JP2006193781A - 衝撃吸収部材用鋼板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.0005〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:2.5%以下、P:0.1%以下、S:0.03%以下、sol.Al:2.0%以下、N:0.02%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、炭素当量Ceq.=C(%)+Si(%)/24+Mn(%)/6が0.40%以下であるとともに、0.2%耐力YS又は下降伏点LYPが435MPa以上で、かつ0.2%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YR、又は、下降伏点LYPと引張強度TSとの比(LYP/TS)である降伏比YRが0.85以上である衝撃吸収部材用鋼板である。
【選択図】なし
Description
まず、本発明の基となる、衝突時における衝撃吸収部材の変形挙動に関する基礎的検討結果(i)〜(iv)について、簡単に説明する。
(i)衝突時における衝撃吸収部材の座屈荷重は、降伏点及び降伏応力の影響を大きく受け、荷重の絶対値及び荷重変動、さらには変形モードの不安定性は、降伏点及び降伏応力の増大とともに、大きくなる。
(ii)単に座屈荷重の上昇を図った高張力鋼板を衝撃吸収部材の素材として用いても、衝撃吸収部材全体での変形モードの安定化を図ることはできず、効率的なエネルギー吸収は図れない。変形モードの安定化ならびに荷重変動は、降伏応力から引張応力までの塑性曲線の傾き(塑性接線勾配)に支配され、変化する。
(iii)衝撃吸収部材の素材である鋼板の、塑性接線勾配を示す0.2%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YR、又は、下降伏点LYPと引張強度TSとの比(LYP/TS)である降伏比YRを最適化することにより、この衝撃吸収部材の変形モードの安定化と、荷重変動幅の抑制とをともに実現できる。
(iv)実際に衝撃吸収部材を製作する際に一般的に施工されるものの、小さい座屈しわを形成する際の阻害要因となり得る溶接部は、溶接部(溶金部)の硬さを低下させる炭素当量とすることにより、この溶接部も座屈しわを形成しながら変形するようになる。
すなわち、衝突した瞬間(図3のグラフにおける原点O)、稜線部2よりも稜線間一般平面部3の方が剛性が低いため、稜線間一般平面部3が優先して断面外側へ向けて広がるような弾性変形を発生する。この後、軸方向にさらに変形すると、稜線部2に蓄積する圧縮の塑性ひずみ量が増大していき、圧縮限界に至る(図3のグラフにおけるO→A、図2左図参照)。
その後、稜線部2において発生した座屈しわは、稜線間一般平面部3へ向けて成長していき、これら座屈しわが重なる。そして、2回目の塑性座屈を発生する(図3のグラフにおけるB→C、図2右図参照)。
図4は、図1に示す衝撃吸収部材であるハット部材1の素材である鋼板の降伏応力YS(MPa)と、衝撃吸収エネルギーEA200mm(KJ)との関係を示すグラフである。衝撃吸収エネルギーEA200mmは、変形変位200mmまでに吸収したエネルギー(荷重−変位曲線において変位0mmから200mmまでの荷重−変位曲線の積分値)である。また、図5は、降伏応力YSが435MPa以上で、降伏比(YS/TS又はLYP/TS)が異なる6種の素材について解析した結果(変形図)を示す説明図である。
そこで、本実施の形態に係る衝撃吸収用部材において、
(a)0.2%耐力YS又は下降伏点LYP:435MPa以上、0.2%耐力YSと引張強度TSとの比(YS/TS)である降伏比YR、又は、下降伏点LYPと引張強度TSとの比(LYP/TS)である降伏比YR:0.85以上
(b)炭素当量Ceq.=C(%)+Si(%)/24+Mn(%)/6として規定される炭素当量Ceq.:0.40%以下,
