JP2006089822A - 耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材およびその皮膜被覆部材の製造方法 - Google Patents

耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材およびその皮膜被覆部材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐食性、特に耐ハロゲン腐食性に優れた皮膜を有する耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材とその製造方法を提案する。
【解決手段】 金属製基材の表面に、溶射−熱拡散処理、蒸着−熱拡散処理、粉末拡散処理および溶融拡散処理のいずれか1種以上の処理によって金属間化合物を含むAl拡散層または該Al拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を形成し、次いで、前記Al拡散層またはAl含有層の上に、MgもしくはMg−Al合金を蒸着処理または電解処理することによりMg薄膜またはMg−Al合金薄膜を形成し、さらに必要に応じて、不活性ガス中または真空中で熱処理を施すことにより、耐ハロゲン腐食性の皮膜を被覆した部材を得る。
【選択図】 図1

Description

本発明は、半導体加工装置に使用される耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材およびその皮膜被覆部材の製造方法に関するものである。
半導体製品の加工・製造分野で用いられる装置部材は、腐食性の強い各種ハロゲンガスやハロゲン化合物の雰囲気下で使用されることに加えて、シリコンウェハーなどのエッチング加工の精度向上や効率向上のために、プラズマエネルギーが付加されるなど、他の産業分野では見られないような過酷な腐食性の雰囲気下で使用されることを余儀なくされている。例えば、ハロゲン化合物としては、次に示すような物が、主として気相状態で使用されている。ただし、( )内は、ハロゲンガスを示す。
・弗化物:BF3,PF3,PF5,NF3,WF3,HF,(F2)
・塩化物:BCl3,PCl3,PCl5,POCl3,AsCl3,SnCl4,TiCl4,SiH2Cl2,SiCl4,HCl,(Cl2)
・臭化物:HBr,(Br2)
これらのハロゲンガスやハロゲン化合物は、プラズマ環境中では、それぞれ分解したり電離したりして、非常に腐食性の強い、原子状のF,Br,Clなどに変化する。そのため、半導体加工装置を構成する各種の金属製部材は、腐食損傷を受けると共に、損傷の進行に伴って精度不良や性能低下を引き起こす原因となっている。また、腐食によって生成する反応物(腐食生成物)は、環境中に微細な粉じんとなって飛散し、半導体加工製品を汚染したり、品質を甚だしく低下させたりする原因ともなっている。
これらの問題に対応するため、フッ素系樹脂あるいはエポキシ系樹脂を被覆した部材やニッケルめっき、窒化処理などを施した部材が古くから使用されている。さらに優れた耐食性を有する部材としては、特許文献1〜3に示すような、アルミニウムめっき部材やアルミニウム被覆部材を拡散処理した部材が知られている。これらの耐食処理部材を採用することによって、腐食損傷の程度はかなり軽減されてきた。しかし、より高性能化した半導体製品を製造する観点からは、半導体加工装置を構成する金属製部材は、アルミニウム拡散処理部材を凌駕する耐食性皮膜を有するものであることが強く望まれるようになってきている。
特開昭60−063364号公報 特開平04−193966号公報 特開平10−219426号公報
しかしがら、耐食性皮膜に関する従来技術には、次のような問題点がある。
(1)弗素系あるいはエポキシ系などの樹脂皮膜は、優れた耐食性を発揮するものの、軟質で表面疵が付き易いため、疵部に腐食性のハロゲン化合物が滞留して環境汚染の原因となるほか、機械的強度が低いため、強度が必要な部材には適用できない。
(2)アルミニウム拡散処理を施した金属部材は、良好な耐食性を有しているものの、昨今の半導体加工装置用部材に要求される耐食性に応えられるような技術は、現在迄のところ開発されていない。
