって変化することがわかる。これは、異なる粘度を有する2種類の液体がそれぞれ層流となって(全体としても層流で)管内を平行に流れる場合、これら2つの液体の界面は、これら液体の粘度差に起因する圧力差と界面張力とに起因するラプラス圧が釣り合う位置に形成されるためである。
(吐出時の液液界面の流れ)
第1の液体と第2の液体とがそれぞれ流れることにより、それらの粘度比ηrと流量比Qrとに応じた位置(水相厚比hrに対応)に液面(液液界面)が形成される。その界面の位置を維持したまま、吐出口11から液体を吐出することができれば、安定した吐出動作を実現することができる。このような安定した吐出動作を実現するための構成として、以下の2つが挙げられる。
構成1:第1の液体と第2の液体とが流れている状態で液体を吐出する構成
構成2:第1の液体と第2の液体とが静止している状態で液体を吐出する構成
構成1により、所定の界面位置を維持しつつ液体を安定的に吐出することが可能である。その理由は、一般的な液滴の吐出速度(数m/sから十数m/s)は、第1の液体と第2の液体との流速(数mm/s~数m/s)よりも大きく、吐出動作中に第1の液体と第2の液体とを流し続けても液体の吐出に与える影響は小さいからである。
また、構成2によっても、所定の界面位置を維持しつつ液体を安定的に吐出することが可能である。その理由は、界面における液体の拡散の影響によって、第1および第2の液体は直ちに混合されるわけではなく、それらの液体の非混合状態が極短時間では維持されるからである。水中の低分子の典型的な拡散係数D=10-9m2/sにおいて、一般的なインクジェットの駆動周波数の数十μsの場合、0.2~0.3μmしか拡散しない。したがって、液体の吐出の直前に、それらの液体の流れを止めて静止させた状態において界面が維持されているため、その界面の位置を維持したまま液体を吐出することが可能である。
ただし、界面における液体の拡散による第1および第2の液体の混合の影響を小さく抑えることできること、および液体の流動と停止とのための高度な制御が不必要であることから、構成1の形態の方が好ましい。
(液体の吐出モード)
界面の位置(水相厚比hrに対応)を変化させることによって、吐出口から吐出される液滴(吐出液滴)に含まれる第1の液体の割合を変化させることができる。液体の吐出モードは、吐出液滴の種類に応じて2つに大きく分けることができる。
モード1:第2の液体のみを吐出するモード
モード2:第2の液体に第1の液体を含めて吐出するモード
モード1は、例えば、圧力発生素子12として電気熱変換体(ヒータ)を用いるサーマル式の液体吐出ヘッド、つまり液体の性質に大きく依存する発泡現象を利用する液体吐出ヘッドを用いる場合に有効となる。このような液体吐出ヘッドにおいては、ヒータの表面に生じる液体のコゲによって液体の発泡が不安定化するおそれがあり、また非水系インクなどの液体を吐出させることが困難である。しかし、モード1を利用して、第1の液体として、ヒータの表面にコゲが生じ難く発泡に適した発泡液を用い、第2の液体として種々の機能をもつ機能液を用いることにより、ヒータの表面のコゲを抑制しつつ、非水系インクなどの液体を吐出させることができる。
モード2は、サーマル式の液体吐出ヘッドにおいてのみならず、圧力発生素子12として圧電素子を用いる液体吐出ヘッドにおいて、高濃度固形分のインクなどの液体を吐出するために有効となる。より具体的には、色材である顔料の含有量が多い高濃度顔料インクを記録媒体上に吐出する場合に、有効となる。一般に、顔料インクにおける顔料を高濃度化することにより、その高濃度顔料インクによって普通紙などの記録媒体に記録した画像の発色を向上させることができる。さらに、高濃度顔料インクに樹脂EM(エマルジョン)を添加することにより、樹脂EMの膜化により記録画像の擦過性などを向上させることができる。しかし、顔料および樹脂EMなどの固形分は、それらの増加により粒子間距離が近接化して凝集しやすくなり、分散しにくくなる。したがって、顔料および樹脂EMのそれぞれを高濃度でインク中に含有させることは難しくなる。特に、顔料は樹脂EMよりも分散させにくい。そのため、従来においては、顔料または樹脂EMのいずれか一方の量を少なくすることによりそれらを分散させてきた。具体的には、インク中に含まれる顔料および樹脂EMをインクに対して例えばそれぞれを4wt%および15wt%または8wt%および4wt%とすることにより、それらを分散させてきた。
しかしながら、上述したモード2を利用することにより、第1の液体として高濃度樹脂EMインクを用い、第2の液体として高濃度顔料インクを用いることができる。このため、顔料インクと樹脂EMインクをそれぞれ高濃度で吐出させることができる。その結果、高濃度顔料インクと高濃度樹脂EMインクを記録媒体に付与することにより1つのインクでは実現しにくい画像、つまり発色がよく擦過性なども優れた高品位の画像を記録することが可能となる。具体的には、モード2を用いることにより、例えば、顔料インクの濃度として8~12wt%、樹脂EMの濃度として15~20wt%、というような高濃度の顔料インクと樹脂EMを、それぞれ記録媒体に付与することができる。
(流入側の合流部の構成)
図6(a)~(d)は、素子基板10に形成された1つの液流路13及び圧力室18の図であり、圧力室18において第1の液体および第2の液体がx方向に並ぶような液液界面が形成されている比較例を示す図である。図6(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図6(b)~(d)は、図6(a)のVIb-VIb、VIc-VIcおよびVId-VIdのそれぞれの断面線に沿う断面図である。
液体が圧力室18の中を流れる方向(図6(a)の矢印の方向)及び圧力発生素子12から吐出口11に向かう方向(高さ方向)に直交する方向(以下、幅方向と称する)における、第1の流入口20の長さをLとする。また、液流路13の幅方向の長さをWとする。図6(a)に示すとおり第1の流入口20の長さLは液流路13の長さWより短く、L<Wの関係となっている(図6(a)参照)。この構成の場合、図6(c)のように、第1の液体31は第1の流入口20から液流路13の幅方向の中央の領域に流入し、第2の液体32は液流路13の液体が流れる方向に対して左右にある液流路13を形成する壁面141に沿って流れる。
