JP2006180708A - 抗体作製方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】短期間で且つ効率的にモノクローナル抗体を調製することが可能であって、しかも汎用性の高い抗体作製方法を提供する。
【解決手段】以下のステップ(a)〜(d)を含む、抗体作製方法:(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ;及び(d)調製した抗体遺伝子を、発現ベクターを用いて発現させるステップ。
【選択図】 なし
【解決手段】以下のステップ(a)〜(d)を含む、抗体作製方法:(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ;及び(d)調製した抗体遺伝子を、発現ベクターを用いて発現させるステップ。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は抗体作製方法に関する。詳しくは、遺伝子工学的手法を利用した抗体作製方法、及びその応用に関する。
【0002】
【従来の技術】
抗体関連産業は従来、細胞融合によるモノクローナル抗体作製技術を基盤として発展してきた。抗体は研究用試薬、診断用試薬、各種物質モニター用試薬として多数開発販売されており、更には治療用抗体の開発、生産が進められている。近年、ファージディスプレイ系を用いた抗体ライブラリー作製技術が開発され、とりわけヒト抗体単離に大きな力を発揮している。本発明者及び共同研究者らは、基盤技術としてファージディスプレイ系を駆使し、今までに臨床に役立つ各種感染症に対するヒト抗体単離を実施した。その結果、インフルエンザウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスに対して非常に強い中和活性を示すヒト抗体をそれぞれ数種類作製することに成功している(第24回日本分子生物学会年会で発表「抗体ライブラリーからのヒト型抗インフルエンザウィルス中和抗体の単離」、第50回日本ウィルス学会で発表「ヒト抗体ライブラリーからの水痘帯状疱疹ウィルス中和抗体の単離」)。また、ポストゲノム時代のタンパク質機能解析試薬として抗体の網羅的体系的単離調製を実施してきた(第25回日本分子生物学会年会で発表「C.elegans由来のタンパク質に対する抗体を用いた発現パターン解析」、「C.elegans由来のタンパク質に対するモノクローナル抗体の単離」)。この一連の研究を通して、ヒトを含めた動物体内に存在する抗体をコードする遺伝子を確実にクローン化できるようになり、大腸菌産生系で作られる抗体と動物体内で作られる抗体との間で抗原結合性に関して完全に同一であることが示された(第25回日本分子生物学会年会で発表「C.elegans由来のタンパク質に対する抗体を用いた発現パターン解析」、「C.elegans由来のタンパク質に対するモノクローナル抗体の単離」)。
【0003】
ファージディスプレイ技術は様々な長所を持つ一方で、その効率の低さが問題とされている。生体内では重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)が組となって存在しており、これをファージディスプレイ系で再現するためには、まずH鎖、L鎖それぞれを集団としてライブラリー化した後、各ライブラリーを組み合わせて巨大な抗体ライブラリーを作製せざるを得ない。従って、例えば1万種の抗体をカバーするためには1万×1万=1億個もの巨大な抗体ライブラリーの作製が必要となる。このように作製されたライブラリーは目的とする抗体を含むものの、本来存在しないH鎖とL鎖の組合わせからなる抗体が大部分を占めることから、目的の抗体の選択には選択方法の工夫や、かなりの技術的な習熟が必要となる。特に、得られたクローンが、動物が本来作っていた抗体と同じ組み合わせ(HとL)であるという保証はない。
【0004】
一方、古典的な細胞融合を利用したモノクローナル抗体の作製方法では、まず第1にモノクローナル抗体産生細胞の単離までに多大な労力及び費用を要することが問題となる。また、抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させ、かつ得られたハイブリドーマをモノクローン化することができる確率は低く、最終的に得られるハイブリドーマの種類は極めて少ない。従って、目的の抗体産生細胞を取得することは極めて困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の背景の下なされたものであって、短期間で且つ効率的にモノクローナル抗体を調製することが可能であって、しかも汎用性の高い抗体作製方法を提供することを主たる目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上の目的を達成するために鋭意検討し、以下の各構成に想到した。
[1] 以下のステップ(a)〜(d)を含む、抗体作製方法:
(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;
(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;
(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ;及び
(d)調製した抗体遺伝子を、発現ベクターを用いて発現させるステップ。
[2] 前記ステップ(b)において1個の標識化ターゲット細胞が分離される、[1]に記載の抗体作製方法。
[3] 前記ステップ(b)が、マニピュレーション、限外希釈法、又はフローサイトメトリーによって実行される、[1]又は[2]に記載の抗体作製方法。
[4] 前記ステップ(c)が、前記標識化ターゲット細胞のゲノムDNAを鋳型として用いた核酸増幅反応によって実行される、[1]〜[3]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[5] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子が調製される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[6] 前記ステップ(c)において、L鎖可変領域遺伝子が調製される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[7] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が調製される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[8] 前記発現ベクターがリンカー配列を有し、
前記ステップ(d)において、前記リンカー配列を介して連結されるように前記H鎖可変領域遺伝子及び前記L鎖可変領域遺伝子が前記発現ベクターに挿入される、[7]に記載の抗体作製方法。
[9] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が調製され、
前記発現ベクターが、H鎖定常領域をコードする第1配列と、及びL鎖定常領域をコードする第2配列とを有し、
前記ステップ(d)において、前記H鎖可変領域遺伝子が前記第1配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入され、且つ前記L鎖可変領域遺伝子が前記第2配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[10] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子と、並びにL鎖可変領域及びL鎖定常領域をコードするL鎖遺伝子とが調製され、
前記発現ベクターが、H鎖定常領域ををコードする配列を有し、
前記ステップ(d)において、前記H鎖可変領域遺伝子が前記配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入され、且つ前記L鎖遺伝子が前記ベクターに挿入される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[11] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域鎖遺伝子が調製され、
前記ステップ(d)が以下のステップを含む、ことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法:
前記H鎖可変領域遺伝子を、H鎖定常領域遺伝子を有する第1発現ベクターに挿入し、H鎖可変領域とH鎖定常領域とが接続されたH鎖を発現させるステップ;及び
前記L鎖可変領域遺伝子を、L鎖定常領域遺伝子を有する第2発現ベクターに挿入し、L鎖可変領域とL鎖定常領域とが接続されたL鎖を発現させるステップ。
[12] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子と、並びにL鎖可変領域及びL鎖定常領域をコードするL鎖遺伝子とが調製され、
前記ステップ(d)が以下のステップを含む、ことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法:
前記H鎖可変領域遺伝子を、H鎖定常領域遺伝子を有する第1発現ベクターに挿入し、H鎖可変領域とH鎖定常領域とが接続されたH鎖を発現させるステップ;及び
前記L鎖遺伝子を第2発現ベクターに挿入し、L鎖可変領域とL鎖定常領域とが接続されたL鎖を発現させるステップ。
[13] 前記ステップ(d)においてIgGクラスの抗体が構築される、[9]〜[12]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[14] 前記ターゲット細胞がヒト細胞である、[1]〜[13]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[15] 前記標識化抗原が、蛍光物質、ビオチン、又はマグネットビーズで標識された抗原である、[1]〜[14]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[16] [1]〜[15]のいずれかの抗体作製方法によって得られた抗体。
[17] 以下のステップ(a)〜(c)を含む、抗体遺伝子調製方法:
(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;
(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;及び
(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ。
【0007】
本発明の抗体作製方法では細胞融合や抗体ライブラリーからのスクリーニングを伴わないことから、目的の抗体を効率的に作製することができる。また、各ステップに要する時間は短く、短期間で目的の抗体を取得することが可能である。更には、様々な種(例えばマウス、ラット、ウサギ、ヒトなど)を起源とする抗体を作製することができ、その汎用性は高い。特に従来の方法によってはモノクローナル抗体の作製が困難であった動物を起源とする抗体を作製することも可能である点においてその利用価値が極めて高い。
以下、本発明を構成する各ステップについて説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
(標識化ステップ)
本発明の抗体作製方法は第1のステップとして、目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ(ステップ(a))が実行される。このステップによって、目的の抗体(本明細書において「ターゲット抗体」ともいう)を産生する細胞(本明細書において「ターゲット細胞」ともいう)が標識化されることとなる。
本発明において対象となる抗体(ターゲット抗体)の由来は特に限定されない。例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、チンパンジー、ヒトなど、様々な種由来の抗体が対象とされる。
【0009】
「目的の抗体が認識する抗原」とは、ターゲット抗体が特異的に認識する分子のことをいう。 尚、以下の説明において特に記載のない場合には、「抗原」とは目的の抗体が認識する抗原のことを意味する。本発明では様々な種類の抗原を採用することができる。抗原は、典型的にはペプチドないしタンパク質であるが、抗原としての機能を備える限り、様々な修飾を施したものであってもよい。例えば、抗原としての機能部分に加えて他のペプチドないしタンパク質部分を有する、いわゆる融合タンパク質を本発明における抗原として使用することができる。また、糖鎖や脂肪鎖等を付加したものを抗原として使用してもよい。
【0010】
「ターゲット細胞を含む細胞集団」は、ターゲット細胞を含んでいると期待される動物組織、器官等から調製される。例えば、抗原(ターゲット抗体が認識する抗原)によって免疫された動物において抗体産生細胞が存在する組織又は器官からこのような細胞集団を調製することができる。抗体産生細胞が存在する組織等の具体例としては、脾臓、骨髄、末梢血、さい帯血、扁桃を挙げることができる。細胞集団の供給源となる動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、チンパンジー、ヒトを例示できるがこれらに限定されるものではなく、ターゲット抗体に応じて適切なものが選択される。尚、免疫操作は必須でない。即ち、ターゲット細胞を産生ないし保有している動物を入手可能な場合には、免疫操作を経ることなく当該動物より目的の細胞集団を調製することが可能である。例えば、ある疾患に関連する抗体をターゲット抗体とする場合においては、当該疾患に罹患している動物ではターゲット抗体を産生していること(即ちターゲット細胞の存在)を期待できるから、当該動物において抗体産生細胞が存在すると考えられる組織又は器官からターゲット細胞を含む細胞集団を調製することができる。
【0011】
抗原の標識化に使用する標識物質としては例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)ユーロピウム、Alexa488(商品名)、Alexa546(商品名)などの蛍光物質、ルミノール、イソルミノール、及びアクリジニウム誘導体などの化学発光物質、NADなどの補酵素、ビオチン、並びにマグネットビーズを用いることができる。尚、標識物質による標識化は常法で行うことができ、例えばMolecular Cloning, Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる。
【0012】
標識化抗原と細胞集団との接触は、標識化抗原とターゲット細胞とが結合するのに適当な溶液内で行うことができる。標識化抗原と細胞集団との接触は、細胞集団におけるターゲット細胞に与えるダメージが少ない条件で行うことが好ましい。特に、ターゲット細胞の細胞膜結合型抗体が除去されたり、その本来の機能が失われたりしないような条件で行うことが好ましい。このような条件下で反応させることにより、ターゲット細胞と標識化抗原とが良好に結合することからターゲット細胞の効率的な回収が可能となり、また生存状態が良好なターゲット細胞を得ることが可能となる。ターゲット細胞に与えるダメージが少ない条件としては、低温環境下(例えば氷上)で反応させる条件を例示することができる。
【0013】
以上で説明した標識化ステップの前に、標識していない抗原に細胞集団を接触させ、そして抗原に結合した細胞を回収することによって、標識化ステップに供する細胞集団内のターゲット細胞の比率を高めておくことが好ましい。このような前処理を行うことによって標識化ステップにおける標識化が一層効率化する。前処理は例えば以下の手順で行われる。まず、標識していない抗原をプレートなどの支持体に固定する。次に、支持体に固定された抗原に対して、細胞集団を懸濁した溶液を接触させる。その後、非特異的に吸着した成分(細胞など)を洗浄・除去する。最後に、ピペッティングなどによって、抗原に結合している細胞を回収する。
【0014】
(細胞分離ステップ)
このステップでは、標識化ステップによって得られる標識化ターゲット細胞が分離される(ステップ(b))。標識化ターゲット細胞の分離操作には、使用した標識物質の種類に応じて適切な手法が利用される。例えば、標識物質として蛍光物質を使用した場合には、標識化ターゲット細胞を蛍光顕微鏡で観察することができる。即ち、蛍光による可視化が可能であって、これを利用して細胞の分離を行うことができる。一方、フローサイトメトリー(セルソーター)によっても、蛍光を指標とした細胞分離が可能である。フローサイトメトリーによれば効率的かつ高精度の細胞分離が可能となる。また、標識物質としてビオチンを採用した場合においてもアビジンとの結合反応を利用して良好な分離が可能である。マグネットビーズを採用した場合にも同様に、磁石を用いた良好な分離が可能である。尚、マニピュレーションや限外希釈法を利用することによっても当該ステップを実行することが可能である。
尚、以上のような細胞分離操作は、各方法に適切な装置(セルソータ等)、器具を使用して行われるが、このような装置等は市販されていることから、容易に所望の分離操作を実施することが可能である。また、具体的な操作方法については使用する装置等に添付の使用説明書(例えばベックマンコールター社フローサイトメトリーEPIC ALTRATypeIV の取扱説明書)や成書を参考にすることができる。
【0015】
融合タンパク質など、付加部分を有する抗原を用いた場合においては、標識化抗原に結合したとして分離、回収される細胞の中には、目的のターゲット細胞に加えて、付加部分に対する抗体を発現する細胞(意図しない細胞)が混在している惧れがある。このような場合にはターゲット細胞と意図しない細胞とを分別する必要がある。ターゲット細胞と意図しない細胞とを分別するためには例えば、以下の方法(第1の方法、第2の方法)を利用することができる。第1の方法は、標識化ステップにおいて2種類の標識物質を利用する方法である。この方法ではまず、抗原(付加部分を含む)を一の標識物質で標識したもの(標識化抗原)と、付加部分のみを異なる標識物質で標識したもの(標識化付加部分)とを用意する。そして、標識化ステップにおいて、標識化抗原と標識化付加部分を同時に細胞集団に接触させる。この処理によって、付加部分に対して結合性を有する抗体を発現している細胞に対しては標識化抗原と標識化付加部分の両方が結合し、2種類の標識シグナルが観察されることとなる。一方で、ターゲット細胞に対しては標識化抗原のみが結合することとなり、観察される標識シグナルは一つである。従って、標識シグナルを指標とした分別(即ちターゲット細胞の回収)が可能となる。第2の方法は、標識化した付加部分を単独で利用する方法である。この方法ではまず、付加部分のみを調製し、これを標識する。このようにして得られた標識付加部分と、標識化ステップによって回収された細胞との結合性を調べる。そして、結合性を示した細胞は、付加部分を認識する抗体を発現する細胞であるから、これを除去すれば、ターゲット細胞が選択されることとなる。
【0016】
細胞分離ステップにおいて、1個の標識化ターゲット細胞を分離することが好ましい。このような分離操作を行えば、後述の「抗体遺伝子調製ステップ」において1個の細胞に由来するH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を取得することが可能となり、最終的に得られる抗体のH鎖とL鎖の組合わせが本来存在していたものとなる。つまり、H鎖とL鎖の組合わせがナチュラルな抗体の作製が可能となる。また、このようなH鎖遺伝子とL鎖遺伝子との組合わせの情報は、得られた抗体を解析する場合や遺伝子工学的に改変を加える場合などに極めて有用である。尚、1個の標識化ターゲット細胞を分離するための方法としては、マニピュレーション、限外希釈法、及びフローサイトメトリーなどを採用できる。
【0017】
(抗体遺伝子調製ステップ)
このステップでは、分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子が調製される(ステップ(c))。具体的には、標識化ターゲット細胞の核酸を利用してその中に存在する、目的の抗体遺伝子が調製(単離)される。標識化ターゲット細胞内のmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、そして抗体遺伝子を調製することもできるが、RNA分子は不安定であるからその取り扱いに注意を要し、また標識化ターゲット細胞が生細胞である場合、または生細胞を急速に凍結した場合など以外はその利用が困難である。そこで本発明では、ゲノムDNAを鋳型として用いて目的の抗体遺伝子を調製することが好ましい。例えば、PCR等の核酸増幅反応を利用してこのような調製を実施できる。
