しかしながら、上記いずれの文献に開示された半導体レーザにおいて、上述したようなマルチモード型光ファイバ用の光源の要件を満足させるものはない。すなわち、従来のVCSELは、横モードの安定性という要件を満たしながら、低広がり角、低抵抗、高出力、かつ高効率で高速応答性に優れた素子は未だ実現されていない。
そこで本発明は、これら上記要件を満足することが可能な表面発光型半導体レーザを提供することを目的とする。
さらに本発明は、マルチモード型光ファイバ用の光源の要件に適した表面発光型半導体レーザを提供することを目的とする。
本発明に係る表面発光型半導体レーザは、基板と、基板上に形成された第1導電型の第1の半導体反射層と、前記第1の半導体反射層上に形成されレーザ光を生成する活性領域と、前記活性領域上に形成された第2導電型の第2の半導体反射層と、前記第2の半導体反射層上に形成され、レーザ光を出射可能な開口部を含む金属部と、前記第1、第2の半導体反射層の間に形成され、周囲を高抵抗部によって囲まれた導電部を有する電流狭窄部とを有し、前記導電部の径が少なくとも12ミクロン以上であり、かつ前記金属部の開口部の径が前記導電部の径よりも少なくとも1ミクロン小さいものであって、マルチモードのレーザ光を許容するものである。これによれば、電流狭窄部の導電部の径が少なくとも12ミクロン以上あり、かつ金属部の開口部の径が導電部の径よりも少なくとも1ミクロン小さくしたことにより、金属部の開口部から出射されるレーザ光の広がり角を小さくすることができる。このような表面発光型半導体レーザを光通信用の光源として光ファイバに結合しても、その結合時にレーザの減衰を抑制することができる。
開口部から出射されるレーザ光は、おおよそ23度以下の広がり角であることが望ましい。電流狭窄部の導電部の径が10ミクロン程度では、仮に金属部の径を1ミクロン小さくしても、広がり角の低下にはあまり効果がない。
好ましくは、前記開口部から出射されるレーザ光はマルチモード発振され、マルチモード発振されるレーザ光は0次、1次、2次の次数において発振されるレーザ光であることが望ましい。マルチモードのレーザ光であっても、その広がり角を小さくすることにより、マルチモード型光ファイバの光源として有用である。
さらに本発明の好ましい態様は次の通りである。表面発光型半導体レーザは、下部反射鏡と、活性領域と、前記下部反射鏡と共に共振器を構成する上部反射鏡とが積層された基板と、前記上部反射鏡上に設けられ、且つ前記活性領域で発生したレーザ光の出射領域を画定する第1の開口部が形成された金属部と、前記金属部と前記下部反射鏡との間に設けられ、且つレーザ光の発光領域を画定する第2の開口部を有する光閉じ込め領域とを備え、前記光閉じ込め領域の前記第2の開口部の径は少なくとも12ミクロン以上であり、かつ前記第1の開口部の径が前記第2の開口部の径よりも1乃至5ミクロン小さく、前記出射領域から出射されるレーザ光は所定の波長範囲内に選択された複数の次数のレーザ光を含むマルチモードである。
これによれば、金属部の出射領域の第1の開口部の径と光閉じ込め領域の第2の開口部の径との差を適切な値、すなわち前者の径を後者の径よりも1乃至5ミクロンだけ小さい値とすることで、出射されるレーザ光の横モードを制御し、安定したマルチモードのレーザ光を得ることができる。言い換えれば、金属部の第1の開口部により特定の発振モードの発光が抑制される。これは発光領域に生じた特定の発振モードに対応する発光スポットが出射領域(第1の開口部)で遮られることで、光学的な損失が増加し、ついにはこの特定モードの発振が抑制されるという原理に基づくものである。また第2の開口部の径を12μm以上とすることで、低しきい値電流で、かつマルチモード発振されるレーザ光を安定させかつその広がり角およびスペクトル幅を一定範囲内に抑えることができ、光ファイバへの結合効率の低下を抑制することが可能となる。
このような出射領域の画定に用いられる金属部の材料としては元素周期律表で規定されるところの金属類が好ましい。金属類は薄膜化しても近赤外領域の光を良く反射することで知られ、本発明における光反射材料として好ましい。また、開口部の形状は、その開口部を平面的に表したときに、円形、長円形、矩形、あるいは多角形等であっても良く、開口部の径とは、それらの形状の最大となる部分を直線で結んだ距離で規定することができ、あるいは、それらの形状の複数箇所の直線距離を平均した距離で規定することもできる。
また、光閉じ込め領域は上部反射鏡及び下部反射鏡を構成する各々の材料よりも低い屈折率を有する材料からなることが望ましい。この領域は、特定の発振モードの発光を得る目的で上部反射鏡及び下部反射鏡を構成する各々の材料よりも低い屈折率を有する材料で構成され、屈折率導波路を形成する。これによって金属部と下部反射鏡との間に発光領域を画定するための開口部が形成され、屈折率導波型のレーザは高速変調時の立上り、立下りが速く、応答性に優れている。
また、光閉じ込め領域は電流狭窄の機能を有することも可能である。つまり、光閉じ込め領域は酸化により高抵抗化された電流狭窄部を備える。光閉じ込め領域の形成に半導体酸化技術を用いることで、屈折率と共にこの領域の導電性をも低下させ、絶縁領域とすることで光閉じ込め領域兼電流狭窄部として機能させるようにしてもよい。例えば、好ましい半導体層としては、AlAs層やAlGaAs層などが用いられ、これを選択的に酸化させることでAl2O3を主成分とする絶縁領域あるいは高抵抗化領域が形成される。これによって、効果的に電流を閉じ込め、高いスロープ効率と低しきい値電流を得ることができる。
