JP2006140134A - 燃料電池用膜電極接合体、その製造方法および燃料電池 - Google Patents

燃料電池用膜電極接合体、その製造方法および燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 三相界面を増大させ、ガス透過性を拡大させ、触媒の利用率を高めることが可能で、発電効率が向上した燃料電池用膜電極接合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくともワイヤ状物質12からなる触媒と、固体高分子電解質13を有する燃料電池用膜電極接合体11において、前記ワイヤ状物質12の表面に微粒子14が付着している燃料電池用膜電極接合体。微粒子は、白金、白金を含む合金または白金を含む混合物からなる。少なくとも表面に微粒子が付着したワイヤ状物質からなる触媒と、固体高分子電解質膜を有する燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、ワイヤ状物質の表面に微粒子を化学蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法または還元法で形成する工程を含む燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【選択図】 図1

Description

本発明は、燃料電池用膜電極接合体、その製造方法および前記膜電極接合体を用いた燃料電池に関する。
燃料電池はカソードに酸素または空気、アノードに水素、メタノール、炭化水素などを用いて電気エネルギーを得る装置であり、クリーンで高い発電効率を得ることができる。電解質の種類により、アルカリ水溶液型、リン酸水溶液型、溶融炭酸塩型などに分類できるが、近年、固体高分子型燃料電池が注目を浴びている。固体高分子型燃料電池は、低温作動のため扱いやすい、電池構造が簡単でメンテナンスが容易、膜が差圧に耐えるため電池の加圧制御が容易、高出力密度が得られるため小型軽量化が可能という利点を有する。
この固体高分子型燃料電池とは、一般にはフッ素樹脂系のイオン交換膜をプロトン伝導体の固体電解質として用い、水素酸化反応及び酸素還元反応を促進する触媒として活性化過電圧が低い白金微粒子が用いられる。電極反応はいわゆる三相界面(電解質−触媒電極−燃料)で起こるが、固体高分子型燃料電池では電解質が固体膜であるために、反応場所が触媒電極と電解質膜との接触界面に限定され、白金の利用率が低下する傾向がある。これを改善した例として、特許文献1などが挙げられる。
特開平6−176765号公報
しかしながら、従来の固体高分子型燃料電池は、表面積を大きくするために直径が数〜数十nmという小さい、且つほぼ球形の微粒子を触媒として用いていたため、微粒子間若しくは触媒担持カーボン間が非常に狭く、電解質が触媒電極間に浸透しない、反応ガスが触媒電極内部に進入できない等の理由により、触媒の利用率が非常に低かった。そのため、従来の固体高分子型燃料電池の優位点を保持した新たな燃料電池用膜電極接合体の開発が強く求められていた。
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、三相界面を増大させ、ガス透過性を拡大させ、触媒の利用率を高めることが可能で、発電効率が向上した燃料電池用膜電極接合体、その製造方法および燃料電池を提供するものである。
すなわち、本発明は、少なくともワイヤ状物質からなる触媒と、固体高分子電解質を有する燃料電池用膜電極接合体において、前記ワイヤ状物質の表面に微粒子が付着していることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体である。
前記微粒子は、白金、白金を含む合金または白金を含む混合物からなることが好ましい。
前記微粒子の平均粒径が20nm以下であることが好ましい。
前記ワイヤ状物質からなる触媒は、固体高分子電解質膜の長さ方向に対して直角方向に配置されており、前記ワイヤ状物質の表面に微粒子が付着してなる触媒表面が固体高分子電解質で被覆されていることが好ましい。
