本発明者は鋭意研究の結果、光学フィルムを一定の室温条件から、高温に曝した後、再び元の一定の室温条件に戻した時に短時間に元の寸法に戻るセルロースエステルフィルムを使用することで、上記課題が達成できることを見出した。
前記特許文献1〜4では吸湿膨張係数、水浸漬時の膨張、熱膨張係数を一定値以下としたセルロースエステルフィルムを提案しているが、本発明者は変化率が小さいことが寄与するのではなく、変化した後に元の条件に戻した時にいかに元の寸法に早く戻る物性を有しているかがポイントとなることを見出した。
即ち、変化は微小変化の連続したものであり、その積算であり、その結果が寸法の大きなズレとなり、画面の周辺部の光漏れ現象が発生する結果となる。これに対し、変化が生じても、常に基準の元の寸法に戻る物性を有していれば、積算がなく、画面の周辺部の光漏れ現象が生じないということを見出し、本発明に至ったものである。
具体的には、セルロースエステルと可塑剤を主成分とするフィルム形成材料を、120〜250℃の溶融温度(Tm)で加熱して溶融押出し製膜して作製する光学フィルムにおいて、前記高温寸法戻り係数を0.1%以下とする光学フィルムにより、環境負荷の高いハロゲン系溶剤を用いず溶融流延法により、温湿度変化があっても光漏れの少ない光学フィルムが得られることを見出した。高温寸法戻り係数は最も好ましくは0%である。
セルロースエステル光学フィルムを本発明の高温寸法戻り係数を0.1%以下とするためには、水分を0.1%以下に水分除去したセルロースエステルと可塑剤を主成分とするフィルム形成材料を120〜250℃の溶融温度(Tm)で加熱溶融して溶融押出し製膜することが最も有効である。
以下本発明を詳細に説明する。
〔溶融流延法〕
本発明は、溶融流延によって形成されセルロースフィルムを光学フィルムとして用いることを特徴とする。本発明では、溶液流延に用いる溶媒を用いずに、フィルム形成材料を加熱溶融し流延することを溶融流延として定義する。
加熱溶融する成形法は、詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類できる。これらの中で、本発明では、機械的強度及び表面精度等に優れる光学フィルムを得るために、溶融押し出し法を用いる。
ここでフィルム形成材料が加熱されて、その流動性を発現させた後、ドラム上またはエンドレスベルト上に押し出し製膜する方法が溶融流延製膜法として本発明の溶融流延法に含まれる。
〔セルロースエステル〕
本発明に用いるセルロースエステルは、脂肪酸アシル基、置換もしくは無置換の芳香族アシル基の中から少なくともいずれかの構造を含む、セルロースの前記単独または混合酸エステルである。
本発明の光学フィルムを構成する前記セルロースエステルとしては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
混合脂肪酸エステルの置換度として、さらに好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂である。
式(I) 2.6≦X+Y≦3.0
式(II) 0≦X≦2.5
この内、特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも1.9≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦0.9であることが好ましい。上記アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているのものである。これらは公知の方法で合成することができる。
さらに、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0であり、さらに好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
本発明に用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
〔揮発成分の除去〕
溶融流延法による製膜は、溶液流延法と著しく異なり、流延する材料に揮発成分が存在すると、フィルムや位相差フィルムとしての機能を活用するためのフィルムの平面性及び透明性確保の点から好ましくない。これは製膜されたフィルムに揮発成分が混入すると透明性が低下すること、及びダイ−スリットから押し出しされて製膜されたフィルムを得る場合、フィルム表面に筋が入る要因となり平面性劣化を誘発することがある。従って、フィルム形成材料を製膜加工する場合、加熱溶融時に揮発成分の発生を回避する観点から、製膜するための溶融温度よりも低い領域に揮発する成分が存在することは好ましくない。
前記揮発成分とは、フィルム形成材料のいずれかが例えば吸湿した水分、または材料の購入前または合成時に混入している溶媒が挙げられ、加熱による蒸発、昇華あるいは分解による揮発が挙げられる。ここでいう溶媒とは溶液流延として樹脂を溶液として調整するための溶媒と異なり、フィルム形成材料に微量に含まれるものである。従ってフィルム形成材料を選択することは、揮発成分の発生を回避する上で重要である。
本発明の溶融流延に用いるフィルム形成材料の主成分であるセルロースエステルは、水分を0.1質量%以下に除去することが好ましく、より好ましくは0.01質量%以下、最も好ましくは未検出である。セルロースエステルの水分は、ASTM−D817−96により測定することができる。
その他、本発明の溶融流延に用いるフィルム形成材料の揮発成分を、製膜する前に、または加熱時に除去することが好ましい。この除去する方法は、所謂公知の乾燥方法が適用でき、加熱法、減圧法、加熱減圧法等の方法で行うことができ、空気中または不活性ガスとして窒素を選択した雰囲気下で行ってもよい。これらの公知の乾燥方法を行うとき、フィルム形成材料が分解しない温度領域で行うことが得られた光学フィルムの品質上好ましい。
例えば、前記乾燥工程で除去した後の残存する水分または溶媒は、各々フィルム形成材料の全体に質量に対して20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下にすることである。
このときの乾燥温度は、製膜前に乾燥することにより、揮発成分の発生を削減することができ、樹脂単独、または樹脂とフィルム形成材料の内樹脂以外の少なくとも1種以上の混合物または相溶物に分割して乾燥することができる。好ましい乾燥温度は100℃以上乾燥する材料のTg以下であることが好ましい。材料同士の融着を回避する観点を含めると、乾燥温度は、より好ましくは100℃以上(Tg−5)℃以下である。好ましい乾燥時間は0.5〜24時間、より好ましくは1〜18時間、さらに好ましくは1.5〜12時間である。これらの範囲よりも低いと揮発成分の除去率が低いか、または乾燥の時間にかかり過ぎることがあり、また乾燥する材料にTgが存在するときには、Tgよりも高い乾燥温度に加熱すると、材料が融着して取り扱いが困難になることがある。
乾燥工程は2段階以上の分離してもよく、例えば予備乾燥工程による材料の保管と、製膜する直前〜1週間前の間に行う直前乾燥工程を介して製膜してもよい。
〔可塑剤〕
本発明の光学フィルムに可塑剤として知られる化合物を添加することは、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水分透過率の低減等のフィルムの改質の観点から必要である。また本発明で行う溶融流延法においては、用いるセルロースエステル単独のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム形成材料の溶融温度を低下させる目的、または同じ加熱温度においてセルロースエステルよりも可塑剤を含むフィルム形成材料の粘度が低下できる目的を含んでいる。
