JP2006188077A - 車両用スリップ防止装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】凍結路面に対し簡易な構成の手段により有効に凹凸を形成することができ、かつ作動媒体が路上に残留しても環境に影響を与えない媒体を用いた車両用スリップ防止装置を得ることである。
【解決手段】車両用スリップ防止装置は、液を貯留するタンク1に加熱コイル2による加熱手段を備え、加熱された高温液Lを接続パイプ4を経て噴射ポンプ3により液状又は液滴状に噴射し、凍結路面上に凹凸を形成するように構成されている。液は、水又はアルコール等の不凍液が用いられる。
【選択図】 図1
【解決手段】車両用スリップ防止装置は、液を貯留するタンク1に加熱コイル2による加熱手段を備え、加熱された高温液Lを接続パイプ4を経て噴射ポンプ3により液状又は液滴状に噴射し、凍結路面上に凹凸を形成するように構成されている。液は、水又はアルコール等の不凍液が用いられる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、凍結路面に凹凸を形成することにより車両のタイヤのスリップを防止する車両用スリップ防止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
走行中の車両のスリップを防止する方法として、凍結していない一般道路において車両を制動する際に、制動を短時間の間隔で継続させてスリップ率を回復させながら効率よく制動を行い、安全性を向上させる、いわゆるABS(アンチロックブレーキシステム)と呼ばれる制動方式が広く知られている。この方法は車両の接地面であるタイヤの路面に対するグリップ力(摩擦力)が残っていることが前提であり、スリップを防止する方法としては間接的であって、凍結路のように、摩擦係数μが極端に小さい場合最早作動限界を越えて制動不能となり、路面との間の摩擦係数を直接的に向上させることはできない。
【0003】
一方、冬季において氷点下で積雪などにより凍結した路面では、スリップを防止する方法として古くから種々の対策が試みられて来たが、その1つとして例えばスパイクタイヤはアスファルト路を走行する際に道路を摩耗し、粉塵公害を引き起すとして使用が禁止されたという経緯もあり、安価で有効なスリップ防止手段が所望されている。このような凍結路でもスリップを有効に防止する手段として、特許文献1に記載された「車両のスリップ防止補助装置」が知られている。
【0004】
この装置は、タンクに蓄えられたスリップ防止粒子をタイヤの接地部近傍に散布するように構成され、スリップ防止粒子を保温する粒子保温手段を備えたというものである。この装置では、スリップ防止粒子を粒子保温手段により保温し、その保温粒子をタイヤの接地部付近に散布して、保温粒子の熱により一時的に氷を溶かして氷表面に埋め込み、再び凍結されて固着された粒子によって凍結路面上に凹凸を形成し、路面の摩擦係数μを増大させるようにしている。使用される粒子としては、砂粒子や融氷剤などの無機物、あるいは植物の種子、食用粉、松脂粉などの有機物が用いられる。
【0005】
【特許文献1】
特開平8−25905号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述した特許文献1に開示された路面の摩擦係数μを向上させる方法では、路面に固着した粒子によって路面上に凹凸を形成することはできるとしても、路面表面の氷が溶けたときに、砂や種子などの無機物又は有機物のスリップ防止粒子は融水と共に流されてもなお粒子が路面に残留する可能性があり、粒子が路面に残留した場合は粉塵公害、環境汚染などの問題を引き起す可能性がある。従って、路面に粒子が残留することなく凹凸を形成できる方法が望ましい。
【0007】
この発明は、上記の問題に留意して、凍結路面に対し簡易な構成の手段により有効に凹凸を形成することができ、かつ作動媒体が路上に残留しても環境に影響を与えない媒体を用いた車両用スリップ防止装置を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決する手段として、タンクに貯留された液体を高温に加熱する加熱手段をタンクに設け、加熱された高温液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置としたのである。なお、液滴として噴射する場合は、粒子を細かくして霧状に噴射するようにしてもよい。
【0009】