また、本発明は、少なくとも表面に微粒子が付着したワイヤ状物質からなる触媒と、固体高分子電解質膜を有する燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、前記ワイヤ状物質を気相成長法または液相成長法により作製する工程と、該ワイヤ状物質の表面に微粒子を化学蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法または還元法で形成する工程を含むことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法である。
また、本発明は、少なくとも表面に微粒子が付着したワイヤ状物質からなる触媒電極と、固体高分子電解質膜を有する燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、基板上にほぼ直線状に貫通した細孔を有する鋳型を用意する工程と、前記細孔内に触媒となる物質をめっき法により充填する工程と、前記鋳型の一部または全部を酸またはアルカリ溶液で溶解してワイヤ状物質を得る工程と、前記ワイヤ状物質に化学蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法または還元法で微粒子を付着させる工程と、前記ワイヤ状物質からなる触媒及び前記微粒子に固体高分子電解質を被覆させる工程と、前記固体高分子電解質を被覆した前記ワイヤ状物質及び前記微粒子を前記固体高分子電解質膜上に設置し、鋳型を溶解し、基板を除去する工程を含むことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法である。
前記還元法は、金属塩を含む溶液を前記ワイヤ状物質からなる触媒に塗布及び焼成する工程を含むことが好ましい。
前記金属塩は、白金、白金を含む合金または白金を含む混合物からなることが好ましい。
前記鋳型は、アルミナナノホール、シリコンナノホールまたはシリカナノホールを有することが好ましい。
さらに、本発明は、上記の燃料電池用膜電極接合体を用いた燃料電池である。
本発明により、三相界面を増大させ、ガス透過性を拡大させ、触媒の利用率を高めることが可能となり、発電効率が向上した燃料電池用膜電極接合体、その製造方法および前記膜電極接合体を用いた燃料電池を提供することができる。
さらに、本発明の燃料電池は、低温作動のため扱いやすい、電池構造が簡単でメンテナンスが容易、膜が差圧に耐えるため電池の加圧制御が容易、高出力密度が得られるため小型軽量化が可能などの利点を保持する。
以下、さらに詳細に本発明を説明する。
本発明の燃料電池用膜電極接合体は、固体高分子電解質と、触媒層を有する構成からなり、前記触媒層は、少なくとも微粒子が付着したワイヤ状物質からなる触媒を含むことを特徴とする。
ここでは、微粒子が付着したワイヤ状物質の定義と構成、微粒子が付着したワイヤ状物質の製造方法の例、固体高分子電解質膜、供給燃料、燃料電池の構成及び製造方法を詳述する。
(微粒子を付着させたワイヤ状物質について)
図1は、本発明の燃料電池用膜電極接合体の構成を示す模式図である。
本発明における固体高分子型燃料電池の微粒子を付着させたワイヤ状物質とは、図1の膜電極接合体11中に存在するワイヤ状物質12の表面に微粒子14が設置されたものである。13は固体高分子電解質、15は触媒層であり、該触媒層15に微粒子14と該微粒子14が付着したワイヤ状物質12からなる触媒が含まれている。
本発明における微粒子は、ワイヤ状物質を用いた膜電極接合体の特徴である高いガス透過性を維持しつつ、三相界面を増大させることが可能になる。したがって、該微粒子は燃料電池の触媒として機能するものならどのような材料、形状でも用いることができる。
微粒子の材料としては、特に白金、白金を含む合金または白金を含む混合物を用いることが好ましい。白金の合金、若しくは白金を含む混合物として白金と共に含まれる材料は、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、レニウム、コバルト、リチウム、ランタン、ストロンチウム、イットリウム、およびオスミウムなどが例示できる。これらの触媒電極に使用される触媒としては、水素等アノード側燃料の酸化反応および酸素等カソード側燃料の還元反応を促進する材料であればこれらに限られるものではない。また、該微粒子の形状は、反応場が増加するならばどのような形状でも用いることができ、球状、立方体状などが例として挙げられる。
また、微粒子は反応場を増やすことを目的としているため、その平均粒子径は、ワイヤ状物質の径よりも小さいものが好適に用いられ、具体的には20nm以下、好ましくは10nm以下の微粒子を用いることができる。平均粒子径の下限値は特に制限されないが、微粒子が安定に存在するために1nm以上が好ましい。
