JP2006272076A - イオンビームによる表面改質方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 金属、半導体、絶縁物および有機物等の固体表面にクラスターイオンビームを照射し、該固体の表面に超親水性を付与する表面改質を行い、該固体表面でのアパタイト等のバイオ材料や有機材料の成長を促進することができるようにする。
【解決手段】 所定の加速電圧で加速された水クラスターイオンビーム、若しくは、酸素クラスターイオンビーム及びモノマーイオンビームを固体表面に照射することによって、該表面に接触角15°以下の超親水性を付与する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、金属、半導体、絶縁物および有機物等の固体表面にクラスターイオンビームを照射し、該固体の表面に超親水性を付与する表面改質を行い、該固体表面でのアパタイト等のバイオ材料や有機材料の成長を促進することができるイオンビームによる表面改質方法に関する。
従来、真空中で基板の表面改質を行う場合、常温で気体や液体の物質のイオンビームを用いて表面改質を行っていた。例えば、基板表面に親水性を付加する場合、アルゴンや酸素等の気体物質の原子・分子状のイオンビームを数keV以上に加速して基板表面に照射し、該表面に多数の照射欠陥を形成した後、該基板を真空中から取り出して大気に曝すことによって、該照射欠陥の一部を酸素と結合させて表面改質を行っていた。そのため、該基板表面から深く入った基板内部には、供給される酸素が少ないため、多数の欠陥が未結合のままに残っており、表面改質された該基板表面は安定性に欠ける欠点があった。
また、常温で液体物質のイオンビームを用いて、該液体物質の分子イオンの化学的性質を活用した表面改質を行う場合、該液体分子を基板表面に付着することが必要となる。そのため、入射エネルギーを100eV以下の低エネルギーにする必要があった。しかし、従来の原子あるいは分子状のイオンビーム装置では、入射エネルギーが100eV以下ではイオン電流は極端に少なくなるため、入射エネルギーを数keV以上に高くしたイオンビームを利用しなければならなかった。この場合、数keV以上の高いエネルギーで基板に入射する液体分子のイオンビームは、基板に衝突すると該分子の崩壊が生じて、分子の性質を失うため該基板表面の化学的改質を行うことができなかった。
さらに、擬似体液中でアパタイト等のバイオ材料を基板表面に成長させる場合、従来は機械的に該基板表面に傷をつけ、該基板を擬似体液に浸漬して、アパタイトを成長させていた。例えば、ポリエチレン等の高分子基板では、該基板表面が撥水性であるためアパタイトは成長できなかった。そのため、ヤスリで該基板表面に傷をつけて、該基板表面の形状を変えることによって、アパタイトを成長させていた。しかし、ヤスリで該基板表面に傷をつける場合、該基板表面が金属物で汚染される欠点があった。
一方、本願発明者らは、クラスターイオンビームによる固体表面の改質方法及び装置につき研究開発を行っており、その成果を特許文献1に開示している。この文献に開示された液体他原子イオンビーム発生装置は、常温で液体の物質を小孔から真空中に噴射させることでクラスターを生成し、該クラスターをイオン化してイオンビームとして引き出すことができる電離部と該イオン化したクラスターを質量の大きさによって選別できる質量分離器を有し、質量分離されたイオンビームを加速し、該加速エネルギーを制御して基板の表面に照射し、該基板の表面洗浄化や表面改質を行うことができるようになっている。
特開2003−308796号公報
本発明は、クラスターイオンビームによる表面改質方法を応用することによって、従来のモノマーイオンビームによる表面改質方法の欠点を解消しつつ、固体表面に高度の親水性を付与し得るイオンビームによる表面改質方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記目的を達成するために、次の技術的手段を講じた。
