JP2006032247A - 燃料電池用電極 - Google Patents
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Abstract
【課題】導電性多孔質体中の水の滞留を防止することによって触媒層の反応界面への反応ガスの供給を均一にすることと、導電性多孔質体と触媒層表面との間の接触点を増大させることによって電流分布を均一にすることとを両立した燃料電池用電極を提供し、さらに、その電極を用いることによって固体高分子形燃料電池の出力性能を向上させる。
【解決手段】触媒層と導電性多孔質体とを備えた固体高分子形燃料電池用電極において、前記導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【解決手段】触媒層と導電性多孔質体とを備えた固体高分子形燃料電池用電極において、前記導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
Description
本発明は、固体高分子電解質を用いた電気化学セル、とくに固体高分子形燃料電池に関するものである。
固体高分子形燃料電池(PEFC)の単セルは、高分子電解質膜/電極接合体を一対のセパレータで挟持した構造である。その高分子電解質膜/電極接合体は、高分子電解質膜の一方の面にアノ−ドを、もう一方の面にカソ−ドを接合したものでる。そのセパレータにはガス流路が加工されており、たとえば、アノ−ドに燃料として水素、カソ−ドに酸化剤として酸素を供給することによって、電力が得らえる。そのアノ−ドおよびカソ−ドでは、つぎのような電気化学反応が進行する。
アノ−ド:2H2→ 4H++4e−
カソ−ド:O2+4H++4e−→2H2O
上記のような電気化学反応は、酸化剤あるいは燃料などの反応物質と、プロトン(H+)と電子(e−)とが存在する界面(以下、この界面を反応界面と呼ぶことにする)で進行する。さらに、プロトンは、数個の水和水をともなって高分子電解質膜をアノードからカソードに移動する。このために、アノードへの水の供給とカソードからの水の排出とが必要である。
カソ−ド:O2+4H++4e−→2H2O
上記のような電気化学反応は、酸化剤あるいは燃料などの反応物質と、プロトン(H+)と電子(e−)とが存在する界面(以下、この界面を反応界面と呼ぶことにする)で進行する。さらに、プロトンは、数個の水和水をともなって高分子電解質膜をアノードからカソードに移動する。このために、アノードへの水の供給とカソードからの水の排出とが必要である。
固体高分子形燃料電池のアノードおよびカソードには、電気化学反応を円滑に進めるための触媒金属を含んだ触媒層と導電性多孔質体とを備える。その反応に関与する電子、反応物および水が、導電性多孔質体を介して、触媒層側とセパレータ側との間を移動する。その導電性多孔質体には、電子の伝導、反応物質の拡散および水の移動を円滑にするために、撥水性を付与した多孔質のカーボンペーパーなどが用いられる。
固体高分子形燃料電池用電極の触媒層は、固体高分子電解質である陽イオン交換樹脂とカーボンと触媒金属との混合体である。その触媒金属が陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に選択的に担持された燃料電池用電極が開発され、特許文献1、特許文献2および非特許文献1に開示されている。この電極の触媒金属は、電気化学的な反応が進行する接面に選択的に担持されるので、その金属の利用率が従来の燃料電池用電極よりも著しく高い。この電極は、単位面積あたりの触媒使用量が0.05mg/cm2以下という非常に少量であるにもかかわらず、その電極を備えるPEFCの特性は従来の電極を用いた場合よりも優れていた。
従来の固体高分子形燃料電池の、単セルの断面の模式図を図3に示す。図3において、1は電極、2は触媒層、3は導電性多孔質体、6は高分子電解質膜、7はガス供給路、8はセパレータ、9はシール材、17は導電性多孔質体の空孔、18は触媒層と導電性多孔質体との接点、21は固体高分子形燃料電池である。
図3に示した単セルは、高分子電解質膜6の両面に触媒層2を接合した高分子電解質膜/電極接合体の、それぞれの触媒層2に導電性多孔質体3を圧着し、ガス供給路7を設けた一対のセパレータ8で挟持した構造である。そして、触媒層と導電性多孔質体との組み合せが電極1として働く。すなわち、一方の触媒層/導電性多孔質体がアノ−ドとして働き、他方の触媒層/導電性多孔質体がカソ−ドとして働く。
従来の固体高分子形燃料電池の導電性多孔質体3はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などによる撥水処理が施されている。この導電性多孔体には、50〜100μmの大きな空孔17があるので、カソードでの電極反応で生成した水がこの空孔17に滞留することによって、ガスの供給が阻害される。この生成した水の空孔17中への滞留によって、ガスの拡散が部分的に妨げられるので、反応界面へのガスの供給が不均一になる。
さらに、触媒層2と導電性多孔質体3との接触は、図3に示した18のように、導電性多孔質体3のごく表層の突端部分に限られる。この接点18の間隔は、50〜100μmもあるので、接点部分に電流が集中することによって触媒層表面における電流分布が不均一になる。以上のような不均一なガスの供給および電流分布によって反応過電圧が増大するので、燃料電池の出力電圧が低下するという課題があった。
そこで本発明の目的は、導電性多孔質体中の水の滞留を防止することによって触媒層の反応界面への反応ガスの供給を均一にすることと、導電性多孔質体と触媒層表面との間の接触点を増大させることによって電流分布を均一にすることとを両立した燃料電池用電極を提供することである。さらに、その電極を用いることによって固体高分子形燃料電池の出力性能を向上させることである。
請求項1の発明は、触媒層と導電性多孔質体とを備えた固体高分子形燃料電池用電極において、前記導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むことを特徴とする。
請求項2の発明は、上記触媒層において、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に備えた触媒金属の割合が、全触媒金属に対して50wt%以上であることを特徴とする。