該微粒子はワイヤ状物質の表面に設置され、ワイヤ状物質と電気的に接合している。ここで、ワイヤ状物質の表面とは、主にワイヤ状物質の側面を指す。このとき、微粒子は図2(a)のようにワイヤ状物質表面の全体に付着していてもよく、図2(b)のように一部に付着していてもよく、また、図2(c)のように微粒子がワイヤ状物質表面に単層で設置される場合に限らず、複数層付着していてもよい。しかし、ワイヤ状物質の利点である空孔が微粒子付着により阻害されることが無いように、近接したワイヤ状物質に設置された微粒子同士が接触しない構成が、好適に用いられる。
次にワイヤ状物質について述べる。ワイヤ状物質とは、細線状に形成された1次元構造体であり、その構造体の長さ方向が構造体の横切断面の重心を通る最大長さよりも長い構造体である。さらに、図3(a)、(b)、(c)、(d)及び(e)に示すように、ワイヤ状物質はテトラポッド状を含む、1点より多数のワイヤ状物質が成長したもの(図3(a))や、樹枝状に形成されたもの(図3(b))や、折れ線状に成長したもの(図3(c))や、メッシュ状に成長したもの(図3(d))や、数珠状に成長したもの(図3(e))等を含み、それぞれのワイヤ状物質が中空状(チューブ状)や板状であるもの等も全てを含む。
また、本発明の膜電極接合体に用いられるワイヤ状物質のアスペクト比は5以上、特に10以上が好ましく、ワイヤ状物質の横切断面の重心を通る最大長さも50nm以下が好ましく、さらに20nm以下が好ましい。ここでアスペクト比とは、図4に示したように、ワイヤ状物質41の横切断面43が円形又は円形に近い状態の形状の場合は径に対する長さ42の比率を表す。ワイヤ状物質41の横切断面43が六角形や図4(b)のように歪んだ図形等の場合は横切断面43の重心44を通る最大長さ45に対する長さの比率を表す。また、図4(c)のようにワイヤ状物質41の横切断面43が輪状の場合は、横切断面43の最外輪46で形成される構造体と仮定し、その重心44を通る最大長さ45に対する長さ42の比率を表す。
ワイヤ状物質の材料は燃料電池の触媒電極となりうる物質なら何でも良く、特に白金、白金を含む合金または白金を含む混合物を用いることが好ましい。白金の合金、若しくは白金を含む混合物として白金と共に含まれる材料は、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、レニウム、コバルト、リチウム、ランタン、ストロンチウム、イットリウム、およびオスミウムなどが例示できるが、触媒電極に使用される触媒としては、水素等アノード側燃料の酸化反応および酸素等カソード側燃料の還元反応を促進する材料であればこれらに限られるものではない。
また、ワイヤ状物質は、図1に示すように固体高分子電解質膜に対して立った状態で設置されていることが好ましい。ワイヤ状物質が立った状態で設置されることにより、ガス透過性および触媒の利用率が高い膜電極接合体を得ることができる。ここでワイヤ状物質が固体高分子電解質膜に対して立った状態とは、ワイヤ状物質が、固体高分子電解質膜の長さ方向に対して直角方向に配置されていることを表す。ワイヤ状物質と固体高分子電解質膜間の角度は60度以上、さらには80度以上の角度で設置されていることが好ましい。さらに、ワイヤ状物質間はある距離をもって設置されていることが望ましい。ワイヤ状物質間は10nm以上、さらには20nm以上距離をもって設置されていることが好ましい。ただし、ワイヤ状物質間の距離が離れすぎていると、膜電極接合体における反応面積の減少につながるため、500nm以下であることが好ましい。
(微粒子を付着させたワイヤ状物質の製造方法)
次に、ワイヤ状物質の作製、ワイヤ状物質表面への微粒子の付着、微粒子付着ワイヤ状物質の固体高分子電解質膜への設置のそれぞれの製造方法について例を挙げながら詳述する。
(1)ワイヤ状物質の作製工程
ワイヤ状物質の作製方法は、例えば溶液中にワイヤ状物質の原料となる金属イオンの存在下で電位を印加したり、還元を行うことによりワイヤ状物質を成長させる液相成長法や、ワイヤ状物質の原料に外部エネルギーを与えることにより気相中でワイヤ状物質を作製する気相成長法等が挙げられるが、これらに限定されるものでは無い。
