JP2006223297A - 海草付着のためのセメント系硬化体の表面処理工法、網体に袋詰めした多孔質材料の水中暴露によるイカダ工法、吊り込み工法、マット工法、およびこれらの工法を用いた藻場および人工漁礁による魚介類の生息環境保全工法 - Google Patents

海草付着のためのセメント系硬化体の表面処理工法、網体に袋詰めした多孔質材料の水中暴露によるイカダ工法、吊り込み工法、マット工法、およびこれらの工法を用いた藻場および人工漁礁による魚介類の生息環境保全工法 Download PDF

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Abstract

【課題】環境破壊が進む中、自然保護の観点から人工魚礁や藻場の形成など各種の対策が推進されている。しかしながら、人工漁礁を含むコンクリート製の海洋構造物はその表面が緻密で滑らかであるため海草が付着し難く、その周辺の魚介類の生息環境が効果的に保全されていない。
【解決手段】コンクリートなどのセメント系材料からなるブロックまたは構造物の表面に海草の付着し易い鉱物質の多孔質材料を用いて処理を施しまたはこれと同等の表面構造となるように処理を施したブロックまたは構造物を製作して海水中へ設置し、あるいは鉱物質の多孔質材料をそのまま詰めた網袋を海中に暴露して、藻場の形成や海草の繁茂する人工漁礁を構築し、魚介類の生息環境を改善する。
【選択図】図8

Description

発明の詳細な説明
本発明は、海洋環境下における人工的な藻場の形成や人工漁礁の構築などによる魚介類の生息環境保全工法に関するものである。
近年、種々の社会的要因に基づく環境破壊が進行する中、沿岸部海域における魚介類の減少が顕在化しており、海洋資源の枯渇が懸念されている。このような社会的背景にあって、近年、沿岸海域における環境保全が重要視され、特に魚介類の生息環境の保全が急務となっている。
一方、魚介類の多くは弱肉強食の世界であり、稚魚を含む小魚の多くは岩陰や海草などの陰に身を潜めて生息し、成長するに従って行動範囲を広げて大きくなる。また、魚介類の多くは岩陰や海草に卵を産み付け、孵化・繁殖するため、岩陰の多い場所や海草などが繁茂する場所には魚介類が豊富と言われている。また、海草等の水生植物の多くは水中から養分を吸収して成長するため、水生植物が繁茂する水域では水質浄化が盛んであり、環境保全に大いに寄与している。
しかしながら、海岸・海中構造物の大部分を占めるコンクリート構造物にあっては、その水面下に位置する部分において海草が付着して繁茂している例を見ることは少ない。これは、コンクリート表面が滑らかで空隙や凹凸が少ない上に、波や水の流れによる水の移動で海草の種子がコンクリート表面に付着し難い状況にあるためと考えられる。
そこで、海水に接している部分のコンクリート構造物を、海草が付着し易いように改善するために、海水面下に設置するコンクリートブロックや構造物の表面に対して海草の種子が付着し、定着し易いような表面構造を有するように処理を施す必要があると考えられる。
近年、コンクリート業界では、参考文献1などに示されているように、植物が植生可能なエコ・コンクリートの開発が盛んである。このエコ・コンクリートは細骨材(砂)を使用せず、少量のセメントペーストで粗骨材(砂利や砕石など)の表面を覆って骨材表面にセメントペーストの薄い幕を形成した後、これを型枠に打ち込んで締め固めて造られるポーラスコンクリートで造られている。しかしながら、このポーラスコンクリートの製造に関する技術は、参考文献2などに見られるように、かなり以前から存在するものであり、盲暗渠に敷設する集水管などに使用されている。
参考文献1:玉井元治、特集*緑とコンクリート/各論[緑とコンクリート]コンクリート材料、コンクリート工学、Vol.32,No.11,pp.64−69,1994
参考文献2:編集長・岡村甫、土木工法辞典・改訂V、産業調査会発行、pp.168−169,2001.9
