JP2006266955A - 水硫化アンモニウム環境下における材料の耐腐食性評価方法 - Google Patents

水硫化アンモニウム環境下における材料の耐腐食性評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 実験室レベルで高濃度水硫化アンモニウム環境の再現を可能にし、容易且つ高精度で材料の腐食性を評価し得る試験法を確立する。
【解決手段】 水硫化アンモニウム環境下における材料の耐腐食性を評価するに際し、予め試験溶液の水硫化アンモニウム濃度と圧力との関係をシミュレートしておき、圧力から水硫化アンモニウム濃度を判断し、材料の耐腐食性を評価する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、硫化水素とアンモニアが共存する石油精製プラント等において、設備の材料選定等を容易にする耐腐食性評価試験法に関する。
石油精製プラントにおいては、水素化精製設備等、硫化水素とアンモニアが共存する環境で生成する水硫化アンモニウム(NH4HS)環境下で材料が腐食するという問題がある。
この水硫化アンモニウム環境下における使用材料の耐腐食性を予め認識しておくことは、設備の材料選定、腐食による事故調査、防食管理費の削減等の観点から有効である。
しかしながら、硫化水素とアンモニアの共存下で生成する水硫化アンモニウムによる腐食環境は、高温、高圧、高濃度NH4HS環境、脱酸環境であって、実験室レベルでその環境を模擬するのが困難であり、特に高圧保持で溶液をサンプリングできないことから、高圧環境でのNH4HS濃度を把握するのは極めて困難である。
そのため、従来は、唯一、水硫化アンモニウム環境下での各種金属材料(炭素鋼、ステンレス鋼、チタニウム、アルミニウム等)の腐食についての試験データ(温度93℃、圧力13.8MPaの条件下での、水硫化アンモニウム濃度と腐食速度との関係)が記載されている非特許文献1を参考にして、材料選定や運転管理がなされていた。
The International Corrosion Forum Devoted Exclusively to the Protection of Materials/March 6-10,1978,PAPER NUMBER 131「PREVENTION OF CORROSION IN HYDRODESULFURIZER AIR COOLERS AND CONDENSERS」
本発明は、実験室レベルで高濃度水硫化アンモニウム環境の再現を可能にし、容易且つ高精度で材料の腐食性を評価し得る試験法の確立を目的とする。
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、水硫化アンモニウム環境下における材料の耐腐食性を評価するに際し、予め試験溶液の水硫化アンモニウム濃度と圧力との関係をシミュレートしておけば、その関係において圧力から水硫化アンモニウム濃度を精度良く判断することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、水硫化アンモニウム環境下における材料の耐腐食性を評価するに際し、予め試験溶液の水硫化アンモニウム濃度と圧力との関係をシミュレートしておき、圧力から水硫化アンモニウム濃度を判断し、材料の耐腐食性を評価する方法である。
本発明の手法によれば、実験室レベルで水硫化アンモニウム環境下における材料の耐腐食性を容易に評価することが可能となり、材料の耐腐食性、即ち、(1) 材料の腐食速度(減肉速度)や(2) 水素脆化感受性(割れ)を正確に測定・評価することができる。従って、本発明によれば、水硫化アンモニウム環境下で使用される設備の材料選定、腐食による事故調査(事故原因の早期解析)、防食管理費の削減等に対して極めて有効である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、予め硫化水素とアンモニアとを含む試験溶液において、発生する水硫化アンモニウム濃度と圧力との関係をシミュレートしておく。この方法としては、米国OLI Systems,Inc,社の物性解析ソフトを用い、溶液組成から圧力を計算し、圧力から流体の濃度を計算する。