即ち、本発明のイオンビームによる表面改質方法は、所定の加速電圧で加速された水クラスターイオンビームを固体表面に照射することによって、該表面に接触角10°以下の超親水性を付与することを特徴とするものである。これによれば、水クラスターイオンビームを固体表面に照射し、そのイオンビームの物理的・化学的性質を活用して、固体表面に多数の欠陥を形成すると同時に未結合の欠陥を水クラスターイオンビームによる入射イオンによって結合して、該基板の表面処理を行うことによって、固体表面に高度の親水性を付与できる。なお、質量分離器等によって所定サイズ未満の水クラスターイオン及びモノマーイオンを分離排除することで、所定サイズ以上(例えば分子数90〜100以上)の水クラスターイオンのみからなるイオンビームを固体表面に照射するのが好ましい。
また、本発明のイオンビームによる表面改質方法は、所定の加速電圧で加速された水クラスターイオンビームを固体表面に照射することによって、固体表面に存在する疎水性原子若しくは疎水基を親水基で置換するとともに、水クラスターイオンビームによって供給される水クラスターが分解することによって得られる水分子を前記親水基上に付着させて水分子の薄い層を固体表面に形成させ、これにより該表面に接触角10°以下の超親水性を付与することを特徴とするものである。本発明において、親水基は、ヒドロキシル基(−OH)が代表例であるが、その他固体表面での反応によって生成される親水基であってもよい。固体表面に付着される水分子は、ヒドロキシル基と水素結合によって付着されてることが好ましいが、一時的な親水性の付与の為にはファンデルワールス力などの弱い結合によって付着されていてもよい。
上記本発明方法において、各種処理条件の最適化等によって接触角5°以下の超親水性を固体表面に付与することも可能である。
また、好ましくは、前記加速電圧を5kV以上10kV以下とすることができ、より好ましくは加速電圧を8kV以上とすることができる。
また、固体表面への水クラスターイオンの全照射量を、1.0×1014〜1.0×1016ions/cm2とするのが好ましく、より好ましくは0.5×1015〜5.0×1015ions/cm2とすることができる。
また、本発明のイオンビームによる表面改質方法は、酸素クラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを同時に被処理物の表面に照射することにより、該表面に接触角15°以下の親水性、より好ましくは接触角10°以下の超親水性を付与することを特徴とするものである。これによれば、クラスターイオンとモノマーイオンを併用した複数のイオンビームを固体表面に照射し、それぞれのイオンビームの物理的・化学的性質を活用して、固体表面に多数の欠陥を形成すると同時に未結合の欠陥を酸素クラスターイオンビームによる入射イオンによって結合して、該基板の表面処理を行うことによって、固体表面に高度の親水性を付与できる。
また、本発明のイオンビームによる表面改質方法は、酸素クラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを同時に被処理物の表面に照射し、主としてモノマーイオンビームによって前記表面に存在する疎水性原子若しくは疎水基を解離させ、酸素クラスターイオンビームによって供給される酸素クラスターが分解することによって得られる酸素原子、又は、該酸素原子と前記疎水性原子若しくは疎水基とが結合してなる親水基を前記疎水性原子若しくは疎水基と置換させることによって、該表面に接触角15°以下の親水性を付与することを特徴とするものである。本発明において、疎水基は例えば水素基や炭化水素基であってよく、親水基は例えばヒドロキシル基であってよい。
前記モノマーイオンビームとしてはアルゴンイオンビームなど適宜のものを採用することができ、例えば酸素イオンビームであってもよい。酸素イオンビームをモノマーイオンビームとして用いる場合は、酸素ガスを小さな開口から真空中に噴射することにより酸素クラスターと酸素モノマーとの混成ガスを生成し、この酸素クラスターと酸素モノマーとをイオン化して所定の加速電圧で加速することにより、前記酸素クラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを生成することができる。これによれば、クラスターイオンビーム生成装置とモノマーイオンビーム生成装置とを別途設ける必要がなく、単一のイオン化装置と単一の加速装置でクラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを生成できるので、装置の小型化、簡素化、コスト低減を図ることができる。
