JP2006136330A - 無細胞タンパク質合成方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】無細胞タンパク質合成における合成効率を上げる方法の提供。
【解決手段】以下の方法により合成反応の効率を高める(1)生体抽出物を含む合成反応溶液(反応相)と基質およびエネルギー源供給溶液(供給相)を直接接触させ、反応相に生じた副生成物を供給相へ排除することによって反応持続時間を延長させる。(2)コムギ胚芽抽出物を含む反応溶液をプレインキュベーションした後に希釈することによって、合成反応の持続時間を延長させ反応効率を高める。(3)合成反応の停止後の反応液に、ゲルろ過カラムや半透膜を用いてタンパク質合成に必要なアミノ酸、ATP,GTPおよびクレアチリン酸等の基質およびエネルギー源を再供給すると同時に、反応で生じた副生成物を不連続的に排除して反応の効率を高める。
【選択図】なし

Description

本発明は無細胞システムを利用したタンパク質の合成方法に関するものである。
ゲノム計画の完了を間近に控えて、研究課題の中心が遺伝子構造解析から遺伝子機能解析へと急速に展開してきている。細胞内におけるタンパク質は、それが単独で機能しているのではなく、多種多様なタンパク質因子、核酸、低分子種並びに細胞膜成分等と協調して相互作用することにより機能発現し、さらに該相互作用の総和として生物学的機能が営まれているものと考えられている。
ポストゲノム計画の中心課題の一つは、多種多様なタンパク質因子の複合体の構造と機能の関係を解析することである。ここから得られる成果は、構造生物学や生化学を含む基礎生物学などの研究から、その応用としての医学分野における遺伝子翻訳産物と病因との関係解明、さらには医薬の開発に至る広い分野に極めて重要な知見を提供するものと期待されている。
細胞内で効率良く進行するタンパク質合成反応を生体外で行う方法として、これまでに例えば細胞内に備わるタンパク質翻訳装置であるリボソーム等を含む成分を生物体から抽出し、この抽出液に翻訳鋳型、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、並びにその他の有効因子を加えて試験管内でタンパク質を合成する、いわゆる無細胞タンパク質合成法等の研究が盛んに行われてきている(特許文献1−5)。
この無細胞タンパク質合成のための反応系、すなわち無細胞タンパク質合成系に用いるタンパク質合成用の細胞抽出液または生体組織抽出液の調製には、大腸菌、コムギ胚芽、または家兎網状赤血球等が用いられている。無細胞タンパク質合成系は、ペプチド合成速度と翻訳反応の正確性の2点において、生細胞に匹敵する性能を保持し、且つ複雑な化学反応工程や煩雑な細胞培養工程を必要としない利点を有するため、これまでその実用的なシステムの開発がなされてきた。しかしながら、一般的に生物体の細胞から抽出した細胞抽出液は、そのタンパク質合成能が極めて不安定なためにタンパク質合成効率が低く、さらに保存中の細胞抽出液の品質低下も著しかったので、無細胞タンパク質合成系で得られる合成物の量は、放射性同位体標識等によって検出可能な程度の少量であり、実用的なタンパク質の生産手段としては利用できなかった。
本発明者等は先に、従来の無細胞タンパク質合成系の欠点を解決する方法として、(1)無細胞タンパク質合成用細胞抽出物製剤および無細胞タンパク質合成方法、並びに(2)汎用性および高効率機能を備えた鋳型分子並びにこれを利用する無細胞タンパク質合成方法を提供している(特許文献6−7)。
特開平6−98790 特開平6−225783 特開平7−194 特開平9−291 特開平7−147992 WO00/68412号公報 WO01/27260号公報
タンパク質合成の効率を上げるための、無細胞タンパク質合成を連続して行う装置が報告されている。従来の連続式無細胞タンパク質合成装置としては、限外ろ過膜法、透析膜法や樹脂に翻訳鋳型を固定化したカラムクロマト法等(Spirin,A.,et al.,(1993)Methods in Enzymology,217,123−142)を利用したものを挙げることができる。なかでも、限外ろ過膜法と透析膜法は取り扱いが簡便なため汎用されている。しかしこれらの膜を用いる連続法には、<1>使用する膜の材質強度が低いこと;<2>目詰まりによる膜機能の低下がおこること;<3>操作が複雑であるために熟練した技術を要すること;等の解決すべき課題が残されている。
さらに、限外ろ過膜法や透析膜法等を利用して手動で行う連続式無細胞タンパク質合成方法は、少数の遺伝子からのタンパク質合成には利用できるものの、多数の遺伝子からのタンパク質生産を高効率で行うことは困難であった。そこで、多数の遺伝子からのタンパク質生産を高効率で行うことを可能にするハイスループット多検体用全自動タンパク質合成システムの開発に向けて、従来の連続式無細胞タンパク質合成法の欠点が解決された新技術を開発することが急務となっている。
本発明では、上記課題を解決するために、以下の無細胞タンパク質合成方法を用いる。
本発明の一態様は、生体抽出物を含む合成反応溶液(反応相)と基質およびエネルギー源供給溶液(供給相)とを直接的に接触させ、両相の接触界面を介した自由拡散により、供給相の基質およびエネルギー源分子を反応相の翻訳反応系へ連続的に供給すると共に、反応相で生じた副生成物を排除することにより、合成反応の持続時間を延長し、合成反応の効率を高めることを特徴とする拡散連続バッチ式による無細胞タンパク質合成方法である。
また本発明は、前記無細胞タンパク質合成方法において、生体抽出物としてコムギ胚芽抽出液を使用することを特徴とする無細胞タンパク質合成方法であり得る。
さらに本発明は、前記無細胞タンパク質合成方法において、生体抽出物として大腸菌抽出液を使用することを特徴とする無細胞タンパク質合成方法であり得る。
また、前記無細胞タンパク質合成方法において、反応相で生じた副生成物を供給相へ希釈排除することを特徴とする無細胞タンパク質合成方法も本発明の範囲に含まれる。