マルチモードは、直線偏光モードであり、かつ該直線偏光モードの1次以上のモードが含まれることが望ましい。そのようなマルチモードは一定の波長の範囲内に複数の次数のレーザ光を含み、スペクトル幅および広がり角が抑制されるため、光ファイバとの結合効率を低下させることなく、光信号の伝達を効率よく行うことができる。
また、前記表面発光型半導体レーザは、少なくとも前記上部反射鏡から前記光閉じ込め領域まで延びるポスト構造を含み、前記光閉じ込め領域は前記ホスト構造の側部から選択的に酸化された領域を含み、該酸化領域によって前記第2の開口部の径を規定するものであっても良い。ポスト構造内に配された光閉じ込め領域の第2の開口部は、好ましくはポスト構造の側面から内側に向けて酸化された酸化領域によって規定される。例えば、ポスト構造内に配されるAlAsやAlGaAs半導体層をポスト側面から内部に向けて酸化させ、その酸化距離を制御することで第2の開口部を形成する。
ポスト構造が円柱状である場合、第1、第2の開口部は円柱状であることが望ましい。但し、それ以外に断面形状が矩形、多角形、楕円、長円形等を有する柱状あっても勿論かまわない。開口部が円柱状(またはその平面形状が長円形、円形)であれば、ポスト構造と各開口部の中心軸を整合しやすい利点がある他、上述のように光閉じ込め領域をポスト構造内に形成する場合には、円形状の方がポスト側面からの酸化距離を均等に制御しやすく、第2の開口部の径を高精度に作成することができるという利点がある。
また、前記下部反射鏡は第1導電型の複数の半導体層を含み、前記上部反射鏡は第2導電型の複数の半導体層を含み、前記金属部は、前記上部反射鏡と電気的に接続され、前記上部反射鏡に対して電流を供給するための電極として機能するようにしても良い。つまり金属部は、レーザ光を発振させるための電流注入用の電極として機能するとともに、出射されるレーザ光の横モードを制御する機能を併せ持つ。上部反射鏡は、金属部との接続抵抗を低減させるための高不純物濃度のコンタクト層を含んでも良く、金属部がコンタクト層とオーミック接続することができる。金属部は、複数の金属材料からなる合金または複数の金属層を積層したものでも良い。金属部は、例えばAu、Ag、Pt、Ti、Ni、Mo及びCrから選択される1種以上の金属材料を含む。
また、前記表面発光型半導体レーザは、前記上部反射鏡と前記光閉じ込め領域との間に介在される第1の電極層を含み、該第1の電極層は前記光閉じ込め領域の第2の開口部と整合する第3の開口部を有するものでもよい。レーザ光の横モードを制御するための金属部とは別に第1の電極を用意し、この第1の電極によってレーザ光を発振させるために必要な電力を供給する。電極は、上部反射鏡と光閉じ込め領域との間に介在されるため、光閉じ込め領域の第2の開口部と整合された第3の開口部を有する。
また、金属部とは別に第1の電極を設けた構成において、前記上部反射鏡を誘電体ミラーから構成し、該誘電体ミラーを前記第1の電極層上に積層するようにしても良い。ポスト状若しくは柱状の誘電体ミラーを電極層上に積層することで、複数の半導体層をエッチングしてポスト構造を形成するよりもそのポストの高さを小さくすることができるため、エッチング等を含む製造プロセスが容易となる。
また、表面発光型半導体レーザは、前記上部反射鏡上に誘電物質からなる保護層を含み、前記保護層の径は前記金属部の第1の開口部の径よりも大きく、前記保護層の周縁部上に前記金属部の端部が置かれるようにしても良い。上部反射鏡上に保護層を設けることで反射鏡の表面を大気やエッチング液による汚染や侵食等から保護することができる。さらに、保護層は誘電物質から形成されるため、金属部の端部がオーバーラップする部分(重複部分)で反射鏡の反射率の低下が著しくなり、金属部単体により横モード制御を行うときよりもモード数の低減を効率よく行うことが可能となる。なお、誘電物質は、例えばシリコン酸化膜であり、また、誘電体層の径は、光閉じ込め領域の第2の開口部の径より小さいことが望ましい。
また、前記表面発光型半導体レーザは、前記基板上に第2の電極を含み、該第2の電極が前記第1導電型の下部反射鏡と電気的に接続されるようにしても良い。こうすることで、基板の同一面側から各導電型の電極の取出しを行うことができ、ボンディングパッドとの接続やあるいはバンプ電極との接続が容易となる。また、レーザ素子をフリップチップ接続することも可能となる。勿論、これ以外にも、基板に半導体基板を用い、半導体基板の裏面に電極を設けることも可能である。
また、表面発光型半導体レーザは、基板と、基板上に形成された第1導電型の第1の半導体反射層と、前記第1の半導体反射層上に形成されレーザ光を生成する活性領域と、前記活性領域上に形成された第2導電型の第2の半導体反射層と、前記第2の半導体反射層上に形成され、レーザ光を出射可能な開口部を含む金属部と、前記第1、第2の半導体反射層の間に形成され、周囲を高抵抗部によって囲まれた導電部を有する電流狭窄部とを有し、前記金属部の開口部の大きさは前記電流狭窄部の導電部の大きさよりも相対的に小さく、前記金属部の開口部及び前記電流狭窄部の導電部の大きさは前記金属部の開口部から出射されるマルチモードのレーザ光を許容し、該マルチモードは、最も高い光出力を発生する次数のレーザ光の最大値から20デシベル以内に2以下の他の次数のモードを含むものである。