(c)組成:C:0.0005〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:2.5%以下、P:0.1%以下、S:0.03%以下、sol.Al:2.0%以下、N:0.02%以下、必要に応じて、Ti:0.002〜0.3%、Nb:0.002〜0.3%、および、V:0.002〜0.3%のうちの1種又は2種以上、又は、Cu:0.01〜3.0%、Ni:0.01〜3.0%、Cr:0.01〜3.0%、および、Mo:0.01〜3.0%のうちの1種又は2種以上、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成
と、限定する理由を説明する。
衝突時の荷重は、稜線座屈時の変形抵抗によって支配されており、降伏応力の上昇に伴い増大する。YSが435MPa未満の場合は、荷重レベルが低くエネルギー吸収能が十分ではない。したがって、YS(またはLYP)は435MPa以上を満足する必要がある。さらに、YSが435MPa以上では、変形モードの安定性についても十分に留意する必要があり、降伏比が0.85未満に低下すると、部材全体に曲がりが発生し、効果的に衝突エネルギーを吸収することができない。
引張特性上、安定かつ高性能な衝突性能を得る条件を満足しても、部材製作にて用いられる接合部は、座屈しわの形成に悪影響を及ぼす可能性がある。溶金部が硬いと、母材部の変形に追従できず、座屈しわの形成を阻害する。溶金部は、できる限り軟質なほうが良好であるため、炭素当量Ceq.は0.40%以下であることが有効である。同様の観点から、炭素当量Ceq.は0.36%以下であることが望ましい。
C:0.0005〜0.15%
Cは、安価に鋼板の強度を高める元素であるが、C量の増大とともに、溶接部の靭性の低下をもたらすので、C含有量の上限を0.15%とする。一方、C含有量が0.0005%を下回ると、鋼板の純度が高まり、軟質化して衝突変形時の変形抵抗を低下させるばかりか、溶接時の熱影響部における異常粒成長を発生させるため、C含有量の下限は0.0005%とする。同様の観点から、C含有量は、0.0020%以上0.13%以下であることが望ましい。
Siは,固溶強化によってフェライト相を強化し、かつポリゴナルフェライトの生成を促進させ、延性を向上させる。しかしながら、Si含有量が2.0%を超えると、スラブ加熱の際に生成するファイアライトFe2SiO4によってデスケーリング性が極端に悪化する。そこで、Si量の上限は2.0%とする。同様の観点からSi量の上限は1.8%であることが望ましい。
Mnは、固溶強化と変態強化とによって鋼板の強度を高めるのに有効な元素である。しかしながら、Mn含有量が2.5%を超えると、延性を支配するフェライトの生成を遅らせるため、Mn量の上限は2.5%とする。同様の観点から、上限は2.0%とすることが望ましい。
Pは、固溶強化によって鋼板の強度を高めるが、他の元素よりも深絞り成形性の指標であるr値の低下が少なく,高強度と成形性とを高次元でバランスさせるために非常に有効な元素である。
Sは、Mn、Ti等と結合して析出し、いわゆる性能を劣化させる介在物として存在する。したがって、少ない方が好ましいが、極端な低減には相応の脱硫コストを要するため、S含有量の上限は0.03%とする。同様の観点から、上限は0.01%とすることが望ましい。
sol.Alは、溶鋼脱酸の結果として含有されるとともに、γ域を拡大し、またSiと同様に、冷却時の炭化物生成を抑制させる元素である。しかしながら、2.0%超含有すると、コスト高になるとともに、コイル製造時の連続ラインにおけるフラッシュバット溶接部の強度特性の確保が難しくなるため、2.0%以下とする。同様の観点から、1.5%以下であることが望ましい。
Nは、Al,Tiと結合して析出物を形成し、オーステナイト粒の成長を抑制する。しかしながら、過度の添加は、延性の低下を招くためその上限を0.02%とする。同様の観点から0.01%以下であることが望ましい。
Ti:0.002〜0.3%、Nb:0.002〜0.3%、及び、V:0.002〜0.3%のうちの1種又は2種以上