(3)ニッケルめっきや窒化処理皮膜は、無処理の金属製部材の耐食性を向上させるが、何れの皮膜も、ピンホールなどの欠陥部を有する。そのため、現状レベルの耐食性では、昨今の性能向上への要求には応えられない状況にある。
(4)昨今の半導体製品の高集積化、大容量化、高性能化の要求に対応するため、半導体加工装置内は、極限に近い清浄な環境が要求されるようになり、特に、加工装置用部材の僅かな腐食生成物の存在は、環境の汚染源となるため、一段と高い耐食性を有する表面処理皮膜の開発が求められている。
(5)現行の半導体加工装置では、前述したように、腐食性の強いハロゲン化合物である、弗化物、塩化物、臭化物などが使用されているが、弗化物に対して比較的良好な耐食性を示すAl拡散層は、HCl等の塩化物に対しては耐食性に乏しいなどの欠点がある。そのため、各種のハロゲン化合物に対しても優れた耐食性を有する部材の開発が望まれている。
本発明の目的は、耐食性、特に耐ハロゲン腐食性に優れた防食皮膜を有する耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材とその製造方法を提案することにある。
発明者らは、従来技術が抱える上記問題点を解決するため、耐ハロゲン腐食性に優れた皮膜の開発に向けて鋭意検討を重ねた。その結果、部材を構成する金属製基材の表面に、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を形成する第一次成膜処理を施した後、その上にMg薄膜またはMg−Al合金薄膜を積層させる第二次成膜処理を施せば、耐ハロゲン腐食性に優れた防食皮膜を形成し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、金属製基材の表層部に、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層が形成され、そのAl拡散層またはAl含有層の上には、Mg薄膜またはMg−Al合金薄膜が形成されてなることを特徴とする耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材である。
本発明における前記Al拡散層は、Alと基材金属成分との金属間化合物を含むものであることを特徴とする。
また本発明における前記Mg−Al合金薄膜は、Alを5〜90mass%含有するものであることを特徴とする。
また本発明における前記Mg薄膜またはMg−Al合金薄膜は、1〜50μmの厚さを有するものであることを特徴とする。
また、本発明は、金属製基材の表面に、溶射−熱拡散処理、蒸着−熱拡散処理、粉末拡散処理および溶融拡散処理のいずれか1種以上の処理によって金属間化合物を含むAl拡散層または該Al拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を形成し、次いで、前記Al拡散層またはAl含有層の上に、MgもしくはMg−Al合金を蒸着処理または電解処理してMg薄膜またはMg−Al合金薄膜を形成することを特徴とする耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材の製造方法を提案する。
本発明の前記製造方法は、Mg薄膜またはMg−Al合金薄膜を形成したのち、不活性ガス中または真空中で550〜900℃×0.5〜10hrの熱処理を施すことを特徴とする。
本発明に係る耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材は、金属製基材の表面に、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を設けた後、その上に、Mg薄膜またはMg−Al合金層を積層した皮膜構造を有するものである。この皮膜構造は、基材の表層部にAl拡散層またはAl含有層を形成することにより、耐食性に優れるAlで基材全体を原子の規模(Alの原子半径1.43Å)で被覆し、さらにそのAl拡散層またはAl含有層の上に、耐ハロゲン腐食性に対して優れた性能を発揮するMg薄膜またはMg−Al合金薄膜を被覆積層して、ほぼ完全な積層型の防食皮膜を形成してなるものである。さらにこの防食皮膜は、MgまたはMg−Al合金の薄膜形成時に、熱処理工程を設けて上下の皮膜を冶金的に強固に接合させ、皮膜の緻密化と密着性の向上を図った場合には、熱衝撃や機械的衝撃にも十分な抵抗を有するものとすることができる。