図7(a)は図6(c)と同じ断面図に第1の液体31の速度分布をベクトルで示した図である。第1の流入口20において、第1の液体31の速度分布v1は、液体の速さが第1の流入口20の壁面でゼロであり第1の流入口20の中央部では最大となる分布をもつ。第1の流入口20を出たz方向における第1の液体31の速度分布はv1からvt1に変わる。
図7(b)は、図6(a)における第1の流入口20付近の拡大図であり、液流路13内の第1の液体31の速度分布および第2の液体32の速度分布をベクトルで示した図である。第1の流入口20を出た第1の液体31の速度分布vt1は、液流路13において速度分布ut1へ変化し、速度分布がut1へ変化した第1の液体31は液流路13を流れる。このように第1の流入口20から液流路13に接続する屈曲部では第1の液体31の速度分布が変化する。
一方、液流路13における第1の流入口20よりも液体が流れる方向の上流側において、第2の液体32の速度分布はu2の状態にある。速度分布u2の第2の液体32が、速度分布u1の第1の液体31と合流する。液流路13内の第1の液体31は、液流路13の壁面141と第1の流入口20との間は流れにくいため、第2の液体32が壁面141と第1の流入口20との間を流れる。このため、第2の液体32は、第1の液体31を挟むように流れることから、液流路13においては、水平方向(幅方向)に第1の液体31と第2の液体32とが並ぶような液液界面が形成されやすくなる。
第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の水平方向(幅方向)に並ぶように液液界面が形成された状態を維持して、第2の液体32および第1の液体31は圧力室18まで流れる。即ち、第1の液体31と第2の液体32とは液流路13の高さ方向に積層された平行流とならない。
図6(c)のような液液界面が形成された場合、図6(d)に示すように圧力室18において圧力発生素子12の上では、圧力発生素子12から吐出口11まで概ね第1の液体31が占めるように流れる。このため、吐出される液体は概ね第1の液体31となり、記録形成に必要な第2の液体32を主として吐出させることが難しくなる。
図8は、本実施形態における素子基板10に形成された1つの液流路および圧力室18を説明するための図である。図8(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図8(b)は、図8(a)のVIIIb-VIIIb断面線に沿う断面図である。図6と同様に第1の流入口20の幅方向の寸法Lは液流路13の幅方向の長さWより短い構成(L<W)となっている。
本実施形態では、第1の流入口20と対向するように横壁(壁)51が設けられている。本実施形態の横壁51の幅方向の長さは液流路の幅方向の長さWと同じである。ここで同じとは、厳密に同じであることに限らず、製造誤差等の違いを含め、実質的に長さが同じであれば同じとする。横壁51は、液流路の延在する方向に沿って延在しており、横壁の少なくとも一部は第1の流入口の上方に位置している。横壁51の基本的な役割は、液流路13における液体の流れを、横壁51とオリフィスプレート14との間の流路の上段流路132を流れる流れと、横壁51と基板15との間の流路の下段流路131を流れる流れとに分けることにある。上段流路132と下段流路131とを流れる液体は、横壁51の液体が流れる方向の下流側端部で合流する。上段流路132と下段流路131とを流れる液体は、横壁51があることにより液流路13の高さ方向に積層する平行な流れとなる。このため、液体が流れる方向の下流側における横壁51の端部において第1の液体31と第2の液体32が合流しても、第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の高さ方向(鉛直方向)に並ぶような液液界面が安定的に形成される。よって、圧力室18においても図4(d)に示すような界面が維持されたまま第1の液体31と第2の液体32とが流れることができる。
(上段流路と下段流路とを流れる液体について)
ここで、本実施形態において、上段流路132および下段流路131を流れる液体の状態が異なるいくつかの例について説明する。図8(c)は、図8(a)のVIIIc-VIIIc断面線の断面図である。図8(c)のように下段流路131に第1の液体31のみが流れ、上段流路132に第2の液体32のみが流れる例について説明する。
図8(d)は、図8(c)と同様の断面図であり、第1の液体31の速度分布をベクトルで示す図である。第1の流入口20における第1の液体31の速度分布v2は、液体の速さが第1の流入口20の壁面でゼロ、中央部で最大となる速度分布である。速度分布v2の流れをもつ第1の液体31が、第1の流入口20から出て横壁51に向けて流れると、第1の液体31の速度分布はvt2に変化する。本実施形態における第1の液体31の液流路13における速度分布vt2は、横壁51の影響により、液流路13の壁面141方向へ広がるような流れをもつ分布となる。
このため、第1の液体31もしくは第2の液体32の流量を調整することにより、第1の流入口20と液流路13の壁面141との間の領域にも第1の液体31の流れを生じさせることができる。つまり、本実施形態では、第1の液体31の流量を調整することにより下段流路131を第1の液体31で満たすことができる。その結果、第2の液体32は、上段流路132の方に流れやすくなる。この場合、第1の液体31は下段流路131に沿って流れ、第2の液体32は上段流路132に沿って流れ、第1の液体31および第2の液体32は横壁51の下流側端部にて合流することになる。
図8(e)は図8(a)のVIIIe-VIIIe断面線に沿った断面図である。横壁51の下流側端部で合流した第1の液体31と第2の液体32とは、液流路13のz方向に並ぶような液液界面を形成する。この液液界面を維持したまま第1の液体31および第2の液体32は圧力室18まで流れる。このため液体を吐出させるために圧力発生素子12と接するのは第1の液体31であり、吐出口11側に第2の液体32が流れることから安定的に第2の液体32を吐出させることができる。
