JP2006075166A - 全てのアセトヒドロキシ酸合成酵素が不活化された腸内細菌科細菌を用いて異常アミノ酸を生産する方法 - Google Patents

全てのアセトヒドロキシ酸合成酵素が不活化された腸内細菌科細菌を用いて異常アミノ酸を生産する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
生理活性ペプチドアナログ製造の為に非タンパク質新生アミノ酸(異常アミノ酸;L−ノルロイシン,L−ノルバリン等)の効率の良い発酵方法の提供。
【解決手段】
腸内細菌科の細菌、特に全てのアセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)が不活化されたエシェリヒア属に属する細菌を用いた、ノルロイシン及びノルバリンのような異常アミノ酸を生産する方法が提供される。
【選択図】なし

Description

[発明の分野]
本発明は微生物学的工業に関し、具体的には、全てのアセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)が不活化されている腸内細菌科細菌を用いて、ノルロイシン及びノルバリン等の異常アミノ酸を生産する方法に関する。
[関連技術の説明]
ノルロイシンは、メチオニンアナログとして作用することが知られている(Lawrence, J. Bacteriol., 109, 8-11 (1972))。ノルロイシンは、メチオニンの代わりにタンパク質中に取り込まれる能力があることが実証されている(Barker, D.及びBruton, C., J. Mol. Biol., 133, 217-31 (1979)、Munier, R.及びCohen, G., Biochim. Biophys. Acta.,
31, 378-90 (1959);Bogosyan, G.他, J. Biol. Chem., 264, 1, 531-539, (1989);米国特許第5,622,845号;米国特許第5,599,690号)。エシェリヒア・コリの増殖は、外来性ノルロイシンを供給することによりメチオニン資化と競合阻害することで阻止されることが報告されてきた(Harris, J. S.及びKohn, H. I., J. Pharmacol.,
73, 383-400 (1941))。またノルロイシン供給は、最適状態に及ばない濃度のメチオニンを含有する培地において、メチオニン栄養要求性エシェリヒア・コリ(E.coli)の増殖を増大させることも観察されてきた(Lampen, J. O.及びJones, M. J., Arch. Biochem. Biophys., 13, 47-53 (1947))。
低濃度のアミノ酸を有する発酵培地において、ロイシンリッチなタンパク質の高レベルな合成能を有するエシェリヒア・コリ株によるノルロイシンを生産する方法が、開示されている(米国特許第5,622,845号)。
ロイシン生合成酵素が抑制解除されたセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)変異株を選別し、スレオニンデヒドラターゼを欠損したイソロイシン依存性変異株をさらに選別するために用いた。この二重変異株から、フィードバック抵抗性α−イソプロピルリンゴ酸合成酵素を含有するイソロイシン非依存性変異株が選別された。この最終的な複合変異株は、ノルロイシンの蓄積を起こすことが可能であった(Kisumi他、J. Biochem., 1976, 80, 333-339)。
ノルロイシンは通常、初発基質である2−ケトイソ吉草酸の代わりに、ピルビン酸又は2−ケト酪酸から、セラチア・マルセッセンス(Kisumi他、J. Biochem., 1976, 80, 333-339)及びエシェリヒア・コリ(Bogosyan, G.他, J. Biol. Chem., 264, 1, 531-539, (1989))におけるロイシン生合成経路(図1)により産出されると考えられている。
タンパク質生産微生物、特にエシェリヒア・コリを、ノルロイシン及びノルバリンを含む非タンパク質アミノ酸を含有する培養培地で培養することにより、非タンパク質アミノ酸を含有するタンパク質を生産する方法が開示されている(米国特許第4,879,223号)。
また、組換え遺伝子産物へのノルロイシンの取り込みは、ノルロイシンを含有する培地、又はロイシン及び/又はメチオニンを欠く培地で、上記遺伝子産物を発現している細胞を培養することにより、促進され得る。したがって、このようにして、IL−2、G−CSF、γ−インターフェロン及びα−コンセンサスインターフェロンのノルロイシンアナ
ログが生産され得る(米国特許第5,599,690号)。しかし今日まで、AHASを欠損したエシェリヒア・コリ菌株によるノルロイシン(及びノルバリン)の蓄積は報告されていない。
本発明の目的は、異常アミノ酸生産株を提供することである。本発明のさらなる目的は、これらの株を用いてこのような異常アミノ酸を生産する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、ノルロイシン及びノルバリン等の異常アミノ酸を生産する能力を有する、腸内細菌科の細菌を提供することである。
本発明のさらなる目的は、細菌の全てのアセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)が不活化するように改変された、腸内細菌科の異常アミノ酸生産細菌を提供することである。
本発明のさらなる目的は、異常アミノ酸はノルロイシン及び/又はノルバリンである、前記細菌を提供することである。
本発明のさらなる目的は、細菌はエシェリヒア属に属する、前記細菌を提供することである。
本発明のさらなる目的は、上記アセトヒドロキシ酸合成酵素は、ilvBN遺伝子によりコードされるAHAS I、ilvGM遺伝子によりコードされるAHAS II及びilvIH遺伝子によりコードされるAHAS IIIを含む、前記細菌を提供することである。
