本発明の実施の一形態について図1ないし図3に基づいて説明すれば、以下の通りである。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
粒子径を計測する方法として、従来より、ふるい分けや顕微鏡観察などで得られる粒子の幾何学的な情報のほか、光の回折や散乱などの物理現象や沈降速度をはじめとした粒子の動力学的性質など、粒子径に依存する物理量が利用された方法がある。これらは、粒子によって引き起こされる間接的な物理学的変化量や、間接的な幾何学的変化量を粒子径分布に換算する方法である。
これらの方法のうち、顕微鏡観察によって粒子径を求める方法では、粒子が球形であれば、ある程度の精度で粒子径を求めることができる。しかしながら、一般的に測定しようとする粒子は、球形ではなく、非球形粒子であるため、顕微鏡観察での正確な粒子径の測定は困難である。
粒子径分布を粒子の沈降速度を測定することによって求める粒子径分布測定方法(所謂、沈降法)は、粒子がその大きさによって異なる沈降速度を有することを利用して粒子径分布を求める方法である。沈降法は、原理的に簡単で測定範囲も広いことから、広く用いられる方法である。
図1は、本発明の一実施形態に係る粒子径分布測定方法に用いる粒子径分布測定装置の構成を示した概略図である。図1に示す粒子径分布測定装置1は、多種の粒子径が混在した粒子群を、沈降法によって沈降させることによって、粒子径分布を求め、粒子径の統計をとることができる。具体的には、媒質中を沈降する粒子の大きさと沈降速度との関係から、多種の粒子径が混在した粒子群を、粒子径分布に換算する。
具体的には、本発明の一実施形態に係る粒子径分布測定方法は、粒子径分布を測定したい粒子群を媒質に均一に分散させる均一分散沈降法によって測定する。粒子径分布測定装置1の光源3から媒質中に光を照射して、粒子によって散乱させ、その散乱光を用いて粒子数を計数し、粒子径分布を測定する。
そのため、図1に示すように、本実施の形態の粒子径分布測定装置1は、セル2と、光源3と、暗視野顕微鏡(集光手段)4と、駆動手段5と、光電変換手段6と、画像解析手段(解析手段)7と、バルブ(導入口)8・9とを備えている。
図1に示すように、セル2の上面側に配置された光源3から、光が媒質中に入射し、粒子群によって散乱された散乱光が、セル2の上面側に配置された暗視野顕微鏡4に集光される配置になっている。上記暗視野顕微鏡4には、レンズ(集光部)10が1つ設けられており、このレンズ10を介して上記散乱光を集光する。上記暗視野顕微鏡4は、セル2内の異なる深度から上記散乱光を集光することができるように、駆動手段5によって移動できるように構成されている。暗視野顕微鏡4によって集光された上記散乱光は、光電変換手段6によって電荷に変換されて出力され、電荷を入力した画像解析手段7によって種々の画像解析および、粒子数の計測、並びに、粒子径分布が測定される。
上記セル2は、後述する溶媒を導入する容器である。上記セル2は、光源3から出射される光が入射し、かつ、粒子による散乱光が暗視野顕微鏡4へ入射できるようにその面2a(以下、この面を光入射面2aと呼ぶ)が透明ガラスによって構成されている。光入射面以外の面は、光を吸収するように黒塗りガラスから構成されている。さらに、上記黒塗りガラスのうち、上記光入射面に対向する面2b(以下、この面を対向面2bと呼ぶ)は、光吸収部材によって構成されている。
上記光入射面2aを透明ガラスにすることにより、光源3が出射する光を効率的に媒質内に入射させることができる。上記光入射面2a以外の面が黒塗りガラスによって構成されていることによって、セルの外側からの光を遮光することができ、光源3から出射された光のみを用いて粒子の散乱光を測定することができる。また、上記対向面2bが光吸収部材で構成されていることにより、セル2内の媒質中に入射し、媒質中を沈降する粒子群に照射されなかった光が、上記対向面2bに照射された場合であっても、その光が上記対向面2bで反射されることがない。もし、上記対向面2bによって光が反射されると、その反射光が、暗視野顕微鏡4によって集光されるため、粒子径分布測定に影響し、誤差を生じることになる。したがって、上記対向面2bを光吸収部材によって構成することによって、対向面2bに照射される光は吸収され、上述したような粒子径分布測定に影響を及ぼすことがなく、良好な、測定精度の高い粒子径分布測定を行うことができる。