請求項3の発明は、上記導電性多孔質体の厚み1mm当たりに含まれる前記カーボンと撥水性樹脂との混合物が、7mg/cm2以上24mg/cm2以下であることを特徴とする。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極において、導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むことによって、電気伝導性を有するカーボンが導電性多孔質体の空孔を適度に充填することで、導電性多孔質体の空孔部分に電子伝導チャンネルを形成して触媒層との間の電流分布を均一にすることとを可能にすると同時に、撥水性をもつ微細な空孔を形成することによって、導電性多孔体内部での水の滞留を防止して触媒層へのガスの拡散を均一にすることができる。その結果、本発明の電極を備えた固体高分子形燃料電池の出力性能の向上が可能となった。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極は、触媒層と導電性多孔質体とを備え、導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むものである。このカーボンと撥水性樹脂との混合物は、導電性多孔質体の空孔中または、多孔質体の空孔中およびその触媒層側の表層とに備えられる。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極の断面の模式図を図1および図2に示す。図1および図2において、1は固体高分子形燃料電池用電極、2は触媒層、3は導電性多孔質体、4はカーボンと撥水性樹脂との混合物である。
なお、図1は、導電性多孔質体が触媒層と接触し、カーボンと撥水性樹脂との混合物が導電性多孔質体の空孔中に含まれる例を示し、図2は、導電性多孔質体が触媒層と接触せず、カーボンと撥水性樹脂との混合物は、導電性多孔質体と触媒層との間および導電性多孔質体の空孔中に含まれる例を示したものである。
図1および図2に示すように、本発明の固体高分子形燃料電池用電極1は、触媒層2と、カーボンと撥水性樹脂との混合物4とを含む導電性多孔質体3とで構成されている。ここで導電性多孔質体3に含まれるカーボンと撥水性樹脂との混合物4は、導電性多孔質体3の空孔中のみに分布していても良いし、空孔中および触媒層側の表層に分布していてもよい。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極では、導電性多孔質体の大きな空孔がカーボンと撥水性樹脂との混合物で充填することで、撥水性をもつ微細な空孔が形成され、導電性多孔体内部での水の滞留を防止することができる。
また、本発明の固体高分子形燃料電池用電極では、導電性多孔質体と触媒層との接触以外に、カーボンと撥水性樹脂との混合物と触媒層とが接触しているため、導電性多孔質体の空孔部分に電子伝導チャンネルが形成され、導電性多孔質体と触媒層との間の電流分布を均一にすることが可能となる。
固体高分子形燃料電池は、本発明の固体高分子形燃料電池用電極1を高分子電解質の少なくとも一方の面に備えることによって構成される。固体高分子形燃料電池の断面の模式図を図4および図5に示す。
図4は図1に示した電極を用いた場合、図5は図2に示した電極を用いた場合の模式図である。図4および図5において、記号1〜9および21は図1と同じものを示す。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極1の触媒層2を、高分子電解質膜6の両面に接触するように配置する。固体高分子形燃料電池用電極1の他方の面には、ガス供給路7を備えた電子伝導性を有するセパレータ8が配置される。
固体高分子形燃料電池21は、一対の固体高分子形燃料電池用電極1と、一対のセパレータ8とで高分子電解質膜6を挟持することによって構成される。一対のセパレータ8の間には、ガスケットやOリングなどのシール材9を配することによって、反応ガスの気密が保たれる。
本発明の触媒層2としては、白金担持カーボンと固体高分子電解質とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子とを混錬したもの、または、触媒金属が、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に担持されているものを用いることができる。これらの中では、触媒金属が陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に担持されている触媒層を用いることが好ましい。
触媒金属が陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に担持されている触媒層におけるカーボンの表面近傍を模式的に図6に示す。図6において、10はカーボン粒子、11は陽イオン交換樹脂、13は陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路、14は陽イオン交換樹脂の疎水性領域、15および16は触媒金属である。なお、触媒金属15は、陽イオン交換樹脂11のプロトン伝導経路13とカーボン粒子10の表面との接面に存在し、触媒金属16は陽イオン交換樹脂11の疎水性領域14とカーボン粒子10の表面との接面に存在する。
図6に示したように、カーボン粒子10の表面は、陽イオン交換樹脂11によって被覆されている。陽イオン交換樹脂11は、親水性領域であるプロトン伝導経路13と疎水性領域14とから構成される。そして、プロトン伝導経路14とカーボン10の表面との接面に触媒金属15が選択的に担持されている。
ところで、パーフルオロスルホン酸樹脂などの陽イオン交換樹脂は、H.L.Yeager等(J.Electrochem.Soc.,128,1880(1981))および小久見等(J.Electrochem.Soc.,132,2601(1985))の報告に記載されているように、主鎖が集合した疎水性領域と側鎖が集合したクラスターと呼ばれる親水性領域のプロトン伝導経路とにミクロ相分離した構造であることが知られている。
その疎水性領域は、ポリテトラフルオロエチレンに類似の構造であるので、反応物および水の透過は著しく少ない。一方、その経路では、側鎖の先端に結合しているイオン交換基がクラスターを形成しており、そのクラスターに水が取り込まれることによって、対イオンが移動可能な状態になる。つまり、水、プロトンおよび反応物(水素または酸素)は、親水性領域を移動することができる。
