JP2006113176A - レンズ素子 - Google Patents

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幸宏 尾関
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Abstract

【課題】 温度変動環境下で使用したときの光学特性の温度補償が可能でかつ小型化及び低コスト化が可能な樹脂から構成されるレンズ素子を提供する。
【解決手段】 このレンズ素子は、樹脂からなるレンズ部11と、レンズ部をその外周のほぼ全面で保持固定し樹脂よりも線膨張係数が低い保持部材15と、を備え、レンズ部と保持部材との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部の主線の位置を変化させる。
【選択図】 図5

Description

本発明は、光学特性の温度補償が可能なレンズ素子に関するものである。
樹脂からなるプラスチックレンズは、軽量でかつ大量生産に適し、より安価に生産可能であることから各種光学機器に使用されている。しかし、プラスチックレンズは、温度変動が生じる環境で使用すると、ガラスレンズに比べ、温度に対する屈折率変化が大きく、線膨張係数が大きく温度変化により形状が変形し易い、という問題点がある。
下記特許文献1は、レンズ形状及び屈折率が温度により変動することによる像面の移動を温度に応じて撮像面を動かすことで補正するようにしたビデオカメラ用プラスチックレンズの温度補償装置を開示する。しかし、この装置は、温度範囲が狭いときには有効であるが、温度補償範囲が広い場合には(たとえば、−40℃から85℃までの範囲)、プラスチックの屈折率変化による焦点距離の変化が補正量を著しく上回り、温度補償できない。
下記特許文献2は、外部温度を測定しその温度データにより機械的にレンズ位置を移動させるようにしたプラスチックレンズの温度補償装置を開示する。しかし、この温度補償装置は、内部に移動機構を設ける必要があるため、比較的スペースに余裕がある場合に限定され、またコストが嵩む。小型化や低コスト化のためにはそのような移動機構を設けることができない。レンズは固定された状態で温度補償を行う必要がある。
また、下記特許文献3,4,5は、温度特性が負のレンズを用い、温度による影響を打ち消すようにした、温度補償された走査光学系、変倍レンズ、光走査装置をそれぞれ開示する。しかし、かかる構成は、レンズ部品が増えスペースも要することから、小型化が要求されている製品には不向きであり、また部品点数が増えることから低コスト化に反し、現実的ではない。
更に、下記特許文献6は、プラスチックレンズの焦点距離の温度変化に伴う変化量を搭載する鏡筒の熱膨張により相殺するようにした、温度補償機能を有する変倍撮像装置を開示する。しかし、かかる装置は、ある程度の大きさがあれば、成り立つが、小型のデバイスであると、温度変化による焦点距離の変動のほうが大きくなり、相殺できない。また、機密性を保つために、金属のステムやキャンを用いて密閉した場合、金属の熱膨張係数はプラスチックのそれに比べ著しく小さく、ますます相殺が不可能になる。
特開昭58−7109号公報 特開平4−320206号公報 特開平5−341216号公報 特開平8−334693号公報 特開平9−184996号公報 特開2003−248171号公報
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、温度変動環境下で使用したときの光学特性の温度補償が可能でかつ小型化及び低コスト化が可能な樹脂から構成されるレンズ素子を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明によるレンズ素子は、樹脂からなるレンズ部と、前記レンズ部をその外周のほぼ全面で保持固定し前記樹脂よりも線膨張係数が低い保持部材と、を備え、前記レンズ部と前記保持部材との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じて前記レンズ部の主線の位置を変化させることを特徴とする。
このレンズ素子によれば、レンズ素子の環境温度が例えば上昇したとき、レンズ部がその外周に膨張しようとするが、レンズ部を外周で保持固定する保持部材がレンズ部よりも線膨張係数が小さいため両者の線膨張係数差に対応してレンズ部の外周への膨張を制限する結果、レンズ部の外周への膨張がレンズ部の主線を移動させようとする動きに変換される。このようにして、環境温度が変化したとき、レンズ部と保持部材との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部の主線の位置が変化することで、温度変動より焦点距離等の光学特性が変化しても、その変化量を補償できる。また、樹脂から構成できるので、小型化及び低コスト化が可能である。