本発明のさらなる目的は、細菌は、leuABCDオペロンの発現が増強するように改変されている、前記細菌を提供することである。
本発明のさらなる目的は、異常アミノ酸を生産する方法であって、
L−ロイシンは含有しないが、細菌増殖を制限する濃度でL−バリンを含有する培地で前記細菌を培養して、異常アミノ酸を生産さ、培地中に分泌させ、かつ
上記培地から異常アミノ酸を回収すること、
を含む方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、異常アミノ酸はノルロイシン及び/又はノルバリンである、前記方法を提供することである。
本発明を以下に詳細に説明する。
[発明の詳細な説明]
1.本発明の細菌
上述した目的は、全てのAHASの不活化がノルロイシン及びノルバリン等の異常アミノ酸の生産を増強し得るという知見により達成された。さらに、増強されたleuABCDオペロンの発現は、AHAS欠損株によるこのような異常アミノ酸の生産を増大することが示された。かくして本発明を完成するに至った。
本発明の細菌は、腸内細菌科の異常アミノ酸生産細菌であり、全てのAHASを不活化するように改変された細菌である。
本発明において、「異常アミノ酸」とは、20個の基本的なタンパク質新生(proteinogenic)アミノ酸(L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン及びL−バリン)以外のアミノ酸を意味し、「非タンパク質新生アミノ酸(non-proteinogenic)」とも呼ばれる。このような異常(非タンパク質新生)アミノ酸は、leuABCDオペロンでコードされるL−ロイシン生合成経路に関与する酵素により、2−ケト−前駆体から形成され得る。本発明による「異常アミノ酸」は、例えば、2−ケト吉草酸から形成されるノルバリン及び2−ケト吉草酸から2−ケトカプロン酸を経由して形成されるノルロイシンが挙げられる。本発明による「異常アミノ酸」の他の例としては、L−ロイシン生合成経路に関与する酵素により、2−ケトイソカプロン酸から形成されるホモロイシン及び2−ケト−3−メチル吉草酸から形成されるホモイソロイシンが挙げられる(例えば、Jakubowski, H. and Goldman, E., Microbiological reviews, v.56, No.3, p.412-429 (1992)を参照)。上記のアミノ酸の他の化学的な相同体も本発明の範囲に包含される。本発明において、異常アミノ酸はL−型であることが好ましい。
本発明において、「異常アミノ酸生産細菌」とは、本発明の細菌が培地で培養されるとき、培地中に異常アミノ酸を生産及び分泌する能力を有する細菌を意味する。異常アミノ酸生産能力は、育種により付与又は増強され得る。また「異常アミノ酸生産細菌」という用語は、本明細書中では、エシェリヒア・コリの野生型又は親株、例えば、エシェリヒア・コリ菌株K−12、W3110又はMG1655と比べて、多量の異常アミノ酸を培養培地中に生産及び分泌することができる細菌を意味する。この用語は、細菌が、少なくとも10mg/l、より好ましくは少なくとも50mg/lの量の標的アミノ酸を、培地中に生産及び分泌することが好ましいことを意味する。
腸内細菌科は、エシェリヒア属、エルヴィニア属(Erwinia)、プロビデンシア属(Providencia)及びセラチア属(Serratia)属に属する細菌を含むが、これらに限定されない。エシェリヒア属が好ましい。
「エシェリヒア属に属する細菌」という用語は、微生物学における当業者に既知の分類により、エシェリヒア属に分類される細菌を意味する。本発明で使用されるエシェリヒア属に属する微生物としては、エシェリヒア・コリ(E.coli)が挙げられる。
本発明に使用できる腸内細菌科の細菌は、特に限定されないが、例えばNeidhardt, F. C.らにより記載された細菌(Escherichia coli及びSalmonella typhimurium、American Society for Microbiology, Washington D. C., 1208,表1)を包含する。
「AHASが不活化された」という用語は、AHASをコードする遺伝子が改変され、それにより、改変された遺伝子が有意に活性、特に、この活性が従来技術では検出できないような活性、が低下した突然変異タンパク質をコードするか、又はこのような遺伝子が完全に不活性なタンパク質をコードすることを意味する。また、改変DNA領域は、遺伝子の一部を欠失すること、遺伝子のリーディング・フレームをシフトすること、またはプロモーター、エンハンサー及びアテニュエーター等のようなオペロンに隣接する領域を改変することに起因する遺伝子を自然では発現することができないものであってもよい。
本発明によるAHASは、AHAS I、AHAS II及びAHAS IIIを含む。「全てのアセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)」という用語は、通常は、AHAS I、AHAS II及びAHAS IIIを意味する。
AHAS I(アセトヒドロキシブタン酸合成酵素I/アセト乳酸合成酵素I)、AHAS II(アセトヒドロキシブタン酸合成酵素II/アセト乳酸合成酵素II)及びAHAS III(アセト乳酸合成酵素III/アセトヒドロキシブタン酸合成酵素III)は、ピルビン酸及び2−オキソブタン酸から2−アセト−2−ヒドロキシ−酪酸、並びにピルビン酸からアセト乳酸を生成する2つの反応を触媒する。
AHAS IはilvBN遺伝子(ilvBNオペロン)によってコードされ、AHAS IIはilvGM遺伝子(ilvGMオペロン)によってコードされ、AHAS IIIはilvIH遺伝子(ilvIHオペロン)によってコードされる。
ilvB遺伝子(GenBankaccession番号NC_000913.1の3850411〜3848723番)及びilvN遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の3848719〜3848429番)は、E.coli