このポーラスコンクリートは、その中に連続性の大きな空隙を有するため、透水性が大きく、河川や田んぼの周辺など水分の多い場所に使用すれば、その空隙に水と土粒子が入り込み、植物がコンクリート中で根を張ることも可能である。そのため、このポーラスコンクリートを使用すれば、従来の護岸工事のようにコンクリートを剥き出しにすることなく、その表面を緑草で覆うことも可能である。また、ポーラスコンクリートは透水性が大きいため、通常のコンクリートとは異なり、地下への雨水の涵養も可能である。そこで、自然にやさしいコンクリートとして近年道路舗装等にも使用されるようになっている。
このように、ポーラスコンクリートを応用したエコ・コンクリートは、従来考えられなかった植物とコンクリートとの結びつきを可能にしたという点で画期的である。しかしながら、ポーラスコンクリートは粗骨材表面を薄いセメントペーストの幕で覆ったものを固めただけのものであり、隣接する粗骨材同士がその薄い幕を通して互いに結合している構造に過ぎない。そのため、強度が弱く、大きな荷重が作用する構造物や流れの激しい場所あるいは波の荒い場所などに設置するブロックや構造物には耐久性には問題があり、長期にわたる安定な使用性は期待できない。また、これを海洋環境下で使用した例も少ない。
発明が解決しようとする課題
本発明は、ポーラスコンクリートのような強度や耐久性に乏しい材料ではなく、満実で強度や耐久性に優れた通常のコンクリートを用いて、その表面を多孔質な材料で構成し、またはコンクリート表面を凹凸の激しい粗な表面構造として、海草の種子が付着し、根を下ろして成長できるようにするところに特徴がある。このような表面構造を有するブロックまたは構造物を海水中に設置すれば、藻場の形成が容易となり、また海草の繁茂する人工漁礁を構築可能となる。そこで、本方法を用いれば魚介類の生息環境が改善され、ひいては魚介類の自然増殖が可能になるものと考えられる。
ところが、従来の藻場の形成は、浅草のりの養殖などに見られるように、炭素繊維などの高価な材料を使用したロープやネットを用いて、水生植物を増殖させる方法が用いられている。また、人工漁礁においてもその表面が滑らかなコンクリート製の漁礁ブロックを海底に設置しているため、海草が付着し難く、魚介類がこれになじむまでにかなりの時間がかかるのが現状である。
課題を解決するための手段
本発明では、このような高価な材料による藻場の形成や海草の付着し難い人工漁礁の構築ではなく、より安価な鉱物質材料を用いて海水中における海草類の生育環境を形成し、海草が繁茂する藻場や漁礁を人工的に造り出して魚介類の生息環境を改善することを目的としている。具体的には、コンクリート製のブロックや構造物の表面を海草の種子が付着し易い多孔質材料で構成し、またはこれに類似する表面構造として、これを海水中に設置し、あるいは多孔質材料を合成繊維などで造られた海水に対して耐久性の大きい網袋にそのまま袋詰めにして海水中にさらす。このようにして、海水中における海草の森や林あるいは草原に相当するものを形成して魚介類の癒しの場、すなわち生息環境を提供する。
上記の目的を達成するためには、コンクリート表面を多孔質な起伏に富む表面構造とし、海草の種子が入り込みまたはひっかかって付着し、海草が定着し易い構造を形成する必要がある。そのための多孔質材料としてガラス発泡骨材(参考写真1)や多孔質の火山レキ、ボラ土や軽石、パーライト、あるいは起泡剤や発泡剤などを使用して造られるセメント系の多孔質材料などが考えられる。これらの人工または天然の多孔質材料を適当な表面処理工法でコンクリート表面に埋め込み、貼り付け、または取り付けたブロックや構造物を海水中に設置し、あるいは多孔質材料をそのまま網袋に詰めて海水中に暴露する。そうすれば
図8
図9
のように海草などの水生植物の種子がこれに付着して発芽し、そこに根を下ろして成長するので、その周辺が海草の繁茂する環境に変化する。
魚介類の中には海草を主食とするものも少なからず生息しており、また、海草が繁茂すれば海水の浄化にも繋がり、植物プランクトンや動物プランクトンも増えて魚介類の生息環境が改善され、増殖環境が整えられるものと考えられる。