上記セル2の光入射面2aに構成される部材は、上記透明ガラス板に限定されるものではなく、光透過性の高く、かつ、光を拡散しない部材であればよく、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネイト、塩化ビニル樹脂等の透明合成樹脂部材を用いることができる。
上記光吸収部材としては、光を反射するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、木材、塗工紙などの天然部材、前記透明合成樹脂部材、金属部材、複合部材に、必要に応じて、添加剤、着色剤、塗料などで黒色に着色したものを用いることができる。
上記セル2の大きさとしては、特に限定されるものではないが、後述する実施例にて示すように、本発明に係る粒子径分布測定方法は、600μmの深度があれば粒子径分布を測定することができることと、光吸収部材からの光反射の影響を除くことのために、セル2の沈降方向への深さ(高さ)は、800μm以上であればよい。
このように、上記粒子径分布測定装置1は、従来の粒子径分布測定装置(粒度分布測定装置)と比較して上記光入射面2aと対向面2bとの間の距離が短い。これは、後述するように、粒子径分布測定装置1に備えられた暗視野顕微鏡4が、セル2内における集光領域を移動するためである。暗視野顕微鏡4が集光領域を移動することによって、暗視野顕微鏡4は、セル2の異なる深度から、それぞれの深度に含まれる粒子群の散乱光を連続して集光することができる。そのため、上記光入射面2aと対向面2bとの間を、従来と比較して短くした場合であっても、従来と同様の精度の高い粒子径分布測定ができる。さらに、上記光入射面2aと対向面2bとの間を短くすることによって、測定時間を大幅に短縮することができる。
なお、上記セル2は、その形状に制限はなく、粒子群が均一に分散した媒質が外部からの刺激(衝撃等)によって流動することないように安定して媒質を保持することができ、かつ、暗視野顕微鏡4によって粒子の散乱光を正確に集光することができる形状であればよい。
上記バルブ8・9は、上記セル2の両側に備えられており、セル2内に媒質を導入したり、排出したりする場合に用いる。図1においては、バルブ8が、媒質をセル2内に導入する弁であり、バルブ9が媒質をセル2内から導出する弁である。上記バルブ8・9の種類や設置位置は特に限定するものではなく、玉形弁、仕切弁、バタフライバルブ等のバルブを用いることができる。
また、上記バルブ8・9は、上記セル2と一体型のものであってもよく、上記セル2に接続されたチューブ等の導管を介して設けられる構成であってもよい。さらに、上記バルブ8・9における上記セル2接続側とは反対側に、シリンジ等の別の構成部材が接続できるような形状になった構成であってもよい。
上記光源3は、上記セル2内の媒質中に分散した粒子に光を照射するために備えられており、図1に示す粒子径分布測定装置1では、光源3は、出射した光がセル2の上記光入射面2aに入射するように、暗視野顕微鏡4の横に設けられている。上記光源3としては、媒質中に分散した粒子群に照射して、散乱する光を出射するものであればよく、例えば、白熱電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード、蛍光灯などの可視光源、赤外光源、紫外光源、レーザー光源などを用いることができる。中でも、可視光源、レーザー光源は、集光装置が簡便な装置を適用できることから好ましく、とりわけ、発熱量の少ない光源が、媒質の対流を抑制する傾向にあることから好ましい。
なお、図1に示す粒子径分布測定装置1では、光源3と暗視野顕微鏡4とは、一体型となった構成を例示している。この例示された構成が粒子群を明瞭に受像できることから好ましい。
上記暗視野顕微鏡4は、上記光源3から出射された光のうち、上記セル2内の媒質に分散した粒子群によって散乱した散乱光を集光する集光手段である。一般的に、暗視野顕微鏡は、被観察物に照射された光が該被観察物によって反射した光を観察することができる顕微鏡である。本実施の形態の粒子径分布測定装置1は、暗視野顕微鏡4を備え、粒子による光源3から出射された光の散乱光を集光し、この集光した散乱光を、後述する光電変換手段6に受光させる。
上記暗視野顕微鏡4は、上述したように、上記セル2の光入射面に対向する位置にレンズ10を1つ備えている。上述した上記セル2内の媒質に分散した粒子によって散乱した散乱光は、上記レンズ10を介して集光される。上記レンズ10は、粒子の大きさ等の測定条件の変化に適用するために、種々の倍率のレンズと交換可能である。