上記レンズ素子において前記レンズ部が前記主線に関し非対称形状に構成されることで、主線位置が一方向に移動できる。この場合、前記レンズ部が前記主線に関し略弓形状に構成されることが好ましい。
また、前記レンズ部は、前記保持部材により保持固定される外周側に配置されたリブ部と、前記リブ部よりも内周側に配置されレンズ面を含む光透過部と、を備えることが好ましい。
前記リブ部は、前記レンズ面を除いた前記光透過部よりも厚く構成されていることで、光透過部における主線移動に効果的である。この場合、前記リブ部は、前記光透過部に向けて厚さが次第に薄くなるように傾斜した傾斜部を備えることで、光透過部における主線移動に更に効果的である。
また、前記レンズ面は前記主線の位置が変化する反対側に設けられ、前記主線の位置が変化する側は前記光透過部及び前記リブ部を含めてほぼフラットに構成されることで、レンズ部を主線に関し非対称形状に構成でき、レンズ部の主線の位置をフラットに構成された側に変化させることができる。
また、光軸と直交する方向から前記主線の位置が変化する反対側に傾斜したアーム部を前記リブ部と前記光透過部との間に設けることで、光透過部において主線を比較的大きく移動させることができるとともに、光透過部において変形が生じ難くなる。
また、前記レンズ面を前記主線の位置が変化する反対側に設けることで、非対称形状とすることができる。
また、前記レンズ面は、前記主線の位置が変化する側に設けられた曲率半径の大きいレンズ面と、前記主線の位置が変化する反対側に設けられた曲率半径の小さいレンズ面と、を有することで、非対称形状とすることができるとともに、曲率半径の大きいレンズ面がしなるように変形しても、そのレンズ面は曲率が大きいため、焦点距離の変化に与える影響は小さい。
また、前記リブ部は、前記主線の位置が変化する側が前記主線の位置が変化する反対側よりも光軸方向に関し長く突き出すように構成されることで、温度変化によるしなり量の左右のバランスが崩れ、主線の移動量を適正化できる。
また、前記保持部材により保持固定される前記リブ部の外周面は、前記主線の位置が変化する側の径が反対側よりも大きくなるように傾斜することで、主線の移動量を大きくできる。
また、前記リブ部は、その外周面及び前記主線の位置が変化する反対側の側面が前記保持部材により保持固定されることで、温度上昇によるリブ部の側面の移動を抑えることで、主線の移動量を大きくできる。
また、本発明による別のレンズ素子は、樹脂からなるレンズ部と、前記レンズ部をその外周のほぼ全面で保持固定し前記樹脂よりも線膨張係数が低い保持部材と、を備え、前記レンズ部は、前記保持部材により保持固定される外周側に配置され厚さが比較的厚いリブ部と、前記リブ部よりも内周側に配置されレンズ面を含む光透過部と、前記リブ部と前記光透過部との間に配置されたアーム部と、を備え、前記レンズ部は前記アーム部が光軸と直交する方向に対し傾斜することで全体として略弓形状に構成され、前記レンズ部と前記保持部材との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じて前記光透過部における前記レンズの主線の位置を前記略弓形状の凸側に変化させることを特徴とする。
このレンズ素子によれば、レンズ素子の環境温度が例えば上昇したとき、レンズ部がその外周に膨張しようとするが、レンズ部を外周で保持固定する保持部材がレンズ部よりも線膨張係数が小さいため両者の線膨張係数差に対応してレンズ部の外周への膨張を制限する結果、レンズ部の外周への膨張がレンズ部の主線を移動させようとする動きに変換され、また、アーム部を設けたことで光透過部において主線を比較的大きく移動させることができるとともに、光透過部において変形が生じ難くなる。このようにして、環境温度が変化したとき、レンズ部と保持部材との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部の主線の位置が変化することで、温度変動より焦点距離等の光学特性が変化しても、その変化量を補償できる。また、樹脂から構成できるので、小型化及び低コスト化が可能である。
上記レンズ素子において前記レンズ面は前記主線の位置が変化する反対側に設けられていることが好ましい。
また、前記リブ部は、その外周面及び前記主線の位置が変化する反対側の側面が前記保持部材により保持固定されることで、温度上昇によるリブ部の側面の移動を抑えることで、主線の移動量を大きくできる。
上述の各レンズ素子において、前記レンズ部は前記保持部材に接着、圧入または超音波溶着により保持固定されることが好ましい。
なお、レンズの主線とは、レンズの主点を通る光軸に対する垂直線であり、主点とはレンズの軸上共役点の物体側、像側の点をいう。
本発明によれば、温度変動環境下で使用したときの光学特性の温度補償が可能でかつ小型化及び低コスト化が可能な樹脂から構成されるレンズ素子を提供できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
