JP2006218528A - 硬化肉盛溶接用材料及び硬化肉盛溶接方法及び硬化肉盛溶接が施された製品及び竪型ミル - Google Patents
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Abstract
【課題】硬化肉盛溶接用材料及び硬化肉盛溶接方法及び硬化肉盛溶接が施された製品及び竪型ミルにおいて、耐摩耗性の向上を図ることで製品の長寿命化を図る。
【解決手段】硬化肉盛溶接用材料をタングステン粉末が40〜60重量%含有するように構成し、この硬化肉盛溶接用材料のうち、タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで、竪型ミルにおける粉砕テーブル14の表面または粉砕ローラ16の外周面に硬化肉盛溶接を施す。
【選択図】 図1
【解決手段】硬化肉盛溶接用材料をタングステン粉末が40〜60重量%含有するように構成し、この硬化肉盛溶接用材料のうち、タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで、竪型ミルにおける粉砕テーブル14の表面または粉砕ローラ16の外周面に硬化肉盛溶接を施す。
【選択図】 図1
Description
本発明は、耐摩耗性を向上させるために肉盛溶接を実施するための硬化肉盛溶接用材料、この硬化肉盛溶接用材料を用いた硬化肉盛溶接方法、硬化肉盛溶接が施された製品及びこの製品としての竪型ミルに関する。
各種の装置における特定の部位の耐摩耗性を向上させる目的で、母材の表面に硬化肉盛溶接を行うことが実施されている。例えば、石炭焚きボイラでは、竪型ミルによって原炭を粉砕して微粉炭を生成し、得られた微粉炭を燃料として用いるようにしている。そして、この竪型ミルでは、ハウジングの下部に原炭が供給される粉砕テーブルが駆動回転可能に配設されると共に、この粉砕テーブルの周辺部に3つの粉砕ローラが連れ回り可能で、且つ、粉砕荷重を付与可能に配設されている。
従って、原炭が給炭管から粉砕テーブル上に供給されると、遠心力により全面に分散されて炭層が形成され、この炭層に対して各粉砕ローラが押圧することで原炭が粉砕され、供給空気により乾燥されて分級された後に外部に排出される。
このような竪型ミルでは、長期間の使用により粉砕テーブルの表面部周や粉砕ローラの外周部が磨耗するため、ここに耐摩耗性を向上させるために硬化肉盛溶接が施されている。従来は、母材に対して、クロム(Cr)、炭素(C)、シリコン(Si)などの粉末からなる溶接材料を用い、サブマージアーク溶接やノーガスアーク溶接などの方法を用いて硬化肉盛溶接を行っていた。このような硬化肉盛溶接を行う技術としては、下記特許文献1に記載されたものがある。
上述した特許文献1に記載された技術は、フラックス入りワイヤの化学成分を、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ボロン(B)から構成したものである。即ち、高クロム鉄系溶接材料として高硬度化を可能とすると共に、モリブデンとボロンの含有量を適正にすることで、溶着金属組織を鋼のマルテンサイトと硼化物とからなる複合組織とし、硬度を向上させると共に耐割れ性を向上させている。
ところが、この特許文献1に記載された技術では、フラックス入りワイヤの化学成分として、クロムが2.5〜7.5%、タングステンが0.1〜1.5%となっており、肉盛溶接の十分な硬度化が図られていない。つまり、鉄(Fe)系にクロムを加えたFe−Cr系合金や鉄系にタングステンを加えたFe−W系合金は、耐摩耗性を向上させることができ、特に、Fe−W系合金は、組織が微細となって引張強さや耐摩耗性が一層向上する。硬化肉盛溶接では、更なる耐摩耗性の向上が望まれている。
本発明は上述した課題を解決するものであり、耐摩耗性の向上を図ることで製品の長寿命化を図った硬化肉盛溶接用材料及び硬化肉盛溶接方法及び硬化肉盛溶接が施された製品及び竪型ミルを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するための請求項1の発明の硬化肉盛溶接用材料は、全材料中にタングステン粉末が40〜60重量%含有することを特徴とするものである。
請求項2の発明の硬化肉盛溶接用材料では、クロム鋳鉄系マトリックス粉末に前記タングステン粉末が40〜60重量%含有することを特徴としている。
請求項3の発明の硬化肉盛溶接用材料では、非鉄系マトリックス粉末に前記タングステン粉末が40〜60重量%含有することを特徴としている。
