JP2006230633A - 優位脳の検査方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】言語の優位脳の判定方法の提供。
【解決手段】 言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、 (a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、 (b) 前記被検者が前記言語音を認識したか否かによって左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳であるかを判定する段階と を含むことを特徴とする前記方法。
【選択図】図5

Description

本発明は、言語の優位脳を判定する方法、優位脳判定装置及び記憶媒体に関する。
言語の優位脳(言語野のある側の脳)が右脳か左脳かを決めるための判定(優位脳判定)は、脳手術に不可欠である。なぜなら、優位脳であることが明らかになった側の脳を手術等により切除すると、言語障害等を引き起こし、手術後の患者の生活の質(QOL)に支障を来たすからである。通常、言語優位脳は、左脳であることが多い(非特許文献1)。しかし、文献によって多少の幅があるものの、右脳が言語優位脳となっている人もいる。従って、脳の外科手術をする際には、言語優位脳がどちらの脳半球にあるのかを、執刀医は確認しておくことが不可欠である。また、脳卒中等で優位脳が損傷されて失語症等の言語障害を生じた患者にリハビリテーションを行った場合、新たな言語野が右脳に形成されるのか左脳に形成されるのかを明らかにすることは、脳損傷の改善の仕組みを解明する上で不可欠である。
言語の優位脳が、左脳である人と右脳である人との比率を確かめるために、Zangwill(1967)は一側性の脳損傷で失語症を発症する人の数を算出した。ここで、左脳損傷によって失語症が出現した人の言語の優位脳は左脳であり、右脳損傷によって失語症が出現した人の言語の優位脳は右脳であると考えられる。Zangwillによると、左脳損傷例では、1149例中681例に失語症が認められた(59.3%)。右脳損傷例では、984例中42例に失語症が認められた(4.2%)。すなわち、左脳が言語の優位脳である例が多いが、右脳が優位脳である例も珍しくはなかった(59.3%:4.2%≒14:1)(非特許文献2)。
優位脳判定には、現在、アミタール判定及びダイコーティック・リスニング・テストと呼ばれる2つの方法が用いられている。アミタール判定は、被検者の内頚動脈からアミタールを注入し、右脳又は左脳を一時的に機能停止させるものである。左脳に薬剤を注入したときに発話が停止し、右脳に薬剤を注入したときに発話の停止が起こらなければ、左脳が優位脳ということになる。この方法は優位脳を直接的に検出できるものの、内頚動脈に針を刺すため、被検者にとっては苦痛であり、血管の損傷によって血栓を生じる可能性もある。この方法は、上記のとおり苦痛と危険性を伴うため、脳損傷により失語症を生じた患者に使いにくいという一面を持つ。この使用しにくさが、判定を多数例に実施することを不可能にし、脳損傷が改善する仕組みの解明を妨げる一因となっている。
ダイコーティック・リスニング・テスト(Dichotic Listening Test、両耳分離聴判定)は、被検者の右耳に「パ」、左耳に「バ」のごとく、左右の耳から異なった音を同時に聞かせ、どちらの耳からの音を聞き取る確率が高いかを測定するものである。右耳から聴いた音を認知する確率が高ければ、右耳と対応する左脳が優位脳と判定される。この方法は、アミタール判定のような苦痛はない。しかし、左右の耳から異なった音を同時に聞かせということは、健常者にとっても、2種類の言語音を聞き分けることになるので、頭の中で混乱を生じやすく、また、被検者が好む言語音に対して反応や残響音の影響を受けて誤って認識したり、どちらの耳から聞こえたかと答えるときに左右を取り違えて答えたりする恐れがあるなど、優位脳を正確に判定するということは期待できなかった。
特に、このダイコーティック・リスニング・テストを行う際には、理解が難しく、時間をかけてゆっくりと多くの説明をする必要がある。例えば、「アナウンサーの声が右耳と左耳から同時に聞こえます。たとえば右耳からは「カー」、左耳からは「マー」ときこえたりします。はっきり聞こえた方の音を答えて下さい。」のような説明が必要である。ところが、優位脳判定を早急に行う必要があるのは、脳梗塞など緊急の処置が必要で、言語機能が低下している患者である。このような判りにくい説明では、患者は理解することがはなはだ困難である。したがって、この方法によっては優位脳の判定は困難であり、この複雑さが、臨床場面で広く使用されるのを妨げている。
また、上記した「優位脳(又は利き脳)」とは別に、「利き耳」というタームがある(特許文献1、非特許文献3)。利き耳とは、言語を聞きやすい耳を意味し、その聞きやすさの違いは、下記の3つの場合に起因する。1)単にどちらか一方の耳の鼓膜やその振動情報を脳に伝える神経の構造的若しくは機能的な変性に起因する場合、2)単に利き腕と同じ方の耳が、聞き耳となっている場合、3)言語優位脳に情報を送る側の耳が言語を判別しやすい事実に起因する場合、である。このうち、1)及び2)に起因する利き耳は、脳の高次機能とは無関係の現象であるため、従来の利き耳の判別法では、優位脳を判定するのに十分であるとは言えなかった。
特開平10−26925号明細書 角田忠信著「右脳と左脳」小学館ライブラリー(1992) Zangwill O. L., Speech and the minor hemisphere. Acta Neurol. Psychiatr. Belg., 67, 1013-1020, 1967 前原勝矢著「右利き・左利きの科学」講談社(1989)
上記問題点を解決するために、本発明は、被検者へ身体的苦痛や危険や、精神的苦痛を与えることがなく、言語音の聴取と応答という簡易なテストで、言語の優位脳を判定する優位脳判定方法、優位脳判定装置及び優位脳判定のための記憶媒体を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、子音と母音とからなる言語音の子音部を被検者の一方の耳に提示し、これに引き続いて、この子音部に続く母音部を他方の耳に提示するというように、両方の耳に交叉提示(Cross presentation)して、被検者が認識するか否かをチェックした場合、健常者では、子音を左耳(右脳、多くの場合劣位脳と判断される)、母音を右耳(左脳、多くの場合、優位脳と判断される)で聞くと言語音の認知成績の低下を生じ、一方、左半球損傷の失語症患者の多くでは、健常者とは左右逆に、子音を右耳(左脳)、母音を左耳(右脳)で聞くと認知成績の低下を生じ、特に、子音部及びこの子音から母音への過渡的な移行部(以下、子音母音移行部と称する)を一方の耳に提示し、他方の耳に母音部を提示するように交叉させた場合に、テスト結果に顕著な差異が生じるという知見を得て、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
(a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
(b) 前記被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳であるかを判定する段階と
を含むことを特徴とする前記方法。
(2)言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
(a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
(b) 前記被検者の他方の耳へ前記言語音の子音部を提示し、一方の耳へ母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
(c) 前記各段階における被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳であるかを判定する段階と
を含むことを特徴とする方法。
(3)言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
(a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
(b) 前記被検者の一方の耳へ前記言語音とは異なる言語音の子音部を提示し、他方の耳へ当該異なる言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
(c) 前記各段階における被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳かを判定する段階と
を含むことを特徴とする前記方法。
(4)言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
