JP2006114615A - 負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器 - Google Patents
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Abstract
【課題】 環境負荷を低減でき、防災性に優れ、コンパクトで経済性に優れ、しかも、摺動摩耗にも強い負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器を提供する。
【解決手段】 タンク1に、変圧器本体4と、負荷時タップ切換装置5の切換開閉器部6及びタップ選択器部7とが収納され、前記タンク1と切換開閉器部6とタップ選択器部7とに、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されている。
【選択図】 図1
【解決手段】 タンク1に、変圧器本体4と、負荷時タップ切換装置5の切換開閉器部6及びタップ選択器部7とが収納され、前記タンク1と切換開閉器部6とタップ選択器部7とに、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されている。
【選択図】 図1
Description
本発明は、使用する充填用絶縁媒体を特定した負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器に関する。
負荷時タップ切換装置は、系統中の電磁誘導機器、例えば、変圧器に設けられていて、負荷側の電圧が変動した場合等に、タップを切換えて変圧比を変えることにより、負荷電流を切ることなく電圧調整を行うようになっている。また、負荷時タップ切換装置は、大きな変電所用変圧器の場合には、潮流制御に用いられ、電熱炉やアーク炉の場合には、電流制御に用いられている。
しかして、この種の負荷時タップ切換装置付き変圧器は、鉄心に巻線を巻装してなる変圧器本体をタンク内に収納するとともに、タンク内に負荷時タップ切換装置の切換開閉器部及びタップ選択器部を収納し、電動操作機構により伝導装置を介してこれらの換開閉器部及びタップ選択器部を連動して駆動させることにより、タップ切換を行なうように構成されている。この場合、切換開閉器部は、切換開閉器として、通常、接触子型切換開閉器が用いられるので、電流の強制的な開閉時に接触子間にアークが発生する。また、タップ選択器部はタップ選択器として、通常、摺動接触子型が用いられているので、タップ選択時に接触子間が摺動して摺動摩耗により金属紛が発生する。このため、タンク、切換開閉器部及びタップ切換基部には絶縁媒体として、通常、鉱油が充填されている(例えば特許文献1参照)。尚、絶縁媒体として鉱油を用いた場合には、負荷時タップ切換装置付き変圧器には、コンサベータ及び活線洗浄機が設けられる。
ところで、近年、環境問題に対する対策として、工業製品におけるいわゆる3R、即ち、再使用(REUSE)、資源の再利用(RECYCLE)、廃棄物の発生抑制(REDUCE)を推進することが要望されてきている。又、カーボンニュートラルという考え方も示されてきている。この考え方は、CO2の排出において、同じカーボン材料を使用するのであれば、生態系から生まれたカーボンを使用すると、そのカーボンは土に戻り、地球全体で大気に放出されるカーボン量は変化することはない。一方、化石燃料のカーボンを使用すると、その分だけ余計に大気に放出されるので、化石燃料の使用を極力避けるべきであるというものである。
こういった環境保護の観点から上記負荷時タップ切換装置付き変圧器をみれば、鉱油は化石燃料そのものであり、これを絶縁媒体として使用することは、環境面で改善すべき問題であるといえる。また、変圧器が油漏れを起こすと、土壌を汚染するといった問題もあり、その意味でも絶縁媒体として鉱油を用いることは好ましいことではないということがわかる。更に、鉱油は危険物に指定されているように、比較的燃えやすい液体であり、絶縁事故等の際に、条件によっては火災に至る虞もある。このため、地下などの高い防災性が要求される場所に負荷時タップ切換装置付き変圧器を設置する場合には、固定消火設備の設置が必要とされ、システム全体が複雑で、スペースを多く必要とし、高価になってしまう不具合があった。
これに対し、地下等に設置する防災性を高めることのできる変圧器として、絶縁及び冷却媒体にSF6ガスを用いたガス絶縁変圧器がある(例えば特許文献2参照)。しかし、SF6ガスは、地球温暖化ガスに指定されているように、使用の削減が求められているガスであり、環境面からSF6ガスの使用は極力避けなければならない。
尚、絶縁媒体として液体シリコーンを用いた変圧器がある。液体シリコーンは、鉱石から採取された天然珪素に石油の炭化水素分子を結合して製造されるもので、難燃性に優れているものの、潤滑性に劣るので、負荷時タップ切換装置の絶縁媒体として用いた場合には、特にタップ選択器部の接触子の摺動摩耗が大きくなって所定の寿命が得られないことになり、実用化されていない。
