特許文献1に記載されているような、移動ロボットの内部で発生する熱を排気ファンによって排熱する構成は、ロボットの内部に外気を流入させる吸気口と、ロボットの内部の熱により温められた空気を外部に排気する排気口とが必要とされる。
ロボットが搭載している各種の機器の冷却を考えた場合、この吸気口と排気口における開口部の面積をそれなりに確保しなければならない。しかしながら、開口の面積を確保すると、開口から進入する雨水が問題になる。
ロボットは高度なメカトロニクス技術を利用した精密機器であり、特に制御系のコンピュータボードやモータの制御回路は、水滴の進入に極めて弱い。そのため、これらの機器に水滴が進入しないようにすることが重要となる。
雨水の浸入をほぼ完全に防ぐことができる仕様の防滴フィルタもあるが、高価であり、何より通過損失が大きいという欠点がある。移動ロボットは、利用できる電源容量に限りがあるので、フィルタの通過損失を補償できるような大流量のファンを採用することは好ましくない。このような理由から、防水フィルタの性能だけで、排熱用の開口部の防水を行うことは適当ではない。
また、特許文献2に記載されているような、保護着を移動ロボットに着せる方法は、防滴性と放熱性との両立を図る上で難点がある。また、稼働を行う毎に保護着の装着を行うことは面倒であるという問題がある。
また人型ロボットのような手足を備え、2足歩行が可能なロボットでは、電源を投入した起動時(立ち上げ時)に、膨大な量の各種制御系の初期化処理が自動的に行われるのであるが、その一部が上手く行かない場合がある。このような場合、外部からコンピュータを接続し、立ち上げ時に不具合があったプログラムを手動で再起動する等の作業が必要になる場合がある。
また、各種のメンテナンスを行う場合にも、コンピュータボードや制御基板の交換や基板単体の動作確認が簡単に行えるような構成が望まれる。しかしながら、上述した保護着を着用したロボットは、このような作業を行う場合には不向きである。
このように、防滴性、放熱性、メンテナンス時の作業性を同時に満たすことは困難であった。そこで本発明は、防滴性、放熱性、メンテナンス時の作業性を同時に満たすことができ、しかも電源への負担増や高コスト化を招かない移動ロボットを提供することを課題とする。
本発明は、防滴構造を備えた移動ロボットであって、ロボットの動作を制御する制御系機器を集中して格納し、防滴構造を有する内殻構造体と、前記内殻構造体を覆う外殻構造体と、前記内殻構造体に形成された内殻吸気口および内殻排気口と、前記外殻構造体に形成された外殻吸気口および外殻排気口とを備えることを特徴とする。
本発明においては、水滴の進入に非常に弱く、同時に発熱量が膨大で放熱が重要となる制御系機器を集中して配置した構造とする。こうすることで、冷却効率を高くでき、さらにコンピュータボードやモータ駆動回路基板の取り替えといったメンテナンスを行いやすい構造を実現できる。
以下、制御系機器を集中配置する優位性について説明する。ここでいう制御系機器というのは、ロボットの動作を制御する制御用CPUを搭載した基板、各種制御のための制御信号を送り出す回路基板、制御に必要な周辺回路、関節等に配置されたモータを制御する駆動電力を作り出すモータ駆動回路の基板等のことをいう。
ロボットの動作制御は極めて複雑であり、その制御は高速演算処理が可能な高速CPUその他演算用集積回路を多数必要とする。また、複雑な動作を行うために多数のモータを精密に駆動しなければならず、そのために多数のモータ駆動回路が必要とされる。
また、人間に代わり、あるいは人間と協調して各種の作業を行うことが求められる移動ロボットは、カメラが撮像した画像に基づいて各種の動作を制御する仕組みが不可欠であるが、視覚情報を瞬時にして処理し、各種の動作を制御するためには、大きなデータ量を極めて高速に演算する必要がある。そのため、高速演算が可能なコンピュータボードを多数必要とする。このような視覚系の制御を負担する演算回路基板も本発明における制御系機器に含まれる。
高速演算が可能なCPUの動作時における発熱量は多く、効果的な冷却あるいは排熱を行わなくてはならない。このことは、演算速度の上がったコンピュータ機器の例からも良く理解されることである。
また、モータ制御用回路には、モータに流れるアンペア単位以上の大電流をスイッチングする半導体スイッチ(例えば大電流対応のスイッチング用FET等)が用いられるが、このような半導体スイッチは発熱量が大きい。特に2足歩行型の人型ロボットの場合は多数の高出力サーボモータを各関節等に配置する必要があり、その制御のための回路もモータの数の分だけ必要となる。このことから、全体として見ればモータ制御用回路からの発熱はかなりのものとなる。
これらの制御系機器が集中配置されていると、排熱の処理を一括して行うことができるので、排熱効率、スペースの有効利用、排熱に要する電力の削減、排熱の有効利用、といった点を追求することができる。