(a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
(b) 前記被検者の他方の耳へ前記言語音とは異なる言語音の子音部を提示し、一方の耳へ当該異なる言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
(c) 前記各段階における被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳かを判定する段階と
を含むことを特徴とする前記方法。
(5)段階(a) の前に、
言語音を被検者の片側の耳又は両方の耳へ普通に提示する段階
を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)言語音の子音部に子音母音移行部を含めることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)言語音の母音部に子音母音移行部を含めることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(8)子音母音移行部の終点の-50msから+25ms未満の範囲内で母音部の始点が提示されるものである(6)の方法。
(9)言語音が、ガ行及びカ行の言語音から選択されるものである(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)言語の優位脳判定装置であって、
(a) 言語音の子音部情報又は母音部情報に基づいて前記子音部又は前記母音部の音を再生させる第一の音再生手段及び第二の音再生手段と、
(b) 前記第一の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第二の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段による再生タイミングを交叉制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする前記装置。
(11)言語の優位脳判定装置であって、
(a) 言語音の子音部情報又は母音部情報に基づいて前記子音部又は前記母音部の音を再生させる第一の音再生手段及び第二の音再生手段と、
(b) 前記第一の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第二の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段による再生タイミングを交叉制御する制御手段と、
(c) 前記第二の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第一の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段による再生タイミングを交叉制御する制御手段と、
(d) 前記(b)の制御手段と前記(c)の制御手段との切り替えを制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする前記装置。
(12)(a) 被検者が認識した言語音を文字情報として選択可能に表示された言語音表示選択手段と、
(b) 前記第一の音再生手段及び第二の音再生手段によって再生された言語音と前記言語音表示選択手段によって選択された言語音とが一致するか否かを比較する比較手段と、
(c) 該比較手段の出力を受けて、左脳及び右脳のいずれの脳が言語の優位脳であるかを判定する判定手段と
を、さらに備えたことを特徴とする(10)又は(11)に記載の装置。
(13)言語音表示選択手段が、反応キー選択手段である(12)記載の装置。
(14)言語音の子音部情報と母音部情報とを記録する言語情報記憶手段をさらに備えている(10)〜(13)のいずれかに記載の装置。
(15)言語情報記憶手段が、子音部情報を記録する子音部情報記憶手段と、母音部情報を記録する母音部情報記憶手段とを含むものである(14)に記載の装置。
(16)子音部情報記憶手段が、複数の異なる言語音の子音部情報が複数記録されたものであり、母音部情報記憶手段は、前記複数の異なる言語音の子音部情報に続く母音部情報が複数記録されたものである(15)記載の装置。
(17)(a) 被検者が発声する言語音を認識する音声認識手段と、
(b) 該音声認識手段で認識した言語音と言語情報記憶手段に記録されている言語音とが一致するか否かを比較する比較手段と、
(c) 該比較手段の出力を受けて、左脳及び右脳のいずれの脳が言語の優位脳であるかを判定する判定手段と
を、さらに備えたことを特徴とする(14)〜(16)のいずれかに記載の装置。
(18)再生タイミングを交叉制御する制御手段が、対となる子音部情報と母音部情報を読み出して被検者が言語音を一体的に聴取できるように制御するものである(10)〜(17)のいずれかに記載の装置。
(19)再生タイミングを交叉制御する制御手段が、前記第一の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第二の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段を交叉制御するものである(10)〜(17)のいずれかに記載の装置。
(20)子音部情報が、子音部と子音母音移行部とを含むことを特徴とする(10)〜(19)のいずれかに記載の装置。
(21)母音部情報が、子音母音移行部と母音部を含むことを特徴とする(10〜(19)のいずれかに記載の装置。
(22)言語音の子音部情報及び母音部情報を記録する記憶媒体であって、言語音に対応する言語情報は、言語音毎にそれぞれ異なる領域に記録されると共に、各領域に記録された言語情報が、子音部情報と母音部情報とに分離して対を成して読み出し可能に記録されていることを特徴とする前記記憶媒体。
(23)子音部情報が子音部と子音母音移行部とを含むことを特徴とする(22)記載の記憶媒体。
(24)母音部情報が、子音母音移行部と母音部を含むことを特徴とする(23)記載の記憶媒体。
本発明の優位脳判定方法によると、従来の方法に伴うような肉体的、精神的な苦痛は全くなく、血栓を生じさせるような危険もない。さらに、被検者への説明が容易で、かつ、優位脳の判定結果の正確性も高い。本発明の方法は、臨床判定の分野において脳手術前に優位脳を測定するのに有用である。また、リハビリテーション医学の分野において、失語症(患者は人口千人に一人)の改善がどちらの脳で起こるのかを予測するのに有用である。
また、従来の利き耳の検出試験では、鼓膜やその振動情報を伝える神経の変性などに起因する利き耳と、脳の高次機能と直接関係する優位脳とを区別して検出することは困難であったが、このような場合でも、本発明の方法によれば、利き耳と優位脳とを区別して検出することができる。
本発明の優位脳判定装置は、標準的な言語音からサンプルとして抽出した子音、母音に対応する子音情報、母音情報を音として再現し被検者の耳に交叉提示する再生タイミングを制御することにより実現し、被検者には、認識した言語音をそのまま復唱させ、検査者がその発声を聞いて、言語音の認識の正誤数をカウントし、その結果から優位脳を判定するので、優位脳判定装置としては、構成が極めてシンプルであり、優位脳判定のための操作も容易である。
反応キー選択手段を有した優位脳判定装置にあっては、誤答の種別を反応キーを押すことにより即座に集計可能であり、どの言語音が優位脳の検出力が高いかの統計的処理を即座に行うことが可能となり、自己学習機能を備えることによって、より一層正確に優位脳の判定が可能となる。
被検者に発声させずに認識した言語音を言語音表示選択手段を有した優位脳判定装置にあっては、被検者が発声困難な人の場合でも優位脳を判定できる。しかも、認識した言語音を、表示されている複数の文字情報の中から選択するという単純な操作で済むので、極めて容易に優位脳を判定できる。この操作結果を集計して自動的にいずれの脳が優位脳であるか判定するので、誰でも優位脳の判定が可能となる。
本発明による記憶媒体にあっては、複数の言語音に対応する言語情報が、言語音毎にそれぞれ異なる領域(トラック)に記憶されると共に、各領域に記憶された言語情報が子音部に相応する子音情報は一方のチャンネルに記録され、子音部に引き続く母音部に相応する母音情報は他方のチャンネルに記録されるように、それぞれ分離されて記録されており、これらはそれぞれ対を成して交叉すべく読み出され、市販のステレオオーディオ装置を用いて、各領域(トラック)を指定して簡単に再生することができるので、各言語音毎に子音、母音を両方の耳に選択的に交叉提示でき、優位脳の判定を簡便に行うことが可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者は、言語音が脳内でいかに処理され、認知が成立するのかを研究している。その中で、(1)Wernicke領野よりも左半球の縁上回下部が言語音の情報処理に密接に関与すること、(2)言語音の認知には、子音部が重要であること、(3)音の中には認知の手がかりとして子音部が優勢であるものと子音から母音への移行部が優勢であるものが存在することを明らかにした。