上記課題を解決する別の手段として、タンクに貯蔵された液体を高圧に加圧する加圧手段をタンクに設け、加圧された高圧液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置とすることもできる。
【0010】
さらに、上記課題を解決するもう1つの手段として、タンクに貯留された液体を高温に加熱する加熱手段と、高圧に加圧する加圧手段とをタンクに設け、加熱及び加圧された高温・高圧液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置とすることもできる。
【0011】
上記の構成とした第1、第2、第3の発明のいずれも高温液、高圧液、高温・高圧液のいずれかを噴射手段から噴射することにより凍結路面上に凹凸を形成する。高温液、高圧液、高温・高圧液は、予めエンジン始動直後の走行前に加熱手段、加圧手段、又は両手段のいずれかにより予熱又は予加圧してそれぞれの状態を準備しておき、準備完了してから走行を開始する。高温液、高温・高圧液は水又はアルコール等の不凍液を用いる。
【0012】
走行中にブレーキを踏込みタイヤのスリップを検出すると、このブレーキ信号により噴射手段を作動させて液を液状で又は液滴として噴射し、液の熱、圧力又はその両方で凍結路面を溶かして、又は削るようにして凹凸を形成する。凹凸形成範囲は走行タイヤの前方で、タイヤ幅より少し広い範囲に及ぶようにする。
【0013】
又、レーザ光を発生するレーザ発生装置と、発生したレーザ光を伝送、照射する手段とを備え、レーザ発生装置から送り出されるレーザ光を車両タイヤの前方に照射して凍結路面上に凹凸を形成し、凍結路面を走行する車両のスリップを防止するように構成した車両用スリップ防止装置を採用してもよい。
【0014】
さらに、気体を加熱して熱エネルギを発生させる熱発生装置と、加熱された気体を噴射する噴射手段とを備え、噴射手段から車両タイヤの前方に加熱された気体を噴射して凍結路面上に凹凸を形成し、凍結路面を走行する車両のスリップを防止するように構成した車両用スリップ防止装置を採用することもできる。
【0015】
上記のように、レーザ光を照射したり、加熱した気体を噴射するようにしても、路面上に粒子が残留せずに凍結路面上に凹凸を形成することができる。この場合も、予めエンジン始動直後の走行前にレーザ発生装置または熱発生装置を起動して準備をしておくことが好ましい。
【0016】
【実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、実施形態の車両用スリップ防止装置Aの全体概略図である。図示のように、この車両用スリップ防止装置Aは、液体Lを収容するタンク1を備え、このタンク1内には液体Lを高温に加熱するための加熱手段として電気抵抗による加熱コイル2が設けられている。加熱された高温液は、これを噴射する噴射ポンプ3に配管4を経由して吸引されて送られる。
【0017】
加熱コイル2及び噴射用ポンプ3の駆動モータ3M は、駆動回路5へ制御回路(ECU)6から制御信号が送られることにより駆動される。7が液面計、8は液体の温度計であり、それぞれの状態を検出した信号は図示していないが制御回路6へ送られ、その検出信号に基づいて噴射ポンプ3が駆動され、高温液が路面に噴射される。なお、図示していないが、制御回路6へはブレーキ装置からブーキを踏込んだ際のブレーキ信号、及び車両に取付けられた各種のセンサからの信号が送られるようになっており、これらの信号から車輪のスリップを検出し、車輪のスリップが大きいときにポンプ3を作動させるようになっている。
【0018】
但し、タンク1の加熱コイル2への通電はイグニッションスイッチを入れてエンジンを始動させた後、外気温が所定以下(例えば5℃)であることを温度センサにより検出すると通電し、急速加熱により所定の高温状態に設定する。又、各種のセンサとは、車輪速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、踏力センサ等、車両の走行状態を検出するセンサのことであり、これらのセンサの検出結果に基づいて車輪のスリップが検出される。車輪のスリップの検出は、一種類のセンサで行っても、複数種類のセンサからの検出結果に基づいて判定してもよい。
【0019】
タンク1は、図示の例では電気抵抗による加熱コイル2を内蔵する形式としたが、この加熱コイル2に代えてタンク1の内周(又は外周)に中空管を設け、この中空管へエンジンの排気熱を送り込んで加熱するようにしてもよいし、両者を併設してもよい。タンク1内に貯留される液体Lは、高温の水(湯)に添加剤を加えた又はアルコール等の不凍液などであり、後述するように、路面に向って噴射、散布された後残存して周囲の環境に影響を及ぼすことのない種類の液が用いられる。高温の液体は、水では100℃以下、アルコールでは種類によって異なるが一般に60〜200℃以下で、それぞれの沸点より若干低い(数度)温度まで加熱するものとする。