K−12株の染色体上のuhpA遺伝子とivbL遺伝子の間に位置し、AHAS Iの触媒サブユニット及び調節サブユニットをそれぞれコードしている。
ilvG遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の連結した番号3948183〜3949163番と3949162〜3949827番)及びilvM遺伝子(GenBank 寄託番号NC_000913.1の3949824〜3950087番)は、E.coli K−12株の染色体上のilvL遺伝子とilvE遺伝子の間に位置し、AHAS IIの大サブユニット及び小サブユニットをそれぞれコードしている。
ilvI遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の85630〜87354番)及びilvH遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の87357〜87848番)は、E.coli K−12株の染色体上のleuO遺伝子とfruR遺伝子の間に位置し、AHAS IIIの大サブユニット及び小サブユニットをそれぞれコードする。
遺伝子の不活化は、UV照射又はニトロソグアニジン(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)処理を用いた変異誘発処理、部位特異的変異法、相同組換えを用いた遺伝子破壊及び/又は「レッド−ドリブン組込み(Red-driven integration)」と呼ばれる挿入−欠失変異誘発法(Datsenko K. A.及びWanner B. L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000,97:12:6640-45)のような通常の方法により行うことができる。
有意に活性が低下した変異タンパク質又は完全に不活性なタンパク質は、例えば、AHASの保存領域に位置するアミノ酸残基の部位特異的変異誘発により得ることができる。多数の種からのAHASのアミノ酸配列のアライメント及び構造−機能相関データが、Duggleby, R. G.及びPang, S. S.による概説に提示されている(J. Biochem. Mol. Biol., 33, No. 1, 1-36 (2000))。例えば、エシェリヒア・コリに由来するAHASでは、47位のグルタミン酸が触媒の役割を果たすことが示されている。したがって、この位置での突然変異又はこの位置を含む欠失は、エシェリヒア・コリに由来するAHASの酵素活性にとって重大である。
エシェリヒア・コリ以外の腸内細菌科の細菌のilvBNオペロン、ilvGMオペロン又はilvIHオペロンは、エシェリヒア・コリに由来するilvBNオペロン、ilvGMオペロン若しくはilvIHオペロンのフラグメント又はエシェリヒア・コリのilvBNオペロン、ilvGMオペロン又はilvIHオペロンのホモログであり得る固有のオペロンのフラグメントを用いて、相同組換えにより不活化することができる。このようなオペロンホモログは、エシェリヒア・コリのilvBNオペロン、ilvGMオペロン又はilvIHオペロンに対して、それぞれのコード領域のヌクレオチド配列に対して、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%
、最も好ましくは95%の相同性を有し得る。
本発明の細菌は、例えば野生株又は非改変株と比較して、leuABCDオペロンの発現を増強することにより、さらに改善されてもよい。leuABCDオペロンは、leuA遺伝子、leuB遺伝子、leuC遺伝子及びleuD遺伝子を含む。このうち、leuA遺伝子はα−イソプロピルリンゴ酸合成酵素をコードし、leuB遺伝子はβ−イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼをコードし、leuC及びleuDはイソプロピルリンゴ酸イソメラーゼをコードする。
leuA遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の83529番〜81958番)、leuB遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の81958番〜80867番)、leuC遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の80864番〜79464番)及びleuD遺伝子(GenBank accession番号NC_000913.1の79453番〜78848番)は、E.coliのK−12株染色体上のleuL遺伝子とyabMオープン・リーディング・フレームの間に位置する。
ilvBNオペロン、ilvGMオペロン若しくはilvIHオペロン又はleuA遺伝子、leuB遺伝子、leuC遺伝子若しくはleuD遺伝子は、前記の各GenBank accession番号に記載されたアミノ酸配列を有し、且つタンパク質がAHAS、α−イソプロピルリンゴ酸合成酵素、β−イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ又はイソプロピルリンゴ酸イソメラーゼの活性を有する限り、1又は複数の位置に1又は複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入または付加を含有するタンパク質をコードする遺伝子を含み得る。
「複数の」アミノ酸の数は、タンパク質の三次元構造におけるアミノ酸残基の位置または種類に応じて異なる。これは以下の理由による。即ち、いくつかのアミノ酸はお互い高い相同性を有し、このようなアミノ酸における差はタンパク質の三次元構造に大きくは影響しない。したがって、本発明のタンパク質は、全アミノ酸残基に対して、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するタンパク質であり得る。