本発明者は、言語音を聞くときに、語音認知の重要な手がかりである子音部、及び子音母音移行部が優位脳(健常者の多くは左脳)、そして母音部が劣位脳(多くは右脳)に入ると言語音は正しく認知されるのに対し、この逆、すなわち子音部、及び子音母音移行部が劣位脳(多くは右脳)、そして母音部が優位脳(多くは左脳)に入ると子音部及び子音母音移行部はしばしば誤って認識され、母音部のみが正しく認知されることを見出した。本発明は、この知見を基にして完成されたものである。
本発明は、単音節の言語音の子音部又は子音部+子音母音移行部(子音から母音への移行部)と、子音母音移行部+母音部又は母音部とを左耳と右耳に交叉提示する判定によって、言語音の認識度から言語の優位脳を推定する方法である。すなわち、子音部(+子音母音移行部)と(子音母音移行部+)母音部を、それぞれ左と右の耳、又は右と左の耳に交叉提示したときに、正答率の高い提示パターンにおいて子音部又は子音部+子音母音移行部を交叉提示された側の脳が優位脳ということになる。例えば、左耳(右脳)に母音部又は子音母音移行部+母音部を、右耳(左脳)に子音部又は子音部+子音母音移行部を交叉提示したときに、その逆の提示パターンよりも正答率が高い場合では、左脳が優位脳ということになる。
本発明において「交叉提示」とは、子音部又は子音部+子音母音移行部と母音部又は子音母音移行部+母音部とを左の耳又は右の耳に各々示す場合であって、一方の耳に子音部又は子音部+子音母音移行部を、他方の耳に母音部又は子音母音移行部+母音部を提示することを意味する。本発明において交叉提示は、子音部又は子音部+子音母音移行部を母音部又は子音母音移行部+母音部よりも先に一方の耳に提示するものとする。本発明において、子音部+子音母音移行部が先に提示された場合、他方の耳に提示される母音部の始点は子音母音移行部の終点の-50ms〜+25msの範囲内で提示されることが望ましい。
多くの場合、健常者の優位脳は左脳であるため、子音を左耳(右脳)、母音を右耳(左脳)で聞くと、認知成績が低下する(図1)。一方、左半球を損傷した失語症患者の多くでは、言語優位脳の転換が起こり、子音を右耳(左脳)、母音を左耳(右脳)で聞くと認知成績が低下する。
本発明の特徴は、優位脳の判定(CPCV (Cross presentation of Consonant and Vowel) Test)時における被検者への説明が簡単である点にある。すなわち、子音を判別し得る脳が言語の優位脳であるという知見に基づいて、分割して交叉提示した言語音の子音部(+子音母音移行部)をどちらの耳に聞かせたときに言語音を正確に認識できるかを調べることにより行うものである。つまり、被検者は認識した結果を、言語音の復唱、又は表示された言語音の選択によって、簡便に回答することができる。使用される言語音も被検者にとって極めて簡単な課題である。
本発明の優位脳の判定方法の手順としては、例えば、図19に示すように、1)使用する言語音を左右の耳に提示する受話器の音量を調整する段階(S191)、2)両耳検査の段階、すなわち両耳で言語音を聞く段階(S192)、3)片耳検査の段階、すなわち右耳側(S193)又は左耳側(S194)で言語音を聞く段階、4)交叉検査の段階、すなわち、右耳及び左耳への文節した言語音の交叉提示、つまり、右耳へ言語音の子音部+子音母音移行部を提示し、続く母音部を左耳へ提示し、両方の耳から聞いた音を頭の中で合成して言語音が何であるかを認識させて答えさせる段階(S195)、反対に、左耳へ言語音の子音部+子音母音移行部を提示し、続く母音部を右耳へ提示し、両方の耳から聞いた音を頭の中で合成して言語音が何であるかを認識させて答えさせる段階(S196)、5)被検者の言語音の認識度から優位脳を判定する段階、例えば図4A及び図4Bに示すように1セットあたり22の言語音について子音部(+子音母音移行部)を11回ずつ左右それぞれの耳に提示したときに、子音部(+子音母音移行部)を右耳に提示したときの正答数が、左耳に提示したときの正答数よりも2以上多いときは(S197)、左脳を優位脳と判定し(S198)、反対に2より少ないときは(S197)、右脳を優位脳と判定(S199)する段階、の順序で検査を行うことで、言語の優位脳を判定することができる。検査音に用いたのはパ、タ、カ、バ、ダ、ガ、マ、ナ、サ、ザ、ラの11音であり、これらは「子音+ア」から構成される言語音のうち半母音(ヤ行:ヤ、ワ行:ワ)と、学者によって見解の相違があって母音か子音か半母音かの結論がついていない(ハ行:ハ)および拗音を除いた日本語の基本的な子音のすべてである。
本発明の言語の優位脳判定方法において、子音部に子音母音移行部が含まれていてもよく、母音部に子音母音移行部が含まれていてもよい。ただし、子音部および母音部の両方に子音母音移行部が含まれることはない。さらに、子音母音移行部が子音部または母音部のどちらに含有されているか、あるいは、いずれにも含有されないかは、1回の優位脳の検査を通して変更されるものではない。子音母音移行部が子音部にも母音部にも含まれない場合には、子音部の提示後母音部が提示されるまでの間に本来子音母音移行部が存在していたのと同程度の時間、例えば40msから60msの間隔を空けて提示することが好ましい。
以下にそれぞれの段階について詳細に述べる。
1)使用する言語音を左右の耳に提示する受話器の音量を調整する段階(S191)
この段階は、検査において最適な音量、すなわち快適聴取レベル(Most Comfortable Level; MCL)を設定する段階である。例えば、健常な若い人が両耳で聞いて「音が大きすぎて不快」と感じない範囲内で最も大きな音量に設定する。60歳以上ではさらに少し音量を上げることが好ましい。音量は当業者であれば適宜選択することができるが、被検者に検査音が大きすぎないか、あるいは小さすぎないかを確認して、快適に聞こえる音量に調節することもできる。
2)両耳検査の段階、すなわち両耳で言語音を聞く段階(S192)(図4A)
この段階は、言語音を被検者の両方の耳に普通に提示する段階である。この段階は、検査のやり方、例えば「ヘッドホンから聞こえた言語音を復唱する」が理解できているかどうかを確認するためにも行う。
本明細書において「普通に提示」とは、言語音を交叉提示でなく、分割していない原音(自然音節)のままの言語音を、あるいは子音部、子音母音移行部、母音部をセットにして、子音部+子音母音移行部に続いて母音部を、両耳または方耳に提示することを意味する。子音部+子音母音移行部に続いて母音部を提示するときは、母音部の始点は子音母音移行部の終点の-50ms〜+25msの範囲内で提示されることが望ましい。
両耳検査では、言語音提示の試行は、1〜複数回行うことができ、例えば図4中に示すように、練習(リハーサル)として1音を提示した後(図4A「練」)、11音を1セットとして行うこともできる。
3)片耳検査の段階、すなわち右耳側(S193)又は左耳側(S194)で言語音を聞く段階(図4A、図4B)
この段階は、言語音を被検者の片側の耳に普通に提示(一側提示)する段階である。この片耳検査では、どちらか一方の耳に難聴があるかどうかを確認することができる。
図4Aでは、「L」は左耳、「R」は右耳に提示したことを示す。すなわち、「サL」は言語音「サ」を左耳に提示したことを示す。片耳検査では、言語音提示の試行は、1〜複数回、好ましくは片耳11音ずつ両耳で22音を1セットとして、1〜3セット行うことができる。左右の耳への試行回数は、同じであることが好ましい。左右の耳への試行は、右耳に2回続いた後、左耳へ3回というように、不規則に配分されていてもよい。
片耳検査では、子音部を右、左の耳に1回ずつ聞かせるリハーサルを行うこともできる(図4A、図4B「練」)。
上記のように、2)及び3)の段階は、以下の交叉検査を行う前に、被検者の聴覚の機能、課題理解力、応答能力といった基礎的な事項を確認するために行う。また、2)両耳検査の段階を行う代わりに、3)片耳検査の段階を2回繰り返してもよい(図4B)。2)及び3)の段階において、検査開始後誤答が3以上、好ましくは4以上連続した場合には片耳検査を通して正答数が少なく、片耳検査が成立しないことが多い。したがって、検査開始後誤答が3以上、好ましくは4以上連続しない場合に、以下の交叉検査の段階に進むことができる。
4)交叉検査の段階(S195、S196)(図4A、図4B)
この段階は、被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、分割した言語音を交叉提示し、両方の耳から聞いた音を頭の中で合成して言語音が何であるかを認識し答えさせる段階である。