上記暗視野顕微鏡4としては、具体的には、限外顕微鏡が挙げられる。
上記駆動手段5は、上記暗視野顕微鏡4が、セル2内の異なる深度から、各深度に含まれる粒子群の上記散乱光を集光することができるように、該暗視野顕微鏡4を上記セル2の深度方向に沿って、双方向に移動する。詳細は後述する。
上記駆動手段5は、上記画像解析手段7に接続されており、暗視野顕微鏡4の移動は、該画像解析手段7によって駆動手段5を介して制御される。上記駆動手段5としては、ステッピングモーター、および、タイミングベルトなどで位置決めができる装置(ドットプリンターの機構のように)等を用いることができる。
光電変換手段6は、暗視野顕微鏡4によって集光された粒子の散乱光を受光し、電荷信号に変換する手段である。変換した電荷信号は、上記画像解析手段7に出力される。
上記光電変換手段6は、散乱光を受光し、電荷信号に変換する機能を有するものであればよく、例えば、CCD(charge coupled device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの受光素子を備えたカメラを用いることができる。
上記画像解析手段7は、上記駆動手段5および光電変換手段6に接続されており、暗視野顕微鏡4の移動を、駆動手段5を介して制御するとともに、光電変換手段6から出力された電荷信号に基づいて、上記セル2内の各沈降深度における粒子数を計数し、絶対粒子濃度を求め、粒子径分布を測定する。詳細は後述する。
次に、上述した構成を備えた上記粒子径分布測定装置1の動作について、以下に説明する。
本発明に係る粒子径分布測定方法は、上記媒質が、粒子群が懸濁した液体であるハイドロゾルであってもよく、粒子群が浮遊した気体であるエアロゾルであっても適用することができる。まず、媒質および粒子について以下に説明する。
媒質の種類は、分散させる粒子の種類によって適宜設定する。具体的には粒子に対して不活性な媒質が用いられ、例えば、水、有機溶媒などの液体;空気、窒素、二酸化炭素などの不活性気体等を用いることができる。
本発明の粒子径分布測定方法において測定可能な粒子径範囲としては、下限値を、約0.01μmとすることが好ましい。これは、本発明に係る粒子径分布測定方法が、散乱光に基づいて粒子数および粒子径分布を測定する方法であるため、上記散乱光を暗視野顕微鏡4によって良好に集光しなければならないことを考慮しなければならない。そのため、約0.01μmを測定可能な粒子径の下限値とすることが好ましい。
しかしながら、媒質がエアロゾルの場合は、ブラウン拡散の影響を考慮しなくてはならないため、粒子径の下限値は、さらに小さく、約0.4μmとすることが好ましい。
粒子径の上限値については、沈降の深さや、粒子密度や、媒質の粘度にもよるため、下記の値に限定されるものではないが、例えば、後述する実施例のようにセルの光入射面と対向面との間、すなわちセル2の深度が2mmのセルを用いる場合は、媒質がハイドロゾルおよびエアロゾルの場合双方とも、粒子径の上限値を約30μmとすることができる。
また、媒質中の絶対粒子濃度の範囲については、後述する集光領域内に、粒子が少なくとも10個程度は存在する必要がある。これは、沈降する粒子群の各沈降深度における散乱光を測定する本発明の場合、絶対粒子濃度があまりに低いと、沈降とともに各沈降深度の何れかの深度に粒子数がゼロとなるところが生じるためである。各沈降深度の集光領域に適度な粒子量が存在しないと、粒子径分布測定の精度が低くなってしまう。そのため、各集光領域には、粒子が少なくとも10個程度は存在する必要がある。なお、絶対粒子濃度の算出方法については、後述する。
また、絶対粒子濃度の上限値については、公知文献(非特許文献4)にも記載されている通り、1×1015個/m3までとすることが好ましい。この理由としては、絶対粒子濃度が高くなりすぎると粒子のブラウン運動による凝集が進行しやすくなるためである。
上記媒質中への粒子の分散法は、例えば、非特許文献1に記載されている既知の分散方法を用いて分散することができる。
具体的には、上記バルブ9を閉鎖し、上記バルブ8を開放して、粒子が分散した媒質を上記セル2に導入し、媒質の導入が完了すると、バルブ8を閉鎖する方法などが挙げられる。
なお、媒質の導入方法は、上記に限定されるものではなく、例えば、バルブ9を開放して吸引ポンプに接続し、吸引によって媒質をセル2内に導入する方法であってもよい。