上記の如き本発明に係る耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材は、近年、シリコンウェハーのエッチング作業の効率化や高速化のために多用されている腐食性の強い各種ハロゲンガスによる化学的損傷によく耐えると共に、環境の汚染源となる腐食生成物の発生を効果的に抑制できるものとなる。その結果、この耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材を半導体加工装置に適用した場合には、半導体の加工環境を高度な清浄状態に維持することができるので、半導体製品の高集積化、高品質化に貢献するだけでなく、環境汚染を回復するために行う装置の洗浄回数を減らすことができ、半導体製品の生産コストの低減、洗浄時に用いる化学薬品による環境汚染の軽減にも寄与する。
本発明に係る耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材の製造方法ならびに耐ハロゲン腐食性皮膜が示す作用効果について説明する。
耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材の製造方法は、図1に示したように、主に、部材を構成する金属製基材の表層部に、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を形成する第一次成膜処理工程と、そのAl拡散層またはAl含有層の上に、さらに、Mg薄膜またはMg−Al合金薄膜を形成する第二次成膜処理工程とからなる。
(1)金属製基材
本発明に係る耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材を構成する金属製基材としては、炭素鋼、低合金鋼、鋳鉄、鋳鋼、ステンレス鋼、高合金鋼、Ni基合金、Co基合金、Ti,Ti合金、Cu,Cu合金、Al,Al合金等を挙げることができる。また、上記金属製基材の表面に、電気めっき(Ni,Cuなど)や化学めっき(Ni,Cuなど)の金属膜を形成した基材であってもよい。
(2)第一次成膜処理(Al拡散層,Al含有層の形成)
耐ハロゲン腐食性皮膜を形成する第一段階の工程は、金属製基材の表層部にAl拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を形成する第一次成膜処理工程である。上記Al拡散層またはAl含有層の形成は、次に示す方法のうちから選択することができる。
(a)溶射−熱拡散法:電気アーク、プラズマ、可燃性ガスなどの燃焼炎を熱源とする溶射法によって、金属製基材の表面にAlの溶射皮膜を形成した後、これを大気中、不活性ガス中、真空中などの環境下で、650〜900℃×0.5〜5hrの熱処理を行う方法である。この熱処理によって、Alの溶射皮膜の一部は、金属製基材中に拡散してAl拡散層を生成する。このAl拡散層は冶金的に結合しているため、強固な密着性を発揮する。また、溶射したAlの皮膜の一部が熱拡散せずにAl皮膜のまま残留していても、本発明の効果を損なうものではない。なお、上記Alの溶射皮膜は、Al合金の溶射皮膜であってもよい。また、熱処理を施さなくても十分な密着性を有する溶射皮膜では、この熱処理は省略することができる。
(b)蒸着−熱拡散法:電子ビームやタングステン線の電気抵抗現象を熱源とするPVD法(例えば、蒸着法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法など)を用いて、金属製基材の表面にAlの薄膜(皮膜)を形成した後、上記(a)と同様の熱処理を行い、Al薄膜の一部またはすべての薄膜を基材中へ拡散させ、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を生成させる方法である。なお、上記Alの薄膜は、Al合金の薄膜であってもよい。
(c)粉末拡散法:金属AlまたはAl−FeなどのAl合金粉末中に、Al23,NH4Clなどを混合して浸透剤を調合し、この中に金属製基材を埋没させた後、Arガスを流しつつ、650〜1000℃で0.5〜10hr加熱する方法である。この熱処理によって、金属製基材の表面にAlを拡散させ、Al拡散層を生成する。この際、Al拡散層中には、各種のAlを主成分とする金属間化合物が生成するが、これらについては後述する。