エシェリヒア・コリのilvBNオペロン、ilvGMオペロン若しくはilvIHオペロン又はleuA遺伝子、leuB遺伝子、leuC遺伝子若しくはleuD遺伝子は、エシェリヒア・コリのilvBNオペロン、ilvGMオペロン若しくはilvIHオペロン又はleuA遺伝子、leuB遺伝子、leuC遺伝子若しくはleuD遺伝子のヌクレオチド配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ対応する酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここで「ストリンジェントな条件」という用語は、本明細書中において、いわゆる特異的ハイブリッドは形成されるが、非特異的ハイブリッドは形成されない条件を意味する。この条件を、任意の数値を用いて正確に表現することは難しいが、ストリンジェントな条件とは、例えば高い相同性を有するDNA、例えば、互いに70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士はハイブリダイズするが、互いに上記よりも低い相同性を有するDNA同士はハイブリダイズしない条件が挙げられる。
タンパク質又はDNAの相同性の程度を評価するためには、BLAST検索、FASTA検索及びCrustal W等の複数の計算方法を用いることができる。
BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)は、blastp、blastn、blastx、megablast、tblastn及びtblastxプログラムを使用するヒューリスティックな(heuristic)検索アルゴリズムである;これらのプログラムは、Karlin、Samuel及びStephen F. Altsc
hulの統計学的方法(「Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:2264-68;「Applications and statistics for multiple high-scoring
segments in molecular sequences」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90:5873-7)を用いて、検出結果に有意差を付与する。FASTA検索方法は、W. R. Pearsonにより記載されている(「Rapid and Sensitive Sequence Comparison with FASTP and FASTA」、Methods in Enzymology, 1990 183:63-98)。Clustal W方法は、Thompson J. D., Higgins D. G.及びGibson T. J.により記載されている(「CLUSTAL W: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice」、Nucleic Acids
Res. 1994,22:4673-4680)。
あるいは、ストリンジェントな条件は、サザンハイブリダイゼーションにおける通常の洗浄条件、即ち、60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で、DNAが互いにハイブリダイズする条件が例示される。洗浄手順の期間は、ブロッティングに用いられる膜の種類に応じ、一般に、業者により推奨される。例えば、ストリンジェントな条件下における、Hybond(商品名)N+ナイロン膜(Amersham)に対する推奨される洗浄期間は、15分間である。遺伝子発現を増強する技術、特に菌体中のタンパク質分子の数を増大する技術は、そのタンパク質をコードするDNAの発現調節配列を改変すること及びその遺伝子のコピー数を増大することを含むが、これらに限定されない。
DNAの発現調節配列を改変することは、本発明のタンパク質をコードするDNAを、強力なプロモーターの制御下に置くことにより達成できる。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター及びラムダファージのPLプロモーターは、全て強力なプロモーターとして知られている。あるいは、プロモーターの活性は、例えば、プロモーター中に変異を導入してプロモーターの下流に位置する遺伝子の転写レベルを増大させることにより、増強することができる。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドンとの間にあるスペーサー中に変異を導入することにより、mRNA翻訳能を増強することができる。例えば、開始コドンに先行する3つのヌクレオチドの性質に応じて、20倍範囲の発現レベルが見られた(Goldら、Annu. Rev. Microbiol., 35, 365-403, 1981;Huiら、EMBO J., 3, 623-629, 1984)。
さらに、遺伝子の転写レベルを増大するために、エンハンサーを新たに導入してもよい。染色体DNAへの、遺伝子又はプロモーターのいずれかを含むDNAの導入は、例えば特開01−215280(1989年)に記載されている。
あるいは、遺伝子のコピー数は、多コピーベクター中に遺伝子を挿入して組換えDNAを形成し、続いて微生物中へ同組換えDNAを導入することによって上昇させることができる。多コピーベクターを用いることが好ましい。多コピーベクターとしては、pBR322、pUC19、pBluescript KS+、pACYC177、pACYC184、pAYC32、pMW119及びpET22b等が挙げられるが、これらに限定されない。「多コピーベクター」という用語は、1細胞当たり15〜30個までのコピー数になるベクターに対して用いられる。形質転換の方法は、当業者に既知の任意の方法が含まれる。例えば、受容細胞を塩化カルシウムで処理し、それによりDNAに対する細胞の透過性を増大することは、エシェリヒア・コリK−12(Mandel, M.及びHiga, A., J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))に関して報告されているが、本発明でも使用され得る。