特開平11−340048号公報
特開2001−358024号公報
上述のように、負荷時タップ切換装置付き変圧器にあっては、環境負荷低減及び防災性が求められるのであるが、それらの観点以外にも、製品として求められることは、合理的な大きさ及び経済性である。つまり、いかに環境負荷を低減したとしても、現状の製品と比べて大形となり、また格段的に高価なものとなると、実使用に適したものとはいえなくなる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、環境負荷を低減でき、防災性に優れ、コンパクトで経済性に優れ、しかも、摺動摩耗にも強い負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器を提供するにある。
上記目的を達成するために、本発明の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器は、タンクと、このタンク内に収納された電磁誘導機器本体と、前記タンク内に収納された切換開閉器部及びタップ選択器部を有する負荷時タップ切換装置とを備え、
前記タンクと負荷時タップ切換装置の全部若しくは一部とに(請求項1)、例えば、タンクと切換開閉器部とタップ選択器部とに(請求項2)、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されていることを特徴とする。
前記タンクと負荷時タップ切換装置の全部若しくは一部とに(請求項1)、例えば、タンクと切換開閉器部とタップ選択器部とに(請求項2)、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されていることを特徴とする。
天然エステルは、菜種、大豆等の種子油がほとんど100%であり、天然のため生分解性があり、油漏れしても土壌を汚染することはなく、難燃性もあり防炎性に優れている。天然エステルに流動点降下剤を僅か添加することにより、流動点がさげられ、通常の低温時にも使用可能となる。又、天然エステルに酸化防止剤を僅か添加することにより、劣化を抑制することができ、長寿命化を図ることができる。そして、天然エステルは、潤滑性を有しているので、タップ選択器部の接触子の摺動摩耗を小さくすることができる。
本発明の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器は、タンク及びタップ選択器部に、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填され、切換開閉器部に、絶縁液体として、液体シリコーンが充填されるようにしてもよい(請求項3)。
液体シリコーンは、鉱石から採取された天然珪素に石油の炭化水素分子を結合して製造されるので、環境負荷面では、天然エステルより多少落ちるが、鉱油に比べれば遥かに優れている。従って、上記のような構成とすれば、液体シリコーンの優れた難燃性により切換開閉器部の接触器間に発生するアークに対処できる。
液体シリコーンは、鉱石から採取された天然珪素に石油の炭化水素分子を結合して製造されるので、環境負荷面では、天然エステルより多少落ちるが、鉱油に比べれば遥かに優れている。従って、上記のような構成とすれば、液体シリコーンの優れた難燃性により切換開閉器部の接触器間に発生するアークに対処できる。
本発明の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器は、タンク及び切換開閉器部に、絶縁液体として、液体シリコーンが充填され、タップ選択器部に、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されるようにしてもよい(請求項4)。
このような構成によれば、天然エステルの潤滑性により、タップ選択器部の接触子の摺動摩耗を小さくすることができる。
このような構成によれば、天然エステルの潤滑性により、タップ選択器部の接触子の摺動摩耗を小さくすることができる。
本発明の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器は、天然エステルの代わりに合成エステルを用いるようにしてもよい(請求項5)。
工業的に製造された合成エステルは、天然エステルと同等の特性を有するので、カーボンニュートラルという自然材料を利用すること以外については、上記と同様の作用、効果を得ることができる。尚、合成エステルとしては、例えば、一塩基性の脂肪酸と多価アルコールとを反応させて製造されるポリオールエステルなどを採用することができる。