ここで、本発明において、フィルム形成材料の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態において、材料が加熱された温度を意味する。
セルロースエステル単独では、ガラス転移温度よりも低いとフィルム化するための流動性は発現されない。しかしながらセルロースエステルは、ガラス転移温度以上において、熱量の吸収により弾性率あるいは粘度が低下し、流動性が発現される。フィルム形成材料を溶融させるためには、添加する可塑剤がセルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつことが上記目的を満たすために好ましい。
本発明に用いる可塑剤としては、例えばリン酸エステル誘導体、カルボン酸エステル誘導体が好ましく用いられる。また、特開2003−12859号に記載の重量平均分子量が500以上10000以下であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマー等も好ましく用いられる。
リン酸エステル誘導体としては、例えば、可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、エチレングリコールエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、ジグリセリンエステル系可塑剤(脂肪酸エステル)、多価アルコールエステル系可塑剤、ジカルボン酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。この中でも多価アルコールエステル系可塑剤、ジカルボン酸エステル系可塑剤及び多価カルボン酸エステル系可塑剤が好ましい。また、可塑剤は液体であっても固体であってもよく、組成物の制約上無色であることが好ましい。熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上、さらに200℃以上が好ましい。添加量は光学物性・機械物性に悪影響がなければよく、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択され、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは0.001〜50質量部、より好ましくは0.01〜30質量部である。特に0.1〜15質量%が好ましい。
以下、本発明に用いられる可塑剤について説明する。具体例はこれらに限定されるものではない。
リン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸アルキルエステル、トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等のリン酸シクロアルキルエステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート等のリン酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
またエチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等のリン酸エステルが挙げられる。これらの置換基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
さらにリン酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。上記化合物の中では、リン酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
エチレングリコールエステル系の可塑剤:具体的には、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジブチレート等のエチレングリコールアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジシクロプロピルカルボキシレート、エチレングリコールジシクロヘキルカルボキシレート等のエチレングリコールシクロアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジ4−メチルベンゾエート等のエチレングリコールアリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにエチレングリコール部も置換されていてもよく、エチレングリコールエステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
グリセリンエステル系の可塑剤:具体的にはトリアセチン、トリブチリン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンオレートプロピオネート等のグリセリンアルキルエステル、グリセリントリシクロプロピルカルボキシレート、グリセリントリシクロヘキシルカルボキシレート等のグリセリンシクロアルキルエステル、グリセリントリベンゾエート、グリセリン4−メチルベンゾエート等のグリセリンアリールエステル、ジグリセリンテトラアセチレート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンテトララウレート、等のジグリセリンアルキルエステル、ジグリセリンテトラシクロブチルカルボキシレート、ジグリセリンテトラシクロペンチルカルボキシレート等のジグリセリンシクロアルキルエステル、ジグリセリンテトラベンゾエート、ジグリセリン3−メチルベンゾエート等のジグリセリンアリールエステル等が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにグリセリン、ジグリセリン部も置換されていてもよく、グリセリンエステル、ジグリセリンエステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
多価アルコールエステル系の可塑剤:具体的には、特開2003−12823公報の段落30〜33記載の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、さらに置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらに多価アルコール部も置換されていてもよく、多価アルコールの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
ジカルボン酸エステル系の可塑剤:具体的には、ジドデシルマロネート(C1)、ジオクチルアジペート(C4)、ジブチルセバケート(C8)等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
多価カルボン酸エステル系の可塑剤:具体的には、トリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルトキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。さらにフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