なお、多孔質材料を網袋に詰めにして海水中に暴露する方法として、
図9
に示すように、網袋に詰めした多孔質材料▲17▼を海底に敷きならべる方法(これをマット工法と呼ぶ)、プラスチック製や発泡スチロール製の浮体▲15▼やイカダ▲16▼に吊るし、アンカー▲19▼を投じて潮に流されないようにして海水中に暴露する方法(これらを吊り込み工法およびイカダ工法とよぶ)などが考えられる。
海草の多くは海水中に露出する岩肌や貝殻に付着して根を下ろし、海水中から養分を吸収して成長するのが大部分である。それゆえ、陸上における植物のように地中へ根を張って地中の水分や養分を吸収すう必要は無く、波や水の流れに対して自分の位置を保つだけのしっかりした根がかりがあればよい。それゆえ、多孔質材料等を用いて海草が付着し易い表面構造を用意すれば、コンクリート表面への海草付着も可能になると考えられる。
市販されている多孔質材料は、一般に植木鉢の底に入れて排水目的や保水目的で使用される多孔質材料で、その粒度は一般的に粗骨材最大寸法10〜25mm程度のものが多い。しかしながら、本目的で使用する場合は、より大きな骨材寸法のものを用いても使用可能である。また、寸法の大きい多孔質材料を板状に整形し、または粒状の多孔質材料をモルタルやセメントペーストで板状に固めた後、コンクリート面に取り付けることも可能である。
さらに、このような多孔質材料からなるコンクリート表面をゴムやプラスチックその他の材料で写し取って型枠として使用し、またはこれに類似するような表面構造が得られるように加工した型枠を使用してブロックや構造物を造り、これを海水中に設置すれば、多孔質材料をコンクリート表面に取り付けた場合と同等の効果が期待できる可能性もある。
社会では、今、人間社会と自然環境との調和を目指す持続可能な循環型社会の構築が強く叫ばれており、その実現に向けていろいろな努力が払われている。本発明は、人工的に魚介類の生息環境を構築できる技術であり、その手段を提供するものである。また、ガラス発泡骨材は再生品であり、これらの材料の利用は廃棄物の再利用を促進する上でも有意義である。それゆえ、本発明の社会への貢献度は非常に大きいものがあると考えられる。
以下、図面および写真を基に本発明の実施例について具体的に説明する。
写真1
は、本発明の効果を実証するために行った暴露実験において、コンクリート表面に処理を施す際に使用した多孔質材料に1つであるガラス発泡骨材を示している。その表面には大小多数の気泡に基づくくぼみが存在することがわかる。
本暴露実験におけるブロックの製造に使用したセメントは普通ポルトランド
セメントであり、一部で高炉セメントB種も使用した。本実験では、コンクリート表面に多孔質材料を取り付け易いようにするために、予め多孔質材料を
図1
に示すように、モルタル▲3▼で多孔質材料▲2▼を固めてその断面形状が台形状になるようにした板状体▲1▼を作成した。その際、多孔質材料の一部がモルタル上面に剥き出しになるようにしたものと、モルタル上面に出た部分を研磨機で削り取ったものを作成した。そして、これらの板状体を
図2
のようにコンクリート打設時にブロック表面に取り付けた。
なお、
図1
に示す板状体▲1▼の断面が台形状をなすようにしたのは、
図2
に示すように、ブロックの躯体部コンクリート▲5▼を打設する際に、板状体より一周り大きく造ったブロック用型枠▲4▼に打設したフレッシュコンクリート▲5▼の上に板状体▲1▼を置いて揺すり込むだけで簡単に板状体を取り付けられ、またコンクリートが硬化した後は板状体の周辺部がコンクリート中に楔のように食い込んで固まるため、板状体がブロック表面から容易に外れないように造ることができるからである。