工業的に製造された合成エステルは、天然エステルと同等の特性を有するので、カーボンニュートラルという自然材料を利用すること以外については、上記と同様の作用、効果を得ることができる。尚、合成エステルとしては、例えば、一塩基性の脂肪酸と多価アルコールとを反応させて製造されるポリオールエステルなどを採用することができる。
本発明の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器は、タップ選択器部のタップ選択器として低摺動抵抗型タップ選択器が用いられ、タンク、切換開閉器部及びタップ選択器部に、絶縁液体として、液体シリコーンが充填されるようにしてもよい(請求項6)。
低摺動抵抗型タップ選択器は、接触子がローラ型になっており、通常のタップ選択器より格段に摺動抵抗が小さいので、液体シリコーン中でも所定の寿命を保ちながら充分な動作を期待できる。
低摺動抵抗型タップ選択器は、接触子がローラ型になっており、通常のタップ選択器より格段に摺動抵抗が小さいので、液体シリコーン中でも所定の寿命を保ちながら充分な動作を期待できる。
本発明の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器は、タップ選択器部のタップ選択器として低摺動抵抗型タップ選択器が用いられ場合には、タンクとタップ選択器部とを連通状態とすることもできる(請求項7)。
低摺動抵抗型タップ選択器は、摺動抵抗が小さいので、金属粉はほとんど生じず、従って、タンクとタップ選択器部とを連通させてもの電磁誘導機本体には悪影響を及ぼすことはなく、従って、タップ選択器部の構造を簡素化することができる。
低摺動抵抗型タップ選択器は、摺動抵抗が小さいので、金属粉はほとんど生じず、従って、タンクとタップ選択器部とを連通させてもの電磁誘導機本体には悪影響を及ぼすことはなく、従って、タップ選択器部の構造を簡素化することができる。
本発明の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導装置によれば、絶縁液体として天然エステル、合成エステ若しくは液体シリコーンを用いることにより、環境負荷を低減でき、防災性に優れ、コンパクトで経済性に優れ、しかも、摺動摩耗にも強い、という効果を奏するものである。
(第1の実施例)
以下、本発明を静止型の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器たる負荷時タップ切換装置付き変圧器に適用した第1の実施例につき、図1乃至図3を参照して説明するに、図1は、全体の構成を概略的に示す縦断面図である。
以下、本発明を静止型の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器たる負荷時タップ切換装置付き変圧器に適用した第1の実施例につき、図1乃至図3を参照して説明するに、図1は、全体の構成を概略的に示す縦断面図である。
図1において、矩形容器状をなすタンク1内には、鉄心2に巻線3を巻装してなる電磁誘導機器本体たる変圧器本体4が収納されている。負荷時タップ切換装置5は、タンク1の上板1aに吊り下げ配置された切換開閉器部6と、この切換開閉部器部6に吊り下げ配置されたタップ選択器部7と、タンク1の側板1bの外面に取付けられた電動操作機構8と、この電動操作機構8の操作力を前記切換開閉器部6及びタップ選択器部7に連動して伝達する伝導軸9及びギア10からなる伝導装置11とを備えて構成されている。この場合、切換開閉器部6(のタンク)及びタップ選択器部7(のタンク)は、タンク1内とは隔絶状態(非連通状態)に構成されている。そして、タンク1内には、絶縁液体12として天然エステルが充填されており、又、切換開閉器部6及びタップ選択器部7タンク内には、図示はしないが、同じく絶縁液体として天然エステルが充填されている。なお、切換開閉器部6の切換開閉器としては、接触子型切換開閉器が用いられ、タップ選択器部7のタップ選択器としては、摺動接触子型タップ選択器が用いられている。
ここで、負荷時タップ切換装置5におけるタンク1の上板1aに吊り下げ配置された切換開閉器部6及びタップ選択器部7の高さ寸法は、変圧器本体4の高さ寸法より小であるのが一般的であり、このため、タンク1内のタップ選択器部7の下方部位には大なる余剰空間が生じようになっている。そこで、タンク1の底板1cにおいて、前記タップ選択器部7と対応する部位には、これを折曲加工して底上げを行なって上底部(充填量低減手段)1dが形成されている。これにより、タンク1内におけるタップ選択器部7の下方の空間は著しく減少し、その分だけ、絶縁液体(天然エステル)12の使用量を減少させることができる。