本発明で使用する物性解析ソフトは、上記米国OLI社のMixed-Solvent Electrolyte Systems(MSE)である。MSE(Mixed-Solvent Electrolyte)Modelは、speciaton-baseの厳密な電解質熱力学モデルで、非水極性溶媒を含む高濃度電解質溶液中の熱力学平衡反応を、溶媒の誘電率や化学種のギブスの自由エネルギーを用いて理論的に推算予測する手法である。高濃度溶液は、希薄電解質環境と異なり、イオンや分子間の相互作用が化学種の熱力学物性従って化学種間の反応平衡に強く影響する。すなわち、溶液内の化学種は相互作用によって無限希釈条件からの推定とは大きく異なる熱力学物性挙動を示す。このような高濃度溶液の物性解析手法としては、これまでいくつか報告されているが、MSEでは、標準状態物性の推算に修正Helgersonモデル、過剰物性の推算に活量係数モデルを適用し、以下の3つの寄与項によりギブスエネルギーを表現している。
1)Long-Range electrostatic term(溶媒静電作用;LR)
2)Local Composition model term(分子間相互作用;LC)
3)Ionic Interaction term(イオン相互作用;II)
MSEで採用されている高濃度電解質系のギブスエネルギーの計算式を以下に示す。
Figure 2006266955
LR Debye-Huckel theory coupled with dielectric constant model for mixed solvents
LC Local composition model (UNIQUAC) for neutral molrcule interactions
II Second viral coefficient expression with ionic strength dependence
1)溶媒静電作用(LR)
LRでは、Pitzer-Debye-Huckel理論に従い、混合溶媒の誘電率、混合物質のモル体積、イオン間距離等のデータからギブスエネルギーを計算している。Debye-Huckel理論に基づく溶媒静電作用に関する修正理論は幾つか提案されているが、高濃度電解質における実験結果とよく一致しているのは、Pitzer-Debye-Huckel理論とされている。
2)局所組成モデル項(LC)
LCは分子間相互作用を表現し、UNIQUACモデルを用いて、分子サイズ、分子表面積、双極相互作用係数等のデータからギブスエネルギーを計算している。UNIQUACモデルでは、温度依存性、溶液中の分子サイズ等を考慮して精度良く計算できる特徴がある。
3)イオン相互作用項(II)
IIはイオン−イオン、イオン−分子間の相互作用を表現し、イオンの双極子作用を考慮してギブスエネルギーを計算している。
これらのギブスエネルギーを用いて、下記式から各反応種の活量係数を計算し、熱力学的に物性を計算している。
Figure 2006266955
その他、MSEでは電気伝導度に関連して、プロトンの移動速度にヒドロニウムイオン(H3+)を考慮している。H+は、水溶液中でH3+として存在している。ヒドロニウムイオン中の1個のプロトンは、隣の水分子の双極子の負側へトンネル効果で移行することができるので、他のイオンに較べて移動度が高い。MSEではヒドロニウムイオンを考慮することにより、精度よくプロトンの移動速度を与えている。
かかる物性解析ソフト(MSE)を用い、溶液組成から圧力を計算し、圧力から流体の濃度を計算する。具体的にアンモニア水に溶解した硫化水素濃度(量)と圧力との関係を計算した計算値をプロットしたグラフを図1(30重量%NH4HS)、図2(45重量%NH4HS)として示す。溶解した硫化水素濃度によって上昇圧力は図1、2のように変化する。図2の45重量%NH4HSであれば、硫化水素54g程度の溶解に対応し、その場合の分子量圧力は理論上44atm程度となる。実測値がこれより低い圧力であれば、硫化水素の溶解量が少ない(即ち、NH4HS濃度が低い)ことになる。
後述の試験溶液を用い、実測した値を図1、2にプロットしたが、実測値は計算値とほぼ一致した。
次に、本発明の試験溶液である湿潤水硫化アンモニウム溶液の作成手順を説明する。
[湿潤水硫化アンモニウム溶液の作成手順]
(1) ガス腐食試験室(GCL)のドラフト内にて、図3の試験溶液作成装置(図中の1〜8はバルブである)を組み立て、H2Sボンベの代わりにArボンベを接続し、0.98MPa(10kgf/cm2)にて配管の気密チェックを行った。終了後、H2Sボンベに付け替え、バルブ2開放、バルブ1閉として集中配管よりArガスを一晩通気させ、オートクレーブ試験槽(東伸工業製)・配管内をArガスで置換した。酸素濃度が充分に低下しているかは、排ガス吸収槽に設置した酸素濃度計(横河電機製OX100)で確認した。オートクレーブ試験槽内部の拡大図を図4に示す。