さらに、前記無細胞タンパク質合成方法において、反応相と供給相との間に形成される直接的な接触界面が垂直面状であることを特徴とする無細胞タンパク質合成方法も本発明の範囲に含まれる。
また本発明の一態様は、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成反応溶液をプレインキュべーション(前保温)の後に、基質およびエネルギー源供給溶液を加えてコムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成反応溶液を希釈することを特徴とする無細胞タンパク質合成方法である。
さらに、本発明の一態様は、バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、合成反応停止後の反応溶液にゲルろ過カラムまたは半透膜を用いてタンパク質合成に必要なアミノ酸、ATP、GTPやクレアチンリン酸等の原料やエネルギー源を再供給すると同時に、反応で生じた副生成物を反応溶液から排除することにより、合成反応の効率を高めることを特徴とする無細胞タンパク質合成方法である。
又、本発明では、上記課題を解決するために、以下の無細胞タンパク質合成方法を用いる。
「1.バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、以下の工程を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成方法。
1)合成反応停止後の反応溶液に、アミノ酸、ATP、GTP及びクレアチンリン酸のいずれか1以上を再供給する工程
2)合成反応停止後の反応溶液に生じた副生成物を反応溶液から排除する工程
2.上記再供給する工程及び排除する工程を、ゲルろ過カラムまたは半透膜を用いて行うことを特徴とする前項1の無細胞タンパク質合成方法。
3.上記再供給する工程及び排除する工程の後に、タンパク質合成反応を再開する工程を行うことを特徴とする前項1又は2項の無細胞タンパク質合成方法。
4.再供給する工程、排除する工程及び合成反応を再開する工程を繰り返すことを特徴とする前項3項の無細胞タンパク質合成方法。」
本発明の一態様は、一般的な無細胞タンパク質合成方法において、生体抽出物を含む合成反応溶液(反応相)と基質およびエネルギー源供給溶液(供給相)とを半透膜や限外ろ過膜等のバリヤーで隔てることなく直接的に接触させ、両相の接触界面を介した自由拡散によって、供給相の基質およびエネルギー源分子を反応相へ連続的に供給すると同時に反応相に生じた副生成物を供給相へ排除することによって反応持続時間を延長せしめ、このことによって合成反応の効率を高めることを特徴とする拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法である。
上記拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、両相の界面は水平面として形成されてもよく、垂直面として形成されてもよい。該界面を水平面として形成するには、例えば、反応容器にまず反応相を加えて下層を形成し、次に供給相を該反応相の上に両相の界面を乱さないよう静かに重層すればよい(図1を参照)。反応容器はその形状およびサイズともに、両相間における溶質の充分な拡散速度を与えるものであればよく、例えば試験管やマルチウエルマイクロタイタープレート等を使用できるが、これらに限定されない。また、合成反応溶液(反応相)と供給溶液(供給相)とを重層した後に、これらを含む反応容器に遠心操作を加えることにより、両相の界面を垂直面状に形成させることも可能である。
両相の接触界面面積は大きい方が拡散による物質交換率が高く、タンパク質合成効率が高くなる。従って、反応相に対する供給相の至適な容量比は両相の界面面積によって変化する。反応相に対する供給相の容量比は特に制限はないが、例えば界面が円形であってその直径が7mmの場合、1:4から1:8が好ましく、1:5がさらに好ましい。
上記反応相を形成する合成反応液は、無細胞タンパク質合成反応に必要な生体抽出物およびタンパク質合成の鋳型となる所望のmRNAを含み、従来既知のバッチ式無細胞タンパク質合成系で使用される組成からなる。生体抽出物は、従来の無細胞タンパク質合成法で用いられていた公知の生体抽出物、例えばコムギ胚芽抽出物、大腸菌抽出物、または家兎網状赤血球抽出物等を使用できる。これら抽出物の調製は、自体公知の方法に従って行うことができる。コムギ胚芽抽出物は、既報〔Madin K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−564〕(WO00/68412号公報)に記載された方法で調製したものを用いることが好ましい。合成反応液は具体的には例えば、生体抽出物としてコムギ胚芽抽出物を用いるときには、該抽出物を全容量の48%容(濃度は、200A260nm units/ml)含み、次のような終濃度の組成〔1,000units/ml リボヌクレアーゼ阻害剤(RNAsin)、30mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM 酢酸カリウム、2.65mM 酢酸マグネシウム、2.85mM ジチオスレイトール、0.5mg/ml クレアチンキナーゼ、1.2mM アデノシン三リン酸(ATP)、0.25mM グアノシン三リン酸(GTP)、16mM クレアチンリン酸、0.380mM スペルミジン、20種類のL型アミノ酸(各0.3mM)、0.05% NP−40、600μg/ml mRNA〕からなる。合成反応溶液の組成は上記組成に限定されず、無細胞タンパク質合成反応が効率よく進行する組成であれば用いることができる。例えば、上記mRNAの代わりにプラスミド(目的遺伝子をコード)、RNAポリメラーゼ、およびヌクレオチド類等を含む転写反応溶液でmRNAを合成した後に、引き続きゲルろ過法や透析法等で該転写反応溶液の組成を翻訳反応に適した組成からなる溶液に変換し、得られた溶液を合成反応溶液として用いてもよい(下記実施例6を参照)。