遺伝子発現の増強は、例えば相同組換え又はMu組込み等を介して、細菌の染色体中に複数の遺伝子コピーを導入することにより達成することもできる。例えば、一回のMu組
込みにより、3つの遺伝子コピーまで、細菌の染色体中に導入することができる。
強力なプロモーター又はエンハンサーを用いる上述の技術は、遺伝子のコピー数又は発現の増大に基づく技術と組み合わせることができる。
本発明の細菌の好ましい実施形態は、すでに不活化されたAHASを有する細菌のleuABCDオペロンの発現を増強することにより得ることができる。あるいは、本発明の細菌の好ましい実施形態は、すでにleuABCDオペロンの発現が増強されている細菌のAHASの不活化により得ることができる。特に、任意の既知のL−ロイシン生産株を、ノルロイシン及びノルバリン等の異常アミノ酸を生産する能力を付加するのに用いることができる。
L−ロイシンを生産する能力を有する、エシェリヒア属に属する細菌は、4−アザロイシン又は5,5,5−トリフルオロロイシンに耐性であるH−9068(ATCC21530)、H−9070(FERM BP−4704)又はH−9072(FERM BP−4706)等のエシェリヒア・コリ菌株、L−ロイシンによるイソプロピルリンゴ酸合成酵素のフィードバック阻害が脱感作されたエシェリヒア・コリ菌株(欧州特許第1076191号)、β−2−チエニルアラニン及びβ−ヒドロキシロイシンに耐性であるエシェリヒア・コリAJ11478株(米国特許第5,763,231号)、及びエシェリヒア・コリ57株(VKPM B−7386、米国特許第6,124,121号)等が挙げられるが、これらに限定されない。
プラスミドDNAを作製する方法、DNAを消化及び連結する方法、形質転換法及びプライマーとしてのオリゴヌクレオチドを選択する方法等は、当業者によく知られている普通の方法であってよい。これらの方法は、例えば、Sambrook, J., Fritsch, E. F.及びManiatis, T.、「Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されている。
2.本発明の方法
本発明の方法は、異常アミノ酸を生産する方法であって、本発明の細菌を、L−ロイシンは含有しないが細菌増殖を制限する濃度のL−バリンを含有する培養培地で培養して、異常アミノ酸を生産させ、培地中に分泌させ、かつ、そのアミノ酸を培地から回収することを含む。より具体的には、本発明の方法は、ノルロイシン及び/又はノルバリンを生産する方法であって、本発明の細菌を、L−ロイシンは含有しないが細菌増殖を制限する濃度のL−バリンを含有する培養培地で培養して、ノルロイシン及び/又はノルバリンを生産させ、培地中に分泌させ、かつ、ノルロイシン及び/又はノルバリンを培地から回収することを含む。
AHAS欠損株は、発酵培地において、バリン及びイソロイシンの非存在下では増殖することができない(バリン及びイソロイシン栄養要求性)。発酵培地は、ロイシンオペロン(leuABCDオペロン)の抑制を避けるため、L−ロイシンを含有してはならない。細胞増殖に必要なL−ロイシンの欠乏は、部分的に脱アミノ化され2−ケトイソ吉草酸(L−ロイシンの前駆体)となるL−バリンの存在により相補される。一方、十分な量のL−イソロイシンを添加することが、発酵培地中のL−イソロイシン栄養要求性を相補するのに必要である。
「細菌増殖を制限する濃度のバリン」という用語は、発酵培地中に添加されたバリンの濃度が、バリン生合成の非存在下では、バイオマスを増殖させるためのバリン要求を満たすのに不十分であることを意味する。そのため、菌株の増殖は、不十分なバリンにより制限される。
本発明において、培養並びに培地からの異常アミノ酸の回収及び精製等は、細菌を用いてアミノ酸を生産する従来の発酵方法と、同様の手法で実行することができる。
培養に用いる培地は、培地が炭素源、窒素源、ミネラル、及び必要な場合、細菌が増殖するのに必要とする適切な量の栄養素を含む限り、合成培地又は天然培地のどちらでもよい。炭素源は、グルコース及びスクロース等の各種炭水化物及び各種有機酸を含み得る。使用する微生物の同化作用の形態に応じて、エタノール及びグリセロールを包含するアルコールを用いてもよい。窒素源としては、アンモニア及び硫酸アンモニア等の各種アンモニア塩、アミン等の他の窒素化合物、ペプトン、大豆加水分解物及び消化された発酵微生物等の天然窒素源を用いてもよい。ミネラルとしては、リン酸一カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン及び塩化カルシウム等を用いてもよい。ビタミンとしては、チアミン及び酵母エキス等を用いてもよい。
培養は、振とう培養、及び20〜40℃、好ましくは30〜38℃の温度で通気しながらの攪拌培養等の好気条件下で行うことが好ましい。培養のpHは、通常5〜9であり、6.5〜7.2であることが好ましい。培養のpHは、アンモニア、炭酸カルシウム、各種酸、各種塩基及び緩衝液を用いて調整できる。通常、1〜5日間の培養で、液体培地中に目的とするアミノ酸が蓄積される。
培養後、遠心分離又は膜ろ過により、細胞等の固体を液体培地から除去することができ、次いで、イオン交換、濃縮及び結晶化方法によりアミノ酸を回収及び精製することができる。
以下に、下記の非限定的な実施例を参考に、本発明をより具体的に説明する。以下の実施例において、ノルバリン及びノルロイシンはL−型である。
実施例1.アセト乳酸合成酵素遺伝子が不活化された菌株の構築
他の野生型エシェリヒア・コリ菌株と異なり、E.coli K−12は、ilvG遺伝子中に極性フレームシフト突然変異を含有する(Lawther, R. P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:922-925, 1981)。したがって、E.coli K−12から全てのAHASが不活化された株を得るためには、ilvBN及びilvIHの2つのオペロンのみを不活化すればよい。図3を参照。