図4Aおよび図4Bでは、「C」は交叉提示であることを示し、「L」は左耳、「R」は右耳に子音部を提示したことを示す。すなわち、「コCL」または「コ/CL」は言語音「コ」の子音部を左耳に提示し、母音部を右耳に提示したことを示す。交叉検査では、言語音提示の試行は、1〜複数回、好ましくは分割した子音部を一方の耳に、分割した母音部を他方の耳に各々11ずつ計11音を両耳について行うので全22音を1セットとして、1〜3セット行うことができる。検査においては、連続して同じ耳に子音部を提示してもよいし、最初に提示した言語音(第1の言語音)の子音部と、次に提示した言語音(第2の言語音)の子音部とを異なる耳に提示してもよい。すなわち、子音部を提示する方の耳は、交叉検査において不規則に配分されていてもよいが、左右の耳で同じ試行回数であることが好ましい。
また、第1の言語音と第2の言語音とは、「カ」、「ガ」のように異なる言語音であってもよいし、同一の言語音であってもよい。
交叉検査の段階の例としては、右耳へ子音部を、左耳へ母音部を交叉提示し、両方の耳から聞いた音を頭の中で合成して言語音が何であるかを認識し答えさせる段階(S195)と、反対に、左耳へ子音部を、右耳へ母音部を交叉提示し、両方の耳から聞いた音を頭の中で合成して言語音が何であるかを認識し答えさせる段階(S196)である。
交叉検査では、子音部を右、左の耳に1回ずつ聞かせるリハーサルを行うこともできる(図4A、図4B「練」)。
交叉検査において、被検者は、両方の耳から聞いた音を頭の中で合成して認識した言語音を、復唱すること、記述すること、またはキーを押すことなどで回答することができる。被検者の体調、能力に応じて、被検者から認識した言語音を伝達されたオペレータが、被検者に代わって回答することもできる。
5)被検者の言語音の認識度から優位脳を判定する段階(S197、S198、S199)
この段階は、被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳であるかを判定する段階である。
具体的には、この段階は、子音部を左耳又は右耳に提示したときのいずれの場合に認識度が高いかを比べる段階(S197)、認識度の高い耳に対応する脳を優位脳と判定する段階(S198、S199)を含むものである。
本発明において「認識度」とは、提示された言語音の正しい認識の有無又は正答率を意味する。被検者が回答した言語音は、判定実施者(オペレータ)によって被検者の聞いた音と一致するかを照合し、正誤を判断される。あるいは、被検者が回答した言語音は、優位脳判定装置によって被検者の聞いた音と一致するかを比較され、正誤を判断される。認識度は、子音部を提示した耳ごとに求める。
子音部を左耳又は右耳に提示したときのいずれの場合に認識度が高いかを比べる段階(S197)は、例えば、左耳に子音部を提示したときの正答数と、右耳に子音部を提示したときの正答数から認識度を比較する段階である。
認識度の高い耳に対応する脳を優位脳と判定する段階(S198、S199)は、認識度が高い場合に子音部を提示された方の耳が優位であるため、その耳に対応する脳、すなわち左耳が優位であれば右脳を、言語の優位脳と判定することにより行うことができる。すなわち、左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳であるかは、被検者の言語音の認識度と子音部を提示した耳とを関係づけることによって、判定することができる。
例えば、子音部を左耳とする交叉提示を試行したときに、言語音の認識を誤った場合には、右耳からの情報を認識する脳、すなわち左脳が言語の優位脳と判定することができる。
また、例えば、交叉提示において、子音部を左右の耳に11音ずつ計22音を1セットとして提示したときに、子音部を右耳に提示したときの正答数が、左耳に提示したときの正答数よりも1セットあたり2以上多いときは(S197)、右耳が優位となり、優位な耳に対応する耳である左脳を優位脳と判定することができる(S198)。反対に、子音部を右耳に提示したときの正答するが、左耳に提示したときの正答数よりも1セットあたり2より少ないときは(S197)、左耳が優位となり、右脳を優位脳と判定することができる(S199)。
したがって、本発明の言語の優位脳の判定方法によれば、言語音を適当に想定して答えることによる判定の誤りも防止できる。しかも、この優位脳判定方法は、判定のやり方を被検者に特に説明をしなくても優位脳判定を実施できる。
本発明では、言語音として、子音、子音母音移行部及び母音に分割したものを交叉提示し、音節の聞き取りを行うことを特徴とする。ここで、言語音とは、「まとまりに発音される最小の単位。ふつう、核となる母音があり、その前後に子音を伴う」ものであり(広辞苑第五版)、上記の3つの成分(子音、子音母音移行部、母音)から成る。この3成分を説明するために、サウンドスペクトログラムを用いる。サウンドスペクトログラム(周波数成分分析)とは、語音を周波数分析し、周波数成分の多い領域ほど濃い色で示したものである(図2)。図2は、異なる2人による原音(自然音節)のサウンドスペクトログラムを示したものであり、ここに描かれる斑紋がフォルマント(特徴周波数成分)である。子音母音移行部とは、フォルマントの斑紋が遷移(変化)する領域を意味し、フォルマントの遷移部とも呼ばれる。フォルマントの傾斜の違いは、個々の音節の違いを特徴的に示すものである。図2のF1は第一フォルマントを、F2は第二フォルマントを示す。また、図3は音節「ダ」のサウンドスペクトログラム(図3中(1))と波形(図3中(2))を示したものである。図3の(1)の例では、周波数分布が変化しているのが子音母音移行部(フォルマントの遷移部)であり、ここでは「ハ」の字を時計方向に90度回転させたような斑紋が現されている(図3中(1)の円で囲んだ部分)。
母音部とは、フォルマントの斑紋が変化しなくなる部分を意味し定常部とも呼ばれる。
子音部とは、子音母音移行部に先行する領域を意味し構音器官の破裂によって産出されるため、破裂部とも呼ばれる。例えば、上唇と下唇が破裂すると「p」音が産出される。子音はほとんどが雑音であるため、幾筋もの細いフォルマントがスペクトログラムに現れ
るということはない。本発明の判定音としては、50音においてカ行、ガ行、サ行、ザ行、タ行、ダ行、ナ行、ハ行、バ行、パ行、マ行、ヤ行、ラ行に属する音節を用いることができる。特に限定されないが、数多くの実験結果、カ行又はガ行に属する音節が含まれることが好ましいことが判明した。
また、本優位脳判定方法においては、言語音の一部(例:子音部)を一方の耳に、音の残り(例:母音部)を他方の耳に入力する交叉提示のために、音を子音部と母音部に分ける必要がある。さらに、本発明で用いる判定音としての言語音には、アナウンサーなどにより明瞭に発音された音節を用いることが望ましい。言語音をデジタル化して判定に用いるように加工するために特に重要なことは、音を切断したときに切断箇所から雑音を生じないようにすること、被検者が聞いている音をモニターすること、及び任意の音を速やか且つ正確に再生することである。そのためには、録音時に極力雑音を録音しないようにするとともに、再生時に雑音を再生させないようにする必要がある。検査に用いる言語音としては、単音節毎に、言語音の子音部と、子音から母音への子音母音移行部と、母音部とを切断し、ステレオの左右のチャンネルに分け、例えば、CD−ROM1トラックに録音する。録音に際しては、デジタル化した音の一粒一粒を観察しながら、音圧がゼロの部分で切断する。モニターする技術は、被検者の聞いている音をモニターし、被検者の認知内容と照合するという技術である。再生する技術としては、市販のCDプレーヤー等にトラックを表示し、トラックを見ることによって何問目が出題されているのかを、直ちに判定することが可能となる。本発明で用いる判定音は、高品位、高精度の判定音となるように、デジタル録音したものを使用することが望ましいが、アナログ音声でもよく、要するに、子音と母音とを交叉提示できればよい。
本発明に用いる判定音(デジタル音)の作成方法は、例えば以下の通りである。アナウンサーが繰り返して読み上げる音節の系列をマイクロホンを通してデジタル録音する。マイクロホンはコンデンサマイクロホンであることが好ましい。記録にあたっては、読み上げられた音節をデジタル化し、人間の聴覚が敏感な帯域であるほど高い精度を保ち、ここから離れるほど粗い精度にして変換するとよい。このデジタル信号を A/Dコンバータでデジタル信号に変換し、コンピュータのハードディスクに記録することができる。
上記のように録音された音節の中で、評定者によって特に明瞭に発音されているものを選択してもよく、複数の評定者で選択することが好ましい。上記の方法によって、通常一つの言語音につき2〜3のサンプルが得られる。すなわち、「パ」の音を例に取れば、10回「パ」と発音して録音しても、模範的な「パ」音はこのうち2〜3個程度である。