ここで、気相成長法として、金属原料を蒸発、若しくは昇華させ、その温度よりも低い部位に凝集させてワイヤ状物質を作製する凝縮法や、金属のハロゲン化物を真空中、若しくは不活性ガス中で熱分解させることによりワイヤ状物質を作製する熱分解法、若しくは成長開始点となりうる触媒を用い、その触媒に所望の金属蒸気を反応させることによりワイヤ状物質が成長するVLS法が好適に用いられる。
また、液相成長法として、ワイヤ状物質が形成される鋳型を利用し、所望の金属イオンを電解によって成長させるめっき法や、触媒若しくは光源を利用してワイヤ状物質を成長させる無電解めっき法、若しくは溶液中に還元剤とワイヤ状物質を形成するための界面活性剤等を混合して成長させる還元法が好適に用いられる。
ここでは、シリンダー状の鋳型を用いて溶液中でワイヤ状物質を作製する方法を例として詳述する。
先ず、ワイヤ状物質を作製するための鋳型を準備する。ワイヤ状物質の鋳型として、ここではアルミニウムの陽極酸化により作製されたアルミナナノホールを例に挙げるが、アルミニウムとシリコンを同時にスパッタすることによって作製されるシリコンナノホール、シリカの原料と界面活性剤等を用いることによって作製されるシリカナノホール、また分子の自己組織化によって形成されるポリメタクリル酸メチル等の高分子鋳型などワイヤ状物質の形成が可能な鋳型ならば、どのようなものを用いても良い。
先ず、作用極となるアルミニウム電極と対極となるアルミニウム電極を、恒温水槽により3℃に保持した0.3Mの硫酸水溶液中に設置する。ここで陽極酸化電圧はDC25Vであり、電流値をモニターに表示し、電流値が小さくなった時点で下地層に貫通することを確認する
陽極酸化処理後、純水及びイソプロピルアルコールによる洗浄を行う。
その後、5wt%リン酸溶液中に浸すポアワイド処理を20分行うことにより、平均孔径20nmのアルミナナノホールを作製する。このアルミナナノホールを作製する方法は、例えば特開2000−31462号公報に記載されている方法を用いることができる。
次に、鋳型であるアルミナナノホール中にワイヤ状白金をめっき法により作製する。まず、少なくとも白金イオンが含有された電解液を準備する。この溶液中にアルミナナノホール基板を浸して電位を印加する事により鋳型サイズに応じたワイヤ状白金を作製する事ができる。ここで、白金を含有する塩として使用できる化合物としては、例えば塩化白金(IV)酸、ジニトロジアンミン白金(II)、テトラアンミンジクロロ白金(II)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸カリウム等が挙げられる。また、白金合金をめっき法で作製する場合、上記白金イオンを含む電解液中に所望の金属を含む塩を混入することにより作製できる。
ここでは塩化白金(IV)酸6水和物0.03mol/lおよび硼酸30g/lからなる水溶液を用いてめっきを行い、アルミナナノホール中にワイヤ状白金を作製する方法を示す。ポアワイド処理を行ったアルミナナノホールを上記水溶液中に浸漬し、参照極としてAg/AgCl、対極として白金メッシュを用いて、0.8Vの電位を印加することでアルミナナノホール中に白金を充填することができる。
(2)ワイヤ状物質表面への微粒子付着工程
ワイヤ状物質表面への微粒子付着方法は、例えば化学蒸着法、真空蒸着法若しくはスパッタリング法若しくは還元法があるが、ワイヤ状物質表面に微粒子を付着できるのであれば、これらに限定されるものではない。
ここでは、還元法の中でも、金属塩、特に白金若しくは白金を含む合金若しくは白金を含む混合物の原料である金属塩を含む溶液を前記ワイヤ状物質からなる触媒に塗布、及び焼成することによりワイヤ状物質表面への微粒子を付着させる方法を例として詳述する。
先ず、上記した作製方法により、アルミナナノホール中へワイヤ状白金を充填した試料に対して、5wt%リン酸溶液中に浸すポアワイド処理を20分行うことにより、鋳型であるアルミナナノホールを一部溶解し、ワイヤ状白金の間に隙間を空ける。
次に、0.1mol/l塩化白金(IV)酸6水和物エタノール溶液を上述の試料の隙間内に浸透するように数滴滴下し、空気中300℃で1時間の還元処理を行うことによりワイヤ状物質表面に微粒子を付着させる。ここで、用いる溶液は少なくとも白金イオンが含有された溶液であり、白金を含有する塩として使用できる化合物としては、例えば塩化白金(IV)酸、ジニトロジアンミン白金(II)、テトラアンミンジクロロ白金(II)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸カリウム等が挙げられる。また、還元処理とは、空気中、アルゴン雰囲気中若しくは水素−ヘリウム雰囲気中などで熱処理を行うことが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