本発明の粒子径分布測定方法では、媒質のセル2への導入が完了し、上記バルブ8が閉鎖されると、閉鎖と同時に、画像解析手段7の制御によって暗視野顕微鏡4と、駆動手段5と、光電変換手段6とが作動する。これらが作動すると、暗視野顕微鏡4および駆動手段5によって媒質に均一に分散した粒子群の散乱光が集光される。詳細は後述する。
なお、粒子群に照射する光を出射する上記光源3は、バルブ8が閉鎖されるまでの間に点灯し、粒子に光を照射する構成であればよく、バルブ8の閉鎖と同時に点灯するものであってもよい。
本発明の粒子径測定方法について、画像解析手段7の制御による暗視野顕微鏡4および駆動手段5の動作に基づいて、図2を用いて詳細に説明する。
図2は、粒子径分布測定装置1に備えられた暗視野顕微鏡4による、集光動作を示す図である。
図1において、上記画像解析手段7の制御を受けると、駆動手段5は、該暗視野顕微鏡4とセル2との距離が変化するように暗視野顕微鏡4を連続的に移動させることができる。具体的には、暗視野顕微鏡4の集光領域が、セル2内の異なる深度に連続的に移動することができるように、駆動手段5は暗視野顕微鏡4を連続的に移動させることができる。これにより、図2に示すように、暗視野顕微鏡4とセル2との距離が変化し、暗視野顕微鏡4の集光領域が、セル2内の異なる深度に移動することによって、セル2内の各深度に含まれる粒子群の散乱光を連続して集光することができる。
なお、図2では、暗視野顕微鏡4の集光領域が、セル2の光入射面2a付近から、対向面2b方向へ移動している。しかしながら、本発明に係る粒子径分布測定方法は、この方向に限定されるものではない。すなわち、セル2の対向面2b付近から、光入射面2a方向へ移動する構成であってもよい。
暗視野顕微鏡4における集光領域は、図2に示すように、所定の深度Hを有している。すなわち、暗視野顕微鏡4における集光領域は、所定の体積(視野体積)を有している。
上記所定の深度Hは、たとえば、レンズ10の倍率などの暗視野顕微鏡4の能力、沈降する深さの全長、粒子密度等によって適宜設定することができる。例えば、後述する実施例においては、深度Hを15μmとしている。なお、暗視野顕微鏡4の集光領域は、上述したように所定の体積を有しているが、粒子群の沈降方向に対して鉛直方向に広がる面積も、上記所定の深度Hと同じく、適宜設定することができる。上記所定の面積についても、暗視野顕微鏡4の能力、例えば、レンズ10の倍率などによって適宜設定することができ、例えば、後述する実施例では、20mm×30mmの面積を有している。
本発明の粒子径分布測定方法は、上記視野体積が暗視野顕微鏡4の移動とともに、セル2内を移動し、各深度における集光領域に含まれる粒子群の散乱光が暗視野顕微鏡4によって集光される。そこで、何箇所の深度から集光するか(集光数)については、集光数が多いほど精度の高い測定を行うことができるため、出来るだけ細かく設定することが好ましいが、2箇所以下になると、精度の高い測定を実現することが難しくなるため、少なくとも3箇所の深度にて散乱光を集光することが好ましい。また、セル2の異なる深度における連続する前後の視野体積は互いに重複しないことが好ましい。視野体積は互いに重複することがなければ、重複部分に存在する粒子を重複して計数することがなくなり、正確な粒子数が計測でき、正確な絶対粒子濃度を測定することができる。したがって、視野体積が互いに重複することがないように、集光数を沈降方向に対して出来るだけ細かく設定しておくことにより、正確、かつ、精度の高い粒子径分布を測定することができる。例えば、後述する実施例では、セル2の光入射面2aから粒子群の沈降方向に沿って600μmまでの深度の範囲で、8箇所の集光数を設けている。
なお、後述するように、暗視野顕微鏡4は、粒子が均一に分散した状態で各深度の散乱光を集光し、所定の時間が経過した後、再度各深度の散乱光を集光する構成であるが、粒子が均一に分散した状態において集光する場合の上記集光数と、所定の時間が経過した後に集光する場合の上記集光数は、必ずしも一致させる必要はない。すなわち、本実施の形態においては、粒子が均一に分散した状態では、粒子は媒質中に均一に分散している状態であるから、何れの沈降深度において散乱光を集光しても集光量は均一であることは予測できる。したがって、粒子が均一に分散した状態において集光する場合の集光数は、所定の時間が経過した後に集光する場合の集光数よりも少なくした構成であってもよい。