しかしながら、コンクリートやモルタルなどセメント系材料には付着力があるため、板状体の側面は必ずしも傾斜を必要とするものではなく、板状体▲1▼の断面形状が長方形をなす鉛直面でも、また板状体▲1▼の側面が外向きや内向きに湾曲するものでもよく、板状体▲1▼がブロック▲5▼から外れ難いように埋め込み深さを調節すればよい。また、その平面形状についても必ずしも正方形や長方形でなくてもよく、その基本形状が円形や楕円形あるいは等辺多角形や不等辺多角形、中空形、太十字型やT型など、色々な形状が考えられる。そこで、板状体はこれを取り付けるブロックや構造物に合わせて適当な形状を選択するのがよい。
また、コンクリート表面への多孔質材料の取り行け方法として、形枠▲4▼中に打設したフレッシュコンクリートの表面に直接多孔質材料をばらまいて埋め込むことも可能である。
図3
はフレッシュ状態の躯体部コンクリート▲5▼の表面に多孔質材料▲2▼をばら撒き、その一部がコンクリート表面から出るように埋め込んで造られた例を示している。
さらに、板状体を硬化したコンクリートブロック表面に取り付ける方法についても色々な方法がある。例えば、
図4
のように接着材▲6▼を用いる方法や
図5
のようにコンクリートブロック▲5▼の上面に予め板状体▲1▼の横寸法よりやや大きい寸法のくぼみ▲7▼を設けておき、その中に板状体▲1▼をはめ込んで接着材▲6▼で一体化する方法などがある。なお、
図4
図5
における板状体▲1▼の貼り付けに使用する接着用材料▲6▼としては、モルタルやセメントペーストあるいは合成樹脂系の接着剤などが考えられる。また
図6
のようにコンクリート▲5▼を打設する際に、その表面に多孔質材料▲2▼を埋め込むための溝▲8▼を設けておき、コンクリートが硬化した後にその溝▲8▼の中に多孔質材料▲2▼を入れてモルタル▲3▼で固定する方法である。また、
図7
に示すようにコンクリートブロック▲5▼に予めボルト▲9▼やネジ棒▲10▼を埋め込んでおき、または硬化したコンクリートに後から穴▲11▼を掘ってネジ棒▲10▼を埋め込んで固定した後、そのボルトまたはネジ棒を通して穴の開いた板状体▲1▼をナット▲12▼で固定する方法も考えられる。なお、これらの方法は、若干事前処理を施せば既設構造物に板状体を取り付ける場合などにも適用できる方法である。
本実験において板状体の製造に使用した結合材には、普通ポルトランドセメントの他にB種高炉セメントと人工ゼオライトをセメントに重量で20%混合したものがあるが、これらの材料を使用した理由は、結合材の種類による海草付着への影響を知るためである。この暴露実験では
表1
に示すように、記号AからJまでの10種類の表面処理を施したコンクリートブロックを製作した。
Figure 2006223297
発明の効果
暴露実験は、平成16年10月半ばの大潮における干潮時に熊本県宇城市(旧宇土郡)三角町の海岸に設置して行われた。
表1
は海草付着に関する暴露実験で使用した表面処理方法の異なる10種類のコンクリートブロック(記号A〜J)の特徴を示している。この暴露実験においては各供試体を3個ずつ製作し、その内の1個を実験室に残すと共に、他の2個を大潮の干潮時水面よりやや深い位置(干潮時の水深約30cm程度)に、水深がほぼ同じ程度になるように設置した。
写真2
写真21
は、非暴露供試体の表面構造と暴露供試体の約3ヵ月後における海草付着状況の比較を行ったものである。写真番号の偶数番号は非暴露供試体を、また奇数番号は暴露後の供試体を示している。また、最後の
写真22
は暴露した全供試体を一同に集めて撮影したものである。
始めに、無処理のままのコンクリートで造られた供試体Aについて説明する。
写真2
は非暴露供試体Aであり、その表面は緻密で平坦かつ滑らかである。そのため、
写真3
に見られるように、暴露後の供試体Aには海草の付着がまばらで殆ど付着していないことが判る。
これに対して
写真5
の暴露後の供試体Bには褐色の海草がびっしりと付着していることが判る。この供試体Bはガラス発泡骨材を普通セメントを使用したモルタルで固めた板状体をコンクリートブロック表面に取り付けたものであり、非暴露供試体の
写真4
から判るように、表面が粗く凹凸も激しいので海草の種子がよく付着したものと考えられる。
同様に
写真7