尚、ゲノムDNAを利用した場合には、RNAを利用する場合に生ずる諸問題が解消され、また組織切片などからでも所望の抗体遺伝子を調製できるという利点がある。尚、ゲノムDNAから目的とする抗体遺伝子を調製できる理由は、その細胞の中で発現している抗体遺伝子がDNA再編成を起こしているためである。
【0018】
このステップではH鎖遺伝子及び/又はL鎖遺伝子が調製される。ここでの用語「H鎖遺伝子」は、H鎖可変領域(VHDJH)のみをコードする遺伝子(H鎖可変領域遺伝子)、及びH鎖可変領域に加えて定常領域(一部であってもよい)をコードする遺伝子を包含する表現として用いられる(H鎖定常領域をコードする遺伝子のことをH鎖定常領域遺伝子と呼ぶ)。同様に、用語「L鎖遺伝子」は、L鎖可変領域(VLJL)のみをコードする遺伝子(L鎖可変領域遺伝子)、及びL鎖可変領域に加えて定常領域(一部であってもより)をコードする遺伝子を包含する表現として用いられる。
当該ステップの具体的一態様では、H鎖可変領域(VHDJH)遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子(VLJL)が調製される。この態様によれば、後述の「遺伝子発現ステップ」において、抗原との結合能を有するFv抗体分子やscFv抗体、Fab抗体、F(ab')2抗体、或は別途用意したH鎖定常領域遺伝子及びL鎖定常領域遺伝子を併用することによってIgGクラス、IgAクラス、IgDクラス、IgEクラスなどの抗体を得ることができる。
他の態様では、H鎖遺伝子としてH鎖可変領域遺伝子が、L鎖遺伝子としてL鎖可変領域に加えて定常領域をもコードする遺伝子が調製される。この態様によれば、後述の「抗体を発現するステップ」において、L鎖定常領域を別に用意することなく、L鎖定常領域を備えた抗体が作製される。ここで、L鎖にはκ鎖とλ鎖と呼ばれる二つのタイプが存在することを考慮すれば、別に用意したL鎖定常領域を組合わせてL鎖の再構築を行うこととすれば、場合によって可変領域と定常領域のタイプが一致せず、得られた抗体が期待される活性を有しない惧れがある。上記のように定常領域をもカバーするL鎖遺伝子を調製し、これを用いてL鎖の発現を行うこととすれば、このようなタイプの不一致の惧れはなくなる。
【0019】
このステップにおいてH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子が調製される場合には、両者が同時に、又は別々に調製される。後者の場合の具体例を以下に示す。まず、目的のH鎖遺伝子を増幅させるためのプライマーセット、及び目的のL鎖遺伝子を増幅させるためのプライマーセットの存在下で数サイクル〜数十サイクルのPCRを行った後、反応液をH鎖遺伝子用とL鎖遺伝子用に分取する。そして、H鎖遺伝子用反応液にはH鎖遺伝子増幅用のプライマーセットを追加した後、十分な増幅が得られるまでPCRを実施し、他方、L鎖遺伝子用反応液にはL鎖遺伝子増幅用プライマーセットを追加して同様にPCRを実施する。
【0020】
調製された抗体遺伝子をサブクローニングして増幅させてもよい。この場合、典型的には、調製された抗体遺伝子が適当なクローニングベクターに組込まれる。
【0021】
(遺伝子発現ステップ)
このステップでは、調製した抗体遺伝子が、発現ベクターを用いて発現される(ステップ(d))。まず、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で得られた抗体遺伝子が発現ベクターに挿入される(組込まれる)。発現ベクターは、抗体遺伝子の発現に適したものであればその構成は特に限定されない。例えばSV40 virus basedベクター、EB virus basedベクター、BPV(パピローマウイルス)basedベクター、pCMVベクターやこれらのベクターに改変を施して得られるものなどを使用することができる。ここでの「改変」は、発現効率を高めるためにプロモータ配列、エンハンサー配列などを変更、追加することや、選択マーカー遺伝子を追加することなどを含む。発現ベクターへの抗体遺伝子の挿入は、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照できる)により行うことができる。
【0022】
H鎖及びL鎖を同時に発現させる場合には、H鎖遺伝子及びL鎖遺伝子が同一の発現ベクター、又はそれぞれ別の発現ベクターに挿入される。後者の場合にはH鎖遺伝子発現用の発現ベクターとL鎖遺伝子発現用の発現ベクターとが併用されることとなり、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」において調製されたH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子がそれぞれ対応するベクターに挿入される。その後、これら二種類の組換えベクターを用いてH鎖及びL鎖が発現される。好ましくは、これら二つの組換えベクターで宿主を共形質転換し、同一細胞内でH鎖及びL鎖を発現させる。
【0023】
挿入される抗体遺伝子としてH鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が用いられる場合において、発現ベクターとしてリンカー配列を有するものを使用することができる。このリンカー配列は発現ベクター内において、挿入されたH鎖可変領域遺伝子とL鎖可変領域遺伝子を架橋する位置に配される。換言すれば、リンカー配列を挟むようにしてH鎖可変領域遺伝子挿入部位及びL鎖可変領域遺伝子挿入部位を備えるように発現ベクターが設計される。このような発現ベクターを用いて発現操作を行えば、H鎖可変領域とL鎖可変領域とがリンカーによって連結されたscFv抗体が得られる。
【0024】
発現ベクターに予め他の配列(H鎖の一部をコードする配列や、L鎖の一部をコードする配列)を挿入しておくことにより、当該他の配列がコードする領域と、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で得られた抗体遺伝子がコードする領域とが連結された抗体(H鎖、L鎖のみの場合を含む)を得ることができる。例えば、H鎖定常領域遺伝子と、当該遺伝子に隣接する挿入部位とを有する発現ベクターを用い、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で調製したH鎖可変領域遺伝子を挿入した後、適当な宿主内で発現させれば、可変領域と定常領域を備えたH鎖が得られる。尚、H鎖として適切に機能する発現産物が得られる限りにおいて、発現ベクター内のH鎖定常領域と挿入部位との間に介在配列が存在してもよい。
また、H鎖定常領域遺伝子と、当該遺伝子に隣接するH鎖可変領域遺伝子用挿入部位と、及びL鎖遺伝子用挿入部位とを有する発現ベクターを用い、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で調製したH鎖可変領域遺伝子及びL鎖遺伝子をそれぞれ挿入した後、適当な宿主内で発現させれば、可変領域と定常領域を備えたH鎖及びL鎖が得られる。
予め他の配列が挿入された発現ベクターを使用するのではなく、「抗体遺伝子調製ステップ」で調製された抗体遺伝子を発現ベクターに挿入する際に、他の配列を同時に発現ベクターに挿入することによっても、当該他の配列がコードする領域が連結された抗体を発現させることができる。尚、ここでの「同時に」とは、厳密な時間的な同時性が要求されることを意味するのではない。抗体遺伝子の挿入の後に他の配列の挿入が行われてもよく、勿論その逆であってもよい。
【0025】
以上における他の配列としては、目的に応じて適切なものが選択され、そして使用される。例えば、「抗体遺伝子調製ステップ」においてヒトH鎖可変領域遺伝子と、可変領域及び定常領域をカバーするヒトL鎖遺伝子とが調製される場合において、ヒトIgG1の定常領域遺伝子や、ヒトIgG4の定常領域遺伝子、或はヒトIgA1の定常領域遺伝子などを「他の配列」として採用することができる。勿論、「抗体遺伝子調製ステップ」において調製される抗体遺伝子と同種由来の抗体遺伝子に限らず、異種由来の抗体遺伝子を他の配列として使用することもできる。例えば、「抗体遺伝子調製ステップ」においてマウスの可変領域遺伝子を調製することとし、他の配列としてのヒト定常領域遺伝子を組合わせれば、キメラ型抗体を得ることができる。
【0026】
挿入される抗体遺伝子の種類、及び発現ベクターの構成によって、様々なタイプの抗体を発現させることが可能である。発現可能な抗体としては例えば、Fv抗体、scFv抗体、dsFv抗体、Fab抗体、F(ab')2抗体、IgGクラス、IgAクラス、IgDクラスを挙げることができる。尚、完全な定常領域を備えていない(即ち、一部の定常領域のみを備える)抗体を得ることも可能である。
ここで、「scFv抗体」とは、H鎖可変領域とL鎖可変領域とからなるFvを、片方の鎖のC末端と他方のN末端とを適当なペプチドリンカーで連結することにより一本鎖化した抗体断片である。ペプチドリンカーとしては例えば、柔軟性の高い(GGGGS)3などを用いることができる。一方、「dsFv抗体」とは、H鎖可変領域及びL鎖可変領域の適切な位置にCys残基を導入し、H鎖可変領域とL鎖可変領域とをジスルフィド結合により安定化させたFv断片である。各鎖におけるCys残基の導入位置は分子モデリングにより予測される立体構造に基づき決定することができる。
【0027】
抗体遺伝子が挿入されたベクター(組換えベクター)は適当な宿主の形質転換に利用される。宿主としては、組換えベクターで形質転換されることにより、導入された抗体遺伝子を発現可能な状態に保有できるものであれば特に限定されない。例えば、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)(A.Wright& S.L.Morrison, J.Immunol.160, 3393-3402 (1998))、SP2/0細胞(マウスミエローマ)(K.Motmans et al., Eur.J.Cancer Prev.5,512-519 (1996),R.P.Junghans et al.,Cancer Res.50,1495-1502 (1990))等の動物細胞や酵母等の真核細胞、或は大腸菌等の原核細胞を宿主として用いることができる。
組換えベクターによる宿主の形質転換には例えば、リポフェクチン法(R.W.Malone et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,6077 (1989), P.L.Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413 (1987)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(F.L.Graham & A.J.van der Eb,Virology 52,456-467(1973))、DEAE-Dextran法等が利用される。
【0028】
以上のようにして得られた形質転換体を、それが保有する抗体遺伝子が発現される条件で培養することにより、形質転換体の細胞内又は培養液中に目的の抗体を産生させることができる。抗体の回収は、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
尚、発現の際には融合タンパク質発現系を用いることができる。即ち、GST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)やMBP(マルトース結合タンパク質)等との融合タンパク質として目的の抗体が調製される発現系を用いてもよい。一方、得られた抗体に低分子化合物や標識物質などを結合させて修飾抗体とすることができる。標識物質としては、125I等の放射性物質、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチンなどを用いることができる。
【0029】
本発明の抗体作製方法は様々な抗体の作製に利用が図られるものである。例えば、検査用(診断用)抗体の作製や治療用抗体の作製に利用することができる。特定の疾患に関連して調製された抗体はそのまま診断薬として使用することができ、また中和活性を示せば治療薬として使用することも可能である。また、患者の体内で産生されている抗体をクローン化することにより診断用および治療用抗体が作製できるとともに、更に、多数クローン化することにより患者の体内で産生されている抗体の種類の全体像に関する情報が得られる。
細菌が分泌する毒素、ヘビ毒、食物に含まれる毒素、ウィルスなど人体に悪影響を及ぼすさまざまな外来物質が存在するが、これらに対して罹患した患者は回復期に必ず特異抗体を産生している。本発明の方法はこれら全ての例に応用可能である。例えば、C型肝炎ウイルス中和抗体等、特異的な性質を示す抗体をヒト血液からモノクローン化することに利用することができる。
【0030】
以上で説明した本発明の抗体作製方法では、その過程において抗体遺伝子が取得される。即ち、「標識化ステップ」、「細胞分離ステップ」、及び「抗体遺伝子調製ステップ」からなる一連の操作の結果として抗体遺伝子が取得される。本発明者らはこの点に注目して更なる検討を行った。その結果、これらの各ステップは、その本質を変えることなく若干の修正を加えることによって、抗体遺伝子の調製に止まらず様々な遺伝子の調製に応用が図られるとの知見に想到した。このような知見に基づき本発明の第2の局面は以下の構成を提供する。
[18] 以下のステップ(i)〜(iii)を含む、遺伝子調製方法:(i)細胞集団内の特定の性質を有する細胞を標識化するステップ;(ii)ステップ(i)によって得られる標識化細胞を分離するステップ;(iii)分離した標識化細胞を用いて、目的の遺伝子を調製するステップ。
[19] 前記ステップ(ii)において1個の標識化細胞が分離される、[18]に記載の遺伝子調製方法。
【0031】
本発明の第二の局面は例えば、ウイルス遺伝子の調製(単離)、自己抗体遺伝子の調製(単離)、癌遺伝子又は癌抑制遺伝子の調製(単離)、腫瘍細胞を攻撃するT細胞レセプター遺伝子の調製(単離)に利用することができる。T細胞レセプターに関しては、MHC+オリゴペプチドを4量体化して、それを認識できるT細胞レセプターを発現したT細胞を標識(同定)できることが報告されているが、本発明の第二の局面で開示される方法によって1細胞化することによればα、β遺伝子をクローン化可能である。この場合は、決まった MHC+オリゴペプチド(癌特異的)を認識するT細胞レセプター(α、β)遺伝子をクローン化すれば、これを利用して癌治療用の組成物等の構築や、或は癌治療方法の構築などが可能となる。
尚、以下で特に説明しない用語及び事項については上記の「抗体作製方法」におけるものと同様である。
【0032】
(ステップ(i))
ステップ(i)では、細胞集団内の特定の性質を有する細胞が標識化される。このステップ(i)は、上述の「標識化ステップ」に相当する。細胞集団源としては、動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、チンパンジー、ヒトなど)の特定の組織や器官(例えば、肝臓、膵臓、脾臓、皮膚、筋肉、脂肪、骨髄、末梢血など)を例示できる。
「特定の性質」とは、目的とする遺伝子に関連した性質のことをいう。典型的には、自己のゲノム以外の遺伝子を保有していることに起因する性質や、目的とする遺伝子が正常な状態から変異することによって生まれる性質のことをいう。「特定の性質を有する細胞」の具体例としては、ウイルスに感染した細胞、自己抗体産生細胞、ガン化した細胞、T細胞を挙げることができる。
【0033】
(ステップ(ii))
ステップ(ii)では、ステップ(i)によって得られる標識化細胞が分離される。このステップ(ii)は、上述の「細胞分離ステップ」に相当し同様の手順で実行される。
【0034】
(ステップ(iii))
ステップ(iii)では、分離した標識化細胞を用いて、目的の遺伝子が調製される。このステップ(iii)は、上述の「抗体遺伝子調製ステップ」に相当し同様の手順で実行される。
【0035】
以上の一連のステップにおいて調製された遺伝子は、それ自体の解析や、それを用いた検出方法や診断方法、その発現産物を利用した検出方法や診断方法、その情報を用いた診断薬や予防薬あるいは治療薬の開発等に利用され得る。そこで、本発明の第2の局面は、以下に示す各方法(20〜22)を含む。
[20] 以下の各ステップを含む、ウイルスの変異を解析する方法:
(1)細胞集団内のウイルス感染細胞を標識化するステップ;
(2)標識化ウイルス感染細胞を分離するステップ;
(3)分離した標識化ウイルス感染細胞からウィルス遺伝子を調製するステップ;及び
(4)得られたウイルス遺伝子を解析して、ウイルスの変異(抗原性の変動)を検出するステップ。
【0036】
ここでの「ウイルス」は、変異能を有するウイルスであって、且つその変異を解析することに価値が認められるものである。例えば、インフルエンザウイルス、HIVが解析対象となる。
ステップ(1)の標識化には例えば、ウイルスの核酸(DNA、RNA)に特異的な結合能を有する標識化核酸などが使用される。尚、好ましくはステップ(2)において1個の標識化ウイルス感染細胞が分離される。
以上の「ウイルスの変異を解析する方法」を応用すれば、例えばHIVに感染した人の体内で起こる抗原性の変動を完全にトレースすることによりユニバーサルに効果のあるワクチンをデザインすことができる。また、インフルエンザが毎年起こす抗原性の変動(antigen-drift)に対応して誘導される中和抗体の単離や、それを用いたエスケープミュータントの単離、ひいては次世代ワクチンの作製などへの応用を図ることもできる。
【0037】
[21]以下のステップを含む、自己抗体遺伝子の調製方法:
(1)細胞集団内の自己抗体産生細胞を標識化するステップ;
(2)標識化自己抗体産生細胞を分離するステップ;
(3)分離した自己抗体産生細胞から自己抗体遺伝子を調製するステップ。
以上の方法によって得られた自己抗体遺伝子は自己抗体の産生を抑えること等に利用することができる。具体的には例えば、得られた自己抗体遺伝子の配列情報を解析し、得られた情報を基に当該遺伝子の発現(又はそれがコードする抗体の活性)を抑制する方法を構築したり、或は自己抗体の検出方法を構築したりすることができる。即ち、各種自己免疫疾患に対する治療法や診断法の開発が可能となる。
尚、好ましくはステップ(2)において1個の標識化自己抗体産生細胞が分離される。
【0038】
[22]以下のステップを含む、癌の原因遺伝子の調製方法:
(1)癌化リンパ系白血球を含む細胞集団を調製するステップ;
(2)前記細胞集団から癌化リンパ系白血球を分離するステップ;
(3)分離した癌化リンパ系白血球から癌化に関連する遺伝子を調製するステップ。
以上の方法によって得られた遺伝子と、対応する正常の遺伝子とを比較すれば(同一性の検出)、リンパ系白血球の癌化状態を検出、解析することが可能となる。即ち、リンパ系白血球の超初期診断法(腫瘍細胞が示すclonalityを利用)の開発に応用できる。 尚、好ましくはステップ(2)において1個の癌化リンパ系白血球が分離される。
【0039】
【実施例】
<実施例1> 抗原としてリゾチームを用いた標識化試験
精製抗原(リゾチーム)を免疫したマウスから脾臓を取り出し、つぶしてメッシュに通し細胞をばらばらにした後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで洗浄した。これをリゾチーム感作プレート(リゾチームをPBSに溶解して25μg/mlにした溶液をマイクロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加して一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、ゆっくり丁寧に1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで2回洗浄後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでピペッティングして結合した細胞を回収した。このうち、2.6×105の細胞にAlexa488 protein labeling kit (Molecular probes社製)を用いて標識したAlexa488標識リゾチーム0.4μgと、最終濃度500倍希釈のAlexa546標識抗マウスIgG抗体(Molecular probes社製)を反応させると、Alexa546標識抗マウスIgG抗体(赤色蛍光)で染色された細胞のうち99%がAlexa488標識リゾチーム(緑色蛍光)でも染色された(図1)。