したがって、陽イオン交換樹脂11のプロトン伝導経路13とカーボン粒子10の表面との接面に担持された触媒金属15は、電極反応に対して活性である。一方で、陽イオン交換樹脂11の疎水性領域14とカーボン10の表面に存在する触媒金属16は反応物およびプロトンの供給がおこらないので、電極反応に対して不活性である。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極の触媒層において、「触媒金属が、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に選択的に担持されている」とは、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に接するカーボン粒子表面に担持された触媒金属量が全触媒金属担持量の50wt%以上が担持されていることを意味する。すなわち、全触媒金属担持量の50wt%以上が、図6で示した、電極反応に対して活性な触媒金属15であるため、触媒金属の利用率が高くなる。
なお、本発明においては、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に接するカーボン粒子表面に担持された触媒金属量の全触媒金属担持量に対する割合は高いほど好ましく、特に80wt%を超えていることが好ましい。このようにして、プロトン伝導経路とカーボン粒子との接触面に触媒金属を高率で担持させることによって、電極の高活性化がはかられる。
陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子の全触媒金属の量に対するカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属量の割合はつぎの式で定義される。
R=W1/W2・・・・・・・・・・・(1)
式(1)では、Rが全触媒金属の量に対するカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスター(プロトン伝導経路)との接面に担持された触媒金属量の割合、W1がカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属量(単位はg)、W2が全触媒金属の量(単位はg)を示す。W1とW2との値はたとえば以下の方法でそれぞれ得ることができる。
式(1)では、Rが全触媒金属の量に対するカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスター(プロトン伝導経路)との接面に担持された触媒金属量の割合、W1がカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属量(単位はg)、W2が全触媒金属の量(単位はg)を示す。W1とW2との値はたとえば以下の方法でそれぞれ得ることができる。
W1の値は、陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子のすべての触媒金属のうちの、カーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属の表面積を測定したのちに、その値をつぎの式に代入することによって得ることができる。
W1=S1(WN/SN)・・・・・・・・(2)
式(2)では、S1がカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属の表面積(単位はcm2)、WNがすべての触媒金属から無作為に選んだN個の触媒金属の量の合計(単位はg)、SNがすべての触媒金属から無作為に選んだN個の触媒金属の表面積の合計(単位はcm2)を示す。S1は、触媒金属の表面で生じる水素の脱離反応に起因する電荷量を求めて、この電荷量をつぎの式に代入することによって計算することができる。
式(2)では、S1がカーボン粒子表面と陽イオン交換樹脂のイオンクラスターとの接面に担持された触媒金属の表面積(単位はcm2)、WNがすべての触媒金属から無作為に選んだN個の触媒金属の量の合計(単位はg)、SNがすべての触媒金属から無作為に選んだN個の触媒金属の表面積の合計(単位はcm2)を示す。S1は、触媒金属の表面で生じる水素の脱離反応に起因する電荷量を求めて、この電荷量をつぎの式に代入することによって計算することができる。
S1=Q/a・・・・・・・・・・・・・(3)
式(3)では、Qが水素の脱離反応に起因する電荷量(単位はC)、aが触媒金属の表面1cm2での水素の脱離反応に起因する電荷量(単位はC/cm2)である。aの値は、たとえば触媒金属が白金の場合、210×10−6である。
式(3)では、Qが水素の脱離反応に起因する電荷量(単位はC)、aが触媒金属の表面1cm2での水素の脱離反応に起因する電荷量(単位はC/cm2)である。aの値は、たとえば触媒金属が白金の場合、210×10−6である。
電荷量Qは、まず、陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子を含むシートを製作したのちに、このシートを触媒層として備えた燃料電池を製作し、つぎに、その触媒層を含む電極にアルゴンガスを流しながらその電極電位を0.05Vvs.SHEから1Vvs.SHEまで20mV/secで走査したときに検出されるアノード電流のうち触媒金属表面で水素の脱離反応に起因する電流を時間で積分することによって得ることができる。
つぎに、WNとSNとは、無作為に選んだN個の触媒金属の粒子半径(r1、r2、・・・rN)を透過形電子顕微鏡で観察することによってそれぞれ測定したのちに、その粒子半径をつぎの式(4)と式(5)とに代入することによってそれぞれ得ることができる。
これらの式では、ρが触媒金属の密度、Nが触媒金属の個数、rkは触媒金属の粒子半径である。なお、Nの値は、統計的な有意性を高めるために少なくとも30以上であることが好ましい。ただし、触媒金属の粒子の大きさのバラツキが少ないときは、Nの値が30より小さくても統計的な優位性は充分に高い。W2の値は、陽イオン交換樹脂を備えた触媒金属担持カーボン粒子中のすべての触媒金属を王水で抽出したのちに、その王水中の触媒金属量を定量することによって得ることができる。定量にはたとえばICP発光分析法を用いることができる。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極の触媒層において、「触媒金属が、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に選択的に担持されている」とは、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に接するカーボン粒子表面に担持された触媒金属量が全触媒金属担持量の50wt%以上が担持されていることを意味する。すなわち、全触媒金属担持量の50wt%以上が、電極反応に対して活性な触媒金属であるため、触媒金属の利用率が高くなる。