の供試体Cにも褐色海草が付着していることが判る。この供試体Cは、ガラス発泡骨材を高炉セメント使用モルタルで固めた板状体をブロック表面に取り付けたものであり、これも供試体B同様に、その表面が粗くて激しい凹凸があるため、海草の種子が付着しやすかったものと考えられる。
写真9
は人工ゼオライトを重量で20%混合したセメントを結合材に使用したモルタルでガラス発泡骨材を固めた板状体をブロック表面に取り付けた供試体Dの暴露後の状態であり、これも供試体Bと同様に表面が粗くて激しい凹凸があるため、褐色海草がよく付着している。
上記B、C、Dの各供試体は、いずれもガラス発泡骨材を普通セメント、高炉セメント、ゼオライト混合セメントの各モルタルで固めたという違いはあるものの、その結果はほとんど同じであり、褐色海草がよく付着することである。この結果は、モルタルの製造に使用した結合材(すなわちセメントの種類やゼオライト混合セメントを使用したことなど)による海草付着への影響がほとんどないことを意味しており、気泡を含むブロック表面の粗さや凹凸の状態が海草付着の良否に深く影響するものと考えられる。
同様のことは供試体Fや供試体Hでも言えるようであり、
写真13
の供試体Fはガラス発泡骨材をセメントペーストで薄く覆ったポーラスコンクリートの板状体をブロック表面に取り付けたものである。この場合、ガラス発泡骨材の表面はセメントペーストで覆われているため、ガラス発泡骨材特有の気泡による凹凸が潰れてその表面は比較的滑らかであるが、ポーラスコンクリート特有の大きな凹凸と隙間があるため、海草の種子がその中に入り込んで付着し、その中で海草が発芽して定着したものと考えられる。この結果は、ポーラスコンクリートの中身、すなわちセメントペーストで覆う骨材の種類が必ずしもガラス発泡骨材でなくてもよいことを意味しており、川砂利や砕石あるいはコンクリート破砕物などの一般的な骨材を使用しても同様の結果が得られるものと考えられる。
一方、
写真17
は、多孔質材料として植木鉢の仕立てなどに使用されている天然軽石の砕石を使用した場合の暴露後供試体Hである。一部に緑色海草も混じっているが、供試体B同様、褐色海草がよく付着していることが判る。この供試体Hは、供試体B同様大きな起伏があるものの、ガラス発泡骨材のような目の粗い大きな気泡が比較的少なくて小さな気泡が多いため、海草種子の大きさの違いにより、異なる寸法のくぼみに海草種子が落ち込んで、異なる海草が同時に付着したものと考えられる。
これに対して
写真11
写真19
写真22
の供試体Eと供試体Iおよび供試体Jには緑色海草がよく付着していることが判る。これらの供試体の共通点は、供試体表面に大小の気泡が散在するが、その表面が比較的平らであることである。供試体Eは
写真10
の非暴露供試体Eから判るように、人工軽量骨材をモルタルで固めた際に、モルタル表面に浮きでた部分を研磨機で削り取り、その表面を平らにしたものである。ブロック表面には軽量骨材中に存在する比較的小さな多数のくぼみがあるため、海水中を漂っている内にそのくぼみに落ち込んだ海草の種子が、そこで発芽して根を下ろしたものと考えられる。海草種子の種類や大きさはまだ特定されていないが、本実験における全体的な観察結果より、おそらく大きなくぼみにはワカメなどの褐色海草の種子が、また小さなくぼみにはアオサや青ノリなどの緑色海草の種子が入り込んでいるものと考えられる。
また、
写真19
はコンクリート打設時にその表面に砂状のパーライトを散布して固めた供試体Iの暴露後の写真である。パーライトにも細かな気泡が多数存在するがその粒が小さいため、ブロック表面に大きな起伏はできなかったため、供試体Eと同様に緑色海草が多く付着したものと考えられる。なお、本暴露実験を行った海岸の波打ち際周辺の岩石片には緑色海草がよく付着しているのが観察されている。
写真21