このように、金属部の開口部の大きさを電流狭窄部の導電部の大きさよりも相対的に小さくすることでマルチモードで発振されるレーザ光を出力させ、そのマルチモードが最も高い出力を発生する次数のレーザ光の最大値から20デシベル以内に他の2つの次数のレーザ光を含むようにしたので、発行効率、応答特性に優れ、かつ低しきい値電流で高出力のレーザ光を安定的に得ることができる。従って、光ファイバとの結合時に減衰を生じさせることなく、マルチモード型光ファイバ用の光源に適した表面発光型半導体レーザを提供することが可能となる。
好ましくは表面発光型半導体レーザは選択酸化型であり、電流狭窄部の高抵抗部はポストまたはメサ側面から選択的に酸化された酸化領域である。この場合、導電部はこの酸化領域によって包囲された部分である。電流狭窄部としてAlAs層やAlGaAs層を用いることができ、勿論、それ以外のIII−V族半導体を用いても良い。
また、ここで規定されるマルチモードは、0次、1次、2次のモードで発振するレーザ光を含むものであっても良い。マルチモードは、1次または2次のモードで発振するレーザ光が最も高い出力を発生するものであっても良い。好ましくは、電流狭窄部の導電部の径をおおよそ12ないし15ミクロンとし、金属部の開口部の径を11ないし12ミクロンとしたときに、優れたモード制御されたレーザ光を得ることができる。
また、マルチモードに含まれる複数の次数からなるレーザ光のスペクトル幅は0.5ナノメータ(nm)以下であることが望ましい。スペクトル幅は、複数の次数のレーザ光の光出力を平均二乗(RMS)法により求めることができる。スペクトル幅を0.5nmとすることで、パルス広がりによる符号誤りの少ない伝送効率あるいは伝送能力の優れたマルチモード型光ファイバ用の光源を実現することが可能となる。好ましくは、電流狭窄部の径をおおよそ12ないし15ミクロンとし、金属部の開口部の径をおおよそ9ないし12ミクロンとする。
また、金属部の開口部の大きさを規定する径は、前記電流狭窄部の導電部の大きさを規定する径よりも3ミクロン小さいことが好ましい。開口部の径を相対的に上記数値の範囲内にすることにより、マルチモード発振されたレーザ光を安定的に出力させることが可能となるとともに、高速応答性を維持しながら低抵抗及び高出力の特性を実現することができる。
また、表面発光型半導体レーザは、基板と、基板上に形成された第1導電型の第1の半導体反射層と、前記第1の半導体反射層上に形成されレーザ光を生成する活性領域と、前記活性領域上に形成された第2導電型の第2の半導体反射層と、前記第2の半導体反射層上に形成され、レーザ光を出射可能な開口部を含む金属部と、前記第1、第2の半導体反射層の間に形成され、周囲を高抵抗部によって囲まれた導電部を有する電流狭窄部とを有し、前記導電部の径が少なくとも12ミクロン以上であり、かつ前記金属部の開口部の径が前記導電部の径よりも少なくとも1ミクロン小さいものであって、マルチモードのレーザ光の出射を許容する。
本発明によれば、出射されるレーザ光の横モードの安定性という要件を満たしながら、低広がり角、低抵抗、高出力、かつ高効率で高速応答性に優れた表面発光型半導体レーザを得ることができる。さらに、このような表面発光型半導体レーザをマルチモード型光ファイバの光源に用いることが可能となる。
次に本発明の実施の形態に係る表面発光型半導体レーザを説明する。VCSELの発光領域内に生ずる光学モードは、光ファイバ中における光の伝搬特性に関する分散方程式を解くことで求められる。VCSELからは、通常直線偏光(Linearly Polarized)モードの発振が得られ、基本モード(LP01と表記)に始まり、分裂を繰り返してLP11、LP21と次数を高めつつ、光学的に許容される最大次数のモードまで変化する。
Applied Optics, Vol.15, No.1, pp-239-243には、各モードで得られるモードパターン(電界強度分布)が報告されている。LP01モードに対して発光スポットが2分割されたLP11モード、さらに2分割されたLP21モード、発光スポットが6分割されたLP31モード、発光スポットが8分割されたLP41モード、発光スポットが10分割されたLP51モードという具合に続く。簡単のため、LP01モードを基本(0次)横モード、LP11モードを1次横モード、LP21モードを2次横モードと省略して呼ぶ場合がある。
LP21以上の発振モードのトポロジー的な特徴は、発光スポットがちょうど仮想的な円周上に規則正しく並ぶ点にある。実際のレーザ発振ではこれらの他にも数多くの発振モードが存在し、LPnm(nは0以上の整数、mは自然数)で表されるが、ランダムな発光パターンは許容されず、中心対称性を維持したパターンの繰り返しである。したがって所望のモード形状に応じ、発光領域に対して反射率の分布、若しくは変調を与えれば、所望のモードで選択的に発振が生じ易くすることも原理的に可能である。
本発明はこの原理に則り、モード制御を行ったVCSELに関するものである。以下、図面を参照して詳細に説明する。
まず本発明の基本構成要素となる、横モード制御のための第1の開口部が穿設された上部金属と、発光領域を画定する第2の開口部をなす光閉じ込め領域の、好ましい位置的あるいは数値的関係について述べる。
図1(a)は本実施の形態に係る選択酸化型VCSELの断面図、図1(b)は図1(a)のポスト構造の平面図、図1(c)はレーザ素子の内部構造が透視できるようにした斜視図である。なお、図1(a)は図1(b)のX−X線断面図であり、図1(c)は要素の一部を省略している。