ポリマー可塑剤:具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は、1,000〜500,000程度が好ましく、特に好ましくは、5,000〜200,000である。1,000以下では揮発性に問題が生じ、500,000を超えると可塑化能力が低下し、セルロースエステル誘導体組成物の機械的性質に悪影響を及ぼす。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。
上記可塑剤の中でも熱溶融時に揮発成分を生成しないことが好ましい。具体的には特表平6−501040号に記載されている不揮発性燐酸エステルが挙げられ、例えばアリーレンビス(ジアリールホスフェート)エステルや上記例示化合物の中ではトリメチロールプロパントリベンゾエート等が好ましいがこれらに限定されるものではない。揮発成分が上記可塑剤の熱分解によるとき、上記可塑剤の熱分解温度Td(1.0)は、1.0質量%減少したときの温度と定義すると、フィルム形成材料の溶融温度よりも高いことが求められる。可塑剤は、上記目的のために、セルロースエステルに対する添加量が他のフィルム形成材料よりも多く、揮発成分の存在は得られるフィルムの品質に与える劣位となる影響が大きいためである。熱分解温度Td(1.0)は、市販の示差熱重量分析(TG−DTA)装置で測定することができる。
〔添加剤〕
本発明のセルロースエステルの加熱溶融前または加熱溶融時に添加剤を添加することができる。
添加剤として、前記可塑剤の他、劣化防止剤(酸化防止剤、酸捕捉剤、光安定剤、過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤)、紫外線吸収剤、マット剤等を用いることが好ましい。また、上記機能を有するものであれば、これに分類されない添加剤も用いられる。
フィルム形成材料の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等、解明できていない分解反応を含めて、着色や分子量低下に代表される変質や材料の分解による揮発成分の生成を抑制するために、また透湿性、易滑性といった機能を付与するために添加剤を用いる。
一方、フィルム形成材料を加熱溶融すると分解反応が著しくなり、この分解反応によって着色や分子量低下に由来した形成材料の強度劣化を伴うことがある。またフィルム形成材料の分解反応によって、好ましくない揮発成分の発生も併発することもある。
フィルム形成材料を加熱溶融するとき、上述の添加剤が存在することは、材料の劣化や分解に基づく強度の劣化を抑制すること、または材料固有の強度を維持できる観点で優れており、本発明の光学フィルムを製造できる観点から上述の添加剤が存在することが好ましい。
また、上述の添加剤の存在は、加熱溶融時において可視光領域の着色物の生成を抑制すること、または揮発成分がフィルム中に混入することによって生じる透過率やヘイズ値といった光学フィルムとして好ましくない性能を抑制または消滅できる点で優れている。
液晶表示装置の表示画像は、本発明の光学フィルムを用いるときヘイズ値が2%を超えると影響を与えるため、好ましくはヘイズ値は1%未満、より好ましくは0.5%未満である。また着色性の指標としては黄色度(イエローインデックス、YI)を用いることができ、好ましくは3.0以下、より好ましくは1.0以下である。
また、本発明の光学フィルムは、透過率85%以上であることが好ましい。
フィルム製造時、リタデーションを付与する工程において、該フィルム形成材料の強度の劣化を抑制すること、または材料固有の強度を維持できることにある。フィルム形成材料が著しい劣化によって脆くなると、該延伸工程において破断が生じやすくなり、リタデーション値の制御ができなくなることがある。
上述のフィルム形成材料の保存あるいは製膜工程において、空気中の酸素あるいは水分による劣化反応が併発することがある。この場合、上記添加剤の作用とともに、空気中の湿度・酸素濃度を低減させることも本発明を具現化する上で好ましく併用できる。これは、公知の技術として不活性ガスとして窒素やアルゴンの使用、減圧〜真空による脱気操作、及び密閉環境下による操作が挙げられ、これら3者の内少なくとも1つの方法を上記安定剤を存在させる方法と併用することができる。フィルム形成材料が空気中の酸素と接触する確率を低減することにより、該材料の劣化が抑制でき、本発明の目的のためには好ましい。
また、本発明の光学フィルムは、偏光板保護フィルムとして活用するため、本発明の偏光板及び偏光板を構成する偏光子に対して経時保存性を向上させる観点からも、フィルム形成材料中に上述の添加剤の存在が重要な役割を担う。
本発明の偏光板を用いた液晶表示装置において、本発明の光学フィルムに上述の添加剤が存在すると、上記の変質や劣化を抑制する観点から光学フィルムの経時保存性が向上できるとともに、液晶表示装置の表示品質向上においても光学的な補償設計が長期にわたって機能発現できる点で優れている。
以下、各添加剤について、さらに詳述する。
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐熱加工安定剤、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成型時の熱や酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロ−スエステル100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤化合物は既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されており、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。
ヒンダードフェノール化合物の具体例には、n−オクタデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル=β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル=α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコール=ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン=3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル=3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコール=ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコール=ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトール−テトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル=7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリトリトール−テトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。上記タイプのヒンダードフェノール系酸化防止剤は、例えば、Ciba Specialty Chemicalsから、”Irganox1076”及び”Irganox1010”という商品名で市販されている。