1.ilvBNオペロンの欠失
ilvBNオペロンの欠失は、Datsenko及びWanner(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000,97(12), 6640-6645)により最初に開発された「レッド−ドリブン組込み」と呼ばれる方法を用いて構築された。この手順により、ilvBNオペロンに隣接する領域、及び鋳型プラスミド中にあるクロラムフェニコール耐性を示す遺伝子に隣接する領域の両方に相同な、PCRプライマーilvBN1(配列番号1)及びilvBN2(配列番号2)を構築した。プラスミドpACYC184(NBL Gene Sciences Ltd., UK)(GenBank/EMBL accssion X06403番)をPCR反応でのテンプレートとして用いた。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分間の変性工程;初めの2回のサイクルのプロファイル:95℃で1分、34℃で30秒、72℃で40秒;最後の30サイクルに対するプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で40秒;最終工程:72℃で5分。
得られた935bpのPCR産物(配列番号3)をアガロースゲルで精製し、温度感受性複製のプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリ菌株E.coli K−12(VKPM B−7)をエレクトロポレーションするのに用いた。プラスミドpKD46(
Datsenko及びWanner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:12:6640−45)は、ラムダファージ(GenBank accession番号J02459番)の2,154ヌクレオチド(31088〜33241)のDNAフラグメントを含み、アラビノース誘導ParaBプロモーターの制御下にあるラムダRed相同組換え系の遺伝子(γ、β及びエキソ遺伝子)を含む。プラスミドpKD46は、PCR産物をE.coli K−12株の染色体中に組込むのに必要である。
エレクトロコンピテント細胞を以下のように作製した:アンピシリン(100mg/l)を補充したLB培地で、30℃で一晩培養したエシェリヒア・コリE.coli K−12を、アンピシリン及びL−アラビノース(1mM)を有する5mlのSOB培地(Sambrookら、「Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition」、Cold Spring
Harbor Laboratory Press (1989))で100倍に希釈した。得られた培養物を30℃で通気しながらOD600が約0.6になるまで増殖させ、次に100倍に濃縮すること及び氷冷した脱イオンH2Oを用いて3回洗浄することにより、エレクトロコンピテントにした。70μlの細胞及び約100ngのPCR産物を用いてエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションに続いて、細胞を、1mlのSOC培地(Sambrookら、"Molecular Cloning A Laboratory Manual, Second Edition", Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))で37℃で2.5時間インキュベートし、次にL−寒天培地上で培養してて37℃で増殖させ、CmR組換え株を選別した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、42℃でCmを用いてL−寒天培地上で2回継代を行い、得られたコロニーのアンピシリンに対する感受性を試験した。
2.PCRによるilvBNオペロン欠失の検証
Cm耐性遺伝子で標識されたilvオペロンの欠失を含む変異株を、PCRにより検証した。検証するためのPCRには、遺伝子座特異的プライマーilvBNC3(配列番号4)及びilvBNC4(配列番号5)を用いた。PCR検証の条件は、以下の通りであった:94℃で3分の変性工程;30サイクルに対するプロファイル:94℃で30秒、53℃で30秒、72℃で1分;最終工程:72℃で7分。鋳型として、親株であるilvBN+株K−12の染色体DNAを用いた反応により得られたPCR産物は、2,137ヌクレオチドの長さであった(図4)。鋳型としてB−7ΔilvBN::cat株と名付けられたilvBN欠失変異株の染色体DNAを用いた反応により得られたPCR産物は、1,080ヌクレオチドの長さであった(図4、配列番号6)。
3.ilvIHオペロンの欠失
ilvIHオペロンの欠失は、第1節に記載したilvBNオペロンの欠失と同じアプローチにより行った。この手順にしたがって、鋳型プラスミドのilvIHオペロン及びカナマイシン耐性を付与する遺伝子の両方に近接する領域と相同なPCRプライマーilvIHI1(配列番号7)及びilvIHI2(配列番号8)を構築した。プラスミドpACYC177(NBL Gene Sciences Ltd., UK)(GenBank/EMBL accssion X06402番)を鋳型としてPCR反応に用いた。PCRの条件は以下の通りであった:95℃で3分の変性工程;初めの2回のサイクルのプロファイル:95℃で1分;34℃で30秒、72℃で40秒;最後の30サイクルのプロファイル:95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で40秒;最終工程:72℃で5分。