【0040】
<実施例2> 抗原としてGFPを用いた標識化試験
GFPを免疫したマウスから、脾臓を取り出し、つぶしてメッシュに通し細胞をばらばらにした後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで洗浄した。これをGFP感作プレート(GFPをPBSに溶解して25μg/mlにした溶液をマイクロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加して一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、ゆっくり丁寧に1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで2回洗浄後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでピペッティングして結合した細胞を回収した。このうち、8.4×104個の細胞に対し、GFP 3.7μgと、最終濃度500倍希釈のAlexa546標識抗マウスIgG抗体(Molecular probes社製)を反応させると、Alexa546標識抗マウスIgG抗体(赤色蛍光)で染色された細胞のうち92.6%がGFP(緑色蛍光)でも染色された(図2)。
【0041】
<実施例3> 抗原として融合タンパク質を用いた標識化試験
抗原を作製する際、融合タンパク質にしないと発現量が少なかったり、不溶化してしまう場合が少なくない。このような融合タンパク質としてしか大量に得られない抗原を用いた場合において、目的の抗体産生細胞に目印をつけるため、タグタンパク質部分のみ(MBP)を精製してAlexa546 protein labeling kit(Molecular probes社製)を用いて赤色に標識し、融合タンパク質(MBP-VHH)をAlexa488 protein labeling kit(Molecular probes社製)を用いて緑色に標識した。精製抗原(MBP-VHH)を免疫したマウスから、脾臓を取り出し、つぶしてメッシュに通し細胞をばらばらにした後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで洗浄した。これをMBP-VHH感作プレート(MBP-VHHをPBSに溶解して20μg/mlにした溶液をマイクロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加して一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、ゆっくり丁寧に1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで2回洗浄後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでピペッティングして結合した細胞を回収した。このうち、7.0×104個の細胞に対し、Alexa488標識MBP-VHH 1.2μgと、Alexa546標識MBP 1.2μgを反応させた。予想では、図3に示すように、目的タンパク質(VHH)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)で染色され(図3左下)、タグタンパク質(MBP)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)及びAlexa546(赤色蛍光)で染色されると考えられる(図3右下)。実際の結果を図4に示す。タグタンパク質であるMBPに対する抗体を発現していると考えられる下の細胞では、緑と赤の両方で染色され、目的のVHHに対する抗体を発現していると考えられる上の細胞では、緑のみで染色された。MBPに対する抗体を発現していると考えられる細胞で緑の蛍光が弱いのは、赤い標識をしたMBPと反応が競合するからと考えられる。以上の結果から、融合タンパク質でしか大量に得られない抗原に対しても、目的のタンパク質に対する抗体を発現している細胞を区別できることが示された。
【0042】
<実施例4> 標識化細胞の分離
標識抗原で目印(標識)をつけた細胞(抗リゾチーム抗体産生細胞)をマニピュレーションにより、1細胞化した。その細胞を20μlのPCR バッファーに懸濁しておき、以下の組成の反応液を30μl添加した。
10×PCRバッファー(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 3μl
10mM dNTP: 1μl
プライマーmVH mix(200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJH mix(200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmVκmix(200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJκmix(200pmol/μl): 0.5μl
Q-solution(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 10μl
蒸留水: 13μl
HotStarTaq DNA polymarase : 1μl
合計 30μl
【0043】
(プライマーmVH mix:以下の17種類の等量混合物。尚、(a/g)、(g/t)は2塩基ミックスを表す。)
名前:5' → 3'
mVH1A:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg a(g/t)g tgc agc ttc agg
agt cag g(52mer)(配列番号9、配列番号10)
mVH1B1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tgc agc tga agg agt cag g (52mer)(配列番号11)
mVH1B2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tgc agc tga agc agt cag g (52mer)(配列番号12)
mVH2A1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tcc agc tgc a(a/g)c a(a/g)t ctg g (52mer) (配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16)
mVH2A2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg ttc agc tgc agc agt ctg g (52mer)(配列番号17)
mVH2B1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tcc aac tgc agc agc ctg g (52mer)(配列番号18)
mVH2B2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tcc acc tgc agc agt ctg g (52mer)(配列番号19)
mVH3A:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tga agc tgg tgg a(a/g)t ctg g (52mer)(配列番号20、配列番号21)
mVH3B:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tga agc ttc tgg agt
ctg g (52mer)(配列番号22)
mVH3C1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga agc ttg agg agt ctg g (52mer)(配列番号23)
mVH3C2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tga agc tgg atg aga ctg g (52mer)(配列番号24)
mVH3C3:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga agc tgg tgg agt ctg a (52mer)(配列番号25)
mVH3D1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tgc agc tgg tgg agt ctg g (52mer)(配列番号26)
mVH3D2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga tgc tgg tgg agt ctg g (52mer)(配列番号27)
mVH3D3:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga agc tgg tgg agt ctg g (52mer)(配列番号28)
mVH5A1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg ttc agc ttc agc agt ctg g (52mer)(配列番号29)
mVH5A2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tcc agc tgc agc agt ctg g (52mer)(配列番号30)
【0044】
(プライマーmJH mix:以下の4種類の等量混合物)
名前:5' → 3'
mJH1Xho:cgt ttt ggc gct cga gac ggt gac cgt ggt ccc tgc g (37mer)(配列番号31)
mJH2Xho:cgt ttt ggc gct cga gac tgt gag agt ggt gcc ttg g (37mer)(配列番号32)
mJH3Xho:cgt ttt ggc gct cga gac agt gac cag agt ccc ttg g (37mer)(配列番号33)
mJH4Xho:cgt ttt ggc gct cga gac ggt gac tga ggt tcc ttg a (37mer)(配列番号34)
【0045】
(プライマーmVκmix:以下の21種類の等量混合物。尚、(g/t)、(c/g)、(a/c)は2塩基ミックスを表す。)
名前:5' → 3'
mVK1A:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg atg aca cag tct cc (41mer)(配列番号35)
mVK1B:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg atg tca cag tct cc (41mer)(配列番号36)
mVK2A:gcc cag cca gcc atg gcc gat gtt gtg atg acc caa act cc (41mer)(配列番号37)
mVK2B:gcc cag cca gcc atg gcc gat gtt ttg atg acc caa act cc (41mer)(配列番号38)
mVK2C:gcc cag cca gcc atg gcc gat att gtg atg ac(g/t) cag gct gc (41mer)(配列番号39、配列番号40)
mVK2D:gcc cag cca gcc atg gcc gat att gtg ata acc cag gat ga (41mer)(配列番号41)
mVK3A:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg ctg acc caa tct cc (41mer)(配列番号42)
mVK3B:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg ctg aca cag tct cc (41mer)(配列番号43)
mVK3C:gcc cag cca gcc atg gcc aaa att gtg ctg acc caa tct cc (41mer) (配列番号44)
mVK4A:gcc cag cca gcc atg gcc gaa aat gtg ct(c/g) acc cag tct cc (41mer)(配列番号45、配列番号46)
mVK4B:gcc cag cca gcc atg gcc gaa att gtg ctc acc cag tct cc (41mer)(配列番号47)
mVK4C:gcc cag cca gcc atg gcc caa att gtt ctc acc cag tct cc (41mer) (配列番号48)
mVK5A:gcc cag cca gcc atg gcc gat atc cag atg aca cag act ac (41mer)(配列番号49)
mVK5B:gcc cag cca gcc atg gcc gac atc cag atg ac(a/c) cag tct cc (41mer)(配列番号50、配列番号51)
mVK5C:gcc cag cca gcc atg gcc gac atc aag atg acc cag tct cc (41mer)(配列番号52)
mVK5D:gcc cag cca gcc atg gcc gac att cag atg acc cag tct cc (41mer)(配列番号53)
mVK5E:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg atg acc cag tct ca (41mer)(配列番号54)
mVK5F:gcc cag cca gcc atg gcc agt att gtg atg acc cag act cc (41mer)(配列番号55)
mVK5G:gcc cag cca gcc atg gcc gac atc ttg ctg act cag tct cc (41mer)(配列番号56)
mVK5H:gcc cag cca gcc atg gcc aac att gta atg acc caa tct cc (41mer)(配列番号57)
mVK6A:gcc cag cca gcc atg gcc caa att gtt ctc tcc cag tct cc (41mer)(配列番号58)
【0046】
(プライマーmJκmix:以下の4種類の等量混合物)
名前:5' → 3'
mJK1Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTG ATT TCC AGC TTG GT (41mer)(配列番号59)
mJK2Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTT ATT TCC AGC TTG GT (41mer)(配列番号60)
mJK4Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTT ATT TCC AAC TTT GT (41mer)(配列番号61)
mJK5Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTC AGC TCC AGC TTG GT (41mer)(配列番号62)
【0047】
次に、ミネラルオイルを一滴のせ、95℃で10分加熱後、94℃30秒、60℃30秒、72℃1分のPCR反応を50サイクル行った。しかし、目的の遺伝子は増幅されなかった。そこで、上記の反応を10サイクル行った後、1μlずつ分取し、片方にH鎖増幅用反応液49μlを添加し、他方にはκ鎖増幅用反応液49μlを添加した後、それぞれをさらに48サイクルのPCR反応に供した。
(H鎖増幅用反応液)
10×PCRバッファー(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 5μl
10mM dNTP: 1μl
プライマーmVH mix (200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJH mix (200pmol/μl): 0.5μl
Q-solution(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 10μl
蒸留水: 32μl
HotStarTaq DNA polymarase: 1μl
合計 50μl
【0048】
(κ鎖増幅用反応液)
10×PCRバッファー(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 5μl
10mM dNTP: 1μl
プライマーmVκmix (200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJκmix (200pmol/μl): 0.5μl
Q-solution(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 10μl
蒸留水: 32μl
HotStarTaq DNA polymarase: 1μl
合計 50μl
【0049】
PCR反応の結果、H鎖、κ鎖ともに遺伝子の増幅が観察された(図5)。
【0050】
<実施例5> 発現ベクターpSCCA4-E8dの構築
以下の手順で発現ベクターを構築した(図6を参照)。scNcopFCAH9-E8VHdVLdベクター(WO 01/96401を参照。当該ベクターの塩基配列(配列番号7)を図7、図8に示す) 1μg(1μl)、Revプライマー(100pmol/ml)1μl、SfiRプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水60μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造) 1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で2分保温後、94℃1分、58℃2分、72℃1分の反応を16サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して10μlに濃縮した(A断片)。同様にして、scNcopFCAH9-E8VHdVLd 1μg(1μl)、SfiFプライマー(100pmol/ml)1μl、BstRプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水60μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造)1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で2分保温後、94℃1分、58℃2分、72℃1分の反応を16サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して10μlに濃縮した(B断片)。さらに、scNcopFCAH9-E8VHdVLd 1μg(1μl)、BstFプライマー(100pmol/ml)1μl、cp3Rプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水60μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造)1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で2分保温後、94℃1分、58℃2分、72℃1分の反応を16サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して10μlに濃縮した(C断片)。A断片 5μl、B断片 5μl、Revプライマー(100pmol/ml)1μl、BstRプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水51μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造) 1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で1分保温後、94℃1分、58℃4分、72℃2分の反応を17サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して20μlに濃縮した(D断片)。C断片 5μl、D断片 5μl、Revプライマー(100pmol/ml)1μl、cp3Rプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水51μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造) 1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で1分保温後、94℃1分、58℃4分、72℃2分の反応を17サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して20μlに濃縮した。このうち、7μl、10×Mバッファー10μl、滅菌蒸留水78μl、HindIII(10U/μl 宝酒造)5μlを混合して37℃で2時間反応させた。これに、5M NaCl 1μl、BstPI(5U/μl 宝酒造)5μlを添加し、さらに37℃で2時間反応させた。これをアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して15μlに濃縮した(インサート断片)。同様にして、scNcopFCAH9-E8VHdVLd 1μg(1μl)、10×Mバッファー 10μl、滅菌蒸留水86μl、HindIII(10 U/μl 宝酒造)3μlを混合して37℃で2時間反応させた。これに、5M NaCl 1μl、BstPI(5 U/μl 宝酒造)3μlを添加し、さらに37℃で2時間反応させた。これをアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して15μlに濃縮した(ベクター断片)。インサート断片2μl、ベクター断片1μl、10×ligation buffer 1.5μl、10mM ATP 1.5μl、DW 8μl、T4 DNA ligase (350 units /μl 宝酒造)1μlを加えて混合し、16℃で3時間インキュベートした。エタノール沈殿して、滅菌蒸留水で10倍希釈したTE 3μlに溶解し、その半分を用いてDH12Sを形質転換した。得られた形質転換体24個ずつからプラスミドを抽出し、アガロースゲル電気泳動を行って、インサートの入っているクローンについて、塩基配列を確認した。予想通りの置換の入っているクローンを選択し、pSCCA4-E8d(塩基配列(配列番号8)を図9、図10に示す)とした。