なお、本発明においては、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に接するカーボン粒子表面に担持された触媒金属量の全触媒金属担持量に対する割合は高いほど好ましく、特に80wt%を超えていることが好ましい。このようにして、プロトン伝導経路とカーボン粒子との接触面に触媒金属を高率で担持させることによって、電極の高活性化がはかられる。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極を備える固体高分子形燃料電池の特性は、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン粒子表面との接面に選択的に担持されている触媒金属を備える触媒層と導電性多孔質体のみとを備える燃料電池よりも優れている。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極は、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に選択的に担持されている触媒金属を備える触媒層と、カーボンと撥水性樹脂との混合物を含む導電性多孔質体とを備えている。この導電性多孔質体は、カーボンおよび撥水性樹脂との混合物を含んでいるので、高い撥水性によってその多孔質体中の水の滞留を防止し、触媒層の反応界面への反応ガスの供給を均一にすると同時に、触媒層表面との間の接触点を増大させることによって電流分布を均一にすることができる。その結果、この電極を用いることによって、固体高分子形燃料電池の出力特性を向上させることが可能となった。
また、本発明の固体高分子形燃料電池用電極において、導電性多孔質体に含まれるカーボンと撥水性樹脂との混合物が、導電性多孔質体に2.5mg/cm2以上8.5mg/cm2以下備えられていることが好ましい。
これは、この範囲においては導電性多孔質体の空孔間の電子伝導ネットワーク形成による電流密度の均一化と水の滞留の回避による反応ガスの拡散性の確保とが両立されていることとによる。すなわち、カーボンと撥水性樹脂との混合物が8.5mg/cm2以上備えられていると、導電性多孔質体の空孔が小さくなって、反応ガスの拡散性が悪くなり、一方、2.5mg/cm2以下では、導電性多孔質体の空孔が大きすぎて、反応生成物である水が滞留しやすく、また、電子伝導ネットワーク形成が不十分となるためである。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極を備える固体高分子形燃料電池に用いる高分子電解質膜には、たとえばパーフルオロスルホン酸樹脂あるいはスチレンジビニルベンゼンスルホン酸樹脂などの陽イオン交換樹脂を用いることができる。さらに、固体高分子形燃料電池の導電性多孔質体には、カーボンペーパーあるいはカーボンフェルトなど電子伝導性があり、かつ多孔性であるものを用いることができる。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極は、カーボンと撥水性樹脂との混合物を導電性多孔質体に含ませる第1の工程と、その多孔質体に陽イオン交換樹脂とカーボンとを含む混合物の層を形成する第2の工程と、その陽イオン交換樹脂の対イオンと触媒金属の陽イオンとのイオン交換反応によりその陽イオンをプロトン伝導経路に吸着させる第3の工程と、その陽イオンを化学的に還元する第4の工程とを経て製作される。ここで、カーボンと撥水性樹脂との混合物を混合物A、陽イオン交換樹脂とカーボンとの混合物を混合物Bとする。
第1の工程では、たとえば、撥水性樹脂とカーボンブラックとを分散媒に加えて混合することによって、ペーストを調製する。そのペーストを導電性多孔体の表面に塗布したのちに乾燥することによって、混合物Aが導電性多孔質体の空孔に充填、あるいはその表層に混合物Aの層が形成される。
ここで、このペーストの粘度が低ければ、導伝性多孔質体の空孔全体に混合物Aが均一に存在し、また、このペーストの粘度が高ければ、導電性多孔質体の表層に混合物Aを遍在させることができる。ここで、撥水性樹脂としてポリテトラフルオロエチレンを用いた場合には、混合物Aの撥水性を向上させるために、混合物Aを含む導電性多孔質体を焼成することが好ましい。また、混合物Aを含むペーストを塗布する工程は、一度でもよいが、複数回くり返すことによって導電性多孔質体の表層に混合物Aの厚い層を形成することが好ましい。この層を形成することにより、電流分布を均一化し、水の滞留を抑制する効果を高めることができる。
導電性多孔質体としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなど、多孔体であって、電子伝導性を有するものであればよい。
本発明において使用する撥水性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂などを用いることができる。これらの撥水性樹脂の中ではフッ素樹脂を用いることが好ましく、さらに、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびフルオロエチレン−プロピレン共重合体(FEP)を使用することが好ましいが、ポリヘキサフロロプロピレンイレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフロロプロピレンイレンとの共重合体、または、これらのフッ素樹脂の混合物でもよい。
なお、本発明において「撥水性樹脂」とは、基材と水滴に対する接触角が80°以上であるものとする。
また、カーボンは、アセチレンブラック、カーボンブラック、ファーネスブラックなどが好ましく、さらにその一次粒子径は10〜80nmの範囲にあることが好ましい。
さらに撥水性樹脂、カーボンおよび分散媒とを含むペーストに、増粘剤を添加することによって、そのペーストの塗布性を向上させることができる。その増粘剤としては、たとえば、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系の化合物、またはポリエチレングリコール、ポリスチレンスルホン酸塩、ビニル化合物とカルボン酸系単量体との共重合物の塩など、水溶性であって、焼成により分解するものが好ましい。