最初に、本発明のレンズ素子による光学特性の温度補償の原理について図1〜図4を参照して説明する。
図1は、樹脂の屈折率変化と周囲温度変化の関係を示す図である。図2はレンズを含む光学系の光路図である。図3は図2の光学系でLを一定(10mm)にしたときのレンズの温度変化による焦点距離の変動量及びレンズの変位必要量を示す図である。図4は図2のレンズの温度変化による焦点距離の変化量を示す図である。
図1に示すように、樹脂の屈折率は周囲温度によって変動し、温度が高くなるに従い屈折率は小さくなる。なお、図1における樹脂の主な物性値は次のとおりである。
ポアソン比:0.35
線膨張係数:7×10−5
ヤング率:3200MPa
図2の焦点距離fのレンズを含む光学系において、次式(1)が成り立つ。
(1/a)+(1/b)=1/f ・・・(1)
b/a=m(倍率)とすると、式(1)から次の式(2)、式(3)を得ることができる。
a=f(1+(1/m)) ・・・(2)
b=f(1+m) ・・・(3)
図2のレンズを図1の樹脂製とすると、そのレンズの焦点距離は温度変動により変化し、温度が高くなると、焦点距離が長くなる。図2でL=10mmとしたときのレンズの温度変化(温度変化dt=60℃)による焦点距離fの変動量dfは、倍率mにより図3のように変化する。このとき、図2のレンズ及び点Bが固定であり、点Aが変動可能とすると、距離aの変動量daは、倍率mにより図3のように変化する(図3に、温度変化dt=30℃、60℃の場合を示す)。そこで、Lが一定であり(点A、Bを固定)、倍率mを変えたとき、レンズの主軸の光軸上での移動が必要である。
一方、上記レンズの通常の温度変化による焦点距離の変化量df/dtは、次の式(4)のようになる。
df/dt=-(f/(n-1))・dn/dt−((1/(f(n-1)))・dr/dt
=-(f/(n-1))・α−((1/(f(n-1)))・α ・・・(4)
ここで、
α:線膨張係数、α:屈折率の温度変化率、dt:温度変化量、dr:レンズの曲率半径の変化量
上記式(4)に基づいた温度と焦点距離の変化量との関係は図4のようになり、図のように焦点距離が変化するので、従来のままでは、温度が20℃から80℃まで変化したとき、焦点距離は最大11μmほど変化することになり、光学系の結合効率の低下につながる。上記光学系では、もともとの焦点距離が10mm程度であるので、この変化量は大きい。また、この焦点距離の変化を補正するには、倍率を変えるか、または、対物位置を焦点距離の位置に移動させるかが必要である。本実施の形態では、温度上昇のとき、レンズの焦点距離が短くなるようにレンズの主線を移動させている。
次に、本実施の形態によるレンズ素子の各例について図5乃至図12を参照して説明する。図5乃至図12は本実施の形態による第1乃至第8のレンズ素子を概略的に示す側面図である。
〈第1のレンズ素子〉
図5に示す第1のレンズ素子10は、例えば環状オレフィンポリマー樹脂からなるレンズ部11と、レンズ部11をレンズ部11の外周面11aで保持固定し樹脂よりも線膨張係数が低い例えば鉄鋼材料やセラミックスからリング状に構成された保持部材15と、を備える。レンズ部11は保持部材15の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。
レンズ部11は、保持部材15により保持固定されるように配置されたリブ部13と、リブ部13よりも内周側に配置されレンズ面12aを含む光透過部12と、を備える。
リブ部13は、レンズ面12aを除いた光透過部12よりも厚く構成され、また、レンズ面12a側において光透過部12に向けて厚さが次第に薄くなるように傾斜した傾斜部13aを備える。
光透過部12はレンズ面12aと反対側にほぼ平坦な平坦面12bを有し、レンズ部11は、レンズ面12aと反対側では、光透過部12及びリブ部13を含めてほぼフラットに構成されている。
上述のように、図5のレンズ素子10は、厚く構成されたリブ部13が傾斜部13aによりレンズ面12a側で厚さが次第に薄く構成される一方、レンズ面12aの反対側はほぼフラットに構成されるので、光軸に直交する主線方向に関して非対称な形状で片平レンズ状となっている。
レンズ部11を構成する環状オレフィンポリマー樹脂及び保持部材15を構成する鉄鋼材料の物性値の例を次の表1に示す。
Figure 2006113176
図5のレンズ素子10によれば、レンズ素子10の環境温度が上昇したとき、レンズ部11がその外周に向けて膨張しようとするが、保持部材15はレンズ部11の外周に位置し、レンズ部11よりも線膨張係数が小さいため両者の線膨張係数差に対応してレンズ部11の外周への膨張を制限する結果、レンズ部11の外周への膨張がレンズ部11の主線を移動させようとする動きに変換される。レンズ素子10は、図5のように主線方向に非対称となっているため、レンズ部11の主線の位置は、図5の右方のフラット面側に移動する。