請求項4の発明の硬化肉盛溶接用材料は、全材料中に、少なくともタングステンが40〜60重量%、炭素が5.0〜5.5重量%、クロムが20〜25重量%、シリコンが0.5〜1.0重量%、マンガンが0.5〜1.5重量%、モリブデンが0.5〜1.0重量%、バナジウムが2.5〜3.0重量%含有することを特徴とするものである。
請求項5の発明の硬化肉盛溶接用材料は、ニッケルが0.5〜1.0重量%またはコバルトが1.5〜2.0重量%含有することを特徴としている。
請求項6の発明の硬化肉盛溶接方法は、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、該タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで基地に硬化肉盛溶接を行うことを特徴とするものである。
請求項7の発明の硬化肉盛溶接が施された製品は、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、該タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで基地の所定箇所に硬化肉盛溶接が施されたことを特徴とするものである。
請求項8の発明の竪型ミルは、粉砕テーブル及び粉砕ローラを有する竪型ミルにおいて、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、該タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで前記粉砕テーブルの表面または前記粉砕ローラの外周面に硬化肉盛溶接が施されたことを特徴とするものである。
請求項1の発明の硬化肉盛溶接用材料によれば、全材料中にタングステン粉末を40〜60重量%含有させるので、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが分散されることとなり、硬度を著しく向上させることができ、その結果、耐摩耗性を向上することができる。
請求項2の発明の硬化肉盛溶接用材料によれば、クロム鋳鉄系マトリックス粉末にタングステン粉末を40〜60重量%含有させるので、溶接後の溶接肉盛層に十分な硬度及び靭性を確保することができる。
請求項3の発明の硬化肉盛溶接用材料によれば、非鉄系マトリックス粉末にタングステン粉末を40〜60重量%含有させるので、溶接後の溶接肉盛層におけるタングステンカーバイトの密着性を十分に確保することができ、組織全体として耐摩耗性を向上することができる。
請求項4の発明の硬化肉盛溶接用材料によれば、全材料中に、少なくともタングステンが40〜60重量%、炭素が5.0〜5.5重量%、クロムが20〜25重量%、シリコンが0.5〜1.0重量%、マンガンが0.5〜1.5重量%、モリブデンが0.5〜1.0重量%、バナジウムが2.5〜3.0重量%含有させるので、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが分散されることとなり、硬度及び靭性を著しく向上させることができ、その結果、耐摩耗性を向上することができる。
請求項5の発明の硬化肉盛溶接用材料によれば、ニッケルを0.5〜1.0重量%またはコバルトを1.5〜2.0重量%含有させるので、溶接後の溶接肉盛層におけるタングステンカーバイトの密着性を十分に確保することができ、組織全体として耐摩耗性を向上することができる。
請求項6の発明の硬化肉盛溶接方法によれば、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、このタングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで、基地に硬化肉盛溶接を行うようにしたので、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが分散されることとなり、硬度を著しく向上させることができ、その結果、耐摩耗性を向上することができる。
請求項7の発明の硬化肉盛溶接が施された製品によれば、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、このタングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで、基地の所定箇所に硬化肉盛溶接が施されたので、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが分散されることとなり、硬度を著しく向上させることができ、その結果、耐摩耗性を向上することで製品の長寿命化を可能とすることができる。