上記方法で得られた音節の波形とサウンドスペクトログラムを用いてコンピュータの画面に表示する。音節の中からフォルマントパターンが、特に典型的なものを選択し、これ
らを例えば、「pa」、「ta」、「ka」、「ba」、「da」、「ga」、「ma」、「na」、「sa」、「za」、「ra」のプロトタイプとして用いることもできる。
続いて、子音母音移行部と、母音部とを切断し、ステレオの左右のトラックに分ける。この作業は、切断部からノイズが入らないように、音圧がゼロの部分を選択して行うことが好ましい(図3)。図3では、音節「ダ」を例に用いて、特徴周波数成分分析(図3中(1))とその波形(図3中(2))を示す。(3)は、図3中(2)の矢印部分を拡大した波形であり、図3中(4)はそれをさらに拡大した波形である。図3中(4)では1つ1つの点がデジタル化された音を示す。音の切断は、接合部分からノイズが発生するのを防ぐため、図3中(4)のデジタル化した音の一粒一粒を観察しながら、音圧がゼロの部分で切断することを示している。また、前述のように図3中(1)においては、周波数成分が変化している箇所が子音母音移行部、一定の箇所が母音部である。
母音部を再生する再生タイミングは、子音母音移行部に引き続き速やかに行われることが望ましい。母音部の再生は、分割前の音節における母音部の開始点が、子音母音移行部の終点の-50msから+25ms未満の範囲、望ましくは-50ms〜0msの範囲であり、子音母音移行部の終点時と同時に母音部の始点が再生されることがより好ましい。
作成された判定音は適当な記憶媒体(CD-ROM、DVD、HD、RAM等)に記録する。本発明の範囲には、上記の言語音の子音部情報及び母音部情報を記録する記憶媒体も含まれる。本発明の記憶媒体は、言語音に対応する言語情報は言語音ごとにそれぞれ異なる領域に記録されるとともに、各領域に記録された言語情報が、子音部情報と母音部情報とに分離して対を成して読み出し可能に記録されていることを特徴とする。本発明の記憶媒体において、子音部情報は子音部と子音母音移行部とを含んでいてもよい。あるいは、本発明の記憶媒体において、母音部情報は子音母音移行部と母音部とを含んでいてもよい。
判定は、記録された判定音を出力装置で出力し、この音をヘッドホンで被検者に聞いてもらい、復唱してもらう。復唱の他、認識した音を、記述する形態であってもよい。判定に用いる音(刺激系列)の例を図4A及び図4Bに示す。被検者の反応の正誤を判定するには、被検者の聞いている音をモニターし、被検者の認知内容と照合する必要がある。この点、本発明は、コンパクトディスク等を用いて判定音を再生できるため、判定実施者(オペレータ)が実際に音を聞かなくても、例えば、CDプレーヤーに各トラックを表示し、各トラックを見ることによって何問目が出題されているのかを判定できる。従って、判定実施者の負担が減少すると共に、反応の正誤をリアルタイムに判定できるという効果も生じる。また、テープではなくコンパクトディスクやDVDにデジタル的に試験音を記録した場合は、被検者から、検査中にしばしば再試聴を要求されても、被検者の要求に応えて任意の問題を速やかに、かつ正確に再生することができる。
本発明は、上記優位脳判定方法を実行するための優位脳判定装置をも提供する。本発明の優位脳判定装置は、当該記憶媒体に録音された音節を交叉提示するための出力手段(出力装置、再生手段)を少なくとも含むものである。また、本発明の優位脳判定装置は、判定音を記録した記憶媒体を含んでいてもよい。したがって、本発明の言語の優位脳判定装置において、子音部あるいは母音部には子音母音移行部を含んでいてもよい。
本発明の言語の優位脳判定装置には、以下の4つの態様の装置が含まれる。
Figure 2006230633
本発明の装置の第1の態様は、
(a) 言語音の子音部情報又は母音部情報に基づいて言語音の子音部音を第一の音再生手段で再生させ、これに引き続き母音部音を第二の音再生手段で再生させるための、第一及び第二の音再生手段と、
(b) 再生タイミングを交叉制御する制御手段と
を備える装置である。本明細書において「これに引き続き」とは、先に再生させる子音部(+子音母音移行部)の終点前50ms〜終点後25msまでの間に、後に再生させる(子音母音移行部+)母音部の始点がくることを意味する。
本発明の装置の第2の態様は、第1の態様の装置に加えて、さらに、
(a) 子音部音を第二の音再生手段で再生させ、これに引き続き母音部音を第一の音再生手段により再生させるように、再生タイミングを交叉制御する制御手段と、
(b) 制御手段の切り替えを制御する制御手段(切り替え手段)とを備える装置である。
本発明の装置の第3の態様は、第1または第2の態様の装置に加えて、さらに、
(a) 被検者が認識した言語音を文字情報として選択可能に表示された言語音表示選択手段と、
(b) 再生装置によって再生された言語音と言語音表示選択手段によって選択された言語音とが一致するか否かを比較する比較手段と、
(c) 比較手段の出力を受けて、左脳及び右脳のいずれの脳が言語の優位脳であるかを判定する判定手段と
を備える装置である。
本発明の第3の態様において、言語音表示選択手段は、例えば、反応キー選択手段である。反応キー選択手段は、被検者がいずれの言語音を誤答したかを選択的に入力可能とすることもできる。
本発明の装置の第4の態様は、本発明の第1〜第3の態様の装置に加えて、さらに、
(a) 言語音の子音部情報と母音部情報とを記録する言語情報記憶手段
を備える装置である。
第4の態様の装置において、言語情報記憶手段は、子音部情報を記録する子音部情報記憶手段と、母音部情報を記録する母音部情報記憶手段とを含んでいてもよい。ここで、記録される子音部情報及び母音部情報は、複数の異なる言語音についての情報であってもよく、前記手段はそれらを複数記録されたものであってもよい。
第4の態様の装置の例としては、例えば、本発明の第1〜第3の態様の装置に、さらに、
(a) 被検者が発生する言語音を認識する音声認識手段と、
(b) 音声認識手段で認識された言語音と言語情報記録手段に記録されている言語音とが一致するか否かを比較する比較手段と、
(c) 比較手段の出力を受けて、左脳及び右脳のいずれの脳が言語の優位脳であるかを判定する判定手段と
をさらに備える装置である。
また、本発明の装置の各態様において、再生タイミングを交叉制御する制御手段は、対となる子音部情報と母音部情報とを読み出して、被検者が言語音を一体的に聴取できるように制御するものであってもよい。
本明細書において「一体的に聴取できる」とは、交叉提示した音が原音(分割されていない音、自然音節)のように、ひとつの言語音として認識させうることを意味する。たとえば、言語音を一体的に聴取するには、子音部+子音母音移行部の終点の-50ms〜+25msの範囲内に母音部の始点が提示されるように言語音を再生すればよい。
さらに、上記再生タイミングを交叉制御する制御手段は、第一の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き第二の音再生手段により母音部を再生させ、その後、前記第二の音再生手段により子音部を再生させ、これに引き続き前記第一の音再生手段により母音部を再生させるように、前記第一及び第二の音再生手段を交叉制御するものであってもよい。
図12は、判定音を出力するための出力手段の構成を示すブロック図である。当該出力手段は、電源部1と制御部2と出力部3とから構成されており、電源部1に制御部2が接続し、制御部2に出力部3が接続している。
本発明の態様を例示すると、電源部1では、定電圧源VB11と電源スイッチ13との間に電源ランプ12が直列に接続されており、電源スイッチ13とスタートスイッチ14は制御部2に接続している。
制御部2は、スイッチからの入力情報をCPUに電送する入力インターフェース21、受け取った情報についてプログラムを実行するCPU22、デジタル方式で判定音が記
録された記憶媒体(非図示)を格納する記憶媒体ドライブ23、プログラムを記憶させておくメモリ24及びCPUによる演算結果を通信する出力インターフェース25を備えている。制御部2は、パワーアンプ31及びスタートランプ33に接続しており、制御部2からの信号がそれぞれに出力される。
記憶媒体に保存された情報は、CPU22を介して出力部3のパワーアンプ31に信号として出力される。パワーアンプ31はスピーカ32に接続している。スピーカ32は、左右用の2つ(32a、32b)に分かれる。
以下、図13のフローチャートを参照しながら、出力手段の作動を説明する。電源スイッチ13を入れると(S101)電源ランプ12が点灯する(S102)。被検者又はオペレータがこの状態でスタートスイッチ14を入れると(S103)、信号によってスタートランプ33が点灯し(S104)、さらに信号によって記憶媒体ドライブ23が再生起動される(S105)。そして、例えば右スピーカ32Bから右トラックに記録した判定音が、左スピーカ32Aから左トラックに録音した判定音が出力される(S106)。これにより、分割された音節、例えば子音部+子音母音移行部と母音部とを左右の耳に交叉提示する(S107)。この交叉提示された分割音により、言語の優位脳の判定を実施することができる。