以上のようにして、図5のレンズ素子10では、環境温度が上昇したとき、レンズ部11と保持部材15との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部11の主線の位置が図の右方に変化する。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部11のレンズ面12aによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。
〈第2のレンズ素子〉
次に、第2のレンズ素子20について説明する。図6の第2のレンズ素子20は、樹脂からなるレンズ部21と、レンズ部21をその外周面21aで保持固定する図5と同様の保持部材25と、を備える。レンズ部21は保持部材25の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。
レンズ部21は、保持部材25により保持固定されるように配置されたリブ部23と、リブ部23よりも内周側に配置され両側にレンズ面22aと22bを有する光透過部22と、を備える。
リブ部23は、レンズ面22a,22bを除いた光透過部22よりも厚く構成され、また、両側において光透過部22に向けて厚さが次第に薄くなるように傾斜した傾斜部23a,23bを備える。
光透過部22のレンズ面22bは反対側のレンズ面22aよりも曲率半径が大きく構成されている。このように、図6のレンズ素子20は、曲率半径が比較的大きいレンズ面22bと小さいレンズ面22aとを光透過部22に有するので、光軸に直交する主線方向に関して非対称な形状となっている。レンズ部21及び保持部材25は表1と同一の各材料で構成できる。
図6のレンズ素子20によれば、温度の上昇により、レンズ部21と保持部材25との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じて、レンズ部21では、レンズ部21の主線が曲率半径の大きいレンズ面22bに向けて図6の右方に移動する。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部21のレンズ面22a、22bによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。また、このとき、主線の移動とともにレンズ面22b全体がしなるように変形するが、レンズ面22bはもともと曲率が大きいため、焦点距離の変化に与える影響は小さい。
〈第3のレンズ素子〉
次に、第3のレンズ素子30について説明する。図7の第3のレンズ素子30は、図5のレンズ素子10と基本的に同様の構成であり、樹脂からなるレンズ部31と、レンズ部31をその外周面31aで保持固定し樹脂よりも線膨張係数が低い例えば鉄鋼材料やセラミックスからリング状に構成された保持部材35と、を備える。レンズ部31は保持部材35の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。レンズ部31及び保持部材35は表1と同一の各材料で構成できる。
レンズ部31は、基本的に図5のレンズ部11と同様の構成であり、レンズ面32aを含む光透過部32と、傾斜面33aをレンズ面32a側に有するリブ部33と、を備える。レンズ部31の外周面31aが光軸方向に対し傾斜しており、この傾斜した外周面31aに対応して保持部材35の内周面も傾斜している。即ち、リブ部33の外周面(外周面31aに相当)がフラット面側(主線を移動したい側で図7の右方)における径が反対側の径よりも大きくなるように傾斜している。リブ部33は、傾斜面33a,31aによりレンズ面32a側に山形形状になっている。
図7のレンズ素子30によれば、環境温度が上昇したとき、レンズ部31と保持部材35との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部31の主線の位置が図の右方に変化するが、リブ部33の傾斜構造により図5の場合よりも主線の移動量を大きくできる。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部31のレンズ面32aによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。
〈第4のレンズ素子〉
次に、第4のレンズ素子40について説明する。図8の第4のレンズ素子40は、図7の構成に図6の曲率の大きいレンズ面を組み合わせたものであり、樹脂からなるレンズ部41と、レンズ部41をその外周面41aで保持固定し樹脂よりも線膨張係数が低い例えば鉄鋼材料やセラミックスからリング状に構成された保持部材45と、を備える。レンズ部41は保持部材45の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。レンズ部41及び保持部材45は表1と同一の各材料で構成できる。