次に、図8に比べて、第1の液体31の流量が少ないまたは第2の液体32の流量が多いため、上段流路132には第2の液体32のみが流れ、下段流路131には第1の液体31に加えて第2の液体32も流れる2つの例について説明する。図9(a)は、図8(c)の断面図に対応する本例の断面図である。第1の流入口20を出た第1の液体31が横壁51に向かって流れるが、本例は液流路13の壁面141の方向には第1の液体31が十分に広がらない例である。このため第1の流入口20と壁面141との間には第1の液体31の流れが生じにくい領域が発生する。このため、第1の流入口20と液流路13の壁面141との間には第2の液体32が流入しやすくなっている。よって、下段流路131では第1の液体31を幅方向に挟むように第2の液体32が流れ、液流路13の幅方向(x方向)に流れの層が3層形成される。この3層の流れは横壁51の下流側端部で上段流路132を流れる第2の液体32と合流する。合流後の液流路13では第1の液体31を取り囲むように第2の液体32が流れる。この状態を維持したまま、第1の液体31および第2の液体32は圧力室18まで流れる。
図9(b)は図8(e)の断面図に対応する本例の断面図である。圧力室18では第2の液体32が第1の液体31を囲むような液液界面が形成される。このような液液界面の状態であっても、液体を吐出させるために圧力発生素子12と接するのは主に第1の液体31であり、吐出口11側には第2の液体32があることから、本例においても安定的に第2の液体32を吐出させることができる。
図10は、下段流路131に第1の液体31に加えて第2の液体32も流れるもう1つの例を説明するための図である。図10(a)は図8(b)の断面図に対応する本例の断面図である。また図10(b)は図8(c)断面図に対応する本例の断面図である。本例では、第2の液体32の流量が多く、上段流路132を流れることが可能な流量以上に第2の液体32が流れている。この影響により、下段流路131において第1の液体31と横壁51との間に第2の液体32の流れが生じている。下段流路131を流れる液体は、この液液界面の形状のまま横壁51の下流側端部において上段流路132を流れる第2の液体32と合流する。
図10(c)は図8(e)断面図に対応する本例の断面図である。圧力室18では第2の液体32が第1の液体31を囲むような液液界面が形成される。このため主に第1の液体31が圧力発生素子12と接し、吐出口11近傍には第2の液体32が存在することになる。よって、本例においても圧力発生素子12によって第1の液体31を安定的に発泡させ、第2の液体32を吐出することができる。
最後に、本実施形態において、第1の液体31の流量が多いために上段流路132に第2の液体32に加えて第1の液体31が流れ、下段流路131には第1の液体31のみが流れる例について説明する。図11は本例を説明するための図である。図11(a)は図8(b)の断面図に対応する本例の断面図である。図11(b)は図8(c)断面図に対応する本例の断面図である。本例では第1の液体31の流量が大きいため、下段流路131における第1の液体31の流れは、液流路13の壁面141の方向への広がりだけではなく、液流路13において液体が流れる方向に逆流する流れももつ。このため第1の液体31は横壁51に沿って上段流路132へと流れ、上段流路132では第2の液体32と横壁51との間に第1の液体31が流れることになる。上段流路132と下段流路131とをそれぞれ流れる液体は横壁51の下流側端部で合流する。
図11(c)は図8(e)の断面図に対応する本例の断面図である。圧力室18では第1の液体31と第2の液体32とが高さ方向(z方向)に積層するように液液界面が形成される。このため第1の液体31が圧力発生素子12と接し、吐出口11近傍には第2の液体32が存在することになる。よって、本例においても圧力発生素子12によって第1の液体31を安定的に発泡させ、第2の液体32を吐出することができる。但し、本例では、第1の液体31の流量が多いことから吐出時に第1の液体31が混入することがある。
以上説明したように、横壁51があることによりヒータ上に第1の液体31があるように第1の液体31は液流路の幅方向に広がって流動し、液流路13に対してz方向に第1の液体31と第2の液体とが積層して流れるような液液界面が形成されやすくなる。第1の液体31と第2の液体32の流量や物性が変化した場合であっても、横壁51によって、第1の液体31が圧力発生素子12と接するように流れ、吐出口11近傍には第2の液体32が存在するように流れるような液液界面を形成させることができる。このため、圧力発生素子12によって第1の液体31を安定的に発泡させ、第2の液体32を吐出することができる。
(横壁の長さ)
図12は、図8(b)における横壁51付近の拡大図である。図12に基づき横壁51の構成について説明する。液流路13に液体が流れる方向(y方向)における上流側の横壁51の端部と、液流路13に液体が流れる方向における上流側の第1の流入口20の開口端との距離を第1のクリアランスC1とする。また、液流路13に液体が流れる方向における下流側の横壁51の端部と、液流路13に液体が流れる方向における下流側の第1の流入口20の開口端との距離を第2のクリアランスC2とする。横壁51の端部が第1の流入口20の内側にある状態をクリアランスがマイナス(C1<0またはC2<0)と定義する。つまり図12における横壁の上流側、下流側それぞれの端部は、第1の流入口20より外側(流路側)にある。このため図12における横壁51の第1のクリアランスC1および第2のクリアランスC2はそれぞれ、C1>0、C2>0である。
上段流路132には第2の液体32が流れ、下段流路131には第1の液体31が流れるようにするためには、横壁51の下流側の第2のクリアランスC2はC2≧0であることが好ましい。