【0020】
ポンプ3は、ベーンタイプあるいはプランジャタイプ等どのような形式のポンプでもよいが、その吹出孔は一定量の液又は液滴を吐出し得るように、例えば小さなノズルキャップ3aを設け、噴射される高温液が凍結路上の氷を点状又は小孔状に溶かし得る形状、構造の吐出孔とする必要がある。但し、ノズルキャップ3aに設ける吐出孔のノズル孔数はタイヤの幅方向に直線状に複数個設けるのが望ましい。吐出圧は、高圧でなくてもよいが、高温液を凍結路に対して液状、又は液滴状に噴射するのに必要な最小限の圧力であればよく、例えば、〜数気圧程度であればよい。又、ノズルキャップ3aによる噴射方向はタイヤの前方であればよく、タイヤの接地部付近に限定する必要はない。
【0021】
上記の構成とした車両用スリップ防止装置Aは、タンク1内の高温液を噴射ポンプ3aの吹出孔より噴射して凍結路面上に複数の点状又は小孔状の凹所を形成する。前述したように、車両を走行させる前に、エンジンのイグニッションスイッチを投入した直後、加熱コイル2へ通電し急速加熱によりタンク1内の液体を高温液に予熱しておく。走行を開始し、外気温が設定温度以下の検出信号又は手動スイッチによる入力信号で制御回路6は待機状態とされ、凍結路上を走行中にブレーキを踏込み、各種のセンサの検出結果に基づき車輪のスリップを検出すると、その検出結果に基づいて制御回路6が制御信号を駆動回路5へ送る。
【0022】
駆動回路5はモータ3M を駆動して噴射ポンプ3から高温液を断続的に液状で、又は液滴として噴射し凍結路面に多数の凹所を形成する。これらの凹所はタイヤ幅より少し広い範囲に車両の進行方向にタイヤに先行して形成される。凹所が形成されると、凍結路面であってもタイヤとの摩擦係数μが大幅に向上し、ブレーキが有効に作用することとなる。
【0023】
図2は第2実施形態の車両用スリップ防止装置A’の全体概略図である。この車両用スリップ防止装置A’の基本的な構成は、第1実施形態と同じであるが、タンク1内の液を加圧する加圧ポンプ9を備えた点が異なる。9M は電動モータ、10はリリーフ弁(逃し弁)である。又、タンク1は第1実施形態では耐高温性の材料でよいが、この実施形態では耐高温性、耐高圧性の材料を用いる必要があり、例えばステンレス鋼で厚肉の容器が用いられる。
【0024】
加圧ポンプ9によりタンク1内の空気層は、例えば数気圧乃至数10気圧程度に加圧して、タンク1内の液体の飽和蒸気圧を高くすることにより液状のまま高温状態を生じさせる。
【0025】
例えば水の飽和温度は大気の1気圧下で100℃であるのが、加圧すると15〜20気圧で200℃程度となり、他の液体でも同様に加圧下では飽和温度が上昇することはよく知られている。従って、加圧ポンプ9により予加圧した状態で、例えば水を200℃の高温液に加熱コイル2により予熱し、その高温液を噴射ポンプ3より噴射する。
【0026】
高温・高圧液を断続的に液状で又は液滴として噴射ポンプ3から噴射して凍結路面に多数の凹所を形成すると、第1実施形態の場合よりさらに凹所は深く大きく形成することができる。高温・高圧液で凍結路の表面をより有効に溶かすからである。
【0027】
なお、上記第2実施形態では使用される液体を高温・高圧液としたが、加熱コイル2を省略し、高圧液としてもよい。但し、この場合は、圧力は数10気圧以上とし、噴射される高圧液が凍結路表面の氷を削るように突き当てる。このような高圧液は、液体であっても高圧下では堅い棒状の物体が作用するのと同様な効果があり、氷表面を削ることができるからである。
【0028】
以上の各実施形態では、高温液、高温・高圧液、高圧液のいずれかを噴射して凍結路面に凹所を形成し、残存する噴射物が環境に影響を及ぼさないようにしたが、このような液体でなくレーザ光や熱線を用いて氷の表面を削るようにしてもよい。レーザ光を用いる場合は、小型のレーザ発生装置により極力強力なレーザ光を発生させる。例えば、波長10.6μm(遠赤外光)のCO2 レーザ、あるいは波長1.06μm(近赤外光)のNd−YAGレーザ等を用いる。
【0029】