また、上記合成反応溶液組成は、使用する生体抽出物の種類によって適宜変更できる。生体抽出物として大腸菌を用いるときは、既報〔Pratt,J.M.,Transcription and Translation(1984),179−209,Hames,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford〕に準じて調製した大腸菌抽出物を用い、同方法に準じた組成のタンパク質合成反応液を調製すればよい。例えば、大腸菌抽出物を全容量の50%容含み、次のような終濃度の組成〔57mM HEPES−KOH(pH8.2)、75mM 酢酸カリウム、36mM 酢酸アンモニウム、16mM 酢酸マグネシウム、1.7mM ジチオスレイトール、0.3U/ml パイルベートキナーゼ、0.17mg/ml 大腸菌tRNA混液、34mg/ml L−5−フォルミル−5,6,7,8−テトラヒドロフォリックアシッド、6.7μg/mlプラスミド(目的遺伝子をコード)、33μg/ml T7 RNAポリメラーゼ、1.2mM ATP、各0.85mMのGTPおよびUTPおよびCTP、56mM フォスフォエノールピルビン酸、20種類のL型アミノ酸(各0.2mM)〕からなる転写反応溶液を調製し、まずmRNAを合成した後に、引き続きゲルろ過法や透析法等で該転写反応溶液の組成を翻訳反応に適した組成からなる溶液に変換し、得られた溶液を合成反応溶液として用いてもよい(下記実施例6を参照)。また、大腸菌抽出液を用いる無細胞タンパク質合成系の場合、上記のように転写反応溶液でまずmRNAを合成した後に、該転写反応溶液上に供給溶液を重層して静置条件下で翻訳反応に適した温度でタンパク質合成反応を行ってもよい。合成反応溶液の組成は上記組成に限定されず、無細胞タンパク質合成反応が効率よく進行する組成であれば用いることができる。例えば、上記転写反応溶液中のプラスミド(目的遺伝子をコード)、T7 RNAポリメラーゼ、UTP、およびCTPの代わりに、別途自体公知の方法(Gurevich,V.V.,(1996)Methods in Enzymology,275,383−397)で調製した目的遺伝子をコードするmRNAを適宜加えて、翻訳反応に適した組成の合成反応溶液を調製してもよい。
さらに、上記の合成反応液にイノシトール、キシリトールおよび/またはフィコール等の糖アルコールを添加して当該合成反応液の粘度や密度を高め、反応相と供給相の2相間の混合速度を制御することにより、タンパク質合成反応の更なる安定化を計ることもできる。
また、上記供給相を形成する供給溶液は、基質やエネルギー源、例えばアミノ酸、ATP、GTP、クレアチンリン酸、およびタンパク質合成反応に必要なその他のイオン類や緩衝液などを含む。具体的には例えば、コムギ胚芽抽出液を含む上記タンパク質合成反応液を反応相に使用したときは、30mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM 酢酸カリウム、2.65mM 酢酸マグネシウム、2.85mM ジチオスレイトール、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mM クレアチンリン酸、0.380mM スペルミジンおよび20種類のL型アミノ酸(各0.3mM)の組成からなる供給溶液を使用できる。また、大腸菌抽出液を含む上記タンパク質合成反応液を反応相に使用したときは、例えば57mM HEPES−KOH(pH8.2)、75mM 酢酸カリウム、36mM 酢酸アンモニウム、16mM 酢酸マグネシウム、1.7mM ジチオスレイトール、34mg/ml L−5−フォルミル−5,6,7,8−テトラヒドロフォリックアシッド、1.2mM ATP、0.85mM GTPおよびUTPおよびCTP、56mM フォスフォエノールピルビン酸、20種類のL型アミノ酸(各0.2mM)の組成からなる供給溶液を使用できる。
タンパク質合成反応は静置条件下で行い、反応温度は各種無細胞タンパク質合成法で通常用いられている至適温度で行う。生体抽出物としてコムギ胚芽抽出物を用いたときは20℃から30℃、好ましくは26℃であり、大腸菌抽出物を用いたときは30℃から37℃、好ましくは30℃である。
また、本発明の一態様は、コムギ胚芽抽出物を利用する無細胞タンパク質合成方法において、反応溶液をプレインキュべーション(前保温)した後に希釈溶液を添加して合成反応溶液を希釈することによって、合成反応の持続時間を延長せしめ、このことによってタンパク質合成効率を高める希釈バッチ式無細胞タンパク質合成方法である。
希釈バッチ式無細胞タンパク質合成方法では、従来のバッチ式無細胞タンパク質合成反応液、例えば上記の組成からなる合成反応溶液を用い、まず15分間から30分間プレインキュべーションしてタンパク質合成を行う。その後、基質やエネルギー源、基質やエネルギー源、例えばアミノ酸、ATP、GTP、クレアチンリン酸、およびタンパク質合成反応に必要なその他のイオン類や緩衝液等を含む上記拡散連続バッチ式タンパク質合成方法における供給溶液と同組成の溶液を加えて、反応液に含まれるコムギ胚芽抽出液を7%から12%程度にまで希釈した状態で合成反応を行う。タンパク質合成反応の至適温度は、コムギ胚芽抽出物を用いたときは20℃から30℃、好ましくは26℃である。酵素や翻訳タンパク質因子は一般に低濃度では安定性が低下することが知られているので、あらかじめ合成反応液中に公知の安定化剤、例えばイノシトール、キシリトールやフィコール等を添加することによって合成反応の更なる効率化を計ることもできる。
上記希釈バッチ式タンパク質合成法は、コムギ胚芽抽出物を用いた無細胞タンパク質合成系では非常に有効であったが、大腸菌抽出物を用いた系ではその効果が確認できなかった。これはコムギ胚芽抽出液の特性に起因するものと思われる。