その他の酸化防止剤としては、具体的には、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等の耐熱加工安定剤、特公平08−27508記載の3,4−ジヒドロ−2H−1−ベンゾピラン系化合物、3,3′−スピロジクロマン系化合物、1,1−スピロインダン系化合物、モルホリン、チオモルホリン、チオモルホリンオキシド、チオモルホリンジオキシド、ピペラジン骨格を部分構造に有する化合物、特開平3−174150号記載のジアルコキシベンゼン系化合物等の酸素スカベンジャー等が挙げられる。これら酸化防止剤の部分構造が、ポリマーの一部、あるいは規則的にポリマーへペンダントされていてもよい。
(酸捕捉剤)
セルロースエステルは高温下では酸によっても分解が促進されるため、本発明の光学フィルムにおいては酸捕捉剤を含有することが好ましい。
本発明において有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているエポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシド等の縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテル等、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22この炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)等)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド等(例えば、エポキシ化大豆油等)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815Cも好ましく用いることができる。
さらに上記以外に用いることが可能な酸捕捉剤としては、オキセタン化合物やオキサゾリン化合物、あるいはアルカリ土類金属の有機酸塩やアセチルアセトナート錯体、特開平5−194788号公報の段落68〜105に記載されているものが含まれる。
なお酸捕捉剤は酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることができる。
(光安定剤)
本発明において、製造後に偏光子保護フィルムとして晒される外光や液晶ディスプレイのバックライトからの光に対する安定化剤として、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)化合物が挙げられ、これは既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄及び米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含等まれる。
ヒンダードアミン光安定剤化合物の具体例には、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−アリル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(4−t−ブチル−2−ブテニル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−エチル−4−サリチロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル−β(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1−ベンジル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルマレイネート(maleinate)、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−アジペート、(ジ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−セバケート、(ジ−1−アリル−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−4−イル)−フタレート、1−アセチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、トリメリト酸−トリ−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)エステル、1−アクリロイル−4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ジブチル−マロン酸−ジ−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジベンジル−マロン酸−ジ−(1,2,3,6−テトラメチル−2,6−ジエチル−ピペリジン−4−イル)−エステル、ジメチル−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オキシ)−シラン,トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフィット、トリス−(1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ホスフェート,N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアミン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−ヘキサメチレン−1,6−ジアセトアミド、1−アセチル−4−(N−シクロヘキシルアセトアミド)−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン、4−ベンジルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジブチル−アジパミド、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−N,N′−ジシクロヘキシル−(2−ヒドロキシプロピレン)、N,N′−ビス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−p−キシリレン−ジアミン、4−(ビス−2−ヒドロキシエチル)−アミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリルアミド−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、α−シアノ−β−メチル−β−[N−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)]−アミノ−アクリル酸メチルエステル等が挙げられる。
本発明に用いられるフィルム形成材料中の安定化剤は、少なくとも1種以上選択でき、添加する量は、セルロースエステルの質量に対して、光安定化剤の添加量は0.001〜5質量が好ましく、より好ましくは0.005〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.8質量%である。
(紫外線吸収剤)