発生したレーザ光はQスイッチ等を用いてパルス光として断続的に送り、伝送経路では光ファイバケーブルにより伝送し、噴射ポンプ3に相当する位置に設けた照射レンズへ送って照射する。レーザ光は直進性が高く、レーザ発生装置から送り出されるレーザ光は一般に直径が極めて小さいから、途中で所定直径にレンズで拡大して照射レンズへ伝送する。レーザ光は複数で照射すれば凍結路面に凹部を多く形成するので、効果を大きくすることができる。
【0030】
熱線を用いる場合は、例えばニクロム線に通電して熱エネルギを発生させ、その熱エネルギをエアーコンプレッサで高温・高圧気体として熱発生部から送り出し、吐出ノズルから高温・高圧気体を断続的に氷表面に吹き付けて氷の表面を削るようにする。なお、レーザ光と熱線を併用するようにしてもよい。
【0031】
又、上述した実施形態では、凍結路面の走行時でブレーキ制動時に車両用スリップ防止装置が作動するものとして説明したが、ブレーキ制動とは関係なく、車輪のスリップが大きいときに作動させるようにしてもよい。例えば、車両が加速中に車輪のスリップを検出した際に本装置を作動させることで車輪のスリップを抑えて所望の加速度を得る場合にも適用することができる。
【0032】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、この発明の車両用スリップ防止装置はタンクに加熱手段、加圧手段又は両手段のいずれかを設けてタンク内の液を高温液、高圧液、又は高温・高圧液とし、そのいずれかの液を噴射手段から液状又は液滴状に噴射するようにしたから、凍結路面上に噴射される液の高温度で氷を溶かし、あるいは高圧で氷を削って凹凸が形成され、路面上に粒子が残留することなく路面とタイヤ間の摩擦係数μが直接的に大幅に増大するという画期的な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の車両用スリップ防止装置の全体概略構成図
【図2】第2実施形態の車両用スリップ防止装置の全体概略構成図
【符号の説明】
1 タンク
2 加熱コイル
3 噴射ポンプ
5 駆動回路
6 制御回路
7 液面計
8 温度センサ
【発明の属する技術分野】
この発明は、凍結路面に凹凸を形成することにより車両のタイヤのスリップを防止する車両用スリップ防止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
走行中の車両のスリップを防止する方法として、凍結していない一般道路において車両を制動する際に、制動を短時間の間隔で継続させてスリップ率を回復させながら効率よく制動を行い、安全性を向上させる、いわゆるABS(アンチロックブレーキシステム)と呼ばれる制動方式が広く知られている。この方法は車両の接地面であるタイヤの路面に対するグリップ力(摩擦力)が残っていることが前提であり、スリップを防止する方法としては間接的であって、凍結路のように、摩擦係数μが極端に小さい場合最早作動限界を越えて制動不能となり、路面との間の摩擦係数を直接的に向上させることはできない。
【0003】
一方、冬季において氷点下で積雪などにより凍結した路面では、スリップを防止する方法として古くから種々の対策が試みられて来たが、その1つとして例えばスパイクタイヤはアスファルト路を走行する際に道路を摩耗し、粉塵公害を引き起すとして使用が禁止されたという経緯もあり、安価で有効なスリップ防止手段が所望されている。このような凍結路でもスリップを有効に防止する手段として、特許文献1に記載された「車両のスリップ防止補助装置」が知られている。
【0004】
この装置は、タンクに蓄えられたスリップ防止粒子をタイヤの接地部近傍に散布するように構成され、スリップ防止粒子を保温する粒子保温手段を備えたというものである。この装置では、スリップ防止粒子を粒子保温手段により保温し、その保温粒子をタイヤの接地部付近に散布して、保温粒子の熱により一時的に氷を溶かして氷表面に埋め込み、再び凍結されて固着された粒子によって凍結路面上に凹凸を形成し、路面の摩擦係数μを増大させるようにしている。使用される粒子としては、砂粒子や融氷剤などの無機物、あるいは植物の種子、食用粉、松脂粉などの有機物が用いられる。
【0005】
【特許文献1】
特開平8−25905号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述した特許文献1に開示された路面の摩擦係数μを向上させる方法では、路面に固着した粒子によって路面上に凹凸を形成することはできるとしても、路面表面の氷が溶けたときに、砂や種子などの無機物又は有機物のスリップ防止粒子は融水と共に流されてもなお粒子が路面に残留する可能性があり、粒子が路面に残留した場合は粉塵公害、環境汚染などの問題を引き起す可能性がある。従って、路面に粒子が残留することなく凹凸を形成できる方法が望ましい。