Ti、Nb、Vは、Cと結合して炭化物を生成させ、その析出強化によって鋼板の強度を上昇させるのに有効な元素である。特に、本発明が狙いとする高降伏比の特性は、これらの元素を0.002%以上添加し、冷間圧延後の焼鈍においてその化学組成においてγ域となる温度の高温で加熱することにより、その後の冷却過程時のフェライト変態の際に微細な炭化物が多量に生成し、フェライト粒が細粒になるとともに、得られる引張特性は非常に高い降伏比を示す。したがって、組織制御によって高い降伏比を得るためには非常に有効な元素である。しかしながら、0.3%以上添加してもこのような効果は飽和し、コストが嵩むだけとなる。そこで、Ti、Nb又はVを添加する場合には、それらの元素の上限は0.3%とすることが望ましい。
Cuは、固溶状態にしておき、部品製作後の熱処理によってε−Cuを析出することにより鋼板の強度を大きく上昇させる元素である。また、Niはオーステナイト安定化元素であり、鋼板の基本組織を室温でオーステナイトが残留するいわゆる残留オーステナイト鋼とする場合に、容易に得られやすくする元素である。
これらの元素は、狙い特性を得るために、強化機構制御にあわせ選択し、適宜添加元素の量を制御すればよい。しかしながら、いずれの元素とも0.01%未満ではこのような効果が認められず、一方3.0%超ではこのような効果が飽和する。そこで、これらの元素を添加する場合には、それぞれの含有量は0.01%以上3.0%未満とすることが望ましい。
本実施の形態の衝撃吸収部材用鋼板は、略述すれば、衝突時のエネルギーを吸収する部材に適用される鋼板に関するものであり、衝突変形を制御するための素材特性の要件に関するものである。したがって、所望の引張特性及び溶金硬さを提供する化学組成を満足することが、本発明の骨子である。
さらに、本実施の形態の衝撃吸収部材にさらに荷重を高めるために、高周波焼入れ、レーザー焼入れ、浸炭さらには窒化等の後処理や、最大荷重を下げるためのつぶれビードの形成、先頭断面積の縮小化、先頭部へピアス穴等の切欠き導入、さらには剛性向上のために基本断面の間への中板の導入等を施される衝撃吸収部材であっても、同様に適用可能である。
本発明の効果を確認するために、以下に説明する調査及び実験を行なった。
表1に示す組成を有する鋼を転炉により溶製し、連続鋳造により連鋳スラブとした。この連鋳スラブに熱間圧延及び酸洗を行って、その後供試材A、B、F、G、Jは、それぞれ、冷間圧延率65%、55%、75%、70%、45%で冷間圧延を行い、加工により生じた転位を多数含む冷延鋼板とした。
このように、まず引張特性条件が本発明が規定する条件を満足する鋼は、優れたエネルギー吸収能を示し、さらに、化学組成条件が本発明が規定する範囲を満足する鋼は、良好な変形モードも示すことがわかる。
2 稜線部(R部)
3 稜線間一般平面部
Claims (5)
- 0.2%耐力(YS)又は下降伏点(LYP)が435MPa以上で、かつ0.2%耐力(YS)と引張強度(TS)との比(YS/TS)である降伏比YR、又は、下降伏点(LYP)と引張強度(TS)との比(LYP/TS)である降伏比YRが0.85以上であることを特徴とする衝撃吸収部材用鋼板。
- 下記式により規定される炭素当量Ceq.が0.40質量%以下である請求項1に記載された衝撃吸収部材用鋼板。
Ceq.=C(質量%)+Si(質量%)/24+Mn(質量%)/6 - 質量%で、C:0.0005〜0.15%、Si:2.0%以下、Mn:2.5%以下、P:0.1%以下、S:0.03%以下、sol.Al:2.0%以下、N:0.02%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する請求項1又は請求項2に記載された衝撃吸収部材用鋼板。
- さらに、質量%で、Ti:0.002〜0.3%、Nb:0.002〜0.3%、および、V:0.002〜0.3%のうちの1種又は2種以上を含有する請求項3に記載された衝撃吸収部材用鋼板。
- さらに、質量%で、Cu:0.01〜3.0%、Ni:0.01〜3.0%、Cr:0.01〜3.0%、および、Mo:0.01〜3.0%のうちの1種又は2種以上を含有する請求項3又は請求項4に記載された衝撃吸収部材用鋼板。
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