また、制御系機器を集中配置することで、関係する基板間の配線を短くでき、また電磁シールドやノイズ対策も集中して行うことができる。
ロボットの動作を考えれば容易に分かるように、各制御系機器は、互いに連携しながら、同時並行的に動作する。この際、演算処理を行うコンピュータボードなどは、ボード間において微弱高周波信号をやり取りする。したがって、制御系機器が離れた場所にあることは、ノイズによる誤動作、動作タイミングのズレ、信号の乱れによる動作不良といった問題の原因となる。制御系機器を集中配置した場合、これらの不都合を解消することができる。
また、制御系機器を集中配置することで、メンテナンス性を高くすることができる。制御機器は、基板の交換やデバイスの交換、あるいは各種の検査や調整が必要になる場合がある。この作業は、制御機器が、集中して整然と配置されていた方が行いやすい。
さらに、制御系機器は、大電力を消費するのであるが、制御系機器が分散配置されていると、電源もまた分散配置するか、あるいは電力供給用の電路を各所に張り巡らす等の対処をしなければならない。これに対して、制御系機器を集中配置した場合、電力供給装置(例えば安定化電源)もまた集中して配置することができ、また配線も短く整然と敷設することができる。このことは、ロボット内部の空間の有効利用、メンテナンスの容易性、システムの高信頼性を追求する上で有利となる。
これら制御系機器を集中配置することの優位性は、2足歩行型の人型ロボットの場合に特に顕著となる。すなわち、2足歩行型の人型ロボットの場合、複雑な制御が必要であるので、制御系機器を多数備える必要があり、しかも制御系機器を納めるスペースは限られ、さらに重量制限や消費電力の低減が厳しく追及される。上述した説明からも明らかなように、制御系機器の集中配置は、これらの要求を満たそうとする場合に有利となる。
また本発明の移動ロボットにおいては、胴体の少なくとも一部において、内側から内殻構造体そして外側(外部に露出する表面側)に外殻構造体とした2重構造を採用している。そしてこの構造において、内殻構造体を防滴構造とし、さらに内殻構造体に上述した制御系機器を集中配置して納めた構造としている。なお、防滴構造というのは、水滴が付着しても内部に水滴が進入しないような構造のことをいう。
なお、後述するように、本発明においては、内殻吸気口および内殻排気口の部分は、ある程度簡易的な防滴構造が許容される。この意味で、内殻吸気口および内殻排気口を含めた内殻構造の全体を完全な防滴構造にする必要はない。しかしながら、内殻吸気口および内殻排気口以外の部分においては、極力防滴性を追求する構造とすることが好ましい。
本発明においては、外殻構造体に厳密な防滴機能が要求されない。つまり、外殻構造体には、内部に水滴の進入が許容される。本発明では、内殻構造体を防滴構造とすることで、雨水の進入によるダメージが最も懸念される制御系機器を集中的に防滴する。
このような構造によれば、水滴の付着を極度に嫌うコンピュータボードやモータ駆動回路の基板に対して集中的に防滴対策を施すことができる。また、外殻構造体に厳密な防滴機能が要求されないので、低コスト化を実現することができる。
一つの究極として、外殻構造体に厳密な防滴機能(つまり水滴の進入を許さない機能)を持たせることが理想であるが、外殻構造全体を完全防滴構造にすることは、現実問題として困難である。また、無理に実行しようとしてもかえって信頼性が低下してしまう可能性がある。これに対して、本発明のように、内殻構造体に防滴機能を持たせる方法は、防滴をより確実に行うことが容易であるので、より実用性が高いものとなる。
また、本発明は、内殻構造体に形成された内殻吸気口および内殻排気口と、外殻構造体に形成された外殻吸気口および外殻排気口とを備えることを特徴とする。
内殻吸気口というのは、内殻構造体の内部に内殻構造体の外部から空気を吸い込むための開口のことである。内殻排気口というのは、内殻構造体の内部から内殻構造体の外部へ空気を排気するための開口のことである。外殻吸気口というのは、外殻構造体の内部に外殻構造体の外部から空気を吸い込むための開口のことである。外殻排気口というのは、外殻構造体の内部から外殻構造体の外部へ空気を排気するための開口のことである。
外殻吸気口および外殻排気口は、ルーバ等による簡易的な防滴機能を施しておけばよい。これは、外殻構造体がある程度の雨水の浸入を許容する構造であるからである。
内殻吸気口および内殻排気口には、ある程度簡易的な防滴性機能を有するフィルタを配置する必要がある。しかしながら、ここに、水分の進入を完全に遮断するような高通過損失を示す高価な防水フィルタを配置する必要はない。
本発明においては、まず外殻吸気口から空気(外気)が外殻構造体内に取り入れられ、それがさらに内殻吸気口から内殻構造体内に取り入れられる。ここで、外殻吸気口と内殻吸気口との位置をずらす、あるいは外殻吸気口からの空気の流入軸線と内殻吸気口の空気の流入軸線とが一致しないようにすることで、仮に外殻吸気口から雨水が浸入しても、それが直接内殻吸気口に飛び込む事態が起こり難くすることができる。そのため、内殻吸気口に配置するフィルタを簡易的なものにしても、内殻構造体の防滴機能は損なわれない。