ここで、天然エステルとは、例えば、菜種、大豆など主として植物の種子や果実を搾って得られる植物油であり、多くは食用油として使用されている。この天然エステルは、優れた絶縁性及び冷却性を有し、これに加え、天然品であって生分解性があり、また、難燃性が高く、その多くは250℃以上の引火点を有している。従って、絶縁液体としての十分な性能が得られると共に、油漏れがあっても土壌を汚染することがなく、その難燃性により防災性に優れたものとなる。
この天然エステルは、炭化水素化合物であり、飽和炭化水素と不飽和炭化水素とからなる。天然エステルと称される理由は、分子中にエステル結合
−C−O−
‖
O
をもっているからであり、一般にこのエステル結合は安定性が高い。この場合、飽和炭化水素が多いといわゆるロウ成分が多く、低温での流動性に劣る反面、酸化安定性が良好である。一方、不飽和炭化水素が多いとその逆になり、低温での流動性に優れる反面、酸化安定性に劣るものとなる。
−C−O−
‖
O
をもっているからであり、一般にこのエステル結合は安定性が高い。この場合、飽和炭化水素が多いといわゆるロウ成分が多く、低温での流動性に劣る反面、酸化安定性が良好である。一方、不飽和炭化水素が多いとその逆になり、低温での流動性に優れる反面、酸化安定性に劣るものとなる。
そのうち低温での流動性は、電気機器の低温時の使用温度を決めるものとなる。日本国内においては、JEC−2200(電気学会 電気規格調査会規格「変圧器」)では、例えば−20℃以上の温度で運転できるように規定されている。また、JIS−C−2320(日本工業規格「電気絶縁油」)では、一種1号油、2号油において、流動点は−27.5℃以下と規定されており、国内で使用する絶縁液体としては、−27.5℃以下の流動点が必要である。また、酸化安定性は、絶縁油が酸化で劣化する際の強度を表すもので、電気機器に使用する場合には、最低限の安定性を保っている必要がある。
上記した天然エステルは、電気機器の絶縁液体として使用するには、そのままでは低温での流動性と酸化安定性とに問題がある。そこで、天然エステルに、流動点降下剤を添加することにより必要な低温での流動性を得ることができ、また、酸化防止剤を添加することにより、十分な酸化安定性を得ることができる。本発明者らの研究によれば、上記添加剤入りの天然エステルは、鉱油よりもやや劣るものの日本国内で使用するに問題のない流動点を得ることができ、また、鉱油と同等の酸化安定度を得ることができた。尚、上記流動点降下剤としては、ポリメタクリレート等を採用することができ、酸化防止剤としては、ディターシャルブチルパラクレゾール等を採用することができる。
そして、上記天然エステルは、引火点(及び燃焼点)が、鉱油に比べて大幅に高くなり、難燃性を大幅に向上させることができる。このとき、引火点が250℃以上であることにより、危険物の引火性液体の扱いを受けずに、可燃物扱いとなり、ひいては消防設備
の簡略化も可能となる。また、上記天然エステルは、比誘電率が鉱油と比べて高く、油浸絶縁物の比誘電率(3.5〜4程度)に近いので、絶縁上の弱点である絶縁油に加わる電界を低減することができ、この結果、鉱油を用いた場合と比べて絶縁性能を向上させることができる。このことは、天然エステルを使用することにより、絶縁面でコンパクトな電気機器が得られることを示している。尚、天然エステルの絶縁破壊電圧は、鉱油と同程度であり、信頼性ある電気機器たる負荷時タップ切換装置付き変圧器が得られる。
の簡略化も可能となる。また、上記天然エステルは、比誘電率が鉱油と比べて高く、油浸絶縁物の比誘電率(3.5〜4程度)に近いので、絶縁上の弱点である絶縁油に加わる電界を低減することができ、この結果、鉱油を用いた場合と比べて絶縁性能を向上させることができる。このことは、天然エステルを使用することにより、絶縁面でコンパクトな電気機器が得られることを示している。尚、天然エステルの絶縁破壊電圧は、鉱油と同程度であり、信頼性ある電気機器たる負荷時タップ切換装置付き変圧器が得られる。
冷却性能についても、天然エステルは鉱油と同等の冷却性能を有していることが判明している。さらに、天然エステルは、飽和水分量が鉱油に比べて格段に大きく、例えば構成部品の絶縁物(絶縁紙等)に含まれていた水分を吸収しやすい性質を有する。絶縁性能面でも、含有水分量の許容値が鉱油に比べて十分に高い。これにより、水分による絶縁紙の劣化を防止し、鉱油を用いた場合に比べて負荷時タップ切換装置付き変圧器の寿命を長くすることができ、しかも、製造工程において乾燥処理を簡略化することも可能となる。上記天然エステルは、従来の鉱油と比べてそれ自体は高価なものとなるが、負荷時タップ切換装置付き変圧器全体としてみれば、絶縁液体を変更することによるコストアップは僅かであり、むしろ製造工程の簡略化、装置のコンパクト化などを考慮すれば、鉱油を用いた場合と比較して、コスト面でさほど不利とならずに済ませることができるのである。
次に、上記構成の作用について、図2及び図3も参照して述べる。