レンズ部41は、レンズ面42aとレンズ面42aよりも曲率半径の大きいレンズ面42bを含む光透過部42と、傾斜面43aをレンズ面42a側に有するリブ部43と、を備える。レンズ部41の外周面41aが光軸方向に対し傾斜しており、この傾斜した外周面41aに対応して保持部材45の内周面も傾斜している。即ち、リブ部43の外周面(外周面41aに相当)がレンズ面42b側(主線を移動したい側で図8の右方)における径が反対側の径よりも大きくなるように傾斜している。リブ部43は、傾斜面43a,41aによりレンズ面42a側に山形形状になっている。
図8のレンズ素子40によれば、環境温度が上昇したとき、レンズ部31と保持部材35との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部31の主線の位置が図の右方に変化するが、リブ部43の傾斜構造により図6の場合よりも主線の移動量を大きくできる。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部41のレンズ面42a、42bによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。
また、図8のレンズ素子40では、図7のレンズ素子30に比べて、主線の移動側が片平形状ではなく、曲率半径の大きいレンズ面42bによる局面であるので、しなりによる曲率半径の変化が焦点距離の変化に影響し難くなる。
〈第5のレンズ素子〉
次に、第5のレンズ素子50について説明する。図9の第5のレンズ素子50は、リブ部53の長さを主線の前後(光軸と直交する面の前後)で変えることで、温度上昇によるレンズのしなり量の左右のバランスを崩すことにより、主線の動く量を適正化したものである。
レンズ素子50は、樹脂からなるレンズ部51と、レンズ部51をその外周面51aで保持固定し樹脂よりも線膨張係数が低い例えば鉄鋼材料やセラミックスからリング状に構成された保持部材55と、を備える。レンズ部51は保持部材55の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。レンズ部51及び保持部材55は表1と同一の各材料で構成できる。
レンズ部51は、レンズ面52aとレンズ面52aよりも曲率半径の大きいレンズ面52bを含む光透過部52と、両側に傾斜面53a,53bに有するリブ部53と、を備える。
リブ部53は、曲率半径の大きいレンズ面52b側に長さの長い突き出し部53dと、曲率半径の小さいレンズ面52a側に長さの短い突き出し部53cと、を有する。
図9のレンズ素子50によれば、環境温度が上昇したとき、レンズ部51と保持部材55との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部51の主線の位置が図の右方に変化するが、リブ部53の長さが突き出し部53dで長いので、図8でリブ部43の径を大きくしたのと同じように、レンズ部51の左右で外周距離が異なることにより線膨張の量が相違し、この相違によりレンズ部51にしなりが出て主線の移動がなされる。そのため、この量を適当に選ぶことにより適当な移動距離を選択できる。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部51のレンズ面52a、52bによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。
〈第6のレンズ素子〉
次に、第6のレンズ素子60について説明する。図10の第6のレンズ素子60は、樹脂からなるレンズ部61と、レンズ部61をその外周面61aで保持固定する図5と同様の保持部材35と、を備える。レンズ部61は保持部材65の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。レンズ部61及び保持部材65は表1と同一の各材料で構成できる。
レンズ部61は、保持部材65により保持固定されるように配置され厚さが比較的厚く傾斜面63aをレンズ面62a側に有するリブ部63と、リブ部63よりも内周側に配置されレンズ面62aを含む光透過部62と、リブ部63と光透過部62との間に配置されたアーム部64と、を備える。光透過部62のレンズ面62aの反対側はほぼフラットな平坦面62bになっている。
アーム部64は光軸と直交する方向に対し傾斜角θで若干傾斜することで、レンズ部61は、光透過部62の平坦面62b側に凸となって、全体として略弓形状に構成されている。なお、傾斜角θは、10乃至40度の範囲が好ましく、14乃至35度の範囲が更に好ましい。
図10のレンズ素子60によれば、環境温度が上昇したとき、レンズ部61と保持部材65との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部61の主線の位置が図の右方に変化するが、リブ部63と光透過部62との間の傾斜したアーム部64により主線の移動量を大きくできるとともに、光透過部62の平坦面62b側における変形を低く抑えることができる。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部61のレンズ面62aによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。