この構成においては、内殻吸気口に配置するフィルタを本格的な防水性機能を有するものにしなくてもよいので、通過損失の小さいフィルタを採用することができる。このため、排気ファンの負荷を低減することができ、排熱効率(冷却効率)の向上と排気ファンの低消費電力化を追求することができる。
本発明において、排気ファンは、内殻排気口からの排気を助長するように、内殻排気口またはその前後に配置する構造とすることは好ましい。すなわち、上述した防滴機能を効果的に発現させるには、排気側にファンを配置し、内殻構造体を減圧状態(ロボット周囲の圧力よりも低い圧力)にし、その圧力差を利用して吸気口から空気が吸い込まれる形態とすることは好ましい。
この態様によれば、外殻吸気口から吸い込まれる空気の流れは、外殻吸気口に吸気用のファンを配置する場合に比較して、かなり穏やかなものとなる。そのため、外殻吸気口から雨水が強制的に吸い込まれてしまう事態を緩和することができ、さらに内殻吸気口から雨水が吸い込まれてしまう事態を防止する点で有利となる。また、内殻吸気口を複数設けた構造において、偏り無く各内殻吸気口から外気が吸引されるので、多数備えられた制御系機器を均一性よく冷却することができる。
また、この態様によれば、内殻排気口から勢いよく内殻構造体外に排気が行われるので、内殻排気口からの水分の進入は、その排気流によって十分防止される。
本発明の移動ロボットにおいて、内殻構造体には、開閉可能あるいは着脱可能なパネルが装着され、このパネル内部には、制御系機器への電子的アクセスを可能するコネクタ群が配置されている構造とすることは好ましい。
この態様によれば、例えば起動処理時に一部のプログラムの起動に不具合が生じる等した場合(例えば、あるプログラムだけリトライが頻発する場合)に、そのプログラムを実行するコンピュータボードに直接の電子的なアクセスを行い、プログラムの再起動や予備プログラムの起動、あるいはプログラムの起動停止といった処理を容易に行うことができる。
コンピュータボードに対する直接の電子的なアクセスというのは、ロボットの外部から制御用コンピュータやキーボードをコネクタに接続し、人為的な操作によって所定のコンピュータボードに対して、上述したような操作を行うことをいう。
移動ロボット(特に2足歩行型の人型ロボット)は、電源投入後における起動時に、手足のバランス位置の設定、可動範囲の設定、バランス制御の初期設定といった複雑な設定や初期化を行う必要がある。ちなみに、現状の技術においては、これらの初期設定処理に数十分を要している。
このため、いずれかのプログラムの実行に障害がある場合、そのプロラムだけを別途起動する、そのプログラムだけを意図的に起動させず、予備のプログラムを実行するといった操作を状況に応じて行う必要がある。
上述のように起動時に行われる設定処理は膨大であり、上述のような操作は、スイッチ一つで簡単に行うようなことは難しく、このような場合は、上述したようにロボットの外部から制御用コンピュータ等を接続し、操作を行う必要がある。
内殻構造体に開閉可能なパネルが装着され、このパネル内部に、制御系機器への電子的アクセスを可能するコネクタ群が集中配置されている構造は、このような場合に有効な構造となる。特に本発明における制御系機器の集中配置構造は、パネルをあければ、そこに各種コンピュータボードへの接続コネクタが整然と並んだ構造が、容易に実現できるので、更に有利となる。
またこの態様は、コネクタへのアクセス用の開口部が集約されたことで結果的に内殻構造の開口部を少なくすることができるので、防滴性の確保という点からも好ましいものとなる。
本発明の移動ロボットにおいて、外殻構造体は、分離取り外しが可能な構造を有していることは好ましい。この態様によれば、外殻構造体を分解して取り外すことで、内殻構造体を露出させることができ、高いメンテナンス性を得ることができる。分離の形態は、なるべく少ない分離数とすることが好ましく、例えば2分割あるいは3分割とすることが適当である。
本発明の移動ロボットにおいて、外殻吸気口の吸気方向の軸線上を外した位置に内殻吸気口が位置している構造とすることは好ましい。この態様によれば、外殻吸気口から吸い込まれた空気流に乗った水滴が内殻吸気口に直接吸い込まれる不都合を防止することができる。
本発明の移動ロボットにおいて、外殻構造体には、外部に水を排水する排水手段が設けられている構造とすることは好ましい。本発明においては、外殻構造体内への雨水の進入が許容されている。しかしながら、外殻構造体内に雨水が残留するような状態は、結露や部材の腐食を招くので好ましくない。この態様によれば、外殻構造体内に進入した水滴を外殻構造体の外部に排出することができるので、外殻構造体内に雨水が残留する不都合を抑制することができる。