得られた1,370bpのPCR産物(配列番号9)をアガロースゲルで精製し、アラビノース誘導ParaBプロモーターの制御下にある、ラムダRed相同組換え系の遺伝子(γ、β及びエキソ遺伝子)を有する温度感受性プラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリB−7ΔilvBN::cat株をエレクトロポレーションするのに用いた。カナマイシン耐性組換え株をエレクトロポレーションの後選別し、遺伝子座特異的プライマーilvIHC3(配列番号10)及びilvIHC4(配列番号11)を用いたPCRにより検証した。PCR検証の条件は以下の通りであった:94℃で3分の変性工程;30
サイクルのプロファイル:94℃で30秒、53℃で30秒、72℃で1分20秒;最終工程:72℃で7分。鋳型として親株であるIlvIH+株B−7ΔilvBN::catの染色体DNAを用いた反応により得られたPCR産物は、2,486ヌクレオチドの長さであった。鋳型として変異株B−7ΔilvBN::catΔilvIH::KmR株からの染色体DNAを用いた反応により得られたPCR産物は、1,475ヌクレオチドの長さであった(配列番号12)。結果として株B−7ΔilvBN::catΔilvIH::KmRが得られ、NS1118と名付けた。株NS1118は、イソロイシン及びバリン栄養要求性を示す。
実施例2.エシェリヒア・コリNS1118株による、ノルロイシン及びノルバリンの生産及び分泌
エシェリヒア・コリK−12株及びNS1118株を、L−寒天培地上で37℃で18時間増殖させた。次に約0.5cm2の培地表面からの細胞を、発酵培地(2ml)中に導入し、32℃で72時間培養した。蓄積されたノルバリン及びノルロイシンの量を、HPLCにより測定した。測定の詳細な説明については、実施例6を参照。表1に結果を示す。
発酵培地の組成(g/l):
グルコース 60.0
(NH42SO4 18.0
KH2PO4 2.0
MgSO4・7H2O 1.0
CaCO3 25.0
チアミン 0.02
Figure 2006075166
表1に見られるように、全AHASが不活性なエシェリヒア・コリNS1118株は、野生型の親株K−12と異なり、ノルバリン及びノルロイシンを生産及び分泌した。ロイシンの添加は、異常アミノ酸の生産及び分泌を妨げたが、イソプロピルリンゴ酸合成酵素阻害のためと推定される。
増殖制限濃度でのバリンの添加は、異常アミノ酸の生産に必要である。この筋書きにおいては、アセト乳酸欠乏の結果、2−ケト酪酸はわずかしか上昇しない。バリンの量を制限すると、2−ケトイソ吉草酸欠乏が起こり、次に、ロイシン合成の低減を引き起こした。ロイシンの量を制限すると、ロイシンオペロンの抑制が解除された。2−ケト酪酸は、(2−ケトイソ吉草酸の代わりの)代替的基質としてイソプロピルリンゴ酸合成に利用され、さらにロイシンオペロンによりコードされる他の酵素によりノル−バリン及びノル−ロイシンに代謝された(図2)。また、初発の発酵培地中でバリンの濃度を増加させると、ケトイソ吉草酸/2−ケト酪酸比が増加することにより、ノルロイシン及びノルバリン合成が防たげられた。
したがって、このような異常アミノ酸合成には、発酵培地中のロイシンの非存在及びバリンの存在という、特異的な増殖条件が必要である。また、バリンは、細菌増殖を制限する濃度でなければならない。
実施例3.AHAS IIIのクローニング
ilvIHオペロンを、2764bpのPCR産物として、pMW118ベクター上でクローニングした。エシェリヒア・コリMG1655株(CGAC6300)の染色体DNAを、鋳型としてPCR反応に用いた。合成オリゴヌクレオチドilvIHL58(配列番号13)及び合成オリゴヌクレオチドilvIHR60(配列番号14)を、プライマーとして用いた。プライマーilvIHL58は、その5’末端にSacI制限部位が導入され、プライマーilvIHR60は、その5’末端にXbaI制限部位が導入されている。PCRの条件は以下の通りであった:94℃で3分の変性工程;30サイクルのプロファイル:94℃で30秒、57℃で30秒、72℃で2分;最終工程:72℃で7分。得られた2,778bpのPCR産物をアガロースゲルで精製し、SacI及びXbaIで消化し、同じ制限酵素で予め消化したpMW118ベクター中にクローニングした。株NS1118を、クローニングの受容体として用いた。結果として得られたプラスミドpMW118−ilvIH(図5)は、NS1118株のAHAS-表現型を相補した。
実施例4.ロイシンオペロンのクローニング
ショットガン法により、leuABCDオペロンを、pBR322ベクター上でクローニングした。この目的のため、MG1655株の染色体をMfeIにより消化し、クレノウフラグメントで平滑末端化して、EcoRVで線状化したpBR322プラスミドと連結させた。エシェリヒア・コリleu::Tn10株(VKPM B−6038)を、クローニングの受容体として用いた。その結果、leuABCDオペロンを含む、6.9kbの染色体フラグメントを含むpBR−leuABCDプラスミドが得られた(図6)。
実施例5.NS1118株の誘導体による、ノルロイシン及びノルバリンの生産及び分泌
エシェリヒア・コリNS1118株及びその誘導体を、プラスミド株の場合、アンピシリン(100μg/ml)を含有するL−アガープレート上で、37℃で18時間増殖させた。次に約0.5cm2の平板培地表面からの細胞を発酵培地(2ml、実施例2)中に導入し、32℃で72時間培養した。蓄積されたノルバリン及びノルロイシンの量を、HPLCにより測定した。測定の詳細な説明については、実施例6を参照。表2に結果を示す。
Figure 2006075166
表2に見られるように、ilvIH遺伝子(AHAS IIIをコードする)を持つプラスミドpMW118−ilvIHを導入することによりAHAS活性を回復すると、AHAS欠損株NS1118によるノルバリン及びノルロイシンの生産及び分泌が妨げられた。プラスミドpBR−leuABCDの一部として野生型ロイシンオペロンを増幅すると、培地中のノルロイシン蓄積が増大した。
実施例6.発酵後の培地におけるノルバリン及びノルロイシンの分析のためのクロマトグラフィー条件