〈第7のレンズ素子〉
次に、第7のレンズ素子70について説明する。図11の第7のレンズ素子70は、保持部材75がレンズ部71の主線の移動方向と反対側でリブ部73を囲むようなリング形状に構成されたものである。
第7のレンズ素子70は、樹脂からなるレンズ部71と、レンズ部71を保持固定し樹脂よりも線膨張係数が低い例えば鉄鋼材料やセラミックスからリング状に構成された保持部材75と、を備える。レンズ部71は保持部材75の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。レンズ部71及び保持部材75は表1と同一の各材料で構成できる。
レンズ部71は、保持部材75により保持固定されるように配置され厚さが比較的厚くかつ主線方向に延びた保持側面73aをレンズ面72a側に有するリブ部73と、リブ部73よりも内周側に配置されレンズ面72aを含む光透過部72と、リブ部73と光透過部72との間に配置されたアーム部74と、を備える。光透過部72のレンズ面72aの反対側はほぼフラットな平坦面72bになっている。
保持部材75はリブ部73の保持側面73aを保持するように光軸に向けて突き出した突き出し部75aを有し、レンズ部71を外周面71a及び保持側面73aで保持固定する。
アーム部74は光軸と直交する方向に対し図10と同様に若干傾斜することで、レンズ部71は、光透過部72の平坦面72b側に凸となって、全体として略弓形状に構成されている。
図11のレンズ素子70によれば、環境温度が上昇したとき、レンズ部71と保持部材75との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部71の主線の位置が図の右方に変化するが、保持部材75の突き出し部75aによりリブ部73の保持側面73aにおける主線の移動方向の反対方向における熱膨張を制限するので、傾斜したアーム部74による効果と相俟って、主線の移動量を大きくできる。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部71のレンズ面72aによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。
〈第8のレンズ素子〉
次に、第8のレンズ素子80について説明する。図12の第8のレンズ素子80は、図10のレンズ部のアーム部の傾斜角を大きくし保持部材を図11の形状と同様に構成したものである。
第8のレンズ素子70は、樹脂からなるレンズ部81と、レンズ部81を保持固定し図11と同様に構成された保持部材85と、を備える。レンズ部81は保持部材85の内周面で接着剤により堅く保持され固定されている。レンズ部81及び保持部材85は表1と同一の各材料で構成できる。
レンズ部81は、保持部材85により保持固定されるように配置され厚さが比較的厚くかつ主線方向に延びた保持側面83aをレンズ面82a側に有するリブ部83と、リブ部83よりも内周側に配置されレンズ面82aを含む光透過部82と、リブ部83と光透過部82との間に配置されたアーム部84と、を備える。光透過部82のレンズ面82aの反対側はほぼフラットな平坦面82bになっている。リブ部83は光軸と平行方向にアーム部84の厚さよりもかなり厚くなっている。
保持部材85はリブ部83の保持側面83aを保持するように光軸に向けて突き出した突き出し部85aを有し、レンズ部81を外周面81a及び保持側面883aで保持固定する。
アーム部84は光軸と直交する方向に対し傾斜角θ’で傾斜しており、レンズ部81は、光透過部82の平坦面82b側に凸となって、全体として略弓形状に構成されている。傾斜角θ’は10乃至40度の範囲が好ましく、14乃至35度の範囲が更に好ましい。
図12のレンズ素子80によれば、環境温度が上昇したとき、レンズ部81と保持部材85との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じてレンズ部81の主線の位置が図の右方に変化するが、保持部材85の突き出し部85aによりリブ部83の保持側面83aにおける主線の移動方向の反対方向における熱膨張を制限するので、傾斜角θ’が比較的大きいアーム部84による効果と相俟って、主線の移動量を大きくできる。このようにして、温度上昇による樹脂の屈折率変化により、レンズ部81のレンズ面82aによる焦点距離が長く変化しても、その変化量を補償できる。
〈応用例〉
次に、上述のレンズ素子を用いた光通信モジュールに適用した例について図13を参照して説明する。図13は本実施の形態のレンズ素子を用いた光通信モジュールの例を概略的に示す図である。