酸素クラスターイオンビームの前記加速電圧は、5kV以上10kv以下とすることができ、より好ましくは6kV以上8kV以下とするのが良い。
また、固体表面への酸素クラスターイオン及びモノマーイオンの全照射量を、1.0×1013〜1.0×1015ions/cm2とすることができ、より好ましくは0.5×1014〜5.0×1014ions/cm2 とするのが良い。
本発明によれば、クラスターイオンビームの照射によって固体表面に高度の親水性を付与することができ、例えば処理前は疎水性を示す固体表面に本発明を適用することで親水性を付与し、これにより固体表面におけるアパタイト等のバイオ材料の成長を促進することができる。
さらに、本発明によれば、クラスターイオンを用いるので、等価的に低エネルギーで大容量の物質輸送ができる。したがって、イオンビーム照射中においても固体表面を水イオン若しくは酸素イオンが飽和した若しくは飽和に近い雰囲気にすることができ、これらイオンが固体表面の分子結合上の欠陥に化学的に結合することを促進できる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
該実施形態では、水の高圧蒸気あるいは酸素の高圧ガスを、ノズルの開口から真空中に噴射し、断熱膨張によってクラスターを生成する。そして、該クラスターを電子衝撃によってイオン化し、必要な場合は引き出したクラスターイオンビームを減速電界法によって質量分離し、基板表面に照射することができるイオンビームによる表面改質方法および装置について示している。
図1は、該表面改質方法を実現するためのクラスターイオンビームによる表面改質装置の概略図を示すもので、クラスターを生成するための真空容器であるソースチャンバー1、該ソースチャンバー1で生成されたクラスターを小さい開口を有するスキマによって細いビーム状にするための真空容器である差動排気チャンバー2、該クラスタービームをイオン化し、質量分離するための真空容器であるイオン化チャンバー3、及び、該クラスターイオンビームを基板表面(固体表面)に照射するための真空容器であるターゲットチャンバー4により主構成されている。
ソースチャンバー1に設けられたクラスターソース5の一端に接続されている細管6を通して、水やアルコール等の液体物質、あるいは酸素や二酸化炭素等の気体物質をクラスターソース5に供給できるようになっている。また、該クラスターソース5の温度は、該クラスターソース5の周囲に巻かれたヒーターに電流を流すことによって制御でき、200℃まで加熱できる。加熱された液体物質の蒸気は、該クラスターソース5の一端に接続されているノズル7の開口を通して真空中に噴射される。酸素等の気体物質の場合は、該気体物質を該ノズル7の開口を通して真空中に噴射される。このとき、断熱膨張によって塊状の原子(あるいは分子)集団すなわちクラスターが生成される。該クラスターは、形状がコーン状で直径0.1mm乃至1mmまでの開口を有するスキマ8を通過して、差動排気チャンバー2に導入される。なお、ノズル7の開口を通して真空中に噴射されたときに生成されるクラスターのサイズ(分子数)は1〜数千若しくは数万の範囲に分布しており、モノマーも相当数含まれている。
差動排気チャンバー2とイオン化チャンバー3の真空容器の間には、直径1mm乃至5mmまでの開口を有するアパチャ9が設けられている。該ソースチャンバー1から差動排気チャンバー2に導入されたクラスター及びモノマーは、アパチャ9を通過して、イオン化部10に導入される。該クラスター及びモノマーは、イオン化部10で電子衝撃によってイオン化され、クラスターイオン及びモノマーイオンとして該イオン化部10から引き出され、質量分離器11に導入される。イオン化部10におけるイオン化電子電流(Ie)及びイオン化電子電圧(Ve)は適宜調整可能である。
該質量分離器11では、減速電界法によってクラスターイオン及びモノマーイオンが質量分離される。したがって、質量分離器11を作動させたとき、所定サイズ以下のクラスター及びモノマーは質量分離され、所定サイズを超えるクラスターイオンのみがイオン化チャンバー3の真空中を通過し、加速器13によって所定の加速電圧で加速されてターゲットチャンバー4に導入される。一方、質量分離器11を作動させないときは、モノマーイオンとともにクラスターイオンが質量分離器11を通過し、加速器13によって所定の加速電圧で加速されてターゲットチャンバーに導入される。