本実施例における絶縁液体12は、250℃以上の引火点を有し、流動点降下剤及び酸化防止剤を添加してなる天然エステルから構成されている。具体的には、本実施例では、天然エステルとして例えば菜種油を主成分とし、これに、流動点降下剤としてのPPD (ポリメタクリレート)を例えば10ppm、酸化防止剤としてのDBPC(ディターシャルブチルパラクレゾール)を例えば0.3重量%添加したものが採用されている。この絶縁液体12は、引火点が330℃である。尚、切換開閉器部6及びタップ選択器部7に充填される絶縁液体も絶縁液体12と同様である。
本実施例における絶縁液体12は、250℃以上の引火点を有し、流動点降下剤及び酸化防止剤を添加してなる天然エステルから構成されている。具体的には、本実施例では、天然エステルとして例えば菜種油を主成分とし、これに、流動点降下剤としてのPPD (ポリメタクリレート)を例えば10ppm、酸化防止剤としてのDBPC(ディターシャルブチルパラクレゾール)を例えば0.3重量%添加したものが採用されている。この絶縁液体12は、引火点が330℃である。尚、切換開閉器部6及びタップ選択器部7に充填される絶縁液体も絶縁液体12と同様である。
このように、絶縁液体12は、流動点降下剤及び酸化防止剤を添加してなる天然エステルから構成されているので、優れた絶縁性及び冷却性を有し、これに加え、天然品であって生分解性があるため油漏れがあっても土壌を汚染することがなく、更に、難燃性が高く、防災性に優れたものとなる。図2は、本実施例における天然エステルを用いた絶縁液体12の特性(一例)を、鉱油を用いた従来例(代表例)と比較して示したものである。尚、この図2には、便宜上、後述する合成エステルを用いた場合についても併せて示している。
この図2からわるように、天然エステルを用いた絶縁液体12は、引火点(330℃)及び燃焼点(360℃)が、鉱油(150℃及び170度)に比べて著しく高く、難燃性を大幅に向上させることができる。このとき、引火点が250℃以上であることにより、危険物の引火性液体の扱いを受けずに、可燃物扱いとなり、ひいては消防設備の簡略化も可能となる。
一方、天然エステルは、そのままでは、変圧器の絶縁液体として必要な低温での流動性及び酸化安定性に難点がある。ところが、流動点降下剤及び酸化防止剤の添加により、必要な低温での流動性及び十分な酸化安定性を得ることができる。この場合、図2に示すように、低温での流動性は、鉱油に比べてやや劣るものの、日本国内で使用する絶縁液体として問題のない、−27.5℃の流動点を確保することができた。酸化安定性の面では、鉱油と同等の酸化安定度を得ることができた。
そして、図2示すように、天然エステルを用いた絶縁液体12は、比誘電率が鉱油と比べて高く、油浸絶縁物の比誘電率(3.5〜4程度)に近いので、絶縁上の弱点である絶縁液体12に加わる電界を低減することができ、この結果、鉱油を用いた場合と比べて絶縁性能を向上させることができる。このことは、天然エステルを用いた絶縁液体12を使用することにより、絶縁面でコンパクトな負荷時タップ装置付き変圧器が得られることを示している。天然エステルの絶縁破壊電圧は鉱油と同程度であり、信頼性ある変圧器が得られる。
また、図2から、天然エステルを用いた絶縁液体12は、鉱油に比べて動粘度が高く,冷却性能に劣るように見えるが、本発明者らの実験では、天然エステルは鉱油と同等の十分な冷却性能を有していることが判明している。上記天然エステルを用いた絶縁液体12は、従来の鉱油と比べてそれ自体は高価なものとなるが、負荷時タップ装置付き変圧器全体としてみれば、絶縁液体12を変更することによるコストアップは僅かであり、むしろ製造工程の簡略化、装置のコンパクト化などを考慮すれば、鉱油を用いた場合と比較して、コスト面でさほど不利とならずに済ませることができるのである。
負荷時タップ切換装置5の切換開閉器部6及びタップ選択器部7にも絶縁液体12と同様の絶縁液体が充填されているので、上述したような絶縁液体12と同様の効果を奏するものであり、特に、天然エステルは、潤滑性に優れているので、タップ切換器部7のタップ切換器の接触子の摺動摩耗を少なくすることができて、所定の寿命を得ることができるものである。
次に、天然エステルは、水分を吸収しやすい特性を有しており、飽和水分量で比較すると、鉱油が数10ppmに対して、天然エステルは、300ppm程度である。これにより、変圧器本体4の絶縁物、特に巻線3に被覆されている絶縁紙に含まれている水分を、絶縁液体12により効果的に吸収することができる。即ち、一般に、油入変圧器の絶縁寿命は、巻線3に被覆されている絶縁紙の劣化度合によって決まる。天然エステルからなる絶縁液体12を用いることにより、絶縁紙の含有水分を少なくすることができ、劣化を遅らせて寿命を長くすることが可能となる。