図13の光通信モジュールは、レーザ光源101から出射したレーザ光がレンズ素子100により光ファイバ102の入射面103に集光させ、光信号を光ファイバ102を通して外部に送信するように構成され、筐体104内にレーザ光源101、レンズ素子100及び光ファイバ102の入射面103側が固定して配置されている。レンズ素子100は図5乃至図12のいずれかのレンズ素子であってよい。
従来の光通信モジュールでは使用環境温度が上昇したとき、樹脂からなるレンズの屈折率が低下し、焦点距離が長くなり、焦点位置がずれる結果、光ファイバの入射面において結合効率が低下してしまったのであるが、図13の光通信モジュールによれば、温度上昇に伴い、レンズ素子100の主線の位置が光ファイバ102側に移動する結果、焦点距離の温度変化を補償でき、焦点位置のずれを抑えることができ、結合効率の低下を防止できる。
次に、本発明を実施例1乃至7により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1乃至7は、上述の図5乃至図10,図12にそれぞれ対応するレンズ素子であり、それらの具体的な寸法等を図14乃至図20に示す。各実施例1〜7において、環境温度を20℃から80℃に比較的緩やかに上昇させたとき(温度変動ΔT=60℃)、各レンズ素子の主線移動量を測定した結果を下に示す。なお、必要とされる主線移動量は、図2,図3において倍率5倍として、18.4μm(ΔT=60℃)である。
実施例1(図14):2.85μm
実施例2(図15):1.85μm
実施例3(図16):4.17μm
実施例4(図17):7.42μm
実施例5(図18):9.45μm
実施例6(図19):14.2μm
実施例7(図20):18.4μm
上記結果から、実施例4〜7が必要な主線移動量について比較的良好な結果が得られた。
以上のように本発明を実施するための最良の形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、レンズは保持部材に接着により固定されているが、本発明はこれに限定されず、他の固定方法を用いてもよく、例えば、レンズを保持部材の内周に圧入するようにしてもよい。また、超音波溶着を用いることもできる。
また、保持部材を構成する材料として、鉄鋼やセラミックスがあるが、使用する樹脂よりも線膨張係数が小さければ、他の材料であってもよいことは勿論であり、例えば、線膨張係数が鉄鋼と同程度のガラスフェラ混合の液晶ポリマ(例えば、新日本石油化学株式会社製の「ザイダー」)等であってもよい。また、温度上昇により収縮するような特殊材料(例えば、日本板硝子株式会社製のマイナス膨張セラミックス「CERSAT」)であってもよい。
また、本発明によるレンズ素子は、光通信モジュール以外の機器・装置にも応用可能であって、例えば、光記録媒体に対し記録・再生を行うための光ピックアップ装置等に適用可能である。
樹脂の屈折率変化と周囲温度変化の関係を示す図である。 本実施の形態を説明するためのレンズを含む光学系の光路図である。 図2の光学系でLを一定(10mm)にしたときのレンズの温度変化による焦点距離の変動量及びレンズの変位必要量を示す図である。 図2のレンズの温度変化による焦点距離の変化量を示す図である。 本実施の形態による第1のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態による第2のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態による第3のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態による第4のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態による第5のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態による第6のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態による第7のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態による第8のレンズ素子を概略的に示す側面図である。 本実施の形態のレンズ素子を用いた光通信モジュールの例を概略的に示す図である。 実施例1のレンズ素子を示す図である。 実施例2のレンズ素子を示す図である。 実施例3のレンズ素子を示す図である。 実施例4のレンズ素子を示す図である。 実施例5のレンズ素子を示す図である。 実施例6のレンズ素子を示す図である。 実施例7のレンズ素子を示す図である。
符号の説明
10,20,30,40,50,60,70,80 レンズ素子
11,21,31,41,51,61,71,81 レンズ部
11a,21a,31a,41a,51a,61a,71a,81a 外周面