請求項8の発明の竪型ミルによれば、粉砕テーブル及び粉砕ローラを有する竪型ミルにおいて、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、このタングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで、粉砕テーブルの表面または前記粉砕ローラの外周面に硬化肉盛溶接が施されたので、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが分散されることとなり、硬度を著しく向上させることができ、粉砕テーブル及び粉砕ローラの耐摩耗性を向上することで、竪型ミルの長寿命化を可能とすることができる。
以下に添付図面を参照して、本発明に係る硬化肉盛溶接用材料及び硬化肉盛溶接方法及び硬化肉盛溶接が施された製品及び竪型ミルの好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の実施例1に係る硬化肉盛溶接が施された製品及び竪型ミルを表す概略構成図、図2は、実施例1の竪型ミルにおける粉砕テーブル及び粉砕ローラにおける硬化肉盛層を表す断面図、図3−1は、実施例1の硬化肉盛溶接用材料中の炭素の最適含有量を表すグラフ、図3−2は、実施例1の硬化肉盛溶接用材料中のクロムの最適含有量を表すグラフ、図3−3は、実施例1の硬化肉盛溶接用材料中のタングステンの最適含有量を表すグラフ、図3−4は、実施例1の硬化肉盛溶接用材料中のバナジウムの最適含有量を表すグラフ、図4は、実施例1の硬化肉盛溶接方法を表す粉体プラズマ溶接法の概略図、図5は、実施例1の硬化肉盛溶接方法を表すノーガスアーク溶接法の概略図、図6−1から図6−3は、実施例1の硬化肉盛溶接方法により形成された硬化肉盛層の磨耗原理を表す概略図である。
実施例1では、全材料中にタングステン粉末が40〜60重量%含有された硬化肉盛溶接用材料を用いて、硬化肉盛溶接が施された製品としての竪型ミルの粉砕テーブルの表面及び粉砕ローラの外周面に、所定の方法で硬化肉盛溶接を実施するものである。
まず、この竪型ミルについて説明する。図1に示すように、竪型ミル11にて、ハウジング12は円筒形状をなし、上部に図示しない給炭機から原炭が供給される給炭管13が装着され、下方まで延設されている。また、ハウジング12の下部には給炭管13の下端部に対向して粉砕テーブル14が配設され、駆動装置15により駆動回転可能となっている。そして、この粉砕テーブル14の外周上方部に3つの粉砕ローラ16が回転可能に配設されて粉砕テーブル14に連れて回転可能であると共に、油圧荷重装置17により粉砕荷重を付与可能となっている。
また、ハウジング12の下部には粉砕テーブル14の外周辺に位置して一次空気が送り込まれる入口ポート18が形成される一方、ハウジング12の上部には給炭管12の外周辺に位置して微粉炭を排出して図示しないバーナに接続される出口ポート19が形成されている。そして、ハウジング12の中間部には微粉炭を分級するロータリセパレータ20が駆動回転可能となっている。更に、粉砕テーブル14の外周辺には原炭に混在する礫や木片や金属片などの異物(スピレージ)を排出する異物吐出管21が装着されている。
従って、原炭が給炭管13からハウジング12内に供給されると、この原炭は粉砕テーブル14上の中心部に落下し、遠心力により全面に分散されて一定の炭層が形成され、この炭層に対して各粉砕ローラ16が回転しながら押圧することで原炭を粉砕する。そして、ハウジング12内に入口ポート18から一次空気が送り込まれることで、粉砕された微粉炭は乾燥されつつ上昇する。この上昇した微粉炭はロータリセパレータ20により分級され、粗粉は再び粉砕テーブル14上に戻されて再粉砕が行われる一方、細粒粉のみが気流に乗って出口ポート19から排出される。また、原炭に混在する礫や木片や金属片などのスピレージは粉砕テーブル14の遠心力により外方に落下し、異物吐出管21に送り込まれる。
このように構成された竪型ミル11では、原炭が粉砕テーブル14上に分散された状態で、その上方から回転する粉砕ローラ16に押圧されることで粉砕される。そのため、粉砕テーブル14と粉砕ローラ16とが互いに接触する部位が早期に磨耗するため、ここに硬化肉盛層を形成する必要がある。即ち、図2に示すように、竪型ミル11にて、粉砕テーブル14の上面に所定の厚さで硬化肉盛層14aが形成されると共に、粉砕ローラ16の外周面に所定の厚さで硬化肉盛層16aが形成されている。
この竪型ミル1の粉砕テーブル14及び粉砕ローラ16に形成された硬化肉盛層14a,16aは、所定の耐久年数を確保できるだけの硬度及び靭性が必要であり、硬化肉盛溶接材料として、特有の素材の配合が必要となる。実施例1の硬化肉盛溶接材料は、クロム鋳鉄系マトリックス粉末にタングステン粉末を40〜60重量%含有して構成されている。