【0051】
以上において使用される各プライマーは次の通りである。
Revプライマー:5'-AGGAAACAGCTATGACCATG-3'(20mer)(配列番号1)
SfiRプライマー:5'-CGGCTGGGCCGCGAGTAA-3'(18mer)(配列番号2)
SfiFプライマー:5'-TTACTCGCGGCCCAGCCGGCCCCTGACATCTGAGGACACT-3'(40mer)(配列番号3)
BstFプライマー:5'-GGTCACCGTCTCGAGCGGCGGTGG-3'(24mer)(配列番号4)
BstRプライマー:5'-CCACCGCCGCTCGAGACGGTGACC-3'(24mer)(配列番号5)
cp3Rプライマー:5'-GCCAGCATTGACAGGAGGTTG-3'(21mer)(配列番号6)
【0052】
<実施例6> L鎖遺伝子の調製
実施例4で得られたPCR産物のうち、まずL鎖の方をフェノールークロロホルム処理し、エタノール沈殿して乾燥させた後、蒸留水84μl、10×NEB4バッファー(NEB社製AscIに付属)10μl、制限酵素NcoI(10units/μl、宝酒造社製)3μlと制限酵素AscI(10units/μl、NEB社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、L鎖遺伝子をゲルから切り出して精製した。切り出し後の精製にはキアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出したL鎖遺伝子NcoI-AscI 断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。同様にして、ベクターDNA pSCCA4-E8d(図6、図9及び図10を参照)2μg(2μl)、蒸留水82μl、10×NEB4バッファー(NEB社製AscIに付属)10μl、制限酵素NcoI(10 units/μl、宝酒造社製)3μlと制限酵素AscI(10 units/μl、NEB社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、ベクターDNA pSCCA4-E8d NcoI-AscI断片をゲルから切り出して精製した。切り出し後の精製にはキアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出したベクターDNA pSCCA4-E8d NcoI-AscI断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。L鎖遺伝子NcoI-AscI断片1μlを蒸留水10.5μlに溶解し、ベクターDNA pSCCA4-E8d NcoI-AscI断片1μl、10×T4 DNA ligase バッファー1.5μl、T4 DNA ligase 1μlを添加してligase反応を16℃で2時間行った。これをエタノール沈殿して乾燥し、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー3μlに懸濁した。このうち1.5μlをエレクトロマックスDH12S(大腸菌)20μlに添加し、エレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後の大腸菌を2×TY培地1mlに入れ、37度で時間培養した。このうち、100μlをLBGAプレートにまき、30℃で1晩培養した。得られたコロニーからKURABO社製プラスミド抽出機PI-50を用いてプラスミドを調製し、ベックマンコールター社製DNAシーケンサーCEQ2000XLを用いてL鎖遺伝子の塩基配列を解析した。欠失などがない正しい遺伝子を持つクローンを選択した。
【0053】
<実施例7> H鎖遺伝子の調製
次に、実施例6で選択したクローンに、切り出したH鎖遺伝子を組み込んだ。H鎖PCR産物をフェノールークロロホルム処理し、エタノール沈殿して乾燥させた後、蒸留水77.5μl、10×NEB2バッファー(NEB社製SfiIに付属)10μl、10×BSA(NEB社製SfiIに付属)10μl、制限酵素SfiI(8 units/μl、NEB社製)2.5μlを添加し、50℃で2時間反応させた。続いて、制限酵素XhoI(8 units/μl、宝酒造社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、H鎖遺伝子をゲルから切り出して精製した。切り出し及び精製には、キアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出したH鎖遺伝子SfiI-XhoI断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。同様にして、実施例6で選択したクローン2μg(5μl)をフェノールークロロホルム処理し、エタノール沈殿して乾燥させた後、蒸留水77.5μl、10×NEB2バッファー(NEB社製SfiIに付属)10μl、10×BSA(NEB社製SfiIに付属)10μl、制限酵素SfiI (8 units/μl、NEB社製)2.5μlを添加し、50℃で2時間反応させた。続いて、制限酵素XhoI(8 units/μl、宝酒造社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、実施例6で選択したクローンのSfiI-XhoI断片をゲルから切り出して精製した。切り出し及び精製には、キアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出した実施例6で選択したクローンのSfiI-XhoI断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。H鎖遺伝子SfiI-XhoI断片1μlを蒸留水10.5μlに溶解し、実施例6で選択したクローンのSfiI-XhoI 断片1μl、10×T4 DNA ligase バッファー1.5μl、T4 DNA ligase 1μlを添加してligase反応を16℃で2時間行った。これをエタノール沈殿して乾燥し、10倍希釈したTEバッファー3μlに懸濁した。このうち1.5μlをエレクトロマックスDH12S(大腸菌)20μlに添加し、エレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後の大腸菌を2×TY培地1mlに入れ、37℃で時間培養した。このうち100μlをLBGAプレートにまき、30℃で1晩培養した。得られたコロニーからKURABO社製プラスミド抽出機PI-50を用いてプラスミドを調製し、ベックマンコールター社製DNAシーケンサーCEQ2000XLを用いてH鎖遺伝子の塩基配列を解析した。欠失などがない正しい遺伝子を持つクローンを選択した。
【0054】
<実施例8> 抗体の発現
実施例7で選択したクローンを、まずTYGA培地3ml一晩培養した。この培養液30μlを0.1%グルコースと100μg/mlアンピシリンを含む2×TY培地で2時間30分培養し、0.1M IPTG(生化学用 和光純薬社製)を添加して、抗体の発現を誘導した。一晩培養した培養上清100μlをリゾチーム感作プレート(リゾチームをPBSに溶解して25μg/mlにした溶液をマイク
ロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加し、一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20-PBSで4回洗浄した。洗浄後のプレートに抗cp3抗体(MBL社製)2.5μg/mlを100μl添加し、37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20-PBSで4回洗浄した。洗浄後のプレートに、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(H+L)抗体(5000倍希釈、MBL社製)を100μl添加し、37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20-PBSで4回洗浄した。洗浄後のプレートにオルトフェニレンジアミンと過酸化水素の溶液100μlを加えて暫時反応させた後、2N硫酸100μlを加えて反応を停止し、波長492nmにおける吸光度を測定した。その結果、図11に示すように、抗原との反応性を確認できた(Lyso2-13HL-13x10、Lyso2-13HL-13x1が陰性コントロール)。以上の結果から、1細胞から得られた抗体遺伝子を用いて、抗原と反応する抗体を作製できることが示された。
【0055】
<実施例9> ヒト抗体産生細胞の標識化
ヒト抗体産生細胞についても同様に標識抗原などで目印(標識)をつけることができるかどうか調べた。まず、インフルエンザワクチン(2000年)をAlexa488 labeling kit(Molecular probe社製)で標識した。この標識インフルエンザワクチンとPE標識抗ヒトIgG抗体をヒト末梢血(5mM EDTA)と反応させた。健常人から得た末梢血では、染色される細胞は見つからなかったが、1ヶ月前にインフルエンザに罹患した被験者から得た末梢血では図12に示すように染色が認められた。この結果から、ヒト抗体産生細胞もマウスと同じように標識抗原で目印をつけられることが確認された。尚、この目印をつけた細胞を1個分離し、上記の実施例と同様にして抗体遺伝子の調製、及び発現を行えばインフルエンザウィルスと結合する抗体の取得が可能であり、更にはインフルエンザウィルスを中和する抗体が得られると考えられる。
【0056】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0057】
【発明の効果】
従来のモノクローン単離技術は、動物を抗原で免疫した後、脾臓を摘出し、Bリンパ球を集団のまま扱って癌細胞との融合により不死化する。ファージディスプレー系を使って抗体ライブラリーを作製する場合には、H鎖およびL鎖それぞれ集団のままライブラリー化した後、組み合わせて巨大抗体ライブラリーを作製する。両方法とも集団の中から目的とする抗体を産生するクローンが選び出される。本発明が提供する抗体作製方法では、対象とする抗原に結合する抗体を産生する細胞を、抗原抗体反応を利用して分離した後、その中から目的とする抗体遺伝子を取得し、発現させることによって目的の抗体が調製される。このような一連のステップを含む本発明の方法は、以下の様々な点で従来法より優れる。まず、本発明の方法は様々な動物の抗体を対象にすることができるという利点を有する。従来の細胞融合を伴う方法(細胞融合法)では主としてマウスやラットが使用され、ヒトを含め他の動物を対象に実施する場合には多くの困難を伴う。一方、様々な動物種の血液中に存在する抗体をモノクローン化できるという点では、ファージディスプレイ系を用いた抗体ライブラリー作製(ライブラリー法)と本発明の方法は同等であるが、効率の面で本発明の方が格段に優れる。ファージディスプレイ系の場合において目的の抗体を確実にモノクローン化しようとすれば必然的に巨大なライブラリーの作製を伴い、実施スケールが大規模ならざるを得ないからである。これに対して本発明の方法では目的の抗体産生細胞のみを対象とすればよいので、そのスケールは小さくてよい。このことは、抗体の調製に要する期間を短くできるという効果をも生ずることとなる。
一方、生体内では抗体の成熟によって優れた性能の抗体が産生されているが、その抗体そのもののクローン化という点では細胞融合法と同様の優位性を本発明は備える。この点においてはファージディスプレイ法は非効率的である。また、本発明の方法は、得られる抗体の種類が生体内に存在する抗体の種類を充分にカバーできるという点において、これまでに知られている方法よりも優れている。
【0058】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、リゾチームを免疫したマウスの脾臓細胞を蛍光染色した結果を示す図である。左欄はAlexa488標識リゾチームによる染色像であり、右欄はAlexa546標識抗マウスIgG抗体による染色像である。
【図2】 図2は、GFPを免疫したマウスの脾臓細胞を蛍光染色した結果を示す図である。左欄はGFPによる染色像であり、右欄はAlexa546標識抗マウスIgG抗体による染色像である。
【図3】 図3は、融合タンパク質を抗原とした場合に予想される蛍光染色像である。目的タンパク質(VHH)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)で染色され(図3左下)、タグタンパク質(MBP)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)及びAlexa546(赤色蛍光)で染色されると考えられる(図3右下)。
【図4】 図4は、融合タンパク質(MBP-VHH)を免疫したマウスの脾臓細胞を実際に蛍光染色した結果を示す図である。左欄はAlexa488標識MBP-VHHによる染色像であり、右欄はAlexa546標識MBPによる染色像である。
【図5】 図5は、実施例4におけるPCR産物をアガロースゲル電気泳動した結果を示す図である。各レーンのサンプルは次の通りである。
λH ; DNAサイズマーカー
1; A細胞 50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル)
2; A細胞 10サイクル後1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
3; A細胞 10サイクル後1μlをL鎖増幅用反応液で48サイクル
4; B細胞 50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル)
5; B細胞 10サイクル後1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
6; B細胞 10サイクル後1μlをL鎖増幅用反応液で48サイクル
7; C細胞 50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル)
8; C細胞 10サイクル後1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
9; C細胞 10サイクル後1μlをL鎖増幅用反応液で48サイクル
10; D細胞 H鎖増幅用反応液で50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル) 11; D細胞 H鎖増幅用反応液で10サイクル後 1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
【図6】 図6は、ベクターpSCCA4-E8dの構築手順を示すフローチャートである。
【図7】 図7は、ベクターscNcopFCAH9-E8VHdVLdの構成(一部の配列)を示す図である。
【図8】 図8は、ベクターscNcopFCAH9-E8VHdVLdの構成(図7に示す配列の続き)を示す図である。
【図9】 図9は、ベクターpSCCA4-E8dの構成(一部の配列)を示す図である。
【図10】 図10は、ベクターpSCCA4-E8dの構成(図9に示す配列の続き)を示す図である。
【図11】 図11は、実施例8における発色試験の結果を示すグラフである。各サンプルにおける吸光度(波長492)が表される。PBSはネガティブコントロールである。
【図12】 図12は、ヒト抗体産生細胞を蛍光染色した結果を示す図である。左欄は、Alexa488標識インフルエンザワクチンによる染色像であり、右欄はPE標識抗ヒトIgG抗体による染色像である。
【産業上の利用分野】
本発明は抗体作製方法に関する。詳しくは、遺伝子工学的手法を利用した抗体作製方法、及びその応用に関する。
【0002】
【従来の技術】
抗体関連産業は従来、細胞融合によるモノクローナル抗体作製技術を基盤として発展してきた。抗体は研究用試薬、診断用試薬、各種物質モニター用試薬として多数開発販売されており、更には治療用抗体の開発、生産が進められている。近年、ファージディスプレイ系を用いた抗体ライブラリー作製技術が開発され、とりわけヒト抗体単離に大きな力を発揮している。本発明者及び共同研究者らは、基盤技術としてファージディスプレイ系を駆使し、今までに臨床に役立つ各種感染症に対するヒト抗体単離を実施した。その結果、インフルエンザウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスに対して非常に強い中和活性を示すヒト抗体をそれぞれ数種類作製することに成功している(第24回日本分子生物学会年会で発表「抗体ライブラリーからのヒト型抗インフルエンザウィルス中和抗体の単離」、第50回日本ウィルス学会で発表「ヒト抗体ライブラリーからの水痘帯状疱疹ウィルス中和抗体の単離」)。また、ポストゲノム時代のタンパク質機能解析試薬として抗体の網羅的体系的単離調製を実施してきた(第25回日本分子生物学会年会で発表「C.elegans由来のタンパク質に対する抗体を用いた発現パターン解析」、「C.elegans由来のタンパク質に対するモノクローナル抗体の単離」)。この一連の研究を通して、ヒトを含めた動物体内に存在する抗体をコードする遺伝子を確実にクローン化できるようになり、大腸菌産生系で作られる抗体と動物体内で作られる抗体との間で抗原結合性に関して完全に同一であることが示された(第25回日本分子生物学会年会で発表「C.elegans由来のタンパク質に対する抗体を用いた発現パターン解析」、「C.elegans由来のタンパク質に対するモノクローナル抗体の単離」)。
【0003】