暗視野顕微鏡4は、上述したように、上記バルブ8が閉鎖されると同時に作動する。本実施の形態では、暗視野顕微鏡4の集光領域は、図2に示すように、セル2の光入射面2a側から、セル2の深度方向に沿って移動し、粒子群の散乱光をセル2の各深度から光入射面2aを通して集光する。この状態を図2の(a)に示している。図2(a)は、粒子群が媒質中に均一に分散している状態、すなわち、沈降時間は0である状態(t=0)を示している。
本発明に係る粒子径分布測定方法は、このように、上記集光領域を移動することによって、セル2の各深度に含まれる粒子群の散乱光を集光している。そのため、セル2の異なる深度における集光には若干の時間差が生じる。この「時間差」は、粒子群の最大の沈降深度や、集光領域の数(集光数)によって違いがあるが、例えば、後述する実施例では、セル2の光入射面2aからの深度を600μmとして、その間を8箇所にて集光する構成とした場合では、最初に集光する領域から、最後に集光する領域までの間に約1.0秒の時間差が生じる。しかしながら、後述する実施例(図3)にて示しているように、発明者によって、この「時間差」が測定結果に何ら影響がないことがわかった。すなわち、後述する実施例(図3)にて示しているように、本発明の粒子径分布測定方法によって得られたタバコ粒子の粒子径分布は、非特許文献4において示されているタバコ粒子の粒子径分布の測定結果と略同一の測定結果が得られた。当該「時間差」は短いほど好ましいが、通常、0.1〜2秒程度である。
したがって、本発明の粒子径分布測定方法を適用するにあたり生じる時間差は、測定に何ら影響を与えることなく、良好な粒子径測定を実現することができる。
粒子径分布測定装置1は、図2(a)に示した状態(t=0)において暗視野顕微鏡4が各沈降深度における集光を完了すると、画像解析手段7の制御により、暗視野顕微鏡4は、所定の時間、待機状態となる。媒質内に均一に分散していた粒子群は、上記所定の時間内に、重力によって自然沈降する。暗視野顕微鏡4は、その間、初期の位置、すなわちセル2の光入射面2a付近に集光領域が位置するように移動し、そこで待機する。
粒子径分布測定装置1は、暗視野顕微鏡4が待機状態となって、上記所定の時間(t=t″)がたつと、再び画像解析手段7の制御により暗視野顕微鏡4および駆動手段5を作動し、上記と同様に、暗視野顕微鏡4が、その集光領域をセル2の光入射面2a付近から600μmの深度まで、8箇所にて集光するように移動する。この状態を図2の(b)に示している。図2(b)は、粒子群が媒質中に均一に分散した状態から沈降を開始してt″秒後の状態、すなわち沈降時間がt″秒(t=t″)の時の状態を示している。
粒子は、その径の大小によって沈降速度に差がある。そのため、所定の時間を経た粒子群は、粒子径の大小によって様々な沈降深度に存在しており、所定の時間を経て、再度、暗視野顕微鏡4が各沈降深度から散乱光を集光することによって、粒子径の違いによって沈降深度が分かれた状態の粒子群の散乱光を集光することができる。
なお、上記所定の時間は、沈降深度や、粒子の種類(予想できる範囲の粒子径)や、媒質の粘度や、粒子密度によって適宜設定することができる。例えば、タバコ粒子(粒子径は約1μm)を用いてその粒子径分布を測定する場合、沈降深度を600μmとし、媒質に空気を用いた場合では、タバコ粒子群が均一に媒質に分散した状態から開始して、10秒を経過したところ(t=10秒)で、その粒子の大きさ(粒子径)の違いによって、様々な沈降深度を示している。
暗視野顕微鏡4によって集光された各沈降深度の粒子の散乱光は、光電変換手段6に入射する。光電変換手段6によって受光された散乱光は、電荷信号に変換される。変換された電荷信号は、画像解析手段7へ出力される。
上記画像解析手段7では、入力した電荷信号に基づいて、粒子数の計数および、粒子径分布が求められる。以下に、画像解析手段7による処理について具体的に説明する。
上記画像解析手段7に、セル2の各深度における集光領域(視野体積)内の電荷信号が光電変換手段6から入力されると、この電荷信号に基づいて、各視野体積の粒子画像が形成される。各視野体積の粒子画像が形成されると、それらの画像に対して画像処理が行われる。例えば、二値化処理が上記画像処理に相当する。二値化処理による粒子画像の処理について概略を説明する。