図3は、絶縁液体の水分含有量と、絶縁破壊電圧との関係を示している。即ち、絶縁液体に水分が多く侵入すると、絶縁性能が低下し、ひいては液体中に放電が発生して遂には絶縁事故に至る虞がある。図示のように、従来の鉱油では、水分量が数10ppm程度になると、絶縁破壊電圧がEの1/2になるのに対し、天然エステルを用いた絶縁液体12では、400ppm程度まで絶縁破壊電圧Eは変化しない。本実施例では、絶縁液体12の水分濃度を、タンク1内の絶縁物より放出される水分と合わせて、400ppm以下好ましくは200ppm以下と設定されている。これにより、高い絶縁性能が得られ、信頼性の向上を図ることができる。また、含有水分量の許容値が鉱油に比べて十分に高いので、従来の鉱油を用いた場合と比較して、水分量の管理も比較的容易となり、上述のように乾燥処理の工程等の簡単化を図ることもできる。
(第2の実施例)
図4は本発明の第2の実施例であり、第1の実施例と同一部分には同一符号を付して示し、以下異なる部分についてのみ説明する。
この実施例においては、負荷時タップ切換装置5の切換開閉器部6の代わりに、内部に絶縁液体として液体シリコーンを充填してなる切換開閉器部6aが設けられ、タンク1の底板1上には、上底部1dの代わりに構造物(充填量低減手段)13が設置され、そして、タンク1内には、絶縁液体14として液体シリコーンが充填されている。
図4は本発明の第2の実施例であり、第1の実施例と同一部分には同一符号を付して示し、以下異なる部分についてのみ説明する。
この実施例においては、負荷時タップ切換装置5の切換開閉器部6の代わりに、内部に絶縁液体として液体シリコーンを充填してなる切換開閉器部6aが設けられ、タンク1の底板1上には、上底部1dの代わりに構造物(充填量低減手段)13が設置され、そして、タンク1内には、絶縁液体14として液体シリコーンが充填されている。
液体シリコーンは、粘度の違いにより様々なものが用いられているが、電気機器には25℃で50mm2/sが一般的に用いられている。液体シリコーンは、天然エステルと同程度の引火点と燃焼点とをもつので、燃焼のし難さとうい点では、天然シリコーンと同程度である。一方、液体シリコーンは、着火しても、燃焼により生じるシリカにより液体シリコーン表面に層を形成して、一定以上の燃焼継続がないいわゆる自己消火性を有している。この点おいては、液体シリコーンは天然エステルより難燃性であるといえる。従って、この液体シリコーンの難燃性により切換開閉器部6aの接触子間に発生するアークに対処することができる。
この実施例おいては、タップ選択器部7において、液体シリコーンを採用できない摺動摩耗の問題を天然エステルを採用することで解決している。しかも、タップ選択器部7をタンク1ないとは隔絶するようにしているので、たとえ、タップ選択器部の7内で接触子の摺動により眷属粉が生じたとしても、これがタンク1内に飛散することは防止されるようになり、高信頼性にできる。
(第3の実施例)
図5は本発明の第3の実施例であり、第1及び第2の実施例と同一部分には同一符号を付して示し、以下異なる部分についてのみ説明する。
この実施例においては、タンク1内に、第2の実施例の絶縁液体14の代わりに第1の実施例で用いた絶縁液体(天然エステル)12が充填されている。
このような構成によれば、接触子間にアークが発生する切換開閉器部6aにのみ液体シリコーンを用いるので、高価な(液体シリコーンの方が天然エステルよりも単価が高い)液体シリコーンの使用量が少なくて済む。
図5は本発明の第3の実施例であり、第1及び第2の実施例と同一部分には同一符号を付して示し、以下異なる部分についてのみ説明する。
この実施例においては、タンク1内に、第2の実施例の絶縁液体14の代わりに第1の実施例で用いた絶縁液体(天然エステル)12が充填されている。
このような構成によれば、接触子間にアークが発生する切換開閉器部6aにのみ液体シリコーンを用いるので、高価な(液体シリコーンの方が天然エステルよりも単価が高い)液体シリコーンの使用量が少なくて済む。
(第4の実施例)
図6は本発明の第4の実施例であり、及び第2の実施例と同一部分には同一符号を付して示し、以下異なる部分について説明する。
この実施例においては、タップ選択器部7の代わりにタップ選択器として低摺動抵抗型タップ選択器が用いられたタップ選択器部7aが設けられ、且つ、このタップ選択器部7a内に液体シリコーンが充填されている。
図6は本発明の第4の実施例であり、及び第2の実施例と同一部分には同一符号を付して示し、以下異なる部分について説明する。
この実施例においては、タップ選択器部7の代わりにタップ選択器として低摺動抵抗型タップ選択器が用いられたタップ選択器部7aが設けられ、且つ、このタップ選択器部7a内に液体シリコーンが充填されている。
タップ選択器部7aに使用されている低摺動抵抗型タップ選択器は、通常の摺動接触子型タップ選択器とは異なり、ローラ型の接触子を用いていて、摺動摩耗がほとんどないものであり、従って、潤滑性に劣る液体シリコーン中であっても所定の寿命を保つことができる。
