JP2006117556A - アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの医薬用途 - Google Patents

アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドの医薬用途 Download PDF

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輝夫 西田
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誠 乾
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Abstract


【課題】 インシュリン様成長因子−Iの最小活性発現単位であるアミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド(SSSR)の医薬としての効果的な利用を探求すること。
【解決手段】 SSSRの濃度が1×10−9M、1×10−8M程度では角膜障害および皮膚創傷の治癒効果が認められないのに対し、SSSRの濃度を1×10−7M以上とすれば濃度依存的に角膜障害および皮膚創傷の治癒効果を発揮する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、有効成分として、アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドまたはその医薬として許容される塩類をSer−Ser−Ser−Arg重量に換算したとき少なくとも5×10−6%の濃度で含有する角結膜障害治療剤または皮膚創傷治癒促進剤に関する。
角膜は、直径約1cm、厚さ約1mmの透明な無血管の組織であり、また、結膜は、角膜縁より後方の眼球表面と眼瞼の裏面を覆っている粘膜であるが、角膜や結膜は、視機能に重要な影響を及ぼすことが知られている。角膜潰瘍、角膜炎、結膜炎、ドライアイ等の種々の疾患により引き起こされる角結膜障害は、何らかの理由で修復が遅延したり、あるいは修復が行われずに遷延化すれば、角膜と結膜は連なった組織であるため、上皮の正常な構築に悪影響を及ぼし、さらには、角膜実質や内皮の構造や機能まで害されることがある。近年、細胞生物学の発展に伴い、細胞の分裂・移動・接着・伸展・分化等に関与する因子が解明されており、角膜障害の修復には、これらの因子が重要な役割を担っていることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。
また、皮膚創傷は、裂傷、擦過傷、外科的切開、皮膚潰瘍、火傷などの表面組織の損傷である。かかる皮膚創傷の治療は、受傷部位に応急処置を施した後、生体自身の回復力によって自然に治癒するのを待つのが一般であるが、このような自然治癒では回復までに長期間を要し、また、痛みも継続することから、受傷部位に創傷治療剤を投与するなどして積極的に創傷治癒を促進させることが望ましい。
このような角膜障害や皮膚創傷を治療するために、サブスタンスPおよび正常ヒト細胞の成長を調節している成長因子であるインシュリン様成長因子−I(IGF−I)の作用が研究されてきた。
特許文献1には、サブスタンスPの最小活性発現単位はアミノ酸配列がPhe-Gly-Leu-Met-NH2で表されるペプチド(FGLM)であることを見出すと共に、そのFGLMとIGF−Iとを併用すると優れた角膜障害治癒効果を発現することが報告されている。
特許文献2には、FGLM等のサブスタンスPフラグメントとIGF−Iとを併用すると優れた皮膚創傷治癒効果を発現することが報告されている。
特許文献3には、IGF−Iの最小活性発現単位はアミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド(以下、「SSSR」という。)であることを見出すと共に、そのSSSRを必須構成要件とするペプチドとサブスタンスPまたはそのフラグメントであるFGLM等とを併用すると、優れた角膜障害または皮膚創傷治癒効果を発現することが報告されている。
しかしながら、これらの先行技術に報告されているのは、いずれもIGF−IまたはそのフラグメントであるSSSRとサブスタンスPまたはそのフラグメントとの併用による効果である。特に特許文献3には、SSSR単独では効果を発現せず、サブスタンスPまたはそのフラグメントとの併用によってはじめて効果を発現することが報告されている。