セル2の各深度における視野体積内から得られた粒子画像には、複数の粒子が含まれている。二値化処理では、複数の粒子を含んだ画像のうち、予め設定していた閾値(スレッシュホールド)に基づいて、粒子数の計数に採用する粒子(画像)を選別することができる。すなわち、視野体積内には、その深度Hの間に様々な状態の粒子が存在している。具体的には、ある粒子は視野体積内にその全体が含まれているものと、別の粒子は僅かに該視野体積内に含まれているものとがある。そこで、例えば、二値化処理のような画像処理によって、様々な状態で存在している粒子の画像の中から、後の粒子数の計数に用いる粒子を選別(抽出)することことができる。これにより、セル2の各深度から得たそれぞれの粒子画像を用いて粒子径分布を測定する場合であっても、各視野体積間で測定誤差が生じることがない。したがって、精度の高い粒子径分布を測定できる。
上記では、二値化処理について説明したが、光電変換手段6から得られた電荷信号に基づいた粒子画像への画像処理はこれに限定されるものではない。
具体的には、カラーあるいは銀塩写真として撮影したのち、コンピュータで画像処理して粒子径分布を測定する方法が例示される。ここで、画像処理については、上記機能を有する市販の画像処理ソフトを使用すればよい。具体的には、スキャナーを用いて写真をBMPやTIFFなどのファイル形式で画像取り込みソフトを使ってデジタルデータとして取り込み、高解像度画像処理解析システム「SALT」(三谷商事株式会社製)、V10LAB for win95(東洋紡株式会社製)、Ultimage(Mac)、(株式会社ソリューションシステムズ製)などの市販の画像処理ソフトを使用して、粒子数を求めることができる。
粒子数の計数は、上述した画像処理と同様に、画像解析手段7に備えられた解析ソフトを用いて計数されるものであってもよい。また、測定者の目視によって計数するものであってもよい。
したがって、画像解析手段7は、画像表示機能を備えたものであってもよい。測定者は、表示された粒子画像を観察(目視)することにより、粒子数を計数することができる。
粒子径分布を測定するためには、次に積算ふるい下D(%)を算出する。
積算ふるい下D(%)が求められる。積算ふるい下D(%)の算出式を下記の式(1)に示す。
なお、Nは各深度における粒子数であり、N0avは粒子が媒質中に均一に分散している状態における粒子数平均値を表す。
上記N0avは、媒質中に粒子が均一に分散している状態において、上述した画像処理が施されて算出された各視野体積の粒子数を平均することによって求められる。
次に、粒子径分布を測定するために、画像解析手段7において次の解析処理が行われる。
沈降法により粒子径分布を求める場合において、上述したように、ストークスの式によって粒子径分布を求めることができる。
ストークスの式を、下記の式(2)に示す。
なお、上記式(2)において、hは深度(メートル(m))、tは沈降時間(秒)、gは重力加速度(g=9.8m/s2)、ρpは粒子密度、ρfは液体または気体の密度、dpは粒子径、μ液体または気体の粘度を表す。
上記Cは補正係数であり、媒質が液体の場合はC=1、気体の場合は、下記の式(3)で与えられる。
なお、上記式(3)において、λは気体の平均自由行程であり、例えば、20℃の空気であれば、λ=0.0665μmで与えられる。
例えば、媒質が空気の場合であって、温度が20℃である場合、上記式(2)において、ρf=1.205kg/m3であり、μ=1.832×10−5Pasである。
以上のように、式(2)に示したストークスの式によって、各深度の視野体積に含まれる粒子の粒子径dpが算出される。
算出された粒子径と、上記式(1)によって求めた各深度の視野体積内の積算ふるい下Dとをプロットすることによって、粒子径分布を求めることができる。
また、絶対粒子濃度は、以下の式(4)によって求めることができる。
なお、N0avは上述したように、粒子が媒質中に均一に分散している状態における粒子数平均値を表し、Vmは視野体積を表す。
以上のように、本発明の粒子径分布測定方法は、セル2内を沈降する粒子群に光を照射し、該粒子群によって散乱された散乱光を集光して粒子径分布を測定する粒子径分布測定方法において、上記セル2内の異なる深度に含まれる粒子群の上記散乱光を、集光領域を移動することによって、連続して集光することができる。
これにより、上述したような特許文献1や特許文献2の場合と比較して、粒子群が沈降する深度が短くても、良好な粒子径分布の測定を行うことができる。すなわち、特定の箇所にて散乱光を集光する従来の粒子径分布測定方法と比較して、散乱光の集光を上記箇所まで粒子が沈降するまで継続する必要がなく、粒子径分布測定に要する時間を大幅に短縮することができる。