1はn型のGaAs基板、2はn型の下部多層反射膜、3はアンドープの活性領域、4はp型のAlAs層、5はp型の上部多層反射膜、6はp型のコンタクト層、8は層間絶縁膜、9はp側の上部電極、10はn側の裏面電極、11は出射領域、12は光閉じ込め領域を表す。
これら積層された複数の半導体層は、ポスト状(あるいはメサ状、ピラー状)に加工される。ポスト構造は同図(b)に示すように円柱状である。上部電極9の頂部の中央には、出射領域11を画定する円形状の開口9aが形成される。上部電極9は、ポスト頂部からその側部を通り、そのままポスト底部にまで延在される。ここでは図示しないが、延在された電極は、電流注入のための電極パッド部に接続される。
光閉じ込め領域12は、AlAs層4をポスト側面から選択的に酸化することによって形成される。側壁からの酸化距離を制御することで所定の大きさの光閉じ込め領域12を形成し、これによってAlAs層4が包囲される。上部電極9の、基板に水平な面内の中央部に形成された開口9aの径(D1)と、光閉じ込め領域12の内径(D2)あるいはAlAs層4の外径(D2)との関係を模式的に示したものが図1(c)である。後述するように、開口9aの径(D1)は、光閉じ込め領域12の内径(D2)に比べて小さく、また両者は互いにその中心がポストの光軸と一致するように整合されることが望ましい。
上部電極9は、Au‐Zn/Auから構成される。光閉じ込め領域12は、上部多層反射膜5の一部として活性領域3に近い側の最下方に位置するAlAs層4を熱的に酸化したもので、組成はほぼAl2O3に変成し、この領域は、高抵抗領域あるいは絶縁領域として機能するとともに低い屈折率を有する。
本発明の効果確認実験では、上部電極9に設けられた開口9aの径(D1)、および光閉じ込め領域12の開口の径(D2)について、10μmφ、12μmφ、14μmφ及び15μmφの4種類の開口径(D2)に対し、開口9aの開口径(D1)を種々変化させ、この時のL−I−V(光出力、注入電流量、および印加電圧)特性、発振スペクトル、ファーフィールドパターン、および周波数応答特性を各々測定した。
図4(a)、(b)は、レーザ素子への注入電流(mA)とその光出力(mW)との関係を示し、光閉じ込め領域12の開口径(D2)が各々12μmφと15μmφに対する開口9aの径(D1)の依存性を示したものである。同図からも明らかなように、開口径(D1)が小さくなるにつれて同じ注入電流量に対する光出力が低下するのがわかる。開口径(D1)が開口径(D2)に比べ3μm程度小さくなったあたりから明らかな光出力低下が始まっている。これは上部電極9に設けられた開口9aの径(D1)に応じて活性領域3の発光領域から放射される光が上部電極9により遮断されたことによるものと考えられる。
図5は、同じくレーザ素子への注入電流(mA)とその光出力(mW)との関係を示す。ここでは、光閉じ込め領域12の開口径(D2)が10μmφとしたときの上部電極9の開口径(D1)の依存性を示したものである。開口9aの径(D1)を10μmφから15μmφまで段階的に1μmφ単位で変化させている。同図からも明らかなように、光閉じ込め領域12の開口径(D2)が10μmφの場合、開口9aの開口径(D1)の依存性はほとんど見られず、つまり、開口9aの開口径(D1)の変化にかかわらず、それらの光出力はほぼ同じ値となっている。
次に、この時の遠視野像の変化を図6(a)、(b)に示す。同図(a)は光閉じ込め領域12の開口径(D2)が12μmφのときに、開口9aの径(D1)を8μm、9μm、10μm、12μm、14μm、16μmと変化させた遠視野像であり、同図(b)は光閉じ込め領域の開口径(D2)が15μmφのときに、開口9aの径(D1)を上記と同じように変化させた遠視野像である。なお、図の縦軸、横軸は放射角度を表す。遠視野像においては、注入電流量に対する光出力のときよりも顕著に開口径(D1)の依存性が現れている。すなわち、開口径(D1)が開口径(D2)に比べ1μm程度小さくなったあたりで既に広がり角が狭くなる傾向が始まる。但し、本明細書に添付の図面では必ずしも明瞭ではないが、実際の測定結果から、D2=12μmφのときの開口径(D1)が12μmの遠視野像は、中央の濃い像の周囲に薄い像が広がっており、これは明らかに開口径(D1)が10μmのときの像よりも広がっている。また、D2=15μmφのときの開口径(D1)が16μmのときの遠視野像も、周囲に像が広がっており、これは明らかに開口径(D1)が14μmのときの像よりも広がっている。これは上述したとおり、発光領域に生じた特定の発振モードが出射領域11を画定する上部金属9により遮られ、このモードの発振が抑制された結果、マルチモード発振には変わりないが、発振モードの数が減ったためと考えられる。
この考察を裏付けるものとして、スペクトル幅についての測定結果を図7(a)、(b)及び図8(a)、(b)に示す。図7(a)、(b)は、光閉じ込め領域12の開口径(D2)がそれぞれ12μmφ、15μmφを用いたものであり、図8(a)、(b)は開口径(D2)がそれぞれ10μmφ、14μmφを用いたものである。
これらのグラフにおいて、横軸が開口9aの径(D1)、縦軸の左側が広がり角(1/e2)、右側がスペクトル幅(RMS(平均二乗)値)、円のマークは広がり角を示し、四角のマークはスペクトル幅を示す。光出力は2mWを一定とした。