(d)溶融拡散法:溶融したAl中に金属製基材を浸漬させることによって、基材の表面に、Al皮膜とともにAl拡散層を形成させる方法である。なお、上記Alは、Al合金であってもよい
上記のように、第一次成膜処理を施した金属製基材の表層部にはAl拡散層が形成されるが、このAl拡散層中には、基材表面から内部に拡散したAlと基材成分とが冶金反応して、次のような各種のAlの金属間化合物が生成する。
・Al−Fe系:Fe3Al,FeAl,FeAl2,FeAl3
・Al−Ni系:NiAl3,Ni2Al3,NiAl,Ni3Al
・Al−Co系:Co2Al3,Co4Al22,Co2Al5,CoAl
・Al−Cr系:CrAl7,Cr2Al11,CrAl3,Cr5Al3,Cr2Al
・Al−Ti系:TiAl,Ti3Al
上記Alの金属間化合物を含むAl拡散層の生成は、耐ハロゲン腐食性に比較的優れているAlで、基材表面を原子の規模で緻密に被覆することになるので、ハロゲンガスを含む環境下における腐食を効果的に防止することができる。たとえば、Alの蒸着膜や溶射皮膜だけでは、皮膜に何らかの原因で疵が発生したり、局部的に剥離したり、あるいは皮膜に気孔が存在したりした場合には、これらの欠陥を通して腐食性ガスが侵入し、基材を直接腐食させることがしばしば経験されているが、Al拡散層を存在させることによって、このような欠点をなくすことができる。さらに重要なことは、Al拡散層は、次工程で形成されるMgやMg−Al合金の薄膜の密着性向上にも大きな効果を発揮することである。
上記第一次成膜処理で形成される皮膜は、溶射−熱拡散法と蒸着−熱拡散法の場合には、溶射あるいは蒸着によって成膜した段階ではAl皮膜のままであるが、その後の拡散熱処理によって、Al皮膜中のAlの一部またはすべてが基材中に拡散し、Alの金属間化合物の生成を伴うAl拡散層となる。また、粉末拡散法で得られる皮膜は、大部分がAl拡散層となり、溶融拡散法で得られる皮膜は、Al皮膜とAl拡散層とから構成されるAl含有層となる。なお、第一次成膜処理で形成されるAl拡散層およびAl皮膜の厚さは、Al拡散層で2〜50μm、Al皮膜で2〜70μmの範囲が適当である。Al拡散層の厚さが2μmより薄いと、基材に対する防食効果が十分でなく、一方、50μmより厚くしても、防食効果が飽和し、それ以上の向上が認められなくなるからである。さらに、Al拡散層およびAl皮膜は、上述したように、次の処理段階で形成されるMg薄膜やMg−Al合金薄膜の密着性の向上に効果があるが、この効果は、厚さが2μm以上あれば十分に得ることができる。
(3)第二次成膜処理(Mg薄膜,Mg−Al合金薄膜形成処理)
金属製基材に耐ハロゲン腐食性皮膜を形成する第二段階の工程は、第一段階の工程で金属製基材表面に形成したAl拡散層またはAl含有層の上に、MgまたはMg−Al合金の薄膜を形成する工程であり、以下のいずれか方法によって行うことができる。
(a)蒸着法:金属Mgは、蒸気圧が比較的高いため、電子ビーム法や電気抵抗加熱法によってMgを蒸気化して、Al拡散層またはAl含有層を形成した金属製基材の表面に、直接、Mgの薄膜を形成することができる。また、Mg薄膜を形成後、さらに必要に応じて、真空中または不活性雰囲気中で、600〜900℃×0.5〜3hrの加熱処理を行い、Mg薄膜とAl拡散層あるいはMg薄膜とAl皮膜の間の冶金反応を促進させることによって、Mg薄膜の密着性の向上と緻密化を図ってもよい。なお、Al拡散層またはAl含有層の上部に、Al蒸着膜や溶射皮膜が積層している場合でも、この上にMg薄膜を形成した後、加熱処理を行うと同じような効果を発揮する。蒸着法で形成するMg薄膜の厚さは1〜50μmが好ましく、より好ましくは2〜50μmである。1μmより薄い場合には、Mgが有する耐ハロゲン腐食性、特にF2,HFなどの耐弗素ガス性が十分でなく、一方、50μmを超える膜厚としても、耐弗素ガス性が格段に向上することがない他、成膜コストの増加を招くので得策ではない。なお、Mg−Al合金の薄膜は、電子ビーム蒸着法によっても形成することができる。
(b)電解法(溶融塩電析法):塩化マグネシウムなどの溶融塩を電解質とし、Al拡散層あるいはAl含有層を形成した金属製基材を陰極として電気分解すると、溶融塩中のMgが陰極である金属製部材に析出すると共に、環境温度が高いため、析出したMgが基材表面のAlと合金化反応を起こして、Mg含有量の多い表面を有するMg−Al拡散層によって金属製基材の表面を被覆することができる。