ファージディスプレイ技術は様々な長所を持つ一方で、その効率の低さが問題とされている。生体内では重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)が組となって存在しており、これをファージディスプレイ系で再現するためには、まずH鎖、L鎖それぞれを集団としてライブラリー化した後、各ライブラリーを組み合わせて巨大な抗体ライブラリーを作製せざるを得ない。従って、例えば1万種の抗体をカバーするためには1万×1万=1億個もの巨大な抗体ライブラリーの作製が必要となる。このように作製されたライブラリーは目的とする抗体を含むものの、本来存在しないH鎖とL鎖の組合わせからなる抗体が大部分を占めることから、目的の抗体の選択には選択方法の工夫や、かなりの技術的な習熟が必要となる。特に、得られたクローンが、動物が本来作っていた抗体と同じ組み合わせ(HとL)であるという保証はない。
【0004】
一方、古典的な細胞融合を利用したモノクローナル抗体の作製方法では、まず第1にモノクローナル抗体産生細胞の単離までに多大な労力及び費用を要することが問題となる。また、抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させ、かつ得られたハイブリドーマをモノクローン化することができる確率は低く、最終的に得られるハイブリドーマの種類は極めて少ない。従って、目的の抗体産生細胞を取得することは極めて困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の背景の下なされたものであって、短期間で且つ効率的にモノクローナル抗体を調製することが可能であって、しかも汎用性の高い抗体作製方法を提供することを主たる目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上の目的を達成するために鋭意検討し、以下の各構成に想到した。
[1] 以下のステップ(a)〜(d)を含む、抗体作製方法:
(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;
(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;
(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ;及び
(d)調製した抗体遺伝子を、発現ベクターを用いて発現させるステップ。
[2] 前記ステップ(b)において1個の標識化ターゲット細胞が分離される、[1]に記載の抗体作製方法。
[3] 前記ステップ(b)が、マニピュレーション、限外希釈法、又はフローサイトメトリーによって実行される、[1]又は[2]に記載の抗体作製方法。
[4] 前記ステップ(c)が、前記標識化ターゲット細胞のゲノムDNAを鋳型として用いた核酸増幅反応によって実行される、[1]〜[3]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[5] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子が調製される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[6] 前記ステップ(c)において、L鎖可変領域遺伝子が調製される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[7] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が調製される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[8] 前記発現ベクターがリンカー配列を有し、
前記ステップ(d)において、前記リンカー配列を介して連結されるように前記H鎖可変領域遺伝子及び前記L鎖可変領域遺伝子が前記発現ベクターに挿入される、[7]に記載の抗体作製方法。
[9] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が調製され、
前記発現ベクターが、H鎖定常領域をコードする第1配列と、及びL鎖定常領域をコードする第2配列とを有し、
前記ステップ(d)において、前記H鎖可変領域遺伝子が前記第1配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入され、且つ前記L鎖可変領域遺伝子が前記第2配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[10] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子と、並びにL鎖可変領域及びL鎖定常領域をコードするL鎖遺伝子とが調製され、
前記発現ベクターが、H鎖定常領域ををコードする配列を有し、
前記ステップ(d)において、前記H鎖可変領域遺伝子が前記配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入され、且つ前記L鎖遺伝子が前記ベクターに挿入される、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[11] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域鎖遺伝子が調製され、
前記ステップ(d)が以下のステップを含む、ことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法:
前記H鎖可変領域遺伝子を、H鎖定常領域遺伝子を有する第1発現ベクターに挿入し、H鎖可変領域とH鎖定常領域とが接続されたH鎖を発現させるステップ;及び
前記L鎖可変領域遺伝子を、L鎖定常領域遺伝子を有する第2発現ベクターに挿入し、L鎖可変領域とL鎖定常領域とが接続されたL鎖を発現させるステップ。
[12] 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子と、並びにL鎖可変領域及びL鎖定常領域をコードするL鎖遺伝子とが調製され、
前記ステップ(d)が以下のステップを含む、ことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体作製方法:
前記H鎖可変領域遺伝子を、H鎖定常領域遺伝子を有する第1発現ベクターに挿入し、H鎖可変領域とH鎖定常領域とが接続されたH鎖を発現させるステップ;及び
前記L鎖遺伝子を第2発現ベクターに挿入し、L鎖可変領域とL鎖定常領域とが接続されたL鎖を発現させるステップ。
[13] 前記ステップ(d)においてIgGクラスの抗体が構築される、[9]〜[12]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[14] 前記ターゲット細胞がヒト細胞である、[1]〜[13]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[15] 前記標識化抗原が、蛍光物質、ビオチン、又はマグネットビーズで標識された抗原である、[1]〜[14]のいずれかに記載の抗体作製方法。
[16] [1]〜[15]のいずれかの抗体作製方法によって得られた抗体。
[17] 以下のステップ(a)〜(c)を含む、抗体遺伝子調製方法:
(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;
(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;及び
(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ。
【0007】
本発明の抗体作製方法では細胞融合や抗体ライブラリーからのスクリーニングを伴わないことから、目的の抗体を効率的に作製することができる。また、各ステップに要する時間は短く、短期間で目的の抗体を取得することが可能である。更には、様々な種(例えばマウス、ラット、ウサギ、ヒトなど)を起源とする抗体を作製することができ、その汎用性は高い。特に従来の方法によってはモノクローナル抗体の作製が困難であった動物を起源とする抗体を作製することも可能である点においてその利用価値が極めて高い。
以下、本発明を構成する各ステップについて説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
(標識化ステップ)
本発明の抗体作製方法は第1のステップとして、目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ(ステップ(a))が実行される。このステップによって、目的の抗体(本明細書において「ターゲット抗体」ともいう)を産生する細胞(本明細書において「ターゲット細胞」ともいう)が標識化されることとなる。
本発明において対象となる抗体(ターゲット抗体)の由来は特に限定されない。例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、チンパンジー、ヒトなど、様々な種由来の抗体が対象とされる。
【0009】
「目的の抗体が認識する抗原」とは、ターゲット抗体が特異的に認識する分子のことをいう。 尚、以下の説明において特に記載のない場合には、「抗原」とは目的の抗体が認識する抗原のことを意味する。本発明では様々な種類の抗原を採用することができる。抗原は、典型的にはペプチドないしタンパク質であるが、抗原としての機能を備える限り、様々な修飾を施したものであってもよい。例えば、抗原としての機能部分に加えて他のペプチドないしタンパク質部分を有する、いわゆる融合タンパク質を本発明における抗原として使用することができる。また、糖鎖や脂肪鎖等を付加したものを抗原として使用してもよい。
【0010】
「ターゲット細胞を含む細胞集団」は、ターゲット細胞を含んでいると期待される動物組織、器官等から調製される。例えば、抗原(ターゲット抗体が認識する抗原)によって免疫された動物において抗体産生細胞が存在する組織又は器官からこのような細胞集団を調製することができる。抗体産生細胞が存在する組織等の具体例としては、脾臓、骨髄、末梢血、さい帯血、扁桃を挙げることができる。細胞集団の供給源となる動物としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、チンパンジー、ヒトを例示できるがこれらに限定されるものではなく、ターゲット抗体に応じて適切なものが選択される。尚、免疫操作は必須でない。即ち、ターゲット細胞を産生ないし保有している動物を入手可能な場合には、免疫操作を経ることなく当該動物より目的の細胞集団を調製することが可能である。例えば、ある疾患に関連する抗体をターゲット抗体とする場合においては、当該疾患に罹患している動物ではターゲット抗体を産生していること(即ちターゲット細胞の存在)を期待できるから、当該動物において抗体産生細胞が存在すると考えられる組織又は器官からターゲット細胞を含む細胞集団を調製することができる。
【0011】
抗原の標識化に使用する標識物質としては例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)ユーロピウム、Alexa488(商品名)、Alexa546(商品名)などの蛍光物質、ルミノール、イソルミノール、及びアクリジニウム誘導体などの化学発光物質、NADなどの補酵素、ビオチン、並びにマグネットビーズを用いることができる。尚、標識物質による標識化は常法で行うことができ、例えばMolecular Cloning, Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる。
【0012】
標識化抗原と細胞集団との接触は、標識化抗原とターゲット細胞とが結合するのに適当な溶液内で行うことができる。標識化抗原と細胞集団との接触は、細胞集団におけるターゲット細胞に与えるダメージが少ない条件で行うことが好ましい。特に、ターゲット細胞の細胞膜結合型抗体が除去されたり、その本来の機能が失われたりしないような条件で行うことが好ましい。このような条件下で反応させることにより、ターゲット細胞と標識化抗原とが良好に結合することからターゲット細胞の効率的な回収が可能となり、また生存状態が良好なターゲット細胞を得ることが可能となる。ターゲット細胞に与えるダメージが少ない条件としては、低温環境下(例えば氷上)で反応させる条件を例示することができる。
【0013】
以上で説明した標識化ステップの前に、標識していない抗原に細胞集団を接触させ、そして抗原に結合した細胞を回収することによって、標識化ステップに供する細胞集団内のターゲット細胞の比率を高めておくことが好ましい。このような前処理を行うことによって標識化ステップにおける標識化が一層効率化する。前処理は例えば以下の手順で行われる。まず、標識していない抗原をプレートなどの支持体に固定する。次に、支持体に固定された抗原に対して、細胞集団を懸濁した溶液を接触させる。その後、非特異的に吸着した成分(細胞など)を洗浄・除去する。最後に、ピペッティングなどによって、抗原に結合している細胞を回収する。
【0014】
(細胞分離ステップ)
このステップでは、標識化ステップによって得られる標識化ターゲット細胞が分離される(ステップ(b))。標識化ターゲット細胞の分離操作には、使用した標識物質の種類に応じて適切な手法が利用される。例えば、標識物質として蛍光物質を使用した場合には、標識化ターゲット細胞を蛍光顕微鏡で観察することができる。即ち、蛍光による可視化が可能であって、これを利用して細胞の分離を行うことができる。一方、フローサイトメトリー(セルソーター)によっても、蛍光を指標とした細胞分離が可能である。フローサイトメトリーによれば効率的かつ高精度の細胞分離が可能となる。また、標識物質としてビオチンを採用した場合においてもアビジンとの結合反応を利用して良好な分離が可能である。マグネットビーズを採用した場合にも同様に、磁石を用いた良好な分離が可能である。尚、マニピュレーションや限外希釈法を利用することによっても当該ステップを実行することが可能である。
尚、以上のような細胞分離操作は、各方法に適切な装置(セルソータ等)、器具を使用して行われるが、このような装置等は市販されていることから、容易に所望の分離操作を実施することが可能である。また、具体的な操作方法については使用する装置等に添付の使用説明書(例えばベックマンコールター社フローサイトメトリーEPIC ALTRATypeIV の取扱説明書)や成書を参考にすることができる。
【0015】
融合タンパク質など、付加部分を有する抗原を用いた場合においては、標識化抗原に結合したとして分離、回収される細胞の中には、目的のターゲット細胞に加えて、付加部分に対する抗体を発現する細胞(意図しない細胞)が混在している惧れがある。このような場合にはターゲット細胞と意図しない細胞とを分別する必要がある。ターゲット細胞と意図しない細胞とを分別するためには例えば、以下の方法(第1の方法、第2の方法)を利用することができる。第1の方法は、標識化ステップにおいて2種類の標識物質を利用する方法である。この方法ではまず、抗原(付加部分を含む)を一の標識物質で標識したもの(標識化抗原)と、付加部分のみを異なる標識物質で標識したもの(標識化付加部分)とを用意する。そして、標識化ステップにおいて、標識化抗原と標識化付加部分を同時に細胞集団に接触させる。この処理によって、付加部分に対して結合性を有する抗体を発現している細胞に対しては標識化抗原と標識化付加部分の両方が結合し、2種類の標識シグナルが観察されることとなる。一方で、ターゲット細胞に対しては標識化抗原のみが結合することとなり、観察される標識シグナルは一つである。従って、標識シグナルを指標とした分別(即ちターゲット細胞の回収)が可能となる。第2の方法は、標識化した付加部分を単独で利用する方法である。この方法ではまず、付加部分のみを調製し、これを標識する。このようにして得られた標識付加部分と、標識化ステップによって回収された細胞との結合性を調べる。そして、結合性を示した細胞は、付加部分を認識する抗体を発現する細胞であるから、これを除去すれば、ターゲット細胞が選択されることとなる。
【0016】
細胞分離ステップにおいて、1個の標識化ターゲット細胞を分離することが好ましい。このような分離操作を行えば、後述の「抗体遺伝子調製ステップ」において1個の細胞に由来するH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を取得することが可能となり、最終的に得られる抗体のH鎖とL鎖の組合わせが本来存在していたものとなる。つまり、H鎖とL鎖の組合わせがナチュラルな抗体の作製が可能となる。また、このようなH鎖遺伝子とL鎖遺伝子との組合わせの情報は、得られた抗体を解析する場合や遺伝子工学的に改変を加える場合などに極めて有用である。尚、1個の標識化ターゲット細胞を分離するための方法としては、マニピュレーション、限外希釈法、及びフローサイトメトリーなどを採用できる。
【0017】
(抗体遺伝子調製ステップ)
このステップでは、分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子が調製される(ステップ(c))。具体的には、標識化ターゲット細胞の核酸を利用してその中に存在する、目的の抗体遺伝子が調製(単離)される。標識化ターゲット細胞内のmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、そして抗体遺伝子を調製することもできるが、RNA分子は不安定であるからその取り扱いに注意を要し、また標識化ターゲット細胞が生細胞である場合、または生細胞を急速に凍結した場合など以外はその利用が困難である。そこで本発明では、ゲノムDNAを鋳型として用いて目的の抗体遺伝子を調製することが好ましい。例えば、PCR等の核酸増幅反応を利用してこのような調製を実施できる。
尚、ゲノムDNAを利用した場合には、RNAを利用する場合に生ずる諸問題が解消され、また組織切片などからでも所望の抗体遺伝子を調製できるという利点がある。尚、ゲノムDNAから目的とする抗体遺伝子を調製できる理由は、その細胞の中で発現している抗体遺伝子がDNA再編成を起こしているためである。
【0018】
このステップではH鎖遺伝子及び/又はL鎖遺伝子が調製される。ここでの用語「H鎖遺伝子」は、H鎖可変領域(VHDJH)のみをコードする遺伝子(H鎖可変領域遺伝子)、及びH鎖可変領域に加えて定常領域(一部であってもよい)をコードする遺伝子を包含する表現として用いられる(H鎖定常領域をコードする遺伝子のことをH鎖定常領域遺伝子と呼ぶ)。同様に、用語「L鎖遺伝子」は、L鎖可変領域(VLJL)のみをコードする遺伝子(L鎖可変領域遺伝子)、及びL鎖可変領域に加えて定常領域(一部であってもより)をコードする遺伝子を包含する表現として用いられる。
当該ステップの具体的一態様では、H鎖可変領域(VHDJH)遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子(VLJL)が調製される。この態様によれば、後述の「遺伝子発現ステップ」において、抗原との結合能を有するFv抗体分子やscFv抗体、Fab抗体、F(ab')2抗体、或は別途用意したH鎖定常領域遺伝子及びL鎖定常領域遺伝子を併用することによってIgGクラス、IgAクラス、IgDクラス、IgEクラスなどの抗体を得ることができる。
他の態様では、H鎖遺伝子としてH鎖可変領域遺伝子が、L鎖遺伝子としてL鎖可変領域に加えて定常領域をもコードする遺伝子が調製される。この態様によれば、後述の「抗体を発現するステップ」において、L鎖定常領域を別に用意することなく、L鎖定常領域を備えた抗体が作製される。ここで、L鎖にはκ鎖とλ鎖と呼ばれる二つのタイプが存在することを考慮すれば、別に用意したL鎖定常領域を組合わせてL鎖の再構築を行うこととすれば、場合によって可変領域と定常領域のタイプが一致せず、得られた抗体が期待される活性を有しない惧れがある。上記のように定常領域をもカバーするL鎖遺伝子を調製し、これを用いてL鎖の発現を行うこととすれば、このようなタイプの不一致の惧れはなくなる。
【0019】
このステップにおいてH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子が調製される場合には、両者が同時に、又は別々に調製される。後者の場合の具体例を以下に示す。まず、目的のH鎖遺伝子を増幅させるためのプライマーセット、及び目的のL鎖遺伝子を増幅させるためのプライマーセットの存在下で数サイクル〜数十サイクルのPCRを行った後、反応液をH鎖遺伝子用とL鎖遺伝子用に分取する。そして、H鎖遺伝子用反応液にはH鎖遺伝子増幅用のプライマーセットを追加した後、十分な増幅が得られるまでPCRを実施し、他方、L鎖遺伝子用反応液にはL鎖遺伝子増幅用プライマーセットを追加して同様にPCRを実施する。
【0020】