(3)微粒子付着ワイヤ状物質の固体高分子電解質膜への設置工程
膜電極接合体の基本構成を図5に示す。触媒51、担体52および固体高分子電解質53からなる構成が一般的である。
この膜電極接合体を用い、燃料として例えばアノード側に水素、カソード側に酸素を用いた場合、以下のような反応が進行する。
Figure 2006140134
この反応式からわかるように、アノード側では供給された燃料が電子とカチオンを発生させ、発生したカチオンのみがカソード側に移動することにより酸素と反応して電子を消費することにより、発電するシステムとなっている。つまり、カソードとアノードは同じ膜電極接合体中に設置されながら、固体高分子電解質で完全に分離されていることが重要である。さらに、上記反応は触媒電極と固体高分子電解質と燃料の3種類の物質における界面で行われるものであるため、より固体高分子電解質が触媒電極上に広範囲に設置されていることが重要であり、且つ燃料が膜電極接合体の深部にまで効率良く供給されることが重要である。そのため、触媒電極材料と固体高分子電解質の混合比も燃料電池の性能向上における重要なパラメーターとなり得る。
まず、三相界面形成のために、微粒子付着ワイヤ状物質の表面に固体高分子電解質を設置する必要がある。例えば、固体高分子電解質をイソプロピルアルコールなどの溶媒中に溶解している溶液を塗布、乾燥することにより、微粒子付着ワイヤ状物質表面全体に固体高分子電解質を設置することができるが、微粒子付着ワイヤ状物質表面に固体高分子電解質を設置できる方法ならばこれに限らない。
ここでは、5%ナフィオン(Nafion)溶液を用いる方法を例として挙げる。上記のような方法で作製した微粒子付着ワイヤ状白金に5%ナフィオン(Nafion)のイソプロピルアルコール溶液をマイクロピペットを用いて50μl滴下することで固体高分子電解質を塗布し、十分に乾燥させる。この工程により、鋳型であるアルミナナノホールと微粒子付着ワイヤ状物質の隙間に固体高分子電解質が入り込み、微粒子付着ワイヤ状物質表面に固体高分子電解質を均一に被覆することができる。
次に、固体高分子電解質膜を準備する工程を述べる。ここでは、市販のNafion膜を使用した。過酸化水素水溶液を80℃に温め、所望の大きさにカッティングしたNafion膜を60分間浸す。過酸化水素処理後に水で洗浄した後、80℃に加熱した硫酸水溶液中にNafion膜を60分間浸す。その後、水で洗浄した後に、乾燥させたものを使用する。
次に、上記前処理を行ったナフィオン膜上に、ナフィオンを塗布した微粒子付着ワイヤ状白金をホットプレスにより接着することにより膜電極接合体を作製する。ここでは、ホットプレス法による膜電極接合体の作製方法について述べるが、微粒子付着ワイヤ状物質を固体高分子電解質膜に対して鉛直方向に設置することができるならば、この方法に限られるものではない。
その後、鋳型であるアルミナナノホールの溶解及び基板の除去を行う。作製された基板含有膜電極接合体を0.1M硫酸水溶液中に2時間浸漬することにより、膜電極接合体から基板を剥離することができ、同時に鋳型であるアルミナナノホールを溶解させる。
以上の製造方法により、微粒子付着ワイヤ状物質が鉛直方向に設置された膜電極接合体を得ることができる。
(固体高分子電解質)
本発明の膜電極接合体の構成成分である固体高分子電解質は、アノード側で発生したカチオンを速やかにカソード側に移動させるために高いイオン伝導性の役割が求められる。固体高分子電解質としてはこうした要求を満たすために、水素イオン伝導性や、メタノール等の有機液体燃料透過性に優れる材料が好ましく用いられる。
具体的には、水素イオン解離が可能な有機基としては、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、リン酸基、水酸基などを有する有機高分子が好ましく用いられる。こうした有機高分子として、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリスチレンスルホン酸樹脂、スルホン化ポリアミドイミド樹脂、スルホン化ポリスルホン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルイミド半透膜、パーフルオロホスホン酸樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂等が例示できる。上記例示した固体高分子電解質が好適に用いられるが、これらに限定されるものでは無い。