【0007】
この発明は、上記の問題に留意して、凍結路面に対し簡易な構成の手段により有効に凹凸を形成することができ、かつ作動媒体が路上に残留しても環境に影響を与えない媒体を用いた車両用スリップ防止装置を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決する手段として、タンクに貯留された液体を高温に加熱する加熱手段をタンクに設け、加熱された高温液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置としたのである。なお、液滴として噴射する場合は、粒子を細かくして霧状に噴射するようにしてもよい。
【0009】
上記課題を解決する別の手段として、タンクに貯蔵された液体を高圧に加圧する加圧手段をタンクに設け、加圧された高圧液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置とすることもできる。
【0010】
さらに、上記課題を解決するもう1つの手段として、タンクに貯留された液体を高温に加熱する加熱手段と、高圧に加圧する加圧手段とをタンクに設け、加熱及び加圧された高温・高圧液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置とすることもできる。
【0011】
上記の構成とした第1、第2、第3の発明のいずれも高温液、高圧液、高温・高圧液のいずれかを噴射手段から噴射することにより凍結路面上に凹凸を形成する。高温液、高圧液、高温・高圧液は、予めエンジン始動直後の走行前に加熱手段、加圧手段、又は両手段のいずれかにより予熱又は予加圧してそれぞれの状態を準備しておき、準備完了してから走行を開始する。高温液、高温・高圧液は水又はアルコール等の不凍液を用いる。
【0012】
走行中にブレーキを踏込みタイヤのスリップを検出すると、このブレーキ信号により噴射手段を作動させて液を液状で又は液滴として噴射し、液の熱、圧力又はその両方で凍結路面を溶かして、又は削るようにして凹凸を形成する。凹凸形成範囲は走行タイヤの前方で、タイヤ幅より少し広い範囲に及ぶようにする。
【0013】
又、レーザ光を発生するレーザ発生装置と、発生したレーザ光を伝送、照射する手段とを備え、レーザ発生装置から送り出されるレーザ光を車両タイヤの前方に照射して凍結路面上に凹凸を形成し、凍結路面を走行する車両のスリップを防止するように構成した車両用スリップ防止装置を採用してもよい。
【0014】
さらに、気体を加熱して熱エネルギを発生させる熱発生装置と、加熱された気体を噴射する噴射手段とを備え、噴射手段から車両タイヤの前方に加熱された気体を噴射して凍結路面上に凹凸を形成し、凍結路面を走行する車両のスリップを防止するように構成した車両用スリップ防止装置を採用することもできる。
【0015】
上記のように、レーザ光を照射したり、加熱した気体を噴射するようにしても、路面上に粒子が残留せずに凍結路面上に凹凸を形成することができる。この場合も、予めエンジン始動直後の走行前にレーザ発生装置または熱発生装置を起動して準備をしておくことが好ましい。
【0016】
【実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、実施形態の車両用スリップ防止装置Aの全体概略図である。図示のように、この車両用スリップ防止装置Aは、液体Lを収容するタンク1を備え、このタンク1内には液体Lを高温に加熱するための加熱手段として電気抵抗による加熱コイル2が設けられている。加熱された高温液は、これを噴射する噴射ポンプ3に配管4を経由して吸引されて送られる。
【0017】
加熱コイル2及び噴射用ポンプ3の駆動モータ3M は、駆動回路5へ制御回路(ECU)6から制御信号が送られることにより駆動される。7が液面計、8は液体の温度計であり、それぞれの状態を検出した信号は図示していないが制御回路6へ送られ、その検出信号に基づいて噴射ポンプ3が駆動され、高温液が路面に噴射される。なお、図示していないが、制御回路6へはブレーキ装置からブーキを踏込んだ際のブレーキ信号、及び車両に取付けられた各種のセンサからの信号が送られるようになっており、これらの信号から車輪のスリップを検出し、車輪のスリップが大きいときにポンプ3を作動させるようになっている。
【0018】