特開平10−17489号公報 特開2002−226395号公報 特開2003−231695号公報 臨眼,46, 738-743 (1992) 眼科手術,5, 719-727 (1992)
IGF−Iは70個ものアミノ酸からなる長鎖ペプチドであるのに対し、SSSRは僅か4個のアミノ酸からなるペプチドであるので、精製や製剤のし易さ、安定性等の観点からその医薬としての利用価値は極めて高い。しかしながら、SSSRは、サブスタンスPまたはそのフラグメントであるFGLM等との併用によってはじめて角膜障害等の治療効果を発現することが知られているに留まり、その医薬としての利用には大きな制約があった。
本発明者等は、このSSSRの医薬としての利用をより効果的にすべく鋭意研究したところ、後述する薬理試験の結果より、驚くべきことにSSSRの濃度が1×10−9M、1×10−8M程度では角膜障害および皮膚創傷の治癒効果が認められなかったのに対し、1×10−7M(≒5×10−6%)以上ではSSSR単独でも濃度依存的に治癒効果を発揮することを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)有効成分としてアミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドまたはその医薬として許容される塩類をSer−Ser−Ser−Arg重量に換算したとき5×10−6%(w/v)以上の濃度で含有することを特徴とする角結膜障害治療剤、
(2)Ser−Ser−Ser−Argまたはその医薬として許容される塩類の濃度が5×10−5〜10%(w/v)である前(1)記載の角結膜障害治療剤、
(3)角結膜障害が角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、結膜炎またはドライアイである前(1)または(2)記載の角結膜障害治療剤、
(4)局所投与眼科用組成物の剤型が点眼剤または眼軟膏である前(1)〜前(3)記載の角結膜障害治療剤、
(5)有効成分としてアミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドまたはその医薬として許容される塩類をSer−Ser−Ser−Arg重量に換算したとき5×10−6%(w/w)以上の濃度で含有することを特徴とする皮膚創傷治癒促進剤、
(6)Ser−Ser−Ser−Argまたはその医薬として許容される塩類の濃度が10−5〜10%(w/w)である前(5)記載の皮膚創傷治癒促進剤、
(7)皮膚創傷が裂傷、擦過傷、外科的切開、皮膚潰瘍または火傷である前(5)または(6)記載の皮膚創傷治癒促進剤、
(8)局所投与皮膚科用組成物の剤型が軟膏剤または貼付剤である前(5)〜前(7)記載の皮膚創傷治癒促進剤、に関する。
本発明の角結膜障害治療剤または皮膚創傷治癒促進剤の有効成分である、アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド(SSSR)は、そのN末端がアセチル基やベンゾイル基等のアシル基、ベンジル基等の、ペプチドに汎用される保護基で保護されたものでもよく、またそのC末端がエステルやアミド等の、ペプチドに汎用される保護基で保護されたものでもよい。また、本発明は、IGF−Iの最小活性発現単位であるSSSRが単独でも効果を発揮することを見出したところに特徴があるので、本発明の効果に実質的な影響を及ぼさないIGF−Iの構成アミノ酸がSSSRに結合していてもよい。
医薬として許容される塩類としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩等が挙げられる。
本発明の角結膜障害治療剤または皮膚創傷治癒促進剤は、SSSRまたはその医薬として許容される塩類(以下、これらを「SSSR等」と総称する。)を5×10−6%以上の濃度で、より好ましくは5×10−5〜10%の濃度範囲で用いることを特徴とする。本発明は、SSSR等の濃度が一定以上になると、それ単独でも角膜障害等の治療効果を発揮することを見出したところに特徴があるので、その濃度下限値が重要な意味を持つ。そのSSSR等の濃度の下限値は、薬理試験の項で詳述するが、1×10−7M(≒5×10−6%)以上の濃度において濃度依存的に角膜障害および皮膚創傷の治癒作用を発現することに基づく。薬理試験の項ではモル濃度での結果を示しているが、その試験に用いたSSSRのdi-トリフルオロ酢酸塩の分子量約663から換算すると、1×10−7Mは約7×10−6%に相当する。SSSRは医薬として許容される種々の塩の形をとることができるが、塩の種類によって分子量は変動する。そこで、本発明ではSSSRの重量を基準にして濃度を規定した。SSSRの分子量435からすると、1×10−7Mは約5×10−6%に相当する。また、SSSR等の濃度の上限値は、上述のように特段の意義はなく、特に制限されないが、濃度が濃くなると角膜等の組織に悪影響を与え、また過剰に投与しても治癒効果が向上しなくなるので、10%以下の濃度とすることが望ましい。