これらの増粘剤を含む混合物を350℃以上の温度で焼成することによって、増粘剤あるいは界面活性剤を除去することができる。その結果、撥水性樹脂とカーボンとの混合物中に微細な空孔が形成される。
第2の工程では、たとえば、陽イオン交換樹脂の溶液にカーボンブラックなどのカーボン粉末を加えたのちに混合することによって、ペーストを調製する。このペーストを、混合物Aを含む導電性多孔質体の上に塗布したのちに乾燥することによって、混合物Aを含む導電性多孔質体の上に、触媒層の前駆体となる混合物Bの層が形成される。ここで、混合物Aを含む導電性多孔質体の上に混合物Bの層が形成されたものを、電極の前駆体aとする。
混合物Bに含まれる陽イオン交換樹脂としては、プロトン伝導性を有する樹脂、たとえばパーフルオロカーボンスルホン酸形あるいはスチレン−ジビニルベンゼンスルホン酸形陽イオン交換樹脂を用いることができる。この樹脂を溶解する溶媒には、水とアルコールとが任意の割合で混合したものを用いることができる。
第3の工程では、まず触媒金属の陽イオンを含む溶液を調製する。つぎに、この溶液に、第2の工程で製作した電極の前駆体aを浸漬することによって、この前駆体aの混合物Bの層に含まれる陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に、触媒金属の陽イオンを吸着させる。これは、陽イオン交換樹脂の対イオンと、触媒金属の陽イオンとのイオン交換反応によるものである。
この工程で、イオン交換させる陽イオンを二種類以上用いることによって、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に、二種類以上の触媒金属の陽イオンを吸着させることができる。これらの陽イオンは、陽イオン交換樹脂が被覆されずにカーボンが露出している部分には吸着し難いが、陽イオン交換樹脂の対イオンとのイオン交換反応により陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に優先的に吸着するものが好ましい。
このような吸着特性を持つ触媒金属となる陽イオンとしては、白金族金属を含む陽イオン、あるいは白金族金属の錯イオンを用いることができる。ここで、電極の前駆体aの混合物Bの層に含まれる陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に、触媒金属の陽イオンを吸着させたものを電極の前駆体bとする。
第4の工程では、電極の前駆体bに含まれる陽イオンを化学的に還元する。この第4の工程は、量産に適した還元剤を用いる化学的な還元方法を用いることが好ましく、とくに、水素ガスまたは水素を含むガスによって気相還元する方法またはヒドラジンを含む不活性ガスによって気相還元する方法が好ましい。
ここで、水素ガスを含むガスとは、水素ガスと窒素やヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガスであることが好ましく、水素ガスを10vol%以上含むことが好ましい。この第4の工程において、カーボンが白金族金属の陽イオンの還元反応に対する触媒としての活性を有するので、200℃以下の低温でも、陽イオン交換樹脂に吸着した触媒金属の陽イオンを還元することができる。
第1の工程から第4の工程の一例をつぎに説明する。まず、カーボンとしてVulcan XC−72(キャボット社製)と増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業社製)とをブレンダーを用いて混合した。これに適量の脱イオン水を加えて、ペースト状になるまで攪拌器を用いて充分に攪拌したのちに、適量のポリテトラフルオロエチレンのディスパージョン(固形分60質量%)を徐々に添加して混合物Aを含むペーストを得た。
つぎに、塗工機を用いて、混合物Aを含むペーストを導電性多孔質体としてのカーボンフェルト(SGL社製、GDL10AA)の上に塗布したのちに、110℃で乾燥した。カーボンフェルト上に厚い混合物Aの層を形成するために、この塗布および乾燥の工程を再度くり返した。
さらに、このように製作した導電性多孔質体を、窒素雰囲気下、380℃の条件で焼成することによって、分散媒および増粘剤を完全に除去して、混合物Aを含む導電性多孔質体を完成させた。ここで混合物Aの重量は、2.5mg/cm2以上8.5mg/cm2以下であることが好ましい。これより少ないと、カーボンフェルトの空孔部分の電子伝導ネットワークが充分に形成されないので、電流集中を充分に回避することができず、8.5mg/cm2より大きいと、カーボンフェルトの表層部分の混合物Aの層が厚くなりすぎるために、触媒層の反応界面へのガスの拡散性が低下するためである。
一方で、カーボン(Vulcan XC−72、キャボット社製)と陽イオン交換樹脂溶液(Nafion溶液、アルドリッチ社製、5質量%溶液)とを含む混合物Bのペーストを調製した。つぎに、塗工機を用いて、混合物Bのペーストを、混合物Aを含むカーボンフェルトの上に塗布したのちに、室温で乾燥した。このようにして、本発明の燃料電池用電極の前駆体aを製作した。
つづいて、触媒金属の陽イオンとして[Pt(NH3)4]2+を含むPt(NH3)4]Cl2の水溶液を調製したのちに、その溶液に前駆体aを浸漬することによって、陽イオン交換樹脂の対イオン(H+)と[Pt(NH3)4]2+とのイオン交換反応を用いて、触媒金属となる陽イオンを陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に吸着させて前駆体bを製作した。陽イオンが吸着したこの前駆体bを水洗することによって、余剰の[Pt(NH3)4]2+を除去したのちに乾燥した。
最後に、その前駆体bを180℃の水素ガス雰囲気中にさらして、吸着した陽イオンを還元することによって、触媒金属としての白金を陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に形成した本発明の燃料電池用電極を得た。
本発明の固体高分子形燃料電池用電極は、前述の触媒層側が高分子電解質膜に接触するように配置することによって、固体高分子形燃料電池に適用される。その高分子電解質膜には、プロトン伝導性にすぐれる陽イオン交換樹脂膜を用いることができる。たとえば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、スチレン-ビニルベンゼンスルホン酸樹脂、パーフルオロカーボンカルボン酸樹脂、スチレン-ビニルベンゼンカルボン酸樹脂などのプロトン伝導性の陽イオン交換樹脂を用いることができる。その膜には、化学的な安定性とプロトン伝導性とが高いパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂とで構成されるものを用いることが好ましい。たとえば、その高分子電解質膜として、デュポン社製のナフィオン膜を用いることができる。