本発明において、移動ロボットは人型ロボットであり、内殻構造体は、人型構造の上半身胴体部に格納されている態様は好ましい。2足歩行型の人型ロボットは、対人親和性を確保するために、無闇に大型化することはできず、また2足歩行を行う必要性から、各種機器の格納スペースには大きな制限がある。
このような背景において、本発明を2足歩行型の人型ロボットに適用した場合、内殻構造体を人体の上半身胴体部に相当する部分に格納する構造とすることは合理的となる。この場合、人型ロボットの上半身胴体部の外装構造が外殻構造体となり、その内部に制御系機器を集中して格納した内殻構造体が納められる構造となる。
上半身胴体部は、ある程度のスペースが確保でき、またメンテナンスにも有利な位置および高さとなるので好ましい。また、吸気口および排気口の開口面積を確保し易い点においても好ましい。
上半身胴体部というのは、上部に首、左右に腕が位置し、人間でいうと胸郭にあたる上半身の胴体部分のことをいう。
本発明の適用対象となる移動ロボットとしては、脚部を備えて2足歩行を行う人型移動ロボット、3足以上の脚部を備えた移動ロボット(例えば4足の動物型等)、あるいは脚部の代わりに車輪や無限軌道による移動手段を備えたロボット、あるいは脚部と車輪や無限軌道とを組み合わせた移動手段を備えた移動ロボットを挙げることができる。いずれの形態の移動ロボットにおいても、内殻構造体をその胴体部に格納した構造とすることが好ましい。また、本発明における移動ロボットは、電源および動作制御のための機器を内蔵し、自律制御あるいは操作信号を外部から受けての制御が行われる形態のものが好ましい。
また、ここでは雨水からの防水の例を説明したが、進入を防止する液体は、雨水に限定されるものではない。例えば、防滴の対象となる液体は、水道水、工業用水、塗料、薬液、油、液状の各種原料(例えば液状の樹脂材料)、水蒸気、消火剤や消火用水、海水、川や湖の水等であってもよい。
また、ここでは防滴の観点から説明を加えたが、水滴の進入を防ぐ効果と同様に塵の進入を防ぐ防塵の効果も得ることができる。すなわち、本発明は、防塵においても効果的な技術として利用することができる。
本発明によれば、防滴性、放熱性、各種のメンテナンスの作業性を同時に満たすことができ、しかも電源への負担増や高コスト化を招かない移動ロボットを提供することができる。
すなわち、防滴構造を備えた内殻構造体内に、発熱が顕著な制御系機器を集中して格納し、この内殻構造体をロボットの外殻を構成する外殻構造体内に納める構造とすることで、効果的な防滴と放熱を実現することができる。
また、制御系機器が集中配置されることで、高いメンテナンス性を得ることができる。また、防滴構造を付与する部分を限定でき、更にフィルタへの負担を減らせので、低コストを追求することができる。
また、放熱機構を集中して効率の良い放熱が行え、さらに通過損失の低いフィルタを用いることができるので、放熱機構が電源に与える負担を少なくすることができる。
以下、本発明を利用した移動ロボットの一例について、図面を参照して説明する。本実施形態において説明する移動ロボットは、自律制御型の2足歩行可能な人型ロボットである。このロボットは、工事現場等における作業や介護作業といった人間がこれまで行ってきた作業を行うことを目的としているロボットの一例である。
(ロボットの概要)
図1は、本実施形態のロボットの全体の概略を示す正面図(図1(A))および右側面図(図1(B))である。図2は、本実施形態のロボットの概要を示す斜視図である。
図1および図2に示すロボット100は、上半身胴体部101と下半身胴体部103とを備えている。上半身胴体部101と下半身胴体部103とは、揺軸102によって連結され、上半身胴体部101は、下半身胴体部103に対して捻り回転(Yaw軸回転)および前後回転(Pitch軸回転)が行えるようになっている。
下半身胴体部103には、右側股関節104を介して右足105が、左側股関節106を介して左足107が連結されている。また、上半身胴体部101には、右肩関節108を介して右腕109が連結され、左肩関節110を介して左腕111が連結され、首112を介して頭部113が配置されている。また、上半身胴体部101の外殻は、外殻構造体120によって覆われている。外殻構造体120の内部には、後述する内殻構造体が納められている。
上半身胴体部101の外殻を構成する外殻構造体120には、外殻吸気口114が設けられている。図1には、6ヶ所の外殻吸気口114が記載されている。
なお、外殻構造体120の人体の鳩尾に相当する部分には、腰Pitch軸ギヤボックス115が取り付けられている。後述するように、この腰Pitch軸ギヤボックス115の裏側には、電源系への冷却用空気を吸引する内殻吸気口が設けられている。