横壁51の下流側の第2のクリアランスがC2<0の場合、第1の流入口20に対向する位置に横壁51が無い領域があることになる。第1の流入口20に対向する位置に横壁51が無い領域については、第1の流入口20から出た第1の液体31は、横壁51に衝突しないで、前述した比較例のように第2の液体32と直接合流してから液流路13を流れる。よって横壁51の効果は薄くなり、その結果、圧力室18では、図6(d)の比較例と同様に、第1の液体31と第2の液体32とが液流路13の幅方向(x方向)に並ぶような液液界面が形成されやすくなる。
図13は、横壁51の第1のクリアランスC1がC1<0の場合を説明するための図である。図13(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図13(b)~(d)は、図13(a)のXIIIb-XIIIb、XIIIc-XIIIcおよびXIIId-XIIIdのそれぞれの断面線に沿う断面図である。
横壁51の第1のクリアランスC1がC1<0の場合、第1の流入口20から出た第1の液体31は、図12のC1≧0の場合と比較すると上段流路132へ流れ易くなる。このとき上段流路132において第1の液体31は、液流路13の壁面141および天井(オリフィスプレート14)付近では流れにくい。このため上段流路132における壁面141付近または天井付近には第2の液体32が流れる。よって上段流路132では図13(c)のように、第2の液体32が第1の液体31を覆うような液液界面が形成される。横壁51の下流側端部で上段流路132と下段流路131とをそれぞれ流れた液体が合流し、圧力室18では図13(d)に示す液液界面となる。
図14は横壁51の第1のクリアランスC1がC1<0である場合の別の例を示す図である。図14(a)は図13(b)と、図14(b)は図13(c)と、図14(c)は図13(d)とそれぞれ同様の断面図である。本例では、図13の例に比べて第1の液体31の流量が少ないため上段流路132へ流れる第1の液体31の流量が少なくなる。このため、図14(c)のように圧力室18では、吐出口11近傍に存在する第1の液体31の量を減らすことができる。よって、吐出口11から吐出される液体のうち第2の液体32の割合を増やすことができる。
以上説明したように横壁51の第1のクリアランスC1がC1<0であっても、圧力室18では第1の液体31が圧力発生素子12と接するように流れ、吐出口11近傍には第2の液体32が存在するように流れる液液界面を形成させることができる。このため、圧力発生素子12によって第1の液体31を安定的に発泡させ、第2の液体32を吐出させることができる。但し、横壁51の第1のクリアランスC1がC1≧0の場合に比べて、C1<0の場合には吐出口11から吐出される液体には第1の液体31が含まれやすくなる。
(横壁の幅)
図15は、吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図であり、横壁51の幅方向の一端部が液流路13の壁面と接しているが他端部は液流路13の壁面に届いていない例を示す図である。圧力室18において第1の液体31と第2の液体32とが高さ方向に積層して流れるためには、横壁51の幅方向の長さは、液流路13の幅方向の長さWと同じ長さであることが好ましい。しかし、本例のように横壁51の幅方向の長さが液流路13の幅方向の長さWよりも短い場合でも、横壁51の幅方向の長さが液流路13の幅方向の長さWが同じ場合と同様の効果が得られる。ただし、横壁51の幅方向の長さが液流路13の幅方向の長さWよりも短い場合は、図15のように横壁51が第1の流入口20の開口を覆うように配置して、第1の流入口20から流入した第1の液体31を横壁51に衝突させるようにすることが好ましい。また、横壁51の幅方向の他端部が液流路13の壁面に届いていない場合には、例えば、横壁51は液流路13の天井(オリフィスプレート14)から突出している支柱のような部材によって支えられている形態であってもよい。これにより、横壁51と壁面との接続面積が小さく接続箇所の強度が小さい場合であっても、横壁51と壁面および横壁51と支柱の2か所で横壁51が支持されることにより、横壁51を液流路13内に確実に固定することができる。また、横壁51の幅方向の長さが液流路13の幅方向の長さWよりも短い場合、横壁51は液流路13の左右のどちらの壁面に接していない形態であってもよい。この場合にも、例えば、横壁51は液流路13の天井(オリフィスプレート14)から突出している支柱のような部材によって支えられている形態であってもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の液体31と第2の液体32とが圧力室18において高さ方向(z方向)に並んで流れるような液液界面を形成させることができる。このため圧力発生素子12と接するのは第1の液体31であり、吐出口側には第2の液体32があることから、圧力発生素子12によって第1の液体31を発泡させることにより、第2の液体32を吐出させることができる。
尚、圧力室18の中を流れる第1の液体や第2の液体は、圧力室18の外部との間で循環してもよい。循環を行わない場合には、液流路13及び圧力室18の中で平行流を形成した第1の液体及び第2の液体のうち、吐出されなかった液体が多く発生してしまう。この為、第1の液体や第2の液体を外部との間で循環させると、吐出されなかった液体を再び平行流を形成する為に使用することができる。
(第1の液体と第2の液体の具体例)
以上説明した本実施形態の構成では、第1の液体は膜沸騰を生じさせるための発泡媒体、第2の液体は大気中に吐出するための吐出媒体、というように、主にそれぞれに求められる機能が明確になる。本実施形態の構成によれば、第1の液体および第2の液体に含有させる成分の自由度を従来よりも高めることができる。以下、このような構成における発泡媒体(第1の液体)と吐出媒体(第2の液体)について、具体例を挙げて詳しく説明する。
例えば本実施形態の発泡媒体(第1の液体)としては、電気熱変換体が発熱した際に媒体中に膜沸騰が生じ、生成された気泡が急激に増大すること、即ち熱エネルギを効率的に発泡エネルギに変換可能な高い臨界圧力を有することが求められる。このような媒体としては、特に水が好適である。水は、分子量が18と小さいにも関わらず高い沸点(100℃)と高い表面張力(100℃で58.85dyne/cm)を有し、約22MPaと大きな臨界圧力を有する。即ち、膜沸騰時における発泡圧力も非常に大きい。一般に、膜沸騰を利用してインクを吐出する方式のインクジェット記録装置においても、染料や顔料のような色材を水に含有させたインクを好適に用いている。