上記の方法によって、Al拡散層またはAl含有層を形成した金属製基材の表面に、Mg蒸着膜やMg電解膜を形成した場合には、基材表面のAlとMgとが冶金反応を起こして、緻密で密着性に優れ、しかも、Alと比較して一段と耐弗化ガス性に優れたMg濃度の高いMg−Al合金皮膜を形成させることができる。なお、Alを含まない金属製基材上にMg薄膜を直接形成した場合には、Mgは、Fe,Crと直接冶金反応することがないので、密着性に乏しく、実用化は困難である。蒸着法でMg−Al合金薄膜を形成する場合には、Al含有量は5〜90mass%の範囲であれば、耐ハロゲンガス用薄膜として使用することができる。Al含有量が5mass%未満のMg−Al合金薄膜では、耐ハロゲンガス腐食性が不十分であり、一方、Al含有量が90mass%より多い合金薄膜では、Alが100mass%膜とほぼ同等の耐食性でしかなく、Mgによる優位差がなくなる傾向にあるからである。
(4)本発明における耐ハロゲン腐食性皮膜の断面構造例
図1の工程によって製造される耐ハロゲン腐食性皮膜の断面構造例を図2に示す。
図2(a)は、金属製基材21の表層部に、粉末拡散法によって、Alの拡散層22を形成させた皮膜の断面構造を示したものである。
図2(b)は、金属製基材21の表層部に、Al拡散層22とAlまたはAl合金の金属被覆層23が形成された皮膜の断面構造を示したものである。この構造の皮膜は、AlまたはAl合金の溶射皮膜を形成した後、熱処理を行い、溶射皮膜の一部を基材中に拡散させることによって得られる。また、この断面構造の皮膜は、溶融状態のAlまたはAl合金中に金属製基材を浸漬した後、引き上げることによっても得ることができる。
図2(c)は、図2(a)の構造を有する皮膜の上に、Mg薄膜24を形成した後、熱処理を施した皮膜の断面構造を示したものである。この構造の皮膜は、熱処理によって、Mg薄膜の一部がAl拡散層と冶金反応し、Mg−Alを主成分とするMg−Al合金層25を生成して強い密着性を発揮する。
図2(d)は、図2(b)の構造皮膜の上に、Mg薄膜を形成した後、熱処理を施した皮膜の断面構造を示したものである。この構造の皮膜は、熱処理によって、Mg薄膜の一部がAlまたはAl合金の金属被覆層と冶金反応し、Mg−Alを主成分とする合金層25を生成して強い密着性を発揮する。
図2(e)は、図2(a)の構造を有する基材の表面に、電解法によってMgの電着層を形成したものである。電解時の温度が高いため、基材上に電析したMgは、Al拡散層と冶金反応をし、Mg−Alを主成分とする合金層25を生成した状態を示したものである。
(5)耐ハロゲン腐食性皮膜の作用効果
本発明における耐ハロゲン腐食性皮膜は、以下に示すような優れた機能を有している。
(a)本発明における皮膜は、図2に示したように、Al拡散層やMg−Al合金層のような異質な金属質皮膜層を、冶金反応を利用して接合しているため、密着性や耐熱衝撃性に優れている。
(b)本発明における皮膜は、耐ハロゲン腐食性に優れたMgまたはMg−Al合金層を最外層面に被覆する一方、下層部にも耐ハロゲン腐食性を有するAl拡散層を設けているため、使用中、最外層部に亀裂が発生したとしても、腐食速度を小さく抑えることができる。その結果、加工環境の汚染源となる腐食生成物の発生を抑制することができるので、半導体加工装置に要求されている高度な清浄環境を得るのに大きな効果を発揮する。
本発明によって得られる耐ハロゲン腐食性皮膜の密着性および耐熱衝撃性について調査した。
本実施例においては、金属製基材として、SUS304鋼(寸法:幅30mm×長さ60mm×厚さ1.0mm)を用い、この表面に、第一次成膜処理として、溶射法、蒸着法、粉末拡散法、溶融拡散法を用いて、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を形成した後、第二次成膜処理として、蒸着法と電解法によって、Mg薄膜を積層被覆して試験片を作製し、これらの試験片を、Ar雰囲気中で700℃×5hrの熱処理を施したのち、曲げ試験と熱衝撃試験に供した。曲げ試験は、JIS Z 2248に準じて45°に曲げ、外観を目視で観察し、皮膜の剥離の有無を調査した。また、熱衝撃試験は、Ar雰囲気中において、350℃×15分の加熱後、室温まで冷却する加熱・冷却処理を10回繰り返して行い、外観を目視で観察し、皮膜の剥離の有無を調査した。