図7(a)に示すように光閉じ込め領域12の開口径(D2)が12μmφの素子では開口径(D1)が小さくなるにつれて両者とも単調に減少した。図7(b)に示すように開口径(D2)が15μmφの素子では、やはり開口径(D1)が小さくなるにつれて両者とも減少したが、スペクトル幅については途中から急激増加に転じた。これはRMS法によるスペクトル測定自体に基因する問題と考えられ、レーザの特性が不連続的に変化した結果ではない。
図8(a)に示すように開口径(D2)が10μmφの素子では、開口径(D1)の変化にかかわらず広がり角およびスペクトル幅はほぼ一定である。このことから、開口径(D2)が12μmφよりも小さい10μmφ程度になると、その広がり角およびスペクトル幅は開口径(D1)にあまり依存しなくなる。図8(b)に示すように、開口径(D2)が14μmφの素子では、やはり開口径(D1)の減少に伴い両者とも減少する傾向にあることがわかる。
このような開口径(D1)に依存したスペクトル幅の変化は、モードフィルタリング効果と呼ばれ、マルチモード発振を生じているレーザ光に含まれる発振モードのいくつかが発振を抑制された結果と見ることができる。図9(a)、(b)、(c)及び図10(d)、(e)、(f)にモードフィルタリング効果の有無によるスペクトル幅の変化について、いくつかのパターンを示す。
図9(a)はD1=13μmφ、D2=13μmφ、図9(b)はD1=11μmφ、D2=15μmφ、図9(c)はD1=12μmφ、D2=15μmφ、10図(d)はD1=12μmφ、D2=14μmφ、10図(e)はD1=11μmφ、D2=14μmφ、10図(f)はD1=11μmφ、D2=13μmφの素子の条件を有している。
図9(a)に示すように、開口径D1、D2がそれぞれ等しい場合、そのスペクトル幅は0.87nmと大きく、高次のモードが比較的小さな出力差のレベルで生じている。図9(b)に示すように、開口径D1が開口径D2よりも4μm小さくなると、スペクトル幅は0.68nmと小さくなり、高次のモードの出力レベルが減少されている。図9(c)に示すように、開口径D1が開口径D2よりも3μm小さくなると、スペクトル幅はさらに0.49nmと小さくなり、レーザ光の出力も、0次、1次、2次のモードが他の高次のモードの出力よりも際立つ。このとき、レーザ光の最大出力値から20dB以内には3つの次数のモードが存在し、それ以外の高次のモードはそれ以外の出力レベルにある。
図10(d)に示すように、開口径D1がD2よりも2μm小さくなると、スペクトル幅は0.36nmとなり、レーザ光の出力はその最大出力から20dB以内に3つの連続した次数のモード(0次、1次、2次)が含まれる。図10(e)および(f)においても、スペクトル幅はそれぞれ0.31nm、0.25nmとなり、出力において3つ次数の連続したモードが最大値から所定の範囲内に存在する。このように、開口径(D2)に比して開口径(D1)が十分に大きいと、モード数の増大に伴いスペクトル幅が広がるが、開口径(D1)を徐々に狭めていくと、より高い次数のモードから発振が抑制され、スペクトル幅は低下をたどる。
開口径(D1)が小さくなれば、広がり角、スペクトル幅も低下してモードの安定性が向上しまた光ファイバとの結合効率においても好ましい効果をもたらすことはわかった。しかし、開口径(D1)と開口径(D2)の好ましい数値関係については、広がり角、スペクトル幅に加え、高周波特性に密接な関係を有する光出力も勘案して決めなければならない。すなわち、開口径(D1)が小さくなれば得られる光出力も低下し、結合効率の向上分が相殺されてしまうからである。
ひとつの基準として本発明者は、同一の光出力時における小信号周波数応答特性を比較評価し、好ましい数値関係を導くための一助とした。その結果を図11(a)、(b)に示す。同図(a)に示す開口径(D2)が12μmφの素子では、開口径(D1)に対する依存性は小さく、上部金属9の開口径(D1)が光閉じ込め領域12のそれに比べ十分大きな16μmφの素子で、7GHzを超えてから応答性の低下が見られる程度である。一方、同図(b)に示すような開口径(D2)が15μmφの素子では、開口径(D1)が8μmφあるいは9μmφの素子で明らかな応答性の低下が観測された。
以上の結果を総合すると、広がり角あるいはスペクトル幅の変化は、開口径(D2)−開口径(D1)≧1μmで十分低減の効果が見られるものの、小信号周波数応答特性の比較から、開口径(D2)−開口径(D1)≦5μmが特性を劣化させない限界であることが判明した。またこの時の素子抵抗はすべての電流注入域に渡って50Ω前後という低い値となっており、低抵抗性も満足している。
次に第2の実施の形態に係る表面発光型半導体レーザについて説明する。上述した第1の実施の形態では、上部多層反射膜5の表面に形成した、横モード制御に用いられる上部電極9が、素子への電流注入のための電極としても利用されていたが、第2の実施の形態では電流注入に用いる電極を別途に用意し、上部金属を横モード制御のためにのみ用いられる。また、基板1の裏面に形成したn側裏面電極10の代わりに、基板表面側にn側電極を形成する。なお、第1の実施の形態と同様の構成については同一の符号を付してある。
図2(a)は第2の実施の形態に係るVCSELの断面図である。1はアンドープのGaAs基板、2はn型の下部多層反射膜、3はアンドープの活性領域、4はp型のAlAs層、5は上部多層反射膜、6はp型のコンタクト層、8は層間絶縁膜、11は出射領域、12は光閉じ込め領域、21は横モード制御用の上部金属、22はp側電極、23はn側電極である。