但し、発泡媒体は水に限定されるものではない。臨界圧力が2MPa以上であれば(好ましくは5MPa以上であれば)、発泡媒体としての機能を果すことはできる。水以外の発泡媒体の例としては、例えばメチルアルコールやエチルアルコールが挙げられ、水にこれら液体を混合させたものを発泡媒体として用いることもできる。また、上述のように染料や顔料などの色材や、その他の添加剤などを水に含有させたものも用いることができる。
一方、例えば本実施形態の吐出媒体(第2の液体)については、発泡媒体のように膜沸騰を生じさせるための物性は要求されない。また、電気熱変換体(ヒータ)上にコゲが付着すると、ヒータ表面の平滑性が損なわれたり熱伝導率が低下したりして発泡効率の低下が懸念されるが、吐出媒体はヒータに直に接触しないので、含有する成分が焦げるおそれもない。即ち、本実施形態の吐出媒体においては、従来のサーマルヘッドのインクに比べ、膜沸騰を生じさせたりコゲを回避したりするための物性条件が緩和され、含有成分の自由度が増す。このため結果として吐出後の用途に適した成分をより積極的に含有させることが可能となる。
例えば、ヒータ上で焦げ易いことを理由に従来は使用されていなかった顔料を、本実施形態では吐出媒体に積極的に含有させることができる。また、臨界圧力が非常に小さな水性インク以外の液体も、本実施形態では吐出媒体として使用することができる。さらに、紫外線硬化型インク、導電性インク、EB(電子線)硬化型インク、磁性インク、ソリッド型インクなど、従来のサーマルヘッドでは対応困難であった特別な機能を有する様々なインクを、吐出媒体として用いることが可能となる。また、吐出媒体として血液や培養液中の細胞などを用いれば、本実施形態の液体吐出ヘッドを画像形成以外の様々な用途に利用することもできる。バイオチップ作製や電子回路印刷などの用途にも有効である。尚、第2の液体については制限がないので、第1の液体で挙げたような液体と同じ液体を用いることもできる。例えば2つの液体がいずれも水を多く含有したインクであっても、例えば使用の形態といった状況に応じて、一方のインクを第1の液体、他方のインクを第2の液体として用いることができる。
<第2の実施形態>
本実施形態は、圧力室18において第1の液体31と第2の液体32とが高さ方向(鉛直方向)に積層して流れる液体吐出ヘッド1の別の形態を説明する。本実施形態については、第1の実施形態からの差分を中心に説明する。特に明記しない部分については第1の実施形態と同じ構成である。
(水相厚と合流壁の関係)
図16は、本実施形態における素子基板10に形成された1つの液流路および圧力室18を説明するための図である。図16(a)は吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図16(b)は、図16(a)のXVIb-XVIb断面線に沿う断面図である。また、図16(c)は素子基板における1つの液流路13近傍の拡大図である。
本実施形態は、図16(b)に示すように、第1の流入口20よりも、液流路13に液体が流れる方向(y方向)の上流側において、基板15が液体と接する表面151に合流壁(縦壁)41が設けられている。合流壁41は、基板15の液流路13側の表面151から突出している壁部(第2の壁)である。合流壁41端部のうち、液流路13に液体が流れる方向における下流側の端部は、液流路13に液体が流れる方向における上流側の第1の流入口20の開口端上にあるように設けられている。
さらに、合流壁41には、液体が流れる方向の下流に向かって突出する突出部43(横壁)が設けられている。合流壁41と突出部43とは一体として形成されており、突出部43は第1の流入口20に対向するように形成されている。合流壁41は第1の流入口20よりも上流側に配置されていることから、合流壁41によって下段流路131に流入する第2の液体32は遮らえる。このため、液流路13の流れの方向の左右にある液流路13の壁面と第1の流入口20との間には、合流壁41を設置しない場合に比べて第1の液体31の流れが大きく生じる。その結果、合流壁41によって下段流路131には第1の液体31が流れ、上段流路132には第2の液体32が流れるようになる。なお、図16のように合流壁41の幅方向の長さは液流路の幅方向の長さWと同じ長さであることが好ましい。
(水相厚と突出部の突出量との関係)
図17(a)、(b)、および(c)は、図16(b)の合流壁41付近の拡大図であり、合流壁41の突出部43の突出量を説明するための図である。突出部43の下流側(+y方向)の端部と、第1の流入口20の下流側(+y方向)の開口端との距離をクリアランスC3とする。また突出部43の下流側の端部が第1の流入口20の下流側の端部よりも上流にある状態のクリアランスはマイナス(C3<0)と定義する。
図17(a)は、突出部43のクリアランスC3がマイナス(C3<0)の状態の例を示す図である。この例では、突出部43は第1の流入口20の全体を覆わない。図17(b)は、合流壁41のクリアランスC3がゼロ(C3=0)の状態の例を示す図である。この例では、突出部43は第1の流入口20の全て覆っている。また、図17(c)は、突出部43のクリアランスC3がプラス(C3>0)の状態の例を示す図である。この例では、突出部43は第1の流入口20を全て覆い、突出部43の先端は第1の流入口20の下流側の流路まで達している。