また、この方法では、プレインキュべーションが極めて重要な工程であり、この操作を省くとタンパク質合成反応の効率が低下することから、このプレインキュべーション時に安定な翻訳開始複合体が形成されるものと考えられる。しかし、この特異な現象に関する分子機構の実体については今後の課題である。
さらに本発明の一態様は、バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、合成反応停止後の反応溶液にゲルろ過カラムまたは半透膜を用いてタンパク質合成に必要な基質やエネルギー源、例えばアミノ酸、ATP、GTP、およびクレアチンリン酸等の原料を再供給すると同時に、反応で生じた副生成物を反応溶液から排除することにより、合成反応の効率化を高めることを特徴とする無細胞タンパク質合成方法である。この方式は、タンパク質合成反応と基質やエネルギー源の反応液への供給および副生産物の排除操作とが不連続的な過程からなるバッチ法であり、基本的にSpirinらの連続式無細胞タンパク質合成法とは異なる。
この不連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法では反応容器、例えば試験管等を用いて従来通りのバッチ式無細胞タンパク質合成反応を開始し、合成反応が停止した後に反応液の温度を0℃〜4℃に低下させることによりタンパク質合成反応を完全に停止させ、この反応停止後の反応液を、あらかじめ基質やエネルギー源、例えばアミノ酸、ATP、GTPおよびクレアチンリン酸等を含む溶液で平衡化した低分子化合物分離用のゲルろ過粒子、例えばセファデックスG−25等を用いたクロマトグラフィーに付す。平衡化に用いる溶液は、上記拡散連続バッチ式タンパク質合成方法における供給溶液と同組成の溶液を使用できる。
上記ゲルろ過操作によって副生成物はセファデックス粒子中に排除され、且つ、新鮮なアミノ酸、ATP、GTPおよびクレアチンリン酸等に交換された無細胞タンパク質合成溶液がボイド画分に回収できる。回収された溶液を再び保温すると翻訳反応が開始され、タンパク質合成反応は数時間に亘って進行する。合成反応が再度停止したときは、再び上記のゲルろ過操作を繰り返す。この方法を繰り返すことにより、通常のバッチ式では短時間で停止する合成反応を長時間持続させることができ、その結果タンパク質合成収量が上昇する。
また、上記不連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、基質やエネルギー源等の再供給および反応副生成物の排除を目的として上記ゲルろ過法の代わりに透析法を利用しても、同等若しくはそれ以上の効果が得られる。
以上説明した通り、本発明に係る<1>細胞抽出液を含む合成反応溶液からなる反応相とアミノ酸、ATP、GTPやクレアチンリン酸等を含む基質およびエネルギー源供給溶液からなる供給相とを直接接触させ、両相の接触界面を介して供給相の基質およびエネルギー源を自由拡散により反応相へ連続的に供給すると同時に、反応相に生じた副生成物を供給相へ排除する拡散連続バッチ法、<2>コムギ胚芽を用いた無細胞タンパク質合成系において、合成反応溶液に含まれる細胞抽出物濃度を低下させることによる希釈バッチ法、さらに<3>タンパク質合成反応の停止後にゲルろ過法または透析法を利用して、合成反応溶液にタンパク質合成に必要なアミノ酸、ATP、GTPやクレアチンリン酸等の基質やエネルギー源を再供給すると同時に、反応で生じた副生成物を不連続的に排除する不連続バッチ法は、従来の連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法とは異なり、無細胞タンパク質合成方法として極めて有効である。これらの方法は、それぞれ単独で実施してもよいし、組み合わせて利用することも可能である。例えば、タンパク質合成効率の向上を目的として、拡散連続バッチ法と不連続バッチ法とを、若しくは希釈バッチ法と不連続バッチ法とを組み合わせて実施してもよい。また、最初に添加する細胞抽出物若しくは組織抽出物の濃度を高めておき、上記3種の方法を組み合わせて実施することもできる。
さらに本発明により、無細胞タンパク質合成反応の持続時間の延長が可能となり、そのため従来のバッチ法に比べタンパク質合成効率が格段に向上し、Spirinらによって確立された半透膜を利用する連続式無細胞タンパク質合成法〔Spirin,A.,et al.,(1993)Methods in Enzymology,217,123−142〕と同等以上の性能を有する無細胞タンパク質合成方法を確立できた。
以下実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法の一例として、図1に示した重層方式拡散連続バッチ式によりコムギ胚芽抽出物を用いてタンパク質合成を実施した。
コムギ胚芽抽出物は、既報〔Madin K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−564〕(WO00/68412号公報)に記載された方法に準じて得た。
また、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成反応においての翻訳鋳型となるmRNAの合成を行うために、遠藤が構築した汎用性のあるプラスミドpEU1(図6)(WO01/27260号公報)を利用した。目的のタンパク質をコードする遺伝子としてはクラゲのグリーン蛍光タンパク質(GFP)遺伝子(gfp遺伝子)を用い、上記プラスミドに常法に従って挿入した。得られたプラスミドをHindIIIで切断して直鎖型とし、これを転写鋳型として常法によりmRNAを合成した。合成されたmRNAは、5′末端にCAPをもたず、非翻訳配列として5′末端にAMV−Ω配列を、3′末端にプラスミド由来の500塩基を有している。上記AMV−Ω配列とは、アルファルファモザイクウイルスmRNA(AMV−mRNA)の5′末端リーダー構造とタバコモザイクウイルスmRNA(TMV−mRNA)の5′末端Ω配列とを直列に結合した塩基配列をいう(WO01/27260号公報)。これら非翻訳配列の付加により、RNAの安定性が増強され、その結果このmRNAを用いると無細胞タンパク質合成効率が上昇する。また、5′末端にCAPを有するmRNAを用いても、下記同様の結果が得られた。