具体的に説明すると、本実施例の硬化肉盛溶接材料は、全材料中に、少なくともタングステン(W)、炭素(C)、クロム(Cr)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)を含有している。炭素(C)は、鉄(Fe)主体のマトリックス中に固溶して鋼を炭化物とする主要元素であり、図3−1に示すように、含有率が約5.0%以上で所定の耐摩耗性が確保され、約5.5%を超えると欠けやすくなることから、炭素の適正な含有率は、5.0〜5.5重量%に規定できる。
クロム(Cr)は、炭化物として高硬度を確保するための主要元素であり、図3−2に示すように、含有率が約20.0%以上で所定の耐摩耗性が確保され、約25.0%を超えると靭性が低下して欠けや剥離がすくなることから、クロムの適正な含有率は、20〜25重量%に規定できる。また、タングステン(W)も、炭化物として析出して高硬度を確保するための主要元素であり、図3−3に示すように、含有率が約40.0%以上で所定の耐摩耗性が確保され、約60.0%を超えると過大に硬化して靭性が低下することから、タングステンの適正な含有率は、40〜60重量%に規定できる。
バナジウム(V)は、クロムやタングステンの炭化物を均一に分散するための元素であり、図3−4に示すように、含有率が約2.5%以上で所定の耐摩耗性が確保されるが、高価であるために約3.0%を超えると経済性が低下することから、バナジウムの適正な含有率は、2.5〜3.0重量%に規定できる。
なお、実施例1では、溶着金属の脱酸作用のために、シリコン(Si)を0.5〜1.0重量%、マンガン(Mn)を0.5〜1.5重量%含有させている。また、モリブデン(Mo)は、基地の焼き戻し抵抗を増大させるための元素であり、0.5〜1.0重量%含有させている。
ここで、このように最適配合された硬化肉盛溶接用材料を用いた硬化肉盛溶接方法として、粉体プラズマ溶接及びノーガスアーク溶接について説明する。粉体プラズマ溶接方法において、図4に示すように、マルテンサイト基地31に対して溶接ノズル32を所定の間隔に維持した状態で水平移動し、このとき、タングステン電極33によりパイロットアークを発生させると共にシールドガスGを供給して溶接アークAを発生させ、粉末供給ノズル34から供給された硬化肉盛溶接用材料(粉末)Pを溶接アークAにより溶融することで、マルテンサイト基地31上に硬化肉盛層Lを形成することができる。
また、ノーガスアーク溶接方法において、図5に示すように、表面が磨耗した硬化肉盛層L1に対して溶接ノズル41を所定の間隔に維持した状態で水平移動し、このとき、溶接ワイヤ42によりアークAを発生させると共にシールドガスGを供給し、硬化肉盛層L1の溶融プールに粉末供給ノズル43から硬化肉盛溶接用材料(粉末)Pを供給することで溶融し、硬化肉盛層L1上に新しい硬化肉盛層L2を形成して補修することができる。
この場合、溶接温度は1000℃以下であり、本実施例の硬化肉盛溶接材料中の炭素(C)、クロム(Cr)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)は溶融するものの、タングステン(W)は溶融せず、タングステンカーバイト(WC)として層中に均一に分散することとなり、容易にタングステンを取り込むことができる。なお、製品のマルテンサイト基地の表面に硬化肉盛層を形成する場合には、粉体プラズマ溶接方法を適用し、硬化肉盛層L1の磨耗した表面に硬化肉盛層を形成する場合には、ノーガスアーク溶接方法を適用することが望ましい。
このような硬化肉盛溶接方法で形成された硬化肉盛層Lは、図6−1に示すように、鉄系のマトリックス中にFe−Cr系やFe−W系の炭化物が混在する組織となる。そして、図6−2に示すように、硬化肉盛層Lの表面に粉砕物としての石炭が移動するとき、炭化物の硬度によりマトリックスの磨耗が抑制され、粉砕物の衝撃により炭化物に割れが生じたり、炭化物が脱落することで、図6−3に示すように、マトリックスの磨耗が進行する。従って、本実施例の硬化肉盛層Lは、ある程度の硬さと靭性が必要となり、これにより炭化物の剥離防止が可能であり、基地は、安価な高クロム鋳鉄フェライト系のマテリアル組織という所定の硬度を確保し、炭化物の面積率を約50vol%(W炭化物−20〜30%、Cr炭化物−20〜30%)の範囲に維持している。即ち、タングステンカーバイトの粉末を添加して肉盛溶接する場合、溶接希釈によるタングステンカーバイト量の低下は避けられないが、未固溶のタングステンカーバイトを硬化肉盛層Lに含ませることで、炭化物面積率相当のvol%を所定の約50vol%確保することができ、十分な耐磨耗性を確保できる。これにより硬化肉盛層Lの初期磨耗を低減して寿命を延長することができる。