上部金属21からコンタクト層6に至るまで積層体はポスト構造を有する。このポスト内の上部多層反射膜5とコンタクト層6との間にp側電極22が接続される。p側電極22には空洞領域22aが形成され、この空洞領域22aの開口の径は、光閉じ込め領域12の開口径(D2)よりもやや大きい。p側電極22は層間絶縁膜8上を延在され、図示しないが電流注入のための電極パッド部に接続される。上部多層反射膜5は、複数の半導体層をエッチングして形成しても良いが、これ以外にも誘電体を積層した誘電体ミラーをp側電極22上に接続するようにしても良い。
n側電極23は、層間絶縁膜8および活性領域3に形成されたコンタクトホール23aを介して基板1上に積層された下部多層反射膜と電気的に接続される。層間絶縁膜8上を延在されるn側電極も、図示しない別の電極パッド部に接続される。このようにn側とp側の電極の取り出し口を基板上の同一平面側に置くことにより、ボンディング配線あるいはバンプ金属の形成を容易に行うことができる。
図2(a)の素子を斜め上方から見た斜視図が図2(b)である。但し、図2(b)では図2(a)で素子の断面を示した内部の構造が透視できるよう一部の要素を省略している。第1の実施の形態ではポスト構造を円柱状としたが、第2の実施の形態においては角柱状とした。上部金属21によって規定される開口がD1であり、光閉じ込め領域12によって囲まれた導電部分の径がD2である。なお、光閉じ込め領域12のポスト構造の軸方向と垂直方向の断面形状は、ほぼ正方形であり、その対角線の長さを開口径(D2)とする。上部金属21が電流注入に用いられるか否かとポスト形状との間にはなんら相互依存の関係はなく、第1の実施の形態でポスト形状を角柱状としても、反対に第2の実施の形態で円柱状としても、発明の本質に影響を与えることはない。
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図3(a)は第3の実施の形態に係るVCSELの断面図、同図(b)はその平面図、同図(c)は各層の開口部の関係を示す図である。本実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であるが、基板上のポスト構造あるいは積層構造に違いがある。すなわち、コンタクト層6の表面を保護すると共に、横モード制御の一助となる保護膜7が形成されている。これ以外の部分は同様の構成を有するため第1の実施の形態と同一参照符号を付してある。
ポスト構造のコンタクト層6上に誘電体物質からなる保護膜7が形成される。保護膜7は円形状の膜であり、その中心は光閉じ込め領域12の開口の中心およびポストの光軸と一致することが望ましい。保護膜7の外径は、上部電極9の開口9aの開口径(D1)よりも大きく、上部電極9の端部が保護膜7上に延在される。上部電極9の開口部(D1)、保護膜7、及び光閉じ込め領域12の開口径(D2)を図3(c)に示す。距離D3は、上部電極9の端部と保護膜7の周縁とのオーバーラップ部分である。
このように形成された保護膜7は、横モード制御の効果を高める役割を果たす。つまり、上部電極9と保護膜7が重なる部分D3で多層膜の反射率の低下が著しくなり、上部金属9の単層で横モード制御を行う場合よりもモード数を効率的に低減することができる。
また、上部電極9と保護膜7が重なる部分D3の幅は、上部電極9に設けられた開口径(D1)、および光閉じ込め領域の開口径(D2)と共に低減するモード数と密接な関係があり、重複距離(D3)を大きくすることでモード数が減少する傾向にある。ただし、D2>D1+(2×D3)の関係になるとその効果は急激に失われるので、3者の関係は適切に選ばれる必要がある。
さらに保護膜7は、結晶成長に引き続き最初に行われるプロセスである関係上、その後のプロセス中、あるいは素子の完成後、出射領域11が薬液や大気に曝されるのを防護する役割も担い、レーザ素子の劣化を防ぐのに役立っている。
以下、本発明の各実施の形態に係るVCSELの詳細な構成およびその製造方法について説明する。
第1の実施の形態に係るVCSELは、図1(a)および(b)に示すように、有機金属気相成長(MOCVD)法により、n型のGaAs基板1の(100)面上に、n型のAl0.8Ga0.2As層とn型のAl0.1Ga0.9As層との複数層積層体よりなる下部多層反射膜2と、アンドープのAl0.4Ga0.6As層よりなるスペーサ層、アンドープのAl0.2Ga0.8As層よりなる障壁層、及びアンドープのGaAs層よりなる量子井戸層との積層体よりなる活性領域3と、p型のAlAs層4と、p型のAl0.8Ga0.2As層とp型のAl0.1Ga0.9As層との複数層積層体よりなる上部多層反射膜5と、p型のGaAs層よりなるコンタクト層6とを、順次積層する。
下部多層反射膜2は、n型のAl0.8Ga0.2As層とn型のAl0.1Ga0.9As層との複数層積層体よりなるが、各層の厚さはλ/4nr(但し、λは発振波長、nrは媒質中の光学屈折率)に相当し、混晶比の異なる層を交互に36.5周期積層してある。n型不純物としてシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は3×1018cm-3である。
活性領域3は、アンドープのGaAs層よりなる厚さ8nmの量子井戸活性層とアンドープのAl0.2Ga0.8As層よりなる厚さ5nmの障壁層とを交互に積層した(但し、外層は障壁層)積層体が、アンドープのAl0.4Ga0.6As層よりなるスペーサ層の中央部に配置され、量子井戸活性層と障壁層とを含むスペーサ層の膜厚がλ/nrの整数倍となるよう設計されている。このような構成の活性領域3から波長850nmの放射光を得る。