当該出力手段には、音節モニター(非図示)を搭載することもできる。音節モニターとは、再生されているトラックナンバーを表示するものである(図4A、4B)。さらに、当該出力手段においては、左スピーカ32A及び右スピーカ32Bがヘッドホン状であり、左右のチャンネルに記録した音が、ヘッドホンを介して左右の耳にそれぞれ提示される。
本発明による優位脳判定装置は、図14に示すように、アナウンサーなどにより明瞭に発音された言語音サンプルを波形分析装置50で分析し、子音部波形信号51A、子音母音移行部波形信号51B、母音部波形信号51Cのようにそれぞれを抽出する。(これらの信号は、時系列的に出力されるが、ここでは便宜上、並列して表記してある。)抽出された各波形信号は、それぞれA/D変換器52を介してデジタル信号に変換される。デジタル化された子音部情報、子音母音移行部情報、母音部情報は、言語音情報記憶手段53の子音部情報記憶手段53a、子音母音移行部情報手段53b、母音部情報記憶手段53cへそれぞれ記憶される。記憶される情報の切り出し、タイミングについては前述したとおりである。これら言語音情報記憶手段53は、言語音を子音部、子音母音移行部、母音部に分けて、各チャンネルに録音したCDそのものを、CDプレーヤーにセットした状態と考えてもよい。或いは、再生した信号をデジタル信号として、RAM等に記憶させたものとしてもよい。これら子音部情報記憶手段53a、子音母音移行部情報手段53b、母音部情報記憶手段53cから出力されたデジタル信号は、それぞれ時系列的に制御手段54によって、前述したように子音部、子音母音移行部、母音部というように、前記したタイミングで、第1の音再生手段55L、第2の音再生手段55Rによって再生され、受話器56L及び56Rから交叉提示(出力、再生)される。制御手段54は、子音情報記憶手段53aからの出力信号を第1の音再生手段へ入力させ、受話器56Lから音として再生したり、子音母音移行情報記憶手段53b及び母音情報記憶手段53cからの出力信号を第2の音再生手段へ入力させるスイッチ(SW1、SW2、SW3およびSW4)機能を有し、切り替え制御している。
本明細書において「交叉制御」とは、交叉提示をするような出力の制御を意味する。
図15に示す優位脳判定装置は、図14の優位脳判定装置を更に発展させ、被検者に認識した言語音を復唱させ、その被験者の声を音声認識し、優位脳を自動的に判定するようにしたものである。本発明の第4の態様の装置の一態様に該当する。
制御手段54によって、検査の順序にしたがって言語音情報の提示がプログラムされるように構成されている。デジタル信号は、第一の音再生手段55Lと第二の音再生手段55Rによって再生され、受話器56L及び56Rにより被検者へ提示され、被検者が認識した言語音を被検者(または被検者から認識した言語音を伝達されたオペレータなど)に復唱させ、この発声音をマイクロホン57で受け、音声認識手段58で認識する。受話器56L及び56Rにより被検者へ提示した言語音に関する情報と音声認識手段58で認識した言語音とを比較手段59で両者が一致するか否かを比較する。比較結果をカウントして、前記したような優位脳判定に十分な数の結果が得られた場合、判定手段60は、優位脳がいずれの脳か判定する信号を出力する。この優位脳判定装置によれば、予め検査すべき言語音をプログラムし、優位脳判定基準を設定しておけば、優位脳判定の検査はほぼ機械的、自動的に行うことができるので、主観による判定結果のばらつき少なくなり、統計的に処理する自動学習機能を付加することにより、使用すればするほど判定精度を向上させることが出来る。
図16に示す優位脳判定装置は、図15の優位脳判定装置の音声認識手段58の代わりに、言語音表示選択手段61を使用したものである。本発明の第3の態様の一つに該当する。音声認識手段58を使用する場合は音声認識の精度が優位脳判定の精度に大いに関与するが、言語音表示選択手段61を使用する場合にはかかる問題が生じない。タッチパネル式の言語音表示選択手段61で実現が可能であり、発声機能に障害を有した患者の場合でも使用が可能である。制御手段54によって、検査の順序にしたがって言語音情報の提示がプログラムされるように構成されている。受話器56L及び56Rにより被検者へ提示されると共に、それらの情報は、言語音表示選択手段61及び比較手段62に伝達される。被検者に提示される言語音を含む複数の言語音は、図17で示すように、マトリックス状に言語音表示選択手段61上のタッチパネルに表示される。被検者は、この言語音表示選択手段61を見て、自分が認識した言語音に該当するキー(例えば61a、61b、61c)の一つを選択し、キーを押圧する。この信号を受け、受話器56L及び56Rにより被検者へ提示した言語音に関する情報と言語音表示選択手段61で認識した言語音とを比較手段62で両者が一致するか否かを比較する。比較結果をカウントして、前記したような優位脳判定に十分な数の結果が得られた場合、判定手段63は、優位脳がいずれの脳か判定する信号を出力する。この優位脳判定装置によれば、図15の音声認識手段を使用した装置より安価に提供でき、音声発生が困難な被検者に対しても優位脳判定が可能である。
図16及び図17で示した優位脳判定装置は、被検者がタッチパネル式の言語音表示選択手段61の各キーを押圧するようにしたものであるが、この言語音表示選択手段61を図18に示すように、正答キー71、誤答キー72の2種類に大別し、誤答キー72をさらに間違い易い言語音の文字を表示した複数の個別の誤答キー72a〜72n、これら以外の誤答キー72xとに分け、右側には、被検者に聴かせる音のトラック番号を表示する表示領域73、試行回数の表示領域74、被検者に提示する刺激としての言語音種別の表示領域75、反応を示す表示領域76を設けて表示するように構成した反応キー選択手段70とすることもできる。これらの反応キーの操作出力を集計し、統計処理をして自己学習させ、間違いやすい言語音を選択するようにしてもよい。オペレータは、被検者に対して提示した言語音の種別を操作パネルの右側の表示領域75を見ることにより知ることが出来る。被検者が口頭で答えた言語音が正答の場合は、オペレータは正答の正答キー71を押し、誤答のときは、その間違いに応じて誤答キー72a〜72n、および72xのいずれかを押す。このように反応キー選択手段70を構成することにより、被検者が自分でキーを押すことが困難な障害を持った被検者に対して、優位脳判定の経験が少ないオペレータであっても、操作パネルの右側に表示される正解の言語音情報に対して、被検者が復唱して答えた誤答の言語音が何であったかをキーを押すという簡単な操作で記録することができ、一定水準の優位脳判定を行うことができる。又、これらキーの押圧を集計し、統計的に処理することによって、自己学習して聴き誤り易い言語音のランキングを取ることにより、より一層正確な優位脳判定を行えるように構成することが可能となる。
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
判定音の作成及び判定方法
以下の実施例で用いる判定音は、下記の通り作成した。アナウンサーが読み上げる音節の系列をコンデンサマイクロホンを通してDigital Auditory Tapeに記録した。記録にあたっては、デジタル化し、このデジタル信号をAD-DAコンバータに送り、ハードディスクに記録した。オーディオデータはSound Edit 16で再生し、スピーカで音を出した。二人の評定者が録音した音節の中から特に明瞭に発音されているものを選択した。1つの言語音につき2〜3のサンプルが得られた。これらの音節の波形と周波数成分をコンピュータの画面に表示した。これらの音節を、「pa」、「ta」、「ka」、「ba」、「da」、「ga」、「ma」、「na」、「sa」、「za」及び「ra」のプロトタイプとして用いた。この音節の波形及びサウンドスペクトログラムを画面上で確認し、子音部、子音母音移行部、母音部に分けた。次に、音節の子音部及び子音母音移行部と、母音部とを切断し、ステレオの左右のトラックに分ける作業は、切断部からノイズが入らないように、音節がゼロの部分を選択して行った(図3)。右脳に入れる刺激はステレオの左トラック(左耳用)に、左脳に入れる刺激はステレオの右トラック(右耳用)に記録し、1問を1トラック(1曲)としてコンパクトディスクに記録した。第何トラックの音がでているかがCDプレーヤーに表示されるので、その表示を見ることにより、どの音がでているかを知ることができる。さらに、被検者の求めに応じて、任意の刺激、例えば被検者が再聴したいと希望したトラックを出すことができる(トラックの指定)。判定ではCDプレーヤにコンパクトディスクをセットし、ヘッドホンでこの音を被検者に提示した。被検者には、何という音が聞こえたかを復唱してもらい、その正答率を評価した。判定に用いる刺激系列を図4A及び図4Bに示した。