また、下半身胴体部103の内部には、動力源となるバッテリーが格納されている。ロボット100の動作は、下半身胴体部103の内部に格納されたバッテリーの電力を動力源として行われる。
(外殻構造体の概要)
図3は、図1および図2に示す上半身胴体部101の内部構造を示す分解斜視図である。図1および図2に示す外殻構造体120は、図3に示すように、外殻構造体前部121、外殻構造体後部122、外殻構造体上部123に3分割される。
外殻構造体前部121の前面および外殻構造体上部123の前縁部には、外殻吸気口114が設けられている。
外殻構造体120の中には、内殻構造体300が納められている。内殻構造体300は、スピーカ301、LED302、内殻吸気口303、内殻吸気口304、排気ファン305、通信アンテナ307を備えている。
スピーカ301は、応答音、音声、各種の動作を報知する報知音、その他警告音等を発生する。LED302は、ロボット100(図1参照)のパワーオンやパワーオフ等の制御状態を表示するLED表示灯である。
図3には、内殻吸気口303として、内殻構造体300の前部上側に2ヶ所、前部左側に3ヶ所の計5ヶ所が記載されているが、同様の内殻吸気口は、図では影になっている前部下側に2ヶ所、前部右側に3ヶ所の計5ヶ所にも設けられている。また、内殻構造体300の左側面には、内殻吸気口304が設けられている。なお、内殻吸気口304の反対側(右側面)にも同様の吸気口が設けられている。
ここで、計10ヶ所の内殻吸気口303には、薄型フィルタが配置されている。また、計2ヶ所の内殻吸気口304には、フィルタを波形に折り曲げてフィルタ能力を高くした薄型フィルタが配置されている。
排気ファン305は、遠心式ファンであり、内殻構造体300内の空気を排気口306から勢いよく排気する機能を有する。排気ファン305を作動させることで、内殻構造体300内の空気が排気ファン305の排気口306から排気され、その排気力によって、内殻吸気口303群および304群より、内殻構造体300内に空気が吸引される。なお、排気ファン305の排気口には、図3には図示されていないフィルタ412(図5参照)が配置されている。
通信アンテナ307は、マイクロ波帯域の電波を利用して、内殻構造体300内に格納された制御系機器と外部との間で通信を行うためのアンテナである。この通信アンテナ307は、例えばロボット100の遠隔操作時に利用される。
外殻構造体前部121には、音を外部に放射するためのスピーカ全面パネル124、LED302を表示するための開口125が設けられている。
外殻構造体後部122には、アクセス開口126、3ヶ所の外殻排気口127が設けられている。
アクセス開口126は、内殻構造体300の後部の図3には図示されていない内部コネクタ群配置部に、アクセスパネル308を蓋として取り付ける際に利用される。つまり、アクセスパネル308は、外部から開口126を介して内殻構造体300に取り付けられる。この構造においては、アクセスパネル308を取り付けた状態において、アクセスパネル308の外側が、ロボット100の背中から見える状態となる。
また、外殻構造体後部122には、排水用スリット128が設けられている。この構造においては、外殻構造体120の内壁および内殻構造体300の外側に付着した水滴は、重力の作用でスリット128に流れ込み、外部に排出される。なお、外殻構造体上部123には、首112が貫通する開口129が設けられている。
図3に示す構造においては、外殻吸気口114からの気流の流れの軸線と、内殻吸気口303および304の吸気方向の軸線とが一致しないように意図的に構成されている。すなわち、外殻吸気口114の吸気方向の軸線上を外した位置に内殻吸気口303が位置するようにし、外殻吸気口114から内殻吸気口303および304への気流の流れの経路が屈曲するようにしている。
こうすることで、外殻吸気口114から吸い込んだ外気の気流中に水滴が含まれていても、それが直接内殻吸気口303および304から吸引される事態が生じにくい構造を得ることができる。
このため、内殻吸気口303および304に配置するフィルタをより簡易なものにすることができる。
以下、外殻構造体120の外観構造について説明を加える。図4は、外殻構造体120の概要を示す斜視図(A)、背面図(B)、上面図(C)、前面図(D)、および下面図(E)を示す展開図である。
図4(B)には、外殻構造体120の背面における4ヶ所の外殻排気口127が示されている。外殻構造体120の内部からの排気は、この4ヶ所の外殻排気口127から行われる。これら外殻排気口127は、斜めに傾斜した長方形の板部材を上下に間隔を開けて縦に並べたルーバ構造を備えている。ルーバ構造とすることで、外殻排気口127から雨水が吹き込み難い構造とすることができる。