上部多層反射膜5は、p型のAl0.8Ga0.2As層とp型のAl0.1Ga0.9As層との複数半導体層からなる積層体である。各層の厚さは下部多層反射膜2と同様にλ/4nrであり、混晶比の異なる層を交互に22周期で積層してある。この周期数は下層に設けたAlAs層4、および上層に設けたコンタクト層6を加えた数である。ただし、AlAs層4に関しては膜厚λ/4nrを構成する材料がすべてAlAsからなる必然性はなく、反対にAlAs層が必要以上に厚いと光学的散乱損失が増えるといった問題を生じる場合もある。従って、ここではAlAs層4は厚さ30nmとして、残りの部分はAl0.9Ga0.1Asとした。p型不純物として炭素をドーピングした後のキャリア濃度は3×1018cm−3である。
ところで上部多層反射膜5の周期数(層数)を下部多層反射膜2のそれよりも少なくしてある理由は、反射率に差を設けて発振光を基板上面より取り出すためである。また、ここでは詳しくは述べないが、素子の直列抵抗を下げるため、上部多層反射膜5中には、Al0.8Ga0.2As層とAl0.1Ga0.9As層との間に、その中間のアルミニウム組成比を有する中間層を介在させることができる。
p型のGaAs層よるなるコンタクト層6は、厚さ20nm、p型不純物としてドーピングした亜鉛のキャリア濃度は1×1019cm−3である。
半導体基板1上に下部多層反射膜2、活性領域3、上部多層反射膜5及びコンタクト層6を積層したレーザ基板を成長室から取り出し、これを異方性エッチングして、図1(b)または(c)に示すような円柱のポスト状に加工する。この時のエッチングの深さは活性領域3の一部に到達するまでとしたが、これは後段の酸化工程により、電流狭窄部兼光閉じ込め領域12を形成する際、この領域の元の層であるAlAs層4の側面を露出させておく必要があるためである。従って、選択酸化型のレーザ素子の場合、ポスト側面から少なくともAlAs層4が露出していれば良く、エッチングの深さは、活性領域3を越えて下部多層反射膜3の一部にまで延びても良い。
このようにして上部多層反射膜5にメサ(ポスト)加工を施した後、窒素を含むキャリアガス(流量:2リットル/分)とする360℃の水蒸気雰囲気に半導体基板を40分間晒し、酸化処理を行う。上部多層反射膜5の一部を構成するAlAs層4は、同じくその一部を構成するAl0.8Ga0.2As層やAl0.1Ga0.9As層に比べ著しく酸化速度が速い。このため、ポスト内の一部である活性領域3の直上部分にポスト形状を反映した酸化領域が形成され、酸化されずに残った非酸化領域が電流注入領域あるいは導電領域となる。すなわち酸化領域は電流狭窄部となるが、同時に周囲の半導体層に比べ光学屈折率が半分程度(〜1.6)となることから、光閉じ込め領域12としても機能する。こうして、上述したような光閉じ込め領域12の開口径(D2)あるいは電流注入領域となる開口径(D2)が形成される。
その後、露出したポスト側面を含む基板上面にシリコン酸化物等からなる絶縁膜を形成した後、ポスト頂部のみコンタクト層6を露出させるために絶縁膜をパターンニングしてこれを除去し、層間絶縁膜8を形成する。
つづいて、コンタクト層6と電気的な接触を得るようポスト頂部にp側の上部電極9を形成する。その際、上部電極9の中央部に光出射あるいはモード制御用の開口9aを形成するため、パターニングされたレジスト膜を用い上部電極9をエッチング除去し、ポスト形状を反映した円形状の開口径(D1)を持つ開口9aを形成する。
最後に、基板1の裏面側にn側裏面電極10を形成し、図1に示す第1の実施の形態に係るVCSELを得る。
次に第2の実施の形態に係るVCSELは、図2(a)および(b)に示すように、有機金属気相成長(MOCVD)法により、n型のGaAs基板1の(100)面上に、n型のAl0.8Ga0.2As層とn型のAl0.1Ga0.9As層との複数層積層体よりなる下部多層反射膜2と、アンドープのAl0.4Ga0.6As層よりなるスペーサ層、アンドープのAl0.2Ga0.8As層よりなる障壁層、及びアンドープのGaAs層よりなる量子井戸層との積層体よりなる活性領域3と、p型のAlAs層4と、p型のGaAs層よりなるコンタクト層6とを、順次積層する。AlAs層4は、厚さ20nm、p型不純物として炭素をドーピングした後のキャリア濃度は3×1018cm−3である。p型のGaAs層よるなるコンタクト層6は、厚さ20nm、p型不純物としてドーピングした亜鉛のキャリア濃度は1×1019cm−3である。
これらの半導体層が積層されたレーザ基板を成長室から取り出し、積層体を角柱状にエッチング加工する。この時エッチングの深さは活性領域3に到達するまでとしたが、これは上述したように後の酸化工程により、電流狭窄部兼光閉じ込め領域12を形成する際、AlAs層4をポスト側面から選択酸化させるためである。
AlAs層4を露出させた角柱状の積層体を、窒素をキャリアガス(流量:2リットル/分)とする360℃の水蒸気雰囲気に40分間晒すことによりポスト側面に露出したAlAs層4が酸化され、電流狭窄部兼光閉じ込め領域12が形成される。ポストの真上から見た光閉じ込め領域12の平面形状は、ポスト形状に依存したほぼ矩形状であり、その対角線の長さが開口径(D2)として図2(b)に示されている。