本発明の光学フィルムを液晶セルに対して外側に用いる偏光子保護フィルムとして用いる場合には、さらに紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤とは、製造後に使用される環境下で紫外線によってフィルムを構成する材料が分解することを防ぐ効果のある材料である。セルロースエステル自体は比較的紫外線に対して強い材料であるが、その他の添加剤については紫外線に対して弱い化合物である場合もあるし、偏光子や液晶セルも紫外線に対して弱いものであるため、少なくとも外光が当たる側の偏光子保護フィルムや、液晶ディスプレイのバックライトが入射する側の偏光子保護フィルムに付いては紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
このような紫外線吸収剤としては、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、特に好ましくはベンゾトリアゾール系化合物である。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
有用なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)234、チヌビン(TINUVIN)360(何れもチバ−スペシャルティ−ケミカルズ社製)を用いることもできる。
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明においては、紫外線吸収剤は0.1〜20質量%添加することが好ましく、さらに0.5〜10質量%添加することが好ましく、さらに1〜5質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
(マット剤)
本発明の光学フィルムは、滑り性を付与するためにマット剤等の微粒子を添加することができ、微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。マット剤はできるだけ微粒子のものが好ましく、微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることができる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低くできるので好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下できるため好ましい。
表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等が挙げられる。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の二次粒子の平均粒径は0.05〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の二次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、さらに好ましくは、7〜14nmである。これらの微粒子はセルロースエステルフィルム中では、セルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。微粒子のセルロースエステル中の含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600等を挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
上記マット剤として用いられるフィルム中の微粒子の存在は、別の目的としてフィルムの強度向上のために用いることもできる。また、フィルム中の上記微粒子の存在は、本発明の光学フィルムを構成するセルロースエステル自身の配向性を向上することも可能である。
(リタデーション上昇剤)
本発明の光学フィルムにおいて配向膜を形成して液晶層を設け、光学フィルムと液晶層由来のリタデーションを複合化して光学補償能を付与して、液晶表示品質の向上のためにこのような偏光板加工を行ってもよい。リタデーションを上昇するために添加する化合物は、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物をリタデーション上昇剤として使用することもできる。また二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
(その他の添加剤)
その他の添加剤としては、例えば、フィラー、シリカやケイ酸塩等の無機化合物、染料、顔料、蛍光体、屈折率調整剤、ガス透過抑制剤等が挙げられる。また、上記機能を有するものであれば、これに分類されない添加剤も用いることができる。
そして、これらの添加剤をセルロースエステルに含有させる方法としては、各々の材料を固体あるいは液体のまま混合し、加熱溶融し混練して均一な溶融物とした後、流延して光学フィルムを形成する方法であっても、予め全ての材料を溶媒等を用いて、溶解して均一溶液とした後、溶媒を除去して、添加剤とセルロースエステルの混合物を形成し、これを加熱溶融し、流延して光学フィルムを形成してもよい。
上記添加剤の中では、劣化防止剤、紫外線吸収剤、マット剤の少なくとも1種が添加されていることが好ましく、さらにこれらが全て添加されていることが好ましい。
〔光学フィルムの製造〕
本発明の光学フィルムは、例えば米国特許第2,492,978号、同第2,739,070号、同第2,739,069号、同第2,492,977号、同第2,336,310号、同第2,367,603号、同第2,607,704号、英国特許第64,071号、同第735,892号、特公昭45−9074号、同49−4554号、同49−5614号、同60−27562号、同61−39890号、同62−4208号に記載の方法を参照して製膜できる。
例えば、セルロースエステル及び添加剤の混合物を、熱風乾燥または真空乾燥した後、溶融押出し、Tダイよりフィルム状に押出して、50〜150℃に温調されたロールで引取ることができる。このとき2本のロールでニップすることが平面性向上の観点から好ましい。
溶融押出しは、単軸押出し機、多軸押出し機を用いるが、前述した添加剤を均一分散する観点から多軸押出し機を用いることが好ましい。このとき、単軸押出機または多軸押出機中に原料が滞留する時間が5分以下とすることが好ましい。押出し機内での原料の昇温による劣化を避けるためである。前記溶融押出し時の温度は120〜250℃であることが必要である。また、溶融押出し時の温度はTg〜Tg+100℃であることが好ましい。さらにTg+10〜Tg+90℃であることが好ましい。
さらに、原料タンク、原料の投入部、押出し機内といった原料の供給、溶融工程を、窒素ガス等の不活性ガスで置換、あるいは減圧することが好ましい。
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルム(位相差フィルム)として偏光板を作製する場合、光学フィルムは、幅手方向もしくは製膜方向に延伸製膜されたフィルムであることが好ましい。
溶融流延後のフィルム形状での冷却段階で延伸処理して、フィルム温度が(Tm−20)〜(Tm+80)℃の条件で、101〜200%の延伸処理して、面内方向のリタデーションRoが30〜200nm、厚み方向のリタデーションRtが70〜400nmの位相差フィルムとすることが好ましい。