加速器13(引き出し電極)には少なくとも0〜10kVの加速電圧を印加できるようになっている。ターゲットチャンバー4にはファラデーカップ12が設けられており、導入されたクラスターイオンビーム及び/又はモノマーイオンビームは、該ファラデーカップ12の中に装着された基板に照射される。
上記表面改質装置によれば、常温で気体や液体の蒸気を、小さな開口から真空中に噴射させ、断熱膨張によって塊状原子集団すなわちクラスターを生成し、該クラスターをイオン化し、生成された該クラスターイオンを基板表面に照射できる。さらに、クラスターイオンを質量の大きさによって選別できる質量分離器を有し、しかも質量分離したクラスターイオン、あるいは用途によっては質量分離しないクラスターイオンを加速電圧の印加によって加速して基板表面に照射し、該基板表面の化学的改質ができる。したがって、所定の加速電圧で加速された水クラスターイオンビームを固体表面に照射することによって、該表面に接触角10°以下の超親水性を付与することや、酸素クラスターイオンビームと酸素モノマーイオンビームとを同時に被処理物の表面に照射することにより、該表面に接触角15°以下の親水性を付与することができる。
さらに、複数のイオンビームを組み合わせ、イオンの種類や加速エネルギーを変えることによって、該基板表面の親水性や疎水性等の化学的性質を制御することができ、改質された該基板を用いることによってアパタイト等のバイオ材料の成長を促進できる。例えば、5〜10kV程度の所定の加速電圧で加速された水クラスターイオンビームを固体表面に照射すると、固体表面に存在する疎水性原子若しくは疎水基が水クラスターイオンビームによって解離され、該疎水性原子若しくは疎水基がはじき飛ばされた欠陥部位に水クラスターイオンに由来する親水基を結合させるとともに、水クラスターイオンビームによって供給される水クラスターが分解することによって得られる水分子を前記親水基上に付着させて水分子の薄い層を固体表面に形成させ、これにより該表面に親水性を付与できると考えられる。また、酸素クラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを同時に被処理物の表面に照射すると、主としてモノマーイオンビームによって前記表面に存在する疎水性原子若しくは疎水基を解離させ、酸素クラスターイオンビームによって供給される酸素クラスターが分解することによって得られる酸素原子乃至酸素イオン、又は、該酸素原子又は酸素イオンと前記疎水性原子若しくは疎水基とが結合してなる酸素原子に由来する親水基を前記疎水性原子若しくは疎水基と置換させることによって、該表面に親水性を付与することができると考えられる。
なお、上記表面改質装置は、水やアルコール等、化学的性質が異なる種々の液体材料や、あるいは酸素や二酸化炭素等、化学的性質が異なる種々の気体材料を用いて、該液体材料の蒸気や該気体材料を小さな開口から真空中に噴射させ、断熱膨張によってそれぞれのクラスターを生成し、該クラスターをイオン化・加速して、金属、半導体、絶縁物、あるいは有機物等の基板表面に照射できる。
さらに上記表面改質装置は、真空中に噴射した中性のクラスターを電子衝撃によってイオン化できるイオン化部、および生成されたクラスターイオンを減速電界法によって質量の大きさに応じて分離できる質量分離器を有しており、必要に応じて所望のサイズ以上のクラスターイオンのみを分離して取り出すことができる。
また、イオンの種類や加速エネルギーを変えることによって、該基板表面の親水性や疎水性等の化学的性質を制御することができ、化学的改質された該基板表面を用いることによってアパタイト等のバイオ材料の成長を促進できる。
なお、常温で液体の物質、例えばエタノールを用いてクラスターを生成し、該エタノールクラスターのイオンビームを基板表面に照射することによって、従来の湿式の表面処理方法では実現不可能な化学反応による基板表面のエッチングを高速に行うことも可能である。
また、常温で液体の物質のクラスターイオンビームを基板表面に照射することによって、液体特有の流動性やイオンの入射エネルギーを活用して超平坦な基板表面を形成することも可能である。
ここで、液体物質として水やエタノールを用いて、あるいは気体物質としては酸素を用いて、ノズルから噴射した該液体物質の蒸気や該気体物質を電子衝撃によってイオン化し、引き出したイオンビームを質量分離し、シリコン基板やポリエチレン基板に照射する実験をした。以下、該実施例による実験結果について図2乃至図7に基づいて説明する。