この工程での接合は、加熱圧着することによりおこなうことができる。その加熱温度は、陽イオン交換樹脂のガラス転移温度の近傍であることが好ましく、たとえばナフィオン膜の場合では115℃から135℃であることが好ましい。しかしながら、水の凍結がはじまる0℃以上であれば、加圧することによって、本発明の燃料電池用電極と高分子電解質膜とを接合することができる。
ここで、加える圧力は、触媒層が多孔質体であるので、その多孔質体の空孔度を保つ範囲である0.15MPa以下であることが好ましく、さらに固体高分子膜と触媒層との間の密着性を確保するために、少なくとも0.04MPaの圧力でおこなうことが好ましい。圧力が0.15MPaより大きいと、カーボン基材の空孔度が著しく減少し、さらにカーボン基材を構成するカーボン繊維が高分子電解質膜に損傷を与える原因となり、一方で圧力が0.04MPaより小さいと、高分子電解質と触媒層との間の接触が充分でないために、これらの間でプロトン伝導性の低下によって燃料電池の反応過電圧が増大する。
この接合には平プレス機あるいはロールプレス機を用いることができる。このように接合した結果、高分子電解質膜に本発明の固体高分子形燃料電池用電極を備える膜/電極接合体(MEA)が得られる。そのMEAを反応ガス用流路が加工されたセパレータで挟持することによって、本発明の固体高分子形燃料電池用電極を備える固体高分子形燃料電池が構成される。
以下、本発明を好適な実施例を用いて説明する。
[実施例1]
本発明の燃料電池用電極を備える燃料電池を以下の方法で製作した。まず、カーボンと撥水性樹脂としてのフッ素樹脂とを含む導電性多孔質体をつぎの手順で製作した。カーボンとして8gのVulcan XC−72(キャボット社製)と増粘剤として3gのカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業社製)とをブレンダーを用いて混合した。これに脱イオン水140gを加えたのちに、5分間攪拌した。
本発明の燃料電池用電極を備える燃料電池を以下の方法で製作した。まず、カーボンと撥水性樹脂としてのフッ素樹脂とを含む導電性多孔質体をつぎの手順で製作した。カーボンとして8gのVulcan XC−72(キャボット社製)と増粘剤として3gのカルボキシメチルセルロース(ダイセル化学工業社製)とをブレンダーを用いて混合した。これに脱イオン水140gを加えたのちに、5分間攪拌した。
つぎに、羽式攪拌器で攪拌しながら、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のディスパージョン(固形分60質量%)3gを徐々に添加したのちに、5分間攪拌してカーボンとフッ素樹脂とを含むペーストを調製した。つづいて、隙間が400μmのアプリケータを用いて、このペーストをカーボンフェルト(SGL社製、GDL10AA、厚み350μm)に塗布したのちに、110℃で30分間乾燥した。
乾燥した層の上に、500μmのアプリケータを用いて再度ペーストを塗布して、これを再度110℃で30分間乾燥したのちに、窒素雰囲気炉中で、380℃で30分間焼成することによって、カーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体を完成させた。焼成後のカーボンとフッ素樹脂の量の合計は4.0mg/cm2であった。
つぎに、本発明の触媒層をつぎの方法で形成した。まず、陽イオン交換樹脂の溶液(アルドリッチ社製、ナフィオン5質量%溶液)80gを容器に採取した。その溶液に、カーボンとしてVulcan XC−72(キャボット社社製)を6g添加したのちに、羽式攪拌器を用いて超音波を照射しながら1時間攪拌することによってペーストを調製した。
つぎに、このペーストを入れた容器を50℃の恒温水槽に設置して、羽式攪拌器でペーストを攪拌ながら、ペーストの重量に対する固形分の重量が14%になるまで濃縮した。
つづいて、550μmのアプリケータを用いて、この濃縮後のペーストを、先に作製したカーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体の上に塗布したのちに、室温で乾燥させて電極の前駆体を製作した。ここで、塗布層の厚みは約10μmであった。
一方で、50mmol/L濃度の[Pt(NH3)4]Cl2水溶液を調製した。この水溶液に電極の前駆体を6時間以上浸漬することによって、電極の前駆体に含まれる陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路に[Pt(NH3)4]2+を吸着させた。これを脱イオン水で充分に洗浄して、乾燥させたのちに、還元器に設置して、1気圧の水素を充填した。その還元器を180℃に昇温させた状態で12時間保持することによって、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボンの表面との接面に選択的に触媒金属が担持された本発明の固体高分子形燃料電池用電極Aを得た。
最後に、この電極Aを0.5mol/Lの硫酸に1時間浸漬することによって未還元の[Pt(NH3)4]2+を溶出させたのちに、その電極を脱イオン水で十分に洗浄した。この電極には、触媒金属としての白金が、0.05mg/cm2担持されていた。
つぎに、本発明の燃料電池用電極A(大きさ5cm×5cm)と高分子電解質膜との接合体をつぎの手順で製作した。まず、高分子電解質膜(デュポン社製、ナフィオン115膜、膜厚約120μm)を0.5mol/Lの硫酸中に1時間80℃で保持させたのちに、1時間80℃の脱イオン水中に保持して硫酸を完全に洗浄した。
つづいて、その膜の両面に、本発明の燃料電池用電極を配したのちに加熱圧着(120℃、0.1MPa)することによって、その膜と電極とを一体に接合した。このようにして、本発明の固体高分子形燃料電池用電極Aを備える膜/電極接合体を得た。最後に、その膜/電極接合体を、一対のセパレータで挟持することによって、本発明の固体高分子形燃料電池用電極Aを備える実施例1の固体高分子形燃料電池Aを製作した。
[実施例2]
実施例1で作製したのと同じ、カーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体を用いた。