(2) バルブ5を開にしヒドラジンを100ppm添加した21.8%アンモニア水を、流量計からのArガスを用いてアンモニア水注入槽からオートクレーブ試験槽内に900ml注入した。
(3) H2Sガスを通気し、オートクレーブ試験槽の内圧を0.29MPa(3kgf/cm2)とした。オートクレーブ試験槽のバルブを閉じ、内圧の変化を確認した。H2Sがアンモニア水に吸収されると内圧が減少する。
NH4OH+H2S→NH4HS(NH4HS+2H2O)
(4) 手順(3) を5回繰り返し、5回目は0.29MPa(3kgf/cm2)で一晩保持した。
(5) 配管内に残った高圧のH2Sガスを徐々に逃がし、次いで配管内を、Arガスを用いて排気する。
(6) オートクレーブ試験槽を配管から取り外し、GCL隣にあるオートクレーブ用の釜にセットし、オートクレーブ試験槽をフードで囲い、送風機を用いて簡易局所排気装置とした。オートクレーブ試験槽を90℃まで1時間で昇温し、オートクレーブ試験槽の内圧を確認して、水硫化アンモニウム濃度を把握してから実験に供した。
理論値(90℃)は、45wt%NH4HS;44atm、30wt%NH4HS;29atmである。
(7) 実験終了後、オートクレーブ試験槽を常温まで冷却した後、GCLに運び、封入装置に接続した。アンモニア水注入槽を密閉できる分取装置に付け替え、試験槽内の内圧を利用し試験溶液を徐々に噴出させ、大気と触れないように100mlフラン瓶と500mlポリ瓶に分取した(内圧が足りないときは迂回路を利用し排気側からArガスを通気する。)。
分析用の溶液サンプル作成要領を以下に示す。
[試験溶液の分析用サンプル作成要領]
事前に、硫化物イオン固定液として、硫酸亜鉛7水和物200g/l溶液5Lと炭酸ナトリウム100g/l溶液5Lを作製しておく。この混合液10mlで硫化物イオン約50mgを固定することができる(JIS K0101-39.1備考2.)。室温まで冷えた試験槽をGCLのドラフト内に運び、封入装置に接続する。
まず、作製しておいた硫酸亜鉛溶液と炭酸ナトリウム溶液を等体積ずつ混合し、硫化物イオン固定液(塩基性炭酸亜鉛の懸濁液)10Lを調製する。この溶液は使用時に混合し調製する。また、混合の際、多量の沈殿が発生するので、良く攪拌し、沈殿が沈降しないよう攪拌機などを用いて攪拌しつづける。
溶液を採取したフラン瓶を、硫化物イオン固定液に、フラン瓶ごと液中に沈めて硫化水素を逃がさないように周囲しながら混ぜ入れ、硫化物イオンを硫化亜鉛として固定する。この溶液から分取容器A(500mlポリ瓶)に採取する。
(8) 分取した溶液について、アンモニア濃度(蒸留・中和滴定法)とH2S濃度(塩酸活性・ヨウ素滴定法)およびpHを、JIS K0102に準ずる溶液分析により測定した。
(9) 尚、事後処理として、オートクレーブ試験槽内に残った試験溶液は、アンモニア水注入側より迂回路を利用し排気側から通気したArガスを利用し排出した。このとき、排出させる容器にNaOH溶液を入れておき、H2Sを吸収させるとともに、高濃度の試験溶液を希釈した。集中配管よりArガスを通気させ試験槽・配管内に残ったH2S・NH3を排気した。オートクレーブ試験槽から配管を外し、試験槽の蓋を開けて残った試験溶液を回収し、試験槽・配管内を純水洗浄した。
また、前述の通り、硫化水素とアンモニアの共存下で生成する水硫化アンモニウムによる腐食環境は脱酸環境であるが、本発明者は検討の結果、その環境の再現には、ヒドラジンによる化学的脱酸処理が精度向上のために有効であることも見出した。従って、上記湿潤水硫化アンモニウム溶液の作成に当たっては、アンモニア水中にヒドラジンを添加した。
このようにして得られた湿潤水硫化アンモニウム溶液にて、重量減法や電気化学測定法により各種金属材料の耐腐食性(材料の腐食速度(減肉速度)や水素脆化感受性(割れ))を評価することができる。重量減法は、JIS K0100などに従い、クーポン試験片を用いて試験前後の重量減から材料の腐食速度を算出する。また、水素脆化感受性については、予めオートクレーブ試験槽内に挿入しておいたクーポン試験片の鋼中の水素量を、金属中元素分析装置を用いて測定して評価する。電気化学測定法では、陰分極(カソード分極)および陽分極(アノード分極)測定から電気化学的に環境の腐食性を評価し腐食速度を算出する。