前述の冷却ロールから剥離され、得られた未延伸フィルムを複数のロール群及び/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介して加熱し、一段または多段縦延伸することが好ましい。次に、上記のようにして得られた縦方向に延伸されたセルロースエステルフィルムを横延伸し、次いで熱固定することが好ましい。
横延伸する場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃の範囲で順次昇温しながら横延伸すると、幅方向の物性の分布が低減でき好ましい。さらに横延伸後、フィルムをその最終横延伸温度以下でTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持すると幅方向の物性の分布がさらに低減でき好ましい。
熱固定は、その最終横延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定する。この際、2つ以上に分割された領域で温度差を1〜100℃の範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向及び/または縦方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。なお、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとしたとき、(T1−Tg)/tで求めた値である。
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルにより異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
本発明の光学フィルムは偏光板保護フィルム用として用いることができる。偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた光学フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて、偏光子の両面に偏光板保護フィルムを貼り合わせる方法があり、少なくとも片面に本発明の偏光板保護フィルムである光学フィルムが偏光子に直接貼合できる観点で好ましい。
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
(延伸操作、屈折率制御)
本発明の光学フィルムは、延伸操作により屈折率制御を行うことができる。延伸操作としては、セルロースエステルの1方向に1.0〜2.0倍及びフィルム面内にそれと直交する方向に1.01〜2.5倍延伸することで好ましい範囲の屈折率に制御することができる。
例えばフィルムの長手方向及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次または同時に延伸することができる。このとき少なくとも1方向に対しての延伸倍率が小さ過ぎると十分な位相差が得られず、大き過ぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
例えば溶融して流延した方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大き過ぎると、フィルムの厚み方向の屈折率が大きくなり過ぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、テンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、所謂ボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、該流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。
さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより、得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、液晶ディスプレイに用いたとき着色等のムラが問題となることがある。
セルロースエステルフィルム支持体の膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上のような目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅方向に1.01〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅方向に1.05〜2.0倍に範囲で行うことが好ましい。
応力に対して、正の複屈折を得るセルロースエステルを用いる場合、幅方向に延伸することで、光学フィルムの遅相軸が幅方向に付与することができる。この場合、本発明において、表示品質の向上のためには、光学フィルムの遅相軸が、幅方向にある方が好ましく、(幅方向の延伸倍率)>(流延方向の延伸倍率)を満たすことが好ましい。
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法等が挙げられる。もちろんこれらの方法は、組み合わせて用いてもよい。また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
製膜工程のこれらの幅保持あるいは横方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
本発明の光学フィルムは、表面粗さRaが1μm以下であることが好ましい。Raが1μmより大きいと、前述した各種機能層を設けた場合に表面が凹凸になったり、凸状欠陥として残ったりして、平滑性、光沢感が損なわれることがある。Raを1μm以下にするためには、溶融押出し直後の引取りロールや延伸ロールの表面を鏡面としたり、ロールで引き取った直後に鏡面ロール同士でニップしたり、タテ及びまたはヨコ延伸の温度、倍率、延伸速度を適切に選定することで達成される。また、溶融押出しダイのリップエッヂをシャープ化したり、ダイ内部の溶融樹脂と接触する面を鏡面化することもRaを低減するのに有効である。
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとした場合、該保護フィルムの厚さは10〜500μmが好ましい。特に20μm以上、さらに35μm以上が好ましい。また、150μm以下、さらに120μm以下が好ましい。特に好ましくは25〜90μmが好ましい。上記領域よりも光学フィルムが厚いと偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎ、ノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的には適さない。一方、上記領域よりも薄いと、リタデーションの発現が困難となること、フィルムの透湿性が高くなり偏光子に対して湿度から保護する能力が低下してしまうために好ましくない。
本発明の光学フィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1〜+1°であることが好ましく、−0.5〜+0.5°であることがより好ましい。このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器)を用いて行うことができる。
θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