圧力室18において第1の液体31と第2の液体32とが鉛直方向に積層して流れるような液液界面を形成する観点では、第1の流入口20をすべて被覆する構成であるクリアランスC3は0以上(C3≧0)の状態が好ましい。図17(a)に示すように突出部43のクリアランスC3がマイナス(C3<0)の場合は、クリアランスが0以上(C3≧0)の場合に比べて、吐出される液体に第1の液体31が含まれやすくなる。しかし第1の実施形態における横壁51とは異なり、合流壁41によって第2の液体32の下段流路131への流入が遮られるため第2の液体32を安定的に吐出することは可能である。従って、吐出口11から吐出する液体に含まれる第1の液体31を低減させたいとき、クリアランスC3は0以上(C3≧0)とするよう突出部43を形成する。また、吐出口11から吐出する液体に第1の液体31を含ませる必要がある場合にはクリアランスC3をマイナス(C3<0)とするように突出部43を形成する。
図17(c)、(d)および(e)は、突出部43の有する高さ方向における位置である合流壁高bが異なる場合を説明するための図である。図17(c)は、合流壁高bが、第1の液体31の相の厚さh1と略等しくなるような例を示す図である。図17(d)は、第1の液体31の相の厚さh1に比べて合流壁高bが小さい例を示す図である。図9(e)は、第1の液体31の相の厚さh1に比べて合流壁高bが大きい例を示す図である。
粘度比および流量比が一定の場合、水相厚比hrは一定である。このため、第1の液体31の相の厚みh1は、液流路13の高さ方向の長さが同じである限り一定の厚さを維持する。このため、図17(c)、(d)、(e)のいずれの突出部43の構成であっても、圧力室18における第1の液体31の相の厚みh1は同じになる。
第2の液体32に記録形成に必要な機能を持つ記録媒体を使用し、第2の液体32を安定的に吐出できるように第1の液体31として発泡媒体である水を使用する場合、第2の液体32は、第1の液体31に比べて高粘度になる。この場合、第2の液体32の供給性を高めることが好ましい。合流壁高bが大きくなると合流壁41上にある上段流路132の高さ方向の長さは小さくなる。この場合、上段流路132を流れる第2の液体32の流量が制限されることになる。このため、第2の液体32に記録形成に必要な機能を持つ記録媒体を使用し、第1の液体31として発泡媒体である水を使用する場合、合流壁高bは小さい構成が好ましい。
以上説明したように、本実施形態によっても、第1の液体31と第2の液体32とが圧力室18において高さ方向(鉛直方向)に並んで流れるような液液界面を形成させることができる。このため圧力発生素子12と接するのは第1の液体31であり、吐出口側には第2の液体32があることから、圧力発生素子12によって第1の液体31を発泡させることにより、第2の液体32を吐出させることができる。
(第1の製造方法)
図18は、本実施形態における液流路13に合流壁41を有する素子基板10の第1の製造方法について説明するための図である。図18(a)は、第1の流入口20、第2の流入口21、第1の流出口25、第2の流出口26が貫通している基板15の断面を示す図である。以下、図18(a)から図18(h)の順に工程が進むものとする。
図18(b)に示すように、基板15に第1のパターン110を形成する材料をドライフイルムのラミネートにより積層する。第1のパターン110を形成する材料は、感光性樹脂でありポジレジスト(ポジ型感光性樹脂)である。このため露光および現像することにより基板15上に第1のパターン110が形成される。また、第1のパターン110は第1の流入口20、第2の流入口21、第1の流出口25、第2の流出口26を覆う構造になっている。第1のパターン110は液流路13の内部空間の一部を形成するための型となる。よって第1のパターン110は、後の工程において除去される。
次に図18(c)が示すように、第1のパターン110が形成された基板15上に、第1の被覆層120を積層する。第1の被覆層120の材料は感光性樹脂でありネガレジスト(ネガ型感光性樹脂)であることが好ましい。以下の説明では、第1の被覆層120の材料はネガ型感光性樹脂が用いられるものとして説明する。
次に図18(d)が示すように、第1の被覆層120にパターン露光を行う。露光後、この工程では現像は行わず第1の被覆層120の未露光部122は潜像として残しておく。第1の被覆層120の露光部121は液流路13を形成する形成部材であるオリフィスプレート14の一部および合流壁41になる。
次に図18(e)が示すように、第2のパターン140を形成する材料を第1の被覆層120の上に積層する。第2のパターン140を形成する材料による積層はドライフイルムで行われる。第2のパターン140を形成する材料は、感光性樹脂でありポジレジスト(ポジ型感光性樹脂)である。また第2のパターンを形成する材料は、光吸収作用のある材料であることが好ましい。第2のパターン140は、液流路13の内部空間の一部を形成するための型となる。よって第2のパターン140は後の工程において除去される。
図19(a)は図18(e)のXIXa-XIXa断面線に沿う断面図の例を示す図である。第1の被覆層120の未露光部122の両側には、第1の被覆層120の露光部121が有している。また、第1のパターン110の上に第1の被覆層120の未露光部122が積層されている。また、第2のパターン140は第1の被覆層120の未露光部122を覆うように積層されている。
次に図18(f)が示すように第2の被覆層170を積層する。本製造方法では、第2の被覆層170を形成する材料は第1の被覆層120を形成する材料と同じ材料が用いられる。第2の被覆層170は、液流路13を形成する形成部材であるオリフィスプレート14の一部となる。図19(b)は図18(f)のXIXb-XIXb断面線に沿う断面図の例を示す図である。
次に図18(g)が示すように、第2の被覆層170の吐出口部分を露光して、現像することにより吐出口11を形成する。この際、第1の被覆層120の未露光部122は、光吸収作用のある材料によって形成された第2のパターン140によって覆われている。このため、吐出口11を形成するための露光による光が第2のパターン140で遮られる。このため、第1の被覆層120の未露光部122が、吐出口11を形成するための露光に影響されないようにすることができる。
次に図18(h)が示すように、第1のパターン110、第2のパターン140および第1の被覆層120の未露光部122を除去する。図19(c)は図18(h)のXIXc-XIXc断面線に沿う断面図の例を示す図である。