また、図4(B)に示すように、外殻構造体120の背面においては、内殻構造体300に取り付けられるアクセスパネル308が見えている。つまり、外殻構造体120の背面には、アクセスパネル308の取り外しができるようにアクセス開口126が設けられている。ここでは、雨水や塵の進入を防ぐために、アクセスパネル308の縁周辺にはパッキンが配置されており、アクセスパネル308と外殻構造体120に形成されたアクセス開口126との間に隙間ができないように工夫されている。
図4(C)に示すように、外殻構造体120の下面には、首112を通すための首孔129が設けられている。
図4(D)に示すように、外殻構造体120の全面には、計6ヶ所の外殻吸気口114の他に、人体の鳩尾に当たる部分に設けられた外殻吸気口501が設けられている。
この外殻吸気口501は、主に後述する図5に図示する電源ボード409に風を送る電源ボード用ファン411が必要とする空気を吸引するための吸気口である。図1に示すように、ロボット100が組み立てられている状態においては、外殻吸気口501は、腰pitch軸ギヤボックス115によってその一部しか見えない状態になっている。
また図4(E)に示すように、外殻構造体120の下面には、揺軸102の捻り回転(Yaw軸回転)軸が貫通する軸孔502が設けられている。
(内殻構造体の概要)
図5は、内殻構造体の内部構造の概略を示す分解斜視図である。図5には、図3に示す内殻構造体300が、内殻構造体本体401、内殻構造体本体401の前部を覆う内殻構造体前部カバー402、内殻構造体本体401の後部を覆う内殻構造体後部カバー403によって構成された構造が示されている。
内殻構造体本体401の内部には、制御系機器である動作系ホストコンピュータボード群404、視覚系ホストコンピュータボード群405、モータ駆動回路ボード群406、および電源系制御回路ボード群407が納められる。また、内殻構造体本体401の上部には、リンクノードコンピュータボード群408が装着され、下部には電源ボード409が装着される。
動作系ホストコンピュータボード群404は、手足の動作制御や姿勢制御といった各部の動作を制御する処理を行う機能を有する。視覚系ホストコンピュータボード群405は、頭部113に備えた図示しないカメラが捉えた画像を処理解析し、各種の動作を制御する際に必要となる視覚情報を生成する。
リンクノードコンピュータボード群408は、動作系ホストコンピュータボード群404で扱わなくても良い簡単な処理を行うコンピュータボードである。図示されている2つのリンクノードコンピュータボード群408は、それぞれ右腕109と左腕111、腰軸、首軸それぞれの一部の動作制御を受け持っている。
リンクノードコンピュータボードは、脚部の動作制御用に、右足105および左足107の人体でいうと太股に相当する部分にも配置されている。
リンクノードコンピュータボードは、動作系ホストコンピュータボード群404が処理しなくてもよいような、手足の単純な動きを制御し、これにより動作系ホストコンピュータボード群404の負担を軽減し、複雑な動き、あるいは微妙な動きが要求される際に、動作系ホストコンピュータボード群404の処理速度が低下しないようにするために配置されている。
これらコンピュータボードには、それぞれの機能に応じたCPUやメモリ、その他集積回路や周辺回路が搭載されている。
モータ駆動回路ボード群406は、関節等に配置されたサーボモータを駆動する機能を有する。モータ駆動回路ボード群406は、モータ駆動用に開発された大電流を扱うことができるスイッチング用FET等を用いたモータ駆動用電子回路を備えている。
電源系制御回路ボード群407は、内殻構造体300内に納められた各種の制御系機器へ供給される電源供給系統を制御および監視する機能を有する。電源系制御回路ボード群407は、電源電圧や電流を監視するためのセンサ回路、リレー回路、制御用のマイコン回路を備えている。
動作系ホストコンピュータボード群404、視覚系ホストコンピュータボード群405、モータ駆動回路ボード群406、および電源系制御回路ボード群407等は、ボード端にコネクタを備えたモジュール構造を有している。
なお、内殻構造体401内には、この各ボード群のコネクタの受け側コネクタが配置されている。各ボード群は、自身のコネクタを内殻構造体401内に配置された受け側コネクタに結合させることで、内殻構造体401内に装着することができる。この構造によれば、各ボード群の内殻構造体401内への装着および脱着(取り外し)を簡単に行うことができる。
例えば図5には、モータ駆動回路ボード群406を装着するための受け側コネクタ414と、電源系制御回路ボード群407を装着するための受け側コネクタ415とが、内殻構造体本体401内に配置されている様子が示されている。この構造においては、受け側コネクタ414にモータ駆動回路ボード群406を装着し、受け側コネクタ415に電源系制御回路ボード群407を装着することで、内殻構造体401内へのモータ駆動回路ボード群406、および電源系制御回路ボード群407の装着が行われる。