本発明の角結膜障害治療剤に用いる局所投与眼科用組成物および皮膚創傷治癒促進剤に用いる局所投与皮膚科用組成物は、汎用されている技術を用いて調製することができる。
局所投与眼科用組成物の代表的な剤型としては、点眼剤および眼軟膏等が挙げられる。これらは汎用されている技術を用いて調製することができる。例えば、点眼剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤、リン酸ナトリウム等の緩衝化剤、塩化ベンザルコニウム等の防腐剤等を用いて、調製することができる。pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよく、4〜8の範囲が好ましい。
角結膜障害治療を目的とする場合、SSSR等の投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、例えば点眼剤では、5×10−6(w/v)以上の濃度、より好ましくは5×10−5〜10%(w/v)の濃度範囲のものを1日1〜数回点眼すればよい。
また、局所投与皮膚科用組成物の代表的な剤型としては、軟膏剤、ゼリー剤、パップ剤、貼付剤、ローション剤、クリーム剤、スプレー剤、エアゾール剤、硬膏剤、懸濁剤、乳剤などを例示でき、また、適当な溶剤を使用して液剤を調製することもでき、それらの製剤を皮膚などの所要部位(患部)に直接塗布、噴霧または貼付することが望ましい。また、局所投与皮膚科用組成物を調製するために、その剤形に応じて充填剤、賦形剤、基剤、増量剤、pH調整剤、可溶化剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、界面活性剤、抗酸化剤、分散剤、乳化剤、溶解剤、溶解補助剤などを添加できる。
上記製剤用の担体としては、例えば、白色ワセリン、流動パラフィン、ゲル化炭化水素、セチルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プラスティベースハイドロフィリック、ゼラチン、デキストリン、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、メトキシエチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルエーテル、ビニルピロリドンを構成成分とする重合体・共重合体、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、塩化ベンザルコニウム、オリーブ油、ツバキ油、ダイズ油等の油脂類、乳糖、水などが挙げられる。
皮膚創傷治癒促進を目的とする場合、SSSR等の投与量は、症状、年令、剤型等を考慮して適宜選択できるが、例えば軟膏剤では、5×10−6%(w/w)以上の濃度、より好ましくは5×10−5〜10%(w/w)の濃度範囲のものを通常1日1回〜数回塗布すればよい。
後述する薬理試験の結果より、アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド(SSSR)は、1×10−9M、1×10−8M程度の濃度で使用しても角膜上皮は伸展促進されないのに対し、1×10−7M(≒5×10−6%)以上の濃度で使用すれば濃度依存的に角膜上皮の伸展を促進する。したがって、SSSRまたはその医薬として許容される塩類を5×10−6%以上の濃度で含有させることにより、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、結膜炎、ドライアイ等の角結膜障害に対する治療効果を発揮すると共に、角膜上皮と近似した性質を有する皮膚上皮にも同様な効果が期待でき、裂傷、擦過傷、外科的切開、皮膚潰瘍、火傷等の皮膚創傷やそれに起因する壊疽などの疾患に対する治癒効果を発揮する。
以下に、薬理試験の結果および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
[薬理試験]
(1)角膜上皮伸展に対する作用(in vitro)
雄性日本白色ウサギの角膜を用い、Nishida らの方法(J. Cell Biol., 97, 1653-1657 (1983))に準じ、角膜片の組織培養系での角膜上皮伸展長を指標にして角膜上皮伸展に対する影響を検討した。