以上説明したように本製造方法によれば、第1の被覆層120の積層時に第1の被覆層120の未露光部122を現像しない。このため、第2のパターン140を第1の被覆層120の未露光部122の上に積層することができる。このため第2のパターン140の落ち込みを防止し第2のパターン140を平坦に積層することができる。さらに平坦に積層された第2のパターン140の上にオリフィスプレートの一部となる第2の被覆層170を積層することができる。よって、オリフィスプレートの段差の発生を抑制し厚さの分布を少なくすることができる。このため吐出口の高さばらつきの小さいインクジェット記録ヘッドのための素子基板を製造することができる。
また、第2の液体32は液流路13においてオリフィスプレートと接して流動する。このため、段差の無いオリフィスプレートによって、液流路13内において第2の液体32は層流として流動させることができる。よって、第1の液体31と第2の液体32とが層流状態の平行流を形成する上でも段差の無いオリフィスプレートを製造することは有効である。
(第2の製造方法)
図20は、本実施形態における液流路13に合流壁41を有する素子基板10の第2の製造方法について説明するための図である。図20(a)は、第1の流入口20、第2の流入口21、第1の流出口25、第2の流出口26が貫通している基板15の断面を示す図である。以下、図20(a)~図20(h)の順に工程が進むものとする。図20(b)~図20(e)の図が示す工程は、図18(b)~図18(e)の図が示す工程と同じであるため説明を省略する。
図20(f)が示すように、第2のパターン140を形成した後、第2の被覆層160を積層する。本製造方法では、第1の被覆層120を形成するための材料と第2の被覆層160を形成するための材料は異なる材料が用いられる。本製造方法においても第2の被覆層160の材料はネガ型感光性樹脂が用いられるが、第2の被覆層160を形成するネガ型感光性樹脂は、第1の被覆層120を形成するネガ型感光性樹脂よりも未露光部の感度が高い材料が用いられる。
次に図20(g)が示すように、第2の被覆層160の吐出口部分を露光および現像することより吐出口11を形成する。図20(h)の図の工程は、図18(h)の図と工程と同じあるため説明を省略する。
以上説明したように、本製造方法では、第2の被覆層160を形成する材料には、第1の被覆層120を形成する材料よりも未露光部の感度が高い材料が用いられる。よって、第1の製造方法に比べて、第2の被覆層160への露光による第1の被覆層120の未露光部122への影響をさらに抑制させることができる。
(実施例1)
以下に示す工程によって液体吐出ヘッドを製造した。本実施例は第1の製造方法を元に製造したものである。まず、エネルギ発生素子として発熱抵抗体をφ200mmのシリコン基板上に形成した。次に、シリコン基板に第1の流入口、第2の流入口、第1の流出口、および第2の流出口を形成した。次に、第1のパターンとして、東京応化製ポジレジストODUR-1010Aを基板上に形成し、露光機により流路パターンを露光し、現像によりパターンを形成した。さらに、第1の被覆層としてカチオン重合エポキシ樹脂溶液を、流路パターンが形成された基板上にスピン塗布してエポキシ樹脂層を形成した。
その後、第1の被覆層であるエポキシ樹脂層の露光を行い、未露光部の現像は行わずに第2のパターンである東京応化製ポジレジスト ODUR-1010Aをエポキシ樹脂層上に積層した。積層はドライフイルムのラミネートによって行った。次に、第1の被覆層であるエポキシ樹脂層と同じエポキシ樹脂層を第2の被覆層として積層し、露光および現像後に全ての層の未露光部、第1のパターン、および第2のパターンの除去を行った。
基板上の樹脂層表面及び分離壁表面は平坦であり、オリフィスプレートの厚さ分布の少ない液体吐出ヘッド用素子基板を製造することができた。さらに、この液体吐出ヘッド用ウエハを切断、実装、組立を行い、液体吐出ヘッドを製造することができた。
(実施例2)
以下に示す工程によって液体吐出ヘッドを製造した。本実施例は第2の製造方法を元に製造したものである。第1のパターン、第1の被覆層と積層する工程は、実施例1と同様である。その後、第1の被覆層であるエポキシ樹脂層の露光を行い、未露光部の現像は行わずに第2のパターンである東京応化製ポジレジストODUR-1010Aをエポキシ樹脂層上に積層した。積層はドライフイルムのラミネートによって行った。次に、第1の被覆層であるエポキシ樹脂層よりも高感度であるエポキシ樹脂層を第2の被覆層として積層し、露光および現像後に全ての層の未露光部、第1のパターン、および第2のパターンの除去を行った。
基板上の樹脂層表面及び分離壁表面は平坦であり、オリフィスプレートの厚さ分布の少ない液体吐出ヘッド用ウエハを製造することができた。さらに、この液体吐出ヘッド用ウエハを切断、実装、組立を行い、液体吐出ヘッドを製造することができた。
次に、参考例として、第1の被覆層の未露光部の現像を行った後に第2のパターンを形成した例を説明する。
(参考例1)
図21に示す参考例によって液体吐出ヘッドを製造した。まず、エネルギ発生素子として発熱抵抗体をφ200mmのシリコン基板上に形成した。次に、図21(a)に示すように基板15に第1の流入口20、第2の流入口21、第1の流出口25、および第2の流出口26を形成した。
図21(b)に示すように、第1のパターン110として、東京応化製ポジレジストODUR-1010Aを基板上に形成し、露光機により流路パターンを露光し、現像によりパターンを形成した。
図21(c)に示すように、第1の被覆層120としてカチオン重合エポキシ樹脂溶液を、流路パターンが形成された基板上にスピン塗布してエポキシ樹脂層を形成した。この図21(a)~図21(c)の説明は第1のパターンおよび第1の被覆層を積層する工程までを説明するための図であり、実施例1と同様の工程である。
図21(d)に示すように、第1の被覆層120であるエポキシ樹脂層の露光を行い、未露光部の現像を行った。
図21(e)に示すように第2のパターン140として東京応化製ポジレジスト ODUR-1010Aを第1の被覆層120であるエポキシ樹脂層上に積層した。積層は塗布で行った。次に、図21(f)に示すように、第2の被覆層160としてエポキシ樹脂層の積層を行った。