また、本発明に係る粒子径分布測定方法によれば、例えば、非特許文献5に記載された装置を用いるように、上記セル内の異なる深度に含まれる粒子群の上記散乱光に対して、それぞれの散乱光を別々の集光手段によって集光するような構成とする必要がない。本発明に係る粒子径分布測定方法では、セル2内における集光領域を移動することによって、非特許文献5に記載された装置と同様、上記セル2内の異なる深度に含まれる粒子群によって散乱された散乱光を集光することができる。
したがって、本発明に係る粒子径分布測定方法は、上記セル2内の異なる深度に含まれる粒子群の上記散乱光を集光するためのレーザーやセンサーを必要とする従来の粒子径分布測定装置を用いた粒子径分布測定方法と比較して、簡易な方法において、同様の効果を実現することができる。
また、本発明に係る粒子径分布測定方法は、上記セル内の異なる深度に含まれる粒子群の粒子数濃度(絶対粒子濃度)に基づいて粒子径分布を測定する。
これにより、本発明に係る粒子径分布測定方法は、光散乱強度や光吸収(光透過)量を用いて測定する測定方法よりも精度の高い粒子径分布測定を実現することができる。
したがって、本発明の粒子径分布測定方法を用いることにより、短時間で、かつ、精度の高い粒子径分布測定を実現することができる。
また、本発明に係る粒子径分布測定方法は、各上記集光領域は、所定の体積を有することが好ましい。
これにより、本発明に係る粒子径分布測定方法は、上記の効果に加えて、効率的に散乱光を集光し、粒子数を計数し、粒子径分布を測定することができる。
したがって、セル内の粒子群の散乱光を短時間で、効率的に集光することができる。これにより、セル2内の粒子群の粒子径分布を正確、かつ、短時間で測定することができる。
また、本発明に係る粒子径分布測定方法は、上記セル内の異なる深度における集光領域(視野体積)は、互いに重複しないことが好ましい。
これにより、本発明に係る粒子径分布測定方法は、上記セル2内の異なる深度にて、集光領域に含まれる上記粒子群の散乱光を集光する場合であっても、異なる深度にて集光される散乱光は互いに重複しない。
したがって、本発明に係る粒子径分布測定方法は、効率的に散乱光を集光することができるとともに、正確な粒子数濃度を求めることできる。すなわち、精度の高い粒子径分布の測定を実現することができる。
なお、粒子径分布測定装置1では、上述したように、上記暗視野顕微鏡4自体を上記セル2内の粒子の沈降方向に沿って、および、該沈降方向に対向する方向に移動することによって、上記暗視野顕微鏡4による粒子の散乱光の集光位置を移動する構成である。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、セル2内における暗視野顕微鏡4の集光領域を移動することができればよい。したがって、集光位置を移動することができるのであれば、例えば、上記暗視野顕微鏡4に備えられレンズ10のみを移動させる構成であってもよい。
また、本発明は、粒子の散乱光の集光領域を媒質内にて移動することができればよい。したがって、暗視野顕微鏡4やレンズ10を、沈降方向に沿って同一方向また逆方向に移動させることによって実現する構成に限定されるものではなく、例えばレンズ10の厚みを変化させる構成であってもよい。ただし、この場合は、倍率が変わってしまうので、Hが変化してしまうが、その変化量をあらかじめ考慮しておけば可能である。
なおまた、本実施の形態では、粒子群が重力場を利用して自然沈降する自然沈降法に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、重力場での沈降速度が小さい粒子試料に対して、遠心力で沈降速度を増大させて測定時間の短縮とブラウン運動の影響による誤差を小さくする遠心沈降法を利用することも可能である。
なおまた、本実施の形態は、暗視野顕微鏡4の集光領域がセル2内における異なる深度から断続的に集光する構成について説明している。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば集光領域が、上述したような所定の体積を有するものではなく、略平面領域から散乱光を集光するような構成であってもよく、この場合であれば、セル2の全深度から散乱光を集光する構成であってもよい。
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例〕
以下の説明は、本実施の形態に係る粒子径分布測定装置について記載する。
本実施例では、上述した実施の形態中の図1と同じ粒子径分布測定装置1の構成を備える。媒質は空気を用い、粒子はタバコ粒子を用いた。タバコ粒子の密度ρpは、1000kg/m3とした。