調製された抗体遺伝子をサブクローニングして増幅させてもよい。この場合、典型的には、調製された抗体遺伝子が適当なクローニングベクターに組込まれる。
【0021】
(遺伝子発現ステップ)
このステップでは、調製した抗体遺伝子が、発現ベクターを用いて発現される(ステップ(d))。まず、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で得られた抗体遺伝子が発現ベクターに挿入される(組込まれる)。発現ベクターは、抗体遺伝子の発現に適したものであればその構成は特に限定されない。例えばSV40 virus basedベクター、EB virus basedベクター、BPV(パピローマウイルス)basedベクター、pCMVベクターやこれらのベクターに改変を施して得られるものなどを使用することができる。ここでの「改変」は、発現効率を高めるためにプロモータ配列、エンハンサー配列などを変更、追加することや、選択マーカー遺伝子を追加することなどを含む。発現ベクターへの抗体遺伝子の挿入は、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照できる)により行うことができる。
【0022】
H鎖及びL鎖を同時に発現させる場合には、H鎖遺伝子及びL鎖遺伝子が同一の発現ベクター、又はそれぞれ別の発現ベクターに挿入される。後者の場合にはH鎖遺伝子発現用の発現ベクターとL鎖遺伝子発現用の発現ベクターとが併用されることとなり、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」において調製されたH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子がそれぞれ対応するベクターに挿入される。その後、これら二種類の組換えベクターを用いてH鎖及びL鎖が発現される。好ましくは、これら二つの組換えベクターで宿主を共形質転換し、同一細胞内でH鎖及びL鎖を発現させる。
【0023】
挿入される抗体遺伝子としてH鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が用いられる場合において、発現ベクターとしてリンカー配列を有するものを使用することができる。このリンカー配列は発現ベクター内において、挿入されたH鎖可変領域遺伝子とL鎖可変領域遺伝子を架橋する位置に配される。換言すれば、リンカー配列を挟むようにしてH鎖可変領域遺伝子挿入部位及びL鎖可変領域遺伝子挿入部位を備えるように発現ベクターが設計される。このような発現ベクターを用いて発現操作を行えば、H鎖可変領域とL鎖可変領域とがリンカーによって連結されたscFv抗体が得られる。
【0024】
発現ベクターに予め他の配列(H鎖の一部をコードする配列や、L鎖の一部をコードする配列)を挿入しておくことにより、当該他の配列がコードする領域と、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で得られた抗体遺伝子がコードする領域とが連結された抗体(H鎖、L鎖のみの場合を含む)を得ることができる。例えば、H鎖定常領域遺伝子と、当該遺伝子に隣接する挿入部位とを有する発現ベクターを用い、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で調製したH鎖可変領域遺伝子を挿入した後、適当な宿主内で発現させれば、可変領域と定常領域を備えたH鎖が得られる。尚、H鎖として適切に機能する発現産物が得られる限りにおいて、発現ベクター内のH鎖定常領域と挿入部位との間に介在配列が存在してもよい。
また、H鎖定常領域遺伝子と、当該遺伝子に隣接するH鎖可変領域遺伝子用挿入部位と、及びL鎖遺伝子用挿入部位とを有する発現ベクターを用い、上記の「抗体遺伝子調製ステップ」で調製したH鎖可変領域遺伝子及びL鎖遺伝子をそれぞれ挿入した後、適当な宿主内で発現させれば、可変領域と定常領域を備えたH鎖及びL鎖が得られる。
予め他の配列が挿入された発現ベクターを使用するのではなく、「抗体遺伝子調製ステップ」で調製された抗体遺伝子を発現ベクターに挿入する際に、他の配列を同時に発現ベクターに挿入することによっても、当該他の配列がコードする領域が連結された抗体を発現させることができる。尚、ここでの「同時に」とは、厳密な時間的な同時性が要求されることを意味するのではない。抗体遺伝子の挿入の後に他の配列の挿入が行われてもよく、勿論その逆であってもよい。
【0025】
以上における他の配列としては、目的に応じて適切なものが選択され、そして使用される。例えば、「抗体遺伝子調製ステップ」においてヒトH鎖可変領域遺伝子と、可変領域及び定常領域をカバーするヒトL鎖遺伝子とが調製される場合において、ヒトIgG1の定常領域遺伝子や、ヒトIgG4の定常領域遺伝子、或はヒトIgA1の定常領域遺伝子などを「他の配列」として採用することができる。勿論、「抗体遺伝子調製ステップ」において調製される抗体遺伝子と同種由来の抗体遺伝子に限らず、異種由来の抗体遺伝子を他の配列として使用することもできる。例えば、「抗体遺伝子調製ステップ」においてマウスの可変領域遺伝子を調製することとし、他の配列としてのヒト定常領域遺伝子を組合わせれば、キメラ型抗体を得ることができる。
【0026】
挿入される抗体遺伝子の種類、及び発現ベクターの構成によって、様々なタイプの抗体を発現させることが可能である。発現可能な抗体としては例えば、Fv抗体、scFv抗体、dsFv抗体、Fab抗体、F(ab')2抗体、IgGクラス、IgAクラス、IgDクラスを挙げることができる。尚、完全な定常領域を備えていない(即ち、一部の定常領域のみを備える)抗体を得ることも可能である。
ここで、「scFv抗体」とは、H鎖可変領域とL鎖可変領域とからなるFvを、片方の鎖のC末端と他方のN末端とを適当なペプチドリンカーで連結することにより一本鎖化した抗体断片である。ペプチドリンカーとしては例えば、柔軟性の高い(GGGGS)3などを用いることができる。一方、「dsFv抗体」とは、H鎖可変領域及びL鎖可変領域の適切な位置にCys残基を導入し、H鎖可変領域とL鎖可変領域とをジスルフィド結合により安定化させたFv断片である。各鎖におけるCys残基の導入位置は分子モデリングにより予測される立体構造に基づき決定することができる。
【0027】
抗体遺伝子が挿入されたベクター(組換えベクター)は適当な宿主の形質転換に利用される。宿主としては、組換えベクターで形質転換されることにより、導入された抗体遺伝子を発現可能な状態に保有できるものであれば特に限定されない。例えば、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)(A.Wright& S.L.Morrison, J.Immunol.160, 3393-3402 (1998))、SP2/0細胞(マウスミエローマ)(K.Motmans et al., Eur.J.Cancer Prev.5,512-519 (1996),R.P.Junghans et al.,Cancer Res.50,1495-1502 (1990))等の動物細胞や酵母等の真核細胞、或は大腸菌等の原核細胞を宿主として用いることができる。
組換えベクターによる宿主の形質転換には例えば、リポフェクチン法(R.W.Malone et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,6077 (1989), P.L.Felgner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413 (1987)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(F.L.Graham & A.J.van der Eb,Virology 52,456-467(1973))、DEAE-Dextran法等が利用される。
【0028】
以上のようにして得られた形質転換体を、それが保有する抗体遺伝子が発現される条件で培養することにより、形質転換体の細胞内又は培養液中に目的の抗体を産生させることができる。抗体の回収は、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
尚、発現の際には融合タンパク質発現系を用いることができる。即ち、GST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)やMBP(マルトース結合タンパク質)等との融合タンパク質として目的の抗体が調製される発現系を用いてもよい。一方、得られた抗体に低分子化合物や標識物質などを結合させて修飾抗体とすることができる。標識物質としては、125I等の放射性物質、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチンなどを用いることができる。
【0029】
本発明の抗体作製方法は様々な抗体の作製に利用が図られるものである。例えば、検査用(診断用)抗体の作製や治療用抗体の作製に利用することができる。特定の疾患に関連して調製された抗体はそのまま診断薬として使用することができ、また中和活性を示せば治療薬として使用することも可能である。また、患者の体内で産生されている抗体をクローン化することにより診断用および治療用抗体が作製できるとともに、更に、多数クローン化することにより患者の体内で産生されている抗体の種類の全体像に関する情報が得られる。
細菌が分泌する毒素、ヘビ毒、食物に含まれる毒素、ウィルスなど人体に悪影響を及ぼすさまざまな外来物質が存在するが、これらに対して罹患した患者は回復期に必ず特異抗体を産生している。本発明の方法はこれら全ての例に応用可能である。例えば、C型肝炎ウイルス中和抗体等、特異的な性質を示す抗体をヒト血液からモノクローン化することに利用することができる。
【0030】
以上で説明した本発明の抗体作製方法では、その過程において抗体遺伝子が取得される。即ち、「標識化ステップ」、「細胞分離ステップ」、及び「抗体遺伝子調製ステップ」からなる一連の操作の結果として抗体遺伝子が取得される。本発明者らはこの点に注目して更なる検討を行った。その結果、これらの各ステップは、その本質を変えることなく若干の修正を加えることによって、抗体遺伝子の調製に止まらず様々な遺伝子の調製に応用が図られるとの知見に想到した。このような知見に基づき本発明の第2の局面は以下の構成を提供する。
[18] 以下のステップ(i)〜(iii)を含む、遺伝子調製方法:(i)細胞集団内の特定の性質を有する細胞を標識化するステップ;(ii)ステップ(i)によって得られる標識化細胞を分離するステップ;(iii)分離した標識化細胞を用いて、目的の遺伝子を調製するステップ。
[19] 前記ステップ(ii)において1個の標識化細胞が分離される、[18]に記載の遺伝子調製方法。
【0031】
本発明の第二の局面は例えば、ウイルス遺伝子の調製(単離)、自己抗体遺伝子の調製(単離)、癌遺伝子又は癌抑制遺伝子の調製(単離)、腫瘍細胞を攻撃するT細胞レセプター遺伝子の調製(単離)に利用することができる。T細胞レセプターに関しては、MHC+オリゴペプチドを4量体化して、それを認識できるT細胞レセプターを発現したT細胞を標識(同定)できることが報告されているが、本発明の第二の局面で開示される方法によって1細胞化することによればα、β遺伝子をクローン化可能である。この場合は、決まった MHC+オリゴペプチド(癌特異的)を認識するT細胞レセプター(α、β)遺伝子をクローン化すれば、これを利用して癌治療用の組成物等の構築や、或は癌治療方法の構築などが可能となる。
尚、以下で特に説明しない用語及び事項については上記の「抗体作製方法」におけるものと同様である。
【0032】
(ステップ(i))
ステップ(i)では、細胞集団内の特定の性質を有する細胞が標識化される。このステップ(i)は、上述の「標識化ステップ」に相当する。細胞集団源としては、動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、サル、チンパンジー、ヒトなど)の特定の組織や器官(例えば、肝臓、膵臓、脾臓、皮膚、筋肉、脂肪、骨髄、末梢血など)を例示できる。
「特定の性質」とは、目的とする遺伝子に関連した性質のことをいう。典型的には、自己のゲノム以外の遺伝子を保有していることに起因する性質や、目的とする遺伝子が正常な状態から変異することによって生まれる性質のことをいう。「特定の性質を有する細胞」の具体例としては、ウイルスに感染した細胞、自己抗体産生細胞、ガン化した細胞、T細胞を挙げることができる。
【0033】
(ステップ(ii))
ステップ(ii)では、ステップ(i)によって得られる標識化細胞が分離される。このステップ(ii)は、上述の「細胞分離ステップ」に相当し同様の手順で実行される。
【0034】
(ステップ(iii))
ステップ(iii)では、分離した標識化細胞を用いて、目的の遺伝子が調製される。このステップ(iii)は、上述の「抗体遺伝子調製ステップ」に相当し同様の手順で実行される。
【0035】
以上の一連のステップにおいて調製された遺伝子は、それ自体の解析や、それを用いた検出方法や診断方法、その発現産物を利用した検出方法や診断方法、その情報を用いた診断薬や予防薬あるいは治療薬の開発等に利用され得る。そこで、本発明の第2の局面は、以下に示す各方法(20〜22)を含む。
[20] 以下の各ステップを含む、ウイルスの変異を解析する方法:
(1)細胞集団内のウイルス感染細胞を標識化するステップ;
(2)標識化ウイルス感染細胞を分離するステップ;
(3)分離した標識化ウイルス感染細胞からウィルス遺伝子を調製するステップ;及び
(4)得られたウイルス遺伝子を解析して、ウイルスの変異(抗原性の変動)を検出するステップ。
【0036】
ここでの「ウイルス」は、変異能を有するウイルスであって、且つその変異を解析することに価値が認められるものである。例えば、インフルエンザウイルス、HIVが解析対象となる。
ステップ(1)の標識化には例えば、ウイルスの核酸(DNA、RNA)に特異的な結合能を有する標識化核酸などが使用される。尚、好ましくはステップ(2)において1個の標識化ウイルス感染細胞が分離される。
以上の「ウイルスの変異を解析する方法」を応用すれば、例えばHIVに感染した人の体内で起こる抗原性の変動を完全にトレースすることによりユニバーサルに効果のあるワクチンをデザインすことができる。また、インフルエンザが毎年起こす抗原性の変動(antigen-drift)に対応して誘導される中和抗体の単離や、それを用いたエスケープミュータントの単離、ひいては次世代ワクチンの作製などへの応用を図ることもできる。
【0037】
[21]以下のステップを含む、自己抗体遺伝子の調製方法:
(1)細胞集団内の自己抗体産生細胞を標識化するステップ;
(2)標識化自己抗体産生細胞を分離するステップ;
(3)分離した自己抗体産生細胞から自己抗体遺伝子を調製するステップ。
以上の方法によって得られた自己抗体遺伝子は自己抗体の産生を抑えること等に利用することができる。具体的には例えば、得られた自己抗体遺伝子の配列情報を解析し、得られた情報を基に当該遺伝子の発現(又はそれがコードする抗体の活性)を抑制する方法を構築したり、或は自己抗体の検出方法を構築したりすることができる。即ち、各種自己免疫疾患に対する治療法や診断法の開発が可能となる。
尚、好ましくはステップ(2)において1個の標識化自己抗体産生細胞が分離される。
【0038】
[22]以下のステップを含む、癌の原因遺伝子の調製方法:
(1)癌化リンパ系白血球を含む細胞集団を調製するステップ;
(2)前記細胞集団から癌化リンパ系白血球を分離するステップ;
(3)分離した癌化リンパ系白血球から癌化に関連する遺伝子を調製するステップ。
以上の方法によって得られた遺伝子と、対応する正常の遺伝子とを比較すれば(同一性の検出)、リンパ系白血球の癌化状態を検出、解析することが可能となる。即ち、リンパ系白血球の超初期診断法(腫瘍細胞が示すclonalityを利用)の開発に応用できる。 尚、好ましくはステップ(2)において1個の癌化リンパ系白血球が分離される。
【0039】
【実施例】
<実施例1> 抗原としてリゾチームを用いた標識化試験
精製抗原(リゾチーム)を免疫したマウスから脾臓を取り出し、つぶしてメッシュに通し細胞をばらばらにした後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで洗浄した。これをリゾチーム感作プレート(リゾチームをPBSに溶解して25μg/mlにした溶液をマイクロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加して一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、ゆっくり丁寧に1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで2回洗浄後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでピペッティングして結合した細胞を回収した。このうち、2.6×105の細胞にAlexa488 protein labeling kit (Molecular probes社製)を用いて標識したAlexa488標識リゾチーム0.4μgと、最終濃度500倍希釈のAlexa546標識抗マウスIgG抗体(Molecular probes社製)を反応させると、Alexa546標識抗マウスIgG抗体(赤色蛍光)で染色された細胞のうち99%がAlexa488標識リゾチーム(緑色蛍光)でも染色された(図1)。
【0040】
<実施例2> 抗原としてGFPを用いた標識化試験
GFPを免疫したマウスから、脾臓を取り出し、つぶしてメッシュに通し細胞をばらばらにした後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで洗浄した。これをGFP感作プレート(GFPをPBSに溶解して25μg/mlにした溶液をマイクロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加して一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、ゆっくり丁寧に1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで2回洗浄後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでピペッティングして結合した細胞を回収した。このうち、8.4×104個の細胞に対し、GFP 3.7μgと、最終濃度500倍希釈のAlexa546標識抗マウスIgG抗体(Molecular probes社製)を反応させると、Alexa546標識抗マウスIgG抗体(赤色蛍光)で染色された細胞のうち92.6%がGFP(緑色蛍光)でも染色された(図2)。
【0041】
<実施例3> 抗原として融合タンパク質を用いた標識化試験
抗原を作製する際、融合タンパク質にしないと発現量が少なかったり、不溶化してしまう場合が少なくない。このような融合タンパク質としてしか大量に得られない抗原を用いた場合において、目的の抗体産生細胞に目印をつけるため、タグタンパク質部分のみ(MBP)を精製してAlexa546 protein labeling kit(Molecular probes社製)を用いて赤色に標識し、融合タンパク質(MBP-VHH)をAlexa488 protein labeling kit(Molecular probes社製)を用いて緑色に標識した。精製抗原(MBP-VHH)を免疫したマウスから、脾臓を取り出し、つぶしてメッシュに通し細胞をばらばらにした後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで洗浄した。これをMBP-VHH感作プレート(MBP-VHHをPBSに溶解して20μg/mlにした溶液をマイクロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加して一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、ゆっくり丁寧に1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSで2回洗浄後、1% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでピペッティングして結合した細胞を回収した。このうち、7.0×104個の細胞に対し、Alexa488標識MBP-VHH 1.2μgと、Alexa546標識MBP 1.2μgを反応させた。予想では、図3に示すように、目的タンパク質(VHH)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)で染色され(図3左下)、タグタンパク質(MBP)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)及びAlexa546(赤色蛍光)で染色されると考えられる(図3右下)。実際の結果を図4に示す。タグタンパク質であるMBPに対する抗体を発現していると考えられる下の細胞では、緑と赤の両方で染色され、目的のVHHに対する抗体を発現していると考えられる上の細胞では、緑のみで染色された。MBPに対する抗体を発現していると考えられる細胞で緑の蛍光が弱いのは、赤い標識をしたMBPと反応が競合するからと考えられる。以上の結果から、融合タンパク質でしか大量に得られない抗原に対しても、目的のタンパク質に対する抗体を発現している細胞を区別できることが示された。