図21(g)に示すように吐出口11部分の露光・現像を行い、次に、図21(h)に示すように第1のパターン110、および第2のパターン140の除去を行った。基板上の樹脂層表面は平坦ではなく、オリフィスプレートの厚さ分布の少ないヘッド用ウエハを製造することはできなかった。
(参考例2)
以下に示す工程によって液体吐出ヘッドを製造した。第1のパターンおよび第1の被覆層を積層する工程は、実施例1と同様である。その後、第1の被覆層であるエポキシ樹脂層の露光を行い、未露光部の現像を行った上で、第2のパターンである東京応化製ポジレジストODUR-1010Aをドライフイルム化した上でエポキシ樹脂層上に積層した。第1の被覆層であるエポキシ樹脂層の、パターニングによって発生した段差をドライフイルムのテンティングにより小さくしようとしたが、テンティング領域が大きく、ドライフイルムが垂れ下がってしまった。次に第2の被覆層としてエポキシ樹脂層の積層を行い、露光および現像後に第1のパターン、および第2のパターンの除去を行った。基板上の樹脂層表面は平坦ではなく、オリフィスプレートの厚さ分布の少ないヘッド用ウエハを製造することはできなかった。
<第3の実施形態>
本実施形態においても、図1~図3に示した液体吐出ヘッド1および液体吐出装置を使用する。
図22は、本実施形態における液流路13の構成を示す図である。前述の実施形態で説明した液流路13と異なる点は、液流路13に第1の液体31と第2の液体32に加えて第3の液体33を流していることである。第2の液体を圧力室内に流動させることにより、前述したような、臨界圧力の大きい発泡媒体を第1の液体とし、第2の液体および第3の液体には異なる色のインクや高濃度樹脂EM等を採用することができる。
図22(a)は、吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図22(b)は、図22(a)のXXIIb-XXIIb断面線に沿う断面図である。本実施形態の液流路13においては、前述した実施形態における第1の液体31と第2の液体32の層流状態の平行流に加えて、第3の液体33によっても層流状態の平行流を形成するように、それらの液体が流動可能である。液流路13の内面(底面)に相当する基板15には、第2の流入口21、第3の流入口22、第1の流入口20、第1の流出口25、第3の流出口27、第2の流出口26が、y方向においてこの順に形成されている。吐出口11と圧力発生素子12とを含む圧力室18は、液流路13の中で第1の流入口20と第1の流出口25との間のほぼ中央に配されている。
第1の液体31および第2の液体32は、前述した実施形態と同様に、第1の流入口20および第2の流入口21から液流路13に流入され、y方向に流動した後、圧力室18を通って第1の流出口25および第2の流出口26から流出される。第3の流入口22を通して流入される第3の液体33は、液流路13に導入されてから、液流路13内をy方向に流動した後、圧力室18を通って第3の流出口27から導出されて回収される。したがって、液流路13内において、第1の流入口20と第1の流出口25との間には、第1の液体31と第2の液体32と第3の液体33が共にy方向に流動する。その際、圧力室18の中で、第1の液体31は、圧力発生素子12が位置する圧力室18の内面に接し、第2の液体32は、吐出口11にメニスカスを形成し、第3の液体は、第1の液体31と第2の液体32との間を流動する。
本実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様に、第1の流入口20の対向する位置に横壁511が設けられている。さらに、本実施形態では、第3の流入口22の対向する位置に横壁512が設けられている。これらの横壁511,512は、前述した第1の実施形態の横壁51と同様に機能する。図22(c)は図22(b)の圧力室近傍の拡大図である。横壁511,512を設けることにより、圧力室18において第1の液体31と第2の液体32と第3の液体33とが鉛直方向に積層して流れるようにすることができる。また前述した第2の実施形態と同様に合流壁41を設けてもよい。また、液流路13内に4種類以上の液体を積層しているように流す場合も同様である。
<その他の実施形態>
前述の実施形態では、第1の流入口20の幅方向の長さLは液流路13の幅方向の長さWより短い(L<W)構造であるものとして説明した。しかし、第1の流入口20の幅方向の長さLが液流路13の幅方向の長さWと同等(L=W)、または第1の流入口20の幅方向の長さLが液流路13の幅方向の長さWより長い(L>W)形態もある。このような形態であっても、横壁51または合流壁41を設けることにより、圧力室18において第1の液体31と第2の液体32が鉛直方向に積層して流れるような液液界面を形成させる上で有効である。
図23は、上述した第1の流入口20の幅方向の長さLが、液流路13の幅方向の長さWより長い構造(L>W)の形態を示す図である。図23(a)は、吐出口11の側(+z方向側)から見た透視図、図23(b)は、図23(a)のXXIIIb-XXIIIb断面線に沿う断面図である。なお、図23は、L>Wである構造に合流壁41及び突出部が設けられている形態を示す図であるが、L>Wである構造に第1の実施形態のような横壁51のみが設けられている形態であってもよい。
本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置は、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドおよびインクジェット記録装置に限定されない。本発明の液体吐出ヘッド、液体吐出装置、および液体吐出方法は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには、各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。特に第2の液体として様々なものが用いられるので、バイオチップ作製および電子回路印刷などの用途としても用いることもできる。