実施例1で作製したのと同じ、カーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体を用いた。
つぎに、白金担持カーボン(田中貴金属製、10V30E:Valcan XC−72に白金を30wt%担持下もの)と固体高分子電解質(アルドリッチ社製,ナフィオン5wt%溶液)およびPTFE粒子(三井デュポンフロロケミカル社製、ポリテトラフルオロエチレン30J)を混錬したペーストを、カーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体上に塗布して、窒素雰囲気中で120℃、1時間乾燥して、実施例2の本発明の固体高分子形燃料電池用電極Bを得た。電極Bの白金量は、約1.0mg/cm2となるように、ペースト作製時の白金担持カーボンの量を調製した。
つぎに、実施例1と同様にして、本発明の固体高分子形燃料電池用電極Bを備える膜/電極接合体を得た。最後に、その膜/電極接合体を、一対のセパレータで挟持することによって、本発明の固体高分子形燃料電池用電極Bを備える実施例2の固体高分子形燃料電池Bを製作した。
[比較例1]
導電性多孔質体として、実施例1で用いたカーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体に代わりに、撥水性を付与したカーボンペーパーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、固体高分子形燃料電池用電極Aを備える比較例1の固体高分子形燃料電池Cを作製した。
導電性多孔質体として、実施例1で用いたカーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体に代わりに、撥水性を付与したカーボンペーパーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、固体高分子形燃料電池用電極Aを備える比較例1の固体高分子形燃料電池Cを作製した。
[比較例2]
導電性多孔質体として、実施例1で用いたカーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体に代わりに、比較例1で用いた撥水性を付与したカーボンペーパーを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、固体高分子形燃料電池用電極Bを備える比較例2の固体高分子形燃料電池Dを製作した。
導電性多孔質体として、実施例1で用いたカーボンとフッ素樹脂との混合物を含む導電性多孔質体に代わりに、比較例1で用いた撥水性を付与したカーボンペーパーを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、固体高分子形燃料電池用電極Bを備える比較例2の固体高分子形燃料電池Dを製作した。
実施例1の固体高分子形燃料電池A、実施例2の固体高分子形燃料電池B、比較例1の固体高分子形燃料電池Cおよび比較例2の固体高分子形燃料電池Dについての電圧―電流特性を評価した。この評価の測定条件は、セル温度を80℃、アノードガスを純水素、アノード利用率を80%、アノード加湿温度を80℃、カソードガスを空気、カソード利用率40%、カソード加湿温度を80℃とした。
測定結果を図7および図8に示す。図7において、曲線(A)は本発明の実施例1の固体高分子形燃料電池Aの電圧―電流曲線、曲線(C)は比較例1の固体高分子形燃料電池Cの電圧―電流曲線を示す。また、図8において、曲線(B)は本発明の実施例2の固体高分子形燃料電池Bの電圧―電流曲線、曲線(D)は比較例2の固体高分子形燃料電池Dの電圧―電流曲線を示す。
図7より、実施例1の固体高分子形燃料電池Aの白金使用量は、比較例1の固体高分子形燃料電池Cの場合と同程度であるにもかかわらず、セル電圧が向上したことがわかる。また、図8より、実施例2の固体高分子形燃料電池Bの白金使用量は、比較例2の固体高分子形燃料電池Dの場合と同程度であるにもかかわらず、セル電圧が向上したことがわかる。
このセル電圧の向上は、適度な撥水性と多孔性および電子伝導性とを備えるカーボンとフッ素樹脂の混合物が導電性多孔質体の空孔および表層に均一に存在しているので、水の滞留が防止されて反応界面へのガスの拡散が均一になったことと、導電性多孔質体と反応界面との間に均一な電子伝導層が形成されたこととによって、反応界面での電子の授受が円滑に進行して電極の出力性能が向上したものと考えられる。
[実施例3および4]
[実施例3]
導電性多孔質体に含ませるカーボンと撥水性樹脂の混合物において、撥水性樹脂としてフッ素樹脂の代わりにポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の固体高分子形燃料電池Eを作製した。
[実施例3]
導電性多孔質体に含ませるカーボンと撥水性樹脂の混合物において、撥水性樹脂としてフッ素樹脂の代わりにポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の固体高分子形燃料電池Eを作製した。
[実施例4]
導電性多孔質体に含ませるカーボンと撥水性樹脂の混合物において、撥水性樹脂としてフッ素樹脂の代わりにポリエチレンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の固体高分子形燃料電池Fを作製した。
導電性多孔質体に含ませるカーボンと撥水性樹脂の混合物において、撥水性樹脂としてフッ素樹脂の代わりにポリエチレンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の固体高分子形燃料電池Fを作製した。
実施例3の固体高分子形燃料電池Eおよび実施例4の固体高分子形燃料電池Fについて、実施例1と同様の測定条件で、電圧―電流特性を評価した。これらの固体高分子形燃料電池の電圧―電流特性は、図1の曲線Aとほぼ同じであった。表1に、電流密度300mA/cm2におけるセル電圧をまとめた。なお、表1には、比較のため、実施例1の固体高分子形燃料電池Aの結果も示した。
表1から、導電性多孔質体に含ませる撥水性樹脂の種類が異なった場合でも、固体高分子形燃料電池の特性は変わらないことがわかった。
[実施例5〜7]
[実施例5]
つぎに、導電性多孔質体に含まれるカーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を変化させて、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池を作製し、混合物重量と電流密度300mA/cm2におけるセル電圧との関係を求め、その結果を図9に示した。なお、導電性多孔質体としては、厚み350μmのカーボンフェルトを用いた。