また、偏光板の作製時には、本発明に係る位相差フィルムの面内遅相軸と偏光子の透過軸が実質的に平行になるように貼合することが好ましい。この場合、特に長尺フィルムを用いてロール トゥ ロールで貼合することが生産上好ましい。これによって、黒表示のときの光漏れが著しく改善され、15型以上、好ましくは19型以上の大画面の液晶表示装置であっても、画面周辺部での白抜け等もなく、その効果が湿度変動が大きい環境下であっても、安定した視野角特性が長期間維持され、特にMVA(Multi−domein Vertical Alignment)型液晶表示装置では顕著な効果が認められる。また、TN、VA、OCB、HAN等の各種駆動方式を採用した液晶表示装置の視野角特性を最適化することができ、特にVA方型において効力を発揮する。
(液晶表示装置)
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムにはクリアハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。また光学補償層を設けた偏光子保護フィルムや、延伸操作等によりそれ自身に適切な光学補償能を付与した偏光子保護フィルムの場合には、液晶セルと接する部位に配置することで、優れた表示性が得られる。
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
実施例1
〔位相差フィルム1の作製〕
〈酸化ケイ素分散液の調製〉
アエロジル200V(日本アエロジル(株)製) 1kg
エタノール 9kg
上記素材をディゾルバで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリン型高圧分散装置を用いて分散を行った。
〈添加液Aの調製〉
セルロースアセテート(アセチル置換度:60.3%) 4kg
メチレンクロライド 76kg
チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ社製) 3kg
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製) 4kg
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ社製) 4kg
上記素材を密閉容器に投入し、加熱、撹拌しながら、完全に溶解、濾過した。これに9kgの上記酸化ケイ素分散液を撹拌しながら加えて、さらに30分間撹拌した後、濾過し、添加液Aを調製した。
(ドープAの調製)
トリフェニルフォスフェート 15kg
エチルフタリルエチルグリコレート 5kg
リタデーション上昇剤A 7.7kg
メチレンクロライド 640kg
エタノール 120kg
セルロースアセテート(アセチル置換度:60.3%) 220kg
上記素材を順に、攪拌しながら密閉容器に投入し、加熱、撹拌しながら、完全に溶解、混合した。ドープを流延する温度まで下げて一晩静置し、脱泡操作を施した後、溶液を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。さらに、この溶液100kgあたり添加液Aを2kgの割合で添加し、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機Hi−Mixer SWJ)で十分混合した後、濾過してドープAを調製した。
(セルロースエステルの置換度の測定)
上記ドープAの調製に用いたセルロースエステルの置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定した。
上記調製したドープAを用いて下記のようにして位相差フィルム1を作製した。
ドープAを濾過した後、ベルト流延装置を用い、ドープ温度35℃で30℃のステンレスバンド支持体上に均一に流延した。その後、剥離可能な範囲まで乾燥させた後、ステンレスバンド支持体上からウェブを剥離した。このときのウェブの残留溶媒量は80%であった。
ステンレスバンド支持体から剥離した後、85℃の乾燥ゾーンをロール搬送しながら乾燥させた後、残留溶媒量が35質量%未満となったところで、2軸延伸テンターでTD方向(幅手方向)及びMD方向(製膜方向)に延伸しながら90℃で乾燥させ、さらにロール搬送しながら125℃の乾燥ゾーンで乾燥を終了させ、位相差フィルム1を作製した。位相差フィルム1のTD方向の延伸倍率は1.31、膜厚は82μmであった。巻き取り時の残留溶媒量は0.1質量%未満であった。
〔偏光膜保護フィルム1の作製〕
(ドープ液Bの調製)
セルロースエステル(リンター綿から合成されたセルローストリアセテート)
100質量部
トリフェニルフォスフェート 9.5質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2.2質量部
メチレンクロライド 440質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液Bを調製した。製膜ライン中で日本精線(株)製のファインメットNFでドープ液Bを濾過した。(ドープ液Bの一部は下記のインライン添加液Bの作製にも使用した。)
(二酸化珪素分散液B)
アエロジル200V(日本アエロジル(株)製、一次粒子の平均径12nm、見掛け比重100g/リットル) 2質量部
エタノール 18質量部
以上をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。分散後の液濁度は100ppmであった。二酸化珪素分散液に18質量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散希釈液Bを作製した。
(インライン添加液Bの作製)
メチレンクロライド 100質量部
ドープ液B 34質量部
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 5質量部
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 5質量部
チヌビン326(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 3質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。これに二酸化珪素分散希釈液Bを20質量部を、撹拌しながら加えて、さらに60分間撹拌した後、アドバンテック東洋(株)のポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1Nで濾過し、インライン添加液Bを調製した。
インライン添加液のライン中で、日本精線(株)製のファインメットNFでインライン添加液Bを濾過した。濾過したドープ液Bを100質量部に対し、濾過したインライン添加液Bを2.5質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合し、次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。その後、テンターでTD方向(フィルムの搬送方向と直交する方向)に1.1倍に延伸しながら、130℃の乾燥温度で、乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶剤量は20%であった。その後、120℃、110℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、偏光膜保護フィルム1を得た。偏光膜保護フィルム1の残留溶剤量は0.2%であり、平均膜厚は80μmであった。