図2は、該実験により生成した(a)水クラスター、(b)エタノールクラスター及び(c)酸素クラスター、それぞれのサイズ分布を示すグラフである。ここでは、飛行時間法を用いたサイズ分析法によって、水やエタノールの蒸気圧を、あるいは酸素の供給圧力をそれぞれ常圧ないし4.5気圧に変化させてデータをとったものである。これによれば、水やエタノールの蒸気圧の増加と共に、あるいは酸素の供給圧力の増加と共に、生成されるクラスターの量は増大し、また、クラスター1個当たりの分子数、すなわちクラスターサイズは数百個ないし数万個に分布した値が得られているのがわかる。
図3は、該実施例により生成した水クラスターおよびエタノールクラスターのサイズが95以上のクラスターイオンを、シリコン(Si)基板に加速電圧を変えて照射して、該Si基板がスパッタリングされた深さを測定したグラフである。イオン照射量は1cm2の単位面積当たりに1.0×1016個のクラスターイオンを照射した。これによれば、エタノールクラスターイオン照射では、加速電圧の増加と共に、Si基板のスパッタ深さは急激に増大し、加速電圧が9kVでのスパッタ深さは475nmとなっているのがわかる。該実験結果を用い、またSi基板の密度を2.42g/cm3としてスパッタリング率を計算すると、245atoms/ionの値が得られ、従来の単原子のアルゴンイオンビームによるスパッタリング率に比べて、100倍以上のスパッタリング率が得られている。また、水クラスターイオン照射に比べて、Si基板のスパッタリング率は10倍以上と大きく、エタノールクラスターイオン照射による化学的スパッタリングが優先的に生じていることがわかる。なお、従来の超音波洗浄による湿式方式によって、Si基板にエタノール分子や水分子を1cm2の単位面積当たり1.0×1019個以上照射しても、該基板表面はスパッタリングされなかった。
図4は、該実験により生成した水クラスターおよびエタノールクラスターのサイズが95以上のクラスターイオンを、シリコン(Si)基板に加速電圧を変えて照射し、該Si基板をターゲットチャンバーから大気中に取り出した後、該Si基板に水滴を滴下して、該水滴の接触角を測定したグラフである。イオン照射量は1cm2の単位面積当たりに1.0×1015個のクラスターイオンを照射した。これによれば、水クラスターイオンを照射したSi基板の接触角は加速電圧の増加と共に減少し、加速電圧が9kvで5°以下になっており、超親水性の表面が形成されているのがわかる。一方、エタノールクラスターイオン照射したSi基板の接触角は加速電圧の増加と共に増加し、加速電圧が9kVで90°以上になっており、撥水性の表面が形成されているのがわかる。したがって、液体クラスターイオンの種類を変え、また該クラスターイオンの加速エネルギーを制御することによって、Si基板表面の親水性や疎水性を制御できることがわかる。
図5は、該実施例により生成した水クラスターおよびエタノールクラスターのサイズが95以上のクラスターイオンを、シリコン基板に加速電圧を変えて照射した後、該シリコン基板を真空容器から取り出し、該シリコン基板の照射損傷の程度をラザフォ−ドバックスキャッタリング(RBS)法によって測定した変位原子数を示すグラフである。照射量は1cm2の単位面積当たりに1.0×1015個のイオンを照射した。比較のためにアルゴンモノマーイオンを同じ条件で照射した。該グラフによれば、水クラスターイオンおよびエタノールクラスターイオンを照射したシリコン基板の損傷がアルゴンモノマーイオン照射より小さいが、イオンを照射していないシリコン基板よりやや大きいことがわかる。これによれば、水クラスターおよびエタノールクラスターのクラスターイオンは該シリコン基板に照射した直後に、個々の分子に分解され、該イオンの入射エネルギーがそれぞれの分子に分配されて、該シリコン基板の中に注入されるために、イオン照射による損傷が小さいことがわかる。したがって、該分子1個当たりの入射エネルギーは、クラスターイオンの入射エネルギーをクラスターサイズで割った値、すなわち数keVの入射エネルギーでも数十eV以下の低エネルギーとなることがわかる。また、加速電圧を1kV以下にすることによって、無損傷の表面形成が行えることがわかる。