次に、コムギ胚芽抽出物を全容量の48%容(濃度は、200A260nm units/ml)含む、次のような終濃度の組成〔1,000units/ml リボヌクレアーゼ阻害剤(RNAsin)(TAKARA社製)、30mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM 酢酸カリウム、2.65mM 酢酸マグネシウム、2.85mM ジチオスレイトール、0.5mg/ml クレアチンキナーゼ、1.2mM アデノシン三リン酸(ATP)、0.25mM グアノシン三リン酸(GTP)、16mM クレアチンリン酸、0.380mM スペルミジン、20種類のL型アミノ酸(各0.3mM)、0.05% NP−40、600μg/ml mRNA〕からなるタンパク質合成反応液を調製した。タンパク質合成量の測定を行うために、上記タンパク質合成反応液1mlに対して、14C−ロイシン(300mCi/mmol)を4μCi添加した〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000),97,559−564〕。
このタンパク質合成反応液を、口径7mm、5mm、および3mmの反応容器(それぞれ、マイクロタイタープレート、1.5mL容量の試験管、および0.2mL容量の試験管)に加え、その上に5倍容量の供給溶液〔30mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM 酢酸カリウム、2.65mM 酢酸マグネシウム、2.85mM ジチオスレイトール、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mM クレアチンリン酸、0.380mM スペルミジンおよび20種類のL型アミノ酸(0.3mM)〕を界面が乱れないように静かに重層し、静置条件下、26℃で3、6、9、および17時間インキュベーションしてタンパク質合成反応を行った。合成されたタンパク質量の測定は常法に従って放射性同位体のトリクロル酢酸不溶画分への取り込みを指標として行い、合成されたタンパク質の確認はオートラジオグラフィーにより常法通り行った〔Endo,Y.et al.,(1992)J.Biotech.,25,221−230〕〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,559−564〕。
結果を図2の(A)および図2の(B)に示した。
対照として、従来のバッチ式無細胞タンパク質合成方法を実施した。この方法において、mRNA、コムギ胚芽抽出物、およびこれらを含むタンパク質合成反応液は上記拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法に用いたものと同一であるが、供給溶液を添加しない点が異なる。
図2の(A)から明らかなように、従来のバッチ式(○――○)では反応開始後1時間でタンパク質合成反応は停止した。この結果は既報の結果〔Endo,Y.et al.,(1992)J.Biotech.,25,221−230〕〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,559−564〕と完全に一致している。
一方、口径7mmの反応容器(界面の面積は0.385cm)を用いた重層方式(大きい□――□)では反応開始17時間に至っても合成反応が継続し、その合成量は従来のバッチ法の9倍以上に達した。さらにサイズの異なる反応容器を用いてこの合成反応に及ぼす反応相と供給相間の界面面積の影響を調べた結果、反応開始9時間後における合成効率は、口径7mmの反応容器を用いたときと比較して、口径5mmの反応容器(界面の面積は0.196cm)(中位の□――□)では91%、また口径3mmの反応容器(界面の面積は0.071cm)(小さい□――□)では75%であった。
また図2の(B)に示したオートラジオグラフィーは、従来のバッチ法および拡散連続バッチ式で合成されたタンパク質の合成反応時間経過と合成産物の分子量および合成量の両方について、図2の(A)に示した14C−ロイシン取り込みの測定によるタンパク質合成量の検討で得られた実験結果を完全に支持するものであった。図2の(B)中で拡散連続バッチ式は重層方式と表示している。また、拡散連続バッチ式によるタンパク質合成結果は、口径7mmの反応容器における結果のみを示した。
また、この方法において、下記実施例6に示した転写・翻訳一体型タンパク質合成法で、mRNAを転写反応溶液で合成した後に、引き続きゲルろ過法や透析法等で該転写反応溶液の組成を翻訳反応に適した組成からなる溶液に変換し、得られた溶液を合成反応溶液として用いて上記同様にタンパク質合成を行ったときも同様の結果が得られた。
以上の結果から<1>コムギ胚芽抽出液を用いる拡散連続バッチ式タンパク質合成方法が従来のバッチ法に比べて著しく合成効率の高いこと、<2>その合成効率は反応相と供給相間の界面面積が大きいほど優れていることが明らかとなった。また、この方法による合成収量の上昇が合成反応時間の持続によることも判明した。
希釈バッチ式無細胞タンパク質合成方法の一例として、実施例1で調製したコムギ胚芽抽出物およびGFPをコードするmRNAを含むタンパク質合成反応液を用いて従来のバッチ式で26℃で15分間のプレインキュベーションを行い、その後5倍容量の希釈溶液を加えた後に、静置条件下さらに26℃で3、6、および9時間インキュベーションしてタンパク質合成反応を行った。希釈溶液は、実施例1で調製した供給溶液と同じ組成の溶液を用いた。合成されたタンパク質量の測定は実施例1と同様に行い、その結果を図2の(A)(■――■)および図2の(B)に示した。