[実施例5]
つぎに、導電性多孔質体に含まれるカーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を変化させて、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池を作製し、混合物重量と電流密度300mA/cm2におけるセル電圧との関係を求め、その結果を図9に示した。なお、導電性多孔質体としては、厚み350μmのカーボンフェルトを用いた。
図9より、カーボンとフッ素樹脂との混合物の重量が、2.5mg/cm2以上8.5mg/cm2以下の範囲において、0.60V以上の高いセル電圧を示し、特に3.5mg/cm2以上7.5mg/cm2以下の範囲において、0.63V以上のより高いセル電圧を示すことがわかった。
カーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を導電性多孔質体の厚み1mm当たりに換算すると、7mg/cm2以上24mg/cm2以下の範囲において、0.60V以上の高いセル電圧を示し、特に10mg/cm2以上21mg/cm2以下の範囲において、0.63V以上のより高いセル電圧を示すことがわかった。
これは、この範囲においては導電性多孔質体の空孔間の電子伝導ネットワーク形成による電流密度の均一化と水の滞留の回避による反応ガスの拡散性の確保とが両立されていることとによるものである。
[実施例6]
導電性多孔質体として、厚み250μmのカーボンフェルトを用い、導電性多孔質体に含まれるカーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を変化させて、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池を作製し、混合物重量と電流密度300mA/cm2におけるセル電圧との関係を求めた。
導電性多孔質体として、厚み250μmのカーボンフェルトを用い、導電性多孔質体に含まれるカーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を変化させて、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池を作製し、混合物重量と電流密度300mA/cm2におけるセル電圧との関係を求めた。
その結果、カーボンとフッ素樹脂との混合物の重量が、1.8mg/cm2以上6.0mg/cm2以下の範囲において、0.60V以上の高いセル電圧を示し、特に2.5mg/cm2以上5.3mg/cm2以下の範囲において、0.63V以上のより高いセル電圧を示すことがわかった。
[実施例7]
導電性多孔質体として、厚み450μmのカーボンフェルトを用い、導電性多孔質体に含まれるカーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を変化させて、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池を作製し、混合物重量と電流密度300mA/cm2におけるセル電圧との関係を求めた。
導電性多孔質体として、厚み450μmのカーボンフェルトを用い、導電性多孔質体に含まれるカーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を変化させて、実施例1と同様にして固体高分子形燃料電池を作製し、混合物重量と電流密度300mA/cm2におけるセル電圧との関係を求めた。
その結果、カーボンとフッ素樹脂との混合物の重量が、3.2mg/cm2以上10.8mg/cm2以下の範囲において、0.60V以上の高いセル電圧を示し、特に4.5mg/cm2以上9.6mg/cm2以下の範囲において、0.63V以上のより高いセル電圧を示すことがわかった。
実施例5〜7の結果を表2にまとめた。また、カーボンとフッ素樹脂との混合物の重量を導電性多孔質体の厚み1mm当たりに換算した結果を表3にまとめた。
表3の結果から、導電性多孔質体の厚み1mm当たりのカーボンとフッ素樹脂との混合物の重量は、7mg/cm2以上24mg/cm2以下の範囲において、0.60V以上の高いセル電圧を示し、特に10mg/cm2以上21mg/cm2以下の範囲において、0.63V以上のより高いセル電圧を示すことがわかった。
1 固体高分子形燃料電池用電極
2 触媒層
3 導電性多孔質体
4 カーボンとフッ素樹脂との混合物
6 高分子電解質膜
7 ガス供給路
8 セパレータ
9 シール材
10 カーボン粒子
11 陽イオン交換樹脂
13 陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路
14 陽イオン交換樹脂の疎水性領域
15、16 触媒金属
17 導電性多孔質体の空孔触媒層と導電性多孔質体との接点
18 触媒層と導電性多孔質体との接点
21 固体高分子形燃料電池
2 触媒層
3 導電性多孔質体
4 カーボンとフッ素樹脂との混合物
6 高分子電解質膜
7 ガス供給路
8 セパレータ
9 シール材
10 カーボン粒子
11 陽イオン交換樹脂
13 陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路
14 陽イオン交換樹脂の疎水性領域
15、16 触媒金属
17 導電性多孔質体の空孔触媒層と導電性多孔質体との接点
18 触媒層と導電性多孔質体との接点
21 固体高分子形燃料電池
Claims (3)
- 触媒層と導電性多孔質体とを備えた固体高分子形燃料電池用電極において、前記導電性多孔質体がカーボンと撥水性樹脂との混合物を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池用電極。
- 前記触媒層において、陽イオン交換樹脂のプロトン伝導経路とカーボン表面との接面に備えた触媒金属の割合が、全触媒金属に対して50wt%以上であることを特徴とする請求項1記載の固体高分子形燃料電池用電極。
- 前記導電性多孔質体の厚み1mm当たりに含まれる前記カーボンと撥水性樹脂との混合物が、7mg/cm2以上24mg/cm2以下であることを特徴とする請求項1または2記載の固体高分子形燃料電池用電極。
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