(供給燃料について)
固体高分子電解質−触媒複合型の燃料電池の燃料は、アノード側では水素、改質水素、メタノール、ジメチルエーテル等の触媒電極と固体高分子電解質の作用によって電子とカチオンが発生する燃料なら何でもよい。またカソード側では空気や酸素等のカチオンを受け取り電子を取り込む燃料なら何でも良いが、アノード側では水素若しくはメタノール、カソード側では空気を用いることが、反応効率的にも実用的にも適している。
(燃料電池の構成、及び製造方法について)
上記燃料電池の構成の概略図を図6に示す。固体高分子電解質61、アノード触媒層62、カソード触媒層63、アノード側集電板64、カソード側集電板65、外部出力端子66、燃料導入ライン67、燃料排出ライン68、アノード側燃料拡散層69、カソード側燃料拡散層70から成り、触媒層表面の三相界面で化学反応が起こることで電力が発生する。ここで、セルの構成として、例えば図5に示す構成を複数層形成することで発生電圧値及び電流値を高めることができる。この場合、半導体プロセスを応用して上記セルを作製することで、燃料電池システムの小型化、高出力化が可能となる。
また、例えば、燃料としてアノード側に水素、カソード側に空気を用いた場合、アノード側に供給された燃料がもれることのないようにパッキングをすることが重要であり、カソード側は燃料が注入されやすいように空気に対して開放されている事が重要である。また拡散層とは、燃料が容易にセル内に搬入され且つより多く三相界面を形成するために設置した高気孔率を有する導電性部材であり、炭素繊維織物やカーボンペーパー等を好適に用いることができる。
ここで、カチオン交換を行う固体高分子電解質を用いた場合のみではなく、アノード側にカチオン交換膜、カソード側にアニオン交換膜を用いたバイポーラ電解質型燃料電池等の触媒電極にワイヤ状物質を利用したときも、勿論本発明の燃料電池用膜電極接合体が適用される。
以下、実施例を挙げてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
本実施例は、アルミニウム−シリコン混合膜を鋳型として白金めっきを施しワイヤ状物質を作製した後に、白金微粒子を還元法によりワイヤ状物質表面に付着させ、膜電極接合体を作製した例を述べる。
RFマグネトロンスパッタリング法によって、200nmのアルミニウム−シリコン混合膜を、銅を成膜したSiウエハー上に成膜した。使用したターゲットは、バッキングプレート上の4インチ(101.6mm)のアルミニウムターゲット上に15mm角のシリコンチップを6枚おいたものである。スパッタは、RF電源を用いて、Ar流量:50sccm、放電圧力:0.7Pa、投入電力:90Wの条件で行った。また、基板温度は室温とした。このアルミニウム−シリコン構造体薄膜を5wt%りん酸水溶液にて10時間浸し、アルミニウム柱状構造部分のみを選択的にエッチングして細孔を形成した。エッチング後の膜をFE−SEMで観察した結果、平均孔径が約5nmの多孔質の膜になっていることが確認された。
次に、以上のようにして作製したシリコンナノホールの細孔中に、電気メッキで白金の柱状構造体を作製した。上記の工程で作製したアルミナナノホールを白金めっき液(塩化白金酸6水和物0.03mol/lおよび硼酸30g/lからなる水溶液)中に入れた。電気メッキは、以上の溶液中にて参照極としてAg/AgClを用いて、0.8Vの電位を印加し、ワイヤ状白金を作製した。
溶液から基板を取り出し、0.2Mの水酸化ナトリウム水溶液に30分浸漬させることにより鋳型を溶解させ、基板上から成長したワイヤ状白金を作製した。エッチング後の膜をFE−SEMで観察した結果、鋳型を反映してワイヤ状白金の平均径が約5nmの柱状膜になっていることが確認された。柱状の細孔の間隔は約10nmであった。
次に、ワイヤ状物質表面に微粒子を付着させた。塩化白金酸6水和物0.1mol/lエタノール溶液を、基板1cm2に対して約30μlを滴下し、アルゴン雰囲気中250℃で熱処理を行うことにより、白金微粒子付着ワイヤ状物質を得た。還元処理後の膜をFE−SEMで観察した結果、粒径約3nmの微粒子がワイヤ状物質表面に付着していることが確認された。また、この微粒子はEDX分析の結果、白金微粒子であることが確認された。