図2の(A)から明らかなように、1時間で合成反応が停止する従来のバッチ式(○――○)と比較して、希釈バッチ式で無細胞タンパク質合成を行うと、反応開始6時間までは直線的に合成反応が持続した(■――■)。
また図2の(B)に示したオートラジオグラフィーは、図2の(A)に示した14C−ロイシン取り込みの測定によるタンパク質合成量の検討で得られた実験結果を完全に支持するものであった。
この希釈バッチ式無細胞タンパク質合成方法は、実施例1に示した拡散連続バッチ式よりは合成効率が劣るものの、タンパク質合成量は従来のバッチ法に比べて約3倍であり、有意に高い合成効率を示した。
また、この方法においても、下記実施例6に示した転写・翻訳一体型タンパク質合成法で、mRNAを転写反応溶液で合成した後に、引き続きゲルろ過法や透析法等で該転写反応溶液の組成を翻訳反応に適した組成からなる溶液に変換し、得られた溶液を合成反応溶液として用いて上記同様にタンパク質合成を行ったときに同様の結果が得られた。
また、上記希釈バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、プレインキュべーション反応操作を省略した場合には、上記のような顕著な合成反応の持続現象は見られなかった。さらに、大腸菌抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系では、希釈バッチ式の効果は認められなかった。
以上、コムギ胚芽抽出物を用いる無細胞タンパク質合成系では、希釈バッチ式無細胞タンパク質合成方法も有効なタンパク質合成手段であることが実証された。
拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、実施例1で行ったGFP合成以外にも大腸菌由来のジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を合成できることを実証し、この方法が一般的なタンパク質分子種の合成に有効であることを確認した。
mRNAがDHFRをコードするmRNAであること以外は実施例1と同様の組成のタンパク質合成反応液を用いて実施例1と同様にタンパク質合成を行い、その結果を図3に示した。合成されたタンパク質量の測定は常法に従って放射性同位体のトリクロル酢酸不溶画分への取り込みを指標として行い、合成されたタンパク質の確認はSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分離とクマシーブリリアントブルー(CBB)による染色で行った〔Endo,Y.et al.,(1992)J.Biotech.,25,221−230〕〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,559−564〕。
図3の(A)に示したように、DHFR合成においても、拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法(■――■)の合成反応時間は従来のバッチ法(○――○)に比べて有意に持続した。SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による合成反応の時間経過と合成産物量の分析結果〔図3の(B)、矢印はDHFRのクマシーブリリアントブルーによる染色バンドを示す〕は図3の(A)に示す結果を完全に支持するものであった。合成DHFRのバンド染色強度の測定から、拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法による8時間の反応で反応容量1ml当り0.9mgのDHFRを合成できたことが判明した。
拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法が、いずれの生物種から調製された細胞抽出液を用いる無細胞タンパク質合成系であっても普遍的に有効であることを、大腸菌抽出液を使用して実証した。
大腸菌抽出液は既報〔Pratt,J.M.,Transcription and Translation(1984),179−209,Hames,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford〕に準じて調製した。また本実施例では、mRNAを転写・翻訳一体型無細胞タンパク質合成系(実施例6を参照)でまず合成して、該mRNAを含む転写反応溶液をゲルろ過法により翻訳反応に適した反応溶液組成に変換した後に反応容器に加え、実施例1と同様に供給溶液を重層して静置条件下で30℃にてタンパク質合成反応を行った。
まず、全容量の50%容の大腸菌抽出液を含み、以下のような終濃度の組成、即ち、57mM HEPES-KOH(pH8.2)、75mM 酢酸カリウム、36mM 酢酸アンモニウム、16mM 酢酸マグネシウム、1.7mM ジチオスレイトール、0.3U/ml パイルべートキナーゼ、0.17mg/ml 大腸菌tRNA混液、34mg/ml L−5フォルミル−5,6,7,8−テトラヒドロフォリックアシッド、6.7μg/mプラスミド(GFP遺伝子をコード)、33μg/ml T7 RNAポリメラーゼ、1.2mM ATP、0.85mM GTPおよびUTPおよびCTP、56mM フォスフォエノールピルビン酸、20種類のL型アミノ酸(各0.2mM)からなる大腸菌無細胞タンパク質合成反応液を調製し、30℃で90分間インキュベーションしてmRNAを合成した。次いで、ゲルろ過法により上記反応溶液組成を翻訳反応に適した組成に変換した後、この溶液の25μlを反応容器(口径7mmマイクロタイタープレート)に移し、下記組成の供給溶液を静かに重層して30℃でタンパク質合成を行った。タンパク質合成をアミノ酸の取り込みを指標として測定する場合には、14C−ロイシン(300mCi/mmol)を上記反応溶液に1mlに対して4μCi添加した。