暗視野顕微鏡4において、集光領域を予めセル2の光入射面付近に設定しておく。セル2は、内寸が幅20mm、長さ30mm、深さ(高さ)2mmであり、幅(20mm)×長さ(30mm)の光入射面は透明ガラスであり、上記光入射面の対向面は、黒色ラッカースプレーを塗布したガラスで構成されている。
本実施例における集光領域(視野体積)Vmは、レンズ10による倍率を200倍として、沈降方向に対して鉛直方向に縦500μm、横670μmの面積を有し、沈降方向に沿って深さ15μmとしたので、Vm=5×10−12m3とした。
測定する沈降深度はそれぞれ、セル2の光入射面付近(60μm)、80μm、110μm、160μm、220μm、300μm、430μm、600μmとした。上記のように、本実施例における視野体積は、沈降方向に沿って深さ15μmとしている。したがって、沈降深度に対して連続する2つの視野体積は、最短でも20μm(80μm−60μm=20μm)の距離を有して離れていることから視野体積同士が重複することはない。
タバコ粒子が均一に分散した媒質(空気)を、バルブ8からセル2に導入し、バルブ8を閉めると同時に、暗視野顕微鏡4の集光領域は、上記光入射面付近から沈降方向に沿って移動していく。タバコ粒子が均一に分散した媒質を沈降時間t=0とする。
なお、上述したように、タバコ粒子が均一に分散した状態の媒質(t=0)から集光する場合は、測定する各沈降深度の数を、所定の時間を経過した後の測定数よりも少なくしてもよい。したがって、本実施例においては、t=0の状態での測定数は、110μm、220μm、430μmの3領域にて集光した。
これら3領域を略同時(1秒以内)で集光し、光電変換手段6を介して画像解析手段7において画像解析され、粒子数が計測される。その結果を、下記の表に示す。
これら3領域の粒子数の平均値N0avは115個であった。
したがって、本実施例における絶対粒子濃度は、N0av/Vm=2.3×1013個/m3となった。
t=0の状態において各沈降深度から集光を完了すると、暗視野顕微鏡4は、集光を一時的に停止する。本実施例では、暗視野顕微鏡4が10秒間停止するように、画像解析手段7を設定した。10秒を経過する(t=10)と、再び暗視野顕微鏡4および駆動手段5は作動を再開し、上述した沈降深度において、沈降する粒子の散乱光を集光した。これらの沈降深度は、1秒以内で集光した。
集光した散乱光に基づいて計数した粒子数を上記の表に示す。
次に、t=10における各沈降深度の粒子数と、t=0のおいて計数したN0avとを用いて上記式(1)から、積算ふるい下D(%)を求めた。その結果を上記の表に示す。
次に、上記式(2)のストークスの式によって、各沈降深度の粒子の粒子径を求めた。本実施例において、ρp=1000kg/m3であり、ρf=1.205kg/m3であり、μ=1.832×10−5Pasである。また、媒質は空気を用いているため、上記式(3)において、λ=0.0665μmである。
以上から、本実施例における各沈降深度の粒子の粒子径を求めた。その結果を上記の表に示す。
図3は、本実施例における粒子径分布の測定結果を示すプロット図である。図中の実線が本実施例における粒子径分布測定の結果である。上記の表に示した各沈降深度の粒子の粒子径と、積算ふるい下D(%)とをプロットすることにより、本実施例における粒子径分布の測定結果が得られた。
図3の点線で示した粒子径分布は、非特許文献4に示されているタバコ粒子の粒子径分布である。図3に示したように、本実施例におけるタバコ粒子の粒子径分布が、非特許文献4のデータと略同一であることがわかる。すなわち、本発明に係る粒子径分布測定方法よって、粒子径分布を正確に測定できることが示された。
また、本発明に係る粒子径分布測定方法を用いて粒子径分布を測定するために要した時間は、各沈降深度から集光する時間である約1秒間と、粒子群がある程度沈降するまで待機する約10秒間と、再度、各沈降深度から集光する時間である約1秒間とを合計した約12秒であった。したがって、本発明に係る粒子径分布測定方法は、一定の沈降深度において粒子数を測定する上述した従来の粒子径分布測定装置による測定時間と比較して、測定時間を大幅に短縮することができる。
また、非特許文献5に記載されているような装置と比較しても、本発明に係る粒子径分布測定方法を用いれば、粒子群の各沈降深度に対して光レーザーや、そのレーザーを受けるためのセンサーを設ける必要はなく、簡易な構成で、精度の高い粒子径分布測定を実現できる。