電源ボード409は、上述した各種ボードに電力を供給するための電源回路を備えている。電源回路は、各ボードに電力を効率よく供給できるようにDC−DCコンバータ回路、電圧安定化回路、保護回路、補助電源回路等を複数備えている。
動作系ホストコンピュータボード群404や視覚系ホストコンピュータボード群405は、高速演算が可能なCPUを備えており、しかも一つのボードに備えられたCPUが複数の場合もあり、さらにそのコンピュータボードが複数格納されている。このため、かなりの電力を消費する。また、モータ駆動回路ボード群406も大電流を扱うスイッチング素子を備えた駆動回路を備え、さらにモータ駆動回路ボード群406も複数枚が配置されているので、そこでもかなりの電力を必要とする。
したがって、電源ボード409は、大電力を供給する電源能力が必要とされる。そのため、電源回路における発熱も大きく、それに対応するために、電源ボード409の下には電源ボード用ヒートシンク410が配置され、さらにこのヒートシンクを冷却する電源ボード用ファン411が配置されている。
ここで、動作系ホストコンピュータボード群404と視覚系ホストコンピュータボード群405は、後部カバー403を外した状態で、内殻構造体本体401の内部に装着することができる。また、モータ駆動回路ボード群406と電源系制御回路ボード群407は、前部カバー402を外した状態で、内殻構造体本体401の内部に装着することができる。もちろん、装着されている状態のボードを取り外すこともできる。
内殻構造体後部カバー403には、内側アクセス用開口413が設けられている。この内側アクセス開口413にアクセスパネル308が取り付けられる。そして、アクセスパネル308を外すと、内殻構造体300の内部にアクセスできるようになっている。後述するように、アクセスパネル308を外すと、動作系ホストコンピュータボード群404および視覚系ホストコンピュータボード群405のコンピュータボードに電子的にアクセスすることが可能となるコネクタ群が露出する構造となっている。
以下、内殻構造体300の外観構造について説明を加える。図6は、内殻構造体300の概要を示す斜視図(A)、背面図(B)、左側面図(C)、上面図(D)、前面図(E)、および下面図(F)を示す展開図である。
図6(B)には、アクセスパネル308(図5参照)が取り外され、内側アクセス用開口413から、動作系ホストコンピュータボード群404および視覚系ホストコンピュータボード群405のコンピュータボードに電子的にアクセスすることが可能となるコネクタ群601が露出した状態が示されている。
また、図6(C)〜(F)に示されるように、内殻構造体300の正面(前部カバー402)には、計10ヶ所の内殻吸気口303が設けられている。排気ファン305が動作すると、この内殻吸気口303から空気が内殻構造体300内に吸い込まれる。
(実施形態の優位性)
本実施形態においては、人型ロボットの胸部に相当する上半身胴体部101の外側を外殻構造体120、内側を内殻構造体300とする2重構造を採用している。そして、内殻構造体300を防滴構造とし、その内部に制御用機器である動作系ホストコンピュータボード群404、視覚系ホストコンピュータボード群405、モータ駆動回路ボード群406、および電源系制御回路ボード群407を納めた構造としている。
この構造においては、発熱が問題となる制御用機器が集中的に配置されているので、これらの機器から発生する熱を効率よく排熱することができる。このため、過熱に起因する動作不良等の不具合を防ぐことができる。
また、内殻構造体300に集中して防滴構造を施せばよいので、確実な防滴構造を低コストで実現することができる。すなわち、制御系機器を個別に防滴する場合に比較して、より少ない負担で、より確実な防滴を実現することができる。
またこの構造では、排気ファンの数を減らすことができるので、排気ファンの利用効率を高くすることができる。このため排熱機構の消費電力を低減することができる。
また、外殻構造体120と内殻構造体300との2重構造とすることで、内殻構造体300の内殻吸気口303および304に直接水が吹き付けられない構造を実現することができる。
特に、外殻吸気口114の吸気方向の軸線上に、内殻吸気口303および304が位置しないようにすることで、内殻吸気口303および304に直接水滴が吹き付けられる事態をより効果的に防止できる構造を得ることができる。
このため、内殻吸気口303および304に配置されるフィルタの負担を軽減することができ、一般的な防水性機能を有するフィルタよりも低コストで実施することができる。また、低通過損失なものを採用できるので、排気ファンに加わる負荷を低減でき、またより大量の風量を内殻構造体300内に取り入れることができる。このことは、コスト削減、排熱効率(冷却効率)の向上を追求する点で有利となる。
特に本実施形態においては、内殻構造体300内から排気ファン305によって強制排気を行う構造としているので、集中配置した制御用機器にむらなく気流を当てることができ、各制御用機器からの発熱をバランス良く効果的に排熱させることができる。