12,22,32,42,52,62,72,82 光透過部
13,23,33,43,53,63,73,83 リブ部
15,25,35,45,55,65,75,85 保持部材
64,74,84 アーム部
100 レンズ素子
101 レーザ光源
102 光ファイバ
103 入射面
104 筐体
f 焦点距離
m 倍率

Claims (18)

  1. 樹脂からなるレンズ部と、前記レンズ部をその外周のほぼ全面で保持固定し前記樹脂よりも線膨張係数が低い保持部材と、を備え、
    前記レンズ部と前記保持部材との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じて前記レンズ部の主線の位置を変化させることを特徴とするレンズ素子。
  2. 前記レンズ部が前記主線に関し非対称形状に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ素子。
  3. 前記レンズ部が前記主線に関し略弓形状に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ素子。
  4. 前記レンズ部は、前記保持部材により保持固定される外周側に配置されたリブ部と、前記リブ部よりも内周側に配置されレンズ面を含む光透過部と、を備えることを特徴とする請求項1,2または3に記載のレンズ素子。
  5. 前記リブ部は、前記レンズ面を除いた前記光透過部よりも厚く構成されていることを特徴とする請求項4に記載のレンズ素子。
  6. 前記リブ部は、前記光透過部に向けて厚さが次第に薄くなるように傾斜した傾斜部を備えることを特徴とする請求項4に記載のレンズ素子。
  7. 前記レンズ面は前記主線の位置が変化する反対側に設けられ、
    前記主線の位置が変化する側は前記光透過部及び前記リブ部を含めてほぼフラットに構成されていることを特徴とする請求項4,5または6に記載のレンズ素子。
  8. 光軸と直交する方向から前記主線の位置が変化する反対側に傾斜したアーム部を前記リブ部と前記光透過部との間に設けることを特徴とする請求項4,5または6に記載のレンズ素子。
  9. 前記レンズ面を前記主線の位置が変化する反対側に設けることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載のレンズ素子。
  10. 前記レンズ面は、前記主線の位置が変化する側に設けられた曲率半径の大きいレンズ面と、前記主線の位置が変化する反対側に設けられた曲率半径の小さいレンズ面と、を有することを特徴とする請求項4乃至9のいずれか1項に記載のレンズ素子。
  11. 前記リブ部は、前記主線の位置が変化する側が前記主線の位置が変化する反対側よりも光軸方向に関し長く突き出すように構成されていることを特徴とする請求項4乃至10のいずれか1項に記載のレンズ素子。
  12. 前記保持部材により保持固定される前記リブ部の外周面は、前記主線の位置が変化する側の径が反対側よりも大きくなるように傾斜していることを特徴とする請求項4乃至11のいずれか1項に記載のレンズ素子。
  13. 前記リブ部は、その外周面及び前記主線の位置が変化する反対側の側面が前記保持部材により保持固定されることを特徴とする請求項4乃至12のいずれか1項に記載のレンズ素子。
  14. 樹脂からなるレンズ部と、前記レンズ部をその外周のほぼ全面で保持固定し前記樹脂よりも線膨張係数が低い保持部材と、を備え、
    前記レンズ部は、前記保持部材により保持固定される外周側に配置され厚さが比較的厚いリブ部と、前記リブ部よりも内周側に配置されレンズ面を含む光透過部と、前記リブ部と前記光透過部との間に配置されたアーム部と、を備え、
    前記レンズ部は前記アーム部が光軸と直交する方向に対し傾斜することで全体として略弓形状に構成され、
    前記レンズ部と前記保持部材との線膨張係数差によって外部の温度変化に応じて前記光透過部における前記レンズの主線の位置を前記略弓形状の凸側に変化させることを特徴とするレンズ素子。
  15. 前記レンズ面は前記主線の位置が変化する反対側に設けられていることを特徴とする請求項14に記載のレンズ素子。
  16. 前記リブ部は、その外周面及び前記主線の位置が変化する反対側の側面が前記保持部材により保持固定されることを特徴とする請求項14または15に記載のレンズ素子。
  17. 前記レンズ部は前記保持部材に接着または圧入により保持固定されていることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載のレンズ素子。
  18. 前記レンズ部は前記保持部材に超音波溶着により保持固定されていることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載のレンズ素子。

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