(実験方法)
ウサギ角膜片より切り出した角膜ブロック(1群6個)を、アミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチド(SSSR)のdi-トリフルオロ酢酸塩を含む培養液(TC−199)中、37℃・5%COの条件下で24時間培養した。培養後、角膜ブロックをエタノール−氷酢酸(容積比95:5)混合液中で固定し、パラフィンで包埋して切片を作製した。切片を脱パラフィンした後、ヘマトキシリン−エオジン染色し、顕微鏡下で上皮細胞層の伸展長を測定した。SSSRのdi-トリフルオロ酢酸塩の濃度を変えて、上記と同様の操作を行った。
コントロールとして、SSSRを含まない培養液を用い、上記と同様の操作を行った。
(結果)
1×10−9Mから1×10−4Mの濃度のSSSRのdi-トリフルオロ酢酸塩を被験物質として含む培養液で培養したときの結果を図1に示す。なお、図中の角膜上皮伸展促進率(%)は、各6例の平均値で示した。
図1より、SSSR・di-トリフルオロ酢酸塩の濃度が1×10−9M、1×10−8M程度では角膜上皮は伸展促進されないのに対し、SSSR・di-トリフルオロ酢酸塩の濃度を1×10−7M以上とすれば濃度依存的に角膜上皮の伸展促進効果が認められた。
(2)皮膚創傷治癒に対する作用
皮膚創傷治癒効果は以下に示す方法で試験することができる
ラットをジエチルエーテル吸入麻酔下で背部の体毛をバリカンで剃毛し,脱毛用クリームで除毛する。24時間後に5mm径の皮膚生検用トレパンを用いて背部皮膚に表皮・真皮の全層性の創傷を等間隔で5箇所作成し、止血の確認後にSSSRを含有する軟膏を1日1回塗布する。軟膏塗布前にラットの背部創傷を写真撮影しその面積を測定する。SSSRを含有する軟膏を塗布後の各創傷面積を比較することにより皮膚創傷治癒効果を検討できる。
[製剤例]
本発明に用いられる代表的な製剤例を以下に示す。
1.点眼剤
以下の処方の点眼剤を汎用される方法を用いて調製した。
処方例1
100ml中
SSSR 1mg
塩化ナトリウム 900mg
水酸化ナトリウム 適量
塩酸 適量
滅菌精製水 適量
処方例1と同様にして、SSSRを100ml中に0.001mg、0.01mg、0.1mg、1mg、10mg、100mg、1g、10g含有する点眼液を調製することができる。
2.軟膏剤
処方例2
100g中
SSSR 100mg
流動パラフィン 10g
白色ワセリン 適量
処方例2と同様にして、SSSRの添加量を適宜変えることにより、種々の濃度の軟膏を調製できる。
図1は、SSSR濃度(M)と角膜上皮伸展促進率(%)の関係を示すグラフである。

Claims (8)

  1. 有効成分としてアミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドまたはその医薬として許容される塩類をSer−Ser−Ser−Arg重量に換算したとき5×10−6%(w/v)以上の濃度で含有する角結膜障害治療剤。
  2. Ser−Ser−Ser−Argまたはその医薬として許容される塩類の濃度が5×10−5〜10%(w/v)である請求項1記載の角結膜障害治療剤。
  3. 角結膜障害が角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、結膜炎またはドライアイである請求項1または請求項2記載の角結膜障害治療剤。
  4. 局所投与眼科用組成物の剤型が点眼剤または眼軟膏である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の角結膜障害治療剤。
  5. 有効成分としてアミノ酸配列がSer−Ser−Ser−Argで表されるペプチドまたはその医薬として許容される塩類をSer−Ser−Ser−Arg重量に換算したとき5×10−6%(w/w)以上の濃度で含有する局所投与皮膚科用組成物を投与することを特徴とする皮膚創傷治癒促進剤。
  6. Ser−Ser−Ser−Argまたはその医薬として許容される塩類の濃度が5×10−5〜10%(w/w)である請求項5記載の皮膚創傷治癒促進剤。
  7. 皮膚創傷が裂傷、擦過傷、外科的切開、皮膚潰瘍または火傷である請求項5または請求項6記載の皮膚創傷治癒促進剤。
  8. 局所投与皮膚科用組成物の剤型が軟膏剤または貼付剤である請求項5〜請求項7のいずれかに記載の皮膚創傷治癒促進剤。


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