但し、タンク1の加熱コイル2への通電はイグニッションスイッチを入れてエンジンを始動させた後、外気温が所定以下(例えば5℃)であることを温度センサにより検出すると通電し、急速加熱により所定の高温状態に設定する。又、各種のセンサとは、車輪速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、踏力センサ等、車両の走行状態を検出するセンサのことであり、これらのセンサの検出結果に基づいて車輪のスリップが検出される。車輪のスリップの検出は、一種類のセンサで行っても、複数種類のセンサからの検出結果に基づいて判定してもよい。
【0019】
タンク1は、図示の例では電気抵抗による加熱コイル2を内蔵する形式としたが、この加熱コイル2に代えてタンク1の内周(又は外周)に中空管を設け、この中空管へエンジンの排気熱を送り込んで加熱するようにしてもよいし、両者を併設してもよい。タンク1内に貯留される液体Lは、高温の水(湯)に添加剤を加えた又はアルコール等の不凍液などであり、後述するように、路面に向って噴射、散布された後残存して周囲の環境に影響を及ぼすことのない種類の液が用いられる。高温の液体は、水では100℃以下、アルコールでは種類によって異なるが一般に60〜200℃以下で、それぞれの沸点より若干低い(数度)温度まで加熱するものとする。
【0020】
ポンプ3は、ベーンタイプあるいはプランジャタイプ等どのような形式のポンプでもよいが、その吹出孔は一定量の液又は液滴を吐出し得るように、例えば小さなノズルキャップ3aを設け、噴射される高温液が凍結路上の氷を点状又は小孔状に溶かし得る形状、構造の吐出孔とする必要がある。但し、ノズルキャップ3aに設ける吐出孔のノズル孔数はタイヤの幅方向に直線状に複数個設けるのが望ましい。吐出圧は、高圧でなくてもよいが、高温液を凍結路に対して液状、又は液滴状に噴射するのに必要な最小限の圧力であればよく、例えば、〜数気圧程度であればよい。又、ノズルキャップ3aによる噴射方向はタイヤの前方であればよく、タイヤの接地部付近に限定する必要はない。
【0021】
上記の構成とした車両用スリップ防止装置Aは、タンク1内の高温液を噴射ポンプ3aの吹出孔より噴射して凍結路面上に複数の点状又は小孔状の凹所を形成する。前述したように、車両を走行させる前に、エンジンのイグニッションスイッチを投入した直後、加熱コイル2へ通電し急速加熱によりタンク1内の液体を高温液に予熱しておく。走行を開始し、外気温が設定温度以下の検出信号又は手動スイッチによる入力信号で制御回路6は待機状態とされ、凍結路上を走行中にブレーキを踏込み、各種のセンサの検出結果に基づき車輪のスリップを検出すると、その検出結果に基づいて制御回路6が制御信号を駆動回路5へ送る。
【0022】
駆動回路5はモータ3M を駆動して噴射ポンプ3から高温液を断続的に液状で、又は液滴として噴射し凍結路面に多数の凹所を形成する。これらの凹所はタイヤ幅より少し広い範囲に車両の進行方向にタイヤに先行して形成される。凹所が形成されると、凍結路面であってもタイヤとの摩擦係数μが大幅に向上し、ブレーキが有効に作用することとなる。
【0023】
図2は第2実施形態の車両用スリップ防止装置A’の全体概略図である。この車両用スリップ防止装置A’の基本的な構成は、第1実施形態と同じであるが、タンク1内の液を加圧する加圧ポンプ9を備えた点が異なる。9M は電動モータ、10はリリーフ弁(逃し弁)である。又、タンク1は第1実施形態では耐高温性の材料でよいが、この実施形態では耐高温性、耐高圧性の材料を用いる必要があり、例えばステンレス鋼で厚肉の容器が用いられる。
【0024】
加圧ポンプ9によりタンク1内の空気層は、例えば数気圧乃至数10気圧程度に加圧して、タンク1内の液体の飽和蒸気圧を高くすることにより液状のまま高温状態を生じさせる。
【0025】
例えば水の飽和温度は大気の1気圧下で100℃であるのが、加圧すると15〜20気圧で200℃程度となり、他の液体でも同様に加圧下では飽和温度が上昇することはよく知られている。従って、加圧ポンプ9により予加圧した状態で、例えば水を200℃の高温液に加熱コイル2により予熱し、その高温液を噴射ポンプ3より噴射する。
【0026】
高温・高圧液を断続的に液状で又は液滴として噴射ポンプ3から噴射して凍結路面に多数の凹所を形成すると、第1実施形態の場合よりさらに凹所は深く大きく形成することができる。高温・高圧液で凍結路の表面をより有効に溶かすからである。
【0027】
なお、上記第2実施形態では使用される液体を高温・高圧液としたが、加熱コイル2を省略し、高圧液としてもよい。但し、この場合は、圧力は数10気圧以上とし、噴射される高圧液が凍結路表面の氷を削るように突き当てる。このような高圧液は、液体であっても高圧下では堅い棒状の物体が作用するのと同様な効果があり、氷表面を削ることができるからである。