また、外殻構造体120に設けられたアクセス開口126を介して、内殻構造体300の背面に取り付けられたアクセスパネル308を取り外すことで、内側アクセス用開口413を介して、内殻構造体300内に格納された各種コンピュータボート等に電気的な接続を可能とするコネクタ群601へのアクセスを容易に行うことができる。
図7は、人型ロボットの上半身胴体部の背面図および斜視図である。図7(A)は、上半身胴体部101を背面から見た状態を示す背面図であり、図7(B)は、上半身胴体部を斜め後方から見た斜視図である。
図7から分かるように、アクセスパネル308を取り外すと、アクセス開口126を介して、内殻構造体300(図3参照)内のコネクタ群601を露出させることができる。コネクタ群601は、制御用機器である動作系ホストコンピュータボード群404、視覚系ホストコンピュータボード群405への電子的なアクセスを可能にするコネクタである。
この構造によれば、例えば、動作系ホストコンピュータボード群404の一つが関係する制御に不具合や動作確認等の必要がある場合、アクセスパネル308を取り外し、コネクタ群601の中から、対応する基板へのアクセスが行えるコネクタを探し出し、このコネクタを利用して、外部コンピュータや試験調整用外部機器、その他測定器を用いて、当該基板の動作確認や調整を行うことができる。このように、ロボットの起動時における一部制御の不具合等に迅速に、そして簡単に対応することができる。
また、図3や図5に示すように、外殻構造体120を分離構造とすることで、制御用機器である動作系ホストコンピュータボード群404、視覚系ホストコンピュータボード群405、モータ駆動回路ボード群406、および電源系制御回路ボード群407等の交換作業をロボットの分解を大げさに行わなくても実行することができる。
例えば、動作系ホストコンピュータ群404のボードを交換する場合、まず外殻構造体後部122を取り外し、次に内殻構造体後部カバー403を取り外すことで容易に行うことができる。
この作業は、ロボットを直立させた状態で行うことができるので、稼働現場で実行することができる。このため、ロボットを整備施設に搬送し、そこで分解した上で、コンピュータボード等の制御用機器を交換するといった煩雑な作業を行わなくても良い。
本実施形態においては、図3に示すように、外殻構造体120の背面下部付近に、排水用スリット128を設けている。こうすることで、外殻構造体120内に進入した水滴を重力の作用により、外部に排出させることができる。
本実施形態においては、内殻構造体300に防滴機能を負担させ、外殻構造体120の防滴機能はある程度あればよいくらいに許容されている。このため、外殻構造体120の内側に水滴が進入することがあるが、上述のように排水手段を設けることで、残留する水滴の悪影響を排除することができる。
本実施形態においては、図3および図5に示されるように、内殻構造体300は、人型ロボットの胸部分に相当する上半身胴体部101に格納されている。つまり、人体の胸部に相当する部分に、制御用機器を集中配置し、格納する構造としている。
上半身胴体部101は、ある程度のスペースが確保でき、またロボット100が直立した状態において、メンテナンスに有利な位置および高さとなるので好ましい。また、吸気口および排気口の開口面積を確保し易い点においても好ましい。
100…ロボット、101…上半身胴体部、102…揺軸、103…下半身胴体部、104…右側股関節、105…右足、106…左側股関節、107…左足、108…右肩関節、109…右腕、110…左肩関節、111…左腕、112…首、113…頭部、114…外殻吸気口、115…腰Pitch軸ギヤボックス、120…外殻構造体、121…外殻構造体前部、122…外殻構造体後部、123…外殻構造体上部、124…スピーカ前面パネル、125…LED302を表示するための開口、126…アクセス開口、127…外殻排気口、128…排水用スリット、129…首112が貫通する開口、300…内殻構造体、301…スピーカ301、302…LED、303…内殻吸気口、304…内殻吸気口、305…排気ファン、306…排気ファンの排気口、307…通信用アンテナ、308…アクセスパネル、401…内殻構造体本体、402…内殻構造体前部カバー、403…内殻構造体後部カバー、404…動作系ホストコンピュータボード群、405…視覚系ホストコンピュータボード群、406…モータ駆動回路ボード群、407…電源系制御回路ボード群、408…リンクノードコンピュータボード群、409…電源ボード、410…電源ボード用ヒートシンク、411…電源ボード用ファン、412…フィルタ、413…内側アクセス用開口、501…外殻吸気口、502…揺軸102の捻り回転(Yaw軸回転)軸が貫通する軸孔、601…内殻構造体に配置されたコネクタ群。