図4Aは、11音種(「パ」、「タ」、「カ」、「バ」、「ダ」、「ガ」、「マ」、「ナ」、「サ」、「ザ」、「ラ」)について60音の試験を行い、音節中のどこで区切ると本発明の試験に適しているかについて調べた判定に用いた系列である。また、図4Bは、20音(パ行:「パ」、「ピ」、「プ」、「ペ」、「ポ」;バ行:「バ」、「ビ」、「ブ」、「ベ」、「ボ」;カ行:「カ」、「キ」、「ク」、「ケ」、「コ」;ガ行:「ガ」、「ギ」、「グ」、「ゲ」、「ゴ」)について88音の試験を行い、どの音種が一番音を聞き分けやすいかを調べた判定に用いた系列である。図4Bの刺激系列を用いた判定によって、カ行とガ行の音が、聞き分けやすいことが明らかとなった。
母音の交叉提示とその効果
子音及び子音母音移行部のみを脳の一側に提示したとき(図5(A))と、子音部+子音母音移行部とは反対側の脳にさらに母音を交叉提示したとき(図5(B))の正答率の比較を行った。
まず、子音部+子音母音移行部を一側の脳に提示したときには、健常者では左脳、右脳の有意な差は生じなかったが、失語症の患者において右脳に提示したときの方が左脳に提示したときよりも正答率が高かった(図5(A))。次に子音部+子音母音移行部と母音を交叉提示したときには、健常者では、子音部+子音母音移行部が右脳に入り、左脳に母音が入ったときに音の認知が障害されることが明らかになった(図5(B))。また、失語症の患者では、逆に、子音部+子音母音移行部が左脳に入り、右脳に母音が入ったときに音の認知が障害されることが明らかになった(図5(B))。
このことから、本発明の判定方法においては、子音部+子音母音移行部と母音部を左右の耳に交叉提示して、正答率の高い組み合わせのときに子音部+子音母音移行部を提示した側の耳の逆の脳、つまり子音部+子音母音移行部を右耳(左脳)に、母音部を左耳(右脳)に提示したときに好成績であれば、左脳が優位脳であるといえる。
分割位置の検討
失語症の患者において、図6(A)に示すように子音の後で音節を分割し、子音母音移行部+母音を交叉させた場合(交叉1)と、(B)に示すように子音母音移行部の後で分割し、母音を交叉させた場合(交叉2)において、右脳、左脳におけるそれぞれのパターンの正答率変化を比較した。その結果、失語症患者では、交叉1でも2でも、左脳に子音又は子音部+子音母音移行部を提示したときに正答率は低下した。しかし、図6(B)に示すように、子音母音移行部の後で区切って提示させると(交叉2)、右脳に子音部+子音母音移行部を提示したときに成績がよいために、交叉1よりも、被検者が課題ができないことを悲観して鬱状態に陥るのを防ぐことができた。
従って、本発明の判定方法では、子音部+子音母音移行部と母音部を交叉提示することも、子音部と子音母音移行部+母音部を交叉提示することも可能であるが、子音部+子音母音移行部と母音部を交叉提示することが好ましいことが明らかとなった。
交叉提示部分の検討
本発明において、交叉提示に必要な部分を検討するために、子音母音移行部を除去した言語音(子音と母音)で右脳と左脳の正答率の差を比較した。さらに、子音母音移行部のみを反対の脳に提示して比較した。
図7(A)に、子音と母音を一側に提示したときの結果を示す。その結果、健常者及び失語症の患者において、子音と母音を右脳に提示した場合と左脳に提示した場合では差は見られなかった。しかし、子音と母音を交叉提示すると、健常者では左脳と右脳で差はなかったのに対し、失語症の患者では子音を左脳、母音を右脳に提示したときに正答率が低下した(図7(B))。一方、子音母音移行部のみを異なる側の脳に提示した場合、失語症の患者では、子音と母音を右脳に、子音母音移行部を左脳に提示したときに正答率が低下したが、有意な差ではなかった(図7(C))。従って、本発明の判定方法においては、子音と母音とが交叉提示されることが重要であることが明らかとなった。
聴力障害との関係
本方法において、左脳に子音部+子音母音移行部が提示されたときに正解率が低くなる症例(失語症例)の原因に、右耳の聴力障害が関係するかを本実施例で検討した。
一側の脳に提示する子音部+子音母音移行部と、もう一側の脳に提示する母音との提示時間間隔を図8のように-50ms〜+50msまで変えたときの正答率を比較した。
各間隔において子音部+子音母音移行部を右脳に提示した結果を図9中に丸印(●)で、左脳に提示した結果を四角印(■)で示した。母音の提示開始が子音+子音母音移行部の終点よりも25ms先行したとき(-25ms)に、正答率の左右脳差が最も大きくなり、母音の提示開始が子音+子音母音移行部の終点よりも25ms遅れると(+25ms)、正答率の左右脳差はなくなった。
従って、失語症例において、左脳に子音部+子音母音移行部が提示されたときの正答率の低下は、聴覚の障害に起因するものではないことが明らかとなった。
音節による影響
本実施例では、用いる音節によって正答率に差が生じるかを検討した。
まず、「パ」、「ピ」、「プ」、「ペ」、「ポ」、「バ」、「ビ」、「ブ」、「ベ」、「ボ」、「カ」、「キ」、「ク」、「ケ」、「コ」、「ガ」、「ギ」、「グ」、「ゲ」、「ゴ」の20音節を作成した。音の出し方は、図10に示すように、一側左脳(A)、一側右脳(B)、交叉左脳子音(C)又は交叉右脳子音(D)の4条件で行い、正答率を比較した。パ行、バ行、カ行、ガ行の音についての結果を、それぞれ図11の(a)〜(d)に示す。パ行、バ行、カ行、ガ行の音のうち、特にカ行とガ行の音を用いたときに、(C)の交叉左脳子音と(D)の交叉右脳子音について、左右脳の差が特に大きく示された。
Dichotic Listening Testとの比較
従来のDichotic Listening Testと本判定方法(CPCV Test, CPCV: Cross Presentation of Consonant and Vowel)を左脳損傷の失語症患者(多くは右脳優位と推定される)と健常者(多くは左脳優位と推定される)に実施した。従来のDichotic Listening Testでは左脳損傷の失語症患者が右脳優位であることは統計的に検出できたものの(右耳正答率15.9%、左耳正答率59.0%、左右差:t=5.382、p<0.0001)、健常者が通常左脳優位であることは統計的に検出できなかった(右耳正答率53.5%、左耳正答率43.5%、左右差:有意差:t=1.667、p=0.1138)。これに対し、本方法(CPCVTest)では、実施例2に示すように、左脳損傷の失語症患者が右脳優位であることも(右耳正答率29.6%、左耳正答率69.5%、左右差:t=5.179、p<0.0001)、健常者が左脳優位であることも(右耳正答率96.0%、左耳正答率76.3%、左右差:t=3.175、p=0.0055)統計的に検出できた。従って、本発明により、検出力の高い優位脳検出方法が提供されることが示された。
本発明の方法における交叉提示の概略図である。 原音(自然音節)のサウンドスペクトログラム(周波数成分分析)を示す図である。 音節「ダ」の特徴周波数成分分析とその波形を示す図である。 優位脳の判定に用いる刺激系列の例を示す図である。 優位脳の判定に用いる刺激系列の例を示す図である。 母音の交叉提示とその効果について示した図である。 子音母音移行部を異なるパターンで交叉させたときの結果について示した図である。 交叉提示に必要な部分についての検討結果を示した図である。 実施例5における提示時間間隔について示した図である。 子音部+子音母音移行部と母音の提示時間間隔変化における正答率について示した図である。 実施例6で行う(A)〜(D)の4条件について示した図である。 (a)はパ行、(b)はバ行、(c)はカ行、及び(d)はガ行の音を用いたときの実施例6の(A)〜(D)の4条件による結果を示した図である。 本発明の判定システムに含まれる判定音の出力手段の構成を示すブロック図である。 判定音の出力手段の作動フローチャートである。 本発明の優位脳判定装置の動作ブロック図である。 音声認識手段を用いた本発明の変形例を示すブロック図である。 言語音表示選択手段を用いた本発明の変形例を示すブロック図である。 図16の言語音表示選択手段の外観図である。 本発明の優位脳判定手順を示すフローチャートである。 優位脳の判定方法の手順を示すフローチャートである。
符号の説明
1:電源部1
11:定電圧源VB
12:電源ランプ12
13:電源スイッチ
14:スタートスイッチ
2:制御部
21:入力インターフェース
22:CPU
23:記憶媒体ドライブ
24:メモリ
25:出力インターフェース
3:出力部
31:パワーアンプ
32:スピーカ
32a:スピーカ
32b:スピーカ
33:スタートランプ
50:波形分析装置
51A:子音部波形信号
51B:子音母音移行部波形信号
51C:母音部波形信号
52:A/D変換器
53:言語音情報記憶手段
53a:子音部情報記憶手段
53b:子音母音移行部情報手段