は暴露後の供試体Jを示している。この供試体では、ガラス発泡骨材をブロック表面に埋め込んだ後、コンクリート表面に浮き上がっている部分を研磨機で削り取り、その表面を平らにしたものである。ブロック表面には大小多数の気泡が存在するものの、表面が平らなため供試体Eと同様に緑色海草が多いが一部に褐色海草も付着している様子が判る。しかしながら、供試体BやC、Dと同じガラス発泡骨材を使用しているにもかかわらず緑色海草の付着が少ないのは、供試体表面に露出しているガラス発泡骨材を研磨機で削ったため、ブロック表面に起伏がなくなるとともに表面粗度が小さくなったため、波による海水の移動で褐色海草の種子が定着し難くなったのではないかと考えられる。
最後に、
写真15
は、板状体を造る際にモルタル表面に人工ゼオライト粉末を散布して固めたものをブロック表面に取り付けた供試体Gの暴露後の状態を示している。ゼオライト自体は微視的にみれば表面構造が複雑で起伏に富み、各種の化学物質や臭いを吸着する性質があると言われているが、本実験においては海草付着に対する効果はほとんど見られなかった。これは、ゼオライト表面の微視的構造に比べて、海草の種子が格段に大きいため、供試体Gの表面が供試体Aの場合とほとんど変わらず、緻密で凹凸が無く平坦であるため、海草の種子が波で流されて定着できなかったものと考えられる。
以上の観察結果から、海草付着の条件はコンクリート表面が粗くて起伏に富むように造られていればよく、必ずしも多孔質材料を必要としないものとも考えられる。そこで、たとえば供試体B、C、D、あるいは供試体Fなどのような粗さと起伏に富む表面、または供試体EやJのような平らであるが大小のくぼみを有する表面をゴムやプラスチックなどで写し取り、またはこれに近い表面が得られるように型枠を加工してブロックや構造物を製造すれば、これと同等またはそれに近い海草付着効果が得られる可能性も考えられる。
Figure 2006223297
多孔質材料を埋め込む板状体の構造の一例 コンクリート打設時に板状体をブロックに取り付け方法の一例 コンクリート打設時にブロック表面に多孔質材料を直接埋め込む方法の一例 硬化後のブロック表面に板状体を貼り付ける方法の一例 くぼみを有する硬化ブロックに板状体を取り付ける方法の一例 溝を有する硬化ブロックの溝中に多孔質材料を埋め込む方法の一例 硬化ブロックにボルトやナットで板状体を固定する方法の一例 表面処理を施したブロックによる藻場および人工漁礁のイメージ図 多孔質材料を網袋に詰めて海水中に暴露する方法の一例
Figure 2006223297
Figure 2006223297

Claims (6)

  1. 鉱物質の多孔質材料をその表面に埋め込み、取り付け、または張り付けて形成される多孔質で粗な起伏に富む表面または多孔質で平らな表面を有するセメント系材料からなるブロックまたは構造物
  2. 板状のポーラスコンクリートをその表面に埋め込み、取り付け、または貼り付けたセメント系材料からなるブロックまたは構造物
  3. 請求項1の多孔質材料としてガラス発泡骨材、多孔質の火山レキ、軽石、パーライト、あるいは発泡剤や気泡剤を用いて造られる多孔質のセメント系材料を使用すること
  4. 請求項1または請求項2で造られるブロックまたは構造物の表面をゴム、プラスチックその他の材料で写し取って造られる型枠またはこれに類似する表面が得られるように加工して造られる型枠を使用して造られるセメント系材料からなるブロックまたは構造物
  5. 請求項1、請求項2または請求項4のブロックまたは構造物を使用して、魚介類の生息環境保全のために使用すること
  6. 請求項3の多孔質材料を海水に対して耐久性に富む繊維から成る網袋に詰め、これを海底に敷設しまたは浮体あるいはイカダに吊るして海水中に暴露し、魚介類の生息環境保全のために使用すること
JP2005192770A 2005-02-14 2005-02-14 海草付着のためのセメント系硬化体の表面処理工法、網体に袋詰めした多孔質材料の水中暴露によるイカダ工法、吊り込み工法、マット工法、およびこれらの工法を用いた藻場および人工漁礁による魚介類の生息環境保全工法 Pending JP2006223297A (ja)

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