上記試験の結果を表1に示した。この表1の結果から、本発明により得られる皮膜は、優れた密着性と耐熱衝撃性を有することがわかる。
Figure 2006089822
半導体加工装置では、シリコンウェハーの加工時には、腐食性の強い各種ハロゲン化合物を使用するが、使用後の装置全体の洗浄時には、純水などを用いて洗浄することが多く、工程の都合などによって、洗浄後、濡れた状態で長期間放置される場合があり、この期間中に装置部材に“さび”や腐食が発生することが経験されている。そこで、本実施例においては、本発明に係る耐ハロゲン腐食性皮膜の一般耐食性を調査した。
本実施例においては、金属製基材として、腐食反応に敏感なSS400鋼(寸法:幅30mm×長さ60mm×厚さ3.2mm)を用い、この表面に、第一次成膜処理として、溶射法、蒸着法、粉末拡散法、溶融拡散法を用いて、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなる皮膜を形成した後、第二次成膜処理として、蒸着法と電解法によって、10μmの厚さのMg薄膜を積層被覆して耐食性試験片を作製し、蒸着試験片は、Ar雰囲気中で550℃×30分の熱処理を施し、電解試験片は、熱処理を施さずに、JIS Z 2371規定の塩水噴霧試験(48hr)に供した。なお、比較例として、無処理のSS400鋼、SS400鋼にめっき厚 15μmのニッケルめっきを施した試験片、SS400鋼にめっき厚 15μmのクロムめっきを施した試験片についても同じ条件で耐食性を評価した。
表2は、上記の試験結果を示したものである。比較例として調査した無処理のSS400鋼(No.13)は全面赤さび、ニッケルめっき試験片(No.14)およびクロムめっき試験片(No.15)は斑点状の赤さびが多数発生した。上記めっき処理した試験片の斑点状赤さびの発生は、めっき膜に存在するピンホール欠陥に起因するものと考えられる。これに対して、本発明に係る皮膜を形成した試験片(No.1〜12)は、何れも赤さびの発生は認められず、Mg薄膜自体に多少の気孔が存在したとしても、一次成膜処理によって形成されているAl拡散層やAl皮膜によって、SS400基材が十分に保護されていることが確認できた。
Figure 2006089822
本発明に係る皮膜の耐ハロゲンガス腐食性を調べるため、SUS304鋼(寸法:幅30mm×長さ60mm×厚さ1.3mm)を基材とし、第一次成膜処理として、溶射法、蒸着法、粉末拡散法を用いて、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなる皮膜を、実施例1と同じ条件で形成した後、第二次成膜処理として、蒸着法と電解法によって、実施例1と同じ条件で10μmの膜厚のMg薄膜を積層被覆して耐食性試験片を作製し、腐食試験に供した。腐食試験条件としては、次の2種類を採用した。なお、比較例として、第一次成膜処理、第二次成膜処理を施さない試験片および第二次成膜処理のみを施さない試験片についても同様の評価を行った。
I.CF4:150ml/min+O2:75ml/minの混合ガスを流しつつ、その通路に試験片を静置し、180℃×10hrの腐食試験を行った。
II.分圧100hPaのF2ガス雰囲気中で、250℃×24hrの腐食試験を行った。
表3は、上記結果を要約したものである。比較例の無処理のSUS304鋼(No.10)は、最も激しい腐食を受けて赤さびが発生し、CF4,F2に対する耐食性が乏しいことが判明した。また、第一次成膜処理のみを施した試験片(No.1,4,7)は、無処理の試験片(No.10)に比較して、Al拡散層およびAl皮膜の存在により耐食性は向上しているものの、未だ十分ではない。これに対して、第一次成膜処理した上で第二次成膜処理としてMg薄膜を被覆した試験片(No.2,3,5,6,8,9)は、何れも腐食減量が極めて少なく、優れた耐ハロゲン腐食作用を発揮した。
Figure 2006089822
第二次成膜処理として施工するMg−Al合金薄膜の耐ハロゲン腐食性を調査した。