mRNAの転写鋳型となるプラスミドは木川らの報告しているT7−ファージプロモーター配列を有するpK7−RAS〔Kigawa,T.,et al.,(1995)J.Biomol.NMR,6,129−134〕を基に、RAS遺伝子をクラゲのGFP遺伝子に入れ替えたものを用いた。
大腸菌無細胞タンパク質合成系に利用した供給溶液組成は、終濃度57mM HEPES-KOH(pH8.2)、75mM 酢酸カリウム、36mM 酢酸アンモニウム、16mM 酢酸マグネシウム、1.7mM ジチオスレイトール、34mg/ml L−5フォルミル−5,6,7,8−テトラヒドロフォリックアシッド、1.2mM ATP、0.85mM GTPおよびUTPおよびCTP、56mM フォスフォエノールピルビン酸、20種類のL型アミノ酸(各0.2mM)からなる。タンパク質合成をアミノ酸の取り込みを指標として測定する場合には、14C−ロイシンを反応溶液1mlに対して、4μCi添加した。
図4の(A)に14C−ロイシン取り込みによりタンパク質合成を測定した結果を示した。GFP合成反応は、従来のバッチ法(○――○)では反応開始後3時間で完全に停止したが、拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法(■――■)では反応開始17時間後まで持続した。アミノ酸の取り込み量から合成タンパク質量を計算したところ、拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法による合成量は、バッチ法によるものの4倍以上に達した。図4の(B)に示したオートラジオグラムによる合成反応の時間経過と合成産物の分子量および合成量の分析結果は、図4の(A)の結果を完全に支持するものであった。一方、上記タンパク質合成反応溶液(反応相)に上記供給溶液(供給相)を重層した直後に両相をボルテックスミキサーで混合した対照実験では、従来のバッチ法に比べて有意にタンパク質合成が低下した。
この事実は、キムによって報告されている知見〔Kim,D.M.,(1996)Eur.J.Biochem.239,881−886〕、すなわち大腸菌無細胞タンパク質合成系においては反応溶液中の細胞抽出液を高濃度にすることが合成の効率化に重要であるとの結果と完全に一致している。この結果は、拡散連続バッチ式で見られるタンパク質合成反応の持続時間の延長現象が、単に反応溶液中のタンパク質合成に必要な成分、例えばリボソーム等の濃度が低下したことによる反応速度の低下に起因するものではなく、拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合方法に備わった特性であることを明確に示している。
さらに、大腸菌抽出液を用いて、転写・翻訳一体型無細胞タンパク質合成系(実施例6を参照)でまずmRNAを合成した後に、実施例1と同様に反応溶液上に供給溶液を重層して静置条件下で30℃にてタンパク質合成反応を行っても、上記同様の結果が得られた。
以下に、ゲルろ過法を利用した不連続バッチ式によるコムギ胚芽を用いた無細胞タンパク質合成方法の例を説明する。まず実施例1で調製したものと同じタンパク質合成溶液を、通常の小型試験管または96穴タイタープレートに添加し、静置条件下26℃で通常どおり反応させた。この反応条件下ではタンパク質合成は数時間、たとえば、容量の48%容のコムギ胚芽抽出液を含む反応液の場合には反応開始1時間で合成反応は完全に停止する。このことは、タンパク質へのアミノ酸取り込みの測定や蔗糖密度勾配遠心法によるポリリボソーム解析から確認できる〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,559−564〕。上記合成反応の停止した反応溶液を、あらかじめ基質やエネルギー源、例えばアミノ酸、ATP、GTP、タンパク質合成反応に必要なその他のイオン類や緩衝液を含む供給溶液で平衡化しておいたセファデックスG−25カラムを用いてゲルろ過した後、さらに26℃でタンパク質合成を行った。該供給溶液は、実施例1で用いた供給溶液と同様の組成である。
図5において14C−ロイシン取り込みの結果が示すように、従来のバッチ式では反応開始後1時間で完全に合成反応は停止した(■――■)。しかし、反応開始3時間後に上記のようにゲルろ過操作を行い(図5中、矢印で示す)さらにインキュベーションしたところ、再びタンパク質合成反応が開始された(□――□)。さらに14C−ロイシン取り込みの速度勾配が反応開始初期のそれとほぼ同じであることから、ゲルろ過後におけるタンパク質合成効率は反応初期のそれと比べて低下していないことが判明した。
また、この方法においても、下記実施例6に示した転写・翻訳一体型タンパク質合成法で、mRNAを転写反応溶液で合成した後に、引き続きゲルろ過法や透析法等で該転写反応溶液の組成を翻訳反応に適した組成からなる溶液に変換し、得られた溶液を合成反応溶液として用いて上記同様にタンパク質合成を行ったときに同様の結果が得られた。
コムギ胚芽を用いた上記無細胞タンパク質合成系は極めて安定である〔Endo,Y.et al.,(1992)J.Biotech.,25,221−230〕〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,559−564〕ことから、このゲルろ過操作を繰り返すことによって反応時間を長時間に渡って持続させることが可能である。従って、上記不連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法は、例えばコムギ胚芽を用いた無細胞タンパク質合成系における高効率タンパク質合成方法として有用である。
転写・翻訳一体型タンパク質合成法により、mRNAを転写反応溶液で合成した後に、引き続きゲルろ過法や透析法等で該転写反応溶液の組成を翻訳反応に適した組成からなる溶液に変換し、得られた溶液を合成反応溶液として使用することができる。