【0042】
<実施例4> 標識化細胞の分離
標識抗原で目印(標識)をつけた細胞(抗リゾチーム抗体産生細胞)をマニピュレーションにより、1細胞化した。その細胞を20μlのPCR バッファーに懸濁しておき、以下の組成の反応液を30μl添加した。
10×PCRバッファー(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 3μl
10mM dNTP: 1μl
プライマーmVH mix(200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJH mix(200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmVκmix(200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJκmix(200pmol/μl): 0.5μl
Q-solution(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 10μl
蒸留水: 13μl
HotStarTaq DNA polymarase : 1μl
合計 30μl
【0043】
(プライマーmVH mix:以下の17種類の等量混合物。尚、(a/g)、(g/t)は2塩基ミックスを表す。)
名前:5' → 3'
mVH1A:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg a(g/t)g tgc agc ttc agg
agt cag g(52mer)(配列番号9、配列番号10)
mVH1B1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tgc agc tga agg agt cag g (52mer)(配列番号11)
mVH1B2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tgc agc tga agc agt cag g (52mer)(配列番号12)
mVH2A1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tcc agc tgc a(a/g)c a(a/g)t ctg g (52mer) (配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16)
mVH2A2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg ttc agc tgc agc agt ctg g (52mer)(配列番号17)
mVH2B1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tcc aac tgc agc agc ctg g (52mer)(配列番号18)
mVH2B2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tcc acc tgc agc agt ctg g (52mer)(配列番号19)
mVH3A:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tga agc tgg tgg a(a/g)t ctg g (52mer)(配列番号20、配列番号21)
mVH3B:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tga agc ttc tgg agt
ctg g (52mer)(配列番号22)
mVH3C1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga agc ttg agg agt ctg g (52mer)(配列番号23)
mVH3C2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg tga agc tgg atg aga ctg g (52mer)(配列番号24)
mVH3C3:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga agc tgg tgg agt ctg a (52mer)(配列番号25)
mVH3D1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tgc agc tgg tgg agt ctg g (52mer)(配列番号26)
mVH3D2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga tgc tgg tgg agt ctg g (52mer)(配列番号27)
mVH3D3:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg aag tga agc tgg tgg agt ctg g (52mer)(配列番号28)
mVH5A1:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccg agg ttc agc ttc agc agt ctg g (52mer)(配列番号29)
mVH5A2:act tac tcg cgg ccc agc cgg cca tgg ccc agg tcc agc tgc agc agt ctg g (52mer)(配列番号30)
【0044】
(プライマーmJH mix:以下の4種類の等量混合物)
名前:5' → 3'
mJH1Xho:cgt ttt ggc gct cga gac ggt gac cgt ggt ccc tgc g (37mer)(配列番号31)
mJH2Xho:cgt ttt ggc gct cga gac tgt gag agt ggt gcc ttg g (37mer)(配列番号32)
mJH3Xho:cgt ttt ggc gct cga gac agt gac cag agt ccc ttg g (37mer)(配列番号33)
mJH4Xho:cgt ttt ggc gct cga gac ggt gac tga ggt tcc ttg a (37mer)(配列番号34)
【0045】
(プライマーmVκmix:以下の21種類の等量混合物。尚、(g/t)、(c/g)、(a/c)は2塩基ミックスを表す。)
名前:5' → 3'
mVK1A:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg atg aca cag tct cc (41mer)(配列番号35)
mVK1B:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg atg tca cag tct cc (41mer)(配列番号36)
mVK2A:gcc cag cca gcc atg gcc gat gtt gtg atg acc caa act cc (41mer)(配列番号37)
mVK2B:gcc cag cca gcc atg gcc gat gtt ttg atg acc caa act cc (41mer)(配列番号38)
mVK2C:gcc cag cca gcc atg gcc gat att gtg atg ac(g/t) cag gct gc (41mer)(配列番号39、配列番号40)
mVK2D:gcc cag cca gcc atg gcc gat att gtg ata acc cag gat ga (41mer)(配列番号41)
mVK3A:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg ctg acc caa tct cc (41mer)(配列番号42)
mVK3B:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg ctg aca cag tct cc (41mer)(配列番号43)
mVK3C:gcc cag cca gcc atg gcc aaa att gtg ctg acc caa tct cc (41mer) (配列番号44)
mVK4A:gcc cag cca gcc atg gcc gaa aat gtg ct(c/g) acc cag tct cc (41mer)(配列番号45、配列番号46)
mVK4B:gcc cag cca gcc atg gcc gaa att gtg ctc acc cag tct cc (41mer)(配列番号47)
mVK4C:gcc cag cca gcc atg gcc caa att gtt ctc acc cag tct cc (41mer) (配列番号48)
mVK5A:gcc cag cca gcc atg gcc gat atc cag atg aca cag act ac (41mer)(配列番号49)
mVK5B:gcc cag cca gcc atg gcc gac atc cag atg ac(a/c) cag tct cc (41mer)(配列番号50、配列番号51)
mVK5C:gcc cag cca gcc atg gcc gac atc aag atg acc cag tct cc (41mer)(配列番号52)
mVK5D:gcc cag cca gcc atg gcc gac att cag atg acc cag tct cc (41mer)(配列番号53)
mVK5E:gcc cag cca gcc atg gcc gac att gtg atg acc cag tct ca (41mer)(配列番号54)
mVK5F:gcc cag cca gcc atg gcc agt att gtg atg acc cag act cc (41mer)(配列番号55)
mVK5G:gcc cag cca gcc atg gcc gac atc ttg ctg act cag tct cc (41mer)(配列番号56)
mVK5H:gcc cag cca gcc atg gcc aac att gta atg acc caa tct cc (41mer)(配列番号57)
mVK6A:gcc cag cca gcc atg gcc caa att gtt ctc tcc cag tct cc (41mer)(配列番号58)
【0046】
(プライマーmJκmix:以下の4種類の等量混合物)
名前:5' → 3'
mJK1Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTG ATT TCC AGC TTG GT (41mer)(配列番号59)
mJK2Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTT ATT TCC AGC TTG GT (41mer)(配列番号60)
mJK4Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTT ATT TCC AAC TTT GT (41mer)(配列番号61)
mJK5Asc:GGA GTC GAC TGG CGC GCC GAA CGT TTC AGC TCC AGC TTG GT (41mer)(配列番号62)
【0047】
次に、ミネラルオイルを一滴のせ、95℃で10分加熱後、94℃30秒、60℃30秒、72℃1分のPCR反応を50サイクル行った。しかし、目的の遺伝子は増幅されなかった。そこで、上記の反応を10サイクル行った後、1μlずつ分取し、片方にH鎖増幅用反応液49μlを添加し、他方にはκ鎖増幅用反応液49μlを添加した後、それぞれをさらに48サイクルのPCR反応に供した。
(H鎖増幅用反応液)
10×PCRバッファー(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 5μl
10mM dNTP: 1μl
プライマーmVH mix (200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJH mix (200pmol/μl): 0.5μl
Q-solution(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 10μl
蒸留水: 32μl
HotStarTaq DNA polymarase: 1μl
合計 50μl
【0048】
(κ鎖増幅用反応液)
10×PCRバッファー(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 5μl
10mM dNTP: 1μl
プライマーmVκmix (200pmol/μl): 0.5μl
プライマーmJκmix (200pmol/μl): 0.5μl
Q-solution(HotStarTaq DNA polymarase kitに付属): 10μl
蒸留水: 32μl
HotStarTaq DNA polymarase: 1μl
合計 50μl
【0049】
PCR反応の結果、H鎖、κ鎖ともに遺伝子の増幅が観察された(図5)。
【0050】
<実施例5> 発現ベクターpSCCA4-E8dの構築
以下の手順で発現ベクターを構築した(図6を参照)。scNcopFCAH9-E8VHdVLdベクター(WO 01/96401を参照。当該ベクターの塩基配列(配列番号7)を図7、図8に示す) 1μg(1μl)、Revプライマー(100pmol/ml)1μl、SfiRプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水60μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造) 1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で2分保温後、94℃1分、58℃2分、72℃1分の反応を16サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して10μlに濃縮した(A断片)。同様にして、scNcopFCAH9-E8VHdVLd 1μg(1μl)、SfiFプライマー(100pmol/ml)1μl、BstRプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水60μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造)1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で2分保温後、94℃1分、58℃2分、72℃1分の反応を16サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して10μlに濃縮した(B断片)。さらに、scNcopFCAH9-E8VHdVLd 1μg(1μl)、BstFプライマー(100pmol/ml)1μl、cp3Rプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水60μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造)1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で2分保温後、94℃1分、58℃2分、72℃1分の反応を16サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して10μlに濃縮した(C断片)。A断片 5μl、B断片 5μl、Revプライマー(100pmol/ml)1μl、BstRプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水51μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造) 1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で1分保温後、94℃1分、58℃4分、72℃2分の反応を17サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して20μlに濃縮した(D断片)。C断片 5μl、D断片 5μl、Revプライマー(100pmol/ml)1μl、cp3Rプライマー(100pmol/ml)1μl、10×LA PCR buffer 10μl、25mM MgCl2 10μl、2.5mM dNTP mix 16μl、滅菌蒸留水51μl、TaKaRa LA Taq Polymerase(5U/μl 宝酒造) 1μlを混合し、ミネラルオイルを2滴添加して、95℃で1分保温後、94℃1分、58℃4分、72℃2分の反応を17サイクル繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して20μlに濃縮した。このうち、7μl、10×Mバッファー10μl、滅菌蒸留水78μl、HindIII(10U/μl 宝酒造)5μlを混合して37℃で2時間反応させた。これに、5M NaCl 1μl、BstPI(5U/μl 宝酒造)5μlを添加し、さらに37℃で2時間反応させた。これをアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して15μlに濃縮した(インサート断片)。同様にして、scNcopFCAH9-E8VHdVLd 1μg(1μl)、10×Mバッファー 10μl、滅菌蒸留水86μl、HindIII(10 U/μl 宝酒造)3μlを混合して37℃で2時間反応させた。これに、5M NaCl 1μl、BstPI(5 U/μl 宝酒造)3μlを添加し、さらに37℃で2時間反応させた。これをアガロースゲル電気泳動で確認後、切り出し、フェノール処理、EtOH沈殿して15μlに濃縮した(ベクター断片)。インサート断片2μl、ベクター断片1μl、10×ligation buffer 1.5μl、10mM ATP 1.5μl、DW 8μl、T4 DNA ligase (350 units /μl 宝酒造)1μlを加えて混合し、16℃で3時間インキュベートした。エタノール沈殿して、滅菌蒸留水で10倍希釈したTE 3μlに溶解し、その半分を用いてDH12Sを形質転換した。得られた形質転換体24個ずつからプラスミドを抽出し、アガロースゲル電気泳動を行って、インサートの入っているクローンについて、塩基配列を確認した。予想通りの置換の入っているクローンを選択し、pSCCA4-E8d(塩基配列(配列番号8)を図9、図10に示す)とした。
【0051】
以上において使用される各プライマーは次の通りである。
Revプライマー:5'-AGGAAACAGCTATGACCATG-3'(20mer)(配列番号1)
SfiRプライマー:5'-CGGCTGGGCCGCGAGTAA-3'(18mer)(配列番号2)
SfiFプライマー:5'-TTACTCGCGGCCCAGCCGGCCCCTGACATCTGAGGACACT-3'(40mer)(配列番号3)
BstFプライマー:5'-GGTCACCGTCTCGAGCGGCGGTGG-3'(24mer)(配列番号4)
BstRプライマー:5'-CCACCGCCGCTCGAGACGGTGACC-3'(24mer)(配列番号5)
cp3Rプライマー:5'-GCCAGCATTGACAGGAGGTTG-3'(21mer)(配列番号6)
【0052】
<実施例6> L鎖遺伝子の調製