具体的には、Cr炭化物を主成分とする硬化肉盛層と、WC炭化物を主成分とする硬化肉盛層の硬さを、ASTM G65規格に準じて製作した回転式加圧磨耗試験機を使用して測定した。この測定結果によると、Cr炭化物を主成分とする硬化肉盛層の硬度は、950Hvであり、WC炭化物を主成分とする硬化肉盛層の硬さは、1500Hvであった。
なお、本実施例では、クロム鋳鉄系マトリックス粉末にタングステン粉末を40〜60重量%含有して硬化肉盛溶接材料を構成したが、非鉄系マトリックス粉末にタングステン粉末が40〜60重量%含有してもよい。この場合、非鉄系マトリックス粉末としては、ステライト系やインコネル系とすることで、タングステンカーバイトとの密着性を向上させることができる。具体的には、ニッケルを0.5〜1.0重量%またはコバルトを1.5〜2.0重量%含有すればよい。
このように実施例1の硬化肉盛溶接用材料にあっては、クロム鋳鉄系マトリックス粉末に、タングステン粉末を40〜60重量%含有させている。従って、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが均一に分散されることとなり、硬度及び靭性を著しく向上させることができ、その結果、溶接肉盛層の耐摩耗性を向上することができる。
そして、非鉄系マトリックス粉末にタングステン粉末を40〜60重量%含有させる場合には、溶接後の溶接肉盛層におけるタングステンカーバイトの密着性を十分に確保することができ、組織全体として耐摩耗性を向上することができる。
また、実施例1の硬化肉盛溶接方法にあっては、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、このタングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで、基地に硬化肉盛溶接を行うようにしている。従って、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが分散されることとなり、硬度を著しく向上させることができ、その結果、耐摩耗性を向上することができる。
更に、実施例1の硬化肉盛溶接が施された製品としての竪型ミルにあっては、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、このタングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで、粉砕テーブル14の表面または粉砕ローラ16の外周面に硬化肉盛溶接を施している。従って、溶接後の溶接肉盛層にタングステンカーバイトが分散されることとなり、硬度を著しく向上させることができ、粉砕テーブル及び粉砕ローラの耐摩耗性を向上することで、竪型ミルの長寿命化を可能とすることができる。
図7は、本発明の実施例2に係る硬化肉盛溶接方法を説明するための概略図、図8は、土手部のピッチの最適範囲を表すグラフである。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例2の硬化肉盛溶接方法において、図7に示すように、ローラ51の外周面にはこのローラ51の外径よりも若干大きいリング状をなす土手部52が軸心方向に所定の等間隔で形成されている。そして、ローラ51の外周面には、各土手部52を連結するように複数層の硬化肉盛層Lが形成されている。
この場合、ローラ51の外周面における各土手部52の間隔は、50〜80mmの範囲が適正である。図8に示すグラフは、土手部52のピッチを変更して硬化肉盛層Lを形成したローラ51に対して、5kgハンマリング耐久試験を実施した試験結果である。このグラフからわかるように、土手部52のピッチが約80mm以下の領域で、所定の基準回数以上ハンマリング試験を実施しても硬化肉盛層Lに剥離が検出されなかった。但し、土手部52のピッチが約50mm以下では、間隔が狭すぎて経済的に見て実用的ではない。そのため、土手部52のピッチは、約50〜80mmが適正ピッチであると規定している。
このように実施例2の硬化肉盛溶接方法にあっては、ローラ51の外周面に複数の土手部52を所定の等間隔で形成し、各土手部52を連結するように複数層の硬化肉盛層Lを形成している。従って、硬化肉盛層Lの硬度及び靭性を向上することで、剥離を抑制することができる。