以下、高濃度水硫化アンモニウム水溶液中での電気化学測定法を説明する。
[湿潤水硫化アンモニウム環境中での電気化学測定の要領]
(1) 分解して純水洗浄しておいた封入装置を組み立てる。このとき頻繁に取り外すパッキンは金属製ではなくテフロン製を用い、劣化によるガス漏れ予防に1バッチごとに交換する。また外部照合電極と冷却槽との接続部にテフロンゴムパッキンをかませる。このとき使用する圧力調整器は、Arボンベには高圧用を、H2Sボンベには水素ガス用(逆ネジ)を用いる。組み立てが済んだら、脱気用のArガスを用いて内圧5MPaにて気密チェック(石鹸水)を行う。このとき圧力調整器体の故障を防ぐため、H2Sボンベ側のバルブ1は閉めておく。
(2) 一旦、封入装置から試験槽、更に外部照合電極を取り外す。再度、外部照合電極を組み立てる。このとき、この試験に一度使用したAg/AgCl電極は多少腐食しているので、再度使用しない。次に、試験中に電極内に侵入したH2SによりAg/AgCl電極が腐食して電位が変化するため、組み立てた外部照合電極と基準電極との電位差を確認し、記録する。
(3) オートクレーブ試験槽に、直前に600番の粗さになるまでエメリー紙(研磨紙)で全面研磨し、アセトンにて超音波洗浄し、秤量した電気化学測定用旗方試験片をセットし封入装置に組み込む。
(4) Arガスを通気させ、試験槽・配管内をArガスで置換する。ある程度通気したところで一旦通気を止め、内圧を0.3MPaにあげた状態で全てのバルブを閉じ、1時間経過しても内圧が減少しないことで漏れがないことを確認する。漏れがなければArガスを二次圧0.2MPaほどで一晩通気させる(流量50ml/min程度目算)。酸素濃度が充分に低下しているかは、排ガス吸収槽に設置した酸素濃度計で流量を300ml/min程度に増やした状態で確認する。
(5) ドラフト内でアンモニア水に純水を加えて良く攪拌する。この溶液にヒドラジン一水和物をメスピペットを使用して添加し更に攪拌して、ヒドラジンを添加したアンモニア水を作製する。この溶液を1L三角フラスコ(目盛記入)に定量入れ、アンモニア水注入部に組み込む(アンモニアの蒸気圧が高いので、注入用のSUS管付きシリコン栓で蓋した時溶液が噴出することがあるので注意する。)。Arボンベから分岐させた配管から導入したArガスを用いて試験槽内に注入する。注入を止めるときは、バルブ5をまず閉じ、つづいて速やかにArガスを止める。ガスを止めただけでは残圧で注入が止まらず、バルブ5を止めて時間がかかるとシリコン栓が外れてガスが噴出することがある。
(6) H2Sガスを徐々に通気し、試験槽の内圧を0.3MPaにする。通気始めは、なかなか内圧が上昇しない。音や振動に留意し、一度に吹き込まないよう注意する。
(7) オートクレーブ試験槽のバルブを閉じ、内圧の変化を確認する。H2Sがアンモニア水に吸収されると内圧が減少する。
NH4OH+H2S→NH4S-H+H2O(NH4 ++HS-+H2O)
繰り返し初期は反応熱により、液温が50℃程度まで上昇するので注意する。
(8) 手順(6) 、(7) を約15分間隔で定時まで(十数回)繰り返す。定時後は全てのバルブを閉じ、オートクレーブ試験槽内が加圧状態のまま一晩置き、朝の時点で内圧が十分(0.1MPa以上)残っているのを確認し、常圧下では十分飽和状態であるとみなした。外部照合電極のせいか、予備試験時より内圧の低下が大きい。念のため、朝の時点で内圧を0.5MPaまで上昇させ、30分経過させて半分程度減少することを確認する。
(9) オートクレーブ試験槽内の内圧を用いて外部照合電極に試験液を満たす。
(10) 配管内に残った高圧のH2Sガスを、一度に流して吸収槽で吸収しきれないことの無いよう、徐々に排気する。
(11) 配管内を、Arガスを用いて排気する。つづいて、試験槽内の加圧状態を解放し常圧に戻す。このとき、一度に流して吸収槽で吸収しきれないことの無いよう、またオートクレーブ試験槽内に空気が逆流しないよう注意する。次に、オートクレーブ試験槽本体のバルブを閉じ、配管内に残ったH2Sガスを、Arガスを用いて排気する。
(12) 試験槽(電極付オートクレーブ)を配管から取り外し、オートクレーブ用の釜にセットする。
(13) H2Sの漏洩対策として、オートクレーブをフードで囲い、送風機付きのダクトを用いて屋外に排気することで簡易局所排気装置とする。
(14) オートクレーブ試験槽にポテンショスタットを接続し、常温の電気化学測定用試験片の浸漬電位を測定する。