(第5の実施例)
図7は本発明の第5の実施例を示すものであり、第4の実施例と異なるところは、タップ選択器部7aの代わりにタンク1内と連通状態となるタップ選択器部7bを設けたところにある。
タップ選択器部7bに用いられている低就航抵抗型タップ選択器は、前述したようにほとんど摺動摩耗がないので金蔵粉は生じないものであり、従って、タップ選択器部7bをタンク1内に連通させる構成としても、金属粉がタンク1内の液体シリコーン中に拡散するというようなことはない。これにより、タップ選択器部7bを密閉構造とする必要はなくなり、構造を簡素化することができる。
図7は本発明の第5の実施例を示すものであり、第4の実施例と異なるところは、タップ選択器部7aの代わりにタンク1内と連通状態となるタップ選択器部7bを設けたところにある。
タップ選択器部7bに用いられている低就航抵抗型タップ選択器は、前述したようにほとんど摺動摩耗がないので金蔵粉は生じないものであり、従って、タップ選択器部7bをタンク1内に連通させる構成としても、金属粉がタンク1内の液体シリコーン中に拡散するというようなことはない。これにより、タップ選択器部7bを密閉構造とする必要はなくなり、構造を簡素化することができる。
(その他の実施例)
上記第1ないし第3の実施例では、絶縁液体として、流動点降下剤及び酸化防止剤を添加してなる天然エステルを用いるようにしたが、この天然エステルの代わりに工業的に製造された250℃以上の引火点を有する合成エステルを用いるようにしてもよい。この場合、合成エステルとしては、例えば一塩基性の脂肪酸と多価アルコールとを反応させて製造されるポリオールエステルが採用され、その引火点は270℃とされている。
上記第1ないし第3の実施例では、絶縁液体として、流動点降下剤及び酸化防止剤を添加してなる天然エステルを用いるようにしたが、この天然エステルの代わりに工業的に製造された250℃以上の引火点を有する合成エステルを用いるようにしてもよい。この場合、合成エステルとしては、例えば一塩基性の脂肪酸と多価アルコールとを反応させて製造されるポリオールエステルが採用され、その引火点は270℃とされている。
この合成エステルからなる絶縁液体は、図2に示すように、引火点及び燃焼点が、鉱油に比べて著しく高く、難燃性に優れ、また、十分な低温での流動性及び酸化安定性を得ることができる。比誘電率が鉱油と比べて高く、絶縁破壊電圧も鉱油と比べて高く、鉱油と同等の冷却性能を有しており、信頼性ある負荷時タップ切換装置付き変圧器が得られる。従って、この実施例においても、カーボンニュートラルという自然材料を利用すること以外については、上記第1の実施形態と同様の作用、効果を得ることができるのである。
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施例にのみ限定されるものではなく、次のような変形、拡張が可能である。
第1乃至第3の実施例では、天然エステルとして菜種油を採用するようにしたが、天然エステルとしては他にも、例えば大豆油、紅花油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、オリーブ油など様々なものを採用することができ、それらを複数組合せて使用することも可能である。また、流動点降下剤及び酸化防止剤の種類やその添加量についても、適宜変更することができる。合成エステルについても、様々なものを採用することができる。
第1乃至第3の実施例では、天然エステルとして菜種油を採用するようにしたが、天然エステルとしては他にも、例えば大豆油、紅花油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、オリーブ油など様々なものを採用することができ、それらを複数組合せて使用することも可能である。また、流動点降下剤及び酸化防止剤の種類やその添加量についても、適宜変更することができる。合成エステルについても、様々なものを採用することができる。
また、上記実施例では、切換開閉器部6、6aの切換開閉器として接触子型切換開閉器を用いるようにぃたが、代わりに、真空バルブを用いてもよい。真空バルブ型は、接触子型に比し、電流遮断性能に優れ、小型軽量であり、電流遮断時のアークによる絶縁液体の汚損もないので、活線洗油機が不要になる等、保守、点検性が高くなる。
そして、上記実施例では、本発明を変圧器に適用したが、変圧器に限らず、リアクトル等の静止型の電磁誘導機器に適用してもよく、要は、負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器全般に適用することができる。
そして、上記実施例では、本発明を変圧器に適用したが、変圧器に限らず、リアクトル等の静止型の電磁誘導機器に適用してもよく、要は、負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器全般に適用することができる。