この白金微粒子付着ワイヤ状物質に5%ナフィオンのイソプロピルアルコール溶液を50μl滴下することで固体高分子電解質を塗布し、十分に乾燥させる。次に、前処理を行ったナフィオン膜上に、ナフィオンを塗布した微粒子付着ワイヤ状白金をホットプレスにより接着することにより膜電極接合体を作製する。その後、作製された基板含有膜電極接合体を0.1M硫酸水溶液中に1時間浸漬することにより、膜電極接合体から基板を剥離することができる。このようにして膜電極接合体を作製し、アノード側に水素、カソード側に空気を燃料として注入するセルを組み上げた。
比較例として、平均粒径が5nmの白金微粒子からなる膜電極接合体の作製方法を述べる。白金微粒子1gをるつぼに入れ、マイクロピペットで純水を0.4ccを滴下した。その後、るつぼ内に5%ナフィオン(Nafion)溶液をマイクロピペットを用いて1.5cc加え、続いてイソプロピルアルコールを0.2cc加えた。そして、そのるつぼを5分間超音波洗浄した。さらに、ルツボ内に撹拌子を入れ、マグネチックスターラーで200rpmで撹拌した。このように作製された白金微粒子分散溶液をドクターブレード法によってPTFEシート上に塗布した。作製した触媒シートは別に移動して大気下で乾燥させた。
次に、上記前処理を行ったナフィオン膜上に、先ほど作製したPTFEシート上に塗布した触媒シートをホットプレスしてナフィオン含有白金微粒子の膜電極接合体を作製した。膜電極接合体を作製し、それを用いてセルを作製した。
これを用いて、燃料電池単セルの電流−電位特性評価をしたところ、実施例1は比較例の微粒子膜に比べて15%程度出力が向上した。これは、本発明の微粒子付着ワイヤ状白金を膜電極接合体に組み込んだことにより、三相界面を増大、ガス透過性を拡大することが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
電流−電位特性の評価方法
アノード側に80℃飽和水蒸気で加湿した水素を、カソード側に空気を使用した。流量として、それぞれ40mL/分、40mL/分で供給し、作製した単セルを運転した。セル運転温度を室温に設定し、発電評価及び交流インピーダンス測定を行い、その測定方法は、負荷に流す電流を変化させた場合の電圧変化及びIR変化を測定した。
実施例2
本実施例は、アルミナナノホールを鋳型として白金めっきを施しワイヤ状物質を作製した後に、白金微粒子をスパッタリング法によりワイヤ状物質表面に付着させ、膜電極接合体を作製した例を述べる。
上記と同様の作製方法により、アルミナナノホール中へのめっきを行うことによりワイヤ状白金を得た後、5wt%リン酸溶液中に浸すことにより鋳型であるアルミナナノホールを除去した。エッチング後の膜をFE−SEMで観察した結果、鋳型を反映して平均径が約20nmの柱状膜になっていることが確認された。
その後、RFマグネトロンスパッタリング法によって白金微粒子を付着させた。RF電源を用いて、Ar流量:50sccm、投入電力:150Wの条件で60秒間スパッタリングを行った。また、基板温度は室温とした。その後、実施例1と同様にして、膜電極接合体を作製し、さらにセルを作製した。スパッタリング後の膜をFE−SEMで観察した結果、約5nmの微粒子がワイヤ状物質表面に付着していることが確認された。
これを用いて、燃料電池の単セルの電流−電位特性の評価をしたところ、比較例の微粒子膜に比べて15%程度出力が向上した。これは、本発明のワイヤ状白金を膜電極接合体に組み込んだことにより、三相界面を増大、ガス透過性を拡大することが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
本発明の膜電極接合体は、三相界面を増大させ、ガス透過性を拡大することが可能で、発電効率が向上するので、携帯電話、ノートパソコン、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型モバイル用燃料電池から家庭設置用、自動車等の大型燃料電池まで種々のエネルギー発電部に利用することができる。また、燃料電池以外の分野では、水の電気分解用電極としても利用できる。
本発明の膜電極接合体の構成を示す模式図である。 本発明の膜電極接合体における微粒子が付着したワイヤ状物質を示す模式図である。 本発明の膜電極接合体におけるワイヤ状物質の形状を示す模式図である。 本発明の膜電極接合体におけるワイヤ状物質を示す模式図である。 燃料電池の模式図である。 燃料電池の模式図である。