53c:母音部情報記憶手段
54:制御手段
55L:第1の音再生手段
55R:第2の音再生手段
56L:受話器
56R:受話器
57:マイクロホン
58:音声認識手段
59:比較手段
60:判定手段
61:言語音表示選択手段
61a〜61c:キー
62:比較手段
63:判定手段
70:反応キー選択手段
71:正答キー
72:誤答キー
72a〜72n:誤答キー
72x:誤答キー
73:表示領域
74:表示領域
75:表示領域
76:表示領域

Claims (24)

  1. 言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
    (a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
    (b) 前記被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳であるかを判定する段階と
    を含むことを特徴とする前記方法。
  2. 言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
    (a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
    (b) 前記被検者の他方の耳へ前記言語音の子音部を提示し、一方の耳へ母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
    (c) 前記各段階における被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳であるかを判定する段階と
    を含むことを特徴とする方法。
  3. 言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
    (a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
    (b) 前記被検者の一方の耳へ前記言語音とは異なる言語音の子音部を提示し、他方の耳へ当該異なる言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
    (c) 前記各段階における被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳かを判定する段階と
    を含むことを特徴とする前記方法。
  4. 言語音を被検者に交叉提示することにより被検者の言語の優位脳を判定する言語の優位脳判定方法であって、
    (a) 被検者の一方の耳へ言語音の子音部を提示し、他方の耳へ前記言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
    (b) 前記被検者の他方の耳へ前記言語音とは異なる言語音の子音部を提示し、一方の耳へ当該異なる言語音の母音部を提示するように、言語音を交叉提示する段階と、
    (c) 前記各段階における被検者の言語音の認識度から左脳及び右脳のいずれが言語の優位脳かを判定する段階と
    を含むことを特徴とする前記方法。
  5. 段階(a) の前に、
    言語音を被検者の片側の耳又は両方の耳へ普通に提示する段階
    を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 言語音の子音部に子音母音移行部を含めることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 言語音の母音部に子音母音移行部を含めることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  8. 子音母音移行部の終点の-50msから+25ms未満の範囲内で母音部の始点が提示されるものである請求項6記載の方法。
  9. 言語音が、ガ行及びカ行の言語音から選択されるものである請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 言語の優位脳判定装置であって、
    (a) 言語音の子音部情報又は母音部情報に基づいて前記子音部又は前記母音部の音を再生させる第一の音再生手段及び第二の音再生手段と、
    (b) 前記第一の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第二の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段による再生タイミングを交叉制御する制御手段と
    を備えたことを特徴とする前記装置。
  11. 言語の優位脳判定装置であって、
    (a) 言語音の子音部情報又は母音部情報に基づいて前記子音部又は前記母音部の音を再生させる第一の音再生手段及び第二の音再生手段と、
    (b) 前記第一の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第二の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段による再生タイミングを交叉制御する制御手段と、
    (c) 前記第二の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第一の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段による再生タイミングを交叉制御する制御手段と、
    (d) 前記(b)の制御手段と前記(c)の制御手段との切り替えを制御する制御手段と
    を備えたことを特徴とする前記装置。
  12. (a) 被検者が認識した言語音を文字情報として選択可能に表示された言語音表示選択手段と、
    (b) 前記第一の音再生手段及び第二の音再生手段によって再生された言語音と前記言語音表示選択手段によって選択された言語音とが一致するか否かを比較する比較手段と、
    (c) 該比較手段の出力を受けて、左脳及び右脳のいずれの脳が言語の優位脳であるかを判定する判定手段と
    を、さらに備えたことを特徴とする請求項10又は11に記載の装置。
  13. 言語音表示選択手段が、反応キー選択手段である請求項12記載の装置。
  14. 言語音の子音部情報と母音部情報とを記録する言語情報記憶手段をさらに備えている請求項10〜13のいずれかに記載の装置。
  15. 言語情報記憶手段が、子音部情報を記録する子音部情報記憶手段と、母音部情報を記録する母音部情報記憶手段とを含むものである請求項14に記載の装置。
  16. 子音部情報記憶手段が、複数の異なる言語音の子音部情報が複数記録されたものであり、母音部情報記憶手段は、前記複数の異なる言語音の子音部情報に続く母音部情報が複数記録されたものである請求項15記載の装置。
  17. (a) 被検者が発声する言語音を認識する音声認識手段と、
    (b) 該音声認識手段で認識した言語音と言語情報記憶手段に記録されている言語音とが一致するか否かを比較する比較手段と、
    (c) 該比較手段の出力を受けて、左脳及び右脳のいずれの脳が言語の優位脳であるかを判定する判定手段と
    を、さらに備えたことを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の装置。
  18. 再生タイミングを交叉制御する制御手段が、対となる子音部情報と母音部情報を読み出して被検者が言語音を一体的に聴取できるように制御するものである請求項10〜17のいずれかに記載の装置。
  19. 再生タイミングを交叉制御する制御手段が、前記第一の音再生手段により子音部音を再生させ、これに引き続き前記第二の音再生手段により母音部音を再生させるように、前記第一の音再生手段及び前記第二の音再生手段を交叉制御するものである請求項10〜17のいずれかに記載の装置。
  20. 子音部情報が、子音部と子音母音移行部とを含むことを特徴とする請求項10〜19のいずれかに記載の装置。
  21. 母音部情報が、子音母音移行部と母音部を含むことを特徴とする請求項10〜19のいずれかに記載の装置。
  22. 言語音の子音部情報及び母音部情報を記録する記憶媒体であって、言語音に対応する言語情報は、言語音毎にそれぞれ異なる領域に記録されると共に、各領域に記録された言語情報が、子音部情報と母音部情報とに分離して対を成して読み出し可能に記録されていることを特徴とする前記記憶媒体。
  23. 子音部情報が子音部と子音母音移行部とを含むことを特徴とする請求項22記載の記憶媒体。
  24. 母音部情報が、子音母音移行部と母音部を含むことを特徴とする請求項23記載の記憶媒体。
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