図面中、1はタンク、1dは上底部(充填量低減手段)、4は変圧器本体(電磁誘導機器本体)、5は負荷時タップ切換装置、6及び6aは切換開閉器部、7、7a及び7bはタップ選択器部、12は絶縁液体(天然エステル)、13は構造物(充填量低減手段)、14は絶縁液体(液体シリコーン)を示す。
Claims (9)
- タンクと、
このタンク内に収納された電磁誘導機器本体と、
前記タンク内に収納された切換開閉器部及びタップ選択器部を有する負荷時タップ切換装置とを備え、
前記タンクと負荷時タップ切換装置の全部若しくは一部に、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されていることを特徴とする負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。 - タンクと、
このタンク内に収納された電磁誘導機器本体と、
前記タンク内に収納された切換開閉器部及びタップ選択器部を有する負荷時タップ切換装置とを備え、
前記タンク、前記切換開閉器部及びタップ選択器部に、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されていることを特徴とする負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。 - タンクと、
このタンク内に収納された電磁誘導機器本体と、
前記タンク内に収納された切換開閉器部及びタップ選択器部を有する負荷時タップ切換装置とを備え、
前記タンク、切換開閉器部及びタップ選択器部は互いに隔絶され、
前記タンク及びタップ選択器部に、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填され、前記切換開閉器部に、絶縁液体として、液体シリコーンが充填されていることを特徴とする負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。 - タンクと、
このタンク内に収納された電磁誘導機器本体と、
前記タンク内に収納された切換開閉器部及びタップ選択器部を有する負荷時タップ切換装置とを備え、
前記タンク、切換開閉器部及びタップ選択器部は互いに隔絶され、
前記タンク及び切換開閉器部に、絶縁液体として、液体シリコーンが充填され、前記タップ選択器部に、絶縁液体として、250℃以上の引火点を有し流動点降下剤及び酸化防止剤を添加した天然エステルが充填されていることを特徴とする負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。 - 天然エステルの代わりに合成エステルが用いられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。
- タンクと、
このタンク内に収納された電磁誘導機器本体と、
前記タンク内に収納された切換開閉器部及びタップ選択器部を有する負荷時タップ切換装置とを備え、
前記タンク、切換開閉器部及びタップ選択器部は互いに隔絶され、
前記タップ選択器部のタップ選択器として低摺動抵抗型タップ選択器が用いられ、
前記タンク、切換開閉器部及びタップ選択器部に、絶縁液体として、液体シリコーンが充填されていることを特徴とする負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。 - タンクと、
このタンク内に収納された電磁誘導機器本体と、
前記タンク内に収納された切換開閉器部及びタップ選択器部を有する負荷時タップ切換装置とを備え、
前記タンク及び切換開閉器部は互いに隔絶されているとともに、前記タンク及びタップ選択器部は互いに連通され、
前記タップ選択器部のタップ選択器として低摺動抵抗型タップ選択器が用いられ、
前記タンク、切換開閉器部及びタップ選択器部に、絶縁液体として、液体シリコーンが充填されていることを特徴とする負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。 - 天然エステルの水分濃度は、タンク内の絶縁物より放出される水分と合わせて、400ppm以下に設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。
- タンクには、そのタンク内に位置する切換開閉器部及びタップ選択器部の下方の空間における絶縁液体の充填量を低減する充填量低減手段が講じられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の負荷時タップ切換装置付き電磁誘導機器。
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