実施例4で得られたPCR産物のうち、まずL鎖の方をフェノールークロロホルム処理し、エタノール沈殿して乾燥させた後、蒸留水84μl、10×NEB4バッファー(NEB社製AscIに付属)10μl、制限酵素NcoI(10units/μl、宝酒造社製)3μlと制限酵素AscI(10units/μl、NEB社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、L鎖遺伝子をゲルから切り出して精製した。切り出し後の精製にはキアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出したL鎖遺伝子NcoI-AscI 断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。同様にして、ベクターDNA pSCCA4-E8d(図6、図9及び図10を参照)2μg(2μl)、蒸留水82μl、10×NEB4バッファー(NEB社製AscIに付属)10μl、制限酵素NcoI(10 units/μl、宝酒造社製)3μlと制限酵素AscI(10 units/μl、NEB社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、ベクターDNA pSCCA4-E8d NcoI-AscI断片をゲルから切り出して精製した。切り出し後の精製にはキアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出したベクターDNA pSCCA4-E8d NcoI-AscI断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。L鎖遺伝子NcoI-AscI断片1μlを蒸留水10.5μlに溶解し、ベクターDNA pSCCA4-E8d NcoI-AscI断片1μl、10×T4 DNA ligase バッファー1.5μl、T4 DNA ligase 1μlを添加してligase反応を16℃で2時間行った。これをエタノール沈殿して乾燥し、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー3μlに懸濁した。このうち1.5μlをエレクトロマックスDH12S(大腸菌)20μlに添加し、エレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後の大腸菌を2×TY培地1mlに入れ、37度で時間培養した。このうち、100μlをLBGAプレートにまき、30℃で1晩培養した。得られたコロニーからKURABO社製プラスミド抽出機PI-50を用いてプラスミドを調製し、ベックマンコールター社製DNAシーケンサーCEQ2000XLを用いてL鎖遺伝子の塩基配列を解析した。欠失などがない正しい遺伝子を持つクローンを選択した。
【0053】
<実施例7> H鎖遺伝子の調製
次に、実施例6で選択したクローンに、切り出したH鎖遺伝子を組み込んだ。H鎖PCR産物をフェノールークロロホルム処理し、エタノール沈殿して乾燥させた後、蒸留水77.5μl、10×NEB2バッファー(NEB社製SfiIに付属)10μl、10×BSA(NEB社製SfiIに付属)10μl、制限酵素SfiI(8 units/μl、NEB社製)2.5μlを添加し、50℃で2時間反応させた。続いて、制限酵素XhoI(8 units/μl、宝酒造社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、H鎖遺伝子をゲルから切り出して精製した。切り出し及び精製には、キアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出したH鎖遺伝子SfiI-XhoI断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。同様にして、実施例6で選択したクローン2μg(5μl)をフェノールークロロホルム処理し、エタノール沈殿して乾燥させた後、蒸留水77.5μl、10×NEB2バッファー(NEB社製SfiIに付属)10μl、10×BSA(NEB社製SfiIに付属)10μl、制限酵素SfiI (8 units/μl、NEB社製)2.5μlを添加し、50℃で2時間反応させた。続いて、制限酵素XhoI(8 units/μl、宝酒造社製)3μlを添加し、37℃で2時間反応させた。反応後アガロースゲル電気泳動して分画し、実施例6で選択したクローンのSfiI-XhoI断片をゲルから切り出して精製した。切り出し及び精製には、キアゲン社製QIAquick Gel Extraction kitを用いた。切り出した実施例6で選択したクローンのSfiI-XhoI断片をエタノール沈殿して乾燥させ、滅菌蒸留水で10倍希釈したTEバッファー10μlに懸濁した。H鎖遺伝子SfiI-XhoI断片1μlを蒸留水10.5μlに溶解し、実施例6で選択したクローンのSfiI-XhoI 断片1μl、10×T4 DNA ligase バッファー1.5μl、T4 DNA ligase 1μlを添加してligase反応を16℃で2時間行った。これをエタノール沈殿して乾燥し、10倍希釈したTEバッファー3μlに懸濁した。このうち1.5μlをエレクトロマックスDH12S(大腸菌)20μlに添加し、エレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後の大腸菌を2×TY培地1mlに入れ、37℃で時間培養した。このうち100μlをLBGAプレートにまき、30℃で1晩培養した。得られたコロニーからKURABO社製プラスミド抽出機PI-50を用いてプラスミドを調製し、ベックマンコールター社製DNAシーケンサーCEQ2000XLを用いてH鎖遺伝子の塩基配列を解析した。欠失などがない正しい遺伝子を持つクローンを選択した。
【0054】
<実施例8> 抗体の発現
実施例7で選択したクローンを、まずTYGA培地3ml一晩培養した。この培養液30μlを0.1%グルコースと100μg/mlアンピシリンを含む2×TY培地で2時間30分培養し、0.1M IPTG(生化学用 和光純薬社製)を添加して、抗体の発現を誘導した。一晩培養した培養上清100μlをリゾチーム感作プレート(リゾチームをPBSに溶解して25μg/mlにした溶液をマイク
ロカップ(Nunc-Immunomodule F8 maxisorp loose(Nunc社製))に100μlずつ添加し、一晩置いた後、溶液を捨て、5% BSA、0.1% NaN3を含むPBSでさらに一晩置いてブロッキングしたもの)に添加し、37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20-PBSで4回洗浄した。洗浄後のプレートに抗cp3抗体(MBL社製)2.5μg/mlを100μl添加し、37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20-PBSで4回洗浄した。洗浄後のプレートに、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(H+L)抗体(5000倍希釈、MBL社製)を100μl添加し、37℃で1時間反応させた後、0.05% Tween20-PBSで4回洗浄した。洗浄後のプレートにオルトフェニレンジアミンと過酸化水素の溶液100μlを加えて暫時反応させた後、2N硫酸100μlを加えて反応を停止し、波長492nmにおける吸光度を測定した。その結果、図11に示すように、抗原との反応性を確認できた(Lyso2-13HL-13x10、Lyso2-13HL-13x1が陰性コントロール)。以上の結果から、1細胞から得られた抗体遺伝子を用いて、抗原と反応する抗体を作製できることが示された。
【0055】
<実施例9> ヒト抗体産生細胞の標識化
ヒト抗体産生細胞についても同様に標識抗原などで目印(標識)をつけることができるかどうか調べた。まず、インフルエンザワクチン(2000年)をAlexa488 labeling kit(Molecular probe社製)で標識した。この標識インフルエンザワクチンとPE標識抗ヒトIgG抗体をヒト末梢血(5mM EDTA)と反応させた。健常人から得た末梢血では、染色される細胞は見つからなかったが、1ヶ月前にインフルエンザに罹患した被験者から得た末梢血では図12に示すように染色が認められた。この結果から、ヒト抗体産生細胞もマウスと同じように標識抗原で目印をつけられることが確認された。尚、この目印をつけた細胞を1個分離し、上記の実施例と同様にして抗体遺伝子の調製、及び発現を行えばインフルエンザウィルスと結合する抗体の取得が可能であり、更にはインフルエンザウィルスを中和する抗体が得られると考えられる。
【0056】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0057】
【発明の効果】
従来のモノクローン単離技術は、動物を抗原で免疫した後、脾臓を摘出し、Bリンパ球を集団のまま扱って癌細胞との融合により不死化する。ファージディスプレー系を使って抗体ライブラリーを作製する場合には、H鎖およびL鎖それぞれ集団のままライブラリー化した後、組み合わせて巨大抗体ライブラリーを作製する。両方法とも集団の中から目的とする抗体を産生するクローンが選び出される。本発明が提供する抗体作製方法では、対象とする抗原に結合する抗体を産生する細胞を、抗原抗体反応を利用して分離した後、その中から目的とする抗体遺伝子を取得し、発現させることによって目的の抗体が調製される。このような一連のステップを含む本発明の方法は、以下の様々な点で従来法より優れる。まず、本発明の方法は様々な動物の抗体を対象にすることができるという利点を有する。従来の細胞融合を伴う方法(細胞融合法)では主としてマウスやラットが使用され、ヒトを含め他の動物を対象に実施する場合には多くの困難を伴う。一方、様々な動物種の血液中に存在する抗体をモノクローン化できるという点では、ファージディスプレイ系を用いた抗体ライブラリー作製(ライブラリー法)と本発明の方法は同等であるが、効率の面で本発明の方が格段に優れる。ファージディスプレイ系の場合において目的の抗体を確実にモノクローン化しようとすれば必然的に巨大なライブラリーの作製を伴い、実施スケールが大規模ならざるを得ないからである。これに対して本発明の方法では目的の抗体産生細胞のみを対象とすればよいので、そのスケールは小さくてよい。このことは、抗体の調製に要する期間を短くできるという効果をも生ずることとなる。
一方、生体内では抗体の成熟によって優れた性能の抗体が産生されているが、その抗体そのもののクローン化という点では細胞融合法と同様の優位性を本発明は備える。この点においてはファージディスプレイ法は非効率的である。また、本発明の方法は、得られる抗体の種類が生体内に存在する抗体の種類を充分にカバーできるという点において、これまでに知られている方法よりも優れている。
【0058】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、リゾチームを免疫したマウスの脾臓細胞を蛍光染色した結果を示す図である。左欄はAlexa488標識リゾチームによる染色像であり、右欄はAlexa546標識抗マウスIgG抗体による染色像である。
【図2】 図2は、GFPを免疫したマウスの脾臓細胞を蛍光染色した結果を示す図である。左欄はGFPによる染色像であり、右欄はAlexa546標識抗マウスIgG抗体による染色像である。
【図3】 図3は、融合タンパク質を抗原とした場合に予想される蛍光染色像である。目的タンパク質(VHH)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)で染色され(図3左下)、タグタンパク質(MBP)に対する抗体を発現している細胞はAlexa488(緑色蛍光)及びAlexa546(赤色蛍光)で染色されると考えられる(図3右下)。
【図4】 図4は、融合タンパク質(MBP-VHH)を免疫したマウスの脾臓細胞を実際に蛍光染色した結果を示す図である。左欄はAlexa488標識MBP-VHHによる染色像であり、右欄はAlexa546標識MBPによる染色像である。
【図5】 図5は、実施例4におけるPCR産物をアガロースゲル電気泳動した結果を示す図である。各レーンのサンプルは次の通りである。
λH ; DNAサイズマーカー
1; A細胞 50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル)
2; A細胞 10サイクル後1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
3; A細胞 10サイクル後1μlをL鎖増幅用反応液で48サイクル
4; B細胞 50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル)
5; B細胞 10サイクル後1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
6; B細胞 10サイクル後1μlをL鎖増幅用反応液で48サイクル
7; C細胞 50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル)
8; C細胞 10サイクル後1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
9; C細胞 10サイクル後1μlをL鎖増幅用反応液で48サイクル
10; D細胞 H鎖増幅用反応液で50サイクル(10サイクル後続けて40サイクル) 11; D細胞 H鎖増幅用反応液で10サイクル後 1μlをH鎖増幅用反応液で48サイクル
【図6】 図6は、ベクターpSCCA4-E8dの構築手順を示すフローチャートである。
【図7】 図7は、ベクターscNcopFCAH9-E8VHdVLdの構成(一部の配列)を示す図である。
【図8】 図8は、ベクターscNcopFCAH9-E8VHdVLdの構成(図7に示す配列の続き)を示す図である。
【図9】 図9は、ベクターpSCCA4-E8dの構成(一部の配列)を示す図である。
【図10】 図10は、ベクターpSCCA4-E8dの構成(図9に示す配列の続き)を示す図である。
【図11】 図11は、実施例8における発色試験の結果を示すグラフである。各サンプルにおける吸光度(波長492)が表される。PBSはネガティブコントロールである。
【図12】 図12は、ヒト抗体産生細胞を蛍光染色した結果を示す図である。左欄は、Alexa488標識インフルエンザワクチンによる染色像であり、右欄はPE標識抗ヒトIgG抗体による染色像である。
Claims (19)
- 以下のステップ(a)〜(d)を含む、抗体作製方法:
(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;
(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;
(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ;及び
(d)調製した抗体遺伝子を、発現ベクターを用いて発現させるステップ。 - 前記ステップ(b)において1個の標識化ターゲット細胞が分離される、請求項1に記載の抗体作製方法。
- 前記ステップ(b)が、マニピュレーション、限外希釈法、又はフローサイトメトリーによって実行される、請求項1又は2に記載の抗体作製方法。
- 前記ステップ(c)が、前記標識化ターゲット細胞のゲノムDNAを鋳型として用いた核酸増幅反応によって実行される、請求項1〜3のいずれかに記載の抗体作製方法。
- 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子が調製される、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体作製方法。
- 前記ステップ(c)において、L鎖可変領域遺伝子が調製される、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体作製方法。
- 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が調製される、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体作製方法。
- 前記発現ベクターがリンカー配列を有し、
前記ステップ(d)において、前記リンカー配列を介して連結されるように前記H鎖可変領域遺伝子及び前記L鎖可変領域遺伝子が前記発現ベクターに挿入される、請求項7に記載の抗体作製方法。 - 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子が調製され、
前記発現ベクターが、H鎖定常領域をコードする第1配列と、及びL鎖定常領域をコードする第2配列とを有し、
前記ステップ(d)において、前記H鎖可変領域遺伝子が前記第1配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入され、且つ前記L鎖可変領域遺伝子が前記第2配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入される、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体作製方法。 - 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子と、並びにL鎖可変領域及びL鎖定常領域をコードするL鎖遺伝子とが調製され、
前記発現ベクターが、H鎖定常領域ををコードする配列を有し、
前記ステップ(d)において、前記H鎖可変領域遺伝子が前記配列と連結されるように前記発現ベクターに挿入され、且つ前記L鎖遺伝子が前記ベクターに挿入される、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体作製方法。 - 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域鎖遺伝子が調製され、
前記ステップ(d)が以下のステップを含む、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抗体作製方法:
前記H鎖可変領域遺伝子を、H鎖定常領域遺伝子を有する第1発現ベクターに挿入し、H鎖可変領域とH鎖定常領域とが接続されたH鎖を発現させるステップ;及び
前記L鎖可変領域遺伝子を、L鎖定常領域遺伝子を有する第2発現ベクターに挿入し、L鎖可変領域とL鎖定常領域とが接続されたL鎖を発現させるステップ。 - 前記ステップ(c)において、H鎖可変領域遺伝子と、並びにL鎖可変領域及びL鎖定常領域をコードするL鎖遺伝子とが調製され、
前記ステップ(d)が以下のステップを含む、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抗体作製方法:
前記H鎖可変領域遺伝子を、H鎖定常領域遺伝子を有する第1発現ベクターに挿入し、H鎖可変領域とH鎖定常領域とが接続されたH鎖を発現させるステップ;及び
前記L鎖遺伝子を第2発現ベクターに挿入し、L鎖可変領域とL鎖定常領域とが接続されたL鎖を発現させるステップ。 - 前記ステップ(d)においてIgGクラスの抗体が構築される、請求項9〜12のいずれかに記載の抗体作製方法。
- 前記ターゲット細胞がヒト細胞である、請求項1〜13のいずれかに記載の抗体作製方法。
- 前記標識化抗原が、蛍光物質、ビオチン、又はマグネットビーズで標識された抗原である、請求項1〜14のいずれかに記載の抗体作製方法。
- 請求項1〜15のいずれかの抗体作製方法によって得られた抗体。
- 以下のステップ(a)〜(c)を含む、抗体遺伝子調製方法:
(a)目的の抗体が認識する抗原を標識化してなる標識化抗原を、前記抗体を産生するターゲット細胞を含む細胞集団に接触させ、前記標識化抗原を前記ターゲット細胞に結合させるステップ;
(b)ステップ(a)によって得られる標識化ターゲット細胞を分離するステップ;及び
(c)分離した標識化ターゲット細胞を用いて、それが保有する抗体遺伝子を調製するステップ。 - 以下のステップ(i)〜(iii)を含む、遺伝子調製方法:
(i)細胞集団内の特定の性質を有する細胞を標識化するステップ;
(ii)ステップ(i)によって得られる標識化細胞を分離するステップ;及び
(iii)分離した標識化細胞を用いて、目的の遺伝子を調製するステップ。 - 前記ステップ(ii)において1個の標識化細胞が分離される、請求項18に記載の遺伝子調製方法。
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