まず、反応容器としてゲルろ過フィルターを装着したスピンカラムを用い、同容器内に鋳型DNA、4種類の基質リボヌクレオシド−5′−3リン酸、さらに必要に応じてCAP分子、RNAポリメラーゼ、スペルミジン、マグネシウムイオンおよび適当な緩衝液などからなる転写反応溶液〔80mM HEPES−KOH(pH7.6)、16mM 酢酸マグネシウム、2mM スペルミジン、10mM ジチオスレイトール、2.5mM ATP、2.5mM GTP、2.5mM CTP、2.5mM UTP、1U/μL リボヌクレアーゼ阻害剤、3U/μL SP6RNAポリメラーゼ(TAKARA社製)〕を添加する。上記の転写反応溶液から鋳型DNA、RNAポリメラーゼ、およびリボヌクレアーゼ阻害剤を除いた溶液を別途調製して透析外液に用い、mRNAの透析式連続合成を行う。
mRNA合成後にスピンカラムを低速遠心し、実施例1に示したタンパク質合成溶液(mRNAは含まない)を用いてゲルろ過操作を行って上記転写反応溶液を翻訳反応に適したタンパク質合成溶液に変換する。
本発明に係る上記無細胞タンパク質合成方法は、半透膜を利用した限外ろ過膜法や透析膜法、さらに樹脂に翻訳鋳型を固定化したカラムクロマト法等〔Spirin,A.,et al.,(1993)Methods in Enzymology,217,123−142〕の複雑な手法を用いることなく、従来からのバッチ式に3種類の合成反応の効率化技術をそれぞれ導入することによって、いずれの手段によっても、組織・細胞抽出物を利用する無細胞系におけるタンパク質の合成を高効率で行うことが可能であることを示した。
上記本発明に係る無細胞タンパク質合成方法は、従来行われていた膜を用いる連続式無細胞タンパク質合成法に見られる膜の材質強度の低さ、目詰まりによる膜機能の低下、および操作の煩雑性等の欠点を持たず、そのため従来法と比較して格段に高い効率でタンパク質合成を行うことができる。従って、上記本発明に係る技術は今後のゲノムプロジェクト完了と共にもたらされる膨大な数の遺伝子についての機能解析や構造解析の基盤となる遺伝子産物(タンパク質)生産の自動化に向けた基本要素技術となろう。特に、多検体用全自動無細胞タンパク質合成ロボット開発等、無細胞タンパク質合成システムの自動化に向けた要素技術として不可欠であると言える。
拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法を、重層方式を例として説明する図である。図中、引出線で囲まれた部分はタイタープレートの穴の断面図である。 コムギ胚芽抽出液を用いた拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法によるグリーン蛍光タンパク質(GFP)合成を示す。図2の(A)はタンパク質合成を14C−ロイシン取り込みにより測定した結果である。縦軸は、タンパク質合成量、横軸はインキュベーション時間である。従来のバッチ式(○――○)、並びに口径7mm(□――□の大)、5mm(□――□の中)、または3mm(□――□の小)の反応容器を用いた拡散連続バッチ式(重層方式)によるタンパク質合成を示す。■――■で示したものは、希釈バッチ式によるタンパク質合成を示す。縦軸のタンパク質合成量を示す放射能カウントは、等量の胚芽抽出液量当りで表した。図2の(B)は合成産物のオートラジオグラムである。 コムギ胚芽抽出液を用いた拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法によるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)合成を示す。図3の(A)はタンパク質合成を14C−ロイシン取り込みにより測定した結果である。従来のバッチ式(○――○)と口径7mmの反応容器を用いた拡散連続バッチ式(重層方式)によるタンパク質合成を示す(■――■)。縦軸のタンパク質合成量を示す放射能カウントは、等量の胚芽抽出液量当りで表した。図3の(B)はクマシーブリリアントブルー染色した合成産物のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動図である。 大腸菌抽出液を用いた拡散連続バッチ式無細胞タンパク質合成方法によるGFP合成を示す。図4の(A)はタンパク質合成を14C−ロイシン取り込みにより測定した結果である。従来のバッチ式(○――○)と口径7mmの反応容器を用いた拡散連続バッチ式(重層方式)によるタンパク質合成を示す(■――■)。□――□は、希釈バッチ式無細胞タンパク質合成方法によるタンパク質合成を示す。縦軸のタンパク質合成量を示す放射能カウントは、等量の大腸菌抽出液量当りで表した。図4の(B)は合成産物のオートラジオグラムである。 コムギ胚芽抽出液を用いた不連続ゲルろ過バッチ式無細胞タンパク質合成方法によるGFP合成を示す(□――□)。矢印は、反応液のゲルろ過処理を行った時点を示す。■――■は、ゲルろ過処理を行わなかったときの結果を示す。 汎用性のあるプラスミドpEU1の構造を示す。

Claims (4)

  1. バッチ式無細胞タンパク質合成方法において、以下の工程を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成方法。
    1)合成反応停止後の反応溶液に、アミノ酸、ATP、GTP及びクレアチンリン酸のいずれか1以上を再供給する工程
    2)合成反応停止後の反応溶液に生じた副生成物を反応溶液から排除する工程
  2. 上記再供給する工程及び排除する工程を、ゲルろ過カラムまたは半透膜を用いて行うことを特徴とする請求の範囲第1項の無細胞タンパク質合成方法。
  3. 上記再供給する工程及び排除する工程の後に、タンパク質合成反応を再開する工程を行うことを特徴とする請求の範囲第1又は2項の無細胞タンパク質合成方法。
  4. 再供給する工程、排除する工程及び合成反応を再開する工程を繰り返すことを特徴とする請求の範囲第3項の無細胞タンパク質合成方法。
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