第一次成膜処理として、蒸着法と粉末拡散法を用いて、実施例1と同じ条件でAl拡散処理を施したのち、それぞれの皮膜上に、第二次成膜処理として、蒸着法を用いて、Mg 100mass%およびAl含有量が5mass%、50mass%、90mass%のMg−Al合金薄膜を10μmの厚さに被覆した試験片を作製し、この試験片を用いて、F2ガスの分圧が100hPaの雰囲気中で、250℃×24hrと250℃×75hrの腐食試験を行った。
表4は、この結果を示したものである。この結果から明らかように、24hrの腐食試験では、二次成膜処理でMg 100mass%の薄膜を形成した試験片(No.2,7)の耐食性が最も良好であり、Al含有量が増加するに従って、耐食性が低下する傾向が認められる。しかし、長時間(75hr)の腐食試験では、Mg−Al合金薄膜でも、腐食量が著しく低下し、良好な耐食性を示す。すなわち、Mg−50mass%Al合金薄膜(No.4)の腐食量を、単位時間当たりの腐食量に換算すると下記のようになり、長時間F2ガス中に曝露した場合には、腐食速度が減少していることがわかる。
24時間後の腐食量 1.5〜1.8 mg/cm2 → 0.0625〜0.075 mg/cm2・hr
75時間後の腐食量 2.2〜2.5 mg/cm2 → 0.0293〜0.033 mg/cm2・hr
このような現象の原因を調べるため、長時間試験後のMg−Al合金薄膜の断面を観察したところ、薄膜の表面に著しくMg成分が濃縮しており、この濃縮したMgによって耐食性が向上していることが判明した。このMgの濃縮現象は、Mg−Al合金薄膜の全ての試験片(No.3〜5,8〜10)に認められた。このMgが濃縮した原因は、F2ガスと接触した初期には、Mg−Al合金薄膜表面に、反応生成物としてMgF2,AlFx(AlF2,AlF3)を生成するが、AlFxは蒸気圧が高いためガス状となって揮散する結果、蒸気圧の低いMgF2の残存率が向上したためと考えられる。
Figure 2006089822
本発明の技術は、ハロゲンガスやハロゲン化合物を取扱う化学プラント用装置部材に対しても適用可能である。
本発明における耐ハロゲン腐食性皮膜の形成工程を説明する図である。 図1の作業工程によって形成される耐ハロゲン腐食性皮膜の代表的な断面構造を模式的に説明した図である。
符号の説明
21 金属製基材
22 Al拡散層
23 AlまたはAl合金の金属被覆層
24 Mg膜
25 Mg−Alを主成分とする合金層

Claims (6)

  1. 金属製基材の表層部に、Al拡散層またはAl拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層が形成され、そのAl拡散層またはAl含有層の上には、Mg薄膜またはMg−Al合金薄膜が形成されてなることを特徴とする耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材。
  2. 前記Al拡散層は、Alと基材金属成分との金属間化合物を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材。
  3. 前記Mg−Al合金薄膜は、Alを5〜90mass%含有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材。
  4. 前記Mg薄膜またはMg−Al合金薄膜は、1〜50μmの厚さを有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材。
  5. 金属製基材の表面に、溶射−熱拡散処理、蒸着−熱拡散処理、粉末拡散処理および溶融拡散処理のいずれか1種以上の処理によって金属間化合物を含むAl拡散層または該Al拡散層とAl皮膜とからなるAl含有層を形成し、次いで、前記Al拡散層またはAl含有層の上に、MgもしくはMg−Al合金を蒸着処理または電解処理してMg薄膜またはMg−Al合金薄膜を形成することを特徴とする耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材の製造方法。
  6. Mg薄膜またはMg−Al合金薄膜を形成したのち、不活性ガス中または真空中で550〜900℃×0.5〜10hrの熱処理を施すことを特徴とする、請求項5に記載の耐ハロゲン腐食性皮膜被覆部材の製造方法。
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