〔位相差フィルム2の作製〕
下記の材料を用いて位相差フィルム2を作製した。
〈セルロースエステル〉
C−1:セルロースアセテートプロピオネート(アセチル置換度1.9、プロピオニル基置換度0.8、分子量Mn=70000、分子量Mw=220000、Mw/Mn=3)
C−2:セルロースアセテートプロピオネート(CAP482−20(イーストマンケミカル社製))
C−3:セルロースアセテートブチレート(CAB171−15(イーストマンケミカル社製))
〈可塑剤〉
トリメチロールプロパントリベンゾエート
水分除去していないセルロースエステルC−1、C−2、C−3を等量混合した。これに可塑剤8%を加え、タンブラー型混合機で30分間混合した。水分除去していないセルロースエステルC−1、C−2、C−3の等量混合物の水分は3.5%であった。セルロースエステルの水分は、ASTM−D817−96により測定した。
得られた混合物をテクノベル(株)製二軸押出し機に供給し、溶融押出し、縦横30%延伸してフィルムに成形した。なお、二軸押出し機の模式図を図1に示す。
〔偏光膜保護フィルム2の作製〕
位相差フィルム2の作製において、延伸しないこと以外は同様にして、偏光膜保護フィルム2を作製した。
〔位相差フィルム3の作製〕
位相差フィルム2の作製において、セルロースエステルC−1、C−2、C−3を等量混合し、得られた混合物を除湿熱風式乾燥機((株)松井製作所DMZ2)により熱風温度150℃、露点−36℃で乾燥し、水分を0.1%以下にした以外は同様にして、位相差フィルム3を作製した。
〔偏光膜保護フィルム3の作製〕
位相差フィルム3の作製において、延伸しないこと以外は同様にして、偏光膜保護フィルム3を作製した。
〔位相差フィルム4の作製〕
位相差フィルム3の作製において、可塑剤8%にさらに下記劣化防止剤(酸化防止剤)0.5%を加えた以外は同様にして、位相差フィルム4を作製した。
〈劣化防止剤(酸化防止剤)〉
IRGANOX−1010(チバスペシャルティケミカルズ社製)
〔偏光膜保護フィルム4の作製〕
位相差フィルム4の作製において、延伸しないこと以外は同様にして、偏光膜保護フィルム4を作製した。
〔位相差フィルム5の作製〕
位相差フィルム4の作製において、押出し機中間部に設けてある添加剤ホッパー2の開口部から、下記マット剤を押出し量の0.05%となるように連続式フィーダーにより添加した以外は同様にして、位相差フィルム5を作製した。
〈マット剤〉
アエロジル(AEROSIL)200V(0.016μmのシリカ微粒子、日本アエロジル社製)
〔偏光膜保護フィルム5の作製〕
位相差フィルム5の作製において、延伸しないこと以外は同様にして、偏光膜保護フィルム5を作製した。
〔位相差フィルム6の作製〕
位相差フィルム5の作製において、マット剤とともにさらに下記紫外線吸収剤を押出し機中間部に設けてある添加剤ホッパー2の開口部から、押出し量の0.5%となるように添加した以外は同様にして、位相差フィルム6を作製した。
〈紫外線吸収剤〉
チヌビン(TINUVIN)360(チバスペシャルティケミカルズ社製)
〔偏光膜保護フィルム6の作製〕
位相差フィルム6の作製において、延伸しないこと以外は同様にして、偏光膜保護フィルム6を作製した。
(位相差フィルムの高温寸法戻り係数の測定)
上記作製した位相差フィルムを23℃、55%RH下で24時間以上経過後に、縦方向と横方向について100mmの距離に印を付け、60℃、20%RH下に10時間放置し、23℃、55%RH下に戻して2時間経過した時点で該印の距離を再測定し、その変化率(%)の絶対値を求め、これを高温寸法戻り係数(%)とした。測定結果を表1に示す。
(リタデーションRt、Roの測定)
上記作製した位相差フィルムを自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、3次元屈折率測定を行い、屈折率nx、ny、nzを求めた。下記式に従って、リタデーションRt、Roを算出した。測定結果を表1に示す。
式(i) Ro=(nx−ny)×d
式(ii) Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さをを表す。)
〔偏光板の作製〕
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、沃化カリウム2質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光子を作製した。
上記作製した位相差フィルム及び偏光膜保護フィルムを、40℃の2.5M/L−水酸化ナトリウム水溶液で60秒間アルカリ処理し、さらに水洗乾燥して表面をアルカリ処理した。
前記偏光子の両面に、表1に記載の組み合わせで位相差フィルム及び偏光膜保護フィルムのアルカリ処理面を、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として両面から貼合し、保護フィルムが形成された偏光板1〜6を作製した。
〔偏光板の評価〕
(光漏れ)
作製した偏光板を、80℃ドライ、500時間処理、60℃、90%RH、500時間処理した。次に、富士通製15型ディスプレイVL−150SDの予め貼合されていた両面の偏光板を剥がして、上記温湿処理した偏光板をそれぞれ液晶セルのサイズに合わせて断裁しガラス面に貼合した。偏光板2枚を偏光板の偏光軸がもとと変わらないように互いに直交するように貼り付け、液晶表示装置を作製した。
作製した液晶表示装置を目視により光漏れを暗室中で評価し、下記4段階で評価した。
◎:光漏れなし、ムラ発生なし
○:光漏ほとんどなし
△:微小な光漏れあり
×:光漏れあり
本発明では、◎、○、△が実用可、×は実用不可である。
評価の結果を表1に湿す。
表1から、高温寸法戻り係数が0.1%以下である本発明の光学フィルムを用いた液晶表示装置は、比較例に比べ光漏れが少ないことが分かった。
また、本発明の偏光板を用いた液晶表示装置はコントラストも高く、優れた表示性を示した。比較例はムラ状態が部分的に見られた。これにより、本発明の偏光板は液晶ディスプレイ等の画像表示装置用の偏光板として優れていることが確認された。
実施例2
実施例1の位相差フィルム2の作製において、攪拌機能、減圧ポンプによる吸引排気機構、容器底面の加熱機能、加熱手段及び乾燥窒素の少量供給機構を設けた密閉容器内で、セルロースエステルC−1、C−2、C−3の等量混合物を、80〜90℃、0.3気圧下を維持するようにして乾燥処理時間を変えて処理し、位相差フィルム11〜15を作製した。
次に、実施例1の偏光板2の作製において、位相差フィルム2の代わりに作製した位相差フィルム11〜15を用いて偏光板及び液晶表示装置を作製し、実施例1と同様にして光漏れの評価を行った。
乾燥したセルロースエステルの水分、作製した位相差フィルムの高温寸法戻り係数及び光漏れの評価の結果を表2に示す。
表2から、セルロースエステルの水分が0.1%以下で、高温寸法戻り係数が0.1%以下である本発明の光学フィルムを用いた液晶表示装置は、比較例に比べ光漏れが少ないことが分かった。
また、本発明の偏光板を用いた液晶表示装置はコントラストも高く、優れた表示性を示した。これにより、本発明の偏光板は液晶ディスプレイ等の画像表示装置用の偏光板として優れていることが確認された。