(15) オートクレーブを90℃まで約1.5時間で昇温し、オートクレーブの内圧を確認しつつ温度を保持する。昇温中・保温中も電位・温度の経時変化をデータロガーを用いて記録する。
理論値(90℃)は、45wt%NH4HS;4.5MPa、30wt%NH4HS;3.0MPaである。
(16) 浸漬電位の変化を2時間ほど確認したのち陰分極を行い、測定後の浸漬電位を確認してから陽分極を行う(掃引速度10mV/min)。
(17) 試験終了後、十分に冷えたオートクレーブ試験槽をGCLに運び、封入装置に接続する。
(18) Arガスを通気させ試験槽・配管内に残ったH2S・NH3を排気する。
(19) 試験槽から配管を外して試験場に移し、オートクレーブ試験槽の蓋を開けて試験片を取り出す。内部には多分にH2Sが残留しているので、防毒マスクを着用し作業する。取り出した試験片は、純水で洗浄後乾燥させ、重量を測定し、外観写真を撮影する。
(20) オートクレーブ試験槽から外した外部照合電極と(1) で使用した基準電極との電位差を確認し、電極の劣化の状況を確認する。
このようにして、前述した非特許文献1と同様に、40wt%NH4HS水溶液中で炭素鋼、ステンレス鋼(Type316)の腐食速度を測定したところ、図5に示すように、非特許文献1のFIGURE.1とほぼ同一の結果が得られた。
また、高濃度水硫化アンモニウム環境における炭素鋼の分極曲線の測定例を図6に示す。分極測定の結果、高濃度水硫化アンモニウム環境で炭素鋼は、約-700mV(Ag/AgCl)付近の不働態域(腐食性が低い領域)と約-900mV(Ag/AgCl)付近の活性域(腐食性が高い領域)を遷移しやすい状態であることがわかる。
また、図7に45wt%付近の濃度における炭素鋼の腐食電位の経時変化の測定例を示す。本試験では、炭素鋼の腐食速度は大きかったが、この環境の炭素鋼の腐食電位は、-900mV(Ag/AgCl)であった。激しい腐食性が確認された本環境では、炭素鋼は活性域であったことがわかる。
このように水硫化アンモニウム環境の腐食性は、不働態域で腐食性が低くても、濃度や温度条件の変化によって容易に活性域に遷移することが推察され、材料の耐腐食性を正確に把握するためには濃度や温度を正確に把握して腐食試験を実施するのが重要であることがわかる。
更に、本発明は、高濃度電解質のシミュレーションを用いた腐食環境評価方法としても応用することが可能であり、適用例の一つとして、ボイラー排煙系で問題となる硫酸露点腐食を挙げることができる。硫酸露点腐食は、重油専焼ボイラーのように排煙に硫黄酸化物を含む機器の低温部で生じる硫酸による腐食で、金属表面温度、燃焼ガス組成(主にSO3)およびガスの露点温度の影響を受ける。燃料中に硫黄(S)が含まれると燃焼により亜硫酸ガス(SO2)が生成し、さらに酸化されると無水硫酸(SO3)となる。硫酸は、水分により露点温度が高いため、高温で高濃度の硫酸環境が生成して腐食する。温度が低下すると、水蒸気の水分により様々な濃度の硫酸溶液を生成し材料を腐食させるが、本発明によればこのような腐食環境の再現と腐食環境評価を容易にする。
図1は、30重量%NH4HSにおける、アンモニア水に溶解した硫化水素濃度(量)と圧力との関係を計算した計算値をプロットしたグラフである。 図2は、45重量%NH4HSにおける、アンモニア水に溶解した硫化水素濃度(量)と圧力との関係を計算した計算値をプロットしたグラフである。 図3は、湿潤水硫化アンモニウム溶液の作成・評価に用いた試験溶液作成装置を示す図である。 図4は、図3の装置のオートクレーブ試験槽内部を示す図である。 図5は、炭素鋼、ステンレス鋼(Type316)のNH4HS濃度と腐食速度の関係を示すグラフである。 図6は、高濃度水硫化アンモニウム環境における炭素鋼の分極曲線の測定例を示すグラフである。 図7は、45wt%付近の濃度における炭素鋼の腐食電位の経時変化の測定例を示すグラフである。

Claims (3)

  1. 水硫化アンモニウム環境下における材料の耐腐食性を評価するに際し、予め試験溶液の水硫化アンモニウム濃度と圧力との関係をシミュレートしておき、圧力から水硫化アンモニウム濃度を判断し、材料の耐腐食性を評価する方法。
  2. 試験溶液にヒドラジンを配合する請求項1記載の材料の耐腐食性評価方法。
  3. 高濃度電解質のシミュレーションを用いた腐食環境評価方法。
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