符号の説明
11 膜電極接合体
12 ワイヤ状物質
13 固体高分子電解質
14 微粒子
15 触媒層
21 ワイヤ状物質
22 微粒子
31 ワイヤ状物質
41 ワイヤ状物質
42 長さ
43 横切断面
44 重心
45 最大長さ
46 最外輪
51 触媒
52 担体
53 固体高分子電解質
61 固体高分子電解質
62 アノード触媒層
63 カソード触媒層
64 アノード側集電板
65 カソード側集電板
66 外部出力端子
67 燃料導入ライン
68 燃料排出ライン
69 アノード側燃料拡散層
70 カソード側燃料拡散層

Claims (10)

  1. 少なくともワイヤ状物質からなる触媒と、固体高分子電解質を有する燃料電池用膜電極接合体において、前記ワイヤ状物質の表面に微粒子が付着していることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体。
  2. 前記微粒子は、白金、白金を含む合金または白金を含む混合物からなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  3. 前記微粒子の平均粒径が20nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  4. 前記ワイヤ状物質からなる触媒は、固体高分子電解質膜の長さ方向に対して直角方向に配置されており、前記ワイヤ状物質の表面に微粒子が付着してなる触媒表面が固体高分子電解質で被覆されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の燃料電池用膜電極接合体。
  5. 少なくとも表面に微粒子が付着したワイヤ状物質からなる触媒と、固体高分子電解質膜を有する燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、前記ワイヤ状物質を気相成長法または液相成長法により作製する工程と、該ワイヤ状物質の表面に微粒子を化学蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法または還元法で形成する工程を含むことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  6. 少なくとも表面に微粒子が付着したワイヤ状物質からなる触媒電極と、固体高分子電解質膜を有する燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、基板上にほぼ直線状に貫通した細孔を有する鋳型を用意する工程と、前記細孔内に触媒となる物質をめっき法により充填する工程と、前記鋳型の一部または全部を酸またはアルカリ溶液で溶解してワイヤ状物質を得る工程と、前記ワイヤ状物質に化学蒸着法、真空蒸着法、スパッタリング法または還元法で微粒子を付着させる工程と、前記ワイヤ状物質からなる触媒及び前記微粒子に固体高分子電解質を被覆させる工程と、前記固体高分子電解質を被覆した前記ワイヤ状物質及び前記微粒子を前記固体高分子電解質膜上に設置し、鋳型を溶解し、基板を除去する工程を含むことを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  7. 前記還元法は、金属塩を含む溶液を前記ワイヤ状物質からなる触媒に塗布及び焼成する工程を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  8. 前記金属塩は、白金、白金を含む合金または白金を含む混合物からなることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  9. 前記鋳型は、アルミナナノホール、シリコンナノホールまたはシリカナノホールを有することを特徴とする請求項6乃至8のいずれかの項に記載の燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
  10. 請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池用膜電極接合体を用いた燃料電池。
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