図6は、該実験により生成した酸素クラスターイオン及び/又は酸素モノマーイオンをポリエチレン(PE)基板に加速電圧を変えて照射し、該PE基板をターゲットチャンバーから大気中に取り出した後、該PE基板に水滴を滴下して、該水滴の接触角を測定したグラフである。イオン照射は、酸素クラスターイオンのみの場合、酸素モノマーイオンのみの場合、酸素クラスターイオンと酸素モノマーイオンの分離を行わずに混合イオン照射した場合について行った。また、イオン照射量は1cm2の単位面積当たりに1.0×1014個の酸素イオンを照射した。これによれば、酸素イオンを照射したPE基板の接触角は加速電圧の増加と共に減少し、酸素クラスターイオンと酸素モノマーイオンの混合イオン照射の場合、加速電圧が7kVで10°になっており、超親水性に近い表面が形成されているのがわかる。また、酸素イオンを照射しないPE基板では、接触角は100°になっており、撥水性の表面であるのがわかる。
図7は、該実験により生成した酸素クラスターイオンと酸素モノマーイオンを混合して、ポリエチレン(PE)基板に加速電圧7kVで照射し、該PE基板をターゲットチャンバーから大気中に取り出した後、該PE基板をカルシウムシリケート(CS)溶液に浸漬し、さらに該PE基板を擬似体液(SBF)に4日間浸漬し、その後大気中に取り出してX線回折パターンを測定したグラフである。イオン照射量は1cm2の単位面積当たりに1.0×1014個の酸素イオンを照射した。これによれば、酸素イオンを照射したPE基板には、形成されたアパタイトからのX線回折ピークが現われているのがわかる。なお、酸素イオンを照射しないPE基板は撥水性のため、該表面にはアパタイトは形成されていないのがわかる。したがって、アパタイトを形成するためには、基板表面を親水性にする必要があることがわかる。なお、該実施例により生成した水クラスターイオンを照射したSi基板には、アパタイトが形成され、エタノールクラスターイオンを照射したSi基板には、アパタイトは形成されなかった。また、クラスターイオンビーム照射した基板表面は平坦で、Si基板では表面荒さは1nm以下であった。
以上説明したように、イオンビームによる表面改質方法および装置では、水やエタノール等、化学的性質が異なる種々の液体材料や、あるいは酸素や二酸化炭素等、化学的性質が異なる種々の気体材料を用いて、該液体材料の蒸気や該気体材料を小さな開口から真空中に噴射させ、断熱膨張によってそれぞれのクラスターを生成し、該クラスターをイオン化・加速して、金属、半導体、絶縁物、あるいは有機物等の基板表面に照射でき、これによって化学的・物理的反応による種々の表面改質を行うことができる。
特に、クラスターイオンを用いれば、等価的に低エネルギーで大容量の物質輸送ができる。さらに、真空中に噴射した中性のクラスターを電子衝撃によってイオン化できるイオン化部、および生成されたクラスターイオンを減速電界法によって質量の大きさに応じて分離できる質量分離器を有することで、所望のサイズ以上のクラスターイオンのみを分離して取り出すこともでき、また、モノマーイオンとともにクラスターイオンを取り出すこともできる。
さらに、イオンの種類や加速エネルギーを変えることによって、該基板表面の親水性や疎水性等の化学的性質を制御することができ、化学的改質された該基板表面を用いることによってアパタイト等のバイオ材料の成長を促進できる。
さらに、常温で液体の物質、例えばエタノールを用いてクラスターを生成し、該エタノールクラスターのイオンビームを基板表面に照射することによって、従来の湿式の表面処理方法では実現不可能な化学反応による基板表面のエッチングを高速にできる。
さらに、液体クラスターイオンビームを基板表面に照射することによって、液体特有の流動性やイオンの入射エネルギーを活用して超平坦な基板表面が形成できる。
また、モノマーイオンビームを照射することによって基板表面の原子の結合を切断でき、またクラスターイオンビームを照射して該クラスターにより多数の分子を供給することにより、該基板表面を物理的あるいは化学的エッチングができ、該モノマーイオンビームあるいは該クラスターイオンビームの機能を組み合わせることによって、該基板の表面高機能化を行うことができる。
なお、種々の液体材料や気体材料にヘリウムを混ぜてもよく、該ヘリウムと混合された液体蒸気あるいは気体を小さな開口から真空中に噴射させ、断熱膨張によってそれぞれのクラスターを生成することができる。