【0028】
以上の各実施形態では、高温液、高温・高圧液、高圧液のいずれかを噴射して凍結路面に凹所を形成し、残存する噴射物が環境に影響を及ぼさないようにしたが、このような液体でなくレーザ光や熱線を用いて氷の表面を削るようにしてもよい。レーザ光を用いる場合は、小型のレーザ発生装置により極力強力なレーザ光を発生させる。例えば、波長10.6μm(遠赤外光)のCO2 レーザ、あるいは波長1.06μm(近赤外光)のNd−YAGレーザ等を用いる。
【0029】
発生したレーザ光はQスイッチ等を用いてパルス光として断続的に送り、伝送経路では光ファイバケーブルにより伝送し、噴射ポンプ3に相当する位置に設けた照射レンズへ送って照射する。レーザ光は直進性が高く、レーザ発生装置から送り出されるレーザ光は一般に直径が極めて小さいから、途中で所定直径にレンズで拡大して照射レンズへ伝送する。レーザ光は複数で照射すれば凍結路面に凹部を多く形成するので、効果を大きくすることができる。
【0030】
熱線を用いる場合は、例えばニクロム線に通電して熱エネルギを発生させ、その熱エネルギをエアーコンプレッサで高温・高圧気体として熱発生部から送り出し、吐出ノズルから高温・高圧気体を断続的に氷表面に吹き付けて氷の表面を削るようにする。なお、レーザ光と熱線を併用するようにしてもよい。
【0031】
又、上述した実施形態では、凍結路面の走行時でブレーキ制動時に車両用スリップ防止装置が作動するものとして説明したが、ブレーキ制動とは関係なく、車輪のスリップが大きいときに作動させるようにしてもよい。例えば、車両が加速中に車輪のスリップを検出した際に本装置を作動させることで車輪のスリップを抑えて所望の加速度を得る場合にも適用することができる。
【0032】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、この発明の車両用スリップ防止装置はタンクに加熱手段、加圧手段又は両手段のいずれかを設けてタンク内の液を高温液、高圧液、又は高温・高圧液とし、そのいずれかの液を噴射手段から液状又は液滴状に噴射するようにしたから、凍結路面上に噴射される液の高温度で氷を溶かし、あるいは高圧で氷を削って凹凸が形成され、路面上に粒子が残留することなく路面とタイヤ間の摩擦係数μが直接的に大幅に増大するという画期的な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の車両用スリップ防止装置の全体概略構成図
【図2】第2実施形態の車両用スリップ防止装置の全体概略構成図
【符号の説明】
1 タンク
2 加熱コイル
3 噴射ポンプ
5 駆動回路
6 制御回路
7 液面計
8 温度センサ
Claims (7)
- タンクに貯留された液体を高温に加熱する加熱手段をタンクに設け、加熱された高温液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置。
- タンクに貯蔵された液体を高圧に加圧する加圧手段をタンクに設け、加圧された高圧液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置。
- タンクに貯留された液体を高温に加熱する加熱手段と、高圧に加圧する加圧手段とをタンクに設け、加熱及び加圧された高温・高圧液を液状又は液滴状で噴射する噴射手段から車両タイヤの前方に噴射して凍結路面上に凹凸を形成するように構成した車両用スリップ防止装置。
- 前記加熱手段を電気抵抗による電気的加熱手段としたことを特徴とする請求項1又は3に記載の車両用スリップ防止装置。
- 前記加熱手段としてエンジンからの排熱を利用する排熱加熱手段を設けたことを特徴とする請求項1または3に記載の車両用スリップ防止装置。
- レーザ光を発生するレーザ発生装置と、発生したレーザ光を伝送、照射する手段とを備え、レーザ発生装置から送り出されるレーザ光を車両タイヤの前方に照射して凍結路面上に凹凸を形成し、凍結路面を走行する車両のスリップを防止するように構成した車両用スリップ防止装置。
- 気体を加熱して熱エネルギを発生させる熱発生装置と、加熱された気体を噴射する噴射手段とを備え、噴射手段から車両タイヤの前方に加熱された気体を噴射して凍結路面上に凹凸を形成し、凍結路面を走行する車両のスリップを防止するように構成した車両用スリップ防止装置。
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