図9は、本発明の実施例3に係る硬化肉盛溶接方法を説明するための概略図、図10は、硬化肉盛溶接が施されたローラの断面図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例3の硬化肉盛溶接方法において、図9に示すように、ローラ61が支持軸62により回転自在に支持されており、このローラ61の径方向の両側には押付ローラ63,64が回転自在に支持されると共に、押付シリンダ65,66によりローラ61の外周面に対して押圧可能となっている。そして、ローラ61と各押付ローラ63,64との間に硬化肉盛溶接材料を供給可能なホッパ67,68が設けられている。
従って、各押付ローラ63,64を停止して押付シリンダ65,66によりローラ61の外周面に押圧し、且つ、ローラ61を所定の速度で回転した状態で、ホッパ67,68からローラ61と各押付ローラ63,64との間に硬化肉盛溶接材料を供給すると、硬化肉盛溶接材料はローラ61と各押付ローラ63,64との間で発生する摩擦熱により溶融し、図10に示すように、ローラ61の外周面に硬化肉盛溶接層Lを形成することができる。
なお、ローラ61を微速回転し、回転している各押付ローラ63,64を押付シリンダ65,66によりこのローラ61の外周面に押圧した状態で、ホッパ67,68からローラ61と各押付ローラ63,64との間に硬化肉盛溶接材料を供給してもよく、この場合であっても、ローラ61の外周面に硬化肉盛溶接層Lを形成することができる。
このように実施例3の硬化肉盛溶接方法にあっては、摩擦肉盛溶接方法によってローラ61の外周面に硬化肉盛層Lを形成している。従って、化肉盛溶接材料中のタングステン粉末を溶融せずに他の粉末材料を溶融させて硬化肉盛溶接を行うこととなり、溶接温度を低温度に抑制することができ、冷却時の割れを防止して溶接品質を向上することができると共に、溶接作業コストを低減することができる。
図11は、本発明の実施例4に係る硬化肉盛溶接方法により硬化肉盛溶接が施されたローラの断面図、図12は、硬化肉盛溶接が施されたローラの断面図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例4の硬化肉盛溶接方法は、図11及び図12に示すように、ローラ71の外周面に適合するように湾曲した4つの耐磨耗プレート72を製作し、この耐磨耗プレート72の外周面に、例えば、粉体プラズマ溶接により硬化肉盛層Lを形成し、この硬化肉盛層Lが形成された耐磨耗プレート72をローラ71の外周面に溶接73により固定するものである。
このように実施例4の硬化肉盛溶接方法にあっては、耐磨耗プレート72の外周面に硬化肉盛層Lを形成し、この硬化肉盛層Lが形成された耐磨耗プレート72をローラ71の外周面に溶接73により固定することで、ローラ71の外周面に硬化肉盛層Lを設けている。従って、各種の硬化肉盛溶接方法により厚い硬化肉盛層を形成する必要はなく、耐磨耗プレート72で代用することができ、溶接コストを低減することができる。
図13−1及び図13−2は、本発明の実施例5に係る硬化肉盛溶接方法を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例5の硬化肉盛溶接方法において、図13−1に示すように、ローラ81の外周面に適合する硬化肉盛溶接材料Pが充填されたカプセル82を製作し、この状態で、図13−2に示すように、低圧で焼結処理を行うことで、ローラ81の外周面に硬化肉盛層Lを形成するものである。
このように実施例5の硬化肉盛溶接方法にあっては、ローラ81の外周面に硬化肉盛溶接材料Pが充填されたカプセル82を装着し、この状態で低圧で焼結処理を行うことで、ローラ81の外周面に硬化肉盛層Lを設けている。従って、簡単に所望形状の硬化肉盛層Lを設けることができ、溶接品質を向上することができると共に、溶接コストを低減することができ、また、硬化肉盛層Lの再生補修にも適用することができる。
図14は、本発明の実施例6に係る硬化肉盛溶接方法を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例6の硬化肉盛溶接方法において、図14に示すように、ローラ91の外周面に適合する硬化肉盛溶接材料Pをバインダー92により固定し、この状態で、ローラ91の外周辺にコイル93を巻きつけてトランス94及び高周波電源95を接続し、ローラ91及び硬化肉盛溶接材料Pを高周波焼結処理を行うことで、ローラ91の外周面に硬化肉盛層を形成するものである。
このように実施例6の硬化肉盛溶接方法にあっては、ローラ91の外周面に硬化肉盛溶接材料Pをバインダー92により固定し、この状態で高周波焼結処理を行うことで、ローラ91の外周面に硬化肉盛層を設けている。従って、簡単に所望形状の硬化肉盛層を設けることができ、溶接品質を向上することができると共に、溶接コストを低減することができ、また、硬化肉盛層の再生補修にも適用することができる。