なお、基板表面(固体表面)としては、電子デバイスや光学デバイス等のデバイス部材の表面でもよく、該部材の固体表面にクラスターイオンを加速して照射できる。
本発明の一実施例に係るイオンビームによる表面改質装置の概略断面図である。 実験により生成した水クラスターイオン、エタノールクラスターイオン、酸素クラスターイオンのサイズ分布を示すグラフである。 実験により生成した水クラスターイオンおよびエタノールクラスターイオンを照射したシリコン基板のスパッタ深さの加速電圧依存性を示すグラフである。 実験により生成した水クラスターイオンおよびエタノールクラスターイオンを照射したシリコン基板表面の接触角の加速電圧依存性を示すグラフである。 実験により生成した水クラスターイオンおよびエタノールクラスターの加速電圧を変えて照射したシリコン基板の変位原子数を示すグラフである。 実験により生成した酸素クラスターイオンや酸素モノマーイオンを照射したポリエチレン基板表面の接触角の加速電圧依存性を示すグラフである。 実験により生成した酸素クラスターおよび酸素モノマーイオンを併用して照射したポリエチレン基板表面を擬似体液中に浸漬した後、大気中に取り出して測定したX線回折パターンを示すグラフである。

Claims (9)

  1. 所定の加速電圧で加速された水クラスターイオンビームを固体表面に照射することによって、該表面に接触角10°以下の超親水性を付与することを特徴とするイオンビームによる表面改質方法。
  2. 所定の加速電圧で加速された水クラスターイオンビームを固体表面に照射することによって、固体表面に存在する疎水性原子若しくは疎水基を親水基で置換するとともに、水クラスターイオンビームによって供給される水クラスターが分解することによって得られる水分子を前記親水基上に付着させて水分子の薄い層を固体表面に形成させ、これにより該表面に接触角10°以下の超親水性を付与することを特徴とするイオンビームによる表面改質方法。
  3. 前記加速電圧を5kV以上10kV以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンビームによる表面改質方法。
  4. 固体表面への水クラスターイオンの全照射量を、1.0×1014〜1.0×1016ions/cm2とすることを特徴とする請求項1,2又は3に記載のイオンビームによる表面改質方法。
  5. 酸素クラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを同時に被処理物の表面に照射することにより、該表面に接触角15°以下の親水性を付与することを特徴とするイオンビームによる表面改質方法。
  6. 酸素クラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを同時に被処理物の表面に照射し、主としてモノマーイオンビームによって前記表面に存在する疎水性原子若しくは疎水基を解離させ、酸素クラスターイオンビームによって供給される酸素クラスターが分解することによって得られる酸素原子、又は、該酸素原子と前記疎水性原子若しくは疎水基とが結合してなる親水基を前記疎水性原子若しくは疎水基と置換させることによって、該表面に接触角15°以下の親水性を付与することを特徴とするイオンビームによる表面改質方法。
  7. モノマーイオンビームは酸素イオンビームであり、酸素ガスを小さな開口から真空中に噴射することにより酸素クラスターと酸素モノマーとの混成ガスを生成し、この酸素クラスターと酸素モノマーとをイオン化して所定の加速電圧で加速することにより、前記酸素クラスターイオンビームとモノマーイオンビームとを生成することを特徴とする請求項5又は6に記載のイオンビームによる表面改質方法。
  8. 前記加速電圧を5kV以上10kv以下とすることを特徴とする請求項7に記載のイオンビームによる表面改質方法。
  9. 固体表面への酸素クラスターイオン及びモノマーイオンの全照射量を、1.0×1013〜1.0×1015ions/cm2とすることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載のイオンビームによる表面改質方法。
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