その後、露出したポスト側面を含む基板上面に絶縁膜8を形成し、次いでp側電極およびn側電極を形成するために絶縁膜8のエッチングが行われる。すなわち、ポスト頂部から絶縁膜8がエッチング除去されてコンタクト層6が露出され、また、ポスト底部において絶縁膜8及び活性領域3をエッチングし、下部多層反射膜2が露出するようなコンタクトホール23aを形成する。
次に、コンタクト層6と電気的な接触を得るようポスト頂部に環状のp側電極22を形成し、同時に下部多層反射膜2と電気的な接触を得るようコンタクトホール23a上にn側電極23を形成する。p側電極22の開口径は、光閉じ込め領域兼電流狭窄部12の開口径(D2)とほぼ等しいかあるいはそれよりも大きい。
次に、TiO2層とSiO2層との複数層積層体よりなる誘電体多層膜24を堆積させ、リフトオフ法により上記ポスト部の基板平面中央付近に上部多層反射膜24を形成する。各層の厚さは下部多層反射膜2と同様にλ/4nrであり、材料の異なる2層を交互に10周期積層してある。この周期数には下層に設けたAlAs層4、およびコンタクト層6はカウントされないが、これらを加えた積層膜として上部多層反射膜24は機能する。
最後に、ポスト頂部にAu単層からなるモード制御用の上部金属21を形成し、その中央部に開口径(D1)を形成し、第2の実施の形態に係るVCSELを得る。但し、上部金属21として用いられる材料はAuに限定されるものではなく、薄膜化しても近赤外領域の光を良く反射する、元素周期律表で規定されるところの金属類、例えばAg、Ti、Pt、Ni、Mo、Crあるいはこれらの合金系材料でもその要件を満たす。
第3の実施の形態に係るVCSELは、図3(a)および(b)に示すように、有機金属気相成長(MOCVD)法により、n型のGaAs基板1の(100)面上に、n型のAl0.8Ga0.2As層とn型のAl0.1Ga0.9As層との複数層積層体よりなる下部多層反射膜2と、アンドープのAl0.4Ga0.6As層よりなるスペーサ層、アンドープのAl0.2Ga0.8As層よりなる障壁層、及びアンドープのGaAs層よりなる量子井戸層との積層体よりなる活性領域3と、p型のAlAs層4と、p型のAl0.8Ga0.2As層とp型のAl0.1Ga0.9As層との複数層積層体よりなる上部多層反射膜5と、p型のGaAs層よりなるコンタクト層6とを、順次積層する。
RFスパッタリング法によりSiO2を基板全面に着膜した後、フォトリソグラフィによりこの膜を14μmφの円形に加工して保護膜7とする。この後の工程は第1の実施の形態におけるプロセスと全く同じなので省略する。
保護膜7の膜厚は、出射特性に影響のないλ/2nrの整数倍とすることが望ましい。しかし、プロセス中に膜減りを起こすことも十分考えられ、また、最終的な膜厚が(2i+1)λ/4nr(i:整数)になると共振器の反射特性に影響がある。このため、膜減りも考慮した上で慎重に保護膜7の膜厚を決める必要がある。SiO2を使った場合、λ/4nrの値が120nm程度(λ=850nmの場合)になると予想されるので、非常に薄く10nm程度にするか、あるいは分厚く240nm程度にすることが考えられる。
第1、第3実施に形態においては、上部多層反射膜5をp型とし、下部多層反射膜2をn型としたが、これに限定されることなく、導電型を反対にすること、あるいはいわゆるイントラキャビティ型VCSELを想定し、片側の導電型は導電性の低い真性とすることなどが考えられる。一般にp型層はn型層に比べエネルギーバンド不連続性に起因する素子抵抗の増大が懸念されるから、層数が増えることはレーザ特性を劣化させる要因となり好ましくない。このため、出射光を基板上面から取り出す関係上、下部多層反射膜2よりも上部多層反射膜5の層数を減らす目的で上部多層反射膜5の導電型をp型とした。
しかし別の視点から考えると、素子抵抗は面積に反比例するので、上部多層反射膜5をポスト状に加工することは素子抵抗を増大させる要因となる。したがって、同じ面積ならp型層よりもn型層を上部多層反射膜5とすることは好ましいという考え方もできる。結局、光の取り出し方向や導電型による素子抵抗の違い、あるいは駆動回路側との相性を勘案しながら、総合的な見地から導電型を適宜選択すればよい。
上記第1ないし第3の実施の形態において、量子井戸層を構成する材料として、GaAsを用いたが、本発明はこの材料に限定されるものではなく、例えば、AlGaAs、InGaAs、あるいはGaInNAs等の他のIII−V族化合物半導体材料を用いることも可能である。
さらに、上記第1ないし第3の実施の形態において、結晶成長方法としてMOCVD法を用いる場合について述べたが、本発明はこの方法に限定されることなく、他の方法により半導体層の積層を行っても良い。例えば、分子線ビームエピタキシー(MBE)法等を用いることができる。
さらに、上記第1ないし第3の実施の形態において、上部多層反射膜の上層を発光層としたが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、上部多層反射膜の形成時に膜形成条件を制御するなどにより、境界領域を組み込んだ発光層を下層又は内層に組み込むように構成することも可能である。
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は上記実施の形態に限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の構成要件を満足する範囲内で、上記実施の形態と異なる他の構成あるいは他の方法を適用することが可能である。