本発明に係る硬化肉盛溶接用材料は、硬化肉盛溶接材料にタングステン粉末を40〜60重量%含有させて耐摩耗性を向上させるようにしたものであり、いずれの硬化肉盛溶接用材料、溶接方法並びに各種製品に適用することができる。
11 竪型ミル(硬化肉盛溶接が施された製品)
14 粉砕テーブル
16 粉砕ローラ
14a,16a,L 硬化肉盛層
P 硬化肉盛溶接用材料(粉末)
51,61,71,81,91 ローラ
52 土手部
63,64 押付ローラ
72 耐磨耗プレート
14 粉砕テーブル
16 粉砕ローラ
14a,16a,L 硬化肉盛層
P 硬化肉盛溶接用材料(粉末)
51,61,71,81,91 ローラ
52 土手部
63,64 押付ローラ
72 耐磨耗プレート
Claims (8)
- 全材料中にタングステン粉末が40〜60重量%含有することを特徴とする硬化肉盛溶接用材料。
- 請求項1に記載の硬化肉盛溶接用材料において、クロム鋳鉄系マトリックス粉末に前記タングステン粉末が40〜60重量%含有することを特徴とする硬化肉盛溶接用材料。
- 請求項1に記載の硬化肉盛溶接用材料において、非鉄系マトリックス粉末に前記タングステン粉末が40〜60重量%含有することを特徴とする硬化肉盛溶接用材料。
- 全材料中に、少なくともタングステンが40〜60重量%、炭素が5.0〜5.5重量%、クロムが20〜25重量%、シリコンが0.5〜1.0重量%、マンガンが0.5〜1.5重量%、モリブデンが0.5〜1.0重量%、バナジウムが2.5〜3.0重量%含有することを特徴とする硬化肉盛溶接用材料。
- 請求項4に記載の硬化肉盛溶接用材料において、ニッケルが0.5〜1.0重量%またはコバルトが1.5〜2.0重量%含有することを特徴とする硬化肉盛溶接用材料。
- タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、該タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで基地に硬化肉盛溶接を行うことを特徴とする硬化肉盛溶接方法。
- タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、該タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで基地の所定箇所に硬化肉盛溶接が施されたことを特徴とする硬化肉盛溶接が施された製品。
- 粉砕テーブル及び粉砕ローラを有する竪型ミルにおいて、タングステン粉末が40〜60重量%含有する硬化肉盛溶接用材料のうち、該タングステン粉末を除く他の粉末材料を溶融させることで前記粉砕テーブルの表面または前記粉砕ローラの外周面に硬化肉盛溶接が施されたことを特徴とする竪型ミル。
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JP2005036153A JP2006218528A (ja) | 2005-02-14 | 2005-02-14 | 硬化肉盛溶接用材料及び硬化肉盛溶接方法及び硬化肉盛溶接が施された製品及び竪型ミル |
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Cited By (2)
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---|---|---|---|---|
JP2018015878A (ja) * | 2016-07-29 | 2018-02-01 | 三菱マテリアル株式会社 | 複合部材およびこれからなる切削工具 |
CN110039253A (zh) * | 2019-04-18 | 2019-07-23 | 大唐东北电力试验研究院有限公司 | 一种防止产生贯穿性裂纹的中速磨辊表面修复方法 |
Citations (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPH04162988A (ja) * | 1990-10-24 | 1992-06-08 | Kobe Steel Ltd | 超硬質耐摩耗肉盛用溶接材料 |
-
2005
- 2005-02-14 JP JP2005036153A patent/JP2006218528A/ja active Pending
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