Waters AccQ−Tag(登録商標)法を分析に用いた。AccQ−Tag法は、アミノ酸決定のためのプレカラム誘導化技術である。1100シリーズの蛍光検出器(Agilent Technologies)を備えたHPLCシステム アライアンス2690勾配システム(Waters Corp.)を、「ChemStation A.08.04」クロマトグラフィーソフト(Agilent Technologies)がロードされたコンピュータに接続して用いた。検出器の設定は以下の通りであった:励起波長−250nm、発光波長−395nm。全てのランに、5μlのサンプル注入ループを使用した。ガードカラムを備えたWaters
AccQ−Tagアミノ酸分析カラムで、Accq−蛍光誘導化反応により生成したアミノ酸誘導体を分離した。カラムを、37℃でカラムオーブン内で調温した。移動相の流速は1ml/分に設定した。移動相は、(B)水性緩衝液「Waters AccQ−Tag溶出液A」、(C)HPLC級アセトニトリル、及び(D)Mili−Q水からなる。
アミノ酸のクロマトグラフィー分析に関する勾配プログラムを表3に示す。アミノ酸のクロマトグラフィー分析プロファイルを図7に示す。
Figure 2006075166
好ましい実施形態を参照して本発明を詳細に記載してきたが、本発明の精神を逸脱することなく、様々な変形が作製され得、且つ等価物が採用されることが、当業者には明白であろう。外国の優先権書類RU2004127011を含む上述した各文献は、引用により本明細書中にそのまま取込まれる。
ケト酸鎖伸長過程を経る、ノルロイシン及びノルバリン生合成の概略図である。 AHAS欠損エシェリヒア・コリ菌株における、異常アミノ酸生合成の推定概略図である。KIV=2−ケトイソ吉草酸;PYR=ピルビン酸;KB=2−ケト酪酸;KV=2−ケト吉草酸;KIC=2−ケトイソカプロン酸;KC=2−ケトカプロン酸;IPMS=イソプロピルリンゴ酸合成酵素;IPMI=イソプロピルリンゴ酸イソメラーゼ;IPMD=イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ。 プラスミドpACYC184上での、プライマーilvBN1及びプライマーilvBN2の相対的な位置を示す図である。 不活性型ilvBNオペロンを含む染色体DNAフラグメントの構築の概略図である。 プラスミドpMW118−ilvIHを示す図である。 プラスミドpBR−leuABCDを示す図である。 a)アミノ酸の標準混合物、b)各々0.06mMのノルバリン及びノルロイシンを含有するアミノ酸の標準混合物、及びc)発酵ブロスのHPLC分離を示す図である。

Claims (15)

  1. 全てのアセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)が不活化されている、腸内細菌科の異常アミノ酸生産細菌。
  2. 前記異常アミノ酸は、ノルロイシン及び/又はノルバリンである、請求項1に記載の細菌。
  3. 前記細菌は、エシェリヒア属に属する、請求項1に記載の細菌。
  4. 前記アセトヒドロキシ酸合成酵素は、ilvBN遺伝子によりコードされるAHAS I、ilvGM遺伝子によりコードされるAHAS II及びilvIH遺伝子によりコードされるAHAS IIIを含む、請求項3に記載の細菌。
  5. 前記細菌は、leuABCDオペロンの発現が増強するように改変されている、請求項4に記載の細菌。
  6. 異常アミノ酸を生産する方法であって、
    請求項1に記載の細菌を、L−ロイシンは含有しないが、細菌増殖を制限する濃度のL−バリンを含有する培地で培養して、前記異常アミノ酸を生産させ、該培地中に分泌させ、かつ
    前記異常アミノ酸を、該培地から回収すること、
    を含む、異常アミノ酸を生産する方法。
  7. 前記異常アミノ酸は、ノルロイシン及び/又はノルバリンである、請求項6に記載の方法。
  8. 異常アミノ酸を生産する方法であって、
    請求項2に記載の細菌を、L−ロイシンは含有しないが、細菌増殖を制限する濃度のL−バリンを含有する培地で培養して、前記異常アミノ酸を生産させ、該培地中に分泌させ、かつ
    前記異常アミノ酸を、該培地から回収すること、
    を含む、異常アミノ酸を生産する方法。
  9. 前記異常アミノ酸は、ノルロイシン及び/又はノルバリンである、請求項8に記載の方法。
  10. 異常アミノ酸を生産する方法であって、
    請求項3に記載の細菌を、L−ロイシンは含有しないが、細菌増殖を制限する濃度のL−バリンを含有する培地で培養して、前記異常アミノ酸を生産させ、該培地中に分泌させ、かつ
    前記異常アミノ酸を、該培地から回収すること、
    を含む、異常アミノ酸を生産する方法。
  11. 前記異常アミノ酸は、ノルロイシン及び/又はノルバリンである、請求項10に記載の方法。
  12. 異常アミノ酸を生産する方法であって、
    請求項4に記載の細菌を、L−ロイシンは含有しないが、細菌増殖を制限する濃度のL−バリンを含有する培地で培養して、前記異常アミノ酸を生産させ、該培地中に分泌させ
    、かつ
    前記異常アミノ酸を、該培地から回収すること、
    を含む、異常アミノ酸を生産する方法。
  13. 前記異常アミノ酸は、ノルロイシン及び/又はノルバリンである、請求項12に記載の方法。
  14. 異常アミノ酸を生産する方法であって、
    請求項5に記載の細菌を、L−ロイシンは含有しないが、細菌増殖を制限する濃度のL−バリンを含有する培地で培養して、前記異常アミノ酸を生産させ、該培地中に分泌させ、かつ
    前記異常アミノ酸を、該培地から回収すること、
    を含む、異常アミノ酸を生産する方法。
  15. 前記異常アミノ酸は、ノルロイシン及び/又はノルバリンである、請求項14に記載の方法。
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